JP4348066B2 - 加水分解酵素を用いる基質の加水分解方法 - Google Patents

加水分解酵素を用いる基質の加水分解方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、基質を、同基質とは独立した加水分解酵素を用いて加水分解(酵素反応)するための加水分解方法に関する。上記した「基質とは独立した加水分解酵素」とは、基質に内在する加水分解酵素ではなく、加水分解に際して、基質に添加される加水分解酵素を意味する。なお、本願発明の以下の説明では、断りの無い限り、「基質とは独立した加水分解酵素」を単に加水分解酵素という。
【0002】
【従来の技術】
現在、基質を加水分解酵素を用いて加水分解する技術は、食品の加工分野、食品の調理分野、香料の製造分野、各種の油脂製造分野、工業製品の加工分野、各種製品の汚染除去分野等、極めて広い分野で利用されている。これらの分野では、被加水分解物である基質との関係で、当該基質の加水分解を促進するのに適した加水分解酵素を選択して加水分解反応を行って、有用な分解生成物を得たり、分解生成物を除去して基質の処理を行っている。
【0003】
このように、当該加水分解方法での加水分解反応(酵素反応)は、加水分解酵素の作用が大きく関与していることから、加水分解反応を円滑かつ迅速に促進するには、酵素反応中、加水分解酵素が高い活性を保持していることが要求される。このため、従来の加水分解方法では、基質と加水分解酵素の反応系に緩衝液を介在させて、反応系を、加水分解酵素が最大の活性状態を保持する一定のpHに調整する手段が採られている。
【0004】
しかしながら、当該加水分解方法を採用する場合においても、加水分解反応の開始に先だって、加水分解酵素の活性を高めておくことが有利である。この点に着目して、本発明者等はすでに、加水分解反応の前段階において、加水分解酵素を活性化する方法を提案している(例えば特許文献1参照)。
【0005】
上記した特許文献1にて提案している酵素の活性化方法は、加水分解酵素であるアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ等を活性化するもので、当該加水分解酵素を電解生成水に溶解して活性化する手段を採っている。電解生成水としては、有隔膜電解にて生成される電解生成アルカリ性水と電解生成酸性水を採用し、これらの電解生成水を活性化の対象とする加水分解酵素に応じて使い分けしている。例えば、加水分解酵素がα−アミラーゼである場合には電解生成アルカリ性水を採用し、加水分解酵素が酸性プロテアーゼやリパーゼである場合には電解生成酸性水を採用している。
【0006】
【特許文献1】
特開2000−245453号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記した特許文献1にて提案している加水分解酵素の活性化方法は、電解生成水が有する固有の機能によって加水分解酵素を活性化させるものであって、基質と加水分解酵素の緩衝液中での加水分解反応の前段階で行われるものである。従って、加水分解酵素を活性化した後に引き続きなされる加水分解反応では、電解生成水の機能が緩衝液によって相殺されて消失されるおそれがあって、加水分解反応の途中では、加水分解酵素が高い活性を保持し得ない状態となるおそれがある。
【0008】
また、当該加水分解酵素の活性化手段を採用する加水分解方法では、酵素液を調製する操作と基質液を調製する操作の2つの液の調製操作を必要とすることになって、加水分解反応の前段階の調製操作が面倒であり、当該加水分解方法を工業的に利用するのは不利である。
【0009】
また、工業的規模の加水分解方法では市販の酵素剤を使用するが、酵素の精製には時間と多大な費用がかかり、しかも純度の高い酵素を大量に精製することができないことから、市販の酵素剤は、多数の種類の酵素が混在する純度の低いものである。従って、酵素剤中に混在するわずかな量ではあるが複数の酵素の利用を考慮すれば、反応系に緩衝液を存在させる加水分解方法では、混在する複数の酵素を有効に利用することはできない。
【0010】
従って、本発明の主たる目的は、本発明者等がすでに確認している電解生成水の加水分解酵素の活性化機能を有効に利用して、基質と加水分解酵素との加水分解反応の開始時点から終了時点までの間、加水分解酵素の活性状態を保持する方法を提供して、反応系に緩衝液を使用することなく、加水分解反応を促進することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、基質とは独立した加水分解酵素により、同基質を加水分解するための加水分解方法に関するものであって、基質と、同基質とは独立した加水分解酵素と電解生成水の3成分が混在する反応系で加水分解反応を行うものである。
【0012】
しかして、本発明に係る加水分解方法においては、加水分解の開始時点から終了時点までの間、基質、加水分解酵素および分解生成物の反応系に電解生成水を常に存在させて、加水分解反応を促進させることを特徴とするものである。
【0013】
本発明に係る加水分解方法においては、前記加水分解酵素として、微生物由来の加水分解酵素を採用することができ、また、前記電解生成水として、水または希薄食塩水を被電解水とする有隔膜電解にて生成される電解生成アルカリ性水または電解生成酸性水を採用することができる。この場合、前記電解生成水の選択にあっては、電解生成水の採用する加水分解酵素に対する活性化機能の有無を判断基準とするものである。
【0014】
【発明の作用・効果】
本発明に係る加水分解方法は、基質と加水分解酵素と電解生成水の3成分の反応系で加水分解反応を行うものであり、この間、緩衝液を介在させることがないない。このため、当該加水分解方法によれば、加水分解の開始時点から終了時点まで間、基質、加水分解酵素および分解生成物が構成する反応系には常に電解生成水が存在し、当該電解生成水の酵素活性化機能によって、加水分解酵素は加水分解反応の終了時点まで高い酵素活性を保持して、加水分解反応を速やかに促進することになる。
【0015】
また、本発明に係る加水分解方法では、反応系に緩衝液を介在させることがないため、加水分解反応の前段階において、基質液の調製操作と酵素液の調製操作の2つの液の調製操作を省略することができて、加水分解反応を促進する上で極めて有利である。
【0016】
また、本発明に係る加水分解方法では、加水分解反応中常に電解生成水が存在しており、かつ、緩衝液等によって酵素に対する活性化機能を相殺されることがないことから、加水分解酵素として市販の酵素剤を使用する場合、酵素剤が含有する主たる酵素以外の複数の加水分解酵素を反応系のpHの変化に応じて次々に活性化させて、これらの加水分解酵素を当該加水分解反応に有効に利用することができ、この面からも、加水分解反応を一層促進することが可能になる。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明は、加水分解酵素を用いる基質の加水分解方法であり、基質と加水分解酵素と電解生成水の3成分が構成する反応系で、加水分解反応を促進させるものである。本発明に係る加水分解方法では、加水分解の対象とする基質としては、例えば澱粉、タンパク質、脂質、セルロース等を挙げることができ、また、これらの基質に対応する加水分解酵素としては、例えばアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼを挙げることができる。これらの加水分解酵素は、いずれも微生物由来の加水分解酵素である。
【0018】
これらの各加水分解酵素においては、例えばα−アミラーゼは、澱粉の加水分解酵素として、デキストリン、異性化糖、ブドウ糖、水飴、マルトース、マルトオリゴ糖、シクロデキストリン、カップリングシュガー等の製造に使用され、例えば酸性プロテアーゼは、大豆タンパク質の加水分解酵素として、醤油、味噌、麺つゆ、焼き肉のたれ、ドレッシング等の製造に使用され、例えばリパーゼは、脂質の加水分解酵素として、脂肪酸、石鹸、糖脂肪酸エステル等の界面活性剤、香料、メントール等の製造に使用され、また、例えばセルラーゼは、セルロースの加水分解酵素として、繊維柔軟化加工、セルロースの除去による汚れ除去加工等に使用される。
【0019】
本発明に係る加水分解方法における最大の特徴は、上記した各基質と各加水分解酵素の適宜の組合わによる加水分解反応において、各基質と各加水分解酵素との反応系に電解生成水を介在させること、換言すれば、基質と加水分解酵素と電解生成水の3成分の反応系で加水分解反応を行うことにある。
【0020】
本発明に係る加水分解方法では、加水分解反応の開始時点から終了時点までの間、基質、加水分解酵素および分解生成物の反応系に、加水分解酵素に対する酵素活性機能を有する電解生成水が常に存在していることであり、これにより、加水分解酵素は、基質の加水分解が終了する時点まで高い活性状態を保持して、加水分解反応を促進させるものである。
【0021】
本発明に係る加水分解方法においては、基質と加水分解酵素と電解生成水の3成分の反応系では、加水分解反応の初期の急激な進行によって、そのpHが急激に変化して中性の近傍に至り、その後の加水分解反応の進行によって、そのpHが漸次中性に近づく現象が認められる。この現象は、反応系にpHを一定に保持するための緩衝液が存在しないためであり、電解生成水の高い酵素活性化機能と、当該電解生成水が加水分解反応の終了時まで存在していることによって、酵素剤中のほぼ不可避的に混在している複数の加水分解酵素がpHの変化によって順次活性化されて、基質の加水分解反応に寄与しているためと推測される。
【0022】
基質の加水分解反応の反応系に、同反応系のpHを一定に調整するための緩衝液を存続させる従来の加水分解方法では、反応系のpHを一定に調整して加水分解酵素の酵素活性を維持して、基質の加水分解反応を促進させることを意図しているものであり、当該加水分解方法では、基質の酸化抑制や二次構造の変化等については全く考慮されていない。また、当該加水分解方法では、加水分解反応で生成される加水分解生成物の酸化抑制については、当然のことながら考慮されていない。
【0023】
これに対して、本発明に係る加水分解方法においては、基質の加水分解反応の反応系には、pHを一定に調整するための緩衝液を存在させず、これに替えて、加水分解酵素の酵素活性機能を有する電解生成水を存続させているものである。このため、本発明に係る加水分解方法によれば、当該電解生成水が有するpH、酸化還元電位、イオン濃度の特性、および、その他の固有の特性を複合的に有効に利用して、基質の加水分解反応の促進を図ることができ、これにより、加水分解生成物を効率よく生成することができる。
【0024】
本発明に係る加水分解方法においては、電解生成水として、有隔膜電解にて生成される各電解生成水、すなわち、電解生成アルカリ性水および電解生成酸性水を選択的に採用することができる。これらの電解生成水は、採用する加水分解酵素に応じて使い分けして使用する。
【0025】
電解生成アルカリ性水および電解生成酸性水を選択する判断基準は、採用する加水分解酵素に対する活性化機能の有無を基準とする。例えば、冒頭で例示している本出願人の先願である特許文献1に明示しているように、α−アミラーゼに対しては電解生成アルカリ性水を選択し、酸性プロテアーゼに対しては電解生成酸性水を選択し、アルカリ性プロテアーゼに対しては電解生成アルカリ性水を選択し、リパーゼに対しては電解生成酸性水を選択し、セルラーゼに対しては電解生成酸性水を選択する。
【0026】
本発明に係る加水分解方法で採用する電解生成水は、有隔膜電解にて生成される電解生成アルカリ性水または電解生成酸性水であるが、当該有隔膜電解では、被電解水として、水道水、天然水等の一般水や希薄食塩水を採用することができる。原料である被電解水のコストを考慮すれば、被電解水として水道水等の一般水であることが好ましい。
【0027】
電解生成水、特に電解生成酸性水中に残留する塩素成分(残留塩素成分)の加水分解酵素や基質に対する影響は、残留塩素成分が低濃度の場合には問題ないが、残留塩素成分が高濃度の場合については十分に検討してはいない。このため、高濃度の残留塩素成分の、加水分解酵素や基質に及ぼす影響を皆無とすることを考慮すれば、被電解水は一般水であることが好ましい。
【0028】
本発明に係る加水分解方法に採用するのに好ましい電解生成アルカリ性水としては、pHが8.5〜11の範囲、酸化還元電位が100〜−800mVの範囲のものである。当該電解生成アルカリ性水のイオン濃度については、被電解水が水道水場合には硬度が10〜300mg/lであり、被電解水が塩類の希薄水溶液である場合には塩濃度が10〜300mg/lである。また、採用するに好ましい電解生成酸性水は、pHが3.0〜5.5の範囲、酸化還元電位が900〜400mVの範囲であり、イオン濃度については、上記した電解生成アルカリ性水の場合と同様である。これらの各電解生成水は、加水分解反応における加水用水と同様の態様で使用される。
【0029】
本発明に係る加水分解方法において、電解生成水として電解生成アルカリ性水を採用する場合、電解生成アルカリ性水は、加水分解反応では基質の酸化を抑制しつつ酵素反応を促進させ、加水分解生成物の酸化を抑制しており、フリーラジカル消去能が高い。また、本発明に係る加水分解方法において、電解生成水として電解生成酸性水を採用する場合、電解生成酸性水は、加水分解反応では基質の酸化を抑制しつつ基質の二次構造の変化をも抑制して酵素反応を促進させ、加水分解生成物の酸化を抑制しており、フリーラジカル消去能が高い。
【0030】
本発明に係る加水分解方法においては、基質、加水分解酵素および電解生成水が構成する反応系が加水分解反応の進行によってpHが変化するが、反応系のpHの変化に応じて、使用する酵素剤に混在している他の複数の酵素が順次活性化されて加水分解反応に寄与して、加水分解反応を促進させる。
【0031】
本発明に係る加水分解方法においては、反応系のpHを一定に調整する緩衝液を反応系に存続させるものではないことから、加水分解反応の前段階において、従来のごとき基質液の調製操作と酵素液の調製操作を省略することができて、加水分解反応を促進する上で極めて有利である。
【0032】
本発明者等は、本発明に係る加水分解方法を、加水分解酵素の代表例であるアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼを用いて実施することにより、その作用効果を確認している。下記の「実施例」の項では、その一例である大豆タンパク質(基質)をアスペルギルスオリゼー由来のプロテアーゼ(加水分解酵素)で加水分解反応を行った実験例を詳細に示す。
【0033】
【実施例】
本実施例は、大豆タンパク質を加水分解(酵素分解)して、抗酸化性で低分子量のペプチド(分子量2500〜3000)を生成するのに水が関与していることに着目して、機能性を付与した電解生成水の有効性を評価することを目的としているものである。
【0034】
従来、大豆の発酵食品である醤油、味噌の製造に用いられている麹菌は、そのほとんどがアスペルギルスオリゼーであり、麹の酵素のなかでもプロテアーゼは、大豆タンパク質を分解するのに最も重要な役割を果たしている。プロテアーゼの活性を高めることは、大豆の発酵食品の品質、食味、収量等の向上や、大豆の発酵食品の製造期間の短縮に寄与する。本実施例では、味噌の製造方法を参考にして、大豆タンパク質の酵素分解に対する電解生成水(電解生成アルカリ性水および電解生成酸性水)の有効性を評価をするものである。
【0035】
本実施例では、供試水として、水道水を被電解水とする有隔膜電解にて生成された電解生成アルカリ性水および電解生成酸性水、浄水、その他のアルカリ性水および酸性水を採用し、加水分解酵素として、プロテアーゼ(Aspergillus oryze由来)を採用して、大豆タンパク質(基質)を加水分解して低分子量のペプチドを生成する酵素反応実験、および、当該酵素反応に関連する実験を行い、各電解生成水の有効性について検討して評価した。以下には、各実験の内容、各測定方法、および測定結果を詳細に示すとともに、評価を示す。
【0036】
(1)評価の要約:加水用水として電解生成水を採用すれば、反応系のpHを一定に調製するための緩衝液を使用することなく、大豆タンパク質を効率よく加水分解して、低分子量のペプチドを生成することができる。この事実は、従来の加水分解と同等またはそれ以上の効率を得る加水分解反応(酵素反応)を行う場合に、従来の加水分解方法では不可避としている基質液の調製操作と酵素液の調製操作を省略し得ることを教示している。従って、本発明に係る加水分解方法は、低分子量のペプチドの生成に極めて有利な方法である。
【0037】
使用する電解生成水が電解生成アルカリ性水である場合には、大豆タンパク質の加水分解物である低分子量のペプチドが多く生成されること、および、当該ペプチドはDPPHラジカル(1,1-Diphenyl-2-picrylhydrazyl)の消去能力が高く、分解率の上昇にともなって増大する。この現象は、使用する電解生成水が電解生成酸性水である場合もほぼ同様の傾向にある。但し、この現象は、電解生成酸性水の場合には、電解生成アルカリ性水の場合ほど顕著ではない。
【0038】
大豆タンパク質の加水分解反応(酵素反応)に、電解生成アルカリ性水、電解生成酸性水を採用すれば、基質である大豆タンパク質の酸化を抑制する効果があることを確認した。抗酸化性の高いペプチドを生成するには、基質である大豆タンパク質の酸化を抑制することが重要である。
【0039】
電解生成アルカリ性水は、アルカリ性プロテアーゼおよび中性プロテアーゼの酵素活性を高めて、基質である大豆タンパク質の加水分解反応を促進させることを確認した。また、電解生成酸性水は、酸性プロテアーゼの酵素活性を高めるが、中性プロテアーゼ の酵素活性を高める効果が無いことを確認した。これらの酵素活性の要因は定かではないが、電解生成水のpH、イオン濃度、酸化還元電位等の特性と、これら以外の特性とが関与しているものと推測される。
【0040】
(2)実験で採用した試料:基質は、粒径20μm以下に粉砕された水分4.3重量%、タンパク質39.5重量%、脂質21.2重量%、糖質27.2重量%、繊維質3.1重量%、灰分4.7重量%の全脂活性大豆粉末(株式会社ゴトウ食品製)、および、大豆カゼイン(SIGMA社製)である。加水分解酵素は、微生物由来の加水分解酵素(Aspergillus oryzse由来のSIGMA社製PROTEASE Type XXIII)である。供試水は、下記の10種類の水である。
【0041】
一般の水道水を浄水器(株式会社メイスイ製FX-21LZ)で残留塩素成分を除去した水(浄水…NW)、これを被電解水として有隔膜電解式電解水生成装置(ホシザキ電機株式会社製HOX-40A)にて生成した電解生成アルカリ性水(pH10.5…ECW10,5,pH10…ECW10,pH9…ECW9)、および、電解生成酸性水(pH3.5…EAW3.5,pH4…EAW4,pH5…EAW5)。
【0042】
蒸留水(DW)に水酸化ナトリウムを溶解して調製したpH10.5のアルカリ性水溶液(NaOHaq.)、および、蒸留水(DW)に塩酸を溶解して調製したpH3.5の酸性水溶液(HClaq.)。これらの(NaOHaq.)および(HClaq.)は、電解生成水のpH、イオン濃度(Ion)、酸化還元電位(ORP)の効果を検討するためのコントロールである。
【0043】
(NaOHaq.)に硫酸ナトリウムを溶解してイオン濃度をpH10.5の電解生成アルカリ性水と同一になるように調整した水溶液(NaOH-Ionaq.)、および、(HClaq.)に硫酸ナトリウムを溶解してイオン濃度をpH3.5の電解生成酸性水と同一になるように調整した水溶液(HCl-Ionaq.)
蒸留水(DW)に硫酸ナトリウムを溶解してイオン濃度を浄水と同一になるように調整した水溶液(DW-Ionaq.)、および、(NaOH-Ionaq.)に水素ガスを200ml/minで通気してORPをpHが10.5の電解生成アルカリ性水と同一になるように調整した水溶液(H2-NaOH-Ion aq.)。
【0044】
(3)供試水の水質分析:JIS K0101の工業用水試験方法に基づいて、供試水の水質を分析した。pHの測定には、pH計(株式会社堀場製作所製M-12)を使用。ORPの測定には、pH/ORP計(株式会社堀場製作所製D-13)を使用。電気伝導度(EC)の測定には、電気伝導度計(株式会社堀場製作所製ES-14)を使用。溶存酸素(DO)の測定には、pH/DO計(株式会社堀場製作所製D-25)を使用。溶存水素(DH)の測定には、溶存水素計(東亜電波工業株式会社製DHDI-1)を使用。陽イオンの測定には、原子吸光分光光度計(株式会社日立製作所製Z-5300)を使用。塩素イオン(Cl-)の測定には、硝酸銀滴定法を使用。リン酸イオン(PO4 3-)の測定には、モリブデン青(塩化すずII)吸光光度法を使用。硫酸イオン(SO4 2-)の測定には、ブルシン吸光光度法を使用。
【0045】
これらの測定に基づく各供試水の水質の分析結果を、表1および表2に示す。但し、電解生成水については、本実験で主として採用する、電解生成酸性水(EAW3.5)および電解生成アルカリ性水(ECW10.5)のみを、その代表例として示している。
【0046】
【表1】
Figure 0004348066
【0047】
【表2】
Figure 0004348066
【0048】
電解生成水は、浄水(NW)を被電解水とする有隔膜電解にて生成したもので、電解生成アルカリ性水(ECW)は電解槽の陰極側電解室で生成され、かつ、電解生成酸性水(EAW)は電解槽の陽極側電解室で生成されたものである。電解生成アルカリ性水(ECW)は、pHが9〜10.5の範囲にあって、被電解水である浄水(NW)に比較してカチオンが増加し、酸化還元電位(ORP)が低下し、溶存水素(DH)が増加し、電気伝導度(EC)が増加している。電解生成酸性水(EAW)は、pHが3.5〜5の範囲にあって、被電解水である浄水(NW)に比較してアニオンが増加し、酸化還元電位(ORP)が増加し、溶存酸素(DO)が増加し、電気伝導度(EC)が増加している。
【0049】
(4)粉末大豆の溶解時のpH変化の測定:1gの粉末大豆に10mlの供試水を添加してこれを撹拌しつつ、粉末大豆の溶解溶液のpHをガラス電極を用いて30分の間測定した。得られた結果(pHの経時的な変化)を図1に示す。同図に示すpHの経時的な変化は、供試水が浄水(NW)、pH10.5の電解生成アルカリ性水(ECW10.5)、pH3.5の電解生成酸性水(EAW3.5)、HClaq.、およびNaOHaq.の5種類である。供試水が浄水である場合には、pHの変化は溶解後30分経過後においてもわずか(pH0.1)である。
【0050】
これに対して、供試水が電解生成アルカリ性水(ECW10.5)、電解生成酸性水(EAW3.5)である場合には、pHは粉末大豆の溶解直後に大きく変化し、溶解後2分経過後にはほぼ中性近傍に移行している。電解生成アルカリ性水(ECW10.5)や電解生成酸性水(EAW3.5)は、含有するOH-やH+が粉末大豆の成分の官能基と反応して、OH-やH+が短時間に消失したものと認められる。
【0051】
また、供試水がHClaq.、およびNaOHaq.である場合には、電解生成水と同様に、pHは溶解直後に大きく変化し、溶解後1分経過後にはほぼ中性近傍に移行している。このことは、供試水が電解生成アルカリ性水(ECW)や電解生成酸性水(EAW)である場合のpHの機能は、水酸化ナトリウム水溶液(NaOHaq.)や塩酸水溶液(HClaq.)と同等の機能であるものと認められる。
【0052】
(5)溶出タンパク質量の測定:1gの粉末大豆に10mlの供試水を添加し、これを30℃で30分間振とうした後、14000×gで15分間冷却遠心分離を行い、得られた上澄みを濾紙(東洋濾紙株式会社製NO.2)で濾過し、この濾液を、Protein Assey Kit II(Bio-Red)を用いて、Bradford法によって溶出タンパク質の量を測定した。測定は、各供試水について5回行った。得られた結果を図2に示す。溶出タンパク質量は、供試水が浄水(NW)である場合に比較して、供試水が電解生成アルカリ性水(ECW)である場合には多く、供試水が電解生成酸性水(EAW)である場合にはわずかに少ない。
【0053】
大豆の主要貯蔵タンパク質はグロブリンであって、グロブリンは平均的な等電点であるpH4.8近傍で最低の溶解度を示す。当該事項を考慮すれば、電解生成酸性水(EAW3.5〜EAW5)が当該等電点に近く、かつ、電解生成アルカリ性水(ECW10.5〜ECW9)が当該等電点に遠いことから、供試水が電解生成アルカリ性水(ECW)である場合と電解生成酸性水(EAW)での溶出タンパク質量の差は、pHの影響によるものと認められる。また、電解生成酸性水(EAW3.5)および電解生成アルカリ性水(ECW10.5)と対比するために採用した供試水である水酸化ナトリウム水溶液(NaOHaq.)および塩酸水溶液(HClaq.)では、同じpHにおける溶出タンパク質量が電解生成酸性水(EAW3.5)および電解生成アルカリ性水(ECW10.5)と同等である結果を得ていることからも、供試水が電解生成アルカリ性水(ECW)の場合と電解生成酸性水(EAW)の場合での溶出タンパク質量の差は、pHの影響によるものと認められる。
【0054】
(6)粉末大豆を加水分解酵素による加水分解反応試験:1gの粉末大豆に加水分解酵素である酵素剤(PROTEASE Type XXIII)2mgを添加し、これに供試水10mlを加えて1分間撹拌し、これにトルエン200μlを加えて40℃の下80rpmで振とうしつつ加水分解反応(酵素反応)を進行させた。この間、反応時間1時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間毎に反応液を採取した。採取した各サンプルについては、採取後直ちに、5分間煮沸して反応を停止させ、引き続き、14000×gで15分間冷却遠心分離に付した。次いで、得られた上澄み液を濾紙(東洋濾紙株式会社製NO.2)で濾過し、濾液(反応液)を得た。得られた各反応液を用いて、タンパク質量、電気泳動を測定した。
【0055】
また、これらの反応液の1mgを遠沈管に分取し、これにエタノール3mlと75%のエタノール4mlを加えて1分間撹拌し、10000rpmで10分間冷却遠心分離してエタノール抽出液を得た。得られた各エタノール抽出液を用いて、ニンヒドリン法による総遊離アミノ酸量(タンパク質を構成する遊離アミノ酸の総量)、DPPH法(0.5mMの1,1-Diphenyl-2-picrylhydrazyl)によるラジカル消去能、Folin-Ciocalteu法によるフォーリン試薬反応物量、遊離アミノ酸組成含有量を測定した。
【0056】
各測定項目のうち、タンパク質の測定では、反応開始1時間後および6時間後の反応液を採取したサンプルについては5倍希釈したもの、12時間後、24時間後、48時間後および72時間後に採取したサンプルについては3倍希釈したものを測定試料として、これらの試料についてProtein Assey Kit II(Bio-Red)を用いて、Bradford法によって測定した。
【0057】
遊離アミノ酸量の測定では、エタノール抽出液0.5mlを用いて、ニンヒドリン法によって測定した。
【0058】
電気泳動の測定では、LAEMMLの方法により、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を行った。既製のポリアクリルアミドゲルは、アトー株式会社製のパジェルAE-600型(Lot No.SPG-520L)を用いて、泳動中は30mAの定電流で行い、染色には、クマシーブリリアントブルーR-250を用いた。
【0059】
1gの粉末大豆に10mlの供試水を添えて、これを30℃で80rpmで30分間振とうし、1400×gで15分間冷却遠心分離を行い、得られた上澄みを濾紙(東洋濾紙株式会社製NO.2)で濾過して得られたタンパク質抽出液については、タンパク質量を20μgに調整して電気泳動に供した。上記した12時間反応後に採取したサンプルについても、タンパク質量を20μgに調整して電気泳動に供した。上記した72時間反応後に採取したサンプルについては、タンパク質量を4.8μgに調整して電気泳動に供した。
【0060】
ラジカル消去能の測定では、エタノール抽出液から2mlを分取して0.5mMのDPPH /エタノール1mlと0.1Mの酢酸緩衝液(pH5.5)との混合液に加え、撹拌した後、37℃で30分間インキュベートして測定用試料とした。測定では、分光光度計(株式会社日立製作所製U−2001型)で517nmの吸光度にて測定した。なお、反応液の色が測定結果に与える影響を考慮して、DPPHラジカルが関与しない系として、0.5mMのDPPH /エタノールに替えてエタノールを加えたものを各試料の色ブランクとし、インキュベート後に517nmでの吸光度を測定し、反応液と色ブランクとの吸光度の差をDPPHラジカル消去能とした。
【0061】
フォーリン試薬反応物量の測定では、エタノール抽出液から200μlを分取し、これに蒸留水800μlを加えて希釈し、これに0.4Nのフェノール試薬1mlを加えた後室温で3分間インキュベートし、インキュベート後に10重量%の炭酸ナトリウム1mlを加えて室温で60分間インキュベートして測定用試料とした。測定では、分光光度計(株式会社日立製作所製U−2001型)で760nmの吸光度にて測定し、カテキン相当量としてフォーリン試薬反応物量を求めた。
【0062】
遊離アミノ酸組成含有量の測定では、エタノール抽出液を用いて、ニンヒドリン法とHPLCによって測定した。液体クロマトグラフとしては、株式会社日立製作所製の日立L−6200を使用し、カラムとして日立#2619F(4φ×150:株式会社日立製作所製)を使用し、遊離液として和光純薬工業株式会社製の日立L−8500用緩衝液(Baffer Solution PH-1,PH-2,PH-3)を使用し、反応液として和光純薬工業株式会社製の日立L−8500用ニンヒドリン試薬セット(ニンヒドリン試薬/酢酸リチウム=50/50)を使用し、流量を遊離液0.4ml/min、反応液0.4ml/minとした。検出器としては、株式会社日立製作所製の日立L−4250を使用し、検出波長vis570nm,vis440nm、カラム温度60℃、反応温度130℃、注入量10μlで検出し、データ解析には、D−7000HSMを採用した。
【0063】
(7)粉末大豆を用いた加水分解反応試験の結果:微生物由来の加水分解酵素である酵素剤(PROTEASE Type XXIII)および供試水を使用した加水分解反応における、反応液中のタンパク質量の経時的変化を図3に示す。同図に示す反応液中のタンパク質量の経時的変化は、供試水が浄水(NW)、電解生成アルカリ性水(ECW10.5)、および電解生成酸性水(EAW3.5)の3種類のものである。
【0064】
加水分解反応開始から反応液中のタンパク質濃度が1mg/mlに低下するのに要する時間は、供試水が浄水である場合には22.7時間であるのに対して、供試水が電解生成アルカリ性水(ECW10.5)である場合には11.4時間であり、供試水が電解生成酸性水(EAW3.5)である場合には18.4時間である。この現象は、各供試水のpHに起因するタンパク質の抽出には関係せず、酵素の活性には、pHとは異なる電解生成水(ECW,EAW)が有する他の特性が関与しているものと認められる。
【0065】
加水分解反応過程における大豆タンパク質の分解の様子をSDS−PAGE分析した結果を、泳動パターンとして図4に示す。同図に示す泳動パターン中、Aは低分子量のマーカプロテインのパターン、B0,B12,B72は供試水が電解生成酸性水(EAW3.5)であって、反応開始前のパターン、反応12時間後のパターン、反応72時間後のパターンであり、C0,C12,C72は供試水が浄水(NW)であって、反応開始前のパターン、反応12時間後のパターン、反応72時間後のパターンであり、D0,D12,D72は供試水が電解生成アルカリ性水(ECW10.5)であって、反応開始前のパターン、反応12時間後のパターン、反応72時間後のパターンである。
【0066】
いずれの供試水の場合においても、反応12時間後では、分子量15kD付近において濃いバンドが認められるが、濃度の濃い順序は、供試水が電解生成アルカリ性水(ECW)、電解生成酸性水(EAW3.5)および浄水(NW)である。また、反応72時間後では、供試水が浄水(NW)である場合には、分子量15kD付近に単一の濃いバンドが認めらるが、供試水が電解生成アルカリ性水(ECW10.5)の場合にはバンドは認められず、供試水が電解生成酸性水(EAW3.5)の場合には薄いバンドがわずかに認められるにすぎない。
【0067】
浄水(NW)、および、浄水(NW)を供試水との場合とは差が認められる電解生成水(EAW3.5,ECW10.5)を供試水とする72時間反応試験を各5回行い、DPPHラジカル消去能の測定を行った結果を図5に示す。供試水が浄水(NW)の場合と電解生成酸性水(EAW3.5)の場合ではほぼ同等の活性を示したが、供試水が電解生成アルカリ性水(ECW10.5)の場合は有意に高い活性を示している。この要因を確認するため、総遊泳アミノ酸量、アミノ酸組成、フォーリング試薬反応物、DDPラジカル消去能の経時的変化を測定した。
【0068】
加水分解反応液中のニンヒドリン法による総遊離アミノ酸量の経時的変化を図6に示す。総遊離アミノ酸量は、反応開始から24時間までの間では、供試水がいずれの場合でも急激に増加しており、各供試水間での差は認められない。しかしながら、反応が24時間経過後では、供試水が浄水(NW)の場合にはほぼ平衡状態となったが、供試水が電解生成アルカリ性水(ECW10.5)および電解生成酸性水(EAW3.5)の場合には経時的に増加していることが認められる。
【0069】
この現象は、供試水が電解生成アルカリ性水(ECW10.5)および電解生成酸性水(EAW3.5)の場合には、酵素活性が電解生成水(EAW3.5,ECW10.5)の作用を受けて継続していて、遊離アミノ酸の生成量が増加するものと認められる。総遊離アミノ酸量の差が最も大きい72時間反応後の反応液のHPLCによる遊離アミノ酸組成を表3に示す。但し、各アミノ酸の名称については、三文字記号で示す。
【0070】
【表3】
Figure 0004348066
【0071】
供試水が電解生成酸性水(EAW3.5)の場合には、供試水が浄水(NW)の場合に比較して、セリン、メチオニン、チロシン、ヒスチジン、アルギニンが高い値であり、トレオニン、グルタミン酸、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニンが低い値であった。供試水が電解生成アルカリ性水(ECW10.5)の場合には、供試水が浄水(NW)の場合に比較して、チロシンが高い値であるが、他の組成については、浄水(NW)の場合とほぼ同じ傾向にあることを確認した。
【0072】
遊離アミノ酸の総量は、供試水が電解生成アルカリ性水(ECW10.5)の場合が低い値であった。また、ニンヒドリン法とHPLCとのアミノ酸総量の差は、供試水が電解生成アルカリ性水(ECW10.5)の場合が最大となることを確認した。
【0073】
加水分解反応液中のフォーリン試薬反応物量の経時的変化の結果を、図7に示す。これは、フォーリン試薬反応物量が抗酸化性と相関性があるとする理由に基づくものであって、フォーリン試薬反応物量は、反応開始から24時間までは、各供試水のいずれの場合にも同じ増加傾向を示すが、供試水が浄水(NW)の場合には、反応時間が48時間経過以降では減少傾向を示し、これに対して、供試水が電解生成アルカリ性水(ECW10.5)および電解生成酸性水(EAW3.5)の場合には共に増加傾向にあることを確認した。フォーリン試薬反応物量の経時的変化は、総遊離アミノ酸量の経時的変化にほぼ一致している。
【0074】
加水分解反応液中のDPPHラジカル消去能の経時的変化を、図8に示す。DPPHラジカル消去能は、供試水が浄水(NW)の場合に比較して、供試水が電解生成アルカリ性水(ECW10.5)の場合には全体的に高く、また、供試水が電解生成酸性水(EAW3.5)の場合に全体的にわずかに高いことを確認した。
【0075】
(8)大豆カゼインの溶解試験:粉末大豆を基質とする加水分解酵素による加水分解反応における供試水の効果の要因を調べるため、市販の大豆カゼインを各供試水に溶解して、基質の変化を検討する実験を行った。実験では、1gの大豆カゼイン(基質)に10mlの供試水を加えて、これを40℃、80rpmで60分間振とうしインキュベートし、これを14000×gで15分間冷却遠心分離を行い、得られた上澄み液について、DTNB法によって、SH基量を円偏光二色性法(CD)によりヘリックス含量を測定した。
【0076】
SH基量については、10倍量に希釈した上澄み液を0.75ml分取し、これに蒸留水1.25mlと15mMのリン酸緩衝液(pH8.0)0.5mlを加え、これにDNTB(5,5'-dithiobis-2-nitorobenzoic acid )液 20μlを加えて5分間インキュベートし、これを吸光度の測定試料とした。吸光度の測定では412nmの吸光度を測定し、測定値を分光吸光係数13600で割った値をSH基量とした。
【0077】
ヘリックス含量については、同一濃度に調整した各上澄み液を100倍に希釈し、これを円偏光二色性法に基づくヘリックス含量の測定試料とした。測定は、日本分光株式会社製の円偏光二色分散分光光度計J−720を使用して行い、25℃における測定試料のCDスペクトルを、光路長1cmの石英セルを用いて、スキャンスピード100nm、感度100mdegで測定した。
【0078】
(9)大豆カゼインの溶解試験の結果:各供試水に抽出したタンパク質のSH基量を測定した結果を図9に示す。SH基量は、供試水が浄水(NW)の場合に比較して、供試水が電解生成酸性水(EAW3.5)の場合では1.3倍、、電解生成アルカリ性水(ECW10.5)の場合では1.8倍と高い値であることを確認した。当該結果から、供試水が電解生成酸性水(EAW3.5)の場合では、pHがSH基の酸化を抑制しているものと、また、供試水が電解生成アルカリ性水(ECW10.5)の場合では、還元力がSH基の酸化を抑制しているものと推測さる。
【0079】
これを確認するため、モデル水による溶解実験を行い、そのSH基量の測定結果を図10に示す。モデル水としては、(HCl-Ionaq.)、(DW-Ionaq.)、(NaOH-Ionaq.)、および、(H2-NaOH-Ionaq.)の4種類である。SH基量は、モデル水が(D.W-Ion−aq.)である場合に比較して、モデル水が(HCl-Ionaq.)の場合では0.9倍、モデル水が(NaOH-Ionaq.)の場合では1.1倍、モデル水が(H2-NaOH-Ionaq.)の場合では1.3倍であることを確認した。
【0080】
以上の結果は、電解生成酸性水(EAW)では、pHとイオン濃度以外の特性がSH基の酸化抑制に関与していることを教示し、電解生成アルカリ性水(ECW)では、還元力>pH・イオン濃度がこの関係でSH基の酸化抑制に関与していることを教示している。また、モデル水が(H2-NaOH-Ionaq.)の場合でのSH基量が、電解生成アルカリ性水(ECW10.5)の場合でのSH基量より少ないことは、電解生成アルカリ性水(ECW10.5)では、pH、イオン濃度、還元力およびそれ以外の特性がSH基の酸化抑制に関与していることを教示している。
【0081】
大豆タンパク質が電解生成水に溶解すると、分子の高次構造が変化することを考慮して、CDスペクトルを測定した結果を図11に示す。大豆カゼインは、水溶液状態ではヘリックス構造に富んだ構造を持っており、これを浄水(NW)と電解生成アルカリ性水(ECW10.5)に溶解した場合には、ヘリックス含量にほとんど変化は認められないが、電解生成酸性水(EAW3.5)に溶解した場合には、波長225nm付近のモル楕円率にわずかながら変化が認められる。このモル楕円率の差は、最大で2〜4mdeg程度ではあるが、再現性が認められる。この結果は、電解生成酸性水が大豆カゼインの二次構造に影響を及ぼすことを教示している。
【0082】
(10)プロテアーゼ活性の測定
酵素活性は、酸性プロテアーゼについては、酵素剤25mgに供試水を加えて25mlに定容(酵素液)して酵素活性を測定し、中性プロテアーゼおよびアルカリ性プロテアーゼについては、酵素剤4mgに供試水を加えて100mlに定容(酵素液)して酵素活性を測定した。
【0083】
アルカリ性プロテアーゼの酵素反応では、0.04Mホウ砂緩衝液(pH9)を含む1.2%カゼイン溶液5mlを5分間予熱したものに、酵素液1mlを加えて開始し、40℃で60分間反応後、TCA混液5mlを加えて反応を停止し、室温で20分間放置した後、反応液を濾紙(東洋濾紙株式会社製NO.6)で濾過した。当該濾液を吸光度の測定試料とし、当該濾液0.5mlに0.4M炭酸ナトリウム2.5mlと0.4Nフェノール試薬0.5mlを加えて40℃で30分間発色を行って、660nmの吸光度を測定した。プロテアーゼ活性は、40℃で60分間に1μgのチロシン相当量の呈色を示す活性を1Uとした。
【0084】
これとの対照として、酵素液をTCA混液の添加直後に加えて、以下上記と同様の操作を行って吸光度を測定した。但し、TCA混液については、酢酸9.34ml、酢酸ナトリウム11.66g、トリクロロ酢酸8.99gに蒸留水を加え、これを500mlに定容したものを使用した。
【0085】
中性プロテアーゼについては、0.04Mリン酸緩衝液(pH7)で、酸性プロテアーゼについては、0.04MのMcllvain緩衝液(pH3)を含むカゼイン溶液中で反応を行った。
【0086】
(11)プロテアーゼ活性の測定結果:供試水に溶解した酵素剤のプロテアーゼ活性を測定した結果を図12に示す。各供試水のプロテアーゼ活性は、供試水が浄水(NW)の場合を1として、その割合で示している。供試水が電解生成酸性水(EAW3.5)の場合では、酸性プロテアーゼのみが1.12倍の活性であることを確認した。供試水が電解生成アルカリ性水(ECW10.5)の場合では、中性プロテアーゼが1.12倍、アルカリ性プロテアーゼが1.08倍の活性であることを確認した。
【0087】
電解生成水がプロテアーゼを活性化させる要因を確認するため、モデル水(HClaq.)、(DW)、(NaOHaq.)に溶解した酵素剤のプロテアーゼ活性を測定した結果を図13に示す。酸性プロテアーゼおよびアルカリ性プロテアーゼの活性については、酸性水およびアルカリ性水ともに同じ傾向を示すことを確認した。この結果は、電解生成酸性水および電解生成アルカリ性水のpHが酸性プロテアーゼおよびアルカリ性プロテアーゼの活性に寄与していることを教示している。中性プロテアーゼの活性については、(NaOHaq.)では0.95倍とわずかに低下している。この結果は、中性プロテアーゼの活性化には、電解生成アルカリ性水のpH以外の特性が関与していることを教示している。
【0088】
粉末大豆を基質とするプロテアーゼによる酵素反応実験では、図1に示すように、反応時間の経過とともにpHが変化する。このため、pHは中性付近でほぼ安定する反応開始1時間後の各反応液中のプロテアーゼの活性を測定し、その測定結果を図14に示す。中性プロテアーゼの活性は、浄水(NW)の場合に比較して、電解生成アルカリ性水(ECW10.5)の場合では1.18倍と高い活性であり、電解生成酸性水(EAW3.5)の場合では0.73倍と低い活性であった。
【図面の簡単な説明】
【図1】粉末大豆溶解水溶液のpHの経時的変化を示すグラフである。
【図2】粉末大豆から各供試水に抽出されたタンパク質量を示すグラフである。
【図3】各供試水における反応液中のタンパク質量の経時的変化を示すグラフである。
【図4】各供試水における反応液中のタンパク質のSDS−PAGEの結果を示す電気泳動パターンである。
【図5】各供試水における大豆タンパク質分解物のDPPHラジカル消去能を示すグラフである。
【図6】各供試水における大豆タンパク質分解物の総遊離アミノ酸量の経時的変化を示すグラフである。
【図7】各供試水における大豆タンパク質分解物のフォーリング試薬反応物量の経時的変化を示すグラフである。
【図8】各供試水における大豆タンパク質分解物のDPPHラジカル消去能の経時的変化を示すグラフである。
【図9】各供試水中の大豆カゼインのSH基量を示すグラフである。
【図10】各供試水(モデル水)の大豆カゼインのSH基量を示すグラフである。
【図11】各供試水中の大豆カゼインのCDスペクトルを示すグラフである。
【図12】各供試水中のプロテアーゼの活性を示すグラフである。
【図13】各供試水(モデル水)中のプロテアーゼの活性を示すグラフである。
【図14】各供試水における反応液中の中性プロテアーゼの活性を示すグラフである。

Claims (4)

  1. 基質を同基質とは独立した加水分解酵素を用いて加水分解する方法であり、基質と、同基質とは独立した加水分解酵素と電解生成水の3成分が混在する反応系で加水分解反応を行って、加水分解の開始時点から終了時点までの間、基質、加水分解酵素および分解生成物が構成する反応系に常に電解生成水を存在させて、加水分解反応を促進させることを特徴とする加水分解方法。
  2. 請求項1に記載の加水分解方法において、前記加水分解酵素として、微生物由来の加水分解酵素を採用することを特徴とする加水分解方法。
  3. 請求項1に記載の加水分解方法において、前記電解生成水として、水または希薄食塩水を被電解水とする有隔膜電解にて生成される電解生成アルカリ性水または電解生成酸性水を採用することを特徴とする加水分解方法。
  4. 請求項3に記載の加水分解方法において、前記電解生成水の選択は、電解生成水の採用する加水分解酵素に対する活性化機能の有無を判断基準とすることを特徴とする加水分解方法。
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