JP4358500B2 - マグネシウム合金部品とその製造方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、家電製品のキャビネット等、薄肉で、かつ、複雑な立体形状を有するマグネシウム合金製の部品とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、家電製品、事務機器、通信機器、その他各種機器のキャビネット等の外装部品やシャーシ等に、軽量、高強度で振動減衰性や加工性、リサイクル性等に優れた金属材料としてマグネシウム合金が広く利用されてきている。
【0003】
これ等マグネシウム合金の加工法としては、溶融したマグネシウム合金を金型内に高速で流し込み、高圧で凝固させるダイカスト法や、せん断力を与えた半溶融状態のマグネシウム合金を金型内へ射出するチクソモールド法等の鋳造法があるが、これ等鋳造法は生産設備が高価であり、材料の歩留りが悪く、金型から成形品を取り出すまでに長い冷却時間が掛かるため、生産タクトが長くなり、気泡の巻き込み等による成形欠陥が生じ易く、機械的性質が劣り、また、金型内の溶融マグネシウム合金の凝固時間がその成形肉厚の2乗に比例するため、薄肉成形品の場合、数ミリ秒という短時間に金型内への溶融マグネシウム合金の充填を完了しなければならず、肉厚0.5mm以下の薄肉成形は非常に難しく、成形品の長さは75mm程度が限界となり、成形品の薄肉化が困難である等の問題点を有している。
【0004】
また、プレスによる塑性加工法によりマグネシウム合金板を加工する場合は、マグネシウム合金が一般にアルミニウム合金や鉄系材料に比し、延性に乏しいため、曲げやせん断力をかけると破断してしまい、マグネシウム合金板は曲げや絞り等の塑性加工には適していないという問題点がある。
【0005】
また、プレスフォージングという加工法によると、マグネシウム合金板から立体形状を成形できるが、その場合は、例えば、比較的伸びの良いマグネシウム合金の展伸材(ASTM規格のAZ31合金)を素材とし、加工温度が350〜550℃と非常に高温で、かつ、鍛造速度1〜500mm/秒と非常に速い条件下て加工が行われ、80mm角で高さ5mm程度のMDプレーヤ用キャビネットを成形するのに、製品肉厚が1mmの時、600ton、製品肉厚が0.5mmの時、1000tonのプレス荷重が必要であり、常に大きな能力を持つ生産設備が必要である(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、プレスフォージングにより、平均板厚が1mm以下のマグネシウム合金の薄板に、ボスやリブ等多くの突起を有する複雑な立体形状の部品を成形する場合は、上記プレスフォージングの加工法が抱える問題点はより顕著に現われ、大きなプレス機を要し、多段加工が必要となり、加工温度が高くなるため、エネルギー、金型寿命、潤滑油に悪影響を与え、主に、AZ31合金を使用するので、AZ91合金に比べ耐食性に劣る等の問題があった。
【0007】
さらに、加工前の板厚が厚いと押し潰すべき板厚が多くなり、より大きな荷重が必要で、かつ、加工時間も長くなってしまうという問題点があった。
【0008】
また、加工前の板厚を最終成形品の板厚に近付けると、幅が広いリブや径の大きいボスが高く立たないという問題点があった。
【0009】
【特許文献1】
特開平11−77214号公報(3頁段落0010〜段落0018、図1)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、従来のマグネシウム合金の各種加工法は多くの問題点を抱え、特に、プレスフォージングにより平均板厚が1mm以下のマグネシウム合金の薄板に、ボスやリブ等多くの突起を成形する場合のように、複雑な立体形状の部品を成形する場合は、ダイカスト法や、チクソモールド法等の鋳造法の場合の部品内部および表面の欠陥および機械的強度および耐食性の問題はなくなるが、設備も大きくなり、処理に高温を要する等の問題があった。
【0011】
本発明は上記の課題を解決するもので、成形品が複雑な立体形状を有しながら、表面に欠陥が少なく、かつ、機械的強度および耐食性に優れたマグネシウム合金部品を提供することと、そのマグネシウム合金部品を比較的小さなプレス設備で、かつ、比較的低温で成形する製造方法を提供することを目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、本発明は、1.5〜9.5重量%のアルミニウム、0.5〜1.5重量%の亜鉛、残部マグネシウムからなり、平均結晶粒径が10μm以下の等軸晶の組織からなり、平均板厚が1mm以下のマグネシウム合金板の上に、幅または外径が板厚の2倍以上5倍以下、高さが板厚の2倍以上の突起を有し、前記突起は二重に折曲げられた構造で裏面から突起内部に通じる通路を有し、突起の断面には平板部から突起部へ材料が流入した痕跡があり、突起の先端の平均粒径が突起の側部や付け根の平均粒径よりも大きいマグネシウム合金部品であり、成形品が複雑な立体形状を有しながら、表面に欠陥が少なく、かつ、機械的強度および耐食性に優れたマグネシウム合金部品が得られる。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の請求項1に記載の発明は、1.5〜9.5重量%のアルミニウム、0.5〜1.5重量%の亜鉛、残部マグネシウムからなり、平均結晶粒径が10μm以下の等軸晶の組織からなり、平均板厚が1mm以下のマグネシウム合金板の上に、幅または外径が板厚の2倍以上5倍以下、高さが板厚の2倍以上の突起を有し、前記突起は二重に折曲げられた構造で裏面から突起内部に通じる通路を有し、突起の断面には平板部から突起部へ材料が流入した痕跡があり、突起の先端の平均粒径が突起の側部や付け根の平均粒径よりも大きいマグネシウム合金部品であり、突起を成形するマグネシウム合金板が1.5〜9.5重量%のアルミニウム、0.5〜1.5重量%の亜鉛、残部マグネシウムからなることにより、250℃程度の温度域、かつ、10-3s-1を超える歪速度で超塑性現象を発現し、幅または外径が板厚の2倍以上5倍以下、高さが板厚の2倍以上の二重に折曲げられ、裏面から内部に通じる通路を有する突起の断面には平板部から突起部へ材料が流入し、突起の先端の平均粒径が突起の側部や付け根の平均粒径よりも大きくなるという作用を有する。
【0014】
本発明の請求項2に記載の発明は、マグネシウム合金板に、超塑性現象を発現する200〜300℃の温度域、1×10-3〜3×10-1s-1の歪速度の条件下で幅または外径が板厚の2倍以上5倍以下、高さが板厚の2倍以上の二重に折曲げられた構造で頂部の裏面から底部に向けて内部を貫通する通路が形成された突起を形成する請求項1に記載のマグネシウム合金部品の製造方法であり、超塑性現象を発現する200〜300℃の温度域、1×10-3〜3×10-1s-1の歪速度でマグネシウム合金板を成形することにより、幅または外径が板厚の2倍以上5倍以下、高さが板厚の2倍以上の突起を形成できるという作用を有する。
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
(実施の形態)
図1は本発明の実施の形態におけるマグネシウム合金部品の成形装置の一部断面図であり、1はプレス機のボルスタを表わす。このボルスタ1およびその上方に配置されたプレス機のスライダ2はそれぞれ加熱盤3、4を備えている。下金型5と上金型6とはコンテナ7内においてマグネシウム合金板8を板面に垂直にプレスする。下金型5にはマグネシウム合金板8の下面に突出するボスを形成するための孔9を有し、この孔9は空気抜きのための外部に通じる孔10に連通している。コンテナ7には金型の温度をフィードバック制御するための熱電対11がセットされている。
【0017】
上記構成の成形装置で、幅または外径が板厚の2倍以上5倍以下、高さが板厚の2倍以上の突起を有するマグネシウム合金部品を形成するには、微細結晶組織を持つマグネシウム合金がある一定の範囲の温度域で、かつ、ある一定の範囲の歪速度(加工速度)で歪みが与えられた時、数百%にも及ぶ非常に大きな伸びを示す超塑性現象を利用する。
【0018】
一般にマグネシウム合金は超塑性現象を示す領域では流動応力の歪速度感受性が高く、歪速度すなわち加工速度を少し遅くすることによって、かなり流動応力を下げることができ、より小さな力で塑性変形を起こすことができるようになる。
【0019】
マグネシウム合金の超塑性現象に関し、流動応力の歪速度感受性を表わす以下の構成方程式(1)が知られている。
【0020】
dε/dt=A・(b/d)2・(σ/G)2・D (1)
ここで、dε/dtは歪速度、dは平均結晶粒径、bはバーガース・ベクトルの大きさ(定数)、σは流動応力、Gは剛性率、Aは定数、Dは振動数項である。
【0021】
構成方程式(1)によれば、流動応力σは平均結晶粒径dの逆数に比例し、歪速度dε/dtの平方根に比例する。
【0022】
図2はマグネシウム合金が超塑性現象を発現する場合の歪速度dε/dtと250℃における流動応力σの関係図であり、a曲線はマグネシウム合金の平均結晶粒径dが2μmの場合、b曲線は平均結晶粒径dが10μmの場合である。
【0023】
平均結晶粒径dが2μmの場合、歪速度dε/dtが0.1s-1という比較的高速変形領域であっても超塑性現象が発現し、歪速度dε/dtの低下とともに流動応力σが小さくなることが予測できる。
【0024】
なお、厳密には、超塑性現象の発現領域は図2における超塑性変形を示す上記式(1)に基づくa曲線、b曲線と通常の変形抵抗を示す式に基づくc曲線との交点で決まる。
【0025】
また、上記超塑性現象を発現する素材として、アルミニウム含有量が約3重量%、亜鉛含有量が約1重量%、残部がマグネシウムの市販の展伸用マグネシウム合金であるAZ31合金の押し出し棒を用い、温度250℃、押出比44、押出速度0.2mm/sの条件で幅30mm、厚み1.4mmの矩型断面を持つダイスから板形状に押し、押し出した板材から厚みが0.8mmという薄肉の素材を得るため、押し出した板材に対し、圧下率の上限を10%、加熱温度の上限を250℃で、6パス程繰り返す温間圧延を実施した場合、押し出した板材およびそれを圧延した板材の平均結晶粒径は約6μmであった。
【0026】
前記構成方程式(1)によれば、平均結晶粒径6μmのAZ31合金を温度250℃で加工する場合、歪速度が0.001s-1では50MPaまで変形応力を低下させることができると予想される。
【0027】
上記特性を示すマグネシウム合金板から前記図1の成形装置を用いて立体形状を成形するには、まず、下金型5と上金型6とコンテナ7を加熱盤3、4で予め250℃まで加熱しておいて、マグネシウム合金板8を下金型5の上に載置し、上金型6を下降させて加圧し、加工前のマグネシウム合金板8の厚みが1.4mmで平面積250mm2の板材に対し、径4mmのボスが立つような加工を施した。加工前の厚み1.4mmのマグネシウム合金板8が0.25mm薄くなって、1.15mmになるまでマグネシウム合金板8を押し潰すように加圧すると、下金型5の孔9に直径4mmのボスが5mmほどの高さまで突出成形した。この成形に要した加工時間は約5秒間であり、この場合のボスの隆起速度を歪速度に換算すると0.02s-1である。
【0028】
図3は前記構成の成形装置でマグネシウム合金板8に形成したボスの断面模式図であり、ボス12は頂部13で折曲がった二重構造になっており、頂部13の裏面から底部に向けて内部を貫通する通路14が形成されている。
【0029】
一般に金属材料に圧延や引張り加工を施した後の組織は、その力が加わった方向に長くなり、等軸晶ではなくなるのであるが、超塑性現象を利用して成形した前記ボス12は、その断面を鏡面加工して適切なエッチングをし、1000倍程度の光学顕微鏡で観察した金属組織の写真である図4が示すように、超塑性成形の特徴である等軸晶を保っており、また、図3のボスの断面模式図が示すように、マグネシウム合金板8のボス12の付け根15に平板部18からボス12に向かって材料が流れる超塑性成形の特徴である痕跡(フローマーク)16が見られる。
【0030】
また、図3のボスの断面模式図における各部位ごとに求めた平均結晶粒径を下記の表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
ボス12の頂部13付近では、加工前のマグネシウム合金板8が大きな歪みを受けずに型内に押し込まれて頂部13になったと考えられ、加工前の平均結晶粒径6.1μmに非常に近い平均結晶粒径6.8μmが維持されている。これに対し、ボス12の側部17付近や付け根15付近では加工中に与えられた歪みが大きく、加工前の平均結晶粒径6.8μmおよび4.6μmを示す頂部13および平板部18に比べ、平均結晶粒径3.8μmおよび3.3μmと小さくなっている。
【0033】
また、加工前の厚み1.4mmのマグネシウム合金板8の代わりに、厚み0.8mmのマグネシウム合金板19を用いて、前記厚み1.4mmのマグネシウム合金板8の場合と同じ加工を施した場合、マグネシウム合金板19に形成したボス20の断面模式図を図5に示す。
【0034】
この場合のように、加工前のマグネシウム合金板19の板厚0.8mmがボス20の直径4mmの1/2を大きく下回る場合、ボス20は頂部21で折曲がった二重構造になっており、頂部21の裏面から底部に向けて内部を貫通する通路22が形成される点は前記厚み1.4mmのマグネシウム合金板8の場合と同じであるが、その通路22の形状がボス20の内部で膨らんだ空洞部23になる点が異なる。
【0035】
なお、平均板厚が1mm以下のマグネシウム合金板8、19の上に形成するボス12、20の幅または外径を板厚の5倍以上にすると、ボス12、20の根元がくびれ金型通りの転写ができないことが実験結果から分かり、また、ボス12、20の高さはボス12、20を押し出すと、加工中に元板であるマグネシウム合金板8、19の肉厚が徐々に薄くなっていくが、マグネシウム合金板8、19に押し込む肉が0.3mm程度でも元板が残っている限り高さ方向に制限なくボス12、20は伸びていくことが実験結果から分かった。
【0036】
以上のように、本実施の形態におけるマグネシウム合金部品は、超塑性現象を利用することにより、250℃という低温、比較的高い歪速度0.01s-1でありながら、比較的小さな変形応力で、最終成形製品であるマグネシウム合金部品の板厚に近い厚み0.8〜1.4mmのマグネシウム合金板8、19から直径4mmのボス12、20を5mmほどの高さまで突出成形でき、成形したマグネシウム合金部品は複雑な立体形状を有しながら、表面に欠陥が少なく、かつ、機械的強度および耐食性に優れている。
【0037】
【発明の効果】
以上のように、本発明のマグネシウム合金部品とその製造方法によれば、元材料であるマグネシウム合金板の板厚の2倍以上5倍以下の幅または外径および板厚の2倍以上の高さの立体形状を有し、かつ、1mm程度の薄肉のマグネシウム合金部品を、マグネシウム合金部品の板厚に近いマグネシウム合金板から、比較的小さなプレス設備で、200〜300℃という比較的低温において短時間で加工でき、加工したマグネシウム合金部品は複雑な立体形状を有しながら、表面に欠陥が少なく、かつ、機械的強度および耐食性に優れているという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態におけるマグネシウム合金部品の成形装置の一部断面図
【図2】マグネシウム合金が超塑性現象を発現する場合の歪速度dε/dtと250℃における流動応力σの関係図
【図3】本発明の実施の形態におけるマグネシウム合金部品に形成されたボスの断面模式図
【図4】本発明の実施の形態におけるマグネシウム合金部品に形成されたボスの断面の金属組織を示す写真
【図5】本発明の実施の形態におけるマグネシウム合金部品に形成された図3と異なるボスの断面模式図
【符号の説明】
1 ボルスタ
2 スライダ
3,4 加熱盤
5 下金型
6 上金型
7 コンテナ
8,19 マグネシウム合金板
9,10 孔
11 熱電対
12,20 ボス
13,21 頂部
14,22 通路
15 付け根
16 痕跡(フローマーク)
17 側部
18 平板部
23 空洞部
Claims (2)
- マグネシウム合金薄板を用いて、該合金薄板の板厚の2倍以上の突出高さを有する突起を少なくとも1つの表面に有するマグネシウム合金部品の製造方法であって、
1.5〜9.5質量%のアルミニウム、0.5〜1.5質量%の亜鉛、残部マグネシウムのマグネシウム合金薄板を用いて、突起を形成するための孔が設けられた金型内に前記マグネシウム合金薄板を入れ、超塑性現象を発現する200〜300℃の温度域、および1×10−3〜3×10−1s−1の歪速度の条件下にて、前記マグネシウム合金薄板を加圧することを特徴とするマグネシウム合金部品の製造方法。 - マグネシウム合金薄板の平均板厚が1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金部品の製造方法。
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