JP4427986B2 - 反射屈折対物レンズ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は反射屈折対物レンズに関するものであり、例えば、光を利用して情報の記録や再生を行う光情報記録再生装置の光ヘッドに搭載されて、微小な光スポットを形成するために用いられる反射屈折対物レンズに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
微小な光スポットを得るためには、なるべく高い開口数(NA:numerical aperture)で光を回折限界まで集光することが望まれる。しかし、現在の光情報記録再生技術においては、対物レンズのNAがほぼ1.0に近づいている。このため、従来の対物レンズによるスポットの小径化は限界に達している。この1.0というNAの値は、集光光束を空気中に伝播させ集光することによる限界である。しかし、集光点付近に誘電体を利用すれば、この限界を引き上げることが可能である。それを実現するために、光の実効的なNAを大きくする方法が特許文献1〜4で提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1記載の技術では微小な光スポットを得るために高屈折率物質から成る固浸レンズ(いわゆるSIL:Solid Immersion Lens)を用いており、特許文献2〜4記載の技術では微小な光スポットを得るために固浸ミラー(いわゆるSIM:Solid Immersion Mirror)を用いている。これらの技術により達成される微小な光スポットを利用すれば、情報の記録又は再生を行う際の記録密度の向上(つまり記録再生媒体の高密度化)が可能である。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−110812号公報
【特許文献2】
特開平12−113484号公報
【特許文献3】
特開2002−48973号公報
【特許文献4】
特開2000−162503号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1に記載されているようにSILを用いた構成の場合、NAを1以上にすることができるので、小さな光スポットを得ることが可能である。しかし、対物レンズとSILという2つの光学素子を用いることになるため、その調整が必要であり、また全体的に大きくなってしまうという問題がある。また、調整残りによる誤差が原因で発生する収差によって、集光スポットが拡大してしまうという問題もある。
【0006】
特許文献2記載の技術では、屈折と複数回の反射とを組み合わせた反射屈折レンズを用いて、1つの光学部品のみで微小スポットを実現している。しかし、レンズの光学的パワーが中心と周辺とで異なるため、レンズ形状が複雑である。したがって、加工が困難であり、コスト高を招くという問題がある。
【0007】
特許文献3記載の反射屈折レンズは、平面と凸面から成る1つの光学部品のみで構成されている。したがって、レンズ自体比較的製造が簡単である。しかし、光学的パワーを有する面が1つしかないため、球面収差とコマ収差の両方の発生を抑えることが困難である。例えば、軸外での収差、特にコマ収差の発生が非常に大きく、組み込み時の誤差を含めた性能を満足することが困難である。また、入射光線の中心部分の大半を塞ぐ構成になっていることから、輪帯照明となっている。それによって生じる回折パターンの大きなサイドローブが、中心付近のエネルギーを低下させ、結果として中心領域の集光効率を悪化させるという問題がある。なお、特許文献3には角度により反射率の異なる誘電体多層膜を第1面に施し、それによって集光性を良くすることが記載されている。しかし、具体的な構成や特性については述べられておらず、また、具体的な効果についても詳しく述べられていない。したがって、その実現は困難である。
【0008】
特許文献4には、両凸構成でガラスモールドに適した形状のSIMが提案されている。しかし、軸外の収差補正に関する記載が無く、また考慮もされていない。そのため、軸外収差の補正は不十分である。なお、特許文献4記載のレンズに関しては、その一例を比較例として挙げ、レンズ構成(図13)及び収差性能(図14)を後で詳しく説明する。
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、簡単な構成でありながら、製造時に誤差が発生しても微小なスポットを効率良く得ることができる反射屈折対物レンズを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、第1の発明の反射屈折対物レンズは、正の光学的パワーを有し入射光を透過させる第1面と、正の光学的パワーを有し入射光を反射させる第2面と、を有し、前記第1面を透過した入射光を前記第2面で反射させた後、前記第1面で反射させて前記第2面の面頂点付近で集光させる反射屈折対物レンズであって、前記第1面,第2面のうちの少なくとも1つの面が非球面から成り、以下の条件式(1b)を満足することを特徴とする。
5.26≦f1/f<20 …(1b)
ただし、
f1:第1面の屈折による焦点距離、
f:反射屈折対物レンズの焦点距離、
である。
【0012】
第2の発明の反射屈折対物レンズは、上記第1の発明において、前記第1面に対して最初に入射する光線を透過させ、再び入射する光線を反射させる特性を有する誘電体多層膜が、前記第1面に施されていることを特徴とする。
【0013】
第3の発明の反射屈折対物レンズは、上記第2の発明において、前記誘電体多層膜が少なくとも20層の多層構造を有し、所定値よりも小さな入射角度の光線を透過させ、所定値よりも大きな入射角度の光線を反射させる特性を有することを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施した反射屈折対物レンズを、図面を参照しつつ説明する。図1〜図3に、第1〜第3の実施の形態にそれぞれ対応する反射屈折対物レンズの光学構成(レンズ形状,光路等)を光学断面で示す。いずれの実施の形態も、記録再生媒体(光ディスク等)の光学記録面SRに対する光情報の記録又は再生を行うために、入射光を光学記録面SR上で集光させる構成になっている。そして、正の光学的パワーを有し入射光を透過させる第1面S1と、正の光学的パワーを有し入射光を反射させる第2面S2と、を有し、第1面S1を透過した入射光を第2面S2で反射させた後、第1面S1で反射させて第2面S2の面頂点付近で集光させる構成になっている。
【0015】
各光学構成図では、第1面S1に対し左側から入射光線(レーザー光等)が入射する。第1面S1に入射した光線は、第1面S1で屈折して第2面S2に入射する。第2面S2には後述する反射膜(図7中の第2薄膜2)が施されており、光線は第2面S2で反射される。第2面S2で反射した光線は、再び第1面S1に入射する。第1面S1には後述する反射膜(図7中の第1薄膜1A又は1B)が施されており、第1面S1に再度入射した光線は第1面S1で反射される。第1面S1で反射した光線は、最後に第2面S2の面頂点付近3(図7)で集光する。したがって、反射屈折対物レンズへの入射光線は、第1面S1で2回、第2面S2で1回、光学的作用(屈折又は反射)を受けることになる。
【0016】
各実施の形態では、第1面S1が光入射側(共役長の長い側)に凸のレンズ面から成っており、第2面S2が光射出側(共役長の短い側)に凸のレンズから成っている。そして、第1面S1と第2面S2はいずれも非球面から成っている(各光学構成図中、符号に付された*印はその光学面が非球面であることを示している。)。このように第1面,第2面のうちの少なくとも1つの面が非球面から成ることが好ましく、両面が非球面から成ることが更に好ましい。収差補正の観点から、軸上収差及び軸外収差(球面収差とコマ収差)を補正するためには、正の光学的パワーを有する球面が少なくとも2面、それに加えて非球面が少なくとも1面必要であることが知られている。各実施の形態のように、正の光学的パワーを有する3つの面の光学的作用を入射光線が受ける光学構成において、そのうちの少なくとも1面が非球面であれば、軸上,軸外共に良好な性能を有する反射屈折対物レンズを実現することができる。
【0017】
また各実施の形態では、第1面S1が屈折と反射の両方の役割を果たすことにより、2つの光学面だけで反射屈折対物レンズを構成している。屈折・反射という複雑な光路を持つレンズでありながら、2つの光学面だけで構成されるので、従来のガラスモールド方式やプラスチックモールド方式を用いた非球面レンズの加工で作製することができるというメリットがある。ただし、第2面S2の面頂点付近(光軸AX付近)では、集光によるエネルギー集中が大きくなって熱が発生する可能性があり、その際、プラスチックレンズでは融点が低いために、レンズ面頂点付近が融けてしまうといった懸念がある。したがって、この問題を回避するという観点からは、ガラスモールドレンズを用いることが好ましい。
【0018】
各実施の形態のように、入射光線が第2面S2の面頂点付近で集光するように構成すれば、集光スポットのNAを1よりも大きくすることができる。NAは以下の式(I)で定義され、また、通常のガラスは1.5以上の屈折率nを有する。このため、集光点が第2面S2の面頂点付近に形成される場合、NAは1.0又はそれ以上に大きくなる。したがって、微小スポットを得ることが可能となる。
NA=n×sinθ …(I)
ここで、
n:集光点での媒質の屈折率、
θ:集光点で集光する光線の入射角度の最大値、
である。
【0019】
各実施の形態のように、入射光が第1面を透過し、第2面で反射し、第1面で反射したのち第2面の面頂点付近で集光する反射屈折対物レンズにおいて、軸上,軸外の性能を更に良好にするには、以下の条件式(1)を満足することが望ましい。
3<f1/f<20 …(1)
ただし、
f1:第1面の屈折による焦点距離、
f:反射屈折対物レンズの焦点距離、
である。
【0020】
条件式(1)は、良好な軸上性能と軸外性能を満足するための好ましい条件を、第1面の焦点距離(この場合の焦点距離は透過光線に対するものである。)と対物レンズ全体の焦点距離との比で規定している。この条件式(1)を満たすことで第1面の屈折作用による光学的パワー(焦点距離の逆数で定義される量)を最適化すれば、軸上,軸外共に高い結像性能を達成することができる。したがって、レンズ1枚から成る簡単な構成でありながら、製造時に誤差が発生しても微小なスポットを効率良く得ることができる。
【0021】
条件式(1)の上限を越えると、第2面に光学的パワーが偏ってしまい、第2面の反射作用による光学的パワーを多く用いて集光させようとすると、第2面が放物面に近くなる。放物面での集光は一般に知られているように、コマ収差の発生が大きく、軸外性能が著しく劣化してしまうので好ましくない。若干、放物面から異なったとしても十分ではなく、ある程度第1面に光学的パワーがあることが必要であり、そのための条件範囲を条件式(1)で規定している。条件式(1)の対応値に関しては、具体的数値を挙げて後で詳しく説明する。
【0022】
逆に、条件式(1)の下限を越えると、第1面に屈折作用による光学的パワーが偏ってしまう。第1面は透過と反射の両方の役割を担っているが、第1面の光学的パワーを多く用いて集光させようとすると屈折作用が大きくなり、それによって発生する色収差の補正が困難になるので好ましくない。CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disk)のような記録再生媒体には光源として半導体レーザーが用いられるが、その場合、半導体レーザーのモードホップや波長の温度依存性により、半導体レーザーの発振波長が少なからず変動する。反射屈折対物レンズの色収差が大きいと、レーザー光の波長変動による性能劣化が大きくなるので好ましくない。また、第1面の屈折作用による光学的パワーを強くすると、第1面に対する周辺での入射角度が大きくなってしまう。周辺での入射角度が大きいと、第1面を透過するときの屈折角度と、その後再び第1面に入射して反射するときの反射角度と、の差が小さくなってしまう。その場合、後述する誘電体多層膜を第1面に施し、その角度依存性を利用して集光効率を上げようとしても、その効果は小さくなるので好ましくない。これらの観点から、以下の条件式(1a)を満足することが望ましく、以下の条件式(1b)を満足することが更に望ましい。
3.85≦f1/f<20 …(1a)
5.26≦f1/f<20 …(1b)
【0023】
各実施の形態のように、入射光が第1面を透過し、第2面で反射し、第1面で反射したのち第2面の面頂点付近で集光する光路を構成するには、第1面に透過と反射の両機能を付加し、第2面に反射機能を付加すればよい。これらの機能は第1面と第2面に薄膜を施すことにより実現することができる。各実施の形態に適用可能な薄膜配置を図7に示す。図7(A)は、第1の実施の形態に相当する反射屈折対物レンズにおいて、第1面S1の(光軸AXを中心とした)中心領域に第1薄膜1Aが形成され、第2面S2の中心付近(光軸AX付近)3を除く領域に第2薄膜2が形成された状態を示している。また図7(B)は、第1の実施の形態に相当する反射屈折対物レンズにおいて、第1面S1の全面に第1薄膜1Bが形成され、第2面S2の中心付近(光軸AX付近)3を除く領域に第2薄膜2が形成された状態を示している。
【0024】
図7(A)(B)に示すように、第2面S2には入射光線を全て(又は実質的に全て)反射させる特性を有する第2薄膜2が、集光点付近(すなわち第2面の面頂点付近)3を除いて施されている。この第2薄膜2の材料としては、例えば、アルミニウム,銀等の金属が挙げられる。集光点付近3を除くのは、集光点付近3に反射膜が存在すると、集光したスポットのエネルギーが第2面S2から抜けないからである。集光点付近3以外の領域を反射膜でカバーして、第2薄膜2を構成する方法としては、反射膜を形成するための蒸着時に第2面S2の中心付近3だけをマスクする方法、反射膜を形成するための蒸着を第2面S2の全面に施した後にその中心付近3の反射膜だけをエッチング等により取り除く方法等が挙げられる。
【0025】
透過と反射の両機能を第1面S1に付加する薄膜としては、以下の3種類のタイプが挙げられる。第1のタイプの薄膜は、図7(A)に示すように第1面S1の(光軸AXを中心とした)中心領域に施され、第2面S2と同様に入射光線を全て(又は実質的に全て)反射させる特性を有する第1薄膜1Aである。この第1薄膜1Aの材料としては、例えば、アルミニウム,銀等の金属が挙げられる。図7(A)に示すように第1薄膜1Aを第1面S1に施すと、中心付近の光線は第1薄膜1Aで遮光されるため、第1面S1に入射することはできない。しかし、第1薄膜1Aの周辺から第1面S1に入射した光線は、その屈折作用を受けて集光することになる。ただし、集光点に現れるスポットには、図8に示すように大きなサイドローブが発生してしまい、中心付近のエネルギー集光効率が低下することになる。
【0026】
第2,第3のタイプの薄膜は、図7(B)に示すように第1面S1の全面に施される第1薄膜1Bである。第2のタイプの第1薄膜1Bは、透過も反射も半分ずつ作用する特性を有するハーフミラー膜である。第2のタイプの方式では、入射光線を入射位置によらずにすべて利用することができるので、集光点に現れるスポットは、図9に示すようにいわゆるエアリー環となる。しかしながら、ハーフミラーの作用を2回利用することになるので、入射エネルギーを最大4分の1しか利用することができず、エネルギー効率も4分の1以上にすることはできない。しかも、すべての入射角度においてP偏光,S偏光のいずれに対しても50%近い反射率を有する反射膜を達成することは、誘電体多層膜,金属薄膜のいずれを用いた場合でも困難である。したがって、エネルギー効率は4分の1を大きく下回ることになる。
【0027】
第3のタイプの第1薄膜1Bは、反射屈折対物レンズに対する入射光線の大部分を透過させ、再び第1面S1に入射する光線の大部分を反射させる特性を有する誘電体多層膜である。最初に第1面S1の中心近傍(光軸AX近傍)に入射した光線は、そのほとんど全てが第1面S1を透過し、第2面S2で反射された後、再び第1面S1に入射する際にほとんど全て透過してしまうため、集光に寄与することができない。しかし、反射屈折対物レンズに対する入射光線の大部分は、誘電体多層膜の反射・屈折特性によって集光に寄与することができる。したがって、第1面に対して最初に入射する光線を透過させ、再び入射する光線を反射させる特性を有する誘電体多層膜を、第1面に施すことが好ましい。
【0028】
具体的には、第3のタイプの第1薄膜1Bを構成する誘電体多層膜が、所定値よりも小さな入射角度の光線を透過させ、所定値よりも大きな入射角度の光線を反射させる特性を有することが好ましい。例えば、第1の実施の形態に相当する後述の実施例1には、第1面S1に対する入射角度(ガラス側)と屈折角度・反射角度とに関して、図11のグラフ(−◆−:屈折,−●−:反射)に示すような特性がある。この場合、入射角度約7度を境に、0度から7度までは透過、7度以上は反射という特性を有する誘電体多層膜を第1薄膜1Bとして施せば、レンズ有効径φ1.8に対してφ0.5mm以上の領域を利用することができる。その結果、図10に示すように集光スポットのサイドローブの発生を大幅に低減させることができ、高い集光効率を得ることができる。このような誘電体多層膜は、例えば、以下の表1〜表3に示すような膜構成で実現することができる。また、図12(A),(B),(C)に、405nm(太線:S偏光,−◆−:P偏光)における13層,23層,40層の各誘電体多層膜の反射率の角度依存特性を示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
表1〜表3から分かるように、誘電体多層膜は高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に積層したものである。その多層構造によって、角度がついたときの反射率を高くすることが可能となる。この特徴を利用するには、誘電体多層膜の層数を20層以上にすることが好ましい。一般的な誘電体多層膜には、その層数を増やすと角度特性や波長特性の立ち上がりが急になるという特性がある。第3のタイプの第1薄膜1Bとして用いる誘電体多層膜に関しては、立ち上がりが急であるほど光の利用効率が高くなる。これを効果的に達成するために、誘電体多層膜は少なくとも20層の多層構造を有することが好ましい。
【0033】
誘電体多層膜の層数が少ないと、立ち上がりが非常になだらかとなり、立ち上がりの角度範囲の光はロスをすることになる。表1に示す13層で設計された膜構成の場合、図12(A)に示す特性から分かるように、立ち上がりがなだらかになっているばかりでなく、透過領域の透過率、反射領域の反射率ともに不十分である。表2に示す23層で設計された膜構成の場合、図12(B)に示す特性から分かるように、13層の場合に比べてかなりの向上が見られ、立ち上がりも急になっている。したがって、良好な透過・反射特性を有していることが分かる。表3に示す40層で設計された膜構成の場合、図12(C)に示す特性から分かるように、20層の場合に比べて更に特性の向上が見られ、立ち上がりも急になっている。したがって、更に良好な透過・反射特性を有していることが分かる。
【0034】
上述したような誘電体多層膜を有効に用いるためには、第1面S1での屈折角度と反射角度との差が大きいことが望ましい。前述した条件式(1)の下限は、その差を大きく保つための条件でもあり、条件式(1)を満足することにより、エネルギー効率の高い反射屈折対物レンズを実現することができる。
【0035】
第2面S2の面頂点付近の集光スポットを光情報の記録又は再生に利用する場合には、集光スポットのNAを利用するために、記録再生媒体の光学記録面SRを第2面S2近傍に配置することが望ましい(図1〜図3参照。)。例えば、NAが1を超える角度を有する光線は、第2面S2で全反射されるために、第2面S2から抜け出ることができない。しかし、第2面S2に非常に近い領域(つまり近接場領域)では、NAが1を超える角度の成分の光であっても、電磁波が染み出している。したがって、記録再生媒体をその領域に配置すれば、記録又は再生を行うことができる。具体的には、第2面S2から記録再生媒体の光学記録面SRまでの距離を波長の2分の1以下にすることが好ましく、3分の1以下にすればより効率的に記録又は再生を行うことができるので更に好ましい。
【0036】
集光点には対物レンズのNAに見合った大きさのスポットが形成される。更に詳しくは、入射光線(波長λ)が一様であった場合、いわゆるエアリー環と呼ばれるパターンが形成され、その中心スポットの直径Dは以下の式(II)で表されることが一般に知られている。
D=1.22λ/NA …(II)
【0037】
したがって、仮にNAが1.5で波長λが400nmの場合には、D=325nmのスポットを得ることができる。更に小さなスポットを得るためには、第2面の面頂点近傍(光軸AX近傍)に波長以下の寸法を有する近接場発生構造を有することが望ましい。近接場発生構造の具体例としては、波長以下の大きさを有する開口、先端曲率が波長以下の誘電体の円錐型突起、その突起に金属の薄膜を施したもの、先端曲率が波長以下の金属の円錐型突起等の構造体が挙げられる。光がその波長以下の寸法の構造体に作用すると、その近辺には構造体の大きさに応じた近接場が発生する。したがって、集光点付近に波長以下の大きさを有する構造体を設け、記録再生媒体を構造体に近接させれば、記録再生媒体のうち構造体の大きさに応じた領域のみが近接場と相互作用を起こすので、微小領域での記録又は再生を行うことができる。
【0038】
近接場発生構造の大きさは、波長の5分の1よりも小さいことが更に好ましい。具体的には、直径300nm,高さ300nmの円錐状突起(材料例:アルミニウム,金,銀等の金属)で、その先端のRが80nm以下の構造体が挙げられる。他の具体例としては、厚み100nmの三角形の平板状薄膜(材料例:アルミニウム,金,銀等の金属)で、その先端のRが80nm以下のものを間隔80nm以下で向かい合わせた、いわゆるボウタイ型の構造体が挙げられる。これらの近接場発生構造を第2面S2の面頂点近傍に設けることにより、非常に小さいスポットを用いた記録又は再生を行うことができる。また、その際に記録再生媒体から構造体までの距離は、構造体の最小構造の大きさよりも短いことが望ましい。近接場記録では、微小構造体からの近接場の大きさは微小構造体程度であり、減衰距離も同程度であることが知られている(例えば、超高密度近接場光メモリにおける光ピックアップスライダ:光技術コンタクトVol.38,No.11.2000,P663-P673参照。)。そこで、記録再生媒体を最小構造よりも近づけることが、効率の良い記録・再生のためには必要である。
【0039】
なお、以上説明した各実施の形態についての特徴的な構成は、光源から発した光を記録再生媒体に照射する系に限らず、別の系から記録再生媒体に照射された光の発散光を受光素子で受ける系にも適用可能である。また、各実施の形態で採用している無限系に限らず、有限系に対しても適用可能である。
【0040】
【実施例】
以下、本発明を実施した反射屈折対物レンズを、コンストラクションデータ等を挙げて更に具体的に説明する。ここで挙げる実施例1〜3は、前述した第1〜第3の実施の形態にそれぞれ対応する数値実施例であり、第1〜第3の実施の形態を表す光学構成図(図1〜図3)は、対応する実施例1〜3のレンズ形状,光路等をそれぞれ示している。なお、実施例3は本発明の単なる参考例であり、本発明に属さないものである。また、特許文献4の実施例9に相当する反射屈折対物レンズを比較例として、そのコンストラクションデータをあわせて示し、その光学構成を図13に示す。
【0041】
表4〜表7に、実施例1〜実施例3,比較例のコンストラクションデータを示す。各コンストラクションデータにおいて、Si(i=1,2)は共役長の長い側(光入射側)から数えてi番目の面、riは面Siの曲率半径(mm)、tはレンズの厚み(すなわち軸上面間隔;mm)、nd,νdはレンズ材料のd線に対する屈折率,アッベ数を示しており、fは全系の焦点距離(mm)、λは設計波長(nm)、Φenは入射瞳直径(mm)、ωmaxは半画角ωの最大値(°)を示している。また、*印が付された面Siは、非球面(非球面形状の屈折光学面、非球面と等価な屈折作用を有する面等)であり、非球面の面形状を表わす以下の式(AS)で定義される。各実施例の非球面データを他のデータとあわせて示す。ただし、E-n=×10-n,E+n=×10+nであり、表記の無い係数は0である。
【0042】
x=(C0・y2)/[1+{1-(1+K)・C02・y2}1/2]+Σ(Aj・yj) …(AS)
ただし、式(AS)中、
x:高さyの位置での光軸方向の変位量(面頂点基準)、
y:光軸に対して垂直な方向の高さ、
C0:近軸曲率(=1/ri)、
K:円錐係数、
Aj:j次の非球面係数、
である。
【0043】
表8に、軸上(ω=0度),軸外(ω=0.3度,0.5度,1度)での波面収差(設計波長λ;単位:ミリラムダ)と、条件式(1)規定のパラメータに対応するデータを、各実施例及び比較例について示す。ここで、条件式(1)の対応データを波面収差との関係に基づいて説明する。メカ構成にもよるが、通常の光情報記録用レンズに求められる軸外性能は1度程度である。実施例1〜3については、表8に示すように軸上から軸外(最大角度ωmax=1度)のいずれにおいても波面収差のRMS(Root Mean Square)は小さいことが分かる。一般に、マレシャル限界といわれる70ミリラムダのRMS以下であれば十分な結像性能を有するとされているが、すべての実施例はこの値を満足している。ところが、この条件式(1)から外れる場合には、この値を満足することができない。例えば比較例では、条件式(1)の対応値が約170であり、条件範囲外となっている。その結果、波面収差のRMSは、表8に示すように軸外では0.5度以上からマレシャル限界よりも大きくなってしまうため、軸外では良好な性能を保持することができない。
【0044】
図4〜図6,図14は、実施例1〜実施例3,比較例の横収差図である。各横収差図において、左の列(TANGENTIAL)はタンジェンシャル光束での横収差図であり、右の列(SAGITTAL)はサジタル光束での横収差図である。各横収差図は、各図中に「Y'/Y'max RELATIVE FIELD HEIGHT (ω°)」で表されている像高比Y'/Y'max(半画角ω°)での、設計波長λに対する横収差(mm)を示している。つまり図4〜図6,図14において、上から順に、像高比Y'/Y'max=1.00,0.50,0.30,0.00(半画角ω=1.000,0.500,0.300,0.000°)である。なお像高比Y'/Y'maxは、像高Y'を最大像高Y'maxで規格化した相対的な像高である。
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
【表6】
【0048】
【表7】
【0049】
【表8】
【0050】
なお、前述した各実施の形態や各実施例には、以下の構成を有する発明が含まれている。そしてこれらの構成によると、簡単な構成でありながら軸上,軸外共に高い結像性能を達成できるため、製造時に誤差が発生しても微小なスポットを効率良く得ることができる。そして、その構成を有する反射屈折対物レンズを、レーザー光等の光で情報の記録や再生を行う装置(光情報の記録装置,再生装置,記録再生装置等)に使用すれば、記録再生媒体(光ディスク等)の高密度化,高性能化等に寄与することができる。
【0051】
(P1) 共役長の長い側に位置する第1面とその反対側に位置する第2面とが近軸領域で両凸形状を成す単レンズから成り、前記第1面を透過した入射光を前記第2面で反射させた後、前記第1面で反射させて前記第2面の面頂点付近で集光させる反射屈折対物レンズであって、前記第1面,第2面のうちの少なくとも1つの面が非球面から成り、前記条件式(1)を満足することを特徴とする反射屈折対物レンズ。
(P2) 前記第1面に対して最初に入射する光線を透過させ、再び入射する光線を反射させる特性を有する誘電体多層膜が、前記第1面に施されていることを特徴とする上記(P1)記載の反射屈折対物レンズ。
(P3) 前記誘電体多層膜が、所定値よりも小さな入射角度の光線を透過させ、所定値よりも大きな入射角度の光線を反射させる特性を有することを特徴とする上記(P2)記載の反射屈折対物レンズ。
(P4) 前記誘電体多層膜が少なくとも20層の多層構造を有することを特徴とする上記(P2)又は(P3)記載の反射屈折対物レンズ。
(P5) 前記第1面に対して最初に入射する光線の一部を透過させ、再び入射する光線の一部を反射させる特性を有するハーフミラー膜が、前記第1面に施されていることを特徴とする上記(P1)記載の反射屈折対物レンズ。
(P6) 前記第1面の周辺部分を通って屈折した入射光が前記第2面の周辺部分で反射し、再び前記第1面の中心部分で反射し、前記第2面の面頂点付近で集光するように、前記第1面の中心部分に反射膜が施されていることを特徴とする上記(P1)記載の反射屈折対物レンズ。
(P7) さらに前記第2面の面頂点近傍に波長以下の寸法を有する近接場発生構造を有することを特徴とする上記(P1)〜(P6)のいずれか1項に記載の反射屈折対物レンズ。
【0052】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の反射屈折対物レンズによれば、簡単な構成でありながら、各面のパワー配置の最適化により軸上,軸外共に高い結像性能を達成することができる。したがって、製造時に誤差が発生しても軸上,軸外共に収差の少ない微小なスポットを得ることができる。そして、本発明に係る反射屈折対物レンズを、レーザー光等の光で情報の記録や再生を行う装置(光情報の記録装置,再生装置,記録再生装置等)に使用すれば、記録再生媒体(光ディスク等)の高密度化,高性能化等に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施の形態(実施例1)の光路及びレンズ構成を示す光学構成図。
【図2】第2の実施の形態(実施例2)の光路及びレンズ構成を示す光学構成図。
【図3】第3の実施の形態(実施例3)の光路及びレンズ構成を示す光学構成図。
【図4】実施例1の収差図。
【図5】実施例2の収差図。
【図6】実施例3の収差図。
【図7】第1,第2薄膜を施す領域を示す断面図。
【図8】図7(A)の第1薄膜を第1面に用いた場合の光の強度分布を示すグラフ。
【図9】図7(B)の第1薄膜(ハーフミラー膜)を第1面に用いた場合の光の強度分布を示すグラフ。
【図10】図7(B)の第1薄膜(誘電体多層膜)を第1面に用いた場合の光の強度分布を示すグラフ。
【図11】第1面への入射角度と屈折角度・反射角度との関係を示すグラフ。
【図12】図7(B)の第1薄膜として第1面に用いる誘電体多層膜の特性を示すグラフ。
【図13】比較例の光路及びレンズ構成を示す光学構成図。
【図14】比較例の収差図。
【符号の説明】
S1 …第1面
S2 …第2面
SR …光学記録面
1A …第1薄膜
1B …第1薄膜
2 …第2薄膜
3 …集光点付近(第2面の面頂点付近)
AX …光軸
Claims (3)
- 正の光学的パワーを有し入射光を透過させる第1面と、正の光学的パワーを有し入射光を反射させる第2面と、を有し、前記第1面を透過した入射光を前記第2面で反射させた後、前記第1面で反射させて前記第2面の面頂点付近で集光させる反射屈折対物レンズであって、
前記第1面,第2面のうちの少なくとも1つの面が非球面から成り、以下の条件式(1b)を満足することを特徴とする反射屈折対物レンズ;
5.26≦f1/f<20 …(1b)
ただし、
f1:第1面の屈折による焦点距離、
f:反射屈折対物レンズの焦点距離、
である。 - 前記第1面に対して最初に入射する光線を透過させ、再び入射する光線を反射させる特性を有する誘電体多層膜が、前記第1面に施されていることを特徴とする請求項1記載の反射屈折対物レンズ。
- 前記誘電体多層膜が少なくとも20層の多層構造を有し、所定値よりも小さな入射角度の光線を透過させ、所定値よりも大きな入射角度の光線を反射させる特性を有することを特徴とする請求項2記載の反射屈折対物レンズ。
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