JP4378821B2 - ゲルからのサンプル分取方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は蛋白質やDNAなどの生体高分子をスラブ状ゲルを用いて電気泳動法で分離した後、そのゲルから目的とする生体高分子を分取する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
生体高分子を電気泳動分離したスラブ状ゲルから所望の泳動パターンに存在する生体高分子を分取する方法として、ナイフを用いて手作業でゲルを切り取る方法や、中空の金属筒をゲルに押し当ててゲルをくり抜く装置が提案されている。切り取られたり、くり抜かれたゲル断片はその後脱水され、蛋白質分解酵素などによる化学処理と抽出により生体高分子を回収する作業が手作業や各種ロボットにより行われる。抽出された生体高分子は、その後、分析手段に供される。
通常の操作では、1つのゲルから複数個所の泳動パターンのゲル断片を分取する。従来の方法は、ナイフを用いる場合も中空金属筒を用いる場合も、1つのナイフや金属筒を共通に用いて複数個所のゲル断片を順次切り取ったり、くり抜いたりしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ゲルからのサンプル分取作業を自動化しようとした場合、従来の方法では下記の問題が生じる。
(1)切り取られたりくり抜かれたゲル断片はつぎの作業工程に移るために、ナイフや中空金属筒から次の作業工程用の容器へ移す必要がある。しかし、切り取られたりくり抜かれたりしたゲル断片は、その大きさが2mm程度で、厚みが1mm程度であるため、ナイフや中空金属筒に付着し、次の作業工程用の容器への移し替えが容易ではない場合が多い。
【0004】
(2)ナイフや中空金属筒に付着したゲル断片を次の作業工程用の反応容器へ移すために機構を別途採用すると、今度はこの移し替えのための機構にゲル断片が付着するという新たな問題が生じる。
そこで、本発明はゲルからくり抜いたゲル断片を次の作業工程用の反応容器に移し替える作業を簡略化又は不要にすることにより、ゲルから目的とする生体高分子を分取する際の作業性を高めることを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明のサンプル分取方法の1つの態様では、以下の工程(A)及び(B)を備えてゲルから目的とする生体高分子を分取する。
(A)電気泳動により生体高分子試料の分離が完了したスラブ状ゲルの切り取るべき泳動パターンの部分に、先端に開口をもつ中空の使い捨て式チップをその先端側から押し当ててゲルのその部分をくり抜く工程。
(B)くり抜かれたゲル断片がチップに保持された状態で、そのゲル断片をチップとともに反応容器に入れ、その反応容器内で化学処理液によりゲル断片から目的とする生体高分子を回収する工程。
【0006】
くり抜いたゲル断片をチップとともに次の作業工程用の反応容器内へ入れて生体高分子を回収するので、くり抜いたゲル断片だけを次の作業工程用の反応容器へ移し替える工程が不要となり、作業性が向上する。
チップをゲルに押し当ててゲルのその部分をくり抜いて得られるゲル断片は、サイズが1mm〜数mmで、厚さが1mm程度の小さいものであり、しかも粘着性をもっているため、うまくチップ内に入らないで、チップの外側に付着することもあり得る。しかし、チップを使い捨て式とし、ゲル断片をチップとともに次の作業工程用の反応容器に入れ、その反応容器内で生体高分子を回収するようにするので、くり抜かれたゲル断片がチップ内にあっても外部に付着していてもよく、チップに付着してさえいれば、ゲル断片から生体高分子を回収することができる。
【0007】
この方法で、作業能率をさらに高めるためには、ゲルから泳動パターン部分のゲル断片をくり抜く工程(A)を、くり抜くべき泳動パターンごとにチップを異ならせて順次行なって各チップをそれぞれ異なる反応容器に入れ、工程(B)でゲル断片から目的とする生体高分子を回収する操作を複数のチップで同時に行なうようにすればよい。この例として、例えば96穴サンプルプレートのように多数のウエルを備えたサンプルプレートを用い、各ウエルを反応容器として、ゲル断片をくり抜いて保持した各チップをウエルに1つずつ入れていき、サンプルプレートごとの複数のゲル断片を同時に化学処理する方法を挙げることができる。
【0008】
ゲル断片くり抜き以降の各種処理を自動化しようとすると、各種化学処理のための自動送液機構や自動排水機構など複雑な自動装置が必要になる。また、各種自動装置を相互に連結するためのロボットも必要となり、システム全体が大規模なものになりやすい。
そこで、本発明のサンプル分取方法の他の態様では、電気泳動により生体高分子試料の分離が完了したスラブ状ゲルの切り取るべき泳動パターンの部分に、先端に開口をもつ中空の使い捨て式チップをその先端側から押し当ててゲルのその部分をくり抜く点は上の態様と同じであるが、その後、くり抜いたゲル断片を内部に保持したチップを反応容器として、そのチップ内に化学処理液を吸入し、そのチップ内で化学処理液によりゲル断片から目的とする生体高分子を回収するようにする。この方法は、チップの先端部をゲルに押し当ててくり抜いたゲル断片がチップ内に保持されていることを前提としており、そのチップを反応容器としてそのチップ内で生体高分子を回収するので、チップを反応容器に移し替える操作が不要になり、そのための複雑な自動化のための装置やロボットが不要になる。
【0009】
このサンプル分取方法の発明で使用するチップは、電気泳動により生体高分子試料の分離が完了したスラブ状ゲルの所望の部分をくり抜くための中空のチップであって、このチップは使い捨て式であり、先端に開口をもち、基端部よりも先端部の方が内径が小さくなっており、その先端の開口の内径が1mm〜10mmとなっているチップである。生化学自動分析装置で検体や試薬を分注するために使い捨て式のチップが使用されているが、そのような分注用のチップの先端開口の内径は、液漏れを防ぐために1mmよりもはるかに小さく寸法に設定されている。本発明で使用するチップのような大きな内径の先端開口をもつチップは他の用途では使用されていない。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明のチップは、くり抜いて保持したゲル断片がさらに基端部側に移動するのを阻止するために、チップ内部にゲル断片の移動を阻止するフィルタが設けられていることが好ましい。これにより、くり抜いたゲル断片を吸引してチップ内に保持する際の吸引力の制御が容易になる。
チップの材質は、くり抜いたゲル断片から生体高分子を抽出するための化学処理液に対する耐薬品性のあるポリプロピレンなどの合成樹脂が好ましいが、他の材質であっても耐薬品性のあるものであればよい。
【0011】
【実施例】
図1は本発明で使用するチップの一例を、このチップを装着するノズルとともに示したものである。チップ2は電気泳動により生体高分子試料の分離が完了したスラブ状ゲルの所望の部分をくり抜くためのものであり、使い捨て式である。チップ2は中空で、先端に開口4をもち、基端部よりも先端部の方が内径が小さくなった円錐形をしている。その先端の開口4の内径は1mm〜10mmである
【0012】
10はチップ2の保持部であり、保持部10の先端にチップ2を装着した状態でチップ2の先端開口4によりゲルの所望の部分をくり抜くためのものである。保持部10の先端がチップ2の基端部の内側に入ることにより、保持部10の先端とチップ2の基端部内との間に気密を保った状態でチップ2を保持する。保持部10はXYZ方向(水平面内と垂直方向)に移動するように駆動され、指定された位置のゲル部分でチップ2を下方に移動させてゲルに押しつけることにより、その部分のゲルをくり抜くことができる。
【0013】
保持部10はノズルになっており、減圧機構と加圧機構に接続されている。チップ2をゲルに押し当ててゲルをくり抜いた後、減圧機構により、保持部10を介してチップ2内を減圧状態にすることにより、くり抜いたゲル断片をチップ2内に移動させることができる。フィルタ6は、チップ2内を減圧にしてゲル断片をチップ2内に移動させたときに、ゲル断片が更に基端部側に移動しないようにするためのものである。
【0014】
図2はこのチップを用いてゲルの所望の部分をくり抜いて分取する方法の一実施例を示したものである。
(A)20はスラブ状ゲルであり、電気泳動により蛋白質やDNAなどの生体高分子試料の分離が完了した状態を表わしている。電気泳動を行なうときは、ゲル20は2枚の支持板により前後から挾まれて支持されている。図2(A)は、ゲル20の所望の部分をくり抜くために、その2枚の支持板のうちの一方の支持板を剥がし、残った支持板を下にしておいた状態を示している。22は電気泳動により分離された生体高分子の泳動パターンを示しており、いま、22aで示された泳動パターン部分のゲルをくり抜いて分取するものとする。
【0015】
(B)保持部10の先端にノズル2の基端部を嵌めることによりノズル2を保持部10の先端に装着する。そして、保持部10を駆動する機構によりチップ2の先端開口を泳動パターン22aの部分のゲル20に押し当ててその部分のゲルをくり抜く。
その後、減圧機構により保持部10内を減圧状態とすることにより、チップ2内も減圧とし、くり抜いたゲル断片22a(これも符号22aで表わす)をチップ2内に移動させる。
【0016】
(C)くり抜いたゲル断片22aをチップ2に保持した状態で次の工程の化学処理液の位置まで移動させる。
(D)チップ2の先端を化学処理液24に浸し、保持部10を減圧とすることにより化学処理液24をチップ2内に吸引し、くり抜いたゲル断片22aをその化学処理液に浸す。
【0017】
(E)チップ2を化学処理液24から引き上げ、チップ2内に化学処理液24が入った状態を保持してチップ2内で化学処理を行なわせ、ゲル断片22a中の生体高分子を化学処理液24に抽出させる。
(F)化学処理を完了し、抽出した生体高分子を含む化学処理液24をチップ2の先端開口から容器26へ排出し、その化学処理液24を次の工程の分析に供する。化学処理液24は必ずしも1種類とは限らず、例えば蛋白質分解酵素溶液と分解されてできたペプチドを抽出する溶液の2種類の溶液を順次入れ替えて使用するようにしてもよい。
その後、使用ずみのチップ2を保持部10から外して廃棄し、新たなチップ2を保持部10に装着して次の泳動パターン部分のゲルくり抜きを、同じ工程を繰り返すことにより行う。
【0018】
泳動パターンの生体高分子の種類によっては化学処理液24の種類を異ならせてもよい。
図2の工程(C)から工程(D)の間で、化学処理液24をチップ2内に吸引する前に、くり抜いてチップ2内に保持したゲル断片22aを減圧などにより乾燥させ、化学処理液24とゲル断片22a内の生体高分子との接触を良好にすることが好ましい。
【0019】
他の実施例として、図2(A)から(C)により、ゲルの所望の泳動パターン部分のゲル断片22aをチップ2内に取り込んだ後、チップ2を反応容器へ移送して、保持部10から外してその反応容器に入れる。このようにゲル断片をくり抜いてチップ2とともに反応容器に入れるまでの一連の工程を、分取しようとする泳動パターンについて繰り返し行ない、ゲル断片をくり抜いたチップ2はそれぞれ異なる反応容器に入れていく。その後、複数の反応容器について同時に化学処理液による生体高分子の化学処理と抽出を行なう。この方法では、反応容器として、例えば96穴などのサンプルプレートのウエルを利用することができる。
【0020】
実施例のチップ2は円錐状であるが、チップ2の先端開口の形状は円に限らず、正方形や長方形など種々の形状とすることができる。
また、先端開口の形状の異なるチップを複数用意しておくことにより、いろいろな形状の泳動パターンに対応できるようになる。
泳動パターンの大きさは一定していないので、泳動パターンを光学的検出装置を用いて認識し、チップの先端開口の形状や大きさがその認識した泳動パターンの形状に合うように最適な形状、最適な大きさをもつチップを自動的に選択して保持部10に装着できるようにしてもよい。
【0021】
分取しようとする生体高分子が蛋白質の場合、くり抜いたゲル断片から生体高分子を回収する方法として、例えば次の方法を挙げることができる(Electrophoresis 16, 308-316 (1995)参照)。くり抜いたゲル断片を乾燥させた後、化学処理液に浸す。化学処理液としては、緩衝液(25mM炭酸水素アンモニウム、pH7.8、1%オクチルβ−グルコシド、ミリポア、10%メタノール)にトリプシンを20μg/mLの濃度となるように溶解させたものである。その化学反応液に浸す時間は、室温で5〜6時間、その後27〜28℃で1晩である。その後、ゲル断片を取り出し、蟻酸とエタノールの1:1の溶液に22〜28℃で2時間浸すことにより、トリプシンにより分解されて生じたペプチドがその溶液に抽出される。ゲル断片を取り除いた後、溶液を凍結乾燥させる。得られたペプチドを10%メタノール溶液で再び懸濁させてMALDI−MS(matrix assisted laser desorption-mass spectrometry)による分析に供する。このようにして得られたマススペクトルをデータベースと比較することにより、ゲルをくり抜いて分取した蛋白質を同定することができる。
分取した生体高分子を分析可能な試料とするための化学処理は上に紹介した一例の方法に限られるものでなく、他の種々の方法を適用することができる。
【0022】
【発明の効果】
本発明によれば、従来ではくり抜いたゲル断片を次の工程の反応容器に移し替える操作が容易ではなかったが、本発明では使い捨てのチップとともに移送することにより、その操作が容易になる。
また、チップ内で反応を行わせるようにすれば、その後の化学処理も容易に、かつ廉価に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で使用するチップの一例を、このチップを装着するノズルとともに示した断面図である。
【図2】同チップを用いてゲルの所望の部分をくり抜いて分取する方法の一実施例を工程順に示したものである。
【符号の説明】
2 チップ
4 先端開口
6 フィルタ
10 保持部
20 ゲル
22,22 泳動パターン
24 化学処理液

Claims (3)

  1. 以下の工程(A)及び(B)を備えてゲルから目的とする生体高分子を分取するサンプル分取方法。
    (A)電気泳動により生体高分子試料の分離が完了したスラブ状ゲルの切り取るべき泳動パターンの部分に、先端に開口をもつ中空の使い捨て式チップをその先端側から押し当ててゲルのその部分をくり抜く工程。
    (B)くり抜かれたゲル断片がチップに保持された状態で、そのゲル断片をチップとともに反応容器に入れ、その反応容器内で化学処理液によりゲル断片から目的とする生体高分子を回収する工程。
  2. ゲルから泳動パターン部分のゲル断片をくり抜く工程(A)を、くり抜くべき泳動パターンごとにチップを異ならせて順次行なって各チップをそれぞれ異なる反応容器に入れ、工程(B)でゲル断片から目的とする生体高分子を回収する操作を複数のチップで同時に行なう請求項1に記載のサンプル分取方法。
  3. 以下の工程(A)及び(B)を備えてゲルから目的とする生体高分子を分取するサンプル分取方法。
    (A)電気泳動により生体高分子試料の分離が完了したスラブ状ゲルの切り取るべき泳動パターンの部分に、先端に開口をもつ中空の使い捨て式チップをその先端側から押し当ててゲルのその部分をくり抜く工程。
    (B)ゲルをくり抜き、そのくり抜いたゲル断片を内部に保持したチップを反応容器として、そのチップ内に化学処理液を吸入し、そのチップ内で化学処理液によりゲル断片から目的とする生体高分子を回収する工程。
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