JP4385991B2 - 清浄鋼およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、船舶、海洋構造物、ラインパイプ、低温用タンク、橋梁などの溶接構造物の素材として適切な強度、靭性、加工性および溶接性に優れた高清浄度鋼材、およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、Mn含有率が高くSe含有率の低い高清浄度鋼材、およびその製造方法に関する。
船舶、海洋構造物、ラインパイプ、低温用タンク、橋梁などの溶接構造物素材としての鋼材に要求される主な特性は、高強度、かつ優れた靭性、加工性および溶接性、ならびに優れた耐食性である。近年、特に構造物の大型化および製造時の省エネルギー化が求められており、これらの鋼材に対する上記特性の要求は、一段と厳しくなっている。特に、硫化水素を含む原油や天然ガスの輸送に用いられるラインパイプには、耐水素誘起割れ性(以下、「耐HIC性」とも記す)や耐応力腐食割れ性(以下、「耐SCC性」とも記す)などのいわゆる耐サワー性が要求される。
これらの要求を満足するために、従来より下記に示すとおり鋼中の硫化物系または酸化物系介在物を低減させた清浄鋼およびその製造方法が多数提案されている。
(1)初期のCa処理方法
鋼材の水素誘起割れ(HIC)は、腐食反応により生成する水素イオンが鋼材表面に吸着し、この水素イオンが原子状の水素となって鋼材中に侵入して鋼内部のMnSなどの周りに集積する結果、水素ガスにより内圧が上昇し、割れを発生させるものである。このようなHICの発生を防ぐために、例えば、特許文献1には、Ca単独添加の場合は、Ca×S≦4×10-5かつ1.4≦Ca/Sを満足するように、また、CaおよびCeの複合添加の場合は、5.0≦(3.5Ca+Ce)/SかつCe≦0.025(ここで、元素記号は、それぞれ鋼中の各元素の質量含有率(%))を満足するように添加する方法が開示されている。この方法は、鋼中のSの含有率を減少させるとともに、長く進展したMnSの生成を抑制し、その形態を応力集中しにくい微細分散した球状介在物に変化させることのより、割れの発生および伝播を抑制する方法である。
(2)改善されたCa処理方法
Ca処理条件を改善した方法として下記の方法が提案されている。特許文献2には、二次精錬において取鍋内の溶鋼にAl添加による脱酸およびCaO添加による脱酸および脱硫を行い、次いで溶鋼上面スラグの組成をCaO/Al23が0.9〜1.5になるように調整した状態で溶鋼のガス攪拌を行い、介在物除去を実施した後、CaSi粉含有ワイヤーを添加して介在物の形態制御を行う方法が開示されている。
また、特許文献3には、取鍋中の溶鋼に筒状浸漬管を浸漬し、取鍋スラグ組成についてはCaO/Al23≦2.5、SiO2≦10質量%およびFeO+MnO≦2.0質量%を、単位断面積当たりの攪拌動力については、ε/A≧15watt/ton/m2を、また浸漬管内径D1と取鍋内径D2との比については、D1/D2≧0.5を満足する条件下で溶鋼を処理することによりCa添加条件を整える方法が開示されている。
さらに、特許文献4には、S含有率が0.001質量%以下のCa処理鋼であって、面積率で50%以上のベイナイト組織から構成される溶接部の靱性に優れた高エネルギー密度溶接用の耐サワー鋼材が開示されている。
上記のとおり、極低硫化の条件および極低硫化の結果としての鋼材特性の向上については、多数の技術が開示されているものの、Sと精錬上の挙動および鋼材特性への影響が類似するSeに関しては全く言及されていない。
Seは、周期律表においてSと同族元素であって、Mn(S、Se)を形成する。Sの低減には多数の発明が開示されているが、鋼中のS含有率を低減させた結果、S含有率がSe含有率に接近した場合には、耐HIC特性や耐SCC特性に対するSeの悪影響について、十分な注意を払う必要が生じる。
鋼中のSe含有率の調整技術については、わずかに報告があるものの、いずれもSeを含有させることにより、Se含有介在物を形成させ、これを活用する技術である。
例えば、特許文献5には、S:0.02〜0.10質量%、Se:0.01〜0.06%質量を含有し、かつ、0.15≦Se/(S+Se)≦0.60とする機械構造用炭素鋼からなり、硫化物系介在物であるMn(S、Se)の形状の平均長短径比が12以下である快削性に優れた機械構造用炭素鋼継目無鋼管が開示されている。
また、特許文献6には、S:0.005〜0.20質量%を含み、任意選択元素の一つとしてSe:0.01%以下、望ましくはSe:0.001質量%以上を含有し、酸化物系介在物中に含まれるMnOの割合が0.05以下で、且つ、Ca/O≦0.8を満足する被削性に優れた機械構造用鋼およびその製造方法が開示されている。特許文献5および6で開示された発明におけるSeの効果は、Mn(S、Se)を形成することにより被削性を向上させる効果である。
そして、特許文献7には、S含有率が0.003質量%の近傍においてSeを0.005〜0.030質量%含有させることにより、熱延板の焼鈍過程で、微細AlNの析出サイトとなる極微細セレン化物を高密度に析出させ、磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を製造する方法が開示されている。
上記の特許文献5〜7にて開示された発明は、いずれも少量のSeを含有させてSe介在物を生成させ、その介在物を利用する技術思想に基づいている。しかしながら、介在物の生成による鋼特性の劣化を低減するための鋼の清浄化処理工程においては、Sと同様に介在物を形成するSeの影響について従来全く考慮されたことがなかった。
本発明は、上述の状況を踏まえ、Mn含有鋼の溶製に際して、主としてMn含有物質から夾雑元素として鋼中に侵入しやすいSeに起因する問題およびその解決方法を検討した結果、完成されたものである。
特開昭54−110119号公報(特許請求の範囲および2頁左上欄〜右上欄) 特開平8−73923号公報(特許請求の範囲および段落[0017]〜[0019]) 特開平8−109411号公報(特許請求の範囲および段落[0018]) 特開2003−293079号公報(特許請求の範囲、段落[0008]および[0009]) 特開平7−113141号公報(特許請求の範囲および段落[0004]) 特開2003−183770号公報(特許請求の範囲および段落[0017]〜[0031]) 特開平9−316537号公報(特許請求の範囲、段落[0012]〜[0016])
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その課題の第1は、高強度、かつ優れた靭性、加工性および溶接性、ならびに優れた耐食性を有する低C、高Mn含有清浄鋼を提供することにあり、また、課題の第2は、鋼中のMn成分の調整に際して、夾雑元素であるSeの侵入による本来性能の低下をともなうことなく、Mn含有率を調整できる清浄鋼の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を解決するために、Sと精錬上の挙動および鋼材特性への影響が類似するSeの作用、および精錬過程におけるSeの低減方法について検討を行い、下記の(a)〜(d)の知見を得て、本発明を完成させた。
(a)鋼中のSおよびO含有率を低減した高清浄鋼においても、Seは0.0001〜0.0002質量%程度含有されており、S含有率が0.0010質量%以下の極低硫鋼においては、Sと同様にMn(S、Se)介在物を形成するSeの存在による耐HIC性および耐SCC性の劣化は深刻である。
(b)鋼の精錬工程で用いられる溶銑、スクラップおよび合金鉄中に含有されるSeの含有率は0.0010質量%未満であるのに対して、金属Mn中のSe含有率は0.0020〜0.0850質量%の範囲にあり、その含有率は銘柄(ロット)により大きく相違する。
(c)C含有率が0.08質量%以下かつP含有率が0.015質量%以下でMn含有率が1.0質量%以上の鋼を溶製する場合に、転炉などにおける脱炭および脱燐後にMn含有物質を添加して成分調整を行うが、この成分調整に伴う鋼中のCおよびP含有率の上昇を抑制すべく金属Mnを用いると、その種類(ロット)の差による鋼中Se含有率への影響が大きく、特に金属Mn中のSe含有率が0.0600質量%を超えると溶製鋼の耐HIC性などが劣化する。
(d)したがって、Mn含有率が1.0質量%以上の鋼の溶製においては、Mn含有物質としての金属Mn中のSe含有率を許容値以下に管理し、また、Mn含有物質中のSe含有率に応じてその使用量を調整する必要がある。
本発明は、上記の知見に基いて完成されたものであり、その要旨は、下記の(2)に示す清浄鋼、ならび(3)および(4)に示す清浄鋼の製造方法にある。また、本発明の参考例としての発明の要旨は、下記の(1)に示す清浄鋼にある。
(1)質量%で、C:0.08%以下、P:0.015%以下およびMn:1.0%以上を含有し、かつ、S含有率が0.0010%以下およびSe含有率が0.00010%以下であることを特徴とする耐水素誘起割れ性に優れたCa処理清浄鋼(以下、「第1発明」とも記す)。
(2)質量%で、C:0.01〜0.08%、Si:0.05〜0.5%、Mn:1.0〜1.7%、P:0.015%以下、Al:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.04%、Nb:0.01〜0.06%、Ca:0.0005〜0.005%、N:0.001〜0.006%およびO:0.001〜0.005%を含有し、かつ、S含有率が0.0010%以下およびSe含有率が0.00010%以下であり、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする耐水素誘起割れ性に優れた清浄鋼(以下、「第2発明」とも記す)。
(2)に記載の清浄鋼において、Feの一部に替えて、Cr:0.3〜1.2%、Ni:0.05〜0.3%、Cu:0.05〜0.3%、V:0.01〜0.05%およびMo:0.05〜0.30%のうちの1種以上を含有してもよい。
(3)前記(1)または(2)に記載の清浄鋼の製造方法であって、転炉から出鋼後の溶鋼中にMn含有物質を添加して溶鋼の成分調整を行うに際して、前記Mn含有物質中のMn成分のうちの50質量%以上に、Se含有率が0.004%以下の金属Mnを用いることを特徴とする清浄鋼の製造方法(以下、「第3発明」とも記す)。
(4)前記(1)または(2)に記載の清浄鋼の製造方法であって、二次精錬において溶鋼中にMn含有物質を添加して溶鋼中のMn含有率を0.1質量%以上上昇させるに際して、前記Mn含有物質としてSe含有率が0.06%以下の金属Mnを用いることを特徴とする清浄鋼の製造方法(以下、「第4発明」とも記す)。
本発明において、「清浄鋼」とは、酸化物系介在物および硫化物系介在物などの非金属介在物量を低減した高純度の鋼を意味し、また、「Ca処理清浄鋼」とは、Caを添加することにより鋼中の硫化物の形態制御を行った清浄鋼を意味する。
「Mn含有物質」とは、精錬に際して溶鋼中にMn成分を添加するためのMnを含有する物質を意味し、フェロマンガン(以下、「Fe−Mn」とも記す)をはじめとするMn合金、金属Mnなどがこれに該当する。
「二次精錬」とは、転炉から出鋼した溶鋼を取鍋内で精錬することを意味し、例えば、DH法、RH法、Arガスバブリング法、フラックスインジェクション法などがこれに該当する。
なお、以下の説明において、単に「%」との記載は、「質量%」を意味する。
本発明のCa処理清浄鋼は、C:0.01〜0.08%、Si:0.05〜0.5%、Mn:1.0〜1.7%、P:0.015%以下、Al:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.04%、Nb:0.01〜0.06%、Ca:0.0005〜0.005%、N:0.001〜0.006%およびO:0.001〜0.005%を含有し、かつ、S含有率が0.0010%以下およびSe含有率が0.00010%以下に低減されているので、高強度を有するとともに耐HIC性にも優れ、高い靱性、加工性および溶接性を具備する。このような鋼を溶製する際には、転炉などにおける脱炭および脱燐後にMn含有物質を添加して成分調整を行うが、この成分調整に伴う鋼中のCおよびP含有率の上昇を抑制すべく、Mn含有物質中のCおよびP含有率の低い金属Mnを用いることが多い。本発明の清浄鋼の製造方法は、転炉からの出鋼後の溶鋼中に成分調整のために添加するMn含有物質に占める低Se含有率のMn含有物質の使用比率下限値および低Se含有率Mn含有物質中のSe含有率の上限値、または二次精錬において溶鋼中に添加するMn含有物質中のSe含有率の上限値を規定したので、耐HIC性の向上に及ぼすSeの阻害作用を回避することができ、本発明に係る清浄鋼を溶製するための精錬方法として好適である。
本発明の清浄鋼は、前記のとおり、C:0.01〜0.08%、Si:0.05〜0.5%、Mn:1.0〜1.7%、P:0.015%以下、Al:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.04%、Nb:0.01〜0.06%、Ca:0.0005〜0.005%、N:0.001〜0.006%およびO:0.001〜0.005%を含有し、かつ、S含有率が0.0010%以下およびSe含有率が0.00010%以下であることを特徴とする耐水素誘起割れ性に優れたCa処理清浄鋼である。また、本発明の清浄鋼の製造方法は、転炉からの出鋼後の溶鋼中に成分調整のために添加するMn含有物質中のC含有率およびP含有率が低い銘柄を使用することを前提として、その銘柄中での低Se含有率の銘柄の使用比率下限値およびそのSe含有率の上限値、または二次精錬において溶鋼中に添加するMn含有物質中のSe含有率の上限値を規定したCa処理清浄鋼の製造方法である。
以下に、本発明の範囲を前記のとおり規定した理由および好ましい範囲について、さらに詳しく説明する。
(1)第1発明および第2発明の清浄鋼
高強度を有するとともに靭性、加工性、溶接性を要求される鋼材としては、C含有率およびP含有率が低く、Mn含有率が高く、S含有率およびO含有率の低い清浄鋼が多用される。
本発明の参考例としての清浄鋼は、C:0.08%以下、P:0.015%以下およびMn:1.0%以上を含有し、かつ、S含有率が0.0010%以下およびSe含有率が0.00010%以下のCa処理された清浄鋼である。
また、本発明の清浄鋼は、C:0.01〜0.08%、Si:0.05〜0.5%、Mn:1.0〜1.7%、P:0.015%以下、Al:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.04%、Nb:0.01〜0.06%、Ca:0.0005〜0.005%、N:0.001〜0.006%およびO:0.001〜0.005%を含有し、かつ、S含有率が0.0010%以下およびSe含有率が0.00010%以下であり、残部がFeおよび不純物からなる耐水素誘起割れ性に優れた清浄鋼である。そして、本清浄鋼は、低合金ラインパイプ用鋼板材料に好適である。
さらに、本発明の清浄鋼は、Feの一部に替えて、Cr:0.3〜1.2%、Ni:0.05〜0.3%、Cu:0.05〜0.3%、V:0.01〜0.05%およびMo:0.05〜0.30%のうちの1種以上を含有してもよい。
C:
Cは、材料の強度を確保する上で必須の元素であり、NbやVを添加してそれらとの炭化物を形成させて結晶粒を微細化するためにも、0.01%以上を含有させる。ただし、転炉精錬における経済的な脱炭限界がC:0.03〜0.04%であること、および転炉精錬後のMn添加などに随伴して生じる加炭も考慮すると、C含有率が0.04%未満の製品を製造するためには、RHなどの二次精錬において酸素を吹き付けて積極的に脱炭しなければならないなどの、清浄鋼の溶製上好ましくない操業形態をとらざるを得ないというディメリットを考慮しておく必要がある。他方、C含有率が0.08%を超えて高くなると鋼の靭性および耐HIC性の低下を招くため、C含有率は0.08%以下とする必要がある。
Si:
Siは、鋼の脱酸作用を有する元素であり、0.05%以上含有させることが好ましい。しかし、その含有率が0.5%を超えて高くなると靭性や溶接性の劣化を招きやすい。したがって、その含有率は0.05〜0.5%の範囲とする。

Mn:
Mnは、鋼の強度および靭性を高める作用を有する元素であり、本発明の清浄鋼を構成する上で不可欠の元素である。前記の効果を得るためには、1.0%以上を含有させる必要がある。しかし、その含有率が1.8%を超えて高くなると耐HIC性が劣化することから、好ましくは1.8%以下の範囲で含有させる。
P:
Pは、溶接性および耐HIC性を低下させるため、極力低減させることが好ましいが、過度の脱Pは精錬コストの上昇を招くため、本発明では0.015%以下とする。鋼特性向上の面から、好ましくは、0.010%以下である。
S:
Sは、鋼中の不純物元素であり、Caを添加することにより比較的容易に低減させることができる。しかしながら、Ca添加による介在物の形態制御を行ったとしても、その結果形成される介在物は、やはりHICの起点となる。したがって、S含有率は極力低いことが望ましいが、含有率のバラツキも考慮した上で、耐HIC性を確保できる現実的な上限値を0.0010%とした。なお、好ましくは、0.0006%以下である。
Se:
Seは、Sに類似した挙動を呈する元素と考えられるが、実生産プロセスにおける研究調査例は非常に少ない。本発明の試験において、S含有率が0.0010%以下の極低硫化処理を行い、Se含有率を調査した結果、溶鋼への添加物が無い状態では、その含有率は0.00003%程度であった。しかし、成分調整を含めて二次精錬を終了した段階では、Se含有率が0.0002%程度にまで上昇しており、耐HIC試験の結果、折角の極低硫化の効果を、含有率の上昇したSeが阻害していることが判明した。
上記のSe含有率の上昇は、後述のとおり、主としてMn成分の調整に伴うものである。したがって、Mn含有率が1.0%以上の鋼においても、本発明法を適用してSe含有率の低いMn含有物質の選択、またはSeを含有するMn含有物質の使用量の制限を行うことにより、Seによる耐HIC性の阻害作用が現れない程度にSe含有率の上昇を抑制することができる。ただし、鋼中のSe含有率の上昇を抑制するためには、Se含有率の低いMn含有物質や、Seを含有するMn含有物質の使用量の制限など、操業条件に対する制約が大きくなるおそれがある。
そこで、鋼の極低硫化による耐HIC性の向上効果に対するSeによる阻害の程度、およびSe含有率上昇の現実的な抑制範囲を考慮して、本発明に係る清浄鋼のSe含有率の適正範囲を0.00010%以下とした。なお、好ましくは、0.00005%以下である。
O(酸素):
Oは、非金属介在物を生成して鋼の清浄度を低下させ、また、鋼の靱性を劣化させる作用を有するので、鋼の清浄度の低下および靱性の劣化を防止するためには、その含有率は低いほど好ましい。しかし、通常の製鋼プロセスにおいて、その含有率を0.001%以下にまで低減することは難しい。そこで、製鋼コストの上昇を抑え、かつ鋼の清浄度および靱性を確保するためのO含有率の範囲を0.001〜0.005%とした。ここで、O含有率は、酸化物系介在物中に含有される酸素を含めた全酸素含有率を意味する。
Al:
Alは、脱酸剤としての作用を有する元素である。その効果を得るためには0.005%以上を含有させることが好ましい。しかし、0.05%を超えて多く含有させてもその効果は飽和し、逆に鋼の清浄度を低下させて耐HIC性の劣化を惹起する。したがって、その含有率は0.005〜0.05%とする。
Ti:
Tiは、鋼中においてTiNを形成してスラブの加熱時における結晶粒の成長を抑制し、結晶組織を微細化して靭性を向上させる作用を有する。その効果を得るためには0.005%以上を含有させることが好ましい。しかし、その含有率が0.04%を超えて高くなると、逆に靭性を劣化させるおそれがあるため、含有率は0.04%以下とすることが好ましい。上記の理由から、Ti含有率の範囲を0.005〜0.04%とした。
Nb:
Nbは、圧延時の結晶粒成長を抑制することにより鋼組織を細粒化し、靱性を向上させる作用を有する元素である。鋼材に十分な靭性を付与するために必要な元素である。その効果を十分に得るためには0.01%以上含有させることが好ましい。しかし、その含有率が0.06%を超えて高くなると、上記の効果がほぼ飽和し、却って溶接熱影響部の靭性を低下させる。したがって、Nb含有率は、0.01〜0.06%の範囲とする。
Ca:
Caは、鋼中に形成される硫化物系介在物を鋼特性に対して害の少ない球状介在物に形態制御するために不可欠な元素である。その効果を発揮させるためには0.0005%以上を含有させることが好ましい。しかしながら、Ca含有率が0.005%を超えて高くなると、上記の効果が飽和するだけでなく、逆に、鋼の清浄度を低下させて耐HIC性を低下させるおそれがある。したがって、Ca含有率は、0.0005〜0.005%の範囲とする。
N:
Nは、鋼中でTiNを形成して母材や溶接熱影響部の組織微細化を通じて、靭性向上に寄与する元素である。上記の効果を得るためには0.001%以上を含有させることが好ましい。しかし、N含有率が0.006%を超えて高くなると、連続鋳造時に鋳片の表面性状が劣化する。したがって、N含有率の範囲は0.001〜0.006%である。
Cr、Ni、Cu、VまたはMo:
これらの元素は、主として強度や靭性を確保するために、必要に応じて1種以上を適宜選択して含有させることができる。
Cr:
Crは、鋼の強度を上昇させる作用を有する元素である。その効果を得るためには0.3%以上を含有させることが好ましい。しかし、その含有率が1.2%を超えて高くなると、鋼の靱性および耐SCC性が低下する。したがって、含有させる場合は、その含有率を0.3〜1.2%の範囲とすることが好ましい。
Ni:
Niは、固溶強化により鋼の強度を上昇させる作用を有する元素である。その効果を得るためには0.05%以上を含有させることが好ましい。しかし、その含有率が0.3%を超えて高くなると、強度上昇効果が飽和し、コスト上昇を招く。したがって、含有させる場合は、その含有率を0.05〜0.3%の範囲とすることが好ましい。
Cu:
Cuも、鋼の強度を高める作用を有する元素である。その効果を得るには、0.05%以上含有させることが好ましい。しかし、0.3%を超える量を含有させても強度上昇効果は飽和し、コスト上昇を招く。したがって、含有させる場合の含有率の範囲は0.05〜0.3%とすることが好ましい。
V:
Vは、炭化物、窒化物などを形成して結晶粒を微細化することにより鋼の強度を上昇させるとともに靱性も向上させる作用を有する元素である。その効果を得るには、0.01%以上含有させることが好ましい。しかし、0.05%を超える量を含有させても上記の効果は飽和し、コスト上昇を招く。したがって、含有させる場合は、その含有率を0.01〜0.05%の範囲とすることが好ましい。
Mo:
Moは、鋼の強度を高める作用を有する元素である。その効果を得るには、0.05%以上含有させることが好ましい。しかし、0.30%を超える量を含有させても上記の効果は飽和し、かえって靱性の低下を招く。したがって、含有させる場合は、その含有率を0.05〜0.30%の範囲とすることが好ましい。
(2)第3発明および第4発明の清浄鋼の製造方法
極低硫化の条件および極低硫化による鋼材特性の向上については、前述したとおり多数の技術が開示されているものの、Sと精錬上の挙動が類似し、鋼中においてMn(S、Se)を形成するSeに関しては報告が全く見られない。また、Sの低減技術に関しては多数の技術が開示されているものの、S含有率がSe含有率に接近する程度にまで低減した場合における耐HICおよび耐SCC特性に対するSeの影響については全く開示がなされていないため、これらの影響については十分に注意を払う必要がある。
本発明者は、清浄鋼の特性を調査研究する過程において、鋼中にはSeが0.0001〜0.0002%程度含有されており、その含有率には著しいバラツキが存在し、さらに、S含有率が0.0010%以下の極低硫鋼では、Seの存在が鋼特性に対して深刻な影響を有することを究明した。また、耐HIC性試験に劣る試料中に、Seを含有する介在物が存在することを確認した。
そこで、鋼の溶製条件およびSe含有率が主として耐HIC性に及ぼす影響について調査した。溶製条件として、溶銑、スクラップおよび合金鉄中に含まれるSeの含有率を調査した結果、金属Mnを除き、Se含有率が0.0010%を超える原料は見出せなかった。さらに金属Mn中のSe含有率は、その種類(銘柄、入荷ロット)により大きく相違し、0.0020〜0.0850%の範囲で変動することが判明した。
このSe含有率の異なる金属Mnを使用して精錬試験を行い、採取した鋼試料を調査した結果、試料中のMn含有率が1.0%以上の場合に、精錬時に成分調整に用いた金属Mnのロットの影響が生じ、そのSe含有率が0.0600%を超える場合に耐HIC性が劣化することが明らかとなった。
前述したとおり、高強度でかつ靭性、加工性、溶接性を要求される鋼材の製造においては、C含有率およびP含有率が低く、かつMn含有率が高く、SおよびO含有率を低減した清浄鋼が多用される。
本発明鋼のように、製品中のC含有率が0.08%以下、P含有率が0.015%以下でMn含有率が1.0%以上の鋼を溶製する場合、転炉などにおける脱炭後にMn含有物質を添加して成分調整を行うが、Mn含有物質を添加後に脱炭処理を行うと、溶鋼中Mn成分が酸化されて溶製コストが上昇するので、Mn含有率が1.0%以上における脱炭処理は可能な限り避けることが好ましい。また、このような状況下で溶鋼中に酸素を吹き込んで脱炭を行うと、その際にMnO、FeOなどの酸化物が生成し、低硫かつ低酸素含有率の高清浄鋼を溶製する上からも好ましくない。
また、P含有率が0.015%以下でMn含有率が1.0%以上の鋼を溶製する場合には、転炉などにおける脱燐を通常鋼の溶製の場合よりも強化するが、このような低P含有率領域での脱燐強化は、精錬コストの上昇を伴う。特に、P含有率が0.010%以下のような低P鋼では、コスト上昇が顕著となる。したがって、Mn成分調整に伴う鋼中のP含有率の上昇を見越して転炉精錬段階での脱燐を強化することは、可能な限り避けたい。
このような鋼材の成分組成および温度調整工程は、溶銑予備処理工程(脱珪、脱硫および脱燐)、転炉精錬工程(脱炭および脱燐)、出鋼工程(Mnなどの鋼成分組成の粗調整)、ならびに二次精錬工程(脱炭、脱酸、脱硫および全成分組成の最終調整)に分けられる。
上述のとおり、転炉精錬以降の工程において、C含有率を低下させることには問題が多い。ところが、転炉精錬工程における吹錬終点C含有率は、0.04%程度までしか下げることができない。転炉精錬においてC含有率をこれ以上低下させると、脱炭に優先して鋼中のMnや鉄分の酸化が進行し、終点成分中のMn含有率が低下し、鉄分歩留りが低下する。その上、スラグ中のMnO量やFeO量が増加するので、スラグを改質、すなわち還元して清浄鋼を製造する上においても好ましくない。また、転炉精錬までにおける脱燐も、低P含有率領域になればなるほど精錬コストの上昇が著しい。
一方、鋼材の成分規格を満足させるためには、Mn含有率をさらに0.9〜1.6%の範囲で上昇させねばならない。一般的なMn含有物質である低炭素フェロマンガンでは、Cを1%程度およびPを0.1〜0.4%含有するので、Mn含有物質の添加にともなうC含有率およびP含有率の上昇は、それぞれ0.01〜0.02%、および0.001〜0.008%となる。
C含有率およびP含有率ともに、転炉精錬以降で低下させるためには、単なるAl酸化による昇温を超えた新たな酸化精錬が必要となる。しかし、この酸化精錬は、S含有率およびO含有率を低下させるための還元精錬とは相反し、したがって、現実にはC含有率およびP含有率を低下させることは困難である。上記の理由から、Mn含有物質の添加にともなうC含有率およびP含有率の上昇量は、少なければ少ないほど好ましい。
さらに、一般にフェロマンガンは、Mn含有率が75%程度であり、鋼中Mn含有率を0.9〜1.6%上昇させるためには、金属Mnに比べて約1.3倍の12〜21(kg/t−溶鋼)の使用量が必要となり、金属Mnの添加量に比して合金添加量が多くなる。したがって、合金の添加による溶鋼の温度低下量もほぼ1.3倍となる。この温度低下の補償方法としては、転炉出鋼温度の上昇および二次精錬におけるAl昇熱法があるが、転炉出鋼温度の上昇の場合には、転炉耐火物コストの上昇を招くので好ましくない。また、二次精錬におけるAl昇熱法の場合は、介在物の増加にともなう鋼品質の低下などの問題があることから、Al投入量を増加させるのは好ましくない。
上記の理由から、転炉吹錬終点でのC含有率およびP含有率と、製品規格のC含有率およびP含有率との差に応じて、Mn含有物質の種類を使い分ける必要が生じる。特に、RHなどの二次精錬炉において脱炭後にアルミニウムを添加して脱酸および清浄化処理を終えた後では、多くの場合、Mn成分以外の他成分の含有率が微少なMn添加源、代表的には金属Mnを使うのが好都合である。
したがって、Mn含有率が1.0質量%以上の鋼の溶製においては、Mn含有物質としての金属Mn中のSe含有率を許容値以下に管理し、また、Mn含有物質中のSe含有率に応じた使用量の調整を行う必要がある。
1)Mn含有物質中のMn成分のうちの50%以上に、Se含有率が0.004%以下の金属Mnを使用:
転炉から出鋼後の溶鋼中に添加するMn含有物質中のMn成分のうち、その50%以上にSe含有率が0.004%以下の金属Mnを用いる必要がある。その理由は下記に示すとおりである。
本発明では、転炉出鋼後のMn含有率の上昇量は0.9〜1.6%である。C含有率またはP含有率の上昇を抑制するために金属Mnを50%使用する場合には、金属Mn添加量は4.5〜8kg/t程度となる。したがって、金属Mn添加量が4.5kg/tの場合には、鋼中のSe含有率の上昇量は、{(4.5kg×0.004/100)/1000kg}×100=0.000018%となる。
金属Mnを添加する前の溶鋼中のSe含有率は、0.00003%程度であるから、金属Mn添加によりMn含有率を調整した後の溶鋼中のSe含有率は、(0.00003+0.000018)=0.000048%程度となり、この値は、前記第1発明および第2発明で規定する鋼中のSe含有率の範囲はもちろん、好ましい含有率の範囲である0.00005%以下を満足する。
以上の理由から、Mn含有物質中のMn成分のうちの50%以上にSe含有率が0.004%以下の金属Mnを用いることとした。
2)鋼中のMn含有率を0.1%以上上昇させるに際して、Se含有率が0.06%以下の金属Mnを使用:
二次精錬において溶鋼中に添加するMn含有物質としては、溶鋼中のMn含有率を0.1%以上上昇させるにあたり、Se含有率が0.06%以下の金属Mnを用いる必要がある。その理由は下記に示すとおりである。
すなわち、溶鋼中のMn含有率を0.1%上昇させる場合、Mn含有物質の添加量は1kg/t程度であることから、Se含有率が0.06%を超える金属Mnを用いると、溶鋼中のSe含有率が約0.00006%以上上昇する。Mn含有物質を添加する前の溶鋼中には、スクラップや他原料に含まれるSeに起因すると考えられるSeが0.00003%程度含まれているので、本発明の第1発明および第2発明の要件である鋼中のSe含有率が0.00010%との要件を安定的に達成することが困難となる。
上記の理由から、鋼中のMn含有率を0.1%以上上昇させるに際して、Se含有率が0.06%以下の金属Mnを使用することとした。
本発明の清浄鋼およびその製造方法の効果を確認するため、以下に述べるとおりの精錬から圧延までの試験を行い、その結果を評価した。
(実施例1)
高炉銑を用いて、溶銑処理から転炉精錬、さらに二次精錬に至る一連の精錬試験(試験番号A1〜A3)を行った。その間の成分組成の推移を表1〜表3に示した。
Figure 0004385991
Figure 0004385991
Figure 0004385991
同表に示す試験では、製品の成分規格がSe含有率を除いて同表中に示した「RH処理およびCa添加後の成分」に相当する鋼材を想定し、溶製および製品品質の確認調査を行った。
高炉から出銑された溶銑270トン(t)を先ず脱燐処理し、機械攪拌方式の脱硫設備を用いて脱硫後、転炉にて仕上げ脱燐および脱炭精錬を行った。取鍋への出鋼時に、CaO、アルミ灰などの副原料および合金鉄を投入し、さらにアルミニウムを投入して必要最低限度の昇温を行った後、脱硫および脱酸を行うとともに必要に応じて合金鉄を追加投入し、RH真空脱ガス装置を用いて、極低硫化および介在物除去を行う清浄化処理を実施した。そして、さらに鋼成分組成を微調整した後、ワイヤー添加法によりCaを添加して精錬を終了した。
上記のようにして得られた溶鋼を連続鋳造機に供給してスラブを製造し、その一部を厚板圧延して、耐HIC性能とSe含有率との関係を調査した。なお、転炉吹錬においてMn鉱石を使用した結果、転炉吹錬における終点Mn含有率は、溶銑中Mn含有率よりも上昇し、0.30%に達していた。
また、この試験においては、製品中のC含有率が0.05%であるため、RH装置を用いた脱炭処理までは行わず、転炉からの出鋼時にフェロマンガンなどの合金鉄を取鍋内に添加して鋼成分組成を粗調整し、併せてアルミニウムを投入して必要量の昇温を行った後、溶鋼およびスラグを脱酸し、さらに溶鋼を脱硫した。
表4に、上記の一連の精錬試験にて使用した原料の化学成分組成を示す。
Figure 0004385991
同表に示されるとおり、溶銑、スクラップ、ならびにSe含有率の異なる3種類の金属MnおよびP含有率の異なる2種類の低炭素Fe−Mn、ならびに銅およびニッケルである。
試験番号A1の成分組成の推移は、前記表1に示したとおりである。同試験は、転炉から出鋼時の溶鋼に添加するMn含有物質として、前記表4に示した金属Mnの銘柄M1を使用した。銘柄M1は、CおよびPの含有率が低く、Mn含有率が高いので、低Cかつ低P含有率の高Mn鋼を溶製する際には好都合である。ただし、溶製コストが高価になるという難点がある。
金属Mnの成分組成中のSe含有率については、従来、その悪影響が全く考慮されてこなかったために、規格化されておらず、0.0020〜0.0800%と変動が極めて大きい。試験番号A1にて使用した銘柄M1は、Se含有率が0.0020〜0.0040%と最も低い金属Mnである。
転炉吹錬において溶鋼温度を1680℃まで昇温したが、出鋼中に溶鋼温度は約70℃低下し、取鍋中における溶鋼温度は1610℃となった。そこで、RH処理時における温度低下を考慮して取鍋中での脱硫処理前にAlを添加して酸素を上吹きし、Alの酸化熱により溶鋼温度を約20℃上昇させた。また、P含有率に関しては転炉吹錬終点以降ほぼ一定で推移した。
脱硫処理後に溶鋼成分組成を迅速分析により確認し、RH処理において低炭素Fe−Mnの銘柄L1を少量追加添加した。鋼成分組成を調整完了後の溶鋼中Se含有率は、0.00004%と低く抑えることができた。
試験番号A1の試験において転炉から出鋼後の溶鋼に添加したMn含有物質の総量は、10.23kg/tであった(M1:9.4kg/t、L1:1.1×0.75=0.83kg/t)。このうちで、Se含有率が0.004%以下の金属Mnは銘柄M1のみであるから、添加したMn含有物質中に占めるM1の比率は92%である。また、二次精錬であるRH処理において添加したMn含有物質は、金属Mnではない。
したがって、試験番号A1は、第1発明、第2発明および第3発明で規定する条件を満足する試験である。
次に、試験番号A2の成分組成の推移は、前記表2に示したとおりである。同試験は、転炉から出鋼時の溶鋼に添加するMn含有物質として、金属Mnの銘柄M1を50%以上と低炭素Fe−Mnの銘柄L2とを併用した。
転炉から出鋼時の溶鋼にMn含有物質を添加する場合に、低炭素Fe−Mnの銘柄L2を併用したので、Mn添加コストは低減できたものの、鋼中のCおよびP含有率が上昇した。ただし、試験番号A2のようにその添加量が5kg/t程度であれば、他の操業条件を調整することにより、最終的な成分組成調後には、実質的にその影響を残さないようにすることが可能である。
鋼中Mn含有率の調整用には、金属Mnの銘柄M2を取鍋脱酸後に使用した。銘柄M2中のSe含有率は、0.0600%である。鋼成分組成を調整後の溶鋼中Se含有率は、0.00010%であり本発明の範囲内の上限値であった。
試験番号A2の試験において、転炉から出鋼後の溶鋼に添加したMn含有物質の総量は、10.25kg/tであった(M1:5.5kg/t、L2:5.0×0.75=3.75kg/t、M2:1.0kg/t)。このうちで、Se含有率が0.004%以下の金属Mnは銘柄M1のみであるから、添加したMn含有物質中に占めるM1の比率は54%である。また、二次精錬である取鍋脱硫プロセスにおいて添加したMn含有物質は、金属Mn(銘柄M2)であって、そのSe含有率は0.06%以下である。
したがって、試験番号A2は、第1発明、第2発明、第3発明および第4発明で規定する条件を満たす試験である。
この場合、鋼中のP含有率が計算上0.0005%上昇すること、および精錬終了後のSe含有率が0.00010%であって本発明で規定する上限値であったことから、試験番号A2の方法は、第1発明および第2発明の清浄鋼を製造する場合の鋼成分の上限付近における製造方法であることがわかる。
さらに、試験番号A3の成分組成の推移は、前記表3に示したとおりである。同試験は、転炉から出鋼時の溶鋼に添加するMn含有物質として、低炭素Fe−Mnの銘柄L2を用い、二次精錬において金属Mnの銘柄M3を添加して鋼中Mn含有率を0.22%上昇させた比較例についての試験である。
Mn含有物質として使用した低炭素Fe−Mnの銘柄L2は、金属Mnに比してP含有率が高いため、鍋中での溶鋼P含有率は0.006%と高くなっている。また、二次精錬における鋼中Mn含有率の調整には、金属Mnの銘柄M3を用いた。銘柄M3のSe含有率は、調査に使用したロットのうちで最も高い0.0800%である。鋼成分組成を調整後の溶鋼中Se含有率は、0.00017%であり、本発明で規定するSe含有率の範囲を超える結果となった。
(実施例2)
前記表4に示す原料を使用して6種類の鋼を溶製し、連続鋳造によりスラブを製造後、通常の厚板圧延および熱処理を行って、厚さ22mmの厚板材とする試験を行った。
表5に、試験番号B1〜B6についての二次精錬に用いたMn含有物質の銘柄および添加量、ならびに鋳造スラブの成分組成を示した。
Figure 0004385991
同表において、二次精錬に使用したMn含有物質の銘柄を示すM1〜M3およびL1の記号は、前記表4に示した銘柄を示す記号と同一である。また、Mn含有物質としてSe含有率の異なる上記4種類の原料を二次精錬に使用した結果、厚板材中のSe濃度は0.00004〜0.00017%の範囲で変化した。
これらの厚板材から引張試験用として、JIS 5号試験片を採取し、引張強さおよび降伏応力を測定した。なお、引張試験は、JIS Z 2241に規定する方法に準じて行った。
また、耐HIC試験用として、厚さ12〜20mm、幅20mm、長さ100mmの試験片を採取し、H2Sを飽和させた5%NaCl+0.5%CH3COOH水溶液(温度25℃、pH3のNACE溶液)中に試験片を96時間浸漬し、割れ長さ率を測定した。なお、耐HIC試験結果の評価は、割れ長さ率が15%以下の場合を良好(○)とし、割れ長さ率が15%を超える場合を不良(×)とした。
表6に、試験番号B1〜B6の厚板材から採取した試験片を用いて行った引張試験および耐HIC試験の結果を示した。
Figure 0004385991
試験番号B1、B3およびB4は、いずれも第1発明、第2発明および第4発明の条件を満たす試験であり、試験番号B2は、第1発明、第2発明および第3発明の条件を満足する試験である。上記の試験番号B1〜B4では、いずれも鋼中のMn含有率は1.0%以上に上昇しており、S含有率は0.0010%以下に低下し、かつSe含有率は0.00010%以下に抑制されている。
その結果、試験番号B1〜B4では、いずれも550MPa級の高い引張強さおよび良好な耐HIC性を有する清浄鋼材が得られた。
これに対して、試験番号B5およびB6では、二次精錬用のMn含有物質としてSe含有率が0.0700〜0.0850%と高い銘柄M3を使用したため、鋼中のSe含有率が0.00010%を超える値にまで上昇し、その結果、耐HIC性の劣った鋼材となった。中でも、銘柄M3を比較的多量に使用した試験番号B6では、割れ面の観察の結果、Seを含有する介在物の存在が確認された。
上述の試験結果から、高強度かつ高い靭性、加工性および溶接性を備えた低C、低P、高Mn鋼材の製造において、精錬用に用いるMn含有物質から侵入するSeが耐HIC性低下の原因となることが確認された。また、精錬用Mn含有物質中に含有されるSe含有率の上限またはSe含有率の低いMn含有物質の使用比率の下限を規定することにより、Seによる耐HIC性の阻害作用を抑止できることが立証された。
本発明のCa処理清浄鋼は、C:0.01〜0.08%、Si:0.05〜0.5%、Mn:1.0〜1.7%、P:0.015%以下、Al:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.04%、Nb:0.01〜0.06%、Ca:0.0005〜0.005%、N:0.001〜0.006%およびO:0.001〜0.005%を含有し、かつ、S含有率が0.0010%以下およびSe含有率が0.00010%以下に低減されているので、高強度を有するとともに耐HIC性にも優れ、高い靱性、加工性および溶接性を具備する。また、本発明の清浄鋼の製造方法は、転炉からの出鋼後の溶鋼中に成分調整のために添加するMn含有物質に占める低Se含有率のMn含有物質の使用比率下限値および低Se含有率Mn含有物質中のSe含有率の上限値、または二次精錬において溶鋼中に添加するMn含有物質中のSe含有率の上限値を規定したので、Seによる耐HIC性の阻害作用を回避することができ、本発明に係る清浄鋼を溶製するための精錬方法として最適である。
したがって、本発明の清浄鋼は、船舶、海洋構造物、ラインパイプ、低温用タンク、橋梁などの溶接構造物の素材として広く利用できるとともに、本発明の清浄鋼の製造方法は、鉄鋼精錬分野において、低Se含有率清浄鋼を確実に溶製できる精錬方法として広範に適用できる。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.01〜0.08%、Si:0.05〜0.5%、Mn:1.0〜1.7%、P:0.015%以下、Al:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.04%、Nb:0.01〜0.06%、Ca:0.0005〜0.005%、N:0.001〜0.006%およびO:0.001〜0.005%を含有し、かつ、S含有率が0.0010%以下およびSe含有率が0.00010%以下であり、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする耐水素誘起割れ性に優れた清浄鋼。
  2. Feの一部に替えて、質量%で、Cr:0.3〜1.2%、Ni:0.05〜0.3%、Cu:0.05〜0.3%、V:0.01〜0.05%およびMo:0.05〜0.30%のうちの1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の清浄鋼。
  3. 請求項1または2に記載の清浄鋼の製造方法であって、転炉から出鋼後の溶鋼中にMn含有物質を添加して溶鋼の成分調整を行うに際して、前記Mn含有物質中のMn成分のうちの50質量%以上に、Se含有率が0.004%以下の金属Mnを用いることを特徴とする清浄鋼の製造方法。
  4. 請求項1または2に記載の清浄鋼の製造方法であって、二次精錬において溶鋼中にMn含有物質を添加して溶鋼中のMn含有率を0.1質量%以上上昇させるに際して、前記Mn含有物質としてSe含有率が0.06%以下の金属Mnを用いることを特徴とする清浄鋼の製造方法。
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