JP4202191B2 - マグネシウム合金部品の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、家電製品などに用いられるマグネシウム合金部品の製造方法に関し、特に薄肉で複雑な立体形状を有するマグネシウム合金部品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、大量生産されている家電製品において、軽量、高強度で、振動減衰性や加工性に優れ、かつ比較的低融点でリサイクル性に富むマグネシウム合金が広く使われはじめている。以前は、マグネシウム合金からなる部品は、溶融した合金を金型内に高速で流し込み、高圧で型内に凝固させるダイカストやチクソモールディングで製造することが主流であった。
【0003】
しかし、これらの方法では、溶融合金を流す流路に発生するスプルーやランナーなどの不要部分が大量に発生し、材料の歩留まりが悪いという問題がある。また、溶融金属を金型内で凝固させ、型外に取り出すまでの冷却時間が長くかかり、生産タクトは20秒程度まで短縮するのが限界である。
【0004】
また、鋳造法では、成形時に気泡が合金内に混入して内部に巣が発生したり、溶融合金の合流点である湯境において成形品表面に亀裂が生じたりするなどの欠陥が生じやすい。外装部品などに用いる合金部品の場合、これらの欠陥を修復する必要があり、製品歩留まりが低いという問題を抱えている。鋳造材は、圧延、押し出し、鍛造のように内部組織を改変するような大きな力が加えられることなく製造されるものであり、内部欠陥も多いため、一般に引張強度や降伏応力などの機械的特性が展伸材に比べて劣る。
【0005】
鋳造法に替わるマグネシウム合金部品の製造方法として、圧延板材を温間で絞るプレス成形、立体的なMDプレーヤのキャビネット等を鍛造するプレスフォージング(特許文献1)など、塑性加工法も行われている。
マグネシウム合金は、一般にアルミニウム合金や鉄系材料に比べ、常温での延性に乏しいため、曲げやせん断力をかけると破断し易いが、ASTM規格のAZ31合金やAZ21合金などのアルミニウム含有量の少ない展伸用マグネシウム合金は、アルミニウム含有量の多い鋳造用AZ91合金に比べ、延性に富んでおり、延性の温度依存性も高い。AZ31合金の場合、常温では10〜25%程度の破断伸びであるのに対し、200℃では100%を超える伸びを示すものもある。
【0006】
そこで、マグネシウム合金に対するプレス工法による塑性加工は、温間または熱間で行われている。例えば、絞り加工で角型MDキャビネットを成形する場合、側壁、特にコーナー部に歪が大きく加わるため、合金は250〜300℃程度の温度域で温間加工される。
【0007】
しかしながら、絞り成形では、他の部品との締結や位置決めのために必要なボスやリブ、製品外観に求められるデザインとしての凹凸などを形成することができないという問題がある。金属素材板の絞り工程は、設計の自由度を大きく制約してしまう。
【0008】
また、プレスフォージング等の鍛造法は、絞り加工に比べて素材板に与えなければならない歪が大きくなる。加工温度を350〜550℃と非常に高温にして素材板の変形抵抗を下げた状態であっても、与えるべき変形量によっては、大きなプレス荷重が必要である。例えば80mm角のMDキャビネットの成形に際しては、600〜1000トン程度のプレス荷重が必要であり、生産設備も高価となる。
【0009】
このような状況を鑑み、発明者らは、微細な結晶粒からなるマグネシウム合金が、一定温度以上で、一定歪速度以下の条件下において発現する超塑性現象を利用したマグネシウム合金の塑性加工法を提案している。この方法においては、超塑性を発現させるための素材として、平均結晶粒径が10μm以下であるマグネシウム合金が用いられる。しかし、このような微細組織を有する素材の量産工法はまだ確立されていない。現状では、微細な結晶粒からなるマグネシウム合金を得るためには、押出加工においては押出比を上げる、圧延においては圧下率を上げることによって素材に大きな歪を与え、さらに適切な焼鈍を行うことによって静的再結晶を起こさせる必要がある。
【0010】
一方、Cu−Zn系の銅合金の動的再結晶を促進させる閉塞鍛造方法が提案されている(特許文献2)。
【0011】
【特許文献1】
特開平11−77214号公報
【特許文献2】
特開平11−57920号公報(0010、0031)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来のマグネシウム合金部品の製造技術に係る問題点を鑑み、複雑な工程を経ずに量産される安価なマグネシウム合金素材板から、複雑な立体形状を有し、寸法精度がよく、機械的強度および耐食性に優れるマグネシウム合金部品を製造することができるマグネシウム合金部品の製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、2.5〜3.5質量%のアルミニウムおよび0.5〜1.5質量%の亜鉛を含み、残部がマグネシウムからなり、平均結晶粒径が20μmより大きな結晶組織を持つマグネシウム合金素材薄板を金型内に閉塞し、250〜300℃の温度の前記素材薄板に対して厚み方向に歪み速度10-3〜10-1s-1となる圧力を印加して、前記素材薄板を成形することを特徴とするマグネシウム合金部品の製造方法に関する。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明のマグネシウム合金部品の製造方法で用いるマグネシウム合金素材薄板は、1.5〜9.5質量%のアルミニウムおよび0.5〜1.5質量%の亜鉛を含み、残部がマグネシウムであるマグネシウム合金からなる。
原料マグネシウム合金としては、例えばAZ21、AZ31、AZ61、AZ81、AZ91(ASTM規格)等が入手可能である。なお、本発明の実施に特に適した合金は、2.5〜3.5質量%のアルミニウムおよび0.5〜1.5質量%の亜鉛を含み、残部がマグネシウムからなる。
【0017】
本発明の製造方法により製造されたマグネシウム合金部品は、欠陥が少なく、機械的強度および耐食性に優れるが、本発明は、そのようなマグネシウム合金部品を、平均結晶粒径が例えば20μmを超えるような比較的粗い結晶組織を持つマグネシウム合金素材薄板から製造することができる。このような素材薄板は、複雑な工程を経ずに量産することができ、安価である。
また、本発明の製造方法は、プレス加工中の素材薄板内において動的再結晶を進行させることにより、凸部を有する複雑な立体形状を有しながらも、寸法精度が高く、欠陥が少なく、機械的強度および耐食性に優れるマグネシウム合金部品を提供するものである。
【0018】
本発明は、薄いマグネシウム合金素材薄板、例えば厚さ2mm以下の薄板を用いる場合に特に好適である。また、本発明は、マグネシウム合金部品の薄板部における厚さtに対する前記薄板部の表面に形成された凸部における厚さTの比率T/tは、4〜20である場合に特に有効である。
【0019】
図1は、本発明の製造方法により製造されたマグネシウム合金部品の一例の凸部付近の断面模式図である。このマグネシウム合金部品10は、厚さtの薄板部11からなり、その表面には厚さTの凸部12が形成されている。このような凸部12(ボス、リブなど)は、薄板形状の家電携帯製品等に用いられる部品に形成されることが多い。
【0020】
マグネシウム合金素材薄板を金型内に閉塞し、素材薄板に圧力を印加して、素材薄板内で動的再結晶現象を進行させるとともに、前材薄板を表面に凸部を有する薄板形状に成形する工程は、一工程で行うことができる。動的再結晶現象とは、素材薄板の加工中に、合金の結晶粒径が変化する現象をいう。このときの合金の結晶粒径の変化は、歪みエネルギーにより促進される。加工温度が比較的低い状態での動的再結晶では、結晶粒は微細化する傾向がある。
【0021】
素材薄板に圧力を印加する時の歪み速度は、薄板の厚み方向において、10-3〜10-1s-1程度とすることが好ましい。歪み速度が大きすぎると加工時間が短くなり、再結晶現象が十分に進行しなくなる。また、歪み速度が小さすぎると、加工に時間がかかりすぎて、実用的ではなくなる。
圧力を印加する前の素材薄板には、凹凸が無いが、その厚みは圧力の印加により薄くなる。また、プレスによって押し潰された薄板の余肉は、予め金型に形成されている凹部へ充填され、凸部を形成するか、もしくは外周方向へ逃げる。
【0022】
上記のような工程で得られるマグネシウム合金部品の任意の断面においては、明らかに粒径の異なる結晶が混在しており、その粒径分布を存在頻度で表した場合、前記薄板部の任意の断面においては、粗大粒群の中に微細粒が点在しており、前記凸部の任意の断面においては、微細粒群の中に粗大粒が点在している。
【0023】
凸部では、結晶粒径が10μm以下の結晶粒の存在確率が、薄板部での存在確率に比べて、例えば20%以上高い。例えば、前記凸部では、結晶粒径が10μm以下の結晶粒の存在確率が90%以上であり、前記薄板部では、結晶粒径が10μm以下の結晶粒の存在確率が70%以下である。
【0024】
図2に、本発明の製造方法により製造されたマグネシウム合金部品の凸部における断面組織写真の一例を示し、図3に、同マグネシウム合金部品の薄板部における断面組織写真の一例を示す。これらの写真は、素材薄板に圧力を印加する時の歪み速度を10-2s-1、温度を300℃とした場合に得られたマグネシウム合金部品のものである。
各写真において、明らかに粒径の異なる結晶粒が混在している状態が観測できる。例えば図2では、粗大粒21aおよび21bならびに微細粒22aおよび22bが観測できる。また、図3では、粗大粒31aおよび31bならびに微細粒32aおよび32bが観測できる。さらに、凸部の断面組織写真(図2)では微細粒群の存在確率が高く、薄板部の断面組織写真(図3)では粗大粒群の存在確率が高いこともわかる。素材薄板として用いられる押出材や圧延材においては、通常このような粒度分布は見られない。
【0025】
図4および図5は、それぞれ凸部および薄板部の断面組織写真から得られた結晶粒の粒径分布の一例を存在頻度で表している。このような粒度分布を得るには、まず、断面組織写真の粒界をトレースした図から、画像処理によって一つ一つの結晶粒の面積を求める。そして、一つ一つの結晶粒の面積から、各結晶粒の等価円を計算し、その直径を結晶粒径として計算する。こうして得られた結晶粒径の分布を2μmピッチでヒストグラムに表したものが図4および図5である。
図4および図5より、凸部では、薄板部に比べて、粗大粒の存在確率が低く、微細粒の存在確率が高いことがわかる。
【0026】
表1に、素材薄板に圧力を印加するときの温度を変えたこと以外、図2〜5に示したマグネシウム合金部品の製造条件と同様の条件でマグネシウム合金部品を作製した場合の各部位の平均結晶粒径を示す。表1より、圧力を印加するときの温度が350℃では、凸部と薄板部とで平均結晶粒径の差異が縮まることがわかる。これは、加熱温度が高くなると、結晶粒の成長が促進されるためと考えられる。結晶粒径が大きくなると、変形抵抗が大きくなり、機械的強度の劣化につながる。従って、素材薄板に圧力を印加する時の素材薄板の温度は300℃以下であることが好ましく、250〜300℃であることが特に好ましい。
【0027】
【表1】
【0028】
【実施例】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
マグネシウム合金素材には、アルミニウム含有量が約3質量%、亜鉛含有量が約1質量%、残部がマグネシウムである市販の鋳造用マグネシウム合金(AZ31合金)の押出棒(外径φ25mm)を用いた。この素材の平均結晶粒径は30.4μmであった。これを、旋盤でまず外径φ18mmに加工し、さらに歯厚0.5mmの湿式スライサーで厚み1.4mmに輪切りにし、円板状の薄板を得た。
【0029】
円板状薄板の成形加工に用いた金型と油圧式プレス機の断面模式図を図6に示す。プレス機は、ボルスタ61、その上方に配置されたスライド62、スライド62に締結されているダイセット63およびボルスタ61に締結されているダイセット64からなる。ダイセット64には円柱状の凸部65aを有する下金型65が締結されている。凸部65aの中心には鉛直方向に下金型65を貫通する中心孔65bが設けられている。中心孔65bは、水平方向に下金型65を貫通する空気抜き孔65cと連通している。ダイセット63には円柱状の凸部66aを有する上金型66が設置されており、凸部66aの先端66bは平坦となっている。
【0030】
下金型65の円柱状凸部65aには、円筒状コンテナ67の中空部下端が嵌合しており、スライド62の移動に伴って、その中空内を上金型66の凸部66aが上下に移動する。コンテナ67の中空には、中心に鉛直方向の貫通孔68aを有する中金型68が挿入されている。貫通孔68aは、下金型65の中心孔65bと連通している。中金型68の上面に円板状薄板69が水平に設置される。
【0031】
各ダイセットには、加熱用の棒状ヒータ63aおよび64aが埋め込まれており、ヒータ63aおよび64aへの投入電流を制御する温度コントローラ(図示しない)によって、各金型は所定温度に制御される。コンテナ67には、金型の温度をフィードバック制御するための熱電対70がセットされている。
【0032】
上記装置を用いて、以下の要領で、中金型68の上面に設置されている円板状薄板69を成形した。
まず、各金型を予め250℃まで加熱した。その後、円板状薄板69に対し、油圧プレス機で一定圧(10〜20トン)を印加した。その結果、円板状薄板は、面積約250mm2の下面に直径3mmのボスを有する形状に変形した。ボスの隆起高さが12mmとなるまでに要した時間は約5秒間であった。ボスの隆起量を円板状薄板の厚み減少量に換算し、これを厚み方向の歪速度に換算すると、0.05s-1であった。
【0033】
得られた成形品のボス部と薄板部とを切断し、断面を鏡面加工し、適切なエッティングを施して、金属組織を観察した。このとき得られた断面組織写真が図2および図3であり、それら断面におけるマグネシウム合金結晶粒の粒径分布を存在頻度で表したヒストグラムが図4および図5である。
図4において、粒径10μm以下の微細粒の存在確率は約90%であり、粗大粒と微細粒を合わせた全体の平均結晶粒径は6μmである。また、図5において、粒径10μm以下の微細粒の存在確率は約70%であり、粗大粒と微細粒を合わせた全体の平均結晶粒径は10μmである。
【0034】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、安価なマグネシウム合金素材薄板を用いて自由度の高い成形加工を行うことができ、例えば薄板部の厚みが0.5mm以下の複雑な立体形状を有するマグネシウム合金部品を寸法精度よく提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のマグネシウム合金部品の製造方法により製造されたマグネシウム合金部品の一例の凸部付近の断面模式図である。
【図2】 同マグネシウム合金部品の凸部における断面組織写真である。
【図3】 同マグネシウム合金部品の薄板部における断面組織写真である。
【図4】 同マグネシウム合金部品の凸部の断面組織写真から得られた結晶粒の粒径分布を存在頻度で表したヒストグラムである。
【図5】 同マグネシウム合金部品の薄板部の断面組織写真から得られた結晶粒の粒径分布を存在頻度で表したヒストグラムである。
【図6】 本発明を実施するための金型と油圧式プレス機の一例の断面模式図である。
Claims (1)
- 2.5〜3.5質量%のアルミニウムおよび0.5〜1.5質量%の亜鉛を含み、残部がマグネシウムからなり、平均結晶粒径が20μmより大きな結晶組織を持つマグネシウム合金素材薄板を金型内に閉塞し、250〜300℃の温度の前記素材薄板に対して厚み方向に歪み速度10-3〜10-1s-1となる圧力を印加して、前記素材薄板を成形することを特徴とするマグネシウム合金部品の製造方法。
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