JP4331917B2 - 部分的脱硫酸化n−アセチルラクトサミンオリゴ糖の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガラクトース残基の第1級ヒドロキシル基に結合している硫酸基のみが選択的に脱離された部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
N−アセチルラクトサミン構造を骨格として有するオリゴ糖及びその誘導体は、新規な薬剤の開発や、生体内の生理活性に関する研究において重要な役割を果たすことが期待されている。その中でも、ガラクトースの第1級ヒドロキシル基に結合している硫酸基のみが選択的に脱離された部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖(Galβ1→4GlcNAc(6S);式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、(6S)は6位ヒドロキシル基が硫酸化されていることを、β1→4はβ1,4−グリコシド結合をそれぞれ示す。)は、変形性膝関節症(以下、OAという)患者の症状の重篤度の上昇に伴い、患者の関節液中の含量が低下することが報告されており、その診断の指標となることが示唆されている(Yamada et al., J. Reumatol., 27, 1721-1724 (2000))。従って上記のような部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖は上記疾患の診断の際、標準標品として有用である。さらには、特定の体液中の部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖の含量が低下している疾患の患者に対してそのような部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖を投与することにより該疾患の治療的効果を得ることも期待される。
【0003】
部分的に脱硫酸化された硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖の製造方法としては、ケラタン硫酸の硫酸基含量を調整した後、ケラタン硫酸分解酵素を作用させる方法(国際公開公報 WO98/03524)やラクトサミンオリゴ糖にスルホトランスフェラーゼを作用させて、ヒドロキシル基を硫酸化する方法(特開平9−263595)などが知られている。
【0004】
また、硫酸化糖の脱硫酸化方法としては、塩化水素/メタノール中で硫酸化糖を処理して脱硫酸化する方法(Kantor T.G. and Schubert M., J. Amer. Chem. Soc. Vol.79, p.152 (1957)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)又はピリジン等の非プロトン性溶媒中(Usov A. et al., Carbohydr. Res., Vol.18, p.336 (1971))又は少量の水又はメタノールを含むDMSO中(Nagasawa K. et al., Carbohydr. Res., Vol.58, p.47 (1977), Nagasawa K.et al. J. Biochem., Vol. 86, p.1323(1979))でソルボリシスによって硫酸基を脱離させる方法が知られている。
【0005】
さらに、硫酸化糖の第1級ヒドロキシル基に結合した硫酸基をシリル化剤を用いて選択的に脱硫酸する方法としては、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(BTSA)を用いる方法(特開平5−230090)やN−メチル−N−トリメチルシリルトリフルオロアセタミド(MTSTFA)等を用いる方法(国際公開公報 WO 96/01278)などが知られている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記のとおり、ガラクトースの第1級ヒドロキシル基に結合している硫酸基のみが選択的に脱離された部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖はOAの診断や特定の疾患の治療において重要な役割を果たすことが期待されており、安定な供給が望まれる。このような部分的に脱硫酸化された硫酸化ラクトサミンオリゴ糖は角膜由来ケラタン硫酸より製造することは可能であるが、原料が多量には存在しないことから現実的な方法ではない。
【0007】
また、従来の硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖を化学的に脱硫酸化する製造法では、N−アセチルラクトサミン構造の構成糖であるN−アセチルグルコサミンの第1級ヒドロキシル基に結合した硫酸基までもが脱離され、ガラクトースの第1級ヒドロキシル基に結合している硫酸基のみを選択的に脱離することはできなかった。
【0008】
上記文献に記載された塩化水素/メタノール溶液を用いた脱硫酸化方法は、構成糖に結合する全ての硫酸基を完全に脱離させることを意図するものであり、選択的脱硫酸化については何ら触れられておらず、また硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖を脱硫酸化することにも触れられていない。また、特開平5−230090やWO 96/01278などのシリル化剤を用いる方法ではN−アセチルグルコサミンの第1級ヒドロキシル基に結合している硫酸基のみが選択的に脱離され、ガラクトースの第1級ヒドロキシル基に結合している硫酸基のみを選択的に脱離することはできなかった。
【0009】
従って本発明は、ガラクトース残基に結合した硫酸基のみが選択的に脱離した部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖を安価に効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ガラクトース残基及びN−アセチルグルコサミン残基の第1級ヒドロキシル基が全て硫酸化された硫酸化N−アセチルラクトサミン単位を少なくとも1つ含む硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖を、無機酸およびアルコールを用いて処理して脱硫酸化することにより、ガラクトース残基に結合した硫酸基のみが選択的に脱硫酸化(脱離)された部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、ガラクトース残基及びN−アセチルグルコサミン残基の第1級ヒドロキシル基が全て硫酸化された硫酸化N−アセチルラクトサミン単位を少なくとも1つ含む硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖を、無機酸およびアルコールを用いて処理し、N−アセチルグルコサミン残基に結合した硫酸基を脱離させることなく、ガラクトース残基に結合した硫酸基を選択的に脱離させることを特徴とする部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖の製造方法を提供する。
【0012】
上記本発明の方法においては、無機酸は好ましくは塩酸およびトリフルオロ酢酸(TFA)から選択され、アルコールは好ましくはメタノールおよびエタノールから選択される。
【0013】
また上記本発明の方法においては、好ましくは、前記硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖を、無機酸およびアルコールを用いて室温で0.5〜4時間処理することにより脱硫酸化する。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の方法で用いることができるガラクトース残基及びN−アセチルグルコサミン残基の第1級ヒドロキシル基が全て硫酸化された硫酸化N−アセチルラクトサミン(以下、「完全硫酸化N−アセチルラクトサミン」という)単位を少なくとも1つ含む硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖(以下、「完全硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖」という)の由来は特に限定されず、天然物から抽出・精製したもの、化学的合成により製造したもの、化学的分解により製造したもの、糖分解酵素を用いて製造したもの、糖転移酵素を用いて製造したもの等、いずれの方法により得た完全硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖をも用いることができる。
【0016】
例えば、糖分解酵素を用いて製造する場合、具体的には硫酸化度の高いケラタン硫酸、好ましくはサメなどの軟骨魚類、クジラ、ウシなどの哺乳動物の軟骨、骨や角膜等から得ることができるケラタン硫酸、より好ましくは軟骨魚類由来のケラタン硫酸を、エンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ型ケラタン分解酵素、例えば、バチルス属細菌由来ケラタナーゼII(特開平2−57182号公報)、またはバチルス・サーキュランスKsT202株由来のケラタン硫酸分解酵素(国際公開第WO96/16166)によって分解することにより、本発明の方法で用いることができる完全硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖を製造することができる。
【0017】
なお、本発明で用いる完全硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖は、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン単位を1つ含むオリゴ糖または完全硫酸化N−アセチルラクトサミン単位の繰り返し構造を2以上有するオリゴ糖であり、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン単位の繰り返し構造を2以上有するオリゴ糖の場合、好ましくは完全硫酸化N−アセチルラクトサミン単位を2〜3単位、より好ましくは2単位有するオリゴ糖である。本発明で用いる完全硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖として具体的には、例えばそれぞれ下記一般式(1)及び(2)で表される完全硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖及び完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖が好ましい。
Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)…(1)
Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)…(2)
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、(6S)は6位ヒドロキシル基が硫酸化されていることを、β1→4はβ1,4−グリコシド結合を、β1→3はβ1,3−グリコシド結合をそれぞれ示す。)
【0018】
完全硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖に作用させる無機酸としては本発明の目的を達成できる限り限定されるものではないが、塩酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられ、塩酸が特に好ましい。アルコールとしては同様に限定されるものではないが、メタノール、エタノール等が挙げられ、メタノールが特に好ましい。またこのようなアルコールとしては無水アルコールを使用することが好ましい。本発明において「無機酸およびアルコールを用いて処理する」とは、無機酸のアルコール溶液中で対象となる完全硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖を反応させることをいう。
【0019】
また、反応条件はガラクトース残基に結合している硫酸基のみが脱離される条件である限りにおいては特に限定されないが、アルコール中の無機酸の濃度は、通常には80 mM〜200 mM、好ましくは90 mM〜150 mM、さらに好ましくは95 mM〜110 mM、もっとも好ましくは100 mM程度である。
【0020】
完全硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖に対する無機酸のアルコール溶液の量も特に限定されないが、完全硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖の凍結乾燥パウダーに対して、通常は50〜2,000倍量(V/W)、好ましくは100〜1000倍量(V/W)、特に好ましくは200〜800倍量(V/W)の無機酸のアルコール溶液を使用する。
【0021】
この時の反応温度は、特に限定されないが、室温付近であることが好ましく、約20℃で反応を行うことがより好ましい。反応時間は対象とするオリゴ糖の糖残基数により調節することが好ましいが、一般的には20分〜4.5時間程度の反応時間が好ましく、完全硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖が上記(1)である場合は好ましくは1.5〜4.5時間、より好ましくは2〜4時間程度であり、上記(2)である場合は好ましくは20分〜1.5時間、より好ましくは0.5〜1時間程度である。目的物質が得られた時点で、水酸化ナトリウム等を反応混液に添加することにより反応を停止することができる。
【0022】
反応液から部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖を回収するためには、通常の糖鎖の分離、精製の手法を用いることができる。例えば、吸着クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過法、ゲル浸透クロマトグラフィー、濾紙電気永動法、濾紙クロマトグラフィー、有機溶媒(例えばアルコール、アセトン等が好ましい)による分画、あるいはこれらの組み合わせ等の操作により行うことができるが、これらに限定されるものではない。例えば、本発明の方法で製造した部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖を含む反応液中の食塩(NaCl)濃度が0.2 M程度となるように調整し、カラムクロマトグラフィーにアプライして非吸着部分を除去し、NaClの濃度勾配で溶出させることにより部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖を回収することもできる。
【0023】
【実施例】
次に、以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
[参考例] 完全硫酸化N―アセチルラクトサミンオリゴ糖の調製
0.05%アジ化ナトリウムを含む50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH 6.5)2Lに、ケラタン硫酸(サメ軟骨由来;Roden, L. et. al., Methods Engymol., Vol. 28, P110(1972)の方法に従って精製)12g及び10UのケラタナーゼII(生化学工業(株)製)を溶解した後、37℃にて撹拌下24時間酵素消化反応を進行させた。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて反応混液を100mlまで濃縮し、エタノール(EtOH)を75%濃度(V/V)となるように添加して上清を回収した。生成した沈殿に対し蒸留水100mlを加えて溶解した後、EtOHを67%濃度(V/V)まで添加して再度上清を回収した。
【0025】
得られた75%及び67%EtOH上清画分を合一した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、0.5M塩化ナトリウムで平衡化したセルロファインGCL-90mカラム(φ3.5 x 110cm;生化学工業(株)販売)にアプライした。溶出は0.5M塩化ナトリウムで行い、9mlごとに分画した。各画分の中性糖含量をアンスロン法(Tsiganos & Muir, Anal. Biochem., 17, 495-501 (1966))により測定することにより、オリゴ糖の溶出位置を確認した。さらにゲル濾過HPLCによって完全硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖及び完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖の溶出位置を確認した。
【0026】
完全硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖及び完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖を含む画分をそれぞれ合一した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、蒸留水で平衡化したセルロファインGCL-25sfカラム(φ4.5 x 67cm;生化学工業(株)販売)にそれぞれアプライした。溶出は蒸留水で行い、上記と同様にアンスロン法及びゲル濾過HPLC法により完全硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖及び完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖の溶出位置を確認した後、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖及び完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖を含む画分をそれぞれ合一した。合一した両画分をそれぞれ凍結乾燥することにより精製標品(凍結乾燥パウダー)を得た。
【0027】
こうして得られた完全硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖及び完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖は、下記実施例1および実験例2におけるキャピラリー電気泳動パターン及び完全脱硫酸化体のFAB-MSやメチル化分析の結果から、それぞれ、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖(以下、Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)ともいう)及び完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖(以下、Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)ともいう)に相当することが確認された。
【0028】
[実施例1] 脱硫酸化反応の条件検討
参考例で得られたGal(6S)β1→4GlcNAc(6S)及びGal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)の凍結乾燥パウダーを出発物質として用いた。各々の凍結乾燥パウダー5mgに対して5ml[1000倍量(V/W)]の無水メタノール中の100mMの塩酸溶液(以下、無水メタノール中の塩酸溶液をHCl/MeOHと表記する)を添加した後、約20℃にて撹拌下で反応を進行させた。なお、100mMという塩酸の濃度条件は、実験例1における検討から至適条件であることが見い出された条件である。
【0029】
各反応液から反応開始後15、30分及び1、2、4、8、16時間に500μlを抜き取り、0.2M水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を適量添加して中和し、反応を停止した。次いで、ロータリーエバポレーターによりメタノール(MeOH)を除去した後、乾固物を1mlの蒸留水に溶解して試料溶液とした。
【0030】
この溶液を、ポジティヴモードにてキャピラリー電気泳動に付し(pH 9.5)、出現するピークの消長から硫酸基の脱離を定性的かつ定量的に測定した。
【0031】
完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖(Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S))を出発物質として用いた場合の結果を図1および図2に示す。図示したように、出発物質のGal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)の泳動時間が最も長く、脱硫酸化の度合いが高まる(硫酸基の脱離が1個、2個、3個、4個と進む)に従って泳動時間は段階的に短くなった。この傾向は完全硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖(Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S))を使用した場合も同様であった(データは示していない)。出現した各ピークの面積を測定して次に説明する図3の作成用データとした。
【0032】
図3に、上記で得たピーク面積に基づいて求めたGal(6S)β1→4GlcNAc(6S)及びGal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)をそれぞれメタノール塩酸溶液中で反応したときの反応生成物量の経時変化を示す。
【0033】
図3に示されるとおり、Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)を出発物質とした場合、2時間で未反応物(出発物質)がほぼ消失し、トリ硫酸化四糖(完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖のガラクトース1残基の硫酸基が脱離したもの)は30分に、ジ硫酸化四糖(完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖のガラクトース2残基の硫酸基が脱離したもの)は1時間に、モノ硫酸化四糖(完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖の3残基の硫酸基が脱離したもの)は4時間にそれぞれピークを示した。一方、完全脱硫酸化体であるN−アセチルラクトサミン四糖(Galβ1→4GlcNAcβ1→3Galβ1→4GlcNAc)と目される画分は16時間まで連続的に増加し(図示せず)最大値を示した。
【0034】
Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)を出発物質とした場合も同様の傾向を示し、4時間で未反応物(出発物質)がほぼ消失した。モノ硫酸化二糖(完全硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖のガラクトース残基の硫酸基が脱離したもの)は2時間にピークを示し、完全脱硫酸化体であるGalβ1→4GlcNAcと目される画分は16時間まで連続的に増加し(図示せず)最大値を示した。
【0035】
[実施例2] 完全硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖のモノ脱硫酸化体の調製
本実施例においては、反応スケールを大きくして完全硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖のモノ脱硫酸化体の調製を試みた。
【0036】
2種の完全硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖(Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)及びGal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S))を出発物質として用い、実施例1の結果に基づいて決定した反応条件を使用してスケールアップすることによりガラクトース1残基に結合した硫酸基を脱離させ、モノ硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖及びトリ硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖の調製を行った。
【0037】
すなわち、各5gのGal(6S)β1→4GlcNAc(6S)及びGal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)に対し、500ml[100倍量(V/W)]の100mM HCl/MeOHを添加した後、約20℃にて撹拌下で脱硫酸化反応を進行させた。なお、実施例1の結果では、前者の反応では2時間、後者の反応では30分において、モノ硫酸化二糖及びトリ硫酸化四糖がそれぞれ最大量生成することが判明しているが、本実施例では、1000倍スケールアップによる撹拌効率の低下に起因する反応の遅れを考慮し、Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)及びGal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)を使用する場合の反応時間をそれぞれ、4時間及び1時間とした。
【0038】
このように設定した反応時間が経過した後、0.2M NaOHを各反応混液に適量添加して中和することにより反応を停止した。次いで、ロータリーエバポレーターによりMeOHを除去した後、乾固物を500mlの蒸留水に溶解し、再度ロータリーエバポレーターによる減圧濃縮を行った。得られた濃縮液(75ml)に適量の蒸留水を添加して250mlとした。この操作は、この溶液のNaCl濃度を0.2Mに調整するためのものである。
【0039】
こうして得られた部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖及び部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖を含む溶液を、それぞれ0.2M NaClにより平衡化したBioRad AG1x4カラム(φ3.0 x 25cm;バイオラド社製)にアプライした。溶出は0.5M NaClを1L流して洗浄した後、それぞれ前者については0.5M NaCl(0.9L)と1.25M NaCl(0.9L)を用いた直線的濃度勾配により、後者については0.5M NaCl(1.5L)と2.5M NaCl(1.5L)を用いた直線的濃度勾配により、それぞれ16mlごとに分画した。両者に対するクロマトグラフィーで得られた各画分をフォトメトリー法(210nm)及びアンスロン法により測定することにより、各オリゴ糖の溶出位置を確認した(図4、5)。すなわち、部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖混合物の溶出パターン(図4)においては、3本のピーク(I〜III)が認められたのに対し、部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖混合物の溶出パターン(図5)においては、5本のピークと一つの谷(I〜VI)が認められた。
【0040】
さらに、各オリゴ糖のピーク画分あるいは谷画分につきキャピラリー電気泳動法によってピーク画分あるいは谷画分を構成する部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖を含む反応産物の組成及び部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖を含む反応産物の組成をそれぞれ確認した(図6、7、8)。このようにして確認された、モノ硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖(図4のII)及びトリ硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖(図5のV)を含む画分をそれぞれ合一した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、蒸留水で平衡化したセルロファインGCL-25sfカラム(φ4.5 x 67cm;生化学工業(株)販売)にそれぞれアプライした。溶出は蒸留水で行い、アンスロン法及びキャピラリー電気泳動法によってモノ硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖及びトリ硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖の溶出位置の確認後、モノ硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖及びトリ硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖を含む脱塩画分をそれぞれ合一した。両合一画分をそれぞれ凍結乾燥することにより精製標品を得た。その結果、前者の収量は 1.31g、後者の収量は 1.66gであった。
【0041】
なお、これらの生成物がそれぞれ前者についてはGalβ1→4GlcNAc(6S)であること、及び後者についてはGalβ1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)とGal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Galβ1→4GlcNAc(6S)との等量混合物であることが後記実施例3の脱硫酸化部位の解析により判明した。
【0042】
上記の結果から、反応スケールを考慮して、Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)を出発物質とした場合、ガラクトース1残基に結合している硫酸基が脱離したものは、好ましくは20分〜1.5時間、より好ましくは0.5〜1時間程度、Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)を出発物質とした場合、ガラクトース1残基に結合している硫酸基が脱離したものは、1.5〜4.5時間、より好ましくは2〜4時間程度の反応時間で効率よく製造することができると考えられた。
【0043】
[実験例1] 完全硫酸化N−アセチルラクトサミンの脱硫酸化条件の検討及び完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖の完全脱硫酸化体(対照物質)の調製
(1)完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖を様々な濃度の塩酸を含む無水メタノールで処理することにより完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖を脱硫酸化するための無水メタノール中の至適塩酸濃度を検討した。
【0044】
すなわち、塩酸濃度を2.0Mから順次1.0、0.5、0.25、0.2、0.1、0.05、0.025、及び0.0125Mまで希釈したHCl/MeOHを調製した。各10mgの上記完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖に対し2mlの上記各濃度のHCl/MeOHを添加し、室温(約20℃)にて撹拌下16時間反応させた。反応終了後、適切な濃度のNaOHを各反応液に添加して中和した後、その4μlを蒸留水で平衡化したDaisoPak ODSカラム(φ6.0 x 150mm;ダイソー社製)を装着した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にアプライした。生成した完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖の重量をピーク面積から計算し、使用した塩酸濃度に対してプロットした(図9)。
【0045】
その結果、100mM濃度において最大の生成量が得られること、ならびにそのプロファイルはベル型であることが判明した。ここで得られた濃度条件を用いて以下の実験を進めた。
【0046】
(2)4gの完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖(Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S))に対し、400ml[100倍量(V/W)]の100mM HCl/MeOHを添加した後、約20℃にて撹拌下で16時間脱硫酸化反応を進行させ、0.2M NaOHを適量添加して中和し、反応を停止した。次いで、ロータリーエバポレーターによりMeOHを除去した後、乾固物を400mlの蒸留水に溶解し、再度ロータリーエバポレーターによる減圧濃縮を行った。得られた濃縮液(50ml)を5回に分けて10mlづつ、蒸留水で平衡化したセルロファインGCL-25sfカラム(φ4.5 x 67cm;生化学工業(株)販売)にアプライした。溶出は蒸留水で行い、フォトメトリー法(210nm)、アンスロン法及びキャピラリー電気泳動法で測定することにより、完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖の溶出位置の確認後、完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖を含む脱塩画分を合一した(図10)。
【0047】
さらに、上記反応5回分の完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖を含む脱塩画分を合一した後、ロータリーエバポレーターによる減圧濃縮を行った。得られた濃縮液(8ml)を8回に分けて1mlづつ、蒸留水で平衡化したDaisoPak ODSカラム(φ2.0 x 50cm;ダイソー社製)を装着したHPLCにアプライした。なお、このカラムはオリゴ糖のアノマー体を分離することが知られている。フォトメトリー法(210nm)によって検出した、完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖の溶出パターンにおいて、6.4分と8.0分に出現した2本のピークが完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖のα及びβアノマーに相当するものと考えられたので、これらを分取した。8回分の分取画分を合一した後、その一部につき、蒸留水で平衡化したDaisoPak ODSカラム(φ6.0 x 150mm;ダイソー社製)を装着したHPLCにアプライし、精製の前後の純度を確認したところ、α及びβアノマーに相当するピークのみが分取後の溶出パターンに観察された(図11)。さらに、2連のTSKgelPWXL-2,500カラム(φ7.5 x 300mm;東ソー製)を装着したゲル濾過HPLCにアプライしたところ、示差屈折法及びフォトメトリー法の両者により、26分にシングルピークが観察された(図12)。この高度精製画分を凍結乾燥したところ、収量は 1.96gであった。
【0048】
上記の結果より、完全硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖が完全に脱硫酸化される塩酸濃度は100 mM程度が最も好ましく、通常には80 mM〜200 mM、好ましくは90 mM〜150 mM、さらに好ましくは95 mM〜110 mMの濃度で効率よく脱硫酸化を行うことができると考えられた。なお、実施例1や実施例2で用いた塩酸濃度の100mMは上記に基づき設定したものである。
【0049】
[実験例2] 完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖の完全脱硫酸化体(対照物質)の性状解析
まず、実験例1で調製した完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖の化学組成分析を行った。実験例1で調製した完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖の12mgに対し、蒸留水を添加して2000μlにメスアップしたものを試料溶液として用い、完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖のGal、GlcNAc及び硫酸基の各含量を、それぞれアンスロン法、MBTH法[Hurst & Settine Anal. Biochem., 115, 88-92 (1981)]及びイオンクロマトグラフィー法により定量した。水分含量については平沼式微量水分測定器により定量した。表1にその結果を示す。
【0050】
【表1】
【0051】
12mgの上記試料中に存在する4種成分の重量の和は12.01mgと計算され、完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖が高純度であること、GalとGlcNAcが1:1のモル比で存在することが判明した。
次いで、完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖のエキソグリコシダーゼ消化による分析を行った。第一段階としてタチナタマメのβ-ガラクトシダーゼ(生化学工業(株)製)による消化[Kobata & Ginsburg, J. Biol. Chem., 247, 1525-1529 (1972)]を、第二段階として同β-N-アセチルヘキソサミニダーゼ(生化学工業(株)製)による消化[Li & Li, J. Biol. Chem., 245, 5153-5160 (1970)]を行い、得られた消化物をDaisoPak ODSカラムを装着したHPLCで分析した。図13に完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖(a)、そのβ-ガラクトシダーゼ消化物(b)、該消化物をさらにβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼで消化した消化物(c)の各逆相HPLCパターンをN−アセチルラクトサミン(LacNAc)の標準品(生化学工業(株)製)のパターン(d)と比較して示す。
図13(a)で観察される完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖の二本組のピークはβ-ガラクトシダーゼ消化により、それぞれやや早い保持時間に平行移動した(図13(b))。この間のさらに詳細な様子につき図14に示す。すなわち、図14(b)で観察されるように、不完全β-ガラクトシダーゼ消化のパターンでは、完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖の2本のピークと酵素反応産物の2本の小さいピークが互いに隣接するがはっきりと異なった位置に存在した。さらに、図13(c)ではβ-ガラクトシダーゼ及びβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼを併用して消化した結果、主成分がN−アセチルラクトサミン(LacNAc)の2本のピークと一致する保持時間に溶出されることが分かる。
【0052】
この結果、実験例1で得られた完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖は、Galβ1→4GlcNAcβ1→XGalβ1→4GlcNAc(XはGalの不特定のヒドロキシル基にグリコシド結合していることを示す)という構造を持つことが判明した。さらに不明のグリコシド結合の様式を決定するためにメチル化分析を実施した。
【0053】
Hakomori法[Hakomori, J. Biochem., (Tokyo), 55, 205-208 (1964)]に従って、完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖をメチル化した後、その一部はポジティヴモードFAB-MSによってスペクトル測定した[Scudder et al., Eur. J. Biochem., 157, 365-373 (1896)]。次いで、メチル化完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖を2M TFAで加水分解後、重水素化ホウ素ナトリウム(NaBD4)により還元した。こうして得たアルジトールを無水酢酸を用いてアセチル化することにより、部分メチル化アルジトールアセテート(PMAA)を得た。これをスペルコSP2330キャピラリーカラム(シグマアルドリッチ製)を装着したShimadzu QP2000 GC-MS(島津製作所製)に付しグリコシド結合の様式を決定した[Bjormdal et al., Angew. Chem. Internat. Edit., 9, 610-619 (1970)]。
【0054】
メチル化完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖のポジティヴモードFAB-MSのマススペクトルを図15に示す。m/z=1000.7に高強度の擬分子イオン[(M+Na)+]のシグナルが観察されたが、計算値の1000.5とよく一致していたので、メチル化する前の完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖の分子量は 748であることが確認された。また同時にメチル化反応が完全に進行していたことも判明した。完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖由来のPMAAをGC-MSに付して分析した結果を図16に示す。図中、1はT-Gal(2,3,4,6-テトラ-O-メチル-ガラクチトール)を、2は3-Gal(2,4,6-トリ-O-メチル-ガラクチトール)を、*はアーティファクトをそれぞれ示す。ピーク1及びピーク2は、それぞれT-Gal及び3-Galであることが相当するマススペクトルから明らかとなったので(データは示していない)、上記エキソグリコシダーゼ実験の結果と併せて、完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖は、Galβ1→4GlcNAcβ1→3Galβ1→4GlcNAcという構造を持つことが判明した。
【0055】
また、実施例1の完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖のキャピラリー電気泳動像の脱硫酸化に伴う経時変化から、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖には硫酸基が4個結合していたこと、及び原料であるケラタン硫酸の硫酸化部位はガラクトース残基およびN−アセチルグルコサミン残基共にC-6位に限られることから、出発物質のN−アセチルラクトサミン四糖の構造は、Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)であったことが確認された。
【0056】
[実施例3] モノ脱硫酸化体の脱硫酸化部位の特定
実施例2で調製した、モノ硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖(図4のII)及びトリ硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖(図5のV)を、Hakomori法[Hakomori, J. Biochem. (Tokyo), 55, 205-208 (1964)]に従ってメチル化した。次いで、2M TFAで加水分解後、NaBD4により還元した。こうして得たアルジトールにつき無水酢酸を用いてアセチル化することにより、部分メチル化アルジトールアセテート(PMAA)を調製した。これらをスペルコSP2330キャピラリーカラムを装着したShimadzu QP2000 GC-MSに付して分析した。図17にその結果を示す。図中、1はT-Gal(2,3,4,6-テトラ-O-メチル-ガラクチトール)を、2は3-Gal(2,4,6-トリ-O-メチル-ガラクチトール)を、3は6-Gal(2,3,4-トリ-O-メチル-ガラクチトール)を、4は3,6-Gal(2,4-ジ-O-メチル-ガラクチトール)を、*はアーティファクトをそれぞれ示す。
【0057】
図17(a)に示したモノ硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖のPMAAのクロマトグラムからは、T-Galのみが観察されたので、非還元末端には硫酸化されていないGalが存在することが示された。すなわち、1残基結合している硫酸基はもう一つの構成成分である GlcNAcのC-6位に結合していることが示された。従って、モノ硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖の構造は、Galβ1→4GlcNAc(6S)であることが判った。一方、図17(c)に示したトリ硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖のPMAAのクロマトグラムからは、T-Gal、3-Gal、6-Gal、及び3,6-Galのピークがほぼ等しい強度で観察された。この結果は、実施例2で得られたトリ硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖は、Galβ1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)とGal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Galβ1→4GlcNAc(6S)とのほぼ1:1の混合物であったことを示している。
【0058】
すなわち、本発明方法においては、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖[Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)]あるいは完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖[Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)]を出発物質としてメタノール塩酸溶液を作用させた場合、Gal残基のC-6位において速い脱硫酸化反応が起き、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖からはモノ硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖であるGalβ1→4GlcNAc(6S)が、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖からはトリ硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖であるGalβ1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)あるいはGal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Galβ1→4GlcNAc(6S)が生成することが確認された。
【0059】
【発明の効果】
本発明方法によれば、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖(Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S))あるいは完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖(Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S))等の完全硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖をメタノール塩酸溶液による脱硫酸化反応に付した場合、Gal残基のC-6位において速い脱硫酸化反応が起き、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖からはGalβ1→4GlcNAc(6S)が、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖からはGalβ1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)あるいはGal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Galβ1→4GlcNAc(6S)が生成することが見出された。
【0060】
Galβ1→4GlcNAc(6S)、Galβ1→4GlcNAc(6S)β1→3Gal(6S)β1→4GlcNAc(6S)及びGal(6S)β1→4GlcNAc(6S)β1→3Galβ1→4GlcNAc(6S)などの部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖を、天然物から分離・精製することは困難であったが、本発明方法を用いることにより、安価で大量に入手可能なサメ軟骨等に由来するケラタン硫酸から容易に製造できる完全硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖を出発材料として部分的脱硫酸化N-アセチルラクトサミンオリゴ糖を合成する目処が立った。これらの部分脱硫酸化N−アセチルラクトサミンオリゴ糖は、変形性膝関節症の診断や治療に対して資するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖のメタノール塩酸反応産物のキャピラリー電気泳動像の経時変化を示す図である。
【図2】 図2は、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖のメタノール塩酸反応産物のキャピラリー電気泳動像の経時変化を示す図である。
【図3】 図3は、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖及び二糖のメタノール塩酸反応による脱硫酸化物の生成量の経時変化を示す図である。図中、二糖についてdi-Sは完全硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖を、mono-Sはモノ硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖を、zero-Sは完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖をそれぞれ示し、四糖についてtetra-Sは完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖を、tri-Sはトリ硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖を、di-Sはジ硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖を、mono-Sはモノ硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖を、zero-Sは完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖をそれぞれ示す。
【図4】 図4は、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖のメタノール塩酸反応産物のBioRad AG1x4カラムクロマトグラフィーを示す図である。
【図5】 図5は、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖のメタノール塩酸反応産物のBioRad AG1x4カラムクロマトグラフィーを示す図である。
【図6】 図6は、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖のメタノール塩酸反応産物のBioRad AG1x4カラムクロマト画分のキャピラリー電気泳動像を示す図である。
【図7】 図7は、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖のメタノール塩酸反応産物のBioRad AG1x4カラムクロマト画分のキャピラリー電気泳動像を示す図である。
【図8】 図8は、完全硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖のメタノール塩酸反応産物のBioRad AG1x4カラムクロマト画分のキャピラリー電気泳動像を示す図である。
【図9】 図9は、メタノール塩酸反応効率の最適化に向けた塩酸濃度と反応産物生成量の関係を示す図である。
【図10】 図10は、N−アセチルラクトサミン四糖完全脱硫酸化物を含む反応混液のセルロファインGCL-25カラムクロマトグラフィーを示す図である。
【図11】 図11は、完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖のDaisoPak
ODS-HPLC分取前後のパターンを示す図である。
【図12】 図12は、完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖のGPC-HPLCパターンを示す図である。
【図13】 図13は、完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖のβ-ガラクトシダーゼ/β-N-アセチルヘキソサミニダーゼ消化物のDaisoPak ODS-HPLCパターンを示す図である。
【図14】 図14は、完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖の部分/完全β-ガラクトシダーゼ消化物のDaisoPak ODS-HPLCパターンを示す図である。
【図15】 図15は、メチル化完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖のポジティヴモードFAB-MSスペクトルを示す図である。
【図16】 図16は、完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖由来PMAAのGC-MS分析におけるクロマトグラムを示す図である。
【図17】 図17は、モノ硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖、完全脱硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖及びトリ硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖由来PMAAのGC-MS分析におけるクロマトグラムを示す図である。
Claims (1)
- ガラクトース残基及びN−アセチルグルコサミン残基の第1級ヒドロキシル基が全て硫酸化された硫酸化N−アセチルラクトサミン単位の1単位または2単位からなる硫酸化N−アセチルラクトサミン2糖または4糖を、90mMから150mMの塩酸およびメタノールを用いて室温で0.5〜4時間処理することにより、N−アセチルグルコサミン残基に結合した硫酸基を脱離させることなく、ガラクトース残基に結合した硫酸基を選択的に脱離させることを特徴とする部分的脱硫酸化N−アセチルラクトサミン2糖または4糖の製造方法。
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