JP4320056B2 - 細菌中でのタンパク質発現を阻害するための方法及び構築物 - Google Patents
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Description
本発明は生化学の分野、とりわけmRNAの翻訳及びタンパク質の生産の調節の分野に関する。
発明の背景
細菌はヒトを含む動物及び植物における数多くの病気の原因である。ペニシリンの如き抗生物質の到来前は、細菌感染症は治療することができないと考えられていた。その後様々な抗生物質が開発され、細菌を制御及び殺すことができるようになり、細菌感染症を治療することができるようになった。
しかし不幸なことに抗生物質に対する細菌の抵抗性が高められるため、多くの抗生物質は時間がたつにつれ細菌集団を制御する効果がますます小さくなることが明らかになった。
科学は抵抗性細菌を殺すことができるより新しくより良い抗生物質を発見することによってこの問題に答えてきた。しかし、新しい抗生物質が作り出されるとすぐに抵抗性株の細菌が出現してしまう。従って有害な細菌を殺す新しい手段に対する明らかなかつ差し迫った要求がある。
本発明は細菌のタンパク質生産を阻害することによる、細菌を殺すための新規のメカニズムを提供する。本発明の方法及び化合物に対して細菌が抵抗性を発達させる危険性は従来の抗生物質が直面している危険性と比較すると最小化される。何故なら本発明は細菌の自然の過程を利用しているからである。
本発明は標的低温ショックタンパク質のmRNAの5′非翻訳領域を過剰発現させる方法を更に提供する。いくつかの他の新規の側面は以下に更に記述される。
本発明の具体例の概要
解読領域に隣接する細菌の16S rRNAの一部分(この部分はアンチ下流ボックス(anti-downstream box)(ADB)として知られている。)に実質的に相補的な配列を含むRNAを細菌中で過剰発現させることによって細菌中でのタンパク質合成が阻害され得るか又は完全に停止され得ることが偶然に発見されている。ADBに実質的に相補的なRNA配列は下流ボックス(downstream box)(DB)と呼ばれている。何故なら天然に存在する細菌mRNA中ではDBはmRNAの開始コドンの下流に配置されているからである。16S rRNAの3′領域の構造及び細菌中での翻訳開始シグナルとしてのDBボックスの機能はSprengart等、EMBO Journal,15(3):665-674(1996)に記載されている。これは参考文献としてここに組入れる。
本発明はいくつかの具体例を含む。一つの具体例においては本発明は細菌タンパク質の生産を阻害する方法に関する。本発明の方法は開始コドン及び下流ボックスを含むmRNAを細菌細胞中で過剰発現させることを含む。下流ボックスは0〜30ヌクレオチドの介在ヌクレオチド配列を伴って、開始コドンの3′側にあることが好ましい。代わりに下流ボックスは開始コドンと重複していてもよい。この後者の場合、開始コドンの三つのヌクレオチドのいずれか又はすべてが下流ボックスの5′端を構成していてもよい。過剰発現されたmRNAのDBはADBにアニールさせられ、それによって16S rRNAに効果的に結合し、他のmRNAの翻訳を妨げ、最終的には細菌タンパク質の生産を妨げる。
他の具体例においては本発明は細菌中でのタンパク質合成を阻害するためのオリゴヌクレオチドmRNA構築物に関する。RNA構築物は開始コドン及び開始コドンの3′側に位置するか又は開始コドンと重複するDB配列を含むヌクレオチド配列を持つ。RNA構築物はRNAエンドヌクレアーゼのための部位を持たないことが好ましい。
他の具体例においては本発明はオリゴヌクレオチドDNA構築物に関し、そのDNA構築物は開始コドン及び開始コドンの3′側に位置するか又は開始コドンと重複するDB配列を含むmRNAをコードする。
更なる具体例においては本発明は細菌細胞を形質転換するための媒体(vehicle)に関し、その媒体は開始コドン及び開始コドンの3′側に位置するか又は開始コドンと重複するDB配列を含むmRNAをコードするDNA配列に操作可能に(operably)連結されたDNAプロモーター配列を含む。
更なる具体例は開始コドン及び開始コドンの3′側に位置するか又は開始コドンと重複するDB配列を含むmRNAをコードするDNA配列に操作可能に連結されたDNAプロモーター配列を含む媒体で形質転換された細菌細胞である。
よく保存された配列である16S rRNAはすべての細菌中に存在するので、本発明はすべての細菌に対して適用可能であり、実際に適用することができる。かくして本発明の実施は本発明を説明するために用いられるイー・コリ(E.coli)の如き用いられる細菌の種に依存しない。Goodfellow及びO’Donnell,Handbook of New Bacterial Systematics,Academic Press(1993);Stackebrandt及びGoebel,International Journal of Systematic Bacteriology,44(4):846-849(1994);Durand及びGros,1FEMS Microbiology Letters,140:193-198(1996);及びOlsen及びWoese,FASEB Journal,7:113-123(1993)を参照されたい。これらの文献それぞれは参考文献としてここに組入れる。16S rRNAがイー・コリのそれに対して高度に相同である細菌がミコバクテリウム属の種(Mycobacterium spp.)及びレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)の如き哺乳動物の病原のみならず、リンガ・ペンシルバニカ(Linga pensylvanica)及びバチモディオルス・テルモフィルス(Bathymodiolus thermophilus)の如き海生動物の非病原性共生菌をも含むという事実は、高度に保存されているという16S rRNAの特徴及び本発明の一般的な適用性を示している。保存されているという16S rRNAの特徴は所望の細菌において、GenBankデータベースにおいて細菌について見出すことができる16S rRNAのヌクレオチド配列からADBを同定することを可能にする。16S rRNAのヌクレオチド配列を決定する手段は知られている。例えばLane等,Proc.Natl.Acad.Sci.,82:6955-6959(1985),及びBottger,FEMS Microbiology Letters,65:171-176(1989)を参照されたい。これらは参考文献としてここに組入れる。細菌の16S rRNAはその3′端にアンチShine-Dalgarno領域(SD)及び解読領域を含む。ADBは16S rRNAの解読領域に隣接する12〜14ヌクレオチド長の領域である。一旦ADBが同定されてその配列が確定すれば、本発明の構築物はいかなる特定の細菌についても容易に構築することができる。本発明の媒体についても同様であり、本発明の方法も同様にいかなる細菌中でも実施することができる。
更に16S rRNAの3′端領域の配列は高度に保存されているという特徴があるので、いかなる第一の特定の細菌の種の16S rRNAのADBに実質的に相補的なDBは第二の細菌の種の16S rRNAのADBに十分相補的であるだろう。従って、本発明の方法は同一又は類似配列のDBを用いて異なる細菌の種において実施することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は本発明のmRNAを過剰発現するDNA配列の構築を図式的に示す。
図2は本発明のmRNAの過剰発現による細胞タンパク質合成の阻害を示す。
図3は本発明のmRNAの低温ショック誘導発現による低温での細胞増殖の阻害を示す。
図4は細菌コロニー形成についての本発明のmRNAの過剰発現の阻害効果を示す。
図5は本発明のmRNAの発現による細菌タンパク質生産の抑制を示す。
図6は本発明の外因性mRNAを過剰発現する細胞からの内因性mRNAの翻訳を示す。
図7はCspAの翻訳開始領域の分析を示す。
図8はmRNA翻訳効率についてのcspAコード領域中の下流配列の効果を示す。
図9は染色体cspA発現及び他の細胞タンパク質の合成に対するcspA上流領域の効果を示す。
図10はpJJG78及びpUC19−600による低温ショック適応の阻害及びCspAの延長された発現を示す。
図11は低温ショック適応の阻害及びcspAの抑制解除機能についてのcspA上流領域の欠失分析を示す。
図12は染色体及びプラスミドcspAからの転写のレベルを示す。
図13は低温ショック適応の阻害及びcspAの延長された発現についてのcspA mRNAの5′非翻訳領域の転写についての必要条件を示す。
図14は他の低温ショックタンパク質及び非低温ショックタンパク質の生産についてのcspA mRNAの5′非翻訳領域の過剰生産の効果を示す。
図15は低温ショック応答についてのcspA mRNAの5′非翻訳領域と共同してのcspAの共過剰生産(co-overproduction)の効果を示す。
図16はcspA,cspB,及びcsdAについてのmRNAの5′非翻訳領域における配列類似性を示す。
図17はcspAのヌクレオチド配列及びそこから引き出されるCspAタンパク質のアミノ酸配列を示す。
図18はcspBのヌクレオチド配列及びそこから引き出されるCspBタンパク質のアミノ酸配列を示す。
図19はcsdAのヌクレオチド配列及びそこから引き出されるCsdAタンパク質のアミノ酸配列を示す。
本発明の具体例の詳細な記述
Sprengart等が報告しているように、細菌の下流ボックス(DB)はタンパク質を生産するmRNAの翻訳において重要な役割を果たす。DBは3′端に近い細菌の16S rRNAの一部分に結合し、翻訳が起こるのに好適な相対位置にmRNAとrRNAを配置するのを助けると考えられている。
本発明によれば、ADBが過剰発現されたmRNAのDBにアニールしている時間の間、16S rRNAはアニールした過剰発現されたmRNA以外の細胞mRNAの翻訳に関与することができないということが発見されている。細菌のタンパク質生産機構全体は、16S rRNAのADBに実質的に相補的でありかつすべての又は実質的にすべての細菌の16S rRNAにアニールするDBをコードするmRNAを細菌に与えることによって阻害することができることが更に発見されている。
ここで用いる「相補的(complementary)」という用語は「実質的に相補的(substantially complementary)」を含むことを意図される。従って「相補的」という用語は完璧な相補性を要求するわけではない。二つの配列が「相補的」であるためにはKahl,Dictionary of Gene Technology,VCH Publishers,Inc.(1995)(この文献は参考文献としてここに組入れる。)において規定されているようなものであれば十分である。つまり、二つのヌクレオチド配列はワトソン−クリック型塩基対合の規則に従って相互に水素結合二本鎖を形成することができるのなら相補的である。二つの相補的RNA配列、又はRNA及びDNA配列はA−U,G−C,又はG−Uの対合を形成するであろう。「完璧な相補性(complete complementarity)」は要求されない。
ADBは16S rRNAの解読領域の近くの16S rRNAの3′端に位置する約14塩基のヌクレオチド配列である。既知の細菌の16S rRNAヌクレオチド配列は知られており、GenBankデータベースにおいて見出すことができる。従って、選択された細菌について、ADBはADB配列が知られている細菌(例えばイー・コリ)のADB配列との比較によって容易に同定することができる。一旦ADBが同定されると、以下に示すようにADBに相補的なDBを構築して好適なmRNA中に組入れることができる。
本発明のmRNAは単離されたmRNA又は単離されたDNAから転写されたmRNAである。mRNAは開始コドンを含み、そのコドンはAUGであることが好ましい。mRNAについての他の好適な開始コドンはGUG及びUUGを含む。
本発明のmRNAは下流ボックス配列を更に含み、それは通常は開始コドンの3′側にある。DBのコドンは開始コドンと同期して(in phase)いてもよいし、同期していなくてもよい。DB配列は開始コドンに直接隣接して、従って介在配列がないようにしてもよい。一般的にはDBは1−30ヌクレオチド長の介在ヌクレオチド配列によって開始コドンから隔てられる。介在配列の塩基配列は重要ではなく、従っていかなるヌクレオチド配列から成っていてもよい。好ましくは介在ヌクレオチド配列は9〜15ヌクレオチド長であり、最も好ましくは12ヌクレオチド長である。代わりにDBは開始コドンと重複してもよい。つまり、本発明のmRNAの開始コドンの三つのヌクレオチドのいずれか一つはDBの5′端を形成していてもよい。
本発明のmRNAのDB配列は細菌の16S rRNAのADBに相補的なヌクレオチド配列である。DBは20塩基より長くすることができるが、一般的にDBは6〜20塩基長、好ましくは8〜14塩基長である。例えばDBはADBの3′側,5′側又は両方の側のヌクレオチドと相補的であるヌクレオチドを含んでいてもよい。DBの長さに無関係に、DBとADBの間の相補性が高いほどアニーリングがより効果的になる。このことは本発明の方法によれば細菌のタンパク質合成のより効果的な阻害をもたらす。
開始コドンに加えてDB、及びいかなる介在配列、本発明のmRNA構築物は開始コドンの5′側又はDBの3′側にヌクレオチド配列を含んでいてもよい。例えばmRNA構築物はポリペプチドをコードする配列をDBの3′側に含んでいてもよく、又は終止コドンを含んでいてもよい。同様に、mRNAは非翻訳配列及び/又はShine-Dalgarno配列を開始コドンの5′側に含んでいてもよい。
開始コドン、いかなる介在配列、及びDBを含みかつ5′又は3′側のいかなる付加的なヌクレオチドを除くmRNA構築物の長さは8ヌクレオチドから約45ヌクレオチドの間のいかなる長さであることもできる。もちろんmRNAが上述の本質的成分に加えてShine-Dalgarno配列の如き5′又は3′配列を含む場合、mRNAはより長く、数百ヌクレオチドの長さにまでなってもよい。
必須ではないが好ましくはmRNA構築物はRNAエンドヌクレアーゼについての部位を含まない。構築物の本質的部分(つまり開始コドン及びDB)を含むmRNA構築物の部分がRNAエンドヌクレアーゼについての部位を含まないことが特に好ましい。さもないとRNAエンドヌクレアーゼがmRNA構築物を分解してしまい、細菌の16S rRNAが細菌mRNAに自由に結合するようになるだろう。
本発明のmRNA構築物は細菌中で天然に発見されるmRNA配列に類似の又はかかるmRNA配列と同一の配列を持つことができる。例えばイー・コリのタンパク質CspA,CspB,CspG,CsdA,及びRbfAについてのmRNAの如きいくつかの低温ショックタンパク質についてのmRNAはShine-Dalgarno配列、開始コドン、及びイー・コリ16S rRNAのアンチ下流ボックスに実質的に相補的な下流ボックスを含む。Shine-Dalgarno配列、開始コドン、及びイー・コリのADBに相補的な下流ボックスを含む他のイー・コリmRNAはRecA,Hns,NusA,InfB,及びCspDを含む。
mRNA構築物についての好適なDBのいくつかの非限定的な例を以下に示す。以下のDBはそれぞれイー・コリ16S rRNAのADBに実質的に相補的であり、そのADBは以下の配列を持つ:
本発明による好適なmRNA構築物は上述のDBのいずれか一つ、又は例えば以下のような他の好適なDBを用いて構築することができる:
ただしnは0〜30の全数であり、XはG,C,U,又はAである。それぞれのXはいかなる他のXと同一の塩基を持っていてもよく、異なる塩基を持っていてもよい。代わりにDBの5′端は開始コドンと重複していてもよい。
本発明のDNAは上述の通り本発明のmRNA構築物に好適なmRNAをコードする単離されたDNAである。DNAは付加的なヌクレオチド配列を開始コドンの5′側に更に含んでいてもよく、その配列はプロモーター配列を含んでいてもよい。かかるプロモーター配列はmRNA構築物の転写を制御するのに用いることができる。DNAはShine-Dalgarno配列の如きプロモーターとしての機能以外の機能を持つ配列、及び/又は未知の機能を持つ配列を開始コドンの5′側に含んでいてもよい。DNAはmRNA構築物のDBをコードする部分の3′側に位置する配列を含んでいてもよく、その配列は例えば終止コドンを含んでいてもよいし、又はポリペプチド及び転写終止に必要な配列をコードしていてもよい。
本発明のmRNA構築物をコードする好適なDNAの列は以下のものである:
ただしnは0〜30の全数であり、YはG,C,T,又はAである。それぞれのYはいかなる他のYと同一の塩基を持っていてもよく、異なる塩基を持っていてもよい。代わりにDBの5′端は開始コドンATGと重複していてもよい。DNAは上述の通り付加的な配列をDNAの5′及び/又は3′端に含んでいてもよい。
本発明のDNA配列はプラスミド又はファージベクターの如き媒体又はクローニングベクター内に含まれていてもよい。ベクター内のDNA配列は開始コドンの5′側に配置されたプロモーター配列の制御下にあってもよい。本発明のDNAを含むこれらのベクターはホスト細菌を形質転換するのに用いることができ、それは本発明のmRNAを過剰発現させるために、つまり類似の非形質転換細菌で生産されるレベルよりも高いレベルで細菌中でmRNAを生産させるために用いることができる。クローニングベクターによって形質転換することができるいかなる細菌も本発明のDNA配列のための好適なホストである。クローニングベクターの製造方法及び細菌の形質転換方法は当該技術分野では知られており、例えばAusubel等、Current Protocols in Molecular Biology,J.Wiley & Sons,Inc.(1995)から学ぶことができる。この文献は参考文献としてここに組入れる。
本発明のmRNA配列の過剰発現は細菌中で通常見出されるものよりも高い量でmRNAを生産させる。いかなる程度でmRNAが過剰発現されようとも細菌タンパク質の生産は阻害される。もしmRNAが十分に高いレベルで発現されるならば、細菌タンパク質の生産は完全に停止され、それは細菌の死に究極的に通ずる。
それ故、mRNAを生産する構築物は細菌を殺すか又は細菌の増殖を停止させるための抗生物質として有用である。mRNAを生産する構築物はバクテリオファージ中にパッケージングされることができ、それはmRNAを消毒剤として又は局所的抗生物質調製品として用いることを可能にするだろう。送達のための方策はヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、及び家畜等の哺乳動物の如き動物又は植物の感染症を引き起こす細菌の形質転換を可能にするように工夫されるであろうということが考えられる。かかる抗生物質は真核生物において安全に用いることができる。何故なら真核生物は細菌には存在する16S rRNAを欠くからである。
本発明の方法によれば開始コドン及び細菌の16S rRNAのADBに相補的なDBを含むmRNAは細菌中で過剰発現され、次に細菌の16S rRNAのADBにアニールさせられ、それによって細菌中で他のmRNAによってコードされるタンパク質の生産を阻害する。
本発明のmRNAの過剰発現を引き起こすいかなる送達手段も本発明の方法にとって好適である。例えば、細菌は本発明のmRNAをコードするDNA配列を含む媒体によって形質転換させることができる。
もし所望ならば、本発明のmRNA配列の発現はDNA配列を誘導可能プロモーターの制御下に置くことによって制御される。例えばもし有害な細菌を殺すか又はその増殖を阻害しつつも有益な細菌には危害を加えないでおきたいのなら、DNA配列は第一の細菌中のみに存在する生成物を制御するプロモーターの制御下に置いてもよい。このようにして本発明のmRNAの致死的な抗生作用効果は望ましくない有害な細菌のみに影響を与えるであろう。
タンパク質生産を阻害するmRNA配列の発現を制御する他の手段は特定の条件下では不安定なmRNAをコードするDNA配列を用いることである。
例えば、イー・コリの低温ショックタンパク質CspAのmRNAの5′非翻訳領域(5′UTR)は約37℃の生理的増殖温度で分解(たぶんRNase Eによって行われる。)に対して感受性であるShine-Dalgarno領域のすぐ5′側の領域を含む。それ故、5′UTRを含むcspA mRNAは通常の増殖条件下では不安定であり、約12秒と推定される半減期を持つ。イー・コリのCspB及びCsdAの如き他の低温ショックタンパク質はそれらのmRNAが不安定であるため、生理的増殖温度では同様に不安定である。温度が15℃に低下された場合のように低温ショックが与えられると、cspA mRNAの半減期は劇的に増大し、約15分にもなる。この安定性の増大は通常の生理的増殖温度でのmRNAについての値の約75倍である。
cspA mRNAの5′UTRを含むmRNAは37℃で不安定であるため、この領域又はcspB若しくはcsdA mRNAの5′UTRは本発明のmRNA配列の発現を制御してその抗生作用効果が低温ショック条件下の如き生理的増殖温度より下でのみ起こるようにするために用いることができる。本発明の方法の抗生作用効果は低温ショック条件で増大する。何故なら低温ショックを受けた細菌は新しいリボゾーム因子を要求するが、その合成はDB配列を含むmRNAの過剰生産によって阻害されるからである。
本発明のmRNAが細菌中で過剰発現させられる本発明の方法の抗生作用効果は発現されるべきmRNAのコピー数の増大に伴って増大する。つまり、本発明のmRNAの最小限の過剰発現は細菌によるタンパク質の生産を阻害するであろうが、かかる阻害は細菌の更なる増殖を防止したり細菌を殺したりするのには十分ではないかもしれない。mRNAの高レベルの発現はタンパク質生産の阻害の増大と正の相関がある。コピー数が細菌中で十分に高ければ、タンパク質生産は完全に阻害されるだろう。
過剰発現されるmRNAのDBと16S rRNAのADBとの相補性に関しても同様の効果が見出されている。100%の相補性を持つDBを含むmRNAの過剰発現は、より少ない、例えば75%の相補性を持つDBを含むmRNAよりもADBに対する結合においてより効果的であるだろう。かくして高い相補性を持つDBを持つmRNAのタンパク質阻害効果は、相補性が低いDBを持つmRNAの効果と比較するとずっと明らかであると断言される。それ故、相補性の低いDBを持つmRNAを用いる場合、相補性の高いDBを持つmRNAと同一又は同様の抗生作用結果を達成するためには、mRNAを高いコピー数で発現させる必要があるかもしれない。
下流ボックスの翻訳阻害特性は低温ショック後、形質転換された細菌中で、異質遺伝子を過剰発現させるのにも有利である。内因性細菌タンパク質の翻訳阻害は異質遺伝子生成物が形質転換された生物体中で極めて高レベルに蓄積することを可能にするだろう。更に、低温でのmRNA転写を安定化させる機能を持つ低温ショック誘導可能遺伝子の5′非翻訳領域及び強いプロモーターに結合された下流ボックスを含む構築物は低温での異質遺伝子の高レベル発現に直接効果を与えるだろう。
本発明の更なる具体例の概要
本発明の更なる重要な具体例は、低温ショック適応における、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)の主要な低温ショックタンパク質であるcspAのmRNAの5′端非翻訳領域の役割に関する。
発明の背景
本発明の他の重要な具体例は、低温ショック適応における、エシェリキア・コリの主要な低温ショックタンパク質であるcspAのmRNAの5′端非翻訳領域の役割に関する。しかし、本発明の範囲は低温ショックに対する細菌の適応のみに限定されるものではなく、細菌の低温ショック応答(例えば低温ショック遺伝子によってコードされるポリペプチドの発現)を引き出す生理的ストレスを生ずるいかなる環境又は増殖条件にも及ぶ。例えば、細菌をその生物体についての通常の生理的条件以外の環境又は増殖条件にさらすと、かかる応答が引き起こされる。
指数関数的に増殖しているエシェリキア・コリ細胞の培養温度が37℃から10℃に下げられた場合、細胞増殖の再開前に増殖遅滞期がある(Jones等、1987)。熱ショック応答と同様に、イー・コリは低温ショック応答と呼ばれる遺伝子発現の特異的パターンを誘導することによって温度低下に対して応答する。これは低温ショックタンパク質と定義される一連のタンパク質の誘導を含む(Jones等、1992;Jones及びInouye 1994を参照されたい。)。低温ショック応答は細菌増殖の遅滞期中に生じ、低温への細胞の適応に必要であると考えられている。
イー・コリの主要な低温ショックタンパク質であるCspAは温度低下によって劇的に誘導され、その生産は総タンパク質合成量の13%にも達する(Goldstein等、1990)。しかし興味深いことに低温ショック応答中のCspA生産は一過性であり、低温での細胞増殖が再開するときには基礎レベルに激減する。CspAは70アミノ酸残基からなり、遺伝子調節及びmRNAマスキングと関連していることが知られている真核生物のY−ボックスタンパク質族の「低温ショックドメイン(cold-shock domain)」と43%の同一性を示す(Wolffe等、1992;Wolffe 1993を参照されたい。)。CspAの三次元構造は決定されており、β−バレル構造を形成する五つの逆平行β−シートからなる(Newkirk等、1994;Schindelin等、1994)。二つのRNA結合モチーフ、RNP1及びRNP2がそれぞれB2及びB3シートに同定されている。その構造においては、八つの芳香族残基のうち七つは同一表面に位置しており、一本鎖DNAがこれらの表面芳香族残基と相互作用することが示されている(Newkirk等、1994)。CspAは低温での翻訳効率を高めるRNAシャペロンとして機能するということが提案されている(Jones及びInouye 1994を参照されたい。)。
イー・コリはCspB,CspC,CspD及びCspEを含む大きなCspA族を含む(Lee等、1994;Dongier等、1992;Yamanaka等、1994)。それらのうち、CspA及びCspBのみが低温ショック誘導可能であることが示されている(Lee等、1994)。最近、リボゾームともっぱら協同しかつ二本鎖DNAを巻き戻す能力がある他の低温ショックタンパク質CsdAが同定されている(Jones等、1995)。
発明のこの具体例の概要
低温への細胞の適応中、エシェリキア・コリは主要な低温ショックタンパク質CspAを一過的に合成する。本発明によれば低温ショックへの適応過程はcspA mRNAの5′非翻訳領域の143塩基配列が過剰生産されると阻害されることがわかった。15℃でこの非翻訳領域を過剰生産させると、CspAのみならずCspB及びCsdAの如き他の低温ショックタンパク質の合成がもはや一過性ではなく、むしろ発現が延長された。更に低温ショックタンパク質以外の細胞タンパク質の合成及び細胞増殖の両方ともの阻害が観察された。興味深いことにCspAが5′非翻訳領域と共に過剰生産される場合は通常の低温ショック適応応答が再開され、細胞増殖の遅滞期の延長はみられなかった。このことはcspA mRNAの5′非翻訳領域はその遺伝子生成物であるCspAと同様に低温ショック遺伝子の発現の調節及び低温ショック適応において決定的な役割を果たしているということを示す。cspA,cspB,及びcsdA mRNAの5′非翻訳領域において配列類似性が見出されている。本発明によれば仮想的なリプレッサーが適応過程中に低温ショックmRNAの共通配列(低温ボックス)に結合し、それが次に低温ショック遺伝子の転写を阻害するのではないかということが提案されている。CspAは直接的又は間接的にリプレッサー機能を促進するようである。
本発明によれば、低温ショックによるcspA mRNAの5′非翻訳領域の過剰発現は細胞タンパク質合成の阻害の延長及び細胞増殖の遅滞期の延長をまねく。付随的にCspA,CspB,及びCsdAの如き低温ショックタンパク質の合成はもはや一過性ではなく、むしろ長時間持続し、それは細胞増殖の延長された遅滞期に相当する。cspA,cspB,及びcsdAのmRNAの5′端非翻訳領域内で配列類似性が見出されている。興味深いことにcspAがそのmRNAの5′非翻訳領域と共に過剰生産された場合、通常の低温ショック応答が延長された遅滞期なしに再開された。これらの結果は低温ショック遺伝子が低温ショック応答中、新規のメカニズムによって調節されることを示している。仮想的なリプレッサーは低温ショックmRNAの領域内の共通配列(低温ボックス)に結合し、それは次にこれらの遺伝子の転写を阻害すると考えられている。かくしてCspAが直接的又は間接的にリプレッサー機能を促進すると更に考えられる。
本発明は以下の非限定的実施例によって説明される。
実施例1
イー・コリ株及び培養培地
イー・コリCL83[recA ara(lac-proAB)rpsL(=strA)φ80 lacZ M15](Lerner及びInouye,Nuc.Acids Res.,18:4631(1990))は全ての実験に用いられ、M9カザミノ酸培地(Miller,JH,Experiments in Molecular Genetics,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY(1972))で増殖された。パルスラベル実験のために、メチオニン以外のすべてのアミノ酸の混合物が用いられた。各アミノ酸の最終濃度は50μg/mlであった。パルスラベル実験及びSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)はJiang等,J.Bacteriol.,175:5824-5828(1993)に記載の通り行われた。この文献は参考文献としてここに組入れる。
実施例2
プラスミド構築物
以下のプラスミド構築物は図1において図式的に示されている。
プラスミドpF1は以下のようにして構築された:野生型cspAを含むpJJG02(Goldstein等、P.N.A.S.,87:283-287(1990))はPvuIIによって消化された。放出された898bpの断片はcspAプロモーター全体、Shine-Dalgarno領域を含む5′非翻訳領域、及びN末端の63アミノ酸残基のcspA配列を含む、cspA遺伝子の−458から+348bpまで(転写開始部位を+1と規定する)を含む。次にこの断片はPvuIIで消化されたpUC19に再クローニングされた。その結果、CspAのN末端の63残基配列はpUC19配列の塩基308でlacZについての+1フレームシフトによって生じたlacZ配列の19残基配列と融合された(Yanisch-Perron等、Gene,33:103(1985))。
pF2は898bpの断片がPvuIIではなくpUC19のSmaIの部位に再クローニングされたことを除いてはpF1と同様の方法で構築された。その結果、CspAのN末端の63残基配列はpUC19の塩基411から149までの同一の読み枠におけるlacZからの89残基配列と融合された。
pF3は以下のようにして構築された:短くされたcspA断片(−280〜+243)は以下のようなcspAのSD配列においてXbaI部位を作り出すことによってpJJG02から構築されたpJJG21からPCR増幅された:
(かっこ内の元のヌクレオチドは下線を引いたヌクレオチドによって置換された)。PCR用の二つのプライマーはプライマー3552
であった。断片はpUC19のSmaI部位にクローニングされた。その結果、CspAのN末端28残基配列はpUC19の塩基414での+1フレームシフトによって生ずるlacZからの54残基配列と融合された。
pF5は2ステップのPCRによるフレームシフト突然変異として構築された。第一ステップにおいてはPCRはプライマー3552及びプライマー6879
を用いて行われた。第二ステップにおいてはPCRはPCR1生成物及び4860
をプライマーとして行われた。pJJG02は両方のPCR反応についての鋳型として用いられた。cspAの第5コドンの第2位置に挿入されたC残基を持つ、生じたPCR生成物は次にpUC9のSmaI部位にクローニングされた。上述のすべての融合構築物は配列決定によって確認された(Sanger等,P.N.A.S.,74:5463-5467(1977))。
pF2Aは以下のようにして構築された:cspA遺伝子全体を含むHindIII/SmaI断片はpJJG02から得られ、HindIII/HincIIで消化されたpF2へクローニングされた。従って、cspAの配向は融合遺伝子の配向と反対であった。
pF2Bは以下のようにして構築された:cspB遺伝子全体を含む2.1kbのHindIII断片はpSJ7から得られ(Lee等,Mol.Microbiol.11:833-839(1994))、HindIIIで消化されたpF2へクローニングされた。cspBの配向は融合遺伝子の配向に対して反対であった。
実施例3
本発明のmRNAの低温ショック誘導による細胞タンパク質合成の阻害
実施例2において記述したとおりの様々なDNA構築物で形質転換されたイー・コリ細胞CL83は既に記載されているように15℃への温度低下から0,0.5,1,3及び18時間後に[35S]メチオニンで15分間パルスラベルされた(pulse-labeled)(Jiang等(1993))。DNA構築物及びラベリングの時点は各レーンの上部に示されている。タンパク質の合成パターンは図2に示される通り、17.5%のSDS−PAGEによって分析された。0.25mlの細胞培養物からの細胞抽出物が添加された。A:レーン1〜5、pJJG02を持つ細胞;レーン6〜10、pF1を持つ細胞;レーン11〜15、pF2を持つ細胞;レーン16〜20、pF3を持つ細胞。CspA及び融合タンパク質F1,F2及びF3の位置は矢印で示されている。分子量マーカー(kDa)の位置は右側に示されている。B:レーン1〜4、pUC19を持つ細胞;レーン9〜12、pF5を持つ細胞。
イー・コリCL83はCspA融合タンパク質についてのプラスミドで形質転換され、細胞タンパク質の生産は37℃から15℃への温度低下後、[35S]メチオニンを用いて調べられた。次に総細胞タンパク質が図2に示すようにSDS−PAGEによって分析された。無傷のcspA遺伝子を持つpJJG02を持つ細胞は37℃ではほとんどCspAを生産しないが(レーン1)、低温ショックを与えられるとCspAの生産は劇的に誘導される(レーン2及び3)。細胞タンパク質の全体の生産はCspA発現の高レベルと対照的に30分で有意に減少したことに注意すべきである(レーン2)。これは低温ショック適応中の通常の細胞応答である。細胞は数時間で増殖阻害から回復し、細胞タンパク質合成は3時間で最高の活性に戻る(レーン4及び5)。pJJG02は無傷のcspA遺伝子を持つマルチコピープラスミドであるので、CspA生産は低温ショックの18時間後でさえも低い基礎レベルには減少しない(このことは通常の細胞においては普通に起こることであるが)。
三つの異なるcspA融合構築物を持つ細胞について、37℃での細胞タンパク質の合成はpJJG02のそれと同様であった(図2のレーン6,11,及び16をレーン1と比較されたい)。温度が低下すると三つの融合タンパク質(F1,F2及びF3)はすべて、矢印で示されるように低温誘導された。驚くべきことに、ほとんどすべての細胞タンパク質は15℃で調べられたすべての時点において激しく阻害された(F1,F2及びF3についてそれぞれレーン7〜10、レーン12〜15、及びレーン17〜20)。このことは細胞はもはや低温ショック適応することができないことを示す。CspA融合タンパク質以外にもゲルの中央に主要なバンドがあり、それはβ−ラクタマーゼ、つまり用いられたプラスミド中のアンピシリン抵抗性遺伝子(bla)の生成物であると同定された。これらの結果はCspA融合タンパク質及びプラスミド上でCspA融合タンパク質遺伝子の下流にコードされているタンパク質が細胞タンパク質の合成(これは激しく阻害された)と比較して十分に合成されたということを示す。
実施例4
低温での細胞増殖の阻害
図3に示すとおり、pJJG02又はpF2で形質転換されたCL83細胞はM9−カザミノ酸培地で37℃で増殖された。中間対数相(mid-log phase)(OD600=0.6)で細胞培養物は二つに分けられた。一方は37℃で、他方は15℃で保持された。細胞密度はPerkin-Elmer Spectrometerを用いてOD600で測定された。pJJG02:o−−−−o,37℃;・−−−−・,15℃。pF2:△−−−−△,37℃;▲−−−−▲,15℃。pF1又はpF3で形質転換された細胞はpF2で形質転換された細胞と同様の挙動を示した。
実施例5
細菌コロニー形成に対しての本発明のmRNAの過剰発現の効果
様々なプラスミドを含むCL83細胞はアンピシリン(50μg/ml)を添加されたL−ブロス培地で37℃で増殖された。中間対数相で細胞はアンピシリン(50μg/ml)を含む二つのL−ブロス寒天プレートに塗布された。一方のプレートは37℃で12時間、他方のプレートは20℃で36時間インキュベートされた。図4はプラスミドpF2又はpF5を持つ細菌の低温ショック温度でのコロニー増殖の阻害を示す。プラスミドpF1又はpF3を持つ細菌の増殖も同様に阻害された。
実施例6
本発明のmRNAの低温での発現は細菌のタンパク質生産を抑制する
pF2を持つCL83細胞が37℃から15℃へ移された場合、F2生産は劇的に誘導され、細胞タンパク質合成はほぼ完全に阻害された(図5、レーン2及び3)。細胞が15℃で3時間ラベルされ、続いてラベルされた生成物を37℃でもう1時間追跡された場合、F2バンドはなおも検出可能であり(レーン4)、F2が37℃で極めて安定であることが示された。別の実験においては細胞が15℃で3時間まず低温ショック処理された後、培養物は37℃に戻され、37℃で1時間インキュベート後、細胞はパルスラベルされた。レーン5に示されるように細胞タンパク質の合成はほとんど回復しており、F2は比較的高いレベルでなおも生産された。この結果は本発明のmRNAをコードするDNAの37℃での発現(この温度においてはmRNAは不安定である)が細胞タンパク質合成について阻害効果を与えないということを示す。37℃に戻した3時間後にパルスラベルされると、F2はもはや合成されず、細胞タンパク質合成は完全に回復された(レーン6)。細胞がpF2プラスミドをまだ持っていることを確認するため、細胞は再び15℃に戻された。するとF2生産は再び誘導され、細胞タンパク質合成は阻害された(レーン7)。これらの結果はmRNAをコードするDNAの発現による阻害効果は用いられた条件下で低温でのみ発揮されるということを示す。
実施例7
本発明のmRNAを過剰発現する細胞からの内因性mRNAの翻訳
pF2を持つ細胞は15℃で3時間まず低温ショック処理された。次にリファンピシン(200μg/ml)が培養物に添加され、10分インキュベートした後、培養物は37℃に戻された。次に細胞は温度低下させた0分(レーン7、図6)、2分(レーン8)、5分(レーン9)、及び10分(レーン10)後に5分間[35S]メチオニンでパルスラベルされた。pJJG02を持つ細胞を用いてコントロールとして同様のラベル実験が行われた(レーン1〜5、図6)。レーン1に示すように、コントロール細胞は3時間のインキュベート後、15℃によく適応し、すべての細胞タンパク質を生産したが、pF2を持つ細胞は細菌タンパク質の生産が強く阻害され、F2融合タンパク質及びβ−ラクタマーゼを主に生産した(レーン6)。リファンピシンの添加後、15℃でのタンパク質合成のパターンと極めてよく似たパターン(レーン2〜5をレーン1と比較されたい。)がpJJG02を持つ細胞について得られた。このことはリファンピシンの添加の前後で同一のmRNAが用いられたことを示す。pF2を持つ細胞の場合、リファンピシンの添加後37℃で生産される主要なタンパク質(レーン7〜10)は翻訳阻害された細胞によって生産されるもの(レーン6)と同一であった。このことは翻訳阻害された細胞において翻訳に用いられたmRNA以外には他の細胞mRNAは細胞中には存在していないということを示す。これらの結果は細菌mRNAの翻訳が本発明の方法によって阻害された細胞中のほぼすべてのポリソームが本発明のmRNAで占領されたことを示す。
実施例8
下流ボックスをコードする遺伝子で形質転換された細菌でのタンパク質生産
cspA及びlppの翻訳開始領域の翻訳効率を直接比較するため、二つのβ−ガラクトシダーゼ発現系pMM027及びpMM028は各々の翻訳開始領域が同一のプロモーター下に配置されてlacZに融合されるようなやり方で構築された(図7a)。pMM027はlppプロモーター(このプロモーターはイー・コリ中で37℃での最も強いプロモーターの一つである)の下流にpKM005からのプロモーターを持たないlacZ及びpINIIIプラスミドからのlacプロモーター−オペレーター領域を挿入することによって構築された(Inouye,1983)。pMM028においてはpMM027の翻訳開始領域はcpsAの+144〜+198からの断片によって置換された。この断片を挿入するため、XbaI部位はcspAの仮想的SD配列のすぐ上流に導入され、SD配列の回りの配列は(+143)
(+150)から
へ変えられた(SD配列は下線をひかれている。)。両方の構築物におけるlacZ遺伝子は同一であり、それらはBamHI部位で上流領域に翻訳的に(translationally)融合された。pMM027においては開始コドン及び第二残基Lysはlppから由来しており、もう八つの残基(GGIPSLDP)が添加されて8番目のアミノ酸残基でlacZに融合された。一方pMM028においては開始コドンから13番目の残基までの領域はCspAから由来し、それに加えてBamHI部位を作り出すことによって生じた三つの残基(LDP)が8番目のアミノ酸残基でlacZに翻訳的に融合された。
pMM027とpMM028は両方とも同一のプロモーターを含んでいた。これらの構築物からの転写生成物もlacZの前に位置する、SD配列から翻訳的融合部位までの短い領域(これはpMM027については
であり、pMM028については
である)を除いては同一であった。これらのプラスミドを持つ細胞は37℃でM9−カザミノ酸培地で増殖され、そして中間対数相にイソプロピル−β−D−ガラクトピラノサイド(IPTG)が1mMの最終濃度で添加された。IPTGを添加して30分後、培養物は二つに分けられた;一方は37℃で、そして他方は15℃で保持された。両方の培養物についての37℃でのβ−ガラクトシダーゼ活性は図7bに示すとおり確実に誘導された。しかし、温度低下後、pMM027を持つ細胞についてはβ−ガラクトシダーゼ活性の増加は起こらなかったが、pMM028を持つ細胞についてはβ−ガラクトシダーゼ活性は15℃で確実に増加した。
実施例9
低温ショック誘導についての下流ボックスの必要性
lacZ遺伝子の低温ショック誘導を引き起こす正確な領域を明らかにするため、我々は次にpMM027とpMM028との間のコード配列のみを交換することによってpLF027及びpLF028を構築した。pLF027はpMM027のlacZ融合部位と開始コドンとの間の配列に対応するN末端の7残基配列
がpMM028のlacZ融合部位と開始コドンとの間の配列に対応するN末端の13残基配列
で置換されたことを除いてはpMM027と同一であった(図8aを参照されたい。)。同様に、pLF028はpMM028のN末端の13残基配列がpMM027のN末端の7残基配列で置換されたことを除いてはpMM028と同一であった(図8aを参照されたい。)。pLF027は以下のようにして構築された:PCRはpMM028を鋳型として用いてプライマー#7485
及びプライマーM13−47
で行われた。PCR生成物はBamHI及びXbaIでまず消化され、XbaI及びBamHIで消化されたpMM027へクローニングされた。
PCR反応においてプライマー#7486
がプライマー#7485の代わりに用いられたことを除いて、pLF028はpLF027と同じようなやり方で構築された。
pLF029は以下のように構築された:オリゴヌクレオチド#7493
及びオリゴヌクレオチド#7494
はまずアニールされ、次にXbaI及びBamHIで消化されたpMM027へクローニングされた。すべての構築物のDNA配列は鎖終結法(chain-termination method)(Sanger等,1977)を用いるDNA配列決定によって確認された。
イー・コリAR137はpLF027及びpLF028で形質転換され、β−ガラクトシダーゼ活性は1mMのIPTGの存在下で測定された。図8bに示すとおり、37℃でβ−ガラクトシダーゼはpLF027及びpLF028を持つ細胞においてほぼ同様に誘導された。しかし、β−ガラクトシダーゼ活性はpLF028を持つ細胞においては15℃ではほとんど増加しなかった。対照的にβ−ガラクトシダーゼ活性はpLF027を持つ細胞においては15℃で確実に増加した(図8b)。これらの結果はpMM027及びpMM028と共に、SD配列を含む開始コドンの上流にある領域ではなく、N末端領域にある短いコード配列が15℃でのlacZ融合mRNAの翻訳効率に関与していることを示す。pLF027からのmRNAは高い翻訳効率を持つが、pLF028からのmRNAは持たない。
下流ボックス配列が15℃でのpLF027からの転写生成物の翻訳効率に関与しているかどうかを調べるため、lacZ遺伝子はcspAの4番目のコドンで融合され、下流ボックス配列が除去され、pLF029が作り出された(構造については図8aを、DNA配列については図8cを参照されたい。)。pLF029で形質転換されたイー・コリAR137はpLF027及びpLF028について記述されたのと同じように37℃及び15℃でのβ−ガラクトシダーゼ活性の誘導について調べられた。図8bに示されるように37℃でのβ−ガラクトシダーゼ活性はpLF027のそれの約50%であった。このことは37℃でのpLF027 mRNAの翻訳効率がSD配列及び下流配列の両方によって調節されることを示す。しかし、pLF027 mRNAと対照的に低温ショックによってβ−ガラクトシダーゼ活性は増加しなかった。この結果は下流ボックス配列がcspA mRNAの効果的な翻訳において主要な役割を果たすことを明確に示している。
実施例10
低温ショック適応についてのcspA上流領域のマルチコピー効果
cspA遺伝子は37℃から15℃又は10℃への温度低下直後に誘導されること、及びCspA生産速度は温度低下後15℃では1時間後に、及び10℃では2時間後にピークに達することが示されている(3)。この時点以降、CspA生産は新しい基礎レベルに急落する。CspAのこの一過性生産の時期は、低温ショック後に観察される、遅滞期として知られる増殖阻害の継続に相当する(7)。従って、CspAのかかる一過性発現は低温への細胞適応に必要であるとみなされる。
cspAのこの一過性発現の特性決定をするため、我々は適応期間中のcspA発現の調節に必要とされる領域を同定しようと試みた。この目的のため、600−bp cspA上流領域がlacZ遺伝子に転写的に(transcriptionally)融合されているpJJG78がまず構築された(図9a)。cspAのこの600bpの上流領域はcspAの転写開始部位を+1と規定して、cspAのShine-Dalgarno配列の直前にある−457〜+143からの領域を含む(3)。イー・コリ株CL83はpJJG78で形質転換されβ−ガラクトシダーゼの生産は37℃から15℃への温度低下から0,0.5,及び3時間後に[35S]メチオニンで細胞をパルスラベルすることによって調べられた。コントロールとしてCL83細胞、及びベクターpKM005で形質転換されたCL83細胞(4)が用いられた。図9bに示されるとおり、CL83及びCL83/pKM005の両方について、cspAの発現は温度低下後0.5時間で高度に誘導された(図9b、それぞれレーン2及び5)。しかし参考文献(3)に既に示されているように、この高い発現は一過性であり、3時間で新しい基礎レベルに減少した(図9b、それぞれレーン3及び6)。0時点ではcspA発現が検出されなかったこと(図9b、それぞれレーン1及び4)、及びβ−ガラクトシダーゼは両方の株についていかなる時点でも生産されなかったこと(図9b、レーン1〜6)に注意されたい。
CL83及びCL83/pKM005とは対照的に、PJJG78を持つ細胞においてはβ−ガラクトシダーゼは温度低下を受けると明らかに誘導された(図9b、レーン7〜9)。このことはcspAの600bpの上流領域が低温ショック誘導に関与していることを示す。驚くべきことに、pJJG78を持つ細胞においてはcspAの生産はもはや一過性ではなく、低温ショックの3時間後でさえも高レベルに保持されていた(図9b、レーン9をレーン3及び6と比較されたい。)。pJJG78はcspAコード配列を含まないので、温度低下の3時間後のcspAの高生産は染色体cspA遺伝子に起因する。用いられた条件下では染色体cspA遺伝子は抑制されず、つまり抑制解除されるよりになったようである。興味深いことに図9bにおいてはXで示される他のバンドがあり、その発現パターンはcspAのそれとほぼ同一であった。それは低温ショックタンパク質であり、その生産もpJJG78の存在下で抑制解除された。この低温ショックタンパク質XはCsdAであると最近同定された。それはリボソームと協同する(10)。
大部分の細胞タンパク質の合成は低温ではCL83細胞及びCL83/pKM005におけるよりもpJJG78を持つ細胞においてより大きく阻害されたことにも注意すべきである(図9b、レーン8及び9をレーン2,3,5及び6と比較されたい。)。これらの結果は低温への細胞適応は細胞がcspA遺伝子の一部分を持つマルチコピープラスミドを持つ場合、より厳しい低温ショック応答によってそこなわれるということを示す。
低温ショック後のCspAの延長された合成がpJJG78によって引き起こされるので、pJJG78にクローニングされた600bpのcspA上流領域が低温ショック後CspA生産の阻害に関与する因子を隔離し、cspAの抑制解除又は延長された発現を生ずるのかもしれないと考えられる。この仮説を確かめるため、cspAの600bpの上流領域がpUC19に再クローニングされた。そのプラスミドはpUC19−600と呼ばれる。pUC19のコピー数(300コピー/細胞)はpBR322由来のpJJG78(30コピー/細胞)よりも約10倍高いということに注意されたい。パルスラベル実験は参考文献(6)に既に記述されているように行われた。図10に示されるとおり、CL83細胞においてはCspA生産は15℃では1.5時間まで増大し、3時間後には基礎レベルに減少した(図10、レーン1〜6)。pJJG78を持つCL83細胞においては15℃で24時間後でも一定レベルのcspA発現が観察された(図10、レーン7〜12)。pUC19−600を持つCL83細胞のCspA生産のパターンはpJJG78を持つもののそれに類似している(図10、レーン13〜18)。しかし、3時間及び5時間でのCspA生産から判断すると、cspA抑制解除のレベルはpJJG78を持つものよりもpUC19−600を持つものの方がずっと高かった。このように、cspA上流領域のコピー数が高いほど、CspA発現の抑制解除は強い。又、CsdA(Xで示される)は図10に示されるすべてのレーンにおいてCspAと正確に同じ発現パターンを示した。
図9bに示されるように、pJJG78を持つ細胞は低温で一般的タンパク質合成の一定の阻害を示した(図10のレーン8〜11をレーン2〜5と比較されたい。)。注意すべきことに、pUC19−600を持つ細胞におけるこの阻害はタンパク質合成速度及び阻害時間の両方の意味でpJJG78を持つ細胞よりもずっと明らかであった(図10のレーン14〜17をレ〜ン8〜11と比較されたい。)。600bpのcspA上流領域のコピー数が高くなると他の細胞タンパク質の合成の阻害が強くなる。このことは低温ショック適応が阻害されたことを示す。
実施例11
cspA mRNAの5′非翻訳領域の過剰生産
600bp配列の内でも低温での低温ショック適応の阻害及びcspAの抑制解除に必要な正確な領域を決定するため、図11に示されるようないくつかの内部断片がPCRによって作られ、pUC19のSmaI部位にクローニングされた。それらの配列はDNA配列決定によって確認された。各構築物について15℃で低温ショック適応を阻害する能力及びcspAの発現を抑制解除する能力がパルスラベル実験によって調べられた。まず、600bp断片の5′末端から欠失突然変異体が作られた。図11に示すとおり、断片3(186塩基の欠失)、断片2(312塩基の欠失)、断片2E(366塩基の欠失)、及び断片2G(390塩基の欠失)すべてが抑制解除機能を保持していた。次に断片2は図11に示すように23bpで重複する断片2A及び2Bに更に分けられた。驚くべきことに、2A及び2Bの両方ともが機能を失っていた。断片2Bよりも5′末端で33bpだけ長い断片2Fも構築されたが、これも機能することができなかった。cspAの抑制解除ができる構築物は低温ショック適応の阻害をも引き起こすこと、そして逆もまた同じであることがここにおいて見出された。
断片2はcspA抑制解除及び低温ショック適応の阻害の両方について機能的であるのに断片2Aはそうでないという事実はcspAプロモーター領域のみでは600bp断片が機能するのには十分ではないということを示す。更に、機能的断片2Gは非機能的断片2Fよりも31bpだけ5′末端で長いという事実は両方の機能がcspA mRNAの5′UTRの転写についてcspAプロモーター全体を必要としている可能性を示唆する。cspA mRNAが5′末端に159塩基の非翻訳配列を持つことに注意されたい(3)。この可能性を確かめるため、クローニングされた断片(断片2,2A,2B,2E,及び2F)から生産されたcspA転写生成物はプライマー伸長によって調べられた。15℃で1時間インキュベートされた、様々なプラスミドを持つ細胞から単離されたRNA画分全体を用いて、二つの独立したプライマーを用いてプライマー伸長が行われた;5′UTRの+124〜+143の配列に相当するプライマー3550及び+224〜+243のcspAコード配列の一部分に相当するプライマー3551。前者のプロモーターはプラスミド及び染色体の両方から転写されるcspA mRNAを検出し、一方、後者は染色体cspA遺伝子からのmRNAのみを検出する。何故ならいずれのプラスミドもcspAコード領域を含んでいないからである。
図12に示されるとおり、プライマー3551によって示される染色体cspA遺伝子からの転写産物の量はすべての構築物の間でほぼ同じであった(図12、レーン1〜6)。対照的に、プライマー3550によって示される、5′UTRを含むcspA転写生成物の量は二つの異なるレベルを示した。非機能的な構築物(pUC19−2A,pUC19−2B,及びpUC−2F)についてはプライマー3550によって検出される転写生成物の量(それぞれ図12のレーン3,4,及び6)はpUC19を持つもののそれ(図12のレーン1)とほぼ同様であった。このことはこれらのプラスミドにクローニングされたcspA領域は転写されなかったことを示す。他方、機能的構築物(pUC19−2及びpUC19−2E)についてはプライマー3550によって検出されるcspA転写生成物のレベル(それぞれ図12のレーン2及び5)はpUC19を持つもののレベル(図12のレーン1)と比較するとずっと高かった。これらの結果はcspA mRNAの5′UTRは断片2及び2Eでは転写されるが断片2A、2B及び2Fでは転写されないことを示す。このように低温での低温ショック適応を阻害する能力及びcspA発現を延長させる能力はcspA mRNAの5′UTRの転写と関連している。
cspA mRNAの5′UTRの転写がcspA抑制解除及び低温ショック適応の阻害の両方に必要であることを確実に示すため、プロモーター断片全体(−457〜−1)及びcspAからの6塩基領域(+1〜+6)がpUC19へクローニングされた。この断片は断片1と命名された(図11を参照されたい。)。このように断片1においてはcspA mRNAの5′UTRの大部分が除去されていた。図13bに示されるようなパルスラベル実験によって、断片1はcspAプロモーターからの転写生成物がプライマー伸長によってはっきりと検出可能であるにもかかわらず、cspAを抑制解除することができないことが示された(図13a)。これらの結果から、cspA発現及び低温ショック適応について効果を発揮するためには、+1〜+143のcspA非翻訳領域の少なくとも一部分が転写される必要があると結論付けることができる。
実施例12
cspA mRNAの5′UTRの過剰生産によって影響を受ける低温ショック遺伝子
次に、cspA mRNAが他の低温ショック遺伝子の発現に影響を及ぼすかどうか決定するため、cspA mRNAの5′UTRの過剰生産が調べられた。cspA 5′UTRを過剰生産している低温ショックを受けた細胞のタンパク質発現パターンが二次元電気泳動によって分析された。プラスミドpJJG21/X,SはcspAプロモーター全体及びcspA mRNAの5′UTRの大部分(+1〜+143)を含むが、pJJG81/X,SはcspAプロモーター全体とcspA非翻訳mRNAの最初の6塩基領域のみを含む。これらのプラスミドを持つ細胞は参考文献(6)に記載されているようにパルスラベルされた。37℃ではタンパク質合成速度及びタンパク質パターンは両方の株について極めて類似していた(図14,A及びB);低温ショックタンパク質は検出されていないことに注意されたい。これらの細胞が1時間15℃におかれると(図14,C及びD)、低温ショックタンパク質(1.CspA;2.CspB′;3.CspB;及び4.CsdA)の合成が極めて顕著になってくる。CspB′はCspBと共誘導され、CspBの修飾された形態か又は未同定の低温ショックタンパク質であろうと考えられている(2)ことに注意されたい。両方の構築物についての低温ショックタンパク質の合成速度はスポットの濃さから判断すると同じくらいである。大部分の他の細胞タンパク質の合成は両方の株について37℃でのものと比較すると有意に減少するが、pJJG21/X,Sで形質転換された細胞においてはずっと強い阻害効果が観察された。細胞が15℃で3時間インキュベートされると、大部分の細胞タンパク質の合成はpJJG81/X,Sを持つ細胞におけるすべての低温ショックタンパク質の減少に付随して通常レベルに回復した(図14f)。対照的にpJJG21/X,Sを持つ細胞についてはすべての低温ショックタンパク質(1〜4でマークされている)の生産は他の細胞タンパク質の生産の減少に付随して極めて高レベルになおも維持されていた(図14e)。これらの結果はcspA mRNAの5′UTRの過剰生産はcspAのみならず他の低温ショック遺伝子の抑制解除をも引き起こすことを明らかに示し、低温ショックタンパク質遺伝子が共通のメカニズムによって調節されていることを示唆する。低温ショック適応の阻害はcspA mRNAの5′UTRが過剰生産されて他の細胞タンパク質の合成を阻害することによって起こることも更に確認される。上述の結果に基づいてcspA mRNAのUTRの過剰生産は他の細胞タンパク質の付随的阻害を引き起こすことが示唆される。これは低温ショック後の細胞増殖は野生型細胞よりもcspA mRNAのUTRを過剰生産する細胞でより厳しく阻害されるであろうということを意味する。pUC19−600又はpUC19−2Gを持つ細胞の増殖(図11を参照されたい。)は実際、ひどく阻害される。これは長い遅滞期によって特性付けられる(データーは示さず。)。
実施例13
cspAの過剰生産の効果
cspA mRNAの5′UTRの過剰生産はCspAの過剰生産の延長を引き起こす(図10を参照されたい)。それ故、上で観察された効果はcspA mRNAの5′UTRよりもむしろCspAタンパク質の過剰生産によるのであろう。この可能性はcspA遺伝子全体を含むpJJG02を持つCL83細胞を用いて調べられた。パルスラベル実験は上述のように行われた。pUC19を持つCL83株を用いて図15に示されるように、cspA及びcsdA(タンパク質Xの遺伝子)の発現は15℃への温度低下後1時間で誘導され(レーン1及び2)、温度低下後3時間で基礎レベルに戻った(レーン3)。一方細胞がpJJG02で形質転換された場合、cspAの発現は15℃で誘導されるのみならず、二次元ゲル電気泳動によって判断されるようにpUC19を持つ細胞よりも有意に高かった(データーは示さず。)。高いCspA生産は15℃で3時間後でも観察されることに注意されたい(レーン6)。低温ショック後3時間でのCspAのこの過剰生産は上述のcspAの5′UTRの過剰生産(図10)の場合に極めて類似していたが、同じ時点では細胞増殖の遅滞期の延長及びCspB及びCsdAの如き他の低温ショックタンパク質の生産の延長は観察されなかったことに気付くことは重要である。これらの結果はcspA mRNAの5′UTRを持つCspAの共生産は5′UTRのみの過剰生産の効果を抑制すること、及び低温ショックの3時間後のCspA生産の高レベルはこの効果の原因ではないことを示す。
結果の検討
タンパク質合成という意味での低温ショック応答は低温ショック遺伝子の一過性発現によって特徴付けられる。温度が下げられると、cspA,cspB,及びcsdAの如きいくつかの低温ショック遺伝子が劇的に誘導される(3,9,10)。しかし、発現はすぐに新しい基礎レベルに減少する。低温ショック遺伝子のかかる一過性発現は低温への細胞適応にとって必須であると考えられる。何故なら低温ショック後の細胞増殖の遅滞期は低温ショック遺伝子の一過性発現の期間に相当するからである(7,8)。本発明においてはcspA mRNAの5′UTRが低温ショック後に過剰生産されると、細胞は以下にまとめる通りストレスに対して適切に応答することができないことが示された:(a)低温ショック遺伝子の発現はもはや一過性ではない。(b)低温ショックタンパク質と対照的に、他の細胞タンパク質の合成は長時間ひどく損なわれる;低温ショックタンパク質の生産と他の細胞タンパク質の生産の間には相互関係がある。(c)低温ショック後に通常観察される細胞増殖の一時的停止も延長される。
これらの結果に基づいて、低温ショック遺伝子生成物は低温への細胞適応にとって必須である、つまり、より効果的な翻訳、転写、及び/又はDNA複製のために必要であると推測することができる。これらの適応過程は他の非低温ショックタンパク質の合成の一時的阻害を引き起こし、それは細胞増殖の遅滞期又は一時的停止をもたらす。低温ショックタンパク質の誘導された生産は新しい基礎レベルにまで減少又は抑制される必要があり、次にそれは他の細胞タンパク質の合成を可能にし、それによって通常の細胞増殖が再開される。現在では低温ショックタンパク質の合成と他の細胞タンパク質の間の相互関係のメカニズムは知られていない。しかし、現在までの結果はcspA mRNAの異常に長い5′UTR(159塩基)(3)がそれ自体の遺伝子cspAのみならず、cspB及びcsdAの如き他の低温ショック遺伝子の高度に誘導される発現の抑制において重要な役割を果たすことをはっきりと示す。
cspA,cspB(2)及びcsdA(10)はすべて異常に長い5′UTR(それぞれ159,161,及び226塩基)を持つmRNAを生産することに気付くことは興味深いことである。これらのUTR中、「低温ボックス(cold box)」と命名された、11塩基からなる高度に相同の配列が各々のmRNA中に見出されている(図16A)。低温ボックスにおいては、cspAとcspBの間、及びcspAとcsdAの間にはそれぞれ2及び1のミスマッチしかない。低温ボックスの共通配列は図16Aに示すとおりUGACGUACAGAである。低温ボックスがリプレッサー結合部位であると推測するのは魅力的である。cspA生産が低温ショック適応中減少するにつれ、cspA mRNAの量はほぼ平行して減少することに気付くことは重要である(17)。この結果は低温ショック適応中のcspAの抑制はcspA mRNAの量に比例していること、及びそれは翻訳レベルでは調節されていないことを示す。我々は仮想的な低温ショック誘導可能リプレッサーが低温ショックmRNAに共通の低温ボックス配列に結合し、それが次にこれらの遺伝子の転写を阻害する(仮説I)か又はそれらのmRNAを不安定させる(仮説II)ということを提案する。この提案を実際に支持する結果が得られており、そこではcspA抑制解除に関与する領域はcspA mRNAの最初の25塩基配列中に存在する(データは示さず)。更にcsdA 5′UTRはcspAプロモーター下で発現されると低温でのcspA発現を抑制解除することができた(データーは示さず。)。
本発明によれば、低温ボックスに結合するリプレッサーは遺伝子の更なる転写に干渉することが提案される。mRNAに結合するリプレッサーがどのようにしてRNAポリメラーゼの機能をシスで(in cis)阻害して更なるRNA伸長を阻害するかは現在ではまだ知られていない。仮想的なリプレッサーは低温ショック誘導可能であり、その細胞レベルが一定のしきい値よりも高くなるとそれは低温ショック誘導可能なmRNAの低温ボックスに結合すると考えられている。それ故、低温ボックスを含むmRNAの一部分の過剰生産はリプレッサーを隔離し、低温ショック遺伝子の発現抑制解除を引き起こす。仮説IIにおいては、低温誘導可能な因子又はリプレッサーは低温ボックス配列に結合し、それは低温ショックmRNAを不安定化し、それらの細胞濃度を減少させる。これは次に低温ショックタンパク質の生産の減少を引き起こす。
5′UTRとのCspAの共過剰生産は通常の低温ショック応答を再開させるので、CspAはそれ自体がリプレッサーの機能に直接的又は間接的に関与しているようである。CspA(これはRNAシャペロンとして機能することが推定されている(9)。)は低温ボックス又は低温ボックス関連構造に結合するのかもしれない。もしそうなら、mRNA上に結合するCspAがどのようにして転写の減弱又はmRNAの不安定化を引き起こすのかということは興味深い問題である。
材料及び方法
イー・コリ株及び培養培地。イー・コリCL83[recA ara(lac−proAB) rpsL(=strA) f80 lacZ M15](12)はすべての実験に用いられ、既述(13)されたようにM9−カザミノ酸培地で増殖された。パルスラベル実験には、メチオニンを欠くアミノ酸混合物が用いられた。各アミノ酸の最終濃度は50mg/mlであった。
プラスミドの構築
pJJG02は以下のようにしてpJJG01(3)から構築された:cspA遺伝子全体を含む998塩基の断片はHindIII及びXmnI消化によってpJJG01から得られた。この断片は次にDNAポリメラーゼのKlenow断片(Life Technologies)で処理され、pUC9のSmaI部位に挿入された。pJJG21は以下のようにcspAのShine-Dalgarno配列のすぐ上流にXbaI部位を作り出すことによってpJJG02から構築された:
(かっこ内の元のヌクレオチドは下線を引いたヌクレオチドによって置換された;参考文献1)。pJJG81は以下のようにcspAの転写開始部位のすぐ下流にxbaI部位を作り出すことによってpJJG02から構築された:
(下線を引かれたヌクレオチドは挿入された塩基を表す)。
pJJG78は以下のようなlacZと0.6kbのcspA上流領域の転写的融合物である:pJJG21からのcspAを含む1kbのEcoRI/BamHI断片はKlenow酵素で充填され、pUC19のSmaI部位に結合された。次にcspA調節領域(−457〜+143)を含む0.6kbのXbaI断片が切り出され、正しい配向でpKM005のXbaI部位に結合された(4)。
pUC19−600はpJJG21からの0.6kbのEcoRI/XbaI断片をpUC19のEcoRI/XbaI部位に挿入することによって構築された。断片1を含むpJJG81/X,S(図3)はpJJG81から0.74kbのXbaI/SalI断片を除去することによって構築された。両端はKlenow断片で処理され、次に自己結合された。図3に示す他のすべての構築物はPCRによって作られた(Boehringer Mannheimのプロトコル)。PCR増幅された断片はpUC19のSmaI部位に挿入された。すべてのPCR生成物はDNA配列決定によって確認された(15)。
p2JTEKは以下のようにして構築された:プライマー3549
及びプライマー4428
によるPCR生成物はpUC19のSmaI部位にクローニングされた。このPCR生成物はcspAの転写開始部位を+1と規定して−146から+25までのcspAを含む。次にcspAの転写ターミネーターがプライマー6290
を用いてPCRによって増幅された。次にPCR生成物はEcoRIで消化され、EcoRI及びSspIで消化された上述のプラスミドへクローニングされた。次にpBluescript II SKからの52bpのKpnI及びEcoRI断片はEcoRI及びKpnI部位へクローニングされた。すべてのPCR生成物はDNA配列決定によって確認された(15)。
p6mTEKは最初のPCRが異なるプライマー:プライマー3552
を用いて行われたことを除いてはp2JTEKと同じようにして構築された。このPCR生成物はcspAの転写開始部位を+1と規定してcspAの−278から+6までを含む。すべてのPCR生成物はDNA配列決定によって確認された(15)。
パルスラベル実験は既に記載されている通りに行われた(6)。タンパク質はポリアクリルアミドSDSゲル電気泳動(5)によって又は既に記載されている通り2次元電気泳動(7)によって分析された。
プライマー伸長実験に用いられたプライマー
プライマー3550
はcspAの転写開始部位を+1と規定して+143から+124ntの配列に相当する(Goldstein等,1990)。プライマー3551
は+243から+224ntまでである。逆プライマー
は468から487ntまでのpUC9の配列に相当する(19)。プライマーは既に記載されている通り(6)、T4キナーゼ(Life Technologies)を用いて[g−32P]ATPによって5′末端でラベルされた。RNAは既に記載されている方法(6)に従って抽出された。
図の説明
図1〜8は上述されている。
図9。 (A)600bpのcspA上流領域及びlacZ遺伝子の転写的融合物を含むpJJG78の地図。pJJG78の構造は「材料及び方法」に記載されている。600bpのcspA上流領域はcspAの−457から+143塩基の配列に相当する(3)。
(B)cspAの600bp上流領域の効果。パルスラベル実験は「材料及び方法」において記述されている通りに行われた。細胞培養物は中間対数相(80Klett 単位)で37℃から15℃へ温度低下された。パルスラベルの時点は上の各レーンに示されている。同一の培養物容量(0.25ml)が各時点について用いられ、37℃及び15℃でのパルスラベル時間はそれぞれ5分及び15分であった。CspA、β−ガラクトシダーゼ、及びCsdA(タンパク質X)の位置は矢印で示されている。レーン1〜3、ホスト細胞CL83;レーン4〜6、pKM005を持つCL83細胞;及びレーン7〜9、pJJG78を持つCL83細胞。CspAのすぐ下に見えるバンドは主要な外膜リポタンパク質であると同定されている(レーン1,3,4,6,及び7)。
図10。 pJJG78又はpUC19−600を持つCL83及びCL83株を用いたパルスラベル実験は「材料及び方法」で記述した通りに行われた。調べられた構築物及びパルスラベルの時点はレーンの上部に示されている。CspA及びタンパク質X(CsdA)は矢印で示されている。レーン1〜6、CL83細胞;レーン7〜12、pJJG78を持つCL83細胞;及びレーン13〜18、pUC19−600を持つCL83細胞。
図11。 全長600bpのcspA上流領域は上部に示されている。各断片の名称、5′及び3′末端位置は各バーの上に示されている。低温ショック適応過程中cspA発現を抑制解除する能力は温度低下の3時間後でのCspA生産によって判断され、+又は−で示されている。塗りつぶされたバーは染色体cspA遺伝子を抑制解除することができるクローンを示し;塗りつぶされていないバーはcspAを抑制解除することができない。
図12。 各構築物の名称は各レーンの上部に示されている。二つの異なるプライマー(プライマー3550及び3551)は同量の総細胞RNAを用いたプライマー伸長に別々に用いられた。各レーンにおいて等量の二つの反応生成物が混合され、7M尿素−6%ポリアクリルアミドゲルに添加された。予測される伸長生成物はプライマー番号で示されている。
図13。 (A)pJJG81/X,Sを用いた断片1(図3)におけるcspAプロモーターからの転写生成物の検出。プライマー伸長実験は「材料及び方法」において記述された通りに行われた。pUC19からの逆プライマーは断片1においてcspAプロモーターからの転写生成物を検出するのに用いられた。低温ショック後の時点はレーンの上部に示されている。(B)低温ショック処理(37℃から15℃へ)後の、pJJG81/X,Sを持つCL83細胞のタンパク質合成のSDS−PAGE分析。パルスラベル実験は「材料及び方法」に記述されている通りに行われた。パルスラベルの時点はレーンの上部に示されている。CspA及びタンパク質X(CsdA)は矢印で示されている。
図14。 パルスラベル実験及び二次元電気泳動は「材料及び方法」に記述されている通りに行われた。A,C,及びEはそれぞれ37℃で、15℃で1時間、及び15℃で3時間の、pJJG21/X,Sを持つCL83細胞のタンパク質発現パターンを示す。B,D,及びFはそれぞれ37℃で、15℃で1時間、及び15℃で3時間の、pJJG81/X,Sを持つCL83細胞のタンパク質発現パターンを示す。低温ショックタンパク質は矢印で示されている。矢印1、CspA;矢印2、CspB′;矢印3、CspB;及び矢印4、CsdA。
図15。 pUC19及びpJJG02を持つCL83細胞は37℃で(それぞれレーン1及び4)、15℃で1時間(それぞれレーン2及び5)、及び3時間(それぞれレーン3及び6)パルスラベルされ、「材料及び方法」に記述されている通りにSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析された。CspA及びタンパク質X(CspA)は矢印で示されている。
図16A。 高度に相同な11塩基配列は線で囲まれており、「低温ボックス」と名付けられている。共通の低温ボックス配列は下部に示されている。同一の塩基は垂直線によって連結されている。
ここで参照されるすべての参考文献は参考文献として組入れる。
上述の記載に鑑みて、本発明の実施においては本発明の範囲からはずれることなしに多くの修正、変更、及び置換が可能である。かかる修正、変更、及び置換は請求の範囲の範囲に含まれることを意図される。
関連出願
この特許出願は「細菌中でのタンパク質発現を阻害する方法及び構築物」というタイトルで1996年12月19日に出願された係属中の特許(シリアルNo.08/769945)の部分係属出願である。この文献は参考文献としてその全体をここに組入れる。この出願は1996年3月22日に出願された出願(シリアルNo.60/013922)の部分係属出願である。この文献はシリアルNo.08/769945の出願において参考文献としてその全体を組入れられている。
参考文献
Claims (9)
- 以下のステップを含むことを特徴とする、ポリペプチドの製造方法:
CspAのmRNAの5’非翻訳領域、開始コドン、開始コドンと重複する下流ボックスヌクレオチド配列及び前記下流ボックスの3’側に異種遺伝子由来のポリペプチドをコードする配列を含むmRNAを、cspA遺伝子のプロモーターにより15℃において細菌中で過剰発現させ、ただし前記下流ボックスヌクレオチド配列は配列
で表される細菌の16S rRNAのアンチ下流ボックスに対して100%相補的であり;
前記mRNAを前記アンチ下流ボックスにアニールさせ、それによって16S rRNAに結合させて他の細菌mRNAの翻訳を阻害し;そして
前記ポリペプチドを細菌中に高レベルに蓄積させる。 - 過剰発現がmRNAを転写するDNA配列を含む媒体で細菌を形質転換させることによって行われる請求の範囲1の方法。
- 細菌がイー・コリである請求の範囲1の方法。
- 非翻訳領域がShine−Dalgarno領域を含む請求の範囲1の方法。
- 開始コドンの5’側にShine−Dalgarno領域を含む請求の範囲6の単離されたDNA構築物。
- 請求項6の単離されたDNA構築物を含む複製媒体。
- 請求の範囲8の媒体で形質転換された細菌。
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