JP4392375B2 - 人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法、並びに、免疫グロブリン製剤の製造方法 - Google Patents

人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法、並びに、免疫グロブリン製剤の製造方法 Download PDF

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本発明は人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法等に関し、さらに詳細には、免疫グロブリン遺伝子を含有する複数種の組換え体を培養してポリクローナルな免疫グロブリンを得る、人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法等に関する。本発明によれば、感染リスクが極めて低くかつ安定供給が可能な免疫グロブリン製剤を提供することができる。
免疫グロブリン製剤は、ヒトの血液から抽出した免疫グロブリンを濃縮した血液製剤であり、細菌などの侵入異物と抗原−抗体反応を起こし、生体を守る作用を有する。近年、免疫グロブリン製剤は、重症感染症の他に、特発性血小板減少性紫斑病、無ガンマグロブリン血症、川崎病急性期、ギラン・バレー症候群等にも使用されるようになってきている。そして、これらの治療には、静脈を経由して大量に免疫グロブリンを投与する「IVIg治療」がよく用いられている。このIVIg治療は、最近では難治性血管炎などの治療法としても注目されており、その他、国際的にも種々の疾患の治療法として重要視されている。さらに、最近、ギラン・バレー症候群などの自己免疫疾患にIVIg治療が認可され、これにともない膠原病や筋無力症を対象としてつぎつぎとIVIg治療が始まっている。また、IVIg治療は川崎病では20年にわたる治療実績があり、最近では2g/kg体重の単回投与がより有効であることで認可されている。以上のように、IVIg治療は重症度の高い疾患や原因不明の難治性疾患にきわめて有効である。また、IVIg治療は副作用がほとんどない点でも有用な治療法である。
免疫グロブリン製剤の作用機序については、いくつかの仮説がある。一つの仮説は、免疫グロブリン製剤に含まれている、未知の抗原に対する抗体を含めた多種類の抗体が薬理効果を発揮しているという説である。また別の仮説は、多種類の抗体のうちのミエロペルオキシダーゼ(MPO)に対する抗体(抗MPO抗体)にその効果があり、特にMPOの広範なエピトープに対する多種類の抗MPO抗体が薬理効果を発揮しているという説である。両説において共通していることは、免疫グロブリン製剤が多様な免疫グロブリンの混合物であること、すなわちポリクローナルなものであることが治療効果に大きく寄与しているということである。その他にも仮説があるが、例示した2つの仮説はいずれも有力なものである。
免疫グロブリンは、抗体及びこれと構造上・機能上の関連性のあるタンパク質の総称である。つまり、結合する抗原が明らかになっている免疫グロブリンを、その特定抗原に対応させて抗体と呼んでいる。免疫グロブリンの基本的な分子構造は、軽鎖(L鎖、light chainともいう)と重鎖(H鎖、heavy chainともいう)の大小2種類のポリペプチド2本ずつがジスルフィド結合により連結したものである。重鎖は3つの領域(CH1、CH2、CH3)からなる定常領域(C領域、constant reagionともいう)とVH領域からなる可変領域(V領域、variable reagionともいう)が連結された構造である。軽鎖は、CL領域からなる定常領域とVL領域からなる可変領域が連結された構造である。可変領域のアミノ酸配列には多様性があり、これによって多様な抗原に対する多様な抗体が生体内で作られている。
現在の免疫グロブリン製剤は血液製剤であるため、原料に由来するウイルス等の未知の病原体が混入するリスクが常に存在する。事実、病原ウイルスに汚染された血液製剤によって薬害が起こり、大きな社会問題となっている、さらに、対応疾患の増大とともに原料となる血液が不足することも予想されており、血液製剤の免疫グロブリン製剤は安定供給にも不安がある。以上より、患者の感染リスクを減少させ、かつ免疫グロブリン製剤の治癒機転を明らかにする上でも、人工合成品の免疫グロブリン製剤が求められている。そのためには、免疫グロブリンの遺伝子を取得し、組換えDNA技術を用いて該遺伝子を発現させ、純化した免疫グロブリンを取得する方法が考えられる。
免疫グロブリンを組換えDNA技術を用いて製造した例はすで知られている。例えば、可変領域のみをマウス由来のものに置き換えたキメラ型抗体(特許文献1)や、可変領域の中のCDR領域のみをマウス由来のものに置き換えたヒト化抗体(特許文献2)が、組換えDNA技術によって製造可能である。キメラ型抗体やヒト化抗体は抗体医薬としてすでに実用化されている。また、免疫グロブリン遺伝子を宿主細胞内で可溶状態の正常型タンパク質として発現させる技術として、免疫グロブリンをシャペロニンとの融合タンパク質として発現させる例も知られている(特許文献3)。ただし、これらはすべて単一分子の免疫グロブリン、すなわちモノクローナルの免疫グロブリンである。
特開平5−304989号公報 特開2000−14383号公報 特開2004−81199号公報
上記の通り、血液製剤である免疫グロブリン製剤は多様の免疫グロブリンの混合物、すなわちポリクローナルなものであり、それが治療効果に寄与していると考えられる。したがって、組換えDNA技術を用いて免疫グロブリン製剤を製造する場合も、ポリクローナルな免疫グロブリンを含んだものでなければならない。しかし、組換えDNA技術を用いて多様な免疫グロブリンの混合物であるポリクローナルな免疫グロブリンはこれまでに得られていない。
本発明の目的は、感染リスクが極めて低くかつ安定供給が可能な免疫グロブリン製剤の提供を可能にする、組換えDNA技術を用いた人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法等を提供することにある。
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、下記工程、
(1)免疫グロブリンを発現している組織又は細胞に由来するcDNAから、互いに異なる免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドをコードする複数種の遺伝子を単離し、該遺伝子の混合物を調製する工程、
(2)該遺伝子の混合物をベクターに接触させ、互いに異なる遺伝子が挿入された複数種の組換えベクターを調製し、該組換えベクターの混合物を調製する工程、
(3)該組換えベクターの混合物を宿主細胞に接触させ、互いに異なる組換えベクターが導入された複数種の組換え体を調製し、該組換え体の混合物を調製する工程、
(4)該組換え体の混合物を混合培養し、該培養物から、互いに異なる複数種の免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドの混合物を封入体として得る工程、
(5)該封入体を可溶化する工程、
を含み、
前記ポリペプチドがscFvであり、前記組換え体が大腸菌であることを特徴とする人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法である。
本発明の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法においては、まず、互いに異なる免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドをコードする複数種の遺伝子を単離する。すなわち、多様な免疫グロブリン可変領域に対応する複数種の遺伝子を単離し、それらの混合物を調製する。換言すれば、遺伝子のライブラリーを調製する。次に、その遺伝子混合物をベクターに接触させて組込み、多様な免疫グロブリン可変領域に対応する複数種の組換えベクターを調製し、組換えベクター混合物を調製する。換言すれば、組換えベクターのライブラリーを調製する。次に、その組換えベクター混合物を適宜の宿主細胞に接触させて導入し、多様な免疫グロブリン可変領域に対応する複数種の組換え体を調製し、組換え体混合物を調製する。換言すれば、組換え体のライブラリーを調製する。次に、その組換え体混合物を混合培養し、多様な免疫グロブリン可変領域に対応する複数種のポリペプチドを組換え体内で発現させ、該培養物からそれらのポリペプチド混合物を封入体として得る。最後に、該封入体を可溶化する。これらのポリペプチドは互いに異なる免疫グロブリン可変領域を有しており、その混合物は人工ポリクローナル免疫グロブリンとなる。
ここで、本発明では前記ポリペプチドがscFvであり、前記組換え体が大腸菌である。scFv(single chain Fv)は一本鎖抗体、短鎖可変部抗体と呼ばれるVL−VHの融合タンパク質からなる人工抗体である。scFvは、抗体が抗原を認識するために必要な最小単位であるVL領域とVH領域のみからなり、そのサイズがコンパクトである。scFvは大腸菌等の微生物での発現が容易であることが知られている。したがって、本発明では組換え体を大量培養することによって、より簡便に大量の人工ポリクローナル免疫グロブリンを製造することができ、より安定的に免疫グロブリン製剤を提供することができる。
ここで、cDNAから単離される遺伝子には、cDNA上で連続して存在している遺伝子を直接単離する場合の他に、cDNA上で分散して存在している複数の遺伝子を適宜の方法で結合した後に、融合遺伝子として単離する場合も含む。すなわちscFvのように免疫グロブリン基本構造にはない人工の抗体をコードする遺伝子は、cDNA上では連続して存在しない。この場合は、cDNAからVL領域をコードする遺伝子とVH領域をコードする遺伝子とを適宜の方法で結合した状態で単離する。なお、これらの遺伝子を結合した状態で単離する方法として、オーバーラップPCR法が挙げられる。
本発明の方法で製造された人工ポリクローナル免疫グロブリンは、血液由来の免疫グロブリン製剤と同様に多様の免疫グロブリンを含んでいる。したがって、本発明の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法によれば、従来の免疫グロブリン製剤と同様の効果を有し、かつ感染リスクが極めて少なく非常に安全性の高い免疫グロブリン製剤を提供することができる。
請求項2に記載の発明は、下記工程(A):
(A)互いに異なる免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドを発現する複数種の組換え体を混合培養し、該培養物から、互いに異なる複数種の免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドの混合物を封入体として得る工程、
を含み、
前記ポリペプチドがscFvであり、前記組換え体が大腸菌であることを特徴とする人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法である。
請求項3に記載の発明は、さらに、下記工程(B):
(B)工程(A)で得られた封入体を可溶化する工程、
を含むことを特徴とする請求項2に記載の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法である。
請求項4に記載の発明は、工程(A)の複数種の組換え体は、互いに異なる組換えベクターが導入されたものであり、該組換えベクターは、互いに異なる免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドをコードする遺伝子が挿入されたものであることを特徴とする請求項2又は3に記載の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法である。
請求項5に記載の発明は、前記遺伝子は、免疫グロブリンを発現している組織又は細胞に由来するcDNAから単離して得られたものであることを特徴とする請求項4に記載の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法である。
請求項6に記載の発明は、前記組織又は細胞が哺乳動物由来のものであることを特徴とする請求項1又は5に記載の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法である。
本発明の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法においては、哺乳動物の組織又は細胞に由来するcDNAから、互いに異なる免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドをコードする複数種の遺伝子を単離し、該遺伝子の混合物を調製する。哺乳動物がヒトの場合は、完全ヒト型の人工ポリクローナル免疫グロブリンを製造することができ、免疫グロブリン製剤の製造に有用である。哺乳動物がヒト以外の動物、例えばマウスの場合は、途中の工程でマウス型の可変領域を含むポリペプチドの混合物が得られるので、これらのポリペプチドをヒトの重鎖又は軽鎖の定常領域と組み合わせることにより、キメラ型の人工ポリクローナル免疫グロブリンを製造することができる。該キメラ型人工ポリクローナル免疫グロブリンも免疫グロブリン製剤の製造に使用することができる。
請求項7に記載の発明は、前記哺乳動物が、ミエロペルオキシダーゼ欠損マウスであることを特徴とする請求項6に記載の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法である。
本発明の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法においては、MPO欠損マウスの組織又は細胞に由来するcDNAから、互いに異なる免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドをコードする複数種の遺伝子を単離し、該遺伝子の混合物を調製する。MPO欠損マウスは抗MPO抗体を産生しており、該遺伝子の混合物は抗MPO抗体に由来する遺伝子を多く含む。したがって、本発明の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法によれば、免疫グロブリン製剤の作用が抗MPO抗体の効果であるという仮説の下、より高活性のキメラ型の免疫グロブリン製剤を提供することができる。
請求項に記載の発明は、請求項1乃至のいずれかに記載の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法によって得られた人工ポリクローナル免疫グロブリンに、安定化剤又は賦形剤を組み合わせることを特徴とする免疫グロブリン製剤の製造方法である。
本発明によれば、感染リスクが極めて低くかつ安定供給が可能な免疫グロブリン製剤を提供することができ、IVIg治療に有用である。
以下に、本発明を実施するための最良の形態について詳しく説明する。
本発明の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法の1つの様相は、5つの工程を含む。これらの工程について、順次説明する。まず、本様相の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法の第1の工程は、免疫グロブリンを発現している組織又は細胞に由来するcDNAから、互いに異なる免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドをコードする複数種の遺伝子を単離し、該遺伝子の混合物を調製する工程、である。第1の工程は、換言すれば、遺伝子のライブラリーを調製する工程である。
まず、免疫グロブリンを発現している組織としては、B細胞やプラズマ細胞といった抗体産生細胞を有している脾臓やリンパ節が該当するが、取り扱いの容易さから脾臓が好ましい。また、免疫グロブリンを発現している細胞としては、B細胞やプラズマ細胞といった天然の抗体産生細胞の他に、ハイブリドーマも使用可能である。ハイブリドーマを使用する場合は、ポリクローナルな免疫グロブリンを得るために、複数種のハイブリドーマを混合して用いる必要がある。複数種のハイブリドーマの例としては、MPO欠損マウスの脾臓から採取したB細胞とミエローマを細胞融合して作製される複数種のハイブリドーマが挙げられる。該複数種のハイブリドーマはMPOの互いに異なるエピトープを認識する抗体を産生するものであれば、それらの抗体を含んだポリクローナルな免疫グロブリンを得ることができる。この方法によれば、反応する抗原が限定されたポリクローナル免疫グロブリンを得ることができる。換言すれば、ハイブリドーマを自由に組み合わせることで所望の組成(集団)をもつ人工ポリクローナル免疫グロブリンを製造することができる。また組織又は細胞の由来としては、哺乳動物が好ましい。例えば、ヒト由来の組織又は細胞であれば、現在の血液製剤と同様の完全ヒト型免疫グロブリンを得ることができる。一方、他の哺乳動物、例えばマウスを選択する場合は、途中工程でマウスの可変領域を含むポリペプチドが得られるので、ヒト定常領域と組み合わせてキメラ型免疫グロブリンを得ることができる。
組織又は細胞に由来するcDNAを調製する方法としては、一般に用いられている方法を適用することができ、例えば、組織又は細胞の破砕物からmRNAを抽出・精製し、逆転写反応によって1本鎖cDNA、さらにDNA合成反応によって2本鎖cDNAを得ることができる。得られたcDNAから互いに異なる免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドをコードする複数種の遺伝子を単離する方法としては、目的の遺伝子をPCR等の特異的増幅反応によって増幅して単離する方法が代表的である。この際、プライマー配列を適宜選ぶことにより、所望の領域をコードする遺伝子を得ることができる。マウスの遺伝子の場合を例に挙げると、マウス脾臓に由来するcDNAを鋳型とし、配列番号1〜18に示されるオリゴヌクレオチドの混合物をフォワードプライマー、配列番号19〜22で示されるオリゴヌクレオチドの混合物をリバースプライマーとしてPCRを行うことにより、マウス由来の複数種のVL遺伝子を単離することができる。同様に、配列番号23〜41に示されるオリゴヌクレオチドの混合物をフォワードプライマー、配列番号42〜44で示されるオリゴヌクレオチドの混合物をリバースプライマーとしてPCRを行うことにより、マウス由来の複数種のVH遺伝子を単離することができる。なお、いずれの場合も、複数種の遺伝子を得るためには複数の可変領域に適応した単一配列でない混合されたプライマー(ミックスプライマー)を使用することが必要である。
さらに、オーバーラップPCR等の方法を用いれば、分散して不連続に存在する遺伝子を結合した形で単離することもできる。この方法によれば、scFvのような天然には存在しない人工の抗体をコードする遺伝子でも簡単に単離することができる。マウスの遺伝子の場合を例に挙げると、上記のようにして得られたマウス由来の複数種のVL遺伝子及び複数種のVH遺伝子を鋳型とし、配列番号45及び46で示されるオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCRを行うことにより、複数種のVL遺伝子と複数種のVH遺伝子がVL−VHのごとく連結された複数種のscFv遺伝子を得ることができる。なお、いずれの場合もプライマーに制限酵素サイトをあらかじめ含めておくことにより、各種発現ベクターへの挿入を容易に行うことができる。以上のようにして得られた遺伝子は、可変領域の多様性に対応した複数種の遺伝子の集団として得られる。
scFvは、抗体が抗原を認識するために必要な最小単位であるVL領域とVH領域のみからなり、そのサイズがコンパクトである。scFvは大腸菌等の微生物での発現が容易であることが知られている。
次に、本様相の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法の第2の工程の工程について説明する。第2の工程は、該遺伝子の混合物をベクターに接触させ、互いに異なる遺伝子が挿入された複数種の組換えベクターを調製し、該組換えベクターの混合物を調製する工程、である。第2の工程は、換言すれば、組換えベクターのライブラリーを調製する工程である。ここで使用するベクターは、使用する宿主細胞に対応して選択することになる。例えば、大腸菌を宿主細胞とするときに使用できるベクターとしては、適当なプロモーター、SD配列、ターミネーター等を含むものであれば特に制限はない。プロモーターの種類としては、lac、tac、trc、trp、λpL、T7、T3等が挙げられる。また、ベクターは生産性の点で多コピープラスミドであることが好ましく、例えば、ColEI系、pBR系、pACYC系のプラスミドが好適である。これらに属する発現ベクターは各社から市販されており、簡単に入手することができる。なお、T7プロモーターを有するベクターを使用する場合は、一般には宿主大腸菌はDE3株を使用する必要があるが、DE3株以外の大腸菌であっても対数増殖期にCE6ファージを添加することで使用可能となる。
ベクターに遺伝子を組込む方法としては、ライゲーション反応による方法が代表的である。すなわち、ベクターを適宜の制限酵素等で開裂し、目的の遺伝子をリガーゼの作用によってベクターに連結する。リガーゼの種類としてはT4DNAリガーゼ等を用いることができる。PCR産物をベクターに導入するときは、TAクローニング法によって制限酵素を使わずにライゲーション反応を行うことができる。またライゲーション反応によらない方法として、相同組換えを利用する方法もある。例えば、cre−リコンビナーゼ(クロンテック社)やラムダインテグラーゼ(インビトロジェン社)を用いることにより、リガーゼを用いることなく相同組換えによって目的の遺伝子をベクターに導入することができる。
次に、本様相の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法の第3の工程の工程について説明する。第3の工程は、該組換えベクターの混合物を宿主細胞に接触させ、互いに異なる組換えベクターが導入された複数種の組換え体を調製し、該組換え体の混合物を調製する工程、である。第3の工程は、換言すれば、組換え体のライブラリーを調製する工程である。ここで宿主細胞としては、大腸菌を用いる。大腸菌を宿主細胞とする系は宿主−ベクター系が確立されており、本発明の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法に好適である。宿主細胞(大腸菌)にベクターを導入する方法としては塩化カルシウム処理、エレクトロポレーション等が使用可能である。
次に、本様相の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法の第4の工程を説明する。第4の工程は、該組換え体の混合物を混合培養し、該組換え体の混合物から互いに異なる複数種の免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドを調製し、該免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドの混合物を封入体として得る工程、である。混合培養の方法に特に制限はないが適宜の培地に大腸菌組換え体混合物を接種し、通気・攪拌しながら培養すればよい。組換えベクターが薬剤耐性遺伝子を有するものであれば、対応する抗生物質を培地中に添加することによって、宿主細胞から組換えベクターが脱落することを防ぐことができる。また、組換えベクターのプロモーターが誘導型プロモーターである場合は、培地中に誘導物質を加えることによって免疫グロブリン遺伝子の発現を誘導し、コントロールすることができる。λpLプロモーターのように温度感受性のプロモーターの場合は、培養温度を上げることによって免疫グロブリン遺伝子の発現を誘導・コントロールすることができる。
第5の工程は、該封入体を可溶化する工程である。培養した組換え体混合物から複数種の免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドを可溶性の状態で得る方法としては、例えば、遠心分離等の操作によって組換え体混合物を集め、適宜の細胞破砕処理を行って細胞抽出液を取得し、該細胞抽出液から複数種の免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドを封入体の形で回収する。このようにして得られた該ポリペプチドの混合物は、まさに人工のポリクローナルな免疫グロブリンである。そして、回収した封入体を界面活性剤等で可溶化した後に、折り畳み直すことができる。なお細胞破砕方法は公知の方法を使用することができ、例えば機械的破砕法を使用することができる。機械的破砕法の例としては、ホモジナイザーによる破砕、圧力変化による破砕、超音波による破砕等が挙げられる。また、機械的破砕法以外の方法、例えば低張処理や酵素処理も使用可能である。
なお、封入体を使わない場合には、例えば、分子シャペロン等の折り畳み因子の作用を利用して、免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドを正しく折り畳む。例えば、折り畳み因子を免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドとの融合タンパク質として発現させて該ポリペプチドを正常型タンパク質として合成し、その後に適宜の方法で折り畳み因子と該ポリペプチドを切断することにより、人工ポリクローナル免疫グロブリンを製造することができる。この場合は、例えば、第2の工程で折り畳み因子との融合用ベクターを使用する。使用する折り畳み因子の例としては、PPIase、HSP70、HSP90、スモールヒートショックタンパク質、シャペロニンが挙げられる。この中でも、古細菌由来のFK506結合型PPIaseはPPIase活性に加えて分子シャペロン活性も有するので、折り畳み反応には特に好適である。この方法は、宿主細胞が大腸菌である場合に特に有効である。
FKBP型PPIaseの由来となる古細菌の例としては、Thermococcus属、Methanococcus属、Methanosarcina属、Halobacterium属、Archaeoglobus属、Aeropurum属、Purobaculum属、Sulfolobus属、Ferroplasma属、Thermoplasma属、Methanopyrus属、Methanothermobacter属、Pyrococcus属に属する古細菌が挙げられる。
PPIase以外の折り畳み因子としては、例えば、シャペロニンが使用できる。シャペロニンは非酵素的に働く折り畳み因子である分子シャペロンの一種である。シャペロニンは内部に空洞を有するリング状のサブユニット複合体であり、その空洞内に標的タンパク質を格納し、ATP依存的に折り畳み反応を行う。このうち大腸菌由来のシャペロニンはGroELと呼ばれ、その物理化学的性質がよく知られており、入手も容易である。
一方、古細菌由来のシャペロニンは耐熱性であり、目的タンパク質の折り畳みの他に、内部に格納した目的タンパク質を熱による変性から守る作用を有する。したがって、内部に格納された目的タンパク質を精製する際に、あらかじめ熱処理を行って夾雑タンパク質を沈殿させて除去することができ、精製が容易になる。
免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドと折り畳み因子との間に、プロテアーゼ切断配列(プロテアーゼ認識配列)を入れてもよい。その結果、融合タンパク質に対応のプロテアーゼを作用させることにより、免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドを切り出すことができる。プロテアーゼの例としては、トロンビン、ファクターXa、プレシジョンプロテアーゼ、エンテロキナーゼ等が挙げられる。
その他の例として、免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチド遺伝子を含む組換えベクターとは別の共存可能なベクターに折り畳み因子の遺伝子を組み込んで発現させ、該ポリペプチドに作用させてもよい。
上記した様相の方法で製造された人工ポリクローナル免疫グロブリンと、CH1−CH2−CH3領域の全部又は一部を含むポリペプチドとを混合してもよい。抗体重鎖定常領域は免疫グロブリンの安定化に寄与するので、この方法によれば、より安定化された免疫グロブリン製剤を提供することができる。なお、CH1−CH2−CH3領域の全部又は一部は組換えDNA技術で作製することができ、その取得が容易である。
このとき、分子シャペロン等の折り畳み因子の作用を利用して、CH1−CH2−CH3領域の全部又は一部を含むポリペプチドを正しく折り畳むこともできる。例えば、当該ポリペプチドと折り畳み因子との融合タンパク質から、正しく折り畳まれた当該ポリペプチドを単離する。折り畳み因子としては、特に、古細菌由来のFKBP型PPIaseを用いることが好ましい。
組換え体から調製された人工ポリクローナル免疫グロブリンは、クロマトグラフィー等の操作によって高度に精製されることにより、免疫グロブリン製剤に適した原薬とすることができる。精製の方法はタンパク質の精製に一般的に使用されている方法を適用することができ、各種クロマトグラフィー、塩析、膜分離等の操作を組み合わせることにより精製品を得ることができる。得られた人工ポリクローナル免疫グロブリン標品については、電気泳動等の分析手法によってタンパク質純度等を調べることができる。
精製された人工ポリクローナル免疫グロブリンは、適宜の安定化剤や賦形剤を添加することにより免疫グロブリン製剤として製剤化することができる。免疫グロブリン製剤の剤型としては、凍結乾燥注射剤、溶液注射剤、輸液等が挙げられる。添加される安定化剤・賦形剤の例としては、タンパク製剤に一般に用いられているものが使用可能であり、アルブミン、糖類、アミノ酸、ポリオール類、各種緩衝液等が使用可能である。
以下に、実施例等をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
(参考例1)マウスscFv遺伝子の調製と各発現ベクターの構築
1.マウスscFv遺伝子の調製
マウス由来MPOを免疫したMPO−KOマウス(アラタニら(Y. Aratani et al.)、インフェクション アンド イミュニティ(Infection and Immunity)、第67巻、第1828−1836頁、1999年)の脾臓より、RNA Extraction Kit(アマシャムバイオサイエンス社)、及びmRNA Purification Kit(アマシャムバイオサイエンス社)を用いてmRNAを抽出・精製し、さらに、First−Strand cDNA Synthesis Kit(アマシャムバイオサイエンス社)によってオリゴdTプライマー法を用いて、それぞれのcDNAを合成した。PCR反応溶液100μL(mm3)中、100μgのcDNAを鋳型とし、フォワードプライマーとして配列番号1〜18に示されるオリゴヌクレオチドの当量混合物100pmole、リバースプライマーとして配列番号19〜22で示されるオリゴヌクレオチドの当量混合物100pmoleを用い、94℃で30秒、63℃で30秒、56℃で30秒、及び72℃で60秒の4ステップを30サイクル行うPCRを行い、各マウス由来VL遺伝子を増幅させた。ホットスタートPCRを行うため、DNAポリメラーゼはTaKaRa Ex Taq Hot Start Version(タカラバイオ社)用いた。本100μLの反応を並列で10本行った。同様に、PCR反応溶液100μL中、100μgのcDNAを鋳型とし、配列番号23〜41に示されるオリゴヌクレオチドの当量混合物100pmole、配列番号42〜44に示されるオリゴヌクレオチドの当量混合物100pmoleを用い、VL遺伝子と同様の条件でPCRを行い、各マウス由来VH遺伝子を増幅した。増幅されたVL遺伝子及びVH遺伝子は2.0%アガロースゲル電気泳動によって分離し、回収した。
上記方法によって得られた各マウス由来VL遺伝子及びVH遺伝子のそれぞれ100μgを鋳型とし、配列番号45及び46に示されるオリゴヌクレオチド各60pmoleをプライマーとし、TaKaRa Ex Taq Hot Start Versionを用いてOver−Lapping−Extension−PCR(100μL)を行い、scFv遺伝子を増幅させた。PCRの条件は、94℃で30秒、63℃で30秒、58℃で30秒、及び72℃で90秒の4ステップを7サイクル行った後、94℃で30秒、63℃で60秒、72℃で90秒の3ステップを23サイクルで行った。本100μLのPCR反応を並列で10本行った。増幅された野生マウス及びMPO−KOマウス由来scFv遺伝子を1.5%アガロース電気泳動によって分離し、それぞれ約10μgを回収した。なお、本参考例で増幅・単離されたscFv遺伝子は、プライマーに由来して5'末端域にはSfiIサイトが、3'末端域にはNotIサイトが導入されている。
2.発現ベクターpTmFKPIの構築
古細菌の一種であるメタン細菌Methanosarcina acetivorans C2A (DSM2834)からゲノムDNAを抽出し、本ゲノムDNAを鋳型とし、配列番号47及び48に示されるプライマーを用いてPCRを行い、FKBP型PPIase(以下、mFKと称する)遺伝子(配列番号49、GenBank No.NC003552)を増幅・単離した。なお、本増幅DNA断片はプライマーに由来して、5'末端にNcoIサイト、3'末端にSpeIサイトが導入されている。一方、プラスミドpET21d(ノバジェン社)のNcoI−XhoIサイト間に配列番号50で示される合成DNAを導入し、改変pET21dを作製した。なお配列番号50で示される合成DNAは、5'末端にNcoIサイト(5'−CCATGG−3')、3'末端にXhoIサイト(5'−CTCGAG−3')を有し、さらに内部にSpeIサイト(11〜16番目の5'−ACTAGT−3')、SfiIサイト(44〜56番目の5'−GGCCCAGACGGCC−3')及びNotIサイト(61〜68番目の5'−GCGGCCGC−3')を有する。さらに、プレシジョンプロテアーゼの認識アミノ酸配列をコードする塩基配列を2箇所含む(18〜41、69〜91番目の5'−CTGGAAGTTCTGTTCCAGGGGCCG−3')。さらに、6個の連続したヒスチジン残基(Hisタグ)をコードする塩基配列(96〜113番目の5'−CATCGCCATCGCCATCGC−3)とタンデムの終始コドン(114〜119番目の5'−TAATAG−3')を含む。
改変pET21dのNcoI−SpeIサイトに上記mFK遺伝子のPCR増幅DNA断片を導入し、発現ベクターpTmFKPIを構築した。図1に発現ベクターpTmFKPIの構成を示す。すなわち、発現ベクターpTmFKPIはpET21dに由来するT7プロモーターとT7ターミネーターを含んでいる。さらに、発現ベクターpTmFKPIは、そのSfiI−NotIサイトに目的タンパク質の遺伝子を挿入することにより、mFKと目的タンパク質の融合タンパク質を合成することができる。さらに、mFKは分子シャペロン活性も有することから、該融合タンパク質は大腸菌の細胞質可溶性画分へ大量合成することが可能である。さらに、発現ベクターpTmFKPIはNotIサイトの下流に6個のヒスチジン残基(Hisタグ)をコードする塩基配列を含んでいるので、融合タンパク質のC末端には6個のヒスチジン残基が導入され、キレートカラムを用いることによって発現した融合タンパク質を容易に精製することができる。さらに、目的タンパク質を挟むようにプレシジョンプロテアーゼの認識配列を2箇所含んでいるので、融合タンパク質から目的タンパク質を簡単に切り出すことができる。
3.発現ベクターpTmFKPC123の構築
ヒト脾臓cDNAライブラリー(Code No. 9509、タカラバイオ社)を鋳型として、配列番号51及び52で示されるオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCRを行い、配列番号53で示されるヒト抗体重鎖定常領域遺伝子の全長(停止コドンを含む)を単離した。配列の決定は、PCR産物をpT7Blue-Tベクター(ノバジェン社)にクローニングし、Thermo Sequenase Dye Termionator Cycle Sequencing Kit(アマシャムバイオサイエンス社)によって行った。次に、図1に示される発現ベクターpTmFKPIのNotI−XhoIサイトに配列番号54で示される合成DNAを挿入してBamHI−EcoRIサイトを設けた。なお配列番号54で示される合成DNAは、NcoIサイト(5'−CCATGG−3')、3'末端にXhoIサイト(5'−CTCGAG−3')を有し、内部にBamHIサイト(9〜14番目の5'−GGATCC−3')とEcoRIサイト(21〜26番目の5'−GAATTC−3')とを有する。
次に、ベクターに設けられたBamHI−EcoRIサイトに単離したヒト抗体重鎖定常領域遺伝子の全長(停止コドンを含む)を導入し、発現ベクターpTmFKPC123を構築した。図2にpTmFKPC123の構成を示す。すなわち、発現ベクターpTmFKPC123はpET21dに由来するT7プロモーターとT7ターミネーターを含んでいる。さらに、発現ベクターpTmFKPC123は、そのSfiI−NotIサイトに目的タンパク質の遺伝子を挿入することにより、mFK−目的タンパク質−CH1−CH2−CH3融合タンパク質を合成することができる。さらに、mFKは分子シャペロン活性も有することから、該融合タンパク質は大腸菌の細胞質可溶性画分へ大量合成することが可能である。さらに、目的タンパク質遺伝子の挿入部位の上流にプレシジョンプロテアーゼの認識配列を1箇所含んでいるので、mFK−目的タンパク質−CH1−CH2−CH3融合タンパク質から、目的タンパク質−CH1−CH2−CH3融合タンパク質を簡単に切り出すことができる。
4.発現ベクターpTmFKPC23の構築
上記3で単離されたヒト抗体重鎖定常領域遺伝子の全長(停止コドンを含む)を鋳型とし、配列番号55及び56に示されるプライマーを用いてPCRを行い、配列番号57に示される抗体Fcドメイン(CH2−CH3)のみをコードする遺伝子(停止コドン含む)を増幅した。本増幅DNA断片をBamHI及びEcoRIで末端を切断し、pTmFKPC123のBamHI−EcoRIサイトに挿入し、pTmFKPC23を構築した。図3にpTmFKPC23の構成を示す。すなわち、発現ベクターpTmFKPC23は、pET21dに由来するT7プロモーターとT7ターミネーターを含んでいる。さらに、発現ベクターpTmFKPC23は、そのSfiI−NotIサイトに目的タンパク質の遺伝子を挿入することにより、mFK−目的タンパク質−CH2−CH3融合タンパク質を合成することができる。さらに、mFKは分子シャペロン活性も有することから、該融合タンパク質は大腸菌の細胞質可溶性画分へ大量合成することが可能である。さらに、目的タンパク質遺伝子の挿入部位の上流にプレシジョンプロテアーゼの認識配列を1箇所含んでいるので、mFK−目的タンパク質−CH2−CH3融合タンパク質から、目的タンパク質−CH2−CH3融合タンパク質を簡単に切り出すことができる。
5.発現ベクターpTmFKPHCの構築
pTmFKPC123のSpeI−BamHIサイトに配列番号58で示される合成DNAを導入することによって、発現ベクターpTmFKPHCを構築した。なお配列番号58で示される合成DNAは、5'末端にSpeIサイト(5'−ACTAGT−3')、3'末端にBamHIサイト(5'−GGATCC−3')、内部にプレシジョンプロテアーゼの認識アミノ酸配列をコードする塩基配列(7〜30番目の5'−CTGGAAGTTCTGTTCCAGGGGCCG−3')を有する。図4にpTmFKPHCの構成を示す。すなわち、発現ベクターpTmFKPHCはpET21dに由来するT7プロモーターとT7ターミネーターを含んでいる。さらに、発現ベクターpTmFKPHCは、mFK遺伝子の下流にCH1−CH2−CH3領域をコードする遺伝子が配置されており、mFK−CH1−CH2−CH3融合タンパク質を合成することができる。さらに、mFKは分子シャペロン活性も有することから、該融合タンパク質は大腸菌の細胞質可溶性画分へ大量合成することが可能である。さらに、mFKとCH1−CH2−CH3の間にプレシジョンプロテアーゼの認識配列を1箇所含んでいるので、mFK−CH1−CH2−CH3融合タンパク質からCH1−CH2−CH3を簡単に切り出すことができる。
(参考例2)人工ポリクローナルscFvの製造
参考例1で得られたMPO−KOマウス由来scFv遺伝子をSfiI及びNotIで切断した。次に、その200ngを同制限酵素処理及びBAP(バクテリア由来アルカリフォスファターゼ)処理が施された発現ベクターpTmFKPI(1μg)へT4DNAリガーゼによって導入した。このライゲーション反応ミックスのDNA500μg相当分を300μLのJM109(DE3)(クロンテック社)にエレクトロポレーション法(2.5kV,25μF,200Ω,4.68msec)によって導入した。エレクトロポレーション後、10mLのSOC培地を添加した後、125rpm(往復)、37℃にて3時間インキュベートした。本菌体懸濁液の5mLを800mLの2×YT培地にて140rpm(回転)、35℃で24時間培養した。培養終了後、遠心分離によって菌体を回収し、菌体を50mLの1×PBS中で超音波処理によって破砕し、遠心分離によって上清を得た。
得られた上清を0.5M NaCl−50mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化されたHi−Trap Niキレートカラム(アマシャムバイオサイエンス社)にアプライし、1−300mMのイミダゾールの濃度勾配によってmFK−scFv融合タンパク質が含まれる画分を回収した。本画分を1mM EDTA、1mM DTT、及び150mM NaClを含有する50mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.0)へ透析した後、透析内液にプレシジョンプロテアーゼ(アマシャムバイオサイエンス社)20μLを加えて5℃で16時間作用させ、mFK−scFv融合タンパク質からscFvを切り出し、遊離させた。本切断反応液を1mM EDTA、1mM 酸化型グルタチオン(GSSG)及び、0.3mM 還元型グルタチオン(GSH)を含むPBSに透析した後、透析内液をProteinLカラム(ピアス社)にアプライし、scFvを結合させた後、100mM グリシン−塩酸緩衝液(pH2.8)によってscFvを溶出した。回収したscFv画分を1mM EDTAを含むPBSに透析し、4℃で保存した。
本参考例によって精製標品としてポリクローナルscFvが20mg/L培養液の収率で得られた。また、scFv遺伝子が挿入されたpTmFKPIで形質転換された大腸菌懸濁液の一部を100μg/mLのアンピシリンを含有するLB寒天プレ−トにまき、形質転換コロニーの調べたところ、本培養に含まれるクローン数は約2.7×106であった。すなわち、本参考例で得られるscFvの多様性レパートリーはこれに匹敵するものと考えられる。
(参考例3)人工ポリクローナルscFv−CH1−CH2−CH3の製造
図2に示す発現ベクターpTmFKPC123(1μg)に、参考例1で得られたMPO−KOマウス由来scFv遺伝子(200ng)をT4DNAリガーゼによって導入し、参考例2と同様の条件でライゲーション反応ミックスの500μgDNA相当分をエレクトロポレーション法によって300μLの大腸菌JM109(DE3)へ導入した。エレクトロポレーション後、10mLのSOC培地を添加した後、125rpm(往復)、37℃で3時間インキュベートした。本菌体懸濁液の5mLを800mLの2×YT培地にて140rpm(回転)、35℃で24時間培養した。培養終了後、遠心分離によって菌体を回収し、菌体を50mLの1×PBS中で超音波処理によって破砕し、遠心分離によって上清を得た。
得られた上清をProteinAカラム(アマシャムバイオサイエンス)へアプライし、mFK−scFv−hFC123(hFC123はCH1−CH2−CH3を表す。)の融合タンパク質を結合させ、1mM EDTAを含む50mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.5)(緩衝液A)にて充分に洗浄した後、0.1M グリシン−塩酸緩衝液(pH2.8)にて融合タンパク質を溶出した。溶出された融合タンパク質を1mM EDTA、1mM DTT、及び150mM NaClを含有する50mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.0)へ透析した後、透析内液にプレシジョンプロテアーゼ20μLを加えて5℃で16時間作用させ、mFK−scFv−hFC123融合タンパク質からscFv−hFC123融合タンパク質を切り出し、遊離させた。反応終了後、反応液を1mM EDTA、1mM GSSG及び、0.3mM GSHを含むPBSに透析した後、透析内液を再度ProteinAカラムにアプライし、scFv−hFC123を結合させた後、100mM グリシン−塩酸緩衝液(pH2.8)によってscFv−hFC123を溶出した。回収されたscFv−hFC123融合タンパク質画分を1mM EDTAを含むPBSに透析し、4℃下で保存した。得られたタンパク質の構造を図5に示す。すなわち、得られたタンパク質は免疫グロブリンの軽鎖定常領域以外の全ての領域を含むヒト・マウスキメラ人工免疫グロブリンG(IgG)である。
本参考例によって精製標品としてポリクローナルscFv−hFC123融合タンパク質が5mg/L培養液の収率で得られた。またscFv遺伝子が挿入されたpTmFKPC123で形質転換された大腸菌懸濁液の一部を100μg/mLのアンピシリンを含有するLB寒天プレ−トにまき、形質転換コロニーの数を調べたところ、本培養に含まれるクローン数は約1.1×106であった。すなわち、本参考例で得られるscFv−hFC123タンパク質の多様性レパートリーはこれに匹敵するものと考えられる。
(参考例4)人工ポリクローナルscFv−CH2−CH3の製造
図3に示す発現ベクターpTmFKPC23(1μg)に、参考例1で得られたMPO−KOマウス由来scFv遺伝子(200ng)をT4DNAリガーゼによって導入し、参考例2と同様の条件でライゲーション反応ミックスの500μgDNA相当分をエレクトロポレーション法によって300μLの大腸菌JM109(DE3)へ導入した。本発現ベクターによる発現タンパク質の構造を図6に示す。エレクトロポレーション後、10mLのSOC培地を添加した後、125rpm(往復)、37℃で3時間インキュベートした。本菌体懸濁液の5mLを800mLの2×YT培地にて140rpm(回転)、35℃で26時間培養した。培養終了後、遠心分離によって菌体を回収し、菌体を50mLの1×PBS中で超音波処理によって破砕し、遠心分離によって上清を得た。
得られた上清をProteinAカラムへアプライし、mFK−scFv−hFC(hFCはCH2−CH3を表す。)の融合タンパク質を結合させ、緩衝液Aにて充分に洗浄した後、0.1M グリシン−塩酸緩衝液(pH2.8)にて融合タンパク質を溶出した。溶出された融合タンパク質を1mM EDTA、1mM DTT、及び150mM NaClを含有する50mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.0)へ透析した後、透析内液にプレシジョンプロテアーゼ20μLを加えて5℃下で16時間作用させ、mFK−scFv−hFC融合タンパク質からscFv−hFC融合タンパク質を切り出し、遊離させた。反応終了後、反応液を1mM EDTA、1mM GSSG、及び0.3mM GSHを含むPBSに透析した後、透析内液を再度ProteinAカラムにアプライし、scFv−hFCを結合させた後、100mM グリシン−塩酸緩衝液(pH2.8)によってscFv−hFCを溶出した。回収されたscFv−hFC画分を1mM EDTAを含むPBSに透析し、4℃で保存した。
本参考例によって精製標品としてポリクローナルscFv−hFCが8mg/L培養液の収率で得られた。またscFv遺伝子が挿入されたpTmFKPC23で形質転換された大腸菌懸濁液の一部を100μg/mLのアンピシリンを含有するLB寒天プレ−トにまき、形質転換コロニーの数を調べたところ、本培養に含まれるクローン数は約1.6×106であった。すなわち、本参考例で得られるscFv−hFCタンパク質の多様性レパートリーはこれに匹敵するものと考えられる。
(参考例5)人工ヒト抗体重鎖定常領域hFC123の製造
参考例1で作製された発現ベクターpTmFKPHC(図4)を大腸菌BL21star(DE3)(インビトロジェン社)へ形質転換した後、生育した10クローンを2×YT培地800mLに接種し、35℃、140rpm(回転)で20時間培養した。培養終了後、遠心分離によって菌体を回収し、50mLの緩衝液Aに懸濁し、超音波処理によって菌体を破砕した。遠心分離によって上清を得、これをProteinAカラムへアプライし、mFKとhFC123の融合タンパク質を結合させ、緩衝液Aにて充分に洗浄した後、0.1M グリシン−塩酸緩衝液(pH2.8)にて融合タンパク質を溶出した。溶出された融合タンパク質を1mM EDTA、1mM DTT、及び150mM NaClを含有する50mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.0)へ透析した後、透析内液にプレシジョンプロテアーゼ20μLを加えて5℃で16時間作用させ、mFK−hFC123融合タンパク質からhFC123を切り出し、遊離させた。反応終了後、反応液を1mM EDTA、1mM GSSG、及び0.3mM GSHを含むPBSに透析した後、透析内液を再度ProteinAカラムにアプライし、hFC123を結合させた後、100mM グリシン−塩酸緩衝液(pH2.8)によってhFC123を溶出した。回収されたhFC123画分は1mM EDTAを含む50mM Tris−塩酸緩衝液(pH8.8)に透析し、50mM Tris−塩酸緩衝液(pH8.8)で平衡化されたSuperQ 5PW−XLカラム(東ソー社)にアプライし、NaCl濃度勾配0−0.5Mで溶出した。回収されたhFC123画分を1mM EDTAを含むPBSに透析した。本参考例によって精製標品としてhFC123が20mg/L培養液の収率で得られることがわかった。上記hFC123精製標品を非還元状態でのSDS−PAGE、及びTskgel G3000カラム(東ソー社)によるゲルろ過によって、大部分が正しくダイマー形成されていることが確認できた。
(参考例6)scFvとhFC123の混合物からなる人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造
参考例2で得られたポリクローナルscFvと参考例5で得られたhFC123を等モルずつ混合し、図7に示される構成を有する人工ポリクローナル免疫グロブリンを製造した。本参考例で得られた人工ポリクローナル免疫グロブリンは、天然の免疫グロブリン、参考例3又は4で得られる人工ポリクローナル免疫グロブリンと同様の機能を有する。また本参考例ではscFvを融合タンパク質としてではなく分子量が小さい単独のポリペプチドとして発現させるので、参考例3又は4で製造した融合タンパク質よりも大腸菌で発現させるのに好適である。
なお、上記した参考例においては免疫グロブリン可変領域の提供動物としてMPOを免疫したMPO−KOマウスを使用した。しかし、免疫グロブリン製剤作用機序の別の仮説、すなわち、抗MPO抗体に限らず未知の抗原に対する抗体を含めた多種類の抗体が薬理効果を発揮しているという説に立てば、野生型のマウスを使用することにより上記した参考例と全く同様にして、人工ポリクローナル免疫グロブリンを製造することができる。
(実施例1)マウスscFv遺伝子の調製(II)
マウス抗体Fv領域(VL及びVH)cDNAを、参考例1で調製されたマウス脾臓RNAより、配列番号59〜61に示された抗体遺伝子特異的プライマーを用いて、SuperScriptIII First Strand Synthesis System Kit(インビトロジェン社)によって合成した。VL遺伝子は、100μgのcDNAを鋳型として、100pmoleの配列番号62〜79で示されるフォワードプライマー、及び100pmoleの配列番号19〜22で示されるリバースプライマーを用いて、TaKaRa Ex Taq Hot Start Version(タカラバイオ社)によって、94℃で15秒、 56℃で15秒及び72℃で90秒の3ステップを30回行った後、72℃で10分間の反応によるHot−Start−PCRによって増幅した。100μL容量の上記PCRを10本行った。VH遺伝子は、配列番号23〜41で示されるフォワードプライマー、及び、配列番号42〜44で示されるリバースプライマーを用いて、VL遺伝子の場合と同様に増幅した。増幅されたVL及びVH遺伝子はそれぞれ、2.0%アガロースゲル電気泳動によって分離回収した。
scFv遺伝子はそれぞれ100μgのVLあるいはVH遺伝子を鋳型として、配列番号80及び81のプライマーセットを用いて、TaKaRa Ex Taq Hot Start Version(タカラバイオ社)によるオーバーラップPCR法によって合成した。PCR反応は、94℃で15秒、56℃で30秒及び72℃で2分の3スッテプを23サイクル行った後、72℃で10分間反応させる条件で行った。合成されたscFv遺伝子は1.5%アガロースゲル電気泳動によって分離回収した。10μgのscFv遺伝子を得た。得られたscFv遺伝子は5’末端にAsiSIサイトを3’末端にNotIサイトを有する。
(実施例2)封入体形成による、ポリクローナルscFvの製造
pET3d(ノバジェン社)のNcoI−BamHIサイトに配列番号82に示された合成遺伝子を導入し、発現ベクターpT3DEを作製した。pT3DEの構成を図8に示す。実施例1で調製されたscFv遺伝子をAsiSI及びNotIで切断し、その500ngをpT3DE(2μg)のAsiSI−PspOMIサイトにT4DNAリガーゼによって導入した。リガーゼ反応ミックスの500ngDNA相当分を大腸菌JM109(DE3)300μLにエレクトロポレーション(2.5Kv,25μF,200Ω)によって導入した。形質転換された大腸菌を6mLのSOCにて懸濁した後、37℃で3時間インキュベートし、その1.5mLを1Lの、100μg/mLのカルベニシリンを含有する2×Y.T.培地に植菌した。培養は37℃、125rpmで24時間行った。培養終了後、遠心分離によって菌体を回収した。一方、SOCに懸濁した、形質転換大腸菌の一部を10000倍まで希釈して100μg/mLのアンピシリンが含有されたLBプレートにて生育させ、培養に投入された細胞数を計算した。この値は、発現するscFv遺伝子の多様性に相当する。その結果、本実施例の培養で生産されるポリクローナルscFVの多様性は3.5×107であると見積もられた。この多様性は参考例2,3及び4のPPIase融合発現の場合より10倍以上高いものであった。
回収された菌体を、1mM EDTA及び200μLの卵白リゾチーム(30mg/mL)を含む50mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)30mLに懸濁した後、30℃で1時間インキュベートした。次に、超音波破砕によって細胞を破砕した。上清は遠心分離によって除去し、封入体を2% トリトン−X100及び250mM NaClを含む50mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)30mLによって2回洗浄した。洗浄された封入体はpH8.0の8M 尿素、10mM β―メルカプトエタノール(β―ME)、10mMイミダゾールおよび、0.5M NaClを含有した50mM トリス−塩酸緩衝液(緩衝液A)30mLに4℃で一昼夜インキュベートすることで溶解させた。遠心分離によって、上清を得た。このステップでのSDS−PAGEによる分析結果を図9のレーン1に示す。レーン1の試料は可溶化した封入体画分である。すなわち、可溶化したポリクローナルscFvに相当するバンドが約27〜32kDaの範囲で広く検出され、製造されたポリクローナルscFvが多様性を有していることが示された。
得られた上清は緩衝液Aで平衡化されたニッケルキレートカラム(アマシャムバイオサイエンス社)にアプライし、アプライ終了後、緩衝液B(50mM トリス−塩酸、8M 尿素、10mM β−ME、及び0.5M NaCl、pH8.0)でカラムを洗浄した。カラムに結合したHisタグを有するscFvを、緩衝液C(50mM トリス−塩酸、3M 尿素、5mM β―ME、及び0.5M NaCl、pH8.0)までのグラディエントによってリフォールディングさせた。リフォールディング終了後、緩衝液D(50mMトリス−塩酸、3M 尿素、1mM GSSG/GSH、0.05% ポリエチレングリコール4000(PEG4000)、0.5M NaCl、pH8.0)でカラムを平衡化した。さらに、緩衝液E(50mM トリス−塩酸、0.5mM GSH、0.05% PEG4000、0.5M NaCl、pH8.0)までのグラディエントによってリフォールディングをさらに行った。リフォールディング終了後、緩衝液F(50mM トリス−塩酸、500mM イミダゾール、0.05% PEG4000、0.5M NaCl、pH8.0)によって再構成されたポリクローナルscFvを溶出した。このステップでのSDS−PAGEによる分析結果を図9のレーン2及び3に示す。レーン2の試料はニッケルキレートカラムの非吸着画分、レーン3の試料はイミダゾールによる溶出画分である。すなわち、可溶性のポリクローナルscFvが尿素の非存在下で得られた。以上より、本実施例の精製方法によって、変性したポリクローナルscFvを正しく折り畳み直すことができた。
溶出されたポリクローナルscFvを、0.05%のPEG4000、1mM DTT、0.15M NaClを含むトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)に対して透析した。透析内液にプレシジョンプロテアーゼ20μLを添加し、scFvより、Hisタグを遊離させた。反応液は1mM イミダゾール及び0.5M NaClを含有する50mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.5)に対して透析された。透析内液をGST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)−trap(アマシャムバイオサイエンス社)及びHis−trap(アマシャムバイオサイエンス社)の連結カラムを通過させ、通過画分を回収した。これによって、プレシジョンプロテアーゼ(GST融合型)、未切断のヒスタグ付きのscFv、及び大腸菌由来のキレート性タンパク質が除去された。回収された精製ポリクローナルscFvを、2.5% グルコース、0.9% NaCl及び0.05% PEG4000を含む生理食塩水に透析した。透析物はヒト血管炎モデルマウスへの投与まで4℃で保存された。本実施例によって1L培養当り約30mgの精製ポリクローナルscFvが得られた。
(実施例3)ヒト血管炎モデルマウスの作出
ヒト血管炎モデルマウスを作出するために、マウスにカンジダ アルビンカンスの水溶性画分(Candida albicans water−soluble fraction。以下、「CAWS」と称する。)(N.Ohno Jpn. J. Infect. Dis. 57:S9-10, 2004)を接種した。
日本チャールスリバー社から購入したC57BL/6N系雄性マウス(3.5週齢)を、試験開始まで6日間ケージ内で予備飼育し(4週齢)、試験に供した。当該マウスを室温21〜26℃、湿度30〜70%、照明時間12時間(7時〜19時)の条件下、無菌区で飼育した。飼育匹数は1ケージあたり5匹とした。飼料は、固形飼料FR2(フナハシ社、10kGyのγ線滅菌済み。)を自由摂取させた。飲水は、滅菌水道水に次亜塩素酸ソーダ液を終濃度0.1%添加したものを自由摂取させた。一方、CAWS(カンジダ標準株IFO1385由来糖分子)をD−PBS(−)(ダルベッコPBS、シグマ社。)に溶解し、240mg/12mLを5本(合計1200mg)調製した。これらの試料を高圧蒸気滅菌(121℃、で20分間)に供した。なお、これらの試料中にLPS(リポ多糖)は検出されなかった。次に、CAWS(4mg/0.2mL/マウス)をマウスの腹腔内に5日間連続で接種し、人工ポリクローナル免疫グロブリン製剤の効果確認に用いた。
(実施例4)マウス血管炎モデルを用いた人工ポリクローナル免疫グロブリン製剤の効果
参考例5で製造したCH1−CH2−CH3(hFC123)を注射用生理食塩水(0.9% NaCl、2.5%グルコース)に対して透析した。また、実施例2で製造したポリクローナルscFv(ポリFv)をPEG4000を含有する注射用生理食塩水(0.9% NaCl、2.5%グルコース、0.05% PEG4000)に対して透析した。それぞれの透析内液を回収し、0.22μmメンブレンフィルターにて無菌ろ過した。
試験は、10匹ずつの7群に分けて行った。すなわち、第1群はCAWS接種のみ、第2群はCAWS接種+生理食塩水治療群、第3群はCAWS接種+ポリFv(170 mg protein/Kg)治療群、第4群はCAWS接種+hFC123(250 mg protein/Kg)治療群、第5群はCAWS接種+ポリFv(170 mg protein/Kg)+hFC123(250 mg protein/Kg)治療群、第6群は生理食塩水接種+ポリFv(170 mg protein/Kg)+hFC123(250 mg protein/Kg)治療群(陰性コントロール)、第7群はCAWS接種+市販の免疫グロブリン製剤(献血グロベニン−I−ニチヤク)(170 mg protein/Kg)治療群(陽性コントロール)、とした。なお、治療は接種3日目から行い、静注により5日間投与した。組換えグロブリン製剤、及び、コントロールサンプルについては、CAWS投与6時間後にも静脈注射した。なお、投与量は接種初日におけるマウスの体重を基準として算出した。また、静注はシリンジポンプ(ハーバード社。MODEL11)を用い、8分/マウスの速度で尾静脈内に注入した。免疫グロブリンの注射量は、上記のとおり170〜500mg protein/Kgに揃えた。マウスの観察は、接種初日から7日間、生死の確認及び臨床症状について行った。
接種終了後27日目に、炭酸ガス麻酔下(ドライアイス2kg程度)でマウスの心臓から全採血(ヘパリン処理)を行った。次に、マウスを開腹し、脾臓を摘出した後、身体ごと(心臓に割りを入れる)10%中性緩衝ホルマリン液(和光純薬社、品番:060−01667)に入れ、固定化した。脾臓は、重量測定後、別にホルマリン固定した。固定化した試料について、Hematoxylin−Eosin染色による組織化学的観察を行った。
各群の血管炎治療効果を、組織化学的観察により評価した。結果を図10に示す。図10の横軸は左から順に第1群〜第7群で、縦軸は治療効果が認められた割合(%)である。まず、第1群(CAWS単独投与)では、約90%のマウスで血管炎を発症した。また、第2群(CAWS接種+生理食塩水治療群)では全く血管炎抑制効果が見られず、生理食塩水では治療効果がないことが確認された。これに対し、第3群(CAWS接種+ポリFv)では血管炎の抑制効果がかなり認められ、ポリFvが血管炎の治療効果を有することが確認された。
第4群(CAWS接種+hFC123)では、血管炎の抑制効果はごく僅かしか認められず、hFC123では血管炎の治療効果はほとんど確認されなかった。これに対し、第5群(CAWS接種+ポリFv+hFC123)では血管炎の抑制効果がかなり認められ、ポリFvが血管炎の治療効果を有することが確認された。
なお、陰性コントロールである第6群(生理食塩水接種+ポリFv+hFC123)では、ポリFv+hFC123の投与の影響はなかった。さらに、陽性コントロールである第7群(CAWS接種+市販の免疫グロブリン製剤)では、血管炎の抑制効果が認められた。以上より、ポリFv、及び、(ポリFv+hFC123)からなる人工ポリクローナル免疫グロブリンは、血液製剤の免疫グロブリン製剤と同様の作用を有していた。これにより、高い安全性を有する免疫グロブリン製剤が提供された。
発現ベクターpTmFKPIの構成を表す図である。 発現ベクターpTmFKPC123の構成を表す図である。 発現ベクターpTmFKPC23の構成を表す図である。 発現ベクターpTmFKPCの構成を表す図である。 参考例3で製造されたポリクローナル免疫グロブリンscFv−CH1−CH2−CH3の分子構造を表す図である。 参考例4で製造されたポリクローナル免疫グロブリンscFv−CH2−CH3の分子構造を表す図である。 参考例5で製造されたポリクローナル免疫グロブリンの構成物であるscFvとCH1−CH2−CH3の分子構造を表す図である。 発現ベクターpT3DEの構成を表す図である。 実施例2で行なったSDS−PAGEの結果を表すゲルの写真である。 実施例4で人工ポリクローナル免疫グロブリン製剤の治療効果を確認した結果を表すグラフである。

Claims (8)

  1. 下記工程、
    (1)免疫グロブリンを発現している組織又は細胞に由来するcDNAから、互いに異なる免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドをコードする複数種の遺伝子を単離し、該遺伝子の混合物を調製する工程、
    (2)該遺伝子の混合物をベクターに接触させ、互いに異なる遺伝子が挿入された複数種の組換えベクターを調製し、該組換えベクターの混合物を調製する工程、
    (3)該組換えベクターの混合物を宿主細胞に接触させ、互いに異なる組換えベクターが導入された複数種の組換え体を調製し、該組換え体の混合物を調製する工程、
    (4)該組換え体の混合物を混合培養し、該培養物から、互いに異なる複数種の免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドの混合物を封入体として得る工程、
    (5)該封入体を可溶化する工程、
    を含み、
    前記ポリペプチドがscFvであり、前記組換え体が大腸菌であることを特徴とする人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法。
  2. 下記工程(A):
    (A)互いに異なる免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドを発現する複数種の組換え体を混合培養し、該培養物から、互いに異なる複数種の免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドの混合物を封入体として得る工程、
    を含み、
    前記ポリペプチドがscFvであり、前記組換え体が大腸菌であることを特徴とする人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法。
  3. さらに、下記工程(B):
    (B)工程(A)で得られた封入体を可溶化する工程、
    を含むことを特徴とする請求項2に記載の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法。
  4. 工程(A)の複数種の組換え体は、互いに異なる組換えベクターが導入されたものであり、該組換えベクターは、互いに異なる免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドをコードする遺伝子が挿入されたものであることを特徴とする請求項2又は3に記載の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法。
  5. 前記遺伝子は、免疫グロブリンを発現している組織又は細胞に由来するcDNAから単離して得られたものであることを特徴とする請求項4に記載の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法。
  6. 前記組織又は細胞が哺乳動物由来のものであることを特徴とする請求項1又は5に記載の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法。
  7. 前記哺乳動物が、ミエロペルオキシダーゼ欠損マウスであることを特徴とする請求項6に記載の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法。
  8. 請求項1乃至のいずれかに記載の人工ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法によって得られた人工ポリクローナル免疫グロブリンに、安定化剤又は賦形剤を組み合わせることを特徴とする免疫グロブリン製剤の製造方法。
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