JP4323600B2 - 活動性結核診断用試薬その試薬キット - Google Patents

活動性結核診断用試薬その試薬キット Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は活動性(感染性)結核の診断薬、試薬キット及びその活動性結核症の検出乃至診断方法に関する。
特にこの発明は抗酸菌抗原を含むパッチからなり、活動性結核の検出と診断に充分な免疫応答を刺激する前記パッチの応用に関する。
【0002】
【従来の技術】
人類の伝染病は古代からはびこっており、結核は250年以前より古くから主な死亡原因であった。
抗酸菌症は今でも限られた医療設備しかない国々においては、主な病気又は死亡の原因であり、免疫力の弱まった患者では極めて強力な伝染力を持っている。
37種を超える抗酸菌が発見されているけれども、人に感染するものの95%以上は6つの種によって引き起こされる。即ち、結核菌(M.tuberculosis)、M.アビウムーイントラセルラーレ(M.avium−intracellulare)、M.カンサシー(M.kansasii)、M.フオルチュータム(M.fortuitum)、M.ケロネー(M.chelonae)、らい菌(M.leprae)である。
【0003】
人にとって最も一般的な抗酸菌症は結核菌、牛型結核菌(M.bovis)、M.アフリカヌム(M.africanum)によって引き起こされる結核(TB)である(メルクマニュアル1992)、典型的な感染は、末端の通路に到達可能な感染粒子を吸い込むことから始まる。
続いて肺胞のマクロファージに取り込まれた菌は自由に増殖でき、その結果食細胞を破壊する。破壊は感染局所への更なるマクロファージや白血球が集積する原因となり、そこで最終的に破壊が起きる、というカスケード(連続反応)効果を確実にする。
【0004】
病気は局部リンパ節や血流そして骨髄,脾臓、腎臓、骨そして中枢神経系統などの他の組織にまで移動する感染したマクロファージによって初期段階で更に広まる(マレー、他、メディカル マイクロバイオロジー、[ Murray et. al.Medical Microbiology ] )。
【0005】
WHOは免疫拡大計画(EPI)や直接監視下短期治療(DOTS)のような計画を提案して,結核との戦いを推進している。結核撲滅のためには,診断,治療そして予防が同じくらい重要である。活動性の結核患者を早く発見できれば、早期治療につながり、それによっておよそ90%の治癒が期待できる。それゆえ、早期診断が結核との戦いには不可欠である。
【0006】
結核は有史以来ほとんどの期間人類にとって主要な病気であり続けた。病気の発生は少なくとも19世紀中頃から生活水準の向上に伴って下降してきた。しかしながら、世界中の幾多の保健機関の努力にもかかわらず、結核の撲滅は達成されなかった。それどころか,撲滅は緊急の課題である。世界人口の3分の1近くが結核菌に感染しており、年間約800万人が発症し、約300万人が結核が原因で死亡している。
【0007】
数十年間下降傾向が続いた後、結核は又増えている。米国では、1,000万人が感染していると見られている。1990年には、新しい感染例として28,000件近い数字が報告されているが、これは1989年の9.4%増である。1985年から1990年の間、16%の増加が見られた。
【0008】
結核は活動性の感染者が生菌を含む " 核滴" を咳、或いはくしやみによって,空気中に撒き散らしたとき、これら核滴を含む空気を第三者が吸い込み,経気道的に結核菌が体内に取り込まれる。 従って、人口過密な生活環境や空間の共有が特に結核の蔓延の原因になっており、米国で観察された刑務所の同房人や大都市におけるホームレスにみられる結核感染の根底をなしている。
【0009】
一時は減少傾向にあると思われていた結核感染が健康への深刻な脅威として又復活してきた。人が密集している地域や標準以下の住宅環境に住む人は、結核に感染している人がますます多くなっていることがわかっている。免疫力の弱っている人は抗酸菌に感染し、それが原因で死亡する危険が高い。人ごみの多いところ、例えば刑務所やスラム街は人から人へ伝染しやすい場所である。薬剤に対し抵抗力のある結核菌の出現で感染者に対する治療が一層難しくなった。
世界的にみれば抗酸菌に感染している人の多くは貧しい人か、医療施設が不充分な地域に住む人たちである。そうした人たちは抗酸菌感染の検査を受けるのは容易ではないし感染を発見するために安価で皮膚を損傷しない方法が必要である。
さらに,服役中やホームレスの人たちは医療設備が不充分で肉体的にも劣っているのが普通であるので,そうした人たちに拘わる結核対策は成功していない。
【0010】
抗結核薬として最も効果のあるもののうち、少なくとも2つの薬剤であるリフアンピシン(RFP)とイソニアジド(INH)に対し抵抗力を持つ結核の発生が病院の施設から報告され、HIV陰性者への感染も警告されている。
米国ではエイズ(AIDS)患者のうち、約半数が抗酸菌に感染し、特に重い合併症になっている。その結果感染すると致命的な感染症に発展するものがしばしばである。
【0011】
薬剤耐性結核菌(MDR−M.tuberculosis
)の出現で極めて状況が悪化している。少なくとも一種の標準的薬剤に抵抗力のある新しい結核症例の率は1980年代前半の10%から1991年には23%に増えている。現在は,すべて結核症例の7%が少なくとも一種の薬剤に抵抗力があり、これは1980年前半の数の2倍を超えている。
さらに結核以外の抗酸菌もAIDS患者を苦しめる日和見感染症の要因としてますます問題となっている。MAC(マイコバクテリウム・アビウムーイントラセルラーレコンプレックスMycobacterium avium−intracellulare complex)からの菌、とくに血清型4と8は、AIDS患者からのミコバクテリア分離の68%を占めている。
AIDS患者からは極めて多数のMACがみつかり(組織グラム当たり1010 抗酸菌)、その結果感染したAIDS患者の予後は悪い。
【0012】
ミコバクテリウム.アビウム菌(Mycobacterium avium)を含む抗酸菌はマクロファージのような宿主の中で生育できる細胞内寄生菌である。抗酸菌の生育は遅くエンドキシンを産生せず、そして非運動性である。
ミコバクテリウム.アビウム菌はマクロファージ内で増殖し、マクロファージを殺し、また新たなマクロフアージに取り込まれ、再びこの過程を繰り返す。
【0013】
宿主の抵抗力はマクロファージの活性に依存する。
活性化したマクロファージは細胞内に宿るバクテリアを殺すことができる。この活性は抗酸菌の蛋白に対する細胞性免疫反応の結果として産生された特異的T細胞に影響される。
【0014】
抗酸菌による感染はマクロファージ内での抗酸菌の生存能力と効率的なマクロファージを活性化する宿主の能力との間にある微妙なバランスにある消耗戦に例えられて来た。迅速に機能する抗感染物質があるときは治療の結果は宿主に味方するように傾く。
【0015】
抗酸菌の毒性に関与する要因については、はっきりしたことが判っていない。コロニーの形態や毒性に関与するものとして多くの研究者が細胞壁やバクテリア表面の脂質を挙げている。研究結果によればある種の抗菌酸細胞の表面によるC−ミコサイド(C−mycosides)がマクロファージ内で菌の生存を促進するのに重要であると示している。コードファクターであるトレハロース6、6ジミコレート(Trehalose 6、6' dimycolate)は他の抗酸菌に見られた。
【0016】
ミコバクテリウム・アビウム菌は、いくつかの区別できるコロニー形態をつくる。通常の実験室用の培地で透明で粗いコロニーとして生育する菌は組織培養中のマクロファージ内で増殖し、感受性マウスに接種すると毒性を示し、抗生物質に抵抗力を示す。
実験室の培地で継代された粗く透明なコロニーを作る菌が野生型のくすみを帯びたコロニー形態を生じたときはしばしばマクロファージ内で生育できず、マウスに対して非毒性となり、抗生物質に対して非常に感受性となる。
【0017】
ミコバクテリュウム・アビウム菌の透明で粗いコロニーを作る株と不透明なコロニーを作る株とのコロニー形態の違いは、ほぼ間違いなく防御カプセルとして作用する透明で粗い菌の表面を覆っている糖脂質のためである。このカプセルまたは被覆物は明らかに、リソゾーム酵素や抗生物質から有毒ミコバクテリウム・アビウム菌を守るC−ミコサイドから主に構成されている。対照的に無毒性の不透明なミコバクテリウム・アビウムの形態は表面に殆どC−ミコサイドが存在しない。抗生物質やマクロファージに殺されることに対する抵抗力は、両方ともミコバクテリウム・アビウム菌の表面にある障害物質によるものである。
【0018】
結核診断は病原菌の分離と同定で確認されるが簡便な診断は喀痰塗抹、胸部X線検査や臨床的症状を基本とする。
【0019】
培地上での抗酸菌の分離は4乃至8週間かかる。種の同定はさらに2週間を要する。迅速に抗酸菌を検査する方法は他にも幾つかある。例えばポリメラーゼチェーン反応(Polymerase chain reaction [PCR] )、MTD(Mycobacterium tuberculosis direct test)、放射線ラベルを使う試験方法などがあるが、これらの方法は材料や機械器具に多額の費用がかかる。
広範囲に使用されている診断方法のひとつはツベルクリン皮膚試験である。種々の皮膚試験があるけれども,特に2つのツベルクリン抗原が使われている。
つまり旧ツベルクリンと精製ツベルクリン(PPD)である。抗原を皮膚内に注射するか、抗原を局所に塗り付けて,多刺器具を使って皮膚内に経皮的に入れるタインテストの方法がある。
【0020】
これら皮膚試験の診断法にはいくつかの問題がある。例えば前記タインテストは皮膚内の層へ注入される抗原量を正確にコントロールできないので、普通薦められない(マレー他、メディカル ミクロバイオロジー、C.V.モビス・カンパニー[Murray et.al.Medical Microbiology The C.V.Mobsy Comnpany]219−230「1990」参照)。
【0021】
ツベルクリン皮膚試験は通常大変早くかつ正確に結核感染者を見つけられるが、しばしば誤診となる。つまり陽性の結果には活動性結核患者のみならず、BCG接種を受けた人や、結核菌に感染はしたが発病しなかった人々もふくまれるからである。
それゆえにツベルクリン皮膚試験によって活動性結核患者を他の陽性反応の人から区別する事は難しい。
更にツベルクリン皮膚試験は結核以外の抗酸菌( mycobacteria other than TB=MOTT)に感染した人と交差反応を起こす。よって,現在利用できる皮膚試験を用いた診断はしばしば誤りや、不正確さの原因となる。
【0022】
必要なのは、活動性結核の人と、抗酸菌に感染したが活動性の病気ではない人、あるいはBCG接種を受けた事のある人のような免疫的に影響を受けている人と区別する安価な方法である。さらに、活動性結核とその治癒の途上または以前羅患したことを区別できる試験のような、抗酸菌に感染した人に対してする薬物療法の効果を監視する方法がない。更に、必要なのは子供に簡単に適用できる試験方法である、というのは注射針や接種器具を含めて現在使われて皮膚試験には子供が特に恐怖を感じているからである。被接種者の皮膚表面を傷つける方法でない試験法は、保健従事者が被試験者の体液に接触することを最小限にし、被試験者中に存在するかもしれない伝染性病原の感染を少なくする。ホームレスや刑務所の結核患者を検査するとき、簡単に試験でき、結果が陽性か陰性かを簡単に決定できる試験方法が肝要である。
【0023】
先願たる特開平8−34209号には東京BCG東京株と培養した培養済みの培地に含まれるMPB64とMPB70をそれぞれ分離精製し、これらをそれぞれ適量の軟膏に混合し、BCG接種したモルモットと結核に感染したモルモットの双方の皮膚に塗布して実験したところBCG接種によるツベルクリン陽転したモルモットは共に陽性の反応を示し、結核菌に感染したものはMBP64に対しては陽性であるがMPB70に対しては陰性であった旨が記載されている。
更に本件発明者は実験を重ねたところ、MPB64の皮膚塗布テストはBCG接種によるツベルクリン陽転したモルモットにおいて、初期の凡そ13週までは陽性を示すが、その後においては、疑陽性から陰性を示し変化し、23週を過ぎればMPB64が陰性になることを知見した。
【0024】
MPB64は結核菌(M.tuberculosis)群に特異な抗酸菌抗原である。
最初にハーボエ(Harboe)など(Infect.Immun.1986)によってMPT64として述べられていたが、 その後いろいろの研究所で研究され使われてきた。“MPB64”と“MPT64”は同じ抗原である。MPT64は結核菌(M.tuberculosis)の培養濾液から分離したもので、ヒト型結核菌の抗酸菌蛋白(mycobacterial protein of tuberculosis)と名づけられた。MPB64はその後牛型結核菌(M.bovis)またはBCGの培養濾液から分離されたので牛型の抗酸菌蛋白と名づけられた。その後、両方の蛋白は同じ物であることがわかった。従って、“MPB64”と“MPT64”は結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、牛型結核菌(Mycobacterium bovis)、そしてある種のBCG株(Mycobacterium bovis BCG)から分泌されるものである。この蛋白はバクテリアの生育中に分泌され、モルモット、人及び牛で遅延型過敏症(DTH)を引き起こす。
またMPB70はM.ボビスは産生するが、結核菌及びM.アビウム.イントラセルラーレは産生しないことが既に知られている。
また、MPB59は、すべての抗酸菌が産生すること及びMPB44及びMPB83については、出願人会社内で非公開で実験したところ今般結核菌が産生することを知見した。
またこれらMPB64、MPB70、MPB59、は前述したように、それぞれ少なくとも抗酸菌の一種から産生するものであるが、他の抗酸菌以外の病源菌が産生すると云う論文などの報告は本件発明者及び出願人会社が調査した範囲では全く聞いていない。
また、前記本件出願人が開発したMPB64が活動性結核の動物に対して遅延型過敏症を発症することに着目し、又MPB70は前記遅延型過敏症を発症しないことに着目し、活動性結核の検出、及び活動性結核以外の非結核抗酸菌症かどうかの判断が可能となることを知見した。抗酸菌の種類と産生する蛋白質の一例を示せば表1の通りである。
【0025】
【表1】
抗酸菌種と分泌蛋白一覧表
Figure 0004323600
【0026】
【発明が解決しようとする課題】
発明の目的は、活動性結核を検出するための鋭敏な試薬、並びに検査乃至診断方法を提供する事である。
もうひとつの目的は、皮膚に局部貼付を行う方法によって活動性結核を検出するための鋭敏な試薬、並びに検査乃至診断方法を提供することである。
もうひとつの目的は、結核菌(Mycobacterium
tuberculosis )によってひきおこされる活動性の病気を検出するための鋭敏な試薬、並びに検査乃至診断方法を提供することである。
もうひとつの目的は、牛型結核菌(Mycobacterium bovies)によって引き起こされる活動性の病気を検出するための鋭敏な試薬、並びに検査乃至診断方法を提供することである。
もうひとつの目的は、抗酸菌によって引き起こされる活動性の病気を検出するための鋭敏な試薬、並びに検査乃至診断方法を提供することである。
もうひとつの目的は、局部に貼付けた抗原がMPB64であり、抗酸菌によって引き起こされる活動性の病気を免疫学的な方法により検出するための鋭敏な試薬、並びに検査乃至診断方法を提供することである。
もうひとつの目的は、試験法が易しい鋭敏な試薬、並びに検査乃至診断方法を提供することである。
もうひとつの目的は、治療効果を監視するため活動性結核検出の鋭敏な試薬、並びに検査乃至診断方法を提供することである。
もうひとつの目的は、結核菌(M.tuberculosis )のような抗酸菌によって引き起こされる活動性の病気の診断と検出のための鋭敏な試薬の組み合わせ、並びに検査乃至診断方法を提供することである。
もうひとつの目的は、家庭内の接触による抗酸菌によって引き起こされる活動性の病気を検出する鋭敏な試薬、
並びに検査乃至診断方法を提供することである。
もうひとつの目的は、化学療法後の結核患者の臨床状況を監視する鋭敏な試薬
、並びに検査乃至診断方法を提供することである。
もうひとつの目的は、活動性結核にかかっている子供達のための鋭敏な試薬、並びに検査乃至診断方法を提供することである。
もうひとつの目的は、人間の結核のみならず、牛の活動性結核の診断にも適応させる試薬及び診断方法を提供することである。
【0027】
【課題を解決する手段】
前記課題を達成する為にこの発明は人に感染し発病させる全ての抗酸菌のうち、結核菌と他の抗酸菌たる牛型結核菌が増殖中に産生し、残りの殆どの抗酸菌が産生しない蛋白質と同種の精製蛋白質に、前記精製蛋白質が稀釈液100部中に1乃至75部重量比の割合で、極少量の非イオン界面活性剤と共に混合してあることを特徴とする活動性結核診断用試薬とする。
また前記課題を達成する為にこの発明の活動性結核診断用試薬の前記精製蛋白質はMPB64であることを特徴とすることが好ましい。
【0028】
また前記課題を達成する為にこの発明の活動性結核診断用試薬の前記請求項1、2のうちのひとつの試薬を第1試薬とし、これと人に感染し発病させる全ての抗酸菌うち、前記結核菌は産生せず、前記請求項1記載の牛型結核菌が増殖中に産生する蛋白質と同種の精製蛋白質に、前記精製蛋白質が稀釈液100部中に1乃至100部重量比の割合で、極少量の非イオン界面活性剤と共に混合してあることを特徴とする活動性結核診断用試薬を第2試薬とし、前記第1試薬と第2試薬との組合せよりなる活動性結核診断用試薬とする。
前記第2試薬の精製蛋白質はMPB70であることを特徴とすることが好ましい。
【0029】
また前記課題を達成する為にこの発明の活動性結核診断用試薬の前記第1試薬と第2試薬と人に感染し発病させる全ての抗酸菌が増殖中に産生する蛋白質と同種の精製蛋白質に、前記精製蛋白質が稀釈液100部中に1乃至75部重量比の割合で、極少量の非イオン界面活性剤と共に混合してあることを特徴とする活動性結核診断用試薬を第3試薬とし、前記第1試薬、第2試薬及び第3試薬との組合せよりなる活動性結核診断用試薬とする。
また前記課題を達成する為にこの発明の活動性結核診断用試薬の前記第3試薬の精製蛋白質はMPB59であることを特徴とすることが好ましい。
【0030】
また前記課題を達成する為にこの発明の請求項1、2、3、4、5又は6記載の活動性結核診断用試薬の前記非イオン界面活性剤はツイーン80であり、その含有量は前記試薬に対し0.1乃至0.002%であることを特徴とすることが好ましい。
【0031】
また前記課題を達成する為にこの発明は試薬とパッチバンドとよりなり、請求項1、2又は7記載のうちのひとつの活動性結核診断用試薬とパッチバンドとよりなり、試薬は前記請求項1、2又は7記載のうちの一つの試薬であり、前記パッチバンドはその内面に織布、編布、不織布、合成樹脂製スポンジなどよりなる直径乃至1辺が7mm乃至15mmである親水性パットを備え、前記パッチバンド、親水性パットの背面のうちの少なくとも一方は疎水性としてあるものであることを特徴とする活動性結核診断用試薬キットとする。
【0032】
また前記課題を達成する為にこの発明は前記第1試薬と第2試薬、第1乃至第3試薬のうちの1つの前記試薬キットとパッチバンドとよりなり、前記パッチバンドはその内面に織布、編布、不織布、合成樹脂製のスポンシ゛の1種よりなる直径乃至1辺が7mm乃至15mmである親水性パットを備え、前記パッチバンド、親水性パットの背面のうちの少なくとも一方は疎水性としてあるものであることを特徴とする活動性結核診断用試薬キットとする。
【0033】
また前記課題を達成する為にこの方法発明は請求項1、2、7記載のうちの一種の試薬とパッチバンドを用い、前記パッチバンドまはその内面に織布、編布、不織布、合成樹脂製スポンジなどよりなる直径乃至1辺が7mm乃至15mmである親水性パットを備え、前記パッチバンド、親水性パットの背面のうちの少なくとも一方は疎水性としてあり、その親水性パットに前記請求項1又は2記載の試薬を50μL乃至200μL含浸させ、前記パッチバンドを被検体の皮膚に1日乃至7日間貼り付けて固定し、その後剥離して皮膚の遅延型過敏反応の有無を判定することを特徴とする活動性結核症検出方法とする。
【0034】
また前記課題を達成する為にこの方法発明は前記請求項10の方法において,試薬として請求項1、2記載の試薬に代え請求項3、4、7のうちの試薬の組合せよりなる一種のキットを用い、第1試薬と第2試薬をそれぞれ別のパッチバンドの前記親水性パットに含浸させ、これら前記パッチバンドをそれぞれ同時乃至経時的に皮膚に1日乃至7日間貼り付けて固定し、その後剥離してそれぞれのパッチバンドの皮膚の遅延型過敏反応の有無を判定することを特徴とする。
【0035】
また前記課題を達成する為にこの方法発明は前記請求項10の方法において,試薬として請求項1、2記載の試薬に代え請求項5、6、7または請求項9記載のうちの一種のキットを用い、
第1試薬と第2試薬と第3試薬をそれぞれ別のパツ チバンドの前記親水性パットに含浸させ、これら前記パッチバンドをそれぞれ同時乃至経時的に皮膚に1日乃至7日間貼り付けて固定し、その後剥離してそれぞれのパッチバンドの皮膚の遅延型過敏反応の有無を判定することを特徴とする。
【0036】
発明の作用
前記請求項1、2または7記載の発明を用いる方法及請求項8記載の試薬とパッチバンドからなるキットを用い、請求項10記載の検出方法を説明する。
まず、被検体(人、牛など)の皮膚の一部、人間の場合は前腕の一部の局所をアルコールなどの消毒剤で清潔にし、請求項1、2乃至7の試薬を用い、若しくは請求項8のキットのうちの試薬を用い、この試薬50μL(マイクロリットル)乃至200μLを前記パッチバンドの親水性のパットに含浸させ、この含浸面を前記局所に貼付けしっかりと皮膚に固定する。
【0037】
このようにすると、前記皮膚と試薬は密着し、その貼付位置は移動せず試薬中に含まれるツイーン80で代表される非イオン界面活性剤の作用により、皮膚は試薬を疎水することなく完全に密着し、時間の経過と共に皮膚内に浸透する。
前記親水パットの外側は、疎水性の膜乃至バンドで覆われているから、試薬が、これらの層を通して、外部に発散するのを制限し、有効に皮膚に継続的に供給する。
パッチバンドを貼付後1日乃至7日、好ましくは1日乃至5日後、通常3日後にパッチバンドを被検体の皮膚より剥離する。
この結果、活動性結核が発症している被検体においては、その部分の皮膚が遅延型過敏反応により、発赤、硬結、赤い小斑点が見られ、そうでないものは反応がない。
但し、モルモットにおいてはBCG接種後、10週に満たないものは、同様な反応がみられたが、13週を過ぎる頃より疑陽性となり23週以後は全く陰性となった。
【0038】
また、請求項3、4または7記載の試薬、他前記請求項9の試薬とパッチパンドキットを用い請求項11記載の方法を説明する。
前述の請求項10同様に、各試薬毎に別のパッチバンドを用い、前記と同様の量の試薬を含浸させ同様に皮膚に貼る。このとき異なる試薬のパッチバンドは同時に貼りつけても,或いは別々の時,即ち経時的に貼りつけてもこの発明としては同じである。即ち、一方のパッチテスト後、1時間後乃至数週間後であっても、この発明としては同じである。
【0039】
また、請求項5、6または7記載の複数の試薬の他、前記請求項10の試薬とパッチバンドキットを用い請求項12記載の方法を説明する。
前述の請求項10同様に、各三種の試薬毎に別のパッチバンドを用い、前記と同様の量の試薬を含浸させ同様に皮膚に貼る。このとき異なる試薬のパッチバンドは同時に貼りつけても,或いは別々の時,即ち経時的に貼りつけてもこの発明としては同じである。即ち、一方のパッチテスト後、1時間後乃至数週間後に他のパッチテストを行っても、この発明としては同じである
【0040】
【発明の実施の形態】
実施形態1
請求項1、2乃至請求項7記載の発明を含む試薬である。
MPB64蛋白としては人型結核菌、牛型結核菌若しくはBCG東京株、BCGロシヤ株、BCGスエーデン株、BCGモロー株(ブラジル)(これらは一般に結核菌コンプレックスと総称されている)のうちの一種のBCG株から分泌したMPB64蛋白をそれぞれ精製したものを用いる。要するに、少なくともをMPB64を産生するBCG株であればどれでもよい。前記のBCG東京株はその他MPB45、MPB51、MPB59、MPB70及びMPB83を産生するので、これより一括分離精製でき、作業性がよい。しかし結核菌、牛型結核菌、その他の抗酸菌からの製造も可能であるが、これら抗酸菌からの製造は感染の危険性があるので奨められない。
またこれらの菌株のうちよりMPB64他MPB70、MPB59、MPB45又は/及びMPB83などをを産生する遺伝子を抽出し、他の病原性の低い菌株であって増殖の旺盛な菌に遺伝子組替技術により組み込まれた菌株を作り、これを培養し、この菌株より産生するMPB64などの蛋白質を用いても、この出願の発明の範囲である。
このMPB64その他の前記蛋白質を稀釈液に混合する。稀釈液としてはリン酸緩衝液、生理的食塩水の一種を用いるが、一般にはリン酸緩衝液が好ましい。
前記MPB64と稀釈液の混合比は稀釈液100部に対して、重量比で1乃至75部が好ましい。稀釈液100部に対して75部乃至50部として用いたが,前述の遅延型過敏反応が充分であれば、MPB64の混合比はもっと低くとも例えば50部乃至20部であっても、この発明の範囲である。
更に試薬には人体に無害な非イオン界面活性剤、好ましくはツイーン80(Polyoxyethyelene sorbitan mono―oleate)が稀釈液に対して0.1乃至0.005%の割合で混合してある。ツイーン80の外、 ツイーン60、ツイーン40、ツイーン20は勿論の事、他の非イオン界面活性剤であってもよい。
これら試薬は50μL乃至200μL(マイクロリットル)とし、或いは4乃至5人分を一つのプラスチック容器か、ガラスアンプルに密封してあり、一回の検査で全量使い切る。これらの容器に封入する量は、単一個人の検査用か、集団検査用かによって使い分ける。
前述のMTB64は請求項1の発明においては一例であり、結核菌のみが産生する他の蛋白質と置き換えても請求項1記載の発明の実施の形態の一部である。
【0041】
実施の形態2
前記請求項8、9のキット及び10乃至12の方法に用いられるパッチバンドとしては疎水性の粘着パッチバンドである。前記パッチバンドの中央部には直径または幅は7mm乃至15mmのガーゼなどの織布、不織布、編布、合成樹脂製のスポンジなどよりなる親水性パットが付着させてある。好ましくは4枚折り程度のガーゼ、若しくは厚さ0.5乃至1.5mmの不織布がよい。
前記パッチバンドは疎水性である事が好ましいが、疎水性でない場合は、親水性パットのパッチバンドとの接着面
( 境界面 )が疎水性膜で覆われているものも,この発明のパッチバンドに含まれる。
パッチバンドの一例としては、トリイ(Toii's)バンドが好ましいが、これに限定されるものではない。要は汗や、水に濡れても剥離せずパッチバンドの粘着剤でアレルギー反応を起こさないものであればよい。
【0042】
実施の形態3
請求項10、11、12記載の検査方法の発明に関する実施の形態である。
本件発明の試薬の対照として、通常市販のツベルクリン(PPD)を用いるが或いはBCG培養後の培地よりすべての蛋白をそのまま精製し、これを市販のツベルクリンと区別するためにPPD―eTと命名したものを使用した。PPD―eTも市販のツベルクリンも同様の反応を示すものである。その他BCG培養液培地より精製した活動性結核と反応としない他の蛋白質を用いることもできるが、実質上余り意味がない。
MPB64としては実施形態1のものを用い、パッチバンドとしては実施の形態2のものを用い行った。
この発明において、上記趣旨に反しない限り、試薬は中の精製してある前記蛋白質の濃度の変更、パッチバンドの形態種類の変更、診断手順の変更があっても、これら発明の範囲に含まれる。
【0043】
【発明の効果】
請求項1、2及び7記載の試薬並びに請求項8記載のキット中の試薬においては、前述の通りの構成であり、特に非イオン界面活性剤が、前述の通り混合してあり、試薬の主成分たる蛋白質は活動性結核と反応するものであり、特にMPB64は水溶性蛋白であることと、相俟って均質的な材質となり、且つ全体が水溶性であるから皮膚から浸透し易く、テスト結果にバラツキが少なく、また被検体皮膚との親和性があり、試薬は皮膚から分泌された脂肪分で撥じかれることなく密着し、試薬は除々に毛穴や汗腺を通って体内に入る。このとき試薬の量はわずかであるが、パット内の試薬は1乃至3日の間は継続的にパットから供給されることにより少ない試薬でも充分な反応が得られ、特に、抗酸菌症のものと特異的反応を起こし、活動性結核被検体を迅速に選別できる。特にBCGワクチン接種後、活動性結核となったものは従来のツベルクリンテストだけでは単なるツベルクリン陽転者と見分けができなかった者も、この試薬によるテストのみで簡単に区別することができる。
【0044】
特に請求項2記載の発明においては蛋白質としてMPB64を用いるから、人に結核を引き起こす前記結核菌はMPB64を産生するから、結核菌に感染しているものは、本件試薬と確実に前記の反応を起こし、これを検出する事が出来る。同様に牛型の結核はM.ボビス(M.bovis)により起り、牛型結核症であることも検出でき、被検体を牛にも活用し得る。
またこれら試薬は請求項10記載の検査方法に使用でき、この方法は前記の試薬をパッチバンドに含浸させて、単に貼り付けるだけの方法であるから、充分な医療設備のないところでも使用でき、また注射のように被検体、特に患者を傷つけることなく、子供にも恐怖を与えずに実施可能となる。
また、この検査乃至診断方法を実施する側のものは患者や自分を傷つける恐れのある道具例えば、メスや注射器を使用せず、感染のおそれのある患者の体液に触れる必要がないから、検査または診断従事者を結核感染から遠ざける効果を有する。
レントゲン検査や、その他の検査に比較して費用も格段に安くでき、殊に幼稚園、小学校などの生徒、刑務所の囚人、ホームレス者などの集団の中から感染の危険性のある活動性結核患者を迅速に選別でき、結核の蔓延を阻止乃至縮小することに寄与するものである。
【0045】
医師や看護人でなくとも、正確にさえ貼付すれば補助者でも貼付でき、後剥離し,判定を受けるときにのみ医療機関に出頭すればよく、交通不便な土地や、発展途上国において、極めて、利用価値の高いものである。
また、この発明の試薬及び請求項10記載の検査方法は、一旦活動性結核となった患者が、治療の結果、病気が治癒した場合は、この試薬によって陰性反応となるので治療効果を確かめることができ、隔離病棟に入院している患者の隔離の解放や、退院の時期の判定資料となし得る。
【0046】
請求項3、4、7の試薬を用い、或いは請求項7のキットを用い、第1試薬と第2試薬を同時若しくは経時的に行い請求項11記載の方法によって、その前記反応の陰陽の組み合わせにより、人型の結核、牛型の結核の区別がつく効果を奏する(表1参照)。請求項3記載の第2試薬の蛋白質としては必ずしもMPB70でなくとも牛型結核菌のみが産生する蛋白質であれば他の蛋白質でもこの請求項11記載の発明の範囲である。
請求項5、6及び7記載の発明の試薬を用い、或いは請求項9記載の試薬とパッチバンドよりなるキットを用い請求項12記載の方法の実施により、前記反応の陰陽の組み合わせにより、人型の結核、牛型の結核の区別がつく効果を奏する(表1参照)。併せて他の抗酸菌症かの区別がつく効果を奏する。前記請求項5記載の発明において、第3試薬の蛋白質は全ての抗酸菌が産生する蛋白質であればMPB59でなくとも何でも同じである。
第一段階で結核患者を検出し、そうでないものに従来のツベルクリン反応テストを行えばより安全である。ツベルクリンテストもパッチテストとすればより安全かつ簡単となる。
【0047】
前述のパッチバンドを用いることにより、試薬は皮膚の所定位置にパッチバンドを外すまで固定され、また試薬には界面活性剤が少量含浸しているから、皮膚との馴染みもよく、より少ない試薬であっても、前記パッチバンドを通しての外方への発散は少なく充分に皮膚から浸透し、かつ1日乃至3日間継続的に浸透し所期の効果を発揮する。
また仮にツベルクリンテストを皮内注射する場合でも、先ずこの発明のパッチテスト後行えば被検体の皮膚を注射器などで傷つける事になるが,これら被検体は活動性結核ではないからこれらの被検体の体液と触れたり、飛沫を医師またはこれら検査に従事する者が経口的に吸い込むことがあっても、感染のおそれはなく、従来の活動性結核患者も含むツベルクリンテストより遥かに安全である。
【0048】
【実施例】
ステップ1
活動性結核の新しく、簡単、かつ早期診断方法の開発を目標に,試験対象者にパッチテスト法によるMPB64抗原に対する皮膚反応試験を実施した。
活動性結核患者53人、PPD陽性健常者43人に対して、MPB64に対する反応が活動性結核患者に対してのみ陽性かどうかを決定する試験が実施された

フイリッピンのマニラ近郊の4クリニック、アワ・レデイ・オブ・グレイス区(Our Lady Of Grace Parish)、セント・ニーニョ・デ・トンド区(Sto Nino de Tondo Parish) 、カノッサ・ヘルス・アンド・ソーシャル・センター(Canossa Health and Social Center)、ヘルス・ケア・デベロプメントセンター(Health Care Development Center)、からの結核患者にパッチテストが行われた。
【0049】
活動性結核患者53人中52人がMPB64に対して陽性を示したが、PPD陽性健常人43人中1人も陽性を示さなかった。活動性結核に対するMPB64の特異性は100%、感度は98.1%、試験有効度は98.9%であった。
MPB64を用いたパッチテストは、BCGワクチン接種対象者及び、結核に感染しているが発病していない対象者と活動性結核患者を区別する意味において
、活動性結核の診断に有効で正確な方法であるといえる。この発見に関する実験の詳細はステップ2で述べる。
【0050】
ステップ2
パッチテスト法を用いた活動性結核の診断に対する特異的抗原としてのMPB64の信頼性を評価するために、試験対象者を3つのカテゴリーに分けてその比較試験を行った。
(1)活動性結核患者
(2)ツベルクリン陽性の健常人
(3)家庭内結核接触者
ヒトにおけるMPB64の皮膚反応と臨床症状(CLINICAL STATUS)の相関関係を観察した。なぜなら、この試験の目的は活動性結核に対する特異抗原としてのMPB64の信頼性を評価するものであり、活動性結核患者の選択が最も重要である。
診療所に来る外来患者の診療記録を調べた。
【0051】
これらの中で喀痰塗抹陽性であり、異常な胸部X線検査結果を示し、活動性結核の兆候を示す臨床症状を有する対象者はグループ1に分類される。培養結果はほとんどの場合において得られなかった。化学療法をはじめて間もない患者に対してのMPB64の皮膚反応は望ましいが長期の化学療法に対してはMPB64皮膚反応の効果はあきらかでない。しかしながら、6ケ月間治療を受けた何人かの患者がグループ1にいる。
かれらは最近の検査において塗抹陽性であったので、活動性結核患者とみなされている。
【0052】
患者たちは診療所の近隣に暮らしていて、そこの社会経済環境は劣悪であった。試験判定をするために彼らに3日後に戻ってきてもらうためには、彼らの住まいの地理的位置は重要であった。試験した105人のうち試験判定に戻ってこなかったのはわずか12人であった。戻ってきた患者の中で53人が最終判定に有効であった。判定結果はステップ1に記載した。残りの対象者は除外された。彼らのパッチは判定時に移動してしまったり,
剥がれ落ちてしまったりしたためである。
患者は診療記録によって篩い分けられ、塗抹陽性であり、異常な胸部X線検査結果を示し、結核を示唆する咳、熱、体重減少などの兆候を示す患者のみが活動性結核患者として選定された。
培養陽性患者が望ましかったが、 培養結果は僅かに7例しか有効ではなかった。活動性結核患者の大半は化学療法による治療を1から4ケ月間受けている人たちであった。幾人かは、試験開始時点で6ケ月間の化学療法による治療中であった。
ツベルクリン陽性の健常人のボランテイアはフイリッピン人や日本人であった

彼らは結核の兆候を示さなかった。試験の時点で、何家族かは結核患者と一緒に診療所を訪ねていた。彼らは結核患者に接触した家族として試験をした。すべての試験対象者に試験のアウトラインを説明し。試験に対する同意を得た。3グループにおける試験対象者の内訳は以下のとおりである。
グルーブ1:活動性結核患者53人
グループ2:健常人(コントロール)43人
グループ3:結核患者に接触した家族41人
【0053】
MPB64はMボビスBCG東京株(日本ビーシージー製造株式会社から供与)の8日間培養濾液から単離した。精製された蛋白質はPBSに懸濁し、−20℃で保存した。蛋白定量はローリー法で測定した。その培養液を硫安沈殿した総タンパクをツベルクリンPPDと区別するためにPPD−eTと命名し、パッチテストのコントロールとして用いた。結核菌青山B株から調整したPPDは日本ビーシージー製造株式会社から0.1mlの再構成バッファーに懸濁した5TUのPPDを用いて皮内注射によるマントーテストを行った。
【0054】
パッチテストの材料
直径15mmガーゼサイズのトリイパッチバンド(ガーゼが中心部に予めつけてあるパッチバンド)を使用した。本件発明の試薬たる抗原溶液(0.005%Tween80を含む100μLのPBSに75μgの抗原を含む)をガーゼに染み込ませパッチを対象者の前腕に貼付した。
【0055】
パッチテストスケジュール
活動性結核患者とツベルクリン陽性健常人の右腕にMPB64パッチテストを
、PPD−eTパッチテストを左腕に行った。それぞれのパッチは75μgの抗原を含んでいる。PPDは右の前腕パッチとは異なった場所に皮内注射した。PPD−eTパッチはタンパク抗原が皮膚を通して体内に入り込む事の確認のために用いた。
もし、PPDテストが陽性でPPD−eTパッチテストが陰性であれば、皮膚を通しての投与は不完全であり、この場合は試験結果から除外した。貼付のパッチは3日(72時間)後に剥がし、反応を陽性か陰性か判定した。皮膚の部位に何も変化がなければ陰性、抗原に応答して発赤,硬結、赤い小斑点が部位に認められた場合は陽性である。前腕と上腕でパッチを貼付し比較した。パッチは判定前に、前腕(17.6%)よりも上腕(41.2%)の方がより剥がれ易すかった。よって、成人に対して行う試験は前腕がよい。
【0056】
統計値
ヒトにおけるMPB64パッチテストの結果を評価するために2×2の分割表で分析を行った。
活動性結核患者とツベルクリン陽性健常者
表2はグループ1と2におけるMPB64に対する陽性と陰性の実際の人数を示した。全ての対象者においてPPDマントーテストとPPDーeTパッチテスト陽性であった。これらの結果から以下の数値が計算される。
感度:98.1%、特異性:100%、疑陽性度:0%、疑陰性度:1.9%、陽性反応適中度:100%、陰性反応適中度:97.7%、試験有効度:98.9%。これらの結果は、MPB64パツチテストが活動性結核とツベルクリン健常者を区別するのに有効な方法であることを示唆するものである。
【0057】
【表2】
グループ1とグループ2の2×2分割試験
Figure 0004323600
【0058】
結核患者に接触した家族グループ3の結核患者に接触した家族は41人でそのうち男性12人、女性29人であった。パツチテストの結果を表3に示した。対象者のうち26人が、PPDーeTパッチテスト、MPB64パッチテストに対して陽性であった(63.4%)。そして対象者の9人はPPD―eT陽性であつたが、MPB64パッチテストに対して陰性であった(22.0%)。6人はPPDーeTパッチテスト、MPB64パッチテストに対して陰性であった。これら両パッチテスト陰性の対象者はPPDマントーテストに対しても陰性であった。
グループ3の対象者は診療所において結核患者として登録されてなかった。それぞれのヒトは結核を示唆するいくつかの兆候が観察されたにもかかわらず、臨床上の症状は解らなかった。
【0059】
【表3】
家族に活動性結核患者がいる人々のMPB64とPPD−eTパッチテスト
Figure 0004323600
【0060】
この検査からMPB64パッチテストが活動性結核の早期診断の有望なツールになることが強く示唆された。MPB64パッチテストは結核患者とBCGワクチンを接種したヒト、あるいは結核感染を起こしているが発症していないヒトを、感度:98.1%、特異性:100%で区別することができる。パッチテストはまた技術的簡便さにおいて皮内注射より優れ、その実用性において安全である。理論付けはされていないが、パッチテストでは患者に対する反応のため抗原を連続的に供給することができると考えられている。
【0061】
実験例1
皮膚へのパッチ法を用いた活動性結核に対する特異的診断抗原としての信頼性を決めるために、モルモツトを用いた比較検討実験を行った。
試験開始時に300−400gのモルモット(Female albino Hartley)を東京の日本医科学動物資材研究所から購入した。モルモットは日本ビーシージー製造株式会社においてSPF環境下で飼育管理した。
抗原
抗原は前記ステップ2で設定した方法と材料に従って調製した。
モルモットの免疫法
BCG生菌ワクチン(日本ビーシージー製造株式会社製)を取扱説明書に従って再構成し、モルモット1匹あたり0.5mgを、アジュバントなしで皮下注射した。モルモットはBCG注射後、4−25週の間に試験した。
パッチテストの材料
直径7mmガーゼサイズのトリイパッチバンドを使用した。抗原溶液(0.005%ツイーン80を含む15μLのPBSに75μgの抗原を含む)をガーゼにしみ込ませそれぞれのモルモットの体毛を剃った部位に貼付した。MPB64を表4に示したように様々な量でパットにしみ込ませ、そのパッチバンドを、BCGで免疫したモルモットの左右の脱毛した脇腹に貼付した。
【0062】
【表4】
モルモットパッチテストの容量依存反応
Figure 0004323600
【0063】
パッチテストスケジュール
パッチは24時間後にはがし、直ちに反応を観察した。局所の皮膚に何も変化がない場合は陰性、抗原に応答して発赤、硬結、赤い小斑点が局所に認められた場合には陽性として記録した。
BCGで免疫したモルモットにおけるパッチテストのMPB64のドーズレスポンス(容量依存)
予め4週間BCG東京株によって免役されたモルモットを、抗原の様々な量によるMPB64パッチテストに使用した。パッチテストの最高投与量は75μg/パッチであった。モルモットはMPB64を2.3から75μg/パッチまで様々に含んだパッチで試験した。パッチを24時間後にはがし、反応が陽性か陰性か判定した。モルモットがBCGで感作されていることを確かめるため、バッファー0.1mlに溶かしたPPD0.05μgを皮内に注射し、皮膚反応を24時間後に観察した。表4に容量依存実験の結果を示した。MPB64の反応は4.7μg/パッチあるいはそれより高い量で陽性であった。2.3μg/パッチにおいては陽性反応は観察されなかった。PBSだけを含む陰性コントロールのパッチではBCGで免役したモルモットに対して何の皮膚反応も引き起こさなかった。何も免疫されていないモルモツトはPPDやMPB64に対して何の反応も示さなかった。
【0064】
BCG免疫モルモットのMPB64に対する皮膚反応の時間経過
BCG免疫モルモットのMPB64を皮内注射によって試験した場合、BCG免疫後15週するとMPB64に対する皮膚反応が消失する事が知られている。このことが真実かどうかを確認するために、モルモットをBCGで免疫し、BCG注射後さまざまな時間に於いて、MPB64パッチで試験を行った。個々のモルモットはブースター効果を避けるために一回の使用とした。コントロールとして、PPD−eTパッチテストを同時に各々のモルモットに対して行った。結果は図1に示した。遅延型過敏(DTH)反応は3+、2+のように表した。なぜなら反応の直径は抗原量によってではなく、パッチのサイズによって規定されるからである。MPB64パッチテストの皮膚反応は、BCG注射後13週まではすべてのモルモットに対して陽性であった。それ以後は、検出困難となった。そして23週目に完全に反応は陰性となった。これとは対称的に、PPD−eTパッチテストに関する反応は、BCG注射後25週の最終時点まで陽性であった。
MPB64やPPD−eTに関する遅延型過敏(DTH)反応はBCG注射後さまざまな時間において試験された。図1のそれぞれの点は、3匹のモルモットの遅延型過敏反応を表している。
3+:発赤、硬結
2+:硬結
1+:小斑点
0 :反応なし
モルモットにおけるパッチテストではヒトで用いられた抗原量の1/16でも陽性を検出することが確認された。
【0065】
前記の反応において、活動性結核に感染したもの、或いはBCG接種した場合これらが体内で増殖している限りにおいて、MPB64は分泌され、これに対応する免疫細胞たるT−細胞の活動が活発になる。
従って、その後外部から、MPB64が注入されると、前記T−細胞が反応し、遅延型過敏反応を起こすと考えられている。
よって、BCG接種後しばらくするとBCGの活動は停止し、前記免疫細胞も活動を停止、その後MPB64の侵入には何の反応も起こさない。同様に活動性結核菌も活動を停止乃至死滅すればMPB64を分泌せずMPB64との遅延型過敏反応は起こさないことになる。
つまり、細胞の細胞性免疫反応を利用したものである。
【0066】
この反応のメカニズムは先ず抗原が抗原提示細胞によって感作T細胞に示され
感作T細胞から放出したサイトカインが次の細胞群を活性化し、更にその細胞から出る前記のサイトカインが、また別の細胞群を活性化し,と言う何段階もの細胞性の反応が関与し、実際の局所反応が見られるまでに時間がかかると推測される。
遅延型過敏反応では先ずT細胞からIL−2(インターロイキンー2)が出て、これより単球や、内皮細胞のIL−1、TNF−αの産生が促進すると考えられる。
【0067】
IL−1はマクロファージから出るが、同時にマクロファージを活性化し、IL−8やIL−12などのサイトカインを出させる。
IL−8は好中球を誘引し、IL−12はT細胞やNK細胞やマクロファージを活性化する。更にGM−CSF、IL−6などが他の細胞を活性化し、局所へと誘引する働きをする。
【0068】
反応時間と共に局所への細胞の集合が強まり、この反応を強めるものと推測される。
この反応は通常72時間から96時間まで続き、その後は抗原が局所から消失するため反応は終息し、皮膚は元の状態に戻る。反応の終息にはTGF−βの関与もあるものと考えられる。
従って活動性結核に感染している者はこの結核菌が活動している限り、MPB64を産生し続けるから、MPB64を含む試薬に対し、反応する事になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 BCGを接種したモルモットのPPDーeTとMPB64に対する遅延型過敏反応の時間経過との関係を示すグラフである。

Claims (6)

  1. 人に感染し発病させる全ての抗酸菌のうち、結核菌と牛型結核菌が増殖中に産生し、残りの殆どの抗酸菌が産生しない蛋白質のうちの一種であるMPB64精製蛋白質に、前記MPB64精製蛋白質が稀釈液100部中に1乃至100部重量比の割合で、かつ試薬全量に対し0.1乃至0.002%の非イオン界面活性剤と共に混合してあることを特徴とする活動性結核診断用試薬。
  2. 前記請求項1記載の試薬を第1試薬とし、これと人に感染し発病させる全ての抗酸菌のうち、前記結核菌は産生せず、前記牛型結核菌が増殖中に産生する蛋白質のうちの一種であるMPB70精製蛋白質に、前記MPB70精製蛋白質が稀釈液100部中に1乃至75部重量比の割合で、かつ試薬全量に対し0.1乃至0.002%の非イオン界面活性剤と共に混合してある第2試薬よりなり、前記第1試薬と第2試薬との組合せよりなる請求項1記載の活動性結核診断用試薬。
  3. 前記第1試薬と第2試薬と人に感染し発病させる全ての抗酸菌が増殖中に産生する蛋白質のうちの一種であるMPB59精製蛋白質に、前記精製蛋白質が稀釈液100部中に1乃至75部重量比の割合で、かつ試薬全量に対し0.1乃至0.002%の非イオン界面活性剤と共に混合してある第3試薬よりなり、前記第1試薬、第2試薬及び第3試薬との組合せよりなることを特徴とする請求項2記載の活動性結核診断用試薬。
  4. 前記非イオン界面活性剤はツイーン80であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の活動性結核診断用試薬。
  5. 試薬とパッチバンドとよりなり、前記試薬は前記請求項1又は4記載の試薬であって、前記パッチバンドには内面に織布、編布、不織布、合成樹脂製のスポンジのうちの一種であって、直径乃至1辺が7mm乃至15mmである親水性パットを備え、前記パッチバンド、親水性パットのうちの少なくとも一方背面は疎水性としてあるものであることを特徴とする活動性結核診断用試薬キット。
  6. 試薬とパッチバンドとよりなり、前記試薬は前記請求項2又は4記載の第1試薬と第2試薬よりなる試薬、又は前記請求項3又は4記載の第1乃至第3試薬よりなる試薬であって、前記パッチバンドには内面に織布、編布、不織布、合成樹脂製のスポンジのうちの一種であって、直径乃至1辺が7mm乃至15mmである親水性パットを備え、前記パッチバンド、親水性パットのうちの少なくとも一方背面は疎水性としてあるものであることを特徴とする活動性結核診断用試薬キット。
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