JP4418168B2 - 楕円形環体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はスピニング加工の工程とプレス加工の工程との2つの工程を設けた深絞り成形で断面U字形状をなす楕円形環体を成形する楕円形環体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
深絞り成形法として、スピニング加工やプレス加工や液圧成形などが挙げられる。スピニング加工は、回転する成形型にへら棒を介してブランク材を押圧して深絞り成形する。
プレス加工は、金型(上型、下型)でブランク材を押圧し、深絞り成形するが、条件によっては、何段かに分けて成形する。
また、スピニング加工とプレス加工の2工程によって深絞りする方法もある。
【0003】
従来のスピニング加工とプレス加工の2工程による製造方法は、調理用ボールをD形に製造する方法で、まず、スピニング加工で半球形に加工した後、半球形の成形品の一部をプレス加工で平面状に成形することでD形に加工する(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】
特開平7−308724号公報 (第2頁、図2)
【0005】
特許文献1を、図面を参照の上、詳しく説明する。
図14は従来の薄金属板製D型容器の製造方法の説明図である(特許文献1の図2を写したもの。)。
従来のD型容器の製造方法は、スピニング加工で薄板のブランク材を深絞り成形することで、半球状の第一容器1を製造し、その次に、第一容器1をプレス加工装置Aの金型に載せ、第一容器1の一部側面13を、金型を使用して横方向中心に向かって白抜き矢印のごとく押して平面状に成形することで、圧潰部分を得るとともに、D型ボール形状とするので、薄い材料によるD型容器の製造が可能になるというものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記図14に示す特許文献1の製造方法は、スピニング加工後、プレス加工することで深絞り成形できるものの、D型容器専用の製造方法であり、ボール形状とは異なる形状の場合には、適さない。成形する物によって何回の絞りを行うかなど工程や金型が異なり、成形品に即した加工手順が必要となる。最終のプレス加工で破断やしわが起きない形状を予めスピニング加工できれば、金型費の削減などスピニング加工の効果を得ることができる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、スピニング加工工程とプレス加工工程の2工程で断面U字形状をなす楕円形環体を成形することができ、少量生産でも生産コストの削減を図れる楕円形環体の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1は、上半部周(上リップ部22)が楕円で、下半部周(下リップ部23)がほぼ真円からなる楕円形環状体の製造方法であって、スピニング加工用成形型にブランク材をセットし、このブランク材を成形型にへら棒で押し付けて、所定の絞り方向に絞り成形を施し、所定の絞り高さに成形することで、断面U字形状をなすほぼ真円な成形部65及び内余材67と外余材68を有する第1中間成形品66を得る第1工程と、前記上半部周と下半部周の外余材68においてトリム加工を施し、前記上半部周側の外余材68の幅(距離B1)が、前記下半部周側の外余材68の幅(距離B2)よりも大である外フランジ73を設けてなる第2中間成形品74を得る第2工程と、プレス加工用金型81と、前記外フランジ73を押圧するためのブランクホルダ85を含むクッション装置84とを含むプレス機79において、前記第2中間成形品74をプレス加工用金型81にセットし、前記ブランクホルダ85にて前記外フランジ73を所定の押さえ力で押圧した状態で、前記第2中間成形品74に対して前記絞り方向からプレス加工を施し、前記外フランジ73を成形部65側に滑り込みさせ流入させることで、前記成形部65の上半部周に変形を与えて楕円部を成形するとともに、前記成形部に変形を与えて最終形状に成形することで、最終成形品を得る第3工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
上半部周が楕円で、下半部周がほぼ真円からなる楕円形環状体の製造方法であって、第1工程では、回転する成形型を用いて、断面U字形状をなすほぼ真円な成形部を成形する。
第2工程及び第3工程では、成形部の半周にプレス加工用金型で変形を与えて楕円部を成形するとともに最終形状に成形するので、最終形状の成形部に破断やフランジしわが生じない。
すなわち、最終のプレス加工に必要な断面U字形状をなすほぼ真円な成形部を予めスピニング加工によって成形することで、第2工程前にプレス加工工程を設ける必要はなくなり、プレス加工工程を省くことができ、プレス加工用金型の金型費を削減することができる。
【0010】
請求項2は、第2工程と第3工程との間に、中間成形品に対して溶体化処理を行う工程を含むことを特徴とする。
請求項3は、最終成形品は、航空機エンジンのナセルリップ部材であることを特徴とする。
航空機エンジンのナセルリップ部材をスピニング加工後にプレス加工を行うことで製造するので、数量が少なくても、ナセルリップ部材の生産コストを削減することができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1(a)〜(d)は本発明に係る製造方法を用いて成形した楕円形環体の説明図である。
(a)において、楕円形環体17は、航空機11のエンジン12のナセル13の前端に設けたナセルリップ部材であり、前端を空気導入可能に覆う。
航空機11は、胴体14と、胴体14に取り付けた2枚の主翼15,15及び尾翼16と、を備える飛行機である。
【0012】
(b)は(a)のb部詳細図であり、楕円形環体(ナセルリップ部材)17を示し、楕円形環体17はまた、リップ頂部21と、上リップ部22と、下リップ部23と、リップ頂部21に連なる内周部24と、外周部25と、内周部24の内端26と、外周部25の外端27とからなり、上リップ部22側を楕円としたものである。
【0013】
(c)は(b)のc矢視図であり、下リップ部23に対して上リップ部22が楕円であることを示す。31はリップ頂部21の中心線、Oはリップ頂部21の中心、Dpはリップ頂部21の直径、Diは内端26の直径、Cは対称中心線、Lは中心Oから下リップ部23側の外端27までの距離、Luは中心Oから上リップ部22側の外端27までの距離を示し、距離Luは、Lu>Lである。
【0014】
(d)は(c)のd−d線断面図であり、中心線31から内端26までの距離はL1で、下リップ部23側の中心線31から外端27までの距離もL1であり、一方、楕円に加工した上リップ部22側の中心線31から外端27までの距離はL2で、距離L2を距離L1より大きく加工したことを示す。
また、下リップ部23の外周部25の角度をθに設定し、上リップ部22の外周部25の角度をθuに設定し、角度θuは、θu>θであることを示す。
【0015】
このように、下リップ部23の形状に対して上リップ部22の形状が異なる楕円形環体(ナセルリップ部材)17の製造方法を次に説明する。
【0016】
図2は本発明に係る楕円形環体の製造方法のフローチャートであり、ST××はステップ番号を示す。
楕円形環体の製造方法は、第1工程と、第2工程とを主な工程とした製造方法である。第1工程は、スピニング加工工程であり、ブランク材をセットするST02からST05までの工程である。第2工程は、プレス加工工程であり、最終形状に成形するST09の工程である。
次に、これらの第1・第2工程を含めた全体の工程をST01〜ST12のステップに分け説明する。
【0017】
ST01:薄板を切断し、図3のブランク材34を得る。
ST02:ブランク材34の中心部45にスピニング用内周成形型35で内周部24(図1参照)を成形する。
ST03:内周部24に完全焼なましを施す。
ST04:ブランク材34の残部54(図4参照)にスピニング用外周成形型56で外周部25を成形することで、ほぼ真円な成形部65(図5参照)を有する第1中間成形品66(図5参照)を得る。
ST05:外周部25に完全焼なましを施す。
ST06:第1中間成形品66(図6参照)をトリム加工し、第2中間成形品74を得る。
ST07:第2中間成形品74(図7参照)を溶体化処理する。
ST08:冷却後、冷凍機78で第2中間成型品74の温度を0℃以下に保持する。
ST09:プレス加工時には、第2中間成形品74(図8参照)を冷凍機78から取り出し、プレス加工用金型81にセットし、冷間成形を行い楕円部95(図9参照)を含む最終成形形状の成形部96を得ると同時に最終成形品97を得る。
ST10:最終成形品97に人工時効硬化処理を施す。
ST11:最終成形品97(図12参照)の周端111をトリム加工する。
ST12:最終成形品97を研削し、完成品117を得る。
次に、ST01〜ST12を具体的に説明する。
【0018】
図3(a)〜(e)は本発明に係る第1工程の説明図(その1)であり、ST02,ST03を示す。
(a):ブランク材34をスピニング用成形型としての内周成形型35にセットする。詳しくは、ブランク材34の寸法は、内径d1、外径D1(例えば、80mm)、板厚t(例えば、2mm)であり、ブランク材34の材質は、アルミニウム合金で、例えば、Al−Mg−Si系合金の一種であるJIS A6061 Oを用いた。
【0019】
内周成形型35は、平型36と、平型36に連ねた凸型37とからなり、平型36側をへら絞り旋盤41に取り付けた。42はへら棒、43は第1ブランク押さえを示す。
【0020】
(b):このような内周成形型35にブランク材34を第1ブランク押さえ43で押し付けてセットした後、へら絞り旋盤41で内周成形型35を回転させるとともにブランク材34を回転させ、内周成形型35にブランク材34の中心部45をへら棒42で押し付ける。
(c):へら棒42の押圧で中心部45を冷間加工し、内周部24を所定の絞り高さに成形する。
【0021】
(d):内周部24に熱処理炉46で完全焼なまし(JIS W 1103)を施す。熱処理炉46は、炉本体47と、加熱手段51と、加熱手段51を予め設定した温度条件及び熱電対52の情報に基づいて制御する制御装置53と、を備える。完全焼なましの温度条件は、JIS W 1103に基づいて行う。
【0022】
ここでの完全焼なましは、ブランク材34に対応する昇温速度Tv1、保持温度Tk1、保持時間Hk1に設定した。例えば、保持温度Tk1を413℃、保持時間Hk1を1時間、冷却速度Tcは、260℃まで26℃/1時間、260℃以降炉中冷却した。
【0023】
(e)は内周部24をスピニング加工したブランク材34の斜視図であり、内周部24を成形した状態を示す。引き続き、ブランク材34の残部54をスピニング加工する。
【0024】
図4(a)〜(c)は本発明に係る第1工程の説明図(その2)であり、ST04を示す。
(a):内周部24を加工したブランク材34をスピニング用成形型としての外周成形型56にセットする。外周成形型56は、平型57と、平型57に連ねたリング状の凸型58と、第2ブランク押さえ61とからなり、平型57側をへら絞り旋盤41に取り付けた。
第2ブランク押さえ61は、内周部24の径より小さいもので、ブランク材34の中央を押さえる。
【0025】
(b):このような凸型58に内周部24を嵌め、ブランク材34の中央を第2ブランク押さえ61で押さえてセットした後、外周成形型56を回転させるとともにブランク材34を回転させ、外周成形型56にブランク材34の残部54をへら棒42で押し付ける。
【0026】
(c):へら棒42で凸型58に残部54を押し付けることで冷間加工し、外周部25を中途まで成形する。
この外周部25をスピニング加工する工程では、第2ブランク押さえ61でブランク材34の中央を押さえるので、内周部24から連続して頂部62を滑らかに塑性加工することができるとともに、頂部62から連続して外周部25を滑らかに塑性加工することができる。
【0027】
図5(a)〜(e)は本発明に係る第1工程の説明図(その3)であり、ST04,ST05を示す。
(a):続けて外周部25をスピニング加工するのに際し、まず、第2ブランク押さえ61(図4参照)を第3ブランク押さえ64に交換し、外周部25のスピニング加工を続ける。第3ブランク押さえ64は、頂部62の径より大きいもので、頂部62を押さえる。
【0028】
(b):外周部25を成形することで、断面U字形状をなすほぼ真円な成形部65を所定の絞り高さに成形するとともに、中間成形品としての第1中間成形品66を得る。
【0029】
(c):外周部25に熱処理炉46で完全焼なましを施す。完全焼なましの温度条件は、JIS W 1103に基づいて行う。
ここでの、完全焼なましの温度条件は、図3(d)の内周部24の完全焼なましと同様であり、保持温度Tk2(Tk2=Tk1)、保持時間Hk2(Hk2=Hk1)に設定した。
【0030】
(d)は第1中間成形品66の斜視図(その1)であり、ほぼ真円な成形部65を所定の絞り高さに成形した状態を示す。67は内余材、68は外余材を示す。
(e)は第1中間成形品66の斜視図(その2)で、(d)に示す状態を反転して示すとともに、断面U字形状をなすほぼ真円な成形部65を示す。
【0031】
図3〜図5に示すように、第1工程では、スピニング加工用成形型(内周成形型35、外周成形型56)にブランク材34をセットし、成形型にブランク材34をへら棒42で押し付けて、断面U字形状をなすほぼ真円な成形部65を成形することで、中間成形品(第1中間成形品66)を得るので、第1中間成形品66を成形する金型の数は内周成形型35と外周成形型56の2個で済み、プレス加工用金型(上・下金型)に比べ金型費を削減することができ、少量生産でも楕円形環体17(図1参照)の生産コストの削減を図ることができる。
次に、第1中間成形品66をトリム加工する。
【0032】
図6(a),(b)は本発明に係る中間成形品のトリム加工の説明図であり、ST06を示す。
(a):第1中間成形品66の内・外余材67,68をトリム加工する。具体的には、内余材67を内トリムライン69の位置で切断するとともに、外余材68を外トリムライン71の位置で切断することで、成形部65の内外に連続して内フランジ部72及び外フランジ部73を形成した第2中間成形品74を得る。
外フランジ部73は、上リップ部22側に成形部65から距離B1だけの部位を設け、下リップ部23側に成形部65から距離B2(B2<B1)だけの部位を設けた。
【0033】
(b)は(a)に示す第2中間成形品74を90°回転させた状態の斜視図であり、既に説明したトリム加工後の内フランジ部72及び距離B1の外フランジ部73を示す。なお、トリム加工に用いる装置は任意である。
【0034】
このトリム加工の工程で、上リップ部22側に距離B1の外フランジ部73を設けると、次の第2工程でプレス加工する際に、距離B1の外フランジ部73を流入させて、板厚減少の防止を図れる。
次に第2中間成形品74を溶体化処理する。
【0035】
図7(a)〜(c)は本発明に係る中間成形品の溶体化処理の説明図であり、ST07,ST08を示す。
(a):第2中間成形品74を溶体化処理する。溶体化処理の温度条件は、JIS W 1103に基づいて行う。
【0036】
溶体化処理の温度条件は、昇温速度Tv2、保持温度(溶体化処理温度)Tk3、保持時間Hk3に設定し、例えば、溶体化処理温度Tk3を529℃、保持時間Hk3を0.5時間に設定した。
なお、ここで用いた熱処理炉75は、熱処理炉46(図3参照)とほぼ同様であり、説明を省略する。
【0037】
(b):続けて、第2中間成形品74を冷却する。
一例として、水槽76の水77に矢印▲1▼のごとく入れて急冷する。その際、熱処理炉75から水77に投入するまでの時間は10秒以下とする。熱処理炉75や水槽76などの設備は一例であり、また、水を一定温度に設定しもよく、油など水以外の冷却剤でもよい。
【0038】
(c):次に、第2中間成形品74を冷凍機78に入れ、第2中間成形品74の温度をTsにして、温度Tsを保持時間Hsだけ保持する。
保持時間Hsは、第2工程に着手するまでの待機時間又は移動時間である。
ここでは、温度Tsを−42℃、保持時間Hsを5分に設定した。
【0039】
このように、冷凍機78で第2中間成形品74の温度をTsに保持することで、第2中間成形品74の時効を防ぎ、アルミニウム合金が硬化するのを抑制する。
【0040】
図8(a),(b)は本発明に係る第2工程の説明図(その1)であり、ST09を示す。
【0041】
(a):まず、冷凍機78(図7参照)で保持されていた第2中間成形品74を冷凍機から取り出し、室温により硬化が始まる前に第2中間成形品74をプレス機79に取り付けたプレス加工用金型81にセットする。金型81は、上金型82と、下金型83と、からなる。84はプレス機79側に配置したクッション装置(ブランクホルダ85、クッションピン86、作動手段87(例えば、油圧シリンダ))を示す。
【0042】
上金型82は、図左の円凹型88と、この円凹型88に連なるとともに漸増する図右の楕円凹型89と、を有する。
下金型83は、図左の円凸型91と、この円凸型91に連なるとともに漸増する図右の楕円凸型92と、を有する。
【0043】
このような下金型83に冷凍機78から取り出した第2中間成形品74を載せる。より具体的には、下金型83のリング状に連なる円凸型91及び楕円凸型92にほぼ真円な成形部65を載せると((b)参照)、円凸型91及び楕円凸型92に内・外フランジ部72,73のそれぞれの端94,94は線接触する。
その次に、プレス機79でクッション装置84を下降させる。
【0044】
(b):下降させ、クッション装置84のブランクホルダ85で内フランジ部72及び外フランジ部73を押す。
【0045】
図9(a)〜(c)は本発明に係る第2工程の説明図(その2)であり、ST09を示す。
(a):引き続き、プレス機79を下降させ、上金型82で第2中間成形品74を加圧する。その際、ブランクホルダ85側は内・外フランジ部72,73への押圧を維持しながら矢印▲2▼のごとく後退する。
【0046】
(b):上金型82を下降限まで下降させて、上金型82と下金型83とで第2中間成形品74((a)参照)に塑性変形を与えて、楕円部95を含む最終成形形状の成形部96を成形すると同時に最終成形品97を得る。その際に、ブランクホルダ85で内・外フランジ部72,73を所定のフランジしわ押え力Pb(kg/cm2)で押圧する。
【0047】
(c)は(b)のc部詳細図であり、プレス加工用金型81で第2中間成形品74(図6参照)のほぼ真円な成形部65(図6参照)に変形を与えて最終形状の成形部96を成形したことを示す。
【0048】
第2工程では、図6の第2中間成形品74の成形部65の内外に形成した内・外フランジ部72,73を図9のブランクホルダ85によって所定のフランジしわ押え力Pbで押圧するので、金型81で成形部65を加圧すると、内・外フランジ部72,73は矢印▲3▼,▲3▼,▲4▼,▲4▼のごとく滑り込みつつ流入し、最終成形形状の成形部96の板厚の減少を抑制することができ、成形部96の破断を防止することができるとともに、フランジしわを防止することができる。
【0049】
図10は本発明に係る第2工程の説明図(その3)であり、最終成形品97の成形部96と、成形部96の内外に連ねて残った実線で記載した内・外フランジ部72,73を示すとともに、スピニング加工で成形した成形部65(図6参照)の半周98に変形を与えて楕円部95を成形したことを示す。
【0050】
トリム加工の工程で外フランジ部73を二点鎖線で示すように形成したので、第2工程で楕円部95を絞り加工する際に、外フランジ部73を矢印▲4▼,▲4▼のごとく滑り込ませつつ流入させて、楕円部95の板厚の減少を防止することができる。
【0051】
一方、内フランジ部72を二点鎖線で示すように形成したので、第2工程で成形部96を絞り加工する際に、内フランジ部72を矢印▲3▼,▲3▼のごとく滑り込ませつつ流入させて、成形部96の板厚の減少を防止することができる。
【0052】
このように、図8及び図9の第2工程では、第2中間成形品74をプレス加工用金型81にセットし、この金型で成形部65の半周98(図6参照)に変形を与えて楕円部95を成形するとともに成形部65から最終形状の成形部96を成形することで、最終成形品97を得るので、第1工程で行うスピニング加工工程と第2工程で行うプレス加工工程の2工程で断面U字形状をなす楕円形環体17を成形することができる。
【0053】
図11は本発明に係る最終成形品の人工時効硬化処理の説明図であり、ST10を示す。
引き続き、金型81で最終成形品97を保持しながら人工時効硬化処理を行う。
人工時効硬化処理は、JIS W 1103に基づいて行う。
ここでは、加熱手段102と、加熱手段102を予め設定した温度条件に基づいて制御する制御装置53とを用いた。処理条件は、保持温度Tk4、保持時間Hk4に設定し、例えば、保持温度Tk4を177℃、保持時間Hk4を10時間に設定した。
【0054】
このように、第2工程の後に、人工時効硬化処理を行うことによって、最終成形品97に用いた熱処理型合金のアルミニウム合金の強度をより高めることができる。
【0055】
図12(a),(b)は本発明に係る最終成形品のトリム工程及び研削工程の説明図であり、ST11,ST12を示す。
(a):最終成形品97を切断装置103でトリム加工する。切断装置103は、ターンテーブル装置104と、レーザ切断装置105とを有し、ターンテーブル装置104の位置決め手段106に最終成形品97を載せ、ターンテーブル装置104を回転させながら、レーザ切断装置105で高さY(例えば、120mm)の位置に設定した周端111を切断して成形部96を高さYだけ確保するとともに、残部112を捨てる。
【0056】
その次に、周端111の変質部を除去するとともに、周端111を全周溶接可能な開先形状に加工する。
なお、レーザ切断装置105で周端111を切断したが、レーザ切断装置105以外の装置で切断してもよい。
【0057】
(b):最終成形品97を研削手段115の砥石116で研削し、完成品117、つまり、楕円形環体17(図1参照)を得る。最終成形品97の表面粗さは、例えば、Rmax 0.5S以下の鏡面に仕上げるのが望ましい。
なお、Rmax 0.5S以下が得られるようにラッピングやポリシングを選択してもよく、これらの加工を順に(砥石→ラッピング)行ってもよい。
【0058】
図13は本発明に係る楕円形環体の製造方法で施した熱の遍歴を示す温度線図であり、横軸を時間(H)とし、縦軸を温度(℃)とした。
第1工程のスピニング加工(冷間加工)後に完全焼なまし、溶体化処理、冷却及び冷凍機での保持を行い、第2工程のプレス加工で冷間成形を行い、その後、人工時効硬化処理を行った。
【0059】
完全焼なましの温度条件は、保持温度Tk1,Tk2をそれぞれ413℃、保持時間Hk1,Hk2をそれぞれ1時間とした。
溶体化処理の温度条件は、保持温度(溶体化処理温度)Tk3を529℃、保持時間Hk3を0.5時間とした。
このように冷間加工後の完全焼なまし及び溶体化処理によって、冷間加工後の応力除去を行うとともに、成形性の向上を図ることができる。
【0060】
冷却後は、冷凍機で保持し、例えば、温度Tsを−42℃、保持時間Hsを5分に設定した。
人工時効硬化処理の温度条件は、保持温度Tk4を177℃、保持時間Hk4を10時間とした。
このように、人工時効硬化処理を行うことにより、楕円形環体17に用いた熱処理型合金のアルミニウム合金の強度をより高めることができる。
【0061】
尚、本発明の実施の形態に示した第1工程と第2工程の間に、さらに新たな工程を加えることも可能である。例えば、第1工程→トリム後、孔加工の工程を設けることも可能である。
楕円形環体の製造方法で図1に示す楕円形環体17を製造したが、楕円形環体の製造方法で製造する形状は任意である。
スピニング加工用成形型の構成は任意である。
プレス加工用金型の構成は任意である。
【0062】
【発明の効果】
本発明は上記構成により次の効果を発揮する。
請求項1では、上半部周(上リップ部22)が楕円で、下半部周(下リップ部23)がほぼ真円からなる楕円形環状体の製造方法であって、スピニング加工用成形型にブランク材をセットし、このブランク材を成形型にへら棒で押し付けて、所定の絞り方向に絞り成形を施し、所定の絞り高さに成形することで、断面U字形状をなすほぼ真円な成形部65及び内余材67と外余材68を有する第1中間成形品66を得る第1工程と、上半部周と下半部周の外余材68においてトリム加工を施し、上半部周側の外余材68の幅(距離B1)が、下半部周側の外余材68の幅(距離B2)よりも大である外フランジ73を設けてなる第2中間成形品74を得る第2工程と、プレス加工用金型81と、外フランジ73を押圧するためのブランクホルダ85を含むクッション装置84とを含むプレス機79において、第2中間成形品74をプレス加工用金型81にセットし、ブランクホルダ85にて外フランジ73を所定の押さえ力で押圧した状態で、第2中間成形品74に対して絞り方向からプレス加工を施し、外フランジ73を成形部65側に滑り込みさせ流入させることで、成形部65の上半部周に変形を与えて楕円部を成形するとともに、成形部に変形を与えて最終形状に成形することで、最終成形品を得る第3工程とを含む。
第1工程では、回転するスピニング加工用成形型を用いて、断面U字形状をなすほぼ真円な成形部を成形した中間成形品とするので、下流の第2工程のプレス加工で楕円形環体を成形することができる。
【0063】
第2工程及び第3工程では、成形部の半周にプレス加工用金型で変形を与えて楕円部を成形するとともに最終形状に成形するので、最終形状の成形部に破断やフランジしわが生じない。
すなわち、最終のプレス加工に必要な断面U字形状をなすほぼ真円な成形部を予めスピニング加工によって成形することで、第2工程前にプレス加工工程を設ける必要はなくなり、プレス加工工程を省くことができ、プレス加工用金型の金型費を削減することができる。従って、成形品の数量が少量で且つ、成形品が楕円形状を有する深絞り成形品であっても、生産コストの削減を図ることができる。
【0064】
請求項2では、第2工程と第3工程との間に、中間成形品に対して溶体化処理を行う工程を含む。
請求項3では、最終成形品は、航空機エンジンのナセルリップ部材なので、航空機エンジンのナセルリップ部材の生産コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る製造方法を用いて成形した楕円形環体の説明図
【図2】本発明に係る楕円形環体の製造方法のフローチャート
【図3】本発明に係る第1工程の説明図(その1)
【図4】本発明に係る第1工程の説明図(その2)
【図5】本発明に係る第1工程の説明図(その3)
【図6】本発明に係る中間成形品のトリム加工の説明図
【図7】本発明に係る中間成形品の溶体化処理の説明図
【図8】本発明に係る第2工程の説明図(その1)
【図9】本発明に係る第2工程の説明図(その2)
【図10】本発明に係る第2工程の説明図(その3)
【図11】本発明に係る最終成形品の人工時効硬化処理の説明図
【図12】本発明に係る最終成形品のトリム工程及び研削工程の説明図
【図13】本発明に係る楕円形環体の製造方法で施した熱の遍歴を示す温度線図
【図14】従来の薄金属板製D型容器の製造方法の説明図
【符号の説明】
17…楕円形環体、22…上半部周(上リップ部)、23…下半部周(下リップ部)
34…ブランク材、35…スピニング用成形型(内周成形型)、42…へら棒、56…スピニング用成形型(外周成形型)、65…ほぼ真円な成形部、66…第1中間成形品、74…第2中間成形品、67…内余材、68…外余材、73…外フランジ、79…プレス機、81…プレス加工用金型、84…クッション装置、85…ブランクホルダ、95…楕円部、96…最終成形品の成形部、97…最終成形品、98…成形部の半周、B1,B2…内余材、外余材の幅(距離)。
Claims (3)
- 上半部周(上リップ部(22))が楕円で、下半部周(下リップ部(23))がほぼ真円からなる楕円形環状体の製造方法であって、
スピニング加工用成形型にブランク材をセットし、このブランク材を成形型にへら棒で押し付けて、所定の絞り方向に絞り成形を施し、所定の絞り高さに成形することで、断面U字形状をなすほぼ真円な成形部(65)及び内余材(67)と外余材(68)を有する第1中間成形品(66)を得る第1工程と、
前記上半部周と下半部周の外余材(68)においてトリム加工を施し、前記上半部周側の外余材(68)の幅(距離B1)が、前記下半部周側の外余材(68)の幅(距離B2)よりも大である外フランジ(73)を設けてなる第2中間成形品(74)を得る第2工程と、
プレス加工用金型(81)と、前記外フランジ(73)を押圧するためのブランクホルダ(85)を含むクッション装置(84)とを含むプレス機(79)において、前記第2中間成形品(74)をプレス加工用金型(81)にセットし、前記ブランクホルダ(85)にて前記外フランジ(73)を所定の押さえ力で押圧した状態で、前記第2中間成形品(74)に対して前記絞り方向からプレス加工を施し、前記外フランジ(73)を成形部(65)側に滑り込みさせ流入させることで、前記成形部(65)の上半部周に変形を与えて楕円部を成形するとともに、前記成形部に変形を与えて最終形状に成形することで、最終成形品を得る第3工程と、
を含むことを特徴とする楕円形環体の製造方法。 - 前記第2工程と第3工程との間に、中間成形品(74)に対して溶体化処理を行う工程を含むことを特徴とする請求項1記載の楕円形環体の製造方法。
- 前記最終成形品は、航空機エンジンのナセルリップ部材であることを特徴とする請求項1記載の楕円形環体の製造方法。
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