JP4429164B2 - 眼内手術用減圧補償器具、これを備えた眼内手術器具、及び眼内手術方法 - Google Patents
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Description
そして、手術を行う際には、灌流液を前房S内に流入させつつ超音波振動により水晶体Pを破砕乳化する。乳化された水晶体は、灌流液とともにハンドピース53に設けられた吸引流路57(図17参照)を介して、この吸引流路57に接続された吸引ポンプ59によって吸引され、排出される。そして、このときの灌流液の流入量(流入圧)と吸引量(吸引圧)とのバランスにより前房が安定に保たれる。
ところが、この装置では次のような問題があった。通常、白内障手術の超音波乳化吸引は、図17に示すように、水晶体核P1の破片がチップ先端部に吸い寄せられ、この先端部でドリブル現象による超音波振動で核片が乳化吸引される。この時、チップ先端は核P1で閉塞されている状態となり、その閉塞されている間は灌流液の流入は停止する。この状態で更に吸引を継続すると、吸引流路57内の陰圧が高まり、水晶体核P1が吸い込まれる。こうして、吸引流路57の閉塞状態は解除されると、その瞬間、瞬時の吸引流量が急激に多くなり、前房S内が減圧状態となる。しかしながら、灌流液の供給はこの減圧状態に瞬時に対応することができず、供給管51から供給される灌流液の量よりも、吸引流路57に吸引される灌流液の方が多い状態が続くことになる。これによって灌流液の流入量(圧)と吸引量(圧)とのバランスが悪くなって前房が安定しない状態となる。その結果、流入が停止していた灌流液が一定の流量に達し、更に吸引圧と平衡状態に達するまでの間、前房S内は減圧状態が継続する(以下、これを「サージ現象」という)。これにより、眼球及び前房の内容積が減少するいわゆるマイクロコラップスが生じ、さらには後褒破壊や角膜内皮損傷を生ずることもある。
従来、この問題に対しては、手術者がその実経験や練習に基づいて超音波量や吸い込み量を適宜変更する等して対処していた。そのため、経験の浅い手術者が、対処するのは容易ではなかった。
このようなサージ現象を少なくするため、例えば、国際公開WO97/37700号公報には、吸引ラインに設けた真空センサーで吸引ラインの閉塞を感知する装置が記載されている。この装置は、吸引ラインの閉塞を感知すると、コンピュータで蠕動ポンプの速度を制御して灌流液の眼内への注入流を変更するように設計されている。また、米国公開2002/0019607号公報や特開2002−153499号公報には、灌流液注入ラインの途中に、灌水を貯留するための灌水貯留部、レンジ、灌流圧センサー、及び圧コントローラーが設けられた装置が開示されている。この装置は、灌流圧が適切なレンジを越えたときにコントローラーを介して灌水供給通路へ灌水を強制的に注入するよう灌水貯留部を作動させ、前房内圧が基準値以下になるのを防止するものである。
しかしながら、サージ現象は約0.2秒以内の短い時間に瞬間的に発生するため、これらの装置でサージ現象をタイムラグなしに抑制することは実質的に困難である。
また、米国特許6,042,586号には、灌流液供給ラインに接続される角膜虚脱防止装置について記載されている。この装置は、貫通孔が形成されたドーム状の頭部を有する本体と、この頭部に貫通孔を塞ぐように装着され外周縁が固定されたラテックス製の薄膜とを備えている。薄膜は伸縮性があるため、灌流液が貫通孔を介して薄膜側に流れると、薄膜が伸びて頭部との間にチャンバーを形成するようになっている。
また、EP特許0180317号及び米国特許4,841,984号には、圧力チャンバーを、液体灌流管に対して直列または並列に接続することが記載されている。この圧力チャンバーは、弾性的な壁を有する球状に形成されており、その直径が4〜8cm、ニードルチップからの距離が6〜10cmの位置に設けるのが好ましいと記載されている。また、チャンバーを空気または他のガスで当初から満たしておくことにより、眼内圧変化に対する応答時間を向上できることが記載されている。
しかしながら、白内障手術のような眼内手術では、非常に精密で且つ微妙な手技が要求されるため、上記のようにハンドピースのチップから6〜10cmの位置にチャンバーを設けると、ハンドピースを操る手の動きが制限され、手術に支障をきたすという問題がある。また、手術中には核を吸引するためにハンドピースを軸回りに回転させたり、先端部を中心に揺動させたりすることがあるが、ハンドピースが移動すると、それに応じてチャンバーも移動する。これにより、チャンバーの中の空気層が灌流液の流入孔側(灌流ラインとの接続部分)に移動することもある。このような状態になると、サージ時に、灌流液を速やかに供給することができないばかりか、眼球内に空気が流入する可能性もあり、眼内組織に、サージによるものとは異なる新たな損傷が生じることがある。
さらに、ハンドピースに近い位置ではチャンバーの固定が難しく、チャンバーの動きの程度によっては灌流液供給ラインを構成する灌流供給チューブに強い捻れが生じることがある。これによって、灌流液が眼内に供給されなくなるのと同時に、強い吸引圧によって前房虚脱を生じる可能性もあり、取り返しのつかない事故になるおそれもある。
また、特開平10−43229号公報には、灌流チューブの経路中に空気室を有するとともに、灌流液を蓄えることができる灌流液溜め手段が開示されている。しかしながら、この公報には灌流液溜め手段をハンドピースに近い位置に配置することが望ましい旨の記載があり、上記チャンバーと同様の問題が生じることが考えられる。
さらに、この灌流液溜め手段への灌流液の注入方法としては、次のように記載されている。まず、灌流液溜め手段に設けられたピストンを押し下げて、その内部の空気を灌流チューブに接続された輸液チューブの空気取り込み口から排出する。その後、スプリングの復元力によりピストンが元の位置に戻ると、ピストンが移動した体積分の灌流液が灌流瓶から灌流液溜め手段に吸い込まれる。そこで、本願発明者等が、上記灌流液溜め手段と同様の装置を作成し、その効果の検討を行ったところ、ピストンを押し下げて灌流液溜め手段の空気を排出しようとすると、上記空気取り込み口から空気が排出できないばかりか、ピストンを押し下げることさえできなかった。したがって、本願発明者等は、上記灌流液溜め手段では、灌流液の注入ができないことを確認している。これは、通常使用される輸液チューブの空気取り込み口は、灌流瓶内の空気圧を一定にするために灌流瓶に通じているからであり、またその空気取り込み口から灌流液や空気が外部に漏れるのを防止する構造になっているためであると考えられる。
一方、本出願人は、特開2001−170102(対応米国公開2002/0095113A1)に開示しているような減圧補償器具を備えた眼内手術装置を提案している。図18に示すように、この眼内手術装置は、一端部に栓61を取り付けた減圧補償器具の収容部としてのチューブ63(内径は供給管51と同じである。)を供給管51の途中に接続したものであり、次のように使用される。まず、ハンドピースの先端を前房S内に挿入して手術を開始する。この時、前房S内の内圧(または容積)は灌流液の流入量(圧)と吸引量(圧)のバランスにより前房S内の眼圧が保たれる。手術中、前房Sに対する灌流液の流入量と吸引量とがバランスよく行われ、乳化された水晶体がスムーズに排出されている状態では、図18に示すように、チューブ63内の空気はA−B間で圧縮された状態となる。そして、吸引流路57が水晶体核片によって閉塞されると、前房S内に灌流液の流入圧が作用する。これにより、A−B間の空気はこの圧力とできるだけ同じになるようにさらに圧縮され、図19に示すように、A−C間に容積が縮小される。すなわち、空気の圧縮されたB−C間の体積だけチューブ63内に灌流液が流入する。一方、吸引ポンプ59は灌流液を吸引し続けているものの、吸引流路の閉塞によって吸引流路の灌流液が減少していくため、吸引流路内の陰圧が急激に高まる。そして、吸引流路57を閉塞していた水晶体核片が吸引されると、前房S内に陰圧が急激に伝わり、更にチューブ63内に陰圧が伝わる。その結果、前房S内の圧力の急激な低下に連動して、図20に示すように、チューブ63内のA−C間の空気はA−D間に膨張する。これにより、C−D間に貯留していた灌流液が押し出されて前房S内に流入する。こうして、前房S内の圧力の急激な低下が軽減されるとともに、灌流液の流入量と吸引量とのバランスが維持され、マイクロコラップスを抑制することができる。
その後、本出願人は上記発明をさらに改良すべく研究を重ねた結果、減圧補償器具の収容部としてのチューブをハンドピースに装着し、サージ現象が起こったときから通常の灌流状態に戻るまでの間に、チューブの容量によっては、またチューブの内径によっては、灌流液が安定した流量で前房内に流入しないことを見出した。上記のように、チューブ装着時にサージ現象が起こると、灌流液は、前房内の減圧状態に応じてチューブから前房内に流入するが、その後は、通常通り供給管から流入するようになる。しかしながら、チューブの容量等によっては、チューブからの灌流液の流入が、供給管からの流入に切り換わるときに、この切換がスムーズに行われないことが分かった。このような現象が生ずると、前房への灌流液の流入が、サージ現象に的確に対処できないことがあり、前房内の圧力低下を確実に軽減することができない場合があった。
そこで、本発明は、白内障等の手術中に眼内患部が急激な減圧状態に陥るのをより確実に軽減することが可能な減圧補償器具、及びこれを備えた眼内手術器具、並びにこれを用いた手術方法を提供することを目的とする。
すなわち、本発明に係る眼内手術用減圧補償器具は、所定の圧力により供給路を経て灌流液を眼内患部に供給しつつ、除去すべき患部組織とともにこの灌流液の吸引路を介して吸引する眼内手術に用いられ、患部内が過剰な減圧状態となったときに灌流液を患部内に供給可能な眼内手術用減圧補償器具であって、前記供給路の途中に連結可能に構成され、前記供給路に供給される灌流液が流入する開口部を残して閉鎖可能な室を形成する収容部を備え、該収容部の内容量が7cm3以上22cm3以下であることを特徴とする眼内手術用減圧補償器具を提供するものである。
本発明に係る減圧補償器具によれば、眼内患部に灌流液を導入する供給路の途中に、内容量が7cm3以上22cm3以下である灌流液の収容部を連結しているため、サージ現象発生時に、収容部から灌流液が供給されるため、灌流液の流入量(圧)と吸引量(圧)のバランスがくずれ、流入量(圧)が急激に低減するのを防止することができる。したがって、サージ現象発生時の眼内患部の圧力低下を確実に抑えることができる。
前記収容部は、開口部を一端に有するチューブによって構成されていることが好ましい。
このとき、チューブの長さは、チューブの内径が4mmの場合、約60cm以上で約175cm以下、チューブの内径が3.5mmの場合、約72cm以上で約230cm以下であることが好ましい。
さらに、チューブの内径が、供給路において当該チューブとの連結部分より上流側の内径より大きいことが好ましく、特に、連結部分より上流側の内径の1.1倍以上で1.7倍以下であることが好ましい。
これは、通常使用される灌流液の供給管(内径約3mm)の場合には、チューブの内径は、3.3mm以上で5.1mm以下となるので、チューブの内径は3.5mm以上で5.0mm以下であることがより好ましい。
また、本発明に係る眼内手術器具は、手術者の手で支持することができ、眼内患部に灌流液を流入する導入流路と、当該導入流路の途中に連結される上記眼内手術用補償器具と、眼内における所定の患部組織を破砕する破砕手段と、灌流液とともに破砕された患部組織を吸引する吸引流路とを備えている。
この眼内手術器具によれば、上記した減圧補償器具を備えているため、白内障等の手術時におけるサージ現象発生時の眼内患部の圧力低下を軽減できる。さらに、手術器具が減圧補償器具と一体化されているため、手術時の操作性を向上することができる。
上記眼内手術用減圧補償器具の収容部は、破砕手段を収容する眼内手術器具本体に取り付けることができ、この場合、本体の後端部に取り付けたり、或いは収容部がチューブで構成されるときは、このチューブを本体に巻回することができる。
また、本発明に係る眼内手術方法は、所定の圧力により供給路を経て灌流液を眼内患部に供給しつつ、除去すべき患部組織とともに灌流液を吸引路を介して吸引する眼内手術方法であって、開口部を残して閉鎖された室を有する収容部を備え、当該収容部の内容量が7cm3以上22cm3以下である眼内手術用減圧補償器具を準備するステップと、前記収容部に空気が収容された状態で、前記減圧補償器具を前記供給路の途中に連結し、前記開口部を介して前記収容部と供給路とを連通するステップと、前記供給路に灌流液を供給し、これに伴って当該供給管から前記収容部に灌流液を流入させ、空気の圧力を作用させた状態で前記収容部内に灌流液を収容するステップと、前記眼内患部に灌流液を供給しつつ、当該眼内から前記患部組織を灌流液とともに吸引するステップとを含んでいる。
図2は、本発明に係る減圧補償器具を備えた装置の他の例を示す図である。
図3は、本発明に係る眼内手術器具の一実施形態を示す図である。
図4は、本発明に係る眼内手術器具の他の例を示す図である。
図5は、本発明に係る眼内手術器具のさらに他の例を示す図である。
図6は、本発明に係る減圧補償器具であるチューブの容量と前房内へ流入される灌流液の流量との関係を調べるための実験装置を示す図である。
図7は、図6に示す実験装置により行った実験の結果を示すグラフである。
図8は、長さが20cmのチューブを用いた場合のチューブ内の圧力変動を示すグラフである。
図9は、長さが60cmのチューブを用いた場合のチューブ内の圧力変動を示すグラフである。
図10は、長さが140cmのチューブを用いた場合のチューブ内の圧力変動を示すグラフである。
図11は、本発明に係る減圧補償器具であるチューブの容量と前房内へ流入される灌流液の流量との関係を調べるための他の実験装置により得られたサージ現象発生時と通常灌流時との模擬前房内の圧力差を示すグラフである。
図12は、チューブを装着していない場合の模擬前房内の圧力変動を示すグラフである。
図13は、内径4mmのチューブを装着した場合の模擬前房内の圧力変動を示すグラフである。
図14は、チューブ及び球形チャンバーを装着した場合の模擬前房内の圧力変動を示すグラフである。
図15は、チューブ及び球形チャンバーを装着した場合の模擬前房内の圧力変動を示すグラフである。
図16は、従来の白内障手術に用いられる手術装置を示す図である。
図17は、サージ現象を説明するための図である。
図18は、本出願人の提案している手術装置を説明するための図である。
図19は、本出願人の提案している手術装置を説明するための図である。
図20は、本出願人の提案している手術装置を説明するための図である。
1.減圧補償器具
本実施形態に係る減圧補償器具は、シリコン等で形成されたチューブ(収容部)を備えており、例えば、図1に示すようなハンドピースに連結可能となっている。このハンドピースは、図18に示す従来技術のものと同一のものであり、同一構成には同一符号を付して説明を省略する。チューブ101の一端の開口部は、ハンドピース53の導入流路(供給路)54の後端部に取り付けられた継手管56に連結することができる。この継手管56には供給管(供給路)51を介して灌流ボトル55が接続されている。また、チューブ101の他端はクランプ103で閉塞され、チューブ101内に灌流液が流入可能となっている。本発明者の見地によれば、このチューブの容量は、サージ現象発生時の前房内圧力の低下に対処すべく、7cm3以上で22cm3以下になされている。
これは、以下の理由からである。チューブ101の長さに拘わらず、灌流ボトル55の高さが一定であることから、チューブ101内で圧縮される空気の圧力は同じである。そのため、サージ現象が発生した場合には、同じ圧力でチューブ101内の灌流液が押し出される。しかしながら、チューブ101が長いとチューブ101内に貯留される灌流液の量は多くなり、短いと貯留される灌流液の量は少ない。そのため、灌流液が押し出される初期速度は同じであっても、灌流液の量が少ないと押し出す量が少ないので、押し出される灌流液は、チューブ内の圧縮空気により圧送され、初期速度から流速があまり低下せずに押し出される。一方、灌流液の量が多いと押し出す量が多くなるため、灌流液の流速は初期速度から徐々に低下すると考えられる。
上記のようにチューブ101に貯留される灌流液の量が少なく、チューブ101から圧送されて初期速度からの速度低下が小さい場合には、チューブ101からの灌流液の流出が優先し、供給管51からの灌流液の流出が抑制される。この場合には、チューブ101からの流出が終了した後、灌流液の流出がほぼ停止した状態の供給管51からの灌流液の流出が始まることになり、チューブ101からの流出から、供給管51からの流出へと灌流液の流出経路の切換がスムーズに行われない。
このように切換がスムーズに行われないと、チューブ101からの灌流液の流入後、通常の灌流状態に戻るまでの間に、前房内に流入する灌流液の流速が急激に小さくなる(つまり、流速0に近い状態)ときがある。このような現象が生ずると、灌流液の流入量が一瞬低下するため、前房内の圧力低下を確実に抑えることができないという問題がある。
一方、チューブ101に貯留される灌流液の量が多いと、チューブ101からの前房内への灌流液の流入速度が徐々に低下していくため、供給管51の流入量が極度に抑制されることがない。そのため、チューブ101からの灌流液の流速低下とともに、供給管51からも灌流液が前房内へ流入するようになる。その結果、灌流液の流入の切換がスムーズに行われ、前房内における灌流液の流入量低下が軽減される。
以上より、本発明者は、チューブの容量が7cm3以上であると、前房内へ流入する灌流液量が大きく低下しないことを見出した。この観点から、チューブの容量は、8cm3以上、さらに9cm3以上、特に10cm3以上、とりわけ12.5cm3以上であることがより好ましい。
ところで、白内障手術は主として次の4つの工程からなる。すなわち、(1)前嚢切開、(2)水晶体乳化吸引、(3)皮質吸引および(4)眼内レンズ挿入の工程である。各工程に使用するハンドピース(例えば、水晶体乳化吸引では超音波ハンドピース、皮質吸引ではI/A(Irrigation and aspiration)ハンドピース)はそれぞれ異なるため、次の工程に移るときには、それぞれのハンドピースを前房内から外さなければならない。この時ハンドピースの導入流路54は開放され抵抗がなくなるため、チューブ101内の灌流液は全て眼球外の術野に放出される。この場合、チューブ101内の容量が大きすぎると、チューブ内に残留する灌流液が多くなり、術野に放出される液量も多くなるので排出に時間がかかってしまうことになる。このため、短時間で行わなければならない白内障手術の効率が悪くなる。また、術野への排出量が多くなると術野の汚染につながり好ましくない。したがって、これらの観点から、チューブ101の容量は、22cm3以下になされており、20cm3以下、さらに17.5cm3以下、特に15cm3以下であることが好ましい。これは、例えばチューブの内径が4mmのとき、長さが約175cm、約159cm、約139cm、約119cmに、チューブの内径が3.5mmのとき、長さが約229cm、約208cm、約182cm、約156cmに該当する。
また、本発明者は、次のことを見出した。すなわち、上記のように、減圧補償器具としてのチューブ101は、その内径が灌流液の供給管51(灌流液の供給流路において、チューブより上流部分)の1.1〜1.7倍であることが好ましく、1.2〜1.4倍であることがさらに好ましい。これについては、実施例において詳述する。但し、この数値は、眼内手術で通常使用される灌流液導入チューブ(内径約3mm)を、灌流液の供給管51として使用した場合のものである。通常使用される灌流液導入チューブとしては、例えばAMO MAXPATM Disposable Tubing Set OM20にセットされたディスポーザブルチューブ(内径約3mm)、AMOTM SOVEREGN Pack Disposable Tubing Set REF(Part No.):OP050にセットされたディスポーザブルチューブのシリコンチューブ(内径約3mm)が挙げられる。また、マックスバック吸引チューブ(アルコン社製)、CV24000ディスポ(ニデック社製)なども使用することができる。
さらに、チューブ101の内径が上記した灌流液の1.1〜1.7倍の範囲内であれば、チューブ101がハンドピースとともに回転したり、或いはクランプ103で閉塞された端部が下方に垂れ下がったとしても、チューブ101内に貯留された灌流液部と空気層とが入れ替わることなく、空気層はクランプ103側に留まることができる。したがって、チューブ101に貯留された灌流液は、空気層によって供給管51を流れる灌流液と分断されることがないので、例えば従来の球形チャンバー等を装着した場合のように灌流液の層と空気層とが入れ替わり眼内に空気が流入するのを確実に防止することができる。
また、チューブ101は供給管51と同様の細長い形状をなしているため、手術中にチューブ101の動きを気にすることなくハンドピースを操作することができるとともに、上記したサージ現象に対する効果を発揮することができる。さらに、チューブは灌流液の供給路51と並行に、例えばテープ等で供給管51と一体的に保持することも容易である。したがって、このようにすることで、手術者はチューブを装着していない場合と変わりなくハンドピースを操作することができる。このため、継手管56における供給路51との継手部と、チューブ101との継手部がほぼ並行になるよう形成されていることが好ましい。
また、摩擦抵抗の観点からも、供給管51よりも内径の大きいチューブを使用することが好ましい。これは、サージ現象発生時には、減圧状態にできるだけ速く追随するように、供給管51に先立ってチューブ101から灌流液が流出することが求められるからである。したがって、少なくともチューブ101の内径の方が、供給管51の内径より大きいことが好ましい。
本実施形態では、ハンドピース53に減圧補償器具の収容部となるチューブを装着した例を示したが、これに限定されるものではなく、例えば図2に示すようにすることもできる。すなわち、同図に示すように、ハンドピース53を経て灌流液を供給するのではなく、供給管51を介して前房S内に直接灌流液を供給するようにし、この供給管51の途中に減圧補償器具の収容部となるチューブ15を連結するようにする。このようにしても、ハンドピース53から灌流液を供給する場合と同様に、前房S内に灌流液が供給されるため、サージ現象が生ずるのを防止することができる。
なお、チューブ101、15の端部を閉じるには、上記したクランプ103以外にも種々のものを用いることができ、例えばチューブ端部にチューブ101と同材質または他の材質の部材を挿入して密封したり、或いはチューブ101の端部を溶融して閉じることもできる。
チューブ101,15の材質としては、柔軟性および弾力性を有する、耐薬品性、耐熱性材質のものであればいずれも有利に使用することができ、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ハイパロン、ウレタンゴム、シリコンゴム、エピクロルヒドリンゴムなどが挙げられるが、特にシリコンゴムが好ましい。チューブとしては、例えばポリプロピレンチューブ、ポリエチレンチューブ、マルチWチュービング、シリコンチューブ、ユニチューブ、タイゴン3355Lなどが好適に利用できる。
2.ハンドピース(眼内手術器具)
次に、上記減圧補償器具を備えたハンドピースの一実施形態について図3を参照しつつ説明する。図3(a)は、本実施形態に係るハンドピースの平面図、図3(b)は正面図、図3(c)は図3(b)のA−A線断面図である。
同図に示すように、このハンドピース1は、超音波振動を発生する振動子(図示省略)と、この振動子によって発生した超音波振動を出力するホーン(図示省略)とを内蔵した円筒状の手術者の手で支持される本体2を備え、その先端に水晶体を破砕乳化するための管状チップ3が装着されている。管状チップ3はホーンと連結されており、手術対象となる水晶体に超音波振動を付与することができる。なお、上記振動子、ホーン、及び管状チップ3が本発明に係る眼内手術器具の破砕手段を構成する。
ハンドピース1の先端には、患部に灌流液を導入する導入流路5が接続されている。この導入流路5は、ハンドピース1の軸線方向に延び、ハンドピース1の先端部付近ではハンドピース1に内蔵されているが、途中から外部へ露出した状態となっている。そして、導入流路5の後端部には灌流ボトルから灌流液を供給するための供給管が取り付け可能となっている。また、導入流路5において外部に露出する部分の途中には減圧補償器具の収容部としてのチューブ7が連結され、導入流路5と平行に延びている。チューブ7の後端には容量を増大するための拡張部9が設けられている。拡張部9は、ハンドピース1後端の外周面に取り付けられ、平面視矩形状に形成されている。また、ハンドピース1の後端部には、眼内から乳化された水晶体を灌流液とともに吸引するための吸引管8が取り付けられる。本実施形態では、チューブ7と拡張部9とにより本発明の減圧補償器具の収容部を構成している。
チューブ7及び拡張部9の寸法は、上記実施形態で示したとおりである。すなわち、チューブ7の内径が、導入流路(チューブとの連結部分より上流側の部分)5の内径の1.1倍以上で1.7倍以下であることが好ましく、1.2倍以上で1.4倍以下であることがさらに好ましい。また、チューブ7と拡張部9との合計の内容量は、7cm3以上で22cm3以下であるが、ハンドピースの大きさを考慮すると、7cm3以上で15cm3以下であることがさらに好ましい。但し、導入流路5とチューブ7との合流点から管状チップへ至る通路5aの内径は、流路抵抗を小さくするため、内径が大きい方が好ましく、少なくともチューブ7の内径より大きいことが好ましい。
以上のように、本実施形態に係るハンドピース1によれば、減圧補償器具の収容部としてのチューブ7及び拡張部9をハンドピース1と一体化しているため、チューブが外部に取り付けられている場合に比べ、ハンドピース1の操作性を向上することができる。
本実施形態では、ハンドピース1と減圧補償器具とを一体化した場合の一例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば以下のように構成することもできる。図4に示すように、この例では、拡張部9がハンドピース1の後端部に取り付けられ、ハンドピース1とほぼ同じ外径を有し、軸線方向に延長するようなドーナツ形状に形成されている。そして、ドーナツ形状の中空部分には、吸引管8が挿入されている。このようにすると、ハンドピース1の外周面に突出部分が形成されないため、操作性をさらに向上することができる。
また、次のようにすることもできる。図5に示す例では、拡張部を設けずチューブ7のみで減圧補償器具の収容部を構成している。そして、チューブ7の後端部をハンドピース1の本体2に巻回して螺旋状に形成する。こうすることにより、拡張部のような容量増大のための付加的な部材を設けることなく、省スペースで減圧補償器具としての容量を増大することができる。したがって、ハンドピースの小型化が可能になる。
なお、上記した以外にも、ハンドピースと減圧補償器具とが一体化された種々の構成を採ることができる。例えば、ハンドピースの内部にスペースを形成することができれば、減圧補償器具をハンドピースに内蔵することもできる。また、上記した形状の減圧補償器具の収容部(チューブ及び拡張部)を着脱可能なアタッチメントタイプとし、使用時にハンドピースに装着して、一体化できるように構成することもできる。
また、上記した各例では図示を省略しているが、これらハンドピースに設けられた減圧補償器具の一部に開閉自在の栓を設けると、この栓を介して減圧補償器具内の灌流液の排出及び洗浄等を容易に行うことができる。
はじめに、チューブの容量に関して説明する。
(a)実験1
サージ現象時の前房内の圧力の変化がチューブ内の圧力と連動していることに注目し、チューブの容量を変更しながら実験を行った。図6に示すように、ここで使用する実験装置は、超音波乳化吸引装置であるハンドピース11と、これに接続され灌流液が貯留された灌流ボトル13とを備えている。ハンドピース11は、AMO社製ピエゾエレクトリックスモールフェイコハンドピースであり、灌流液を眼内前房へ導入する導入流路17、及び前房内から吸引される灌流液が通過する吸引流路(図示省略)を内蔵している。この吸引流路の後端部には、吸引管29を介して白内障手術用設備27が接続されている。この手術用設備27は、所定の吸引圧で灌流液を吸引するためのものである。本実験においては、手術用設備27として超音波白内障手術装置「シリーズ2000レガシー」(Alcon Surgical製)を使用した。
吸引流路の先端部には、超音波振動子からの振動が伝達され水晶体を破砕乳化する管状チップ19が取り付けられており、この管状チップ19から、灌流液とともに吸引流路を介して乳化された水晶体が吸引される。また、灌流液はアルコン社製のBSS Plus(登録商標)を使用している。
ハンドピース11の導入流路17後端には、継手管21が取り付けられており、この継手管21には灌流ボトル13から灌流液をハンドピース11内に導入する供給管23、及び減圧補償器具であるチューブ15が接続されている。供給管23は内径3mmのものを使用した。
実験に際しては、ハンドピースを台座に固定するとともに、ハンドピース11の先端部である管状チップ19を模擬前房31に挿入しておく。模擬前房31とは、患部である眼内前房を模したものである。そして、灌流液の供給管23に装着されたトラップ14の液面14aが管状チップ19の先端から70cmの高さにくるように灌流ボトル13を配置した。
また、サージ現象発生時のチューブ15から流出する灌流液の流量は計測することが困難であるため、模擬前房31内の圧力を計測することとし、模擬前房31に圧力計25を取り付けた。減圧補償器具であるチューブ15は内径4mm、長さ20cmから400cmのシリコン製チューブを用いた。
(実験1−1)
次に実験方法について説明する。まず、チューブ15内の空気を圧縮させるように灌流液をチューブ15内に流入させる。続いて、白内障手術用設備27の吸引流量30cc/min、最高吸引圧を200mmHgに設定し、通常の灌流を行う。そして、吸引管29を鉗子で閉塞した後、開放し、このときの模擬前房31内の圧力変動をサージ現象発生時の圧力変動とみなして測定した。結果を図7に示す。図7中、縦軸はサージ現象時の模擬前房31内の圧力を示し、横軸はチューブ15の長さを示す。図7によれば、チューブの長さが60cm以上になると、サージ現象時の圧力が負圧にならないことが判明した。また、100cm以上になると、減圧補償器具であるチューブ15が安定して作動していることが判明した。これらチューブの長さを容量に換算すると、60cmの場合の容量は7.5cm3であり、100cmの場合は12.6cm3である。
(実験1−2)
次に、図6の白内障手術用設備27を取り外した装置を用いて、上記と同様にチューブ15の長さによる模擬前房31内の圧力変動を測定した。実験1−1は白内障手術用設備27による吸引流量30cc/min、最高吸引圧を200mmHgと設定して実施したが、吸引圧が変わるとサージ現象時の圧力は変動するため、模擬前房が吸引圧の影響を受けない条件下におく以下の実験により、さらに好ましいチューブの長さを検討することとした。上記したトラップ14の液面14aが管状チップ19の先端から60cmの高さにくるように灌流ボトル13を配置した。灌流液は供給管23を通じて自然落下させ、吸引管29から自然排出し、鉗子を用いて吸引管29を開閉した時の模擬前房31内の圧力変動を計測した。このとき、閉じた吸引管29を開放し、その開放から0.15秒後の模擬前房31内の圧力をサージ現象時の圧力とした。0.15秒としたのは、吸引管29に白内障手術用設備27を接続して吸引ポンプで吸引した場合、模擬前房31内の圧力が最も落ち込むまでの時間が平均約0.15秒であるからである。
図8〜図10は、チューブ15が20cm、60cmおよび140cmのときの模擬前房31内の圧力変動を示したものである。吸引管29を鉗子で閉塞した時の模擬前房31内の圧力は約45mmHg(A−B間)である。B点は吸引管29を開放した時点を示し、C点はそこから0.15秒後の点である。D点は通常灌流状態に戻った点を示す。図8〜図10におけるC点の圧力はそれぞれ26.6mmHg、30.4mmHgおよび40.7mmHgであり、20cm及び60cmのチューブ15では、通常灌流時(D点)よりそれぞれ8.0mmHg及び1.9mmHg低かったが、140cmのチューブ15では、通常灌流時(D点)より、6.8mmHg高かった。
図11に本実験で得られたC点とD点の差を示した。横軸はチューブの長さを示す。図11からチューブ15の長さが80cm以上、すなわちチューブ15の容量が10cm3以上の場合に、通常灌流時の圧力より低下することがないのでより好ましいことが判明した。
これらの図に示すように、チューブ15の長さが長くなるほど、サージ現象発生時の圧力の落ち込みが低減され、吸引管の閉塞時から通常灌流時まで圧力がスムーズに変化している。これは、チューブ15の長さが長いときは、灌流液の流量の落ち込みが小さくなることを示している。すなわち、チューブ15からの灌流液の流出が、供給管23からの流出へスムーズに切り換わり、前房内へ供給される灌流液の流量が急激に低下するのが防止されている。
このように、チューブ15の長さは長ければ長い程良く、特にサージ現象発生時から0.15秒後の圧力が通常灌流時よりも高くなる60cm以上が好ましく、80cm以上であることがさらに好ましい。これを容量に換算すると、内径4mmで長さが60cmのチューブの容量は、7.54cm3であり、長さが100cmの場合は12.5cm3である。これに基づくと、チューブ15の容量は、7cm3以上になされており、10.0cm3以上であることがとりわけ好ましい。
なお、上述したように、手術の効率性の観点から、チューブの容量は、22cm3以下になされており、20cm3以下、さらに17.5cm3以下、特に15cm3以下であることが好ましい。
(b)実験2
次に、減圧補償器具として、チューブを使用した場合のチューブの内径に関する実験について説明する。ここで使用する実験装置は、実験1で使用したもの、つまり図6に示すものと同じであるため、詳しい説明は省略する。
チューブ15はシリコン製のものであり、以下に示す7種類のものを使用している。そして、各チューブは、同じ容量、つまり14.13cm3になるように後端部をクランプにより閉塞している。
実験に際して、ハンドピース11は台座に固定し、ハンドピース11の先端部である管状チップ19を模擬前房31に挿入しておく。また、灌流ボトル13は、トラップ14の液面14aが管状チップ19の先端から70cmの高さとなるように配置している。
次に、実験方法について説明する。まず、実験1と同様にチューブ15内の空気を圧縮させるように灌流液をチューブ15内に流入させる。続いて、白内障手術用設備27の吸引流量30cc/min、最高吸引圧を200mmHgに設定し、通常の灌流を行う。そして、吸引管29を鉗子で閉塞した後、白内障手術設備27の吸引圧の表示が200mmHgに達したときに、吸引管を開放し、このときの模擬前房31内の圧力変動をサージ現象発生時の圧力変動とみなして測定した。以下の表2は、その結果である。
まず、チューブ15を装着していないときについて説明する。図12はこのときの模擬前房内の圧力変動を示すグラフである。まず、通常灌流時において吸引管23を鉗子で閉塞すると、灌流液が吸引されず模擬前房31内には灌流ボトル13の高さと模擬前房の高さの差の圧がそのまま作用する。そのため、模擬前房31内の圧力は通常灌流時に比べて高くなる。この状態がグラフ中のA−B間で示されている。そして、鉗子を外して吸引管29を開放すると、灌流液が一気に吸引され、B−C間に示されるように、模擬前房31内の圧力が急激に低下する。このとき、模擬前房31内への灌流液の流入量が、模擬前房31内からの吸引量に追随できないため、その圧力は−33.8mmHgとなり(C点)、模擬前房31内は虚脱状態となる。その後、灌流液の流入量(圧)と吸引量(圧)とのバランスが保たれてくると、圧力は徐々に上昇し(C−D間)、通常灌流時の圧力、約59.5mmHgまで戻る(D−E間)。
これに対して、例えば内径4mmのチューブ15を装着すると、図13に示すような現象が起こる。すなわち、吸引管29を閉塞していた鉗子を外して灌流液が一気に吸引されると、模擬前房31内は陰圧状態になるが、チューブ15に陰圧が伝わり、チューブ15内の圧縮された空気が膨張してチューブ15内の貯留灌流液が模擬前房31内に流入する。したがって、模擬前房31内の圧力の低下に追随するように、チューブ15から灌流液が流入するため、急激な圧力軽減が防止される。その結果、チューブ15なしのサージ現象時の圧力が−33.8mmHgであるのに対し、内径4mmのチューブを装着すると、8.3mmHg(C点)となる。したがって、前房内が虚脱状態になるのを防止することができる。
上記表2に示すように、ここでは、7種類の内径の異なるチューブ15を用いて実験を行っている。供給管の内径が3mmであることを考慮すると、チューブ15の内径がこれと同径より小さい時ではサージ現象時の模擬前房圧力は負圧となり、サージ現象を十分に改善できない。したがって、チューブ15は供給管より太くするのが適切である。しかし、チューブの内径が5mmになると、サージ現象時の模擬前房圧力は負圧ではないが、内径が4mmのチューブ15より模擬前房圧力は大きく減少しており、さらに径を太くするのは望ましくない。したがって、供給管23の内径が3mmの場合、チューブ15の内径は、3.5mm以上で5mm以下であることが好ましく、4mmであることがさらに好ましい。
これを供給管23の内径と減圧補償器具であるチューブ15の内径の比で表すと、チューブ15の内径は、供給管23の内径の1.17倍以上で1.67倍以下であることが好ましく、1.33倍であることがさらに好ましいことが判明した。
(c)実験3
次に、本発明に係るチューブと、EP特許0180317号および米国特許4,841,984号に記載の球形チャンバーとの効果を比較した。
(実験3−1)
図6に示す実験装置を用い、本実施例として内径4mm、長さ160cmのチューブ15を使用するとともに、比較例としてチューブ15の代わりに直径5cmおよび6.5cmの弾性球形チャンバー使用し、それぞれを継手管21に装着して実験を行った。手術開始とほぼ同時にサージ現象がおこる場合を想定し、吸引直後に吸引チューブを閉塞した。模擬前房内の圧力が、白内障手術用設備27の吸引圧の表示が最高設定吸引圧(300mmHg)に達したとき(吸引チューブを閉塞約1秒後)に、吸引チューブの閉塞を解除し、模擬前房の圧力の変化を測定した。白内障手術用設備27として、超音波白内障乳化吸引装置ソブリンTM(SOVEREIGN;アラガン株式会社製)を使用した。条件は、ボトル高さ40cm(チップ先端からトラップの液面までの高さ約72cm)、吸引流量40cc/min、最高吸引圧300mmHgで行った。
その結果を図14に示した。またサージ現象時の模擬前房31内の圧力を表3に示した。
無装着および本発明のチューブを使用した場合の、吸引管閉塞時およびサージ回復後の模擬前房31内の圧力は、両者の間に大きな差は認められなった。一方、球形チャンバーを使用した場合には無装着時に比較して、吸引管閉塞時およびサージ回復後の模擬前房31内の圧力は共に低く、直径が大きい程その圧力は低かった。これは、灌流流路とは別にチューブ又は球形チャンバーを装着することにより、模擬前房31内の圧力はチューブ又は球形チャンバーで緩衝されるが、球形チャンバーでは球容積、および貯留液面と空気層との界面面積に対応して緩衝の程度も大きくなるためと考えられる。つまり、本発明のチューブでは、その内部における灌流液と空気層との界面面積(チューブの断面積)が小さく、空気の圧力が灌流液に作用しやすいからであると考えられる。
サージ時の模擬前房31内の圧力は無装着時−58.1mmHgである一方、本発明のチューブでは−9.6mmHgであり、サージの程度が極めて小さくなることが分かった。球形チャンバーの場合、直径5cmでは−26.8mmHg、直径6.5cmでは−55.7mmHgであり、無装着時に比較してサージの軽減が認められたが、その程度はチューブに比較してかなり低かった。また、球形チャンバーでは、サージから0.7〜0.8秒経過後に模擬前房31内の圧力が高くなる現象が認められた。これは、サージ時に球形チャンバーに貯留された灌流液が模擬前房31内に流入する時に球形チャンバー内で渦巻き現象が起き、空気も同時に流入するためと思われる。この現象も、球形チャンバー内での灌流液と空気層との界面面積が大きいことが原因と考えられる。このような空気の流入は、眼内組織を損傷する恐れが懸念される。
(実験3−2)
次に、手術開始5秒後にサージ現象がおこる場合を想定した。実験は、吸引5秒後に吸引チューブを閉塞する以外は実験2−1と同じ方法で行った。チューブは内径4mm、長さ160cmのものを使用し、球形チャンバーは、直径5cm、6.5cmおよび7.5cmのものを使用した。実験結果を表4に示す。
表4によれば、無装着時のサージ現象時の模擬前房31内の圧力は−37.3mmHgであったのに対し、本発明のチューブでは−14.5mmHgと模擬前房31内の圧力の低下は極めて低く抑制された。一方、球形チャンバーを使用した場合の模擬前房内圧力は、直径5cm、6.5cmおよび7.5cmで各々、−27.4mmHg、−27.4mmHgおよび−30.5mmHgとなり、無装着時よりも圧力の低下は抑制されたが、本発明のチューブよりその効果は極めて低いものであった。
図15は、模擬前房内の圧力の時間の経過を示す図である。同図によれば、球形チャンバーでは、吸引開始時の模擬前房31内の圧力は極めて低く、特に、直径6cmおよび7.5cmの球形チャンバーでは、吸引後2〜3秒程度、模擬前房31内が負圧の状態であった。これらを使用した場合、時間の経過とともに圧力は上がるが、球形チャンバーの直径によっては、吸引開始5秒後(吸引チューブ閉塞前)であっても通常の手術時の前房内圧力に至らないことが分かった。
そこで、直径7.5cmの球形チャンバーを用いて無装着時と同等の模擬前房31内の圧力になるまでの時間を測定したところ、吸引開始から約27〜30秒要することが分かった。このことは、球形チャンバーを使用する場合、前房内圧力が一定に達するまで実質的に手術を行うのは不都合であるので、これら球形チャンバーは事実上使用できないことを示しているものと思われる。
以上、本発明の具体的な態様のいくつかを詳細に説明したが、当業者であれば示された特定の態様には、本発明の新規な教示と利点から実質的に逸脱しない範囲で色々な修正と変更をなし得ることは可能であるので、そのような修正および変更も、全て後記の特許請求の範囲で定義される本発明の精神と範囲内に含まれるものである。
本出願は、日本で出願された特願2002−182045号を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
A:吸引開始
B:吸引チューブ閉塞
C:吸引チューブ閉塞解除
Fig.15
A:吸引開始
B:吸引チューブ閉塞
C:吸引チューブ閉塞解除
Claims (7)
- 所定の圧力により供給路を経て灌流液を眼内患部に供給しつつ、除去すべき患部組織とともに灌流液を吸引路を介して吸引する眼内手術に用いられ、患部内が過剰な減圧状態となったときに灌流液を患部内に供給可能な眼内手術用減圧補償器具であって、
前記供給路の途中に連結可能に構成され、前記供給路に供給される灌流液が流入する開口部を残して閉鎖可能な室を形成する収容部を備え、
該収容部の内容量が7cm3以上22cm3以下であり、
前記収容部は、前記開口部を一端に有するチューブによって構成されていることを特徴とする眼内手術用減圧補償器具。 - 前記チューブの内径が、前記供給路において当該チューブとの連結部分より上流側の内径の1.1倍以上で1.7倍以下であることを特徴とする請求の範囲1に記載の眼内手術用減圧補償器具。
- 前記チューブの内径は、3.5mm以上で5.0mm以下である請求の範囲1または2に記載の眼内手術用減圧補償器具。
- 手術者の手で支持される本体を備えた眼内手術器具であって、
前記本体は、
当該本体の一端部に取り付けられ、眼内における所定の患部組織を破砕する破砕部と、
前記破砕部の近傍に灌流液を導入する導入流路と、
前記破砕部によって破砕された患部組織を吸引する吸引流路と、
前記導入流路の途中に連結される請求の範囲1から3のいずれかに記載の眼内手術用眼圧補償器具と
を備えている眼内手術器具。 - 前記減圧補償器具は、前記本体に対して着脱自在に取り付けられている請求の範囲4に記載の眼内手術器具。
- 前記減圧補償器具の収容部は、前記開口部を一端に有するチューブによって構成され、当該チューブは、前記本体に巻回されている請求の範囲4または5に記載の眼内手術器具。
- 前記減圧補償器具の収容部は、前記本体の他端部に、当該本体の延びる方向に沿って取り付けられている請求の範囲4または5に記載の眼内手術器具。
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