JP4385991B2 - 清浄鋼およびその製造方法 - Google Patents
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鋼材の水素誘起割れ(HIC)は、腐食反応により生成する水素イオンが鋼材表面に吸着し、この水素イオンが原子状の水素となって鋼材中に侵入して鋼内部のMnSなどの周りに集積する結果、水素ガスにより内圧が上昇し、割れを発生させるものである。このようなHICの発生を防ぐために、例えば、特許文献1には、Ca単独添加の場合は、Ca×S≦4×10-5かつ1.4≦Ca/Sを満足するように、また、CaおよびCeの複合添加の場合は、5.0≦(3.5Ca+Ce)/SかつCe≦0.025(ここで、元素記号は、それぞれ鋼中の各元素の質量含有率(%))を満足するように添加する方法が開示されている。この方法は、鋼中のSの含有率を減少させるとともに、長く進展したMnSの生成を抑制し、その形態を応力集中しにくい微細分散した球状介在物に変化させることのより、割れの発生および伝播を抑制する方法である。
Ca処理条件を改善した方法として下記の方法が提案されている。特許文献2には、二次精錬において取鍋内の溶鋼にAl添加による脱酸およびCaO添加による脱酸および脱硫を行い、次いで溶鋼上面スラグの組成をCaO/Al2O3が0.9〜1.5になるように調整した状態で溶鋼のガス攪拌を行い、介在物除去を実施した後、CaSi粉含有ワイヤーを添加して介在物の形態制御を行う方法が開示されている。
(2)に記載の清浄鋼において、Feの一部に替えて、Cr:0.3〜1.2%、Ni:0.05〜0.3%、Cu:0.05〜0.3%、V:0.01〜0.05%およびMo:0.05〜0.30%のうちの1種以上を含有してもよい。
高強度を有するとともに靭性、加工性、溶接性を要求される鋼材としては、C含有率およびP含有率が低く、Mn含有率が高く、S含有率およびO含有率の低い清浄鋼が多用される。
Cは、材料の強度を確保する上で必須の元素であり、NbやVを添加してそれらとの炭化物を形成させて結晶粒を微細化するためにも、0.01%以上を含有させる。ただし、転炉精錬における経済的な脱炭限界がC:0.03〜0.04%であること、および転炉精錬後のMn添加などに随伴して生じる加炭も考慮すると、C含有率が0.04%未満の製品を製造するためには、RHなどの二次精錬において酸素を吹き付けて積極的に脱炭しなければならないなどの、清浄鋼の溶製上好ましくない操業形態をとらざるを得ないというディメリットを考慮しておく必要がある。他方、C含有率が0.08%を超えて高くなると鋼の靭性および耐HIC性の低下を招くため、C含有率は0.08%以下とする必要がある。
Siは、鋼の脱酸作用を有する元素であり、0.05%以上含有させることが好ましい。しかし、その含有率が0.5%を超えて高くなると靭性や溶接性の劣化を招きやすい。したがって、その含有率は0.05〜0.5%の範囲とする。
Mnは、鋼の強度および靭性を高める作用を有する元素であり、本発明の清浄鋼を構成する上で不可欠の元素である。前記の効果を得るためには、1.0%以上を含有させる必要がある。しかし、その含有率が1.8%を超えて高くなると耐HIC性が劣化することから、好ましくは1.8%以下の範囲で含有させる。
Pは、溶接性および耐HIC性を低下させるため、極力低減させることが好ましいが、過度の脱Pは精錬コストの上昇を招くため、本発明では0.015%以下とする。鋼特性向上の面から、好ましくは、0.010%以下である。
Sは、鋼中の不純物元素であり、Caを添加することにより比較的容易に低減させることができる。しかしながら、Ca添加による介在物の形態制御を行ったとしても、その結果形成される介在物は、やはりHICの起点となる。したがって、S含有率は極力低いことが望ましいが、含有率のバラツキも考慮した上で、耐HIC性を確保できる現実的な上限値を0.0010%とした。なお、好ましくは、0.0006%以下である。
Seは、Sに類似した挙動を呈する元素と考えられるが、実生産プロセスにおける研究調査例は非常に少ない。本発明の試験において、S含有率が0.0010%以下の極低硫化処理を行い、Se含有率を調査した結果、溶鋼への添加物が無い状態では、その含有率は0.00003%程度であった。しかし、成分調整を含めて二次精錬を終了した段階では、Se含有率が0.0002%程度にまで上昇しており、耐HIC試験の結果、折角の極低硫化の効果を、含有率の上昇したSeが阻害していることが判明した。
Oは、非金属介在物を生成して鋼の清浄度を低下させ、また、鋼の靱性を劣化させる作用を有するので、鋼の清浄度の低下および靱性の劣化を防止するためには、その含有率は低いほど好ましい。しかし、通常の製鋼プロセスにおいて、その含有率を0.001%以下にまで低減することは難しい。そこで、製鋼コストの上昇を抑え、かつ鋼の清浄度および靱性を確保するためのO含有率の範囲を0.001〜0.005%とした。ここで、O含有率は、酸化物系介在物中に含有される酸素を含めた全酸素含有率を意味する。
Alは、脱酸剤としての作用を有する元素である。その効果を得るためには0.005%以上を含有させることが好ましい。しかし、0.05%を超えて多く含有させてもその効果は飽和し、逆に鋼の清浄度を低下させて耐HIC性の劣化を惹起する。したがって、その含有率は0.005〜0.05%とする。
Tiは、鋼中においてTiNを形成してスラブの加熱時における結晶粒の成長を抑制し、結晶組織を微細化して靭性を向上させる作用を有する。その効果を得るためには0.005%以上を含有させることが好ましい。しかし、その含有率が0.04%を超えて高くなると、逆に靭性を劣化させるおそれがあるため、含有率は0.04%以下とすることが好ましい。上記の理由から、Ti含有率の範囲を0.005〜0.04%とした。
Nbは、圧延時の結晶粒成長を抑制することにより鋼組織を細粒化し、靱性を向上させる作用を有する元素である。鋼材に十分な靭性を付与するために必要な元素である。その効果を十分に得るためには0.01%以上含有させることが好ましい。しかし、その含有率が0.06%を超えて高くなると、上記の効果がほぼ飽和し、却って溶接熱影響部の靭性を低下させる。したがって、Nb含有率は、0.01〜0.06%の範囲とする。
Caは、鋼中に形成される硫化物系介在物を鋼特性に対して害の少ない球状介在物に形態制御するために不可欠な元素である。その効果を発揮させるためには0.0005%以上を含有させることが好ましい。しかしながら、Ca含有率が0.005%を超えて高くなると、上記の効果が飽和するだけでなく、逆に、鋼の清浄度を低下させて耐HIC性を低下させるおそれがある。したがって、Ca含有率は、0.0005〜0.005%の範囲とする。
Nは、鋼中でTiNを形成して母材や溶接熱影響部の組織微細化を通じて、靭性向上に寄与する元素である。上記の効果を得るためには0.001%以上を含有させることが好ましい。しかし、N含有率が0.006%を超えて高くなると、連続鋳造時に鋳片の表面性状が劣化する。したがって、N含有率の範囲は0.001〜0.006%である。
これらの元素は、主として強度や靭性を確保するために、必要に応じて1種以上を適宜選択して含有させることができる。
Crは、鋼の強度を上昇させる作用を有する元素である。その効果を得るためには0.3%以上を含有させることが好ましい。しかし、その含有率が1.2%を超えて高くなると、鋼の靱性および耐SCC性が低下する。したがって、含有させる場合は、その含有率を0.3〜1.2%の範囲とすることが好ましい。
Niは、固溶強化により鋼の強度を上昇させる作用を有する元素である。その効果を得るためには0.05%以上を含有させることが好ましい。しかし、その含有率が0.3%を超えて高くなると、強度上昇効果が飽和し、コスト上昇を招く。したがって、含有させる場合は、その含有率を0.05〜0.3%の範囲とすることが好ましい。
Cuも、鋼の強度を高める作用を有する元素である。その効果を得るには、0.05%以上含有させることが好ましい。しかし、0.3%を超える量を含有させても強度上昇効果は飽和し、コスト上昇を招く。したがって、含有させる場合の含有率の範囲は0.05〜0.3%とすることが好ましい。
Vは、炭化物、窒化物などを形成して結晶粒を微細化することにより鋼の強度を上昇させるとともに靱性も向上させる作用を有する元素である。その効果を得るには、0.01%以上含有させることが好ましい。しかし、0.05%を超える量を含有させても上記の効果は飽和し、コスト上昇を招く。したがって、含有させる場合は、その含有率を0.01〜0.05%の範囲とすることが好ましい。
Moは、鋼の強度を高める作用を有する元素である。その効果を得るには、0.05%以上含有させることが好ましい。しかし、0.30%を超える量を含有させても上記の効果は飽和し、かえって靱性の低下を招く。したがって、含有させる場合は、その含有率を0.05〜0.30%の範囲とすることが好ましい。
極低硫化の条件および極低硫化による鋼材特性の向上については、前述したとおり多数の技術が開示されているものの、Sと精錬上の挙動が類似し、鋼中においてMn(S、Se)を形成するSeに関しては報告が全く見られない。また、Sの低減技術に関しては多数の技術が開示されているものの、S含有率がSe含有率に接近する程度にまで低減した場合における耐HICおよび耐SCC特性に対するSeの影響については全く開示がなされていないため、これらの影響については十分に注意を払う必要がある。
転炉から出鋼後の溶鋼中に添加するMn含有物質中のMn成分のうち、その50%以上にSe含有率が0.004%以下の金属Mnを用いる必要がある。その理由は下記に示すとおりである。
二次精錬において溶鋼中に添加するMn含有物質としては、溶鋼中のMn含有率を0.1%以上上昇させるにあたり、Se含有率が0.06%以下の金属Mnを用いる必要がある。その理由は下記に示すとおりである。
高炉銑を用いて、溶銑処理から転炉精錬、さらに二次精錬に至る一連の精錬試験(試験番号A1〜A3)を行った。その間の成分組成の推移を表1〜表3に示した。
前記表4に示す原料を使用して6種類の鋼を溶製し、連続鋳造によりスラブを製造後、通常の厚板圧延および熱処理を行って、厚さ22mmの厚板材とする試験を行った。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.01〜0.08%、Si:0.05〜0.5%、Mn:1.0〜1.7%、P:0.015%以下、Al:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.04%、Nb:0.01〜0.06%、Ca:0.0005〜0.005%、N:0.001〜0.006%およびO:0.001〜0.005%を含有し、かつ、S含有率が0.0010%以下およびSe含有率が0.00010%以下であり、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする耐水素誘起割れ性に優れた清浄鋼。
- Feの一部に替えて、質量%で、Cr:0.3〜1.2%、Ni:0.05〜0.3%、Cu:0.05〜0.3%、V:0.01〜0.05%およびMo:0.05〜0.30%のうちの1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の清浄鋼。
- 請求項1または2に記載の清浄鋼の製造方法であって、転炉から出鋼後の溶鋼中にMn含有物質を添加して溶鋼の成分調整を行うに際して、前記Mn含有物質中のMn成分のうちの50質量%以上に、Se含有率が0.004%以下の金属Mnを用いることを特徴とする清浄鋼の製造方法。
- 請求項1または2に記載の清浄鋼の製造方法であって、二次精錬において溶鋼中にMn含有物質を添加して溶鋼中のMn含有率を0.1質量%以上上昇させるに際して、前記Mn含有物質としてSe含有率が0.06%以下の金属Mnを用いることを特徴とする清浄鋼の製造方法。
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