JP4355511B2 - 車両用空調装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は車両用空調装置に関し、より詳しくは、快適性と燃費向上の両立を図った車両用空調装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
周知のように、車両用空調装置では、エンジン等の車両駆動用動力源により駆動されるコンプレッサでガス冷媒を圧縮し、高温高圧とされたガス冷媒をコンデンサで凝縮させ、膨張手段で減圧して低温低圧の液冷媒とした後、エバポレータで蒸発させて車室内に吹き出す空調風を冷却している。エバポレータで蒸発した冷媒はコンプレッサに戻って上記サイクルを繰り返す。
【0003】
近年、燃費向上の要求に応えて、外部から与えられる電気信号により制御される電子操作式コントロールバルブ(以下、ECVと記す)を備えた可変容量コンプレッサが用いられるようになってきている。この種のコンプレッサを備えた車両用空調装置では、乗員が設定した温度に基づいて目標吹出空気温度を算出し、エバポレータの吹出空気温度をセンサで検出し、目標吹出空気温度及びエバポレータの吹出空気温度に基づいてECVのデューティ比を算出し、これに基づいてコンプレッサの吐出冷媒容量を制御するようにしており、コンプレッサの吐出冷媒容量を精密に制御することができるため、燃費向上を図ることができるものである。
【0004】
また、最近では、さらに燃費向上の要求が高まりつつあるのに応えて、車両用空調装置を制御するエアコンコンピュータとエンジンコンピュータとが通信を行い、走行状態やエンジン負荷等に応じて、快適性を確保しつつコンプレッサの動力を低減することができるデューティ信号を算出し、これをECVに割り込み的に与える制御方式が採用されている場合もある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来技術では、適切なデューティ信号の算出が困難で、快適性と燃費向上を十分に両立させることができない場合があった。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、請求項1記載の発明は、液冷媒を蒸発させて車室内に吹き出す空調風を冷却するエバポレータ6と、車両駆動用動力源3により駆動されエバポレータ6で蒸発した冷媒を圧縮すると共に外部からの電気信号により吐出冷媒容量を制御可能な可変容量コンプレッサ1と、エバポレータ6の吹出空気温度を検出する吹出空気温度センサ8と、設定温度に基づいてエバポレータ6の目標吹出空気温度Tint’を算出すると共に吹出空気温度センサ8の検出値に基づいて可変容量コンプレッサ1の吐出冷媒容量を制御する制御手段7とを備えた車両用空調装置であって、
制御手段7は、目標吹出空気温度Tint’で可変容量コンプレッサ1を制御すると燃費が低下する状態に突入したときには、目標吹出空気温度Tint’よりも所定温度高い目標吹出空気温度で可変容量コンプレッサ1を制御し、前記状態はアイドリング状態を含む低速状態であり、低速状態に突入したとき目標吹出空気温度Tint’よりも所定温度高い温度で可変容量コンプレッサを駆動し、その後、高速状態に突入したときに目標吹出空気温度Tint’よりも所定温度低い温度で可変容量コンプレッサを駆動することを特徴としている。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の車両用空調装置であって、
吹出空気温度Tintが目標吹出温度Tint’と等しくなるときに目標吹出温度Tint’を所定温度高くすることを特徴としている。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1記載の車両用空調装置であって、
アイドリング状態になると、目標吹出温度Tint’を段階的に増加させることを特徴としている。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の車両用空調装置であって、
前記状態はアイドリング状態で且つ可変容量コンプレッサ1が最大吐出容量の方向に移行する状態であることを特徴としている。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の車両用空調装置であって、
前記状態はエバポレータ6の吹出空気温度が目標吹出空気温度Tint’と等しくなるときであることを特徴としている。
【0014】
【発明の効果】
請求項1記載の発明によれば、目標吹出空気温度Tint’で可変容量コンプレッサ1を制御すると燃費が低下する状態に突入したときには目標吹出空気温度Tint’よりも所定温度高い目標吹出空気温度で可変容量コンプレッサ1を制御することで、所定の冷房及び除湿性能を確保しつつ可変容量コンプレッサ1の消費動力を低減することができるため、快適性と燃費の向上の両立を図ることができる。また、燃費低下率が低い高速時に目標吹出空気温度を低くすることで、燃費を低下させることなく低速時に失った冷力を回復することができるため、快適性をより確実に確保することができる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、吹出空気温度Tintが目標吹出温度Tint’と等しくなるときに目標吹出温度Tint’を所定温度高くすることにより、オーバーシュート量を減らし、可変容量コンプレッサの余分な消費動力を低減することができる。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、デューティ比が最大値に近づく時間を遅延させることにより、再び走行状態に入ったときに可変容量コンプレッサを迅速に制御領域に突入させて可変容量コンプレッサの余分な消費動力を低減することができる。
【0019】
請求項4記載の発明によれば、アイドリング状態において可変容量コンプレッサ1のデューティ比が最大吐出容量の方向に近づく時間が遅延し、走行状態に復帰すると可変容量コンプレッサ1が速やかに制御域に突入するため、可変容量コンプレッサ1の余分な消費動力量が低減して燃費が向上する。
【0020】
請求項5記載の発明によれば、エバポレータ6の吹出空気温度の目標吹出空気温度Tint’に対するオーバーシュート量が低減するため、可変容量コンプレッサ1の余分な消費動力量が低減して燃費が向上する。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態及び参考例を図面に基づいて説明する。図1は本発明の参考例である車両用空調装置の概略構成図、図2はエアコンコンピュータの概略構成を示すブロック図である。
【0022】
図1において、1は可変容量コンプレッサで、外部から与えられる電気信号により制御される電子操作式コントロールバルブ(以下、ECVと記す)2を備えている。可変容量コンプレッサ1は車両駆動用動力源としてのエンジン3により駆動される。4はコンデンサで、可変容量コンプレッサ1で圧縮された高温高圧のガス冷媒を凝縮させる。コンデンサ4で凝縮した冷媒は膨張弁5で減圧されて低温低圧の液冷媒となり、エバポレータ6で蒸発して車室内に吹き出す空調風を冷却する。エバポレータ6で蒸発した冷媒は可変容量コンプレッサ1に戻って上記サイクルを繰り返す。
【0023】
可変容量コンプレッサ1は斜板式のもので、ECV2をON/OFFしてクランクケース内の圧力を制御することによりピストンに加わる圧力のバランスが変化し、これによって斜板の傾きが変化するため吐出冷媒容量を制御することができる。
【0024】
7は制御手段としてのエアコンコンピュータで、エバポレータ6の吹出空気温度を検出する吹出空気温度センサ8の他、室内温度センサ、外気温度センサ、日射量センサ等の各種センサが接続され、これらの検出値に基づいてECV2を制御する。9はエンジンコンピュータで、車速センサ、アクセル開度センサ、エンジン回転速度センサ、吸入空気圧センサ、水温センサ等の各種センサが接続され、これらの検出値に基づいてエンジン3を制御する。
【0025】
エアコンコンピュータ7はマイクロコンピュータにより構成され、図2に示すように、CPU10、ROM11、RAM12、タイマー13、SCI(シリアルインターフェース)14、A/D変換器15、I/Oポート16等を有している。CPU10は、I/Oポート16を介して与えられる各センサの検出値やエンジンコンピュータ9からの制御情報に基づいてECV2の駆動回路17に制御信号を出力する。
【0026】
次に、本発明の参考例の動作を図3に基づいて説明する。本発明の参考例では、エンジン負荷が大きくなる加速時に目標吹出空気温度を所定温度高くして可変容量コンプレッサ1の消費動力を低減し、減速時に目標吹出空気温度を所定温度低くして冷力を回収する。
【0027】
エンジンのイグニッションスイッチ(図示せず)がオンされ、かつエアコンスイッチS(図1参照)がオンされると、バッテリーBからエアコンコンピュータ7に電圧が供給されて図3に示すECV制御ルーチンがスタートする。
【0028】
まず、マイクロコンピュータの起動処理が行われ(ステップS10)、エアコンコンピュータ7に接続された各センサの検出値が取り込まれる(ステップS20)。
【0029】
次いで、エンジンの制御情報(加速又は減速状態であることを示すフラグ等)又はエンジン制御センサ値(アクセル開度、車速、水温、エンジン回転数等)を取り込む。後者の場合には、取り込んだセンサ値に基づいて加速又は減速状態であるかを判定する演算処理を行う(ステップS30)。
【0030】
次いで、室内温度センサ、外気温度センサ、日射量センサ等の各種センサの値や乗員が操作パネル(図示せず)を介して設定した設定温度に基づいてエバポレータ6の目標吹出空気温度Tint’を算出する(ステップS40)。
【0031】
次いで、目標吹出空気温度の変更制御が要求される状態であるかを判定し(ステップS50)、YESの場合には加速制御であるかを判定する(ステップS60)。そして、加速制御の場合にはTint’+所定温度α(α>0)を目標吹出空気温度とする(ステップS70)。
【0032】
次いで、この目標吹出空気温度に基づいてECV2のデューティ比を算出し(ステップS80)、ECV2に出力されるデューティ比をこのデューティ比に置き換える補正処理を行い(ステップS90)、これをECV2に出力して(ステップS100)、ステップS20に戻る。
【0033】
なお、ステップS50で目標吹出空気温度の変更制御が行われるべき状態でないと判定された場合にはステップS80に進み、Tint’に基づいてデューティ比を算出する。また、ステップS60でNOの場合(すなわち減速制御)には、Tint’−所定温度αを目標吹出空気温度とし(ステップS110)、ステップS80でこの目標吹出空気温度に基づいてデューティ比を算出する。
【0034】
このように、加速時において、目標吹出空気温度を設定温度に基づいて算出された目標吹出空気温度Tint’よりも所定温度高くすることで、可変容量コンプレッサ1の消費動力が低減するため、燃料消費量が低減すると共に、エンジン負荷が低減するため加速性が向上する。
【0035】
なお、目標吹出空気温度を高くせずに直接デューティ比で制御する場合には、適切なデューティ比の算出が困難であるため、エバポレータ6の吹き出し温度がオーバーシュートして室温が高くなり、快適性が損なわれることがある。これに対し、本発明の参考例では、エバポレータ6の吹き出し温度がTint’+αよりも高くなることがないため、快適性が損なわれることがない。
【0036】
また、エバポレータ6の目標吹出空気温度を直接制御することで、デューティ比による制御に比べて制御が容易となり、マップ(特性図)の作成等が不要になるという利点や、可変容量コンプレッサ1の容量を迅速に変化させる場合においてエバポレータ6の吹き出し温度の変動を抑えることができ、適切な冷力を得ることができるという利点が得られる。
【0037】
さらに、エンジンコンピュータ9からエンジン負荷低減の要求が有った場合でも、デューティ比は一定でなく、常に演算したデューティ比で容量を制御しているため、エアコン負荷に関係なく、適切な冷力を得ることができる。
【0038】
また、本発明の参考例では、減速時に目標吹出空気温度を低くして加速時に失われた冷力を回復するようにしており、快適性をより確実に確保することができる。
減速時におけるアイドル復帰までの時期にエンジン燃料の噴射が行われていない車両では、このような制御方式を導入することで、さらに燃費の向上を図ることができる。なお、減速時に代えて、エンジン負荷に対してエアコン消費動力の割合が小さい定速走行時に目標吹出空気温度を低くするようにしても、ほぼ同様の効果を得ることができる。
【0039】
次に、本実施形態の動作を図4に基づいて説明する。アイドル状態を含む低速渋滞時にはコンプレッサ稼働によって燃費は著しく低下する。また、ある一定速以上ではコンプレッサ稼働による燃費低下率は低速渋滞時に比べて小さくなる。
【0040】
そこで、本実施形態では、車両が低速状態に突入したとき所定時間だけ目標吹出空気温度をTint’+αとして可変容量コンプレッサ1の消費動力を低減し、逆に高速状態に突入したとき所定時間だけ目標吹出空気温度をTint’−αとして冷力を回収する。
【0041】
そのECV制御ルーチンを順に説明すると、まず、マイクロコンピュータの起動処理が行われ(ステップS210)、エアコンコンピュータ7に接続された各センサの検出値が取り込まれる(ステップS220)。
【0042】
次いで、エンジンの制御情報(低速又は高速状態であるかを示すフラグ等)又はエンジン制御センサ値(アクセル開度、車速、エンジン回転数等)を取り込む。後者の場合には、取り込んだセンサ値に基づいて低速又は高速状態であるかを判定する演算処理を行う(ステップS230)。
【0043】
次いで、室内温度センサ、外気温度センサ、日射量センサ等の各種センサの値や乗員が操作パネル(図示せず)を介して設定した設定温度に基づいてエバポレータ6の目標吹出空気温度Tint’を算出する(ステップS240)。
【0044】
次いで、目標吹出空気温度の変更制御が要求される状態であるか否かを判定する(ステップS250)。YESの場合にはタイマー13の経時時間がMAXに達しているか否かを判定し(ステップS260)、NOの場合にはタイマー13をリセットするか否かを判定し(ステップS270)、YESの場合にはタイマー13をリセットして起動する(ステップS280)。
【0045】
次いで、車速が所定速度以下の低速状態であるか否かを判定し(ステップS290)、低速の場合にはTint’+所定温度α(α>0)を目標吹出空気温度とする(ステップS300)。
【0046】
次いで、この目標吹出空気温度に基づいてECV2のデューティ比を算出し(ステップS310)、ECV2に出力するデューティ比をこのデューティ比に置き換える補正処理を行い(ステップS320)、ECV2に出力して(ステップS330)、ステップS220に戻る。
【0047】
目標吹出空気温度の変更制御を開始して所定時間経過していない場合には、ステップS260でNO、ステップS270でNOと判定されて目標吹出空気温度の変更制御を継続する。そして、目標吹出空気温度の変更制御を開始して所定時間経過した場合には、ステップS260でYESと判定され、目標吹出空気温度の変更制御が終了する。
【0048】
なお、車速が所定速度よりも大きい場合(高速状態)には、ステップS290でNOと判定され、Tint’−所定温度αを目標吹出空気温度とし(ステップS340)、ステップS310でこの目標吹出空気温度に基づいてデューティ比を算出する。
【0049】
また、ステップS250で目標吹出空気温度の変更制御が行われるべき状態でないと判定された場合には、タイマー13がリセットされ(ステップS350)、目標吹出空気温度の変更制御は行われない。
【0050】
このように、本実施形態では、燃費低下率が高くなる低速時において目標吹出空気温度を設定温度に基づいて算出された目標吹出空気温度Tint’よりも所定温度高くすることで、可変容量コンプレッサ1の消費動力が低減して燃費が向上する。また、エバポレータ6の吹き出し温度がTint’+αよりも高くなることがないため、快適性が損なわれることがない。
【0051】
また、本実施形態では、燃費低下率が低くなる高速時に目標吹出空気温度を低くして低速時に失われた冷力を回復するようにしており、燃費を低下させることなく快適性をより確実に確保することができる。
【0052】
次に、第2の実施形態の動作を図5に基づいて説明する。エアコンを起動すると、エバポレータ6の吹出空気温度Tintが下がってゆき、目標吹出空気温度Tint’に近づいてゆく。そして、TintはTint’を越えて過冷却側にオーバーシュートした後、Tint’に収束してゆく。このオーバーシュートにより、可変容量コンプレッサ1が余分な動力を消費することになる。
【0053】
そこで、本実施形態では、TintがTint’と等しくなるときに目標吹出空気温度をTint’+αとしてオーバーシュート量を減らし、可変容量コンプレッサ1の余分な消費動力を低減するようにしている。
【0054】
そのECV制御ルーチンを順に説明すると、まず、マイクロコンピュータの起動処理が行われ(ステップS410)、エアコンコンピュータ7に接続された各センサの検出値が取り込まれる(ステップS420)。
【0055】
次いで、室内温度センサ、外気温度センサ、日射量センサ等の各種センサの値や乗員が操作パネル(図示せず)を介して設定した設定温度に基づいてエバポレータ6の目標吹出空気温度Tint’を算出する(ステップS430)。
【0056】
次いで、エバポレータ6の吹出空気温度TintとTint’との差が2℃よりも大きいか否かを判定し(ステップS440)、NOの場合には目標吹出空気温度をアップする制御に突入するフラグをセットし(ステップS450)、目標吹出空気温度をアップする制御を解除するフラグをクリアする(ステップS460)。なお、ステップS440でYESの場合にはステップS450、S460の処理が行われない。ここでTintとTint’の差2℃は、過冷却オーバーシュートを極力抑え、かつ乗員に違和感を与える温度上昇が無い温度である。
【0057】
次いで、TintがTint’よりも大きいか否かを判定し(ステップS470)、NOの場合には、目標吹出空気温度をアップする制御に突入してもよい状態であるか否か、すなわち制御突入フラグがセットされて制御解除フラグがクリアされているか、及びその他の条件の可否を判定し(ステップS480)、YESの場合にはTint’+所定温度α(α>0)を目標吹出空気温度とし(ステップS490)、目標吹出空気温度をアップする制御を解除するフラグをセットする(ステップS500)。
【0058】
次いで、この目標吹出空気温度に基づいてECV2のデューティ比を算出し(ステップS510)、ECV2に出力するデューティ比をこのデューティ比に置き換える補正処理を行い(ステップS520)、ECV2に出力して(ステップS530)、ステップS420に戻る。
【0059】
なお、ステップS480で目標吹出空気温度をアップする制御に突入してもよい状態でないと判定された場合には、ステップS510に進み、Tint’に基づいてデューティ比を算出する。
【0060】
また、ステップS470でYESの場合には、目標吹出空気温度をアップする制御に突入する状態を解除するフラグがセットされているか否かを判定し(ステップS540)、YESの場合には目標吹出空気温度をアップする制御に突入するフラグをクリアし(ステップS550)、ステップS510に進む。ステップS540でNOの場合にはステップS550を経ずにステップS510に進む。
【0061】
図6はTint、目標吹出空気温度、及びデューティ比の変化を示すグラフであり、本実施形態を実線(太線)で示し、従来を破線で示している。従来は目標吹出空気温度が一定(Tint’)であるのに対し、本実施形態では、TintがTint’と等しくなる直前に、目標吹出空気温度がTint’+αとなり、TintのTint’に対するオーバーシュートが生じる時間tが従来のオーバーシュート時間t’よりも短くなっているのが分かる。これにより、t’の間で本実施形態のデューティ比が従来とは異なっており、可変容量コンプレッサ1の余分な消費動力が低減している。
【0062】
なお、エバポレータ6の吹き出し温度はTint’+αよりも高くなることがないため、快適性が損なわれることがない。
【0063】
次に、第3の実施形態の動作を図7に基づいて説明する。車両が走行状態からアイドル状態になり、かつ可変容量コンプレッサ1が制御域から最大性能を発揮する領域に移行する状態において、従来は、車両が再び走行状態に入ると、デューティ比がすぐにTint’に対応した値に到達しないため、可変容量コンプレッサ1が余分な動力を消費することになる。
【0064】
そこで、本実施形態では、アイドル状態になると、目標吹出空気温度を段階的にアップさせてデューティ比が最大値に近づく時間を遅延させることにより、再び走行状態に入ったときに可変容量コンプレッサ1を迅速に制御領域に突入させて可変容量コンプレッサ1の余分な消費動力を低減するようにしている。
【0065】
そのECV制御ルーチンを順に説明する。なお、Aは1ルーチンで目標吹出空気温度Tint’に加算される温度であり、TupはTint’に加算された温度のトータル値である。
【0066】
制御ルーチンがスタートすると、まず、マイクロコンピュータの起動処理が行われ(ステップS610)、エアコンコンピュータ7に接続された各センサの検出値が取り込まれる(ステップS620)。
【0067】
次いで、室内温度センサ、外気温度センサ、日射量センサ等の各種センサの値や乗員が操作パネル(図示せず)を介して設定した設定温度に基づいてエバポレータ6の目標吹出空気温度Tint’を算出する(ステップS630)。
【0068】
次いで、デューティ比が最大値であるか否かを判定し(ステップS640)、NOの場合にはアイドル状態であるか否かを判定し(ステップS650)、YESの場合にはTint−(Tint’+Tup)が0.5℃よりも大きいか否かを判定する(ステップS660)。なお、初期状態ではTup=0であるため、Tint−Tint’が0.5℃より大きいか否かが判定されることになる。ここで、0.5℃は、コンプレッサ容量が完全にフルストローク状態で、かつ冷力がTint’まで未達の場合を判断できる最小値である。
【0069】
ステップS660でYESの場合にはTupにAを加算した値をTupとする(ステップS670)。なお、初期状態ではTup=0であるため、加算後のTup=Aとなる。ステップS660でNOの場合にはTint−(Tint’+Tup)が0℃よりも小さいか否かを判定し(ステップS680)、YESの場合にはTupからAを減算した値をTupとする(ステップS690)。また、ステップS640でYES、ステップS650でNOの場合にはTupを0としてステップS710に進む。
【0070】
次いで、Tupが0よりも小さいか否かを判定し(ステップS710)、YESの場合にはTupを0とし(ステップS720)、NOの場合にはTupを変更せずにTint’+Tupを目標吹出空気温度とする(ステップS730)。次いで、目標吹出空気温度が最低の除湿レベルを確保することができる保証最大温度以上であるか否かを判定し(ステップS740)、YESの場合にはTupを0とし(ステップS750)、NOの場合にはTupを変更せずに目標吹出空気温度に基づいてECV2のデューティ比を算出する(ステップS760)。
【0071】
そして、ECV2に出力するデューティ比をこのデューティ比に置き換える補正処理を行い(ステップS770)、ECV2に出力して(ステップS780)、ステップS620に戻る。
【0072】
図8は車速、Tint、目標吹出空気温度、及びデューティ比の変化を示すグラフであり、本実施形態を実線(太線)で示し、従来を破線で示している。従来は目標吹出空気温度が一定(Tint’)であるのに対し、本実施形態では、アイドル状態(車速=0)に突入すると、目標吹出空気温度が段階的に増加する。
【0073】
これによって、従来よりもデューティ比が最大値に近づく時間が遅延し、再び走行状態に入ったときに可変容量コンプレッサ1が迅速に制御領域に突入しているのが分かる。したがって、可変容量コンプレッサ1の余分な消費動力が低減する。
【0074】
このように、可変容量コンプレッサ1のフルストローク状態で遅延効果を生じさせる場合には、可変容量コンプレッサ1の容量制御への跳ね返りが殆ど生じない。
【0075】
なお、エバポレータ6の吹き出し温度は保証最大温度よりも高くなることがないため、快適性が損なわれることがない。
【0076】
なお、本発明は可変容量コンプレッサがエンジン以外の車両駆動用動力源により駆動される車両用空調装置に適用することもできる。
【0077】
その他にも、本発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に種々の変形を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一参考例である車両用空調装置の概略構成図。
【図2】 エアコンコンピュータの概略構成を示すブロック図。
【図3】 参考例の制御手順を示すフローチャート。
【図4】 本実施形態の制御手順を示すフローチャート。
【図5】 第2の実施形態の制御手順を示すフローチャート。
【図6】 第2の実施形態の効果を示すグラフ。
【図7】 第3の実施形態の制御手順を示すフローチャート。
【図8】 第3の実施形態の効果を示すグラフ。
【符号の説明】
1 可変容量コンプレッサ
3 エンジン(車両駆動用動力源)
6 エバポレータ
8 吹出空気温度センサ
7 エアコンコンピュータ(制御手段)
Claims (5)
- 液冷媒を蒸発させて車室内に吹き出す空調風を冷却するエバポレータ(6)と、車両駆動用動力源(3)により駆動されエバポレータ(6)で蒸発した冷媒を圧縮すると共に外部からの電気信号により吐出冷媒容量を制御可能な可変容量コンプレッサ(1)と、エバポレータ(6)の吹出空気温度(Tint)を検出する吹出空気温度センサ(8)と、設定温度に基づいてエバポレータ(6)の目標吹出空気温度(Tint’)を算出すると共に吹出空気温度センサ(8)の検出値に基づいて可変容量コンプレッサ(1)の吐出冷媒容量を制御する制御手段(7)とを備えた車両用空調装置であって、
制御手段(7)は、目標吹出空気温度(Tint’)で可変容量コンプレッサ(1)を制御すると燃費が低下する状態に突入したときには、目標吹出空気温度(Tint’)よりも所定温度高い目標吹出空気温度で可変容量コンプレッサ(1)を制御し、前記状態はアイドリング状態を含む低速状態であり、低速状態に突入したとき目標吹出空気温度(Tint’)よりも所定温度高い温度で可変容量コンプレッサ(1)を駆動し、その後、高速状態に突入したときに目標吹出空気温度(Tint’)よりも所定温度低い温度で可変容量コンプレッサ(1)を駆動することを特徴とする車両用空調装置。 - 吹出空気温度(Tint)が目標吹出温度(Tint’)と等しくなるときに目標吹出温度(Tint’)を所定温度高くすることを特徴とする請求項1記載の車両用空調装置。
- アイドリング状態になると、目標吹出温度(Tint’)を段階的に増加させることを特徴とする請求項1記載の車両用空調装置。
- 前記状態はアイドリング状態で且つ可変容量コンプレッサ(1)が最大吐出容量の方向に移行する状態であることを特徴とする請求項1記載の車両用空調装置。
- 前記状態はエバポレータ6の吹出空気温度が目標吹出空気温度(Tint’)と等しくなるときであることを特徴とする請求項1記載の車両用空調装置。
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