JP2008086289A - L−リジンの製造法 - Google Patents

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真太郎 岩谷
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Kazuhiko Matsui
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Abstract

【課題】L−リジンの発酵生産の効率を向上させる。
【解決手段】L−リジン生産能を有し、かつemrK遺伝子およびemrY遺伝子の発現量が増大するように改変された腸内細菌科に属する細菌を培地で培養して、L−リジンを該培地中又は菌体内に生成蓄積させ、該培地又は菌体よりL−リジンを採取する。
【選択図】なし

Description

本発明は、細菌を用いたL−リジンの製造法に関する。L−リジンは動物飼料用の添加物、健康食品の成分、又はアミノ酸輸液等として、産業上有用なL−アミノ酸である。
細菌を用いた発酵法によってL−アミノ酸等の目的物質を製造するには、野生型細菌(野生株)を用いる方法、野生株から誘導された栄養要求株を用いる方法、野生株から種々の薬剤耐性変異株として誘導された代謝調節変異株を用いる方法、栄養要求株と代謝調節変異株の両方の性質を持った株を用いる方法等がある。
近年は、目的物質の発酵生産に組換えDNA技術を用いることが行われている。例えば、L−アミノ酸生合成系酵素をコードする遺伝子の発現を増強すること(特許文献1、特許文献2)、又はL−アミノ酸生合成系への炭素源の流入を増強すること(特許文献3)によって、細菌のL−アミノ酸生産性を向上させることが行われている。
これまでにエシェリヒア・コリをはじめとして多くのバクテリアに見出されている多剤排出トランスポーターは、環境中のさまざまな構造の有害物質の侵入に対処する機能を果たしていると考えられている。エシェリヒア・コリには多数の多剤排出トランスポーター(multidrug resistance transporter)が見いだされており、多様な薬剤の排出に関わっていることや誘導型の発現制御を受けることが知られている(非特許文献1)。MF(major facilitator)ファミリーに属するEmrKYは、それぞれemrK遺伝子およびemrY遺伝子によってコードされる、EmrKタンパク質とEmrYタンパク質からなる。emrK遺伝子とemrY遺伝子はオペロン(emrKYオペロンと呼ばれる)を構成しており、emrKYオペロンは宿主細菌にデオキシコール酸(deoxycholate)などの薬剤に対する耐性を付与することが知られている(非特許文献2)。これまでにemrKYオペロンを増強した細菌を用いた、L−システインの生産は報告されているが(特許文献4)、L−リジンの生産については報告がなく、該遺伝子の発現増強がL-リジンの生産に効果があることは予想されていなかった。
米国特許第5168056号明細書 米国特許第5776736号明細書 米国特許第5906925号明細書 特開2005−287333号公報 Microbiol. Mol. Biol. Rev. 2002. 66(4):671-701. Grkovic, S., Brown, M. H., and Skurray, R. A. Regulation of bacterial drug export systems. J. Bacteriol. 2001. 183(4):1455-1458. Nishino, K., and Yamaguchi, A. Overexpression of the response regulator evgA of the two-component signal transduction system modulates multidrug resistance conferred by multidrug resistance transporters.
本発明は、L−リジンを効率よく生産することのできる腸内細菌科に属する細菌を提供すること、及び該細菌を用いてL−リジンを効率よく生産する方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、多剤排出トランスポ
ーターをコードする、emrK遺伝子およびemrY遺伝子の発現量が増大するように細菌を改変することにより、L−リジンの生産性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)L−リジン生産能を有し、かつemrK遺伝子およびemrY遺伝子の発現量が増大するように改変された腸内細菌科に属する細菌を培地で培養して、L−リジンを該培地中に生成蓄積させ、培地よりL−リジンを採取することを特徴とする、L−リジンの製造法。
(2)前記emrK遺伝子が、下記(a)又は(b)に記載のDNAである、前記方法:
(a)配列番号1に示す塩基配列を含むDNA、
(b)配列番号1に示す塩基配列の相補配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、EmrYタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質をコードするDNA。
(3)前記emrY遺伝子が、下記(c)又は(d)に記載のDNAである、前記方法:
(c)配列番号3に示す塩基配列を含むDNA、
(d)配列番号3に示す塩基配列の相補配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、EmrKタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質をコードするDNA。
(4)前記emrK遺伝子が、下記(A)又は(B)に記載のタンパク質をコードする、前記方法:
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、
(B)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、EmrYタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質。
(5)前記emrY遺伝子が、下記(C)又は(D)に記載のタンパク質をコードする、前記方法:
(C)配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、
(D)配列番号4に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、EmrKタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質。
(6)emrK遺伝子およびemrY遺伝子の発現量が、各々の遺伝子のコピー数を高めること、又は該遺伝子の発現調節配列を改変することによって増大した、前記方法。
(7)前記細菌が、エシェリヒア属細菌、エンテロバクター属細菌、パントエア属細菌、クレブシエラ属細菌、セラチア属細菌からなる群より選ばれる細菌である、前記方法。
本発明の方法を用いることにより、効率よく、L−リジンを発酵生産することが出来る。
以下、本発明を詳細に説明する。
<1>本発明の細菌
本発明の細菌は、L−リジンの生産能を有し、かつ、多剤排出トランスポーターをコードする、emrK遺伝子およびemrY遺伝子の発現量が増大するように改変された腸内細菌科に属する細菌である。
ここで、L−リジン生産能とは、本発明の細菌を培地中で培養したときに、培地中または菌体内にL−リジンを生成し、培地中または菌体から回収できる程度に蓄積する能力をいう。L−リジン生産能を有する細菌としては、本来的にL−リジンの生産能を有するも
のであってもよいが、下記のような細菌を、変異法や組換えDNA技術を利用して、L−リジンの生産能を有するように改変したものであってもよい。
また、「遺伝子の発現量の増大」とは、遺伝子の転写及び/又は翻訳の量が増強することをいう。
<1−1> L−リジン生産能の付与
以下に、細菌にL−リジン生産能を付与する方法及び本発明で使用することのできるL−リジン生産能が付与された細菌を例示する。ただし、前記L−リジン生産能を有する限り、これらに制限されない。
本発明に用いる細菌としては、エシェリヒア属、エンテロバクター属、パントエア属、クレブシエラ属、セラチア属、エルビニア属、サルモネラ属、モルガネラ属など、腸内細菌科に属する細菌であって、L−リジン生産能を有するものであれば、特に限定されない。具体的にはNCBI(National Center for Biotechnology Information)データベースに記載されている分類により腸内細菌科に属するものが利用できる。
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/htbin-post/Taxonomy/wgetorg?mode=Tree&id=1236&lvl=3&keep=1&srchmode=1&unlock)。改変に用いる腸内細菌科の親株としては、中でもエシェリヒア属細菌、エンテロバクター属細菌、パントエア属細菌を用いることが望ましい。
本発明のエシェリヒア属細菌を得るために用いるエシェリヒア属細菌の親株としては、特に限定されないが、具体的にはNeidhardtらの著書(Backmann, B. J. 1996. Derivations and Genotypes of some mutant derivatives of Escherichia coli K-12, p. 2460-2488. Table 1. In F. D. Neidhardt (ed.), Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology/Second Edition, American Society for Microbiology Press, Washington, D.C.)に挙げられるものが利用できる。その中では、例えばエシェリヒア・コリが挙げられる。エシェリヒア・コリとしては具体的には、プロトタイプの野生株K12株由来のエシェリヒア・コリ W3110 (ATCC 27325)、エシェリヒア・コリ MG1655 (ATCC 47076)等が挙げられる。
これらを入手するには、例えばアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所
P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る(http://www.atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。
エンテロバクター属細菌としては、エンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter
agglomerans)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)等、パントエア属細菌としてはパントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)が挙げられる。尚、近年、エンテロバクター・アグロメランスは、16S rRNAの塩基配列解析などにより、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)又はパントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)、パントエア・スチューアルティ(Pantoea stewartii)に再分類されているものがある。本発明においては、腸内細菌科に分類されるものであれば、エンテロバクター属又はパントエア属のいずれに属するものであってもよい。パントエア・アナナティスを遺伝子工学的手法を用いて育種する場合には、パントエア・アナナティスAJ13355株(FERM BP-6614)、AJ13356株(FERM BP-6615)、AJ13601株(FERM BP-7207)及びそれらの誘導体を用いることができる。これらの株は、分離された当時はエンテロバクター・アグロメランスと同定され、エンテロバクター・アグロメランスとして寄託されたが、上記のとおり、16S rRNAの塩基配列解析などにより、パントエア・アナナティスに再分類されている。
以下、腸内細菌科に属する細菌にL−リジン生産能を付与する方法、又はこれらの細菌においてL−リジン生産能を増強する方法について述べる。
L−リジン生産能を付与するには、栄養要求性変異株、アナログ耐性株又は代謝制御変異株の取得や、L−アミノ酸の生合成系酵素の発現が増強された組換え株の創製等、従来、コリネ型細菌又はエシェリヒア属細菌等の育種に採用されてきた方法を適用することができる(アミノ酸発酵、(株)学会出版センター、1986年5月30日初版発行、第77-100頁参照)。ここで、L−リジン生産菌の育種において、付与される栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質は、単独でもよく、2種又は3種以上であってもよい。また、発現が増強されるL−リジン生合成系酵素も、単独であっても、2種又は3種以上であってもよい。さらに、栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質の付与と、生合成系酵素の増強が組み合わされてもよい。
L−リジン生産能を有する栄養要求性変異株、L−リジンアナログ耐性株、又は代謝制御変異株を取得するには、親株又は野生株を通常の変異処理、すなわちX線や紫外線の照射、またはN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)もしくはエチルメタンスルフォネート(EMS)等の変異剤処理などによって処理し、得られた変異株の中から、栄養要求性、アナログ耐性、又は代謝制御変異を示し、かつL−リジン生産能を有するものを選択することによって得ることができる。
以下、L−リジン生産菌又はその構築方法を例として示す。
例えば、L−リジン生産能を有する株としては、L−リジンアナログ耐性株又は代謝制御変異株が挙げられる。L−リジンアナログの例としては、オキサリジン、リジンヒドロキサメート、S−(2−アミノエチル)−L−システイン(AEC)、γ−メチルリジン、α−クロロカプロラクタムなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらのリジンアナログに対して耐性を有する変異株は、腸内細菌科に属する細菌を通常の人工変異処理に付すことによって得ることができる。L−リジン生産菌として具体的には、エシェリヒア・コリAJ11442株(FERM BP-1543、NRRL B-12185;特開昭56-18596号公報及び米国特許第4346170号明細書参照)、エシェリヒア・コリ VL611株(特開2000-189180号公報)等が挙げられる。また、エシェリヒア・コリのL−リジン生産菌として、WC196株(国際公開第96/17930号パンフレット参照)を用いることも出来る。WC196株は、エシェリヒア・コリK-12由来のW3110株にAEC耐性を付与することによって育種されたものである。同株は、エシェリヒア・コリAJ13069株と命名され、平成6年12月6日付で工業技術院生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託番号FERM P-14690として寄託され、平成7年9月29日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-5252が付与されている。
また、L−リジン生合成系の酵素活性を上昇させることによっても、L−リジン生産菌を構築することが出来る。これらの酵素活性の上昇は、酵素をコードする遺伝子のコピー数を細胞内で上昇させること、または発現調節配列を改変することによって達成できる。L−リジン生合成系の酵素をコードする遺伝子のコピー数を細胞内で上昇させること、および発現調節配列を改変することは、後述のemrK遺伝子およびemrY遺伝子の場合と同様の方法によって達成することができる。
L−リジン生合成系酵素をコードする遺伝子としては、ジヒドロジピコリン酸合成酵素遺伝子(dapA)、アスパルトキナーゼ遺伝子(lysC)、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ遺伝子(dapB)、ジアミノピメリン酸脱炭酸酵素遺伝子(lysA)、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(ddh)(以上、国際公開第96/40934号パンフレット)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子(ppc) (特開昭60-87788号公報)、アスパラギン酸ア
ミノトランスフェラーゼ遺伝子(aspC)(特公平6-102028号公報)、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ遺伝子(dapF)(特開2003-135066号公報)、アスパラギン酸セミアルデヒド脱水素酵素遺伝子(asd)(国際公開第00/61723号パンフレット)等のジアミノピメリン酸経路の酵素の遺伝子、あるいはホモアコニット酸ヒドラターゼ遺伝子(特開2000-157276号公報)等のアミノアジピン酸経路の酵素等の遺伝子が挙げられる。カッコ内は、その遺伝子の略記号である。
エシェリヒア・コリ由来の野生型ジヒドロジピコリン酸合成酵素はL−リジンによるフィードバック阻害を受けることが知られており、エシェリヒア・コリ由来の野生型AアスパルトキナーゼはL−リジンによる抑制及びフィードバック阻害を受けることが知られている。したがって、dapA遺伝子及びlysC遺伝子を用いる場合、これらの遺伝子は、L−リジンによるフィードバック阻害を受けない変異型遺伝子であることが好ましい。
L−リジンによるフィードバック阻害を受けない変異型ジヒドロジピコリン酸合成酵素をコードするDNAとしては、118位のヒスチジン残基がチロシン残基に置換された配列を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。また、L−リジンによるフィードバック阻害を受けない変異型アスパルトキナーゼをコードするDNAとしては、352位のスレオニン残基がイソロイシン残基に置換、323位のグリシン残基がアスパラギン残基に置換、318位のメチオニンがイソロイシンに置換された配列を有するAKIIIをコードするDNAが挙げられる(これらの変異体については米国特許第5661012号及び第6040160号明細書参照)。変異型DNAはPCRなどによる部位特異的変異法により取得することができる。
なお、変異型変異型ジヒドロジピコリン酸合成酵素をコードする変異型dapA及び変異型アスパルトキナーゼをコードする変異型lysCを含むプラスミドとして、広宿主域プラスミドRSFD80、pCAB1、pCABD2が知られている(米国特許第6040160号明細書)。同プラスミドで形質転換されたエシェリヒア・コリ JM109株(米国特許第6040160号明細書)は、AJ12396と命名され、同株は1993年10月28日に通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)に受託番号FERM P-13936として寄託され、1994年11月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、FERM BP-4859の受託番号のもとで寄託されている。RSFD80は、AJ12396株から、公知の方法によって取得することができる。
さらに、L−リジン生産菌は、L−リジンの生合成経路から分岐して他の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性や、L−リジンの合成又は蓄積に負に機能する酵素活性が低下または欠損していてもよい。このような酵素としては、ホモセリンデヒドロゲナーゼ、リジンデカルボキシラーゼ(cadA, ldcC)、マリックエンザイム等があり、該酵素の活性が低下または欠損した株は国際公開第WO95/23864号、第WO96/17930号パンフレット、第WO2005/010175号パンフレットなどに記載されている。
リジンデカルボキシラーゼ活性を低下または欠損させるためには、リジンデカルボキシラーゼをコードするcadA遺伝子とldcC遺伝子の両方の発現を低下させることが好ましい。両遺伝子の発現低下は、例えば、後述の実施例2に記載の方法に従って行うことができる。
cadA遺伝子としては、配列番号8の塩基配列を有するDNA(エシェリヒア・コリ由来のcadA遺伝子)、または配列番号8の塩基配列の相補配列もしくはこの相補配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリジンデカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
ldcC遺伝子遺伝子としては、配列番号10の塩基配列を有するDNA(エシェリヒア・コリ由来のldcC遺伝子)、または配列番号10の塩基配列の相補配列もしくはこの相補配列
から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリジンデカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
なお、「ストリンジェントな条件」については後述するとおりである。
これらの酵素活性を低下あるいは欠損させる方法としては、通常の変異処理法又は遺伝子組換え技術によって、ゲノム上の上記酵素の遺伝子に、細胞中の当該酵素の活性が低下または欠損するような変異を導入すればよい。このような変異の導入は、例えば、遺伝子組換えによって、ゲノム上の酵素をコードする遺伝子を欠損させたり、プロモーターやシャインダルガルノ(SD)配列等の発現調節配列を改変したりすることなどによって達成される。また、ゲノム上の酵素をコードする領域にアミノ酸置換(ミスセンス変異)を導入すること、また終始コドンを導入すること(ナンセンス変異)、一〜二塩基付加・欠失するフレームシフト変異を導入すること、遺伝子の一部分、あるいは全領域を欠失させることによっても達成出来る(J. Biol. Chem. 272:8611-8617(1997))。また、コード領域の全体又は一部が欠失したような変異酵素をコードする遺伝子を構築し、相同組換えなどによって、該遺伝子でゲノム上の正常遺伝子を置換すること、トランスポゾン、又はIS因子を該遺伝子に導入することによっても酵素活性を低下または欠損させることができる。
例えば、上記の酵素の活性を低下または欠損させるような変異を遺伝子組換えにより導入する為には、以下のような方法が用いられる。目的遺伝子の部分配列を改変し、正常に機能する酵素を産生しないようにした変異型遺伝子を作製し、該遺伝子を含むDNAで腸内細菌科に属する細菌に形質転換し、変異型遺伝子とゲノム上の遺伝子で組換えを起こさせることにより、ゲノム上の目的遺伝子を変異型に置換することが出来る。このような相同組換えを利用した遺伝子置換は、「Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」と呼ばれる方法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))、Redドリブンインテグレーション法とλファージ由来の切り出しシステム(Cho, E. H., Gumport, R. I., Gardner, J. F. J. Bacteriol. 184: 5200-5203 (2002))とを組合わせた方法(WO2005/010175号参照)等の直鎖状DNAを用いる方法や、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法などがある(米国特許第6303383号; 特開平05-007491号公報)。また、上述のような相同組換えを利用した遺伝0子置換による部位特異的変異導入は、宿主上で複製能力を持たないプラスミドを用いても行うことが出来る。
また、本発明に用いるL−リジン生産菌は、固有の生合成系酵素をコードする遺伝子以外に、糖の取り込み、糖代謝(解糖系)、エネルギー代謝、リジン排出に関与する遺伝子が増幅されていてもよい。
糖代謝に関与する遺伝子としては、解糖系酵素をコードする遺伝子や糖の取り込み遺伝子が挙げられ、グルコース6−リン酸イソメラーゼ遺伝子(pgi;国際公開第01/02542号パンフレット)、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ遺伝子(pps; 欧州出願公開877090号明細書)、ホスホグルコムターゼ遺伝子(pgm;国際公開03/04598号パンフレット)、フルクトース二リン酸アルドラーゼ遺伝子(fba;国際公開03/04664号パンフレット)、ピルビン酸キナーゼ遺伝子(pykF;国際公開03/008609号パンフレット)、トランスアルドラーゼ遺伝子(talB;国際公開03/008611号パンフレット)、フマラーゼ遺伝子(fum;国際公開01/02545号パンフレット)、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ遺伝子(pps;欧州出願公開877090号パンフレット)、non-PTSシュクロース取り込み遺伝子遺伝子(csc;欧州出願公開149911号パンフレット)、シュクロース資化性遺伝子(scrABオペロン;国際公開第90/04636号パンフレット)が挙げられる。
エネルギー代謝に関与する遺伝子としては、トランスヒドロゲナーゼ遺伝子(pntAB;米国特許 5,830,716号明細書)、cytochromoe bo type oxidase遺伝子(cyoB 欧州特許出願
公開1070376号明細書)が挙げられる。
リジン排出遺伝子としては、コリネ型細菌由来のlysE遺伝子(国際公開第97/23597号パンフレット)、腸内細菌科由来のybjE遺伝子(国際公開第2005/073390号パンフレット)が挙げられる。
本発明の細菌は、上述したようなL−リジン生産能を有する細菌を、emrK遺伝子およびemrY遺伝子の発現量が増大するように改変することによって得ることができる。先にemrK遺伝子およびemrY遺伝子の発現量が増大するように改変した後に、前記L-リジン生産能を付与又は増強してもよい。なお、emrK遺伝子およびemrY遺伝子の発現量の増大は、後述するように、プロモーター改変を始めとする発現調節領域改変などによる内因性emrK遺伝子およびemrY遺伝子の発現増強であってもよいし、emrK遺伝子およびemrY遺伝子を含むプラスミドの導入などによる外因性emrK遺伝子およびemrY遺伝子の発現増強であってもよい。さらに、これらを組み合わせてもよい。
emrK遺伝子によってコードされるEmrKタンパク質とemrY遺伝子によってコードされるEmrYタンパク質は協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮する。
本発明において、多剤排出トランスポーターとは、少なくとも一つの薬剤を排出する活性を有する輸送担体を意味する。薬剤の種類は特に制限されないが、デオキシコール酸(deoxycholate)が例示される。多剤排出トランスポーター活性は、emrK遺伝子とemrY遺伝子を宿主細菌に発現させ、該細菌のデオキシコール酸などの薬剤に対する耐性が野生株などの非改変株と比較して増大していることにより確認することができる。例えば、デオキシコール酸に対する耐性の評価は、J. Bacteriol. 183. 1455-1458 (2001)に記載されている方法によって行うことができる。
emrK遺伝子およびemrY遺伝子の発現量が親株、例えば野生株や非改変株と比べて増大していることの確認は、mRNAの量を野生型、あるいは非改変株と比較することによって確認出来る。発現量の確認方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション、Reverse-Transcriptase PCR(RT-PCR)が挙げられる(Sambrook, J., and Russell, D.W. Molecular Cloning A Laboratory Manual/Third Edition. New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001))。発現量の増大については、野生株あるいは非改変株と比較して、増大していればいずれでもよいが、例えば野生株、非改変株と比べて1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上増大していることが望ましい。また、発現量の増大は、目的とするタンパク質量が非改変株、野生株と比較して増大していることによって確認することができ、例えば抗体を用いてウェスタンブロットによって検出することが出来る(Sambrook, J., and Russell, D.W. Molecular Cloning A Laboratory Manual/Third Edition. New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001))。
本発明のemrK遺伝子およびemrY遺伝子とは、エシェリヒア属細菌の遺伝子及びそれらのホモログをいう。エシェリヒア・コリのemrK遺伝子としては、配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子(配列番号1)を例示することができる(Genbank
Accession No. AAC75427 [GI:1789934])。なお、配列番号1のgtgは開始コドンとして機能し、メチオニンに翻訳されている可能性が高い。emrY遺伝子としては、配列番号4のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子(配列番号3)を例示することができる(Genbank Accession No. AAC75426 [GI:1788710])。
emrK遺伝子およびemrY遺伝子のホモログとは、他の微生物由来で、エシェリヒア属細菌のemrK遺伝子およびemrY遺伝子と構造が高い類似性を示し、宿主に導入した際にL-リジンの生産能を向上させ、宿主細菌に多剤排出トランスポーター活性を付与する遺伝子をいう。例えばemrK遺伝子およびemrY遺伝子のホモログとしては、シゲラ属等のGenbankに登録
されているemrK遺伝子およびemrY遺伝子が挙げられる。さらに、emrK遺伝子およびemrY遺伝子は、配列番号1または3の塩基配列との相同性に基づいて、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、サルモネラ・ティフィミリウム等のサルモネラ属細菌、シュードモナス属細菌等からクローニングされるものであってもよい。配列番号1のemrK遺伝子または配列番号3のemrY遺伝子と相同性が高ければ、異なる遺伝子名が付与されているものでもよい。例えば、emrK遺伝子ホモログは、配列番号6と配列番号16の合成オリゴヌクレオチドを用いてクローニング出来る遺伝子も含まれる。また、emrY遺伝子ホモログは、配列番号17と配列番号7の合成オリゴヌクレオチドを用いてクローニング出来る遺伝子も含まれる。
なお、emrK遺伝子とemrY遺伝子が異なる微生物に由来してもよい。
また、emrK遺伝子およびemrY遺伝子のホモログは上記の配列情報に基づき、相同性が高い遺伝子を公知のデータベースから取得できる。アミノ酸配列および塩基配列の相同性は、例えばKarlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873 (1993))やFASTA(Methods Enzymol., 183, 63 (1990))を用いて決定することができる。このアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXとよばれるプログラムが開発されている (http://www.ncbi.nlm.nih.gov参照)。
また、本発明に用いるemrK遺伝子は、野生型遺伝子には限られず、コードされるタンパク質の機能、すなわちEmrYタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するという機能が損なわれない限り、配列番号2のアミノ酸配列において、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加等を含む配列を有するタンパク質をコードする、変異体又は人為的な改変体であってもよい。
また、本発明に用いるemrY遺伝子も、野生型遺伝子には限られず、コードされるタンパク質の機能、すなわちEmrKタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するという機能が損なわれない限り、配列番号4のアミノ酸配列において、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加等を含む配列を有するタンパク質をコードする、変異体又は人為的な改変体であってもよい。
ここで、「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個を意味する。上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加は、上記機能が維持される保存的変異である。保存的変異とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換であり、保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位等には、emrK遺伝子およびemrY遺伝子を保持する微生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。このような遺伝子は、例えば、部位特異的変異法によって、コードされるタンパク質の特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入または付加を含むよう
に配列番号1、3に示す塩基配列を改変することによって取得することができる。
さらに、emrK遺伝子は、配列番号2のアミノ酸配列全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有し、かつ、EmrYタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質をコードする配列を用いることが出来る。また、emrY遺伝子は、配列番号4のアミノ酸配列全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有し、かつ、EmrKタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質をコードする配列を用いることが出来る。
また、それぞれemrK遺伝子およびemrY遺伝子が導入される宿主で使用しやすいコドンに置換したものでもよい。同様にemrK遺伝子およびemrY遺伝子にコードされるタンパク質は、上記機能を保持する限り、N末端側、C末端側が延長したものあるいは削られているものでもよい。例えば延長・削除する長さは、アミノ酸残基で50以下、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、特に好ましくは5以下である。より具体的には、配列番号2、4のアミノ酸配列のN末端側より50アミノ酸から5アミノ酸、C末端側より50アミノ酸から5アミノ酸延長・削除したものでもよい。
また、以下のような従来知られている変異処理によっても取得され得る。変異処理としてはemrK遺伝子およびemrY遺伝子をヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、および該遺伝子を保持する微生物、例えばエシェリヒア属細菌を、紫外線またはN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)もしくはエチルメタンスルフォネート(EMS)等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理する方法が挙げられる。取得された変異遺伝子が多剤排出トランスポーター活性を有するタンパク質をコードしているか否かは、例えば、これらの遺伝子を適当な宿主細胞で発現させ、該宿主に多剤排出トランスポーター活性を付与しうるかを調べることにより、確かめることができる。
emrK遺伝子は、配列番号1の塩基配列の相補配列又はこの相補配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつEmrYタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質をコードするDNAであってもよい。また、emrY遺伝子は配列番号3の塩基配列の相補配列又はこの相補配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつEmrKタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質をコードするDNAであってもよい。
ここで、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDS、さらに好ましくは、68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度、温度で、1回、より好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。
プローブとしては、配列番号1、3の相補配列の一部を用いることもできる。そのようなプローブは、、配列番号1、3の相補配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、これらの塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。例えば、プローブとして、300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件は、50℃、2×SSC、0.1%SDSが挙げられる。
emrK遺伝子およびemrY遺伝子の発現を増強するための改変は、例えば、遺伝子組換え技術を利用して、細胞中の遺伝子のコピー数を高めることによって行うことができる。例えば、emrK遺伝子およびemrY遺伝子を含むDNA断片を、宿主細菌で機能するベクター、好ましくはマルチコピー型のベクターと連結して組換えDNAを作製し、これを細菌に導入して形質転換すればよい。
なお、emrK遺伝子およびemrY遺伝子は別々のベクターを用いて宿主細菌に導入してもよいし、単一のベクターを用いて宿主細菌に導入してもよい。単一のベクターを用いて宿主細菌に導入する場合、emrK遺伝子およびemrY遺伝子はemrKYオペロンとして導入することが好ましい。emrKYオペロンは、例えば、配列番号6および7のプライマーを用いてエシェリヒア・コリの染色体DNAより増幅することができる。
emrK遺伝子およびemrY遺伝子としてエシェリヒア・コリのemrK遺伝子およびemrY遺伝子を用いる場合、配列番号1または3の塩基配列に基づいて作製したプライマー、例えば、配列番号6と16(emrK遺伝子)または配列番号7と17(emrY遺伝子)に示すプライマーを用いて、エシェリヒア・コリのゲノムDNAを鋳型とするPCR法(PCR:polymerase chain reaction; White,T.J. et al., Trends Genet. 5, 185 (1989)参照)によって取得することができる。他の腸内細菌科に属する細菌のemrK遺伝子およびemrY遺伝子も、その細菌において公知のemrK遺伝子およびemrY遺伝子もしくは他種の細菌のemrK遺伝子およびemrY遺伝子又は、他の多剤排出トランスポーターの配列情報に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとするPCR法、又は、前記配列情報に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプローブとするハイブリダイゼーション法によって、微生物のゲノムDNA又はゲノムDNAライブラリーから、取得することができる。なお、ゲノムDNAは、DNA供与体である微生物から、例えば、斎藤、三浦の方法(H. Saito and K.Miura, Biochem. Biophys. Acta, 72, 619 (1963)、生物工学実験書、日本生物工学会編、97-98頁、培風館、1992年参照)等により調製することができる。
次に、PCR法により増幅されたemrK遺伝子およびemrY遺伝子を、宿主細菌の細胞内において機能することのできるベクターDNAに接続して組換えDNAを調製する。宿主細菌の細胞内において機能することのできるベクターとしては、宿主細菌の細胞内において自律複製可能なベクターを挙げることができる。エシェリヒア・コリ細胞内において自律複製可能なベクターとしては、pUC19、pUC18、pHSG299、pHSG399、pHSG398、pACYC184(pHSG、pACYCは宝バイオ社より入手可)、RSF1010、pBR322、pMW219(pMW219はニッポンジーン社より入手可)、pSTV29(宝バイオ社より入手可)等が挙げられる。
上記のように調製した組換えDNAを細菌に導入するには、これまでに報告されている形質転換法に従って行えばよい。例えば、エシェリヒア・コリK-12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel,M.and Higa, A., J. Mol. Biol., 53, 159 (1970))があり、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Duncan, C. H.,Wilson, G. A. and Young, F. E., Gene, 1, 153 (1977))がある。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang, S. and Choen, S. N., Molec.
Gen. Genet., 168, 111 (1979); Bibb, M. J., Ward, J. M. and Hopwood, O. A., Nature, 274, 398 (1978); Hinnen, A., Hicks, J. B. and Fink, G. R., Proc. Natl. Acad.
Sci. USA, 75, 1929 (1978))も応用できる。
一方、emrK遺伝子およびemrY遺伝子のコピー数を高めることは、上述のようなemrK遺伝子およびemrY遺伝子を細菌のゲノムDNA上に多コピー存在させることによっても達成できる。この場合においても、emrK遺伝子およびemrY遺伝子を別々の操作で染色体上に多コピ
ー存在させてもよいし、両遺伝子を含むフラグメントやベクターを用いることによって両遺伝子を単一の操作で染色体上に多コピー存在させてもよい。
細菌のゲノムDNA上にemrK遺伝子およびemrY遺伝子を多コピーで導入するには、ゲノムDNA上に多コピー存在する配列を標的に利用して相同組換えにより行う。ゲノムDNA上に多コピー存在する配列としては、レペティティブDNA、転移因子の端部に存在するインバーテッド・リピートが利用できる。また、ゲノム上に存在するemrK遺伝子およびemrY遺伝子の横にタンデムに連結させてもよいし、ゲノム上の不要な遺伝子上に重複して組み込んでもよい。これらの遺伝子導入は、温度感受性ベクターを用いて、あるいはintegrationベクターを用いて達成することが出来る。
あるいは、特開平2-109985号公報に開示されているように、emrK遺伝子およびemrY遺伝子をトランスポゾンに搭載してこれを転移させてゲノムDNA上に多コピー導入することも可能である。ゲノム上に遺伝子が転移したことの確認は、emrK遺伝子およびemrY遺伝子の一部をプローブとして、サザンハイブリダイゼーションを行うことによって確認出来る。
さらに、emrK遺伝子およびemrY遺伝子の発現の増強は、上記した遺伝子コピー数の増幅以外に、国際公開00/18935号パンフレットに記載した方法で、ゲノムDNA上またはプラスミド上のemrK遺伝子およびemrY遺伝子のプロモーター等の発現調節配列を強力なものに置換することや、各遺伝子の−35、−10領域をコンセンサス配列に近づけること、emrK遺伝子およびemrY遺伝子の発現を上昇させるようなレギュレーターを増幅すること、又は、emrK遺伝子およびemrY遺伝子の発現を低下させるようなレギュレーターを欠失または弱化させることによっても達成される。
例えば、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、araBAプロモーター、ラムダファージのPRプロモーター、PLプロモーター、tetプロモーター、T7プロモーター、φ10プロモーター等が強力なプロモーターとして知られている。また、配列番号5のE.coliのスレオニンオペロンのプロモーターを使用することもできる。また、emrK遺伝子およびemrY遺伝子のプロモーター領域、SD領域に塩基置換等を導入し、より強力なものに改変することも可能である。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、Goldsteinらの論文(Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995))等に記載されている。さらに、リボソーム結合部位(RBS)と開始コドンとの間のスペーサー、特に開始コドンのすぐ上流の配列における数個のヌクレオチドの置換がmRNAの翻訳効率に非常に影響を及ぼすことが知られており、これらを改変することも可能である。emrK遺伝子およびemrY遺伝子のプロモーター等の発現調節領域は、プロモーター検索ベクターやGENETYX等の遺伝子解析ソフトを用いて決定することも出来る。これらのプロモーター置換または改変によりemrK遺伝子およびemrY遺伝子の発現が強化される。発現調節配列の置換は、例えば温度感受性プラスミドを用いた方法や、Redドリブンインテグレーション法(WO2005/010175)を使用することが出来る。
なお、エシェリヒア・コリのemrK遺伝子およびemrY遺伝子はオペロン(emrKYオペロン)を形成し、emrK遺伝子およびemrY遺伝子は同一のプロモーターによって発現制御されている。そこで、emrK遺伝子の上流の発現調節配列を改変することによって、emrK遺伝子およびemrY遺伝子の両方の発現量を増大させることが可能である。
<2>L−リジンの製造法
本発明のL−リジンの製造法は、本発明の細菌を培地で培養して、L−リジンを該培地中に生成蓄積させ、該培地又は菌体よりL−リジンを回収することを特徴とする。
使用する培地は、細菌を用いたL−アミノ酸の発酵生産において従来より用いられてきた培地を用いることができる。すなわち、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地を用いることができる。ここで、炭素源としては、
グルコース、シュクロース、ラクトース、ガラクトース、フラクトースやでんぷんの加水分解物などの糖類、グリセロールやソルビトールなどのアルコール類、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類を用いることができる。なかでも、グルコース、フルクトース、シュクロースを炭素源として用いることが好ましい。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。有機微量栄養源としては、ビタミンB1、L−ホモセリンなどの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。これらの他に、必要に応じて、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。なお、本発明で用いる培地は、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じてその他の有機微量成分を含む培地であれば、天然培地、合成培地のいずれでもよい。
また生育や生産性を向上させるようなL−アミノ酸を添加する場合がある。例えばL−リジン発酵の場合、L−スレオニン、L−ホモセリン、L−イソロイシンを添加することが好ましい。添加濃度は0.01-10g/L程度である。
培養は好気的条件下で1〜7日間実施するのがよく、培養温度は24℃〜37℃、培養中のpHは5〜9がよい。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、更にアンモニアガス等を使用することができる。発酵液からのL−リジンの回収は通常イオン交換樹脂法、沈殿法その他の公知の方法を組み合わせることにより実施できる。なお、菌体内にL−リジンが蓄積する場合には、例えば菌体を超音波などにより破砕し、遠心分離によって菌体を除去して得られる上清からイオン交換樹脂法などによって、L−リジンを回収することができる。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
[実施例1]
<emrKYオペロン増強用プラスミドの構築>
<1−1>遺伝子増幅用プラスミドの構築
エシェリヒア・コリ(エシェリヒア・コリK-12株)のゲノムの全塩基配列(Genbank Accession No. U00096)は既に明らかにされている(Science, 277, 1453-1474 (1997))。遺伝子増幅を行うためにプラスミドpMWPthrを用いた。本プラスミドは、ベクターpMW118(ニッポンジーン社製)のHindIIIサイトとXbaIサイトの間に配列番号5に示したエシェリヒア・コリのゲノム上のスレオニンオペロン(thrLABC)のプロモーター領域を有しており。このプロモーターの下流に遺伝子をクローニングすることによって遺伝子の増幅が可能なプラスミドである。
<1−2> emrKYオペロン増強用プラスミドの構築
エシェリヒア・コリのゲノム配列のemrKYオペロンの塩基配列(Genbank Accession No.
U00096 2478660..2481361の相補配列)に基づいて、5'プライマーとしてSmaIサイトを有した配列番号6に示す合成オリゴヌクレオチド、配列番号7に示す3'側プライマーとしてSacIサイトを有した合成オリゴヌクレオチドを用いて、エシェリヒア・コリ W3110株のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、制限酵素SmaI及びSacIにて処理し、emrKYオペロンを含む遺伝子断片を得た。精製したPCR産物を、SmaI及びSacIで消化したベクターpMWPthrに連結してemrKY増幅用プラスミドpMWemrKYを構築した。
[実施例2]
<L−リジン生産菌の構築>
<2−1>リジンデカルボキシラーゼをコードするcadA、ldcC遺伝子破壊株の構築
L−リジンの分解活性を低減するためリジンデカルボキシラーゼ非産生株の構築を行った。エシェリヒア・コリのリジンデカルボキシラーゼはcadA遺伝子(Genbank Accession No. NP_418555. 配列番号8)及びldcC遺伝子(Genbank Accession No. NP_414728. 配列番号10)によってコードされている(国際公開WO96/17930号パンフレット参照)。ここで親株は、エシェリヒア・コリのL−リジン生産株として、AEC(S-(2-アミノエチル)−システイン)耐性株であるWC196株(WO96/17930号国際公開パンフレット参照)を用いた。
リジンデカルボキシラーゼをコードするcadA、ldcC遺伝子の欠失は、DatsenkoとWannerによって最初に開発された「Red-driven integration」と呼ばれる方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 97. 6640-6645 (2000))とλファージ由来の切り出しシステム(J. Bacteriol. 184. 5200-5203 (2002))によって行った。「Red-driven integration」方法によれば、目的とする遺伝子の一部を合成オリゴヌクレオチドの5'側に、抗生物質耐性遺伝子の一部を3'側にデザインした合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて得られたPCR産物を用いて、一段階で遺伝子破壊株を構築することができる。さらにλファージ由来の切り出しシステムを組み合わせることにより、遺伝子破壊株に組み込んだ抗生物質耐性遺伝子を除去することが出来る(特開2005-058227)。
<2−2>cadA遺伝子の破壊
PCRの鋳型として、プラスミドpMW118-attL-Cm-attR(特開2005-058827)を使用した。pMW118-attL-Cm-attRは、pMW118(宝バイオ社製)にλファージのアタッチメントサイトであるattL及びattR遺伝子と抗生物質耐性遺伝子であるcat遺伝子を挿入したプラスミドであり、attL-cat-attRの順で挿入されている
このattLとattRの両端に対応する配列をプライマーの3'末端に、目的遺伝子であるcadA遺伝子の一部に対応するプライマーの5'末端に有する配列番号12及び13に示す合成オリゴヌクレオチドをプライマーに用いてPCRを行った。
増幅したPCR産物をアガロースゲルで精製し、温度感受性の複製能を有するプラスミドpKD46を含むエシェリヒア・コリWC196株にエレクトロポレーションにより導入した。プラスミドpKD46(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 97. 6640-6645 (2000))は、アラビノース誘導性ParaBプロモーターに制御されるλRed相同組換えシステムのRed レコンビナーゼをコードする遺伝子(γ、β、exo遺伝子)を含むλファージの合計2154塩基のDNAフラグメント(GenBank/EMBL アクセッション番号 J02459、 第31088番目〜33241番目)を含む。プラスミドpKD46はPCR産物をWC196株の染色体に組み込むために必要である。
エレクトロポレーション用のコンピテントセルは次のようにして調製した。すなわち、100 mg/Lのアンピシリンを含んだLB培地中で30℃、一晩培養したエシェリヒア・コリWC196株を、アンピシリン(20 mg/L)とL-アラビノース(1 mM)を含んだ5 mLのSOB培地(Sambrook, J., and Russell, D.W. Molecular Cloning A Laboratory Manual/Third Edition. New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001))で100倍希釈した。得られた希釈物を30℃で通気しながらOD600が約0.6になるまで生育させた後、100倍に濃縮し、10%グリセロールで3回洗浄することによってエレクトロポレーションに使用できるようにした。エレクトロポレーションは70μLのコンピテントセルと約100 ngのPCR産物を用いて行った。エレクトロポレーション後のセルは1 mLのSOC培地(Sambrook, J., and Russell, D.W. Molecular Cloning A Laboratory Manual/Third Edition. New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001))を加えて37℃で2.5時間培養した後、37℃でCm(クロラムフェニコール)(25 mg/L)を含むL寒天培地上で平板培養し、Cm耐性組換え体を選択した。次に、pKD46プラスミドを除去するために、Cmを含むL-寒天培地上、42℃で2回継代し、得られたコロニーのアンピシリン耐性を試験し、pKD46が脱落しているアンピシリン感受性株を取得した。
クロラムフェニコール耐性遺伝子によって識別できた変異体のcadA遺伝子の欠失を、PCRによって確認した。得られたcadA欠損株をWC196ΔcadA::att-cat株と名づけた。
次に、cadA遺伝子内に導入されたatt-cat遺伝子を除去するために、ヘルパープラスミド上述のpMW-intxis-ts(特開2005-058827)を使用した。pMW-intxis-tsは、λファージのインテグラーゼ(Int)をコードする遺伝子、エクシジョナーゼ(Xis)をコードする遺伝子を搭載し、温度感受性の複製能を有するプラスミドである
上記で得られたWC196ΔcadA::att-cat株のコンピテントセルを常法に従って作製し、ヘルパープラスミドpMW-intxis-tsにて形質転換し、30℃で50 mg/Lのアンピシリンを含むL−寒天培地上にて平板培養し、アンピシリン耐性株を選択した。
次に、pMW-intxis-tsプラスミドを除去するために、L-寒天培地上、42℃で2回継代し、得られたコロニーのアンピシリン耐性、及びクロラムフェニコール耐性を試験し、att-cat、及びpMW-intxis-tsが脱落しているcadA破壊株であるクロラムフェニコール、アンピシリン感受性株を取得した。この株をWC196ΔcadAと名づけた。
<2−3>WC196ΔcadA 株のldcC遺伝子の欠失
WC196ΔcadA 株におけるldcC遺伝子の欠失は、上記手法に則って、ldcC破壊用プライマーとして、配列番号14、15のプライマーを使用して行った。これによって、cadAとldcCが破壊された株WC196ΔcadAΔldcCを得た。
[実施例3]
<エシェリヒア属細菌L-リジン生産株でのemrKY増幅の効果>
<3−1>WC196ΔcadAΔldcC株へのリジン生産用プラスミド導入
WC196ΔcadAΔldcC株をdapA、dapB及びlysC遺伝子を搭載したリジン生産用プラスミドpCAB1(国際公開第WO01/53459号パンフレット)で常法に従い形質転換し、WC196ΔcadAΔldcC/pCAB1株(WC196LC/pCAB1)を得た。
WC196LC/pCAB1株を、実施例1で作製したemrKY増幅用プラスミドpMW emrKYで形質転換し、アンピシリン耐性株を得た。所定のプラスミドが導入されていることを確認し、emrKY増幅用プラスミドpMWemrKY導入株をWC196LC/pCAB1/emrKY株と名づけた。また、対照としてpMW118で形質添加された株を作製し、WC196LC/pCAB1/pMW118と名づけた。
上記で作製した株を25 mg/Lのストレプトマイシンと50 mg/Lのアンピシリンを含むLB培地にてOD600が約0.6となるまで37℃にて培養した後、培養液と等量の40%グリセロール溶液を加えて攪拌した後、適当量ずつ分注、-80℃に保存し、グリセロールストックとした。
<3−2>リジン生産培養
これらの株のグリセロールストックを融解し、各100 μLを、50 mg/Lのアンピシリンを含むLプレートに均一に塗布し、37℃にて24時間培養した。得られたプレートのおよそ1/8量の菌体を、500 mL容坂口フラスコの、50 mg/Lのアンピシリンを含む以下に記載の発酵培地の20 mLに接種し、往復振とう培養装置で37℃において48時間培養した。培養後、培地中に蓄積したL-リジンの量をバイオテックアナライザーAS210(サクラ精機)により測定した。培養に用いた培地組成を以下に示す。
[エシェリヒア属細菌 L-リジン生産培地]
グルコース 40g/L
(NH4)2SO4 16g/L
KH2PO4 1.0g/L
MgSO4・7H2O 1.0g/L
FeSO4・7H2O 0.01g/L
MnSO4・7H2O 0.01g/L
Yeast Extract 2.0g/L
CaCO3(日本薬局方) 30g/L
KOHでpH7.0に調整し、120℃で20分オートクレーブを行なった。但し、GlucoseとMgSO4・7H2Oは混合し、別殺菌した。CaCO3は乾熱滅菌後に添加した。
48時間目のOD、L-リジン蓄積を表1に示す。
Figure 2008086289
emrKYオペロン増幅株WC196LC/pCAB1/emrKYは、対照のWC196LC/pCAB1/pMW118と比べて、L-リジンの蓄積が上昇した。
〔配列表の説明〕
配列番号1:emrK遺伝子の塩基配列
配列番号2:emrK遺伝子によってコードされるアミノ酸配列
配列番号3:emrY遺伝子の塩基配列
配列番号4:emrY遺伝子によってコードされるアミノ酸配列
配列番号5:スレオニンプロモーターの塩基配列
配列番号6:emrKYオペロン増幅用プライマーの塩基配列
配列番号7:emrKYオペロン増幅用プライマーの塩基配列
配列番号8:cadA遺伝子の塩基配列
配列番号9:cadA遺伝子によってコードされるアミノ酸配列
配列番号10:ldcC遺伝子の塩基配列
配列番号11:ldcC遺伝子によってコードされるアミノ酸配列
配列番号12:cadA遺伝子破壊用PCRプライマーの塩基配列
配列番号13:cadA遺伝子破壊用PCRプライマーの塩基配列
配列番号14:ldcC遺伝子破壊用PCRプライマーの塩基配列
配列番号15:ldcC遺伝子破壊用PCRプライマーの塩基配列
配列番号16:emrK遺伝子増幅用プライマーの塩基配列
配列番号17:emrY遺伝子増幅用プライマーの塩基配列

Claims (7)

  1. L−リジン生産能を有し、かつemrK遺伝子およびemrY遺伝子の発現量が増大するように改変された腸内細菌科に属する細菌を培地で培養して、L−リジンを該培地中に生成蓄積させ、培地よりL−リジンを採取することを特徴とする、L−リジンの製造法。
  2. 前記emrK遺伝子が、下記(a)又は(b)に記載のDNAである、請求項1に記載の方法:
    (a)配列番号1に示す塩基配列を含むDNA、
    (b)配列番号1に示す塩基配列の相補配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、EmrYタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質をコードするDNA。
  3. 前記emrY遺伝子が、下記(c)又は(d)に記載のDNAである、請求項1に記載の方法:
    (c)配列番号3に示す塩基配列を含むDNA、
    (d)配列番号3に示す塩基配列の相補配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、EmrKタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質をコードするDNA。
  4. 前記emrK遺伝子が、下記(A)又は(B)に記載のタンパク質をコードする、請求項1に記載の方法:
    (A)配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、
    (B)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、EmrYタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質。
  5. 前記emrY遺伝子が、下記(C)又は(D)に記載のタンパク質をコードする、請求項1に記載の方法:
    (C)配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、
    (D)配列番号4に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、EmrKタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質。
  6. emrK遺伝子およびemrY遺伝子の発現量が、各々の遺伝子のコピー数を高めること、又は該遺伝子の発現調節配列を改変することによって増大した、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 前記細菌が、エシェリヒア属細菌、エンテロバクター属細菌、パントエア属細菌、クレブシエラ属細菌、セラチア属細菌からなる群より選ばれる細菌である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
EP2163613A3 (de) * 2008-08-28 2013-01-02 Evonik Degussa GmbH Verfahren zur Herstellung von organisch-chemischen Verbindungen unter Verwendung von verbesserten Stämmen der Familie Enterobacteriaceae

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