JP4391133B2 - Pleurotus nebrodensis株、その栽培方法、及びそれを含む疾患予防改善剤 - Google Patents

Pleurotus nebrodensis株、その栽培方法、及びそれを含む疾患予防改善剤 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はPleurotus nebrodensis株、その栽培方法、及びそれを含む疾患予防改善剤、特に疾患予防改善効果を有するPleurotus nebrodensis株、その収穫量の改善に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、食生活の多様性や美食ブームから一般的に若年層から肥満化の傾向にある。また、超高齢化社会やストレス化社会への突入に従って、加齢や生活習慣に関わる疾患が増加することが予測される。特に、高血圧症は肥満や運動不足から増加する傾向にある。さらに高血圧症は、糖尿病や耐糖能障害、あるいは高脂血症・脂質代謝異常、肥満等の成人病を伴いやすいことが知られている。
【0003】
従来、高血圧症に対する治療法としては、Ca拮抗薬、β受容体作動薬、アンジオテンシン転換酵素阻害薬を用いる方法が効果的であり、広範に用いられている。しかし、これらの薬物の長期にわたる投与によって副作用が問題となることも多い。また、肥満の改善方法としては、運動療法、食事療法が主流となっているが、いずれも継続が困難である。このため、副作用を生じる可能性が低く、継続摂取が可能な自然食品や健康食品(機能性食品を含む)に対する関心が高まっている。
【0004】
一方、食用キノコ類は、食文化の多様化や健康食品としての認識から旺盛な需要があり、生産量も増大している。よって、生産技術も各キノコ類に対応した形で発展してきた。現在では、特殊な生態を有する一部のキノコを除き、シイタケ、エノキタケ、ブナシメジ、マイタケ、ヒラタケ、ナメコ、エリンギ等、ほとんどのキノコの人工栽培が可能となっている。
食用キノコの栽培方法は、椎茸等の原木栽培と、エノキタケ、ヒラタケ等のように、おがくず、米糠、ふすま、水等を混合して培地とする容器菌床栽培とがある。
【0005】
容器栽培では、培地の組成がその生育に大きな影響を与えることから、良質のキノコが増収できるよう、従来からいろいろな材料が培地として使用されている。
例えば、紅藻類の粉末を培地に添加する方法(特開平06−113670)、及び卵殻の粉砕物を培地に添加する方法(特開平06−253677)等がある。
【0006】
【特許文献1】
特開平06−113670号
【特許文献2】
特開平06−253677号
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、Pleurotus nebrodensisにおいては、従来の栽培方法では、充分な収穫量を得ることができず、より収穫量の増大を図ることができる栽培方法が切望されている。
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、優れた疾患予防改善効果を有するPleurotus nebrodensis株、及びそれを含む疾患予防改善剤、さらに、短期間で充分な量の子実体を収穫することのできるPleurotus nebrodensisの栽培方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明者らが鋭意検討を行った結果、Pleurotus nebrodensis、特に寄託番号がFERM P−19370であるPleurotus nebrodensisが優れた疾患予防改善効果を有することを見出した。さらに電気インパルスを与えることにより、Pleurotus nebrodensisの子実体の発生が促進されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第一の主題は、寄託番号がFERM P−19370であるPleurotus nebrodensis株である。
【0009】
本発明の第二の主題は、下記の(a)〜(d)工程を含むことを特徴とするPleurotus nebrodensisの栽培方法である。
(a) 培地にPleurotus nebrodensisの種菌を接種する工程。
(b) (a)工程後、温度20〜30℃の条件下で培養し、菌糸を培地内に蔓延させる工程。
(c) (b)工程後、5〜60kVの電気インパルスを与える工程。
(d) (c)工程後、温度10〜20℃の条件下で子実体を発生させる工程。
【0010】
前記に栽培方法おいて、(d)工程において、−1〜2℃の低温刺激を与えた後、10〜20℃に設定にすることが好適である。
前記栽培方法において、(a)工程において、寄託番号がFERM P−19370であるPleurotus nebrodensisの種菌を接種することが好適である。
【0011】
本発明の第三の主題は、Pleurotus nebrodensisを主成分とする疾患予防改善剤である。
前記疾患予防改善剤において、Pleurotus nebrodensis乾燥粉末、及び/又はその熱水抽出物を含むことが好適である。
前記疾患予防改善剤において、Pleurotus nebrodensis株が、寄託番号がFERM P−19370であるPleurotus nebrodensis株であることが好適である。
前記疾患予防改善剤において、疾患が高血圧症、高脂血症、肥満から選択される1種又は2種以上であることが好適である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。
初めに本発明にかかるPleurotus nebrodensisの栽培方法を説明する。
(1)培地の調整
本発明において培地となる原料は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されることはなく、従来使用していたものを使用することができる。例えば、米糠、オガクズ等に水分を加えて調整したものが用いられる。また、菌糸活性剤等が混合されることもある。
培地を充填する容器は、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されることはなく、適宜の容器に充填すればよい。通常は上方に開口を有する瓶形の容器(培養瓶)や袋状の容器(培養袋)が用いられる。
【0013】
(2)培地の殺菌
用意した培地を、蒸気殺菌等の殺菌手段により殺菌する。殺菌条件は従来どおりで特に限定されないが、例えば100℃で4時間程度とすることができる。
(3)種菌の接種
その後、20℃程度まで冷却してから、培地を充填した容器のほぼ中央に適宜の穴を開け、Pleurotus nebrodensisの種菌を接種する。種菌の接種においては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、通常通りの方法で行うことができる。穴の深さは特に限定するものではないが、菌周りの促進を考慮すると、容器の底部付近に達するまでの深さにすることが好ましい。
【0014】
(4)培養
種菌の接種後、培養して菌糸を培地内に蔓延させる。培養時の室温は20〜30℃、湿度は70〜100%であることが好ましく、菌糸が十分蔓延するまで培養させることが好ましい。
培養条件は、上記の範囲であれば特に限定されないが、速やかに培養させるためには、室温を培養後期に一旦低下させ、再び上昇させることが好ましい。
【0015】
具体的には、培養前期の室温は18〜22℃、培養後期に一旦低下させる温度は8〜12℃、その後上昇させる温度は23〜32℃とすることが好ましい。
培養前期の期間は40日程度が好ましく、培養後期の期間は20日程度が好ましい。培養後期における室温上昇のタイミングは、8〜12℃の室温を10日程度維持した後、急激に23〜32℃に上昇させるのがよく、さらにその状態を10日程度維持するのが良い。
【0016】
(5)子実体の発生
菌糸が培地内に蔓延した後、電気インパルスを与えることにより、子実体の発生が早まり、収穫量も増大する。電気インパルスは、5〜60kV、特に20〜30kV、さらに20kVであることが好適である。5kV未満であると、本発明の効果が十分に発揮されないことがあり、60kVを超えると、逆に子実体が発生しにくくなることがあるため、好ましくない。電気インパルスを与えるタイミングは、培養終了後、子実体発生段階に入る時と同時であることが好適である。
【0017】
(6)子実体の発生
子実体を発生させるためには、培養時よりも室温を低下させ、室温は10〜20℃、湿度は80〜100%であることが好ましい。
子実体発生にふさわしい温度、湿度条件は上述のとおりであるが、より子実体の発生を早め、収穫量を増大させるためには、室温を低温に維持し、途中で上昇させることが好ましい。具体的には、−1〜2℃の状態を5日程度維持し菌糸に低温刺激を与えた後、3〜7℃に上昇させて5日程度維持し、その後さらに15〜20℃に上昇させて維持することが好ましい。この期間は菌糸の状態によって適宜に調整しても良い。
【0018】
さらには、二段階目の温度上昇とほぼ同時に、二酸化炭素濃度及び/又は照明光度を上昇させることが、特に好ましい。
具体的には、二酸化炭素濃度は、400ppm前後から2000ppm前後に上昇させるのが好ましく、照明光度は、100Lux前後から400Lux前後に上昇させるのが好ましい。
【0019】
なお、本発明にかかるPleurotus nebrodensis株は、平成15年5月22日付で、本出願人である江口文陽により、工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されており、寄託番号はFERM P−19370である。識別のための表示をPleurotus nebrodensis No.17という。科学的性質等は以下の通りである。
1.科学的性質…菌の特徴:炭素源と窒素源を含む栄養培地下において、白色のコロニーを形成する。また、光学顕微鏡下において、クランプコネクション(かすがい連結)が観察される。
【0020】
2.分類学上の位置…担子菌
3.培養条件
▲1▼培地名…SMYA培地(S:サッカロース、M:マルトエキストラクト、Y:イーストエキストラクト、A:寒天)
S,A→市販品 M,Y→ディフコ社製(Difco)
▲2▼培地の組成…培地1000ml当たり
1% サッカロース 10g
1% マルトエキストラクト 10g
0.4% イーストエキストラクト 4g
2% 寒天 20g
【0021】
▲3▼培地のpH…5.0〜7.0(最適pH5.5)
▲4▼培地の殺菌条件…121℃ 20分
▲5▼培地温度…28℃
▲6▼培養期間…10日間
▲7▼酸素要求性…好気性
【0022】
4.保管条件
凍結法にて保管できる。
▲1▼凍結条件…−80℃
▲2▼保護剤…10〜20%グリセリン水溶液(最適は20%)
▲3▼凍結後の復元率…1年で100%、3年で99%
【0023】
5.生存試験の条件
▲1▼微生物の復元…40℃
▲2▼接種・培養・確認法…培養条件と同一条件による。
【0024】
本発明のPleurotus nebrodensis株を使用して疾患予防改善剤を製造することができる。本発明の疾患予防改善剤は経口投与して、疾患、特に高血圧症、高脂血症、肥満の予防・改善のために適用する。疾患予防改善剤として用いる際の摂取量としては、症状等により異なり特に限定されないが、成人1日当たりPleurotus nebrodensis乾燥粉末に換算して1〜15g、特に6〜9gを摂取すれば十分に効果が期待できる。
【0025】
Pleurotus nebrodensisは、乾燥粉末の抽出物として摂取することも可能である。抽出液としては、Pleurotus nebrodensis子実体乾燥粉末を熱水で抽出したものが好ましい。また、抽出物は、抽出液でもその乾燥物でもよい。
【0026】
本発明の疾患予防改善剤は、通常内服薬として投与される。
内服薬の場合には、常法により散剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、茶剤、懸濁化剤、流エキス剤、液剤、シロップ剤等とすることができる。なお、製剤化の際には、通常の製剤化担体、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、賦香剤等を必要に応じて用いることができる。また、必要に応じて適当なコーティング剤等で剤皮を施すこともできる。
【0027】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
電気インパルスの影響
1. オガクズ150重量部、フスマ100重量部、コーンミール10重量部、及び菌糸活性剤15重量部からなる培地を用意し、含水率を約65%に調整した。ポリプロピレン製栽培瓶(口径52mm、容量850ml)に、用意した培地を約650gずつ満たし、蓋をした。
2. 121℃で4時間、蒸気殺菌器により殺菌し、培地の温度が20℃以下になるまで冷却した。
3. 培地中央に直径約20mmの接種孔を底部まで設け、Pleurotusnebrodensis(寄託番号:FERM P−19370)の種菌15gを接種した。
4. 種菌を接種した瓶を、室温25℃/相対湿度70%に設定した培養室に60日間置いた。これにより、菌糸が培地内に充分蔓延し、菌糸が完熟した。
5. 菌培養した瓶に、所定の電圧の電気インパルスを与える。
6. 室温10℃/相対湿度90%に設定された生育室に移し、隔日で子実体の発生を観察した。
【0028】
培養瓶は、各電圧につき100本用意した。各日数における子実体が発生した培養瓶の数、平均収量を表1に示す。なお、平均収量は、各電圧において子実体が発生した培養瓶1本当たりの子実体収量の平均を示す。また、日数は電気インパルスを与えた日(培養室から生育室に移した日)から起算した。
【0029】
【表1】
試験例 1 2 3 4 5 6 7
電圧 (kV) 0 5 10 15 20 25 30
14日目 0 0 0 0 1 3 8
16日目 0 0 2 4 9 14 24
18日目 0 3 7 8 17 28 39
20日目 0 11 19 32 26 25 29
22日目 0 23 34 29 23 30 0
24目目 0 25 19 25 24 0 0
26 日目 1 14 7 2 0 0 0
合計 1 76 88 100 100 100 100
平均収量 (g) 73 94 107 135 172 164 159
【0030】
表1より、電気インパルスを与えると、子実体の発生日が早まり、収量が増加することが確認された。子実体の発生日は、電圧が強いほど早まり、20〜30kVでは14日目から、10〜15kVでは16日目から、5kVでは18日目から子実体が発生し、15kVでは26日目までに、20kVでは24日目までに、25kVでは22日目までに、30kVでは20日目までにすべての培養瓶で子実体が発生した。
【0031】
また収量は、20kVにおいて最も多く、20〜30kVでは電気インパルスを与えない時の2倍以上の収量があった。さらに高い電圧を与えて試験したところ、60kVにおいても、子実体発生日が早まり、収量が増加する効果が確認された。
よって、Pleurotus nebrodensisを短期間で多量に収穫するためには、培養終了時に5〜60kV、特に15〜30kVの電気インパルスを与えることが好ましく、収量の点では20kVが最適であることが確認された。
【0032】
さらに、温度条件を以下のようにしたところ、さらに短期間でより多くの子実体を収穫できた。よって、電気インパルスに加えて、低温刺激を与えることが好ましいことが確認された。
温度条件:室温−1℃/相対湿度90%で5日間維持し、室温を5℃に上昇させ5日間維持し、その後、室温を18℃に上昇させた。
【0033】
1.高血圧予防改善剤
(1)試験ラットの飼育、及び被験薬の投与方法
▲1▼予備飼育(6〜7週齢)
日本チャールスリバー(株)より購入した6週齢の雄性自然発症高血圧ラット(SHR)、及び正常血圧のウィスター京都ラット(WKY)を、室温22±1℃、湿度60±10%に調節された飼育室において、白色蛍光灯で1日12時間(7〜19時明期)の光調節を行い、飼料及び水道水を自由摂取させ1週間予備飼育した。
予備飼育後、各個体の体重及び血圧の測定を行い、1群8頭とし、血圧値の平均値がほぼ等しくなるようにSHRラットをA〜H群に、WKYラットをI〜J群に分類した。
【0034】
▲2▼Pleurotus nebrodensis抽出物の調製方法
Pleurotus nebrodensis(寄託番号:FERM P−19370)子実体の乾燥物を粉砕し、16メッシュのふるいにかけて粉末とした。また、この粉末3、6、9,12gをそれぞれ600mlの熱水(80℃)中で2時間抽出し、熱水抽出液を得た。以下、それぞれを3g抽出物、6g抽出物、9g抽出物、12g抽出物という。
【0035】
▲3▼被験薬投与方法(8〜18週齢)
下記の要領で、各群のラットに被験薬投与を行い、8週齢からさらに12週間、20週齢まで飼育した。飼料と水道水を各群とも自由摂取させた。飼育室の環境は、温度22±1℃、湿度60±10%、白色蛍光灯で1日12時間の採光下(7〜19時明期)とした。
各抽出物はすべて経口投与とし、毎日午前10時より施行し、抽出物投与後は滅菌水を自由摂取させた。
【0036】
A群:SHRラット(無投与)
B群:SHRラット(3g抽出物投与)・・・1日に体重1kg当たり前記3g抽出物10mlを投与する。
C群:SHRラット(6g抽出物投与)・・・1日に体重1kg当たり前記6g抽出物10mlを投与する。
D群:SHRラット(9g抽出物投与)・・・1日に体重1kg当たり前記9g抽出物10mlを投与する。
E群:SHRラット(12g抽出物投与)・・・1日に体重1kg当たり前記12g抽出物10mlを投与する。
F群:SHRラット(乾燥粉末3%)・・・飼料に3%のPleurotus nebrodensis乾燥粉末を混合し、自由摂取させる。
G群:SHRラット(乾燥粉末6%)・・・飼料に6%のPleurotus nebrodensis乾燥粉末を混合し、自由摂取させる。
H群:SHRラット(乾燥粉末9%)・・・飼料に9%のPleurotus nebrodensis乾燥粉末を混合し、自由摂取させる。
I群:WKYラット(無投与)
J群:WKYラット(乾燥粉末6%)・・・飼料に6%のPleurotus nebrodensis乾燥粉末を混合し、自由摂取させる。
【0037】
(2)結果
▲1▼血圧検査
血圧検査は2週間に1回、被験薬投与前に行い、各群ラットの平均値を求めた。
結果を表2に示す。
【表2】
Figure 0004391133
【0038】
自然発症高血圧ラットであるSHRラット(A〜H群)はWKYラット(I〜J群)と比較して、血圧値が高かった。しかしながら、SHRラットにおいて、無投与群(A群)と比較して、6,9,12g投与群(C〜E群)、6、9%群(G,H群)では14週齢当たりから、血圧上昇の抑制が確認された。さらに驚くべきことに、6%群(G群)では14週齢から、9、12g投与群(D,E群)及び9%群(H群)では16週齢から、6g投与群(C群)では18週齢から、血圧の降下が確認された。
血圧上昇抑制及び血圧降下の作用は、用量が多い群ほど高い傾向にあった。12g投与群(E群)において血圧の降下作用が、9g投与群(D群)よりも高くなかったのは、薬効用量に伴う生物曲線の発現と考えられる。また、元々正常血圧であるWKYラットにおいては、血圧の降下(異常)は起こらなかった。
【0039】
以上より、本発明のPleurotus nebrodensisには、用量依存的に高血圧症予防改善効果があることがわかった。また、正常血圧である場合には血圧降下作用を示さないことから、従来の高血圧治療薬のように単に血圧を下げるのではなく、血圧を正常値に近づける効果があり、より安全に服用できることがわかる。また、乾燥粉末でも、その抽出物でも効果があることがわかった。
【0040】
▲2▼血液検査
実験最終日の前日に全ラットを絶食させ、翌日に深麻酔(ネンブタール,45mg/kg,i.p.)し、左心室から20G採血針で可能な限り採血を行った。
採取した血液を用いて、下記の項目において生化学的検査(自動化学分析装置:Auto Lab, Radio lmmuno Assay 法)を行い、平均値を求めた。
結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
Figure 0004391133
【0042】
SHRラット(A〜H群)はWKYラット(I〜J群)と比較して、LDLコレステロール、βリポタンパク、中性脂肪、アルブミン、尿素窒素、クレアチニン、尿酸、アンジオテンシンの値が高く、総コレステロール、HDLコレステロール、総タンパク、A/G比、白血球数の値が低いことがわかった。しかしながら、SHRラットにおいて、無投与群(A群)と比較して、投与群(B〜H群)では各項目において著明な改善が確認された。
【0043】
アンジオテンシン
アンジオテンシンは、肝臓で産生されるレニン基質に、腎糸球体より分泌されるレニンが作用し生成される活性ペプチドである。高値を示す疾患としては、腎血管性高血圧症、悪性高血圧症等が挙げられる。よって、アンジオテンシン値は、高血圧症の指標に用いられる。
A群と比較して、B〜H群ではアンジオテンシンが低下し、正常なI群の値に近づき、特にB〜E、G,H群ではほぼI群の値に等しくなった。このようにアンジオテンシン値においても、高血圧予防改善効果が確認された。
【0044】
コレステロール
コレステロールは、生体細胞膜の構成成分等として必須の成分であり、善玉コレステロール(HDL)と、悪玉コレステロール(LDL)とに分けられる。LDLは動脈硬化を促進し、HDLは血管壁に付着したLDLを取り除く働きをする。よって、これらのコレステロール値を測定することにより、脂質代謝異常をきたす疾患の推測ができる。
【0045】
A群と比較してB〜H群では、HDLの上昇、及びLDLの低下が見られ、I群の値に近づき、特にD〜E、G,H群ではほぼI群の値に等しくなった。また総コレステロール値も正常なI群の値に近づいた。よって、高血圧予防改善効果に伴い、脂質代謝異常の予防改善効果を有することが確認された。
【0046】
βリポタンパク、中性脂肪
βリポタンパクの主な機能は、コレステロールを肝臓から各臓器に移送することである。よってβリポタンパク値は脂質代謝異常疾患の指標とされる。
A群と比較して、B〜H群では用量依存的にβリポタンパク値の低下が見られ、正常値に近づいた。
さらに、A群と比較してB〜H群では、用量依存的に中性脂肪の低下も見られた。よって、βリポタンパク、中性脂肪値においても、脂質代謝異常の予防改善が確認された。
【0047】
尿素窒素、クレアチニン、尿酸
尿素窒素、クレアチニン、尿酸の測定は、肝・腎機能の指標に用いられる。
A群と比較して、D、E、G,H群では尿素窒素、クレアチニン、尿酸値が低下し、正常なI群の値に近づいた。よって、高血圧予防改善効果に伴い、肝・腎機能の改善効果も有することが確認された。
【0048】
総タンパク、アルブミン、A/G比、白血球数
さらに、A群と比較してB〜H群では、用量依存的に総タンパク、A/G比、白血球数の値の上昇、及びアルブミン値の低下が見られ、正常なI群の値に近づいた。
【0049】
以上のことから、Pleurotus nebrodensisの投与により、高血圧予防改善作用に伴い、脂質代謝異常の改善効果、肝・腎機能の改善効果が発揮されることが確認された。また、正常ラットにおいては、投与によりこれらの値には目立った変化(異常)を示さないことから、安全性が高いことがわかる。
【0050】
2.高脂血症予防改善剤・肥満予防改善剤
Zuckerラットの遺伝形式は常染色体性の単純劣性遺伝様式を取り、病因遺伝子(fa遺伝子)をホモに持つ個体(fa/fa)のみが肥満を呈し(Zucker-fattyラット:(ZUC)-fa/fa)、ヘテロ接合体(fa/+)及び野生型(+/+)は肥満を呈さない(Zucker-leanラット:(ZUC)-lean)。Zucker-fattyラットは、生後4週齢頃より体重増加及び外観によって肥満状態が認められ、10週齢頃までに急速に肥満が進行し、その後も徐々に進行する。さらに高脂血症、高インシュリン血症、高レプチン血症及び耐糖性の異常を示すことが知られている。このZucker-fattyラット及び比較としてZucker-leanラットを使用し、高脂血症予防改善効果及び肥満予防改善効果について試験を行った。
【0051】
(1)試験ラットの飼育、及び被験薬の投与方法
▲1▼予備飼育(5〜6週齢)
日本チャールスリバー(株)より購入した5週齢の雄性Zucker-fattyラット、及び雄性Zucker-leanラットを、室温22±1℃、湿度60±10%に調節された飼育室において、白色蛍光灯で1日12時間(7〜19時明期)の光調節を行い、飼料及び水道水を自由摂取させ1週間予備飼育した。
予備飼育後、各個体の体重測定及び糖負荷試験を行い、1群5頭とし、体重の平均値がほぼ等しくなるようにZucker fattyラットをK〜O群に、Zucker-leanラットをP〜Q群に分類した。
【0052】
▲2▼Pleurotus nebrodensis抽出物の調製方法
前述の通りとする。
▲3▼被験薬投与方法(6〜16週齢)
下記の要領で、各群のラットに被験薬投与を行い、さらに10週間、16週齢まで飼育した。飼料と水道水を各群とも自由摂取させた。飼育室の環境は、温度22±1℃、湿度60±10%、白色蛍光灯で1日12時間の採光下(7〜19時明期)とした。
各被験薬はすべて経口投与とし、毎日午前10時より施行し、投与後は滅菌水を自由摂取させた。
【0053】
K群:Zucker-fattyラット(無投与)
L群:Zucker-fattyラット(3g抽出物投与)・・・1日に体重1kg当たり前記3g抽出物10mlを投与する。
M群:Zucker-fattyラット(6g抽出物投与)・・・1日に体重1kg当たり前記6g抽出物10mlを投与する。
N群:Zucker-fattyラット(9g抽出物投与)・・・1日に体重1kg当たり前記9g抽出物10mlを投与する。
O群:Zucker-fattyラット(12g抽出物投与)・・・1日に体重1kg当たり前記12g抽出物10mlを投与する。
P群:Zucker-leanラット(無投与)
Q群:Zucker-leanラット(9g抽出物投与)・・・1日に体重1kg当たり前記9g抽出物10mlを投与する。
【0054】
(2)結果
▲1▼体重変動
体重測定は週1回、被験薬投与前に行い、各群ラットの平均値を求めた。結果を表4に示す。
【表4】
Figure 0004391133
【0055】
Zucker-fattyラット(K〜O群)は、Zucker-leanラット(P〜Q群)と比較して、体重の増加が激しかった。しかしながら、Zucker-fattyラットにおいて、無投与群(K群)と比較して、投与群(L〜O群)では10週齢当たりから体重増加の抑制が見られた。体重増加の抑制効果は、用量が多い群ほど高かった。
また、正常体重であるZucker-leanラットにおいても、正常な範囲内での体重増加の抑制が確認された。
以上より、本発明のPleurotus nebrodensisには、用量依存的に肥満を抑制する効果が見られ、正常な場合に対しても、適度な脂肪沈着抑制効果があることがわかった。
【0056】
▲2▼血液検査
実験最終日の前日に全ラットを絶食させ、翌日に深麻酔(ネンブタール,45mg/kg,i.p.)し、左心室から20G採血針で可能な限り採血を行った。
採取した血液を用いて、下記の項目において生化学的検査(自動化学分析装置:Auto Lab, Radio lmmuno Assay 法)を行い、平均値を求めた。
結果を表5に示す。
【0057】
【表5】
Figure 0004391133
【0058】
表5より、Zucker-fattyラット(K〜O群)はZucker-leanラット(P〜Q群)と比較して、総コレステロール、遊離コレステロール、βリポタンパク、中性脂肪、リン脂質、総脂質、尿素窒素、AST(GOT)、AST(GPT)、インスリンの値が高く、HDLコレステロール、遊離脂肪酸、クレアチニン、尿酸の値が低いことがわかった。しかしながら、Zucker-fattyラットにおいて、無投与群(K群)と比較して、投与群(L〜O群)では各項目において、著明な予防改善効果が確認された。
【0059】
中性脂肪、遊離脂肪酸、リン脂質、総脂質
K群と比較してL〜O群では、用量依存的に中性脂肪、リン脂質、総脂質が低下し、遊離脂肪酸が上昇する傾向が見られた。遊離脂肪酸は、大部分が脂肪組織に蓄積された中性脂肪が分解され血中に放出されたもので、心筋、骨格筋、腎等の主要臓器で燃焼され、末梢組織でエネルギー源として利用される。よってこの結果は、肥満の改善を示す。また、中性脂肪、総脂質の著しい低下に比べて、細胞膜の構成成分として重要であるリン脂質は低下が少なく、正常なP群の値以下になることはなかった。また上記の作用は、正常ラットにおいても、正常な範囲内で確認された。以上より、高脂血症、肥満の予防改善作用が確認された。
【0060】
コレステロール
前述のようにコレステロール値は、脂質代謝異常の指標となる。
K群と比較してL〜O群では、善玉コレステロールであるHDLが上昇するのに対し、総コレステロール、遊離コレステロールは用量依存的に低下する傾向があった。以上より、コレステロール値において、脂質代謝の改善効果が確認された。
【0061】
βリポタンパク
前述のように、βリポタンパク値は脂質代謝異常疾患の指標とされる。
K群と比較してL〜O群では、用量依存的にβリポタンパク値が低下し、正常なP群の値に近づいた。よって、βリポタンパク値においても、脂質代謝の改善が確認された。
【0062】
インスリン
インスリンは、膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンで、筋肉・脂肪組織でのグルコースの取り込み促進、及び肝での糖放出抑制等を介して血糖を降下させる。またグリコーゲン蓄積、脂肪蓄積、ケトン体低下、蛋白合成等にも関与している。よってインスリンの測定は、糖代謝異常の指標となる。
K群と比較して、L〜O群では用量依存的にインスリン値の低下が見られ、正常なP群の値に近づいた。よって、肥満予防改善効果に伴い、糖代謝の改善も確認された。
【0063】
尿素窒素、クレアチニン、尿酸、AST
尿素窒素、クレアチニン、尿酸、ASTは、肝・腎機能の指標に用いられる。K群と比較してL〜O群では、用量依存的に尿酸窒素、AST値が低下し、クレアチニン、尿酸値が上昇する傾向が見られ、O群においては、正常なP群とほぼ同じ値となった。よって、肥満予防改善効果に伴い、肝・腎機能の改善も確認された。
【0064】
また、抽出液投与によって、元々正常であった総タンパク、アルブミン、A/G比等には異常をきたすことはなかった。
以上のことから、Pleurotus nebrodensisの投与により、高脂血症予防改善効果、肥満予防改善効果、及びそれに伴う脂質代謝異常の改善効果、糖代謝の改善効果、肝・腎機能の改善効果が発揮されることが確認された。
【0065】
3.ヒト臨床検査
次に本発明の疾患予防改善剤におけるヒト臨床検査について説明する。
被検試薬の調製(図1)
Pleurotus nebrodensis(寄託番号:FERM P−19370)乾燥粉末100gと滅菌水1Lを三角フラスコに加え、95℃の湯浴中で1時間抽出後、室温まで放冷した。減圧濾過により第一濾液と残渣とに分離する。残渣に滅菌水500mLを加え、95℃の湯浴中で1時間抽出後、室温まで放冷し、減圧濾過により第二濾液と残渣とに分離する。第一濾液と第二濾液を混合し、60℃にて減圧濃縮する。さらに、95℃で10分殺菌後、固形分50%となるまで60℃にて濃縮する。固形分に対して、50%の賦形剤を添加し、加熱溶解、凍結乾燥にて粉末化する。60メッシュのふるいにかけ、押出し造粒法にて顆粒化する。
【0066】
33歳、42歳、50歳の3人の男性に、前記方法にて調製した被検試薬を1日6gずつ毎日服用してもらい、服用前、服用1ヶ月目、服用3ヶ月目、服用6ヶ月目にそれぞれ血液検査を行った。結果を表6に示す。
【0067】
【表6】
Figure 0004391133
【0068】
なお、正常値は、総コレステロール:120〜220mg/dl、HDLコレステロール:41〜84mg/dl、中性脂肪:30〜180mg/dl、β−リポタンパク:150〜500mg/dlとされている。服用前はどの男性も、総コレステロール、中性脂肪、β−リポタンパクの値が正常値を超えており、1人を除いてHDLが正常値以下であった。
しかしながら、Pleurotus nebrodensis乾燥粉末を服用することにより、これらの値に改善が見られ、服用6ヶ月目には3人ともすべての値が正常範囲内に改善された。よって、Pleurotus nebrodensisはヒトに対しても疾患予防改善作用を持つことが確認された。また服用によって、下痢、嘔吐、排尿異常等の副作用は一切起こらなかった。
【0069】
【発明の効果】
本発明にかかるPleurotus nebrodensis、特に寄託番号がFERM P−19370であるPleurotus nebrodensisは、優れた疾患予防改善効果を有する。
また、本発明にかかるPleurotus nebrodensisの栽培方法によれば、培養終了直後に電気インパルスを与えることでより、短期間で充分な量の子実体を収穫することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる披検試薬の調製方法を示すフローチャートである。

Claims (6)

  1. 寄託番号がFERM P−19370であるPleurotus nebrodensis株。
  2. 下記の(a)〜(d)工程を含むことを特徴とするPleurotus nebrodensisの栽培方法。
    (a) 培地に寄託番号がFERM P−19370であるPleurotus nebrodensisの種菌を接種する工程。
    (b) (a)工程後、温度20〜30℃の条件下で培養し、菌糸を培地内に蔓延させる工程。
    (c) (b)工程後、5〜60kVの電気インパルスを与える工程。
    (d) (c)工程後、温度10〜20℃の条件下で子実体を発生させる工程。
  3. 請求項2に記載の栽培方法において、(d)工程において、−1〜2℃の低温刺激を与えた後、10〜20℃に設定することを特徴とするPleurotus nebrodensisの栽培方法。
  4. 寄託番号がFERM P−19370であるPleurotus nebrodensisを主成分とする疾患予防改善剤。
  5. 請求項4に記載の疾患予防改善剤において、寄託番号がFERM P−19370であるPleurotus nebrodensis乾燥粉末、及び/又はその熱水抽出物を含むことを特徴とする疾患予防改善剤。
  6. 請求項4または5に記載の疾患予防改善剤において、疾患が高血圧症、高脂血症、肥満から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする疾患予防改善剤。
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