JP4363692B2 - 血圧降下成分を多く含む紅麹の製造方法 - Google Patents

血圧降下成分を多く含む紅麹の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、血圧降下作用の指標である菌体量(グルコサミン量)、および、γ−アミノ酪酸(以下、GABAという)含量の高い紅麹およびその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
紅麹は穀類にモナスカス属の菌株を繁殖させた麹で、中国、台湾などでは紅酒、老酒、紅乳腐などの醸造原料として利用されており、また古来より生薬として「消食活血」「健脾燥胃」などの効果が知られている。(李時珍「本草綱目」(1590年))。
さらに、近年は本発明者らが発見した強い血圧降下作用(特許第1669591号、特許第1863899号)やコレステロール低下作用が注目され、健康志向の高まりと相俟って、玄米酢、味噌、醤油などの醸造食品やパンや麺類など主食への添加、そしてさまざまな健康食品など、食品分野で幅広く利用されている。
【0003】
高血圧患者に対する紅麹の血圧降下作用としては、1日当たり紅麹27g相当の紅麹エキスを2週間摂取することにより、その発現が確認され(井上ら;医学と薬学 第30巻 第1号 231〜240ページ)、また、1日当たり紅麹9g相当の紅麹エキスを6ヶ月間長期摂取することにより、有意な血圧降下作用が確認されている。(井上ら;栄養学雑誌 第53巻 第4号 263〜271ページ)。
また、紅麹の血圧降下作用の一成分はGABAであり(辻ら;栄養誌,50,285(1992))、また、本血圧降下作用は、菌の繁殖が進んで麹の菌体量(グルコサミン量)が多くなったものほど強いことが明らかになっている。(日本食品工業学会誌 第39巻 第9号 790〜795ページ)。
従来より提供されている紅麹は、グルコサミン量3〜8mg/g、GABA含量20〜50mg/100gである。
【0004】
一方、紅麹を食品へ利用する場合、紅麹の添加量を多くすれば、薬理効果は高まるものの食品本来の風味を損う傾向が強くなり、また添加量を少なくすれば、風味は損なわないものの薬理効果への期待は薄くなる。実際、醸造食品においては紅麹を醸造原料の一部として、またパンや麺類においては食品素材として直接添加するが、紅麹の有効必要量をこれらの食品で摂取するのは、必ずしも容易ではない。そのため、醸造食品や主食など幅広い食品分野で利用可能な、血圧降下有効成分を高い割合で含有する紅麹、すなわち菌体量(グルコサミン量)およびGABA含量の多い紅麹が望まれるところである。
【0005】
しかしながら、モナスカス属の菌種は極めて繁殖力が弱く、通常の製麹条件では満足できるグルコサミン量、GABA含量の紅麹は得られない。また、製麹原料に、通常の液体培養で使われる培地原料を添加すれば生育が良くなり、菌体量(グルコサミン量)が増加することも期待できるが、必ずしもGABA含量が同時に増加するわけではなく、逆にペプトン類やエキス類などの使用はコストが高くなる課題が生じる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
以上のような実情に鑑み、本発明は、安価で安全な天然原料を使用し、菌体量(グルコサミン量)、およびGABA含量を増加する新規な方法を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
しかるに、本発明は、大豆類、小麦類、胚芽類の内、少なくとも1種類を含む白米を製麹原料として用い、製麹終了時の水分率が55%以上になるよう加水手入れして製麹すること、製麹開始時、または製麹期間中にビタミンBを添加することに特徴を有する血圧降下成分を多く含む紅麹の製造方法に関し、さらに、これらの方法で得た紅麹、かかる紅麹を原料として得た抽出物または、加工物の提供に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の製麹原料は、大豆類、小麦類、胚芽類の内、少なくとも1種類を白米に添加したものである。これらは通常の製麹原料あるいは食品素材であり、経口的に使用しても支障がなく、食品や化粧料等への利用に好適である。
これに用いる白米とは、搗精による歩留が92%以下の米をいい、破砕米のような形状も含む。
また、大豆類としては、たとえば脱脂大豆、小麦類としては、たとえば炒り小麦、胚芽類としては、たとえば米胚芽や小麦胚芽が用いられ、これらを適宜選択し、単独、もしくは混合して前記した白米に添加して用いる。また、その原料組成としては、大豆類は添加量が多すぎると発明の効果が期待できなくなるので、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下とする。他の原料組成は、大豆類の使用量を考慮して決定すればよい。
更に、ビタミンBは、0.001重量%以上、好ましくは0.002〜0.02重量%程度を製麹開始時あるいは期間中に添加して製麹すると、高い効果が得られる。
【0009】
加水手入れとは製麹時に水を加え、均一に混合・ほぐす操作を指し、本発明における条件は、従来の加水条件、例えば、製麹終了時の水分率45〜55%より多い目の55%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上とする。
水分率の調整は、例えば、製麹期間中数回に分け、適量の水を加える方法が挙げられるが、麹の吸水状態、水分率を確認しながら、徐々に水分率を高めていくのが好ましい。
なお、かかる水分率は、加熱乾燥法における赤外線ランプ加熱乾燥法(食品分析法 17〜19ページ 1982年記載:日本食品工業学会・食品分析法編集委員会編,光琳発行)により測定した値をいい、下記の式により求めたものである。
水分率(%)=(紅麹重量)−(絶乾重量)/紅麹重量×100(%)
また、他の製麹条件は通常の製麹法に従って行えばよく、一般には、20〜40゜Cで、2〜14日間紅麹菌を好気的に培養する。
紅麹菌としては、モナスカス(Monascus)属に属するものであればいずれの菌であってもよく、例えば、モナスカス・プルプレウス(Monascus purpureus)、モナスカス・アンカ(Monascus anka)、モナスカス・ピローサス(Monascus pilosus)や、これらの変種、変異株などが挙げられる。
【0010】
本発明の紅麹は、麹の利用法として公知の全ての用途に利用でき、醸造食品の原料としてだけでなく、常法により、菌および酵素の失活物、乾燥物、乾燥粉砕物、抽出エキス、抽出エキス濃縮物、抽出エキス粉末などのごとき加工物として用いてもよい。例えば、得られた麹または菌および酵素の失活物を公知の乾燥方法により乾燥し、所望により粉砕して麹乾燥物や粉末状のものとすることができる。また、得られた麹あるいはその乾燥物または粉末を、常法により、例えば含水アルコール、アセトンなどの溶媒で抽出し、所望により、濃縮乾燥して濃縮エキスまたは粉末状のエキスとすることもできる。
かくして、本発明は上記の条件で製造することにより、菌体量(グルコサミン量)、GABA含量を増加した紅麹を提供できるものである。
また、このような方法によって得られた紅麹を更に40〜70゜Cに加温して1時間以上外気と遮断して密閉したり、炭酸ガス、窒素ガス等を封入し、或いはガス置換等して、嫌気的に処理することにより、更にその効果を高めることができる。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、水分率は、製麹終了時の麹に対し、前記した赤外線ランプ加熱乾燥法により測定したものである。
【0011】
【実施例1】
原料として脱脂大豆5重量%と炒り小麦20重量%を含む浸漬米30gを三角フラスコに入れ、125゜Cで30分間蒸煮滅菌した後、紅麹(菌株名:モナスカス・ピローサスIFO4520)を接種した。これを高水分率になるように、植菌時と製麹3日に7ml、5日に3ml、6日と7日に2mlずつ加水手入れし、30゜Cで8日間製麹を行った。さらにビタミンB添加区として、上記の製麹3日と5日に、ビタミンBを0.01重量%ずつ添加した。対照として、浸漬米30gを原料とし、加水条件を植菌時4ml、製麹3日に4mlとして、同様に製麹を行った。製麹終了後、110゜Cで20分間失活処理を行い、送風乾燥機にて、60゜Cで、水分含量10%以下に乾燥して紅麹試料とし、菌体量(グルコサミン量)およびGABA含量を測定した。
菌体量(グルコサミン量)の測定は、SAKURAIらの方法(Agric.Biol.Chem.,41,619(1977))に従って行った。GABA含量の測定は、粉砕機により粒子径297μm以下に粉砕した紅麹粉末に7%濃度のスルホサリチル酸を加えて撹拌抽出し、アミノ酸分析機(日本電子JLC−300)で常法に従って分析した。各麹区の最終水分率、菌体量(グルコサミン量)およびGABA含量を表1に記す。表1より、対照区に比べ、高水分・脱脂大豆添加区が、菌体量(グルコサミン量)、GABA含量とも飛躍的に増加しており、ビタミンB添加区ではさらにGABA含量が増加した。
【0012】
【表1】
Figure 0004363692
【0013】
【実施例2】
原料として浸漬米30g、あるいは脱脂大豆5重量%を含む浸漬米30gを三角フラスコに入れ、実施例1と同様に蒸煮滅菌および紅麹菌の接種を行った。これらを種々の水分率条件になるように、次の条件で植菌時および製麹期間中に加水手入れし、30゜Cで8日間固体培養した:加水条件1;植菌時と製麹3日に4ml添加、加水条件2;植菌時と製麹3日に5ml添加、加水条件3;植菌時と製麹3日に6ml添加、加水条件4;植菌時と製麹3日に7ml、6日に2ml添加。製麹終了後、麹をポリプロピレン製袋に入れ、密閉して50゜Cで1時間加温処理を行った。これを、実施例1と同様に110゜Cで20分間失活処理を行い、送風乾燥機にて、60゜Cで、水分含量10%以下に乾燥して紅麹試料とし、菌体量(グルコサミン量)およびGABA含量を測定した。各麹区の最終水分率、菌体量(グルコサミン量)およびGABA含量を表2に記す。表2より脱脂大豆添加・無添加区とも、最終水分率を高くするに従い、菌体量(グルコサミン量)、GABA含量とも増加の傾向であるが、最終水分率60%付近では脱脂大豆無添加区は菌体量(グルコサミン量)、GABA含量とも頭打ちの状態であり、明らかに脱脂大豆添加の効果が確認できた。
【0014】
【表2】
Figure 0004363692
【0015】
【実施例3】
原料として脱脂大豆5重量%を含む浸漬米について、さらに高水分の効果を検討した。実施例2の脱脂大豆添加区において、次の条件で植菌時および製麹期間中に加水手入れし、30゜Cで8日間固体培養した:加水条件1;植菌時と製麹3日に7ml、6日に2ml添加、加水条件2;植菌時と製麹3日に7ml、5日、6日、7日に2ml添加、加水条件3;植菌時と製麹3日に7ml、5日に3ml、6日、7日に2ml添加、加水条件4;植菌時と製麹3日に7ml、5日、6日に3ml、7日に2ml添加。製麹終了後、実施例2と同様に加温処理、失活処理および乾燥処理を行い、菌体量(グルコサミン量)およびGABA含量を測定した。各麹区の最終水分率、菌体量(グルコサミン量)およびGABA含量を表3に記す。表3から明らかなように、水分率条件を高くするに従い、さらに菌体量(グルコサミン量)、GABA含量とも増加した。
【0016】
【表3】
Figure 0004363692
【0017】
【実施例4】
原料中の脱脂大豆含量について検討した。5,10,20,50重量%の脱脂大豆を含む浸漬米30gを用いて、実施例1と同様に蒸煮滅菌、紅麹菌の接種および高水分率になるように加水手入れを行い、30゜Cで8日間製麹を行った。製麹終了後、実施例2と同様に加温処理、失活処理および乾燥処理を行い、菌体量(グルコサミン量)およびGABA含量を測定した。各麹区の最終水分率、菌体量(グルコサミン量)およびGABA含量を表4に記す。表4から明らかなように、脱脂大豆含量が5〜20重量%で、菌体量(グルコサミン量)、GABA含量とも良好な数値が得られたが、50重量%では著しく悪化する。
【0018】
【表4】
Figure 0004363692
【0019】
【実施例5】
(胚芽類の効果)
原料への胚芽類添加の効果を確認した。米胚芽10重量%あるいは小麦胚芽5重量%を含む浸漬米30gを用いて、実施例1と同様に蒸煮滅菌、紅麹菌の接種および高水分率になるように加水手入れを行い、30゜Cで8日間製麹を行った。製麹終了後、実施例2と同様に加温処理、失活処理および乾燥処理を行い、菌体量(グルコサミン量)およびGABA含量を測定した。各麹区の最終水分率、菌体量(グルコサミン量)およびGABA含量を表5に記す。表5から明らかなように、米胚芽、小麦胚芽も脱脂大豆と同様な効果が確認された。
【0020】
【表5】
Figure 0004363692
【0021】
【実施例6】
原料として脱脂大豆5重量%を含む浸漬米について、さらに炒り小麦あるいはビタミンB添加の効果を確認した。脱脂大豆5重量%と各含量の炒り小麦を含む浸漬米30gを用いて、実施例1と同様に蒸煮滅菌、紅麹菌の接種および高水分率になるように加水手入れを行い、30゜Cで8日間製麹を行った。製麹終了後、実施例2と同様に加温処理、失活処理および乾燥処理を行い、菌体量(グルコサミン量)およびGABA含量を測定した。また、脱脂大豆5重量%を含む浸漬米を用い、製麹3日と5日に、ビタミンBを0.01重量%ずつ添加して、同様に製麹を行い、菌体量(グルコサミン量)およびGABA含量測定を行った。各麹区の最終水分率、菌体量(グルコサミン量)およびGABA含量を表6に記す。表6より、添加原料は脱脂大豆単独であるより、炒り小麦あるいはビタミンBを併用することにより、さらに多量の菌体量(グルコサミン量)、GABA含量の紅麹を得ることができた。
【0022】
【表6】
Figure 0004363692
【0023】
【発明の効果】
本発明により、生育が良好で、菌体量(グルコサミン量)およびGABA含量の増加した紅麹を得ることができた。また、この機能を利用して、従来にない様々な食品、加工物が得られた。

Claims (3)

  1. 白米に対して1重量%以上50重量%未満の大豆、又は白米に対して1重量%以上20重量%未満の米胚芽若しくは小麦胚芽を含む白米を製麹原料として用い、モナスカス属に属する紅麹菌を接種して製造終了時の水分率が55%以上になるよう加水手入れして製麹することを特徴とする血圧降下成分を多く含む紅麹の製造方法。
  2. 製造開始時、または製麹期間中に白米に対して5重量%以上50重量%未満の炒り小麦を添加することを特徴とする請求項1記載の血圧降下成分を多く含む紅麹の製造方法。
  3. 請求項1または2に記載の方法で得られた、GABA含量が60mg/100g以上の紅麹。
    1
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