以下、本発明の実施の形態について説明する。
(プローブの実施形態)
本発明のプローブに係る第1実施形態は、媒体の表面を走査するプローブであって、複数の支持部材と、先端が前記媒体に対向するように前記複数の支持部材の夫々に立設される突起部とを備えており、前記複数の支持部材の夫々は、第1の方向に湾曲する部分と前記第1の方向とは反対の第2の方向へ湾曲する部分とを有している。
本発明のプローブに係る第1実施形態によれば、突起部において媒体の表面を走査することで、該媒体の表面構造等を認識することが可能となる。また、例えば突起部から所定の電界を媒体(例えば、後述の誘電体記録媒体等)に印加することで、該媒体に対して情報の記録を行なったり、或いは該媒体に記録された情報の再生を行うことが可能となる。
第1実施形態によれば特に、突起部を支持するための支持部材の一部が第1の方向に湾曲しており、他の一部が第2の方向の夫々に湾曲している。第1の方向と第2の方向とは互いに相対する(反対の)方向であるため、媒体の表面に沿って例えば平行に伸びる支持部材の一部が第1の方向に湾曲したとしても、他の一部が第2の方向に湾曲しているため、再度支持部材が媒体の表面に沿って平行に伸びることになる。このため、突起部が当該支持部材上に立設されていれば、支持部材の湾曲の度合いにかかわらず、媒体表面に対して突起部を概ね垂直方向に伸張させることが可能となる。
加えて、支持部材が第1の方向と第1の方向とは反対の第2の方向の夫々に湾曲しているため、突起部が媒体の表面に接しているときにおいても、支持部材のうち突起部が立設されている一部を除く部分と媒体の表面との距離をある程度確保することができる。
以上の結果、本実施形態に係るプローブによれば、支持部材と媒体との間の距離を確保できると共に、突起部の先端が媒体の表面に対して概ね垂直方向に伸張させることができる。従って、複数の突起部の先端を表面に対して同時に接触させることができると共に、夫々の突起部の先端を媒体の表面に対して傾くことなく(即ち、概ね垂直方向に)、該表面に対して接触させることが可能となる。
また、支持部材と突起部とは、両者が一体となる形状であってもよい。即ち、支持部材と突起部とは、単一の部材から構成されていても、その形状の相違から支持部材と突起部とを区別することができれば、本発明の範囲に含まれるものである。
本発明のプローブに係る第1実施形態の一の態様は、前記第1の方向は前記支持部材が前記媒体に対向する方向とは逆の方向である。
この態様によれば、突起部(特にその先端)を媒体の表面に対して概ね垂直方向に伸張させることが可能となる。
本発明のプローブに係る第1実施形態の他の態様は、前記第2の方向は前記支持部材が前記媒体に対向する方向である。
この態様によれば、突起部(特にその先端)を媒体の表面に対して概ね垂直方向に伸張させることができると共に、支持部材と媒体との間の距離を好適に確保することが可能となる。
本発明のプローブに係る第1実施形態の他の態様は、前記第1の方向に湾曲する部分は前記第2の方向に湾曲する部分よりも前記突起部に近い。
この態様によれば、支持部材を好適な状態で湾曲させることができ、支持部材と媒体との間の距離を好適に確保できると共に、突起部の先端部分を媒体の表面に対して概ね垂直方向に伸張させることができる。
本発明のプローブに係る第1実施形態の他の態様は、前記支持部材は、前記突起部が前記媒体の記録面に対して垂直方向に伸張するように、前記第1の方向に湾曲する部分及び前記第2の方向に湾曲する部分の夫々を有している。
この態様によれば、支持部材の湾曲の度合いを好適に調整することで、突起部の先端部分を媒体の表面に対して概ね垂直方向に伸張させることができる。尚、本発明における「垂直方向」とは、文字通り「垂直」を含むほか、突起部と媒体とが接する際の両者の接触面積が極端に増加しないような状態、即ち概ね「垂直」と同視しうる程度の状態をも含む広い趣旨である。
本発明のプローブに係る第1実施形態の他の態様は、前記第1の方向に湾曲する部分のうち前記媒体に対向する側の面と反対側の面には、前記支持部材に対して引張応力を有する部材(即ち、引張応力を及ぼす部材)が設けられる。
この態様によれば、支持部材に対して引張応力が作用することによって、支持部材に引張ひずみが生じ、その結果、支持部材を第1の方向に好適に湾曲させることが可能となる。加えて、機械的な加工を施す必要がなく、比較的容易に第1の方向に湾曲させることが可能となる。
上述の如く圧縮ひずみを有する部材が形成されるプローブの態様では、前記支持部材はシリコンを含んでおり、前記第1の方向に湾曲する部分には相対的に高温環境下で形成されるSiNが設けられる。
このように構成すれば、高温環境下(例えば、後述の如く概ね600℃以上)で形成されるSiNにより、シリコンに対して引張応力を及ぼすことができ、支持部材を第1の方向に湾曲させることが可能となる。
本発明のプローブに係る第1実施形態の他の態様は、前記第2の方向に湾曲する部分のうち前記媒体に対向する側の面と反対側の面には、前記支持部材に対して圧縮応力を有する部材(即ち、圧縮応力を及ぼす部材)が設けられる。
この態様によれば、支持部材に対して圧縮応力が作用することによって、支持部材に圧縮ひずみが生じ、その結果、支持部材を第2の方向に好適に湾曲させることが可能となる。加えて、機械的な加工を施す必要がなく、比較的容易に第2の方向に湾曲させることが可能となる。
上述の如く圧縮応力を有する部材が形成されるプローブの態様では、前記支持部材はシリコンを含んでおり、前記第2の方向に湾曲する部分には相対的に低温環境下で形成されるSiNが設けられる。
このように構成すれば、低温環境下(例えば、後述の如く概ね600℃未満)で形成されるSiNにより、シリコンに対して圧縮応力を及ぼすことができ、支持部材を第2の方向に湾曲させることが可能となる。加えて、支持部材を第1の方向に湾曲させるために高温環境下で形成されるSiNを用いていれば、同一の製造装置を用いて引張応力を有する部材及び圧縮応力を有する部材を形成することが可能となる。
本発明のプローブに係る第2実施形態は、媒体の表面を走査するプローブであって、複数の支持部材と、先端が前記媒体に対向するように前記複数の支持部材の夫々に立設される突起部と、を備えており、前記複数の支持部材の夫々は、前記突起部が形成される部分が、前記突起部が形成されない部分よりも前記媒体に近接するように、前記表面に対して所定の角度を有して形成されており、且つ少なくとも一部において前記媒体に対向する側とは反対の方向に湾曲する部分を有している。
本発明のプローブに係る第2実施形態によれば、上述した第1実施形態に係るプローブと同様に、突起部において媒体の表面を走査することで、該媒体の表面構造等を認識することが可能となる。また、例えば突起部から所定の電界を媒体(例えば、後述の誘電体記録媒体等)に印加することで、該媒体に対して情報の記録を行なったり、或いは該媒体に記録された情報の再生を行うことが可能となる。
第2実施形態によれば特に、支持部材は媒体表面に対して予め所定の角度を有するように(即ち、媒体表面に対して予め傾いて或いは平行とならないように)形成されている。特に、支持部材のうち突起部が形成される部分が、支持部材のうち突起部が形成されない部分よりも、より一層媒体に(即ち、媒体の表面に)近接している。このため、突起部が媒体の表面に接しているときにおいても、支持部材のうち突起部が立設されている一部を除く部分と媒体の表面との距離をある程度確保することができる。
加えて、支持部材の少なくとも一部は媒体に対向する側とは反対の方向に湾曲している。特に、支持部材のうち突起部が形成される部分の近傍が湾曲していることが好ましく、また媒体表面に対して突起部が概ね垂直方向に伸張する程度に湾曲していることが好ましい。これにより、支持部材が媒体の表面に対して傾いて形成されていたとしても、支持部材の少なくとも一部が湾曲しているため、媒体の表面に沿って概ね平行に伸びる支持部材の部分が生ずる。このため、突起部が当該支持部材上に立設されていれば、支持部材の傾きの度合いにかかわらず、媒体表面に対して突起部を概ね垂直方向に伸張させることが可能となる。
従って、上述した第1実施形態に係るプローブと同様に、支持部材と媒体との間の距離を好適に確保できると共に、突起部の先端部分を媒体の表面に対して概ね垂直方向に伸張させることができる。
尚、上述した本発明のプローブに係る第1実施形態に係る各種態様に対応して、本発明のプローブに係る第2実施形態も各種態様を採ることができる。
本発明のプローブに係る第3実施形態は、媒体の表面を走査するプローブであって、支持部材と、先端が前記媒体に対向するように前記支持部材に立設される突起部とを備えており、前記支持部材の夫々は、第1の方向に湾曲する部分と前記第1の方向とは相対する方向である第2の方向へ湾曲する部分とを有している。
本発明のプローブに係る第3実施形態は、上述した第1実施形態に係るプローブと同様に、支持部材と媒体との間の距離を好適に確保できると共に、突起部の先端部分を媒体の表面に対して概ね垂直方向に伸張させることができる。
尚、上述した本発明のプローブに係る第1実施形態に係る各種態様に対応して、本発明のプローブに係る第3実施形態も各種態様を採ることができる。
本発明のプローブに係る第4実施形態は、媒体の表面を走査するプローブであって、支持部材と、先端が前記媒体に対向するように前記支持部材に立設される突起部と、を備えており、前記支持部材は、前記突起部が形成される部分が、前記突起部が形成されない部分よりも前記媒体に近接するように、前記表面に対して所定の角度を有して形成されており、且つ少なくとも一部において前記媒体に対向する側とは反対の方向に湾曲する部分を有している。
本発明のプローブに係る第4実施形態は、上述した第2実施形態に係るプローブと同様に、支持部材と媒体との間の距離を好適に確保できると共に、突起部の先端部分を媒体の表面に対して概ね垂直方向に伸張させることができる。
尚、上述した本発明のプローブに係る第1実施形態に係る各種態様に対応して、本発明のプローブに係る第4実施形態も各種態様を採ることができる。
(記録装置の実施形態)
本発明の記録装置に係る実施形態は、記録媒体にデータを記録する記録装置であって、上述した本発明のプローブに係る実施形態(但し、その各種態様を含む)と、前記データに対応する記録信号を生成する記録信号生成手段とを備える。
本発明の記録装置に係る実施形態によれば、上述した本発明のプローブに係る実施形態が有する利点を生かしつつ、記録信号生成手段が生成した記録信号に基づき、データの記録を行うことができる。
(再生装置の実施形態)
本発明の再生装置に係る実施形態は、記録媒体に記録されたデータを再生する再生装置であって、上述した本発明のプローブに係る実施形態(但し、その各種態様を含む)と、前記記録媒体に電界を印加する電界印加手段と、前記記録媒体の非線形誘電率に対応する容量の違いに応じて発振周波数が変化する発振手段と、前記発振手段による発振信号を復調し、再生する再生手段とを備える。
本発明の再生装置に係る実施形態によれば、電界印加手段により記録媒体に電界を印加することで、該記録媒体の非線形誘電率の変化に応じた容量変化に起因して、発振手段の発振周波数が変化する。そして、係る発振手段による発振周波数の変化に応じた発振信号を、再生手段が復調及び再生することで、データを再生する。
本実施形態では特に、上述した本発明のプローブに係る実施形態が有する利点を生かして、データの再生を行うことができる。即ち、プローブの抵抗値が小さいため、発振手段による発振信号が減衰するという不都合を避けることができる。従って、より安定してデータを再生できる。
本実施形態におけるこのような作用、及び他の利得は次に説明する実施例から更に明らかにされる。
以上説明したように、本発明のプローブに係る第1又は第2実施形態によれば、支持部材及び突起部を備えており、支持部材は第1及び第2の方向の夫々に湾曲する部分を有している。また、本発明のプローブに係る第3又は第4実施形態によれば、支持部材及び突起部を備えており、支持部材は媒体の表面に対して所定の角度を有しており、且つ少なくとも一部において媒体に対向する側の反対の方向に向かって湾曲している。従って、支持部材と記録媒体との間の距離を好適に確保できると共に、突起部の先端部分を媒体の記録面に対して概ね垂直方向に伸張させることができる。
又、本発明の記録装置に係る実施形態によれば、本実施形態に係るプローブ及び記録信号生成手段を備える。従って、本発明のプローブに係る実施形態が有する各種利益を享受できる。
又、本発明の再生装置に係る実施形態によれば、本実施形態に係るプローブ、電界印加手段、発振手段及び再生手段を備える。従って、本発明のプローブに係る実施形態が有する各種利益を享受できる。
以下、本発明のプローブに係る実施例を図面に基づいて説明する。
(1)プローブの実施例
先ず、図1から図21を参照して、本発明のプローブに係る実施例について説明する。
(i)プローブの構造
先ず、図1から図5を参照して、本実施例に係るプローブの構造(即ち、基本構成)について説明する。ここに、図1は、本実施例に係るプローブのうちマルチプローブを有する構造の一の例を概念的に示す側面図であり、図2及び図3は夫々、本実施例に係るプローブの比較例に係るプローブの構造を概念的に示す側面図であり、図4は、本実施例及び比較例の夫々に係るプローブのダイヤモンドチップが、誘電体記録媒体の記録面に接する様子を概念的に示す側面図であり、図5は、本実施例に係るプローブのうちシングルプローブを有する構造を概念的に示す側面図である。
図1に示すように、本実施例に係るプローブ100は、本発明における「突起部」の一具体例であるダイヤモンドチップ110、高温環境下で形成されるSiN121(以降、適宜“高温SiN121”と称する)、低温環境下で形成されるSiN122(以降、適宜“低温SiN122”と称する)及び支持部材130を夫々備える複数のプローブヘッド101と、該複数のプローブヘッド101を支持するための天板140とを備える。
ダイヤモンドチップ110は、プローブ100の記録再生時に、その先端側から後述の誘電体記録媒体20(図23参照)に電界を印加するように、細く尖った先端を有する。ダイヤモンドチップ110は、例えば先端部分の半径が概ね10nm程度の略球状となることが好ましい。このダイヤモンドチップ110は特に、その製造時にダイヤモンドにボロン等をドーピングすることによって、導電性を備えている。
尚、ダイヤモンドチップ110に代えて、例えば窒化ボロンを用いることもできる。或いは、比較的硬質であり、且つ導電性を備える部材であれば、ダイヤモンドチップ110に代えて用いることができる。
支持部材130は、プローブ100を支持する基盤となるものである。支持部材130は、ダイヤモンドチップ110に電流を供給する際のパスとなるため、導電性を有していることが好ましい。例えば、シリコン(或いは、ボロン等の不純物がドーピングされたシリコン)やダイヤモンド(或いは、ボロン等の不純物がドーピングされたダイヤモンド)を含んで形成されることが好ましい。但し、例えば電極とダイヤモンドチップ110とが配線等を介して直接的に接続されている場合には、支持部材130が電流のパスとなる必要はないため導電性を有していなくともよい。
又、後述の如く、該支持部材130はプローブヘッド101の一部として再生時における共振回路14の一部を構成する(図22参照)。このため、所望の共振周波数が得られるように、当該支持部材130のインダクタンスに応じて材料を選択することがより好ましい。また、このように材料を選択することで、プローブヘッド101の振動周波数を適宜変更することも可能である。
本実施例では特に、支持部材130上には、高温SiN121と低温SiN122とが形成されている。高温SiN121は、支持部材130に対して引張応力(引っ張り応力)を有しており、当該高温SiN121が形成された部分においては、支持部材130は、誘電体記録媒体に対向する側とは反対の方向(逆の方向)へ湾曲する。高温SiN121は、後述するように、概ね600℃以上の温度環境下において支持部材130上に形成される。
他方、低温SiN122は、支持部材130に対して圧縮応力を有している部材であり、当該低温SiN122が形成された部分においては、支持部材130は、誘電体記録媒体に対向する側(方向)へ湾曲する。低温SiN122は、後述するように、概ね600℃未満の温度環境下において支持部材130上に形成される。
そして、高温SiN121は、低温SiN122よりも、よりダイヤモンドチップ110に近い側に形成されている。このような位置関係で高温SiN121及び低温SiN122の夫々が支持部材130上に形成されることで、図1に示す各プローブヘッド101のような、2段階に湾曲する(屈曲する)形状を実現することができる。
一般的に複数のプローブヘッドを有するプローブにおいては、夫々のプローブヘッドのダイヤモンドチップ(特にその先端部分)が同一平面上に配置されるようにナノメートルオーダーで(或いは、サブマイクロメートルオーダーで)夫々のプローブヘッドを形成することは困難である。即ち、夫々のプローブヘッドのダイヤモンドチップを記録面に対して同時に接触させるように夫々のプローブヘッドを形成することは困難である。このとき、夫々のプローブヘッドに対して一定の力を加えて誘電体記録媒体の記録面に押し付けることで、夫々のプローブヘッドのダイヤモンドチップを記録面に対して同時に接触させることができるとも考えられる。
しかしながら、例えば図2に示すような比較例に係るプローブ100aでは、支持部材130(或いは、ダイヤモンドチップ110)の厚さが非常に薄いため、一定の力をプローブヘッド101a(或いは、天板140)に加えると、該天板140や支持部材130が誘電体記録媒体に接触してしまうという不都合が考えられる。
このため、図3(a)に示す比較例に係るプローブ100bの如く、支持部材130の一部を、誘電体記録媒体に対向する側にのみ湾曲させることで、支持部材130や天板140と誘電体記録媒体との間の距離を確保することもできる。また、図3(b)に示す比較例に係るプローブ100cの如く、支持部材130の全体を、誘電体記録媒体に対向する側にのみ滑らかに湾曲させて、支持部材130や天板140と誘電体記録媒体との間の距離を確保することができる。
これらにより、一定の力をプローブヘッド101a(101b)に加えたとしても、天板140や支持部材130が誘電体記録媒体に接触するという不都合を回避することもできる。
しかしながら、図3(a)及び図3(b)に示すプローブでは、支持部材130の湾曲に伴って、ダイヤモンドチップ110も、誘電体記録媒体の記録面に対して傾いてしまう。即ち、図4(a)に示すように、ダイヤモンドチップ110が記録面に対して垂直方向に伸張していないため、ダイヤモンドチップ100の先端部分と誘電体記録媒体の記録面との実際の接触面積が増加してしまうという問題点を有している。これは、ダイヤモンドチップ110の先端(例えば、略球状の先端の半径等)が実質的に大きくなることと同等であり、誘電体記録再生装置に用いられるプローブとしては好ましくない。
しかるに、本実施例に係るプローブ100によれば、2段階に湾曲するプローブヘッド101を採用している。これにより、支持部材130や天板140と誘電体記録媒体との間の距離を確保できると共に、ダイヤモンドチップ110の先端部分が誘電体記録媒体の記録面に対して概ね垂直方向に伸張させることができる。従って、複数のプローブヘッド101の夫々のダイヤモンドチップ110を記録面に対して同時に接触させることができると共に、図4(b)に示すように、夫々のダイヤモンドチップ110の先端を誘電体記録媒体の記録面に対して傾くことなく(即ち、概ね垂直方向に)、該記録面に対して接触させることが可能となる。
加えて、本実施例では、支持部材130を湾曲させるために、高温SiN121と低温SiN122とを用いている。即ち、SiNを形成する際の温度条件を変化させれば高温SiN121と低温SiNとの夫々を形成することができる。言い換えれば、同じ製造装置・同じ材料を用いて、本実施例に係るプローブを製造することができるため、本実施例に係るプローブ100を比較的容易に製造することができる。
更には、支持部材130を湾曲させるために、機械的な或いは物理的な加工を必要としないため、比較的容易に本実施例に係るプローブ100を製造することが可能となる。
尚、ダイヤモンドチップ110が誘電体記録媒体の記録面に対して垂直方向に伸張するように、支持部材130が湾曲することが好ましい。言い換えれば、適切な分量の高温SiN121及び低温SiN122が、支持部材130上における適切な位置に形成されることが好ましい。
また、支持部材130に対して引張応力又は圧縮応力を有する部材として、上述した高温SiN121及び低温SiN122に限定されることはない。即ち、例えば支持部材130がシリコンを含んでいれば、シリコンと格子定数が異なる部材であれば、その格子定数の相違によって、引張応力を有する部材や圧縮応力を有する部材として用いることが可能である。
更には、支持部材130もシリコンには限定されることなく、例えばダイヤモンド(或いは、導電性を有するダイヤモンド)等の他の部材を用いてもよい。
また、図1及び図2に示すように、誘電体記録媒体に対向する方向と誘電体記録媒体に対向する方向とは反対の方向との夫々に湾曲するプローブヘッドを有するプローブであれば、上述した各種利益を享受することができる。即ち、必ずしも支持部材130に対して引張応力や圧縮応力を有する部材を設けなくともよい。例えば、機械的な或いは物理的な加工(例えば、ダイサー等による研磨加工や切断加工、或いは電子ビームやレーザ等による加工等)により形成される上述した形状のプローブヘッドであっても、上述した各種利益を享受することが可能である。
尚、図1に示す形状を有するプローブヘッド101を、図5に示すように、シングルプローブタイプのプローブ100dに用いてもよい。このように構成すれば、支持部材130や天板140と誘電体記録媒体との間の距離を確保できると共に、ダイヤモンドチップ110の先端部分を誘電体記録媒体の記録面に対して概ね垂直方向に伸張させることができる。
(ii)プローブの変形例
続いて、図6を参照して、本実施例に係るプローブの変形例について説明する。ここに、図6は、本実施例に係るプローブの構造の変形例を概念的に示す斜視図及び断面図である。
図6(a)に示すように、変形例に係るプローブ100eは、上述した図1に示すプローブ100と同様に、本発明における「突起部」の一具体例であるダイヤモンドチップ110及び支持部材130を備える複数のプローブヘッド101eと、該複数のプローブヘッド101eを支持するための天板140とを備える。
変形例に係るプローブ100eでは特に、支持部材130上に高温SiN121が形成されている。加えて、支持部材130は、誘電体記録媒体の記録面に対して予め所定の傾きを有するように天板140に設けられている。特に、支持部材130のうちダイヤモンドチップ100が形成される部分が、該ダイヤモンドチップ110が形成されていない部分よりも、より誘電体記録媒体の記録面に近接するように、支持部材130は天板140に設けられている。
従って、変形例に係るプローブ100eは、図1に示すプローブ100の如く、支持部材130の一部が誘電体記録媒体の記録面に対向する方向に湾曲していなくとも、上述した各種利益を享受することが可能となる。
もちろん、図5に示す形状を有するプローブヘッド101eを、図6に示すように、シングルプローブタイプのプローブ100fに用いてもよい。このように構成すれば、支持部材130や天板140と誘電体記録媒体との間の距離を確保できると共に、ダイヤモンドチップ110の先端部分が誘電体記録媒体の記録面に対して概ね垂直方向に伸張させることができる。
(iii)プローブの製造方法
続いて、図7から図21を参照して、本実施例に係るプローブの製造方法について説明する。ここに、図7から図21は、本実施例に係るプローブの製造方法の各工程を概念的に示す断面図である。
まず、図7に示すように、SOI基板(Silicon On Insulator)61を用意する。SOI基板61は、基盤層62上に絶縁層63が形成され、絶縁層63上にシリコン層64が形成され、シリコン層64の表面が加工面65である。シリコン層64は単結晶シリコンから形成されており、その厚さは、例えばおよそ3.5マイクロメートルである。絶縁層63は、SiO2から形成されており、その厚さは、例えばおよそ0.2マイクロメートルである。
尚、後の工程において、結晶格子構造における(100面)に沿って(或いは、平行に)二酸化シリコン膜が形成されるようなSOI基板61を用意することが好ましい。これは、後述するように、異方性エッチングを施すことでダイヤモンドチップ110の突起状(或いは、ピラミッド状)の形状を形成するためである(図12参照)。
次に、SOI基板61の一部に、加工面65側から基盤層62の底面側に向けて、ダイヤモンドチップ110を成形するためのモールド穴70を形成する(モールド穴形成工程:図8ないし図11)。具体的には、図8に示すように、まず、加工面65上および基盤層62の底面上等にカバー層66、67を形成する。カバー層66、67は、SiO2から形成されており、それぞれの厚さは、絶縁層63よりも厚く、例えばおよそ1マイクロメートルである。カバー層66、67の形成は、例えば熱酸化法により行う。
続いて、図9に示すように、カバー層66上にレジスト68を形成する。続いて、レジスト68をマスクにして、カバー層66に対してエッチングを行い、図10に示すように、カバー層66の一部に穴69を形成する。このエッチングは、FAB(Fast Atom Beam)またはフッ酸(HF)或いはバッファードフッ酸(BHF)により行うことが望ましい。その後、レジスト68を除去する。
続いて、穴69が形成されたカバー層66をマスクにして、シリコン層64に対して異方性エッチングを行う。このエッチングには、例えば水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH:Tetramethyl ammonium Hydroxide)を用いる。続いて、カバー層66をマスクにして、絶縁層63に対してエッチングを行う。このエッチングは、FABまたはHFにより行うことが望ましい。なお、このとき、カバー層66の表面側の一部も除去されるが、カバー層66は絶縁層63よりも厚いので、カバー層66が完全に除去されることはない。続いて、カバー層66をマスクにして、基盤層62に対して異方性エッチングを行う。このエッチングはTMAHを用いて行えばよい。これにより、図11に示すように、ダイヤモンドチップを成形するためのモールド穴70が形成される。
次に、モールド穴70内に、不純物(例えばボロン)を混入させつつダイヤモンドを成長させ、これによりダイヤモンドチップ110を形成する(チップ形成工程:図12)。以下、ダイヤモンドチップ110の形成方法として好適な一例を挙げる。まず、メタノールまたはベンゼン等に、粒径がマイクロメートルオーダーのダイヤモンドパウダーを混ぜた溶液をつくり、その溶液中に、モールド穴70が形成されたSOI基板61を浸す。そして、溶液中に浸されたSOI基板61に対し、超音波発生器(超音波洗浄機)により超音波を与えながら、例えばおよそ4時間放置する。これにより、溶液に接していたモールド穴70内およびカバー層66の表面等に、ダイヤモンド成長のきっかけとなる傷が形成される。続いて、ホットフィラメント化学気相堆積法(HF−CVD)により、ダイヤモンドを成長させる。このとき、成長炉にはH2とメタンをモル数比でメタン3パーセントの割合で供給する。さらに、これと同時に、p型不純物であるボロンの原料であるトリメトキシボランを少量(メタンに対してモル数で2桁下程度)供給する。なお、この工程におけるダイヤモンドの成長は、ダイヤモンドが膜状にならない程度にとどめる。続いて、バッファードフッ酸または薄めたHFを用いて、カバー層66に対してエッチングを行い、カバー層66の表面側の一部を除去する。これにより、カバー層66上に成長したダイヤモンド粒もカバー層66の一部と共に除去される。続いて、HF−CVDにより、モールド穴70内にボロンドープダイヤモンドを成長させ、図12に示すように、ダイヤモンドチップ110を形成する。その後、カバー層66をエッチングにより除去する。
次に、シリコン層64において、不純物(例えばボロン)を注入し低抵抗層を形成する。具体的には、図13に示すように、加工面65上に再びSiO2のカバー層72を形成する。カバー層72は、以降の工程で行うイオン注入および熱処理によりシリコン層64の表面がダメージを受けるのを防止する役割を果たす。続いて、図14に示すように、イオン注入装置を用いて、シリコン層64の表面にボロンを打ち込み、図15に示すように、シリコン層64の表面から深さおよそ0.8マイクロメートルまでの領域にボロンドープ層74(低抵抗層)を形成する。続いて、シリコン層64に対して熱を加え、ボロンドープ層74においてp型を発現させる。続いて、カバー層67、72をエッチングにより除去する。これにより、図16に示すように、支持部材130が形成される。
尚、上述した工程(特に、低抵抗層の形成工程)は、支持部材130に対して導電性を付与する必要がないときは必ずしも行わなくともよい。加えて、上述した工程に合わせて、例えばパターニング等を施して、所定の形状を有するボロンドープ層74を形成すれば、例えばピエゾ抵抗素子による歪み検出回路や信号処理回路等を同時に形成することができる
次に、図17に示すように、形成された支持部材130等に高温SiN層を形成する。この高温SiN層は、SOI基板等を支持する基板を概ね600℃以上に加熱して、例えばプラズマCVD法により形成する。概ね600℃以上にまで基板を加熱することで形成される高温SiN層は、シリコンに対して引張応力を及ぼす。
続いて、高温SiN層にフォトレジスト等をパターニングしてからエッチングを施すことで、図18に示すように所望の形状にパターニングされた高温SiN121を形成する。即ち、本来高温SiN121として残したい部分以外の高温SiN層を除却する。ここでは例えば熱リン酸等を用いてウェットエッチングを施してもよいし、例えばCF4と酸素との混合ガスやSF6ガス等を用いてプラズマエッチングを施してもよいし、或いはその他のエッチングを施してもよい。
続いて、図19に示すように、更に低温SiN層を形成する。この低温SiN層は、SOI基板等を支持する基板の温度が概ね600℃未満となるように加熱して、例えばプラズマCVD法により形成する。概ね600℃未満となるように基板を加熱することで形成される低温SiN層は、シリコンに対して圧縮応力を及ぼす。
続いて、低温SiN層にフォトレジスト等をパターニングしてからエッチングを施すことで、図20に示すように低温SiN122を形成する。即ち、本来低温SiN122といて残したい部分以外の低温SiN層を除却する。ここでは、上述の高温SiN層の除却に用いられたエッチングとは異なる種類のエッチングを行う。例えば、熱リン酸等を用いたウェットエッチングにより高温SiN層が除却されていれば、例えばCF4と酸素との混合ガスやSF6ガス等を用いたプラズマエッチングにより低温SiN層の除却が行われることが好ましい。或いは、例えばCF4と酸素との混合ガスやSF6ガス等を用いたプラズマエッチングにより高温SiN層が除却されていれば、例えば熱リン酸等を用いたウェットエッチングによりにより低温SiN層の除却が行われることが好ましい。
続いて、図21に示すように、天板140を接合する。このとき、ダイヤモンドチップ110等に電流を供給するための電極や配線を形成してもよい。係る電極や配線は、例えばアルミニウムや白金等或いはこれらの各種合金を用いて、例えば蒸着法等により形成してもよい。
その後、基盤層62の底面側からエッチングを行い、基盤層62と絶縁層63とを除去する。具体的には、例えばICP−RIEにより、基盤層62に対してエッチングを行い、基盤層62を除去する。続いて、バッファードフッ酸(BHF)により、絶縁層63に対してエッチングを行うことで絶縁層63を除去し、その後、超臨界乾燥法(Supercritical drying)により全体を乾燥させる。
この基盤層62と絶縁層63との除却と同時に或いはその後に、支持部材130のうち高温SiN121が形成されている部分は、誘電体記録媒体に対向する側とは反対の側に向かって湾曲し、他方支持部材130のうち低温SiN122が形成されている部分は、誘電体記録媒体に対向する側に向かって湾曲する。これにより、本実施例に係るプローブを製造することができる。
特に、本実施例に係る製造方法によれば、高温SiNと低温SiNとを支持部材130の上に形成している。従って、図17から図20における各工程を1つの装置(チャンバー)により行うことが可能となる。従って、引張応力を有する部材と圧縮応力を有する部材との夫々を形成するために複数種類の装置を用いる必要がなく、比較的容易に且つ安価に本実施例に係るプローブを製造することができる。
尚、高温SiN121及び低温SiN122を形成する際の温度は、チャンバーに供給するガスの流量や種類等に応じて適宜変更するように構成してもよい。要は、支持部材130に対して引張応力又は圧縮応力を有するSiNを形成することができれば、その形成時の温度は、上述の如く600℃以上又は600℃未満に限定されない。
(2)記録再生装置の実施例
続いて、図22から図25を参照して、上述した本実施例に係るプローブを用いた記録再生装置について説明する。
(i)基本構成
先ず、本実施例に係る誘電体記録再生装置の基本構成について、図22を参照して説明する。ここに、図22は、本実施例に係る誘電体記録再生装置の基本構成を概念的に示すブロック図である。
誘電体記録再生装置1は、ダイヤモンドチップ110の先端部が誘電体記録媒体20の誘電体材料17に対向して電界を印加するプローブ100と、プローブ100(具体的には、プローブ100が備える夫々のプローブヘッド101)から印加された信号再生用の高周波電界が戻るリターン電極12と、プローブヘッド101とリターン電極12の間に設けられるインダクタLと、インダクタLとプローブヘッド101の直下の誘電体材料17に形成される、記録情報に対応して分極した部位の容量Csとで決まる共振周波数で発振する発振器13と、誘電体材料17に記録された分極状態を検出するための交番電界を印加するための交流信号発生器21と、誘電体材料に分極状態を記録する記録信号発生器22と、交流信号発生器21及び記録信号発生器22の出力を切り替えるスイッチ23と、HPF(High Pass Filter)24と、プローブヘッド101の直下の誘電体材料17が有する分極状態に対応した容量で変調されるFM信号を復調する復調器30と、復調された信号からデータを検出する信号検出部34と、復調された信号からトラッキングエラー信号を検出するトラッキングエラー検出部35等を備えて構成される。
尚、図22では、図の簡略化のために、複数のプローブヘッド101のうち1つのプローブヘッド101を抽出してその構成を記載している。
プローブ100は、上述した本実施例に係るプローブ100や100e等において示した形状を有する複数のプローブヘッド101を備えている。そして、プローブ100が備える複数のプローブヘッド101はHPF24を介して発振器13と接続され、またHPF24及びスイッチ23を介して交流信号発生器21及び記録信号発生器22と接続される。そして、誘電体材料17に電界を印加する電極として機能する。尚、プローブヘッド101として、例えば図1等に示すような針状のものや或いはカンチレバー状等のものが具体的な形状として知られる。
尚、本実施例においては、プローブヘッド101は複数備える構造であっても一つだけ備える構造であってもよい。但し、プローブヘッド101を複数備える場合には、交流信号発生器21は、夫々のプローブヘッド101に対応して複数設けることが好ましい。また、信号検出部34において夫々の交流信号発生器21に対応する再生信号を弁別可能なように、信号検出部34を複数備え、且つ夫々の信号検出部34は、夫々の交流信号発生器21より参照信号を取得することで、対応する再生信号を出力するように構成することが好ましい。
リターン電極12は、プローブヘッド101から誘電体材料17に印加される高周波電界(即ち、発信器13からの共振電界)が戻る電極であって、プローブヘッド101を取り巻くように設けられている。尚、高周波電界が抵抗なくリターン電極12に戻るものであれば、その形状や配置は任意に設定が可能である。
インダクタLは、プローブヘッド101とリターン電極12との間に設けられていて、例えばマイクロストリップラインで形成される。インダクタLと容量Csとを含んで共振回路14が構成される。この共振周波数が例えば1GHz程度を中心とした値になるようにインダクタLのインダクタンスが決定される。
発振器13は、インダクタLと容量Csとで決定される共振周波数で発振する発振器である。その発振周波数は容量Csの変化に対応して変化するものであり、従って記録されているデータに対応した分極領域によって決定される容量Csの変化に対応してFM変調が行われる。このFM変調を復調することで、誘電体記録媒体20に記録されているデータを読み取ることができる。
尚、後に詳述するように、プローブヘッド101、リターン電極12、発振器13、インダクタL、HPF24及び誘電体材料17中の容量Csから共振回路14が構成され、発信器13において増幅されたFM信号が復調器30へ出力される。
交流信号発生器21は、リターン電極12と電極16との間に交番電界を印加する。また、複数のプローブヘッド101を備えている誘電体記録再生装置においては、この周波数を参照信号として同期を取り、プローブヘッド101で検出する信号を弁別する。その周波数は5kHz程度を中心としたものであり、誘電体材料17の微小領域に交番電界を印加することになる。
記録信号発生器22は、記録用の信号を発生し、記録時にプローブヘッド101に供給される。この信号はデジタル信号に限らずアナログ信号であってもよい。これらの信号として、音声情報、映像情報、コンピュータ用デジタルデータ等、各種の信号が含まれる。また、記録信号に重畳された交流信号は信号再生時の参照信号として各探針の情報を弁別して再生するためである。
スイッチ23は、再生時、交流信号発生器21からの信号を、一方、記録時は記録信号発生器22からの信号をプローブヘッド101に供給するようにその出力を選択する。この装置は機械式のリレーや半導体の回路が用いられるが、アナログ信号にはリレーが、デジタル信号には半導体回路で構成するのが好適である。
HPF24は、インダクタ及びコンデンサを含んでなり、交流信号発生器21や記録信号発生器22からの信号が発振器13の発振に干渉しないように信号系統を遮断するためのハイパスフィルタを構成するために用いられていて、その遮断周波数はf=1/2π√{LC}である。ここで、LはHPF24に含まれるインダクタのインダクタンス、CはHPF24に含まれるコンデンサのキャパシタンスとする。交流信号の周波数は5KHz程度であり、発振器13の発振周波数は1GHz程度であるので、1次のLCフィルタで分離は十分に行われる。さらに次数の高いフィルタを用いてもよいが素子数が多くなるので装置が大きくなる虞がある。
復調器30は、容量Csの微小変化に起因してFM変調された発振器13の発振周波数を復調し、プローブヘッド101がトレースした部位の分極された状態に対応した波形を復元する。記録されているデータがデジタルの「0」と「1」のデータであれば、変調される周波数は2種類であり、その周波数を判別することで容易にデータの再生が行われる。
信号検出部34は、復調器30で復調された信号から記録されたデータを再生する。この信号検出器34として例えばロックインアンプを用い、交流信号発生器21の交番電界の周波数に基づいて同期検波を行うことでデータの再生を行う。尚、他の位相検波手段を用いてもよいことは当然である。
トラッキングエラー検出部35は、復調器30で復調された信号から、装置を制御するためのトラッキングエラー信号を検出する。検出したトラッキングエラー信号がトラッキング機構に入力されて制御がなされる。
続いて、図22に示す誘電体記録媒体20の一例について、図23を参照して説明する。ここに、図23は、本実施例において用いられる誘電体記録媒体20の一例を概念的に示す平面図及び断面図である。
図23(a)に示すように、誘電体記録媒体20は、ディスク形態の誘電体記録媒体であって、例えばセンターホール10と、センターホール10と同心円状に内側から内周エリア7、記録エリア8、外周エリア9を備えている。センターホール10はスピンドルモータに装着する場合等に用いられる。
記録エリア8はデータを記録する領域であって、トラックやトラック間のスペースを有し、また、トラックやスペースには記録再生にかかわる制御情報を記録するエリアが設けられている。また、内周エリア7及び外周エリア8は誘電体記録媒体20の内周位置及び外周位置を認識するために用いられると共に、記録するデータに関する情報、例えばタイトルやそのアドレス、記録時間、記録容量等を記録する領域としても使用可能である。尚、上述した構成はその一例であって、カード形態等、他の構成を採ることも可能である。
また、図23(b)に示すように誘電体記録媒体20は、基板15の上に電極16が、また、電極16の上に誘電体材料17が積層されて形成されている。
基板15は例えばSi(シリコン)であり、その強固さと化学的安定性、加工性等において好適な材料である。電極16はプローブヘッド101(或いは、リターン電極12)との間で電界を発生させるためのもので、誘電体材料17に抗電界以上の電界を印加することで分極方向を決定する。データに対応して分極方向を定めることにより記録が行われる。
誘電体材料17は、例えば強誘電体であるLiTaO3等を電極16の上にスパッタリング等の公知の技術によって形成されている。そして、分極の+面と−面が180度のドメインの関係であるLiTaO3のZ面に対して記録が行われる。他の誘電体材料を用いても良いことは当然である。この誘電体材料17は直流のバイアス電圧と同時に加わるデータ用の電圧によって、高速で微小な分極を形成する。
又、誘電体記録媒体20の形状として、例えばディスク形態やカード形態等がある。プローブヘッド101との相対的な位置の移動は媒体の回転によって行われ、或いはプローブヘッド101と媒体のいずれか一方が直線的に移動して行われる。
(ii)動作原理
続いて、図24及び図25を参照して、本実施例に係る誘電体記録再生装置1の動作原理について説明する。尚、以下の説明では、図22に示した誘電体記録再生装置1のうち一部の構成要素を抜き出して説明している。
(記録動作)
先ず、図24を参照して、本実施例に係る誘電体記録再生装置の記録動作について説明する。ここに、図24は、情報の記録動作を概念的に示す断面図である。
図24に示すように、プローブヘッド101と電極16との間に誘電体材料17の抗電界以上の電界を印加することで、印加電界の方向に対応した方向を有して誘電体材料は分極する。そして、印加する電圧を制御し、この分極の方向を変えることで所定の情報を記録することができる。これは、誘電体(特に、強誘電体)にその抗電界を超える電界を印加すると分極方向が反転し、且つその分極方向が状態で維持されるという性質を利用したものである。
例えばプローブヘッド101から電極16に向かう電界が印加されたとき、微小領域は下向きの分極Pとなり、電極16からプローブヘッド101に向かう電界が印加されたときは上向きの分極Pとなるとする。これが情報を記録した状態に対応する。プローブヘッド101が矢印で示す方向に操作されると、検出電圧は分極Pに対応して、上下に振れた矩形波として出力される。尚、分極Pの分極程度によりこのレベルは変化し、アナログ信号としての記録も可能である。
本実施例では特に、上述した本実施例に係るプローブ100等をプローブとして用いるため、複数のプローブヘッドの夫々のダイヤモンドチップ110を記録面に対して同時に接触させることができると共に、夫々のダイヤモンドチップ110の先端を誘電体記録媒体20の記録面に対して概ね垂直方向に接触させることが可能となる。
(再生動作)
続いて、図25を参照して、本実施例に係る誘電体記録再生装置1の再生動作について説明する。ここに、図25は、情報の再生動作を概念的に示す断面図である。
誘電体の非線形誘電率は、誘電体の分極方向に対応して変化する。そして、誘電体の非線形誘電率は、誘電体に電界を印加した時に、誘電体の容量の違いないし容量の変化の違いとして検出することができる。従って、誘電体材料に電界を印加し、そのときの誘電体材料の一定の微小領域における容量Csの違いないし容量Csの変化の違いを検出することにより、誘電体材料の分極の方向として記録されたデータを読み取り、再生することが可能となる。
具体的にはまず、図25に示すように、不図示の交流信号発生器21からの交番電界が電極16及びプローブヘッド101の間に印加される。この交番電界は、誘電体材料17の抗電界を越えない程度の電界強度を有し、例えば5kHz程度の周波数を有する。交番電界は、主として、誘電体材料17の分極方向に対応する容量変化の違いの識別を可能にするために生成される。尚、交番電界に代えて、直流バイアス電圧を印加して、誘電体材料17内に電界を形成してもよい。係る交番電界が印加されると誘電体記録媒体20の誘電体材料17内に電界が生ずる。
次に、プローブヘッド101の先端と記録面との距離がナノオーダの極めて小さい距離となるまで、プローブヘッド101を記録面に接近させる。この状態で発振器13を駆動する。尚、プローブヘッド101直下の誘電体材料17の容量Csを高精度に検出するためには、プローブヘッド101を誘電体材料17の表面、即ち、記録面に接触させることが好ましい。しかし、誘電体材料17に記録されたデータを高速に読み取るためには、プローブヘッド101を誘電体記録媒体20上において高速に相対移動させる必要がある。このため、係る高速移動の実現性、プローブヘッド101と誘電体記録媒体20との衝突・摩擦による破損の防止等を考慮すると、プローブヘッド101を記録面に接触させるよりも、実質的には接触と同視できる程度に、プローブヘッド101を記録面に接近させる方がよい。
そして、発振器13は、プローブヘッド101直下の誘電体材料17に係る容量CsとインダクタLとを構成要因として含む共振回路の共振周波数で発振する。この共振周波数は、上述のとおりその中心周波数をおおよそ1GHz程度とする。
ここで、リターン電極12及びプローブヘッド101は、発振器13による発振回路14の一部を構成している。プローブヘッド101から誘電体材料17に印加された1GHz程度の高周波信号は、図25中点線の矢印にて示すように、誘電体材料17内を通過してリターン電極12に戻る。リターン電極12をプローブヘッド101の近傍に設け、発振器13を含む発振回路の帰還経路を短くすることにより、発振回路内にノイズ(例えば、浮遊容量成分)が入り込むのを軽減することができる。
付言すると、誘電体材料17の非線形誘電率に対応する容量Csの変化は微小であり、これを検出するためには、高い検出精度を有する検出方法を採用する必要がある。FM変調を用いた検出方法は、一般に高い検出精度を得ることができるが、誘電体材料17の非線形誘電率に対応する微小な容量変化の検出を可能とするために、さらに検出精度を高める必要がある。そこで、本実施例に係る誘電体記録再生装置1(即ち、SNDM原理を用いた記録再生装置)は、リターン電極12をプローブヘッド101の近傍に配置し、発振回路の帰還経路をできる限り短くしている。これにより、極めて高い検出精度を得ることができ、誘電体の非線形誘電率に対応する微小な容量変化を検出することが可能となる。
発振器13の駆動後、プローブヘッド101を誘電体記録媒体20上において記録面と平行な方向に移動させる。すると移動によって、プローブヘッド101直下の誘電体材料17のドメインが変わり、その分極方向が変わるたびに、容量Csが変化する。容量Csが変化すると、共振周波数、即ち、発振器13の発振周波数が変化する。この結果、発振器13は、容量Csの変化に基づいてFM変調された信号を出力する。
このFM信号は、復調器30によって周波数−電圧変換される。この結果、容量Csの変化は、電圧の大きさに変換される。容量Csの変化は、誘電体材料17の非線形誘電率に対応し、この非線形誘電率は、誘電体材料17の分極方向に対応し、この分極方向は、誘電体材料17に記録されたデータに対応する。従って、復調器30から得られる信号は、誘電体記録媒体20に記録されたデータに対応して電圧が変化する信号となる。更に、復調器30から得られた信号は、信号検出部34に供給され、例えば同期検波されることで、誘電体記録媒体20に記録されたデータが抽出される。
このとき、信号検出部34では、交流信号発生器21により生成された交流信号が参照信号として用いられる。これにより、例えば復調器30から得られる信号がノイズを多く含んでおり、又は抽出すべきデータが微弱であっても、後述の如く参照信号と同期をとることで当該データを高精度に抽出することが可能となる。
本実施例では特に、上述した本実施例に係るプローブ100等をプローブヘッド101として用いるため、複数のプローブヘッドの夫々のダイヤモンドチップ110を記録面に対して同時に接触させることができると共に、夫々のダイヤモンドチップ110の先端を誘電体記録媒体20の記録面に対して概ね垂直方向に接触させることが可能となる。
尚、上述の実施例では、誘電体材料17を記録層に用いているが、非線形誘電率や自発分極の有無という観点からは、該誘電体材料17は、強誘電体であることが好ましい。
また、上述の実施例では、プローブ100を誘電体記録媒体に用いる例について説明したが、プローブ100の利用法はこれに限られず、例えば各種記録媒体にデータを記録したり或いは各種記録媒体に記録されているデータを再生する記録再生装置や、或いはAFM等の各種顕微鏡にも用いることが可能である。
また、本発明は、請求の範囲及び明細書全体から読み取るこのできる発明の要旨又は思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うプローブ、並びに記録装置及び再生装置もまた本発明の技術思想に含まれる。