本発明は、製造時に不良部分が発生した場合にも修正可能であり、また被検査物が非特異的に吸着すること等のない、微細なパターン状に特異性生体高分子が配列・固定されたマイクロアレイチップの製造方法、およびマイクロチップに関するものである。
以下、それぞれについて説明する。
A.マイクロアレイチップの製造方法
まず、本発明のマイクロアレイチップの製造方法について説明する。本発明のマイクロアレイチップには、二つの実施態様がある。以下、それぞれの実施態様についてわけて説明する。
1.第1実施態様
まず、本発明のマイクロアレイチップの製造方法における第1実施態様について説明する。本実施態様のマイクロアレイチップの製造方法は、特異性生体高分子を基材上に固定させる特異性生体高分子固定化工程と、
上記特異性生体高分子固定部間のスペース部に存在する有機基を除去する有機基除去工程と
を有するものである。
本実施態様のマイクロアレイチップの製造方法は、例えば図1に示すように、基材1上に、特異性生体高分子含有塗工液を、特異性生体高分子固定部aに付着させて固化させ、特異性生体高分子2とする特異性生体高分子固定化工程(図1(a))と、上記特異性生体高分子固定部a間のスペース部bに存在する特異性生体高分子2等の有機基を除去する有機基除去工程(図1(b))とを有するものである。ここで、上記特異性生体高分子固定部とは、マイクロアレイチップにおいて最終的に特異性生体高分子を固定させる領域である。また、上記スペース部とは、隣り合う上記特異性生体高分子固定部の間の領域をいうこととし、製造されたマイクロアレイチップの特異性生体高分子と特異性生体高分子との間の領域とする。
一般的に、インクジェット法等の機械的手段により、上記特異性生体高分子固定部上に特異性生体高分子含有塗工液を付着させた場合、上記特異性生体高分子含有塗工液が濡れ広がり、上記スペース部上に特異性生体高分子が付着してしまう場合がある。このような場合、マイクロアレイチップを用いて被検査物の検出を行う際、スペース部上に非検査物が非特異的に吸着してしまい、高精度に検出を行うことができない、という問題が生じる。
そこで、本実施態様においては、上記スペース部上の有機基を除去する有機基除去工程を行い、スペース部に存在する有機基と被検査物との間で非特異的な吸着が生じないようなマイクロアレイチップとするのである。
以下、上述したような本実施態様のマイクロアレイチップの製造方法における各工程について説明する。
(特異性生体高分子固定化工程)
まず、本実施態様における特異性生体高分子固定化工程について説明する。本実施態様における特異性生体高分子固定化工程は、特異性生体高分子を含有する特異性生体高分子含有塗工液を、基材上の特異性生体高分子固定部に付着させて固化すること等により、特異性生体高分子を固定させる工程である。
ここで、本工程においては、上記特異性生体高分子を固定化させる方法は特に限定されるものではなく、一般的なマイクロアレイチップにおいて、特異性生体高分子を固定化させる方法を用いることができる。具体的には、特異性生体高分子を含有する特異性生体高分子含有塗工液を、目的とする領域に付着させて固化させること等により、固定化させることができる。このような方法に用いられる特異性生体高分子含有塗工液とは、上記特異性生体高分子を含有する塗工液であり、通常、特異性生体高分子を水や水性溶剤に溶解させたものである。ここで、上記特異性生体高分子とは、所定の生体高分子と特異的に結合することができる生体高分子をいうこととし、本工程に用いられる特異性生体高分子はこのような性質を有する生体高分子であれば特に限定されるものではない。
このような特異性生体高分子と生体高分子との組み合わせとしては、例えば、核酸(例えば、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド)とそれに相補的な核酸との組み合わせ、抗原と抗体(又は抗体フラグメント)との組み合わせ、受容体とそのリガンド(例えば、ホルモン、サイトカイン、神経伝達物質、又はレクチン)との組み合わせ、酵素とそのリガンド(例えば、酵素の基質アナログ、補酵素、調節因子、又は阻害剤)との組み合わせ、酵素アナログとその酵素アナログの元となる酵素の基質との組み合わせ、又はレクチンと糖との組み合わせ等を挙げることができる。なお、「酵素アナログ」とは、元の酵素に対する基質との特異的な親和性は高いものの、触媒活性は示さないものを意味する。また、上記の各組み合わせにおける各化合物は、それぞれ、いずれか一方が「特異性生体高分子」となり、他方が、検出される物質となる。例えば、「抗原と抗体との組み合わせ」では、抗原が「検出される物質」となる場合には、抗体が「特異性生体高分子」となることができ、逆に、抗体が「検出される物質」となる場合には、抗原が「特異性生体高分子」となる。
例えば、本実施態様により製造されるマイクロアレイチップを、核酸ハイブリダイゼーションアッセイに適用する場合には、上記特異性生体高分子として、検出される物質である核酸(例えば、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド)と相補的に結合することのできるオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを用いることができる。本明細書においては、「オリゴヌクレオチド」又は「ポリヌクレオチド」には、2´−デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、及びペプチド核酸(PNA)が含まれる。なお、PNAとは、DNAのホスホジエステル結合をペプチド結合に変換した人工核酸である。上記不溶性粒子に結合されるオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドの鎖長は、分析目的に応じて適宜選択することができ、例えば、捕捉しようとするDNA、RNA、又はPNAの相補的配列の鎖長に基づいて決定することができる。また、アレイ上に異なる組合せの確認された塩基配列のオリゴマーを配し、それよりも十分に長い特異性生体高分子の一部配列との相補的な結合位置が決定することで、コンピューターで配列の共通点をマイニングして広範囲の配列決定をすることもできる。
また、本実施態様のマイクロアレイチップを免疫学的アッセイに適用する場合には、上記特異性生体高分子として、検出される物質と特異的に結合する抗原(ハプテンを含む)又は抗体を用いることができる。この場合に、上記検出される物質としては、被検試料中に一般的に含まれている成分で、しかも、免疫学的に検出することのできる物質あれば、特に制限されない。一例を挙げれば、各種タンパク質、多糖類、脂質、菌体、又は各種環境物質等を挙げることができる。より詳細には、免疫グロブリン(例えば、IgG、IgM、又はIgA)、感染症関連マーカー(例えば、HBs抗原、HBs抗体、HIV−1抗体、HIV−2抗体、HTLV−1抗体、又はトレポネーマ抗体)、腫瘍関連抗原(例えば、AFP、CRP、又はCEA)、凝固線溶マーカー(例えば、プラスミノーゲン、アンチトロンビン−III、D−ダイマー、TAT、又はPPI)、抗てんかん薬(例えば、ホルモン)、各種薬剤(例えば、ジゴキシン)、菌体(例えば、O−157又はサルモネラ)若しくはそれらの菌体内毒素若しくは菌体外毒素、微生物類、酵素類、残留農薬、又は環境ホルモン等を挙げることができる。上記特異性生体高分子として用いる抗体としては、周知の方法で得られるポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれをも使用することができる。さらに、上記抗体は、タンパク質[例えば、酵素(例えば、ペプシン又はパパイン)]処理したもの[例えば、抗体フラグメント(例えば、Fab、Fab´、F(ab´)2、又はFv)]を用いることもできる。
本工程においては、このような特異性生体高分子を含有する特異性生体高分子含有塗工液を基材上の上記特異性生体高分子固定部上に付着させて固化させることによって、特異性生体高分子を固定化させることができる。なお、本工程においては、最終的に特異性生体高分子を固定化させる特異性生体高分子固定部より広い領域に、特異性生体高分子を本工程により固定させておき、後述する有機基除去工程で、特異性生体高分子固定部以外の領域の特異性生体高分子を除去するものとしてもよい。
ここで、特異性生体高分子固定部とは、上述したように、特異性生体高分子を固定させる領域であり、通常この各特異性生体高分子固定部ごとに異なる特異性生体高分子が固定化されるものである。この特異性生体高分子固定部の形状は、マイクロアレイチップの用途等により適宜選択され、例えば円形等であってもよいが、一般的には、矩形状のパターンとされる。
また、マイクロアレイチップの用途等によっても異なるが、本実施態様のように特異性生体高分子含有塗工液を用いて特異性生体高分子を固定化させる場合、通常一つのマイクロアレイチップ上に上記特異性生体高分子固定部は100個〜200,000個、中でも400個〜50,000個程度設けられる。またこの際隣り合う特異性生体高分子固定部の間の領域であるスペース部は、通常1μm〜2,000μm、中でも10μm〜400μm、特に20μm〜200μmとされる。
ここで、上記特異性生体高分子含有塗工液の塗布方法としては、特異性生体高分子含有塗工液を塗布することが可能な方法であれば特に限定されるものではなく、一般的にマイクロアレイチップの製造に用いられる方法を用いることができる。具体的には、マイクロコンタクトプリント法やインクジェット法やディスペンサーを用いる方法を含むノズル吐出手段、エレクトロスプレー(静電噴霧法)等を挙げることができる。
また、本工程に用いられる基材の形状としては、特異性生体高分子含有塗工液を付着させることが可能な形状であれば、特に限定されるものではなく、平板上の基材を用いてもよいが、例えば特異性生体高分子付着部に凹部が形成されているようなものであってもよい。これにより、特異性生体高分子含有塗工液が周囲に濡れ広がらず、高精細に特異性生体高分子を付着させることができるからである。
本工程に用いられる基材としては、通常マイクロアレイチップに用いられる基材を用いることが可能であり、例えばシリコンウェハ、金属、クオーツ、ガラス、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、アルミナ、高分子材料等を用いることができ、これらは製造されるマイクロアレイチップの用途に応じて適宜選択されて用いられる。
また、本実施態様においては、基材が、特異性生体高分子をより強固に固定するために、固定化層等を表面に有するもの等としてもよく、上記特異性生体高分子含有塗工液を高精細に特異性生体高分子固定部上に付着させるために、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により特性が変化する特性変化層を有するものとしてもよい。
ここで、本実施態様においては、特に基材がエネルギー照射に伴う光触媒の作用により特性が変化する特性変化層を有しており、本実施態様のマイクロアレイチップの製造方法が、後述するような、特異性生体高分子固定部のパターン状に特性変化層の特性を変化させる特性変化工程を有していることが好ましい。これにより、その特性変化層の特性が変化したパターンに沿って上記特異性生体高分子含有塗工液が塗布することができ、特異性生体高分子が濡れ広がって、隣接する特異性生体高分子と接触したり混じったりすることを防ぐことができるからである。また、このような特性変化層を用いた場合、後述する有機基除去工程で、容易に特性変化層の有機基を除去することができ、表面を親液性とすることや、分解除去すること等ができることから、スペース部に被検査物が非特異的な吸着等をすることのない、高品質なマイクロアレイチップとすることができるのである。
なお、この固定化層、特性変化層、および特性変化工程については、後に詳しく説明するので、ここでの詳しい説明は省略する。
(有機基除去工程)
次に、本実施態様における有機基除去工程について説明する。本実施態様における有機基除去工程は、上記特異性生体高分子固定部間のスペース部に存在する有機基を除去する工程である。この有機基除去工程は、通常上記特異性生体高分子固定化工程後に行われることとなる。
ここで、本工程により除去される有機基としては、スペース部上に濡れ広がった上記特異性生体高分子や、基材が上記固定化層や上記特性変化層等を有する場合には、これらの層の有機基等が挙げられる。上記スペース部に特異性生体高分子が付着している場合や、固定化層や特性変化層等が形成されている場合には、製造されたマイクロアレイチップを使用した際に、スペース部上で被検査物が非特異的な吸着をしてしまう場合があり、精度の低下等につながることとなる。そこで、本工程によってこれらの有機基を除去することにより、マイクロアレイチップのスペース部に被検査物が非特異的な吸着をすることがなく、高精度なマイクロアレイチップとすることができるのである。
ここで、本工程において上記有機基を除去する方法としては、上記スペース部に存在する有機基を除去することが可能な方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、一般的に行われているフォトリソグラフィー法等によって行われるものであってもよく、また例えば短波長の紫外光等をパターン状に照射して有機基を分解等する方法であってもよい。
本実施態様においては、例えば図2に示すように、光触媒を含有する光触媒含有層11および基体12を有する光触媒含有層側基板13を準備し、基材1上に形成された上記特異性生体高分子2と光触媒含有層11とを間隙をおいて配置した後、例えばフォトマスク14等を用いて、隣接する特異性生体高分子付着部aの間のスペース部bにエネルギー15を照射することにより行われることが好ましい。
この方法によれば、上記有機基の除去をエネルギー照射に伴う光触媒の作用により行うことができることから、例えばフォトリソグラフィー法に用いられるアルカリ現像液等の、特異性生体高分子等に悪影響を及ぼすような薬品を用いる必要がない。またスペース部に上記光触媒含有層側基板を用いてエネルギー照射することによって、容易に有機基等の分解除去を行うことができることから、高いエネルギーを有する光を用いることなく、効率よく有機基の除去を行うことができる、という利点も有するからである。
このような光触媒含有層側基板を用いて有機基を除去する方法に用いられる、光触媒含有層側基板やエネルギー等について、以下説明する。
a.光触媒含有層側基板
まず、本工程に用いられる光触媒含有層側基板について説明する。本工程に用いられる光触媒含有層側基板とは、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有するものである。本工程において用いられる光触媒含有層側基板は、このように、少なくとも光触媒含有層と基体とを有するものであり、通常は基体上に所定の方法で形成された薄膜状の光触媒含有層が形成されてなるものである。また、この光触媒含有層側基板には、パターン状に形成された光触媒含有層側遮光部が形成されたものも用いることができる。以下、光触媒含有層側基板の各構成について説明する。
(1)光触媒含有層
本工程に用いられる光触媒含有層は、光触媒含有層中の光触媒が、対象とする有機基を分解除去等することが可能な構成であれば、特に限定されるものではなく、光触媒とバインダとから構成されているものであってもよいし、光触媒単体で製膜されたものであってもよい。また、その表面の濡れ性は特に親液性であっても撥液性であってもよい。
本工程において用いられる光触媒含有層は、例えば図2に示すように、基体12上に全面に形成されたものであってもよいが、例えば図3に示すように、基体12上に光触媒含有層11がパターン状に形成されたものであってもよい。
このように光触媒含有層をパターン状に形成することにより、後述するエネルギー照射の際、フォトマスク等を用いてパターン状にエネルギーを照射する必要がなく、全面にエネルギーを照射することにより、上記スペース部の有機基を除去することが可能となるからである。
また、実際に光触媒含有層に面する部分のみの有機基が分解除去等されるものであるので、エネルギーの照射方向は上記光触媒含有層と特異性生体高分子等とが面する部分にエネルギーが照射されるものであれば、いかなる方向から照射されてもよく、さらには、照射されるエネルギーも特に平行光等の平行なものに限定されないという利点を有するものとなる。
このよう光触媒含有層における、後述するような二酸化チタンに代表される光触媒の作用機構は、必ずしも明確なものではないが、光の照射によって生成したキャリアが、近傍の化合物との直接反応、あるいは、酸素、水の存在下で生じた活性酸素種によって、有機物の化学構造に変化を及ぼすものと考えられている。本発明においては、このキャリアが光触媒含有層近傍に配置されるスペース部の有機基に作用を及ぼすものであると思われる。
本発明で使用する光触媒としては、光半導体として知られる例えば二酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化ビスマス(Bi2O3)、および酸化鉄(Fe2O3)を挙げることができ、これらから選択して1種または2種以上を混合して用いることができる。
本実施態様においては、特に二酸化チタンが、バンドギャップエネルギーが高く、化学的に安定で毒性もなく、入手も容易であることから好適に使用される。二酸化チタンには、アナターゼ型とルチル型があり本発明ではいずれも使用することができるが、アナターゼ型の二酸化チタンが好ましい。アナターゼ型二酸化チタンは励起波長が380nm以下にある。
このようなアナターゼ型二酸化チタンとしては、例えば、塩酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(石原産業(株)製STS−02(平均粒径7nm)、石原産業(株)製ST−K01)、硝酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(日産化学(株)製TA−15(平均粒径12nm))等を挙げることができる。
また、上記酸化チタンとして可視光応答型のものを用いてもよい。可視光応答型の酸化チタンとは、可視光のエネルギーによっても励起されるものであり、このような可視光応答化の方法としては、酸化チタンを窒化処理する方法等が挙げられる。
酸化チタン(TiO2)は、窒化処理をすることにより、酸化チタン(TiO2)のバンドギャップの内側に新しいエネルギー準位が形成され、バンドギャップが狭くなる。その結果、通常酸化チタン(TiO2)の励起波長は380nmであるが、その励起波長より長波長の可視光によっても、励起されることが可能となるのである。これにより、種々の光源によるエネルギー照射の可視光領域の波長も酸化チタン(TiO2)の励起に寄与させることが可能となることから、さらに酸化チタンを高感度化させることが可能となるのである。
ここで、本実施態様でいう酸化チタンの窒化処理とは、酸化チタン(TiO2)の結晶の酸素サイトの一部を窒素原子での置換する処理や、酸化チタン(TiO2)結晶の格子間に窒素原子をドーピングする処理、または酸化チタン(TiO2)結晶の多結晶集合体の粒界に窒素原子を配する処理等をいう。
酸化チタン(TiO2)の窒化処理方法は、特に限定されるものではなく、例えば、結晶性酸化チタンの微粒子をアンモニア雰囲気下で700℃の熱処理により、窒素をドーピングし、この窒素のドーピングされた微粒子と、無機バインダや溶媒等を用いて、分散液とする方法等が挙げられる。
ここで、光触媒の粒径は小さいほど光触媒反応が効果的に起こるので好ましく、平均粒径が50nm以下が好ましく、20nm以下の光触媒を使用するのが特に好ましい。
本工程に用いられる光触媒含有層は、上述したように光触媒単独で形成されたものであってもよく、またバインダと混合して形成されたものであってもよい。
光触媒のみからなる光触媒含有層の場合は、有機基の分解除去等に対する効率が向上し、処理時間の短縮化等のコスト面で有利である。一方、光触媒とバインダとからなる光触媒含有層の場合は、光触媒含有層の形成が容易であるという利点を有する。
光触媒のみからなる光触媒含有層の形成方法としては、例えば、スパッタリング法、CVD法、真空蒸着法等の真空製膜法を用いる方法を挙げることができる。真空製膜法により光触媒含有層を形成することにより、均一な膜でかつ光触媒のみを含有する光触媒含有層とすることが可能であり、これにより有機基の分解除去等を均一に行うことが可能である。
また、光触媒のみからなる光触媒含有層の形成方法としては、例えば光触媒が二酸化チタンの場合は、基体上に無定形チタニアを形成し、次いで焼成により結晶性チタニアに相変化させる方法等が挙げられる。ここで用いられる無定形チタニアとしては、例えば四塩化チタン、硫酸チタン等のチタンの無機塩の加水分解、脱水縮合、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラメトキシチタン等の有機チタン化合物を酸存在下において加水分解、脱水縮合によって得ることができる。次いで、400℃〜500℃における焼成によってアナターゼ型チタニアに変性し、600℃〜700℃の焼成によってルチル型チタニアに変性することができる。
また、バインダを用いる場合は、バインダの主骨格が上記の光触媒の光励起により分解されないような高い結合エネルギーを有するものが好ましく、例えばオルガノポリシロキサン等を挙げることができる。
このようにオルガノポリシロキサンをバインダとして用いた場合は、上記光触媒含有層は、光触媒とバインダであるオルガノポリシロキサンとを必要に応じて他の添加剤とともに溶剤中に分散して塗布液を調製し、この塗布液を基体上に塗布することにより形成することができる。使用する溶剤としては、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系の有機溶剤が好ましい。塗布はスピンコート、スプレーコート、ディップコート、ロールコート、ビードコート等の公知の塗布方法により行うことができる。バインダとして紫外線硬化型の成分を含有している場合、紫外線を照射して硬化処理を行うことにより光触媒含有層を形成することかできる。
また、バインダとして無定形シリカ前駆体を用いることができる。この無定形シリカ前駆体は、一般式SiX4で表され、Xはハロゲン、メトキシ基、エトキシ基、またはアセチル基等であるケイ素化合物、それらの加水分解物であるシラノール、または平均分子量3000以下のポリシロキサンが好ましい。
具体的には、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラメトキシシラン等が挙げられる。また、この場合には、無定形シリカの前駆体と光触媒の粒子とを非水性溶媒中に均一に分散させ、基体上に空気中の水分により加水分解させてシラノールを形成させた後、常温で脱水縮重合することにより光触媒含有層を形成できる。シラノールの脱水縮重合を100℃以上で行えば、シラノールの重合度が増し、膜表面の強度を向上できる。また、これらの結着剤は、単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。
バインダを用いた場合の光触媒含有層中の光触媒の含有量は、5〜60重量%、好ましくは20〜40重量%の範囲で設定することができる。また、光触媒含有層の厚みは、0.05〜10μmの範囲内が好ましい。
また、光触媒含有層には上記の光触媒、バインダの他に、界面活性剤を含有させることができる。具体的には、日光ケミカルズ(株)製NIKKOL BL、BC、BO、BBの各シリーズ等の炭化水素系、デュポン社製ZONYL FSN、FSO、旭硝子(株)製サーフロンS−141、145、大日本インキ化学工業(株)製メガファックF−141、144、ネオス(株)製フタージェントF−200、F251、ダイキン工業(株)製ユニダインDS−401、402、スリーエム(株)製フロラードFC−170、176等のフッ素系あるいはシリコーン系の非イオン界面活性剤を挙げることができ、また、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることもできる。
さらに、光触媒含有層には上記の界面活性剤の他にも、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ジアリルフタレート、エチレンプロピレンジエンモノマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリブタジエン、ポリベンズイミダゾール、ポリアクリルニトリル、エピクロルヒドリン、ポリサルファイド、ポリイソプレン等のオリゴマー、ポリマー等を含有させることができる。
(2)基体
本工程に用いられる光触媒含有層側基板には、例えば図2に示すように、少なくとも基体12とこの基体12上に形成された光触媒含有層11とを有するものである。
この際、用いられる基体を構成する材料は、後述するエネルギーの照射方向や、マイクロアレイチップが透明性を有するか等により適宜選択される。
すなわち、例えばマイクロアレイチップが不透明なものである場合においては、エネルギー照射方向は必然的に光触媒含有層側基板側からとなり、例えば図2に示すように、フォトマスク14を光触媒含有層側基板13側に配置して、エネルギー照射をする必要がある。また、後述するように光触媒含有層側基板に光触媒含有層側遮光部を予め所定のパターンで形成しておき、この光触媒含有層側遮光部を用いてパターンを形成する場合においても、光触媒含有層側基板側からエネルギーを照射する必要がある。このような場合、基体は透明性を有するものであることが必要となる。
一方、マイクロアレイチップが透明である場合であれば、マイクロアレイチップ側にフォトマスクを配置してエネルギーを照射することも可能である。このような場合においては、基体の透明性は特に必要とされない。
このような基体としては、可撓性を有するもの、例えば樹脂製フィルム等であってもよいし、可撓性を有さないもの、例えばガラス基板等であってもよい。これは、エネルギー照射方法により適宜選択されるものである。
このように、光触媒含有層側基板に用いられる基体は特にその材料を限定されるものではないが、本工程においては、この光触媒含有層側基板は、繰り返し用いられるものであることから、所定の強度を有し、かつその表面が光触媒含有層との密着性が良好である材料が好適に用いられる。
具体的には、ガラス、セラミック、金属、プラスチック等を挙げることができる。
なお、基体表面と光触媒含有層との密着性を向上させるために、基体上にアンカー層を形成するようにしてもよい。このようなアンカー層としては、例えば、シラン系、チタン系のカップリング剤等を挙げることができる。
(3)光触媒含有層側遮光部
本工程に用いられる光触媒含有層側基板には、パターン状に形成された光触媒含有層側遮光部が形成されたものを用いても良い。このように光触媒含有層側遮光部を有する光触媒含有層側基板を用いることにより、露光に際して、フォトマスクを用いたり、レーザ光による描画照射を行う必要がない。したがって、光触媒含有層側基板とフォトマスクとの位置合わせが不要であることから、簡便な工程とすることが可能であり、また描画照射に必要な高価な装置も不必要であることから、コスト的に有利となるという利点を有する。
このような光触媒含有層側遮光部を有する光触媒含有層側基板は、光触媒含有層側遮光部の形成位置により、下記の二つの態様とすることができる。
一つが、例えば図4に示すように、基体12上に光触媒含有層側遮光部16を形成し、この光触媒含有層側遮光部16上に光触媒含有層11を形成して、光触媒含有層側基板とする態様である。もう一つは、例えば図5に示すように、基体12上に光触媒含有層11を形成し、その上に光触媒含有層側遮光部16を形成して光触媒含有層側基板とする態様である。
いずれの態様においても、フォトマスクを用いる場合と比較すると、光触媒含有層側遮光部が、上記光触媒含有層と特異性生体高分子等とが間隙をもって位置する部分の近傍に配置されることになるので、基体内等におけるエネルギーの散乱の影響を少なくすることができることから、エネルギーのパターン照射を極めて正確に行うことが可能となる。
さらに、上記光触媒含有層上に光触媒含有層側遮光部を形成する実施態様においては、光触媒含有層と特異性生体高分子等とを所定の間隙をおいて配置する際に、この光触媒含有層側遮光部の膜厚をこの間隙の幅と一致させておくことにより、上記光触媒含有層側遮光部を上記間隙を一定のものとするためのスペーサとしても用いることができるという利点を有する。
すなわち、所定の間隙をおいて上記光触媒含有層と特異性生体高分子等とを接触させた状態で配置する際に、上記光触媒含有層側遮光部と特異性生体高分子等とを密着させた状態で配置することにより、上記所定の間隙を正確とすることが可能となり、そしてこの状態で光触媒含有層側基板からエネルギーを照射することにより、精度良く有機基を分解除去等することが可能となるのである。
本工程に用いられる光触媒含有層側遮光部の形成方法については、特に限定されるものではなく、光触媒含有層側遮光部の形成面の特性や、必要とするエネルギーに対する遮蔽性等に応じて適宜選択されて用いられる。
例えば、スパッタリング法、真空蒸着法等により厚み1000〜2000Å程度のクロム等の金属薄膜を形成し、この薄膜をパターニングすることにより形成されてもよい。このパターニングの方法としては、スパッタ等の通常のパターニング方法を用いることができる。
また、樹脂バインダ中にカーボン微粒子、金属酸化物、無機顔料、有機顔料等の遮光性粒子を含有させた層をパターン状に形成する方法であってもよい。用いられる樹脂バインダとしては、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ゼラチン、カゼイン、セルロース等の樹脂を1種または2種以上混合したものや、感光性樹脂、さらにはO/Wエマルジョン型の樹脂組成物、例えば、反応性シリコーンをエマルジョン化したもの等を用いることができる。このような樹脂製光触媒含有層側遮光部の厚みとしては、0.5〜10μmの範囲内で設定することができる。このよう樹脂製光触媒含有層側遮光部のパターニングの方法は、フォトリソ法、印刷法等一般的に用いられている方法を用いることができる。
なお、上記説明においては、光触媒含有層側遮光部の形成位置として、基体と光触媒含有層との間、および光触媒含有層表面の二つの場合について説明したが、その他、基体の光触媒含有層が形成されていない側の表面に光触媒含有層側遮光部を形成する態様も採ることが可能である。この態様においては、例えばフォトマスクをこの表面に着脱可能な程度に密着させる場合等が考えられ、エネルギー照射する領域を小ロットで変更するような場合に好適に用いることができる。
(4)プライマー層
次に、光触媒含有層側基板に用いられるプライマー層について説明する。本工程において、上述したように基体上に光触媒含有層側遮光部をパターン状に形成して、その上に光触媒含有層を形成して光触媒含有層側基板とする場合においては、上記光触媒含有層側遮光部と光触媒含有層との間にプライマー層を形成してもよい。
このプライマー層の作用・機能は必ずしも明確なものではないが、光触媒含有層側遮光部と光触媒含有層との間にプライマー層を形成することにより、プライマー層は光触媒の作用による有機基の分解除去等を阻害する要因となる光触媒含有層側遮光部および光触媒含有層側遮光部間に存在する開口部からの不純物、特に、光触媒含有層側遮光部をパターニングする際に生じる残渣や、金属、金属イオン等の不純物の拡散を防止する機能を示すものと考えられる。したがって、プライマー層を形成することにより、高感度で有機基の分解除去等の処理が進行し、その結果、高解像度のパターンでスペース部の有機基を除去することが可能となるのである。
なお、上記プライマー層は、光触媒含有層側遮光部のみならず光触媒含有層側遮光部間に形成された開口部に存在する不純物が光触媒の作用に影響することを防止するものであるので、プライマー層は開口部を含めた光触媒含有層側遮光部全面にわたって形成されていることが好ましい。
上記プライマー層は、光触媒含有層側基板の光触媒含有層側遮光部と光触媒含有層とが接触しないようにプライマー層が形成された構造であれば特に限定されるものではない。
このプライマー層を構成する材料としては、特に限定されるものではないが、光触媒の作用により分解されにくい無機材料が好ましい。具体的には無定形シリカを挙げることができる。このような無定形シリカを用いる場合には、この無定形シリカの前駆体は、一般式SiX4で示され、Xはハロゲン、メトキシ基、エトキシ基、またはアセチル基等であるケイ素化合物であり、それらの加水分解物であるシラノール、または平均分子量3000以下のポリシロキサンが好ましい。
また、プライマー層の膜厚は、0.001μmから1μmの範囲内であることが好ましく、特に0.001μmから0.1μmの範囲内であることが好ましい。
b.エネルギーの照射
次に、エネルギーの照射方法について説明する。本工程においては、上述した光触媒含有層および、上記特異性生体高分子または固定化層とを間隙を置いて配置し、所定の方向からエネルギーを照射することによって、スペース部に存在する有機基を除去することができる。
本工程における上記の配置とは、実質的に光触媒の作用が有機基に及ぶような状態で配置された状態をいうこととし、上記光触媒含有層と上記特異性生体高分子が密着している状態の他、所定の間隔を隔てて上記光触媒含有層と特異性生体高分子とが配置された状態とする。この間隙は、200μm以下であることが好ましい。
本発明において上記間隙は、光触媒の感度が高く、有機基の分解等の効率が良好である点を考慮すると特に0.2μm〜10μmの範囲内、好ましくは1μm〜5μmの範囲内とすることが好ましい。このような間隙の範囲は、特に間隙を高い精度で制御することが可能である小面積のマイクロアレイチップに対して特に有効である。
一方、例えば300mm×300mm以上といった大面積のマイクロアレイチップに対して処理を行う場合は、上述したような微細な間隙を光触媒含有層側基板と特異性生体高分子との間に形成することは極めて困難である。したがって、マイクロアレイチップが比較的大面積である場合は、上記間隙は、10〜100μmの範囲内、特に50〜75μmの範囲内とすることが好ましい。間隙をこのような範囲内とすることにより、有機基を除去するパターンの精度の低下の問題や、光触媒の感度が悪化して有機基を分解除去する効率が悪化する等の問題が生じることなく、さらに有機基の除去にムラが発生しないといった効果を有するからである。
このように比較的大面積のマイクロアレイチップにエネルギー照射する際には、エネルギー照射装置内の光触媒含有層側基板と特異性生体高分子との位置決め装置における間隙の設定を、10μm〜200μmの範囲内、特に25μm〜75μmの範囲内に設定することが好ましい。設定値をこのような範囲内とすることにより、光触媒の感度の大幅な悪化を招くことなく配置することが可能となるからである。
このように光触媒含有層と特異性生体高分子等とを所定の間隔で離して配置することにより、酸素と水および光触媒作用により生じた活性酸素種が脱着しやすくなる。すなわち、上記範囲より光触媒含有層と特異性生体高分子等との間隔を狭くした場合は、上記活性酸素種の脱着がしにくくなり、結果的に有機基の分解除去等の速度を遅くしてしまう可能性があることから好ましくなく、上記範囲より間隔を離して配置した場合は、生じた活性酸素種が特異性生体高分子等に届き難くなり、この場合も有機基の分解除去等の速度を遅くしてしまう可能性があることから好ましくないのである。
このような極めて狭い間隙を均一に形成して光触媒含有層と特異性生体高分子等とを配置する方法としては、例えばスペーサを用いる方法を挙げることができる。そして、このようにスペーサを用いることにより、均一な間隙を形成することができるからである。また、このようなスペーサを用いることにより、光触媒の作用により生じた活性酸素種が拡散することなく、高濃度で特異性生体高分子等の表面に到達することから、効率よく有機基の分解除去を行うことができる。
本工程においては、このようなスペーサを一つの部材として形成してもよいが、工程の簡略化等のため、上記光触媒含有層側基板の欄で説明したように、光触媒含有層側基板の光触媒含有層表面に形成することが好ましい。なお、上記光触媒含有層側基板の説明においては、光触媒含有層側遮光部として説明したが、本発明においては、このようなスペーサは特異性生体高分子等の表面に光触媒の作用が及ばないように表面を保護する作用を有すればよいものであることから、特に照射されるエネルギーを遮蔽する機能を有さない材料で形成されたものであってもよい。
なお、上記光触媒含有層が可撓性を有する樹脂フィルム等の可撓性を有する基体上に形成された光触媒含有層側基板を用いる場合においては、上述したような間隙を設けることが難しく、製造効率等の面から、上記光触媒含有層と特異性生体高分子等とが接触するように配置されていることが好ましい。
本発明においては、このような間隙をおいた配置状態は、少なくともエネルギー照射の間だけ維持されればよい。
次に、上述したような配置を維持した状態で、エネルギー照射が行われる。なお、本発明でいうエネルギー照射(露光)とは、光触媒含有層により有機基を分解除去等することが可能ないかなるエネルギー線の照射をも含む概念であり、可視光の照射に限定されるものではない。
通常このような露光に用いる光の波長は、400nm以下の範囲、好ましくは380nm以下の範囲から設定される。これは、上述したように光触媒含有層に用いられる好ましい光触媒が二酸化チタンであり、この二酸化チタンにより光触媒作用を活性化させるエネルギーとして、上述した波長の光が好ましいからである。
このような露光に用いることができる光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ、その他種々の光源を挙げることができる。
上述したような光源を用い、フォトマスクを介したパターン照射により行う方法の他、エキシマ、YAG等のレーザを用いてパターン状に描画照射する方法を用いることも可能である。この場合、フォトマスクが必要ない、という利点を有する。
また、露光に際してのエネルギーの照射量は、スペース部に存在する有機基が光触媒含有層中の光触媒の作用により分解除去等されるのに必要な照射量とする。
この際、光触媒含有層を加熱しながら露光することにより、感度を上昇させることが可能となり、効率的な特性の変化を行うことができる点で好ましい。具体的には30℃〜80℃の範囲内で加熱することが好ましい。
本工程におけるエネルギーの照射方向は、上述したように光触媒含有層側基板もしくは製造されるマイクロアレイチップが透明であるか否かにより決定される。
すなわち、光触媒含有層側遮光部が形成されている場合は、光触媒含有層側基板側から露光が行なわれる必要があり、かつこの場合は光触媒含有層側基板が照射されるエネルギーに対して透明である必要がある。
また、光触媒含有層がパターン状に形成されている場合における露光方向は、上述したように、光触媒含有層と特性変化層とが接触する部分にエネルギーが照射されるのであればいかなる方向から照射されてもよい。
同様に、上述したスペーサを用いる場合も、接触する部分にエネルギーが照射されるのであればいかなる方向から照射されてもよい。
フォトマスクを用いる場合は、フォトマスクが配置された側からエネルギーが照射される。この場合は、フォトマスクが配置された側の基板、すなわち光触媒含有層側基板もしくはマイクロアレイチップのいずれかが透明である必要がある。
上述したようなエネルギー照射が終了した後、光触媒含有層側基板を配置位置からはずすことにより、上記スペース部の有機基が除去されたものとすることができるのである。
(その他)
なお、本実施態様のマイクロアレイチップの製造方法においては、上述した工程以外に、適宜必要な工程を有していてもよい。本実施態様においては、特に上述したように、上記基材がエネルギー照射に伴う光触媒の作用により特性が変化する特性変化層を有しており、上述した光触媒含有層側基板の光触媒含有層を、上記特性変化層と間隙を置いて配置した後、エネルギーを照射することによって、特性変化層上の特異性生体高分子固定部の特性を変化させる特性変化工程を有することが好ましい。これにより、上記特異性生体高分子固定化工程において、特異性生体高分子含有塗工液をこの特性変化層の特性が変化したパターンに沿って付着させることができ、隣接する特異性生体高分子含有塗工液が接触したり混合したりすることがなく、容易に特異性生体高分子を固定することが可能となるからである。
また、本実施態様においては、上記特性変化層の他に、基材が特異性生体高分子を固定化する固定化層を有するものとしてもよい。基材がこの固定化層を有することにより、より強固に特異性生体高分子を固定化することが可能となり、高品質なマイクロアレイチップとすることができるからである。
ここで、上記特性変化層および固定化層はそれぞれ単独で用いられてもよいが、例えば上記特性変化工程により特性変化層の特性を、特異性生体高分子固定部のパターン状に変化させ、この特性が変化した特性変化層上に固定化層を形成してもよい。これにより、特性変化層および固定化層の利点を活かして、高精細なパターン状に強固に特異性生体高分子を固定することができ、より高品質なマイクロアレイチップとすることができるからである。
なお、基材がこのような特性変化層や固定化層を有する場合、上記有機基除去工程においては、スペース部上に存在する上記特性変化層や固定化層の有機基も除去されることが好ましい。このような特性変化層や固定化層が残存している場合、これらの有機基と被検査物とが非特異的な吸着をしてしまう可能性があるからである。
ここで、上記特性変化層や固定化層は通常、支持体上に形成されるものであり、この支持体としては、上述した基材として用いられるもの等を用いることができる。
以下、上述したような特性変化工程、および本実施態様に用いられる固定化層について説明する。
a.特性変化工程
まず、本実施態様における特性変化工程について説明する。本実施態様における特性変化工程は、基材がエネルギー照射に伴う光触媒の作用により特性が変化する特性変化層を有しており、上述した光触媒含有層側基板の光触媒含有層を、上記特性変化層と間隙を置いて配置した後、エネルギーを照射することによって、特性変化層上の特異性生体高分子固定部の特性を変化させる工程である。
本工程に用いられる基材は、例えば図6に示すように、基材1が支持体5と特性変化層6とを有するものである。本工程は、例えば、光触媒含有層11および基体12を有する光触媒含有層側基板13の光触媒含有層11を上記特性変化層6と対向させて配置し、例えばフォトマスク14等を用いて特異性生体高分子固定部aのパターン状にエネルギー15を照射し(図6(a))、特性変化層6上の特異性生体高分子固定部aの特性が変化したパターン6´を形成する(図6(b))工程である。本実施態様においては、上記特性変化工程終了後、上記特異性生体高分子固定化工程を行うことによって、この特性変化層の特性の差を利用して特異性生体高分子含有塗工液を付着させることができるのである。
ここで、本工程に用いられる光触媒含有層側基板や、照射されるエネルギー、上記光触媒含有層側基板の配置等については、上記「有機基除去工程」で説明したものと同様とすることができるので、ここでの詳しい説明は省略し、以下、本工程に用いられる特性変化層について説明する。
本工程に用いられる特性変化層は、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により変化する層であり、この特性を利用して容易に上記特異性生体高分子含有塗工液を付着させることが可能な層であれば特に限定されないが、本工程においては中でも、特性変化層が光触媒の作用により濡れ性が変化したパターンが形成される濡れ性変化層である場合、および特性変化層が光触媒の作用により分解除去され凹凸によるパターンが形成される分解除去層である場合の二つの場合が、本発明の有効性を引き出すものであるので好ましい。
以下、上記濡れ性変化層および分解除去層について説明する。
(1)濡れ性変化層
本実施態様の基材に用いられる濡れ性変化層は、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により表面の濡れ性が変化する層であれば特に限定されるものではないが、特にエネルギーの照射に伴う光触媒の作用により、その濡れ性変化層表面における水との接触角が低下するように濡れ性が変化する層であることが好ましい。
このように、エネルギー照射により水との接触角が低下するように濡れ性が変化する濡れ性変化層を用いると、上述した光触媒含有層側基板を濡れ性変化層と向かい合わせて、エネルギーのパターン照射を行うことにより容易に濡れ性をパターン状に変化させることができる。これにより、濡れ性変化層上には水との接触角の小さい親液性領域および水との接触角の大きい撥液性領域からなるパターンが形成されることとなる。ここでいう親液性領域とは、水との接触角が小さい領域であり、上記特異性生体高分子含有塗工液等に対する濡れ性の良好な領域をいうこととする。また、撥液性領域とは、水との接触角が大きい領域であり、特異性生体高分子含有塗工液等に対する濡れ性が悪い領域をいうこととする。なお、本実施態様においては、その領域が、隣接する領域よりも水との接触角が1°以上小さければ親液性領域ということとし、逆にその領域が隣接する領域よりも水との接触角が1°以上大きければ撥液性領域とすることとする。
本工程に用いられる濡れ性変化層は、エネルギー照射されていない部分における水との接触角が、エネルギー照射された部分における水との接触角より1°以上大きい接触角となる濡れ性変化層であることが好ましく、中でも5°以上、特に10°以上となることが好ましい。
エネルギーが照射されていない部分における水との接触角と、エネルギーが照射された部分における水との接触角との差が所定の範囲未満である場合は、濡れ性の差を利用して特異性生体高分子含有塗工液を特異性生体高分子固定部に付着させることが困難となるからである。
このような濡れ性変化層における具体的な水との接触角としては、エネルギーを照射していない部分における水との接触角が30°以上、中でも40°以上、特に50°以上であることが好ましい。これは、エネルギーを照射していない部分は、本工程においては撥液性が要求される部分であるから、水との接触角が小さい場合は撥液性が十分でなく、特異性生体高分子含有塗工液が、不必要な部分にまで濡れ広がり、隣接する特異性生体高分子が接触したり混じったりするおそれがあるからである。
一方、エネルギー照射された場合においては、上記水との濡れ性が良好であることが好ましく、具体的には、水に対する接触角が20°以下、特に、10°以下となるものであることが好ましい。エネルギー照射された部分における水との接触角が高いと、この部分での特異性生体高分子含有塗工液の広がりが劣る可能性があり、特異性生体高分子の欠け等の問題が生じる可能性があるからである。
なお、ここでいう水との接触角は、水もしくは同等の表面張力を有する検査液等との接触角を接触角測定器(協和界面科学(株)製CA−Z型)を用いて測定(マイクロシリンジから水滴を滴下して30秒後)し、その結果から得たものである。
また、本実施態様において上述したような濡れ性変化層を用いた場合、この濡れ性変化層中にフッ素が含有され、さらにこの濡れ性変化層表面のフッ素含有量が、濡れ性変化層に対しエネルギーを照射した際に、光触媒の作用によりエネルギー照射前に比較して低下するように上記濡れ性変化層が形成されていてもよい。
このような特徴を有するマイクロアレイチップにおいては、エネルギーをパターン照射することにより、容易にフッ素の含有量の少ない部分からなるパターンを形成することができる。ここで、フッ素は極めて低い表面エネルギーを有するものであり、このためフッ素を多く含有する物質の表面は、臨界表面張力がより小さくなる。従って、フッ素の含有量の多い部分の表面の臨界表面張力に比較してフッ素の含有量の少ない部分の臨界表面張力は大きくなる。これはすなわち、フッ素含有量の少ない部分はフッ素含有量の多い部分に比較して親液性領域となっていることを意味する。よって、周囲の表面に比較してフッ素含有量の少ない部分からなるパターンを形成することは、撥液性域内に親液性領域のパターンを形成することとなる。
このような濡れ性変化層を用いた場合、光触媒含有層および濡れ性変化層を向かい合うように配置し、エネルギーをパターン照射することにより、撥液性領域内に親液性領域のパターンを容易に形成することができるので、この親液性領域のみに特異性生体高分子含有塗工液を付着させることが可能となり、より容易に特異性生体高分子を固定化することができるからである。
エネルギーが照射されて形成されたフッ素含有量が低い親液性領域におけるフッ素含有量は、エネルギー照射されていない部分のフッ素含有量を100とした場合に10以下、好ましくは5以下、特に好ましくは1以下である。
このような範囲内とすることにより、エネルギー照射部分と未照射部分との親液性に大きな違いを生じさせることができる。従って、このような濡れ性変化層に特異性生体高分子含有塗工液を付着させることにより、フッ素含有量が低下した親液性領域のみ正確に特異性生体高分子を固定をすることが可能となり、精度良くマイクロアレイチップを得ることができるからである。なお、この低下率は重量を基準としたものである。
このような濡れ性変化層中のフッ素含有量の測定は、一般的に行われている種々の方法を用いることが可能であり、例えばX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy, ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)とも称される。)、蛍光X線分析法、質量分析法等の定量的に表面のフッ素の量を測定できる方法であれば特に限定されるものではない。
このような濡れ性変化層に用いられる材料としては、上述した濡れ性変化層の特性、すなわちエネルギー照射の際に、光触媒含有層中の光触媒の作用により濡れ性が変化する材料で、かつ光触媒の作用により劣化、分解しにくい主鎖を有するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、(1)ゾルゲル反応等によりクロロまたはアルコキシシラン等を加水分解、重縮合して大きな強度を発揮するオルガノポリシロキサン、(2)撥液性や撥油性に優れた反応性シリコーンを架橋したオルガノポリシロキサン等のオルガノポリシロキサンを挙げることができる。
上記の(1)の場合、一般式:
YnSiX(4−n)
(ここで、Yはアルキル基、フルオロアルキル基、ビニル基、アミノ基、フェニル基、クロロアルキル基、イソシアネート基、もしくはエポキシ基、またはこれらを含む有機基であり、Xはアルコキシル基、アセチル基またはハロゲンを示す。nは0〜3までの整数である。)
で示される珪素化合物の1種または2種以上の加水分解縮合物もしくは共加水分解縮合物であるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。なお、ここでXで示されるアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基であることが好ましい。また、Yで示される有機基全体の炭素数は1〜20の範囲内、中でも5〜10の範囲内であることが好ましい。
また、特にフルオロアルキル基を含有するオルガノポリシロキサンが好ましく用いることができ、具体的には、フルオロアルキルシランの1種または2種以上の加水分解縮合物、共加水分解縮合物が挙げられ、一般にフッ素系シランカップリング剤として知られた、例えば特開2003−195029号公報に記載されているもの等を使用することができる。
また、上記の(2)の反応性シリコーンとしては、下記一般式で表される骨格をもつ化合物を挙げることができる。
ただし、nは2以上の整数であり、R1,R2はそれぞれ炭素数1〜10の置換もしくは非置換のアルキル、アルケニル、アリールあるいはシアノアルキル基であり、モル比で全体の40%以下がビニル、フェニル、ハロゲン化フェニルである。また、R1、R2がメチル基のものが表面エネルギーが最も小さくなるので好ましく、モル比でメチル基が60%以上であることが好ましい。また、鎖末端もしくは側鎖には、分子鎖中に少なくとも1個以上の水酸基等の反応性基を有する。
また、上記のオルガノポリシロキサンとともに、ジメチルポリシロキサンのような架橋反応をしない安定なオルガノシリコーン化合物を混合してもよい。
本工程に用いられる濡れ性変化層には、さらに界面活性剤を含有させることができる。具体的には、日光ケミカルズ(株)製NIKKOL BL、BC、BO、BBの各シリーズ等の炭化水素系、デュポン社製ZONYL FSN、FSO、旭硝子(株)製サーフロンS−141、145、大日本インキ化学工業(株)製メガファックF−141、144、ネオス(株)製フタージェントF−200、F251、ダイキン工業(株)製ユニダインDS−401、402、スリーエム(株)製フロラードFC−170、176等のフッ素系あるいはシリコーン系の非イオン界面活性剤を挙げることができ、また、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることもできる。
また、濡れ性変化層には上記の界面活性剤の他にも、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ジアリルフタレート、エチレンプロピレンジエンモノマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリブタジエン、ポリベンズイミダゾール、ポリアクリルニトリル、エピクロルヒドリン、ポリサルファイド、ポリイソプレン等のオリゴマー、ポリマー等を含有させることができる。
このような濡れ性変化層は、上述した成分を必要に応じて他の添加剤とともに溶剤中に分散して塗布液を調製し、この塗布液を支持体上に塗布することにより形成することができる。使用する溶剤としては、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系の有機溶剤が好ましい。塗布はスピンコート、スプレーコート、ディッブコート、ロールコート、ビードコート等の公知の塗布方法により行うことができる。また、紫外線硬化型の成分を含有している場合、紫外線を照射して硬化処理を行うことにより濡れ性変化層を形成することかできる。
上記濡れ性変化層の厚みは、光触媒による濡れ性の変化速度等の関係より、0.001μmから1μmであることが好ましく、特に好ましくは0.01〜0.1μmの範囲内である。
なお、本工程に用いられる濡れ性変化層は、上述したように光触媒の作用により濡れ性の変化する層であれば特に限定されるものではないが、特に、光触媒を含まない層であることが好ましい。このように濡れ性変化層内に光触媒が含まれなければ、マイクロアレイチップとして用いた場合に、光触媒の半永久的な作用がマイクロアレイチップに及ぶことが無く、長期間に渡り問題なく使用することが可能だからである。
また、上記濡れ性変化層は通常、支持体上に形成されるものであるが、この濡れ性変化層が自己支持性を有する材料である場合には、濡れ性変化層自体が基材とされてもよい。
このような自己支持性を有する濡れ性変化層の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリビニルフロライド、アセタール樹脂、ナイロン、ABS、PTFE、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリ弗化ビニリデン、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、シリコーン等を挙げることができる。
ここで、本実施態様に上述したような濡れ性変化層が用いられた場合、上記有機基除去工程において、上記スペース部の濡れ性変化層は全部除去されてもよく、また表面の撥液性を有する有機基のみが除去されて、シラン化合物等が残存していてもよい。いずれの場合においても、表面の有機基が除去されて、被検査物が非特異的な吸着等をすることがないものとすることができるからである。
(2)分解除去層
次に、本工程に用いられる分解除去層について説明する。本工程に用いられる分解除去層は、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により、エネルギー照射された部分の分解除去層が分解除去される層であれば特に限定されるものではない。
このような分解除去層は、エネルギー照射した部分が光触媒の作用により分解除去されることから、現像工程や洗浄工程を行うことなく分解除去層のある部分と無い部分からなるパターン、すなわち凹凸を有するパターンを形成することができる。これにより、特異性生体高分子固定化部の分解除去層を分解除去し、この凹凸を利用して、容易に特異性生体高分子含有塗工液等を付着させることができるのである。
なお、この分解除去層は、エネルギー照射による光触媒の作用により酸化分解され、気化等されることから、現像・洗浄工程等の特別な後処理なしに除去されるものであるが、分解除去層の材質によっては、洗浄工程等を行ってもよい。
ここで、本実施態様においては、分解除去層と、その分解除去層が形成される支持体等との濡れ性が異なることが好ましい。これにより、凹凸だけでなく、分解除去層と支持体等との濡れ性の差を利用して、特異性生体高分子含有塗工液を付着させることができるからである。
この場合、支持体の水に対する接触角よりも、分解除去層の水に対する接触角が大きいものとされ、水が有する表面張力と同等の表面張力の液体に対する分解除去層の接触角が、支持体のそれよりも、1°以上、特に5°以上、中でも10°以上大きいことが好ましい。
このような分解除去層における具体的な水との接触角としては、エネルギーを照射していない部分における水との接触角が30°以上、中でも40°以上、特に50°以上であることが好ましい。これは、エネルギーを照射していない部分は、本実施態様においては撥液性が要求される部分である。従って、水との接触角が小さい場合は撥液性が十分でなく、特異性生体高分子含有塗工液が、不必要な部分にまで濡れ広がる可能性が生じることから、隣接する特異性生体高分子が混じったりするおそれがあるからである。
一方、エネルギー照射されて支持体が露出した領域においては、水との濡れ性が良好であることが好ましく、具体的には、水に対する接触角が20°以下、特に、10°以下となるものであることが好ましい。エネルギー照射されて露出した領域の水との接触角が高いと、この部分での特異性生体高分子含有塗工液の広がりが劣る可能性があり、特異性生体高分子の欠け等の問題が生じる可能性があるからである。
この場合、上記支持体は表面を親液性となるように、表面処理したものであってもよい。材料の表面を親液性となるように表面処理した例としては、アルゴンや水などを利用したプラズマ処理による親液性表面処理が挙げられ、支持体上に形成する親液性の層としては、例えばテトラエトキシシランのゾルゲル法によるシリカ膜等を挙げることができる。なお、ここでいう特異性生体高分子含有塗工液との接触角は、上述した方法と同様の方法により得ることができる。
また、本態様における分解除去層の膜厚としては、照射されるエネルギーに伴う光触媒の作用により分解除去することが可能な膜厚であれば特に限定されない。具体的には、0.001μm〜1μmであることが好ましく、特に好ましくは0.01〜0.1μmの範囲内である。
上記のような分解除去層に用いることができる膜としては、具体的にはフッ素系や炭化水素系の撥液性を有する樹脂等による膜を挙げることができる。これらのフッ素系や炭化水素系の樹脂は、撥液性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、これらの樹脂を溶媒に溶解させ、例としてスピンコート法等の一般的な成膜方法により形成することが可能である。
また、本実施態様においては、機能性薄膜、すなわち、自己組織化単分子膜、ラングミュア−ブロケット膜、および交互吸着膜等を用いることにより、欠陥のない膜を形成することが可能であることから、このような成膜方法を用いることがより好ましいといえる。
ここで、本工程に用いられる分解除去層は、特開2003−195029号公報に記載されているもの等を使用することができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
なお、本実施態様に上述したような分解除去層が用いられた場合には、上記有機基除去工程が行われることにより、上記スペース部に残存する分解除去層は、通常、完全に除去されることとなる。
b.固定化層
次に、本実施態様に用いられる固定化層について説明する。本実施態様に用いられる固定化層としては、特異性生体高分子を固定化させる層である。本実施態様においては、基材がこのような固定化層を有することによって、上記特異性生体高分子を特異性生体高分子付着部上に強固に固定することが可能となる。
このような固定化層に用いられる固定化剤としては、特異性生体高分子の固定化手段に応じて種々のものを用いることができる。特異性生体高分子を固定化する手段としては、当業者において周知の結合方法を使用することができ、例えば、静電結合による固定化方法、共有結合による固定化方法等を使用することができる。
上記静電結合による固定化手段の場合は、特異性生体高分子が有する電荷と反対の電荷を有する物質を固定化剤として溶解した溶液を固定化層形成用塗工液として調製し、これを支持体上に塗布することにより固定化層とする。
例えば、特異性生体高分子がオリゴヌクレオチドの場合は、オリゴヌクレオチドが陰イオン(アニオン)性を有するものであるので、陽イオン(カチオン)性を有する物質を固定化剤とした塗工液が用いられ、これを塗布して乾燥することにより固定化層とされる。
この際、用いられる陽イオン性を有する固定化剤としては、ポリL‐リシン、ポリ(アリルアミンヒドロクロリド)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)等を挙げることができ、中でもポリL‐リシンが好ましい。
一方、共有結合(化学結合)による固定化法としては、官能基(例えば、カルボキシル基、アミノ基、又は水酸基等)を有する化合物を固定化剤として固定化剤形成用塗料に用いて固定化層を形成し、これに特異性生体高分子を結合させる方法を挙げることができる。
このような官能基を有し、基材と接着性を有する化合物としては、例えば基材と炭素−炭素結合等、好ましくはシロキサン結合によって、接着する化合物が挙げられる。このような基材とシロキサン結合する化合物としては、トリクロロシリル基、またはトリアルコキシシリル基を有する化合物等が挙げられる。また、官能基としては、アミン、ヒドロキシル、チオール、カルボン酸、エステル、アミド、エポキシド、イソシアネート、またはイソチオシアネートを有する化合物であることが好ましい。このような化合物として、具体的には、アミノアルキルトリアルコキシシラン、アミノアルキルトリクロロシラン、ヒドロキシアルキルトリアルコキシ−シラン、ヒドロキシアルキルトリクロロシラン、カルボキシアルキルトリアルコキシシラン、ポリエチレングリコール、トリエトキシシラン、エポキシアルキルトリアルコキシシラン、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
上記固定化層の形成方法としては、上記シランカップリング剤を含む溶液を用い、ディップコーティング法、転写法、スピンコーティング法等により全面に塗布し、シランカップリング剤を付着させる方法、インクジェット、ディスペンサ等を用いて親水性領域のみを狙って塗布する方法を挙げることができる。そして、このようにして形成した固定化層上に上記特異性生体高分子固定化工程によって、特異性生体高分子を付着させることにより、マイクロアレイチップを形成することができる。
本実施態様においては、上記の中でも、アミノ基を含むシランカップリング剤が用いられることが好ましい。この場合上記固定化剤であるシランカップリング剤のアミノ基と、末端をアミノ基で修飾した生体高分子、具体的にはオリゴヌクレオチド等の末端アミノ基とを共有結合させることにより強固に膜に固定化することができる。
この際、用いられるアミノ基を有するシランカップリング剤としては、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
また、固定化層と特異性生体高分子との共有結合による別の固定化法としては、例えば、生体高分子がオリゴヌクレオチドの場合、その5´末端を上記官能基に共有結合で結合させる方法が知られている。具体的には、まず、オリゴヌクレオチドの5´末端とマレイミド化合物とを反応させ、オリゴヌクレオチドの5´末端にマレイミド基を導入する。好適なマレイミド化合物としては、スルホスクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート等を挙げることができる。上記反応とは別に、アミノ基を官能基として有する固定化剤とスクシンイミジル−S−アセチルチオアセテートとを反応させた後に、ヒドロキシラミンを用いて脱アセチル化を行なうことにより、上記固定化剤にSH基を付与する。こうして付与した固定化剤上のSH基と、5´末端にマレイミド基を導入して調製した上記オリゴヌクレオチドの5´末端に導入したマレイミド基とを反応させることにより、オリゴヌクレオチドと固定化剤とを結合させることができ、特異性生体高分子を固定化層に固定することができるのである。
その他、上述した方法の他にも、多くの固定化方法、例えば、ビオチン−アビジン系を用いた固定化層も使用することができる。
本態様に用いられる固定化層は、後述するように、その上に特異性生体高分子含有塗工液を付着させた際に、この液体が固定化層より広がらないことが好ましい。したがって、本実施態様においては特に、上記基材が特性変化層および固定化層を有しており、特性変化層の特性が変化したパターンに沿って固定化層が形成されており、この固定化層上に特異性生体高分子が付着されることが好ましい。
ここで、本実施態様に上述したような固定化層が用いられた場合、上記有機基除去工程が行われた際、上記スペース部の固定化層は完全に除去されてもよく、また固定化層の一部が残存してもよい。例えば固定化層が、基材と結合しているシラン化合物等、無機材料からなる部分を有する場合、この無機材料からなる部分が有機基と同時に除去されてもよく、また無機材料からなる部分が基材表面に残存してもよい。
2.第2実施態様
次に、本発明のマイクロアレイチップの第2実施態様について説明する。本実施態様のマイクロアレイチップの製造方法は、特異性生体高分子を基材上に固定させる特異性生体高分子固定化工程と、
上記特異性生体高分子固定化工程で不良が生じた際、不良部分の上記特異性生体高分子を除去する不良部分除去工程と
を有するものである。
本実施態様のマイクロアレイチップの製造方法は、例えば図7に示すように、基材1上の特異性生体高分子固定部aに、特異性生体高分子含有塗工液を付着させて固化させること等により、特異性生体高分子2(2´、2´´、2´´´等)を固定させる特異性生体高分子固定化工程(図7(a))を有するものである。本実施態様においては、その特異性生体高分子固定化工程において、例えば隣り合う領域の特異性生体高分子2が混じり合って不良部分3´が生じた場合や、目的とする特異性生体高分子と異なるものが形成された不良部分3´´が生じた場合等に、その不良部分3の特異性生体高分子2を除去する不良部分除去工程(図7(b))を有するものである。
本実施態様によれば、上記特異性生体高分子固定化工程中に生じた不良部分を除去することができることから、製造されたマイクロアレイチップにおいて、例えばこの不良部分と被検査物とが非特異的な吸着をすること等を防ぐことができる。また、目的とする特異性生体高分子と異なるものが形成されてしまった場合に、その不良部分だけ除去して、再度その部分に固定化層を形成し、特異性生体高分子を固定化することが可能となる。これにより、欠陥のないマイクロアレイチップを製造することができるのである。
ここで、上記不良部分除去工程は、上記特異性生体高分子固定化工程後に行われるものであってもよく、また特異性生体高分子固定化工程中に行われるものであってもよい。ここで、本実施態様においては、例えば目的とする特異性生体高分子固定部の一部に不良部分が生じた場合、その不良部分を除去すればマイクロアレイチップとした際に何ら支障をきたさない場合には、その不良部分のみを除去する不良部分除去工程を行うだけでよいが、例えば不良部分が特異性生体高分子固定部の大部分を占める等、その部分の特異性生体高分子が欠けることによって、マイクロアレイチップを用いた際に支障をきたす場合には、その不良部分を除去する不良部分除去工程を行った後、さらに例えば図8に示すように、不良部分が除去された不良部分除去部cに、目的とする特異性生体高分子4を固定化する第2特異性生体高分子固定化工程を行うことが好ましい。
なお、本実施態様において製造されるマイクロアレイチップにおいても、上述した第1実施態様の有機基除去工程を有することが好ましい。これにより、製造されたマイクロアレイチップのスペース部上に有機基がなく、このスペース部上で被検査物が非特異的吸着等をすることのない、高品質なマイクロアレイチップとすることができるからである。
また、本実施態様においても、上記基材が特性変化層や固定化層を有していることが好ましく、特に特性変化層形成工程を有していることが好ましい。これにより、上記特異性生体高分子固定化工程において、特異性生体高分子含有塗工液をこの特性変化層の特性が変化したパターンに沿って付着させることができ、隣接する特異性生体高分子含有塗工液が接触したり混合したりすることなく、容易に特異性生体高分子を固定することが可能となるからである。
ここで、本実施態様における特異性生体高分子固定化工程については、上述した第1実施態様と同様であるので、ここでの説明は省略し、以下、本工程における不良部分除去工程、および第2特異性生体高分子固定化工程について説明する。
(不良部分除去工程)
まず、本工程における不良部分除去工程について説明する。本工程における不良部分除去工程は、上述した特異性生体高分子固定化工程で生じた不良部分を除去する工程である。本工程は、上述したように、上記特異性生体高分子固定化工程中に行われるものであってもよく、また上記特異性生体高分子固定化工程後に行われるものであってもよい。
一方、例えば不良部分が特異性生体高分子固定部の大部分を占める場合等、後述する第2特異性生体高分子固定化工程を行うことが必要である場合には、その不良が発生したことが判明した時点で、不良部分除去工程を行うこと等が、ロスが少なく好ましいといえる。
ここで、本実施態様の不良部分除去工程によって除去されるのは、不良部分の特異性生体高分子であるが、例えば上記基材が特性変化層や固定化層を有する場合には、これらの層も同時に除去されてもよく、また除去されずに残存していてもよい。
本工程における不良部分を除去する方法としては、不良部分を除去することが可能な方法であれば、特に限定されるものではなく、一般的に行われているフォトリソグラフィー法等によって行われるものであってもよく、また例えば短波長の紫外光をパターン状に照射して上記特異性生体高分子等を除去するもの等であってもよい。
本実施態様においては、特に、例えば図3に示すように、光触媒を含有する光触媒含有層11および基体12を有する光触媒含有層側基板13の上記光触媒含有層11を、上記特異性生体高分子3と間隙をおいて配置した後、例えばフォトマスク14等を用いてエネルギー15を照射することにより行われることが好ましい。
これにより、例えばフォトリソグラフィー法に用いられるアルカリ現像液等の、その他の部分の特異性生体高分子等に悪影響を及ぼすような薬品を用いる必要がない。また不良部分に上記光触媒含有層側基板を用いてエネルギー照射することによって、容易に有機基等の分解除去を行うことができることから、高いエネルギーを有する光を用いることなく、効率よく特異性生体高分子や固定化層の除去を行うことができる、という利点も有するからである。
ここで、本実施態様に用いられる光触媒含有層側基板や、照射されるエネルギーについては、上述した第1実施態様の有機基除去工程において用いられるものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
(第2特異性生体高分子固定化工程)
次に、本実施態様における第2特異性生体高分子固定化工程について説明する。本実施態様における第2特異性生体高分子固定化工程は、上記不良部分除去工程により不良部分が除去された不良部分除去部に特異性生体高分子固定化工程で固定化される特異性生体高分子と同様の特異性生体高分子を固定化する工程である。
本工程における特異性生体高分子の固定化方法としては、上記特異性生体高分子含有塗工液を付着させて固化させる方法等が挙げられ、上記特異性生体高分子固定化工程と同様とすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
B.マイクロアレイチップ
次に、本発明のマイクロアレイチップについて説明する。本発明のマイクロアレイチップは、基材と、上記基材上に、パターン状に固定された特異性生体高分子とを有するものである。
本発明のマイクロアレイチップは、例えば図9に示すように、基材1と、その基材1上にパターン状に形成された特異性生体高分子2とを有するものである。これにより、隣接する特異性生体高分子2の間の領域であるスペース部bに、被検査物等が非特異的な吸着等をしない、高品質なマイクロアレイチップとすることができる。
ここで、本発明のマイクロアレイチップは、例えば図10に示すように、基材1と、その基材1上にエネルギー照射に伴う光触媒の作用により特性が変化する特性変化層6と、その特性変化層6上に形成された特異性生体高分子2とを有するものであってもよい。
なお、ここでいう特性変化層とは、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により特性が変化する層であれば、特性が変化する前の層であってもよく、また特性が変化した後の層であってもよい。例えば特性変化層としてエネルギー照射に伴う光触媒の作用により濡れ性が変化する層が用いられた場合、通常、特異性生体高分子はこの濡れ性が変化した後の濡れ性変化層上に形成されることとなる。また、この場合、固定されている特異性生体高分子間のスペース部には、濡れ性が変化した濡れ性変化層等が形成されているものであってもよい。例えば濡れ性変化層として、オルガノポリシロキサンを含有する層を用いた場合、スペース部に、このオルガノポリシロキサンの有機基が水酸基に置換されて末端に水酸基を有するポリシロキサンからなる層が形成されていてもよい。この場合、この部分は有機基が除去されていることから、被検査物がこのスペース部に非特異的に吸着することなく、高品質なマイクロアレイチップとすることができるからである。なお、上記末端に水酸基を有するポリシロキサンからなる層とは、上述した「A.マイクロアレイチップの製造方法」で説明した濡れ性変化層として用いられるオルガノポリシロキサンの撥液性を有する有機基が除去された層等をいうこととする。
ここで、本発明のマイクロアレイチップに用いられる基材や特異性生体高分子、特性変化層、および形成方法等については、上述した「A.マイクロアレイチップの製造方法」で説明したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。