図1には、本発明の実施の形態に係るモータリトラクタ10の全体構成が斜視図にて示されている。また、図2には、モータリトラクタ10の主要部の構成が斜視図にて示されている。さらに、図3には、モータリトラクタ10の全体構成が分解斜視図にて示されている。
モータリトラクタ10は、フレーム12を備えている。フレーム12は略板状の背板14と、この背板14の幅方向両端から一体に延出する一対の脚板16及び脚板18とによって構成されており、背板14がボルト等の図示しない締結手段によって車体に固定されることで車体に取り付けられる構成となっている。
フレーム12の一対の脚板16と脚板18との間には、ダイカスト等によって製作された巻取軸20が回転可能に配置されている。巻取軸20は全体としては鼓形状をなしており、長尺帯状に形成されたウエビング(図示省略)の基端部が連結固定されている。巻取軸20をその軸線周り一方(以下、この方向を「巻取方向」と称する)へ回転させると、ウエビングがその基端側から巻取軸20の外周部に層状に巻き取られ、一方、ウエビングをその先端側から引っ張れば、これに伴い巻取軸20がその軸線周り他方へ回転しながらウエビングが引き出される(以下、ウエビングを引き出す際の巻取軸20の回転方向を「引出方向」と称する)。
巻取軸20の一端側は、脚板18を貫通してフレーム12の外部に突出している。脚板18の側方には、図示を省略したロック機構が配置されている。ロック機構は、加速度センサを含んで構成されており、脚板16と脚板18との間に掛け渡されたロックプレート22、及び巻取軸20の軸芯部分に設けられたトーションバー24に連係している。車両の急減速時等には、ロック機構の作動によりトーションバー24の一端がロックプレート22を介して拘束されてエネルギー吸収が行われつつ、巻取軸20の引出方向回転が阻止される構成となっている。
一方、巻取軸20の他端側は、脚板16を貫通してフレーム12の外方に僅かに突出している。この巻取軸20の他端側には、六角柱状に形成された連結スクリュー21が同軸的かつ一体的に連結されている。
また、脚板16の外側には、本実施の形態に係るクラッチ100を構成するケースとしてのクラッチケース101が配置されている。このクラッチケース101は、金属材料等(例えば、アルミ合金等)により略矩形の箱状に形成されたものであり、脚片16とは反対側に向けて開口している。このクラッチケース101の開口側には金属材料等(例えば、鉄等)により略矩形の板状に形成されたケースとしてのカバークラッチ102が配置されている。カバークラッチ102は、板厚方向に突出する2つの係止爪200を備えており、これらの係止爪200がクラッチケース101の側壁部分に設けられた係止突起206に嵌合係止することで、クラッチケース101の開口側に装着(仮固定)されている。
これらのクラッチケース101及びカバークラッチ102は、スクリュー104によって脚片16に一体的に固定されている。
一方、図3に示す如く、クラッチケース101の底壁中央部分には、円形の貫通孔106が巻取軸20と同軸的に形成されており、連結スクリュー21が貫通している。また、この貫通孔106の周辺の部位は、脚片16とは反対側へ向けて円形状に僅かに突出しておりリング状の摺動面108が形成されている。さらに、貫通孔106の孔縁部には、脚片16とは反対側へ向けて突出した円筒状のブッシング支持部110が形成されている。このブッシング支持部110には、樹脂材料等によりリング状に形成されたブッシング112(図4及び図5参照)が支持されている。
クラッチケース101の内部には、クラッチギヤ部28が配置されている。クラッチギヤ部28は、ウォームギヤ34を備えている。ウォームギヤ34は、巻取軸20と直交する状態で自身の軸が配置され、その端部がブッシュ36、37を介してクラッチケース101に支持されており、さらに、その一端側はクラッチケース101から外方へ突出して設けられている。また、ウォームギヤ34の先端部を支持するクラッチケース101の軸受け部分には、鋼球38が収容されてウォームギヤ34の先端部に接触しており、さらに、アジャストスクリュー40が螺入している。アジャストスクリュー40は、その先端部で鋼球38を押圧することで鋼球38をウォームギヤ34の先端に圧接させている。これにより、ウォームギヤ34の軸方向の変位が規制されている(スラスト調整されている)。なお、鋼球38をアジャストスクリュー40の先端部に一体に形成する構成(アジャストスクリュー40の先端部を球状に形成する構成)としてもよい。このウォームギヤ34の上側には、本実施の形態に係るクラッチ100を構成するクラッチ本体部114が設けられている。
図4及び図5に示す如く、クラッチ本体部114は、回転体を構成するギヤホイール116を備えている。ギヤホイール116は樹脂材料等によりリング状に形成されて巻取軸20と同軸的に配置されており、その外周部には所謂ウォームホイール歯118が形成されている。このウォームホイール歯118は、上述したウォームギヤ34に噛み合っている。また、ギヤホイール116の内周部には、その径方向に沿って所定間隔毎に複数(本実施の形態では12個)の周方向荷重受け部120が形成されている。これらの周方向荷重受け部120は、後述するリング176のスプリング爪182に対応している。さらに、ギヤホイール116の軸線方向一側(図4及び図5の矢印A方向側)の端面には、その周方向に沿って一定間隔毎に複数(本実施の形態では6個)の回り止め凹部122が形成されている。これらの回り止め凹部122は、後述するリング176の回り止め爪180に対応している。
ギヤホイール116の内側には、金属材料等(例えば、亜鉛アルミ合金等)から成るロータ124がギヤホイール116と同軸的に配置されている。ロータ124は、有底円筒状の本体部126と、本体部126の軸線方向一側(図4及び図5の矢印B方向側)において径方向に突出したフランジ部128とを有している。
本体部126の側壁の外周部には、その周方向に沿って等間隔に複数の外歯130が形成されている。各外歯130は、本体部126の周方向に沿った一側(図4及び図5の矢印C方向側)の側壁が本体部126の周方向に対して傾斜して形成され、本体部126の周方向に沿った他側(図4及び図5の矢印D方向側)の側壁が本体部126の径方向に沿って平行に形成されている(換言すれば、断面形状が台形状とされている)。各外歯130は、後述するリング176のスプリング爪182に対応している。
本体部126の底壁中央部には、略円筒状の収容部132が同軸的に形成されている。収容部132の軸線方向一側(図4及び図5では矢印A方向側)には、リング状の支軸部133が同軸的に突設されている。この支軸部133は、カバークラッチ102に形成された円孔135に、後述するホルダ170の回転支持部175を介して回転自在に支持されている。また、収容部132の軸線方向他側(図4及び図5の矢印B方向側)には、前述したブッシング112が回転自在に嵌合しており、収容部132の軸線方向他側は、ブッシング112を介してクラッチケース101に回転自在に支持されている。これにより、本体部126(ロータ124)は、自らの軸線周りに回転可能とされている。
この本体部126の収容部132内には、鉄板等により略リング状に形成されたラチェット134が収容されている。ラチェット134の外周部には、所謂ラチェット歯である外歯136が形成されている。また、ラチェット134の軸芯部には、断面六角形状の連結孔138が形成されており、前述した連結スクリュー21が相対回転不能に貫通している。これにより、巻取軸20とラチェット134とは、連結スクリュー21を介して一体的に回転するようになっている。
また、ラチェット134の軸線方向一側(図4及び図5では矢印A方向側)には、樹脂材料等によりリング状に形成されたワッシャ209が一体的に装着されている。このワッシャ209は、連結スクリュー21が圧入される圧入部216を備えており、ラチェット134の連結スクリュー21に対するガタ付きを防止するようになっている。
なお、ワッシャ209のラチェット134とは反対側(図4及び図5では矢印A方向側)の端面は、収容部132のリング状の底壁に摺動可能に当接しており、ラチェット134の軸線方向他側(図4及び図5では矢印B方向側)の端面は、前述したブッシング112に摺動可能に当接している。
一方、図6に示す如く、ロータ124の本体部126の底壁には、収容部132の径方向外側において、本体部126の周方向に沿って湾曲しかつ軸線方向に沿って貫通する一対のガイド孔142が形成されている。各ガイド孔142は、幅方向(本体部126の径方向)外側の内周面が本体部126の側壁の内周面(ロータ124の内周面)と同一面とされており、幅方向内側の内周面が収容部132の側壁の外周面と同一面とされている。
各ガイド孔142には、それぞれ樹脂材料等により本体部126の周方向に沿って湾曲した略ブロック状に形成されたスライダ144が摺動可能に取り付けられている。これら一対のスライダ144は、各本体部143がロータ124の本体部126の内周面及び収容部132の外周面に案内されることで、ガイド孔142に沿った所定の範囲内でロータ124に対して相対移動可能とされている(なお、図6においては、説明の都合上、後述するロックバー154及び捩りコイルスプリング164などの図示を省略してある)。
各本体部143の一側(図4及び図5では矢印A方向側)には、摺動片146が突設されており、図7に示す如く、カバークラッチ102に当接している。また、各本体部143の摺動片146とは反対側には、リテーナ148が設けられている。リテーナ148は、ばね性を有する細幅な金属片で略く字形に折れ曲がっている。このリテーナ148は、長手方向中央部に設けられた連結部150が本体部143に形成された連結孔152に嵌め込まれて本体部143に一体的に連結されると共に、長手方向両端部がそれぞれ前述したクラッチケース101の摺動面108に押し付けられて所定量弾性変形している。
このため、スライダ144の摺動片146は、リテーナ148の弾性力によってカバークラッチ102に押し付けられており、ガイド孔142に沿った本体部143(スライダ144)の移動(ロータ124に対する相対移動)には、所定の摩擦力が付与されるようになっている。このため、ロータ124が回転すると、スライダ144は、摺動片146及びリテーナ148の長手方向両端部に作用する摩擦力によって一時的にケース(クラッチケース101及びカバークラッチ102)に保持され、ロータ124に対してガイド孔142に沿った所定の範囲内で相対移動するようになっている。
各本体部143の湾曲方向一端部(図4及び図5では矢印C方向側の端部)には、一方の腕部としての押圧保持片145が形成されている。また、各本体部143の湾曲方向他端部(図4及び図5では矢印D方向側の端部)には、他方の腕部としての脱落防止片147が設けられている。すなわち、各スライダ144には、ロータ124の周方向両側に一対の腕部(脱落防止片147及び押圧保持片145)が延設されている。
各スライダ144は、脱落防止片147と押圧保持片145とがガイド孔142の湾曲方向両側の孔縁部に係合すると共に、前述した摺動片146が収容部132の軸線方向一端部(図4及び図5では矢印A方向側の端部)に係合することでロータ124に保持されている(各スライダ144が各ガイド孔142を介してロータ124の軸線方向一側(図4及び図5では矢印B方向側)へ脱落することが防止されている)。
また、上述した押圧保持片145は、それぞれ一対のロックバー154に対応している。各ロックバー154は、鉄板等により略く字形に形成されて各スライダ144の湾曲方向一端側に配置されており、リング状の軸受部156を備えている。各軸受部156は、本体部126の底壁に突設された円柱状の支軸158によって回転自在に支持されている。各軸受部156のスライダ144とは反対側(図4及び図5の矢印C方向側)には、連結片160が突設されている。これらの連結片160は、軸受部156と共に支軸158周りに回動することで、その先端部がロータ124の収容部132に形成された孔部162を貫通して前述したラチェット134の外歯136に噛み合うようになっている。また、これらの連結片160は、捩りコイルスプリング164の付勢力によって常に外歯136(ラチェット134)との噛合方向へ付勢されている。なお、捩りコイルスプリング164は、ロータ124の本体部126の底壁に突設された円柱状の支軸166によって支持されている。
各軸受部156のスライダ144側(図4及び図5の矢印D方向側)には、前述したスライダ144の押圧保持片145に対応する解除片168が突設されている。各解除片168は、スライダ144と対向する端部がスライダ144の移動方向(図4及び図5の矢印C方向及び矢印D方向)に対して傾斜した傾斜面とされている。
ここで、図8(A)及び図8(B)に示す如く、ロータ124がスライダ144に対して相対移動することで、ロックバー154はスライダ144に対して所定の範囲内で接離移動するようになっており、ロックバー154がスライダ144に接近した状態(図8(A)図示状態)では、ロックバー154の解除片168は、スライダ144の押圧保持片145の内側(ラチェット134側)に入り込むことで、捩りコイルスプリング164の付勢力に抗して係合解除位置に保持されるようになっている。この状態では、ロックバー154の連結片160は、ラチェット134から離間するようになっている。
一方、ロックバー154がスライダ144から離間した状態(図8(B)図示状態)では、ロックバー154の解除片168は、スライダ144の押圧保持片145による保持を解除されるようになっている。この状態では、ロックバー154の連結片160は、捩りコイルスプリング164の付勢力によってラチェット134側(係合位置)へ移動され、その先端部が外歯136に噛み合うようになっている。
なお、本実施の形態に係るクラッチ本体部114では、スライダ144は、通常はロックバー154に接近して配置されている。したがって、ロックバー154は、通常は解除片168がスライダ144の押圧保持片145によって保持されることで、係合解除位置(図8(A)図示状態)に保持される構成である。
一方、ロックバー154を介してロータ124とは反対側(図4及び図5の矢印A方向側)には、樹脂材料等によりリング状に形成されたホルダ170が配置されている。ホルダ170は、リング状の本体部172と、本体部172の外周部に設けられた一対の保持爪174とを備えている。本体部172は、ロックバー154の支軸158(ロータ124)に対する軸線方向の変位を規制しており、一対の保持爪174は、捩りコイルスプリング164の支軸166(ロータ124)に対する軸線方向の変位を規制している。
また、本体部172の中央部に形成された円孔173には、ロータ124の支軸部133が貫通している。この円孔173の孔縁部には、ロータ124とは反対側(カバークラッチ102側)へ向けて円筒状に僅かに突出した回転支持部175が設けられており、ロータ124の支軸部133は、この回転支持部175を介してカバークラッチ102の円孔135に回転自在に支持されている。
ここで、このクラッチ本体部114では、ホルダ170のロータ124への組付け時において、ホルダ170をロータ124の所定位置に組み付けなければ、一対の保持爪174がスライダ144の脱落防止片147等に干渉するようになっている。すなわち、一対の保持爪174と脱落防止片147等との干渉によって、ホルダ170のロータ124への誤組付けが防止されるようになっている。
一方、ホルダ170の径方向外側でかつロータ124の軸線方向一側(図4及び図5の矢印A方向側)には、ばね性を有する金属材料(例えば、SUS等)から成るリング176が配置されている。リング176は、リング状に形成されたカバー部178を備えている。カバー部178の外周部には、その径方向外側に突出した複数(本実施の形態では6個)の回り止め爪180が一体に形成されている。これらの回り止め爪180は、前述したギヤホイール116の回り止め凹部122に嵌合している。これにより、リング176は、ギヤホイール116に対してその周方向には一体的に連結されている。
さらに、カバー部178の外周部には、弾性(ばね性)を有する細幅な板状とされた複数(本実施の形態では12個)のスプリング爪182が、カバー部178の周方向に沿って所定間隔毎に設けられている。各スプリング爪182は、各基端部がカバー部178に一体的に接続され、各長手方向中間部がカバー部178の径方向内側へ向けて僅かに折り曲げられ、各先端部がカバー部178の径方向外側へ向けて折り曲げられており、全体としてカバー部178の周方向に沿って湾曲している。
これらのスプリング爪182は、図9(A)に示す如く、ロータ124の外歯130とギヤホイール116の内周面との間において、ロータ124及びギヤホイール116の周方向に沿って配置されており、自らの弾性力によってその内側部分をロータ124の外歯130に押し付けている。これにより、リング176はロータ124に一体的に保持されている。
また、各スプリング爪182の外側部分は、それぞれギヤホイール116の内周面に係合しており、ギヤホイール116は、各スプリング爪182を介してロータ124に支持されている。この状態では、ギヤホイール116は、リング176の回り止め爪180及びロータ124のフランジ部128によって軸線方向移動を規制されている。さらにこの状態では、リング176のカバー部178によって、スライダ144、ロックバー154、捩りコイルスプリング164及びホルダ170のロータ124からの脱落が防止されており、これらの構成部材は、所定の組付け位置に保持されている。
さらに、各スプリング爪182の各先端部は、それぞれ外歯130の谷の部分に入り込んで外歯130の一方の側壁(本体部126の径方向に沿って平行に形成された側の側壁)に当接しており、各基端部は、前述したギヤホイール116の周方向荷重受け部120に当接している。これにより、ギヤホイール116とロータ124とは、その周方向に対しては各スプリング爪182によって一体的に連結されており(相対回転を規制されており)、ギヤホイール116が回転した場合には、ギヤホイール116とロータ124とは、基本的に一体回転するようになっている。
この場合、ギヤホイール116の巻取方向への回転力は、周方向荷重受け部120を介してスプリング爪182の基端部に伝達され、スプリング爪182の先端部からロータ124の外歯130に伝達されるようになっており、ギヤホイール116は、周方向荷重受け部120を介して、スプリング爪182から作用する荷重を周方向に沿って受けるようになっている(ギヤホイール116は、スプリング爪182からの荷重受け方向がその回転方向に沿って設定されている)。
しかもこの場合、上述した如く、スプリング爪182がばね性を有する金属片であるため、ロータ124に対するギヤホイール116の相対回転で生じる回転力が、スプリング爪182のばね力(付勢力)に抗して各スプリング爪182の先端部を外歯130の谷の部分から抜け出させるのに充分な大きさであれば、スプリング爪182によるギヤホイール116とロータ124との軸線周りの連結が解除されるため、ギヤホイール116とロータ124との回転の伝達が切り離され、ギヤホイール116とロータ124とは相対回転が可能となる構成である(図9(B)参照)。
また、ギヤホイール116の引出方向への回転力は、回り止め凹部122を介してリング176の回り止め爪180に伝達され、リング176のスプリング爪182先端部からロータ124の外歯130に伝達されるようになっている。
一方、リング176のロータ124とは反対側(図4及び図5の矢印A方向側)には、樹脂材料等によってリング状に形成されたスペーサ184が配置されている。スペーサ184は、リング176のカバー部178とカバークラッチ102との間に挟まれている。スペーサ184の内周部には、前述した一対のスライダ144に対応して径方向内側へ突出する一対二組の連結爪224、226が設けられている。一対の連結爪224及び一対の連結爪226は、それぞれ各スライダ144の摺動片146の湾曲方向両側を挟み込んでいる。これにより、一対のスライダ144は、スペーサ184によって連結されており、一対のスライダ144及びスペーサ184は、ロータ124及びロックバー154に対して同期して相対移動(相対回転)するようになっている。しかもこの場合、スペーサ184には、カバークラッチ102との摺接(摺動)によって摩擦力が作用するようになっている。
以上構成のクラッチ100は、クラッチギヤ部28のウォームギヤ34が回転することで、クラッチ本体部114のギヤホイール116が回転する構成となっており、このクラッチ本体部114とクラッチギヤ部28とは、単一のケース(クラッチケース101及びカバークラッチ102)に一体的に組み付けられて、全体としてユニット化された構成となっている。
一方、図3に示す如く、カバークラッチ102の側方には、スプリング・コンプリート42が配置されている。スプリング・コンプリート42は、内部に渦巻きばね(図示省略)を収容している。この渦巻きばねは、渦巻き方向外側の端部がケース本体に係止されると共に、渦巻き方向内側の端部が、クラッチ本体部114を貫通した連結スクリュー21の先端に係止されており、巻取軸20を巻取方向へ付勢している。
また一方、巻取軸20の下方で脚板16と脚板18との間には、モータ44及びモータギヤ部46が配置されている。
モータ44及びモータギヤ部46は、ハウジング48を備えている。このハウジング48の一側にモータ44がスクリューによって取り付けられると共に、ハウジング48の他側にモータギヤ部46が設けられている。モータ44は、その回転軸50の先端側(出力側)がハウジング48に向く状態でハウジング48の一側に固定されており、回転軸50の先端(出力側)はハウジング48の他側(モータギヤ部46の側)に突出している。
一方、ハウジング48の他側(モータギヤ部46の側)に突出するモータ44の回転軸の先端には、外周に平歯を有するピニオン(図示省略)が取り付けられている。また、モータギヤ部46には、各々が外歯の平歯とされた図示しない2つのギヤ(共に図示省略)が互いに噛み合った状態で収容されている。これらのギヤは、共に自身に軸がモータ44の回転軸と平行な状態で配置されており、一方のギヤは前述したピニオンに噛み合っており、最終平歯ギヤとされる他方のギヤは、前述したクラッチケース101から外方へ突出するウォームギヤ34の一端部に、着脱可能に連結されている。このため、モータ44が駆動すると、ピニオン及び2つのギヤを介して駆動力が伝達されてウォームギヤ34が回転される構成である。
また、これらのピニオン及び2つのギヤは、ハウジング48に取り付けられたカバーギヤ78によって被覆されている。カバーギヤ78には爪部80が設けられており、この爪部80がハウジング48に設けられた爪受け部82に嵌合係止することでカバーギヤ78がハウジング48に固定されている。
このように、モータ44とモータギヤ部46とは、何れも単一のハウジング48に一体的に組み付けられており、全体としてユニット化された構成となっている。
以上の構成のモータ44及びモータギヤ部46は、ハウジング48に一体に設けられた取付ステー84が、クラッチ本体部114及びクラッチギヤ部28を収容するクラッチケース101(すなわち、フレーム12)にスクリュウによって着脱可能に取り付けられている。このハウジング48のクラッチケース101(フレーム12)への取付装着状態においては、モータ44は、回転軸50が巻取軸20と直交しかつその出力側がフレーム12の背板14と反対側へ向く状態となっており、しかも、一対の脚板16と脚板18との間であって巻取軸20の直下に位置した構成となっている。
またさらに、上述したモータ44は、例えば、前方監視装置等の検出信号に基づいて作動される構成となっている。
次に本実施の形態の作用を説明する。
上記構成のモータリトラクタ10では、クラッチ本体部114のスライダ144は、通常は、図8(A)に示す如く、ロックバー154に接近して配置されている。したがって、ロックバー154の解除片168は、通常はスライダ144の押圧保持片145によって保持されており、ロックバー154の連結片160は、ラチェット134の外歯136から離間している。このため、ラチェット134(巻取軸20)は、ロータ124に対して相対回転自在とされている。
したがって、乗員が車両の座席に着席して、本モータリトラクタ10に格納されたウエビングを引っ張ると、巻取軸20が引出方向へ回転しつつウエビングが引き出される。これにより、乗員はウエビングを身体に掛けまわし、例えば、ウエビングに設けられたタングプレートをバックル装置に係合させることで、ウエビングを身体に装着することができる。
一方、例えば、車両走行中に車両の前方に障害物が存在ししかも車両と障害物との間隔(車両から障害物までの距離)が所定範囲内に達すると、モータ44の駆動が開始され、回転軸50が急激に回転される。
このモータ44の回転軸50が回転されると、その回転力がモータギヤ部46の図示しないピニオン及び2つのギヤ、並びに、クラッチギヤ部28のウォームギヤ34を介してクラッチ本体部114のギヤホイール116に伝達され、ギヤホイール116が急激に巻取方向へ回転される。ギヤホイール116の巻取方向への回転は、周方向荷重受け部120を介してリング176のスプリング爪182の基端部に伝達されると共に、スプリング爪182の先端部からロータ124の外歯130に伝達され、ロータ124が急激に巻取方向へ回転される。
このとき、スライダ144は、摺動片146及びリテーナ148に作用する摩擦力によってケース(クラッチケース101及びカバークラッチ102)に保持されるため、ロータ124がスライダ144に対して所定の範囲内で相対移動し、ロータ124に支持されたロックバー154がスライダ144から離間移動する。
このため、押圧保持片145による解除片168の保持が解除され、ロックバー154の連結片160は、捩りコイルスプリング164の付勢力によってラチェット134側へ移動し、連結片160の先端部がラチェット134の外歯136に噛み合う(図8(B)の矢印E参照)。これにより、ロータ124の巻取方向への回転がロックバー154を介してラチェット134に伝達され、ラチェット134が巻取方向へ急激に回転される。このラチェット134は、巻取軸20に一体的に連結されているため、巻取軸20がラチェット134と共に巻取方向へ急激に回転される。
これにより、ウエビングが巻取軸20に巻き取られ、ウエビングの僅かな緩み、所謂「スラック」が解消されて、ウエビングによる乗員身体に対する拘束力が向上し、仮に、その後に乗員が車両急制動(急ブレーキ)の操作を行ない、車両が急減速状態になったとしてもウエビングが確実に乗員の身体を保持する。
さらに、上述の如く「スラック」が解消された状態では、乗員の身体が障害となり基本的にはそれ以上巻取軸20にウエビングを巻き取ることはできなくなる。このため、巻取軸20には、ウエビングから所定値以上の荷重が作用し、その結果、ロータ124には、ラチェット134及びロックバー154を介して所定値以上の荷重(所謂「オーバーロード荷重」)が作用する。ロータ124に所定値以上の荷重が作用すると、図9(A)及び図9(B)に示す如く、スプリング爪182が弾性変形することで、スプリング爪182の各先端部がロータ124の外歯130の谷の部分から抜け出し、ギヤホイール116とロータ124との相対的な空転が可能となる(所謂「ロードリミッタ機構」、図9(B)の矢印F参照)。
これにより、ラチェット134及びロックバー154を介してロータ124に連結された巻取軸20が、モータ44の駆動力によって必要以上の力で巻取方向へ回転されることを防止でき、ウエビングが必要以上の力で乗員の身体を締め付けることを防止できる。
しかもこの状態では、ラチェット134の外歯136が所謂ラチェット歯とされているため、図10(A)及び図10(B)に示す如く、ラチェット134(巻取軸20)がロータ124に対して巻取方向へ相対回転しようとした場合(図10(B)の矢印H参照)には、ロックバー154は、ラチェット134の外歯136に跳ね上げられることで(図10(B)の矢印G参照)、ラチェット134(巻取軸20)のロータ124に対する巻取方向への相対回転を許容する。これにより、上述した如く「スラック」が解消された状態で、例えば、車両の衝突が避けられない状況になった場合は、さらに別のプリテンショナー装置等によって巻取軸20を巻取方向へ強制的に回転させることも可能である。この場合、ウエビングによる乗員の身体の拘束力を一層上昇させることができ、車両衝突時における乗員の被害を最小限に留めることができる。
一方、上述した如き車両衝突の危険が回避された場合には、モータ44の回転軸50が逆転される。この回転軸50の回転力は、モータギヤ部46の図示しないピニオン及び2つのギヤ、並びに、クラッチギヤ部28のウォームギヤ34を介してクラッチ本体部114のギヤホイール116に伝達され、ギヤホイール116が急激に引出方向へ回転される(図11(A)の矢印D参照)。
ギヤホイール116の引出方向への回転は、ギヤホイール116の回り止め凹部122を介してリング176の回り止め爪180に伝達されると共に、リング176のスプリング爪182の先端部からロータ124の外歯130に伝達され、ロータ124が急激に引出方向へ回転される。
このとき、スライダ144は、摺動片146及びリテーナ148に作用する摩擦力によってケース(クラッチケース101及びカバークラッチ102)に保持されるため、ロータ124がスライダ144に対して所定の範囲内で相対移動し、ロータ124に支持されたロックバー154がスライダ144に接近移動する。
このため、スライダ144の押圧保持片145が、ロックバー154の解除片168の傾斜した端面を押圧することによって、解除片168が捩りコイルスプリング164の付勢力に抗してラチェット134側へ移動され(図11(B)の矢印J参照)、ロックバー154の連結片160がラチェット134の外歯136から離間する。更にロックバー154がスライダ144に接近すると、ロックバー154の解除片168は、スライダ144の押圧保持片145の内側(ラチェット134側)に入り込み、ロックバー154は、係合解除位置に保持される(図11(B)図示状態)。これにより、ロータ124とラチェット134とは再び相対回転可能とされ、巻取軸20の自在な回転が可能となる。
ここで、このモータリトラクタ10のクラッチ本体部114では、ロックバー154をラチェット134との係合解除位置で保持するスライダ144は、ロータ124の周方向両側へ向けて本体部143から延設された一対の腕部(押圧保持片145及び脱落防止片147)が、ロータ124(本体部126)の底壁に形成されたガイド孔142の湾曲方向両側の孔縁部に係合することでロータ124に保持されている。
すなわち、スライダ144は、ガイド孔142の湾曲方向(ロータ124の周方向)両側の孔縁部に跨ることでロータ124に保持されている。このため、従来のクラッチの如く、ガイド孔142の幅方向(ロータ124の径方向)両側にスライダ144を保持するための鍔部を設ける必要がなく、各ガイド孔142は、幅方向外側の内周面が本体部126の側壁の内周面(ロータ124の内周面)と同一面とされており、幅方向内側の内周面が収容部132の側壁の外周面と同一面とされている。したがって、ダイカストによるロータ124の成形時にガイド孔142の内周面に生じるバリが減少し、ロータ124の加工性が向上する。しかも、上述の如く、ロータ124のガイド孔142周辺部位の形状が簡素化されるため、金型の形状も簡素化できる。
また、このモータリトラクタ10のクラッチ本体部114では、ホルダ170のロータ124への組付け時において、ホルダ170をロータ124の所定位置に組み付けなければ、一対の保持爪174がスライダ144の脱落防止片147等に干渉する。したがって、ホルダ170のロータ124への誤組付けが防止され、組付性が向上する。
以上説明した如く、本実施の形態に係るモータリトラクタ10では、クラッチ100を構成するロータ124の加工性が向上する。