JP4392978B2 - 傾斜磁場コイル及びそれを用いた磁気共鳴イメージング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、傾斜磁場コイルによる渦電流の発生を抑制した磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置という)に係り、特に、平板型のアクティブシールド方式の傾斜磁場コイルの外周部付近のシールド性能向上技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
MRI装置は、均一な静磁場内に置かれた被検体に電磁波を照射したときに、被検体を構成する原子の原子核に生じる核磁気共鳴現象を利用し、被検体からの核磁気共鳴信号(以下、MR信号という)を検出し、このMR信号を使って画像を再構成することにより、被検体の物理的性質をあらわす磁気共鳴画像(以下、MR画像という)を得るものである。このイメージングの位置情報を与えるために、静磁場に重畳して傾斜磁場が印加される。
【0003】
従来のMRI装置では、装置を設置した検査室内に、被検体の水素原子核(プロトン)のスピンの向きを整列させるための静磁場を計測空間内に発生するための静磁場発生源と、被検体の位置情報を与えるために、X、Y、Zの3軸方向に位置エンコーディングを行う3チャンネルの傾斜磁場コイルと、プロトンの共鳴周波数をもつ電磁波を放射する送信用高周波コイルと、プロトンからのMR信号を受信する受信用高周波コイルなどを備えている。
【0004】
また、検査室の外には、上記静磁場発生源、傾斜磁場コイル、送信用高周波コイルに対する電源や、受信用高周波コイルに対する増幅器などが配設され、更に、それらを制御する操作卓やMR信号に基づいてMR画像を再構成する画像処理装置などが配設され、室内及び室外の装置全体でMRI装置が構成されている。
【0005】
図8に、上下方向に対向する静磁場発生源を備えたMRI装置の一例を示す。図8では、上下方向をZ軸方向、被検体の挿入方向、すなわち被検体の体軸方向をX軸方向としている。図8において、被検体5が挿入される計測空間1を挟んで、上下方向に対向して1対の静磁場発生源2a、2bが配設されている。また、静磁場発生源2a、2bの対向面側に1対の傾斜磁場コイル4a、4bが対向して配設されている。本例では、静磁場発生源2は超電導コイルであり、超電導コイル2は、これを支持し、冷却するための磁石容器3に収納されている。
【0006】
図8には、超電導磁石を配設した例を示したが、静磁場発生源としては永久磁石を用いたものや常伝導磁石を用いたものでも同様な構成となる。また、図には示していないが、計測空間1内の磁場均一度を調整するためのポールピース(磁極)を備えた場合でも同様である。
【0007】
図9に平板型のアクティブシールド方式の傾斜磁場コイルの構造例を示す。図9において、計測空間1を挟んで上下方向に配置された傾斜磁場コイル4a、4bは、それぞれ主コイル7a,7bとシールドコイル8a、8bを備え、更に主コイル7a、7bとシールドコイル8a、8bはそれぞれX、Y、Z軸方向のコイル(以下、主コイルX、同Y、同Z、シールドコイルX、同Y、同Zという)を備えている。上下の主コイル7a、7bを構成する主コイルX9a、9b、主コイルY10a、10b、主コイルZ11a、11bはそれぞれX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の傾斜磁場を発生し、シールドコイルX12a、12b、シールドコイルY13a、13b、シールドコイルZ14a、14bはそれぞれ主コイルX9a、9b、主コイルY10a、10b、主コイルZ11a、11bが傾斜磁場コイル4a、4bの外側に発生した漏洩磁場を打ち消すための逆向きの磁場を発生する。また、主コイル7a、7b及びシールドコイル8a、8b内の要素の配列順序は通常計測空間1に近い側からみて、前者では主コイルX9a、9b、主コイルY10a、10b、主コイルZ11a、11b、後者ではシールドコイルZ14a、14b、シールドコイルX12a、12b、シールドコイルY13a、13b、の順になっている。
【0008】
図示の各コイル要素は当業者がゴーレイコイルと呼んでいるもので、コイル導体は渦巻状に配置されている。この傾斜磁場コイル4a、4bの主コイル7a、7bが前面側に作る傾斜磁場は背面側の静磁場発生源2a、2b側にも漏洩し、静磁場発生源2a、2bに渦電流を発生させる。その渦電流による影響を低減するために、主コイル7a、7bとシールドコイル8a、8bの2層のゴーレイコイルによってそれぞれ逆向きの磁場を発生させることにより、計測空間1側には傾斜磁場を発生させながら、静磁場発生源2a、2b側への漏洩磁場を低減している。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の平板型のアクティブシールド方式の傾斜磁場コイル4であっても、以下に述べるような問題がある。この問題について図10、図11を用いて説明する。図10には、下側の傾斜磁場コイルと静磁場発生源との関係を示す。以下の説明では、X軸方向の傾斜磁場コイルを例にあげて説明する。図10において、下側の静磁場発生源2bを収納した磁石容器3bの上に下側のシールドコイルX12bと下側の主コイルX9bとが配設されている。主コイルX9b及びシールドコイルX12bに、それぞれ矢印M1(左巻き)、M2(右巻き)及びS1(右巻き)、S2(左巻き)で示した向きに電流が流れるように通電すると、それぞれのコイルによって矢印U1(上向き)、D1(下向き)及びD2(下向き)、U2(上向き)で示した向きの磁場が発生する。計測空間1には上下の傾斜磁場コイルの合成として、X軸方向の正の領域で矢印UXで示した上向きの傾斜磁場、X軸方向の負の領域で矢印DXで示した下向きの傾斜磁場が形成される。
【0010】
図9及び図10に示した傾斜磁場コイルのコイル導体のパターン作成方法については、例えば特公昭40-26368号公報にて公知となったゴーレイコイルとしてよく知られている。
【0011】
図10の破線15で示した磁石容器3bの表面の観測線15において、X軸方向の傾斜磁場コイル9b、12bによる漏洩傾斜磁場を計算すると、図11のようになる。図11は、観測線15上のX軸方向の傾斜磁場コイル9b、12bによる漏洩傾斜磁場強度分布を示したもので、横軸に磁石容器3bの中心軸(Z軸)からの距離、縦軸に漏洩磁場強度をとっている。図11において、曲線Mは主コイルX9bによるもの、曲線SはシールドコイルX12bによるもの、曲線Tは両コイルの漏洩磁場を合成したものである。主コイルX9bは正方向の磁場を発生するが、シールドコイルX12bはこれを打ち消すような負方向の磁場を発生させ、全体としては漏洩磁場は大幅に低減される。
【0012】
しかし、曲線TのX=700mm近傍に小さいピークが存在する。曲線Tの縦軸を拡大すると図12の如くなる。図12において、丸で囲んだ部分、すなわちアクティブシールド方式の傾斜磁場コイル4の半径より少し大きい位置にて、漏洩傾斜磁場のピ−クが発生する。この漏洩傾斜磁場により、傾斜磁場コイル4の外周部付近の磁石容器3aの表面に渦電流が発生し、撮影されたMR画像に悪影響を与える。
【0013】
本発明の発明者は、上記の傾斜磁場コイル4の端部に漏洩磁場が発生する原因を考察し、本発明を提案することになったので、以下にその原因の概略について、図13〜図15を用いて説明する。図13は、傾斜磁場コイル4の主コイル7及びシールドコイル8の1本のコイル導体が発生する磁場強度分布を模式的に示す。図13(a)は主コイル7によるもの、図13(b)はシールドコイル8によるものである。いずれも、観測線15のある磁石容器2の表面位置における磁場強度分布である。
【0014】
上記の磁場は、ビオサバールの法則によって計算され、コイル導体の位置と観測線15上の点との距離の2乗に反比例する大きさとなっている。磁石容器3との距離が遠い主コイル7の場合、磁石容器3の表面位置で、ピークが低く、傾斜のなだらかな強度分布の磁場16を発生し、逆に磁石容器3との距離が近いシールドコイル8の場合、ピークが高く、傾斜のきつい強度分布の磁場17を発生する。
【0015】
図14には、従来の平板型のアクティブシールド方式の傾斜磁場コイル4の配置例を模式的に示している。図14は、観測線15を含む断面における上側の傾斜磁場コイルの配置例を示したもので、上側の磁石容器3aの下に、主コイル7aのコイル導体、例えば8本のコイル導体が主コイル面40上に、シールドコイル8aのコイル導体、例えば6本のコイル導体がシールドコイル面41上に配置されている。ここで、シールドコイル8aのコイル導体は、シールド効果を上げるために、通常主コイル7aのコイル導体よりも広い範囲に配置されている。
【0016】
図15に、図14の丸印を付した傾斜磁場コイル4aの端部領域18における観測線15上の磁場強度分布を示す。図15(a)は主コイル7aが発生するもの、図15(b)はシールドコイル8aが発生するもので、実線16、17は単一のコイル導体によるもの、破線19、20はコイル全体によるものである。図15(c)は、シールドコイル8aの磁場強度分布に、主コイル7aの極性を変えた磁場強度分布を重ねて表示したもので、実線19は主コイル7aによるもの、破線20はシールドコイル8aによるものである。
【0017】
図15(a)において、主コイル7aによって、図14の如く配置された主コイル7aの外周側のコイル導体によって発生された実線16の複数個の磁場強度分布が加算されて、破線19で示した磁場強度分布の下向きの磁場が傾斜磁場コイル4aの端部領域18に発生する。同様に、図15(b)において、シールドコイル8aによって、図14の如く配置されたシールドコイル8aの外周側のコイル導体によって発生された実線17の複数個の磁場強度分布が加算されて、破線20で示した磁場強度分布の上向きの磁場が端部領域18に発生する。図15(c)には、端部領域18における主コイル7aによる磁場19(逆極性)とシールドコイル8aによる磁場20が重ねて表示されている。両磁場19、20がそれぞれ同じ大きさであれば、互いに磁場が打ち消し合って、端部領域18に漏洩傾斜磁場が発生することはなく、磁石容器3aの端部領域18に磁束が突入することはないが、実際には図示の如く斜線を施した部分について差異が生じ、磁石容器3aへの磁束の突入が起る。この差異は、図12に示した磁場強度分布の差異によるものであり、図14に示した構造のアクティブシールド方式の傾斜磁場コイルでは防ぐことができない。
【0018】
また、従来の円筒型のアクティブシールド方式の傾斜磁場コイルを備えたMRI装置では、上記の端部領域に、渦電流の発生する磁石容器を配置していないので、上記の問題は生じない。すなわち、シールドコイルを磁石容器よりも大きくすれば、上記の端部領域そのものが存在しないので、磁石容器に渦電流が発生することもない。
【0019】
以上説明した如く、平板型のアクティブシールド方式の傾斜磁場コイルを備えたMRI装置では、特有の問題として、傾斜磁場シールドコイルの端部領域にて傾斜磁場の磁束が漏洩し、磁石容器の表面に渦電流を発生させる。この渦電流は計測空間内に時間的に変動する磁場を発生させ、撮影されるMR画像の画質を劣化させる。
【0020】
上記に鑑み、本発明では、平板型のアクティブシールドコイル方式の傾斜磁場コイルを備えたMRI装置において、傾斜磁場コイルの端部領域に発生する漏洩傾斜磁場を低減することを目的とする。
【0021】
上記目的を達成するため、本発明の傾斜磁場コイルは、ほぼ平坦な面上に配置され、その前面側に傾斜磁場を発生する主コイルと、該主コイルの背面側のほぼ平坦な面上に配置され、前記主コイルが主としてその背面側に発生した磁場の少なくとも一部を打ち消すための磁場を発生するシールドコイルとから成る傾斜磁場コイルにおいて、前記主コイルの配列面と前記シールドコイルの配列面との間に少なくとも1個の第3のコイルが配置されている。
【0022】
この構成では、主コイルのコイル導体が配置された主コイル面とシールドコイルのコイル導体が配置されたシールドコイル面との間に少なくとも1個の第3のコイル配列面を設けて、この第3のコイル配列面に1本以上のコイル導体を配置しているので、この第3のコイル配列面のコイル導体による磁石容器表面上の傾斜磁場コイルの磁場強度分布はピークの高さ及び傾斜が主コイル面に配置したものとシールドコイル面に配置したものとの中間のものになる。このため、第3のコイル配列面のコイル導体を例えばシールドコイルに接続することにより、この磁場強度分布は、主コイルの磁場強度分布により近いものとなるとともに、シールドコイル全体の磁場強度分布の調整の自由度が増し、調整がし易くなるため、シールドコイルによって主コイルの漏洩磁場を打ち消すのが容易になる。
【0023】
本発明の傾斜磁場コイルでは、更に前記少なくとも1個の第3のコイルが前記シールドコイルの外周部のコイル導体と接続され、前記シールドコイルのコイル導体と同じ向きの電流が通電される。この構成では、第3のコイル配列面に配列されるコイル導体がシールドコイルの外周部のコイル導体に接続されているので、この第3のコイル配列面のコイル導体の磁場強度分布は主コイルの磁場強度分布により近いものになるとともに、シールドコイルが磁石容器表面上の傾斜磁場コイルの端部領域に発生する打ち消し磁場の磁場強度分布の調整を容易に行うことができ、その調整により、端部領域における傾斜磁場コイルの漏洩磁場を低減することができる。その結果、端部領域の磁石容器表面での渦電流の発生を抑制できるので、この渦電流による計測空間内の静磁場への悪影響を抑制することができる。
【0024】
本発明の傾斜磁場コイルでは、更に前記第3のコイル配列面は少なくとも2面あり、第1の面に配列されるコイル導体が前記主コイルの外周部のコイル導体と接続されて、前記主コイルのコイル導体と同じ向きの電流が通電され、第2の面に配列されるコイル導体が前記シールドコイルの外周部のコイル導体と接続されて、前記シールドコイルのコイル導体と同じ向きの電流が通電される。この構成では、主コイルとシールドコイルの相方に第3のコイル配列面に配置されたコイル導体が接続され、それぞれのコイルと同じ向きの電流が通電されているので、両コイルにおいて、磁石容器表面上の磁場強度分布の調整が可能となり、主コイルによる磁石容器表面上の漏洩磁場のシールドコイルによる打ち消しを容易に行うことができる。
【0025】
本発明の傾斜磁場コイルは、ほぼ平坦な面上に配置され、その前面側に傾斜磁場を発生する主コイルと、該主コイルの背面側のほぼ平坦な面上に配置され、前記主コイルが主としてその背面側に発生した磁場の少なくとも一部を打ち消すための磁場を発生するシールドコイルとから成る傾斜磁場コイルにおいて、前記シールドコイルの外周部のコイル導体に流れる電流がそのコイル導体の外側に配置された2本以上の分岐コイル導体を流れる電流に分流される。
【0026】
この構成では、シールドコイルの外周部のコイル導体を流れる電流を、その外側に配列された2本以上の分岐コイル導体に分流しているので、傾斜磁場コイル外周部におけるそれらのコイル導体による磁石容器表面上の磁場強度分布に関しては、内側のコイル導体よりも分岐コイル導体の方がピークが低く、傾斜がなだらかになっており、分岐コイル導体の磁場強度分布は主コイルのコイル導体の磁場強度分布により近いものとなる。この結果、傾斜磁場コイルの端部領域における主コイルの漏洩磁場を打ち消すためのシールドコイルが発生する磁場強度分布の調整を容易に行うことができ、磁石容器表面上の漏洩磁場を低減することができる。
【0027】
本発明の傾斜磁場コイルでは、更に前記2本以上の分岐コイル導体に分流される電流値は外側に配置されたものほど小さくなる。この構成では、シールドコイルの分岐コイル導体の電流値が外側に行くほど小さくなるため、その磁場強度分布も外側に行くほどピークが低く、傾斜がなだらかなものとなり、主コイルのコイル導体の磁場強度分布により近いものとなる。このため、主コイルの漏洩磁場を打ち消すために発生するシールドコイルの磁場の調整が容易になり、傾斜磁場コイルの端部領域の漏洩磁場を低減することができる。
【0028】
本発明のMRI装置では、計測空間を挟んで対向して配置された1対の静磁場発生源を備えた対向型磁石装置と、計測空間を挟んで、前記対向型磁石装置の内側に対向して配置された1対の傾斜磁場コイルを具備する磁気共鳴イメージング装置において、前記傾斜磁場コイルが本発明の傾斜磁場コイルである。この構成では、対向型磁石装置の磁石容器の対向面側に配置された傾斜磁場コイルについて、磁石容器表面上の傾斜磁場コイルの端部領域における漏洩磁場を低減することができる構造にしているので、磁石容器表面上の端部領域における渦電流の発生は抑制される。その結果、この渦電流による計測空間内の静磁場への悪影響が阻止され、MR画像の画質向上が図られる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を図面に沿って具体的に説明する。
図1に、本発明に係る傾斜磁場コイルの第1の実施例をMRI装置に実装した状態の要部概略断面図を示す。図1は、MRI装置の計測空間を基準にして、その上側右半分の要部断面を示している。図1において、装置の上下方向の中心軸をZ軸、傾斜磁場コイル30aのコイル導体の配列方向をX軸方向、紙面に垂直方向をY軸方向とする。以下の図においても、特に断わらない限り、座標系は図1と同じとする。本発明においても、傾斜磁場コイル30は、従来の技術の図9で説明した如く、X、Y、Zの3軸方向のコイル要素から構成されているが、以下の説明では1つの軸方向のコイル要素を代表として取り上げて説明することにする。従って、以下の説明は、X、Y、Zの各軸方向に適用可能である。
【0030】
図1において、上側の静磁場発生源2aを収納した上側の磁石容器3aの対向面25aの下側に、平板型のアクティブシールド方式の傾斜磁場コイル30の上側部分30aが配設されている。上側の傾斜磁場コイル30aは、主コイル31aとシールドコイル32aと第3層のコイル33aとから成る。主コイル31aは磁石の中央部の計測空間に傾斜磁場を発生する。シールドコイル32aは主コイル31aが計測空間以外に発生した磁場を打ち消すための磁場を発生する。以下、傾斜磁場コイル30の向きに関し、傾斜磁場を発生する計測空間の側を前面側、磁石容器3のある側を背面側と呼ぶことにする。各コイル31a、32a、33aは、コイル導体とこれを収容する絶縁物容器とから構成されるが、簡単のためコイル導体の配列のみを示す。コイル導体は銅線や銅管などの良導体から成る。絶縁容器はガラス繊維補強エポキシ樹脂などの機械的強度の大きい絶縁材料を用いて作られている。また、絶縁容器の代り、コイル間の絶縁をシート状絶縁材料で行う場合もある。
【0031】
ここで、第3層のコイル33aは1本(図示では1本)以上のコイル導体から成り、主コイル31aのコイル導体が配列された面(以下、主コイル面という)40とシールドコイル32aのコイル導体が配列された面(以下、シールドコイル面という)41との間の面に配列される。第3層のコイル33aのコイル導体が配列された面(以下、第3のコイル配列面という)42の位置は図示の例では主コイル面40とシールドコイル面41とのほぼ中間にあるが、これに限定されず、主コイル面40により近い側でも、シールドコイル面41により近い側でもよい。
【0032】
本実施例では、第3層のコイル33aにシールドコイル32aと同じ向きの電流を通電している。このときの傾斜磁場コイル30aの背面側の端部領域18における磁場強度分布の様子を図2に示す。第3層のコイル33aが磁石容器3aの対向面25aを基準にしてシールドコイル32aより遠い位置に配置されているため、図2において、シールドコイル32aの単一のコイル導体による磁場37の強度分布はピークが高く、傾斜がきつくなっているのに対し、第3層のコイル33aの単一のコイル導体による磁場38の強度分布はピークも低く、傾斜もなだらかになっている。このような磁場強度分布の第3層のコイル33aを使用することにより、傾斜磁場コイル30aの背面側の端部領域18において、第3層のコイル33aとシールドコイル32aとを合わせたシールドコイルによる磁場36は破線で示した如くなり、実線で示した主コイル31aによる磁場35とほぼ同様の分布となる。その結果、本実施例のシールドコイルによって主コイル31aによる磁場35をほぼ打ち消すことができるので、端部領域18における漏洩傾斜磁場を低減することができる。
【0033】
図3には、本実施例の上側の傾斜磁場コイル30aの右側半分を上方から見た斜視図を示す。図3には、シールドコイル32aと第3層のコイル33aのコイル導体の配置が示されている。図3において、A−A’線及びB−B’線はシールドコイル面41上に設定された直交線で、A−A’線はZ軸を通りX軸に平行な線で、B−B’線はZ軸を通りY軸に平行な線である。図1に示した傾斜磁場コイル30aの断面図は、図3におけるA−A’線を含む断面図である。本実施例では、第3層のコイル33aには、シールドコイル32aと同じ向きの電流が通電されるので、シールドコイル32aの一部を第3層のコイル33aとして利用するという考え方に基づいて、傾斜磁場コイル30aは形成される。すなわち、図3に示すように、シールドコイル面41に巻回されているシールドコイル32aのコイル導体のうち、外側のコイル導体を主コイル面40に近い第3のコイル配列面42に配置することにより、第3層のコイル33aが形成される。
【0034】
図3において、シールドコイル面41から離れる第3層のコイル33aのコイル導体は、例えばシールドコイル面41を頂き面とし、第3のコイル配列面42を底面とする円錐台に沿って配置され、A−A’線を含む断面上の右側端部(傾斜磁場コイル30aの外周部)ではシールドコイル面41から最も離れた位置、すなわち第3のコイル配列面42上にあり、B−B’線付近ではシールドコイル面41と同じ高さの位置にあって、シールドコイル32aのコイル導体に接続される。
【0035】
ここで、第3層のコイル33aのコイル導体は1本に限定されず、複数本配列してもよい。また、第3のコイル配列面42については、1面に限定されず、2面以上にしてもよい。また、図3においては、第3層のコイル33aにシールドコイル32aと同じ向きの電流を通電したが、第3層のコイル33aには主コイル31aと同じ向きの電流を通電してもよい。この場合には、主コイル31aのコイル導体の一部をシールドコイル32aに近づけるという考え方で傾斜磁場コイル30aを構成してもよい。更には、主コイル31a及びシールドコイル32aのそれぞれに第1及び第2の第3層のコイルを設け、これらの第1、第2の第3層のコイルを互いに近付けるように配置してもよい。このように、第3のコイル配列面を2面以上設けることによって、磁場強度分布の調整がより容易になるため、傾斜磁場コイルの背面側の端部領域にこの構成を適用することにより、この端部領域における漏洩磁場を低減することができる。
【0036】
図4には、第3層のコイル33aのコイル導体の他の配置例を示す。図4は図3と同様に上側の傾斜磁場コイル30aの斜視図である。図4において、この配置例では、第3層のコイル33aのコイル導体はシールドコイル面41のB−B’線付近でシールドコイル32aのコイル導体に接続され、上記の円錐台の傾斜面を這った後、第3のコイル配列面42上を円弧状に巻回されて、反対側の端部まで配置されている。
【0037】
第3層のコイル33aのコイル導体の配置については他の方法も考えられるが、本実施例は第3層のコイルを主コイル面40とシールドコイル面41との間に配置することを主旨とするものであるので、第3層のコイル33aの巻き方についての詳細な説明については省略する。
【0038】
図5に、本発明に係る傾斜磁場コイルの第2の実施例をMRI装置に実装した状態の要部概略断面図を示す。図5は、MRI装置の計測空間を基準にして、その上側右半分の要部断面を示している。本実施例では、シールドコイルの外周部に配置されたコイル導体を2本の分岐コイル導体に分岐して、コイル電流を分流することにより、各分岐コイル導体を流れる電流値を小さくして、各分岐コイル導体が傾斜磁場コイルの背面側の端部領域に形成する磁場強度分布を傾斜のなだらかなものとしている。図5において、上側の磁石容器3aの対向面25aの下側に本実施例の平板型のアクティブシールド方式の傾斜磁場コイル50の上側部分50aが配設されている。上側の傾斜磁場コイル50は、主コイル51aとシールドコイル52aとから成る。本実施例においても、第1の実施例と同様、各コイル51a、52aは、コイル導体と絶縁物容器とから構成されるが、図示ではコイル導体の配列のみを示す。主コイル51aのコイル導体は主コイル面40に配列され、シールドコイル52aのコイル導体はシールドコイル面41に配列されている。シールドコイル52aは太線のコイル導体53aと細線の分岐コイル導体54a、55a、とから成り、細線の分岐コイル導体54a、55aはシールドコイル52aの最も外側の、傾斜磁場コイル50aの背面側の端部領域18付近に配列される。この端部領域18付近で、太線のコイル導体53aの端部に2本の細線の分岐コイル導体54a、55aが接続され、太線のコイル導体53aの電流が細線の分岐コイル導体54a、55aに分流される。本実施例では、簡単のため、シールドコイル52aの最も外側の太線のコイル導体53aの電流についてのみ2分割しているが、これに限定されず、複数の太線のコイル導体53aについて電流を分流してもよいし、また2本以上の分岐コイル導体に分流してもよい。
【0039】
図6に、傾斜磁場コイル50aの背面側の端部領域18における磁場強度分布の様子を示す。細線の分岐コイル導体54a、55aに対する電流の分流は、通常内側の細線の分岐コイル導体54aの方に外側の細線の分岐コイル導体55aより多くの電流が流れるように行われている。上記の如く、シールドコイル52aの電流の分流を行うことにより、図6において、細線の分岐コイル導体54a、55aがつくる磁場59、60は太線のコイル導体53aがつくる磁場58と比べて、ピークが低く、傾斜のなだらかな強度分布となる。また、2本の細線の分岐コイル導体54a、55aが作る磁場59、60を比較したとき、外側の分流電流の少ない細線の分岐コイル導体55aが作る磁場60の方がピークがより低く、傾斜がよりなだらかな強度分布になっている。
【0040】
また、シールドコイル52a全体が作る端部領域18での磁場強度分布は破線57で示した如くなり、図15(c)で破線20で示した従来のシールドコイル8aの磁場強度分布と比べ、ピークも低く傾斜もなだらかなものとなっている。この結果、シールドコイル52a全体で作る磁場57は、実線56で示した主コイル51a全体で作る磁場により近い強度分布を持つ磁場となり、傾斜磁場コイル50a全体としてその背面側の端部領域18での漏洩磁場を低減することが可能となる。
【0041】
図7には、本実施例のシールドコイル52aのコイル導体の配置例を示す。図7において、点Cから点Dまでは太線のコイル導体53aが配置され、点Dから点Eまでは細線の分岐コイル導体54a、55aが配置されている。すなわち、点Cから入った電流は点Dまで一筆書きの要領で、渦巻状に太線のコイル導体53aを流れて、点Dで2本の細線の分岐コイル導体54a、55aに分流され、1回転して点Eで合流される。点Cと点Eは、傾斜磁場コイル50の電源に接続されている。
【0042】
図7において、シールドコイル52aの太線のコイル導体53aを流れる電流Iは点Dにおいて、内側の細線の分岐コイル導体54aに電流I1、外側の細線の分岐コイル導体55aに電流I2が流れるように分流されるが、各々の電流値は前述の如く通常I1>I2(=I−I1)となるように選定される。電流I1、I2は、各々の分岐コイル導体54a、55aの端部領域18における磁場分布を考慮して、シールドコイル52a全体の作る磁場が主コイル51a全体の作る磁場を打ち消すことができるように選定される。分流電流I1、I2の値を決めるに当っては、各々の分岐コイル導体54aの55aの抵抗を適当に与えることによって、電流I1とI2の比率を制御することができるので、容易に決定することができる。
【0043】
具体的には、細線の分岐コイル導体54a、55aの経路の長さ、断面積を適当に選定することにより、細線の分岐コイル導体54a、55aの抵抗を変化させることができる。また、各々の細線の分岐コイル導体54a、55aの経路に抵抗器を挿入することにより、抵抗を変化させることができる。
【0044】
上記の実施例の説明においては、第1の実施例と第2の実施例を別々の独立の実施例として説明したが、第1の実施例と第2の実施例とを組み合わせて実施することも可能である。例えば、端部領域付近のシールドコイル導体を2本の分岐コイル導体に分割(電流を分流)して、一方をシールドコイル面に配置し、他方を主コイル面とシールドコイル面との間の第3のコイル配列面に配置するとか、第3のコイル配列面に配置し、シールドコイルに接続されたコイル導体を2本の分岐コイル導体に分割するとか、などの実施例も可能である。
【0045】
【発明の効果】
以上説明した如く、本発明に係る傾斜磁場コイルでは、主コイルのコイル導体が配列された主コイル面と、シールドコイルのコイル導体が配列されたシールドコイル面との間に第3のコイル配列面を設けて、主コイル又はシールドコイルに接続されたコイル導体を配列しているので、この第3のコイル配列面のコイル導体が磁石容器表面上の端部領域に発生する磁場の強度分布は、そのピークの高さ、傾斜のなだらかさが主コイルのものとシールドコイルのものの中間に位置するものとなる。この結果から、第3のコイル配列面のコイル導体の磁場強度分布は、主コイル及びシールドコイルの磁場強度分布の調整に利用することができ、特に第3のコイル配列面のコイル導体をシールドコイルに接続することにより、主コイルの漏洩磁場を打ち消すためのシールドコイルの磁場を調整するのに利用でき、打ち消し磁場の調整が容易になる。本発明に係る傾斜磁場コイルをMRI装置に適用することにより、磁石容器表面上の漏洩磁場を低減し、渦電流の発生を抑制することができるので、この渦電流の発生による計測空間内の静磁場への悪影響を抑制することができる。
【0046】
また、本発明に係る傾斜磁場コイルでは、シールドコイルの外側に配列したコイル導体を2本以上の分岐コイル導体に分岐し、分岐コイル導体をシールドコイルの最外周に配列して、コイル電流を分流しているので、この分岐コイル導体が磁石容器表面上の端部領域に発生する磁場の強度分布はシールドコイルの分流前のコイル導体のものよりピークが低く、傾斜がなだらかになり、主コイルのコイル導体の磁場強度分布に近いものとなる。この結果、本発明に係る傾斜磁場コイルをMRI装置に適用することにより、主コイルの端部領域の漏洩磁場を打ち消すためのシールドコイルの磁場を調整するのが容易になり、磁石容器表面上の端部領域における漏洩磁場を低減し、渦電流の発生を抑制することができるので、この渦電流の発生による計測空間内の静磁場への悪影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る傾斜磁場コイルの第1の実施例をMRI装置に実装した状態の要部概略断面図。
【図2】第1の実施例の傾斜磁場コイルの端部領域における磁場強度分布の様子。
【図3】第1の実施例の上側の傾斜磁場コイルの右側半分を上方から見た斜視図。
【図4】第3層のコイルのコイル導体の他の配置例。
【図5】本発明に係る傾斜磁場コイルの第2の実施例をMRI装置に実装した状態の要部概略断面図。
【図6】第2の実施例の傾斜磁場コイルの端部領域における磁場強度分布の様子。
【図7】第2の実施例のシールドコイルのコイル導体の配置例。
【図8】上下方向に対向すら静磁場発生源を備えたMRI装置の一例。
【図9】アクティブシールド方式の傾斜磁場コイルの構造例。
【図10】下側の傾斜磁場コイルと静磁場発生源との関係。
【図11】観測線上のX軸方向の傾斜磁場コイルによる漏洩傾斜磁場強度分布。
【図12】図11の曲線Tの縦軸の拡大図。
【図13】傾斜磁場コイルの主コイル及びシールドコイルの1本のコイル導体が発生する磁場強度分布。
【図14】従来のアクティブシールド方式の平板型傾斜磁場コイルの配置例。
【図15】従来のアクティブシールド方式の平板型傾斜磁場コイルの端部領域に置ける観測線上の磁場強度分布。
【符号の説明】
1…計測空間
2,2a、2b…静磁場発生源(超電導コイル)
3,3a、3b…磁石容器
4,4a、4b、30、30a、30b、50、50a、50b…傾斜磁場コイル
5…被検体
7,7a、7b、31、31a、31b、51、51a、51b…傾斜磁場主コイル
8,8a、8b、32、32a、32b、52、52a、52b…傾斜磁場シールドコイル
9,9a、9b…主コイルX
10、10a、10b…主コイルY
11、11a、11b…主コイルZ
12、12a、12b…シールドコイルX
13、13a、13b…シールドコイルY
14、14a、14b…シールドコイルZ
15…観測線
16…単一の主コイル導体の磁場
17、37、58…単一のシールドコイル導体の磁場
18…端部領域
19、35、56…主コイルの磁場
20、36、57…シールドコイルの磁場
25、25a、25b…対向面(磁石容器)
33、33a、33b…第3層のコイル
38…単一の第3層のコイル導体の磁場
40…主コイル面
41…シールドコイル面
42…第3のコイル配列面
53、53a、53b…シールドコイル導体
54、54a、54b、55、55a、55b…シールドコイル分岐コイル導体
59、60…シールドコイル分岐コイル導体の磁場
Claims (1)
- 計測空間を挟んで対向して配置された1対の静磁場発生源を備えた対向型磁石装置と、計測空間を挟んで、前記対向型磁石装置の内側に対向して配置された1対の傾斜磁場コイルを具備し、前記傾斜磁場コイルは、
ほぼ平坦な面上に配置され、その前面側に傾斜磁場を発生する主コイルと、該主コイルの背面側のほぼ平坦な面上に配置され、前記主コイルが主としてその背面側に発生した磁場の少なくとも一部を打ち消すための磁場を発生するシールドコイルとから成る磁気共鳴イメージング装置において、前記静磁場発生源は対向面に凹みがなく、前記主コイルの配列面と前記シールドコイルの配列面との間に少なくとも1個の第3のコイルを備え、前記少なくとも1個の第3のコイルは前記シールドコイルの一部であり、前記対向面上の主コイルの径よりも大きい部分における電流の方向が、前記シールドコイルの外周部と同じであり、前記シールドコイルの外周部のコイル導体と接続されていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
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