JP2009240161A - L−アミノ酸の製造法 - Google Patents

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Kazuhiko Matsui
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Abstract

【課題】L−アミノ酸の発酵生産の効率を向上させるL−アミノ酸の製造方法の提供。
【解決手段】L−アミノ酸生産能を有し、かつ多剤排出トランスポーターをコードする特定の塩基配列からなる、mdtE遺伝子、およびmdtF遺伝子の発現量が増大するように改変された腸内細菌科に属する細菌を培地で培養して、L−アミノ酸を該培地中又は菌体内に生成蓄積させ、該培地又は菌体よりL−アミノ酸を採取するL−アミノ酸の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、細菌を用いたL−アミノ酸の製造法、特にL−リジン、L−スレオニン、L−トリプトファン等のL−アミノ酸の製造法に関する。L−リジン、L−スレオニン、L−トリプトファンは、動物飼料用の添加物、健康食品の成分、又はアミノ酸輸液等として、産業上有用なL−アミノ酸である。
細菌を用いた発酵法によってL−アミノ酸等の目的物質を製造するには、野生型細菌(野生株)を用いる方法、野生株から誘導された栄養要求株を用いる方法、野生株から種々の薬剤耐性変異株として誘導された代謝調節変異株を用いる方法、栄養要求株と代謝調節変異株の両方の性質を持った株を用いる方法等がある。
近年は、目的物質の発酵生産に、組換えDNA技術を用いることが行われている。例えば、L−アミノ酸生合成系酵素をコードする遺伝子の発現を増強すること(特許文献1、特許文献2)、又はL−アミノ酸生合成系への炭素源の流入を増強すること(特許文献3)によって、細菌のL−アミノ酸生産性を向上させることが行われている。
これまでにエシェリヒア・コリをはじめとして多くのバクテリアに見出されている多剤排出トランスポーターは、環境中のさまざまな構造の有害物質の侵入に対処する機能を果たしていると考えられている。エシェリヒア・コリには多数の多剤排出トランスポーター(multidrug resistance transporter)が見いだされており、多様な薬剤の排出に関わっていることや誘導型の発現制御を受けることが知られている(非特許文献1)。RND(resistance nidulation cell division)ファミリーに属するMdtEFは、それぞれmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子によってコードされる、MdtEタンパク質とMdtFタンパク質からなる。mdtE遺伝子とmdtF遺伝子はオペロン(mdtEF(旧称yhiUV)オペロンと呼ばれる)を構成しており、mdtEFオペロンは宿主細菌にドキソルビシン(doxorubicin)、ローダミン6G(rhodamine 6G)、ベンザルコニウム(benzalkonium)などの薬剤に対する耐性を付与することが知られている(非特許文献2)。しかし、これまでにmdtEFオペロンの発現を増強した細菌を用いた、L-アミノ酸の生産の報告はない。
米国特許第5168056号明細書 米国特許第5776736号明細書 米国特許第5906925号明細書 Microbiol. Mol. Biol. Rev. 2002. 66(4):671-701. Grkovic, S., Brown, M. H., and Skurray, R. A. Regulation of bacterial drug export systems. J. Bacteriol. 2001. 183(20):5803-5812. Nishino, K., and Yamaguchi, A. Analysis of a complete library of putative drug transporter genes in Escherichia coli.
本発明は、L−アミノ酸を効率よく生産することのできる腸内細菌科に属する細菌の菌株を提供すること、及び該菌株を用いてL−アミノ酸を効率よく生産する方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、多剤排出トランスポーターをコードする、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現量が増大するように細菌を改変
することにより、L−アミノ酸の生産性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)L−アミノ酸生産能を有し、かつmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現量が増大するように改変された腸内細菌科に属する細菌を培地で培養して、L−アミノ酸を該培地中に生成蓄積させ、該培地よりL−アミノ酸を採取する、L−アミノ酸の製造法。
(2)前記mdtE遺伝子が、下記(a)又は(b)に記載のDNAである、前記方法:
(a)配列番号1に示す塩基配列を含むDNA、
(b)配列番号1に示す塩基配列の相補配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、MdtFタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質をコードするDNA。
(3)前記mdtF遺伝子が、下記(c)又は(d)に記載のDNAである、前記方法:
(c)配列番号3に示す塩基配列を含むDNA、
(d)配列番号3に示す塩基配列の相補配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、MdtEタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質をコードするDNA。
(4)前記mdtE遺伝子が、下記(A)又は(B)に記載のタンパク質をコードする、前記方法:
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、
(B)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、MdtFタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質。
(5)前記mdtF遺伝子が、下記(C)又は(D)に記載のタンパク質をコードする、前記方法:
(C)配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、
(D)配列番号4に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、MdtEタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質。
(6)mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現量が、各々の遺伝子のコピー数を高めること、又は該遺伝子の発現調節配列を改変することによって増大した、前記方法。
(7)前記細菌が、エシェリヒア属細菌、エンテロバクター属細菌、パントエア属細菌、クレブシエラ属細菌、セラチア属細菌からなる群より選ばれる腸内細菌科に属する細菌である、前記方法。
(8)前記L−アミノ酸がL−リジン、L−スレオニン、L−トリプトファンからなる群より選択される、前記方法。
本発明の細菌を用いることにより、効率よく、L−アミノ酸、特にL−リジン、L−スレオニン、L−トリプトファンを発酵生産することが出来る。
以下、本発明を詳細に説明する。
<1>本発明の細菌
本発明の細菌は、L−アミノ酸生産能を有し、かつ、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現量が増大するように改変された腸内細菌科に属する細菌である。ここで、L−アミノ酸生産能とは、本発明の細菌を培地中で培養したときに、培地中または菌体内にL−アミノ酸を生成し、培地中または菌体から回収できる程度に蓄積する能力をいう。なお、本発明の細菌は複数のL−アミノ酸の生産能を有するものであってもよい。L−アミノ酸の生産
能を有する細菌としては、本来的にL−アミノ酸の生産能を有するものであってもよいが、下記のような細菌を、変異法や組換えDNA技術を利用して、L−アミノ酸の生産能を有するように改変したものであってもよい。
また、「遺伝子の発現量の増大」とは、遺伝子の転写及び/又は翻訳の量が増大することをいう。
L−アミノ酸の種類は特に制限されないが、L−リジン、L−オルニチン、L−アルギニン、L−ヒスチジン、L−シトルリンのような塩基性アミノ酸、L−イソロイシン、L−アラニン、L−バリン、L−ロイシン、L−グリシンのような脂肪族アミノ酸、L−スレオニン、L−セリンのようなヒドロキシモノアミノカルボン酸であるアミノ酸、L−プロリンのような環式アミノ酸、L−フェニルアラニン、L−チロシン、L−トリプトファンのような芳香族アミノ酸、L−システイン、L−シスチン、L−メチオニンのような含硫アミノ酸、L−グルタミン酸、L−アスパラギン酸、L−グルタミン、L−アスパラギンのような酸性アミノ酸が挙げられ、特にL−リジン、L−スレオニン、L−トリプトファンが好ましい。
<1−1> L−アミノ酸生産能の付与
以下に、細菌にL−アミノ酸生産能を付与する方法及び本発明で使用することのできるL−アミノ酸生産能が付与された細菌を例示する。ただし、L−アミノ酸生産能を有する限り、これらに制限されない。
本発明に用いる細菌としては、エシェリヒア属、エンテロバクター属、パントエア属、クレブシエラ属、セラチア属、エルビニア属、サルモネラ属、モルガネラ属など、腸内細菌科に属する細菌であって、L−アミノ酸を生産する能力を有するものであれば、特に限定されない。具体的にはNCBI(National Center for Biotechnology Information)データベースに記載されている分類により腸内細菌科に属するものが利用できる。
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/htbin-post/Taxonomy/wgetorg?mode=Tree&id=1236&lvl=3&keep=1&srchmode=1&unlock)。改変に用いる腸内細菌科細菌の親株としては、中でもエシェリヒア属細菌、エンテロバクター属細菌、パントエア属細菌を用いることが望ましい。
本発明のエシェリヒア属細菌を得るために用いるエシェリヒア属細菌の親株としては、特に限定されないが、具体的にはNeidhardtらの著書(Backmann, B. J. 1996. Derivations and Genotypes of some mutant derivatives of Escherichia coli K-12, p. 2460-2488. Table 1. In F. D. Neidhardt (ed.), Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology/Second Edition, American Society for Microbiology Press, Washington, D.C.)に挙げられるものが利用できる。その中では、例えばエシェリヒア・コリが挙げられる。エシェリヒア・コリとしては具体的には、プロトタイプの野生株K12株由来のエシェリヒア・コリ W3110 (ATCC 27325)、エシェリヒア・コリ MG1655 (ATCC 47076)等が挙げられる。
これらを入手するには、例えばアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所
P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る(http://www.atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。
エンテロバクター属細菌としては、エンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter
agglomerans)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)等、パントエア属細菌としてはパントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)が挙げられる。尚、
近年、エンテロバクター・アグロメランスは、16S rRNAの塩基配列解析などにより、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)又はパントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)、パントエア・スチューアルティ(Pantoea stewartii)に再分類されているものがある。本発明においては、腸内細菌科に分類されるものであれば、エンテロバクター属又はパントエア属のいずれに属するものであってもよい。パントエア・アナナティスを遺伝子工学的手法を用いて育種する場合には、パントエア・アナナティスAJ13355株(FERM BP-6614)、AJ13356株(FERM BP-6615)、AJ13601株(FERM BP-7207)及びそれらの誘導体を用いることができる。これらの株は、分離された当時はエンテロバクター・アグロメランスと同定され、エンテロバクター・アグロメランスとして寄託されたが、上記のとおり、16S rRNAの塩基配列解析などにより、パントエア・アナナティスに再分類されている。
以下、腸内細菌科に属する細菌にL−アミノ酸生産能を付与する方法、又はこれらの細菌にL−アミノ酸生産能を増強する方法について述べる。
L−アミノ酸生産能を付与するには、栄養要求性変異株、アナログ耐性株又は代謝制御変異株の取得や、L−アミノ酸の生合成系酵素の発現が増強された組換え株の創製等、従来、コリネ型細菌又はエシェリヒア属細菌等の育種に採用されてきた方法を適用することができる(アミノ酸発酵、(株)学会出版センター、1986年5月30日初版発行、第77-100頁参照)。ここで、L−アミノ酸生産菌の育種において、付与される栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質は、単独でもよく、2種又は3種以上であってもよい。また、発現が増強されるL−アミノ酸生合成系酵素も、単独であっても、2種又は3種以上であってもよい。さらに、栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質の付与と、生合成系酵素の増強が組み合わされてもよい。
L−アミノ酸生産能を有する栄養要求性変異株、L−アミノ酸のアナログ耐性株、又は代謝制御変異株を取得するには、親株又は野生株を通常の変異処理、すなわちX線や紫外線の照射、またはN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)もしくはエチルメタンスルフォネート(EMS)等の変異剤処理などによって処理し、得られた変異株の中から、栄養要求性、アナログ耐性、又は代謝制御変異を示し、かつL−アミノ酸生産能を有するものを選択することによって得ることができる。
以下、L−リジン生産菌又はその構築方法を例として示す。
例えば、L−リジン生産能としては、L−リジンアナログ耐性株又は代謝制御変異株が挙げられる。L−リジンアナログの例としては、オキサリジン、リジンヒドロキサメート、S−(2−アミノエチル)−L−システイン(AEC)、γ−メチルリジン、α−クロロカプロラクタムなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらのリジンアナログに対して耐性を有する変異株は、腸内細菌科に属する細菌を通常の人工変異処理に付すことによって得ることができる。L−リジン生産菌として具体的には、エシェリヒア・コリAJ11442株(FERM BP-1543、NRRL B-12185;特開昭56-18596号公報及び米国特許第4346170号明細書参照)、エシェリヒア・コリ VL611株(特開2000-189180号公報)等が挙げられる。また、エシェリヒア・コリのL−リジン生産菌として、WC196株(国際公開第96/17930号パンフレット参照)を用いることも出来る。WC196株は、エシェリヒア・コリK-12由来のW3110株にAEC耐性を付与することによって育種されたものである。同株は、エシェリヒア・コリAJ13069株と命名され、平成6年12月6日付で工業技術院生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託番号FERM P-14690として寄託され、平成7年9月29日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-5252が付与されている。
また、L−リジン生合成系の酵素活性を上昇させることによっても、L−リジン生産菌を構築することが出来る。これらの酵素活性の上昇は、酵素をコードする遺伝子のコピー数を細胞内で上昇させること、または発現調節配列を改変することによって達成できる。
L−リジン生合成系の酵素をコードする遺伝子のコピー数を細胞内で上昇させること、および発現調節配列を改変することは、後述のmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の場合と同様の方法によって達成することができる。
L−リジン生合成系酵素をコードする遺伝子としては、ジヒドロジピコリン酸合成酵素遺伝子(dapA)、アスパルトキナーゼ遺伝子(lysC)、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ遺伝子(dapB)、ジアミノピメリン酸脱炭酸酵素遺伝子(lysA)、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(ddh)(以上、国際公開第96/40934号パンフレット)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子(ppc) (特開昭60-87788号公報)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ遺伝子(aspC)(特公平6-102028号公報)、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ遺伝子(dapF)(特開2003-135066号公報)、アスパラギン酸セミアルデヒド脱水素酵素遺伝子(asd)(国際公開第00/61723号パンフレット)等のジアミノピメリン酸経路の酵素の遺伝子、あるいはホモアコニット酸ヒドラターゼ遺伝子(特開2000-157276号公報)等のアミノアジピン酸経路の酵素等の遺伝子が挙げられる。カッコ内は、その遺伝子の略記号である。
エシェリヒア・コリ由来の野生型ジヒドロジピコリン酸合成酵素はL−リジンによるフィードバック阻害を受けることが知られており、エシェリヒア・コリ由来の野生型AアスパルトキナーゼはL−リジンによる抑制及びフィードバック阻害を受けることが知られている。したがって、dapA遺伝子及びlysC遺伝子を用いる場合、これらの遺伝子は、L−リジンによるフィードバック阻害を受けない変異型遺伝子であることが好ましい。
L−リジンによるフィードバック阻害を受けない変異型ジヒドロジピコリン酸合成酵素をコードするDNAとしては、118位のヒスチジン残基がチロシン残基に置換された配列を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。また、L−リジンによるフィードバック阻害を受けない変異型アスパルトキナーゼをコードするDNAとしては、352位のスレオニン残基がイソロイシン残基に置換、323位のグリシン残基がアスパラギン残基に置換、318位のメチオニンがイソロイシンに置換された配列を有するAKIIIをコードするDNAが挙げられる(これらの変異体については米国特許第5661012号及び第6040160号明細書参照)。変異型DNAはPCRなどによる部位特異的変異法により取得することができる。
なお、変異型変異型ジヒドロジピコリン酸合成酵素をコードする変異型dapA及び変異型アスパルトキナーゼをコードする変異型lysCを含むプラスミドとして、広宿主域プラスミドRSFD80、pCAB1、pCABD2が知られている(米国特許第6040160号明細書)。同プラスミドで形質転換されたエシェリヒア・コリ JM109株(米国特許第6040160号明細書)は、AJ12396と命名され、同株は1993年10月28日に通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)に受託番号FERM P-13936として寄託され、1994年11月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、FERM BP-4859の受託番号のもとで寄託されている。RSFD80は、AJ12396株から、公知の方法によって取得することができる。
さらに、L−アミノ酸生産菌は、L−アミノ酸の生合成経路から分岐してL−リジン以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性や、L−アミノ酸の合成又は蓄積に負に機能する酵素活性が低下または欠損していてもよい。L−リジン生産において、このような酵素としては、ホモセリンデヒドロゲナーゼ、リジンデカルボキシラーゼ(cadA, ldcC)、マリックエンザイム等があり、該酵素の活性が低下または欠損した株は国際公開第WO
95/23864号、第WO96/17930号パンフレット、第WO2005/010175号パンフレットなどに記載されている。
これらの酵素活性を低下あるいは欠損させる方法としては、通常の変異処理法又は遺伝子組換え技術によって、ゲノム上の上記酵素の遺伝子に、細胞中の当該酵素の活性が低下または欠損するような変異を導入すればよい。このような変異の導入は、例えば、遺伝子組換えによって、ゲノム上の酵素をコードする遺伝子を欠損させたり、プロモーターやシャインダルガルノ(SD)配列等の発現調節配列を改変したりすることなどによって達成される。また、ゲノム上の酵素をコードする領域にアミノ酸置換(ミスセンス変異)を導入すること、また終始コドンを導入すること(ナンセンス変異)、一〜二塩基付加・欠失するフレームシフト変異を導入すること、遺伝子の一部分、あるいは全領域を欠失させることによっても達成出来る(J. Biol. Chem. 272:8611-8617(1997))。また、コード領域の全体又は一部が欠失したような変異酵素をコードする遺伝子を構築し、相同組換えなどによって、該遺伝子でゲノム上の正常遺伝子を置換すること、トランスポゾン、又はIS因子を該遺伝子に導入することによっても酵素活性を低下または欠損させることができる。
例えば、上記の酵素の活性を低下または欠損させるような変異を遺伝子組換えにより導入する為には、以下のような方法が用いられる。目的遺伝子の部分配列を改変し、正常に機能する酵素を産生しないようにした変異型遺伝子を作製し、該遺伝子を含むDNAで腸内細菌科に属する細菌に形質転換し、変異型遺伝子とゲノム上の遺伝子で組換えを起こさせることにより、ゲノム上の目的遺伝子を変異型に置換することが出来る。このような相同組換えを利用した遺伝子置換は、「Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」と呼ばれる方法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))、Redドリブンインテグレーション法とλファージ由来の切り出しシステム(Cho, E. H., Gumport, R. I., Gardner, J. F. J. Bacteriol. 184: 5200-5203 (2002))とを組合わせた方法(WO2005/010175号参照)等の直鎖状DNAを用いる方法や、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法などがある(米国特許第6303383号; 特開平05-007491号公報)。また、上述のような相同組換えを利用した遺伝0子置換による部位特異的変異導入は、宿主上で複製能力を持たないプラスミドを用いても行うことが出来る。
上記のようなL−リジン生合成に関与する酵素活性を増強する方法、酵素活性を低下させる方法は、他のL−アミノ酸生産菌の育種にも同様に適用することができる。以下、他のL−アミノ酸生産菌の育種方法について述べる。
本発明に用いられるL−トリプトファン生産菌として好ましいものは、アントラニル酸合成酵素活性、ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ活性もしくはトリプトファンシンターゼ活性のうち、1又は2以上の活性が増強された細菌である。アントラニル酸合成酵素及びホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼは、それぞれL−トリプトファン及びL−セリンによるフィードバック阻害を受けるため、脱感作型の変異酵素を保持させることにより、酵素活性を強化することができる。具体的には、例えば、アントラニル酸合成酵素遺伝子(trpE)、及び/又はホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子(serA)を、フィードバック阻害を受けないように変異させ、得られた変異型遺伝子を腸内細菌科に属する細菌に導入することによって、脱感作型酵素を保持する細菌を取得することができる。このような細菌としてより具体的には、脱感作型アントラニル酸合成酵素を保持するエシェリヒア・コリSV164に、脱感作型ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼをコードする変異型serAを持つプラスミドpGH5(国際公開第94/08031号パンフレット参照)を導入することによって得られる形質転換株が挙げられる。SV164は、trpE欠損株エシェリヒア・コリKB862(DSM7196)に、脱感作型アントラニル酸合成酵素をコードする変異遺伝子を導入することによって得られた株である(国際公開第94/08031号パンフレット参照)。
また、トリプトファンオペロンを含む組換えDNAが導入された細菌も、好適なL−トリプトファン生産菌である。具体的には、脱感作型アントラニル酸合成酵素をコードする遺伝子を含むトリプトファンオペロンが導入されたエシェリヒア・コリが挙げられる(特開昭57-71397号公報、特開昭62-244382号公報、米国特許第4,371,614明細書)。また、トリプトファンオペロンのうち、トリプトファンシンターゼをコードする遺伝子(trpBA)の発現を強化することによっても、L−トリプトファン生産能を向上又は付与することができる。トリプトファンシンターゼは、α及びβサブユニットからなり、それぞれtrpA、trpBによってコードされている。
また、トリプトファンオペロンのリプレッサーであるtrpRを欠損した株、trpRに変異が導入された株も好適なL−トリプトファン生産菌である(米国特許第4,371,614号公報、国際公開第WO2005/056776号パンフレット)。
また、マレートシンターゼ・イソシトレートリアーゼ・イソシトレートデヒドロゲナーゼキナーゼ/フォスファターゼオペロン(aceオペロン)が構成的に発現するか、又は同オペロンの発現が強化された細菌も好適なL−トリプトファン生産菌である。具体的には、aceオペロンのプロモーターがリプレッサーであるiclRによって抑制を受けないこと、又はiclRによる抑制が解除されていることが望ましく、このような細菌はiclR遺伝子を破壊すること、又はaceオペロンの発現調節配列を改変することによって、取得することができる。aceオペロンの発現が強化された細菌は、aceオペロンを含むDNAを強力なプロモーターに連結し、これをプラスミドや相同組換えによって、細菌内に導入することや、トランスポゾンによって上記DNAを多コピー存在させることによって取得できる。aceオペロンに含まれるDNAとしては、aceB、aceA、aceKが挙げられる。
さらに、L−トリプトファン生産菌としては、L−フェニルアラニン及びL−チロシン要求性の形質を有する菌株エシェリヒア・コリAGX17(pGX44)〔NRRL B-12263〕株、及びトリプトファンオペロンを含むプラスミドpGX50を保持するAGX6(pGX50)aroP〔NRRL B-12264〕株(いずれも米国特許第 4,371,614号明細書参照)が挙げられる。これらの菌株は、アグリカルチュラル・リサーチ・サービス・カルチャー・コレクション、ナショナル・センター・フォー・アグリカルチュラル・ユティライゼーション・リサーチ(Agricultural Research Service Culture Collection, National Center for Agricultural Utilization
Research)(住所:Peoria, Illinois 61604, USA ))から入手することができる。
また、L−トリプトファン生産菌又はそれを誘導するための親株の例として、3−フォスフォセリンフォスファターゼ(serB)活性を増大した株(US4,371,614)、フォスフォエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(pckA)を増大した株(WO2004/090125)、グリオキシル酸を構成化した株(WO2005/103275)も使用できる。
L−トリプトファン、L−フェニルアラニン、L−チロシンは共に芳香族アミノ酸で生合成系が共通しており、芳香族アミノ酸の生合成系酵素をコードする遺伝子としては、デオキシアラビノ−ヘプツロン酸リン酸シンターゼ(aroG)、3−デヒドロキネートシンターゼ(aroB)、シキミ酸デヒドラターゼ、シキミ酸キナーゼ(aroL)、5−エノール酸ピルビルシキミ酸3−リン酸シンターゼ(aroA)、コリスミ酸シンターゼ(aroC)が挙げられる。(欧州出願公開763127号明細書)従って、これらの酵素をコードする遺伝子をプラスミド、あるいはゲノム上で多コピー化することにより、芳香族アミノ酸の生産能を向上させることができる。また、これらの遺伝子はチロシンリプレッサー(tyrR)によって制御されることが知られており、tyrR遺伝子を欠損させることによって、芳香族アミノ酸の生合成系酵素活性を上昇してもよい。(欧州特許763127号明細書参照)また、それぞれのアミノ酸生産能を強化する場合、目的とする芳香族アミノ酸以外の生合成系を弱化させてもよい。例えば、目的アミノ酸がL-トリプトファンの場合、L-フェニルアラニン生合成系、L-
チロシン生合成系を弱化させてもよい。(US4,371,614)
また、3−デオキシ−D−アラビノヘプツロン酸−7−リン酸シンターゼ(aroF、aroG)は、芳香族アミノ酸によるフィードバック阻害を受けるので、フィードバック阻害を受けないように改変してもよい。例えば、aroFの場合、N末端より147番目のL−アスパラギン酸または181番目のL−セリンが他のアミノ酸残基に、aroGの場合、N末端より146番目のL−アスパラギン酸、147番目のL−メチオニン、150番目のL−プロリンもしくは202番目のL−アラニンの1アミノ酸残基、または157番目のL−メチオニン及び219番目のL−アラニンの2アミノ酸残基を他のアミノ酸に置換した変異型aroF、aroG遺伝子を宿主に導入することによって、芳香族生産アミノ酸生産菌を得ることができる。(EP0488424)
L−フェニルアラニン生産菌としては、tyrA,tyrRが欠損したエシェリヒア・コリAJ12739 (tyrA::Tn10, tyrR) (VKPM B-8197)や、フェニルアラニン排出遺伝子であるyddG、又はyedA遺伝子を増幅した株(各々国際公開第03/044192号パンフレット、US2003/0148473A1)が挙げられる。
本発明に用いられるL−スレオニン生産菌として好ましいものとしては、L−スレオニン生合成系酵素を強化した腸内細菌科に属する細菌が挙げられる。L−スレオニン生合成系酵素をコードする遺伝子としては、アスパルトキナーゼIII遺伝子(lysC)、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子(asd)、thrオペロンにコードされるアスパルトキナーゼI遺伝子(thrA)、ホモセリンキナーゼ遺伝子(thrB)、スレオニンシンターゼ遺伝子(thrC)が挙げられる。これらの遺伝子は2種類以上導入してもよい。L−スレオニン生合成系遺伝子は、スレオニン分解が抑制された腸内細菌科に属する細菌に導入してもよい。スレオニン分解が抑制されたエシェリヒア属細菌としては、例えば、スレオニンデヒドロゲナーゼ活性が欠損したTDH6株(特開2001-346578号)等が挙げられる。
L−スレオニン生合成系酵素は、最終産物のL−スレオニンによって酵素活性が抑制される。従って、L−スレオニン生産菌を構築するためには、L−スレオニンによるフィードバック阻害を受けないようにL−スレオニン生合成系遺伝子を改変することが望ましい。また、上記thrA、thrB、thrC遺伝子は、スレオニンオペロンを構成しているが、スレオニンオペロンは、アテニュエーター構造を形成しており、スレオニンオペロンの発現は、培養液中のイソロイシン、スレオニンにより阻害を受け、また、アテニュエーションにより発現が抑制される。この改変は、アテニュエーション領域のリーダー配列あるいは、アテニュエーターを除去することにより達成出来る(Lynn, S. P., Burton, W. S., Donohue, T. J., Gould, R. M., Gumport, R. I., and Gardner, J. F. J. Mol. Biol. 194:59-69 (1987); 国際公開第02/26993号パンフレット; 国際公開第2005/049808号パンフレット参照)。
スレオニンオペロンの上流には、固有のプロモーターが存在するが、non-nativeのプロモーターに置換してもよいし(WO98/04715号パンフレット参照)、スレオニン生合成関与遺伝子の発現がラムダファージのリプレッサーおよびプロモーターにより支配されるようなスレオニンオペロンを構築してもよい(欧州特許第0593792号明細書参照)。また、L−スレオニンによるフィ−ドバック阻害を受けないようにエシェリヒア属細菌を改変するために、α−アミノ−β−ヒドロキシ吉草酸(AHV)に耐性な菌株を選抜することによっても得られる。
このようにL−スレオニンによるフィ−ドバック阻害を受けないように改変されたスレオニンオペロンは、宿主内でコピー数が上昇しているか、あるいは強力なプロモーターに連結し、発現量が増大していることが好ましい。コピー数の上昇は、プラスミドによる増
幅の他、トランスポゾン、Mu−ファージ等でゲノム上にスレオニンオペロンを転移させることによっても達成出来る。
また、アスパルトキナ−ゼIII遺伝子(lysC)は、L−リジンによるフィ−ドバック阻害を受けないように改変した遺伝子を用いることが望ましい。このようなフィ−ドバック阻害を受けないように改変したlysC遺伝子は、米国特許5,932,453号明細書に記載の方法により取得できる。
L−スレオニン生合成系酵素以外にも、解糖系、TCA回路、呼吸鎖に関する遺伝子や遺伝子の発現を制御する遺伝子、糖の取り込み遺伝子を強化することも好適である。これらのL−スレオニン生産に効果がある遺伝子としては、トランスヒドロナーゼ遺伝子(pntAB)(欧州特許733712号明細書)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子(pepC)(国際公開95/06114号パンフレット)、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ遺伝子(pps)(欧州特許877090号明細書)、コリネ型細菌あるいはバチルス属細菌のピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子(国際公開99/18228号パンフレット、欧州出願公開1092776号明細書)が挙げられる。
また、L−スレオニンに耐性を付与する遺伝子、及び/又はL−ホモセリンに耐性を付与する遺伝子の発現を強化することや、宿主にL−スレオニン耐性、及び/又はL−ホモセリン耐性を付与することも好適である。耐性を付与する遺伝子としては、rhtA遺伝子(Res. Microbiol. 154:123−135 (2003))、rhtB遺伝子(欧州特許出願公開第0994190号明細書)、rhtC遺伝子(欧州特許出願公開第1013765号明細書)、yfiK、yeaS遺伝子(欧州特許出願公開第1016710号明細書)が挙げられる。また宿主にL−スレオニン耐性を付与する方法は、欧州特許出願公開第0994190号明細書や、国際公開第90/04636号パンフレット記載の方法を参照出来る。
L−スレオニン生産菌として、エシェリヒア・コリVKPM B-3996株(米国特許第5,175,107号明細書参照)を例示することが出来る。このVKPM B-3996株は、1987年11月19日にロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオーガニズム(Russian National Collection of Industrial Microorganisms (VKPM), GNII Genetika)(住所:Russia, 117545 Moscow, 1 Dorozhny proezd. 1)に登録番号VKPM B-3996のもとに寄託されている。また、このVKPM B-3996株は、ストレプトマイシン耐性マーカーを有する広域ベクタープラスミドpAYC32(Chistorerdov, A. Y., and Tsygankov, Y.
D. Plasmid, 16, 161-167 (1986)を参照のこと)にスレオニン生合成系遺伝子(スレオニンオペロン:thrABC)を挿入して得られたプラスミドpVIC40(国際公開第90/04636号パンフレット)を保持している。このpVIC40においては、スレオニンオペロン中のthrAがコードするアスパルトキナーゼI−ホモセリンデヒドロゲナーゼIの、L−スレオニンによるフィードバック阻害が解除されている。
また、エシェリヒア・コリVKPM B-5318株(欧州特許第0593792号明細書参照)も好適なL−スレオニン生産菌として例示することができる。VKPM B-5318株は、1987年11月19日にロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオーガニズム(Russian National Collection of Industrial Microorganisms (VKPM), GNII Genetika
)に登録番号VKPM B-5318のもとに寄託されている。またこのVKPM B-5318株は、イソロイシン非要求性菌株であり、ラムダファージの温度感受性C1リプレッサー、PRプロモーターおよびCroタンパク質のN末端部分の下流に、本来持つ転写調節領域であるアテニュエーター領域を欠失したスレオニンオペロンすなわちスレオニン生合成関与遺伝子が位置し、スレオニン生合成関与遺伝子の発現がラムダファージのリプレッサーおよびプロモーターにより支配されるように構築された組換えプラスミドDNAを保持している。
本発明に用いられるL−グルタミン酸生産菌としては、例えば、L−グルタミン酸生合成に関与する酵素をコードする遺伝子の発現が増強するように改変された腸内細菌科に属する細菌を挙げることが出来る。L−グルタミン酸生合成に関与する酵素としては、例えば、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(以下、「GDH」ともいう)、グルタミンシンテターゼ、グルタミン酸シンターゼ、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、アコニット酸ヒドラターゼ、クエン酸シンターゼ(以下、「CS」ともいう)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(以下、「PEPC」ともいう)、ピルビン酸カルボキシラーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸キナーゼ、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ、エノラーゼ、ホスホグリセルムターゼ、ホスホグリセリン酸キナーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、フルトースビスリン酸アルドラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコースリン酸イソメラーゼなどをが挙げられる。これらの酵素遺伝子の中では、CS、PEPC及びGDHのいずれか1種以上が好ましく、3種全てがより好ましい。
以上のような方法によりクエン酸シンターゼ遺伝子、フォスフォエノールピルベートカルボキシラーゼ遺伝子、及び/又はグルタミン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が増強するように改変された腸内細菌科に属する細菌としては、米国特許6,197,559号、6,331,419号明細書、欧州特許0999282号明細書に記載された細菌が例示できる。
また、さらに6−ホスホグルコン酸デヒドラターゼ活性もしくは2−ケト−3−デオキシ−6−ホスホグルコン酸アルドラーゼ活性、又はこれらの両方の活性が増強するように改変された腸内細菌科に属する細菌を用いてもよい(欧州特許出願公開1352966号明細書)。
また、L−グルタミン酸生産能を有する腸内細菌科に属する細菌としては、L−グルタミン酸の生合成経路から分岐して他の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性を低下または欠損させた細菌を用いてもよい。L−グルタミン酸の生合成経路から分岐してL−グルタミン酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素としては、2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ、イソクエン酸リアーゼ、リン酸アセチルトランスフェラーゼ、酢酸キナーゼ、アセトヒドロキシ酸シンターゼ、アセト乳酸シンターゼ、ギ酸アセチルトランスフェラーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、グルタミン酸デカルボキシラーゼ、1−ピロリンデヒドロゲナーゼなどが挙げられる。この中では特に、2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を低下又は欠損させることが好ましい。
腸内細菌科に属する細菌の2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を欠損もしくは低下させる方法は、米国特許5,573,945米国特許6,197,559号明細書、米国特許6,331,419号明細書に記載されている。2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が欠損もしくは低下した腸内細菌科に属する細菌としては、具体的には、
パントエア・アナナティス AJ13601(FERM BP-7207)
クレブシエラ・プランティコーラ AJ13410株(FERM BP-6617)
パントエア・アナナティス AJ13355(FERM BP-6614)
エシェリヒア・コリ AJ12949(FERM BP-4881)
等が挙げられる。
本発明に用いるL−ヒスチジン生産菌として好ましいものは、L−ヒスチジン生合成に関与する遺伝情報を担うDNAを組み込んだベクターを導入したエシェリヒア・コリFERM P-5038, FERM P-5048株 (特開昭56-005099)や、アミノ酸排出遺伝子Rhtを導入した菌株(欧州特許公開公報1016710)、スルファグアニジン、D,L-1,2,4-triazole-3-alanine、及びストレプトマイシン耐性が付与されたエシェリヒア・コリ80株(VKPM B-7270 ロシア特許公報2119536号)等が挙げられる。
L−ヒスチジン生産能を有する細菌としては、L−ヒスチジン生合成経路の酵素をコードする遺伝子の発現量が増大した細菌を用いてもよい。L−ヒスチジン生合成系酵素をコードする遺伝子としては、ATP フォスフォリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(hisG)、フォスフォリボシルAMP サイクロヒドロラーゼ遺伝子(hisI)、フォスフォリボシル-ATP
ピロフォスフォヒドラーゼ(phosphoribosyL−ATP pyrophosphohydrolase)遺伝子(hisIE)、フォスフォリボシルフォルミミノ−5−アミノイニダゾールカルボキシアミドリボタイドイソメラーゼ(phosphoribosylformimino-5-aminoimidazole carboxamide ribotide Isomerase)遺伝子(hisA)、アミドトランスフェラーゼ遺伝子(amidotransferase)(hisH)、ヒスチヂノールフォスフェートアミノトランスフェラーゼ遺伝子(hisC)、ヒスチヂノールフォスファターゼ遺伝子(hisB)、ヒスチヂノールデヒドロゲナーゼ遺伝子(hisD)等が挙げられる。
本発明のL−システイン生産菌として好ましいものとしては、シスタチオニン−β−リアーゼ活性が低下した細菌(特開2003-169668号公報)や、L−システインによるフィードバック阻害が低減されたセリンアセチルトランスフェラーゼを保持するエシェリヒア属細菌(特開平11-155571号公報)が挙げられる。
本発明のL−プロリン生産菌として好ましいものとしては、3,4-デヒドロキシプロリン、アザチジン−2−カルボキシレート耐性株であるエシェリヒア・コリ702株(VKPMB-8011)や、702のilvA欠損株である702ilvA株(VKPMB-8012株)が挙げられる(特開2002−300874号公報)。
L−アルギニン生産菌としては、α−メチルメチオニン、p−フルオロフェニルアラニン、D−アルギニン、アルギニンヒドロキサム酸、S−(2−アミノエチル)−システイン、α−メチルセリン、β−2−チエニルアラニン、又はスルファグアニジンに耐性を有するエシェリヒア・コリ変異株(特開昭56-106598号公報参照)等が挙げられる。また、L−アルギニンによるフィードバック阻害に耐性な変異を有し、かつ、高い活性を有するN−アセチルグルタミン酸シンターゼ及び同酵素を保持するL−アルギニン生産菌である、エシェリヒア・コリ237株(ロシア特許出願第2000117677号)も、好適なL−アルギニン生産株である。同株は、2000年4月10日にロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオーガニズム(Russian National Collection of Industrial Microorganisms (VKPM), GNII Genetika) にVKPM B-7925の番号で寄託され、2001年5月18日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された。237株の誘導体で、酢酸資化能を向上させたL−アルギニン生産菌である、エシェリヒア・コリ382株(特開2002-017342号公報)を用いることもできる。エシェリヒア・コリ382株は、2000年4月10日にRussian National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM)にVKPM B-7926の番号で寄託されている。
またL−アルギニン生産能を有する細菌として、L−アルギニン生合成に関与する酵素をコードする遺伝子の発現量を増大させた細菌を用いることが出来る。例えば、L−アルギニン生合成系酵素しては、N−アセチルグルタミン酸シンターゼ(argA)、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ(argC)、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ(argJ)、N-アセチルグルタミン酸キナーゼ(argB)、アセチルオルニチントランスアミナーゼ(argD)、アセチルオルニチンデアセチラーゼ(argE)オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(argF)、アルギニノコハク酸シンターゼ(argG)、アルギニノコハク酸リアーゼ(argH)カルバモイルリン酸シンターゼ(carAB)から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。中でもN-アセチルグルタミン酸シンターゼ(argA)は、野生型の15位〜19位に相当するアミノ酸配列が置換されたL−アルギニンによるフィードバック阻害が解除された変異型の遺伝子を用いるとより好適である(欧州出願公開1170361号明細書)
L−ロイシン生産菌としては、ilvE遺伝子にコードされる分岐鎖アミノ酸トランスアミナーゼを不活性化させ、tyrB遺伝子にコードされる芳香族アミノ酸トランスアミナーゼの活性を増強させたエシェリヒア属細菌(特開2004-024259)4-アザロイシン又は5,5,5−トリフルオロロイシンに耐性を有する、エシェリヒア・コリH-9068株(ATCC21530)、エシェリヒア・コリH-9070株(FERM BP-4704)、エシェリヒア・コリH-9072株(FERM BP-4706)(米国特許第5,744,331号明細書)、L−ロイシンによるイソプロピルリンゴ酸シンターゼのフィードバック阻害が脱感作されたエシェリヒア・コリ株(欧州特許第1067191号明細書)、β−2チエニルアラニン及びβ−ヒドロキシロイシンに耐性を有するエシェリヒア・コリAJ11478株(米国特許第5,763,231号明細書)などを用いることもできる。
L−イソロイシン生産菌としては、L−イソロイシン生産能を有する6−ジメチルアミノプリン耐性のエシェリヒア・コリ変異株(特開平5-304969号公報)、L−イソロイシンハイドロキサメート耐性のエシェリヒア・コリ変異株(特開平5-130882号公報)、チアイソロイシン耐性のエシェリヒア・コリ変異株(特開平5-130882号公報)、DL−エチオニン耐性のエシェリヒア・コリ変異株(特開平5-130882号公報)、アルギニンハイドロキサメートに耐性の変異株(特開平5-130882号公報)があり、組換え体エシェリヒア属細菌としては、L−イソロイシン生合成酵素であるスレオニンデアミナーゼあるいはアセトヒドロキシ酸シンターゼをコードする遺伝子をプラスミドで増強した菌株(特開平2-458号公報、特開平2-42988号公報、特開平8-47397号公報)等が挙げられる。
L−バリン生産菌としては、例えばエシェリヒア・コリVL1970株(米国特許第5,658,766)等が挙げられる。また、WO96/06926に記載されているような、生育のためにリポ酸を要求する変異または/及びプロトンATPaseを欠損する変異を有 するL−バリン生産菌、あるいは、少なくともilvG、ilvM、ilvE及びilvDの各遺伝子を発現し、ilvGMEDAオペロンを含むDNA断片が細胞内に導入されたエシェリヒア属細菌も、好適に使用することができる。尚、ilvGMEDAオペロンは、L−バリン及び/又はL−イソロイシン及び/又はL−ロイシンによるオペロンの発現調節(アテニュエーション)を受けるので、生成するL−バリンによる発現抑制を解除するために、アテニュエーションに必要な領域が除去又は変異されていることが好ましい(米国特許5,998,178号明細書)。また、ilvGMEDAオペロンは、スレオニンデアミナーゼ活性を発現しないことが好ましい。上記のような、アテニュエーションが解除されるileS17変異を持つエシェリヒア・コリVL1970は、ルシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオーガニズムス(VKPM)・デポジタリー GNIIgenetika(RussianNational Collection of Industrial Microorganisms(VKPM)Depositary, GNIIgenetika)(住所:1, Dorozhny Proezd., 1, 113545, Moscow, Russia)に、VKPM B-4411の登録番号で寄託されている。
また、本発明に用いるL−アミノ酸生産菌は、固有の生合成系酵素をコードする遺伝子以外に、糖の取り込み、糖代謝(解糖系)、エネルギー代謝に関与する遺伝子が増幅されていてもよい。
糖代謝に関与する遺伝子としては、解糖系酵素をコードする遺伝子や糖の取り込み遺伝子が挙げられ、グルコース6−リン酸イソメラーゼ遺伝子(pgi;国際公開第01/02542号パンフレット)、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ遺伝子(pps; 欧州出願公開877090号明細書)、ホスホグルコムターゼ遺伝子(pgm;国際公開03/04598号パンフレット)、フルクトース二リン酸アルドラーゼ遺伝子(fba;国際公開03/04664号パンフレット)、ピルビン酸キナーゼ遺伝子(pykF;国際公開03/008609号パンフレット)、トランスアルドラーゼ遺伝子(talB;国際公開03/008611号パンフレット)、フマラーゼ遺伝子(fum;国際公開01/02545号パンフレット)、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ遺伝子(pps;欧州
出願公開877090号パンフレット)、non-PTSシュクロース取り込み遺伝子遺伝子(csc;欧州出願公開149911号パンフレット)、シュクロース資化性遺伝子(scrABオペロン;国際公開第90/04636号パンフレット)が挙げられる。
エネルギー代謝に関与する遺伝子としては、トランスヒドロゲナーゼ遺伝子(pntAB;米国特許 5,830,716号明細書)、cytochromoe bo type oxidase遺伝子(cyoB 欧州特許出願公開1070376号明細書)が挙げられる。
本発明の細菌は、上述したようなL−アミノ酸生産能を有する細菌を、多剤排出トランスポーターをコードする遺伝子である、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現量が増大するように改変することによって得ることができる。先にmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現量が増大するように改変した後に、L-アミノ酸生産能を付与又は増強してもよい。なお、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現量の増大は、後述するように、プロモーター改変を始めとする発現調節領域改変などによる内因性mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現増強であってもよいし、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子を含むプラスミドの導入などによる外因性mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現増強であってもよい。さらに、これらを組み合わせてもよい。
mdtE遺伝子によってコードされるMdtEタンパク質とmdtF遺伝子によってコードされるMdtFタンパク質は協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮する。
本発明において、多剤排出トランスポーターとは、少なくとも一つの薬剤を排出する活性を有する輸送担体を意味する。薬剤の種類は特に制限されないが、ドキソルビシン(doxorubicin)、ローダミン6G(rhodamine 6G)、ベンザルコニウム(benzalkonium)が例示される。多剤排出トランスポーター活性は、mdtE遺伝子とmdtF遺伝子を宿主細菌に発現させ、該細菌の上記薬剤に対する耐性が野生株などの非改変株と比較して増大していることにより確認することができる。例えば、ドキソルビシン(doxorubicin)、ローダミン6G(rhodamine 6G)またはベンザルコニウム(benzalkonium)に対する耐性の評価は、J. Bacteriol. 183. 5803(2001)に記載されている方法によって行うことができる。
mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現量が親株、例えば野生株や非改変株と比べて増大していることの確認は、mRNAの量を野生型、あるいは非改変株と比較することによって確認出来る。発現量の確認方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション、Reverse-Transcriptase PCR(RT-PCR)が挙げられる(Sambrook, J., and Russell, D.W. Molecular Cloning A Laboratory Manual/Third Edition. New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001))。発現量の増大については、野生株あるいは非改変株と比較して、増大していればいずれでもよいが、例えば野生株、非改変株と比べて1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上増大していることが望ましい。また、発現量の増大は、目的とするタンパク質量が非改変株、野生株と比較して増大していることによって確認することができ、例えば抗体を用いてウェスタンブロットによって検出することが出来る(Sambrook, J., and Russell, D.W. Molecular Cloning A Laboratory Manual/Third Edition. New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001))。
本発明のmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子とは、エシェリヒア属細菌のmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子、及びそれらのホモログをいう。エシェリヒア・コリのmdtE遺伝子としては、配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子(配列番号1)を例示することができる(Genbank Accession No. AAC76538 [GI:1789929])。mdtF遺伝子としては、配列番号4のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子(配列番号3)を例示することができる(Genbank Accession No. AAC76539 [GI:1789930])。
mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子のホモログとは、他の微生物由来で、エシェリヒア属細菌
のmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子と構造が高い類似性を示し、宿主に導入した際にL-アミノ酸の生産能を向上させ、宿主細菌に多剤排出トランスポーター活性を付与する遺伝子をいう。例えばmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子のホモログとしては、シゲラ属等のGenbankに登録されているmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子が挙げられる。さらに、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子は、配列番号1または3の塩基配列との相同性に基づいて、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、サルモネラ・ティフィミリウム等のサルモネラ属細菌、シュードモナス属細菌等からクローニングされるものであってもよい。配列番号1のmdtE遺伝子または配列番号3のmdtF遺伝子と相同性が高ければ、異なる遺伝子名が付与されているものでもよい。例えば、mdtE遺伝子ホモログは、配列番号6と配列番号8の合成オリゴヌクレオチドを用いてクローニング出来る遺伝子も含まれる。また、mdtF遺伝子ホモログは、配列番号7と配列番号9の合成オリゴヌクレオチドを用いてクローニング出来る遺伝子も含まれる。
なお、mdtE遺伝子とmdtF遺伝子が異なる微生物に由来してもよい。
また、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子のホモログは上記の配列情報に基づき、相同性が高い遺伝子を公知のデータベースから取得できる。アミノ酸配列および塩基配列の相同性は、例えばKarlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90,
5873 (1993))やFASTA(Methods Enzymol., 183, 63 (1990))を用いて決定することができる。このアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXとよばれるプログラムが開発されている (http://www.ncbi.nlm.nih.gov参照)。
また、本発明に用いるmdtE遺伝子は、野生型遺伝子には限られず、コードされるタンパク質の機能、すなわちMdtFタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するという機能が損なわれない限り、配列番号2のアミノ酸配列において、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加等を含む配列を有するタンパク質をコードする、変異体又は人為的な改変体であってもよい。
また、本発明に用いるmdtF遺伝子も、野生型遺伝子には限られず、コードされるタンパク質の機能、すなわちMdtEタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するという機能が損なわれない限り、配列番号4のアミノ酸配列において、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加等を含む配列を有するタンパク質をコードする、変異体又は人為的な改変体であってもよい。
ここで、「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個を意味する。上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加は、上記機能が維持される保存的変異である。保存的変異とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換であり、保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位等には、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子を保持する微生物の個
体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。このような遺伝子は、例えば、部位特異的変異法によって、コードされるタンパク質の特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入または付加を含むように配列番号1、3に示す塩基配列を改変することによって取得することができる。
さらに、mdtE遺伝子は、配列番号2のアミノ酸配列全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有し、かつ、MdtFタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質をコードする配列を用いることが出来る。また、mdtF遺伝子は、配列番号4のアミノ酸配列全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有し、かつ、MdtEタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質をコードする配列を用いることが出来る。
また、それぞれmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子が導入される宿主で使用しやすいコドンに置換したものでもよい。同様にmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子にコードされるタンパク質は、上記機能を保持する限り、N末端側、C末端側が延長したものあるいは削られているものでもよい。例えば延長・削除する長さは、アミノ酸残基で50以下、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、特に好ましくは5以下である。より具体的には、配列番号2、4のアミノ酸配列のN末端側より50アミノ酸から5アミノ酸、C末端側より50アミノ酸から5アミノ酸延長・削除したものでもよい。
また、以下のような従来知られている変異処理によっても取得され得る。変異処理としてはmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子をヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、および該遺伝子を保持する微生物、例えばエシェリヒア属細菌を、紫外線またはN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)もしくはエチルメタンスルフォネート(EMS)等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理する方法が挙げられる。取得された変異遺伝子が多剤排出トランスポーター活性を有するタンパク質をコードしているか否かは、例えば、これらの遺伝子を適当な宿主細胞で発現させ、該宿主に多剤排出トランスポーター活性を付与しうるかを調べることにより、確かめることができる。
さらに、mdtE遺伝子は、配列番号1の塩基配列の相補配列又はこの相補配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつMdtFタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質をコードするDNAであってもよい。mdtF遺伝子は配列番号3の塩基配列の相補配列又はこの相補配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつMdtEタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質をコードするDNAであってもよい。
ここで、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDS、さらに好ましくは、68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度、温度で、1回、より好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。
プローブとしては、配列番号1、3の相補配列の一部の配列を用いることもできる。そのようなプローブは、配列番号1、3の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、これらの塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。例えば、プローブとして、300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場
合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件は、50℃、2×SSC、0.1%SDSが挙げられる。
mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現を増強するための改変は、例えば、遺伝子組換え技術を利用して、細胞中の遺伝子のコピー数を高めることによって行うことができる。例えば、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子を含むDNA断片を、宿主細菌で機能するベクター、好ましくはマルチコピー型のベクターと連結して組換えDNAを作製し、これを細菌に導入して形質転換すればよい。
なお、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子は別々のベクターを用いて宿主細菌に導入してもよいし、単一のベクターを用いて宿主細菌に導入してもよい。単一のベクターを用いて宿主細菌に導入する場合、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子はmdtEFオペロンとして導入することが好ましい。mdtEFオペロンは、例えば、配列番号6および7のプライマーを用いてエシェリヒア・コリの染色体DNAより増幅することができる。
mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子としてエシェリヒア・コリのmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子を用いる場合、配列番号1または3の塩基配列に基づいて作製したプライマー、例えば、配列番号6と8(mdtE遺伝子)または配列番号7と9(mdtF遺伝子)に示すプライマーを用いて、エシェリヒア・コリのゲノムDNAを鋳型とするPCR法(PCR:polymerase chain reaction; White,T.J. et al., Trends Genet. 5, 185 (1989)参照)によって取得することができる。他の腸内細菌科に属する細菌のmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子も、その細菌において公知のmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子もしくは他種の細菌のmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子又は、他の多剤排出トランスポーターの配列情報に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとするPCR法、又は、前記配列情報に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプローブとするハイブリダイゼーション法によって、微生物のゲノムDNA又はゲノムDNAライブラリーから、取得することができる。なお、ゲノムDNAは、DNA供与体である微生物から、例えば、斎藤、三浦の方法(H. Saito and K.Miura, Biochem.
Biophys. Acta, 72, 619 (1963)、生物工学実験書、日本生物工学会編、97-98頁、培風館、1992年参照)等により調製することができる。
次に、PCR法により増幅されたmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子を、宿主細菌の細胞内において機能することのできるベクターDNAに接続して組換えDNAを調製する。宿主細菌の細胞内において機能することのできるベクターとしては、宿主細菌の細胞内において自律複製可能なベクターを挙げることができる。エシェリヒア・コリ細胞内において自律複製可能なベクターとしては、pUC19、pUC18、pHSG299、pHSG399、pHSG398、pACYC184(pHSG、pACYCは宝バイオ社より入手可)、RSF1010、pBR322、pMW219(pMW219はニッポンジーン社より入手可)、pSTV29(宝バイオ社より入手可)等が挙げられる。
上記のように調製した組換えDNAを細菌に導入するには、これまでに報告されている形質転換法に従って行えばよい。例えば、エシェリヒア・コリK-12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel,M.and Higa, A., J. Mol. Biol., 53, 159 (1970))があり、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Duncan, C. H.,Wilson, G. A. and Young, F. E., Gene, 1, 153 (1977))がある。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang, S. and Choen, S. N., Molec.
Gen. Genet., 168, 111 (1979); Bibb, M. J., Ward, J. M. and Hopwood, O. A., Nature, 274, 398 (1978); Hinnen, A., Hicks, J. B. and Fink, G. R., Proc. Natl. Acad.
Sci. USA, 75, 1929 (1978))も応用できる。
一方、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子のコピー数を高めることは、上述のようなmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子を細菌のゲノムDNA上に多コピー存在させることによっても達成できる。この場合においても、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子を別々の操作で染色体上に多コピー存在させてもよいし、両遺伝子を含むフラグメントやベクターを用いることによって両遺伝子を単一の操作で染色体上に多コピー存在させてもよい。
細菌のゲノムDNA上にmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子を多コピーで導入するには、ゲノムDNA上に多コピー存在する配列を標的に利用して相同組換えにより行う。ゲノムDNA上に多コピー存在する配列としては、レペティティブDNA、転移因子の端部に存在するインバーテッド・リピートが利用できる。また、ゲノム上に存在するmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の横にタンデムに連結させてもよいし、ゲノム上の不要な遺伝子上に重複して組み込んでもよい。これらの遺伝子導入は、温度感受性ベクターを用いて、あるいはintegrationベクターを用いて達成することが出来る。
あるいは、特開平2-109985号公報に開示されているように、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子をトランスポゾンに搭載してこれを転移させてゲノムDNA上に多コピー導入することも可能である。ゲノム上に遺伝子が転移したことの確認は、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の一部をプローブとして、サザンハイブリダイゼーションを行うことによって確認出来る。
さらに、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現の増強は、上記した遺伝子コピー数の増幅以外に、国際公開00/18935号パンフレットに記載した方法で、ゲノムDNA上またはプラスミド上のmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子のプロモーター等の発現調節配列を強力なものに置換することや、各遺伝子の−35、−10領域をコンセンサス配列に近づけること、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現を上昇させるようなレギュレーターを増幅すること、又は、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現を低下させるようなレギュレーターを欠失または弱化させることによっても達成される。例えば、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、araBAプロモーター、ラムダファージのPRプロモーター、PLプロモーター、tetプロモーター、T7プロモーター、φ10プロモーター等が強力なプロモーターとして知られている。また、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子のプロモーター領域、SD領域に塩基置換等を導入し、より強力なものに改変することも可能である。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、Goldsteinらの論文(Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995))等に記載されている。さらに、リボソーム結合部位(RBS)と開始コドンとの間のスペーサー、特に開始コドンのすぐ上流の配列における数個のヌクレオチドの置換がmRNAの翻訳効率に非常に影響を及ぼすことが知られており、これらを改変することも可能である。mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子のプロモーター等の発現調節領域は、プロモーター検索ベクターやGENETYX等の遺伝子解析ソフトを用いて決定することも出来る。これらのプロモーター置換または改変によりmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現が強化される。発現調節配列の置換は、例えば温度感受性プラスミドを用いた方法や、Redドリブンインテグレーション法(WO2005/010175)を使用することが出来る。
なお、エシェリヒア・コリのmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子はオペロン(mdtEFオペロン)を形成し、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子は同一のプロモーターによって発現制御されている。そこで、mdtE遺伝子の上流のプロモーターを改変することによって、mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の両方の発現量を増大させることが可能である。
<2>L−アミノ酸の製造法
本発明のL−アミノ酸の製造法は、本発明の細菌を培地で培養して、L−アミノ酸を該培地中に生成蓄積させ、該培地又は菌体よりL−アミノ酸を回収することを特徴とする。
使用する培地は、細菌を用いたL−アミノ酸の発酵生産において従来より用いられてきた培地を用いることができる。すなわち、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じそ
の他の有機成分を含有する通常の培地を用いることができる。ここで、炭素源としては、グルコース、シュクロース、ラクトース、ガラクトース、フラクトースやでんぷんの加水分解物などの糖類、グリセロールやソルビトールなどのアルコール類、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類を用いることができる。なかでも、グルコース、フルクトース、シュクロースを炭素源として用いることが好ましい。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。有機微量栄養源としては、ビタミンB1、L−ホモセリンなどの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。これらの他に、必要に応じて、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。なお、本発明で用いる培地は、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じてその他の有機微量成分を含む培地であれば、天然培地、合成培地のいずれでもよい。
また生育や生産性を向上させるようなL−アミノ酸を添加する場合がある。例えばL−リジン発酵の場合、L−スレオニン、L−ホモセリン、L−イソロイシンを、L−スレオニン発酵の場合、L−イソロイシン、L−リジン、L−グルタミン酸、L−ホモセリンを、L−トリプトファン発酵では、L−フェニルアラニン、L−チロシン等を添加することが好ましい。添加濃度は0.01-10g/L程度である。
培養は好気的条件下で1〜7日間実施するのがよく、培養温度は24℃〜37℃、培養中のpHは5〜9がよい。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、更にアンモニアガス等を使用することができる。発酵液からのL−アミノ酸の回収は通常イオン交換樹脂法、沈殿法その他の公知の方法を組み合わせることにより実施できる。なお、菌体内にL−アミノ酸が蓄積する場合には、例えば菌体を超音波などにより破砕し、遠心分離によって菌体を除去して得られる上清からイオン交換樹脂法などによって、L−アミノ酸を回収することができる。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
[実施例1]
<mdtEFオペロン増強用プラスミドの構築>
<1−1>遺伝子増幅用プラスミドの構築
エシェリヒア・コリ(エシェリヒア・コリK-12株)のゲノムの全塩基配列(Genbank Accession No. U00096)は既に明らかにされている(Science, 277, 1453-1474 (1997))。遺伝子増幅を行うためにプラスミドpMWPthrを用いた。本プラスミドは、ベクターpMW118(ニッポンジーン社製)のHindIIIサイトとXbaIサイトの間に配列番号5に示したエシェリヒア・コリのゲノム上のスレオニンオペロン(thrLABC)のプロモーター領域を有しており。このプロモーターの下流に遺伝子をクローニングすることによって遺伝子の増幅が可能なプラスミドである。
<1−2> mdtEF増強用プラスミドの構築
エシェリヒア・コリのゲノム配列のmdtEFオペロンの塩基配列(Genbank Accession No.
U00096の3657255..3661550)に基づいて、5'プライマーとしてSmaIサイトを有した配列番号6に示す合成オリゴヌクレオチド、配列番号7に示す3'側プライマーとしてSacIサイトを有した合成オリゴヌクレオチドを用いて、エシェリヒア・コリ W3110株のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、制限酵素SmaI及びSacIにて処理し、mdtEFオペロンを含む遺伝子断片を得た。精製したPCR産物を、SmaI及びSacIで消化したベクターpMWPthrに連結してmdtEF増幅用プラスミドpMWmdtEFを構築した。
[実施例2]
<エシェリヒア属細菌L-スレオニン生産株でのmdtEF増幅の効果>
エシェリヒア・コリのL−スレオニン生産株として、エシェリヒア・コリB-5318株(欧州特許第0593792号明細書参照)を用いた。B-5318株は、1990年5月3日にロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオ−ガニズム(Russian National Collection of Industrial Microorganisms (VKPM), GNII Genetika )に登録番号VKPM B−5318のもとに寄託されている。またこのVKPM B-5318株は、イソロイシン非要求性菌株であり、ラムダファ−ジの温度感受性C1リプレッサー、PRプロモ−ターおよびCroタンパク質のN末端部分の下流に、本来持つ転写調節領域であるアテニュエーター領域を欠失したスレオニンオペロンすなわちスレオニン生合成関与遺伝子が位置し、スレオニン生合成関与遺伝子の発現がラムダファ−ジのリプレッサーおよびプロモ−ターにより支配されるように構築された組換えプラスミドDNAを保持している。
B-5318株を、実施例1で作製したmdtEF増幅用プラスミドpMWmdtEFで形質転換し、アンピシリン耐性株を得た。所定のプラスミドが導入されていることを確認し、mdtEF増幅用プラスミドpMWmdtEF導入株をB-5318/mdtEF株と名づけた。対照としてはベクターpMW118を導入した株B-5318/pMW118株を用いた。
上記で作製した株を50 mg/Lのアンピシリンを含むLB培地にてOD600が約0.6となるまで37℃にて培養した後、培養液と等量の40%グリセロール溶液を加えて攪拌した後、適当量ずつ分注、-80℃に保存し、グリセロールストックとした。
これらの株のグリセロールストックを融解し、各100μLを、50 mg/Lのアンピシリンを含むLプレートに均一に塗布し、37℃にて24時間培養した。得られたプレートのおよそ1/8量の菌体を、500 mL容坂口フラスコの、50 mg/Lのアンピシリンを含む以下に記載の発酵培地の20 mLに接種し、往復振とう培養装置で40℃において18時間培養した。培養後、培地中に蓄積したL-スレオニンの量をアミノ酸アナライザーL-8500(Hitachi社製)を用いて測定した。培養に用いた培地組成を以下に示す。
[エシェリヒア属細菌 L-スレオニン生産培地]
グルコース 40g/L
(NH4)2SO4 16g/L
KH2PO4 1.0g/L
MgSO4・7H2O 1.0g/L
FeSO4・7H2O 0.01g/L
MnSO4・7H2O 0.01g/L
Yeast Extract 2.0g/L
CaCO3(日本薬局方) 30g/L
KOHでpH7.0に調整し、120℃で20分オートクレーブを行なった。但し、GlucoseとMgSO4・7H2Oは混合し、別殺菌した。CaCO3は乾熱滅菌後に添加した。
18時間目のOD、L-スレオニン蓄積を表1に示す。
Figure 2009240161
mdtEFオペロン増幅株B-5318/mdtEFは、対照のB-5318と比べて、大幅にL-スレオニンの蓄積が上昇した。
〔配列表の説明〕
配列番号1:mdtE遺伝子の塩基配列
配列番号2:mdtE遺伝子によってコードされるアミノ酸配列
配列番号3:mdtF遺伝子の塩基配列
配列番号4:mdtF遺伝子によってコードされるアミノ酸配列
配列番号5:スレオニンオペロンプロモーターの塩基配列
配列番号6:mdtEFオペロン増幅用プライマー
配列番号7:mdtEFオペロン増幅用プライマー
配列番号8:mdtE遺伝子増幅用プライマー
配列番号9:mdtF遺伝子増幅用プライマー

Claims (8)

  1. L−アミノ酸生産能を有し、かつmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現量が増大するように改変された腸内細菌科に属する細菌を培地で培養して、L−アミノ酸を該培地中に生成蓄積させ、該培地よりL−アミノ酸を採取する、L−アミノ酸の製造法。
  2. 前記mdtE遺伝子が、下記(a)又は(b)に記載のDNAである、請求項1に記載の方法:
    (a)配列番号1に示す塩基配列を含むDNA、
    (b)配列番号1に示す塩基配列の相補配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、MdtFタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質をコードするDNA。
  3. 前記mdtF遺伝子が、下記(c)又は(d)に記載のDNAである、請求項1に記載の方法:
    (c)配列番号3に示す塩基配列を含むDNA、
    (d)配列番号3に示す塩基配列の相補配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、MdtEタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質をコードするDNA。
  4. 前記mdtE遺伝子が、下記(A)又は(B)に記載のタンパク質をコードする、請求項1に記載の方法:
    (A)配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、
    (B)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、MdtFタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質。
  5. 前記mdtF遺伝子が、下記(C)又は(D)に記載のタンパク質をコードする、請求項1に記載の方法:
    (C)配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、
    (D)配列番号4に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、MdtEタンパク質と協同して多剤排出トランスポーター活性を発揮するタンパク質。
  6. mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現量が、各々の遺伝子のコピー数を高めること、又は該遺伝子の発現調節配列を改変することによって増大した、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 前記細菌が、エシェリヒア属細菌、エンテロバクター属細菌、パントエア属細菌、クレブシエラ属細菌、セラチア属細菌からなる群より選ばれる腸内細菌科に属する細菌である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 前記L−アミノ酸がL−リジン、L−スレオニン、L−トリプトファンからなる群より選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
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