JP4362524B2 - Bcl−2蛋白発現剤、アポトーシス抑制剤および表皮細胞の紫外線dna障害防止剤 - Google Patents

Bcl−2蛋白発現剤、アポトーシス抑制剤および表皮細胞の紫外線dna障害防止剤 Download PDF

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Description

この発明は、皮膚などの細胞におけるBCL−2蛋白発現剤、アポトーシス抑制剤および表皮細胞の紫外線DNA障害防止剤に関するものである。
生薬としてよく知られた甘草は、薬用または甘味料原料として用いられ、化粧料などの皮膚外用剤の成分としても用いられている。また、水やアルコール水溶液などの水性溶媒で抽出された甘草の葉の抽出物は、皮膚の繊維芽細胞のコラーゲン産生を促進する作用のあることが知られている。
この作用により甘草抽出物は、真皮中の繊維状コラーゲンの産生を促進して皮膚張力を保ち、またコラーゲンによる水分保持機構を保つことにより皮膚の老化を防止している(特許文献1)。
また、甘草エキスは、皮膚において紫外線障害により生成されるメラニンの生成を抑制し、メラニンの排泄を促進することも知られており、そのような甘草抽出物として、甘草の根および根茎を水抽出濾過し、分取した水に不溶な水抽出残渣を原料に用い、そのエタノール抽出物を有効成分として用いた皮膚化粧料が知られている(特許文献2)。
さらに本願の発明者による先行技術として、甘草に含まれている美白成分の純度を精製して高め、特にリクイリチン以外の美白成分を精選し、すなわちチロシナーゼ阻害活性以外の作用によって美白効果を高めた美白性皮膚外用剤が知られている(特許文献3)。
ところで、皮膚その他の細胞死についてのアポトーシスは、プログラム細胞死とも称されるように、壊死とは異なり、様々な疾患の原因となったり、疾患の症状を進行させたりする生命現象である。このため、疾患に伴うアポトーシスを調整するための技術が要望され、医薬品の開発もなされている。
例えば、がん疾患の治療などにおいて皮膚に放射線を照射するとき、または日常的に紫外線を含む強い太陽光線が皮膚に照射されるとき、正常細胞にもアポトーシスが誘導されることが周知である。
このような正常細胞および疾患組織の細胞のアポトーシスを抑制することができれば、治療効果や、日常の紫外線防止対策にも役立つとも考えられるため、アポトーシス抑制剤の開発が進められている。
アポトーシスを抑制する遺伝子としては、BCL−xL、BCL−2、BCL−w、IAPなどが挙げられる。
このうち、BCL−2遺伝子は、染色体18q21.3にあり、当初に発見された濾胞性リンパ腫(Bcell lymphoma/leukemia)に因んで「BCL」と名付けられており、この遺伝子がコードする約26kDの蛋白は「BCL−2蛋白」と称されている。
BCL−2蛋白は、細胞質(核膜周囲を含む)に発現され、アポトーシス抑制因子として作用し、特に腫瘍細胞などの異常がある場合ばかりでなく、正常細胞においても神経系、腸粘膜、表皮基底層などにみられる。
また、BCL−2遺伝子は、色素幹細胞の維持に必須の遺伝子であり、その欠損により毛の白髪化が起こることが知られている。すなわち、毛包の色素幹細胞は、メラニンを生成する成熟した色素細胞と共に成長するが、BCL−2欠損マウスによる実験結果によると、発生を経てニッチに局在したメラノブラストが、色素幹細胞として休眠状態に入る瞬間にBCL−2遺伝子が生存に必須である。
特開2000−191498号公報(請求項1) 特開平 10−194959号公報(段落0005、段落0014) 特開2006−028157号公報(段落0016)
しかし、上記したBCL−2蛋白の発現性またはアポトーシスの抑制性について、前記した甘草抽出物に関連した知見はなく、特許文献1〜3で知られた美白作用や老化防止作用は、BCL−2蛋白の発現による抗アポトーシス性によって奏される作用とは異なり、生細胞に対するコラーゲン産生の促進やメラニン産生を抑制する作用によるものであった。
このように甘草の水性溶媒抽出物の利用技術としては、紫外線などで損傷した表皮細胞のBCL−2蛋白の発現性や異常なアポトーシスを抑制するということについては技術的に確立されていないということが問題である。
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して細胞のBCL−2蛋白の発現を亢進させ、さらには紫外線などで直接的又は間接的に損傷したDNAを有する細胞のアポトーシスを抑制し、細胞の組織修復性を高めて種々の薬剤に添加することもできて広い応用が期待できるBCL−2蛋白発現剤、アポトーシス抑制剤および表皮細胞の紫外線DNA障害防止剤とすることである。
この発明のBCL−2蛋白発現剤およびアポトーシス抑制剤は、本願の発明者が、表皮細胞の増殖性(PCNA)、BCL−2の発現、表皮細胞のアポトーシス抑制性がそれぞれ認められること、および表皮細胞の紫外線暴露によるDNA障害を軽減し、しかも正常な皮膚細胞に対しては、異常または悪い影響を与えないという性質を後述する実験方法とその結果に基づいて発見したことにより完成されたものである。
すなわち、この発明においては、水およびエタノール可溶性の甘草抽出物を有効成分として含有するBCL−2蛋白発現剤、アポトーシス抑制剤または表皮細胞の紫外線DNA障害防止剤とすることにより、前記した課題を解決したのである。
この発明における有効成分として採用される甘草抽出物は、正常な表皮細胞に対して無害かつ安全なものであり、すなわち正常な表皮細胞における細胞増殖能やアポトーシスに有意な変化を与えず、化粧料などに添加しても正常な表皮細胞に対してはアポトーシスを抑制するような顕著な作用を及ぼさない。
すなわち、従来の化粧料の使用方法では、積極的にBCL−2蛋白発現剤、アポトーシス抑制剤または表皮細胞の紫外線DNA障害防止剤として使用されず、その作用は確実には果たされなかったのである。
ところが紫外線照射によりDNAなどに障害を起こした細胞に対して、この発明のBCL−2蛋白発現剤、アポトーシス抑制剤または紫外線DNA障害防止剤は、有意に表皮細胞を増殖させて組織を修復し、アポトーシス抑制因子であるBCL−2を発現させ、DNAを傷つけるチミンダイマーの形成を阻害する。
表皮細胞のDNA障害の阻止性については、後述する表3に示されているように、T−Tダイマー陽性細胞の出現が無処置群より処置群で有意に低下していることからも明らかである。
このようなBCL−2蛋白発現剤、アポトーシス抑制剤またはDNA障害防止剤は、表皮細胞に対して有効であり、表皮細胞のDNA障害を防止し、BCL−2蛋白を発現させ、アポトーシスを抑制する。
このように色素幹細胞に対する皮膚用BCL−2蛋白発現剤によると、BCL−2遺伝子が色素幹細胞の生存に必要な時期に供給されるよう作用すると考えられ、結果的にみても表皮細胞における色素幹細胞が維持されることによりメラニンが生成され、加齢に伴う生理的な毛の白髪化が防止できる。
この発明は、水およびエタノール可溶性の甘草抽出物を有効成分として含有するBCL−2蛋白発現剤またはアポトーシス抑制剤としたので、紫外線などで直接的又は間接的に損傷したDNAを有する細胞のアポトーシスを抑制し、細胞の組織修復性を高めて種々の薬剤に添加して広い応用の期待できるBCL−2蛋白発現剤、アポトーシス抑制剤または表皮細胞の紫外線DNA障害防止剤になるという利点がある。
この発明に用いる甘草は、スペイン、シベリア、中国などに産するマメ科の薬用植物であるカンゾウを乾燥して保存性を高めた生薬であり、その学名はグリシルリーザ ウラレンシス フィッシャー(Glycyrrhiza urarelensis Fischer)またはグリシルリ─ ザ グラブラ エル バ─ グランダリフェラ レグ エ ヘルド(Glycyrrhiza glabra l var.glandulifera REG.Et HERD)と称される植物またはその近縁種である。この植物の好ましくは根または根茎(葡萄茎またはストロンとも呼ばれる)を皮付きの状態、またはコルク皮を除いて粉砕もしくは摩砕して粉末状としたもの、これらを水もしくはエタノールまたはその他の水性溶媒で抽出したものを有効成分の抽出材料として用いることができる。一般的な甘草抽出物の皮膚に対する安全性はよく知られているところである。
この発明において有効成分を抽出するために用いる溶媒は、水(中性、弱酸または弱アルカリ性のいずれであってもよい。)または水を主成分として適宜に他の溶媒(有機溶媒であってもよい。)を添加した水性の抽出溶媒であり、アルコール含有の水溶液なども採用できる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール等の周知のアルコール溶媒が挙げられる。なお、これらの溶媒で抽出された有効成分は、いずれも水およびエタノール(=エチルアルコール)に可溶性である。
このような水性溶媒による抽出操作は、抽出効率を高めるために温水または熱水の状態で行なうことが好ましい。特に100℃以上、好ましくは100〜130℃で抽出操作を行なうと、BCL−2蛋白発現、アポトーシス抑制または表皮細胞の紫外線DNA障害防止に有効な成分が効率よく抽出される。
抽出工程において、抽出液を、活性炭などの吸着剤で濾過するか、または固体と液体との比重差、重力または遠心力による沈降速度の差を利用して固液分離し、懸濁物質を除去することが好ましい。
吸着剤としては、活性炭などのように多量の正吸着を起こさせるような界面を提供する物質であればよく、上記のようにして得られた透明性液体を濃縮し再び水やエタノールなどで希釈した後、濃縮により生じた不溶物を濾過などで分離除去し、精製をより完全なものにすることが好ましい。吸着剤の具体例としては、活性炭のような多孔質体からなる無機系吸着剤のほかにも合成吸着剤(有機系吸着剤)が挙げられる。
無機系吸着剤としては、活性アルミナ、シリカゲル、酸化チタンなどの金属酸化物、還元物、水酸化物、ベントナイト、酸性白土などの粘土鉱物、珪藻土、タルクなどのヘキ開性のある含水ケイ酸塩鉱物が挙げられる。
活性炭は、その材質を特に厳選して使用するものではないが、木炭、竹または椰子殻を原料としたものは、微小粒子からなる懸濁物質の吸着効率が良くて好ましいものである。
合成吸着剤は、微細な連続孔が粒子の内部まで形成されたイオン交換樹脂製の粒子からなり、芳香族系の架橋スチレン系の多孔質重合体、芳香族重合体の芳香核に臭素原子を化合させた置換芳香族系のもの、またはメタクリル酸エステル重合体を骨格とする親水性吸着材とするアクリル性のものなどが挙げられる。
このように懸濁物質を除去する固液分離その他の操作としては、活性炭の粒を詰めたカラムなどの容器に抽出液を通過させるか、または抽出液に活性炭粉末(必要に応じてタルクなどの濾過補助剤)を加えて攪拌し、その混合物をろ紙や濾布などの前記活性炭の粉末粒子を捕捉するフィルターでろ過する方法も採用することができ、その他にも遠心分離や沈降速度差による周知の固液分離手段を採用してもよい。
水性溶媒抽出物に対しての濃縮操作は、減圧操作や加熱濃縮などの周知の濃縮手段を採用できる。濃縮割合は、2〜100倍程度、特に5〜50倍程度であることは好ましく、通常、10倍程度の濃縮することが好ましい。
得られた濃縮物は、前記した水性溶媒抽出液またはそれに相当する水性溶媒で再び希釈することが好ましい。希釈率は特に限定する必要はないが、例えば濃縮前の容積に戻す程度の希釈率が好ましいと考えられ、例えば2〜100倍程度である。そして、前記濃縮と希釈の操作を1工程として、2工程以上繰り返して行なうことが好ましい。
このようにして得られた液体を、さらに精製するには、濃縮した後、抽出溶媒としてエタノール濃度99.5%以上の無水アルコールを用いることが好ましい。
固液分離して得られたエチルアルコール可溶性成分を皮膚外用剤として調製するには、適当な親水性・親油性があって、皮膚付着性の良い皮膚外用剤用の基剤に混和するか、または抽出液をクリーム、軟膏、乳液などの基材に混合すれば皮膚に塗布できるような製剤形態に調製できる。
この発明のBCL−2蛋白発現剤、アポトーシス抑制剤および表皮細胞の紫外線DNA障害防止剤の製剤形態としては、特に限定するものではなく、例えば外用剤として周知の形態をとることができ、水溶性液、乳液、クリーム、軟膏、パウダーなどのように皮膚に対して塗布の容易な製剤形態にすることは好ましいことである。
後述するように、水およびエタノール可溶性の甘草抽出物のBCL−2蛋白発現剤、アポトーシス抑制剤および表皮細胞の紫外線DNA障害防止剤としての有効成分は、最終濃縮物を乾燥させた物(乾燥固形物)としての配合重量%で、皮膚に対して0.1〜10重量%という濃度で処方されるように配合することが好ましい。
[カンゾウ抽出液(T)実生産の製造方法]
1)[東北カンゾウ刻200kgに水2000リットル(以下、リットルをLで示す)を加え、95℃で2.5時間抽出し、抽出液を製振動篩(300メッシュ、ステンレス製)でろ過した。得られた抽出ろ液を濃縮(液温60℃以下、減圧)し、濃縮液(スプレードライ原液)を噴霧乾燥し、乾燥エキスを得た。これを篩過(60メッシュ、ステンレス製)し、収量20kgのカンゾウ乾燥エキス(T原)を得た。
2) 1)で得た東北カンゾウ乾燥エキス(T原)20kgに局方エタノール100Lを加え、6時間攪拌し、2号ろ紙でろ過した。
3) ろ液に局方エタノールを加えて100Lとし、活性炭(粒状白鷺KL)4.5kgを加えて3時間攪拌し、2号ろ紙でろ過した。この工程を3回繰り返し行なった。
4) 3)で得られたろ液に局方エタノールを加えて100Lとし、これを10Lに濃縮(50℃以下、減圧)した。さらに活性炭(粒状白鷺KL)400gを加え2時間攪拌し、2号ろ紙でろ過した。この工程を6回繰り返し行なった。
5) 4)で得られたろ液に局方エタノールを加えて10Lとし、2Lまで濃縮した。これに局方エタノール1Lと活性炭(粒状白鷺KL)100gを加えて3時間攪拌し、2号ろ紙でろ過した。
6) 5)で得られたろ液に局方エタノールを加えて2Lとし、活性炭(粒状白鷺KL)100gを加えて3時間攪拌し2号ろ紙でろ過した。
7) 6)で得られたろ液に局方エタノールを加えて2Lとし、5号ろ紙でろ過した。
8) 7)で得られたろ液を濃縮(40℃以下、減圧)乾固した後水300mLを加えて抽出(振とう、室温)し5号ろ紙でろ過した。この工程を3回行なった。
9)8)で得られたろ液は1Lとした。
9)で得られたろ液250mLを、湯煎により95〜100℃に加熱して得た濃縮物(37.1g)に99.5%無水エタノール(コニシ株式会社)1Lを加え、エタノール可溶性分画を取り95〜100℃に加熱して得た濃縮物(21.5g)とした。これに精製水50mLと活性炭(和光純薬社製:活性炭素粉末)50gを加えて攪拌すると共に、75gのタルク(丸石製薬社製)を加えて更に攪拌した後、濾紙にて濾過した。得られた濾液を95〜100℃に加熱して得た濃縮物(14.7g)に99.5%無水エタノール(コニシ株式会社)400mlを加え、エタノール可溶性分画をとり、95〜100℃に加熱して得た濃縮物(11.7g)に、精製水50mLと活性炭(和光純薬社製:活性炭素粉末)30gを加えて攪拌すると共に、50gのタルク(丸石製薬社製)を加えて更に攪拌した。その後、濾紙にて濾過し、得られた濾液を95〜100℃に加熱して得た濃縮物(8.6g)に99.5%無水エタノール(コニシ株式会社)400mlを加えエタノール可溶性分画をとり、95〜100℃に加熱して得た濃縮物(5.2g)とした。この濃縮物2.0gに精製水を加え60gとしたものを試料とした。
甘草抽出物の有効成分については、上記の最終濃縮物(5.2g)を乾燥させた物の配合重量%として換算すると、皮膚に対して0.1〜10重量%という濃度の範囲で接触させることがこの発明の効果を得るために有効であると考えられる。
[評価実験(1) 方法]
1) 4週齢のC56BL6雄性マウス(日本SLC)を1週間馴化した後、剃毛後群分けを行った。実験群は第1群から第5群までの5群であり、各群マウス15匹を用いた。
第1群:紫外線照射前後PBS塗布
第2群:紫外線照射前試料塗布
第3群:紫外線照射後試料塗布
第4群:紫外線照射前後試料塗布
第5群:剃毛のみ
2) 試料は4℃保存し塗布前に室温に戻した。
3) 紫外線照射では、全波長紫外線(UV−A、−B、−C)を照射し皮膚に急性紫外線障害を惹起させるが、その際、試料を紫外線照射前24時間あるいは照射直後にマウス皮膚に塗布し急性紫外線障害の変化を検討した。
4) 剃毛部位は有肋骨胸椎下縁と脊椎の交点を中心とする2cm平方で剃毛面積は4cm2である。剃毛は電動バリカン(ナショナル)を用いて行ない、剃刀は使用しなかった。
5) 紫外線照射は、紫外線発生装置(XX−15BLB,UVP Co,Tokyo,Japan)を用い、紫外線強度11mW/cm2(照射距離5cm)で1.5分間照射した。このときの紫外線照射量は1.0J/cm2である。
6) 照射時にはネンブタール(mg/mouse皮下注)にてマウスに麻酔をかけたうえで、四肢をテープ固定し照射中の体位の安静を保った。
7) 試料は200μlを綿棒にて剃毛部に全量を乾燥させながら塗布した。
8) マウスは紫外線照射後24時間後に頚椎脱臼により屠殺し、剃毛部皮膚をその周囲非剃毛部を含めて筋膜上で剥離し、ゴムプレート上に進展し、10%ホルマリンで24時間固定した。
9) 皮膚切片は標本中央部から幅4mmの組織を切り出してパラフィン包埋ブロックを作製し、3μm厚の薄切標本を作製した。
10) 薄切標本から、ヘマトキシリン核染色(以下、HE染色とも略称する。)及び免疫染色を行なった。
11) 免疫染色には以下の抗体を使用し、表のように抗原賦活、希釈を行なった。抗体希釈、洗浄にはOptimax Wash Buffer (Biogenex)を使用した。
抗体名 クローン 処理 濃度
PCNA(DAKO) PC10 クエン酸-MW 1/50
BCL-2(DAKO) ペプシン 1/100
ss-DNA(IBL) ペプシン 1/200
T-T Dimer(供与) ペプシン 1/200
12) 免疫染色のプロトコールは以下の通りである。
1:脱パラフィン、加水
2:抗原賦活
3:0.3%H2O2-メタノール処理
4:一次抗体処理
5:洗浄
6:二次抗体処理
7:洗浄
8:DAB発色
9:ヘマトキシリン核染色
10:封入
13) HE染色による組織病理評価には毒性病理認定医の確認を得た。
14) 免疫染色の判定
(1)PCNA、ssDNA及びD−Dダイマーについては表皮細胞全層を含み500細胞を顕微鏡下に観察し核に陽性所見のあるものを陽性とした。
因みに、PCNA(増殖細胞核抗原)は、細胞増殖能を示し、細胞周期を通して比較的安定し、非増殖細胞中では非常に低いレベルで安定しているが、細胞分裂周期に入ると急激に増えるので、非増殖細胞集団から増殖細胞集団への移行を検出できる標識になる。
(2)BCL−2については標本内の非剃毛部皮膚(=非紫外線照射部)におけるBCL−2発現と比較し免疫反応が強いものを陽性とした。染色強度が非照射部表皮よりも低い場合を陰性、同程度から2倍以下を陽性、2倍以上を強陽性とした。
[実験結果]
上記の実験方法による形態学的変化について、その結果を表1に示した。すなわち、マウス皮膚紫外線照射における表皮細胞の変化に及ぼす試料の影響を形態変化について調べた。
Figure 0004362524
表1に示した結果からも明らかなように、正常マウス表皮は1層の基底細胞層と1−2層の有棘層からなっていた。第5群(剃毛のみ)では、この正常所見が保たれ炎症細胞も認められなかった。
第1群(照射+PBS処理)では、表皮の基本的構築は保たれ、あきらかな糜爛形成、表皮細胞壊死は認められなかった。しかし、真皮表層から表皮内に軽度の炎症細胞浸潤が見られ、紫外線照射に伴う炎症性変化と見なされた。
第2群(照射+試料前塗布)では、表皮の形態的変化は見られず、炎症細胞浸潤は第1群よりも軽度であった。
第3群(照射+試料後塗布)及び第4群(照射+試料前後塗布)では、表皮は主として有棘層の増加により8−10層に肥厚しているが、構成細胞に異型性は認められず、組織構築も保たれている。炎症細胞浸潤も第1群(照射+PBS処理)よりも軽度であった。
また、炎症細胞浸潤については、第1群(照射+PBS処理)に見られることから紫外線照射による細胞障害による炎症反応と考えられた。一方、試料塗布群、特に照射後塗布を行った第3群、第4群において炎症細胞浸潤が減少しており、試料塗布により炎症が抑制されているものと認められた。
表皮細胞増殖能について、マウス皮膚紫外線照射における表皮細胞の変化に及ぼす試料の影響を細胞増殖能とアポトーシスについて調べた。
すなわち、表皮細胞増殖能は免疫染色によるPCNA陽性細胞数により検討した。
また表皮細胞のアポトーシスは、single strand DNA(ssDNA)免疫染色法によりDNAが断片化した陽性細胞頻度(アポトーシス細胞(%))を求め、その結果を表2中に併記した。
Figure 0004362524
表2の結果からも明らかなように、PCNA陽性細胞の第5群(剃毛のみ)では、基底細胞層にのみ見られ陽性頻度は6±4%であった。これに対し、紫外線照射を行った第1群(照射+PBS処理)、第2群(照射+試料前塗布)、第3群(照射+試料後塗布)及び第4群(照射+試料前後塗布)では、PCNA陽性頻度は各々14±5%、13±4%、15±6%、17±6%であり、第5群(剃毛のみ)と他の群との間に有意差が認められた(P<0.001)。しかし、試料を塗布した第2〜4群では、塗布しなかった第1群と同様のPCNA陽性細胞の増加が認められ、そのことから紫外線照射を行なえば細胞障害に対する細胞の組織修復反応がいずれの場合も起こるものと考えられた。
表皮細胞のアポトーシスについては、ssDNA陽性細胞は第5群(剃毛のみ)では有棘層にごく少数のみ見られ3±2%であった。これに対し、紫外線照射を行った第1群(照射+PBS処理)では32±12%と高頻度であった。
一方、試料を照射前に塗布した第2群(照射+試料前塗布)では、ssDNA陽性アポトーシス細胞頻度は24±8%と非照射コントロールの第5群より有意に高頻度であった。
また、試料を照射後に塗布した第3群(照射+試料後塗布)及び第4群(照射+試料前後塗布)では、ssDNA陽性アポトーシス細胞頻度は各々6±6%、4±4%と第1群(照射+PBS処理)、第2群(照射+試料前塗布)よりも有意に低下しており、第5群(剃毛のみ)との間に有意差は見られなかった。
これらの結果を総合すると、実施例の試料を照射後に塗布した第3、4群では、表皮細胞のアポトーシスが抑制され、また反応性増殖性変化の両者が相乗的に作用して表皮の肥厚が見られたものと考えられた。
次に、表皮細胞におけるBCL−2の発現について、マウス皮膚紫外線照射における表皮細胞の変化に及ぼす試料の影響を、Bcl−2発現と紫外線DNA障害について調べ、また、アポトーシスを抑制する因子として広く認識されているBCL−2の発現を免疫染色により調べ、結果を表3に示した。
Figure 0004362524
BCL−2発現は、第5群(剃毛のみ)では基底層にごく微弱に見られた。紫外線照射を行った第1群(照射+PBS処理)でも基底層に微弱な発現が見られたが、第5群との明らかな相違は認められなかった。
一方、試料を照射前に塗布した第2群(照射+試料前塗布)では、BCL−2発現は陽性でありコントロールの第5群及び照射のみの第1群より発現強度・陽性細胞数とも有意に増強していた。これに対し、試料を照射後に塗布した第3群(照射+試料後塗布)及び第4群(照射+試料前後塗布)では、BCL−2発現はいずれも強陽性であり、第1群(照射+PBS処理)、第2群(照射+試料前塗布)、第5群(剃毛のみ)との間に明瞭な差異が認められた。
表皮細胞における紫外線照射によるDNA障害については、紫外線、特に、高エネルギーのUVCにより核内DNAにチミンダイマー(T−Tダイマー)の形成が生じることが知られているので、抗T−Tダイマー抗体を用い照射後のT−Tダイマーの形成を検討した。
T−Tダイマー陽性細胞は、第5群(剃毛のみ)ではまったく認められなかった。これに対し、紫外線照射を行った第1群(照射+PBS処理)では16±8%と高頻度であった。
一方、試料を照射前に塗布した第2群(照射+試料前塗布)では、T−Tダイマー細胞頻度は9±6%と非照射コントロールの第5群より有意に高頻度であった。
これに対し、試料を照射後に塗布した第3群(照射+試料後塗布)及び第4群(照射+試料前後塗布)では、T−Tダイマー細胞頻度は各々4±4%、4±3%と第1群(照射+PBS処理)、第2群(照射+試料前塗布)よりも有意に低下しており、第5群(剃毛のみ)との間に有意差は見られなかった。
以上のことから、BCL−2は試料の塗布により有意に発現し、試料塗布(特に紫外線照射後の試料塗布)によって紫外線照射によるDNA障害を阻止していると認められた。また、BCL−2は、DNA障害を阻止する効力はないことから、試料塗布はBCL−2発現とDNA障害の阻止効果をそれぞれ別個に奏しているものと考えられた。
そして、紫外線照射により表皮にはT−Tダイマーの形成によるDNA障害が惹起され、そのためアポトーシスが誘導されて、修復反応として増殖能が亢進していることが確認された。
一方、試料を照射後塗布した第3群・第4群では、アポトーシスの抑制が見られ、その原因として抗アポトーシス作用を有するBCL−2発現の亢進、及びT−Tダイマーの減少が考えられる。その反面、表皮増殖能は非塗布群と同様に亢進しており、形態学的な表皮の過形成性変化、すなわち肥厚を示していると考えられた。
照射前に試料を塗布した第2群では、照射後塗布のみの第3群と非塗布照射の第5群との中間的な値であった。また、照射前後に塗布を行った第4群では第3群と比較し相加的効果は認められなかった。この原因として、塗布後の舐去行動等による投与の不完全さも可能性として考えられたが、非刺激時の表皮には作用が軽微に留まるとも考えられた。
[比較例](評価実験2):正常皮膚にたいする試料の効果
実験1では、紫外線照射というストレス状態の皮膚における試料の効果を検討したが、試料の非ストレス時の作用を見るために、剃毛のみを行った皮膚に対して試料を塗布した。試料塗布を3回/週X4週間施行するという比較的長期連続的な投与プロトコールにおける変化を形態学的及び実験1での免疫染色による検討を行なって評価した。
[実験方法]
1) 4週齢のC56BL6雄性マウス(日本SLC)を1週間馴化した後、剃毛後群分けを行った。実験群は試料塗布群、PBS塗布群の2群であり、各群マウス15匹を用いた。
第1群:PBS塗布
第2群:試料塗布
2) 試料は4℃保存し塗布前に室温に戻した。
3) 剃毛部位は有肋骨胸椎下縁と脊椎の交点を中心とする2cm平方で剃毛面積は4cm2である。剃毛は電動バリカン(ナショナル)を用いて行い、剃刀は使用しなかった。
4) 試料は200μlを綿棒にて剃毛部に全量を乾燥させながら塗布した。塗布は一日一回、活動性の高くない9時に行い3回/週、4週間行なった。
5) マウスは紫外線照射後24時間後に頚椎脱臼により屠殺し、剃毛部皮膚をその周囲の非剃毛部を含めて筋膜上で剥離し、ゴムプレート上に進展し、10%ホルマリンで24時間固定した。
6) 皮膚切片は標本中央部から幅4mmの組織を切り出してパラフィン包埋ブロックを作製、3μm厚の薄切標本を作製した。
7) 薄切標本から、HE染色及び免疫染色を行なった。
8) 免疫染色は実験1と同様の検討を行なった。
9) 免疫染色のプロトコールは実験1と同様である。
10) HE染色による組織病理評価には毒性病理認定医の確認を得た。
11) 免疫染色の判定。実験1と同様に行なった。
[実験結果]
1)形態学的変化について、マウスの正常な皮膚における表皮細胞の変化に及ぼす試料の影響を形態変化について調べ、その結果を表4に示した。
Figure 0004362524
1)形態学的変化
試料塗布群とコントロールのPBS塗布群を比較すると、表皮の形態に差異はなく、正常の構築を保っていた。塗布群では表皮の過形成性変化や過角化は見られず、炎症細胞浸潤など炎症性変化も認められなかった。
2)表皮細胞増殖能
第1群(PBS塗布)と第2群(試料塗布)におけるPCNA陽性細胞頻度は各々6±4%、5±4%であり有意差は認められなかった。これらの値は実験1の第5群(剃毛のみ)と同等であり、試料塗布は紫外線非照射状態では細胞増殖能に有意な変化は与えないものと考えられた。
3)表皮細胞のアポトーシスについて、正常皮膚に対する試料が、細胞増殖とアポトーシスに及ぼす影響について調べ、その結果を表5に示した。
Figure 0004362524
表5の結果からも明らかなように、第1群(PBS塗布)と第2群(試料塗布)におけるssDNA陽性アポトーシス細胞頻度は各々8±5%、4±4%であり両者に差異は認められなかった。また、実験1の第5群(剃毛のみ)と同等の値であり、試料塗布は紫外線非照射状態ではアポトーシスに有意な変化は与えないと考えられた。
表皮細胞におけるBCL−2の発現について、正常皮膚に対する試料の効果をBcl−2発現と紫外線DNA障害(T−Tダイマーの形成)について調べ、その結果を表6に示した。
Figure 0004362524
表6の結果からも明らかなように、試料塗布群ではコントロールのPBS塗布群と比較し軽度のBCL−2発現の亢進が認められるが、実験1の紫外線照射後塗布群と比較しBCL-2発現亢進はごく軽度であり、アポトーシスの頻度に著変がないこととよく相応していた。
表皮細胞におけるT−Tダイマーの形成については、紫外線照射を行っていない条件ではいずれの群においても表皮にT-Tダイマーの形成は認められなかった。
以上の結果からも明らかなように、実施例の試料は、生体の表皮細胞にBCL−2蛋白を発現させ、アポトーシスも抑制していると認められた。また、実施例では、紫外線の照射された表皮細胞におけるT−Tダイマーの形成量が減少し、紫外線照射によるDNA障害を予防していると認められた。

Claims (5)

  1. 水およびエタノール可溶性の甘草抽出物を有効成分として含有するBCL−2蛋白発現亢進剤。
  2. 請求項1に記載のBCL−2蛋白発現亢進剤において、BCL−2蛋白の発現亢進が、皮膚の細胞におけるBCL−2蛋白の発現亢進である皮膚用BCL−2蛋白発現亢進剤。
  3. 皮膚の細胞が、色素幹細胞である請求項2に記載の皮膚用BCL−2蛋白発現亢進剤。
  4. 請求項1または2に記載のBCL−2蛋白発現亢進剤を有効成分として含有するアポトーシス抑制剤。
  5. 請求項1に記載の甘草抽出物を有効成分として含有する表皮細胞の紫外線DNA障害防止剤。
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