JP4370117B2 - 化学物質過敏症治療薬 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、化学物質過敏症の治療薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
現代の環境中には、幾万もの化学物質が存在し、これらの化学物質と長期間接触し続けることにより、後に、極微量のその化学物質や類似の化学物質に接触するだけで様々な器官障害を呈する。これがいわゆる化学物質過敏症(Chemical Sensitivity:CS)であり(非特許文献1及び2参照)、多種化学物質過敏症(multiple chemical sensitivity:MCS)、シックハウス症候群、シックビル症候群、シックスクール症候群等とも称される。
化学物質過敏症の症状は、主に、アレルギー様症状と神経系特に自律神経系症状であるが、具体的には、発汗異常、手足の冷えなどの自律神経系症状、不眠、不安、うつ状態などの精神症状、運動障害、知覚異常などの末梢神経系症状、のどの痛み、乾きなどの気道系症状、下痢、便秘、悪心などの消化器系症状、結膜の刺激症状などの眼科系症状、心悸亢進などの循環器系症状、皮膚炎、喘息などの免疫系症状を呈する(非特許文献1及び2参照)。
【0003】
化学物質過敏症は、原因物質によって一定の症状が出現してくるものではなく、栄養、解毒、免疫、神経系などの患者側の要因によって症状の出現が決まる。この点で、既知のアレルゲンにIgE抗体が結合し、その結果血管系に対する活性物質が分泌されて引き起こされるアレルギー疾患や、原因物質が増加すれば100%のヒトが発症する中毒とはまったく異なる。
米国臨床環境医学界では、化学物質過敏症と定義されるためには、▲1▼症状は化学物質暴露により再現する、▲2▼慢性の経過をたどる、▲3▼非常に微量な化学物質に反応する、▲4▼原因物質の除去で症状は改善する、▲5▼化学構造的に無関係な多種類の化学物質に反応する、▲6▼複数の器官にまたがり症状が出現する、の6条件を満たすことが必要としている(非特許文献3参照)。
【0004】
化学物質過敏症の診断では、暴露した化学物質の量と期間とが重要であり、その治療は、第一にその化学物質の除去により行われるが、現在のところ有効な薬物療法は知られていない。
【0005】
一方、(±)−[2−[4−(3−エトキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニルカルバモイル]エチル]ジメチルスルホニウム p−トルエンスルホネート(一般名:トシル酸スプラタスト)は、ヘルパーT細胞から産生されるインターロイキン−4の産生を抑制することにより、優れたIgE抗体産生抑制作用を有し、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎等の治療薬として知られている(特許文献1参照)。また、当該化合物は、排尿障害治療薬又は腎透析に伴う掻痒治療薬としても有用であることが報告されている(特許文献2及び3参照)。しかし、当該化合物が化学物質過敏症の治療薬として優れた効果を有することは知られていなかった。
【0006】
【特許文献1】
特公平3−70698号公報
【特許文献2】
WO0027383
【特許文献3】
特開平11−315019号公報
【非特許文献1】
自律神経 29巻1号 1992年, 3-8
【非特許文献2】
自律神経 33巻3号 1996年, 257-260
【非特許文献3参照】
Archives of Environmental Health, Vol.54(No.3), 147-149 (1999)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、優れた化学物質過敏症治療薬を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、斯かる実情に鑑み、化学物質過敏症治療薬について鋭意検討した結果、(±)−[2−[4−(3−エトキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニルカルバモイル]エチル]ジメチルスルホニウム p−トルエンスルホネートが化学物質過敏症の治療に有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記式(1):
【0010】
【化2】
【0011】
で表される(±)−[2−[4−(3−エトキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニルカルバモイル]エチル]ジメチルスルホニウム p−トルエンスルホネート(以下、「化合物(1)」という。)を有効成分とする化学物質過敏症治療薬を提供するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明で用いられる化合物(1)は、公知の方法、例えば、特公平3−70698号公報に記載の方法によって製造することができ、具体的には、(±)−[2−[4−(3−エトキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニルカルバモイル]エチル]メチルスルフィドとp−トルエンスルホン酸メチルとを反応させる方法等が挙げられる。
【0013】
化合物(1)は、後記試験例に示すように、IgERIST(IgE総値)、各種IgERAST(各種物質に対する特異的IgE値)、好酸球数等の値が正常であり、アレルギー疾患とは明らかに区別され、化学物質過敏症と診断された患者の各種症状を顕著に改善する。従って、化合物(1)が公知のIgE産生抑制作用により化学物質過敏症の症状を改善しているのではないことは明らかである。
【0014】
本発明の化学物質過敏症治療薬は、化学物質過敏症の症状、すなわちアレルギ症状及び神経系症状の改善に有効である。より具体的には、発汗異常、手足の冷えなどの自律神経系症状、不眠、不安、うつ状態などの精神症状、運動障害、知覚異常などの末梢神経系症状、のどの痛み、乾きなどの気道系症状、下痢、便秘、悪心などの消化器系症状、結膜の刺激症状などの眼科系症状、心悸亢進などの循環器系症状、皮膚炎、喘息などの免疫系症状の改善に有効である。
【0015】
本発明の化学物質過敏症治療薬は、化合物(1)を有効成分とするものであるが、化合物(1)にロイコトリエン拮抗剤を併用すると治療効果が更に向上する。ここで、ロイコトリエン拮抗剤としては、例えば、モンテルカスト、プランルカスト、ザフィルルカスト等、又はそれらの塩もしくはそれらの溶媒和物(例えば、水和物等)が挙げられるが、モンテルカストの塩又はプランルカスト水和物が好ましく、モンテルカストナトリウムがより好ましい。
また、本発明の化学物質過敏症治療薬は、化合物(1)にトロンボキサンA2(TXA2)阻害・拮抗剤を併用すると治療効果が更に向上する。ここで、TXA2阻害・拮抗剤としては、例えば、オザグレル、セラトロダスト、ラマトロバン等、又はそれらの塩もしくはそれらの溶媒和物(例えば、水和物等)が挙げられるが、塩酸オザグレルがより好ましい。
【0016】
本発明の化学物質過敏症治療薬を使用する際の薬学的投与形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、液剤、丸剤、乳剤、懸濁剤等の経口剤、注射剤、直腸坐剤、外用剤(例えば、軟膏剤、貼付剤等)等の非経口剤の何れでもよく、それぞれ当業者に公知慣用の製剤方法により製造できる。
【0017】
経口用固型製剤を調製する場合は、有効成分として化合物(1)に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。
経口用液状製剤を調製する場合には、化合物(1)に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて、常法により内服液剤、シロップ剤等を製造することができる。
注射剤を調製する場合には、化合物(1)にpH調整剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下、筋肉内、静脈内用注射剤を製造することができる。
直腸坐剤を調製する場合には、化合物(1)に賦形剤、さらに必要に応じて界面活性剤等を加えた後、常法により坐剤を製造することができる。
軟膏剤、例えば、ペースト、クリーム及びゲルの形態に調製する際には、通常使用される基剤、安定剤、湿潤剤、保存剤等が必要に応じて配合され、常法により混合、製剤化される。基剤として例えば白色ワセリン、パラフィン、グリセリン、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト等を使用できる。保存剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル等が使用できる。
貼付剤を製造する場合には、通常の支持体に上記軟膏、クリーム、ゲル、ペースト等を常法により塗布すればよい。支持体としては、綿、スフ、化学繊維からなる織布、不織布や軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン等のフィルムあるいは発泡体シートが使用できる。
【0018】
また、化合物(1)及びロイコトリエン拮抗剤又はTXA2阻害・拮抗剤を有効成分とする本発明の化学物質過敏症治療薬は、これら両者を含む一の投与形態としてもよいし、これらのそれぞれを含有する2種の同一投与形態(例えば、両者ともに経口剤)としてキット化してもよいし、又は一方を経口剤、他方を注射剤としてキット化してもよい。
【0019】
上記の各投与単位形態中に配合される化合物(1)の量は、患者の症状、剤型等により一定でないが、一般に投与単位形態当り経口剤では約5〜1000mg、注射剤では約0.1〜500mg、坐剤又は外用剤では約5 〜1000mgとするのが望ましい。また、上記投与形態を有する化合物(1)の1日当りの投与量も症状等により異なるが、通常約0.1〜5000mgとするのが好ましい。また、ロイコトリエン拮抗剤の投与量は、使用するロイコトリエン拮抗剤の種類により適宜決定されるが、通常1日あたり約0.1〜300mgが好ましく、徐々に減量することも可能である。TXA2阻害・拮抗剤の投与量は、使用するTXA2阻害・拮抗剤の種類により適宜決定されるが、通常1日当たり約1〜1000mgが好ましく、徐々に減量することも可能である。
【0020】
【実施例】
次に製剤例及び試験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0021】
製剤例1 [錠剤]
化合物(1) 50mg
トウモロコシデンプン 50mg
微結晶セルロース 50mg
ハイドロキシプロピルセルロース 15mg
乳糖 47mg
タルク 2mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
エチルセルロース 30mg
不飽和グリセリド 2mg
二酸化チタン 2mg
上記配合割合で、常法に従い、1錠当たり250mgの錠剤を調整した。
【0022】
製剤例2 [顆粒剤]
化合物(1) 300mg
乳糖 540mg
トウモロコシデンプン 100mg
ハイドロキシプロピルセルロース 50mg
タルク 10mg
上記配合割合で、常法に従い、1包当たり1000mgの顆粒剤を調整した。
【0023】
製剤例3 [カプセル剤]
化合物(1) 100mg
乳糖 30mg
トウモロコシデンプン 50mg
微結晶セルロース 10mg
ステアリン酸マグネシウム 3mg
上記配合割合で、常法に従い、1カプセル当たり193mgのカプセル剤を調製した。
【0024】
製剤例4 [注射剤]
化合物(1) 100mg
塩化ナトリウム 3.5mg
注射用蒸留水適量
(1アンプル当たり2ml)
上記配合割合で、常法に従い、注射剤を調整した。
【0025】
製剤例5 [シロップ剤]
化合物(1) 200mg
精製白糖 60g
パラヒドロキシ安息香酸エチル 5mg
パラヒドロキシ安息香酸ブチル 5mg
香料適量
着色料適量
精製水適量
上記配合割合で、常法に従い、シロップ剤を調製した。
【0026】
製剤例6 [坐剤]
化合物(1) 300mg
ウィテップゾールW−35 1400mg
(登録商標、ラウリン酸からステアリン酸までの飽和脂肪酸のモノ−、ジ−及びトリ−グリセライドの混合物、ダイナマイトノーベル社製)
記配合割合で、常法に従い、1個当たり1700mgの坐剤を調製した。
【0027】
試験例1
(1)現病歴
永年写真の現像に従事してきた70歳女性は、現像液の臭いに対し突如息苦しさを感じ、起立もままならない状態になった。その後、ビニール製品などに接触すると皮膚症状を呈するようになった。更に、病院等における消毒剤、ガソリン、排気ガスなどによっても喘息様発作を誘発すようになった。
(2)初診時所見
ほとんどの揮発物質(トルエン等)、排ガスなどの吸引により呼吸困難を呈し、重度のアトピー性皮膚炎様の湿疹を認めた。日常生活をおくる上でマスクを二重に着用することを余儀なくされていた。アレルギー症状の判定の基準となるIgERIST、各種RAST、好酸球数などは正常であった。また、他の血液所見、肝機能値などの所見も正常であった。一方、先述の米国臨床環境医学界の基準によれば、当該患者は条件▲1▼〜▲6▼をすべて満たしており化学物質過敏症であると診断された。
(3)治療及び治療効果
トシル酸スプラタストカプセル(100mg×3回/日)とモンテルカスト錠(10mg×1回/日)による治療を開始した。その結果、治療開始1ヶ月後には、外出時のマスク着用が不要になり、喘息様症状の改善がみられた。治療開始2ヶ月後には、呼吸困難を呈することなく通常の外出歩行が可能なまでに改善した。治療開始3ヶ月後には、皮膚症状は全く認められなくなり、それ以降モンテルカスト錠の投与は中止し、当該カプセル剤(100mg×3回/日)の投与のみを行ったが、特別な措置を行うことなく通常の生活が行える程度に化学物質過敏症は低減した。治療を通じ、両剤に起因する副作用などは特に認められなかった。
【0028】
試験例2
(1)現病歴
化学会社の研究所に勤務してきた46歳女性は、アセトン、ホルムアルデヒド、アセトアニリドなどの溶媒に就業中高頻度に接触していたが、徐々に溶媒取り扱い時に呼吸困難を生じるようになった。労災認定手続きなどの精神的なストレスも加わり、職場作業中に重篤な呼吸困難を生じた。その後、様々な化学物質に過敏となった。
(2)初診時所見
様々な化学物質に対する過敏症状を呈し、またアトピー性皮膚炎様の湿疹を認めた。生活環境の多くの化学物質に過敏で、呼吸困難を呈するため、外出をすることを患者が拒んでいた。IgERIST、食物やカビを含む各種RAST、好酸球数などの血液学所見、肝機能値などの所見は正常であり、アトピー性疾患の疑いはなく、前述の米国臨床環境医学界の基準によれば化学物質過敏症であると診断された。
(3)治療及び治療効果
トシル酸スプラタストカプセル(100mg×3回/日)とモンテルカスト錠(10mg×1回/日)による治療を開始した。その結果、呼吸困難と皮膚症状は徐々に改善し、治療開始より1年弱後には、皮膚症状は全く認められなくなった。また、生活環境の化学物質への耐用性も向上し、外出も問題なく行えるようになった。その後、モンテルカスト錠の投与は中止し、当該カプセル剤(100mg×3回/日)投与のみを行い、特別な措置を行うことなく通常の生活が行える程度に化学物質過敏症は低減した。治療を通じ、両剤に起因する副作用などは特に認められなかった。
【0029】
試験例3
(1)現病歴
43歳女性で、20歳代より喘息様呼吸困難を有していた。8年前より歯磨き時に口腔から咽頭部にかけ違和感を覚えるようになり、浮腫病変を呈するようになった。その後5年間で、パーマ液や化粧品を使用時に皮膚炎を起こし、それらの芳香吸入により悪心嘔吐や眩暈を呈するようになった。また、家庭用品や着衣に使用されている合成繊維や金属への接触で皮膚炎を呈するようになった。さらに、水道水を飲むことによっても、口腔から咽頭部にかけ違和感を覚えるようになっていた。
(2)初診時所見
様々な化学物質に対する過敏症状を呈し、持続的な喘息様呼吸困難を有していた。また、アトピー性皮膚炎様の湿疹を認めた。感作抗原は特定できず、好酸球数などの血液学所見や肝機能値などの所見に異常は認められず、アトピー性疾患の疑いはなく、前述の米国臨床環境医学界の基準によれば化学物質過敏症であると診断された。
(3)治療及び治療効果
トシル酸スプラタストカプセル(100mg×3回/日)と塩酸オザグレル(200mg×2回/日)による治療を開始した。その結果、呼吸困難と皮膚症状は徐々に改善し、治療開始より8ヶ月目よりトシル酸スプラタストカプセル単剤による治療を実施継続した。治療開始より2年が経過し、完全には上述の諸症状の寛解を得ていないが、水道水を飲むことも可能になり、歯磨きもメントールなど芳香成分の含有が少ないものを使用すれば実施できる等、患者のQOLが改善された。
【0030】
【発明の効果】
本発明の化学物質過敏症治療薬は、化学物質過敏症の治療に優れた効果を有する。
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