以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明による内燃機関の第1実施形態を示す概略構成図である。同図に示される内燃機関1は、例えば車両の走行用駆動源として用いられると好適なものである。内燃機関1は、シリンダブロック2に形成された燃焼室3の内部で燃料成分を含む混合気を燃焼させ、燃焼室3内でピストン4を往復移動させることにより動力を発生する。なお、図1には、1気筒のみが示されるが、本実施形態の内燃機関1は、多気筒エンジンとして構成される。
各燃焼室3の吸気ポートは、吸気マニホールド5を構成する吸気管5aにそれぞれ接続され、各燃焼室3の排気ポートは、排気マニホールド6を構成する排気管6aにそれぞれ接続されている。また、内燃機関1のシリンダヘッドには、吸気ポートを開閉する吸気弁Viと、排気ポートを開閉する排気弁Veとが燃焼室3ごとに配設されている。各吸気弁Viおよび各排気弁Veは、例えば、可変バルブタイミング機能等を有する動弁機構7によって開閉させられる。更に、内燃機関1のシリンダヘッドには、点火プラグ8が燃焼室3ごとに配設されている。また、排気マニホールド6には、各燃焼室3からの排気ガスの空燃比を検出する排気空燃比センサ(O2センサ)SAFが設置されている。そして、排気マニホールド6は、それぞれ排気浄化触媒を含む排気浄化装置としての前段触媒装置9aおよび後段触媒装置9bに接続されている。
図1に示されるように、吸気マニホールド5を構成する各吸気管5aは、サージタンク10に接続されており、サージタンク10には、給気管L1が接続されている。これらの吸気マニホールド5(各吸気管5a)、サージタンク10および給気管L1は、内燃機関1の吸気路を構成する。給気管L1は、エアクリーナ11を介して図示されない空気取入口に接続されており、給気管L1の中途(サージタンク10とエアクリーナ11との間)には、スロットルバルブ(本実施形態では、電子制御式スロットルバルブ)12が組み込まれている。また、サージタンク10には、圧力センサSPが設けられており、圧力センサSPは、サージタンク10の内部圧力を検出する。
更に、給気管L1には、エアクリーナ11とスロットルバルブ12との間に位置するように第1エアフローメータAFM1が設置されている。そして、給気管L1からは、スロットルバルブ12と第1エアフローメータAFM1との間(スロットルバルブ12の上流側)に定められた分岐部BPにおいてバイパス管(改質空気供給路)L2が分岐されている。バイパス管L2は、中途に、エアポンプAP、第2エアフローメータAFM2、流量調整弁14および開閉弁15を分岐部BP側からこの順番で含み、その先端(分岐部BP側の端部と反対側の端部)は、改質装置20に接続されている。なお、エアポンプAP、第2エアフローメータAFM2、流量調整弁14および開閉弁15の配置順序は、この順序に限られるものではなく、エアポンプAPが流量調整弁14および開閉弁15の上流側に配置されていれば、それ以外の順序は任意に定めることができる。
改質装置20は、両端が閉鎖された概ね筒状の本体21を有し、本体21の内部には、上述のバイパス管L2が接続される空燃混合部22と、空燃混合部22に隣接する改質反応部23とが画成されている。空燃混合部22には、バイパス管L2に加えて、改質用燃料噴射弁16が接続されている。改質用燃料噴射弁16は、燃料ポンプ17を介して燃料タンク18に接続されており、ガソリン等の炭化水素系燃料(液体燃料)を空燃混合部22内に噴射可能なものである。また、改質反応部23には、例えばジルコニアにロジウムを担持させた改質触媒が配置されると共に、改質触媒を予熱するためのプレヒータ24が配置されている。
更に、本体21の内部には、改質反応部23の下流側に改質燃料分配室25が画成されている。改質燃料分配室25には、改質燃料供給管26の基端が接続されており、改質燃料供給管26の先端側は、各燃焼室3に向けて分岐されている。改質燃料供給管26の各先端部には、改質燃料供給ノズル27が装着されており、各改質燃料供給ノズル27は、対応する燃焼室3の吸気ポート近傍に配置されている。また、内燃機関1は、改質燃料供給管26内の改質燃料を冷却するための熱交換器28を有している。熱交換器28の冷却媒体としては、例えばエンジン冷却水が用いられる。更に、改質装置20の改質燃料分配室25には、温度センサSTrが備えられている。本実施形態において、温度センサSTrは、改質反応部23の下流側に位置するように本体21に取り付けられており、改質反応部23から流出する改質燃料の温度を検出する。なお、各改質燃料供給ノズル27と改質燃料分配室25とを個別に連絡するように、複数の改質燃料供給管26が燃焼室3ごとに設けられてもよい。
加えて、内燃機関1は、各吸気管5a(各吸気ポート)に装備された通常燃料噴射弁160を有しており、改質装置20を作動させた状態、または、改質装置20に対する空気および燃料の供給を停止させた状態で、各通常燃料噴射弁160から上記燃料ポンプ17により圧送されるガソリン等の炭化水素燃料(通常燃料)を各吸気管5a(吸気ポート)内に噴射させて動力を得ることが可能である。なお、通常燃料噴射弁160は、対応する燃焼室3内に通常燃料を直接噴射するものであってもよい。
図2は、上述の内燃機関1の制御ブロック図である。同図に示されるように、内燃機関1は、制御手段として機能する電子制御ユニット(以下「ECU」という)30を有している。ECU30は、CPU、ROM、RAM、入出力ポート、および、各種情報やマップ等が記憶されるメモリを含む。そして、このECU30入出力ポートには、上述の動弁機構7、点火プラグ(イグナイタ)8、スロットルバルブ12、流量調整弁14、開閉弁15、改質用燃料噴射弁16、通常燃料噴射弁160、プレヒータ24、エアポンプAP、更には、スタータ19等が適宜制御回路等を介して接続されている。
また、ECU30の入出力ポートには、各種センサ類、すなわち、上述のエアフローメータAFM1およびAFM2、温度センサSTr、圧力センサSP、排気空燃比センサSAF等が接続されている。第1エアフローメータAFM1は、空気取入口から給気管L1に取り入れられた空気の総流量(全燃焼室3に供給される空気の総量)を検出し、検出値を示す信号をECU30に与える。また、第2エアフローメータAFM2は、バイパス管L2を流通する空気の流量を検出し、検出値を示す信号をECU30に与える。温度センサSTr、圧力センサSPおよび排気空燃比センサSAFも、それぞれ検出値を示す信号をECU30に与える。
更に、ECU30の入出力ポートには、イグニッションスイッチ31、アクセル位置センサ32、クランク角センサ33および水温センサSWが接続されている。アクセル位置センサ32は、図示されないアクセルペダルの踏込量を示す信号をECU30に与え、クランク角センサ33は、内燃機関1のクランク角を示す信号をECU30に与え、水温センサSWは、内燃機関1の冷却系統を流通する冷却水の温度を示す信号をECU30に与える。
また、内燃機関1のクランクシャフト(図示省略)には、ダンパ等を介して自動変速機(AT)または無段変速機(CVT)等の図示されない変速機が接続されており、ECU30には、当該変速機のシフト位置を検出するためのシフトポジションセンサSSPが接続されている。シフトポジションセンサSSPは、変速機のシフト位置を示す信号をECU30に与える。そして、ECU30は、エアフローメータAFM1,AFM2、アクセル位置センサ32、クランク角センサ33、シフトポジションセンサSSP等からの信号等に基づいて、スロットルバルブ12や流量調整弁14の開度、改質用燃料噴射弁16や通常燃料噴射弁160による燃料噴射量、点火プラグ8による点火タイミング、吸気弁Viおよび排気弁Veの開閉タイミング等を制御する。
さて、例えば機関始動時や低負荷時等、所定条件の下で上述の内燃機関1を作動させる場合、改質装置20の空燃混合部22に対して、ECU30によって制御されるエアポンプAPや流量調整弁14等を含むバイパス管L2を介して空気が導入されると共に、ECU30によって制御される改質用燃料噴射弁16からガソリン等の燃料が噴射される。ガソリン等の燃料は、空燃混合部22にて気化すると共にバイパス管L2からの空気と混ざり合い、改質反応部23へと流れ込む。改質反応部23では、改質触媒により炭化水素系燃料と空気とが反応させられ、次の(1)式にて表わされる部分酸化反応が進行する。
CmHn+(m/2)O2 → mCO+(n/2)H2 …(1)
そして、上記(1)式の反応が進行することにより、燃料成分であるCOおよびH2を含む改質ガス(改質燃料)が生成され、得られた改質ガスは、改質装置20から改質燃料供給管26および改質燃料供給ノズル27を介して各燃焼室3の吸気ポートに供給される。また、各燃焼室3の吸気ポートには、ECU30によって開度調整される給気管L1のスロットルバルブ12を介して空気が導入される。従って、改質装置20から各吸気ポートに導入された改質ガスは、更に空気と混ざり合った後、各燃焼室3内に吸入される。そして、所定のタイミングで各点火プラグ8が点火されると、各燃焼室3内で燃料成分であるCOおよびH2が燃焼してピストン4を往復移動させ、これにより、内燃機関1から所望の動力を得ることができる。
その一方で、例えば高負荷時等には、上述のように改質装置20からの改質ガスを用いて内燃機関1を運転することは実質的に困難である。従って、内燃機関1の作動中には、要求に応じて、各燃焼室3内で燃焼させる燃料を、改質装置20にて生成される改質ガスと、燃料タンク18に貯留されている通常燃料(ガソリン等の炭化水素系燃料)との間で切り換えることが必要となる。
ただし、内燃機関1の運転状態によっては前段触媒装置9aおよび後段触媒装置9bにて良好に排気浄化を実行可能になっておらず、各燃焼室3内で燃焼させる燃料を改質ガスから通常燃料へとの間でごく単純に切り換えたのでは、前段触媒装置9aおよび後段触媒装置9bにて排気ガスが良好な浄化されず、排気エミッションを悪化させてしまうおそれがある。また、燃料の切換がスムースに実行されないと、各燃焼室3における混合気の空燃比が目標値から外れてしまい、排気エミッションの悪化に加えてトルク変動(トルクショック)を招いてしまうおそれもある。
このため、本実施形態の内燃機関1では、その作動中に予め定められた条件が成立して例えば各燃焼室3内で燃焼させる燃料を改質ガスから通常燃料へと切り換えるべきであると判断された場合(例えば、高負荷時)、制御手段としてのECU30によって図3に示される燃料切換許容判定ルーチンが実行される。この場合、ECU30は、まず、排気空燃比センサSAFのセンサ素子のインピーダンスを計測する手段(図示省略)からの信号に基づいて当該センサ素子の温度を推定することにより、排気空燃比センサSAFの活性度合を取得する(S10)。排気空燃比センサSAFの活性度合を取得すると、ECU30は、取得した活性度合と所定の閾値とを比較することにより、排気空燃比センサSAFが充分に活性化されているか否か判定する(S12)。
ECU30は、排気空燃比センサSAFが充分に活性化されていると判断するまで、S10およびS12の処理を繰り返す。S12にて排気空燃比センサSAFが充分に活性化されていると判断すると、ECU30は、シフトポジションセンサSSPからの信号に基づいて変速機のシフト位置を取得し(S14)、シフト位置がニュートラルレンジ(パーキングレンジを含む)からドライブレンジへと変更されつつあるか、あるいは、シフト位置がドライブレンジにあるか否か判定する(S16)。そして、ECU30は、S16にて、シフト位置がニュートラルレンジ(パーキングレンジを含む)からドライブレンジへと変更されつつあるか、あるいは、シフト位置がドライブレンジにあると判断した場合、改質ガスから通常燃料への切換を許容し(S18)、このルーチンを終了させて燃料切換処理を開始させる。
上述のように、内燃機関1では、各燃焼室3における混合気の空燃比を取得するための排気空燃比センサSAFが活性化されていると判断される場合に、改質ガスから通常燃料への切換が許容される。すなわち、排気空燃比センサSAFが活性化されていれば、仮に前段触媒装置9aや後段触媒装置9bの排気浄化触媒が充分に活性化されていなくとも、排気空燃比センサSAFの検出値に基づいて、各燃焼室3からの排気ガスが前段触媒装置9a等にて良好に浄化されるように、各燃焼室3内の混合気の空燃比を精度よく設定することが可能となる。すなわち、排気空燃比センサSAFが活性されていると判断される場合には、前段触媒装置9aや後段触媒装置9bにて良好に排気浄化を実行可能であるとみなすことが可能となる。
この結果、内燃機関1では、基本的に、前段触媒装置9aや後段触媒装置9bにて良好に排気浄化を実行可能になるまで、通常燃料の使用が規制され、燃焼室3内で燃焼させる燃料として改質ガスが使用されることになる。そして、前段触媒装置9aや後段触媒装置9bにて良好に排気浄化を実行可能になった段階で、各燃焼室3内で燃焼させる燃料としての通常燃料の使用が許容され、各燃焼室3内で燃焼させる燃料を改質ガスから通常燃料へと切り換え可能になる。これにより、内燃機関1によれば、各燃焼室3内で燃焼させる燃料を改質ガスから通常燃料へと切り換える際に、各燃焼室3における混合気の空燃比が目標値から外れて排気ガス中のHC等が多少増加しても、排気ガスは前段触媒装置9aや後段触媒装置9bにて良好に浄化されることになるので、排気エミッションの悪化を確実に抑制することが可能となる。
また、各燃焼室3内で燃焼させる燃料を改質ガスから通常燃料へと切り換える際にトルク変動を完全に無くすことは困難であり、燃料の切換時には、トルク変動に起因したショックが少なからず発生してしまう。この点に鑑みて、本実施形態の内燃機関1では、上述のS14〜S18の処理により、機関始動時等における改質ガスから通常燃料への切換が変速機のシフトチェンジの際、すなわち、ニュートラルレンジ(パーキングレンジを含む)からドライブレンジへのシフトチェンジの際に開始されることになる。これにより、体感上許容され得るシフトチェンジ時のショックにより、燃料の切換時のトルク変動に起因したショックを打ち消すことが可能となる。
なお、上述のように、変速機のシフト位置がニュートラルレンジまたはパーキングレンジにある際には、改質ガスから通常燃料への切換が許容されないが、本実施形態の内燃機関1では、変速機のシフト位置がニュートラルレンジまたはパーキングレンジにある際に、アクセルペダルが急激に踏み込まれたとしても、改質装置20に対して供給される空気が増量されることはない。すなわち、内燃機関1では、変速機のシフト位置がニュートラルレンジまたはパーキングレンジにあって改質ガスから通常燃料への切換が許容されない状態では、改質ガスを用いた実質的な高負荷運転が禁止される。更に、内燃機関1では、改質ガスを用いて運転されている際に機関負荷が著しく高まったような場合には、図3のルーチンがスキップされ、直ちに改質ガスから通常燃料への切換が実行される。
また、図3の燃料切換許容判定ルーチンのS12では、前段触媒装置9a等の排気浄化触媒の状態(活性度合)に基づいて、前段触媒装置9a等にて良好に排気浄化を実行可能であるか否か判定されてもよい。すなわち、前段触媒装置9a等の作動温度が充分に上昇して排気触媒が充分に活性化されていれば、各燃焼室3における混合気の空燃比が目標値から外れて排気ガス中のHC等が多少増加しても、排気ガスは前段触媒装置9aや後段触媒装置9bにて良好に浄化されることになる。
この場合、排気浄化触媒の状態は、例えば前段触媒装置9aと後段触媒装置9bとの間に設置されて前段触媒装置9aを通過した排気ガスの温度を検出する温度センサSTe(図1参照)の検出値から推定される排気浄化触媒の温度に基づいて判定されるとよい。また、排気浄化触媒の状態は、水温センサSWの検出値(冷却水温度)、積算空気量、積算燃料噴射量、機関始動後の経過時間、機関回転数の少なくとも何れか一つに基づいて判定されてもよい。なお、一般には、排気浄化触媒の活性化よりも排気空燃比センサSAFの活性化の方が早期に完了することから、排気浄化触媒の活性度合をパラメータとした場合よりも、空燃比センサの活性度合に基づいて燃料切換の可否を判定する場合の方が、燃料切換が早期に許容されることになる。
図4は、上述の燃料切換許容判定ルーチンにおいて燃料の切換が許容された段階で実行される燃料切換処理を説明するためのタイミングチャートである。
改質ガスから通常燃料への切換が許容された場合、ECU30は、アクセル位置センサ32からの信号に示されるアクセル踏込量に応じた内燃機関1の目標トルクを得るために必要な空気の量を求める。そして、ECU30は、目標トルクが得られるように、流量調整弁14、改質用燃料噴射弁16、スロットルバルブ12および各通常燃料噴射弁160を制御しつつ、各燃焼室3内で燃焼させる燃料を改質ガスから通常燃料へと徐々に切り換えていく。
より詳細には、ECU30は、図4に示されるように、まず、各燃焼室3に対する改質ガスの供給量が減少するように、改質装置20に対する空気の供給量(以下、適宜「改質空気供給量」という)と改質用燃料噴射弁16から改質装置20への燃料の供給量とを減少させる。そして、改質装置20に対する空気および燃料の供給量を減少させ始めてから所定の遅延時間τが経過した段階で各通常燃料噴射弁160からの通常燃料の供給を開始させる。
ここで、改質装置20の設置スペース等の関係上、改質装置20と各改質燃料供給ノズル27(各燃焼室3)とはある程度の距離だけ離間されることになる。従って、改質装置20に対する空気や燃料の供給量を減少させても、その時点から、各改質燃料供給ノズル27から各燃焼室3に対して供給される改質ガスの量が直ちに減少し始めるわけではない。すなわち、改質燃料供給管26内に残留する改質ガスの量に応じて、改質装置20に対する燃料および空気の供給量を減少させ始めた時点と、各燃焼室3に流れ込む改質ガスの量が減少し始める時点との間には、タイムラグが存在する。このため、改質ガスから通常燃料へと切り換えるに際して、ごく単純に、改質装置20に対する燃料および空気の供給を停止させ、各通常燃料噴射弁160からの燃料噴射を開始させたのでは、各燃焼室3に供給された改質ガスと通常燃料との合計が必要量を上回り、各燃焼室3における混合気の空燃比が目標値から外れてしまって排気エミッションの悪化やトルク変動(トルクショック)を招いてしまうおそれもある。
これに対して、本実施形態のように、改質装置20に対する空気および燃料の供給量を減少させ始めてから所定時間の遅延時間τが経過した段階で、各通常燃料噴射弁160からの通常燃料の供給を開始させることにより、トータルの燃料の量(改質ガスと通常燃料との合計)を要求に応じて正確に設定することが可能となり、改質ガスの供給量が充分に低減されてないうちに、通常燃料の供給が開始されてしまうことが抑制される。この結果、燃料の切換中に各燃焼室3における混合気の空燃比が目標値から外れてしまうことを抑制可能となり、排気エミッションの悪化やトルク変動の発生を確実に抑制することができる。
また、本実施形態では、改質燃料供給管26に残留している改質ガスが燃焼室3にほぼ完全に吸入されるまでの時間が機関回転数と相関を有していることを踏まえ、上述の遅延時間τは、燃料の切換が許容された時点の機関回転数に応じて定められる。このため、ECU30の記憶装置には、図5に示されるような機関回転数と遅延時間τとの関係を規定するマップが格納されており、ECU30は、燃料の切換が許容されると、クランク角センサ33からの信号に基づいて機関回転数を求め、求めた機関回転数に対応した遅延時間τを読み出す。
ところで、通常燃料噴射弁160から通常燃料の供給を開始した際、特に機関始動時等の燃焼室3内の温度が比較的低い場合には、通常燃料噴射弁160から噴射された通常燃料(液体燃料)のうち、ある程度の量の通常燃料が気化することなく吸気ポートの壁面に付着してしまうことがある。このように、吸気ポートの壁面等に付着した通常燃料は、燃焼に寄与しないことから、通常燃料の供給の開始直後に内燃機関1のトルクが変動(低下)してしまうおそれもある。
このため、本実施形態では、図6に示されるような燃焼室3内の温度を反映する冷却水温度と通常燃料の供給開始時における供給量との関係を規定するマップがECU30の記憶装置に格納されている。このマップは、実験結果等を踏まえた上で、冷却水温度が低ければ低いほど、通常燃料の供給開始時における供給量が多くなるように作成されている。ECU30は、各通常燃料噴射弁160からの通常燃料の供給を開始させるに先立って、水温センサSWの検出値から冷却水温度を求め、求めた冷却水温度に対応した通常燃料の供給量を当該マップから読み出す。そして、ECU30は、通常燃料の供給を開始させるに際して、図4に示されるように、上記マップから読み出した量の通常燃料を供給開始から所定時間内に噴射させる。
これにより、冷却水温度(機関温度)に応じて、各通常燃料噴射弁160からの通常燃料の供給量を増加させて、吸気ポートの壁面等に付着して燃焼に寄与しなくなる分を補うことができるので、内燃機関1のトルク変動(トルクの低下)を抑制することが可能となる。この場合、図4に示されるように、通常燃料の供給量を増加させる時間内では、時間の経過と共に、通常燃料の供給量の増加割合が徐々に減少させられるとよい。
これ以後、改質装置20に対する空気の供給量と、改質用燃料噴射弁16から改質装置20への燃料の供給量とが徐々に減少させられる一方で、スロットルバルブ12を介して各燃焼室3に供給される空気の量と、各通常燃料噴射弁160からの通常燃料の供給量とが徐々に増加させられる。これにより、各燃焼室3内で燃焼させる燃料を改質ガスから通常燃料へと切り換える際に、各燃焼室3における混合気の空燃比が目標値から外れてしまうことを抑制できるので、内燃機関1のトルク変動(トルクショック)を確実に抑制することが可能となる。
また、本実施形態では、改質ガスから通常燃料への切換開始時における通常燃料の供給量の増加割合が、切換開始時および切換終了時以外の増加割合よりも大きく設定されている(図4の丸印で囲まれた領域参照)。同様に、図4に示されるように、改質ガスから通常燃料への切換終了時における改質ガスの供給量(改質装置20に対する空気および燃料の供給量)の減少割合が、切換開始時および切換終了時以外の減少割合よりも大きく設定されている。すなわち、本実施形態では、通常燃料の供給開始時点から通常燃料の供給量がある程度確保され、改質ガスから通常燃料への切換終了時には、改質装置20に対する空気および燃料の供給量がある程度の量にまで減少した時点で速やかにゼロとされる。
これにより、一般に容易ではない少量の通常燃料や改質ガスの高精度な供給を実行する必要がなくなるので、通常燃料や改質ガスの供給量の制御性を向上させることが可能となる。この場合、図4に示されるように、改質ガスから通常燃料への切換開始時には、通常燃料に合わせて、改質装置20に対する燃料供給量の減少割合を切換開始時および切換終了時以外の減少割合よりも大きく設定するとよい。同様に、改質ガスから通常燃料への切換終了時には、改質ガスに合わせて、通常燃料の供給量の増加割合を切換開始時および切換終了時以外の増加割合よりも大きく設定するとよい。
なお、本実施形態では、機関回転数に応じて遅延時間τが定められ、改質装置20に対する空気および燃料の供給量を減少させ始めてから遅延時間τが経過した段階で、各通常燃料噴射弁160からの通常燃料の供給を開始させているが、これに限られるものではない。すなわち、改質ガスを用いて内燃機関1が運転されている状態で、改質装置20に対する空気および燃料の供給量を減少させ始めると、やがて、各燃焼室3における混合気の空燃比が所定値を下回るようになる。従って、改質装置20に対する空気および燃料の供給量を減少させ始めた後、排気空燃比センサSAFの検出値に基づいて各燃焼室3における混合気の空燃比を求め、求めた空燃比が上記所定値を下回った段階で、各通常燃料噴射弁160からの通常燃料の供給を開始させてもよい。
〔第2実施形態〕
以下、図7〜図10を参照しながら、本発明の第2実施形態について説明する。なお、上述の第1実施形態に関連して説明されたものと同一の要素には同一の参照符号が付され、重複する説明は省略される。
図7は、上述の内燃機関1において実行され得る他の燃料切換処理を説明するためのフローチャートであり、図8は、当該燃料切換処理を説明するためのタイミングチャートである。各燃焼室3で燃焼させる燃料の切換が許容され、図7に示される手順に従って改質ガスから通常燃料への切換が実行される場合、ECU30は、アクセル位置センサ32からの信号に示されるアクセル踏み込み量に応じた内燃機関1の目標トルクを求め(S20)、更に、求めた目標トルクを得るために必要な空気の量(総空気量)を求める(S22)。S22にて求められる総空気量は、改質装置20に対して供給される空気の量と、スロットルバルブ12を介して各燃焼室3へと供給される空気の量と和である。そして、総空気量を求めると、ECU30は、所定のマップを用いると共に、燃料の切換を開始してからの経過時間に基づいて、改質装置20に供給されるべき空気の量の総空気量に対する割合を求める(S24)。
ここで、図7に示される燃料切換処理が実行される場合、全燃料(改質ガスと通常燃料との合計)に対する改質ガスの割合は、図8に示されるように、燃料の切換を開始してからの経過時間に比例して減少させられる。すなわち、ここでは、改質ガスから通常燃料への切換中、改質装置20に対して供給されるべき空気の量とスロットルバルブ12を介して各燃焼室3へと供給される空気の量との比の単位時間あたりの変化量が、概ね一定に保たれる。
そして、このような処理を実行するために、ECU30の記憶装置には、燃料の切換を開始してからの経過時間と改質装置20に供給されるべき空気の量の総空気量に対する割合Rとの関係を規定するマップ(図9参照)が格納されており、ECU30は、S24にて、当該マップからその時点の経過時間に対応する割合Rを読み出す。なお、図9に示されるように、本実施形態では、改質ガスのみを用いて内燃機関1が運転される場合、改質装置20における混合気の空燃比がおよそ5(O/C=1)に保たれると共に、各燃焼室3における混合気の空燃比が理論空燃比(=14.7)に保たれるので、燃料切換開始時における割合Rの値αは、およそ1/3(≒5/14.7)となる。
S24にて、改質装置20に供給されるべき空気の量の総空気量に対する割合Rを求めると、ECU30は、S22にて求めた総空気量に割合Rを乗じた量の空気が改質装置20に供給されると共に、残りの空気がスロットルバルブ12を介して各燃焼室3に供給されるように、流量調整弁14およびスロットルバルブ12を制御する(S26)。これと同時に、ECU30は、改質空気供給量と、スロットルバルブ12を経由する空気の量とに応じた燃料が噴射されるように、改質用燃料噴射弁16および各通常燃料噴射弁160を制御する(S26)。
更に、S26の処理後、またはそれとほぼ同時に、ECU30は、S24で定まる改質装置20に対して供給されるべき空気の量とスロットルバルブ12を介して各燃焼室3へと供給される空気の量との比、すなわち、改質ガスの供給量と通常燃料の供給量との比に応じて、各点火プラグ8による点火時期を補正する(S28)。例えば、ECU30は、S28にて、改質ガスのみを用いる場合の点火時期設定マップから読み出した点火時期(角度)SArと、通常燃料のみを用いる場合の点火時期設定マップから読み出した点火時期(角度)SArに基づいて、補正後の点火時期SAcを、
SAc=SAr×(R×1/α)+SAn×(1−R×1/α)
として設定する。
このように、一般に改質ガスのみを用いて内燃機関1が運転される場合には、通常燃料のみを用いて内燃機関1が運転される場合よりも点火時期が遅角されることを踏まえて、各燃焼室3内で燃焼させる燃料の切換に際して、改質ガスの供給量と通常燃料の供給量との比に応じて点火時期が補正されると好ましい。これにより、各燃焼室3内で燃焼させる燃料を改質ガスから通常燃料へと切り換える際に、点火時期が不適正であることに起因して生じるトルク変動を確実に抑制することができる。S28の処理の後、ECU30は、例えば改質装置20に対する空気の供給量がゼロになったか否か判定することにより、燃料切換が完了した否か判定し(S30)、S30にて燃料切換が完了したと判断するまで、S20からS28までの処理を繰り返す。
上述のように、各燃焼室3内で燃焼させる燃料を改質ガスから通常燃料へと切り換える際に、改質装置20に対する空気および燃料の供給量(改質ガスの供給量)と通常燃料の供給量との比の変化量を概ね一定に保つことにより、改質ガスから通常燃料への切換中に機関負荷が変動したとしても(図8における実線参照)、改質ガスから通常燃料への切換に要する時間は、負荷変動がなかった場合(図8における破線参照)と同一となる。従って、図7に示される燃料切換処理を採用すれば、燃料の切換を変速機のシフトチェンジに合わせて実行し易くなり、燃料の切換タイミングを設定する際の自由度を増大化させることができる。
また、上述の内燃機関1において各燃焼室3内で燃焼させる燃料を改質ガスから通常燃料へと切り換える際には、改質ガスの供給量(改質装置20に対する空気および燃料の供給量)の減少割合と、通常燃料の供給量の増加割合とがそれぞれ概ね一定に保たれてもよい。すなわち、このような燃料切換処理が採用された場合、燃料の切換中に機関負荷が変動したとしても、図10に示されるように、負荷変動の前後において、改質ガスの供給量の減少割合(傾き)と通常燃料の供給量の増加割合とは変化せず、概ね一定に設定される。これにより、燃料の切換中に機関負荷の変動があった場合、燃料切換に要する時間が多少延びることにはなるが、燃料切換に際して、内燃機関1のトルク変動の発生を確実に抑制することが可能となる。図10に示される燃料切換処理を実行する場合には、図7のS24にて、改質装置20に供給されるべき空気の量の総空気量に対する割合を算出する代わりに、改質装置20に対する空気の供給量を所定値ずつ減少させていけばよい。
なお、上述の第2実施形態において、図4に関連して説明された処理のうち、ここで盛り込まれていないものを適宜採用し得ることはいうまでもない。
〔第3実施形態〕
以下、図11および図12を参照しながら、本発明の第3実施形態について説明する。なお、上述の第1実施形態等に関連して説明されたものと同一の要素には同一の参照符号が付され、重複する説明は省略される。
図11は、上述の内燃機関1において実行され得る他の燃料切換処理を説明するためのフローチャートであり、図12は、当該燃料切換処理を説明するためのタイミングチャートである。各燃焼室3で燃焼させる燃料の切換が許容され、図11に示される手順に従って改質ガスから通常燃料への切換を実行する場合、ECU30は、まず、切換開始フラグの値を確認し(S40)、切換開始フラグが「0」である場合、アクセル位置センサ32の検出値に基づいて内燃機関1の目標トルクを求めた上で、燃料切換開始時に目標トルクを得るために必要な空気の量(総空気量)を求める(S42)。燃料切換開始時の総空気量を求めると、ECU30は、燃料切換フラグを「1」とする(S44)。これにより、燃料の切換が開始されてS42の処理が1回実行されると、切換開始フラグが「1」とされるので(S44)、それ以後、S42およびS44の処理はスキップされることになる。
S44の処理の後、あるいは、S40にて切換開始フラグが「1」であると判断した場合、ECU30は、その時点における目標トルクを得るために必要な空気の量(総空気量)を求める(S46)。なお、燃料の切換時における本ルーチンの1サイクル目にS46にて算出される総空気量は、S42にて算出される総空気量と同じ値となる。そして、S46の処理の後、ECU30は、改質装置20に対して供給されるべき空気の量(改質空気供給量)を求める(S48)。
本実施形態では、内燃機関1の運転状態に拘らず時間の経過と共に(例えば経過時間に比例して)、改質装置20への空気の供給量を燃料切換開始時の総空気量から徐々に減少させるように予め定められた関数式またはマップが記憶装置に格納されている。ECU30は、S48にて当該関数式またはマップを用いると共に、S42にて算出した燃料切換開始時の総空気量と、燃料の切換を開始してからの経過時間とに基づいて、改質装置20に対して供給されるべき空気の量を求める。
S48にて改質装置20に供給されるべき空気の量を求めると、ECU30は、S48にて求めた量の空気が改質装置20に供給されると共に、S46にて求めた総空気量からS48にて求めた量を減じた量の空気がスロットルバルブ12を介して各燃焼室3に供給されるように、流量調整弁14およびスロットルバルブ12を制御する(S50)。これと同時に、ECU30は、改質空気供給量と、スロットルバルブ12を経由する空気の量とに応じた燃料が噴射されるように、改質用燃料噴射弁16および各通常燃料噴射弁160を制御する(S50)。
このように、本実施形態では、内燃機関1の運転状態に拘らず時間の経過と共に、改質装置20への空気の供給量が燃料切換開始時の総空気量から徐々に減少するように設定される(S48)。従って、改質ガスから通常燃料への切換中に機関負荷が増大化した場合、図12に示されるように、改質ガスは機関負荷の変動が無い場合と同様にして減量される一方、通常燃料のみが機関負荷に応じて増量されることになる。また、改質ガスから通常燃料への切換中に機関負荷が減少した場合、基本的に改質燃料のみが負荷変動の無い場合と同様にして減量され、機関負荷の減少度合いが著しい場合には、更に通常燃料も機関負荷に応じて減量されることになる。すなわち、通常燃料噴射弁160からの燃料の噴射量の調整は、一般に改質装置20に対する空気等の流量調整に比して容易であり、精度よく実行可能なものである。従って、本実施形態の燃料切換処理を採用すれば、燃料切換中に機関負荷が変動しても、必要とされる燃料(改質ガスと通常燃料との合計)を機関負荷に応じて精度よく供給可能となり、内燃機関のトルク変動(トルクショック)の発生を確実に抑制することができる。
また、本実施形態においても、S50の処理後、またはそれとほぼ同時に、ECU30は、改質装置20に対して供給される空気の量と、スロットルバルブ12を介して各燃焼室3へと供給される空気の量との比、すなわち、改質ガスの供給量と通常燃料の供給量との比に応じて、各点火プラグ8による点火時期を補正する(S52)。これにより、各燃焼室3内で燃焼させる燃料を改質ガスから通常燃料へと切り換える際に、点火時期が不適正であることに起因して生じるトルク変動を確実に抑制することができる。そして、S52の処理の後、ECU30は、例えば改質装置20に対する空気の供給量がゼロになったか否か判定することにより、燃料切換が完了した否か判定し(S54)、S54にて燃料切換が完了したと判断するまで、S40からS52までの処理を繰り返す。
なお、上述の第3実施形態において、図4に関連して説明された処理のうち、ここで盛り込まれていないものを適宜採用し得ることはいうまでもない。
〔第4実施形態〕
以下、図13〜図15を参照しながら、本発明の第3実施形態について説明する。なお、上述の第1実施形態等に関連して説明されたものと同一の要素には同一の参照符号が付され、重複する説明は省略される。
図13は、上述の内燃機関1において実行され得る他の燃料切換処理を説明するためのフローチャートであり、図14は、当該燃料切換処理を説明するためのタイミングチャートである。各燃焼室3で燃焼させる燃料の切換が許容され、図13に示される手順に従って改質ガスから通常燃料への切換を実行する場合、ECU30は、アクセル位置センサ32からの信号に示されるアクセル踏み込み量に応じた内燃機関1の目標トルクを求め(S60)、更に、求めた目標トルクを得るために必要な空気の量(総空気量)を求める(S62)。S62にて求められる総空気量は、改質装置20に対して供給される空気の量と、スロットルバルブ12を介して各燃焼室3へと供給される空気の量と和である。
S62にて総空気量を求めると、ECU30は、S62にて求めた総空気量と、前回算出された総空気量とを用いて単位時間あたりの総空気量の変化分(機関負荷の変動量)を算出する(S64)。更に、ECU30は、S64にて求めた単位時間あたりの総空気量の変化分と所定の閾値とを比較して、機関負荷の変動が小さいか否か判定する(S66)。S66にて、単位時間あたりの総空気量の変化分が閾値を下回っており、機関負荷の変動が小さいと判断した場合、ECU30は、所定のマップを用いると共に、燃料の切換を開始してからの経過時間に基づいて、改質装置20に供給されるべき空気の量の総空気量に対する割合を求める(S68)。S68では、例えば、改質ガスの割合を燃料の切換を開始してからの経過時間に比例して減少させるように作成されたマップが用いられる。
これに対して、S66にて、単位時間あたりの総空気量の変化分が閾値以上となっており、機関負荷の変動が大きいと判断した場合、ECU30は、改質装置20に供給されるべき空気の量の総空気量に対する割合を前回値に固定する(S70)。これにより、各燃焼室3内で燃焼させる燃料を改質ガスから通常燃料へと切り換える際に、機関負荷の変動量が所定値を上回った場合には、図14に示されるように、改質ガスの減量および通常燃料の増量、すなわち、改質ガスから通常燃料への切換が中断されることになる。このように、機関負荷の変動が大きい場合には、改質ガスから通常燃料への切換を一旦中断することにより、トータルの燃料の量(改質ガスと通常燃料との和)を機関負荷に応じるように精度よく設定可能となるので、内燃機関1の負荷追従性の悪化を抑制することができる。
S68にて改質装置20に供給されるべき空気の量の総空気量に対する割合を求めた後、または、S70にて改質装置20に供給されるべき空気の量の総空気量に対する割合を前回値に固定した後、ECU30は、S62にて求めた総空気量にS68またはS70にて定めた割合を乗じた量の空気が改質装置20に供給されると共に、残りの空気がスロットルバルブ12を介して各燃焼室3に供給されるように、流量調整弁14およびスロットルバルブ12を制御する(S72)。これと同時に、ECU30は、改質空気供給量と、スロットルバルブ12を経由する空気の量とに応じた燃料が噴射されるように、改質用燃料噴射弁16および各通常燃料噴射弁160を制御する(S72)。
更に、本実施形態においても、S72の処理後、またはそれとほぼ同時に、ECU30は、改質装置20に対して供給される空気の量と、スロットルバルブ12を介して各燃焼室3へと供給される空気の量との比、すなわち、改質ガスの供給量と通常燃料の供給量との比に応じて、各点火プラグ8による点火時期を補正する(S74)。これにより、各燃焼室3内で燃焼させる燃料を改質ガスから通常燃料へと切り換える際に、点火時期が不適正であることに起因して生じるトルク変動を確実に抑制することができる。そして、S74の処理の後、ECU30は、例えば改質装置20に対する空気の供給量がゼロになったか否か判定することにより、燃料切換が完了した否か判定し(S76)、S76にて燃料切換が完了したと判断するまで、S60からS74までの処理を繰り返す。
なお、上述のように、改質ガスから通常燃料への切換中、機関負荷の変動が大きい場合には、改質ガスから通常燃料への切換を中断する代わりに、改質ガスの供給を速やかに停止させると共に、通常燃料の供給量を速やかに目標値まで増量させてもよい。この場合、単位時間あたりの総空気量の変化分(機関負荷の変動量)が所定の閾値を越えたと判断されると、図15に示されるように、改質装置20に対する空気および燃料の供給が停止させられると共に、通常燃料の供給量がその時の値に維持される。そして、改質装置20に対する空気および燃料の供給を停止させてから、図4および図5に関連して説明されたものに類する遅延時間τが経過した段階で、通常燃料の供給量が目標値、すなわち、その時点の目標トルクを発生させるために必要な通常燃料の量まで速やかに増加させられる。
このように、機関負荷の変動が大きい場合には、その時点で改質ガスから通常燃料への切換を速やかに完了させることにより、通常燃料を機関負荷に応じるように精度よく設定可能となるので、内燃機関1の負荷追従性の悪化を抑制することができる。また、この場合、上述の遅延時間τを設定することにより、改質燃料供給管26等に残留する改質ガスが燃焼室3に完全に吸入される前に各燃焼室3に対して通常燃料が過剰に供給されてしまうことが抑制されるので、各燃焼室3における混合気の空燃比を目標値に合致させて、排気エミッションの悪化やトルク変動(トルクショック)の発生を確実に抑制することが可能となる。
なお、上述の第4実施形態において、図4に関連して説明された処理のうち、ここで盛り込まれていないものを適宜採用し得ることはいうまでもない。
〔第5実施形態〕
以下、図16から図18を参照しながら、本発明の第4実施形態について説明する。なお、上述の第1実施形態等に関連して説明されたものと同一の要素には同一の参照符号が付され、重複する説明は省略される。
図16は、本発明の第5実施形態に係るハイブリッド車両を示す概略構成図である。同図に示されるハイブリッド車両Cは、上述の内燃機関1と他の駆動源としての電動機とを組み合わせたハイブリッド動力システムを含むものである。すなわち、ハイブリッド車両Cは、通常燃料と改質ガスとの何れかまたは双方を用いて運転される内燃機関1に加えて、モータ・ジェネレータMG1およびMG2を有する。そして、ハイブリッド車両Cでは、内燃機関1およびモータ・ジェネレータMG2が主に走行用駆動源として用いられる一方、モータ・ジェネレータMG1が内燃機関1により駆動され、主に発電機として機能する。
この場合、上述の内燃機関1のクランクシャフトSは、図1に示されるように、ねじり振動を減衰するダンパ35と、遊星歯車機構40とを介してモータ・ジェネレータMG1およびMG2と結合されている。そして、これらの内燃機関1、遊星歯車機構40、モータ・ジェネレータMG1およびMG2は、ハイブリッド動力装置を構成する。遊星歯車機構40は、中心に位置するサンギヤ41と、サンギヤ41の外側に同心円状に設けられたリングギヤ42と、サンギヤ41およびリングギヤ42の双方と噛み合ってサンギヤ41の外周を自転しながら公転する複数のプラネタリピニオンギヤ43と、各プラネタリピニオンギヤ43の軸を回転自在に支持するプラネタリキャリア44とを含む。
サンギヤ41は、中空のサンギヤ軸S1を介してモータ・ジェネレータMG1に連結されており、リングギヤ42は、リングギヤ軸S2を介してモータ・ジェネレータMG2に連結されている。また、プラネタリキャリア44には、伝達シャフトS3が固定されている。伝達シャフトS3は、サンギヤ軸S1の内部に挿通されると共に、ダンパ35を介して内燃機関1のクランクシャフトSと連結されている。更に、リングギヤ42は、チェーンベルト45および動力伝達ギヤ46を介して、ディファレンシャルギヤ47に連結されている。
このように構成される遊星歯車機構40は、動力の入出力軸としてクランクシャフトS(伝達シャフトS3)、サンギヤ軸S1およびリングギヤ軸S2という3本の軸を有している。そして、遊星歯車機構40の3軸(サンギヤ軸S1、リングギヤ軸S2およびプラネタリキャリア44〔クランクシャフトS〕)における回転数やトルクの関係は、図17に例示される共線図を用いて説明され得る。
すなわち、サンギヤ軸S1(モータ・ジェネレータMG1)の回転数をNsとし、リングギヤ軸S2の回転数をNrとし、プラネタリキャリア44(内燃機関1の回転数〔機関回転数〕)をNeとし、リングギヤ42の歯数に対するサンギヤ41の歯数の比をρ(ρ=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)とすると、モータ・ジェネレータMG1の回転数Nsは、リングギヤ軸S2の回転数Nrと、機関回転数Neとを用いて、
Ns=Nr−(Nr−Ne)・(1+ρ)/ρ
として定まる。すなわち、上記3軸のうちの何れか2軸に入出力される動力が定まると、残りの軸に入出力される動力が他の2軸に入出力される動力に基づいて定まるのである。
そして、遊星歯車機構40は、モータ・ジェネレータMG2の出力をチェーンベルト45、動力伝達ギヤ46、ディファレンシャルギヤ47等を介して駆動輪Wに伝達する役割と、内燃機関1の出力をモータ・ジェネレータMG1と駆動輪Wとに振り分ける動力分割機構としての役割と、モータ・ジェネレータMG2や内燃機関1の回転速度を減速あるいは増速して駆動輪Wに伝達する変速機としての役割とを果たす。
モータ・ジェネレータMG1およびMG2は、電動機および発電機の双方として作動可能な交流同期電動機として構成されており、外周面に複数の永久磁石51を有するロータ52と、回転磁界を形成する三相コイル53が巻回されたステータ54とをそれぞれ含む。モータ・ジェネレータMG1のロータ52は、遊星歯車機構40のサンギヤ軸S1に固定されており、モータ・ジェネレータMG2のロータ52は、遊星歯車機構40のリングギヤ軸S2に固定されている。一方、モータ・ジェネレータMG1およびMG2のステータ54は、モータ・ジェネレータMG1およびMG2ならびに遊星歯車機構40により共用されるケーシング50の内周面にそれぞれ固定されている。更に、サンギヤ軸S1には、モータ・ジェネレータMG1のロータ52の回転角度を検出するレゾルバR1が設けられており、リングギヤ軸S2には、モータ・ジェネレータMG2のロータ52の回転角度を検出するレゾルバR2が設けられている。
また、モータ・ジェネレータMG1は、インバータ55を介してモータ用電子制御ユニット(以下「モータECU」という)60に接続されており、モータ・ジェネレータMG2は、インバータ56を介してモータECU60に接続されている。モータECU60は、図示されないCPU,ROM,RAM、入出力ポートおよび記憶装置等を有し、インバータ55および56を制御することによって、走行用バッテリ57から各モータ・ジェネレータMG1および/またはMG2の三相コイル53に所定周波数で適切な電流値をもった交流電流を供給して、モータ・ジェネレータMG1およびMG2の動作を制御する。なお、ハイブリッド車両Cでは、内燃機関1を始動させるためのスタータ19に対して、走行用バッテリ57から電力が供給される。
そして、ハイブリッド車両Cは、その全体の制御手段として機能するハイブリッドECU100を備えており、ハイブリッドECU100も、図示されないCPU,ROM,RAM、入出力ポートおよび記憶装置等を有する。本実施形態では、ハイブリッドECU100の入出力ポートに、上述のイグニッションスイッチ31、アクセル位置センサ32、シフトポジションセンサSSP、更には、ブレーキ位置センサ34等が接続されている。ハイブリッドECU100は、上述のECU30(ここでは、説明をわかりやすくするために、以下「エンジンECU」という)およびモータECU60との間で各種情報の受け渡しを行ないながら、ハイブリッド車両Cの全体を制御する。
次に、図18を参照しながら、上述のハイブリッド車両Cに備えられた内燃機関1において、各燃焼室3内で燃焼させる燃料を改質ガスから通常燃料へと切り換える手順について説明する。
図18は、上述のようにモータ・ジェネレータMG1およびMG2と組み合わされた内燃機関1において実行され得る燃料切換処理を説明するためのフローチャートである。内燃機関1の各燃焼室3で燃焼させる燃料の切換が許容され、図18に示される手順に従って改質ガスから通常燃料への切換を実行する場合、ハイブリッドECU100は、図示されない車速センサ、アクセル位置センサ32およびエンジンECU30(クランク角センサ33)等からの信号に基づいて、ハイブリッド車両Cの車速、アクセル踏込量、機関回転数および走行用バッテリ57の残量を取得する(S80)。
これらのパラメータを取得すると、ハイブリッドECU100は、内燃機関1の回転数および負荷を現在値に保持(一定)にして内燃機関1の発生トルクを概ね一定にしたまま、モータ・ジェネレータMG2を制御することにより、ハイブリッド車両Cの動作を円滑に継続させ得るか否か判定する(S82)。
S82にて内燃機関1の回転数および負荷を一定に制御し得ないと判断した場合、ハイブリッドECU100は、第1実施形態から第4実施形態に関連して説明された何れかの手順に従う燃料切換を許容する(S84)。これに対して、S82にて内燃機関1の回転数および負荷を一定に制御し得ると判断した場合、内燃機関1の回転数および負荷を現在値に保持して内燃機関1の発生トルクを概ね一定にした状態で内燃機関1の各燃焼室3内で燃焼させる燃料を切り換えるための処理を開始させる。
このように、内燃機関1の各燃焼室3内で燃焼させる燃料を改質ガスから通常燃料へと切り換える際に、機関出力(トルク)を概ね一定に保つことにより、燃料の切換をスムースに実行すると共に、各燃焼室3における混合気の空燃比が目標値から外れてしまうことを抑制可能となる。そして、本発明による内燃機関1と電動機(モータ・ジェネレータMG1およびMG2)とを組み合わせたハイブリッド動力システムでは、内燃機関1の出力(トルク)を概ね一定に保ったとしても、もう一方の駆動源である電動機(モータ・ジェネレータMG2)を制御することにより、当該ハイブリッド動力システムに対する要求に応じることができるのである。
ここで、内燃機関1のトルクTeは、遊星歯車機構40によって、リングギヤ軸S2と、モータ・ジェネレータMG1とに分配されるが、モータ・ジェネレータMG1へと伝達されるトルクをTesとし、リングギヤ軸S2へと伝達されるトルクをTerとし、図17の共線図を用いれば、トルクTerおよびTesは、
Tes=Te×ρ/(1+ρ)
Ter=Te×1/(1+ρ)=Tes・1/ρ
として表される。
そして、内燃機関1の回転数および負荷を概ね一定にして内燃機関1の発生トルクTeを概ね一定に保つためには、図17における動作共線の力の釣り合いをとればよい。すなわち、モータ・ジェネレータMG1に、内燃機関1からのトルクTesと向きが反対で大きさが同じであるトルクTm1を発生させると共に、モータ・ジェネレータMG2に、リングギヤ軸S2に出力すべき車軸要求トルクTrと同じ大きさで向きが反対のトルクとトルクTerとの合力に対し大きさが同じで向きが反対のトルクTm2(=Tr−Ter)を発生させればよい。
このような点を踏まえて、ハイブリッドECU100は、アクセル位置センサ32からの信号に示されるアクセル踏込量に応じた車軸要求トルクTrを求めると共に、モータ・ジェネレータMG1を回転数制御する際の電流値等に基づいて、その時点においてモータ・ジェネレータMG1が発生しているトルク(MG1発生トルク)Tm1を取得する(S86)。そして、ハイブリッドECU100は、モータ・ジェネレータMG2の発生トルクの目標値Tm2を、
Tm2=Tr−Ter=Tr−Tes・1/ρ
として算出する(S88)。
目標値Tm2を算出すると、ハイブリッドECU100は、モータ・ジェネレータMG2がトルクTm2を発生するように、モータECU60に指令信号を与え(S90)、エンジンECU30に対して、機関回転数および機関負荷(吸入空気量)を一定にした状態での改質ガスから通常燃料への切換を許容する旨の信号を与える(S92)。そして、ハイブリッドECU100からの信号を受け取ったエンジンECU30は、予め作成されているマップ等に従って、機関回転数および機関負荷(吸入空気量)を一定にしながら燃料の切換を開始させる。この燃料切換に際して用いられるマップは、例えば、機関回転数および機関負荷(吸入空気量)を一定にした状態で、改質装置20に対する空気および燃料の供給量を徐々に減少させる一方で、スロットルバルブ12を介して各燃焼室3に供給される空気の量と各通常燃料噴射弁160からの通常燃料の供給量を徐々に増加させるものとして作成されている。
S92の処理を実行した後、ハイブリッドECU100は、エンジンECU30からの状態信号等に基づいて、燃料切換が完了した否か判定し(S94)、S94にて燃料切換が完了したと判断するまで、S80からS92までの処理を繰り返す。この際、S82にて一旦肯定的判断がなされ、内燃機関1の回転数および負荷を現在値に保持(一定)にした状態での燃料の切換が開始された場合、基本的に、それ以後、S82にて否定的判断がなされることはない。
ただし、S92にて燃料切換が許容された後に機関負荷が著しく増大化したような場合には、モータ・ジェネレータMG2を制御しても、内燃機関1の出力(トルク)を概ね一定に保った状態では、ハイブリッド動力システムに対する要求に応じることができなくなるおそれもある。このため、内燃機関1の回転数および負荷を現在値に保持(一定)にした状態での燃料の切換を許容した後に、S82にて否定的判断を行った場合、ハイブリッドECU100は、第1実施形態から第4実施形態に関連して説明された何れかの手順に従う燃料切換を許容する(S84)。これにより、内燃機関1の各燃焼室3内で燃焼させる燃料を改質ガスから通常燃料へと切り換える際に、ハイブリッド動力システムの出力が要求値を下回ってしまうことが回避される。