JP4314801B2 - 酸化物超電導体の製造方法および熱処理炉 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融法で作製されたバルク状の希土類系酸化物超伝導体の製造方法、およびそれを製造する熱処理炉に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、溶融法で作製されたNd、Sm系のRE−Ba−Cu−O系超電導体は知られている。この超電導体の超電導遷移温度は90K超である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上述した溶融法ではRE、Ba、Cuの酸化物などからなる原料粉の成形体を超電導相であるREBa2Cu3Oy(RE123)相の分解溶融温度以上に加熱し、RE2BaCuO5(RE211)相またはRE4Ba2Cu2O10(RE422)相の固相と主にBa、Cu、Oからなる液相に分解し、これをゆっくりと冷却することによりRE123相の粗大な結晶を成長させる。このとき種結晶を使用して、成長する結晶の方位を制御し試料全体を実質的に単結晶状に作製することができる。このように作製した超電導体は、試料全体にわたって結晶方位がほぼ揃っていて超電導電流を妨げる結晶粒界が少なく、また結晶中にはRE211相またはRE422相の微細な粒子が分散し、磁束のピン止め点として作用するので高い臨界電流密度Jcをもつ。これにより、REとしてイオン半径の大きいNd、Smなどを用いて、Y系などに比べて超電導臨界温度Tc、臨界電流密度Jcの高い材料を得ることができる。また溶融法においては、REのBaへの置換をできるだけ抑制して超電導臨界温度Tcを高く維持するため、低い酸素分圧の雰囲気下で作製するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上述したような低酸素分圧の雰囲気下で熱処理をおこなう場合、一般には密閉式のガス置換炉が用いられる。そのような炉はおおむね高価で大掛かりな装置となる。さらに本件の溶融法による超電導体作製においては種結晶を熱処理の途中で試料につけることがおこなわれ、そのための特別な機構も必要となる。そこで、簡便な冶具を用いて雰囲気を制御して超電導体を作製する熱処理炉が要請されている。この熱処理炉は、加熱炉と、加熱炉内に収容された耐熱容器と、加熱炉の炉内に保持されて酸化物超電導体の中間体を保持する床部材と、中間体の上方に出口をもち雰囲気ガス供給通路を兼ねる筒状案内部と、筒状案内部に着脱自在に保持され下端に結晶方向が定められた種結晶が固定された棒状の被案内部から構成されている。かかる熱処理炉においては、シーディング時に中間体の上面に被案内部を落下させ、被案内部の上端を筒状案内部に当接させて種結晶の所定面が中間体の上面に当接させることができる。これによりシーディング時に加熱炉の蓋部を開けることなく、中間体直上の案内部から雰囲気ガスが供給されるので、雰囲気制御がより良好になり、良質の酸化物超電導材料が量産できる(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】
特許第2828396号公報(第4、5ページ)
【0006】
【特許文献2】
特開平9−87093号公報(第5、6ページ、図1)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述した溶融法で作製されたNd、Sm系のRE−Ba−Cu−O系超電導体においては、低い酸素分圧の雰囲気下での作製によりREのBaへの置換をできるだけ抑制してある程度超電導臨界温度Tcの高い超電導体を作製するものの、さらに超電導臨界温度Tcの高い超電導体を実現するべく本発明者らは鋭意研究を行った。その結果、大型のバルク試料を作製した場合、特に結晶成長開始してしばらくの間は超電導臨界温度Tcが低くなり特性が十分に出ないことがあるのを発見した。さらに、これは以下の理由に起因することを見出した。すなわち、溶融に伴って発生する酸素が試料中(融液中)から雰囲気中に放出されるのに予想外に時間を要し、成長の開始時点では試料中に酸素が残存して、結晶が成長する融液中では実質的に酸素濃度が十分に低くなっていないと推察される。その結果、REのBaへの置換が起こり超電導臨界温度Tcが低下したと考えられる。さらに、REが、イオン半径がBaに近いNd、Sm、Eu、Gd等の軽希土類を50%以上含む場合において上述した特性不良が顕著に起こると推察される。これら知見に基づいて本発明者らは本発明による酸化物超電導体およびその製造方法を完成させた。
【0008】
また、上述した熱処理炉においては、略中空箱型の部材である耐熱容器の下端部は、床部材の内周壁板および外周壁板の間に形成されている溝に緩く嵌合して保持されている。この溝と耐熱容器の下端部との間の隙間には、シール材としてのアルミナ粉末が充填されている。かかる熱処理炉はシール材を使用すると取り扱いが面倒になり、使用しなければ雰囲気の制御を確実におこなうことはできないという問題がある。また、この熱処理炉には酸素濃度を検出する手段がなく、雰囲気の制御を正確におこなうことができないという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、酸化物超電導体の溶融法において酸化物超電導体の試料融液中の酸素濃度が所定値以下となった後に結晶の成長を開始させることにより、超電導遷移温度の高い酸化物超電導体を作製することにあり、また、シール材を設けることなく雰囲気の制御を確実におこない、かつ雰囲気中の酸素濃度を検出することにより結晶成長の制御を正確におこなうことができる熱処理炉を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、RE−Ba−Cu−O(REはYを含む希土類元素のうちの1種類または2種類以上の組み合わせ)系超電導体の原料混合体を該超電導体の超電導相の分解温度より高い温度で加熱溶融した後に、徐冷して結晶を成長させることにより作製する酸化物超電導体の製造方法において、原料混合体は、REBa2Cu3O7−x相(結晶構造が同じで、部分的または全体にREとBaの置換がある場合も含む)と、RE2BaCuO5相または/およびRE4Ba2Cu2O10相(いずれも結晶構造が同じで、部分的または全体にREとBaの置換がある場合も含む)とからなり、かつ、溶融開始から結晶成長開始までの間に原料混合体から放出された酸素量が、REBa 2 Cu 3 O 7−x 相とRE 2 BaCuO 5 相または/およびRE 4 Ba 2 Cu 2 O 10 相との配合比率と該配合比率における、目的とする超電導臨界温度Tcを得るための放出酸素量との相関関係を示すマップまたは曲線に基づいて導出された放出酸素量以上であることである。
【0014】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、原料混合体に含まれるREBa2Cu3O7−x相と、RE2BaCuO5相または/およびRE4Ba2Cu2O10相との配合比率が、モル比で、REBa2Cu3O7−x:(RE2BaCuO5と1/2RE4Ba2Cu2O10の合計)=1:0.1〜1:1であることである。
【0015】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または2において、結晶成長開始から結晶成長終了までの雰囲気の酸素濃度が0.01%〜5%であることである。
【0016】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜3のいずれか一項において、溶融および結晶成長の工程は、酸素濃度を調整した不活性ガスと酸素ガスの混合ガスの気流中で行うことである。
【0017】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜3のいずれか一項において、溶融および結晶成長の工程は、不活性ガスの気流中で行うことである。
【0018】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜5のいずれか一項において、製造方法の工程における酸素濃度の変化を計測し、それを積分することにより原料混合体から放出される酸素量を求めることである。
【0019】
請求項7に係る発明の構成上の特徴は、請求項6において、Ag 2 Oの酸素放出量を計測することによって、原料混合体から放出される酸素量を補正して求めることである。
【0020】
請求項8に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜7のいずれか一項において、RE2BaCuO5相または/およびRE4Ba2Cu2O10相は平均粒径1μm以下の粉末であることである。
【0021】
請求項9に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜8のいずれか一項において、原料混合体はAg、Pt、Rhのうち1種または複数種を単体または/および化合物の形で含有することである。
【0022】
請求項10に係る発明の構成上の特徴は、請求項9において、Ag化合物がAg2Oであり、その配合比率が他の原料に対して1〜30wt%の添加であることである。
【0023】
請求項11に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜10のいずれか一項において、原料混合体の溶融時の体積が10cm3以上であることである。
【0024】
請求項12に係る発明の構成上の特徴は、加熱炉と該加熱炉内に配置されて内部に酸化物超電導体の原料混合体が載置される耐熱容器を備え、該耐熱容器には内部に酸素ガスを含む雰囲気ガスを導入するガス導入管と内部の気体を導出するガス導出管を設けてなり、溶融法により酸化物超電導体を製造する熱処理炉であって、耐熱容器は少なくとも2個の容器部材が嵌合するように構成され該容器部材の嵌合部の隙間は耐熱容器内の酸素濃度を雰囲気ガスの酸素濃度に維持できる程度に設定され、ガス導入管とガス導出管は原料混合体を挟んで配置され、該ガス導入管からガス導出管に向かう気流中に原料混合体が載置されたことである。
【0025】
請求項13に係る発明の構成上の特徴は、請求項12において、耐熱容器は原料混合体が複数載置され、熱処理炉にはガス導出管が複数設けられていることである。
【0026】
請求項14に係る発明の構成上の特徴は、請求項12において、耐熱容器内部の酸素濃度を測定する酸素濃度検出機構がガス導出管に直列または分岐して接続されていることである。
【0027】
請求項15に係る発明の構成上の特徴は、請求項13において、耐熱容器内部の酸素濃度を測定する酸素濃度検出機構が一つにまとめられた複数のガス導出管に直列または分岐して接続されていることである。
【0029】
請求項16に係る発明の構成上の特徴は、請求項13または15において、ガス導出管が複数である場合には同ガス導出管は耐熱容器の周縁部に配置されガス導入管は耐熱容器の中央部に配置されたことである。
【0030】
請求項17に係る発明の構成上の特徴は、請求項12〜16のいずれか一項において、耐熱容器の容積をV[cm3]、ガス導入管より導入する雰囲気ガスの流量をs[cm3/min]、原料混合体の体積(原料混合体が複数の場合には全原料混合体の体積の合計)をv[cm3]としたとき、3v≦V≦5sであることである。
【0036】
【発明の作用・効果】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、酸化物超電導体を製造する溶融法にて原料混合体はREBa2Cu3O7−x相(結晶構造が同じで、部分的または全体にREとBaの置換がある場合も含む)とRE2BaCuO5相または/およびRE4Ba2Cu2O10相(いずれも結晶構造が同じで、部分的または全体にREとBaの置換がある場合も含む)とからなり、かつ、溶融開始から結晶成長開始までの間に原料混合体から放出された酸素量が、REBa 2 Cu 3 O 7−x 相とRE 2 BaCuO 5 相または/およびRE 4 Ba 2 Cu 2 O 10 相との配合比率とこの配合比率における、目的とする超電導臨界温度Tcを得るための放出酸素量との相関関係を示すマップまたは曲線に基づいて導出された放出酸素量以上であるので、融液中から十分な酸素が放出され、これにより結晶が成長する融液中では実質的に酸素濃度が十分に低くなっており超電導遷移温度が高い(例えば94K以上)RE−Ba−Cu−O系超電導体を得ることができる。また、融液と雰囲気の酸素濃度が平衡になるには、ある程度の時間を要するので、雰囲気の酸素分圧が例えば大気程度に高くても比較的高い超電導遷移温度のRE−Ba−Cu−O系超電導体を得ることができる。
【0037】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、原料混合体に含まれるREBa2Cu3O7−x相と、RE2BaCuO5相または/およびRE4Ba2Cu2O10相との配合比率が、モル比で、REBa2Cu3O7−x:(RE2BaCuO5と1/2RE4Ba2Cu2O10の合計)=1:0.1〜1:1であるので、より適切な配合比率の原料混合体からRE−Ba−Cu−O系超電導体が作製される。RE2BaCuO5または1/2RE4Ba2Cu2O10が0.1より小さいと合成された超電導体中のピン止め点の数が少なくなり高い臨界電流密度が得られない。また1より大きいと超電導相の割合が半分以下となり臨界電流密度が低下してしまう。したがって、確実に超電導遷移温度が高く(例えば94K以上)かつ臨界電流密度の大きいRE−Ba−Cu−O系超電導体を得ることができる。
【0038】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、結晶成長開始から結晶成長終了までの雰囲気の酸素濃度が0.01%〜5%であることが好ましい。この場合、十分低くなった融液中の酸素濃度をほぼ維持したまま結晶成長が起こるので、この工程中にてREがBaに置換するのを防止することができる。
【0039】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、溶融および結晶成長の工程は、酸素濃度を調整した不活性ガスと酸素ガスの混合ガスの気流中で行うので、制御性よくこの工程中にてREがBaに置換するのを防止することができる。
【0040】
上記のように構成した請求項5に係る発明においては、溶融および結晶成長の工程は、不活性ガスの気流中で行うので、この工程中にてREがBaに置換するのを防止することができる。
【0041】
上記のように構成した請求項6に係る発明においては、製造方法の工程における酸素濃度の変化を計測し、それを積分することにより原料混合体から放出される酸素量を求めるので、確実かつ正確に放出酸素量を算出することができる。
【0042】
上記のように構成した請求項7に係る発明においては、Ag 2 Oの酸素放出量を計測することによって、原料混合体から放出される酸素量を補正して求めるので、より正確な放出酸素量を算出することができる。
【0043】
上記のように構成した請求項8に係る発明においては、RE2BaCuO5相または/およびRE4Ba2Cu2O10相は平均粒径1μm以下の粉末であるので、合成された超電導体においてより高いピン止め作用を発揮することができる。
【0044】
上記のように構成した請求項9に係る発明においては、原料混合体はAg、Pt、Rhのうち1種または複数種を単体または/および化合物の形で含有するので、作製された酸化物超電導体の強度を向上させ、また211相の粗大化を防止することができる。
【0045】
上記のように構成した請求項10に係る発明においては、Ag化合物がAg2Oであるので、Agをより均一かつ微細に分散することができる。また、その配合比率が他の原料に対して1〜30wt%の添加であるので、臨界電流密度などの超電導特性を損なうことなく超電導体の強度を向上することができる。
【0046】
上記のように構成した請求項11に係る発明においては、原料混合体の溶融時の体積が10cm3以上であるので、比較的大型な酸化物超電導体を作製することができる。
【0047】
上記のように構成した請求項12に係る発明において、溶融法により酸化物超電導体を製造する熱処理炉は加熱炉内に耐熱容器が配置されてなり、耐熱容器には内部に酸素ガスを含む雰囲気ガスを導入するガス導入管と内部の気体を導出するガス導出管が設けられ、耐熱容器は少なくとも2個の容器部材が嵌合するように構成され該容器部材の嵌合部の隙間は耐熱容器内の酸素濃度を雰囲気ガスの酸素濃度に維持できる程度に設定され、ガス導入管とガス導出管は原料混合体を挟んで配置され、該ガス導入管からガス導出管に向かう気流中に原料混合体が載置されている。これによれば、酸化物超電導体を製造する工程において耐熱容器内をほぼ一定の酸素濃度に維持することができるので、簡便で安価な装置により溶融法による酸化物超電導体を製造するのに最適な雰囲気を提供することができる。さらに、ガス導入管とガス導出管は原料混合体を挟んで配置され、該ガス導入管からガス導出管に向かう気流中に原料混合体が載置されているので、原料混合体は常に新しい雰囲気ガスに曝されている。これにより原料混合体の周囲は常にほぼ一定の酸素濃度とすることができる。
【0048】
上記のように構成した請求項13に係る発明においては、請求項12において、耐熱容器は原料混合体が複数載置され、熱処理炉にはガス導出管が複数設けられている。これによれば、複数の酸化物超電導体を同時に製造する工程において耐熱容器内をほぼ一定の酸素濃度に維持することができるので、簡便で安価な装置により溶融法による酸化物超電導体を複数製造するのに最適な雰囲気を提供することができる。
【0049】
上記のように構成した請求項14に係る発明においては、耐熱容器内部の酸素濃度を測定する酸素濃度検出機構がガス導出管に直列または分岐して接続されているので、耐熱容器から導出される気体の酸素濃度の時間的変化を測定することにより簡単に原料混合体からの酸素放出量を検出することができる。
【0050】
上記のように構成した請求項15に係る発明においては、耐熱容器内部の酸素濃度を測定する酸素濃度検出機構が複数のガス導出管を一つにまとめてこれに直列または分岐して接続されているので、耐熱容器から導出される気体の酸素濃度の時間的変化を測定することにより簡単に原料混合体からの酸素放出量を検出することができる。
【0052】
上記のように構成した請求項16に係る発明においては、ガス導出管が複数である場合には同ガス導出管は耐熱容器の周縁部に配置されガス導入管は耐熱容器の中央部に配置されるので、耐熱容器の中央部から導入された雰囲気ガスは周縁部に向かって流れてガス導出管を通って導出される。したがって、耐熱容器内に所定の酸素濃度の雰囲気ガスを均一に供給することができる。
【0053】
上記のように構成した請求項17に係る発明においては、耐熱容器の容積をV[cm3]、ガス導入管より導入する雰囲気ガスの流量をs[cm3/min]、原料混合体の体積(原料混合体が複数の場合には全原料混合体の体積の合計)をv[cm3]としたとき、3v≦V≦5sの関係を満たしている。これにより、原料混合体は耐熱容器内に適当な空間をおいて載置されるので、温度分布の乱れによる影響を抑えることができる。また、耐熱容器の容積に対して適当な雰囲気ガスの流量が設定されるので、耐熱容器内の酸素濃度が短時間で平衡に達することができる。
【0056】
【発明の実施の形態】
本発明による酸化物超電導体の製造方法および熱処理炉に係る酸化物超電導体は、主な金属元素がRE(REはYを含む希土類元素のうちの1種類または2種類以上の組み合わせ)、Ba、Cuからなっており、REBa2Cu3O7−x相(結晶構造が同じで、部分的または全体にREとBaの置換がある場合も含む。以下RE123相という。)中に、平均粒径が10μm以下のRE2BaCuO5相または/およびRE4Ba2Cu2O10相(いずれも結晶構造が同じで、部分的または全体にREとBaの置換がある場合も含む。以下RE211相という。)が微細に分散した単結晶状のRE−Ba−Cu−O系超電導体であって、原子数比で全REの50%以上がNd、Sm、Eu、Gdから選ばれた1種または複数種からなっており、溶融法による製造工程において融液中の酸素濃度を制御して作製されてなるものである。なお、REがLa、Ndである場合にRE4Ba2Cu2O10相となり、Sm、Eu、Gdである場合にRE2BaCuO5相となる。
【0057】
本発明の酸化物超電導体の製造方法および熱処理炉に係る酸化物超電導体の実施例1〜3について以下に説明する。
a)実施例1
まず実施例1について説明するが、この実施例1にて使用する熱処理炉について図1を参照して説明する。この熱処理炉は、加熱炉11とこの加熱炉11内に配置されて内部に酸化物超電導体の原料混合体12(後述する)が載置される耐熱容器13を備えている。加熱炉11は内部に耐熱容器13を収容する箱状の加熱炉本体11aと、この本体11aを覆蓋する蓋11bから構成されている。加熱炉本体11aの底には加熱手段11c(ヒータ)が載置されこの上に耐熱容器13が支持され、加熱手段11cにより耐熱容器13が加熱されている。
【0058】
耐熱容器13は内部に原料混合体12を収容する箱状の容器本体13aとこの本体13aをほぼ気密に覆蓋する蓋13bから構成されている。蓋13bの周縁部には凹部13cが形成されておりこの凹部13cと容器本体13aの上端が嵌合している。この嵌合部13dの隙間は耐熱容器13内の酸素濃度を雰囲気ガスの酸素濃度に維持できる程度(例えば、0.1mm以下)に設定されている。これにより、耐熱容器13内は嵌合部13dの隙間を通して加熱炉11内に連通している。これによれば、酸化物超電導体を製造する工程において耐熱容器13内をほぼ一定の酸素濃度に維持することができるので、簡便で安価な装置により溶融法による酸化物超電導体を製造するのに最適な雰囲気を提供することができる。なお、耐熱容器13の容積は約950cm3である。
【0059】
耐熱容器13の蓋13bには、ガス導入管14、ガス導出管15、種結晶導入管16、熱電対挿入管17の4本のセラミックス製のパイプが蓋13bを貫通して気密に取り付けられている。これらパイプ14〜17は加熱炉11の蓋11bも貫通して気密に固定されており、加熱炉11外部に突出している。ガス導入管14の上端は酸素ガス供給源14aおよびアルゴンガス供給源14bに接続されており、耐熱容器13内には所定濃度の酸素ガスを含む酸素ガスとアルゴンガスからなる雰囲気ガスが導入されている。(酸素ガス供給源14aから供給される毎分10cm3の酸素ガスとアルゴンガス供給源14bから供給される毎分990cm3のアルゴンガスとが混合されて酸素濃度1%の混合ガス(雰囲気ガス)が毎分1000cm3にて供給されている。)
【0060】
ガス導出管15の上端は排気管15aに接続されており、耐熱容器13内の気体が外部に導出され、またガス導出管15の上端は分岐されて酸素濃度計18に接続されており、耐熱容器13内の気体が酸素濃度計18を通って外部に導出されている。導出ガスのうち毎分200cm3を酸素濃度計18でサンプリングし、残りを排気管15aから放出するようになっている。酸素濃度計18が耐熱容器13内の酸素濃度を検出する。
【0061】
また、ガス導入管14およびガス導出管15の各下端は、図1(b)に示すように、耐熱容器13の蓋13bの互いに対向する角部に取り付けられており、耐熱容器13の底中央部に載置された原料混合体12を挟んで配置される。これにより、ガス導入管14からガス導出管15に向かう気流(図1(b)における破線矢印にて示す)中に原料混合体12が載置されるので、原料混合体12は常に新しい雰囲気ガスに曝されている。したがって、原料混合体12で酸素の吸放出が起きた場合にも原料混合体12の周囲は常にほぼ一定の酸素濃度とすることができる。
【0062】
種結晶導入管16は耐熱容器13内に種結晶19を導入するものであり、種結晶導入管16の上端には着脱自在なキャップ16aが気密に取り付けられ、種結晶導入管16の下端は耐熱容器13の底中央部に載置された原料混合体12の中心部の直上に臨んでいる。支持棒16bの先端に固定された種結晶19が種結晶導入管16の上端から挿入され、原料混合体12の上面中心部に載置される。熱電対挿入管17は耐熱容器13内の温度を検出する熱電対17aを耐熱容器12の底まで挿入するものであり、熱電対挿入管17の上端には伸縮可能なキャップ(図示省略)が気密に取り付けられ、熱電対挿入管17の下端は耐熱容器13の蓋13bの角部に取り付けられている。熱処理炉の温度制御用熱電対17aが耐熱容器13内にあるので、耐熱容器13内の温度を正確かつ確実に測定することができる。
【0063】
次に上述した熱処理炉による酸化物超電導体の製造方法について説明する。原料粉はSm123、Sm211、Ag2O、Ptの各粉末を混合したものであり、Sm123とSm211の混合比が3:1となるように、すなわちSm、Ba、Cuのモル比が5:7:10となるように設定されている。さらにSm123とSm211の合計に対しAg2Oが重量で20%、Ptは同じく0.5%添加されている。この原料粉を直径76mm、厚み30mmの円盤状に一軸圧粉成型した原料混合体12を図1に示すように耐熱容器13の底中央に載置し、この耐熱容器13を加熱炉11内に設置して各蓋13a、11aを取り付ける。
【0064】
さらに耐熱容器13内には、酸素ガス供給源およびアルゴンガス供給源からガス導入管14を介して酸素濃度を1%に調整した酸素とアルゴンの混合ガス(雰囲気ガス)が毎分1000cm3にて供給されている。一方耐熱容器13内の気体はガス導出管15を介して毎分200cm3にて吸引されてその酸素濃度が計測され、残りのガスは排気管15aから排出されている。また耐熱容器13内の温度は熱電対17aにより計測されている。これら酸素濃度と炉内温度は同時に記録計によって記録されている。
【0065】
そして熱処理は図2に示す温度制御が熱電対により検出した温度に基づいておこなわれる。耐熱容器13内の酸素濃度が十分低下し安定した後(図2における区間a)、耐熱容器13内の温度を室温から400℃まで毎分1℃で昇温し(図2における区間b)、その温度にて4時間保持し(図2における区間c)、その後800℃まで2時間(図2における区間d)、さらに1000℃まで2時間(図2における区間e)、1110℃まで2時間で昇温し(図2における区間f)、その温度にて1時間30分保持した(図2における区間g)。その後30分で1007℃まで降温し(図2における区間h)、さらに降温しながら1004℃において主としてNd−Ba−Cu−Oの123相からなる種結晶19を原料混合体12上面中央に接触させる(シーディングする)。その後1001℃から毎時0.2℃で100時間、さらに毎時0.5℃で60時間徐冷し種結晶19を起点としてSm123相の結晶を包晶反応により成長させた(図2における区間j以降)。
【0066】
かかる熱処理をおこなう一方で、耐熱容器13内から導出される気体の酸素濃度が計測されており、この測定結果を図2に示す。これによれば、酸素濃度のピークは3箇所あり、左から1つめのピークはAg2Oが分解したときに発生した酸素濃度を示しており、左から3つめのピークはSm123が分解(溶融)したときに発生した酸素濃度を示している。いずれにおいても計測した酸素濃度をピークの範囲内にて積分することによりそのピークに発生した酸素量を算出することができる。したがって、確実かつ正確に放出酸素量を算出することができる。
【0067】
Sm123が分解(溶融)したときすなわち区間f〜hを詳述する。Sm123は1000℃を超えると、下記化1に従ってSm211と液相(主としてBaとCuの複合酸化物)に分解され原料混合体は部分溶融状態となる。このとき、原料混合体では酸素ガスが発生して放出される。
【0068】
【化1】
SmBa2Cu3O6 →1/2Sm2BaCuO5+1/2Ba3Cu5Ox+yO2↑
なお、上記化1においてSmBa2Cu3O6およびSm2BaCuO6は固相であり、Ba3Cu5Oxは液相であり、O2は気体である。
【0069】
このことは図2の測定結果からも明らかである。区間fにおいてはSm123の溶融がさらに進み融液が増加しその分放出される酸素量は増加する。区間g,hにおいてはさらなるSm123の溶融はなくなり、融液中に残存する酸素が放出されるだけなので、時間が経てば経つほど放出される酸素量は減少する。そして、測定された酸素濃度は区間hの終わりごろでは耐熱容器13内に供給される雰囲気ガスの酸素濃度と等しくなる。すなわち原料混合体からは酸素ガスが放出されなくなる。またこの区間f〜hにおいて酸素濃度の積分値から求めた溶融時の酸素放出量は2.74gであり、原料粉のSm123相1molあたりでは7.25gとなりこれは酸素原子0.453mol(上記化1における2yの値)に相当する。また、上記化1におけるxとyの間には、x/2+2y=3.5の関係があることから融液中に存在する酸素原子モル数(x/2)はSm123相1モルあたり3.047molと推定される。ただし、正確にはSmが少量(〜数wt%)融液中に溶解するがそれを無視する。
【0070】
上述した熱処理により作製した超電導体を研削加工して直径59mm厚み11mmの円盤状試料を作成し、酸素気流中で400℃から350℃の間で500時間のアニール処理を施し、補強のため試料の周囲にエポキシ樹脂を塗布しその外にステンレスのリングを接着した。この試料について磁場中冷却による捕捉磁場分布の測定をおこなってその特性を評価した。試料に3.5Tの磁場を印加し、液体窒素により77Kに冷却した後、印加磁場を0にした。これにより試料に捕捉された磁場の分布をホール素子によって測定した結果、図3のような円錐状の磁場分布が得られた。捕捉磁場分布が円錐状になったことから、種結晶からの結晶成長開始初期である試料中央部においても周縁部と同程度の比較的高い超電導臨界温度Tcが得られていることがわかる。実際、同条件で作製した試料中央部の超電導臨界温度Tcは91.8Kで周縁部の超電導臨界温度Tcは94.7Kであった。
【0071】
b)実施例2
次に実施例2について説明する。この実施例2においても実施例1にて使用したものと同様な熱処理炉、原料粉および原料混合体12を使用している。ただし、耐熱容器13の容積は約700cm3であり、ガス流量は700cm3/分である。また、実施例1と同様に耐熱容器13内の酸素濃度と温度を測定してこれら測定結果に基づいて熱処理をおこなっている。この実施例2は熱処理において図2における区間fの昇温温度が実施例1(1110℃)と比べて1070℃と低く、昇温時間が実施例1(2時間)と比べて1時間と短いという点で実施例1と異なる。また図2における区間gの保持時間が3時間と実施例1(1時間30分)と比べて1時間30分長いという点で実施例1と異なる。
【0072】
実施例2によれば、図2に示す区間f〜hにおいて酸素濃度の積分値から求めた溶融時の酸素放出量は2.81gであり、原料粉のSm123相1molあたりでは7.44gとなりこれは酸素原子モル数2y=0.465molに相当する。この時の融液中に存在する酸素原子モル数x/2は3.035molと推定される。また、実施例2の熱処理により作製した超電導体に捕捉された磁場の分布をホール素子によって測定した結果、図4のような円錐状の磁場分布が得られた。捕捉磁場分布が円錐状になったことから、種結晶からの結晶成長開始初期である試料中央部においても周縁部と同程度の比較的高い超電導臨界温度Tcが得られていることがわかる。実際、同条件で作製した試料中央部の超電導臨界温度Tcは92.4Kで周縁部の超電導臨界温度Tcは94.8Kであった。
【0073】
c)実施例3
次に実施例3について説明する。この実施例3においても実施例2にて使用したものと同様な熱処理炉を使用している。また、実施例1と同様に耐熱容器13内の酸素濃度と温度を測定してこれら測定結果に基づいて熱処理をおこなっている。この実施例3は原料粉のSm123とSm211の混合比が5:1となるように、すなわちSm、Ba、Cuのモル比が7:11:16となるように設定されている点で実施例1と異なる。また、熱処理において図2における区間fにて1070℃まで1時間で昇温した点で実施例1と異なる。なお、その後30分で1011℃まで降温し(図2における区間h)、さらに降温しながら1008℃にて種結晶19を原料混合体12上面中央にシーディングした点でも実施例1と異なる。
【0074】
実施例3によれば、図2に示す区間f〜hにおいて酸素濃度の積分値から求めた溶融時の酸素放出量は2.40gであり、原料粉のSm123相1molあたりでは5.81gとなりこれは酸素原子0.363molに相当する。この時の融液中に存在する酸素原子モル数x/2は3.137molと推定される。また、実施例3の熱処理により作製した超電導体に捕捉された磁場の分布をホール素子によって測定した結果、図5のような円錐状の磁場分布が得られた。捕捉磁場分布が円錐状になったことから、種結晶からの結晶成長開始初期である試料中央部においても周縁部と同程度の比較的高い超電導臨界温度Tcが得られていることがわかる。実際、同条件で作製した試料中央部の超電導臨界温度Tcは94Kで周縁部の超電導臨界温度Tcは94.8Kであった。
【0075】
d)比較例
次に比較例について説明する。この比較例においては実施例1にて使用したものと同様な熱処理炉、原料粉および原料混合体12を使用している。また、実施例1と同様に耐熱容器13内の酸素濃度と温度を測定してこれら測定結果に基づいて熱処理をおこなっている。この比較例は熱処理において図2における区間fの昇温温度および区間gの保持温度が実施例1(1110℃)と比べて1070℃と低いという点で実施例1と異なる。
【0076】
比較例によれば、図2に示す区間f〜hにおいて酸素濃度の積分値から求めた溶融時の酸素放出量は2.54gであり、原料粉のSm123相1molあたりでは6.71gとなりこれは酸素原子0.419molに相当する。この時の融液中に存在する酸素原子モル数x/2は3.081molと推定される。また、比較例の熱処理により作製した超電導体に捕捉された磁場の分布をホール素子によって測定した結果、図6のような分布が得られた。すなわち、中央部は磁場の勾配がほとんどなく周縁部に比べて超電導臨界温度Tcが極めて低いことがわかる。実際、同条件で作製した試料中央部の超電導臨界温度Tcは83.3Kで周縁部の超電導臨界温度Tcは94.8Kであった。
【0077】
上述した実施例1と比較例の結果から明らかなように、図2に示す区間f〜hにおいて溶融時の酸素放出量は実施例1のほうが多い。これは、実施例1は区間gにおける保持温度が比較例に比べて十分高いため、融液中に残存する酸素の雰囲気中への放出速度が速くなったので、Sm123の溶融に伴って発生したほとんどの酸素が融液中から耐熱容器13の雰囲気中に放出されるためと推定される。言い換えると、原料混合体の融液中に存在する酸素が飽和濃度以下となるためである。これによりシーディング以降結晶が成長する融液中で実質的に酸素濃度が十分低下され、これによりREのBaへの置換が極力抑制されることとなり、中央部の超電導臨界温度Tcが周縁部と同等に高い超電導体が作製される。
【0078】
また上述した実施例1と比較例の結果から明らかなように、原料粉のSm123とSm211とが同じ配合比率である場合には、溶融開始から結晶成長開始までの間(図2における区間f〜h)に放出された酸素量と試料中央部の超電導臨界温度Tcとの関係を調べれば、中央部において目的とする超電導臨界温度Tc(例えば94K以上)を持った特性のよい酸化物超電導体を作製することができる。例えば、Sm123:Sm211=3:1の配合比率について、超電導臨界温度Tcと放出酸素量との関係を調べた結果を図7に示す。図7には、実施例1〜3の結果に加え、超電導臨界温度Tc=94.8Kが得られた時のデータもプロットしてある。この図7によれば、酸素放出量が0.48mol以上であれば、試料中央部の超電導臨界温度Tcが94K以上すなわち試料全体にわたって超電導臨界温度Tcが94K以上である特性のよい酸化物超電導体を作製することができる。また、図7には酸素放出量に対応する融液中に存在する酸素量(上記化1におけるx/2)を上側の横軸に示した。これによれば、x/2が3.02mol以下すなわち融液中に存在するBa,Cu,Oの原子数比がBa:Cu:O=3:5:6.04で表されるよりOが少なければ、中央部の超電導臨界温度Tcが94K以上である特性のよい酸化物超電導体を作製することができる。
【0079】
さらに実施例1と実施例3の結果から明らかなように、原料粉のSm123とSm211とが異なる配合比率である場合には、Sm211の比率が高いものほど融液中からより多くの酸素を放出させないと特性のよい酸化物超電導体を作製することができない。以上のことから、原料粉のSm123とSm211との配合比率と、この配合比率における、目的とする超電導臨界温度Tcを得るための最適な放出酸素量との間には図8に示すマップまたは曲線で表される相関関係があると考えられる。そして、溶融開始から結晶成長開始までの間に原料混合体から放出された酸素量がこのマップまたは曲線に基づいて導出された、目的とする超電導臨界温度Tcを得るための最適な放出酸素量以上であれば、融液中から十分な酸素が放出される。これにより結晶が成長する融液中では実質的に酸素濃度が十分に低くすることができるので、目的とする超電導臨界温度Tc(94K)以上のRE−Ba−Cu−O系超電導体を得ることができる。また、融液中に存在する酸素量に対しても、同様なマップまたは曲線を描くことができ、同様にして特性のよい超電導体を得ることができる。なお、図8に示す原料粉のSm123とSm211との配合比率と、この配合比率における、目的とする超電導臨界温度Tcを得るための最適な放出酸素量との相関関係を示すマップまたは曲線は、各配合比率において図7を得る実験を行うことにより求めることができる。さらにREの種類が異なる場合、このマップまたは曲線も変化すると考えられ、それについても同様に実験によって求めることができる。
【0080】
なお、原料混合体に含まれるREBa2Cu3O7−x相と、RE2BaCuO5相または/およびRE4Ba2Cu2O10相との配合比率は、モル比で、REBa2Cu3O7−x:(RE2BaCuO5と1/2RE4Ba2Cu2O10の合計)=1:0.1〜1:1であることが望ましい。これによれば、より適切な配合比率の原料混合体からRE−Ba−Cu−O系超電導体が作製される。したがって、確実に超電導遷移温度が高い(例えば94K以上)RE−Ba−Cu−O系超電導体を得ることができる。
【0081】
なお本発明においては、原料混合体は、主としてREBa2Cu3O7−x相(結晶構造が同じで、部分的または全体にREとBaの置換がある場合も含む)と、RE2BaCuO5相または/およびRE4Ba2Cu2O10相(いずれも結晶構造が同じで、部分的または全体にREとBaの置換がある場合も含む)とからなることが望ましい。これによりRE123超電導相の中に常電導相であるRE211相が適当に分散した組織を簡単に形成することができる。
【0082】
また本発明においては、結晶成長開始から結晶成長終了まで(図2における区間f〜h)の雰囲気の酸素濃度が0.01%〜5%であることが望ましい。これによれば、この工程中にてREがBaに置換するのを極力防止することができる。
【0083】
また本発明においては、溶融および結晶成長の工程(図2における区間f以降)は、酸素濃度を調整した不活性ガスと酸素ガスの混合ガスの気流中あるいは不活性ガスの気流中で行うことが好ましい。これによれば、この工程中にてREがBaに置換するのを防止することができる。
【0084】
また本発明においては、分解時の酸素放出量が既知である物質例えばAg2Oの酸素放出量を計測することによって、原料混合体から放出される酸素量を補正して求めることが好ましい。具体的には、Ag2Oが溶融したときに発生する酸素量を予め測定しておき、この酸素量と、上述した熱処理中のAg2Oが溶融したときに発生する酸素量と比較して、この比較結果に基づきSm123が分解(溶融)したときに発生した酸素量を補正する。これにより、より正確な放出酸素量を算出することができる。
【0085】
また本発明においては、RE2BaCuO5相または/およびRE4Ba2Cu2O10相は平均粒径1μm以下の粉末であることが好ましい。これによれば合成された超電導体においてより高いピン止め作用を発揮することができる。
【0086】
また本発明においては、原料混合体はAg、Pt、Rhのうち1種または複数種を単体または/および化合物の形で含有することが好ましい。これによれば、作製された酸化物超電導体の強度を向上させ、またRE211相の粗大化を防止することができる。
【0087】
また本発明においては、Ag化合物がAg2Oであり、その配合比率が他の原料に対して1〜30wt%の添加であることが好ましい。これによれば、Agをより均一かつ微細に分散することができ、また臨界電流密度などの超電導特性を損なうことなく超電導体の強度を向上することができる。
【0088】
また本発明においては、原料混合体の溶融時の体積が10cm3以上であることが好ましい。これによれば、比較的大型な酸化物超電導体を作製することができる。
【0089】
また、上述した各実施例に使用した熱処理炉においては、ガス導出管15を分岐して酸素濃度計18を設けて導出される耐熱容器13内の酸素濃度を測定することにより放出酸素量を算出するようにしていたが、図9に示すように、酸素濃度計18を削除するようにしてもよい。このとき、計測した酸素濃度に基づいて温度制御または/およびシーディングのタイミングを図るのではなく、図1に示す構成で目的とする超電導臨界温度Tcが得られる図2のようなタイミングチャートを予め決定しておき、これに基づき温度制御または/およびシーディングのタイミングを図るようにすればよい。これによれば、より安価な熱処理炉を提供することができる。なお、他の構成については同一符号を付してその説明を省略する。また、酸素ガス供給源14a、アルゴンガス供給源14b、キャップ16aおよび排気管15aは図9に示されていない。
【0090】
また、上述した各実施例に使用した熱処理炉においては、原料混合体12を1つだけ作製したが、図10に示すように、複数個作製するようにしてもよい。さらに、種結晶19を熱処理の途中で接触(シーディング)させるのではなく、予め原料混合体12に設置しておき、種結晶19が融けない温度で熱処理を実施してもよい。この場合、図10(b)に示すように、耐熱容器13の底には複数の原料混合体12が縦横2列すなわち4個載置され、ガス導入管14の下端はこれらの中央すなわち耐熱容器13の蓋13aの中央に取り付けられ、複数(4本)のガス導出管15は耐熱容器13の蓋13aの各角部に取り付けられている。これにより、ガス導入管14からガス導出管15に向かう気流(図10(b)における破線矢印にて示す)中に各原料混合体12が載置されるので、原料混合体12は常に新しい雰囲気ガスに曝されている。したがって、原料混合体12で酸素の吸放出が起きた場合にも原料混合体12の周囲は常にほぼ一定の酸素濃度とすることができる。また、ガス導出管15が複数である場合には各ガス導出管15は耐熱容器13の周縁部に配置されガス導入管14は耐熱容器13の中央部に配置されるので、耐熱容器13の中央部から導入された雰囲気ガスは周縁部に向かって流れてガス導出管15を通って導出される。したがって、耐熱容器13内に所定の酸素濃度の雰囲気ガスを均一に供給することができる。
【0091】
なお、耐熱容器13は少なくとも2個の容器部材が嵌合するように構成され容器部材13の嵌合部13dの隙間は耐熱容器13内の酸素濃度を雰囲気ガスの酸素濃度に維持できる程度に設定されている。また、他の構成については同一符号を付してその説明を省略する。
【0092】
したがって、複数の酸化物超電導体を同時に製造する工程においても耐熱容器13内をほぼ一定の酸素濃度に維持することができるので、簡便で安価な装置により溶融法による酸化物超電導体を複数製造するのに最適な雰囲気を提供することができる。
【0093】
また、耐熱容器13内部の酸素濃度を測定する酸素濃度計18が一つにまとめられた複数のガス導出管15に直列または分岐して接続されているので、耐熱容器13から導出される気体の酸素濃度の時間変化を測定することにより簡単に原料混合体からの酸素放出量を検出することができる。
【0094】
また本発明による熱処理炉においては、耐熱容器13の容積をV[cm3]、ガス導入管14より導入する雰囲気ガスの流量をs[cm3/min]、原料混合体12の体積(原料混合体12が複数の場合には全原料混合体12の体積の合計)をv[cm3]としたとき、3v≦V≦5sの関係を満たしていることが好ましい。これにより、原料混合体12は耐熱容器13内に適当な空間をおいて載置されるので、温度分布の乱れによる影響を抑えることができる。また、耐熱容器13の容積に対して適当な雰囲気ガスの流量が設定されるので、耐熱容器13内の酸素濃度が短時間で平衡に達することができ、十分な応答速度をもって雰囲気を制御することができる。
【0095】
また本発明による熱処理炉においては、図11に示すように、加熱炉11内に原料混合体12が底に載置された耐熱容器13が配置されている。耐熱容器13は蓋13aと本体13bが嵌合するように構成されこれらの嵌合部13dの隙間は所定値(0.1mm)以下に設定されている。加熱炉11と耐熱容器13の間には所定濃度の酸素ガスを含む雰囲気ガスが充填されている。耐熱容器13には内部の気体を導出するガス導出管15のみが設けられている。ガス導出管15には耐熱容器13内部の酸素濃度を測定する吸引式の酸素濃度計18が直列に接続されている。この酸素濃度計18により耐熱容器13内の気体が吸引されると嵌合部13dの隙間から加熱炉内の雰囲気ガスが流入される(図11(a)の矢印にて示す)。またこの隙間からガス導出管15に向かう気流(図11(b)における破線矢印にて示す)中に原料混合体12が載置されるので、原料混合体12は常に新しい雰囲気ガスに曝されている。これによれば、酸化物超電導体を製造する工程において耐熱容器13内をほぼ一定の酸素濃度に維持することができるので、簡便で安価な装置により溶融法による酸化物超電導体を製造するのに最適な雰囲気を提供することができる。
【0096】
また、上述した耐熱容器13は蓋13aと容器本体13bの2つの部材から構成されていたが、3つ以上の部材から構成されるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は本発明による酸化物超伝導体を製造する熱処理炉の一実施の形態を示す断面図であり、(b)は同実施の形態の加熱炉内を示す上面図である。
【図2】 本発明による酸化物超伝導体の製造方法の耐熱容器内の温度と酸素濃度を示す図である。
【図3】 本発明による酸化物超伝導体の製造方法の実施例1により作製した酸化物超電導体の捕捉磁場の分布を示す図である。
【図4】 本発明による酸化物超伝導体の製造方法の実施例2により作製した酸化物超電導体の捕捉磁場の分布を示す図である。
【図5】 本発明による酸化物超伝導体の製造方法の実施例3により作製した酸化物超電導体の捕捉磁場の分布を示す図である。
【図6】 酸化物超伝導体の製造方法の比較例により作製した酸化物超電導体の捕捉磁場の分布を示す図である。
【図7】 試料中央部の超電導臨界温度と放出酸素量との関係を示す図である。
【図8】 原料粉のSm123とSm211との配合比率と、この配合比率における、目的とする超電導臨界温度を得るための最適な放出酸素量との相関関係を示す図である。
【図9】 本発明による酸化物超伝導体を製造する熱処理炉の他の実施の形態を示す断面図である。
【図10】 (a)は本発明による酸化物超伝導体を製造する熱処理炉の他の実施の形態を示す断面図であり、(b)は同実施の形態の加熱炉内を示す上面図である。
【図11】 (a)は本発明による酸化物超伝導体を製造する熱処理炉の他の実施の形態を示す断面図であり、(b)は同実施の形態の加熱炉内を示す上面図である。
【符号の説明】
11…加熱炉、12…原料混合体、13…耐熱容器、13a…容器本体、13b…蓋、13d…嵌合部、14…ガス導入管、15…ガス導出管、16…種結晶導入管、18…酸素濃度計。
Claims (17)
- RE−Ba−Cu−O(REはYを含む希土類元素のうちの1種類または2種類以上の組み合わせ)系超電導体の原料混合体を該超電導体の超電導相の分解温度より高い温度で加熱溶融した後に、徐冷して結晶を成長させることにより作製する酸化物超電導体の製造方法において、
前記原料混合体は、REBa2Cu3O7−x相(結晶構造が同じで、部分的または全体にREとBaの置換がある場合も含む)と、RE2BaCuO5相または/およびRE4Ba2Cu2O10相(いずれも結晶構造が同じで、部分的または全体にREとBaの置換がある場合も含む)とからなり、かつ、溶融開始から結晶成長開始までの間に前記原料混合体から放出された酸素量が、前記REBa 2 Cu 3 O 7−x 相と前記RE 2 BaCuO 5 相または/およびRE 4 Ba 2 Cu 2 O 10 相との配合比率と該配合比率における、目的とする超電導臨界温度を得るための放出酸素量との相関関係を示すマップまたは曲線に基づいて導出された放出酸素量以上であることを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。 - 請求項1において、前記原料混合体に含まれるREBa2Cu3O7−x相と、RE2BaCuO5相または/およびRE4Ba2Cu2O10相との配合比率が、モル比で、REBa2Cu3O7−x:(RE2BaCuO5と1/2RE4Ba2Cu2O10の合計)=1:0.1〜1:1であることを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
- 請求項1または2において、結晶成長開始から結晶成長終了までの雰囲気の酸素濃度が0.01%〜5%であることを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか一項において、前記溶融および結晶成長の工程は、酸素濃度を調整した不活性ガスと酸素ガスの混合ガスの気流中で行うことを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか一項において、前記溶融および結晶成長の工程は、不活性ガスの気流中で行うことを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
- 請求項1〜5のいずれか一項において、前記製造方法の工程における酸素濃度の変化を計測し、それを積分することにより前記原料混合体から放出される酸素量を求めることを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
- 請求項6において、Ag 2 Oの酸素放出量を計測することによって、前記原料混合体から放出される酸素量を補正して求めることを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
- 請求項1〜7のいずれか一項において、前記RE2BaCuO5相または前記RE4Ba2Cu2O10相は平均粒径1μm以下の粉末であることを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
- 請求項1〜8のいずれか一項において、前記原料混合体はAg、Pt、Rhのうち1種または複数種を単体または/および化合物の形で含有することを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
- 請求項9において、前記Ag化合物がAg2Oであり、その配合比率が他の原料に対して1〜30wt%の添加であることを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
- 請求項1〜10のいずれか一項において、前記原料混合体の溶融時の体積が10cm3以上であることを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
- 加熱炉と該加熱炉内に配置されて内部に酸化物超電導体の原料混合体が載置される耐熱容器を備え、該耐熱容器には内部に酸素ガスを含む雰囲気ガスを導入するガス導入管と内部の気体を導出するガス導出管を設けてなり、溶融法により酸化物超電導体を製造する熱処理炉であって、
前記耐熱容器は少なくとも2個の容器部材が嵌合するように構成され該容器部材の嵌合部の隙間は前記耐熱容器内の酸素濃度を前記雰囲気ガスの酸素濃度に維持できる程度に設定され、
前記ガス導入管とガス導出管は前記原料混合体を挟んで配置され、該ガス導入管からガス導出管に向かう気流中に前記原料混合体が載置されたことを特徴とする酸化物超電導体の熱処理炉。 - 請求項12において、前記耐熱容器は前記原料混合体が複数載置され、前記熱処理炉には前記ガス導出管が複数設けられていることを特徴とする酸化物超電導体の熱処理炉。
- 請求項12において、前記耐熱容器内部の酸素濃度を測定する酸素濃度検出機構が前記ガス導出管に直列または分岐して接続されていることを特徴とする酸化物超電導体の熱処理炉。
- 請求項13において、前記耐熱容器内部の酸素濃度を測定する酸素濃度検出機構が一つにまとめられた前記複数のガス導出管に直列または分岐して接続されていることを特徴とする酸化物超電導体の熱処理炉。
- 請求項13または15において、前記ガス導出管が複数である場合には同ガス導出管は前記耐熱容器の周縁部に配置され前記ガス導入管は前記耐熱容器の中央部に配置されたことを特徴とする酸化物超電導体の熱処理炉。
- 請求項12〜16のいずれか一項において、前記耐熱容器の容積をV[cm3]、前記ガス導入管より導入する雰囲気ガスの流量をs[cm3/min]、前記原料混合体の体積(原料混合体が複数の場合には全原料混合体の体積の合計)をv[cm3]としたとき、3v≦V≦5sであることを特徴とする酸化物超電導体の熱処理炉。
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JP2002275559A JP4314801B2 (ja) | 2002-09-20 | 2002-09-20 | 酸化物超電導体の製造方法および熱処理炉 |
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