JP4362572B2 - ロバスト最適化問題を解く問題処理方法およびその装置 - Google Patents
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一般的に複数の設計変数x1、x2、…、xn(nは設計変数の数を表す)が存在するため、ここでは、設計変数をベクトルξ=(x1,x2,…,xn)として表現し、目的関数をf(ξ)、不等式制約条件関数をg(ξ)、等式制約条件関数をh(ξ)とすると、設計最適化問題は次のように表される。なお、ここでは、目的関数f(ξ)の最小化問題を考えるとする。
最小化:f(ξ),
制約条件:g(ξ)≦0,
h(ξ)=0
最小化:wμμf+wσσf 2,
制約条件:μf−nσf≧LSL,
μf+nσf≦USL
である。すなわち、シックスシグマ手法では目的関数の平均μfと分散σf 2を加算した値の最小化問題に置き換えられることになる。
また、シックスシグマ手法ではシグマレベルに関する制約条件も考慮しなくてはならないので、シグマレベルn及び、目的関数のばらつきの許容範囲の下限値/上限値を表すLSL/USLを用いて上記制約条件が定義される。
(1)目的関数において重み係数を与える必要がある。
この重み係数は、ロバスト最適化を行う際の目的関数の平均値、分散値各々の評価の重みを意味する。最適化計算を行う際に、平均及び分散の両方の値に適切な重み係数をユーザがあらかじめ設定し、所望の結果を導くようにすることは一般的に非常に難しい。例えば、目的関数の分散の重み係数wσを小さく設定しすぎると、ロバスト性に優れた最適解が求められない可能性がある。これとは反対に、目的関数の分散の重み係数wσを大きく設定しすぎても、最適性に優れた解を求めるという最適化本来の目標が実現されない可能性がある。対象問題の特性に応じて平均値、分散値各々の評価の重みには任意性がある。そのため、ユーザは所望の結果が算出されるまでに各重み係数の値を変えながらロバスト最適化計算の試行を何度も繰り返さなければならず、その結果、ロバスト最適解を得るまでには多大な労力と時間とが必要となってしまうという問題がある。
各最適化問題に対して制約条件を満たすロバスト最適解が存在するシグマレベルは実際に最適化計算を行わなければ知ることができない。つまり、実際の計算により得られた最適解を基に、シグマレベルがいくつであるか後処理的に決定することになる。このため、制約条件のシグマレベルを設定して計算を開始させる段階では、各ユーザは制約条件を満たすロバスト最適解が存在するシグマレベルに関する何の情報もなく制約条件におけるシグマレベルをいわば手探りで設定しなくてはならない。このため、設定したシグマレベルが結果として厳しすぎる場合、そのシグマレベルを満たすロバスト最適解が求まらない可能性がある。これとは反対に、シグマレベルを低く設定しすぎても最適解としての信頼性が不十分になってしまう。したがって、適切なシグマレベルを設定するために何度もロバスト最適化計算を試行錯誤的に繰り返して決定する必要があり、非効率的にならざるを得ないという問題が生じている。
一般的に、ロバスト最適化問題においては、目的関数に係る最適性の改善とロバスト性の改善とは相反する性質を有している。つまり、最適性を向上させようとすればロバスト性は低下し、逆にロバスト性を向上させようとすれば最適性は低下してしまうのである。よって、最適性が適度に優れていながらロバスト性も良いというロバスト最適解の算出では、求まるロバスト最適解は1個だけではなくシグマレベルに応じた複数個の解が存在することになる。設計者にとってみれば、これら複数個の最適解が求まり、目的関数の最適性とロバスト性との間に存在するトレードオフ情報を得ることができるようになれば、設計変数等の意思決定を行う上で大きな助けとなる。
また、設定された多目的関数は目的関数の最適性に関する指標の重み係数、ロバスト性に関する指標の重み係数を含まない形で定式化されており、さらに目的関数のばらつきの許容度を示すレベル値に関する制約条件を含まないため、目的関数の最適性に関する指標の重み係数、ロバスト性に関する指標の重み係数、そして目的関数のばらつきの許容度を示すレベル値をあらかじめ設定することなくロバスト最適解計算を行うことが可能となる。このため、十分な個数のロバスト最適解を算出するまでに要していた計算時間を格段に短縮することができ、目的関数の最適性とロバスト性間のトレードオフ情報の全体像を簡易に且つ効率良く求めることができる。
まず始めに、本発明の多目的シックスシグマ手法による最適化問題の定式化について説明しておく。本実施形態では、目的関数の最適性に関する指標及びロバスト性に関する指標として、それぞれ典型的な平均値μfと標準偏差σfを用いることとするが、必ずしもこれに限定されない。例えば、最適性に関する指標にはメディアン(中央値)、モード(最頻値)、ミッドレンジ(分布の範囲の中間値)、目的関数自体などを、またロバスト性に関する指標には分散、歪度、尖度、範囲などを用いた場合でも本発明の根本的な概念、作用・効果は同様に奏することができることは明らかである。
最小化:μf,
σf ……式(1)
前述したように、本発明では、平均値μf及び標準偏差σfの値をそれぞれ別個独立の2つの目的関数として定義して多目的最適化計算を行うようにしていることに特徴がある。
従来のシックスシグマ手法ではシグマレベルに関する制約条件を考慮していたが、本発明の多目的シックスシグマ手法ではこれを考慮せずに計算を行えるため、制約条件として事前にシグマレベルを用いた式が存在しない。また、本発明では、目的関数の平均値、分散値に対する重み係数についても事前に設定する必要がないので、前述したように非常にシンプルな目的関数となっている。なお、本本実施形態における「シグマレベル」は、特許請求の範囲における「目的関数のばらつきの幅を示すレベル値」に相当する。
いま、多目的最適化問題の一例として、図3に示されるように、東京から福岡まで移動するにあたり、飛行機、新幹線、普通列車、及びバスの4つの交通手段の中から何れを選ぶのが最適であるかという問題を考えるとする。ここでは、各交通手段を「運賃」及び「移動時間」という観点で比較することとする。
図3から分かることは、飛行機で移動した場合、移動時間は最も短いものの運賃は最も高くついてしまう。また、新幹線で移動した場合、飛行機に比べて運賃は安く済むが移動時間は長くかかってしまう。また、バスで移動した場合、新幹線に比べて更に運賃は安く済むが移動時間は長くかかってしまう。このような状況では、飛行機、新幹線、及びバスの3つの交通手段は、他の交通手段と比較した場合に運賃と移動時間のいずれかは有利であって両方ともに不利益になってはいないことから、これら3つは最適交通手段の選択肢として残るべきものといえる。実際には、各利用者が運賃と移動時間とのどちらをどれだけ優先するかに応じて、3つの交通手段の中から選ばれることになろう。
一方、普通列車で移動した場合には、バスに比べて運賃が高く付きかつ移動時間も長くかかることが分かる。すなわち、普通列車はバスに比べて運賃及び移動時間の両観点で不利であるため、普通列車は最適交通手段の選択肢から外れるべき対象であるといえる。
なお、進化的アルゴリズムは、前述したような遺伝子を0と1のビット列の2進数に変換することを要する手法のみならず、扱う変数が実数値であれば実数値のまま各遺伝子的操作を施す手法も含んでいる。この場合、実数をビット列に変換する際に生じる丸め誤差の発生を防ぐことができるので高精度な処理計算を行う場合に有益である。
一般的に、制約条件を強制的に満たす設計候補空間のみを探索しようとすると効率的ではなく、解が収束しなかったり或いは収束したとしてもその設計候補が制約条件を満たしていなかったりすることもある。そこで最適化計算における設計候補の更新過程で設計候補が制約条件を厳密に満たすことを要求するのではなく、最終的に設計候補が収束した時点で制約条件が満たされていることを要求する最適化手法の考え方も存在する。進化的アルゴリズムでこれを実現する場合、各設計候補の優劣指標として、目的関数と制約条件関数の違反度(どれだけ制約条件を満たさないか)に対する適応度F(ξ)を定義してこの適合度に基づいた進化を行うようにする。特に本発明の多目的最適化問題の場合にはパレート最適解集合を得ることが目標となるため、パレート最適性に基づいた適応度F(ξ)の定義が必要となる。
今、最小化:f1(ξ),
f2(ξ)
で表される制約条件を有しない2目的最適化問題を考えるとする。ある世代において、各個体(設計候補)が図19に示されるように目的関数空間に分布し、そのうち、●で示される個体はパレート最適解(他のどの解よりも劣っていない解)を表す。最初に、これらの各個体に対して、パレート最適性に基づいてランク(rank(ξ))を割り当てる。例えば、パレート最適解に対してはランクを1と設定し、それ以外の個体に対しては(自分よりも優れた個体数+1)をランクとして設定する。なお、図19中には各個体のランクの数値をあわせて記した。
明らかに、目的関数値f1(ξ),f2(ξ)の双方が他の設計候補よりも小さいほど割り当てられたrank(ξ)が小さくなり、結果として適応度F(ξ)が大きくなる。したがって、適応度F(ξ)が大きい設計候補ほど次世代に残りやすくなるようにした多目的進化的アルゴリズム計算を行うことにより、目的関数値f1(ξ),f2(ξ)の双方が他の設計候補よりも小さくなる(パレート最適性に優れる)方向に設計候補が更新されていくことになる。このようにして、上式のような適応度F(ξ)を定義することにより、パレート最適性に基づいた多目的最適化計算が可能となる。なお、前述した適応度F(ξ)の定義、rankの定義、制約条件を厳密に満たす個体を要求するか否か、並びに遺伝子の選択・交叉・突然変異の操作方法やその操作順序は一例であってこれに限定されるものではなく、ユーザによって任意に定義してもよいことは言うまでもない。
本発明の多目的シックスシグマ手法では目的関数の最適性に関する指標と目的関数のロバスト性に関する指標の双方をあたかも個別の目的関数として扱うため、上記のようなやり方を用いることで目的関数の最適性に関する指標と目的関数のロバスト性に関する指標の双方を改善するロバスト最適化計算を行うことができる。
このような多目的進化的アルゴリズムを、本発明の多目的シックスシグマ手法における最適性とロバスト性を兼ね備えた複数の最適解の算出のために適用しているのである。
ステップS503で、初期値が設定された設計候補の設計変数値を中心とした複数のサンプル点をモンテカルロシミュレーション等によって発生させ、ステップS504で、発生させた各サンプル点における目的関数値f(ξ)を算出する。ステップS505では、これら複数の目的関数値f(ξ)の平均値μf、及び標準偏差σfを算出する。
次に、ステップS602で設定された複数の設計候補の各近傍で、設計変数値を中心としてサンプル点を発生させる。図17は、縦軸及び横軸の2次元の場合の設計変数値を中心に発生させたサンプル点の分布例を示したものである。図17に示されるように、設定された設計変数値(●印)を中心にしたその周囲にサンプル点(○印)を発生させているので、縦軸及び横軸におけるサンプル点の確率密度分布は、●印を分布中心とした正規分布になる。
なお、図17では正規分布の例を示したが、サンプル点の確率密度関数は必ずしも正規分布であるとは限らず、ユーザが任意に設定することができる。また、この統計量算出のためのサンプル点の発生には、これに限定するものではなく、従来のシックスシグマ手法と同様にモンテカルロシミュレーションをはじめとする各種アルゴリズムに基づく手法(例えば、差分を利用したテーラ展開近似など)が用いられる。また、サンプル点の発生は、設計変数間の依存関係を考慮した各設計候補ごとに行う他、各設計変数ごとに独立して行うようにしてもよい。
一方、まだ収束状態でない場合にはステップS602に戻って、前述した遺伝操作を反復させながら収束状態に達するまで次の世代の複数の設計候補を生成することを繰り返す。
ξ=(x1,x2,…,xn)である。
多目的進化的アルゴリズムでは、複数の設計変数x1、x2、…、xnに対して異なる設計変数値を持つ複数の設計候補ξ1,ξ2,…,ξNを有して構成される集団を遺伝的操作によって次々に世代交代させて前集団よりも目的関数値が小さく、かつ制約条件関数の違反度が小さいという意味で優れた次集団が作り出される。これは以下のように表わせる。
(ξ1 0,ξ2 0,…,ξN 0)→(ξ1 1,ξ2 1,…,ξN 1)→(ξ1 2,ξ2 2,…,ξN 2)→…
ここで、上付き添字0、1、2、…は反復計算回数(世代数)であり、下付き添字1、2、…、Nは集団を構成する設計候補の個体番号(Nは設計候補数(個体数))である。ステップS607で、収束までの全世代の個体分布を統括的に見ることで複数のロバスト最適解が求められる。
ここでは、前述した多目的シックスシグマ手法による最適化計算を行うハードウェア構成(以下、演算装置700と略す)の一例について説明する。図18は、演算装置700の構成を示したものである。
演算装置700は、上記図18に示すように、バス708によって作動的に接続されたプロセッサ702、メモリ704、ディスク706、入出力ポート710、及びネットワークインタフェース712を含むいわゆるコンピュータ700である。本明細書で説明されたコンピュータ実行可能な方法は、コンピュータ700のようなコンピュータ上で実施することができる。なお、コンピュータ700の構成に限定されるものではなく、他のコンピュータもまた本明細書で説明される方法に用いることができる点を理解されたい。
メモリ704は、揮発性メモリ及び/又は不揮発性メモリを含むことができる。不揮発性メモリは、限定するものではないが、読出し専用メモリ(ROM)、プログラム可能読出し専用メモリ(PROM)、電気的プログラム可能読出し専用メモリ(EPROM)、電気的消去可能プログラム可能読出し専用メモリ(EEPROM)、及びこれらに類するものを含むことができる。揮発性メモリは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、シンクロナスRAM(SRAM)、ダイナミックRAM(DRAM)、シンクロナスDRAM(SDRAM)、ダブルデータレートSDRAM(DDR SDRAM)、及びダイレクトRAMバスRAM(DRRAM)を含むことができる。ディスク706は、限定ではないが、磁気ディスクドライブ、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、テープドライブ、Zipドライブ、フラッシュメモリカード、及び/又はメモリスティックのようなデバイスを含むことができる。更に、ディスク706は、コンパクトディスクROM(CD−ROM)、CD書き込み可能ドライブ(CD−Rドライブ)、CD書き換え可能ドライブ(CD−RWドライブ)、及び/又はデジタル多機能ROMドライブ(DVD ROM)のような光ドライブを含むことができる。また、メモリ704は、例えばプロセス714及び/又はデータ716を記憶することができる。
(適用例1)
テスト関数問題へ適用した例である。いま、テスト関数として次式で表されるものを考えるとする。
上記テスト関数の分布は図8に示すとおりである(本テスト関数は、x=0を中心として左右対称の値をとるが、図8では特にxが正の場合を示している)。このテスト関数のロバスト最適化問題、即ち、
最小化:μf,
σfを考える。
図9において「×」で示した箇所が従来のシックスシグマ手法によって求まった最適値である。これは表1に示す値で平均及び標準偏差の各重み係数(wμ、wσ)を変えた7回の計算結果から得られた2個の値をプロットしたものである。なお、シグマレベルをさまざまに変えて試行を繰り返すことにより、ロバスト最適解の存在するシグマレベルが3σであることが判明した。
さらに言えることは、このテスト関数ではシグマレベル3σを満たすロバスト最適解は3個存在しているのにもかかわらず(μf=−0.73、−0.69、−0.56の箇所)、従来のシックスシグマ手法はそれらのうちの2個しか見つけ出せなかったことから、従来のシックスシグマ手法はロバスト最適解の探索能力を十分に有しているとは言えないと評価できる。
一方、本発明の多目的シックスシグマ手法を用いた場合には、前述したように5個すべてのロバスト最適解を一度の計算で手間無く効率よく得ることができている。また、図9で示されるシグマレベル4σの場合はロバスト最適解が見つけられなくなるのに対してシグマレベル3σの場合は見つけ出せていることから、計算結果から満足し得る最高シグマレベルはおよそ3σであることがわかる。
片持ち梁の材料コスト最小化問題へ適用した例である。つまり、工学製品設計問題へ適用する一例として、片持ち梁の材料コスト最小化問題を考えることとする。図11に示すような片持ち梁を製造する際に、その材料コストが最小となる梁の寸法を求める問題を想定する(目的関数は材料コストである)。ここで、設計変数は、図11に示される各寸法のうち、h,l,t,bの計4個である。いま、設計変数をξ=(x1,x2,x3,x4)=(h,l,t,b)と表すとすれば、目的関数である材料コストf(ξ)は次式のように表される。
但しc1=0.10471,c2=0.0411である。
τ(ξ)−τmax≦0,
σ(ξ)−σmax≦0,
x1−x4≦0,
c1x1 2+c2x3x4(L+x2)−5≦0,
δ(ξ)−δmax≦0,
P−Pc(ξ)≦0
ここで、τ(ξ)は溶接材のせん断応力、σ(ξ)は梁の最大曲げ応力、δ(ξ)は梁端のたわみ、Pc(ξ)は梁の座屈荷重を表す。以上の制約条件の下、材料コストの平均を最小化し、標準偏差値を最小化するロバスト最適化問題を想定する。
これから分かるように、本発明の多目的シックスシグマ手法を用いた場合には、図12で示されるような複数個のロバスト最適解をわずか1回の計算で効率良く得ることができ、しかもグラフ上のロバスト最適解の分布状態から、材料コストの平均値と標準偏差値間のトレードオフの関係を容易に把握することができる。
航空機の翼断面形状の空力最適化問題へ適用した例である。つまり、空力最適化問題への適用として、ここでは火星飛行機の翼断面形状を例に説明する。
火星飛行機の巡航状態である翼弦長基準のレイノルズ数1×105(層流と仮定)、マッハ数0.4735、迎角2度の飛行条件下で、揚抗比(揚力/抗力)が最大となる翼断面形状を求める。ここで目的関数は揚抗比である。図13は、Bスプライン曲線によって定義した翼断面形状を表しているが、その曲線上の制御点(計6点)のグラフ縦軸で示されるy座標(翼厚方向)を設計変数としている。そこで、この空力最適化問題において揚抗比の平均を最大化し、且つ標準偏差値を最小化するロバスト最適化問題を想定する。なお、ここでは翼厚に関する制限は考慮していない。
二段式スペースプレーン統合最適設計問題へ適用した例である。つまり、最適概念設計問題へ適用する一例として、我が国における将来宇宙輸送システムの1つとして考えられている二段式スペースプレーンの統合最適設計問題をとり挙げる。そこで、図15に示されるように、高度400kmの赤道面円軌道に10tのペイロードを投入するミッションを想定し、そのミッションを実現できる機体コンセプトのうち、初期離陸重量が最小となるものを求める。つまり、ここでの目的関数は初期離陸重量である。また、設計変数は、エンジンサイズ、最大飛行動圧、機体サイズ等の各パラメーターである。そこで、この統合最適設計問題において、初期離陸重量の平均及び標準偏差の各々の値を最小化するロバスト最適化問題を考える。
また、本発明は、(適用例1)〜(適用例4)の以外の多目的最適化問題にも適用できる。本明細書では、通常の最適化問題として単目的最適化の
最小化:f(ξ),
を採用し、それを拡張した、
最小化:μf,
σf
を例として本発明を説明していた。しかし、これはベースとなる通常の最適化問題が単目的の場合に限定されることを意図しておらず、多目的最適化問題の場合であっても、本発明は適用できる。例えば、通常の最適化問題が2目的最適化問題の
最小化:f1(ξ),
f2(ξ),
である場合、これに本発明を適用させると、
最小化:μf1,
σf1,
μf2,
σf2
という定式化になる。ここで、μf1は目的関数f1(ξ)の平均、σf1は目的関数f1(ξ)の標準偏差、μf2は目的関数f2(ξ)の平均、σf2は目的関数f2(ξ)の標準偏差を表す。すなわち、ベースとなる通常の最適化問題が2目的最適化問題である場合、それを4目的最適化問題に拡張させることで本発明を適用することが可能である。
基本的に、最適化問題は、設計変数、そして設計変数の関数である目的関数、及び制約条件によって定義されるものである。しかし場合によっては、目的関数、制約条件は設計変数だけでなく環境変数の関数になることもある。ここで、環境変数とは最適化されない(最適化計算によって値が更新されない)目的関数の変数を表す。本明細書で説明した翼形状の空力最適化を例にとると、目的関数である翼の揚抗比を求めるためには、設計変数である翼断面形状だけでなく、飛行条件(レイノルズ数、マッハ数、迎角)も与えないと求めることができないが、この飛行条件こそが環境変数に相当する。実際には、翼断面形状などの設計変数だけにばらつきが存在するのではなく、飛行条件などの環境変数にもばらつきが存在するのが普通である。よって、設計変数のばらつきだけでなく環境変数のばらつきも考慮したロバスト最適化が必要となる場合もある。
本明細書では設計変数のばらつきだけが存在する場合に限定した記載になっているが、本発明は設計変数のばらつきだけでなく、環境変数のばらつきを考慮することも可能である。具体的には、図6のステップS602で設計変数だけでなく環境変数もばらつかせてサンプル点を発生させることにより、ステップS604で設計変数のばらつきだけでなく環境変数のばらつきに対する目的関数のばらつきが評価できる。
前述したように、本明細書では、本発明の定式化は前記式(1)の
最小化:μf,
σf,
で記載されているが、定式化はこれに限らないことに留意すべきである。定式化に関して重要な点は、目的関数の最適性に関する指標と、目的関数のロバスト性に関する指標とを別個独立の目的関数とすること、及び目的関数のばらつきの許容度を示すレベル値に関する制約条件を含まないことの2点である。よって、例えば、最適解の探査領域を狭めて収束性を向上させるために、極端に目的関数値が大きくなる設計候補は避けるといった制約条件を定式化の中に付加する場合など、前記式(1)に対してさらに他の制約条件が付加されることを含むものである。
本明細書では、通常の最適化問題として制約条件を有しない場合、
最小化:f(ξ)、
を採用し、それを拡張したロバスト最適化問題、
最小化:μf,
σf
を例として本発明を説明していた。そして図7では、得られたロバスト最適解の情報である目的関数f(ξ)の平均μfと標準偏差σfの分布状態と、目的関数f(ξ)のばらつきの許容度を示すレベル値nに関する制約条件関数値=0(すなわち、μf−nσf=LSL、μf+nσf=USL)となる境界線の相対位置関係から、得られた各ロバスト最適解に対して満たされる目的関数f(ξ)に関するレベル値nが後処理的に判明することを説明していた。ここではさらに、通常の最適化問題として制約条件を有する場合、
最小化:f(ξ)、
制約条件:g(ξ)≦0
について説明する。これをロバスト最適化問題に拡張すると、
最小化:μf,
σf,
制約条件:g(ξ)≦0
という定式化になる。設計変数ξがばらつくことによって、目的関数f(ξ)がばらつくだけでなく、制約条件関数g(ξ)もばらつく。このような定式化の下でロバスト最適化計算を行うと、目的関数f(ξ)の平均μfと標準偏差σf双方の値が小さく、かつ設計変数ξがばらつかない(設計変数ξが平均値をとる)時に制約条件g(ξ)≦0が満たされる設計候補がロバスト最適解として求められる。つまり、このような定式化の下では、得られるロバスト最適解はあくまでも設計変数ξが平均値をとる場合に制約条件g(ξ)≦0を満たすことを保証しているに過ぎず、制約条件関数g(ξ)のばらつき方によっては制約条件g(ξ)≦0が満たされない確率が無視できないくらい大きくなることも起こりうる。よって、目的関数のみならず、制約条件関数に関してもばらつきの許容度を示すレベル値を評価することも重要である。本発明は、制約条件関数のばらつきの許容度を示すレベル値を評価することも可能である。
具体的には、図6のステップS603で目的関数値f(ξ)だけでなく制約条件関数値g(ξ)も各サンプル点において算出し、ステップS604で目的関数f(ξ)の平均μfと標準偏差σfだけでなく制約条件関数g(ξ)の平均μgと標準偏差σgも統計処理によって算出する。ステップS608では、得られたロバスト最適解からばらつきの許容度を示すレベル値(シグマレベル)nを評価するが、その際に用いられるロバスト最適解の情報として、目的関数f(ξ)の平均μfと標準偏差σfの分布状態だけではなく、制約条件関数g(ξ)の平均μgと標準偏差σgの分布状態も考える。図7で説明した目的関数f(ξ)のばらつきの許容度を示すレベル値の評価と同様に、制約条件関数g(ξ)に関しても、その平均μgと標準偏差σgの分布状態と、制約条件関数g(ξ)のばらつきの許容度を示すレベル値nに関する制約条件関数値=0(すなわち、μg+nσg=0)となる境界線の相対位置関係から、得られた各ロバスト最適解に対して満たされる制約条件関数g(ξ)に関するレベル値nも後処理的に評価できる。
702 プロセッサ
704 メモリ
706 ディスク
708 バス
710 入出力ポート
712 ネットワークインタフェース
714 プロセス
716 データ
718 入出力デバイス
720 ネットワーク
722 遠隔コンピュータ
Claims (8)
- 制約条件を満たし、かつ与えられた目的関数の最適性とロバスト性の双方が改善するように1つ以上の設計変数の値を決定するロバスト最適化問題を解くプロセッサと、データ入力手段とを有する計算処理装置のための問題処理方法であって、
前記データ入力手段により、
ロバスト最適化問題を定義するために目的関数及びシグマレベルを含む制約条件関数を設定する関数設定工程と、
複数の設計候補の設計変数に初期値を入力する初期設計候補入力工程と、
前記プロセッサが、
前記入力された目的関数に基づき、最適性とロバスト性の指標をトレードオフ関係にある複数の目的関数にそれぞれ別個に設定して、前記複数の目的関数からのみ設計候補をパレート最適解に収束させるため、パレート最適解のための目的関数を生成する工程と、
前記入力された初期値を基に複数の設計候補を生成する設計候補生成工程と、
前記生成された複数の設計候補を記憶する設計候補記憶工程と、
前記生成された複数の設計候補の各近傍で、設計変数値を中心としてサンプル点を複数発生させるサンプル点発生工程と、
前記発生させた複数のサンプル点を記憶するサンプル点記憶工程と、
前記複数のサンプル点を読出し、各サンプル点における前記パレート最適解のための目的関数の値を算出し、当該目的関数値の平均値及び標準偏差を各設計候補ごとに算出する統計量算出工程と、
前記算出された平均値及び標準偏差を基に、前記各設計候補のロバスト最適解の評価指標を表す優劣指標をパレート最適性に基づいて算出する優劣指標算出工程と、
前記算出された優劣指標を前記各設計候補に対応づけて記憶する優劣指標記憶工程と、
前記優劣指標を読出して、当該優劣指標の良い設計候補を選択する設計候補選択工程と、
前記選択された設計候補を基に、新たな設計候補を作成する設計候補作成工程と、
前記作成された新たな設計候補を、既に生成され前記設計候補記憶手段により記憶されている設計候補の一部と入れ替えて記憶する設計候補入れ替え工程と、
前記入れ替えられた新たな設計候補を含む複数の設計候補を基に、前記サンプル点発生工程、前記サンプル点記憶工程、前記統計量算出工程、前記優劣指標算出工程、前記優劣指標記憶工程、前記設計候補選択工程、前記設計候補作成工程、及び前記設計候補入れ替え工程を繰り返し実行する反復処理工程と、
前記反復処理工程の実行により得られる複数のパレート最適解が収束した場合に当該反復処理を終了させる収束処理工程と、
前記収束処理工程で得られたパレート最適解のうち前記制約条件関数を充足するパレート最適解を抽出したり、又は目的関数値のばらつきをあらわすシグマレベルが変化したときのパレート最適解を各シグマレベル毎に演算することなく前記制約条件関数及び前記得られたパレート最適解から推測して、各シグマレベルとパレート最適解との関係を決定するシグマレベル評価工程と、
を有することを特徴とするロバスト最適化問題を解くための問題処理方法。 - 前記パレート最適解のための目的関数は、前記関数設定工程で入力された目的関数の最適性に関する指標の重み係数及びロバスト性に関する指標の重み係数を含まないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 前記設計候補選択工程は、複数の設計候補を並列的に扱い、パレート最適性という概念に基づいて各設計候補の優劣の比較を行うことにより、優れた設計候補を選択することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
- 前記パレート最適解のための目的関数を生成する工程で設定される最適性に関する指標は、前記目的関数の平均値、メディアン(中央値)、モード(最頻値)、ミッドレンジ(分布の範囲の中間値)、前記目的関数値自体である分布の代表値を示す統計量の少なくとも何れかを含み、前記ロバスト性に関する指標は、標準偏差、分散、歪度、尖度、又は範囲である分布の散布度を示す統計量を少なくても1つ含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
- 制約条件を満たし、かつ与えられた目的関数の最適性とロバスト性の双方が改善するように1つ以上の設計変数の値を決定するロバスト最適化問題を解く問題処理装置であって、
ロバスト最適化問題を定義するために目的関数及びシグマレベルを含む制約条件関数を設定する関数設定手段と、
複数の設計候補の設計変数に初期値を入力する初期設計候補入力手段と、
前記入力された目的関数に基づき、最適性とロバスト性の指標をトレードオフ関係にある複数の目的関数にそれぞれ別個に設定して、前記複数の目的関数からのみ設計候補をパレート最適解に収束させるため、パレート最適解のための目的関数を生成する手段と、
前記入力された初期値を基に複数の設計候補を生成する設計候補生成手段と、
前記生成された複数の設計候補を記憶する設計候補記憶手段と、
前記生成された複数の設計候補の各近傍で、設計変数値を中心としてサンプル点を複数発生させるサンプル点発生手段と、
前記発生させた複数のサンプル点を記憶するサンプル点記憶手段と、
前記複数のサンプル点を読出し、各サンプル点における前記パレート最適解のための目的関数の値を算出し、当該目的関数値の平均値及び標準偏差を各設計候補ごとに算出する統計量算出手段と、
前記算出された平均値及び標準偏差を基に、前記各設計候補のロバスト最適解の評価指標を表す優劣指標をパレート最適性に基づいて算出する優劣指標算出手段と、
前記算出された優劣指標を前記各設計候補に対応づけて記憶する優劣指標記憶手段と、
前記優劣指標を読出して、当該優劣指標の良い設計候補を選択する設計候補選択手段と、
前記選択された設計候補を基に、新たな設計候補を作成する設計候補作成工程と、
前記作成された新たな設計候補を、既に生成され前記設計候補記憶手段により記憶されている設計候補の一部と入れ替えて記憶する設計候補入れ替え手段と、
前記入れ替えられた新たな設計候補を含む複数の設計候補を基に、前記サンプル点発生手段、前記サンプル点記憶手段、前記統計量算出手段、前記優劣指標算出手段、前記優劣指標記憶手段、前記設計候補選択手段、前記設計候補作成工程、及び前記設計候補入れ替え手段を繰り返し実行する反復処理手段と、
前記反復処理工程の実行により得られる複数のパレート最適解が収束した場合に当該反復処理を終了させる収束処理手段と、
前記収束処理手段で得られたパレート最適解のうち前記制約条件関数を充足するパレート最適解を抽出したり、又は目的関数値のばらつきをあらわすシグマレベルが変化したときのパレート最適解を各シグマレベル毎に演算することなく前記制約条件関数及び前記得られたパレート最適解から推測して、各シグマレベルとパレート最適解との関係を決定するシグマレベル評価手段と、
を備えることを特徴とするロバスト最適化問題を解く問題処理装置。 - 前記パレート最適解のための目的関数は、前記関数設定手段で入力された目的関数の最適性に関する指標の重み係数及びロバスト性に関する指標の重み係数を含まないことを特徴とする請求項5に記載の問題処理装置。
- 前記設計候補選択手段は、複数の設計候補を並列的に扱い、パレート最適性という概念に基づいて各設計候補の優劣の比較を行うことにより、優れた設計候補を選択することを特徴とする請求項5又は6に記載の問題処理装置。
- 前記パレート最適解のための目的関数を生成する手段で設定される最適性に関する指標は、前記目的関数の平均値、メディアン(中央値)、モード(最頻値)、ミッドレンジ(分布の範囲の中間値)、前記目的関数値自体である分布の代表値を示す統計量の少なくとも何れかを含み、前記ロバスト性に関する指標は、標準偏差、分散、歪度、尖度、又は範囲である分布の散布度を示す統計量を少なくても1つ含むことを特徴とする請求項5〜7の何れか1項に記載の問題処理装置。
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