JP4321839B2 - ビスフェノールaの製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は固定床流通装置で、スルホン酸基とメルカプト基を共に有する固体触媒を触媒としてフェノールとアセトンからビスフェノールAを製造するに際し、該固体触媒の高い活性を維持しながら触媒寿命を向上する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ビスフェノールA[2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン]は通常、固体触媒にアセトンとモル比にして5〜15倍の過剰のフェノールを通液する、いわゆる固定床流通反応の形態で連続的に製造されている。主触媒としては酸触媒、また助触媒としてメルカプト化合物が有効であることが知られている。従来、スルホン酸基とメルカプト基を共に有する固体触媒としては、メルカプトアルキルアミンを部分的に中和し、メルカプト基を固定化したメルカプト変性陽イオン交換樹脂等を用いる技術が知られている。また、陽イオン交換樹脂触媒以外の固体触媒については、例えば特開平8−208545号、特開平9−110767号、特開平9−110989号及び特開平10−225638号公報には、スルホン酸基含有炭化水素基とメルカプト基含有炭化水素基を共に有する有機高分子シロキサン触媒(以下、単に有機高分子シロキサン触媒と記す)を固体触媒とする技術が記載されている。この有機高分子シロキサン触媒は、前述の陽イオン交換樹脂触媒と比較して触媒活性及び選択性が非常に高い触媒であることが知られている。
【0003】
しかし、これらスルホン酸基とメルカプト基を共に有する固体触媒を固定床流通反応装置に充填し、アセトンとフェノールからビスフェノールAの製造を行うと、その使用に際して、徐々に触媒活性が低下する。従ってある期間使用した後には新しい触媒と交換しなければならず、多額の触媒コストと多くの手間を要し、また長時間製造を停止しなければならない等、経済的ではなく、触媒寿命を延長する方法の開発が強く望まれていた。
【0004】
本反応は水が副生する酸触媒反応であり、反応系内には水が存在する。水は活性点であるスルホン酸基の酸強度を低下させ、触媒活性を大きく低下させることが知られている。従って、従来、例えばヨーロッパ公告特許第319327号、ヨーロッパ公告特許第49411号、ヨーロッパ公告特許第268318号に記載されているように、固定床流通反応装置でビスフェノールAの製造を開始する前に、固体触媒を乾燥状態にして固定床に充填するか、もしくは固定床に充填した後に乾燥したフェノール等を通液することで触媒を乾燥状態にもってゆき、乾燥した状態で製造を開始することが一般的であった。
【0005】
一方、特開平6−172241号明細書により、原料に0.6〜5重量%と微量の水を添加することで触媒寿命が大きく向上することが明らかとなった。しかしこの方法により触媒寿命は向上したが、系内の水濃度が高くなるため、酸強度が低下し触媒活性が大きく低下する。本反応系において、たとえ微量でも、原料に水を添加することは、著しく触媒活性を低下させ、生産性を大きく低下させることになる。そのため、原料に水を添加すること無く触媒寿命を向上させる方法が強く望まれていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、スルホン酸基とメルカプト基を共に有する固体触媒を充填した固定床流通反応装置で、アセトンとフェノールの脱水縮合によりビスフェノールAを製造するに際し、原料に水を添加することなく、高い触媒活性を維持しながら触媒寿命を向上させる方法を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはこれらの課題を解決するため鋭意検討した結果、スルホン酸基とメルカプト基を共に有する固体触媒を充填した固定床流通反応装置で、アセトンとフェノールの脱水縮合によりビスフェノールAを製造するに際し、あらかじめスルホン酸基を水和させることで、原料に水を添加すること無く触媒寿命が大きく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、スルホン酸基とメルカプト基を共に有する固体触媒を充填した固定床流通装置を用いてアセトンとフェノールとの脱水縮合によりビスフェノールAを製造するに際し、あらかじめスルホン酸基を水和させた固体触媒を用いることを特徴とするビスフェノールAの製造方法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明で用いるスルホン酸基とメルカプト基を有する固体触媒は、固体触媒中にスルホン酸基とメルカプト基が固定されている固体触媒であれば特に限定されないが、後述のスルホン酸基とメルカプト基を有する有機高分子シロキサン触媒およびメルカプト基変性イオン交換樹脂触媒が好ましく用いられる。
【0010】
本発明で用いるスルホン酸基とメルカプト基を有する有機高分子シロキサン触媒とは、特開平8−208545号、特開平9−110989号 、特開平10−225638号に記載されている、シロキサン結合からなるシリカマトリックス中に部分的にスルホン酸基含有炭化水素基とメルカプト基含有炭化水素基が直接シリカマトリックス中のケイ素原子と炭素−ケイ素結合またはメルカプト基−ケイ素結合により結合した構造を有する有機高分子シロキサンである。
【0011】
ここでスルホン酸基を有する炭化水素基は、少なくとも1個のスルホン酸基(−SO3H)を有する炭化水素基で有ればいかなる炭化水素基であっても本発明に使用することが可能であるが、好ましくはスルホン酸基を少なくとも1個有する炭素数1以上20以下の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数6以上20以下、更に好ましくは炭素数6以上15以下の少なくとも1個のスルホン酸基を有する置換ないしは無置換の芳香族炭化水素基(芳香族基に直接スルホン酸基が置換された基でも、芳香族基に置換された炭化水素基にスルホン酸基が置換された基でもよい);または、より好ましくは少なくとも1個のスルホン酸基を有する炭素数1以上15以下、更に好ましくは炭素数1以上10以下の置換ないし無置換の脂肪族および脂環式炭化水素基よりなる群から選ばれた少なくとも1種の炭化水素基である。
【0012】
このようなスルホン酸基を有する炭化水素基の例としては、少なくとも1個のスルホン酸基により核置換されたフェニル基、トリル基、ナフチル基、メチルナフチル基等の芳香族基、ベンジル基、ナフチルメチル基等の芳香族置換アルキル基等、少なくとも1個のスルホン酸基で置換された、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、直鎖または分枝のペンチル基、直鎖または分枝のヘキシル基、直鎖または分枝のヘプチル基、直鎖または分枝のオクチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基等が挙げられる。さらにこれらの芳香族または飽和の脂肪族ないし脂環式炭化水素基はスルホン酸基の他にハロゲン原子、アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基等の置換基を有する炭化水素基であってもよい。
【0013】
また、メルカプト基を有する炭化水素基は、示性式として−SHで表されるメルカプト基を少なくとも1個有する炭素数1以上20以下の炭化水素基から選ばれた少なくとも1種であり、脂肪族もしくは脂環式の飽和炭化水素、不飽和炭化水素又は芳香族炭化水素に−SH基が結合した炭化水素基である。好ましくは脂肪族もしくは脂環式の飽和炭化水素基又は芳香族炭化水素基にSH基が少なくとも1個結合した炭化水素基である。
【0014】
このようなメルカプト基を有する炭化水素基の例としては、メルカプトメチル基、2−メルカプトエチル基、3−メルカプト−n−プロピル基等のメルカプト脂肪族炭化水素基類、4−メルカプトシクロヘキシル基、4−メルカプトメチルシクロヘキシル基等のメルカプト脂環式炭化水素基類、p−メルカプトフェニル基、p−メルカプトメチルフェニル基等のメルカプト芳香族炭化水素基類等が挙げられる。また、これらの芳香族または脂肪族ないしは脂環式炭化水素基はメルカプト基の他にハロゲン原子、アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基等の置換基を有する炭化水素基であってもよい。
【0015】
このような有機高分子シロキサン触媒の調製方法としては例えば以下の方法で調製することが可能である。しかしながら、本発明で用いる有機高分子シロキサン触媒はこれら調製法よって得られたもののみに限定されることはない。実施しやすい調製方法としては、例えば、(1)スルホン酸基含有炭化水素基を有するアルコキシシランとメルカプト基含有炭化水素基を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとを任意の割合で混合し、加水分解し、共縮合する調製法、(2)水溶性のスルホン酸基含有炭化水素基を有するアルコキシシランの加水分解物とメルカプトメチル基を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとを任意の割合で混合し、加水分解させて共縮合する調製法といった、いわゆるアルコキシシランのゾル−ゲル法による調製法、(3)スルホン酸基含有炭化水素基を有する有機高分子シロキサンに存在するシラノール基に、メルカプト基を有するアルコキシシランをシリル化し、メルカプト基を固定化する、いわゆるシリル化による調製法が知られている。これら有機高分子シロキサン触媒は高い触媒活性を有する多孔性物質である。
【0016】
また、メルカプト基変性陽イオン交換樹脂触媒の場合、その触媒基材として用いるスルホン酸型陽イオン交換樹脂は、従来よく知られているもので、ゲル型やポーラス型のものを用いることができるが、好ましくはゲル型のものが用いられる。その架橋度は、2〜8%の範囲に規定するのが好ましい。また、その平均粒径は、通常、0.2〜2mm、好ましくは0.4〜1.5mmである。このような未修飾のスルホン酸型陽イオン交換樹脂は既に市販されており、例えば、ロームアンドハース社製アンバーライトやアンバーリスト、三菱化学社製ダイヤイオン等を好ましく用いることができる。
【0017】
メルカプト化合物で陽イオン交換樹脂を修飾する方法としては、例えば、含硫黄アミン化合物でスルホン酸型陽イオン交換樹脂を部分中和することでメルカプト基を固定化する方法が知られている。この修飾方法によるメルカプト基固定化陽イオン交換樹脂は一般的に変性イオン交換樹脂触媒とも呼ばれている。含硫黄アミン化合物も従来よく知られた化合物で、例えば、3−メルカプトメチルピリジン、3−メルカプトエチルピリジン、4−メルカプトエチルピリジン等のメルカプトアルキルピリジン類;2−メルカプトエチルアミン、3−メルカプトブチルアミン、3−n−プロピルアミノ−1−プロピルメルカプタン等のメルカプトアルキルアミン類(又はアミノアルキルメルカプタン類);チアゾリジン、2,2−ジメチルチアゾリジン、シクロアルキルチアゾリジン、2−メチル−2−フェニルチアゾリジン、3−メチルチアゾリジン等のチアゾリジン類;1,4−アミノチオフェノール等のアミノチオフェノール類等が挙げられる。特に好ましくは、2−メルカプトエチルアミン及び2,2−ジメチルチアゾリジンである。前記した含硫黄アミン化合物は、塩酸等の酸性物質の付加塩や第4級アンモニウム塩であることができる。
【0018】
スルホン酸型陽イオン交換樹脂の変性は、その樹脂を水中又は有機溶媒中で含硫黄アミン化合物と反応させることによって行うことができる。有機溶媒としては、フェノールやアセトンを用いることができるが、好ましくは水中で行う。反応温度としては、常温又は加温が採用され、反応時間は、特に長時間を必要とせず数分で充分である。均一に反応させるため、反応混合物を撹拌するのが好ましい。この反応においては、未変性樹脂中に含まれるスルホン基の一部、通常、3〜30%、好ましくは5〜15%が変性基に変換されるように行うのがよい。また他の修飾方法として、メルカプトアルキルアルコールによりスルホン酸型陽イオン交換樹脂のスルホン酸基の一部をエステル化して、エステル結合によりメルカプト化合物を陽イオン交換樹脂に固定化する方法も知られている。
【0019】
スルホン酸基とメルカプト基を共に有する固体触媒を充填した固定床流通反応装置を用いてビスフェノールAを製造する場合、原料であるアセトンとフェノールとはモル比で1:5〜15の範囲、また反応温度は70℃〜110℃の範囲で一般的に実施される。固体触媒の酸量は該触媒を塩化ナトリウム水溶液で処理し、遊離した塩酸を定量することで求められる。メルカプト基量はよう素による酸化還元滴定、または硝酸銀水溶液を用い、銀メルカプチドを生成させることにより求めることが可能である。
【0020】
本発明において、スルホン酸基とメルカプト基を固定化した固体触媒は、スルホン酸基を水和して用いる。
固体触媒のスルホン酸基を水和する方法は、スルホン酸基とメルカプト基を固定化した固体触媒が水と接触させることができれば、特に限定されない。例えば、スルホン酸基とメルカプト基を固定化した固体触媒を、水を含有する有機溶媒中で反応して水和させたり、該触媒を固定床流通反応装置に充填し、その充填層に水を含有する有機溶媒を通過させて水和させることができる。
【0021】
水和反応に用いる有機溶媒は、スルホン酸基とメルカプト基を固定化した固体触媒の触媒能を低下させるものでなければ、すなわち、スルホン酸基とメルカプト基と反応しない有機溶媒であれば特に制限されない。本発明では、フェノールを用いることが好ましい。水和反応の温度も、スルホン酸基とメルカプト基を固定化した固体触媒の触媒能を低下させるものでなければ、特に限定されないが、メルカプト基の耐熱性が低いので120℃以下が好ましい。水和反応に要する時間は、中和反応に要する時間と同程度の非常に短い時間で十分である。
水和の程度は、スルホン酸基に対して1分子の水が水和したもので十分であり、触媒中の水分量をカールフィッシャーによる水分測定値と酸量から水和の程度が測定される。
【0022】
スルホン酸基とメルカプト基を固定化した固体触媒を固定床流通反応装置で使用する場合、その使用に際して、特開平6−172241号公報に記載されているように、微量の水を原料に添加することで触媒の劣化が大きく抑制されることが知られている。本反応は水が生成する反応で、原料に添加する水の量は生成水量と比較しても少ない量で充分触媒寿命への効果が発揮されるが、たとえ微量であっても原料への連続的な水添加は触媒活性を著しく低下させ、ビスフェノールAの生産性を大きく低下させることになる。
【0023】
本発明のスルホン酸基を水和した固体触媒を用いた場合、初期の高い触媒活性を維持しながら、触媒寿命を向上させる理由は明らかではないが、以下の理由もその一つであると思われる。
すなわち、本反応ではアセトンのみが酸触媒反応で脱水縮合したメシチルオキシドが微量副生するが、このメシチルオキシドがメルカプト基を被毒すると考えられる。このメシチルオキシドの生成量は酸強度と比例関係にあり、触媒層の入り口以外の部分は生成水が存在するために、スルホン酸基は水和され、酸強度が低下しているが、原料に水を添加しない場合、触媒層入り口付近は、乾燥した原料が常時装入されるため、スルホン酸基の非水和型が維持され、スルホン酸基は強い酸強度を有している。従って、触媒層入り口付近でメシチルオキシドが多量に生成し、これによりメルカプト基が被毒され、触媒寿命を低下させる。一方、原料に水を添加した場合、入り口付近においてもスルホン酸基が水和され、酸強度が低下し、触媒活性は低下するものの、メシチルオキシドの生成量が著しく減少することで触媒寿命が大幅に向上したものと思われる。
【0024】
従って、原理的には連続的な水の添加は必要がないことが予想され、あらかじめスルホン酸基を水和させ、酸強度を低下させた固体触媒を固定床に充填してみたところ、初期の触媒活性を維持しながら、原料に水を添加した場合と同等の触媒寿命が得られることがを見出された。またこの場合、本反応が水を生成する反応であるため、スルホン酸基を水和した触媒は乾燥度の高い入り口部分だけに充填すれば充分であり、固定床の入り口から全体の1/5程度の部分まで水和された触媒層が充填されていることでその効果を発揮することができる。
【0025】
【実施例】
以下、本発明を実施例により、具体的に説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0026】
参考例
スルホン酸基とメルカプト基を共に有する有機シロキサン触媒の調整
(1)スルホン酸基含有トリエトキシシランの合成
滴下漏斗を取り付けた2口の500mlの丸底フラスコに塩化メチレンを200ml入れ、これにフェニルトリクロロシラン124.0g(0.59mol)を加え、氷冷した。これに無水硫酸46.8g(0.59mol)の塩化メチレン溶液100mlを1時間かけて滴下した。滴下後、氷浴を取り外し、室温でさらに1時間攪拌した。次いで100℃の油浴で加熱し、塩化メチレンを留去した。さらに冷却管を取り付けた後、エタノール161.5gを窒素気流下、塩化水素を取り除きながら、1時間かけて滴下し、さらに1時間還流してエトキシ化反応を行った。得られたフェニルスルホン酸基含有トリエトキシシランのエタノール溶液238.0gを以下のスルホン酸基含有炭化水素基とメルカプト基含有炭化水素基を有する有機高分子シロキサン触媒のゾルゲル調製におけるスルホン酸成分の原料として用いた。
【0027】
(2)有機高分子シロキサン触媒の調製
攪拌棒を取り付けた2口の500mlの丸底フラスコに上記したスルホン酸基含有トリエトキシシランのエタノール溶液38.0g、テトラエトキシシラン156.0g(0.75mol)、メルカプトプロピルトリメトキシシラン9.0g(46mmol)、エタノール150mlを入れて混合した。これに水30.0gを5分間で滴下し、60℃で3時間攪拌した。放冷した後、水140.0gを5分間で滴下し、さらに28%アンモニア水20mlを滴下すると反応液は急速に固形化した。これを室温で4時間放置した後、60℃で3日間熟成させた。熟成後10mmHgの減圧下、100℃で溶媒を留去し、乾燥固体を得た。この乾燥固体を500mlのビーカーへ移し、2Nの塩酸200mlを加えて室温で30分間攪拌した後濾別する作業を2回繰り返し、スルホン酸基をH+型にした。酸処理後、イオン交換水500mlで洗浄した。これを10mmHgの減圧下、100℃で5時間乾燥させることで、乾燥したスルホン酸基とメルカプト基を有する有機高分子シロキサン触媒67.0gを得た。得られた有機高分子シロキサン触媒に含まれる水分を上記したカールフィッシャー滴定法により測定した結果、全く検出されなかった。得られた有機高分子シロキサン触媒を塩化ナトリウム溶液で処理し、遊離の塩酸を測定することにより測定したこの触媒の固体酸量は、0.65mmol/gであった。またよう素による酸化還元適定によって測定された固定化メルカプト量は0.65mmol/gであった。
【0028】
比較例1
参考例で得られた乾燥触媒、8.2g(11cc)を円筒形反応器(直径1.50cm、長さ15cm)に充填した。この反応器の下側からモル比が5:1のフェノール/アセトン混合物を10.50g/hrの速度で触媒中を通過させた。反応温度は100℃とし、10時間後に得られた反応生成物を液体クロマトグラフィーで分析した結果、アセトンの転化率は94.0%で、ビスフェノールAの選択率は90.0%であった。その後、触媒活性は連続的に大きく低下し、100時間後のアセトンの転化率は56.0%と低い値を示した。
【0029】
比較例2
参考例で得られた乾燥触媒、8.2g(11cc)を円筒形反応器(直径1.50cm、長さ15cm)に充填した。この反応器の下側からモル比が5:1:0.4のフェノール/アセトン/水混合物を10.50g/hrの速度で触媒中を通過させた。反応温度は100℃とし、10時間後に得られた反応生成物を液体クロマトグラフィーで分析した結果、アセトンの転化率は85.0%、ビスフェノールAの選択率は92.0%と、水を添加したことで触媒活性が低下した。100時間後のアセトンの転化率は84.8%で、触媒の劣化は見られなかった。
【0030】
実施例1
参考例で得られた乾燥触媒、8.2g(11cc)を円筒形反応器(直径1.50cm、長さ16cm)に充填した。この反応器の下側からモル比が5:1のフェノール/水混合物を10g/hrの速度で触媒中を1時間通過させた。このスルホン酸基を水和させる処理において、処理温度は100℃とした。その後、モル比が5:1のフェノール/アセトン混合物を10.50g/hrの速度で触媒中を通過させた。反応温度は100℃とし、10時間後に得られた反応生成物を液体クロマトグラフィーで分析した結果、アセトンの転化率は94.0%、ビスフェノールAの選択率は92.0%と高い触媒活性を示した。100時間後のアセトンの転化率は93.8%と高い触媒活性を示し、触媒の劣化は見られなかった。
【0031】
実施例2
参考例で得られた乾燥触媒、4.1g(6cc)を円筒形反応器(直径1.50cm、長さ16cm)に充填した。この反応器の下側からモル比が5:1のフェノール/水混合物を10g/hrの速度で触媒中を1時間通過させた。フィードを停止した後、反応器上部を取り外し、参考例で得られた乾燥触媒4.1gを触媒層の上部に充填した。その後、反応器の下側からモル比が5:1のフェノール/アセトン混合物を10.50g/hrの速度で触媒中を通過させた。反応温度は100℃とし、10時間後に得られた反応生成物を液体クロマトグラフィーで分析した結果、アセトンの転化率は94.0%、ビスフェノールAの選択率は92.0%と高い触媒活性を示した。100時間後のアセトンの転化率は93.6%と触媒の劣化は見られず、スルホン酸基を水和させた触媒を触媒層の入り口付近のみに充填するだけで、充分な触媒活性が得られ、触媒の劣化も見られれなかった。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、アセトンとフェノールの脱水縮合によるビスフェノールAの製造法において、スルホン酸基とメルカプト基を共に有する固体触媒の高い触媒活性を維持しながら、触媒寿命を大幅に向上させることが可能となり、工業上重要であるビスフェノールAを安全上、プロセス上及び経済上著しく効果的に生産することができる。
Claims (1)
- スルホン酸基とメルカプト基を共に有する有機高分子シロキサン触媒を充填した固定床流通装置を用いてアセトンとフェノールとの脱水縮合によりビスフェノールAを製造するに際し、あらかじめスルホン酸基を水和させた有機高分子シロキサン触媒を用いることを特徴とするビスフェノールAの製造方法。
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