JP4329421B2 - 微生物吸着用材料 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は微生物吸着用材料および該材料を用いた液体処理方法に関する
【0002】
【従来の技術】
微生物の吸着材料としては、活性炭、シリカゲル、ゼオライトなどの多孔性粒状材料、合成高分子あるいはセルロースなどの天然高分子を基材としたイオン交換体、キトサンやハイドロキシアパタイトあるいは陰イオンと陽イオンを混合することにより生じる水難溶性物質が知られている。例えば、特許文献1(特開2000−14380号公報で)はリン酸緩衝液中に塩化カルシウムを添加したときに生じるリン酸カルシウムが微生物の吸着体になり得ることが示されている。また、特許文献2(特開平9−136030号公報)ではハイドロキシアパタイトにより構成される吸着材に微生物を含む水性媒体を接触させて吸着により微生物あるいは微生物を含むタンパク質を濃縮し除去することが行われている。
【0003】
【特許文献1】
特開2000−14380号公報
【0004】
【特許文献2】
特開平9−136030号公報
【0005】
【特許文献3】
特開2000−239110号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記の従来技術による微生物吸着には次のような課題が残されている。
【0007】
一つは、微生物を選択的に吸着し溶液中から除去する材料ではないこと。そのため、血液中などの多成分の溶液中で用いるとタンパク質や細胞などの有用成分をも除去してしまう、あるいは失活させてしまう。
【0008】
また、イオン交換を利用した吸着では、イオン強度の高い溶液中では結合力が弱められてしまい、夾雑物の影響を受けやすい。また、陰イオンと陽イオンを混合させる系においては、微生物の存在する溶液中に多量の電解質を添加する必要があり、人の体内の微生物除去などには、その毒性が問題となり利用することはできない。また特許文献3(特開2000−239110号公報)に示されているピリジニウム塩基を含む有機基を有する無機微粒子は微生物凝集剤であり、人などの生物の体内での使用はその残留とそれにより生じる副作用の問題があり用いることができない。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するために、本発明は下記のような構成要素を有する。
(1)アルブミンの吸着率が10%以下であり、白血球の吸着率が30%以下であり、且つ微生物の吸着率が40%以上であり、材料の表面に水素結合形成可能な化学構造を有し且つ材料の表面が微多孔質構造であることを特徴とする微生物吸着用材料。
)微生物が連鎖球菌あるいはブドウ球菌であることを特徴とする(1)に記載の微生物吸着用材料。
)(1)または(2)に記載の微生物吸着用材料に液体を接触させることを特徴とする液体からの微生物の除去方法
)体液の浄化に用いられることを特徴とする(1)または(2)に記載の微生物吸着用材料。
)(1)または(2)に記載の微生物吸着用材料を含んでなる血液浄化カラム。
)(1)または(2)に記載の微生物吸着用材料を含んでなる創傷被覆材料。
)(1)または(2)に記載の微生物吸着用材料を含んでなる敗血症治療機器。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明における微生物吸着用材料とは、材料表面に微生物を吸着により結合し溶液中より微生物を除去することができる材料を意味する。
【0011】
本発明における微生物吸着用材料は、イオン結合ではなく、水素結合により微生物を吸着することができるよう、表面に水素結合形成可能な官能基を有している。水素結合形成可能な官能基としては尿素結合、チオ尿素結合、アミド結合あるいは1級〜4級アミノ基、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基、メルカプト基、グアニジル基等があげられ、イオン性ではないことがより好適に微生物吸着を行うことを考えると、尿素結合、チオ尿素結合やアミド結合を少なくとも一つ有することが好ましいが、これらの構造に限定されない。水素結合形成可能な官能基に続く構造としては脂肪族、脂環族、芳香族の化合物を好ましく用いることができるがこれらに限定されない。また、水素結合形成可能な基を2つ以上有することがより好ましく、特に、尿素結合、チオ尿素結合、アミド基に続く構造として例えばアミノ基、水酸基等の水素結合形成可能な基を更に有する構造が好ましく用いられる。アミノ基を有する構造としてはアミノヘキサン、アミノオクタン、アミノドデカン、アミノジフェニルメタン、ジアミノメタン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン等が用いられる。水酸基を有する構造としては、ヒドロキシプロパン、2−エタノールアミン、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン、グルコース、アガロース、セルロース等が用いられる。
【0012】
また、本発明における微多孔質構造の材料とは、材料表面に微細な多孔あるいは凹凸を有している材料のことをいい、微多孔質構造の材料としては、無機材料や有機材料のいずれもが用いることができる。無機材料としては、金属、セラミックス、シリカゲル、活性炭等が用いられるが、材料表面への官能基の導入の容易さを考えた場合には、有機高分子材料が好ましく用いられる。有機高分子材料としては、ナイロン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリビニルアルコールなどの合成高分子やセルロース、キトサン、キチン等の天然高分子などが好適に用いられる。
【0013】
つまり、単独重合、共重合あるいはブレンドされたこれらの高分子材料に尿素結合あるいは/およびチオ尿素結合あるいは/およびアミド基を導入することが好適に行われる。
【0014】
本発明のいう表面が微多孔質構造を持ち、アルブミン吸着率が10%以下であり且つ白血球の吸着率が30%以下であり微生物の吸着率が40%以上であることを特徴とする水素結合可能な化学構造を有する微生物吸着用材料は、例えば以下のような方法でつくることができる。すなわち、例えばクロロアミドアセトメチル基のような官能基を有するポリスチレン繊維にテトラエチレンペンタミンのようなアミノ化合物を反応させ、続いて4−クロロフェニルイソシアネートのようなイソシアネート化合物を反応させることにより、アミノ基と尿素結合を有する繊維が合成される。このように脂肪族化合物や芳香族化合物に尿素結合を導入する場合には、イソシアネート化合物あるいはイソチオシアネート化合物とアミノ化合物とを反応させる方法を用いることができる。また、脂肪族化合物や芳香族化合物にアミド基を導入する場合には、例えば、酸、酸塩化物あるいは酸無水物とアミノ化合物とを反応させる方法を用いることができる。
【0015】
アルブミンの吸着率はアルブミン濃度が既知の健常ヒト血液40mlを1.5g(乾燥重量)の微生物吸着材料を充填したカラム(長さ4cm、内径0.8cm)に1ml/minの流量で37℃で3時間循環した後、再度アルブミン濃度を測定し、以下の式により吸着率を算出した。
【0016】
吸着率(%)=(循環前の測定値−循環後の測定値)/循環前の測定値*100
アルブミンの測定は富士フィルム社製の富士ドライケム5500にて行った。すなわちアルブミン測定用のスライドであるALB−Pを用いて富士フィルム社のプロトコールに従って測定した。
【0017】
また、白血球の吸着率は、白血球数既知の健常ヒト血液40mlを用いてアルブミン吸着試験と同様の操作を行い、循環前後の白血球数値を上式に用いて吸着率を算出した。白血球数の測定は日本光電社製のCelltacα MEK-6208を用いて、日本光電社のプロトコールに従って行った。
【0018】
微生物の吸着率はTH培地などの微生物培養用の培地に一定量の微生物を添加したもの40mlを用いてアルブミン試験と同様の操作を行い循環前後の微生物数を寒天平板などを使用して測定しその値を上式に用いて吸着率を算出した。
【0019】
イソシアネート化合物あるいはイソチオシアネート化合物としては、例えば、エチルイソシアネート、n−プロピルイソシアネート、エチルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、シクロヘキシルイソチオシアネート、フェニルイソシアネート、クロロフェニルイソシアネート、フルオロフェニルイソシアネート、4,4’ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニルイソチオシアネート、クロロフェニルイソチオシアネート1−ナフチルイソチオシアネート等が用いられる。酸塩化物としてはステアロイルクロライド、ベンゾイルクロライド、クロロベンゾイルクロライド等を用いることができ、酸無水物としては無水酢酸、無水コハク酸、無水安息香酸を用いることができる。また、本発明に用いるアミノ化合物のアミノ基としては1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基のいずれでも良く、アミノ化合物としては例えばアンモニア、オクチルアミン、1−(3−アミノプロピル)イミダゾール、アミノピリジン、トリス(2−アミノエチル)アミン、ジアミノエタン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミンジプロピレントリアミン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン等を好ましく用いることができる。
【0020】
上記の反応は標準的には反応温度は0℃〜150℃、反応時間は0.1〜24時間で行われる。また、反応溶媒は必ずしも必要ではないが、一般的には溶媒の存在下に行われる。使用しうる溶媒としては、メタノール、エタノール、ヘキサン、トルエン、N,Nジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、Nメチルピロリドン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。
【0021】
本発明における微生物吸着用材料は血液中の微生物の除去や熱傷創部やアトピー性皮膚炎患部などの感染部位からの微生物除去のような用途に用いることができる。
【0022】
本材料をカラムとして用いる場合には、ビーズ、繊維、中空繊維、糸束、ヤーン、ネット、編み地、織物、不織布等が好ましい。また、本材料は単独での使用のみならず、適当な材料にさらに固定化したり、他材料と混合して一つのカラムあるいは被覆材料として用いることもできる。
【0023】
吸着する微生物としては特に限定されないが本発明者らの知見によれば、大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、酵母、ウイルス、あるいは真菌が臨床的に検出される頻度が高い点で特に本発明にかかる微生物吸着用材料が効果的である。
【0024】
【実施例】
<微生物吸着材料の作製>
ポリエチレン50重量部を島成分とし、ポリスチレン50重量部を海成分とする海島型複合繊維(島数16個)3gを、N−メチロール−α−クロルアセトアミド(NMCAと略記)5.28g(濃度7%)、ニトロベンゼン35.0g、98%硫酸35.0gおよびパラホルムアルデヒド75.9mgからなる混合溶液の中に浸し、15℃で2時間反応させた。繊維を反応液から取り出し、ニトロベンゼンで洗浄した。次に、繊維に付着しているニトロベンゼンをメタノールで洗浄し、N,N−ジメチルホルムアミド(DMFと略記)中に浸漬した。繊維をDMFから取り出し、水洗、真空乾燥して、クロルアセトアミドメチル化担体を得た。この担体に減圧下、蒸着し、表面状態を電子顕微鏡(日本電子(株)JSM−5400LV)で観察した。担体表面全体が編み目構造をもつ筋状の凹凸(凸部の幅が1〜5μm)で覆われているか否かを表1に、観察した写真を図1に示した。
【0025】
上記クロルアセトアミド化担体3gに対して、テトラエチレンペンタミン0.6g、およびtert−ブチルアミン0.7g、トリエチルアミンをDMF100mlに溶解した液に浸漬し、30℃で3時間撹拌しつつ反応させる。その後反応した繊維をDMF1000mlで洗浄し、さらにその繊維を0.2gの4−クロロフェニルイソシアネートを溶解したDMF100mlに添加し、25℃で1時間反応した。その後、DMF1000mlで洗浄し、さらに蒸留水1000mlを用いて洗浄し、 本発明にかかる材料の表面に水素結合形成可能な化学構造を有し且つ材料の表面が微多孔質構造であることを特徴とする微生物吸着用材料を得た。
<微生物吸着試験>
供試菌株としてStreptococcus pyogenes (H305株)(一般名:A群連鎖球菌)およびStaphylococcus aureus(FRI1169株)(一般名:黄色ブドウ球菌)をそれぞれ5×106個/mlに調製した菌液を40ml調製した。実施例1で作製した吸着繊維1.5g(乾燥重量)を充填したカラム(内径0.8cm)に流量1ml/min、37℃で3時間循環し菌の吸着試験を行った。3時間後に菌液中の菌数を測定した。循環液はStreptococcus pyogenes (H305株)の場合はTH培地(Todd-Hewitt broth)をStreptococcus pyogenes (H305株)の場合はNZアミン培地を用いて循環した。コントロールとしてカラムに何も充填せずに液を循環させた実験を行った。
表1に示すように、コントロールではStreptococcus pyogenesとStaphylococcus aureusともに菌数が増加しているのに比較して、吸着材を充填した場合には菌数が低下しており、吸着材が2種の菌を吸着除去したことが示された。
【0026】
また、循環後に吸着材料をカラムより取り出し電子顕微鏡によりその表面を観察した。
図2に示すように繊維表面に連鎖球菌が吸着されていることが確認された
【0027】
【表1】
Figure 0004329421
【0028】
<微生物吸着試験(連鎖球菌感染動物を用いた実験)>
メスのラット(体重:260−320g)の腹腔内にStreptococcus pyogenesを1.7×107個/ml投与し連鎖球菌感染動物を作製した。このラットの頸部動静脈にカテーテルを挿入し、動脈カテーテルより血液をポンプで採りだし、カラムを通過させた後に静脈カテーテルより血液を体内に戻す体外循環を行った。この時、カラムに吸着性能が無い原繊維を充填したカラムを用いて循環させた実験を行った場合をコントロールとした。循環は菌を腹腔内に投与した時から6時間経過した時点で開始し3時間施行した後終了した。その後、24時間観察し生存時間を測定した。
【0029】
図3に示すように、循環開始時点(6時間目)では血液中の菌数にコントロールと吸着体使用群に差は見られなかったが、循環終了時(9時間目)には吸着体治療群で血中菌数の低下が確認された。また、吸着体使用群では体外循環終了後24時間の時点での生存率が向上しており、微生物吸着材料が敗血症機器として使用できることが示された。
<健常人の血液成分の吸着>
健常人より血液を40ml(ヘパリン5unit/ml)採血した。血液中のアルブミン濃度と白血球数を測定後に実施例1で作製した吸着繊維1.5g(乾燥重量)を充填したカラム(内径0.8cm)に流量1ml/min、37℃で3時間循環した。循環後の血液中のアルブミン濃度と白血球濃度を再度測定した。アルブミンの測定は富士フィルム社製の富士ドライケム5500にて行った。すなわちアルブミン測定用のスライドであるALB−Pを用いて富士フィルム社のプロトコールに従って測定した。白血球数の測定は日本光電社製のCelltacα MEK-6208を用いて、日本光電社のプロトコールに従って行った。表2に示すように、循環によるアルブミンの吸着率は2%、白血球の吸着率は27%であることが示された。
【0030】
【表2】
Figure 0004329421
【0031】
【発明の効果】
本発明により、体液中のタンパク質や細胞成分に対する親和性が低く、且つ微生物の吸着性に優れた材料を提供することを可能にした。本発明の材料により、血液や創部浸出液中の微生物を選択的に吸着除去することより、敗血症の治療に有効な血液浄化カラムあるいは創傷被覆材料を提供することを可能にした。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の微生物吸着用材料を電子顕微鏡で撮影した図面である。
【図2】実施例1の微生物吸着用材料に菌体を吸着し、電子顕微鏡で撮影した図面である。
【図3】ラットの血中菌数の変化を表す図面である。
【図4】ラットの生存率を表す図面である。

Claims (7)

  1. アルブミンの吸着率が10%以下であり、白血球の吸着率が30%以下であり、且つ微生物の吸着率が40%以上であり、材料の表面に、尿素結合、チオ尿素結合、アミド結合あるいは1級〜4級アミノ基、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基、メルカプト基、グアニジル基を少なくとも一つ有する化学構造を有し且つ材料の表面が微多孔質構造であることを特徴とする微生物吸着用材料。
  2. 前記化学構造は、クロルアセトアミドメチル化担体の表面に、テトラエチレンペンタミン、tert−ブチルアミン及びトリエチルアミンを反応させて得られる、請求項1記載の微生物吸着用材料。
  3. 前記微生物が連鎖球菌あるいはブドウ球菌であることを特徴とする請求項1又は2記載の微生物吸着用材料。
  4. 体液の浄化に用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の微生物吸着用材料。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項記載の微生物吸着用材料にヒトの体液を除く液体を接触させることを特徴とする液体からの微生物の除去方法。
  6. 請求項1〜4のいずれか一項記載の微生物吸着用材料を含んでなる血液浄化カラム。
  7. 請求項1〜4のいずれか一項記載の微生物吸着用材料を含んでなる敗血症治療機器。
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