JP4392888B2 - 耐食性に優れた硬質被膜の製造方法 - Google Patents

耐食性に優れた硬質被膜の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐摩耗性に優れるのみならずも著しく高められた硬質被膜、及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼等の金属部材に耐食性及び耐摩耗性を付与する方法として硬質クロムメッキやNi−Pメッキ等が汎用されている。これらのメッキ処理により、Hv600〜1200の非常に高い硬度を有する耐摩耗性に優れた金属部材が得られる。
【0003】
ところがクロムメッキにより更に高硬度の膜を得ようとすると、成膜時に被膜に引張応力が発生するため、膜にクラックが生じてピンホールとなり、耐食性が低下するという問題があった。また、近年、環境問題に対する関心が高まるにつれ、環境に有害な六価クロムを含むメッキ液の使用は減少する傾向にあり、これに代わる技術が望まれている。
【0004】
一方、Ni−Pメッキによれば、メッキ直後の膜硬度はHvで600〜800程度であるが、更に300〜400℃以上の温度で熱処理することにより硬度が一層高まり、耐摩耗性を更に向上させることが可能である。しかしながら、近年における耐摩耗部品の長寿命化・高性能化への要求が益々高まるに従い、より高硬度で耐摩耗性に優れた被膜の提供が切望されている。
【0005】
そこで、上記湿式メッキに比べて高硬度の膜が製造可能な気相合成法を採用し、耐摩耗性の一層高められた耐摩耗性部品が提供されている。しかしながら、気相合成法によって得られた硬質膜にはピンホールが多数存在し、母材の耐食性に劣るという欠点があった。即ち、この硬質膜自体は極めて耐食性に優れており、例えば炭素鋼等に比べると非常に高い電位を有している。従って、母材(基板)が炭素鋼の場合、気相合成法により高硬度の硬質膜を製造し得たとしても、該硬質膜が腐食環境下に曝されるとピンホール部分で基板と電池を形成し、基板側がガルバニック腐食を起こしてピンホール部分が著しく腐食するという問題がある。
【0006】
そこで、気相合成膜の耐食性を改善すべく様々な提案がなされている。例えば特開平5−239620には、物理蒸着法により金属表面にTi,Zr、Hf、V、Nb、TaまたはCrの窒化物、炭化物または炭窒化物のいずれか一種の硬質被膜を被覆成膜する途中において、製膜に用いられた上記の金属を硬質被膜上に真空蒸着して前記硬質被膜と金属層の多層構造とし、最外層を前記硬質被膜とする方法が開示されており、これにより、被膜中のピンホールが減少して耐食性が向上する旨記載されている。しかしながら、上記方法を採用したとしてもピンホールを有効に減少させることはできず、耐食性の観点では未だ不十分であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、被膜中のピンホールを減少させることにより硬質被膜が被覆される基板の耐食性を高めると共に、耐摩耗性にも優れた硬質被膜、およびこの様な硬質被膜を効率よく製造することのできる方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決し得た本発明に係る耐食性に優れた硬質被膜とは、金属基板の表面に、IVa族,Va族またはVIa族に属する金属の層が被覆されたものであるところに要旨を有する。
【0009】
上記IVa族,Va族またはVIa族に属する金属は、Ti,Cr,VまたはZrであることが好ましく、更に好ましいのはCrである。
【0010】
更に耐食性に加えて耐摩耗性の向上を図る場合には、上記金属層の上に、該金属の窒化物、炭化物または炭窒化物の硬質層が被覆されたものであることが推奨される。
【0011】
尚、一層優れた耐食性及び耐摩耗性の付与を目指して、上記硬質層の上に、更にIVa族,Va族またはVIa族に属する金属の層、及び該金属の窒化物,炭化物または炭窒化物の硬質層を順次被覆することは本発明の好ましい態様である。
【0012】
また、耐食性の向上に当たっては、金属基板の表面粗さ(Ra)や金属基板の表面に形成される金属層(第一金属層)の厚みを制御することが重要である。具体的には、金属基板の表面粗さはRaで0.20μm以下;金属基板の表面に形成される金属層の厚みは0.2μm以上;金属基板の表面粗さRaに対する金属基板表面に形成される金属層の厚みの比は3.0以上とすることが推奨される。
【0013】
更に上記課題を解決し得た本発明に係る耐食性硬質被膜の製造方法とは、▲1▼気相合成法により、金属基板上に、IVa族,Va族またはVIa族に属する金属の層;及び該金属の窒化物,炭化物または炭窒化物の硬質層を被覆する方法において、上記IVa族,Va族またはVIa族に属する金属の層を被覆するときの金属基板温度を700℃以上に制御するか;または▲2▼気相合成法により、金属基板上に、IVa族,Va族またはVIa族に属する金属の層;及び該金属の窒化物,炭化物または炭窒化物の硬質層を被覆した後、真空中、700℃以上の温度で熱処理するところに要旨を有するものえあり、これにより、耐食性の更なる向上を図るものである。尚、前者(▲1▼)の方法において、耐食性硬質被膜を製造した後、更に真空中、700℃以上の温度で熱処理することは本発明の好ましい態様である。
【0014】
【発明の実施の形態】
前述した様にイオンプレーティング法やスパッタリング法等の気相合成法によりIVa族、Va族またはVIa族元素の窒化物、炭化物または炭窒化物の硬質物質を金属基板の表面に成膜すれば、耐摩耗性や摺動性に優れた硬質被膜が得られるが、ピンホールが多数存在する為、基板の耐食性に劣るという問題を抱えていた。この様なピンホールの発生機構は詳細には不明であるが、以下の様に考えられる。即ち、上記硬質被膜の組織は金属基板の表面から垂直方向に伸びる柱状晶組織であり、成膜時に柱状晶が成長する過程で隣接する柱状晶と柱状晶の界面が充分埋まらない為、該柱状晶界面がピンホールになるものと考えられる。また、イオンプレーティング法やスパッタリング法では、金属を溶解して発生する金属蒸気やイオン衝突の衝撃によりたたき出された金属原子によって成膜を行うが、その際、金属蒸気や原子のみならず金属のミクロンオーダーの金属粒子も基板上に飛来する為、硬質被膜上に金属粒子が存在する様になる。この金属粒子の周辺は成膜によっても十分埋まらない為、やはりピンホールの原因となるのである。この様にして発生したピンホールは、膜厚を厚くしてもなかなか埋まらず、気相合成膜の耐食性を著しく低下させる要因となっていた。
【0015】
そこで、前記従来技術に掲げた特開平5−239620号公報の様に、気相合成法によりIVa族、Va族またはVIa族元素の窒化物、炭化物または炭窒化物の硬質物質を金属基板の表面に成膜した後、更に該硬質被膜の上にIVAa族、Va族、VIa族元素の金属膜をコーティングしてピンホールを塞ぐ方法が提案されている。この方法を採用すれば或る程度の効果は得られるものの、比較的大きなピンホール部分については充分な効果が得られず、前述の理由により該金属膜がピンホールを引きずって成長する為、大きなピンホールを充分埋めることはできないことが分かった。このことは、更にその上に硬質膜や金属膜を積層させた多層構造にしたとしても同様であり、各膜の層が下地層の比較的大きなピンホールを引きずって成長する為、やはりピンホールを充分埋めることはできない。
【0016】
そこで本発明者らは、ピンホールを減少させて耐食性の高められた硬質被膜を提供すべく鋭意検討した結果、前記公報の如く「IVa族元素の窒化物等の硬質物質を金属基板の表面に被覆してから該硬質物質中の金属の層を被覆する」のではなく、「金属基板の表面に、まずIVa族等の金属の層を被覆」すれば耐食性が著しく向上すること;そして「該金属層の上に、該金属の窒化物等の硬質層を被覆」すれば耐摩耗性が更に高められることを見出し、本発明を完成したのである。
【0017】
この様に本発明では、金属基板の表面にまず、IVa族等の金属の層を設けている点で前記従来技術に記載の構成とは大きく相違している。従って本発明によれば、従来技術の様に金属基板の表面に形成されたIVa族元素等の窒化物等がピンホールを引きずることはなく、ピンホールの少ない金属層(第一金属層)が得られる為、該第一金属層において、耐食性の大部分を維持できるのである。更に、この第一金属層の上に第二層として硬質膜(第二硬質層)を被覆すれば耐摩耗性も著しく向上するのである。
【0018】
上記第二硬質層の上に更に、Va族,Va族またはVIa族に属する金属の層(第三金属層)、及び該金属の窒化物,炭化物または炭窒化物の硬質層(第四硬質層)を順次被覆したものはピンホールを更に一層減少させることが可能となり、耐食性は益々向上する様になると共に、硬質層が最外層に形成されているので耐摩耗性も高度に高められる様になる。更にその上に、金属層及び硬質層を順次積層させていっても良く、これにより、更なる性能向上が発揮される。
【0019】
尚、金属基板の表面に被覆される金属は、IVa族(Ti,Zr,Hf),Va族(V,Nb,Ta)またはVIa族(Cr,Mo,W)に属する金属であることが必要である。これ以外の金属では、基板表面に緻密な層を得ることができず、金属層自体にピンホールが多数発生してしまうからである。上記金属の中でも特にCrはピンホールの少ない硬質膜を形成し、耐食性に極めて優れているので有用である。尚、これらの金属は合金として存在していても良く、例えばTi50Cr50,Ti50Zr50等が挙げられる。
【0020】
また、上記硬質層を構成する上記金属の窒化物,炭化物,炭窒化物としては、例えばTiN,CrN,VN,ZrN,Ti2N,Cr2N,(Ti,Cr)N,(Ti,V)N,(Ti,Zr)N,(Cr,V)N,(Cr,Zr)N,(V,Zr)N等の窒化物;TiC,Cr236,VC,ZrC等の炭化物;TiCN等の炭窒化物等が挙げられる。
【0021】
尚、成膜過程では、チャンバー壁に吸着している酸素や炭酸ガスが放出される結果、上記硬質層のうち窒化物、及び金属層には不可避的に酸素や炭素が混入し、一方、上記硬質層のうち炭化物または炭窒化物には不可避的に酸素原子が混入する恐れがある。例えば成膜中に各々最大5原子%まで混入する場合があるが、これにより、被膜の特性が損なわれる訳ではない。
【0022】
この様に本発明の硬質被膜は、金属基板の表面にまず所定の金属層を被覆することにより耐食性を高め、更に該金属層の上に、当該金属層を構成する金属の窒化物等の硬質層を被覆することにより耐摩耗性を高めるものであるところに特徴を有するものであり、これらの金属層及び硬質層を順次被覆することにより一層の特性向上を図るものである。
【0023】
その他、耐食性に関与する因子として、金属基板の表面粗さ(Ra)及び金属基板の表面に被覆された金属層(第一金属層)の厚みが挙げられる。
【0024】
このうち上記第一金属層の厚みは0.2μm以上であることが好ましい。本発明により金属基板の表面には所定の金属からなる緻密な金属層が被覆されると言えども、その厚みが0.2μm未満の場合は当該金属層の被覆効果が充分得られず、ピンホールが多数できてしまうからである。より好ましくは1μm以上、更により好ましいのは2μm以上である。尚、その上限は特に限定されないが、あまり厚くしても金属層の被覆被覆は飽和してしまうこと、及び生産性等を考慮すれば、20μm以下、より好ましくは10μm以下に制御することが推奨される。
【0025】
また、第一金属層のピンホール数は基板の表面粗さにも影響されることから、金属基板の表面粗さはRaで0.20μm以下であることが好ましい。基板の表面粗さRaが0.20μmを超えると、金属層の厚さをいくら厚くしても金属基板の凹部が完全に埋まらず、ピンホールが生成してしまう為、所望の耐食性が得られないからである。より好ましくは0.10μm以下である。尚、その下限は特に限定されず、Raは小さければ小さいほど良いが、経済性等を考慮すれば、その上限を0.01μm以上にすることが推奨される。
【0026】
尚、金属基板の表面に被覆される金属層(第一金属層)の厚みは金属基板の表面粗さRaとの関係で特定することが好ましく、具体的には、金属基板の表面粗さRaに対する第一金属層の厚みは3.0以上であることが好ましい。3.0未満では、金属基板の凹部が完全に埋まらずピンホールができてしまうからである。より好ましい比率は5.0以上、更により好ましいのは10以上である。
【0027】
更に、第一金属層の上に被覆される第二硬質層の厚みは、耐摩耗性付与の観点からすれば、1μm以上であることが好ましい。更に好ましくは2μm以上である。尚、その上限は特に限定されないが、あまり厚くしても効果が飽和してしまうこと、及び生産性等を考慮すれば、50μm以下、より好ましくは30μm以下に制御することが推奨される。
【0028】
また、本発明に用いられる金属基板は硬質被膜の作製に通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば炭素鋼,ステンレス鋼,合金鋼,炭素工具鋼,高速度工具鋼,合金工具鋼,軸受鋼等が挙げられる。
【0029】
次に、本発明の硬質被膜を製造する方法について説明する。
【0030】
本発明法は、基本的に気相合成法により硬質被膜を製造するものであり、通常採用される気相合成法を用いて所望の硬質被膜を製造すれば良い。但し、耐食性に一層優れた耐食性硬質被膜を製造する場合には、▲1▼気相合成法により、金属基板上に、IVa族,Va族またはVIa族に属する金属の層;及び該金属の窒化物,炭化物または炭窒化物の硬質層を被覆する方法において、上記IVa族,Va族またはVIa族に属する金属の層を被覆するときの金属基板温度を700℃以上に制御するか;▲2▼気相合成法により、金属基板上に、IVa族,Va族またはVIa族に属する金属の層;及び該金属の窒化物,炭化物または炭窒化物の硬質層を被覆した後、真空中、700℃以上の温度で熱処理することが重要である。即ち、耐食性硬質被膜を製造する場合には、上記▲1▼の方法によって成膜するか;または▲2▼の方法によって成膜した後、真空中、700℃以上の温度で熱処理すれば、金属層中の金属元素が拡散して再結晶化する為、金属層中のピンホールが消失し、耐食性が一層向上するのである。従って、上記▲1▼または▲2▼の方法を採用する場合には、金属基板表面に所定の金属層を被覆する場合は勿論のこと、金属基板表面に所定の硬質層(該金属の窒化物等)を被覆した場合であっても、上述した金属層中の金属元素拡散によるピンホール消失効果が得られるため、所望の耐食性硬質被膜が得られる。従って、本発明法では上記▲1▼及び▲2▼の方法を採用する限り、金属基板の表面に所定の金属層を被覆した場合も、金属基板の表面に所定の上記硬質層を被覆した場合も、いずれも本発明法の範囲内に包含される。勿論、上記▲1▼及び▲2▼の方法を両方採用しても良く、これにより、更に耐食性を高めることができる。
【0031】
本発明法において、成膜温度/熱処理温度を700℃以上に特定した理由は、700℃未満では金属の拡散が不十分であるのに対し、700℃以上で処理すれば金属の拡散が顕著になり、金属層中のピンホールが有効に消失するからである。好ましくは800℃以上、より好ましいのは900℃以上である。尚、母材の融点や、母材と硬質膜との熱膨張係数差から生じる熱応力による硬質膜の割れを考慮すれば、その上限を1300℃以下、より好ましくは1200℃以下にすることが推奨される。
【0032】
尚、本発明で用いられる気相合成法は特に限定されず、通常の成膜法に採用されるものであれば良く、例えばアークイオンプレーティング、ホーローカソードイオンプレーティング等のイオンプレーティング法;アンバランスドマグネトロンスパッタリング、バランスドマグネトロンスパッタリング等のスパッタリング法;プラズマCVD等の方法が挙げられる。
【0033】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは本発明の技術的範囲に包含される。
【0034】
【実施例】
実施例1
本実施例は、基板表面に所定の金属層を被覆し、次いで該金属の窒化物層等の硬質層を被覆した場合における耐食性について評価した。
【0035】
まず、表面粗さがRaで0.1μm(JIS B0601に従って測定)の炭素鋼S50C(Hv600)の基板を洗浄した後、Crターゲットを備え付けたアークイオンプレーティング装置チャンバー内に設置した。次にチャンバー内を8×10-5torrまで真空に引いた後、下記条件1によりCrの金属膜(膜厚2.5μm)を成膜してから、引続き下記条件2により、Crの金属膜上にCrNの硬質膜(膜厚2.5μm)を成膜したサンプルを作製した(No.1)。上記方法において、Crターゲットを夫々Ti,V,Zrの各ターゲットに代えることにより、これらの金属が被覆されたサンプルを作製した(No.2〜4)。尚、成膜時の基板温度を熱電対で測定したところ、400〜450℃であった。
【0036】
〔条件1〕
・アーク電流 :100A
・バイアス電圧:50V
・導入ガス :無し
・ヒーター温度:550℃
〔条件2〕
・アーク電流 :100A
・バイアス電圧:50V
・導入ガス :窒素
・成膜圧力 :2×10-2torr
・ヒーター温度:550℃
【0037】
尚、比較の為に、前記と同じ基板上に、上記条件2によりCrN及びTiNの窒化物単層(厚さ5μm)を被覆したサンプル(No.5及び6)、並びに上記条件2により、基板上にCrNの窒化物層を成膜(厚さ2.5μm)した後、条件1によりCrの金属層を成膜(厚さ2.5μm)したサンプル(No.7)を作製した。
【0038】
次に、この様にして得られたNo.1〜7の各サンプルについて塩水噴霧試験により耐食性を調べた。塩水噴霧試験はJIS Z2371に従って行い、塩水噴霧時間は96時間とした。また、耐食性は、発生した赤錆を落とした後に観察される、単位面積あたりに発生した腐食孔の個数(個/cm2)により評価した。これらの結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
Figure 0004392888
【0040】
表1の結果より、本発明の要件を満足するNo.1〜4は腐食孔の個数が7個以下と、本発明の要件を満足しないNo.5〜7に比べて非常に少なく、いずれも優れた耐食性を示すことが分かる。中でも金属Crを用いたNo.1は、特に優れた耐食性を発揮した。
【0041】
これに対してNo.5及び6は、基板表面にはCrNまたはTiNの窒化物が単層で被覆されており、本発明の如く金属層を介在しない為にピンホールが多かった。また、No.7は金属Cr層が基板表面ではなくCrN層上に被覆されている為、ピンホールが埋まらず、本発明例に比べて耐食性が低下した。
【0042】
実施例2
本実施例では、基板表面に、所定の金属層、及び該金属の窒化物等の硬質層を順次被覆した多層被膜とした場合の耐食性について評価した。
【0043】
詳細には表面粗さRaが0.04μmのS50C基板を用い、実施例1と同様の方法により、該基板上に、表2に示す各種金属層、及び各種硬質層(窒化層、炭化層、炭窒化層)を積層することによりNo.1〜15の各種サンプルを作製した。次に、実施例1と同様の方法により耐食性を評価した。これらの結果を表2に示す。尚、表中「全層数」とは、基板表面に形成された金属層と硬質層の合計層数を示す。また、表中Ti50Cr50は、Tiが50原子%でCrが50原子%の合金であることを示し、Ti50Cr50Nは、Ti50Cr50の窒化物であることを夫々示す。Ti50Zr50も同様に、Tiが50原子%でZrが50原子%の合金であることを示している。
【0044】
【表2】
Figure 0004392888
【0045】
表2の結果より、本発明の要件を満足するNo.1〜11は、腐食孔の個数が全て8個以下であるのに対し、本発明の好ましい要件を満足しないNo.12〜15は、夫々以下の不具合を有している。
【0046】
まず、No.12は基板上に被覆された金属Crの厚みが薄く、Cr層自体に多数のピンホールが残存する為、耐食性が低下した。また、No.13〜15は、基板表面に直接CrN、TiN、ZrNの窒化層が被覆されており、該窒化物にはピンホールが多数存在している為、その上に夫々Cr、Ti、Zrの金属を被覆してもピンホールは埋まらず、耐食性が低下した。
【0047】
実施例3
本実施例では、表面粗さの異なる基板を用いた場合における耐食性について評価した。
【0048】
詳細には、表3に示す如く表面粗さの異なるSCM420浸炭窒化鋼を用い、実施例1と同様の方法により種々のターゲットを用いて各種金属層、及び硬質層(当該金属の窒化層、炭化層または炭窒化層)をこの順番で積層してNo.1〜13の各サンプルを作製した。これらのサンプルについて実施例1と同様の方法で塩水噴霧を行い、耐食性を評価した。これらの結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
Figure 0004392888
【0050】
表3の結果より、本発明の要件を満足するNo.1〜7は、全て腐食孔の個数が8個以下と優れた耐食性を有している。
【0051】
これに対し、基板表面の表面Ra、金属層の厚み、Raに対する金属層の厚みが本発明の好ましい要件を満足しないNo.8〜13は、夫々以下の様な不具合を抱えている。即ち、No.8はRaが大きい例;No.9,11〜12はRaに対する金属層の厚みが小さい例;No.10は金属層の厚みが薄い例;No.13はRaが大きく、且つRaに対する金属層の厚みも小さい例であり、いずれも各金属層にピンホールが発生し、耐食性が低下した。
【0052】
実施例4
本実施例では、成膜温度を種々変化させて硬質被膜を作製した場合における耐食性について評価した。
【0053】
まず、寸法が50mm×50mm×1mm、表面粗さがRaで0.03μm(JIS B0601に従って測定)のSUS304基板をアセトンで洗浄した後、アークイオンプレーティング装置チャンバーにセットし、チャンバー内を8×10-5torrまで真空に引いてから、表4に示す種々の温度でヒーター加熱を行い、No.1〜12のサンプルを作製した。表4に、本実施例に用いたターゲットの種類、被覆した硬質層の種類、成膜温度、及び基板表面に形成された被膜の構造を夫々示す。次いで、実施例1と同様の方法で耐食性を評価した。これらの結果を表4に併記する。
【0054】
【表4】
Figure 0004392888
【0055】
本発明の要件を満足するNo.1〜10は、腐食孔の個数が全て6個/cm2以下を示し、特にNo.3,5,7〜9は腐食孔の個数が0になる等、極めて優れた耐食性を発揮した。尚、No.4及び6は、基板表面に金属の炭化物/窒化物の硬質層を被覆した例であるが、かかる態様であっても、700℃以上で成膜すれば優れた耐食性を発揮することが確認された。
【0056】
これに対し、基板表面に所定の金属層が被覆されておらず、成膜温度も本発明の好ましい要件より低いNo.11;及び基板表面に所定の金属層が被覆されていないNo.12は、何れもピンホールが十分埋まらず耐食性が低下した。
【0057】
実施例5
本実施例では、成膜後、真空中で熱処理して得られた硬質被膜の耐食性について予備的に評価した。
【0058】
まず、60mm×120mm×2mmの炭素鋼S50Cの基板2枚をアセトンで洗浄した後、Tiターゲットを備え付けたRFのマグネトロンスパッタリング装置チャンバー内に設置し、チャンバー内を8×10-5torrまで真空に引いた。次に、基板温度を400℃に加熱し、アルゴンガスを導入してチャンバー内圧力を3×10-3torrにして400WのRFをTiターゲットに加えることにより、まず金属Tiを成膜(膜厚2μm)した後、アルゴンガスと窒素ガスの混合ガスをチャンバー内に導入することにより該金属Ti膜上にTiN膜(膜厚3μm)を成膜した。
【0059】
この様にしてTi金属層/TiNの硬質層が被覆された基板の1枚を真空熱処理炉内に設置し、炉内圧力:1×10-5torr以下、炉内温度:900℃になる様調整して1時間熱処理した。この様に熱処理されたサンプル、及び熱処理を行わないサンプルについて、実施例1と同様にして塩水噴霧試験を行い、耐食性を評価した。
【0060】
その結果、熱処理しないサンプルでは9個/cm2の腐食孔が観察されたのに対し、熱処理したサンプルでは腐食孔は全く生じなかった。
【0061】
実施例6
本実施例では、実施例5と同様、成膜後、真空中で熱処理して得られた硬質被膜の耐食性について評価した。
【0062】
詳細には、前記実施例5と同じ基板に、種々のターゲットを備え付けたRFのマグネトロンスパッタリング法を施すことにより各種硬質被膜を成膜した(基板温度400℃)後、実施例5と同様の方法により種々の温度で熱処理を行った。この様にして得られた各種サンプルNo.1〜12について、実施例1と同様にして耐食性試験を行い、評価した。表5に、本実施例に用いたターゲットの種類、硬質層の種類、熱処理温度、基板表面に被覆された被膜の構造、及び耐食性試験の結果を併記する。
【0063】
【表5】
Figure 0004392888
【0064】
表5より、本発明の要件を満足するNo.1〜10は優れた耐食性を示すのに対し、熱処理温度が本発明の好ましい温度より低いNo.11、及び基板表面に金属を拡散・再結晶化する金属層が被覆されていないNo.12ではピンホールが埋まらず、耐食性が低下していた。尚、No.4及び6は、基板表面に金属の窒化物の硬質層を被覆した例であるが、かかる態様であっても、700℃以上で熱処理すれば優れた耐食性を発揮することが確認された。
【0065】
【発明の効果】
本発明は上記の様に構成されており、被膜中のピンホールを著しく減少させるができるので硬質被膜が被覆される基板の耐食性を高めると共に、耐摩耗性にも優れた硬質被膜、およびこの様な硬質被膜を効率よく製造し得る方法を提供することができた。

Claims (9)

  1. 物理蒸着法または化学蒸着法により、金属基板の表面に、
    (a)IVa族,Va族またはVIa族に属する金属の層Ma;及び前記金属の窒化物,炭化物または炭窒化物の硬質層Haを順次被覆するか、若しくは、
    (b)IVa族,Va族またはVIa族に属する金属の窒化物,炭化物または炭窒化物の硬質層Hb;および前記金属の層Mbを順次被覆することによって耐食性に優れた硬質被膜を製造する方法であって、
    前記金属基板の表面に被覆される金属の層Ma、または前記金属基板の表面に被覆される硬質層Hbを被覆するときの金属基板温度を700℃以上に制御することにより耐食性を高めたものであることを特徴とする硬質被膜の製造方法。
  2. 請求項1に記載の方法により硬質被膜を製造した後、真空中、700℃以上の温度で熱処理することを特徴とする硬質被膜の製造方法。
  3. 前記IVa族,Va族またはVIa族に属する金属は、Ti,Cr,VまたはZrである請求項1または2に記載の硬質被膜の製造方法。
  4. 前記金属はCrである請求項3に記載の硬質被膜の製造方法。
  5. 前記金属基板の表面粗さはRaで0.20μm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の硬質被膜の製造方法。
  6. 前記金属基板の表面に被覆される金属の層Maの厚みは0.2μm以上である請求項1〜5のいずれかに記載の硬質被膜の製造方法。
  7. 前記金属基板の表面粗さRaに対する金属基板表面に形成される金属の層Maの厚みの比は3.0以上である請求項1〜6のいずれかに記載の硬質被膜の製造方法。
  8. 前記(a)において、前記硬質層Haの上に、IVa族,Va族またはVIa族に属する金属の層Maa;及び前記金属の窒化物,炭化物または炭窒化物の硬質層Haaが順次被覆されたものである請求項1〜7のいずれかに記載の硬質被膜の製造方法。
  9. 前記(b)において、前記金属の層Mbの上に、IVa族,Va族またはVIa族に属する金属の窒化物,炭化物または炭窒化物の硬質層Hbb;および前記金属の層Mbbが順次被覆されたものである請求項1〜のいずれかに記載の硬質被膜の製造方法。
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