JP4379089B2 - 発酵法による目的物質の製造法 - Google Patents

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Description

本発明は、発酵工業に関し、詳しくは微生物を利用した発酵法によりL−アミノ酸等の目的物質を効率よく製造する方法に関する。
エシェリヒア・コリの染色体DNAは、複数のDNA結合タンパクによってヌクレオイドと呼ばれるヌクレオソーム様構造に折りたたまれている。このようなタンパクをヌクレオイド構成タンパクと呼ぶ。
主要なヌクレオイド構成タンパクの一つであるFIS(factor for inversion stimulation)は、エシェリヒア・コリ染色体の73.4分の位置に存在するfis遺伝子にコードされる。FISの発現は増殖期に誘導され、定常期には抑えられる。エシェリヒア・コリ野生株のfis遺伝子を破壊することによって、表現形として、非常に栄養豊富な培地、つまり元々生育速度の大きい条件下では生育速度は低下するが、元々の生育速度が大きくない場合では生育速度は変化しないことが報告されている(非特許文献1)。物質を製造するような条件における菌の生育速度は後者に相当する。またFISは、複数の遺伝子の発現を正または負に制御するグローバルな転写制御因子であり、これまでにトランスファーRNAやリボソームRNAに加え(非特許文献2)、代謝に関与する遺伝子等の発現を制御していることが報告されている(非特許文献3)。
FISと同様に増殖期に誘導され、複数の遺伝子の発現を正または負に制御することが知られているヌクレオイド構成タンパクとしてH−NSが挙げられる(非特許文献4)。H−NSはエシェリヒア・コリ染色体の27.8分の位置に存在するhns遺伝子にコードされる。
その他の主要なヌクレオイド構成タンパクとして、例えばHU、DPS等が挙げられる。HUは、HUα、HUβのヘテロ二量体からなり、それぞれエシェリヒア・コリ染色体の90.5分、9.7分の位置に存在するhupA、hupB遺伝子にコードされ(非特許文献5)、その発現は増殖期、定常期ともに見られる。DPSはエシェリヒア・コリ染色体の18.3分の位置に存在するdps遺伝子にコードされ、その発現は増殖期には抑制されており、定常期に発現が誘導される(非特許文献6)。
これまでに、fis遺伝子、hns遺伝子、hupAB遺伝子、dps遺伝子といったヌクレオイド構成タンパクをコードする遺伝子の発現調節を行うことによる物質生産の向上に関する報告はなされていない。
Nilsson et al., The Journal of Biological Chemistry, Vol.269, 9460-9465, 1994 Nilsson et al., The EMBO Journal, Vol.9, 727-734, 1990 Xu et al., Journal of Bacteriology, Vol.177, 938-947, 1995 Hulton et al., Cell, Vol.63, 631-642, 1990 Wada et al., Journal of Molecular Biology, Vol.204, 581-591, 1988 Almion et al.,Genes and Development, Vol.6, 2646-2654, 1992
本発明は、エシェリヒア属細菌を用いて発酵法により有用物質を生産するに際し、生産効率又は生産速度を向上させることを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、エシェリヒア属細菌に普遍的に存在するヌクレオイド構成タンパクをコードする遺伝子を改変することで、エシェリヒア属細菌による物質生産を改善させ得ることを見出した。具体的には、エシェリヒア属細菌においてfis遺伝子を破壊することにより、目的物質の生産能が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下のとおりである。
(1)エシェリヒア属細菌を培地に培養し、該培地又は菌体中に目的物質を生成蓄積させ、該目的物質を採取する、エシェリヒア属細菌を利用した目的物質の製造法において、前記エシェリヒア属細菌は該目的物質を生産する能力を有し、細胞内でFISタンパク質が正常に機能しないことを特徴とする目的物質の製造法。
(2)前記エシェリヒア属細菌は、染色体上のfis遺伝子が破壊されたことにより、FISタンパク質が正常に機能しないことを特徴とする(1)の方法。
(3)前記エシェリヒア属細菌はエシェリヒア・コリである(1)又は(2)の方法。
(4)前記目的物質がL−アミノ酸又はタンパク質である(1)〜(3)のいずれかの方法。
(5)L−アミノ酸がアスバラギン酸族のアミノ酸である(4)の方法。
(6)アスパラギン酸族のアミノ酸が、L−リジン、L−スレオニン、又はL−メチオニンである(5)に記載の方法。
(7)前記アミノ酸がL−リジンである(6)に記載の方法。
本発明により、エシェリヒア属細菌を用いてL−アミノ酸等の有用物質を生産する際に、生産速度又は生産効率を向上させることができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いるエシェリヒア属細菌としては、エシェリヒア属に属する微生物であって、目的物質を生産する能力を有するものであれば、特に制限されない。具体的には、例えばナイトハルトらの著書(Neidhardt, F.C. et al., Escherichia coli and Salmonella Typhimurium, American Society for Microbiology, Washington D.C., 1208, table 1)に挙げられるものが利用できる。さらに具体的には、エシェリヒア・コリが挙げられる。
「目的物質を生産する能力」とは、本発明に用いるエシェリヒア属細菌を培地に培養したときに、目的物質を細胞又は培地から回収できる程度に生産する能力をいう。好ましくは、エシェリヒア属細菌の野生株又は非改変株よりも、多量の目的物質を生産する能力をいう。
前記目的物質としては、エシェリヒア属細菌によって生産され得るものであれば特に制限されない。例えば、L−リジン、L−スレオニン、L−ホモセリン、L−グルタミン酸、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−バリン、L−フェニルアラニン等の種々のL−アミノ酸、タンパク質(ペプチドを含む)、グアニン、イノシン、グアニル酸、イノシン酸等の核酸類、ビタミン類、抗生物質、成長因子、生理活性物質など、従来よりエシェリ
ヒア属細菌により生産されてきたものが挙げられる。また、今までエシェリヒア属細菌によって生産されていないものであっても、本発明を適用することができる。
目的物質は、アスパラギン酸族のアミノ酸であってもよい。同族には、L−リジン、L−スレオニン、L−メチオニンが含まれる。
L−リジン生産性のエシェリヒア属細菌としては、L−リジンアナログに耐性を有する変異株が例示できる。このL−リジンアナログは、エシェリヒア属細菌の増殖を阻害するようなものであるが、その抑制はL−リジンが培地中に共存すれば、全体的または部分的に解除されるようなものである。例えば、オキサリジン、リジンハイドロキサメート、S−(2−アミノエチル)−L−システイン(AEC)、γ−メチルリジン、α−クロロカプロラクタム等がある。これらのリジンアナログに耐性を有する変異株は、通常の人工変異操作をエシェリヒア属の微生物に施すことにより得られる。L−リジン製造に用いる菌株として、具体的には、エシェリヒア・コリAJ11442(FERM BP-1543、NRRL B-12185;特開昭56-18596号及び米国特許第4346170号参照)、エシェリヒア・コリ VL611が挙げられる。これらの微生物のアスパルトキナーゼは、L−リジンによるフィードバック阻害が解除されている。
その他にも、たとえば後述のL−スレオニン生産菌が挙げられる。L−スレオニン生産菌も、一般的にはそのアスパルトキナーゼのL−リジンによる阻害が解除されているからである。
後記実施例においては、エシェリヒア・コリのL−リジン生産菌として、WC196株を用いた。本菌株は、エシェリヒア・コリK-12由来のW3110株にAEC耐性を付与することによって育種されたものである。同株は、エシェリヒア・コリAJ13069株と命名され、平成6年12月6日付で工業技術院生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託番号FERM P-14690として寄託され、平成7年9月29日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-5252が付与されている(WO96/17930号国際公開パンフレット参照)。
L−スレオニン生産性のエシェリヒア属細菌としては、エシェリヒア・コリ VKPM B-3996(RIA 1867)(米国特許第5,175,107号参照)、MG442株(Gusyatiner et
al., Genetika(in Russian), 14, 947-956 (1978)参照)等が挙げられる。
L−ホモセリン生産性のエシェリヒア属細菌としては、C600株(Appleyard R.K., Genetics, 39, 440-452 (1954)参照)のLeu+復帰変異株であるNZ10株が挙げられる。
L−グルタミン酸生産性のエシェリヒア属細菌としては、AJ12624株(FERM BP-3853)(フランス特許出願公開第2,680,178号参照)、L−バリン耐性株、例えば、エシェリヒア・コリB11、エシェリヒア・コリK-12(ATCC10798)、エシェリヒア・コリB(ATCC11303)、エシェリヒア・コリW(ATCC9637)が挙げられる。
L−ロイシン生産性のエシェリヒア属細菌としては、β−2−チエニルアラニン耐性を有する菌株、β−2−チエニルアラニン耐性及びβ−ヒドロキシロイシン耐性を有する菌株(以上、特公昭62-34397号公報)、4−アザロイシン耐性又は5,5,5−トリフルオロロイシン耐性を有する菌株(特開平8-70879号公報)が挙げられる。具体的には、AJ11478株(FERM P-5274)(特公昭 62-34397号参照)が挙げられる。
L−イソロイシン生産性のエシェリヒア属細菌としては、エシェリヒア・コリKX141(VKPM B-4781)(欧州特許出願公開第519,113号参照)が挙げられる。
L−バリン生産性のエシェリヒア属細菌としては、エシェリヒア・コリ VL1970(VKPM B-4411)(欧州特許出願公開第519,113号参照)が挙げられる。
L−フェニルアラニン生産菌としては、エシェリヒア・コリ AJ12604(FERM BP-3579)(欧州特許出願公開第 488,424号参照)が挙げられる。
また、L−アミノ酸生産能を有するエシェリヒア属細菌は、L−アミノ酸の生合成に関与する遺伝情報を担うDNAを遺伝子組換え技術により導入、増強することによっても、育種することができる。例えば、L−リジン生産菌においては、導入される遺伝子は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、アスパルトキナーゼ、ジヒドロジピコリン酸合成酵素、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ、スクシニルジアミノピメリン酸トランスアミナーゼ、スクシニルジアミノピメリン酸デアシラーゼ等、L−リジンの生合成経路上の酵素をコードする遺伝子である。ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、又はアスパルトキナーゼ及びジヒドロジピコリン酸合成酵素のようにL−アスパラギン酸、又はL−リジンによるフィードバック阻害を受ける酵素遺伝子の場合には、かかる阻害が解除された酵素をコードする変異型遺伝子を用いることが望ましい。
また、L−グルタミン酸生産菌においては、導入される遺伝子としては、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、グルタミンシンテターゼ、グルタミン酸シンターゼ、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、アコニット酸ヒドラターゼ、クエン酸シンターゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸キナーゼ、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ、エノラーゼ、ホスホグリセロムターゼ、ホスホグリセリン酸キナーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、フルトースビスリン酸アルドラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコースリン酸イソメラーゼ等がある。
L−バリン生産菌においては、導入される遺伝子としては、例えばilvGMEDAオペロン、好ましくはスレオニンデアミナーゼ活性を発現せず、アテニュエーションが解除されたilvGMEDAオペロンが挙げられる(特開平8-47397号公報参照)。
さらに、目的とするL−アミノ酸の生合成経路から分岐して他の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性が低下または欠損していてもよい。例えば、L−リジンの生合成経路から分岐してL−リジン以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素としては、ホモセリンデヒドロゲナーゼがある(WO95/23864号国際公開パンフレット参照)。また、L−グルタミン酸の生合成経路から分岐してL−グルタミン酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素としては、αケトグルタール酸デヒドロゲナーゼ、イソクエン酸リアーゼ、リン酸アセチルトランスフェラーゼ、酢酸キナーゼ、アセトヒドロキシ酸シンターゼ、アセト乳酸シンターゼ、ギ酸アセチルトランスフェラーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、グルタミン酸デカルボキシラーゼ、1−ピロリンデヒドロゲナーゼ等がある。
また、核酸類を産生する能力を有するエシェリヒア属細菌は、例えば、WO99/03988号国際公開パンフレットに詳しい。より具体的には、同パンフレット記載のエシェリヒア・コリFADRaddG-8-3::KQ株(purFKQ,purA−,deoD−,purR−,add−,gsk−)が挙げられる。同株は、イノシン及びグアノシンを生産する能力を有している。この株は、326位のリジン残基がグルタミン残基に置換され、AMP及びGMPによるフィードバック阻害が解除されたPRPPアミドトランスフェラーゼをコードする変異型purFを保持し、サクシニル−AMPシンターゼ遺伝子(purA)、プリンヌクレオシド・フォスフォリラーゼ遺伝子(deoD)、プリン・リプレッサー遺伝子(purR)、アデノシン・デアミナーゼ遺伝子(add)、イノシン−グアノシン・キナーゼ遺伝子(gsk)が破壊されている。同株には、プライベート・ナンバーAJ13334が付与され、1997年6月24日付けで通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、〒305-8566 日本
国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、ブタペスト条約に基づいて国際寄託され、受託番号として、FERM BP-5993が付与されている。
また、本発明が適用されるタンパク質としては、遺伝子工学的手法によって産生され得るタンパク質であれば特に制限されないが、具体的には酸性フォスファターゼ、GFP(Green Fluorescent Protein)等が挙げられる。
その他、他のL−アミノ酸、タンパク質(ペプチドを含む)、核酸類、又はビタミン類、抗生物質、成長因子、生理活性物質等の有用物質を産生する能力を有するエシェリヒア属細菌であっても、本発明に用いることができる。
上記のような目的物質産生能を有するエシェリヒア属細菌の育種において、エシェリヒア属細菌に遺伝子を導入、増強するには、エシェリヒア属細菌細胞内で自律複製可能なベクターに遺伝子を連結して組換えDNAを作製し、それでエシェリヒア・コリを形質転換する方法がある。その他にトランスダクション、トランスポゾン(Berg,D.E.and Berg,C.M., Bio/Technol.1,417,(1983))、Muファージ、(特開平2-109985号)または相同組換え(Experiments in Molecular Genetics,Cold Spring Harbor Lab.(1972))を用いた方法で宿主染色体に目的遺伝子を組み込むこともできる。
本発明に用いるエシェリヒア属細菌は、上記のような目的物質を産生する能力を有し、かつ、細胞内でFISタンパク質が正常に機能しない細菌である。「FISタンパク質が正常に機能しない」とは、fis遺伝子の転写又は翻訳が妨げられ、同遺伝子産物であるFISタンパク質が産生されないか、あるいは産生が低下した状態であってもよいし、産生されるFISタンパク質に変異が起こり、FISタンパク質の本来の機能が低下又は消失した状態であってもよい。FISタンパク質が正常に機能しないエシェリヒア属細菌として、典型的には、染色体上のfis遺伝子が遺伝子組換え技術により破壊された遺伝子破壊株、及び、染色体上のfis遺伝子の発現調節配列又はコード領域に変異が生じたことにより、機能を有するFISタンパク質が産生されないようになった変異株が挙げられる。
配列番号21及び22に、エシェリヒア・コリのfis遺伝子の塩基配列(GenBank accession AE000405の塩基配列の塩基番号1067-1363の配列)及びFISタンパク質のアミノ酸配列の一例を示す。
本発明においては、「FISタンパク質」とは、配列番号22に示すアミノ酸配列を有するエシェリヒア・コリのFISタンパク質の他、同タンパク質のホモログであってもよい。また、破壊されるfis遺伝子は、配列番号21に示す塩基配列を有するエシェリヒア・コリのfis遺伝子の他、同遺伝子のホモログであってもよい。例えば、fis遺伝子のホモログとしては、配列番号21に記載の塩基配列又はその一部を有するプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、FISタンパク質の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。
プローブとして、配列番号21の塩基配列の一部の配列を用いることもできる。そのよ
うなプローブは、配列番号21の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、配列番号21の塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。プローブとして、300bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件は、50℃、2×SSC、0.1%SDSが挙げられる。
尚、以下で説明する遺伝子破壊に用いるfis遺伝子としては、対象とするエシェリヒア属細菌の染色体上のfis遺伝子と同じ遺伝子を用いることが好ましいが、細胞内で相同組換えが可能な程度の相同性を有する遺伝子を用いることもできる。
以下に、染色体上のfis遺伝子を遺伝子組換え技術により破壊する方法の一例を説明する。fis遺伝子の一部を欠失し、正常に機能するFISを産生しないように改変したfis遺伝子(欠失型fis遺伝子)を含むDNAでエシェリヒア属細菌を形質転換し、欠失型fis遺伝子と染色体上のfis遺伝子との間で組換えを起こさせることにより、染色体上のfis遺伝子を破壊することができる。このような相同組換えによる遺伝子破壊は既に確立しており、直鎖DNAを用いる方法や温度感受性複製制御領域を含むプラスミドを用いる方法などがあるが、温度感受性複製制御領域を含むプラスミドを用いる方法が確実性の点から好ましい。
欠失型fis遺伝子を、宿主染色体上のfis遺伝子と置換するには以下のようにすればよい。すなわち、温度感受性複製制御領域と変異型fis遺伝子とアンピシリン等の薬剤に耐性を示すマーカー遺伝子とを挿入して組換えDNAを調製し、この組換えDNAでエシェリヒア属細菌を形質転換し、温度感受性複製制御領域が機能しない温度で形質転換株を培養し、続いてこれを薬剤を含む培地で培養することにより、組換えDNAが染色体DNAに組み込まれた形質転換株が得られる。
こうして染色体に組換えDNAが組み込まれた株は、染色体上にもともと存在するfis遺伝子配列との組換えを起こし、染色体fis遺伝子と欠失型fis遺伝子との融合遺伝子2個が組換えDNAの他の部分(ベクター部分、温度感受性複製制御領域及び薬剤耐性マーカー)を挟んだ状態で染色体に挿入されている。したがって、この状態では正常なfis遺伝子が優性であるので、形質転換株は正常なFISタンパク質を発現する。
次に、染色体DNA上に欠失型fis遺伝子のみを残すために、2個のfis遺伝子の組換えにより1コピーのfis遺伝子を、ベクター部分(温度感受性複製制御領域及び薬剤耐性マーカーを含む)とともに染色体DNAから脱落させる。その際、正常なfis遺伝子が染色体DNA上に残され、欠失型fis遺伝子が切り出される場合と、反対に欠失型fis遺伝子が染色体DNA上に残され、正常なfis遺伝子が切り出される場合がある。いずれの場合も、温度感受性複製制御領域が機能する温度で培養すれば、切り出されたDNAはプラスミド状で細胞内に保持される。一方、温度感受性複製制御領域が機能しない温度で培養すると、欠失型fis遺伝子が染色体DNA上に残された場合は、正常なfis遺伝子を含むプラスミドが細胞から脱落する。したがって、コロニーPCR等により細胞中のfis遺伝子の構造を確認することによって、染色体DNA上に欠失型fis遺伝子を保持し、正常なfis遺伝子が細胞から脱落した株を得ることができる。
エシェリヒア属細菌細胞内で機能する温度感受性複製制御領域を有するプラスミドとしては、後記実施例で用いたpMAN997(WO99/03988号国際公開パンフレット参照)が挙げられる。
DNAの切断及び連結、形質転換、形質転換株からの組換えDNAの抽出、及びPCR等の一般的な遺伝子組換えに用いられる技術は、当業者によく知られた書籍、例えばモレ
キュラー・クローニング(Sambrook, J., Fritsch, E.F., Maniatis,T., Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))等に詳述されている。
また、機能を有するFISタンパク質が産生されないようになった変異株は、エシェリヒア属細菌を紫外線照射またはN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくは亜硝酸等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理することによって、取得することができる。
上記のようにして得られる、目的物質生産能を有し、かつ、細胞内でFISタンパク質が正常に機能しないエシェリヒア属細菌を培地に培養し、該培地又は菌体中に目的物質を生成蓄積させ、該目的物質を採取することにより、目的物質を製造することができる。本発明においては、上記の性質を有するエシェリヒア属細菌を用いることにより、目的物質の生産速度又は生産効率を向上させることができる。これは、fis遺伝子に関するエシェリヒア属細菌野生株は、培養時にfis遺伝子が発現し、FISタンパク質が転写調節する遺伝子群(既知及び未知遺伝子を含む)の発現が促進もしくは抑制されるのに対し、正常なFISタンパク質が正常に機能しない株では、前記遺伝子群の発現が制御されないためであると推定される。
本発明においてエシェリヒア属細菌の培養に使用する培地は、使用する菌株又は目的物質の種類に応じて、従来より用いられてきた周知の培地を用いてかまわない。つまり、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地である。本発明を実施するための特別な培地は特に必要とされない。
炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトースやでんぷんの加水分解物などの糖類、グリセロールやソルビトールなどのアルコール類、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類等を用いることができる。
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。
有機微量栄養源としては、エシェリヒア属細菌の性質に応じてビタミンB1、L−ホモセリン、L−チロシンなどの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。これらの他に、必要に応じて、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
培養は、使用する菌株に応じて従来より用いられてきた周知の条件で行ってかまわない。例えば、好気的条件下で12〜120時間培養を実施するのがよく、培養温度は25℃〜45℃に、培養中pHは5〜8に制御する。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、更にアンモニアガス等を使用することができる。
培養終了後の培地又は菌体からの目的物質の採取は、本願発明において特別な方法が必要とされることはない。すなわち、目的物質の採取は、従来より周知となっているイオン交換樹脂法、沈澱法その他の方法を、目的物質の種類に応じて組み合わせることにより実施できる。また、菌体中に蓄積した目的物質の採取は、菌体を物理的又は酵素的に破壊し、目的物質に応じて菌体抽出液又は膜画分から採取することができる。尚、目的物質によっては、目的物質を菌体中に存在したままの状態で、微生物触媒等として利用することもできる。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
<実施例1>エシェリヒア・コリMG1655のヌクレオイド構成タンパクをコードする遺伝子の破壊と生育への効果
エシェリヒア・コリのヌクレオイド構成タンパクをコードする遺伝子の破壊は、クロスオーバーPCR(Link, A.J., Phillips, D., Church, G.M., J. Bacteriol., Vol.179. 6228-6237, 1997参照)によって行った。
(1)fis遺伝子の破壊
fis遺伝子のN末端のコード領域約20bp及びその上流域を含む約300bpの領域を増幅するプライマーとして配列番号1及び2に示すオリゴヌクレオチド(プライマー1、2)、fis遺伝子のC末端のコード領域約20bp及びその下流域を含む約300bpの領域を増幅するプライマーとして配列番号3及び4に示すオリゴヌクレオチド(プライマー3、4)を合成した。プライマー2と3は、相補的な共通の配列を一部に有しており、各々の増幅産物がこの部分で連結されるとfis遺伝子ORF内の一部が欠失するような設計となっている。
プライマー1、2、及びプライマー3、4の組み合わせで、常法により調製した野生株MG1655株のゲノムDNAを鋳型として一回目のPCR反応を行った。この際、プライマー1と2、及びプライマー4と3のモル比は、10:1にて行った。得られた一回目のPCR産物を鋳型として、プライマー1と4を用いて二回目のPCRを行った。二回目のPCRによって構築された欠失fis遺伝子を有するDNA断片を、Promega社製のクローニングベクターキットpGEMT-easyに、プロトコールに従ってクローニングし、組換えベクターpGEM-fisを得た。
pGEM-fisをEcoRIにより切断し、欠失型となったfis遺伝子を含むDNA断片を得た。この切断断片と、同酵素にて切断し精製した温度感受性プラスミドpMAN997(WO99/03988号国際公開パンフレット参照)とを、DNA ligation Kit Ver.2(宝酒造(株))を用いて連結した。尚、前記pMAN997は、pMAN031(J. Bacteriol., 162,1196 (1985))とpUC19(宝酒造(株))のそれぞれのVspI-HindIII断片を繋ぎ換えたものである。
上記の連結反応液で、エシェリヒア・コリJM109コンピテント細胞(宝酒造(株))を形質転換し、アンピシリン(明治製菓(株))を25 μg/ml含むLB寒天プレート(LB+アンピシリン)にまき、30℃で培養し、アンピシリン耐性コロニーを選択した。コロニーを25μg/mlのアンピシリンを含むLB培地で30℃にて試験管培養し、Wizard Plus Miniprep(Promega社)を用いて細胞からプラスミドを抽出した。それらのプラスミドをEcoRIで切断し、目的長断片を含むプラスミドを、fis破壊用プラスミドpMANΔfisとした。
pMANΔfisを用いて、エシェリヒア・コリMG1655を形質転換した。
形質転換株をLB+アンピシリンプレートで30℃で培養し、アンピシリン耐性のコロニーを選択した。選択したコロニーを30℃で一晩液体培養した後、10-3希釈してLB+アンピシリンプレートにまき、42℃でアンピシリン耐性コロニーを選択した。この段階では、pMANΔfisは染色体DNAに組み込まれている。
次に、選択したコロニーをLB+アンピシリンプレートに塗り広げ、30℃で培養した後、適当量の菌体をLB培地2mlに懸濁し、42℃で4〜5時間震とう培養した。10-5希釈した培養液をLBプレートにまき、得られたコロニーのうち数百コロニーをLBプレートとLB+アンピシリンプレートに植菌し、生育を確認することで、アンピシリン感受性又は耐性を確認した。アンピシリン感受性株は、染色体DNAから、pMANΔfisのベクター部分、及びもともと染色体DNA上に存在していた正常なfis遺伝子又は欠失型fis遺伝子が脱落している。アンピシリン感受性株の数株についてコロニーPCRを行い、目的どおりfis
遺伝子が欠失型に置換されている株を選択した。このようにして、エシェリヒア・コリのMG1655より、fis遺伝子破壊株MG1655Δfis株を取得した。
(2)hns遺伝子の破壊
(1)と同様の方法を用い、MG1655よりhns遺伝子破壊株を取得した。hns遺伝子のN末端のコード領域約40bp及びその上流域を含む約600bpの領域を増幅するプライマーとして配列番号5及び6に示すオリゴヌクレオチド(プライマー5、6)、hns遺伝子のC末端のコード領域約40bp及びその下流域を含む約600bpの領域を増幅するプライマーとして配列番号7及び8に示すオリゴヌクレオチド(プライマー7、8)を合成した。
プライマー5、6、及びプライマー7、8の組み合わせで、常法により調製した野生株MG1655株のゲノムDNAを鋳型として一回目のPCR反応を行った。得られた一回目のPCR産物を鋳型として、プライマー5と8を用いて二回目のPCRを行った。二回目のPCRによって構築された欠失型hns遺伝子を有するDNA断片を得た。後の操作は(1)と同様に行い、hns遺伝子破壊株MG1655Δhnsを得た。
(3)dps遺伝子の破壊
(1)と同様の方法を用い、MG1655よりdps遺伝子破壊株を取得した。dps遺伝子のN末端のコード領域約20bp及びその上流域を含む約400bpの領域を増幅するプライマーとして配列番号9及び10に示すオリゴヌクレオチド(プライマー9、10)、dps遺伝子のC末端のコード領域約20bp及びその下流域を含む約300bpの領域を増幅するプライマーとして配列番号11及び12に示すオリゴヌクレオチド(プライマー11、12)を合成した。
プライマー9、10、及びプライマー11、12の組み合わせで、常法により調製した野生株MG1655株のゲノムDNAを鋳型として一回目のPCR反応を行った。得られた一回目のPCR産物を鋳型として、プライマー9と12を用いて二回目のPCRを行った。二回目のPCRによって構築された欠失型dps遺伝子を有するDNA断片を得た。後の操作は(1)と同様に行い、dps遺伝子破壊株MG1655Δdpsを得た。
(4)hupAB遺伝子の破壊
hupAとhupBはゲノム上で隣接していないため、別々に遺伝子破壊を行った。まず、hupA遺伝子の破壊を行った。hupA遺伝子のN末端のコード領域約20bp及びその上流域を含む約300bpの領域を増幅するプライマーとして配列番号13及び14に示すオリゴヌクレオチド(プライマー13、14)、hupA遺伝子のC末端のコード領域約20bp及びその下流域を含む約300bpの領域を増幅するプライマーとして配列番号15及び16に示すオリゴヌクレオチド(プライマー15、16)を合成した。
プライマー13、14、及びプライマー15、16の組み合わせで、常法により調製した野生株MG1655株のゲノムDNAを鋳型として一回目のPCR反応を行った。得られた一回目のPCR産物を鋳型として、プライマー13と16を用いて二回目のPCRを行った。二回目のPCRによって構築された欠失型hupA遺伝子を有するDNA断片を得た。後の操作は(1)と同様に行い、hupA遺伝子破壊株MG1655ΔhupAを得た。
次にhupA遺伝子破壊株MG1655ΔhupAより、hupB遺伝子破壊を行った。hupB遺伝子のN末端のコード領域約20bp及びその上流域を含む約300bpの領域を増幅するプライマーとして配列番号17及び18に示すオリゴヌクレオチド(プライマー17、18)、hupB遺伝子のC末端のコード領域約20bp及びその下流域を含む約300bpの領域を増幅するプライマーとして配列番号19及び20に示すオリゴヌクレオチド(プライマー19、20)を合成した。
プライマー17、18、及びプライマー19、20の組み合わせで、常法により調製した野生株MG1655株のゲノムDNAを鋳型として一回目のPCR反応を行った。得られた一回目のPCR産物を鋳型として、プライマー17と20を用いて二回目のPCRを行った。二回目のPCRによって構築された欠失型hupB遺伝子を有するDNA断片を得た。後の操作は(1)と同様に行い、hupA遺伝子およびhupB遺伝子破壊株MG1655ΔhupABを得た。
(5)遺伝子破壊株の培養
fis遺伝子破壊株MG1655Δfis株、hns遺伝子破壊株MG1655Δhns株、hupAB遺伝子破壊株MG1655ΔhupAB株、dps遺伝子破壊株MG1655Δdpsと、その親株であるMG1655株を、20mM NH4Cl、2mM MgSO4、40mM NaHPO4、30mM KH2PO4、0.01mM CaCl2、0.01mM FeSO4、0.01mM MnSO4、5mM クエン酸、10mM グルコース、2mM チアミン塩酸塩、2.5g/L カザミノ酸(Difco社)、50mM MES-NaOH(pH6.8)を含む培地で、10 ml容L型試験管を用いて培養した。培養開始時の培養液量は5mlとし、回転速度70rpmで回転振とうし、37℃で培養を行った。培地、容器等は全てオートクレーブ滅菌を行った後に供した。
培養液中の菌体濃度を経時的に測定した。菌体濃度はバイオフォトディテクター(アドバンテック社)を用いて660nmの濁度を測定することにより調べた。結果を図1に示す。
その結果、dps遺伝子破壊株においては、対照株と同程度の生育であり、hns遺伝子破壊株およびhupAB遺伝子破壊株は生育が悪化することが認められた。一方、fis遺伝子破壊株は、生育が対照株に比較して向上することが認められた。そこで、fis遺伝子について発酵生産における破壊効果を検証した。
<実施例2>エシェリヒア・コリのfis遺伝子の破壊とL−リジン生産への効果
(1)fis遺伝子の破壊
実施例1と同様の方法で、エシェリヒア・コリWC196株より、fis遺伝子破壊株WC196Δfis株を取得した。WC196株は、AEC耐性のエシェリヒア・コリのL−リジン生産菌であり、プライベート番号AJ13069として、工業技術院生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託番号FERM P-14690として寄託され、平成7年9月29日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-5252が付与されている(WO96/17930号国際公開パンフレット参照)。実施例1で得られたfis破壊用プラスミドpMANΔfisを用いて、エシェリヒア・コリのL−リジン生産菌WC196を形質転換した。後の操作は実施例1と同様に行い、エシェリヒア・コリのL−リジン生産菌WC196より、fis遺伝子破壊株WC196Δfis株を取得した。
(2)fis遺伝子破壊株の培養
fis遺伝子破壊株WC196Δfis株とその親株であるWC196株を、20mM NH4Cl、2mM MgSO4、40mM NaHPO4、30mM KH2PO4、0.01mM CaCl2、0.01mM FeSO4、0.01mM MnSO4、5mM クエン酸、50mM グルコース、2mM チアミン塩酸塩、2.5g/L カザミノ酸(Difco社)、50mM MES-NaOH(pH6.8)を含む培地で、200 ml容三角フラスコを用いて培養した。培養開始時の培養液量は20 mlとし、回転速度144rpmで回転振とうし、37℃で培養を行った。培地、容器等は全てオートクレーブ滅菌を行った後に供した。
培養液中の菌体濃度、グルコース濃度、及びL−リジン蓄積を経時的に測定した。菌体濃度は適当倍率に水で希釈した培養液を用い、562nmの濁度を分光光度計(ベックマン社)で測定することにより調べた。グルコース濃度、及びL−リジン濃度は、遠心分離により除菌した培養液上清を適当倍率に水で希釈した後に、バイオテックアナライザー(サクラ精器)により測定した。結果を図2〜4に示す。また、培養8時間後のL−リジン蓄積
と残存グルコース濃度の値を示した。
(表1)
表1 fis破壊株の8時間後におけるL-リシ゛ン蓄積と残存ク゛ルコース濃度
────────────────────────────────
菌株 L−リジン蓄積 (mg/L) グルコース(g/L)
────────────────────────────────
WC196Δfis 205 6.20
WC1996 95 2.00
────────────────────────────────
その結果、fis遺伝子破壊株は、生育(図2)、糖消費速度(図3)、L−リジン生産速度(図4)のいずれにおいても、対照株に比較して向上することが認められた。
<実施例3>エシェリヒア・コリのfis遺伝子破壊株へのL−リジン生産用プラスミドの導入とL−リジン生産への効果
(1)fis遺伝子破壊株へのL−リジン生産用プラスミドの導入
実施例2で得られたfis遺伝子破壊株WC196Δfis株、及びその親株であるWC196を、エシェリヒア属細菌由来の変異型ジヒドロジピコリン酸合成酵素遺伝子、変異型アスパルトキナーゼIII遺伝子、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ遺伝子およびブレビバクテリウム ラクトファーメンタム由来のジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含むプラスミドpCABD2(WO95/16042号)で形質転換し、WC196/pCABD2株、及び WC196Δfis/pCABD2株を得た。前記変異型ジヒドロジピコリン酸合成酵素遺伝子および変異型アスパルトキナーゼIII遺伝子はともにL−リジンによるフィードバック阻害を解除された変異を有する。
(2)fis遺伝子破壊株の培養
fis遺伝子破壊株WC196Δfis/pCABD2株と、野生型fis遺伝子保持株WC196/pCABD2株を、20mM NH4Cl、2mM MgSO4、40mM NaHPO4、30mM KH2PO4、0.01mM CaCl2、0.01mM FeSO4、0.01mM MnSO4、5mM クエン酸、50mM グルコース、2mM チアミン塩酸塩、2.5g/L カザミノ酸(Difco社)、50mM MES-NaOH(pH6.8)を含む培地で、200 ml容三角フラスコを用いて培養した。培養開始時の培養液量は20 mlとし、回転速度144rpmで回転振とうし、37℃で培養を行った。培地、容器等は全てオートクレーブ滅菌を行った後に供した。
培養液中の菌体濃度、グルコース濃度、及びL−リジン蓄積を経時的に測定した。菌体濃度は適当倍率に水で希釈した培養液を用い、562nmの濁度を分光光度計(ベックマン社)で測定することにより調べた。グルコース濃度、及びL−リジン濃度は、遠心分離により除菌した培養液上清を適当倍率に水で希釈した後に、バイオテックアナライザー(サクラ精器)により測定した。結果を図5〜7に示す。また、培養8時間後のL−リジン蓄積と残存グルコース濃度の値を示した。
(表2)
表2 fis破壊株の8時間後におけるL-リシ゛ン蓄積と残存ク゛ルコース濃度
────────────────────────────────
菌株 L−リジン蓄積 (g/L) グルコース(g/L)
────────────────────────────────
WC196/pCABD2 0.80 7.35
WC196Δfis/pCABD2 1.60 4.40
────────────────────────────────
その結果、L−リジン生産用プラスミドを導入したfis遺伝子破壊株においても、生育(図5)、糖消費速度(図6)、L−リジン生産速度(図7)ともに、対照株に比較して向上することが認められた。
MG1655、MG1655Δfis、MG1655Δhns、MGΔdps、MGΔhupAB株の生育パターンを示す図。 WC196、WC196Δfis株の生育パターンを示す図。 WC196、WC196Δfis株の糖消費パターンを示す図。 WC196、WC196Δfis株のリジン蓄積パターンを示す図。 WC196/pCABD2、WC196Δfis/pCABD2株の生育パターンを示す図。 WC196/pCABD2、WC196Δfis/pCABD2株の糖消費パターンを示す図。 WC196/pCABD2、WC196Δfis/pCABD2株のリジン蓄積パターンを示す図。

Claims (4)

  1. エシェリヒア属細菌を培地に培養し、該培地又は菌体中にL−リジン、L−スレオニン、およびL−メチオニンから選択されるL−アミノ酸を生成蓄積させ、該L−アミノ酸を採取する、エシェリヒア属細菌を利用したL−リジン、L−スレオニン、およびL−メチオニンから選択されるL−アミノ酸の製造法において、前記エシェリヒア属細菌は該L−アミノ酸を生産する能力を有し、かつ、細胞内でFISタンパク質が正常に機能しないことを特徴とするL−リジン、L−スレオニン、およびL−メチオニンから選択されるL−アミノ酸の製造法。
  2. 前記エシェリヒア属細菌は、染色体上のfis遺伝子が破壊されたことにより、細胞内でFISタンパク質が正常に機能しないことを特徴とする請求項1記載の方法。
  3. 前記エシェリヒア属細菌はエシェリヒア・コリである請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記L−アミノ酸がL−リジンである請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
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