JP4406980B2 - 多層反射防止膜 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、蛍光顕微鏡等の光学機器に用いられる光学素子表面に形成され、特に紫外光〜可視光の広帯域の波長に対し反射防止効果に優れた多層反射防止膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、特に生物関係の研究分野において紫外線励起光を標本に照射して、試料が発する蛍光を観察する蛍光顕微鏡が広く用いられている。この紫外線励起光のうち、代表的な光線としてi線( 波長365nm)がある。i線を励起光に用いた場合、観察する蛍光波長は可視域( 波長400nm〜800nm) であり、特に蛍光顕微鏡に用いられる対物レンズは、波長365nmを中心とした励起光と蛍光( 波長400nm〜800nm) との両方の光が通過する。従って、対物レンズに施す反射防止膜は、365nmの波長は言うに及ばず400nmから800nmまでの波長の可視域の光線に対しても充分な反射防止効果を持っていなければならない。
【0003】
従来、レンズのような光学素子用の反射防止膜としてフッ化マグネシウムを蒸着物質として用いた単層反射防止膜が知られている。この膜は膜構成が単純で容易に製造可能であるという利点があるために古くから一般に用いられている。
【0004】
単層反射防止膜は、波長に対しての反射率の変化が比較的少ないので、紫外光〜可視光の広帯域の波長域に渡ってある程度の反射防止効果を示す反面、最も反射防止効果が高い波長に於いてすら残留反射率が無視できず、更に良好な反射防止効果を示す波長域が狭いという欠点を有する。即ち、反射防止効果が不充分である。
【0005】
単層反射防止膜よりも低反射率特性の反射防止膜としては、図3にその特性を示した3層反射防止膜が知られている。この膜は、基板面から順に、光学的膜厚0.25λ0 で屈折率1.65の第1層、光学的膜厚0.5λ0 で屈折率2.1の第2層、そして光学的膜厚0.25λ0 で屈折率1.38の第3層を積層し形成したものである。ここで、λ0 は設計基準波長であり、ここでは510nmに選ばれている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の3層反射防止膜は、図3に示すように、例えば屈折率1.52の基板に対しては反射率が1.0%以下の波長域が400nm〜700nmであるが、400nm以下、700nm以上の波長、特に400nm以下の波長で反射率が急激に上昇し、反射防止特性が悪化する問題があった。基板の屈折率が1.60または1.70に高まると、この狭帯域化、特性の悪化は更に甚だしくなった。
【0007】
そのために、従来の反射防止膜は、3層膜を使用した場合に於いても、400nm以下から700nm以上までの波長域に渡って良好な反射防止効果が必要な蛍光顕微鏡の対物レンズに適用した場合に、無視できない量の残留反射光が問題となっていた。即ち、残留反射光により生じるフレアのために、コントラストの良い蛍光像を得ることが出来ないという問題、次には、400nm以下の励起光の反射損失による透過励起光の減少、700nm以上の蛍光の反射損失による対物レンズを透過する蛍光の減少のために明るい蛍光像を得ることができないという問題があった。
【0008】
更に従来の3層反射防止膜は、一般に膜材料として、第1層としてアルミナ、またはAlの複合酸化物、第2層としてジルコニア、またはZrの複合酸化物、そして第3層としてフッ化マグネシウムを用いており、ジルコニア、またはZrの複合酸化物は、励起光波長での光吸収率が高いために、その励起光の光吸収損失のために、励起光の試料上への照射強度が低下し、且つ蛍光の光吸収損失のために蛍光像の強度が低下する。前段で述べた反射損失のみならずこの吸収損失も明るい蛍光像を得るための障害となっていた。
【0009】
更にまた、従来の3層反射防止膜は、その構成層の膜材料としてのジルコニア、またはZrの複合酸化物が、励起光の照射により蛍光を発生し、この蛍光が不要光として像面に到達するために、観察試料からの蛍光像の像質が低下する問題があった。
【0010】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、広い波長域、特に、例えば蛍光顕微鏡の対物レンズに適用する場合のように、紫外域から800nm近くの可視域の上限波長まで低反射性であり、且つ光吸収率が低く、尚且つ膜から発生する蛍光強度が小さい多層反射防止膜を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は第一に、下記を提供する。
【0012】
基板上に形成される6層以上11層以下の多層反射防止膜であり、前記基板の基板面から順に第1層の屈折率は、波長500nmの光に対し1.6以上2.15以下であり、最終層がフッ化マグネシウムから成り、かつ330nmから800nmの波長域の全ての波長での透過率が80%以上であり、1.92以上2.15以下の屈折率を有するLa 2 Ti 2 O 7-x (x=0.3〜0.7)から成る層を2層以上具えることを特徴とする蛍光顕微鏡に用いられる光学素子用の多層反射防止膜を提供する。
【0013】
また第二に、フッ化マグネシウムからなる層を2層以上具えることを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜を提供する。
【0014】
また第三に、前記第1層はLa 2 Ti 2 O 7-x (x=0.3〜0.7)から成ることを特徴とする請求項1または2に記載の反射防止膜を提供する。
【0015】
また第四に、前記第1層はアルミナ、またアルミニウムの複合物、またはアルミナと他の酸化物との混合物から選ばれる材料であることを特徴とする請求項1または2に記載の反射防止膜を提供する。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の多層反射防止膜は、光学基板上に形成された6層以上11層以下の多層反射防止膜であり、基板から数えて第1層の屈折率が波長500nmに対して1.6以上、2.15以下であり、最終層がフッ化マグネシウムから成る。
【0017】
ここで、第1層の第一の好ましい選択としては、屈折率1.6以上1.8以下の層であり、膜材料としてはアルミナ(Al2 O3 )、またはAlの複合酸化物、またはアルミナと他の酸化物との混合物から選ばれた材料が好ましい。この第1層の屈折率は基板の屈折率にマッチングするよう決定され、これに合わせて膜材料が選択される。
【0018】
また、第1層の第二の好ましい選択としては、波長500nmに於いて屈折率1.92以上2.15以下の層である。この層の材料としては、La2 Ti2 O7‐x (x=0.3〜0.7)が好ましく用いられる。
【0019】
最終層(最上層)の膜物質としては、低反射率を得るために、好ましくはフッ化マグネシウム(MgF2 )が用いられる。フッ化マグネシウム以外にも、基板よりも充分に屈折率が低く、紫外域での光吸収率が低く、耐久性のある物質ならばこれに限定されず、フッ化アルミニウム(AlF3 )、フッ化リチウム(LiF)、フッ化カルシウム(CaF2 )、クリオライト(Na3 AlF6 )、チオライト(Na5 Al3 F14)、および酸化硅素(SiO2 )の群と、該群から選ばれた二つ以上から成る混合物群と複合化合物群と、から選ばれた膜物質を用いることができる。
【0020】
本発明の多層反射防止膜の構成層の成膜方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、等が用いられる。真空蒸着法の試料加熱法としては電子線加熱法、抵抗加熱法が用いられるが、電子線加熱法が好ましく使われる。また、真空蒸着の成膜に際して、別に設けたイオンビーム源により不活性ガス等のイオンを基板に照射するイオンビームアシスト法も用いられ、これにより膜の充填率が高められ、屈折率を高めることができる。スパッタリング法としてはイオンビームスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法が好ましく用いられる。
【0021】
ここで、La2 Ti2 O7‐x (x=0.3〜0.7)から成る層は、成膜方法、成膜条件に依存した、充填率、結晶性、及び酸化度(xの値に依存)の変化に応じて、その屈折率が、1.92以上2.15以下に変化する。
【0022】
また、本発明の多層反射防止膜の層数は、紫外域から可視域の上限までの広い波長範囲に渡って反射率を低減させるために、光学薄膜設計上6層以上必要である。しかし、広帯域化のために余り総数を増やすと加工時間の増大、加工の困難性の増大により加工性が悪化し、または膜の耐久性が低下するばかりでなく、膜の光散乱が増え、更には層数増加に伴う膜厚増加により光吸収率が増えるので、多過ぎるのは好ましくなく、その意味で層数は6層以上11層以下が好ましい。
【0023】
この多層反射防止膜の構成層として、La2 Ti2 O7‐x から成る層を合計2層以上用いることは好ましい。その理由は、この物質から形成される層の屈折率が低反射率且つ広帯域の反射防止膜を設計するために好ましいのみならず、光吸収率が低く、且つ励起光である紫外線を照射したときに発生する蛍光強度が小さいからである。
【0024】
また、この多層反射防止膜の構成層として、フッ化マグネシウムから成る層を、最終層以外にも、第1層を除いた層に用い、最終層と合わせて合計2層以上用いるのが好ましい。その理由は、この物質の層の光吸収率が低く、且つ励起光である紫外線を照射したときに発生する蛍光強度が小さいからである。
【0025】
以上のように本発明の多層反射防止膜は、低光吸収率の膜材料を使用しており、且つ広帯域に渡り低反射率であるので、本発明の多層反射防止膜を施した基板面の1面当たりの光透過率は、300nm以上800nm以下の波長域のどの波長においても80%以上と高い。
【0026】
即ち、本発明の多層反射防止膜は以下の実施例1、2に示すように紫外から可視域の上限に到るまでの広い波長域に渡って反射率が平坦で且つ低く、また、光吸収率が低く、蛍光強度も小さい。従って、本発明の多層反射防止膜は、これらの波長域で良好な反射防止効果が必要な光学機器の光学系の光学素子に好ましく適用され、透過率を増やし、フレア等の低減により結像性能を向上させることができる。
【0027】
本発明の多層反射防止膜は、特に蛍光顕微鏡の対物レンズのレンズ部品、等に好ましく適用される。
【0028】
以下本発明による多層反射防止膜の具体的膜構成を以下の実施例1及び実施例2に示すが、これら実施例は本発明の一部に過ぎず、本発明は6層以上11層以下の全ての膜構成を含むことは言うまでもない。
[実施例1]
以下の表に実施例1の石英ガラス基板(屈折率=n=1.46、λ=500nm)に対する6層反射防止膜の膜構成を示す。尚、La2 Ti2 O7‐x (x=0.3〜0.7)としてメルク社製のサブスタンスH4(商品名)を用いた。表中、屈折率は、λ=500nmでの値、dは各層の機械的膜厚(nm)を示す。
【0029】
図1にはこの反射防止膜の垂直入射での330nmから800nmまでの分光反射率特性を示す。340nmから750nmまでの波長域に於いて反射率が平坦であり、最大反射率が1.0%以下に抑えられている。
【0030】
【0031】
[実施例2]
以下の表に実施例2の光学ガラス基板(ショット社製、硝材名LaF11A、屈折率=n=1.76、λ=500nm)に対する11層反射防止膜の膜構成を示す。尚、La2 Ti2 O7‐x (x=0.3〜0.7)としてメルク社製のサブスタンスH4(商品名)を用いた。表中、屈折率は、λ=500nmでの値、dは各層の機械的膜厚(nm)を示す。
【0032】
図2にはこの多層反射防止膜の垂直入射での330nmから800nmまでの分光反射率特性を示す。340nmから720nmまでの波長域に於いて反射率が平坦であり、最大反射率が1.0%以下に抑えられている。
【0033】
【0034】
【発明の効果】
以上の様に本発明の反射防止膜は、紫外〜可視の広い波長域に於いて平坦な低反射率特性を得ることができ、光吸収率が低いので、この多層反射防止膜を施した光学系は透過率が高く、結像にフレアが少ない。また、蛍光の発生強度が小さい。
【0035】
従って、この波長域の光を用いる光学機器、特に、蛍光顕微鏡の対物レンズ、等のレンズ部品に好ましく適用される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の反射防止膜の分光反射率特性である。
【図2】実施例2の反射防止膜の分光反射率特性である。
【図3】従来例の反射防止膜の分光反射率特性である。
Claims (4)
- 基板上に形成される6層以上11層以下の多層反射防止膜であり、
前記基板の基板面から順に第1層の屈折率は、波長500nmの光に対し1.6以上2.15以下であり、
最終層がフッ化マグネシウムから成り、
かつ330nmから800nmの波長域の全ての波長での透過率が80%以上であり、
1.92以上2.15以下の屈折率を有するLa2 Ti2 O7-x (x=0.3〜0.7)から成る層を2層以上具えることを特徴とする蛍光観察可能な光学機器に用いられる光学素子用の多層反射防止膜。 - フッ化マグネシウムからなる層を2層以上具えることを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
- 前記第1層はLa2 Ti2 O7-x (x=0.3〜0.7)から成ることを特徴とする請求項1または2に記載の反射防止膜。
- 前記第1層はアルミナ、またアルミニウムの複合物、またはアルミナと他の酸化物との混合物から選ばれる材料であることを特徴とする請求項1または2に記載の反射防止膜。
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