本発明は、熱処理型アルミニウム合金材の接合方法並びにプレス成形用接合材に係り、特に、摩擦撹拌接合手法を利用した熱処理型アルミニウム合金の有利な接合方法と、そのような接合方法を実施して得られるプレス成形用接合材に関するものである。
従来から、各種のアルミニウム合金からなる板材や押出形材等の所謂アルミニウム合金材が、軽量性や加工性、更には耐食性に優れた特性を活かして、日用品や機械部品等を始め、多種多様なプレス製品を与える素材として、利用されてきている。そして、その中でも、6000系アルミニウム合金(Al−Mg−Si系合金)材や2000系アルミニウム合金(Al−Cu−Mg系合金)材、7000系アルミニウム合金(Al−Zn−Mg系合金)材等、所謂熱処理型アルミニウム合金材は、優れた強度を有するものであるところから、例えば、自動車のアウター材やインナー材等のボデーパネル、或いは航空機や船舶の外板等、高い強度が要求されるプレス製品の成形用素材として、用いられている。
ところで、比較的に大型のアルミニウム製のプレス製品を得る際には、その素材として、通常、複数のアルミニウム合金材を接合して一体化してなるアルミニウム接合材がプレス成形用素材として用いられることとなるが、熱処理型アルミニウム合金材同士を接合してなる接合材では、それのプレス製品に対する高強度特性の要請から、より優れた接合強度を有することが、望まれる。
そこで、従来から、熱処理型アルミニウム合金材、特に6000系アルミニウム合金材の溶融溶接方式による接合材の接合強度を高めるための技術が、種々、提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。具体的には、それらの技術は、6000系アルミニウム合金材同士を溶融溶接により接合してなる接合材を、所定の温度で適当な時間の間、加熱処理したり、或いは特定の範囲内の加熱温度による人工時効処理を行うことによって、接合部の強度を高めるようにしたものであるが、そのような技術を採用しても、ブローホールや酸化物巻き込み等の溶融溶接特有の接合不良が接合部に生ずることを回避することが困難であった。
一方、近年では、材料を加熱溶融させずに固相状態のままで接合せしめる固相接合の一種たる摩擦撹拌接合が注目され、各種のアルミニウム合金材の接合に適用されてきている。そして、上述の如き溶融溶接の問題点に鑑みて、6000系アルミニウム合金材を摩擦撹拌接合方式により接合して、健全な接合部を有する接合材を形成すると共に、かかる接合材の接合強度の更なる向上を目的として、接合部を強制冷却する条件(例えば、特許文献4参照)や、接合材に対して様々な温度で人工時効処理を実施する技術も、幾つか提案されている(例えば、特許文献5〜7参照)。
ところが、本発明者等が、それらの提案技術に従って、6000系アルミニウム合金材を摩擦撹拌接合方式により接合した後、その接合材に対して人工時効処理を施して得られた接合材の特性について、種々検討を行ったところ、確かに、人工時効処理により、接合部(撹拌部)が硬化せしめられて、接合強度の向上が図られるものの、母材部における接合部との境界部分の狭い領域からなる熱影響部の硬度が、接合部や母材部よりも低いために、かかる接合体をプレス成形した際に、そのような熱影響部に応力が集中して、熱影響部が容易に破断してしまい、その結果、接合材全体での伸びが十分に確保され得ないことが、判明したのである。
尤も、上述の如き技術のうちの一つのもの(特許文献7参照)においては、6000系アルミニウム合金材のうち、特に、過剰Si型6000系アルミニウム合金材同士を摩擦撹拌接合して得られた接合材を、180℃以下の温度で人工時効処理して、接合部の継手強度を母材比効率で70%以上回復させると共に、継手伸びが母材比効率で50%以上回復させることによって、接合材のプレス成形時における接合部や熱影響部での割れが防止されて、接合材のプレス成形性が高められることが、明らかにされている。
しかしながら、本発明者等の研究によれば、かかる技術を採用した場合、接合材に対する人工時効処理によって、接合部や熱影響部の硬度の上昇量に応じた分だけ、母材の硬度も高められ、そのために、6000系アルミニウム合金が本来有する優れた加工性が損なわれて、接合材のプレス成形時における母材の伸び変形量が不可避的に小さくなってしまい、結局、接合材全体としてのプレス成形性の向上について、十分に満足し得る程の効果が得られないことが、判明したのである。
特開平5−117826号公報
特開平8−246116号公報
特開平11−199994号公報
特開平11−104860号公報
特開2000−61663号公報
特開2002−346770号公報
特開2002−294381号公報
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、熱処理型アルミニウム合金材を、十分な接合強度をもって接合し得ると共に、接合により得られる接合材のプレス成形性を効果的に高めることが出来る熱処理型アルミニウム合金材の接合方法を提供することにあり、また、本発明にあっては、優れた接合強度と高いプレス成形性を有するプレス成形用接合材を提供することをも、その解決課題とするものである。
そして、本発明者等が、かかる課題の解決のために、熱処理型アルミニウム合金材として、T4調質した6000系アルミニウム合金材を用い、この合金材を摩擦撹拌接合して得られる接合材について、様々な観点から研究を進める過程で、そのような接合材に対して、融点直下の温度で所定時間保持する熱処理である溶体化処理と焼入れを行うことにより、接合材の接合部と熱影響部と母材部の各部位における金属組織を、何れも、硬度に寄与する添加元素であるMgとSiとが溶入化(固溶)された溶体化組織と為すことで、それら接合部と熱影響部と母材部の各部位における金属組織の均一化を図って、それら各部位における硬度のバランスをコントロールすることを着想した。
そして、この着想に基づいて、更に研究を進めたところ、T4調質した6000系アルミニウム合金材同士の接合材に対して、単に、溶体化処理及び焼入れを行った場合には、摩擦撹拌接合時の入熱により熱膨張した後の熱収縮により、熱影響部に転位が導入され、しかも、その転位密度が比較的に小さいため、溶体化処理時に、そのような熱影響部で、結晶粒径が1mmを越えるような粗大再結晶(グレイングロス)が起こり、ホールペッチ則により、熱影響部の硬度低下が生じてしまい、結局、接合材のプレス成形時に、最も硬度の小さな熱影響部で応力集中が惹起されて、容易に破断される現象が生ずることが認められた。
そこで、本発明者等が、接合材の溶体化処理時における熱影響部での粗大再結晶の発生を回避するための方策について、更に鋭意研究を重ねた結果、摩擦撹拌接合操作の実施に先立って、接合されるべき熱処理型アルミニウム合金材に対する冷間加工を行うことにより、熱処理型アルミニウム合金材全体の金属組織を、転位密度が増大した冷間加工組織とすれば、接合材に対する溶体化処理時における熱影響部での粗大再結晶の発生が効果的に回避されて、接合部と熱影響部と母材部の各部位における金属組織の均一化が図られ、それにより、それら各部位における硬度のバランスが良好にコントロールされ得ることを、見出したのである。
すなわち、本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであって、その第一の態様とするところは、(a)2000系、6000系又は7000系熱処理型アルミニウム合金材を冷間加工する工程と、(b)かかる冷間加工により、全体の金属組織が、転位密度が増大した冷間加工組織とされた前記熱処理型アルミニウム合金材を、その冷間加工組織を保持した状態において、摩擦撹拌接合して、接合材を得る工程と、(c)該接合材に対して、溶体化処理及び焼入れを行う工程とを含み、且つ1)前記熱処理型アルミニウム合金材が2000系アルミニウム合金材であるときには、前記溶体化処理が、前記接合材を、480〜540℃の温度に昇温し、かかる温度で2時間以下の時間、保持する熱処理であり、2)前記熱処理型アルミニウム合金材が6000系アルミニウム合金材であるときには、前記溶体化処理が、前記接合材を、500〜580℃の温度に昇温し、かかる温度で2時間以下の時間、保持する熱処理であり、3)前記熱処理型アルミニウム合金材が7000系アルミニウム合金材であるときには、前記溶体化処理が、前記接合材を、430〜490℃の温度に昇温し、かかる温度で2時間以下の時間、保持する熱処理であることを特徴とする熱処理型アルミニウム合金材の接合方法にある。
また、本発明に従う熱処理型アルミニウム合金材の接合方法の好ましい第二の態様においては、前記熱処理型アルミニウム合金材に対する冷間加工が、20%以上の加工率において実施されることとなる。
さらに、本発明に従う熱処理型アルミニウム合金材の接合方法の他の有利な第三の態様では、前記溶体化処理が、ソルトバス、空気炉、赤外線加熱又は誘導加熱の何れかの加熱手段による熱処理にて行われる。
更にまた、本発明に従う熱処理型アルミニウム合金材の接合方法の更に別の望ましい第四の態様においては、前記アルミニウム合金材の摩擦撹拌接合されるべき被接合部位に沿って前記摩擦撹拌接合が順次実施されるのに引き続いて、かかる摩擦撹拌接合により得られる前記接合体に対して、所定の加熱手段を用いて、前記溶体化処理及び焼入れが順次行われることとなる。
そして、本発明にあっては、前述せる如きプレス成形用接合材に係る課題の解決のために、その第五の態様とするところは、前記せる本発明に従う熱処理型アルミニウム合金材の接合方法により、熱処理型アルミニウム合金材が接合されて得られるプレス成形用接合材にある。
要するに、本発明に従う熱処理型アルミニウム合金材の接合方法の第一の態様によれば、熱処理型アルミニウム合金材の接合方式として、摩擦撹拌接合方式が採用されているところから、例えば、かかる接合方式として、溶融溶接方式を採用する場合とは異なって、溶融溶接特有の接合不良のない健全な接合部が形成され得、それによって、接合材における接合強度の向上が効果的に図られ得る。
そして、かかる本発明手法によれば、特に、摩擦撹拌接合操作の前に、接合されるべき熱処理型アルミニウム合金材に対して冷間加工が行われ、また、摩擦撹拌接合操作の後に、かかる摩擦撹拌接合操作で得られた接合材に対して溶体化処理及び焼入れが行われるようになっていることで、接合材の接合部と熱影響部と母材部とにおける各部位の金属組織を、何れも、微細な再結晶が生じた溶体化組織と為すことが可能となる。
すなわち、熱処理型アルミニウム合金材全体に対する冷間加工を行った場合、合金材全体の金属組織は、転位密度が増大して、転位が高密度に分散し、且つ再結晶の核が形成された冷間加工組織となる。そして、このような金属組織を有する冷間加工材同士を摩擦撹拌接合すると、その際に生ずる摩擦熱により、接合部の温度が溶体化処理温度に略等しい温度にまで上昇せしめられるところから、接合部は、その金属組織が、主要添加元素(6000系アルミニウム合金材では、Mg,Si,Cu、7000系アルミニウム合金材では、Zn,Mg,Cu、2000系アルミニウム合金材では、Cu,Mg)がアルミ母相中に固溶せしめられ、且つ微細な再結晶が生じた金属組織、所謂微細な再結晶が生じた溶体化組織となる。また、熱影響部は、接合部程、温度が上昇しないため、再結晶が生ずる前段階として結晶粒中の転位が減少する、所謂回復が部分的に惹起された金属組織となる。しかし、接合されるべきアルミニウム合金材は、予め冷間加工が施されて、金属組織が、転位が高密度に分散した冷間加工組織となっているため、熱影響部は、冷間加工を何等行うことなく、単に、摩擦撹拌接合後の熱収縮だけにより転位が導入された状態に比べて、転位密度が十分に大きくされた金属組織となる。一方、母材部は、摩擦撹拌接合中に生ずる摩擦熱の影響を受けないため、金属組織が、摩擦撹拌接合前と同じ加工組織のままで維持される。
そして、接合部と熱影響部と母材部との各部位の金属組織が、上述の如き互いに異なる金属組織とされた接合材に対して溶体化処理及び焼入れを行うと、接合部は、摩擦撹拌接合時の入熱により、既に溶体化処理が行われた状態となっているため、その金属組織は、殆ど変化が見られずに、微細な再結晶が生じた溶体化組織が維持される。一方、熱影響部と母材部は、転位密度が十分に大きくされているため、溶体化処理及び焼入れにより、主要添加元素がアルミ母相中に固溶せしめられ、且つ微細な再結晶が生じた金属組織、つまり、接合部と同様に、微細な再結晶が生じた溶体化組織を有するようになる。
かくして、接合されるべき熱処理型アルミニウム合金材に対して、先ず、冷間加工を行い、次いで、かかる冷間加工により、全体の金属組織が、転位が高密度に分散する冷間加工組織とされた冷間加工材に対する摩擦撹拌接合を実施し、その後、この摩擦撹拌接合にて得られた接合材に対して、溶体化処理及び焼入れを行うことにより、初めて、接合材における接合部と熱影響部と母材部の各部位の金属組織が、何れも、硬度(強度)に寄与する添加元素が溶入化された、微細な再結晶の生じた溶体化組織となって、略同一の金属組織を有するようになり、以て、それら接合部と熱影響部と母材部の各部位の硬さ(強度)が、略均一な大きさとされる。
このように、本発明に係る熱処理型アルミニウム合金材の接合方法では、熱処理型アルミニウム合金材同士の接合材の接合部と熱影響部と母材部の硬度を略均一に為すことが出来るため、熱影響部の硬度が最も小さくされた接合材を得る従来の接合手法とは異なって、接合により得られた接合材のプレス成形時に、熱影響部において応力集中が惹起せしめられて、熱影響部が容易に破断するようことを有利に解消せしめ得る。そして、それによって、接合部と熱影響部と母材部とにおいて、略均一な伸び変形を実現せしめ得て、接合材全体における、より十分な変形量の確保が可能となる。
従って、かくの如き本発明に従う熱処理型アルミニウム合金材の接合方法によれば、熱処理型アルミニウム合金材を、優れた接合強度をもって接合し得ると共に、接合により得られる接合材のプレス成形性を、極めて効果的に高めることが出来るのである。
また、本発明に従う熱処理型アルミニウム合金材の接合方法の第二の態様によれば、冷間加工された熱処理型アルミニウム合金材の金属組織が、より高密度に転位が分散せしめられた冷間加工組織となり、それによって、摩擦撹拌接合後の熱影響部の金属組織において、より十分に大きな転位密度が確保され得る。それ故に、接合材に対する溶体化処理及び焼入れを行うことで、接合材の接合部と熱影響部と母材部の各部位における金属組織が、更に一層確実に均一なものと為され得て、それらの各部位の硬度の均一化が、より安定的に図られ得ることとなる。
さらに、本発明に従う熱処理型アルミニウム合金材の接合方法の前記第一の態様によれば、6000系アルミニウム合金材同士の接合材と、2000系アルミニウム合金材同士の接合材と、7000系アルミニウム合金材同士の接合材のそれぞれにおける溶体化処理が確実に行われて、主要添加元素の固溶と再結晶化とが十分に惹起され、それによって、それら各接合材の接合部と熱影響部と母材部の各部位の金属組織の均一化、更にはそれによる各部位の硬度の均一化が、より効果的に実現され得る。そして、その結果、それらの接合材のプレス成形性が、更に一層有利に高められ得ることとなる。
また、本発明に従う熱処理型アルミニウム合金材の接合方法の第三の態様によれば、接合材に対する溶体化処理が安定的且つ確実に行われて、上述の如き優れた効果が、より確実に奏され得ることとなる。
さらに、本発明に従うアルミニウム合金材の接合方法の第四の態様によれば、熱処理型アルミニウム合金材に対する摩擦撹拌接合操作と、かかる操作にて得られる接合材に対する溶体化処理及び焼入れのための操作とが、一連の作業にて、連続的に実施され得るため、熱処理型アルミニウム合金材の接合操作の効率化が図られ得て、上述の如き高い接合強度と優れたプレス成形性とを有する接合材を、優れた作業性をもって迅速に得ることが可能となる。
そして、プレス成形用接合材に係る本発明の第五の態様においては、予め冷間加工が施されて、全体の金属組織が、転位密度が増大した冷間加工組織とされた熱処理型アルミニウム合金材同士が摩擦撹拌接合された接合材からなると共に、かかる接合材に対して、溶体化処理及び焼入れが行われて、構成されるものであるところから、接合材の接合部と熱影響部と母材部の各部位における金属組織が、何れも、主要添加元素がアルミ母相中に固溶せしめられ、且つ微細な再結晶が生じた金属組織、つまり、微細な再結晶が生じた溶体化組織を有するように構成され、それによって、接合部と熱影響部と母材部の各部位における金属組織の均一化、更にはそれによる硬度の均一化が実現され得る。
従って、かくの如き本発明に従うプレス成形用接合材にあっては、高い接合強度と優れたプレス成形性とが、極めて有利に発揮され得ることとなるのである。
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明に係る熱処理型アルミニウム合金材の接合方法とプレス成形用接合材の構成について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
先ず、図1には、本発明に従う接合方法により、熱処理型アルミニウム合金材を接合して得られた接合材の一例として、自動車のインナー材等のボデーパネルを与えるプレス成形用接合材たるテーラードブランク材10が、その縦断面形態において、概略的に示されている。かかる図1に示されるように、テーラードブランク材10は、平板形状を呈する2枚のアルミニウム母材12,14が、それぞれの端面同士において、互いに突き合わされた状態下で、それらの突合せ部が摩擦撹拌接合されて、接合部16が形成されることにより、一体化せしめられて、構成されている。
なお、図1には明示されてはいないものの、2枚の平板状のアルミニウム母材12,14は、突合せ部の全長に亘って接合されており、以て、接合部16が、かかる突合せ部に沿って、全長に連続して延びるように形成されている。また、かかるテーラードブランク材10においては、接合部16の外側に位置する限られた狭い範囲の部分が、摩擦撹拌接合時の入熱によって、不可避的に軟化せしめられた熱影響部18とされており、更に、それら接合部16と熱影響部18以外の部位が、各アルミニウム母材12,14に由来する母材部20,22とされている。なお、各アルミニウム母材12,14の板厚は、特に限定されるものではなく、例示の如く、同一の厚さとされていても良いし、或いは互いに異なる厚さとされていても良い。
そして、ここでは、かかるテーラードブランク材10を構成する2枚の平板状のアルミニウム母材12,14として、JIS呼称の合金番号にて6000系(Al−Mg−Si系)、2000系(Al−Cu−Mg系)、7000系(Al−Zn−Mg系)と称される、所謂熱処理型アルミニウム合金からなるものが用いられている。なお、このような各アルミニウム母材12,14を与える熱処理型アルミニウム合金の種類は、具体的には、6000系合金として、JIS A6061合金、JIS A6063合金等のSi含有量が少ないものや、AA6016合金、AA6111合金等のSi含有量が多いもの等が挙げられ、また、2000系合金としては、JIS A2014合金、JIS A2017合金、JIS A2024合金等が例示され得る。更に、7000系合金としては、JIS A7075合金、JIS A7N01合金等を挙げることが出来る。なお、それら各アルミニウム母材12,14は、同一種類の熱処理型アルミニウム合金からなるものであっても、或いは互いに異なる種類の熱処理型アルミニウム合金からなるものであっても良い。
而して、本実施形態においては、先ず、上述の如き熱処理型アルミニウム合金からなる板状素材に対して冷間加工を行い、次いで、この冷間加工された熱処理型アルミニウム合金からなる板材の2枚をアルミニウム母材12,14として用いて、それら各アルミニウム母材12,14を摩擦撹拌接合して、接合材を得、そして、かくして得られた接合材に対して溶体化処理及び焼入れを行う特別な接合方式により、2枚のアルミニウム母材12,14が接合されて、テーラードブランク材10が形成されているのであり、そこに、従来には見られない大きな特徴が存しているのである。
すなわち、例示されるテーラードブランク材10を得る際には、先ず、所定の熱処理型アルミニウム合金素材に対して冷間加工が施されて、接合されるべき2枚の平板状のアルミニウム母材12,14が準備される。例えば、適当な熱処理型アルミニウム合金が、通常のDC法による半連続鋳造法によって造塊され、そして、この得られた造塊物に対して均質化処理が施された後、熱間圧延され、更に冷間圧延が行われて得られた冷間圧延板材や、CC法により製造された連続鋳造圧延板に対して冷間圧延が行われて得られた冷間圧延板材等が、各アルミニウム母材12,14として、用いられる。なお、かくして得られる冷間圧延板材は、冷間圧延時に、必要に応じて、冷間圧延前或いは冷間圧延途中に、中間焼鈍が行われていても良い。
また、上述のようにして得られた冷間圧延板材を溶体化処理後、焼入れし、自然時効を経て、T4調質された板材を、更に冷間圧延して得られた冷間圧延板材や、押出し材や鋳造材に対して冷間圧延が行われて得られた冷間圧延板材も、アルミニウム母材12,14として用いることが出来る。
なお、ここでは、各アルミニウム母材12,14が平板形状を有するものであるところから、熱処理型アルミニウム合金素材に対する冷間加工が、冷間圧延により実施された例が示されているが、本操作で行われる冷間加工としては、接合されるべきアルミニウム母材の形状等に応じて、冷間圧延の他、冷間鍛造や冷間引抜き等の加工が、適宜に採用され得る。
すなわち、ここで言う冷間加工とは、熱処理型アルミニウム合金素材全体の金属組織が、再結晶の核が形成されると共に、転位密度が増大して、転位が高密度に分散せしめられた冷間加工組織となるように実施される加工であって、具体的には、加工後の断面積が、加工前に比して減少せしめられるような、熱処理型アルミニウム合金素材に対する冷間での塑性加工を言うのである。
また、このような熱処理型アルミニウム合金素材に対する冷間加工は、20%以上の加工率(冷間加工によって減少した素材の断面積の原断面積に対する割合)において実施されていることが、望ましい。何故なら、上述の如く、熱処理型アルミニウム合金素材に対する冷間加工が行われることにより、かかる冷間加工後の各アルミニウム母材12,14全体の金属組織が、転位密度が増大して、転位が高密度に分散し、且つ再結晶の核が形成された冷間加工組織となるのであるが、冷間加工の加工率が20%未満であると、加工組織中において、転位密度を十分に増大させることが困難となって、特に、摩擦撹拌接合後の熱影響部18での転位密度が不足することがあり、そうなった場合には、後述するように、摩擦撹拌接合後の溶体化処理により、熱影響部18の金属組織において再結晶が惹起される際に、熱影響部18で粗大再結晶が生じ、それに起因して、熱影響部18の硬度が低下せしめられる恐れがあるからである。
なお、ここで実施される冷間加工では、その加工率が大きい程、各アルミニウム母材12,14の金属組織中の転位密度が高められて、摩擦撹拌接合後の熱影響部18の転位密度の低下が有利に防止され得、以て、溶体化処理により熱影響部18と母材部20,22の各金属組織中に生ずる再結晶の結晶粒が、より微細なものとなって、プレス成形時の肌荒れの防止を図ることも可能となる。それ故、かかる冷間加工の加工率は、より好ましくは40%以上、最も好ましくは60%以上とされる。なお、この加工率の上限は、加工されるべき熱処理型アルミニウム合金素材に対する冷間加工の加工限度内において、適宜に決定される。
また、各アルミニウム母材12,14全体の金属組織中の転位密度が、後に実施される摩擦撹拌接合後の溶体化処理時における粗大再結晶の発生を回避し得る程度の大きさにおいて確保され得るのであれば、上述の如き冷間加工が施された各アルミニウム母材12,14に対して、後述する摩擦撹拌接合操作に先立って、公知の軟化熱処理や安定化処理を行っても良い。
次に、図2に示されるように、上述の如くして冷間加工されて、全体の金属組織が、高密度に転位が分散せしめられた冷間加工組織となった熱処理型アルミニウム合金材からなる2枚のアルミニウム母材12,14が、互い対応する端面同士において突き合わされた状態下で、互いに相対移動しないように、常法に従って拘束される(図2に明示せず)。そして、それら2枚のアルミニウム母材12,14の突合せ部(接触部位)24に対して、公知の摩擦撹拌接合操作が、実施される。
すなわち、この摩擦撹拌接合操作の実施に際しては、ピン26が先端部に同心的に設けられたロッド状の回転治具28が用いられ、従来と同様に、図示しない公知の回転駆動機構にて、ピン26が、回転治具28と共に一体的に高速回転せしめられつつ、2枚のアルミニウム母材12,14における接合開始端部に差し込まれた後、回転治具28が、かかる突合せ部24に沿って相対移動せしめられることにより、突合せ部24における接合が進行せしめられる。
これによって、一体回転せしめられるピン26や回転治具28と2枚のアルミニウム母材12,14との間に、摩擦熱が発生せしめられ、また、その摩擦熱にて、突合せ部24の周辺部位が塑性加工可能な状態とされる。そして、そのような状態下で、ピン26の高速回転による撹拌作用にて、各アルミニウム母材12,14の突合せ部24の組織が入り交じり合わされて、かかる突合せ部24に沿って接合部16が形成され、以て、2枚のアルミニウム母材12,14が、溶融せしめられることなく、接合されることとなる。なお、この摩擦撹拌接合操作で形成される接合部16においては、ブローホールや酸化物巻き込み等の溶融溶接特有の接合不良のない健全な接合状態が得られる。
そして、このような摩擦撹拌接合操作では、前記摩擦熱にて、接合部16が、450℃以上の温度に達するため、かかる接合部16の金属組織が、溶体化処理を行った場合と同様に、Si、Mg、Cu、Zn等の硬度に寄与する各アルミニウム母材12,14中の主要添加元素がアルミ母相中に固溶されると共に、冷間加工で形成された再結晶の核を基に、微細な再結晶が生じた金属組織、即ち微細な再結晶が生じた溶体化組織となる。また、熱影響部18は、接合部16程、温度が上昇しないため、再結晶の発生の前段階として結晶粒中の転位が減少する回復が部分的に惹起された金属組織となるが、前述のように、ここでは、各アルミニウム母材12,14に対して予め冷間加工が施されて、各アルミニウム母材12,14の金属組織が、転位が高密度に分散せしめられた冷間加工組織とされているため、熱影響部18の金属組織は、冷間加工を何等行うことなく、単に、摩擦撹拌接合後の熱収縮だけにより、転位が導入された状態に比べて、転位密度が十分に大きくされた金属組織となる。一方、母材部20,22は、摩擦撹拌接合中に生ずる摩擦熱の影響を受けないため、金属組織が、摩擦撹拌接合前と同じ加工組織のままで維持される。
なお、本操作においては、2枚のアルミニウム母材12,14の突合せ部24に対する摩擦撹拌接合操作が行われているが、この摩擦撹拌接合操作は、各母材や接合材の形状等に応じて、適宜に変更され得る。例えば、2枚のアルミニウム母材12,14のそれぞれの端部同士を、互いに接触するように重ね合わせ、その重合せ部位に対して、通常の摩擦撹拌接合による重合せ接合操作に基づいて、摩擦撹拌接合操作を実施しても良い。また、例えば、1枚のアルミニウム母材を筒形状に成形し、周方向に突き合わされた端部同士を摩擦撹拌接合しても良い。勿論、何れの摩擦撹拌接合操作を実施するにしろ、母材に対して、予め所定の冷間加工が実施されることとなる。
次いで、上述の如き摩擦撹拌接合操作の実施により、2枚のアルミニウム母材12,14が接合されて、一体化された接合材に対して、溶体化処理が行われた後、それに引き続いて直ちに焼入れが行われる。
具体的には、例えば、図3に示されるように、ソルトバス30に収容された溶融塩32内に、2枚のアルミニウム母材12,14が摩擦撹拌接合されてなる接合材34を浸漬せしめた状態で、各アルミニウム母材12,14の融点直下の一般的な溶体化処理温度にまで、溶融塩32を加熱して、或いは所定の溶体化処理温度にまで加熱された溶融塩32内に、接合材34を浸漬せしめて、接合材34をかかる温度に上昇させ、そして、その温度で所定の時間だけ保持した後、ソルトバス30内から接合材34を取り出し、その後、常温の水道水等が収容された水槽(図示せず)内に接合材34を投入して、強制冷却する熱処理を行うことで、接合材34に対する溶体化処理及び焼入れが、実施されるのである。
このような接合材34に対する溶体化処理及び焼入れが行われることによって、接合材34における熱影響部18と母材部20,22のそれぞれの金属組織が、Si、Mg、Cu、Zn等の強度に寄与する主要添加元素がアルミ母相中に固溶されると共に、冷間加工で形成された再結晶の核を基に、微細な再結晶が生じた金属組織、即ち微細な再結晶が生じた溶体化組織となる。一方、接合部16の金属組織は、既に溶体化処理が行われた状態となっているため、殆ど変化が見られずに、微細な再結晶が生じた溶体化組織が維持される。なお、このとき、熱影響部18と母材部20,22の金属組織中の転位密度が十分に大きくされているため、それら熱影響部18や母材部20,22の金属組織において、粗大再結晶が生ずることはない。
そして、これによって、接合材34における接合部16と熱影響部18と母材部20,22の各部位が、何れも、硬度に寄与する添加元素が溶入化された、微細な再結晶の生じた溶体化組織からなる略同一の金属組織を有するようになり、以て、それら接合部16と熱影響部18と母材部20,22の各部位の硬さが、略均一な大きさとされる。なお、接合部16は、摩擦撹拌接合時における撹拌作用により、再結晶粒が、熱影響部18や母材部20,22の再結晶粒よりも多少小さくなるが、それら接合部16と熱影響部18及び母材部20,22との間での再結晶粒の大きさの差異は、それぞれの部位の硬さに影響を与える程のものではない。
ところで、かかる接合材34に対する溶体化処理は、上述せる如く、ソルトバス30等の加熱装置を利用して、接合材34の温度を徐々に昇温し、所定の温度となった時点で、所望の時間だけ保持する熱処理によって実施されるのであるが、この溶体化処理における処理温度と処理時間は、好適には、接合材34の形成材料たるアルミニウム母材12,14を与える熱処理型アルミニウム合金材の種類に応じて、適宜に決定されることとなる。
すなわち、例えば、アルミニウム母材12,14が6000系アルミニウム合金材からなる場合には、接合材34を500〜580℃の温度に昇温し、その昇温した温度で2時間以下の間、保持されることによって溶体化処理が行われることが好ましく、また、アルミニウム母材12,14が2000系アルミニウム合金材からなる場合には、接合材34を480〜540℃の温度に昇温し、その昇温した温度で2時間以下の間、保持されることによって溶体化処理が行われることが望ましい。更に、アルミニウム母材12,14が7000系アルミニウム合金材からなる場合、好適には、接合材34を430〜490℃の温度に昇温し、その昇温した温度で2時間以下の間、保持されることによって溶体化処理が行われる。
なお、接合材34に対する溶体化処理が、上記の如き好適範囲を下回る温度で実施される場合には、アルミニウム母材12,14(接合材34)を与える熱処理型アルミニウム合金材の種類に関係なく、溶体化処理が完全に行われずに、熱影響部18と母材部20,22での強度に寄与する主要添加元素の固溶が不十分となって、接合部16と熱影響部18と母材部20,22の各部位における金属組織の均一化と、それによる各部位の硬度の均一化の実現が困難となり、結局、熱影響部18において低硬度化が生ずる恐れが大きくなる。また、接合材34に対する溶体化処理が、上記の好適範囲を上回る温度で実施されると、接合材34(アルミニウム母材12,14)の溶融が発生し、そのために、最終的に得られるテーラードブランク材10において、所望の形状を得ることが困難となる。更に、溶体化処理が、処理時間の好適範囲である2時間を超えて実施される場合には、溶体化処理に要される時間が過剰に長くなり、溶体化処理のための作業、ひいて接合作業全体が冗長のものとなって、接合材34(テーラードブランク材10)の生産性の低下が惹起されることとなる。
それ故に、接合体34に対する溶体化処理により、接合体34(テーラードブランク材10)全体の硬度の均一化を確実に且つ安定的に、しかも効率的に実現する上で、かかる溶体化処理が前述の如き好適範囲内の温度と時間とにて実施されることが、望ましいのである。
なお、このような溶体化処理における処理時間の下限値は、特に限定されるものではない。つまり、例えば、溶体化処理温度に昇温、保持されたソルトバス30内に接合体34を浸漬させ、接合体34が目標温度に達した時点で、その温度を何等保持することなく、即座にソルトバス30内から接合体34を取り出し、接合体34の温度を降下せしめて、焼入れを開始することで、目標温度での保持時間を実質的に0と為しても良いのである。また、溶体化処理における昇温速度、つまり接合体34の温度を目標温度にまで上昇させる昇温速度は、例えば、目標温度等に応じて適宜に決定されるところであるが、溶体化処理における作業効率の点から、1℃/秒以上であることが好ましい。また、昇温速度が大きくなると、再結晶の結晶粒がより微細なものとなり、それによって、プレス成形時における肌荒れの防止が図られ得るところから、そのような効果が確実に得られるようにする上では、昇温速度が5℃/秒以上とされていることが、より望ましいのである。
一方、かくの如き接合材34に対する溶体化処理の完了後、直ちに実施される焼入れは、従来と同様に、溶体化処理により所定の温度にまで上昇せしめられた接合材34を強制冷却するものであるが、その冷却速度(降温速度)は、特に限定されるものではないものの、好適には、接合材34の形成材料たるアルミニウム母材12,14を与える熱処理型アルミニウム合金材の種類によって、適宜に決定される。
すなわち、例えば、アルミニウム母材12,14が6000系アルミニウム合金材からなる場合には、冷却速度が2℃/秒以上とされることが好ましく、アルミニウム母材12,14が2000系アルミニウム合金材からなる場合には、冷却速度が15℃/秒以上とされることが望ましい。また、アルミニウム母材12,14が7000系アルミニウム合金材からなる場合、好適には、冷却速度が1℃/秒以上とされる。このような冷却速度で焼入れが実施されることによって、焼入れ作業、ひいては接合作業全体の安定化と効率化とが図られ得、また、それらの好適冷却速度範囲内で、冷却速度をより大きく為すことによって、接合材34全体の硬度を有利に上昇させることが可能となる。なお、アルミニウム母材12,14が6000系アルミニウム合金材からなる場合には、接合材34(テーラードブランク材10)に塗装焼付硬化性を付与する目的で、焼入れ後に、接合材34を40〜120℃の温度に昇温し、その温度で1〜24時間保持する熱処理からなる予備時効処理を行っても良い。
また、このような接合材34に対する溶体化処理及び焼入れの実施に際して用いられる加熱装置や冷却装置は、特に限定されるものではなく、公知の各種の装置の中から適宜に選択されて、用いられる。例えば、溶体化処理のために使用される加熱装置は、例示のソルトバス30の他、空気炉、赤外線加熱装置、誘導加熱装置等が、好適に用いられ得るのであり、また、焼入れのために使用される冷却装置も、例示の水槽以外に、所定の冷媒を接合材34に吹き付け得るような構造の装置等が用いられ得る。
さらに、溶体化処理に用いられる加熱装置と焼入れに用いられる冷却装置のそれぞれの設置箇所を工夫することにより、摩擦撹拌接合操作と溶体化処理及び焼入れを同一のライン上で行うことも出来る。即ち、例えば、摩擦撹拌接合操作に用いられる回転治具28の配置位置よりも接合方向後方側に加熱装置を設置し、更に、その後方側に冷却装置を設置すれば、摩擦撹拌接合操作に引き続き、接合材34の完成を待たずに、幅方向において接合部16と熱影響部18と母材部20,22とがそれぞれ形成されて、接合された接合材部分に対して、回転治具28よりも接合方向後方側に位置する加熱装置にて、溶体化処理を、順次、実施し、その後、直ちに、かかる溶体化処理が施された部分に対して、加熱装置よりも後方側に位置する加熱装置にて、焼入れを、順次、実施することが出来る。
かくして、同一ライン(オンライン)上で、摩擦撹拌接合操作と溶体化処理及び焼入れのための操作を実施すれば、それら操作が、一連の作業にて、連続的に実施され得て、アルミニウム母材12,14の接合作業の効率化が有利に図られ得、以て、目的とするテーラードブランク材10が、優れた作業性をもって迅速に得られることとなる。
なお、このようなオンライン作業での溶体化処理及び焼入れの実施に際して用いられる加熱装置と冷却装置は、特に限定されるものではないものの、少なくとも、摩擦撹拌接合された部位における接合部16と熱影響部18と母材部20,22を含む幅方向の全体を同時に加熱乃至は冷却可能な装置が選択される。このような加熱装置としては、例えば、上記例示された装置の中から赤外線加熱装置、誘導加熱装置等が用いられ、また、冷却装置には、所定の冷媒を吹き付ける装置等が用いられる。更に、それら加熱装置と冷却装置を組み合わせた装置として、例えば連続焼鈍炉等が用いられ得る。なお、この連続焼鈍炉が用いられる場合には、溶体化処理時における接合材部分の目標温度での保持時間が、好ましく300秒以内、より好ましくは60秒以内とされる。また、かかるオンライン作業では、アルミニウム母材12,14が板材である場合に、例えば、所定長さの板状母材が巻回されてなるコイル材を、アルミニウム母材12,14として用いることが出来る。
このように、本実施形態においては、冷間加工されて、全体の金属組織が、高密度に転位が分散した冷間加工組織とされた2枚のアルミニウム母材12,14の突合せ部24に対する摩擦撹拌接合操作を行って、接合体34を得た後、かかる接合体34に対する溶体化処理及び焼入れを行うことによって、接合部16と熱影響部18と母材部20,22の各部位の硬さが、略均一な大きさとされた、目的とするテーラードブランク材10が、形成されることとなる。
そして、かくして得られたテーラードブランク材10にあっては、接合部16と熱影響部18と母材部20,22とが、略均一な硬さを有して構成されているところから、限られた狭い範囲に存在する熱影響部18が最も低い硬度とされた従来のアルミニウム合金接合材とは異なって、プレス成形された際に、熱影響部18において応力集中が惹起されて、熱影響部18が容易に破断してしまうようなことが有利に回避され、それによって、プレス成形時に、接合部16と熱影響部18と母材部20,22とにおいて、略均一な伸び変形が実現せしめられ得て、テーラードブランク材10全体における、より十分な変形量が効果的に確保され得る。
従って、かくの如き本実施形態によれば、高い接合強度と優れたプレス成形性を発揮するテーラードブランク材10が、極めて効果的に且つ安定的に得られることとなるのである。
なお、本実施形態では、平板状の熱処理型アルミニウム合金材の2枚を接合する熱処理型アルミニウム合金材の接合方法に対して、本発明を適用したものの具体例を示したが、平板状以外の形状を有する熱処理型アルミニウム合金材の二つを接合する手法や、1枚の板状の熱処理型アルミニウム合金材を筒型に成形して、その周方向に突き合わされる端部同士を接合する手法等、熱処理型アルミニウム合金材を摩擦撹拌接合を利用して接合する手法の何れに対しても有利に適用され得るものであることは、勿論である。
また、本発明は、自動車のインナー材等のボデーパネルを与えるプレス成形用接合材(テーラードブランク材)以外の各種のプレス成形用接合材に対しても、有利に適用され得る。
その他、本発明は、各種の形態において実施され得るものであって、当業者の知識に基づいて採用される本発明についての種々なる変更、修正、改良に係る各種の実施の形態が、何れも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、本発明の範疇に属するものであることが、理解されるべきである。
以下に、本発明の幾つかの実施例を示し、本発明の特徴を更に明確にすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。
<実施例1>
先ず、下記表1に示される如き化学成分(成分組成)を有する3種類の2000系アルミニウム合金(A〜C)からなる鋳塊と、5種類の6000系アルミニウム合金(D〜H)からなる鋳塊と、2種類の7000系アルミニウム合金(I,J)とからなる鋳塊とを、それぞれ公知のDC鋳造法により鋳造した。
次に、この鋳造された10種類の合金(A〜J)ならなる鋳塊のそれぞれのものに対して、均質化処理と熱間圧延を行った後、冷間圧延を実施して、厚さ1.0mmの冷間圧延板を作製し、以て、互いに化学成分の異なる10種類の熱処理型アルミニウム合金からなる冷間圧延板を準備した。なお、それら10種類の冷間圧延板を得るのに実施される冷間圧延は、50%の加工率において行った。
引き続き、かくして準備された10種類の冷間圧延板のそれぞれ2枚ずつを母材として用い、互いに同じ化学成分を有する冷間圧延板同士を、その圧延方向(長手方向)において互いに突き合わせた後、それらの突合せ部に対する摩擦撹拌接合を行って、熱処理型アルミニウム合金からなる母材の化学成分が互いに異なる10種類の接合材を得た。なお、ここでの摩擦撹拌接合は、鋼製の回転工具を、回転数:1000rpm、接合速度:400mm/分で水平移動させる条件下において実施した。また、ここで用いられる回転工具の端部には、より十分な撹拌作用を惹起させることを目的として、深さ1mmの溝を8カ所設けた。
次いで、この得られた10種類の接合材のそれぞれに対して、表2に示される条件で、ソルトバスを用いた溶体化処理を行った後、直ちに、各接合材を常温の水道水が収容された水槽内に投入して、強制冷却することにより、それら各接合材に対する焼入れを行った。そして、その後、10種類の接合材を20℃で7日間保管することで、各接合材をT4調質材として、10種類の試験材(1〜10)を各々作製した。
そして、上述のようにして得られた10種類の試験材(1〜10)のそれぞれの硬さ分布を調べるために、先ず、各試験材1〜10から、長手の試験片を、母材同士の接合線が、試験片の中心において幅方向に延びるように、それぞれ切り出して、作製した。次いで、それら各試験片の切断面に対して、樹脂埋めと研磨とを行った後、ビッカース硬さ試験機を用いて、荷重1kgfで、各試験片における接合部と熱影響部と母材部の各部位における硬さ測定を行った。その結果を、下記表2に併せて示した。
また、10種類の試験材(1〜10)の接合強度及び破断伸びを調べるために、上記硬さ試験を行うための試験片とは別に、JIS−5号形の試験片を、母材同士の接合線が、試験片の中心において、後述する引張試験における引張方向に対して直角な方向に延出して位置せしめられるように、それぞれ切り出して、作製した。そして、それら各試験材(1〜10)から各々1種類ずつ作製した10種類の試験片に対して、常温で、JIS Z 2241に従って引張試験を行い、標点間距離50mmにおける引張強さと耐力と破断伸びの測定を、それぞれ行った。また、引張試験で破断した部位が、接合部と熱影響部と母材部の何れであるかを視認により調べた。それらの結果を、下記表2に併せて示した。
さらに、10種類の試験材(1〜10)のプレス成形性を調べるために、上記硬さ試験や引張試験を行う試験片とは別に、10種類の試験材(1〜10)から、直径120mmの円板状試験片を、母材同士の接合線が試験片の中心に位置するように切り出して、それぞれ作製した。そして、この各試験材(1〜10)から各々1種類ずつ作製した10種類の円板状試験片とエリクセン試験機とを用い、各試験片の表面に低粘度潤滑油を塗布した後、それら各試験片に対して、しわ押え力40kN、成形速度2.0mm/sの条件で、直径50mmの球頭ポンチを用いた張出し加工を行って、各試験片の限界成形高さを調べた。このとき、しわ押えのダイスには、全周に亘って、幅3mm、高さ0.5mmのロックビードを設け、材料流入を防止した。その結果を、下記表2に併せて示した。
かかる表2から明らかなように、本発明手法に従って、熱処理型アルミニウム合金からなる冷間圧延板同士が摩擦撹拌接合された後、溶体化処理及び焼入れが施されてなる各試験材(1〜10)においては、何れも、接合部と熱影響部と母材部のそれぞれの硬度が略同じ大きさとなっている。また、それら各試験材(1〜10)は、何れも、破断伸びが16%以上で、限界成形高さが15mm以上のそれぞれ大きな値となっており、更に、引張試験において、接合部で破断せしめられている。なお、接合部で破断が生ずるのは、摩擦撹拌接合により、接合部が、熱影響部や母材部よりも若干薄肉となっていることによるものと考えられる。
これらのことから、本発明手法に従って、熱処理型アルミニウム合金材を冷間加工した後、かかる冷間加工により、全体の金属組織が、転位密度が増大した冷間加工組織とされた熱処理型アルミニウム合金材同士を摩擦撹拌接合し、その後、かかる接合により得られる接合材に対して溶体化処理及び焼入れを行うことによって、接合強度が十分に高められ得ると共に、プレス成形性の向上が効果的に図られ得ることが、明確に認識され得るのである。
<実施例2>
また、前記実施例1とは別に、前記表1に示される如き化学成分(成分組成)を有する10種類の熱処理型アルミニウム合金からなる鋳塊を、それぞれ公知のDC鋳造法により鋳造した。その後、この鋳造された10種類の合金(A〜J)ならなる鋳塊のそれぞれのものに対して、均質化処理と熱間圧延を行った後、冷間圧延を実施して、厚さが2.0mmとされた、互いに化学成分の異なる10種類の板材を作製した。次に、これら10種類の板材に対して、下記表3に示される条件で、ソルトバスを用いた溶体化処理を行った後、直ちに、各接合材を常温の水道水が収容された水槽内に投入して、焼入れを行い、その後、更に冷間圧延を行って、厚さが1.0mmとされた、互いに化学成分の異なる10種類の冷間圧延板を作製した。なお、このときの冷間圧延は、50%の加工率において行った。
引き続き、かくして作製された10種類の冷間圧延板のそれぞれ2枚ずつを母材として用い、互いに同じ化学成分を有する冷間圧延板同士を、前記実施例1と同一条件で摩擦撹拌接合して、熱処理型アルミニウム合金からなる母材の化学成分が互いに異なる10種類の接合材を得た。
次いで、この得られた10種類の接合材のそれぞれに対して、表3に示される条件で、再度、ソルトバスを用いた溶体化処理を行った後、直ちに、各接合材を常温の水道水が収容された水槽内に投入して、強制冷却することにより、それら各接合材に対する焼入れを行った。そして、その後、10種類の接合材を20℃で7日間保管することで、各接合材をT4調質材として、10種類の試験材(11〜20)を各々作製した。
そして、前記実施例1と同様にして、それら10種類の試験材(11〜20)のそれぞれにおける接合部と熱影響部と母材部のビッカース硬さを測定し、また、各試験材(11〜20)の引張強さ、耐力、破断伸び、限界成形高さ、及び引張試験での破断位置とを、それぞれ調べ、更に、各試験材(11〜20)の限界成形高さを調べた。それらの結果を、下記表3に併せて示した。
かかる表3から明らかなように、本発明手法に従って、熱処理型アルミニウム合金からなる冷間圧延板同士が摩擦撹拌接合された後、溶体化処理及び焼入れが施されてなる各試験材(11〜20)は、母材たる冷間圧延板が、溶体化処理及び焼入れが施された履歴を有するものであるにも拘わらず、何れも、接合部と熱影響部と母材部のそれぞれの硬度が略同じ大きさとなっている。また、それら各試験材(11〜20)は、何れも、破断伸びが16%以上で、限界成形高さが15mm以上のそれぞれ大きな値となっており、更に、引張試験において、接合部で破断せしめられている。なお、接合部で破断が生ずるのは、前記実施例1と同様に、摩擦撹拌接合により、接合部が、熱影響部や母材部よりも若干薄肉となっていることによるものと考えられる。
これらのことからも、本発明手法に従って、熱処理型アルミニウム合金材を冷間加工した後、かかる冷間加工により、全体の金属組織が、転位密度が増大した冷間加工組織とされた熱処理型アルミニウム合金材同士を摩擦撹拌接合し、その後、かかる接合により得られる接合材に対して溶体化処理及び焼入れを行うことによって、接合強度が十分に高められ得ると共に、プレス成形性の向上が効果的に図られ得ることが、更に明確に認識され得るのである。
<比較例1>
また、比較のために、先ず、前記実施例1で準備された、互いに化学成分の異なる10種類の熱処理型アルミニウム合金からなる、厚さが1.0mmの冷間圧延板を用い、これら10種類の冷間圧延板に対して、下記表4に示される条件で、ソルトバスを用いた溶体化処理を行った後、直ちに、各接合材を常温の水道水が収容された水槽内に投入して、焼入れを行った。そして、その後、各冷間圧延板を、20℃で7日間保管することで、T4調質板材とした。
次に、この10種類のT4調質板材に対して、冷間圧延を何等行うことなく、それら各T4調質板材のそれぞれ2枚ずつを母材として用い、互いに同じ化学成分を有するT4調質板材同士を前記実施例1と同一条件で摩擦撹拌接合して、熱処理型アルミニウム合金からなる母材の化学成分が互いに異なる10種類の接合材を得た。その後、10種類の接合材を20℃で7日間保管することで、摩擦撹拌接合前に冷間圧延が行われておらず、従って、全体の金属組織が冷間加工組織とは異なるものであって、しかも摩擦撹拌接合後に溶体化処理及び焼入れも何等施されていない、つまり、単に、熱処理型アルミニウム合金のT4調質材を摩擦撹拌接合しただけの10種類の試験材(21〜30)を各々作製した。
そして、前記実施例1と同様にして、それら10種類の試験材(21〜30)のそれぞれにおける接合部と熱影響部と母材部のビッカース硬さを測定し、また、各試験材(21〜30)の引張強さ、耐力、破断伸び、限界成形高さ、及び引張試験での破断位置とを、それぞれ調べ、更に、各試験材(21〜30)の限界成形高さを調べた。それらの結果を、下記表4に併せて示した。
かかる表4から明らかなように、単に、熱処理型アルミニウム合金のT4調質材に対して、従来と同様な摩擦撹拌接合しただけの各試験材(21〜30)は、何れも、熱影響部の硬度が、接合部や母材部の硬度よりも明らかに小さな値となっている。また、表2と表4とを比較して分かるように、本発明手法とは異なる手法で接合された各試験材(21〜30)の引張強さが、本発明手法に従って接合された各試験材(1〜10)の対応するものの引張強さに比べて、明らかに小さな値となっている。更に、各試験材(21〜30)は、何れも、破断伸びが12%以下で、限界成形高さが15mm未満のそれぞれ小さな値となっており、また、引張試験において、熱影響部で破断せしめられている。
これらの結果は、本発明手法とは異なって、接合されるべき母材全体の金属組織を、転位密度が増大した冷間加工組織とするための冷間加工が摩擦撹拌接合前に実施されておらず、しかも、摩擦撹拌接合後の溶体化処理及び焼入れも何等行われていない、単に、熱処理型アルミニウム合金のT4調質材を摩擦撹拌接合して得られたに過ぎない接合材が、本発明手法に従う接合手法により接合されてなる接合材に比して、接合強度とプレス成形性とにおいて明らかに劣るものであることを、如実に示している。
<比較例2>
さらに、比較のために、先ず、前記実施例1で準備された、互いに化学成分の異なる10種類の熱処理型アルミニウム合金からなる、厚さが1.0mmの冷間圧延板を用い、これら10種類の冷間圧延板に対して、下記表5に示される条件で、ソルトバスを用いた溶体化処理を行った後、直ちに、各接合材を常温の水道水が収容された水槽内に投入して、焼入れを行った。そして、その後、各冷間圧延板を、20℃で7日間保管することで、T4調質材とした。
次に、この10種類のT4調質板材に対して、冷間圧延を何等行うことなく、それら各T4調質板材のそれぞれ2枚ずつを母材として用い、互いに同じ化学成分を有するT4調質板材同士を、前記実施例1と同一条件で摩擦撹拌接合して、熱処理型アルミニウム合金からなる母材の化学成分が互いに異なる10種類の接合材を得た。
その後、この得られた10種類の接合材のそれぞれに対して、表5に示される条件で、再度、ソルトバスを用いた溶体化処理を行った後、直ちに、各接合材を常温の水道水が収容された水槽内に投入して、強制冷却することにより、それら各接合材に対する焼入れを行った。更に、その後、10種類の接合材を20℃で7日間保管することで、各接合材をT4調質材として、10種類の試験材(31〜40)を各々作製した。
そして、前記実施例1と同様にして、それら10種類の試験材(31〜40)のそれぞれにおける接合部と熱影響部と母材部のビッカース硬さを測定し、また、各試験材(31〜40)の引張強さ、耐力、破断伸び、限界成形高さ、及び引張試験での破断位置とを、それぞれ調べ、更に、各試験材(31〜40)の限界成形高さを調べた。それらの結果を、下記表5に併せて示した。
かかる表5から明らかなように、本発明手法とは異なって、摩擦撹拌接合後に、接合材に対して溶体化処理及び焼入れは行われるものの、摩擦撹拌接合前に、母材の金属組織の全体を冷間加工組織とするための冷間加工が何等行われない接合手法にて得られた各試験材(31〜40)は、何れも、熱影響部の硬度が、接合部や母材部の硬度よりも明らかに小さな値となっている。また、表2と表5とを比較して分かるように、本発明手法とは異なる手法で接合された各試験材(31〜40)の引張強さが、本発明手法に従って接合された各試験材(1〜10)の対応するものの引張強さに比べて、明らかに小さな値となっている。更に、各試験材(31〜40)は、何れも、破断伸びが13%以下で、限界成形高さが15mm未満のそれぞれ小さな値となっており、また、引張試験において、熱影響部で破断せしめられている。
これらの結果においても、本発明手法とは異なって、単に、摩擦撹拌接合後に、接合材に対する溶体化処理及び焼入れだけが行われて得られた接合材が、本発明手法に従う接合手法により接合されてなる接合材に比して、接合強度とプレス成形性とにおいて劣るものであることを、如実に示している。
<比較例3>
また、別の比較のために、先ず、前記実施例1で準備された、互いに化学成分の異なる10種類の熱処理型アルミニウム合金からなる、厚さが1.0mmの冷間圧延板を2枚ずつ用い、互いに同じ化学成分を有する冷間圧延板同士を、前記実施例1と同一条件で摩擦撹拌接合して、熱処理型アルミニウム合金からなる母材の化学成分が互いに異なる10種類の接合材を得た。
次いで、この得られた10種類の接合材のそれぞれに対して、表6に示されるように、一般的な溶体化処理温度よりも明らかに低い温度条件で、ソルトバスを用いた溶体化処理を行った後、直ちに、各接合材を常温の水道水が収容された水槽内に投入して、強制冷却することにより、それら各接合材に対する焼入れを行った。そして、その後、10種類の接合材を20℃で7日間保管することで、各接合材をT4調質材として、10種類の試験材(41〜50)を各々作製した。
そして、前記実施例1と同様にして、それら10種類の試験材(41〜50)のそれぞれにおける接合部と熱影響部と母材部のビッカース硬さを測定し、また、各試験材(41〜50)の引張強さ、耐力、破断伸び、限界成形高さ、及び引張試験での破断位置とを、それぞれ調べ、更に、各試験材(41〜50)の限界成形高さを調べた。それらの結果を、下記表6に併せて示した。
かかる表6から明らかなように、摩擦撹拌接合後に、接合材に対する溶体化処理が低温で行われた各試験材(41〜50)は、何れも、熱影響部の硬度が、接合部や母材部の硬度よりも明らかに小さな値となっており、また、母材部の硬度も、接合部に比べて著しく低い値となっている。また、表2と表6とを比較して分かるように、摩擦撹拌接合後の溶体化が低温で行われた各試験材(41〜50)の引張強さと耐力とが、本発明手法に従って接合された各試験材(1〜10)の対応するものの引張強さと耐力に比べて、何れも著しく小さな値となっている。これは、溶体化処理の温度が低過ぎたために、溶体化処理が完全に行われず、各試験材(41〜50)における熱影響部の金属組織中の主要添加元素の溶入化が不十分であったことによるものと考えられる。
また、表6から明らかな如く、摩擦撹拌接合後に、接合材に対する溶体化処理が低温で行われた各試験材(41〜50)は、何れも、破断伸びが15%以下で、限界成形高さが12mm未満のそれぞれ小さな値となっており、更に、引張試験において、熱影響部で破断せしめられている。
これらの結果は、本発明手法に従って、熱処理型アルミニウム合金材を冷間加工した後、かかる冷間加工により、全体の金属組織が冷間加工組織とされた熱処理型アルミニウム合金材同士を摩擦撹拌接合し、その後、かかる接合により得られる接合材に対して、溶体化処理及び焼入れを完全に行うことによって、初めて、接合強度とプレス成形性の向上が図られ得ることを、如実に示しているのである。
本発明手法に従って熱処理型アルミニウム合金材同士が接合されてなるプレス成形用接合材の一例の縦断面の一部を拡大して示す説明図である。
本発明手法に従って、熱処理型アルミニウム合金材同士を接合する一工程例を示す説明図であって、アルミニウム合金材同士の突合せ部を摩擦撹拌接合している状態を示している。
本発明手法に従って、熱処理型アルミニウム合金材同士を接合する、図2に続く工程例を示す説明図であって、アルミニウム合金材同士を摩擦撹拌接合により接合して得られた接合体に対する溶体化処理を実施している状態を示している。
符号の説明
10 テーラードブランク材 12,14 アルミニウム母材
16 接合部 18 熱影響部
20,22 母材部 24 突合せ部
26 ピン 28 回転治具
30 ソルトバス 32 溶融塩
34 接合体