以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態(以下「実施形態」と呼ぶ)について説明する。
まず、図1〜3を参照して、ラインセンサのカラーフィルタの濃度ムラに起因するフィルタ分光ムラの影響について説明する。
図1にR,G,Bの各フィルタの分光特性の例を示す。これは、フィルタの分光特性を、光検出器の相対感度(ここではRフィルタをつけた光検出器の感度1として正規化している)の波長方向についての分布として示したものである。説明のため、Bについては、感度の落ちるフィルタ(すなわちフィルタ濃度が高くなっている)が設けられた場合の分光レスポンスのグラフを破線で示している(B' のグラフ)。破線B' を実線Bと比べたとき、分光レスポンスのすそ野の部分(波長500nmの近傍)でもピーク近傍に近い程度に相対感度の差が存在する。したがって、波長500nm前後の成分の検出強度は、実線Bの特性のフィルタが付いた光検出器と、破線B' の特性のフィルタが付いた光検出器とでは、大きく異なってくる。
また、このようなフィルタ濃度ムラの影響は、同じ色の色材でも分光特性の差があり、印刷濃度によっても変わってくる。
図2には、あるY色トナーを用いて面積階調方式で濃度を様々に変えた検査チャートを印刷し、その印刷結果をBフィルタつきの光検出器で読み取ったときの読取結果のグラフが示されている。グラフの横軸は、B(青)成分の反射率を測定するための理想的な測定器で検査チャートを読み取ったときの反射率の値であり、この値は検査チャートのY濃度と一定の関係を持っている。これに対し、縦軸は、Bフィルタ付きの光検出器の出力する検出信号を反射率に換算した値である。図2には、Bフィルタのフィルタ濃度を0.6〜1.4まで0.2刻みで変えたときのグラフが示される。なお、フィルタ濃度は、真ん中の濃度の値を1として正規化したものである。また、図3は、この図2のグラフ群を、フィルタ濃度1.0でのグラフに対する誤差を縦軸としてプロットし直したものである。図3から分かるように、フィルタ濃度の違いによるBフィルタ付きの光検出器の読取反射率の差は、検査チャートのY濃度(横軸の反射率に対応)が異なれば異なってくる。この検査チャートのY濃度に応じた反射率の差の変化は、測定したい微小な面内ムラからみても無視できない量である。したがって、フィルタ濃度の差の影響を取り除くには、印刷濃度の影響を考慮する必要がある。
したがって、特許文献3等のように、単にチップごとに補正データを持たせたとしても、印刷濃度の違いによる検出信号レベルの誤差までは吸収できず、印刷の微小な面内ムラを高精度で測定することはできなかった。
そこで、本実施形態では、画像読取装置が有するR,G,Bの各色のラインセンサの光検出器ごとだけでなく、更に印刷補正パラメータの校正に用いる検査チャートに含まれるパターンの色ごとの違いも考慮する。すなわち、フィルタ濃度ムラの補正のための補正データを、ラインセンサの光検出器とパターンの色との組合せごとに求め、これをテーブル化して画像形成装置に組み込んで利用する。
図4に、この考え方に従ったフィルタ補正テーブルの一例を示す。図示のように、このテーブルは、パターンの色(縦軸)と画素番号(横軸)との組合せごとに補正データCを登録したものである。画素番号は、ラインセンサの各画素、すなわち光検出器の識別番号であり、主走査方向に沿って一方の端部から他方の端部へと順に1つずつ大きくなる続き番号(図では1〜Nの整数)である。したがって、画素番号は、ラインセンサにおける各光検出器の主走査方向に沿った位置を示すものと捉えることができる。なお、画像読取装置の主走査方向は、ラインセンサにおける光検出器群の並び方向であり、またこれに垂直な方向が副走査方向となる(図5参照)。またこの例では、図5に示すごとくR,G,Bの各色ごとにそれぞれラインセンサ102,104,106を備える画像読取装置を想定しているので、フィルタ補正テーブルには、パターンの色と画素番号の組合せごとに、それぞれRGBの3色の各々についての補正データCが示されている。フィルタ補正テーブルに登録された各補正データは、ラインセンサの色(R,G,Bのチャンネルのいずれか)をc,検査チャートのパターンの色の識別番号をb,画素番号をiとすると、Ccbiと表現できる。
ここで印刷補正パラメータの校正に用いる検査チャートは、例えば、従来より電子写真方式のカラー印刷装置の濃度再現性(あるいは色再現性)の検査に用いられている、C,M,Y,Kの各色材(一次色)の濃度違いの単色パッチ(均一な濃度の小領域)を一次元、又は二次元に配列したものを想定すればよい。2種類以上の色材を混ぜた高次色の単色パッチを含んでいてももちろんよい。また、図6に示すように、各一次色(及び必要に応じて高次色も)の濃度違いの、プリントエンジンの主走査方向の印刷範囲の幅を持つ帯状領域202−1,202−2,・・・、202−M(Mは整数)を含んだ検査チャートを用いれば、濃度再現性に加え、主走査方向の印刷濃度ムラ(面内ムラ)も検査できる。検査する色の数が多く一枚の検査チャートに収まらない場合は、複数枚に分けて印刷することになる。なお、図6では、色の相違をハッチングパターンの相違で表現した。
図7に、検査チャートに載せられる色の種類の例を示す。図7に示した表中の各「パターン」はそれぞれ検査チャート中の個々の単色領域(すなわちパッチ又は帯状領域)のことであり、それぞれ印刷色が異なる。各「パターン」の色は、各色材Y,M,C,Kの濃度の組合せで表現されている。ここでは、各色材の濃度の段階を0%、50%、100%の3段階としたが、濃度段階をもっと増やすことも可能であり、段階数を増やせばそれだけ検査チャートの「パターン」数が増える。
図4のようなフィルタ補正テーブルは、例えば、画像読取部付きの画像形成装置を製造する工場において、高い精度で面内ムラなく印刷された検査チャート(例えば図6に例示したもの)を、帯状領域の長手方向が画像読取部の主走査方向に一致する位置関係で画像読取部に読み取らせることにより、作成できる。すなわち、1つの色の帯状領域を読み取ったときの同じラインセンサの各光検出器の検出信号のレベルを求め、それらが同一レベルとなるように各光検出器の検出信号に対する補正データ値を定めればよく、この処理を検査チャートに用いる色ごとに行えばよい。なお、工場でなくても可能なフィルタ補正テーブルの作成・更新の方法もあるが、これについては後で説明する。
次に図8〜図10を参照して、以上に説明した特徴を備えた画像形成装置の例について説明する。
図8に示す画像形成装置は、印刷部10,給紙部12,手差しトレイ14,表示部16,読取・検査部18及び出力トレイ19を備えている。印刷部10は、電子写真方式のプリントエンジンを内蔵しており、デジタルの印刷データを用紙に対してフルカラーで印刷する。プリントエンジンは、例えばC,M,Y,Kの各色ごとに感光体ドラムを備えたタンデムエンジン型のものである。給紙部12は、用紙を収容し、その用紙を印刷部10に供給するユニットである。手差しトレイ14は、印刷部10や読取・検査部18に対し用紙や原稿を手差し供給するためのトレイである。表示部16は、この画像形成装置のUI(ユーザインタフェース)装置の一部をなすものであり、操作画面や装置状態などを表示する。読取・検査部18は、印刷部10の印刷結果を光学的に読み取り、その読取結果を元になった印刷データと照合するなどの検査処理を行うことで、印刷結果の品質を検査する。
読取・検査部18には、R,G,B等の各一次色のラインセンサを備えた画像読取部が設けられる。画像形成装置の用紙搬送路は、給紙部12から始まり、印刷部10内のプリントエンジンを通り、更に読取・検査部18内の画像読取部の読取対象範囲を通って、出力トレイ19へと延びている。各ラインセンサは、光検出器の配列方向(すなわち画像読取部の主走査方向)が、用紙搬送路における用紙搬送方向に対して垂直となるように配設されており、印刷済みの用紙が搬送されるのに合わせて主走査方向の信号読出を繰り返すことで、印刷済み用紙の二次元の読取画像データを生成する。この読取画像データを印刷データが示す原稿画像と照合することで、印刷抜けや汚れなどの検査がなされる。
また、出力トレイ19は、印刷結果を出力するトレイである。図では出力トレイ19が1つしか示されていないが、2つ以上設け、読取・検査部18の検査の結果、良品と判定されたものと不良品と判定されたものを別々のトレイに出力するようにすることもできる。
本実施形態では、このような画像形成装置において、読取・検査部18にて印刷部10の主走査方向の印刷濃度の微小なムラ(面内ムラ)を検出できるよう、その読み取り・検査部18に内蔵される各ラインセンサの出力する検出信号から、オンチップフィルタの濃度ムラの影響を高精度で除去できるようにする。このための画像形成装置の内部構成が図9に示される。
図9において、全体制御部20は、図8に示した画像形成装置の各ユニットを制御して、画像形成装置の機能を実現する制御手段である。煩雑さを避けるため図では印刷制御部24及び画像読取部28に対してしか制御等の流れを示す矢印を示していないが、全体制御部20は他のユニットについても制御する。
UI部22は、ユーザインタフェース機構であり、図8の表示部16の他、指示や数値等の入力のためのキーや、表示部16がタッチパネルの場合、ユーザのタッチ位置を検出するための機構などを含んでいる。UI部22からユーザが指示する内容として本実施形態に関係の深いものに、校正モードの指示がある。校正モードは、印刷補正パラメータ34の登録データ内容を校正するためのモードであり、このモードが指示されると、検査チャートの印刷及び読取が行われ、その読取結果に基づき印刷補正パラメータ34が校正される。なお、外部からネットワークを介して供給された印刷データ(或いは図示省略したスキャナ装置により読み取られた原稿画像)を用紙に印刷するモードのことを、通常モードと呼ぶことにする。図9において、機能ブロック間を結ぶ矢印はそれぞれデータの流れを示し、実線は通常モード時の、一点鎖線は校正モード時の流れを示す。
印刷制御部24は、印刷部10内のプリントエンジン26を制御してカラー印刷を実行させるユニットである。画像読取部28は、読取・検査部18に内蔵され、用紙搬送路上を移動する印刷済みの用紙を前述のようにして光学的に読み取り、読取画像データを生成する。
記憶装置30は、EEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)やハードディスク装置などの、不揮発性の記憶装置である。この記憶装置30には、フィルタ補正テーブル32や印刷補正パラメータ34、検査チャート情報36などのデータが記憶される。
フィルタ補正テーブル32は、画像読取部28の各ラインセンサの各光検出器の検出信号を補正するための補正データを保持したテーブルであり、既に図4等を参照して説明したものと同様のものである。
印刷補正パラメータ34は、プリントエンジン26の印刷性能を補正するためのパラメータ群であり、例えば各一次色のトーン再生カーブ(あるいはそれに基づく濃度変換のルックアップテーブル)がその代表例である。また、微小な面内ムラを抑制するために、印刷データの画素値をプリントエンジン26の主走査方向に沿った画素位置に応じて補正したり、あるいは露光のためのROS(ラスタ出力スキャナ)のレーザ出力を主走査方向に沿った画素位置に応じて補正したりすることも可能であり、そのための画素位置ごとの補正データも印刷補正パラメータ34の一部として記憶される。
検査チャート情報36は、印刷補正パラメータ34の校正に用いる検査チャートの画像データ又はその画像を規定するコードなどの情報である。
フィルタムラ補正部40は、校正モード時に画像読取部28から出力される読取画像データの各画素の値を、フィルタ補正テーブル32を用いて補正することにより、読取画像データからオンチップフィルタの濃度ムラの影響を除去乃至低減する。
パラメータ校正処理部42は、フィルタムラ補正部40で補正された読取画像データ(フィルタ濃度ムラの影響が除去・低減されている)に基づき、印刷補正パラメータを補正する。
このような装置において、UI部22からユーザが校正モードを指示すると、全体制御部20が印刷制御部24に対し、検査チャートの印刷を指示する。これに応じ印刷制御部24は記憶装置30内の検査チャート情報36から検査チャートのラスタ画像を生成し、これをプリントエンジン26に印刷させる(S10)。この検査チャートの印刷結果が画像読取部28の読取対象範囲に到達するタイミングで、全体制御部20は、画像読取部28に対しその読取を行わせる(S12)。
画像読取部28が出力する画像データは、フィルタムラ補正部40により補正される(S14)。ここで、画像読取部28の出力は、各ラインセンサの各光検出器の検出信号を主走査方向に読み出したものを、副走査に応じて繰り返したものである。また、各副走査においてラインセンサの各光検出器が読み取っているべきパターン(色)は、検査チャート情報36から求めることができる。したがって、フィルタムラ補正部40は、画像読取部28から順に供給される画像データがどのラインセンサの何番目の光検出器からものか、及び検査チャートの何番目のパターンを読み取ったものかを判別できるので、それらの組合せに対応する補正データをフィルタ補正テーブル32から読み出し、その補正データを用いてその画像データを補正する。この補正には、例えば次の式(1)を用いることができる。
[数1]
Dci' =Dci −Ccbi ・・・(1)
ここで、Dci' は補正後の画像データの値(反射率比例の値)、Dci は補正前の画像データの値(反射率比例の値)、Ccbiはテーブル補正テーブルから読み出した補正データである。各変数の添え字は、c がラインセンサのチャンネル(R,G,Bのいずれか)を、b は検査チャートのパターンの色の識別番号を、i はラインセンサ上での画素の番号を示す。
この補正式(1)は、画像データ(光検出器の検出信号)から補正データを減算するものであるが、補正対象の印刷濃度ムラは微小なので、(係数の乗算ではなくても、)このような加減算による補正で対応可能である。
このような補正により、フィルタムラ補正部40の出力する読取画像データは、オンチップフィルタの濃度ムラの成分が補正されたものとなる。パラメータ校正処理部42は、この読取画像データに基づき、検査チャート上の各パターンの色や、同一パターン内の主走査方向についての印刷濃度ムラを測定する。そして、この測定結果に基づき、色再現性のパラメータ(トーン再生カーブなど)や主走査方向の印刷濃度ムラの補正パラメータなどといった印刷補正パラメータ34を校正する。印刷濃度ムラの補正パラメータの校正では、その読取画像データの主走査方向に沿った各画素の値が均一になるよう、補正パラメータを修正する。
なお、通常モードでは、与えられた印刷ジョブのデータから生成した印刷画像データの値や、ROSのレーザ出力などをその印刷補正パラメータ34にしたがって補正して印刷を行う。
以上説明したように、実施形態では、ラインセンサ中のカラーフィルタ付き光検出器と、かつ印刷補正パラメータの校正のための検査チャートに含まれるパターンの色との組合せごとに、フィルタ濃度のムラの補正のための補正データをフィルタ補正テーブル32に登録し、これを用いて、検査チャートを読み取った読取画像データを補正するようにした。これにより、オンチップカラーフィルタの濃度の違いによる分光ムラの違いによる画像データの誤差を従来より適切に補正でき、印刷の面内ムラなどの微小なムラ成分も良好に検出できるようになる。そして、本実施形態では、このようにオンチップのカラーフィルタの濃度ムラの影響が除去乃至低減された読取画像データに基づきプリントエンジン26の色再現性のパラメータや面内ムラ補正のパラメータなどの印刷補正パラメータを校正すので、特に面内ムラなどの微妙な誤差の補正が適切に行えるというメリットがある。
以上の例において、検査チャート中のパターンの「色」は、色空間中での座標が異なれば互いに異なるのはもちろんだが、ハーフトーンスクリーニングを行って印刷するプリントエンジンでは、色空間中の座標が同じでも、適用するスクリーンセットが変われば、視覚的に見える色みが変わってくることもある。したがって、色の値(座標)が同じでも、スクリーンセットが違えば、それに応じてフィルタ濃度ムラの補正データを求めてフィルタ補正テーブル32に登録し、利用することが好ましい。
以上の例では、ラインセンサ中の光検出器(画素)ごと、及び検査チャート中のパターンの色ごとにフィルタ濃度ムラの補正データを用意したが、これではフィルタ補正テーブル32のデータサイズがかなり大きいものとなる。そこで、フィルタ補正テーブル32のデータサイズを小さくしたい場合には、次のような変形例も好適である。
すなわち、この変形例では、ラインセンサ中の光検出器を互いに近接するもの同士でグループ化したり、検査チャート中のパターンの色を近い色(色空間中で互いに近接する色)同士でグループ化したりし、フィルタムラの補正データをグループ単位で登録する。ラインセンサにおけるグループ化は、例えばラインセンサの一方端から光検出器を所定数ずつのグループにまとめていけばよい。検査チャートのパターンの色のグループ化は、パターンが一次色CMYKのものしかない場合は、同じ一次色の中にある異なる濃度のパターンを、濃度が近接するもの同士でグループ化すればよい。また、高次色のパターンを含む場合は、例えばCMYK色空間中で近い色のものをグループ化すればよい。このようにラインセンサの光検出器と検査チャートのパターン色の両方共をグループ化すればフィルタ補正テーブル32のサイズはかなり小さくすることができるが、いずれか一方のみをグループ化しただけもフィルタ補正テーブル32のサイズ低減の効果はある。
ただし、このようなグループ化を行った場合、フィルタ濃度ムラの補正データは、光検出器のグループとパターン色のグループの組合せに対応したものとなり、個別の光検出器とパターン色の組合せには厳密には対応しない。このため、前述の式(1)による補正では、個別の光検出器とパターン色の組合せに対応した補正データを持つ上述の実施形態に比べて、精度の点で若干劣る。これを改善するため、次式(2)に示す補正式を利用することも好適である。
[数2]
Dci' =Dci −Ccbi・α・(W−Dci) ・・・(2)
ここで、Wは白基準読取時の当該光検出器の出力データであり、αは比例係数である。この式は、反射率が既知の白基準を読み取ったときの出力Wに対する実際のパターンを読み取ったときのデータDciの差に応じ、補正データCcbi を線形補正するものである。この場合、補正データCcbi は、パターンの色bが属するグループと、光検出器iが属するグループとの組合せに対応して、テーブル32に登録されたデータである。このような線形補正により、より近い適切な補正量を求めることができる。なお、比例係数αは、実験等により求める。比例係数αは、パターンの全色について一律でもよいが、パターンの色のグループごとに個別に求めておけば、より精度の高い補正が可能になる。
また、式(2)による補正は、個別の光検出器とパターン色の組合せに対応した補正データを持つ上述の実施形態に適用することも可能である。
次に、フィルタ補正テーブル32を現場で(すなわちユーザのもとに設置された画像形成装置そのものを用いて)生成したり、校正したりする機能を上記実施形態に追加した第2の変形例について説明する。
図11に、フィルタ補正テーブル32の作成・更新機能を備えた画像形成装置の機能構成の要部を示す。この構成は、図9に示した構成に対し、補正テーブル校正処理部50と印刷ムラテーブル52を追加したものである。補正テーブル校正処理部50は、フィルタ補正テーブル32の校正のための演算処理を実行するユニットであり、印刷ムラテーブル52は、この校正処理において校正用の検査チャートを読み取って得た印刷濃度ムラのデータを一時的に保持するテーブルである。印刷ムラテーブル52は、記憶装置30に記憶させるようにしてもよいし、画像形成装置が内蔵するRAMに記憶するようにしてもよい。
この変形例の画像形成装置は、上記実施形態における通常モード、校正モード(より厳密に言えば「印刷補正パラメータを校正するモード」)に加え、フィルタ補正テーブル32を校正する補正テーブル校正モードを備える。フィルタ補正テーブル32を新たに作成したり、或いは校正したりしたい場合、ユーザは、UI部22に示されるメニューから補正テーブル校正モードを指定すればよい。このモードが指定された場合、図12に示されるような校正作業により、フィルタ補正テーブル32が更新される。
すなわち、補正テーブル校正モードが指定された場合、全体制御部20は印刷制御部24に対し、フィルタ補正テーブル校正用の検査チャートの印刷を指示する(S20)。フィルタ補正テーブル校正用の検査チャートは、図6に例示したものと同様、プリントエンジンの主走査方向に延びる帯状領域を、対象とする各色の分だけ配列したものである。したがって、フィルタ補正テーブル校正用の検査チャートのデータとしては、印刷補正パラメータ34の校正に用いる上記実施形態の検査チャートのデータと同じものを用いることもできる。この印刷指示に応じ、図13に示すように、印刷部10のプリントエンジン26により検査チャート200が印刷され、それが読取・検査部18を通過して出力トレイ19に出力される。なお、図13は、図9に示した画像形成装置を上から見た状態を示している。補正テーブル校正モードの処理でも、印刷補正パラメータの校正のために用いる検査チャートに用いられるパターン(すなわち色)と同じだけのパターンを印刷する必要があるため、パターン数が多く1枚に収まらない場合は、複数枚に分けて検査チャートを印刷する。なお、検査チャートを複数枚の用紙に分けて印刷する場合は、各枚に対し通し番号等、順番を示す情報を印刷することが好ましい。
検査チャート200の印刷ができると、図13に示すように、ユーザがその検査チャート200を出力トレイ19上の姿勢から90度回転させて手差しトレイ14にセットし、読取・検査部18に読取を行わせる(S22)。具体的な処理系としては、例えば、補正テーブル校正モードでは、検査チャート印刷出力が終わった後にユーザが画像形成装置のスタートボタンを押下すると、手差しトレイ14上にセットされた原稿が装置内部に取り込まれ、印刷部10はそれを印刷せずに単に追加させ、読取・検査部18がその原稿を読み取るようにすればよい。また、このとき、ユーザが検査チャート200を正しい向きで手差しトレイ14にセットする支援のために、表示部16に図14のような案内画面を表示することも好適である。図14の案内画面300は、画像形成装置との関係において検査チャート200をどのような向きにするかを模式図で示している。補正テーブル校正モードの処理を開始して検査チャート200を印刷した後、このような案内画面を表示することで、ユーザは自分がどのような作業をしたらよいかがよく分かる。また、検査チャート200自体に、図6に示すように、手差しトレイ14の基準位置(「レジ(レジストレーション)」位置)に位置合わせすべき箇所を示したマーク204を含めれば、その印刷結果を手差しトレイ14にどの向きにセットすべきか、ユーザにとって一目瞭然に分かる。
以上のように検査チャート200を90度回転させて読み取らせた場合、この画像形成装置では印刷部10と読取・検査部18とで主走査方向とが一致しているので、印刷部10の印刷と読取・検査部18の読取との間で、主走査と副走査の関係が入れ替わることになる。ここで、ラインセンサと副走査を組み合わせた二次元読取方式では、副走査方向のライン上の各点は常に同じ光検出器で読み取られる。したがって、この読取によれば、検査チャート200の印刷の主走査方向に沿ったライン上の各点は、同じ光検出器により副走査方向に読み取られることになる。同じ光検出器であれば、オンチップフィルタの濃度のムラは考慮しなくてよいので、その光検出器の副走査方向に沿った検出信号(画像データ)の系列は、印刷の主走査方向に沿った印刷濃度ムラを表現したデータとなる。補正テーブル校正処理部50は、このとき画像読取部28が出力する画像データに基づき印刷ムラテーブル52を作成する(S24)。
図15に、このとき印刷ムラテーブル52に登録されるデータの一例を示す。図15において、列番号iは読取の副走査方向についてのインデックスであり、ここでは、後の処理に合わせ、副走査方向についても、主走査方向と同じ解像度で読み取るようにしているため、テーブル52はN個の列を持つことになる。一方、行番号bは読取の主走査方向のインデックスであり、その行数Mは、検査チャートに印刷されるパターンの総数(複数枚に分けて印刷する場合は各枚のパターン数の合計)である。すなわち、検査チャートでは1〜M番目の各帯状領域が読取の主走査方向に並ぶことになるので、テーブル52には、各帯状領域に1行を割り当てる。
各行各列のセルに示された値Dcbi'は、読取副走査でのi番目のライン(主走査方向のライン)において、チャンネルc(R,G,Bのいずれか)のラインセンサの光検出器のうちの、検査チャート200のb番目の帯状領域(パターン)に対応する一群の光検出器が出力した検出信号の平均値である。
すなわち、検査チャート200における各帯状領域の配列順序は記憶装置30に記憶されている検査チャート情報36から分かる。したがって、ユーザが表示部16に示される指示などに従って検査チャート200を正しい向きにセットしていれば、主走査方向に沿って何番目から何番目までの光検出器のグループが何番目の帯状領域を読み取るかを、補正テーブル校正処理部50が判別できる。補正テーブル校正処理部50は、ある副走査位置についての1主走査を行っているときに画像読取部28から順番に供給される各光検出器の検出信号を、帯状領域の幅(すなわち印刷の副走査方向についての幅)に応じた数の連続した光検出器の検出信号ごとに平均し、その平均値をテーブル52のその帯状領域bと副走査位置iに応じた位置に書き込む。なお、検査チャート200が正しいセット状態から多少傾いていたり位置ずれしていたりすることもあり、そのような場合は各帯状領域の境界線近傍に対応する光検出器が、本来読み取るべき帯状領域の隣の帯状領域を読み取ることもあり得る。そこでこのような場合には、そのような読取誤りの影響を減らすため、この平均処理では、帯状領域の境界線部分に該当する所定個数の光検出器の検出信号は平均処理の際に考慮しないようにすることも好適である。以上の処理を、全副走査範囲について繰り返すことにより、印刷ムラテーブル52が完成する。図15に示したのはラインセンサ1チャンネル分のテーブルであり、実際はR,G,Bのチャンネルごとにこのテーブルが作成される。
S24の後、検査チャート200は再び出力トレイ19上に排出されるが、ユーザはそれを再度手差しトレイ14にセットする。ただしこのときは、S22のときとは90度回転した姿勢、すなわち印刷出力されたときの検査チャート200の姿勢と同じ姿勢で手差しトレイ14にセットする。そして、スタートボタンを押して、再び読取・検査部18に検査チャートの読取を行わせる(S26)。このとき、ユーザの作業を支援するために、図14に例示したのと同様の、作業内容を模式図等で示した案内画面を表示部16に表示することが好適である。
S26の読取では、読取の主走査方向が印刷の主走査方向と一致する。したがって、読取の各主走査ではラインセンサ上の各光検出器は同じ帯状領域を読み取っていくことになる。このときのラインセンサの1主走査における各光検出器の検出信号は、同じ色を読み取った信号であるが、それには主走査方向の印刷濃度ムラの影響と、オンチップフィルタの濃度ムラの影響とが重畳している。一方、前述の印刷ムラテーブル52には、同じ光検出器で1つの帯状領域全域を読み取った際のデータが登録されており、これはオンチップフィルタの濃度ムラの影響はないので、主走査方向の印刷濃度ムラを示したものとなっている。この補正テーブル校正モードでは、オンチップフィルタの濃度ムラの情報が欲しいので、今回の読取の際の検出信号を、印刷ムラテーブル52に登録された対応するデータを用いて補正すれば、印刷濃度ムラの影響を除去乃至低減できる。より詳細には、今回の読取においてb番目の帯状領域を読み取っているときの主走査方向i番目の光検出器の検出信号から、印刷ムラテーブル52における同じb番目の帯状領域を読み取った時の副走査位置iのデータ(これが印刷濃度ムラ成分を示している)を減算することで、印刷濃度ムラの影響を減算することができる(S28)。すなわち、(Dcbi −Dcbi')が、印刷濃度ムラの影響を減じた信号、すなわちフィルタ濃度ムラ成分を主成分とする信号となる(ただし、DはS26の読取における検出信号の値、D' は印刷ムラテーブル52に登録された検出信号の値である。添え字c,b,i は前述の通り)。この計算では、印刷ムラテーブル52における副走査方向のインデックスiを主走査方向のインデックスに読み替えた上で、テーブル52中の各データを、S26の読取で同じiを主走査方向の番号として持つ光検出器の検出信号の補正に用いている。
この(Dcbi −Dcbi')の値をフィルタ濃度ムラ成分と捉え、これそのものを補正データCcbi として用いるようにすることも一つの方法である(S30)。上述に式(1)の補正式を用いる場合は、このような簡易的な方式でも構わない。
しかし、更に精度向上を目指すには、式(2)の補正式と同様の考慮を払った次の式(3)に従って補正データCcbi を求めることが好適である(S30)。
[数3]
Ccbi・α= (Dcbi −Dcbi')/(W−Dcbi) ・・・(3)
この式(3)では、補正データCcbi に比例係数αを乗じた値を、測定データから計算できる。したがって、フィルタ補正テーブル32には、このように求めたCcbi・αの値を登録しておけば、式(2)に従った補正処理ではそのままその登録データを利用できる。
なお、S26の読取でも帯状領域の副走査方向(印刷時)の幅に相当する連続した光検出器群を1グループとし、1主走査において1グループ中の光検出器の検出信号を平均してそのグループの検出信号とすれば、主走査方向の信号の数は光検出器1つずつを見ていた上述の例よりも大幅に少なくなる。この主走査方向の信号数をL個とすると、印刷ムラテーブル52はM行L列のテーブルでよくなる(図15と比較)。したがって、このようにする場合、S22の読取では、副走査方向の読取解像度も帯状領域の幅ごとでよい。このような読取によりM行L列の印刷ムラテーブル52が生成できるので、S28,30ではグループごとの検出信号の平均値とその印刷ムラテーブル52に基づき、式(3)によりCcbi・αの値を計算できる。この場合、iは光検出器のグループの番号である。
なお、図12の手順では、S22で主走査・副走査を入れ替えて読み取りを行った後、S26で印刷時と同じ姿勢で検査チャートを読み取る流れであったが、この代わりにS20で検査チャートを印刷した際、印刷部10から出力された検査チャートを読取・検査部18で読み取り、その読取結果のデータを記憶しておくようにすれば、S24で印刷ムラテーブル52ができた段階で、上述と同様にしてフィルタ補正データが計算できる。
また、ここまでの例は、オンチップカラーフィルタの面内ムラを対象にしていたが、ダイクロプリズムを構成するカラーフィルタや、赤外線カットフィルタなどの、干渉フィルタにおける分光画角特性に起因する面内ムラにも同様に対応できる。
また、一本のセンサパッケージ中に複数の読取ラインを持つセンサからなる読取装置に限らず、ダイクロプリズム方式のように、各色独立のセンサからなる読取装置にも応用できる。
以上に説明した実施形態や変形例において、全体制御部20,印刷制御部24,フィルタムラ補正部40,パラメータ校正処理部42,補正テーブル校正処理部50は、画像形成装置が備えるプロセッサに、それら各機能モジュールの機能を記述したプログラム(これは例えば画像形成装置が内蔵するROMなどに記憶される)を実行させることにより実現される。
10 印刷部、12 給紙部、14 手差しトレイ、16 表示部、18 読取・検査部、19 出力トレイ、20 全体制御部、22 UI部、24 印刷制御部、26 プリントエンジン、28 画像読取部、30 記憶装置、32 フィルタ補正テーブル、34 印刷補正パラメータ、36 検査チャート情報、40 フィルタムラ補正部、42 パラメータ校正処理部。