JP4428788B2 - 光学素子の成形方法、光学素子の成形装置、及び記憶媒体 - Google Patents
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- C03B11/12—Cooling, heating, or insulating the plunger, the mould, or the glass-pressing machine; cooling or heating of the glass in the mould
- C03B11/125—Cooling
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば非球面レンズなどの複雑な形状を有する光学素子をプレス成形する光学素子の成形方法及び光学素子の成形装置、並びに前記光学素子の成形方法を実現するための記憶媒体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、光学機器の小型化、軽量化に伴い光学系に使用されるガラスレンズとして、非球面形状のレンズが望まれている。上記非球面形状を有するガラスレンズの成型方法として、所定の表面精度を有する成形用型内に光学素子材料を挟み込みプレス成形することにより光学素子を成形する方法が提唱されている。
【0003】
この方法は、例えば特公昭61−32263号公報に開示してあるように、所望の光学素子の最終形状に正確に対応する内部形状を有する鋳型の中にガラス素材を挟み込み、上記ガラス素材の粘度が108〜5×1010dPa・sの範囲の温度でプレス成形を行い、その後、ガラス素材と鋳型の温度差が少なくとも20℃以上にならないように冷却を行い、ガラス素材の粘度が1012dPa・sよりも小さくなる温度域で鋳型間から上記ガラス素材を取り出すことによって、高精度な光学素子を得る方法である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記公報の従来例の成型方法でも、ガラス素材の粘度が108〜5×1010dPa・sの範囲の温度から室温までの温度変化が必要であるため、またガラス素材と型部材との熱膨張率が著しく違うために、冷却中にガラス素材内に熱応力が生じてしまう。さらには、ガラス特有の粘弾性物性により、その生じた熱応力が温度と応力の分布に比例した形で応力緩和される。
【0005】
結果的に、ガラス素材を取り出す温度域まで冷却が進んだときには、ガラス素材内に複雑な応力分布を生じてしまい、その応力が型部材とガラス素材との密着状態が解除される際に開放され、光学素子の光学機能面に変形を来たし光学精度を悪化させてしまう、という問題点があった。
【0006】
本発明は上記従来の問題点に鑑み、高い光学素子の機能面精度を得ることができる光学素子の成形方法、光学素子の成形装置、及び記憶媒体を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の光学素子の成形方法は、軟化状態にあるガラス素材を成形用型部材でプレスし、その後に前記ガラス素材を冷却する冷却工程を行う凸メニスカス形状の光学素子の成形方法において、前記冷却工程は、前記ガラス素材の転移点より20℃から75℃の範囲で高い温度では50℃/min.以上の速度で冷却した後、前記転移点より20℃高い温度から前記ガラス素材の転移点までは10℃/min.以下の速度で冷却し、前記ガラス素材の転移点以下の温度では50℃/min.以上の速度で冷却することを特徴とする。
また、本発明の光学素子の成形装置は、軟化状態にあるガラス素材をプレスする成形用型部材と、前記成形用型部材によってプレスされている前記ガラス素材の冷却を制御する冷却制御手段とを備えた光学素子の成形装置において、前記ガラス素材の転移点より20℃から75℃の範囲で高い温度では50℃/min.以上の速度で冷却した後、前記転移点より20℃高い温度から前記ガラス素材の転移点までは10℃/min.以下の速度で冷却し、前記ガラス素材の転移点以下の温度では50℃/min.以上の速度で冷却する制御構成であることを特徴とする。
また、本発明の記憶媒体は、軟化状態にあるガラス素材を成形用型部材でプレスし、その後に前記ガラス素材を冷却する光学素子の成形方法を実行する、コンピュータで読み出し可能なプログラムを格納した記憶媒体であって、前記光学素子の成形方法は、前記ガラス素材の転移点より20℃から75℃の範囲で高い温度では50℃/min.以上の速度で冷却した後、前記転移点より20℃高い温度から前記ガラス素材の転移点までは10℃/min.以下の速度で冷却し、前記ガラス素材の転移点以下の温度では50℃/min.以上の速度で冷却する冷却制御ステップを備えたことを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る光学素子の成型方法を示すフローチャートである。図2は、図1に示した成型方法を実現するための光学素子の成型装置の断面構成図であり、凹メニスカスレンズを成形加工するための成形用胴型を用いて、ガラスレンズの成形が略完了した状態を示している。
【0018】
本実施形態では、ガラス素材に重クラウンガラス(SK12)を使用し、図3に示す凹メニスカス形状の光学素子を成形する場合について説明する。
【0019】
まず図2において、成形用胴型1を上下に貫通した状態で、貫通穴が形成されており、上側の貫通穴には、円柱状に形成された上型部材2が、勘合した状態で上下方向に沿って摺動可能に挿入されている。上型部材2の上端部には、円盤状のフランジ部が形成されており、このフランジ部が、レンズの厚みを調整するスペーサを介して、成形用胴型1の上面に上方から当接することにより、上型部材2のプレスストロークが規定されている。また上型部材2の下面には、ガラス素材4を押圧して、その表面に所望の形状を転写して光学機能面を形成するための成形面が形成されている。
【0020】
一方、下側の貫通穴には、上型部材2と同様に円柱状に形成された下型部材3が、勘合した状態で上下方向に沿って摺動可能に挿入されている。
【0021】
下型部材3の上端面には、ガラス素材4の下面に所望の形状を転写して光学機能面を形成するための成形面が形成されている。
【0022】
また、成形された凹メニスカスレンズ(ガラス素材4)の厚みは、上述したように、上型部材2のフランジ部が、成形用胴型1の上面に当接することにより規定され、加工する毎に凹メニスカスレンズ4の厚みが変化しないようになされている。
【0023】
一方、成形用胴型1の側面には、開口穴1aが形成されており、この開口穴1aを介して、成形用胴型1の内部にガラス素材4が供給されると共に、成形の完了した凹メニスカスレンズ4が成形用胴型1の内部から取り出される。
【0024】
成形用胴型1内には、その四隅に位置した状態で、ヒータ5が配置されている。このヒータ5は、成形用胴型1、上型部材2及び下型部材3を加熱すると共に、これら成形用胴型1、上型部材2及び下型部材3を介してガラス素材4を加熱する。そして、ガラス素材4の冷却速度は、プログラマブル温度コントローラ10によって制御される。
【0025】
上記の型構成を用いて、図1に示す本実施形態による成形プロセスで凹メニスカスレンズを成形する。なお、上記図1に示したフローチャートに従ったプログラムをプログラマブル温度コントローラ10内の記憶装置に格納し動作することにより、上述の制御方法を実現させることが可能となる。また、成形の温度と加重のプロセス線図を図4に示す。
【0026】
成形用胴型1及び上型部材2及び下型部材3は、予め所定の成形条件に対応した温度に加熱されている(ステップS11)。まず上型部材2を成形用胴型1に対して上方にスライドさせておく。この状態で、オートハンド等により、所定の温度に加熱されたガラス素材4を下型部材3の成形面上に供給する(ステップS12)。本実施形態では、ガラス素材4の粘度で109.5dPa・sに相当する温度(620℃)である。
【0027】
次に、ガラス素材4に対して、本実施形態では4000Nの荷重を負荷しプレスを行い(ステップS13)、ガラス素材4は、次第に水平方向に押しつぶされて、最終的には、図3に示したような状態となる。この状態においては、ガラス素材4の上下には、上型部材2の成形面と下型部材3の成形面の形状が転写された光学機能面が形成されている。
【0028】
この後、成形された凹レンズ(ガラス素材4)は冷却される(ステップS14)。この冷却過程において、本実施形態ではガラス素材4が上下型部材2及び3との間で不均等に剥離してしまうことを防ぐために、ガラス素材4の粘度で1010.5dPa・sに相当する温度(600℃)になった時点から、3200Nの荷重を負荷した状態で、ガラス素材4の粘度で1013.5dPa・s以上に相当する温度(530℃)まで冷却を行う。
【0029】
ここで、本実施形態におけるガラス素材の転移点は550℃であるため、プレス温度(620℃)から550℃までは、ガラス素材自体の応力緩和作用を期待できる冷却速度(5℃/min.)で冷却を行う。
【0030】
冷却速度は、プログラマブル温度コントローラ10によって制御されているため、冷却途中でその速度を変化させることは容易である(ステップS15)。550℃(転移点)にガラス素材の温度が達した時点でから、今度はガラス素材の応力緩和作用が関与しづらいように冷却速度を600C/min.の高速に制御して冷却を行う(ステップS16)。
【0031】
以上の工程の後、所定の温度まで温度が低下したときに(ステップS17)、オートハンド等により凹メニスカスレンズ(ガラス素材4)を外部に取り出した(ステップS18)。本実施形態では、ガラス素材4の粘度が1014dPa・sに相当する温度(500℃)で凹レンズ4を取り出す。
【0032】
以上によって成形した凹メニスカスレンズの光学機能面をフィゾー干渉計によって調べた結果を図5(a),(b)に、また本実施形態のプロセスを含まず従来方法によって成形した同形状(図3)の凹メニスカスレンズの結果を図6に示す。図6(a)のR=14の面ではニュートンリング3本程度の中心が高くなる軸対照な変形が生じており、さらに図6(b)のR=155の面でも、ニュートンリング1本程度の中心が低くなる軸対照な変形が生じているのが分かる。それに対して、本実施形態のプロセスによって成形された結果は、R=14面(図5(a))、R=155面(図5(b))ともに干渉縞がきれいな平行線を示しており、ほとんど変形が生じておらず、本発明の方法によって、良好な面精度が得られていることが分かる。
【0033】
また、本実施形態の方法によって連続的に凹メニスカスレンズを成形した結果、すべてのレンズの光学機能面において、変形量がニュートンリング1本以下に収まっている。
【0034】
ここで、本実施形態では、本発明のポイントであるガラス素材内の応力分布を620℃〜550℃では5℃/min.、550℃〜500℃では60℃/min.と冷却速度で制御しているが、この冷却速度を決定するために行ったシミュレーション解析について説明する。
【0035】
解析には、汎用構造解析用ソフト『MARC』(日本マーク株式会社製)を用いて、上述の冷却行程におけるガラス素材4内部の熱応力をシミュレートする。
【0036】
まず最初に、数値シミュレーションを行うための初期データとして、モデル、物性値、基本境界条件、及び初期成形条件のデータを入力する。
【0037】
図8に示すようなガラス素材4及び型部材2、3の物性をデータとして入力する。なお、温度と膨張係数の関係は、ガラス素材4及び型部材2,3について、それぞれ図7のグラフに示す通りである。
【0038】
上記図8で示すガラス素材4の粘弾性物性は、次のようにして求められる。即ち、まず粘弾性の温度領域にあるガラス試料を一定温度に保ったまま、3点曲げ状態で一定の負荷を加え続ける曲げ試験を行い、試料の撓み量を測定し、以下の式によりクリープ・コンプライアンスを求める。これは温度のファクターを少しずつ換えて計算され、結果として図9に示すクリープ曲線を得るのである。
【0039】
Dc(t,To)=4bd3/I3×v(t)/Wo
なお、上の式で、Dc(t,To)はクリープ・コンプライアンス、bは試験片の幅、dは試験片の長さ、Iはスパン間距離、v(t)は荷重点における撓み、Woは荷重である。
【0040】
粘弾性温度域におけるガラスは、熱レオロジー的に単純な性質を有するので、図9の各温度におけるクリープ・コンプライアンス曲線を左右に平行移動(時間分の平行移動)することにより、図10に示す1本のマスターカーブにまとめられる。この場合の温度と時間との関係は、図11に示す時間・温度シフトファクターで表すことができる。即ち、ここで、示すガラスの時間・温度シフトファクターは、図11の様に2本の直線(アレニュースの式)で近似でき、その交点の温度は、ガラス転移点温度よりもやや低い温度である。
【0041】
緩和弾性係数(弾性体における弾性係数に相当する)は、応力緩和減少の影響があるため温度及び時間の関数として取り上げることができるが、ここで、対象となるガラスが上述のように熱レオロジー的に単純であるので、図10のクリープ・コンプライアンス同様に、図12に示すマスターカーブ(一般に、図12の緩和弾性係数のマスターカーブは図10のクリープ・コンプライアンスの逆数で近似される)が得られる。
【0042】
上述のように、ガラスのような、熱レオロジー的に単純な性質の粘弾性物質は、図12の緩和弾性係数のマスターカーブと、図11の時間・温度シフトファクターとから、そのある温度、ある時間における緩和弾性係数Er(t,To)を求め、線形粘弾性理論での履歴積分の式(以下に示す)によって表すことができる。
【0043】
【数1】
なお、上式で、τは解析時間、σ(t)は応力、ε(t)は歪みである。
【0044】
そこで、数値解析に粘弾性特性を取り入れるために、図12の緩和弾性係数のマスターカーブと図11の時間・温度シフトファクターの数式化が必要になる。図11の時間・温度シフトファクターに関しては、上述のようにアレニュースの式で近似できるので、解析プログラム(日本マーク株式会社製のソフトプログラム「MARC」)を利用して、直線の式と直線同士の交点をデータ入力し解析できる。なお、図12の緩和弾性係数のマスターカーブは、以下に示すプロニー展開によって近似可能である。
【0045】
【数2】
なお、t'nはn次の換算時間、Ernはn次の緩和弾性係数である。
【0046】
以上の各物性値を用いて、プレス終了直後の冷却開始から、再昇温、再冷却のプロセスを行った際の、ガラス内の熱応力を解析する。
【0047】
また、解析には有限要素法を用いているため、モデルは1つの物体を有限個の領域に分割したものを作成する。モデル図を図13に示す。領域数は、所望の精度に合わせて任意に選択すればよい。本実施形態では、プリプロセッサーソフトとして日本マーク社製MENTATを使用し、型部材部分を約2000、解析用素材部分を約1000個の要素に分割する。また検討対象物が軸対称構造をなしているため、各要素は軸対称2次元要素を適用する。
【0048】
さらに、境界条件として図13に示すモデル図において、上型部材の上面及び、下型部材の下面には、温度規定条件として後に入力する成形サイクルの温度がそのままダイレクトに入力される。また、それ以外の表面部については、断熱条件とする。
【0049】
変位拘束条件としては本実施形態では、モデルに使用した要素が軸対称2次元要素であるため、回転軸方向(Y方向)に強制拘束ポイントを設けるだけで、回転軸半径方向(X方向)に対しては強制拘束ポイントは必要ない。そこで、図13に示すモデル図において、下型部材の下面全部に対して、回転軸方向(Y方向)に変位を生じない強制拘束ポイントを設けている。さらに、上型部材、解析用素材が、回転軸方向(Y方向)に剛体変位を生じないように、上型部材の上面に対して、微小荷重1Nを常に負荷した状態にしてある。
【0050】
ここまで整ったところで、計算を開始する。解析は微小時間Δtずつ進めていくが、まずいわゆる初期状態の計算を行う。本実施形態では、時間0での全モデル内の応力は完全に0と仮定する。また温度分布に関しても、時間0ではモデル内に分布はなく、またプレス後の冷却工程について計算を行ったため、全要素とも初期温度はプレス温度である620℃一定と仮定する。
【0051】
次に、解析をΔtずつ進行させて行くが、進行の手順、解析フローチャートは使用する解析用ソフトに依存する。
【0052】
本実施形態で使用したソフトでは、時間をΔt進め非定常非線形の熱伝導方程式
を各節点につきすべて解き、まず先にモデル内の温度分布を求める熱伝導解析を行う。
【0053】
ここで、Tは温度で、空間x、y、z、及び時間tの関数である。σは密度、cは比熱、kは熱伝導率であり、σ、c、kは各々温度Tの関数である。またQは内部発熱量であり、本実施形態では0である。
【0054】
その後に、力のつり合いの式
(∂σ x/∂x)+(∂τyz/∂y)+(∂τzx/∂z)+X=0
を各節点ごとに、各xyz成分につき計算し、応力変形解析を行う。
【0055】
上記の式はx成分に対する式である。ここで、σは応力、τはせん断応力、x、y、zは各座標成分を表す。またxは外力のx成分である。
【0056】
以上によって解析が1ステップ終了し、時間をΔt進めて次ステップを計算していく。そして計算する全時間となった時点で解析が終了する。
本実施形態では、モデルのプレス温度である620℃から、室温(20℃)までの冷却工程について解析を行う。
【0057】
解析の結果をガラス素材内の応力分布を等高線で表した結果を示す。なお、図14は本実施形態のプロセスをシミュレートした解析結果、図15は60℃/min.一定速度で冷却を行った場合の結果である。両図の最大、最小応力値は、図14で最大4.52kg/mm2、最小4.33kg/mm2、図15で最大5.12kg/mm2、最小−2.18kg/mm2であった。なお、符号は+が圧縮場、−が引っ張り場を表している。
【0058】
この結果から、両プロセスでガラス素材内に発生している応力の最大値には、さほど差がないことが分かる。しかし、上述の実験結果(図5及び図6)では、明らかに光学機能面精度に差が生じている。
【0059】
以上のことから、光学機能面の精度には応力の最大値以上に、その分布が影響していることが見てとれ、なおかつ、本実施形態による成形プロセスが応力分布の軽減に非常に効果的であることが分かる。
【0060】
本シミュレーションは、冷却速度の組み合わせを様々に変えて行った。その結果、本実施形態の硝種、レンズ形状の組み合わせに対しては、ガラス素材の転移点以上の冷却速度は5℃/min.前後が最適である。それ以上の速度では、応力の緩和作用がついていけず、応力分布がひどくなってしまい、それ以下では応力分布にさほど差が出いため、タクトを考慮して5℃/min.に決定する。
【0061】
また、ガラス素材の転移点以下の冷却速度は600C/min.以下の速度では、ガラス素材自体の緩和作用の関与が大きくなってしまい、やはり応力分布がひどくなっている。さらに、あまり早い速度で冷却を行うと、実際の成形でガラス素材が割れてしまうという成形不良が発生するため、本実施形態では60℃/min.と設定する。なお、この冷却速度の組み合わせは、硝種、レンズ形状の違いによって、応力の発生状況が変化するため、すべての組み合わせに対応しているわけではない。本実施形態の硝種とレンズ形状の組み合わせに関しては上記の冷却速度が最適であるということである。
【0062】
このようにして、本実施形態の冷却速度を、シミュレーションによるガラス素材内の応力解析から決定する。
【0063】
以上説明した様に、本実施形態に示した光学素子の成形方法によれば、ガラス自体の粘弾性特性である緩和作用が活発な転移点以上の温度域では、ガラス素材内に生じる熱応力をほぼ緩和しきり、緩和作用が期待できない転移点以下では、中途半端な緩和による応力分布の複雑化を防止するためにガラス素材内の応力をほとんど緩和させずに冷却するようにしたので、従来成形が困難であった光学素子を高精度に成形することが可能となる。
【0064】
[第2実施形態]
図16は、本発明の第2実施形態に係る光学素子の成型方法を示すフローチャートである。図17は、図16に示した成型方法を実現するための光学素子の成型装置の断面構成図である。
【0065】
本実施形態は、ガラス素材をフリントガラス(F8)にし、成形する光学素子形状を図18に示す凸メニスカス形状として成形を行う。成形するレンズ形状が第1実施形態と異なるため、使用した成形装置は図17に示す様に、上型部材2a、下型部材3aの光学機能面の成形面形状が違っているが、その他の部位は同様である。
【0066】
次に、図16を参照しつつ上記の型構造を用いた本実施形態の成形方法を説明する。なお、上記図16に示したフローチャートに従ったプログラムをコントローラ10内の記憶装置に格納し動作することにより、上述の制御方法を実現させることが可能となる。
【0067】
第1実施形態に比較してガラス素材4aがフリントガラス(F8)であるため520℃、3000Nの荷重負荷で十分成形可能である。次に500℃になった時点から、1500Nの荷重を負荷した状態で、430℃まで冷却を行う(ステップS21、ステップS22、ステップS23)。本実施形態の温度と荷重のプロセス線図を図19に示す。本実施形態で用いているガラス素材の転移点は445℃であるため、520℃〜465℃(転移点+200C)までは50℃/min.で冷却し(ステップS24、ステップS25)、465℃〜445℃(転移点)までは10℃/min.で冷却し(ステップS26、ステップS27)、さらに445℃から430℃までは、50℃/min.で冷却を行う(ステップS28、ステップS29)。その後、成形した光学素子を取り出す(ステップS30)。
【0068】
以上の本実施形態の成形方法のプロセスによって成形した凹レンズの光学機能面を、フィゾー干渉計によって調べた結果を図20(a),(b)に、また本実施形態のプロセスを含まず従来方法によって成形した同形状(図18)の凸メニスカスレンズの結果を図21(a),(b)に示す。
【0069】
図21(a),(b)を見ると、同図(a)の凹面ではニュートンリング2本程度の中心が高くなる軸対照な変形が生じ、同図(b)の凸面でもニュートンリング1本程度の中心が高くなる軸対照な変形が生じているのが分かる。それに対して、本実施形態のプロセスによって成形された図20(a),(b)の結果は、凹凸両面(同図(a),(b))ともに干渉縞が平行線を示しており、ほとんど変形が生じておらず、本実施形態の成形方法によって、良好な面精度が得られていることが分かる。
【0070】
また、本実施形態の成形方法によって連続的に凸メニスカスレンズを成形した結果、すべてのレンズの光学機能面において、変形量がニュートンリング1本以下に収まっている。
【0071】
次に、本実施形態の冷却速度を決定するために行う、ガラス素材内の応力シミュレーションについて説明する。図22に有限要素法によるモデル図を示す。要素数は型部材2000、ガラス素材1500要素である。また境界条件は、上述した実施形態と同様であり、また物性値についても本実施形態で用いたガラス素材について測定を行い、同様に入力する。
【0072】
解析の結果をガラス素材内の応力分布を等高線で表した結果を示す。なお、図23は本実施形態のプロセスをシミュレートした解析結果、図24は50℃/min.一定速度で冷却を行った場合の結果である。両図より明らかに本実施形態による成形プロセスによって、ガラス素材内の応力分布が軽減されていることが分かる。
【0073】
また、本シミュレーションは冷却速度の組み合わせを様々に変えて行った。その結果、本実施形態の硝種、レンズ形状の組み合わせに対しては、ガラス素材の転移点以上の冷却速度は10℃/min.前後が最適である。しかし、タクト短縮の観点からさらに高温域でのガラス素材の緩和作用が期待でき、転移点+20℃の温度域では、高速での冷却を行っている。
【0074】
なお、ガラス素材の転移点以下の冷却速度は50℃/min.前後が最適である。
【0075】
以上のようにして、本実施形態の冷却速度をシミュレーションによるガラス素材内の応力解析から決定する。
【0076】
本実施形態では、プレス直後の温度域では緩和作用が非常に活発なため、その温度域での冷却速度は早くても十分な緩和作用が期待できる。よって、その温度域の冷却速度を早くするようにしたので、高い光学素子の機能面精度を保ちつつ、成形タクトを短くすることが可能である。
【0077】
なお、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で上記実施形態を修正または変形したものに適用可能である。例えば、上記第1及び第2実施形態では、メニスカスレンズを成形する場合について説明したが、本発明はその他の形状の光学素子、例えば凹レンズや、平板状の光学素子の成形にも適用可能である。また、本発明の主旨は「ガラス素材内の応力緩和率が、転移点以上の温度域では90%以上、転移点以下の温度域では10%以下になるように冷却すること」であるから、冷却速度制御以外の方法でも可能である。
【0078】
なお、本発明は、上述した実施形態の装置に限定されず、複数の機器から構成されるシステムに適用しても、1つの機器から成る装置に適用してもよい。前述した実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記憶した記憶媒体をシステムあるいは装置に供給し、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出し実行することによっても、完成されることは言うまでもない。
【0079】
この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フロッピーディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMを用いることができる。また、コンピュータが読み出したプログラムコードを実行することにより、前述した実施形態の機能が実現されるだけではなく、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOSなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【0080】
さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、次のプログラムコードの指示に基づき、その拡張機能を拡張ボードや拡張ユニットに備わるCPUなどが処理を行って実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【0081】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、今まで高い精度での成形が困難であった光学素子の機能面精度を得ることが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光学素子の成型方法を示すフローチャートである。
【図2】図1に示した成型方法を実現するための光学素子の成型装置の断面構成図である。
【図3】第1実施形態に係る光学素子の形状を示す断面図である。
【図4】第1実施形態に係る成形の温度と加重のプロセス線図である。
【図5】第1実施形態に係る方法で成形を行った際のレンズの光学機能面をフィゾー干渉計によって調べた結果を示す図である。
【図6】従来の方法で成形を行った際のレンズの光学機能面をフィゾー干渉計によって調べた結果を示す図である。
【図7】温度と膨張係数の関係を示すグラフである。
【図8】ガラス素材及び型部材の物性のデータを示す図である。
【図9】第1実施形態に係るクリープ・コンプライアンスのグラフである。
【図10】第1実施形態に係るクリープ・コンプライアンスのマスターカーブを示すグラフである。
【図11】第1実施形態に係る時間・温度シフトファクターを示すグラフである。
【図12】第1実施形態に係る緩和弾性係数のマスターカーブを示すグラフである。
【図13】第1実施形態に係るモデル図である。
【図14】第1実施形態に係る応力分布を示す図である。
【図15】一定速度で冷却を行った場合の応力分布を示す図である。
【図16】本発明の第2実施形態に係る光学素子の成型方法を示すフローチャートである。
【図17】図16に示した成型方法を実現するための光学素子の成型装置の断面構成図である。
【図18】第2実施形態に係る光学素子の形状を示す断面図である。
【図19】第2実施形態に係る温度と荷重のプロセス線図である。
【図20】第2実施形態に係るレンズの光学機能面をフィゾー干渉計によって調べた結果を示す図である。
【図21】従来の方法で成形を行った際のレンズの光学機能面をフィゾー干渉計によって調べた結果を示す図である。
【図22】第2実施形態に係るモデル図である。
【図23】第2実施形態に係る応力分布のを示す図である。
【図24】一定速度で冷却を行った場合の応力分布を示す図である。
【符号の説明】
1 成形用胴型
1a 開口穴
2 上型部材
3 下型部材
4 ガラス素材
5 ヒータ
10 プログラマブル温度コントローラ
Claims (3)
- 軟化状態にあるガラス素材を成形用型部材でプレスし、その後に前記ガラス素材を冷却する冷却工程を行う凸メニスカス形状の光学素子の成形方法において、
前記冷却工程は、
前記ガラス素材の転移点より20℃から75℃の範囲で高い温度では50℃/min.以上の速度で冷却した後、前記転移点より20℃高い温度から前記ガラス素材の転移点までは10℃/min.以下の速度で冷却し、前記ガラス素材の転移点以下の温度では50℃/min.以上の速度で冷却することを特徴とする光学素子の成形方法。 - 軟化状態にあるガラス素材をプレスする成形用型部材と、前記成形用型部材によってプレスされている前記ガラス素材の冷却を制御する冷却制御手段とを備えた光学素子の成形装置において、
前記ガラス素材の転移点より20℃から75℃の範囲で高い温度では50℃/min.以上の速度で冷却した後、前記転移点より20℃高い温度から前記ガラス素材の転移点までは10℃/min.以下の速度で冷却し、前記ガラス素材の転移点以下の温度では50℃/min.以上の速度で冷却する制御構成であることを特徴とする光学素子の成形装置。 - 軟化状態にあるガラス素材を成形用型部材でプレスし、その後に前記ガラス素材を冷却する光学素子の成形方法を実行する、コンピュータで読み出し可能なプログラムを格納した記憶媒体であって、
前記光学素子の成形方法は、
前記ガラス素材の転移点より20℃から75℃の範囲で高い温度では50℃/min.以上の速度で冷却した後、前記転移点より20℃高い温度から前記ガラス素材の転移点までは10℃/min.以下の速度で冷却し、前記ガラス素材の転移点以下の温度では50℃/min.以上の速度で冷却する冷却制御ステップを備えたことを特徴とする記憶媒体。
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