JP4320028B2 - 微小硬度測定法及び微小硬度計 - Google Patents
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Description
一方、「窪み深さ測定方式」では、圧子の押し込み量から圧痕の窪み深さを測定しているので、対角線長さを光学的に測定することができないような微小な圧痕であっても硬度測定が可能である。
しかしながら、「窪み深さ測定方式」は、圧痕形成時の弾性変形の割合が大きい試料の場合、圧子を押し込むと試料がたわむため、圧子の押し込み深さが圧痕(永久窪み)の深さよりも深くなり、圧子の押し込み深さから算出される窪みの表面積は、除荷後の圧痕(永久窪み)の表面積より大きくなり、(最大荷重)/(永久窪み表面積)で算出される硬度が過小評価されるという問題がある。
(特許文献2)には、「任意の測定点における圧子に加えられる荷重P,その荷重における圧子の変位d,圧子の形状によって決定される定数αから、所定の計算式に基づき最小二乗法によって、比例定数Kと試料の動的硬度を演算する演算手段を備えた超微小硬度計」が開示されている。
(特許文献3)には、「圧子を測定対象の薄膜に押し付けるローディング時に圧子が薄膜にした仕事、アンローディング時に薄膜が圧子にした仕事、種々の材料の硬度/弾性率比の関係を線形近似した近似式から、測定対象の薄膜の硬度/弾性率比を求め、次いで最大荷重時の圧子の接触面積を求め、薄膜の硬度を求める測定方法」が開示されている。
(1)(特許文献1)に開示の技術は、補正式は圧子の形状、材料毎にそれぞれ異なるので、圧子の形状と材料が変わるたびに圧痕の深さと対角線の長さを計測して補正値を算出して補正を行う必要があり、操作が非常に煩雑であるという課題を有していた。
(2)(特許文献2)に開示の技術は、最小二乗法により比例定数Kと試料の動的硬度を算出する際に誤差が生じ、測定精度が低下するという課題を有していた。また、任意の測定点における荷重P,変位dとの関係から、圧子の形状を考慮して硬度を算出するものなので、圧子の押し込み深さを考慮しておらず、試料の深さ方向において硬度が一定であることを前提としており、軟質の基材の表面に硬い表面層が形成された試料のように、深さ方向で硬度が変化する試料の硬度を算出する場合には、圧子の押し込み深さによっては誤差が著しく大きくなるという課題を有していた。
(3)(特許文献3)に開示の技術は、種々の材料の硬度/弾性率比の関係を線形近似する際に誤差が生じ、さらに硬度の演算の際に誤差が累積されるので測定精度が低下するという課題を有していた。また、硬度Hは最大荷重Pmaxと最大荷重時の圧子の接触面積AからH=Pmax/Aの計算式を用いて求めるので、試料のたわみや弾性変形が生じ難い金属材料を対象とした硬さ測定法であり応用性に欠けるという課題を有していた。
しかしながら、弾性変形が支配的な試料の場合、負荷荷重−へこみ深さ曲線と除荷荷重−へこみ深さ曲線とがほぼ一致してしまい、ズレの検知ができない場合があることがわかった。この場合は、仮想のへこみ深さが算出できないため硬度を求めることができないという問題がある。
また本発明は、硬度を短時間で自動的に算出でき操作性に優れ、また誤差が生じ難く圧子の形状にも影響されず高い精度で硬度を算出することができ、さらに微小荷重しか負荷できず対角線の長さが10μm程度以下の微小な圧痕しか形成できないような硬い表面層が形成された試料の表面層(薄膜)の硬度も算出することができ応用性に優れる微小硬度計を提供することを目的とする。
本発明の請求項1に記載の微小硬度測定法は、基材に表面層が形成された試料に圧子を押し込み圧痕を形成して硬度を算出する微小硬度測定法であって、前記圧子に負荷した最大荷重L0と、前記圧子の前記試料の表面からの最大押し込み量δMと、を測定する負荷工程と、前記圧子に加わる荷重がゼロになったときの前記圧子の前記試料の表面からの隆起量δBを測定する除荷工程と、前記最大押し込み量δMと前記隆起量δBとに基いて圧痕深さδを算出する圧痕深さ算出工程と、前記圧痕深さδと前記最大荷重L0とに基づいて硬度を演算する硬度演算工程と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)軟質の基材の表面に硬い表面層が形成された試料等のように弾性変形によるたわみが生じ易い試料に最大荷重L0(設定された試験力)に到達するまで圧子を押し込み、次いで除荷した場合、最大荷重L0が、圧子が試料の表面層を完全には破壊しないような微小な荷重のときは、負荷荷重によって試料の表面層が塑性変形して凹みが形成され、凹み周辺の少し広い部分に弾性変形が生じ、除荷時には、弾性変形した部分だけが反発して隆起した上に、塑性変形した凹みが最終的に残ることを見出した。負荷時の弾性変形と除荷時の反発の際の弾性変形の大きさは略等しくなることから、負荷工程と除荷工程において最大押し込み量δMと隆起量δBとを測定すれば、最大押し込み量δMと隆起量δBとに基いて圧痕深さδを算出することができ、硬度演算工程において圧痕深さδと最大荷重L0とに基づいて硬度を演算することができる。
(2)最大押し込み量δM、隆起量δB、最大荷重L0は、ほぼ静的な状態で測定できるため誤差が生じ難く、また試料の変形から圧痕深さδを求めた後、圧痕の表面積を求めて硬度を算出するので、圧子の形状にも影響されず高い精度で硬度を算出することができる。
(3)実際の圧痕の深さ、圧痕の対角線の長さを計測する必要がないので、微小荷重しか負荷できず対角線の長さが10μm程度以下の微小な圧痕しか形成できないような硬い表面層が形成された試料の表面層の硬度を正確に算出することができ応用性に優れる。
ここで、負荷時の試料の弾性変形の大きさ(δM−δ)と除荷時の反発の際の弾性変形の大きさ(δB+δ)は略等しくなることから、(1)式が成り立つ。試料の弾性係数等に依存する補正係数k(k>0)を考慮した場合は(2)式が成り立つ。
δM−δ=δB+δ …(1)
δM−δ=kδB+δ …(2)
(2)式においてδについて解くと、
2δ=δM−kδB …(3)
よって、圧痕深さδは(4)式で表すことができる。
δ=(δM−kδB)/2 …(4)
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)圧痕深さ算出工程において補正係数kを考慮して圧痕深さδを算出できるので、試料の材質等に影響を受けずに硬度を算出することができ応用性に優れる。
補正係数kは、表面層自体の最大荷重L0における硬度HSと、最大押し込み量δM、最大荷重L0、隆起量δBから求めることができる。
表面層自体の最大荷重L0における硬度HSは、弾性変形をほとんど示さないガラス板やセラミック板等の硬質の基板を別途用意し、基板の表面に試料と同じ材質の表面層を印刷法や塗布法等によって基板や圧子の押し込み量の影響を受けないような20〜30μm程度の厚さに形成した後、圧子を最大荷重L0まで表面層に押し込み圧痕を形成して、形成された圧痕の大きさを顕微鏡で測定し、硬度=(最大荷重L0)/(圧痕の表面積)の計算式を用いて求めることができる。
ここで、最大荷重L0における表面層自体への圧子の最大押し込み量をδTとすると、表面層自体の硬度HSは(5)式で表すことができる。なお、A,Bは、圧子の最大押し込み量を圧痕の表面積に換算して硬度を算出するときの定数であり、圧子の形状に固有の値である。
HS=A×{L0/(δT/B)2} …(5)
これを解くと、δTは(5)式のように表すことができる。
δT={A・B2×L0/HS}1/2 …(6)
HSは実験により求めた値なので、最大押し込み量δTは最大荷重L0の関数となる。
一方、(4)式を補正係数kについて解くと、
k=(δM−2δ)/δB …(7)
市販の一般的なビッカース硬度計等を用いて硬度HSが測定可能な荷重における関係が、微小荷重においてもほぼ成り立つと仮定して、(6)式の最大荷重L0における最大押し込み量δTを(7)式のδに代入すると、(8)式で示す補正係数kを求めることができる。
k={δM−2(A・B2×L0/HS)1/2}/δB …(8)
なお、補正係数kは、微小荷重における測定誤差等を含んでいるため、異なる荷重で求めた硬度HSやHT、δM,δBを(8)式に代入して補正係数kをいくつか求め、それの平均値を用いることができる。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)軟質の基材の表面に硬い表面層が形成された試料等のように弾性変形によるたわみが生じ易い試料に最大荷重L0(設定された試験力)に到達するまで圧子を押し込み、次いで除荷した場合、最大荷重L0が、圧子が試料の表面層を完全には破壊しないような微小な荷重のときは、負荷荷重によって試料の表面層が塑性変形して凹みが形成され、凹み周辺の少し広い部分に弾性変形が生じ、除荷時には、弾性変形した部分だけが反発して隆起した上に、塑性変形した凹みが最終的に残ることを見出した。負荷時の弾性変形と除荷時の反発の際の弾性変形の大きさは略等しくなることから、負荷検出計と変位計により最大押し込み量δMと隆起量δBとを測定し、演算手段を用いて最大押し込み量δMと隆起量δBとに基いて圧痕深さδを算出し、圧痕深さδと最大荷重L0とに基づいて硬度を演算することができる。
(2)最大押し込み量δM、隆起量δB、最大荷重L0は、ほぼ静的な状態で測定できるため誤差が生じ難く、また試料の変形から圧痕深さδを求めた後、圧痕の表面積を求めて硬度を算出するので、圧子の形状にも影響されず高い精度で硬度を算出することができる。
(3)実際の圧痕の深さ、圧痕の対角線の長さを計測する必要がないので、微小荷重しか負荷できず対角線の長さが10μm程度以下の微小な圧痕しか形成できないような硬い表面層が形成された試料の表面層の硬度を正確に算出することができ応用性に優れる。
なお、試料を載せるステージの下部に負荷検出計を配置して試料に負荷された荷重を検出するのではなく、負荷装置に負荷検出計を付加して、試料に負荷した荷重を検出することもできる。
この構成により、請求項3で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)負荷検出計が上皿電子はかりからなるので、極めて感度が高く微小な荷重の変化を検出することができ、さらに最大押し込み量δM及び隆起量δBを静電容量式センサで測定するので、微小な深さの変化も検出することができるため精度良く測定でき、試料の硬度の高精度測定ができる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)最大押し込み量δMと隆起量δBとに基いて圧痕深さδを算出して、硬度演算工程において圧痕深さδと最大荷重L0とに基づいて硬度を演算することができ、簡単な操作で硬度を算出できる微小硬度測定法を提供できる。
(2)最大押し込み量δM、隆起量δB、最大荷重L0は、ほぼ静的な状態で測定できるため誤差が生じ難く、また圧子の形状にも影響されず高い精度で硬度を算出することができる微小硬度測定法を提供できる。
(3)実際の圧痕の深さ、圧痕の対角線の長さを計測する必要がないので、微小荷重しか負荷できず対角線の長さが10μm程度以下の微小な圧痕しか形成できないような硬い表面層が形成された試料の表面層の硬度を正確に算出することができ応用性に優れた微小硬度測定法を提供できる。
(1)圧痕深さ算出工程において補正係数kを考慮して圧痕深さδを算出できるので、試料の材質等に影響を受けずに硬度を算出することができ応用性に優れた微小硬度測定法を提供することができる。
(1)負荷検出計と変位計により最大押し込み量δMと隆起量δBとを測定し、演算手段を用いて最大押し込み量δMと隆起量δBとに基いて圧痕深さδを算出し、圧痕深さδと最大荷重L0とに基づいて硬度を演算することができる微小硬度計を提供できる。
(2)最大押し込み量δM、隆起量δB、最大荷重L0は、ほぼ静的な状態で測定できるため誤差が生じ難く、また圧子の形状にも影響されず高い精度で硬度を算出することができる微小硬度計を提供できる。
(3)実際の圧痕の深さ、圧痕の対角線の長さを計測する必要がないので、微小荷重しか負荷できず対角線の長さが10μm程度以下の微小な圧痕しか形成できないような硬い表面層が形成された試料の表面層の硬度を正確に算出することができ応用性に優れた微小硬度計を提供できる。
(1)微小な荷重の変化、微小な深さの変化を検出することができるため、最大押し込み量δM及び隆起量δBを精度良く測定でき、試料の硬度の高精度測定が可能な微小硬度計を提供することができる。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における微小硬度計の模式図である。
図1において、1は本発明の実施の形態1における微小硬度計、2は微小硬度計1の台部、3は台部2に立設された枠体、4は枠体3に垂設され後述する圧子6に負荷する荷重を任意の速度で増減できる圧電アクチュエータやステッピングモータ等で形成された負荷装置、5は負荷装置4に垂設された圧子架台、5aは圧子架台5の側方に延設され圧子架台5と一緒に上下する延設部、6は圧子架台5の先端に配設されたビッカース,ヌープ等の圧子、7は台部2に配設された電子はかりからなる負荷検出計、8は負荷検出計7の上部に配設されたステージ、9はステージ8の上に配置された試料、10は延設部5aの下面で圧子6の先端から十分離れた試料9の表面に配置された変位センサである。本実施の形態における変位センサ10は、上下面に一対の電極板10a,10bを有し、延設部5aの下面と試料9の表面との間の電極板10a,10bの間隔が変化すると静電容量が変化することを利用して、試料9の表面と延設部5aの下面との相対距離を検出する静電容量式センサである。変位センサ10は圧子6の先端から10mm程度離れた試料9の表面に配置されているので、圧子6が試料9に押し込まれることによって生じる圧子6のごく近傍の試料9の表面の変位には影響を受けないため、試料9の表面から延設部5aの下面までの相対距離の基準にすることができる。
11は変位センサ10からの信号を試料9の表面から延設部5aの下面までの相対距離のデータに変換する変位計である。本実施の形態における変位計11は、負荷検出計7が圧子6の荷重を検出すると、圧子6が試料9の表面に接触したものと判断し、そのときの変位計11からの距離のデータを基準にして、その距離からの変位センサ10の変位量を計算し、この変位量を試料9の表面からの圧子6の押し込み量とみなす。なお、押し込み量は、試料9に圧子6を押し込むことによって試料9の表面に形成された窪み(圧痕)の深さと試料9のたわみ量の両方を含んでいる。
12は負荷検出計7からの荷重のデータ,変位計11からの押し込み量のデータに基づいて演算を行う演算手段としてのCPU、13は負荷検出計7からの荷重のデータ,変位計11からの押し込み量のデータを、負荷検出計7が圧子6の荷重を検出してからの時刻毎に記憶するRAM等の記憶手段、14は負荷検出計7からの荷重のデータ,変位計11からの押し込み量のデータに基づいて荷重−変位曲線等を出力するXYプロッタ,ディスプレイ等の表示装置である。
図2は圧痕深さδの算出原理を示す図であり、図3は微小硬度計における動作を示すフローチャートである。
図2において、6は圧子、9は試料、9aは合成樹脂製等の基材、9bは基材9aの表面に形成されたガラス製等の表面層である。
微小硬度計1の電源を入れると、負荷装置4は圧子架台5及び延設部5aを下降させ圧子6を試料9に接触させた後(図2(a)参照)、負荷工程において、圧子6を一定速度で下降させ、最大荷重L0(設定された試験力)に到達するまで圧子6を試料9に押し込む(S1)。負荷検出計7は、圧子6が試料9に加えた荷重のデータをCPU12に送信する。変位計11は、変位センサ10が送信した信号を、圧子6が試料9の表面(図2において0で示したライン)から押し込まれた押し込み量のデータに換算してCPU12に送信する。CPU12は、変位計11から送信された押し込み量のデータ,負荷検出計7からの荷重のデータを記憶手段13に記憶させる。
荷重が最大荷重L0に達すると、負荷装置4は最大荷重L0を一定の時間保ち、CPU12は最大荷重L0、このときの最大押し込み量δMを記憶手段13に記憶させる(S2、図2(b))。
δM−δ=kδB+δ …(2)
これを解くと、
2δ=δM−kδB …(3)
よって、
δ=(δM−kδB)/2 …(4)
圧痕深さ算出工程においては、CPU12は、(4)式に最大押し込み量δMと隆起量δBと補正係数kを代入して、圧痕深さδを算出する。
そこで、補正係数kを求めるため、弾性変形をほとんど示さないガラス板やセラミック板等の硬質の基板(図示しない)を別途用意し、基板の表面に印刷法等で20〜30μm程度の厚さで形成した表面層の硬度を測定する。最大荷重L0における表面層自体への圧子の最大押し込み量をδTとすると、表面層自体の硬度HSは(5)式で表すことができる。なお、A,Bは、圧子の最大押し込み量δTを圧痕の表面積に換算して硬度を算出するときの圧子の形状に固有の定数である。
HS=A×{L0/(δT/B)2} …(5)
これを解くと、δTは、
δT={A・B2×L0/HS}1/2 …(6)
一方、(4)式を補正係数kについて解くと、
k=(δM−2δ)/δB …(7)
(7)式のδに(6)式を代入すると、補正係数kは(8)式で示すことができる。
k={δM−2(A・B2×L0/HS)1/2}/δB …(8)
圧痕深さδを算出する際に補正係数kを考慮する必要がある場合は、CPU12は、硬度演算工程において、(4)式及び(8)式を用いて圧痕深さδに基いて永久窪みの表面積を算出し、(最大荷重L0)/(永久窪み表面積)を演算することによって硬度を算出する。(S6)。
(1)軟質の基材9aの表面に硬い表面層9bが形成された試料9では、最大荷重L0が、圧子6が試料9の表面層9bを完全には破壊しないような微小な荷重である場合、負荷検出計7と変位計11により最大押し込み量δMと隆起量δBとを測定し、演算手段を用いて最大押し込み量δMと隆起量δBとに基いて圧痕深さδを算出し、圧痕深さδと最大荷重L0とに基づいて硬度を演算することができる。
(2)最大押し込み量δM、隆起量δB、最大荷重L0は、ほぼ静的な状態で測定できるため誤差が生じ難く、また試料9の変形から圧痕深さδを求めた後、圧痕の表面積を求めて硬度を算出するので、圧子6の形状にも影響されず高い精度で硬度を算出することができる。
(3)実際の圧痕の深さ、圧痕の対角線の長さを計測する必要がないので、微小荷重しか負荷できず対角線の長さが10μm程度以下の微小な圧痕しか形成できないような硬い表面層9bが形成された試料の表面層9bの硬度を正確に算出することができ応用性に優れる。
(4)電子はかりからなる負荷検出計7を用いているので、極めて感度が高く微小な荷重の変化を検出することができ、さらに圧子6の変位を静電容量式センサの変位センサ10で測定するので、微小な深さの変化も検出することができるため、試料9の硬度の高精度測定ができる。
(1)最大押し込み量δMと隆起量δBとに基いて圧痕深さδを算出して、硬度演算工程において圧痕深さδと最大荷重L0とに基づいて硬度を演算することができ、簡単な操作で硬度を算出できる。
(2)最大押し込み量δM、隆起量δB、最大荷重L0は、ほぼ静的な状態で測定できるため誤差が生じ難く、また圧子6の形状にも影響されず高い精度で硬度を算出することができる。
(3)実際の圧痕の深さ、圧痕の対角線の長さを計測する必要がないので、微小荷重しか負荷できず対角線の長さが10μm程度以下の微小な圧痕しか形成できないような硬い表面層9bが形成された試料9の表面層9bの硬度を正確に算出することができ応用性に優れる。
(4)圧痕深さ算出工程において補正係数kを考慮して圧痕深さδを算出できるので、試料9の材質等に影響を受けずに硬度を算出することができ応用性に優れる。
また、負荷検出計7として、ステージ8の下部に配置された上皿電子はかりを用いたが、ストレインゲージ等を利用した動ひずみ型荷重変換器、化学はかり、ロードセル式や電磁式の電子はかり等を用いることができる。負荷装置4側で荷重を検出するようにしてもよい。
(実施例1)
アクリル樹脂製の基材(厚さ10mm、縦100mm、横100mm)の表面に厚さ約3.35μmのプライマ層が形成され、その上に8.47μmの硬質ガラス層が形成された試料の硬度を、実施の形態1で説明した微小硬度計を用いて測定した。
ステージの上に試料を置き、ビッカース圧子を試料の表面から0.25μm/秒の速度で押し込んだ。最大荷重(設定された試験力)L0=21.6mNまで負荷した後、最大荷重L0を15秒間保持して、次に圧子の荷重を除荷し、負荷時と同じ0.25μm/秒の速度で圧子を試料から引き上げた。
図4は実施例1における荷重に対する負荷時の押し込み量及び除荷時の変位量を示す図である。横軸は試料の表面からの変位量、縦軸は荷重であり、白丸は負荷工程におけるデータ、黒丸は除荷工程におけるデータを示している。
実施例1の場合、最大押し込み量δM=1.6μm、隆起量δB=0.49μmであり、補正係数k=1として(4)式に代入すると、圧痕深さδ=0.555μmと求められたため、ビッカース硬さHvは、定義式から265kg/mm2と算出することができた。
ポリアセタール製の基材(厚さ10mm、縦100mm、横100mm)の表面に厚さ約3μmのプライマ層が形成され、その上に約5μmの硬質ガラス層が形成された試料の硬度を、実施の形態1で説明した微小硬度計を用いて測定した。
ステージの上に試料を置き、ビッカース圧子を試料の表面から0.25μm/秒の速度で押し込んだ。最大荷重(設定された試験力)L0=22.6mNまで負荷した後、最大荷重L0を15秒間保持して、次に圧子の荷重を除荷し、負荷時と同じ0.25μm/秒の速度で圧子を試料から引き上げた。
図5は実施例2における荷重に対する負荷時の押し込み量及び除荷時の変位量を示す図である。横軸は試料の表面からの変位量、縦軸は荷重であり、白丸は負荷工程におけるデータ、黒丸は除荷工程におけるデータを示している。
実施例2の場合、最大押し込み量δM=1.88μm、隆起量δB=0.39μmであり、補正係数k=1として(4)式に代入すると、圧痕深さδ=0.745μmが求められたため、ビッカース硬さHvは、定義式から154kg/mm2と算出することができた。
製造ロットが異なるポリカーボネート製の2種類の基材(PCC1、PCC2、いずれも厚さ10mm、縦100mm、横100mm)の表面に、厚さ4.2μmのプライマ層と厚さ3.5〜3.8μmの硬質ガラス層が形成された試料の硬度を、実施の形態1で説明した微小硬度計を用いて測定した。
ステージの上に試料を置き、ビッカース圧子を試料の表面から0.25μm/秒の速度で押し込んだ。2.6〜800mNの種々の最大荷重L0(設定された試験力)まで負荷した後、最大荷重L0を15秒間保持して、次に圧子の荷重を除荷し、負荷時と同じ0.25μm/秒の速度で圧子を試料から引き上げた。測定された最大押し込み量δM、隆起量δBから、補正係数k=1として圧痕深さδを求め、定義式からビッカース硬さHvを算出した。
図6は実施例3、4における最大押し込み量とビッカース硬さHvとの関係を示す図である。横軸は試料の表面からの最大押し込み量、縦軸はビッカース硬さ(単位kg/mm2)である。白丸で示したデータは基材がポリカーボネート(PCC1)の試料のデータ(実施例3)であり、白三角で示したデータは基材がポリカーボネート(PCC2)の試料のデータ(実施例4)であり、黒丸で示したデータは基材がポリカーボネート(PCC1)の試料を市販の一般的なビッカース硬度計で測定したデータであり、黒三角で示したデータは基材がポリカーボネート(PCC2)の試料を市販の一般的なビッカース硬度計で測定したデータである。
図6から、市販のビッカース硬度計では、最大押し込み量が1.5μm以下では圧痕が小さく測定できなかったが、実施例3、4では、最大押し込み量が1.5μmより大きな場合は、市販のビッカース硬度計の測定値とほぼ一致しており、最大押し込み量が1.5μm以下の場合は、その外挿線とほぼ一致していることがわかった。なお、最大押し込み量が大きくなるにつれ硬度が低下するのは、硬質の表面層が薄いため、軟質の基材の影響を大きく受けるからである。
以上のように本実施例によれば、基材の表面に形成された表面層(硬質ガラス層)の硬度を、基材の影響を受けることなく測定できることが明らかになった。
アクリル樹脂製の基材(厚さ10mm、縦100mm、横100mm)の表面に、厚さ3.35μmのプライマ層と厚さ8.47μmの硬質ガラス層が形成された試料の硬度を、実施の形態1で説明した微小硬度計を用いて測定した。
ステージの上に試料を置き、ビッカース圧子を試料の表面から0.25μm/秒の速度で押し込んだ。2.6〜800mNの種々の最大荷重L0(設定された試験力)まで負荷した後、最大荷重L0を15秒間保持して、次に圧子の荷重を除荷し、負荷時と同じ0.25μm/秒の速度で圧子を試料から引き上げた。測定された最大押し込み量δM、隆起量δBから、補正係数k=1として圧痕深さδを求め、定義式からビッカース硬さHvを算出した。
図7は実施例5における最大押し込み量とビッカース硬さHvとの関係を示す図である。横軸は試料の表面からの最大押し込み量、縦軸はビッカース硬さ(単位kg/mm2)である。白丸で示したデータは本発明の方法で測定したデータ(実施例5)であり、黒丸で示したデータは同じ試料を市販の一般的なビッカース硬度計で測定したデータである。
図7から、実施例5は、最大押し込み量が3.5μmより大きな場合は、市販のビッカース硬度計の測定値とほぼ一致しており、最大押し込み量が3.5μm以下の場合は、その外挿線とほぼ一致していることがわかった。
また、最大押し込み量が1μm以下における実施例5の硬度は、図6の実施例3、4の硬度とほぼ一致していることがわかった。これは、実施例3〜5の試料の硬質ガラス層の材質が同一だからである。
以上のように本実施例によれば、基材の表面に形成された表面層(硬質ガラス層)の硬度を、基材の材質の影響を受けることなく測定できることが明らかになった。
ポリアセタール製の基材(厚さ10mm、縦100mm、横100mm)の表面に厚さ約3μmのプライマ層が形成され、その上に約5μmの硬質ガラス層が形成された実施例2で用いた試料の硬度を、実施の形態1で説明した微小硬度計を用いて測定した。
ステージの上に試料を置き、ビッカース圧子を試料の表面から0.25μm/秒の速度で押し込んだ。6〜600mNの種々の最大荷重L0(設定された試験力)まで負荷した後、最大荷重L0を15秒間保持して、次に圧子の荷重を除荷し、負荷時と同じ0.25μm/秒の速度で圧子を試料から引き上げた。
実施例6は、測定された最大押し込み量δM、隆起量δBから、補正係数k=1として、(4)式から圧痕深さδを求め、定義式からビッカース硬さHvを算出した。
実施例7は、市販の一般的なビッカース硬度計を用いて測定した種々の最大荷重L0における試料の表面層の硬度HT、その最大荷重L0における最大押し込み量δM及び隆起量δBを、(7)式に代入して補正係数kを算出し、その平均値(平均の補正係数k=1.7)を求め(但し、硬度HTは(8)式のHSに代入した。)、この補正係数k=1.7を使って(4)式から圧痕深さδを求め、定義式からビッカース硬さHvを算出した。
図8は実施例6及び実施例7における最大押し込み量とビッカース硬さHvとの関係を示す図である。横軸は試料の表面からの最大押し込み量、縦軸はビッカース硬さ(単位kg/mm2)である。白丸で示したデータは、補正係数k=1として本発明の方法で測定した実施例6におけるデータであり、四角で示したデータは補正係数k(k=1.7)を考慮して本発明の方法で測定した実施例7におけるデータであり、黒丸で示したデータは同じ試料を市販の一般的なビッカース硬度計で測定したデータである。
図8から、補正係数kを考慮して算出した実施例7は、市販のビッカース硬度計で測定した硬度の外挿線とほぼ一致していることがわかった。補正係数k=1として算出した実施例6は、最大押し込み量が4μm以上の場合は市販のビッカース硬度計の測定値とほぼ一致しているが、最大押し込み量が4μm未満になると、市販のビッカース硬度計で測定した硬度より低くなることがわかった。
以上のように本実施例によれば、補正係数kを考慮することによって、基材の表面に形成された表面層(硬質ガラス層)の硬度を、市販の一般的なビッカース硬度計で測定される硬度に一層近づけられるので、試料の材質等に影響を受けずに硬度を算出することができ応用性に優れることが明らかになった。
2 台部
3 枠体
4 負荷装置
5 圧子架台
5a 延設部
6 圧子
7 負荷検出計
8 ステージ
9 試料
9a 基材
9b 表面層
10 変位センサ
10a,10b 電極板
11 変位計
12 CPU
13 記憶手段
14 表示装置
Claims (4)
- 基材に表面層が形成された試料に圧子を押し込み圧痕を形成して硬度を算出する微小硬度測定法であって、
前記圧子に負荷した最大荷重L0と、前記圧子の前記試料の表面からの最大押し込み量δMと、を測定する負荷工程と、
前記圧子に加わる荷重がゼロになったときの前記圧子の前記試料の表面からの隆起量δBを測定する除荷工程と、
前記最大押し込み量δMと前記隆起量δBとに基いて圧痕深さδを算出する圧痕深さ算出工程と、
前記圧痕深さδと前記最大荷重L0とに基づいて硬度を演算する硬度演算工程と、
を備えていることを特徴とする微小硬度測定法。 - 前記圧痕深さ算出工程において、前記表面層自体の最大荷重L0における硬度と、前記最大押し込み量δM、前記最大荷重L0、前記隆起量δBから補正係数kを算出し、前記圧痕深さδを補正することを特徴とする請求項1に記載の微小硬度測定法。
- (a)圧子に荷重を負荷して基材に表面層が形成された試料に圧痕を形成する負荷装置と、
(b)荷重の負荷時に前記圧子が前記試料に加えた最大荷重L0、及び、除荷時に前記試料が前記圧子に加えた荷重Lを検出する負荷検出計と、
(c)前記最大荷重L0における前記圧子の前記試料の表面からの最大押し込み量δMと、前記圧子に加わる荷重Lがゼロになったときの前記圧子の前記試料の表面からの隆起量δBと、を検出する変位計と、
(d)前記最大荷重L0、前記最大押し込み量δM、前記隆起量δBを記憶する記憶手段と、
(e)前記最大押し込み量δMと前記隆起量δBとに基いて圧痕深さδを算出し、前記圧痕深さδと前記最大荷重L0とに基いて硬度を演算する演算手段と、
を備えていることを特徴とする微小硬度計。 - 前記変位計が検出する前記最大押し込み量δM及び前記隆起量δBが、前記圧子が先端に配設された圧子架台の側方に延設された延設部の下面と前記試料の表面との間に配置された静電容量式センサで測定され、前記負荷検出計が、前記試料を載せたステージの下部に配置された上皿電子はかりからなることを特徴とする請求項3に記載の微小硬度計。
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