JP4306013B2 - 内燃機関の電磁駆動装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の電磁駆動装置に関し、特に、内燃機関の吸気弁及び排気弁として構成された電磁駆動弁を駆動する内燃機関の電磁駆動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、例えば特開平10−110608号公報に開示される電磁駆動弁が公知である。この電磁駆動弁は、内燃機関の吸気弁又は排気弁として機能する弁体と、弁体に連結されたアーマチャとを備えている。アーマチャの上方にはアッパコイル及びアッパスプリングが配設されている。また、アーマチャの下方にはロアコイル及びロアスプリングが配設されている。アーマチャはアッパスプリング及びロアスプリングにより、アッパコイルとロアコイルとの中間の中立位置に保持されている。アッパコイル及びロアコイルは、それぞれ、励磁電流が供給されることによりアーマチャを吸引する電磁力を発生する。
【0003】
上記従来の電磁駆動弁によれば、アッパコイルに励磁電流を供給することで、アーマチャをアッパコイル側に変位させることができる。また、ロアコイルに励磁電流を供給することで、アーマチャをロアコイル側に変位させることができる。従って、上記従来の電磁駆動弁によれば、アッパコイル及びロアコイルに適当なタイミングで励磁電流を供給することにより、排気弁又は吸気弁を任意のタイミングで開閉させることができる。
【0004】
上記従来の電磁駆動弁において、弁体が全閉位置又は全開位置にある状態、すなわち、アーマチャがアッパコイル又はロアコイルに吸着されている状態では、アッパコイル又はロアコイルが発する電磁力とロアスプリング又はアッパスプリングが発する付勢力とを協働させることで、弁体を要求に応じて駆動することができる。しかしながら、弁体の開閉駆動中に、何らかの原因により弁体の変位振幅が減少してアーマチャがアッパコイル及びロアコイルまで到達し得ない事態が生ずることがある。この場合、アーマチャに作用する電磁力が低下することで、付勢力と電磁力とを適正に協働させることができなくなる。その結果、アーマチャの変位振幅は更に減少してゆき、やがて、アーマチャはロアコイルとアッパスプリングとの間の中立位置に保持されることとなる。かかる状態では、アッパコイル及びロアコイルからアーマチャに十分な電磁力が付与されず、弁体を開閉駆動することが困難となる。以下、上記の如く、弁体の開閉駆動中に弁体が中立位置に保持され、弁体の開閉駆動を行い得なくなる現象を電磁駆動弁の「脱調」と称す。
【0005】
電磁駆動弁の正常動作時にはアーマチャの変位に伴って各コイルに逆起電力が発生するのに対して、脱調時には、かかる逆起電力はほとんど生じなくなくなる。そこで、上記従来の電磁駆動弁では、各コイルの逆起電力の大きさに基づいて脱調を検出している。
脱調が検出された電磁駆動弁を正常動作状態に復帰させる手段として、アッパコイル及びロアコイルに対してアーマチャ及び弁体等の可動部の固有振動周期に等しい周期で交互に励磁電流を供給する手法が従来より公知である。かかる手法によれば、可動部とスプリングとにより構成されるバネ−質量系の固有振動を利用して可動部を駆動できるため、弁体を中立位置から全閉位置又は全開位置へ変位させることが可能となる。以下、電磁駆動弁が脱調した場合に、バネ−質量系の固有振動を利用して弁体を全閉位置又は全開位置へ変位させる処理を「復帰処理」と称す。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記した復帰処理においては、アッパコイル及びロアコイルとの間の中立位置に保持されたアーマチャに、可動部の固有振動を励起するうえで十分な電磁力を付与すべく、各コイルに大きな電流を供給することが必要である。一方、内燃機関の高負荷運転時には、排気弁を大きな筒内圧に抗して開弁させることが必要となり、電磁駆動弁の消費電力が増大する。このため、内燃機関の高負荷運転時には、バッテリ又はオルタネータの容量が不足して、復帰処理に必要な電流を確保できない可能性がある。
【0007】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、内燃機関の負荷にかかわらず、脱調した電磁駆動弁の復帰処理に必要な電力を確保することが可能な内燃機関の電磁駆動装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は、請求項1に記載する如く、
少なくとも排気弁が電磁駆動弁により構成された内燃機関に設けられ、該内燃機関の負荷に応じて前記電磁駆動弁への通電量を制御する内燃機関の電磁駆動装置であって、
前記電磁駆動弁の脱調を検出する脱調検出手段と、
脱調した電磁駆動弁の復帰処理を行う復帰処理手段と、
前記復帰処理が行われる場合に、稼働中の電磁駆動弁への通電量を実際の負荷よりも低い負荷に対応する値に変更する通電量変更手段と、を備える内燃機関の電磁駆動装置により達成される。
【0009】
請求項1記載の発明において、通電量変更手段は、脱調した電磁駆動弁の復帰処理が行われる場合に、稼働中の電磁駆動弁への通電量を実際の負荷よりも小さな負荷に対応する値に変更する。内燃機関の負荷が小さいほど、稼働中の電磁駆動弁へ供給すべき電流量は小さくなる。このため、通電量変更手段により上記の如く通電量が変更されると、脱調した電磁駆動弁の復帰処理時における稼働中の電磁駆動弁への通電量は小さくなる。従って、本発明によれば、脱調した電磁駆動部の復帰処理に必要な電流を確保することができる。
【0010】
なお、本発明において、電磁駆動弁への通電量を変化させることには、電磁駆動弁への供給電流値及び電流供給時間の少なくとも一方を変化させることが含まれる。
また、請求項2に記載する如く、請求項1記載の内燃機関の電磁駆動装置において、
前記通電量変更手段による通電量の変更が行われた場合に、前記内燃機関の負荷を減少させる負荷減少手段を更に備える内燃機関の電磁駆動装置は、稼働中の電磁駆動弁に対して負荷に応じた適正な通電を行ううえで有利である。
【0011】
請求項2記載の発明において、通電量変更手段により、稼働中の電磁駆動弁への通電量が実際よりも低い負荷に対応した値に変更されると、内燃機関の実際の負荷に対して供給電流が不足し又は過大となる場合がある。これに対して、本発明では、負荷減少手段が通電量変更手段による通電量の変更が行われた場合に内燃機関の負荷を減少させるので、稼働中の電磁駆動弁について、通電量が内燃機関の負荷に応じた適正な値とされる。
【0012】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の一実施例である内燃機関の電磁駆動装置が適用された内燃機関の構成図を示す。本実施例のシステムはECU10により制御される。内燃機関は、シリンダブロック12を備えている。シリンダブロック12の内部には、シリンダ14及びウォータジャケット16が形成されている。本実施例の内燃機関は多気筒型内燃機関であり、複数のシリンダ14を備えている。図1は、そのうち一のシリンダ14を表す。
【0013】
シリンダ14の内部にはピストン18が配設されている。ピストン18は、シリンダ14の内部を、図1における上下方向に摺動することができる。シリンダブロック12の上部には、シリンダヘッド20が固定されている。シリンダヘッド20には、各シリンダ毎に吸気ポート22及び排気ポート24が形成されている。
【0014】
シリンダヘッド20の底面、ピストン18の上面、及びシリンダ14の側壁は、燃焼室26を画成している。上述した吸気ポート22及び排気ポート24は、共に燃焼室26に開口している。吸気ポート22の燃焼室26側の開口端部、及び、排気ポート24の燃焼室26側の開口端部には、それぞれ弁座28、30が形成されている。燃焼室26には、また、点火プラグ32の先端が露出している。
【0015】
シリンダヘッド20には電磁駆動弁38が組み込まれている。電磁駆動弁38は、各気筒の吸気弁42及び排気弁43にそれぞれ対応して設けられている。吸気弁42は、弁座28に着座することにより吸気ポート22と燃焼室26との間を遮断し、また、弁座28から離座することにより両者を通させる。同様に、排気弁43は、弁座30に着座することにより排気ポート24と燃焼室26との間を遮断し、弁座30から離座することにより両者を導通させる。電磁駆動弁38の構成及び動作については後に詳述する。
【0016】
図1に示す如く、内燃機関は吸気マニホールド80を備えている。吸気マニホールド80はサージタンク82と各吸気ポート22とを連通する複数の枝管を備えている。各枝管には、燃料噴射弁83が配設されている。燃料噴射弁83はECU10から付与される指令信号に応じて燃料を枝管内に噴射する。
サージタンク82の上流側には、吸気管84が連通している。吸気管84には、スロットルバルブ86が配設されている。スロットルバルブ86はスロットルモータ88に連結されている。スロットルモータ88はECU10から供給される制御信号に応じてスロットルバルブ86の開度を変化させる。吸気管84のスロットルバルブ86より下流側の部位には吸気圧センサ90が配設されている。吸気圧センサ90は内燃機関の吸気管圧力PMに応じた電気信号をECU10に向けて出力する。ECU10は、吸気圧センサ90の出力信号に基づいて吸気管圧力PMを検出する。吸気管84の上流側端部にはエアクリーナ92が連通している。吸気管84にはエアクリーナ92により濾過された外気が流入する。また、内燃機関の排気ポート24には、排気通路94が連通している。
【0017】
内燃機関には、回転数センサ96が設けられている。回転数センサ96は、機関回転数NEに応じた電気信号をECU10に向けて出力する。ECU10は回転数センサ96の出力信号に基づいて機関回転数NEを検出する。
次に、図2を参照して、電磁駆動弁38の構成及び動作について詳細に説明する。図2は、電磁駆動弁38の全体構成を表す断面図である。なお、以下の記載において、排気弁43及び吸気弁42を区別しない場合は、弁体44と総称する。
【0018】
図2に示す如く、弁体44には、上方に延びる弁軸45が一体に設けられている。弁軸45はシリンダヘッド20の内部に固定されたバルブガイド46により軸方向に変位可能に保持されている。弁軸45の上端部近傍にはロアリテーナ50が固定されている。弁軸45の上方には、アーマチャシャフト48が弁軸45と同軸に設けられている。アーマチャシャフト48は非磁性材料で構成されたロッド状の部材であり、その下端面は弁軸45の上端部に当接している。ロアリテーナ50の下部にはロアスプリング52が配設されている。ロアスプリング52の下端は、シリンダヘッド20に当接している。ロアスプリング52は、ロアリテーナ50を介して弁体44を図2における上方へ向けて付勢している。
【0019】
アーマチャシャフト48の上端部には、アッパリテーナ54が固定されている。アッパリテーナ54の上面には、アッパスプリング56の下端部が当接している。アッパスプリング56の周囲には、その外周を取り巻くように円筒状のアッパキャップ57が配設されている。アッパスプリング56の上端部は、アッパキャップ57に螺着されたアジャストボルト58に当接している。アッパスプリング56は、アッパリテーナ54を介してアーマチャシャフト48を図2における下方へ向けて付勢している。
【0020】
アーマチャシャフト48の外周には、アーマチャ60が接合されている。アーマチャ60は、軟磁性材料で構成された環状の部材である。アーマチャ60の上方には、アッパコイル62及びアッパコア64が配設されている。また、アーマチャ60の下方には、ロアコイル66及びロアコア68が配設されている。アッパコア64及びロアコア68は、共に磁性材料で構成された部材である。アーマチャシャフト48は、アッパコア64及びロアコア68の中央部に、摺動可能に保持されている。また、アッパコイル62及びロアコイル66は駆動回路70に接続されている。駆動回路70は、オルタネータ71又はバッテリ72を電源として、ECU10から供給される制御信号に応じてアッパコイル62及びロアコイル66に励磁電流を供給する。
【0021】
アッパコア64及びロアコア68の外周には外筒74が配設されている。アッパコア64及びロアコア68は、両者間に所定の間隔が確保されるように、外筒74により保持されている。また、上述したアッパキャップ57は、アッパコア64の上端面に固定されている。アジャスタボルト58は、アーマチャ60の中立位置がアッパコア64とロアコア68の中央となるように調整されている。
【0022】
電磁駆動弁38において、アーマチャ60がアッパコア64に当接した状態では、弁体44は弁座28又は30に着座する。この状態は、アッパコイル62に所定の励磁電流が供給されることにより維持される。以下、弁体44が弁座28又は30に着座した状態での弁体44の位置を全閉位置と称す。
弁体44が全閉位置に維持されている状態で、アッパコイル62に供給されていた励磁電流が遮断されると、アーマチャ60に作用していた電磁力が消滅する。アーマチャ60に作用していた電磁力が消滅すると、アッパスプリング56に付勢されることにより、アーマチャ60が図2における下方へ向けて変位する。アーマチャ60の変位量が所定値に達した時点で、ロアコイル66に適当な励磁電流が供給されると、今度はアーマチャ60をロアコア68側へ吸引する電磁力、すなわち、弁体44を図2において下方へ変位させる吸引力が発生する。
【0023】
アーマチャ60に対して上記の吸引力が作用すると、アーマチャ60は、弁体44と共に、ロアスプリング52の付勢力に抗して図2における下方へ向けて変位する。弁体44の変位は、アーマチャ60がロアコア68と当接するまで継続する。以下、アーマチャ60がロアコア68に当接した状態での弁体44の位置を全開位置と称す。この状態は、ロアコイル66に所定の励磁電流が供給されることにより維持される。
【0024】
弁体44が全開位置に維持されている状態で、ロアコイル66に供給されていた励磁電流が遮断されると、アーマチャ60に作用していた電磁力が消滅する。アーマチャ60に作用していた電磁力が消滅すると、ロアスプリング52に付勢されることにより、アーマチャ60が図2における上方へ向けて変位する。アーマチャ60の変位量が所定値に達した時点で、アッパコイル62に適当な励磁電流が供給されると、今度はアーマチャ60をアッパコア64側へ吸引する吸引力、すなわち、弁体44を図2において上方へ変位させる電磁力が発生する。
【0025】
アーマチャ60に対して上記の電磁力が作用すると、アーマチャ60は、弁体44と共に、アッパスプリング56の付勢力に抗して図2における上方へ向けて変位する。弁体44の変位は、アーマチャ60がアッパコア64と当接するまで、すなわち、全閉状態となるまで継続する。
このように、電磁駆動弁38によれば、アッパコイル62に所定の励磁電流を供給することにより弁体44を全閉位置に向けて変位させることができると共に、ロアコイル66に所定の励磁電流を供給することにより弁体44を全開位置に向けて変位させることができる。従って、電磁駆動弁38によれば、アッパコイル62とロアコイル66とに交互に励磁電流を供給することにより、弁体44を、全開位置と全閉位置との間で繰り返し往復運動させることができる。
【0026】
図3(A)及び(B)は、それぞれ、全閉位置から全開位置へ至る弁体44の変位波形、及び、ロアコイル66に対する指令電流Ic の電流波形を示す。図3(B)に示す如く、弁体44を全閉位置から全開位置へ向けて変位させる場合、ロアコイル66に対する指令電流Ic は、弁体44が中立位置を過ぎた時点t1 から吸引期間T1 にわたって吸引電流IMAX に設定される。そして、遷移期間T2 を経過した時点t2 から保持期間T3 にわたって、指令電流Ic が吸引電流IMAX に比して小さな保持電流IH に設定されることで、弁体44は全開位置に保持される。そして、時点t3 において弁体44の閉弁要求が生ずると、アーマチャ60をロアコア68から速やかに開放させるため、消磁期間T4 にわたって、指令電流Ic は保持電流IH とは逆向きの消磁電流IR に設定される。そして、以後、アッパコイル62にも図3(B)に示す波形と同様の指令電流Ic が供給されることにより、弁体44は全閉位置まで駆動される。
【0027】
図3(B)に示す波形の指令電流Ic によれば、弁体44が全開位置又は全閉位置に接近する過程で大きな電磁力を発生させることにより弁体44を確実に全開位置又は全閉位置まで変位させることができる。また、弁体44が全開位置又は全閉位置に到達する際に電磁力を減少させることにより優れた静粛性と省電力特性とを実現することができる。
【0028】
上記の指令電流Ic において、弁体44を駆動する電磁力を大きくするうえでは、吸引電流IMAX を大きく、また、吸引期間T1 及び遷移期間T2 を長く設定することが有利である。また、電磁駆動弁38の優れた省電力特性を実現するうえでは、吸引電流IMAX を小さく、また、吸引期間T1 及び遷移期間T2 を短く設定することが有利である。
【0029】
一方、弁体44が全開位置と全閉位置との間を変位する際に、その変位を妨げる方向に作用する外力の大きさは、内燃機関の負荷(すなわち筒内圧)に影響される。従って、優れた静粛性及び省電力特性と、安定した作動性とを両立させるためには、筒内圧に応じて指令電流Ic の波形を調整することが有効である。
本実施例では、上記の点に鑑みて、内燃機関の筒内圧に応じて、吸引電流IMAX 、吸引期間T1 、及び遷移期間T2 の値を変化させることとしている。
【0030】
図4は、内燃機関の筒内圧と、排気弁43及び吸気弁42のリフト量との関係を表すタイムチャートを示す。内燃機関の筒内圧は、内燃機関において爆発行程が実行されることにより大きな値となる。このため、内燃機関の筒内圧は、図4に示す如く、排気弁43が開弁する直前に最大値をとる。そして、排気弁43は、ある程度高圧の筒内圧が残存する状況下で開弁し始める。一方、排気弁43が全開位置から全閉位置に向けて変位する時点、吸気弁42が全閉位置から全開位置に向けて変位する時点、及び、吸気弁42が全開位置から全閉位置に向けて変位する時点では、十分に低い圧力に維持されている。
【0031】
このように、排気弁43及び吸気弁42の開閉動作時に各弁に作用する外力のうち、特に排気弁43の開弁動作時には、筒内圧に応じた大きな外力が変位を妨げる向きに作用する。このため、電磁駆動弁38の総消費電力の中で、排気弁43を開弁させるのに要する電力が大きな割合を占めることとなる。
図5(A)〜(C)は、それぞれ、本実施例において、排気弁43を全閉位置から全開位置へ向けて変位させる場合の吸引電流IMAX 、吸引期間T1 及び遷移期間T2 を決定すべく参照されるマップの一例である。一般に、機関回転数NEが大きいほど、また、吸気管圧力PMが(絶対圧として)大きいほど、内燃機関の筒内圧は大きくなる。このため、図5(A)〜(C)に示す如く、吸引電流IMAX 、吸引期間T1 、及び遷移期間T2 は、何れも、機関回転数NEが大きいほど、また、吸気管圧力PMが大きいほど、大きな値に設定される。
【0032】
なお、▲1▼排気弁43の閉弁駆動時、▲2▼吸気弁42の開弁駆動時、及び▲3▼吸気弁42の閉弁駆動時についても、排気弁43の開弁駆動時と同様に、各コイルに対する指令電流Ic は、内燃機関の負荷に応じて(つまり、機関回転数NE及び吸気管圧力PMに応じて)増加又は減少される。しかしながら、上記の如く、▲1▼〜▲3▼の開閉駆動時における消費電力が電磁駆動弁38の総消費電力に占める割合は小さいため、電磁駆動弁38の総消費電力の大小は、実質的に、排気弁43を開弁駆動するのに要する電力の大きさに依存する。
【0033】
従って、上記図5(A)〜(C)のマップに示す如く、内燃機関の負荷が大きくなるほど、排気弁43の開弁駆動時における吸引電流IMAX 、吸引期間T1 、及び遷移期間T2 が大きな値に設定されることで、電磁駆動弁38の総消費電力は増大することとなる。
ところで、弁体44の開閉駆動時に摩擦抵抗の一時的な増加等の原因で弁体44及びアーマチャ60の変位振幅が減少し、弁体44が全開位置又は全閉位置に到達し得ない事態が生ずることがある。この場合、変位振幅の減少に伴ってアーマチャ60に作用する電磁力が低下することで、電磁力とスプリングの付勢力とを適正に協働させることができなくなる。このため、弁体44の変位振幅は更に減少し、やがて、アーマチャ60はロアスプリング52及びアッパスプリング56により、アッパコア64とロアコア68との間の中立位置に保持されるようになる。かかる状態では、アーマチャ60に対して十分な電磁力が付与されないため、弁体44を開閉駆動することが困難となる。本実施例において、上記の如く弁体44がその開閉駆動中に中立位置に保持され、弁体44を開閉駆動することができなくなる動作異常を、電磁駆動弁38の脱調と称す。
【0034】
上記の如く、電磁駆動弁38が脱調すると、弁体44を要求に応じて開閉駆動することができなくなる。このため、電磁駆動弁38の脱調を速やかに検出すると共に、脱調が検出された電磁駆動弁38(以下、脱調弁と称す)の正常動作を回復させることが必要である。以下、図6及び図7を参照して、本実施例において、電磁駆動弁38の脱調を検出する手法、及び、脱調が検出された電磁駆動弁38の正常動作を回復する手法について説明する。先ず、脱調を検出する手法について説明する。
【0035】
図6は、電磁駆動弁38が脱調していない場合、及び電磁駆動弁38が脱調している場合に、例えば、消磁電流IR に応じてロアコイル66に実際に流れる電流の時間変化を、それぞれ、実線及び破線で示す。なお、図6には、指令電流Ic の波形を一点鎖線で示している。
ロアコイル66に実際に流れる電流(以下、実電流IM と称す)が変化すると、ロアコイル66には、次式(1)で表される逆起電力eが発生する。
【0036】
e=−L(dIM /dt) (1)
ただし、Lは、ロアコイル66とアーマチャ60との間のインダクタンスであり、その値はロアコイル66とアーマチャ60との間の距離の2乗に反比例する。
上記の逆起電力eは、実電流IM が増加する場合には、ロアコイル66に流れる実電流IM を減少させる向きに作用し、また、実電流IM が減少する場合には、実電流IM を増加させる向きに作用する。このため、大きな逆起電力eが発生するほど、実電流IM は指令電流Ic の変化に対して大きな遅れを伴いながら変化する。
【0037】
電磁駆動弁38が脱調していない場合、ロアコイル66に対する指令電流Ic が保持電流IH に設定されている状態では、アーマチャ60はロアコア68に当接している。かかる状態では、上記(1)式におけるインダクタンスLが大きな値となる。このため、消磁電流IR が指令された場合、指令電流Ic の変化に伴う実電流IM の変化によって大きな逆起電力eが発生し、図6に実線で示す如く、実電流IM は指令電流Ic に対して大きな遅れを伴いながら変化する。一方、電磁駆動弁38に脱調が生ずると、ロアコイル66に対する指令電流Ic が保持電流IH に設定された状態でも、アーマチャ60はロアコア68から離間している。かかる状態では、上記(1)式におけるインダクタンスLは小さな値となる。このため、消磁電流IR が指令された場合、指令電流Ic の変化に伴う実電流IM の変化によって発生する逆起電力eは小さくなり、図6に破線で示す如く、実電流IM の指令電流Ic の変化に対する遅れは小さくなる。
【0038】
このように、電磁駆動弁38に脱調が生ずると、消磁期間T4 における実電流IM は、指令電流Ic の変化に対して、脱調が生じない場合に比して小さな遅れで変化する。従って、例えば、指令電流Ic が保持電流IH から消磁電流IR に変化された後、消磁電流IR と実電流IM との差が所定値を下回るまでの時間を検出し、この時間が所定時間よりも短ければ脱調が生じていると判断することができる。あるいは、指令電流Ic が保持電流IH から消磁電流IR に変化された後、一定時間が経過した時点での実電流IM の値に基づいて脱調の有無を検出することもできる。
【0039】
同様に、弁体44が閉弁位置から開弁位置に向けて変位する際にも、アッパコイル62の実電流IM の応答性に基づいて、脱調の有無を検出することができる。
なお、以上の説明においては、アーマチャ60をアッパコア64又はロアコア68から離脱させる場合に、指令電流Ic を逆電流IR に設定するものとしたが、逆電流IR の指令を行わない場合には、指令電流Ic を保持電流IH からゼロに変化させた場合の実電流IM の変化に基づいて脱調の有無を検出することができる。
【0040】
駆動回路70は、各電磁駆動弁38のアッパコイル62及びロアコイル66の実電流IM をそれぞれ検出する電流検出器を備えており、検出された実電流IM に基づいて、上記の手法により電磁駆動弁38の脱調の有無を検出する。そして、電磁駆動弁38の脱調を検出すると、脱調が生じた旨、及び、何れの電磁駆動弁38に脱調が生じたかを示すフェール信号をECU10に向けて出力する。ECU10は、上記フェール信号を受けると、脱調弁を正常動作状態に復帰させる処理(以下、復帰処理と称す)を実行する。
【0041】
なお、電磁駆動弁38の脱調を検出する手法は上記の手法に限られるものではなく、弁体44又はアーマチャシャフト48の変位を直接検出することにより脱調を検出することも可能である。例えば、アーマチャシャフト48の上端部に永久磁石を装着すると共に、アーマチャ60がアッパコア64に当接した状態でこの永久磁石の近傍に位置するように磁気抵抗素子を配設することにより、電磁駆動弁38の脱調を検出できる。かかる構成によれば、電磁駆動弁38が脱調していない場合は、アーマチャシャフト48の変位に応じて磁気抵抗素子を通る磁束が変化するのに伴って磁気抵抗素子の抵抗値が変化する。これに対して、電磁駆動弁38が脱調すると、磁気抵抗素子の抵抗値に変化は生じなくなる。従って、磁気抵抗素子の抵抗値を例えば電圧値に変換し、この電圧値に基づいて電磁駆動弁38の脱調を検出することができるのである。
【0042】
図7(A)及び(B)は、それぞれ、復帰処理において脱調弁のアッパコイル62及びロアコイル66に供給される指令電流の波形を示す。また、図7(C)は、図7(A)及び(B)に示す波形の指令電流により実現される弁体44の変位波形を示す。
図7(A)に示す如く、ロアコイル66に対する電流波形は、「0」と所定値I0 との間を所定の周期Tで変化するN個のパルスを有し、最終的には「0」に保持される波形である。また、図7(B)に示す如く、アッパコイル62に対する電流波形は、アッパコイル62に対する電流波形に対して位相が180゜遅れて「0」と所定値I0 との間を所定の周期Tで変化するN個のパルスを有し、最終的には上記した保持電流IH に保持される波形である。上記した所定の周期Tは、電磁駆動弁38の可動部(すなわち、アーマチャ60、及び、弁体44、弁軸45、アーマチャシャフト48等のアーマチャ60と一体に運動する部分)の質量と、アッパスプリング56及びロアスプリング52のばね定数によって定まるバネ−質量系の共振振動周期に等しい値に設定されている。また、パルス数Nは、後述する如く、アーマチャ60の共振振動の振幅をアッパコア64に達するまで増大させるのに十分な値に設定されている。
【0043】
上記図7(A)及び(B)に示す波形の電流がそれぞれ脱調弁のロアコイル66及びアッパコイル62に供給されると、中立位置にあるアーマチャ60には開弁側へ向かう電磁力と、閉弁側へ向かう電磁力とが、交互にその共振周期に等しい周期Tで作用する。このため、アーマチャ60の共振振動が励起されることによりアーマチャ60の振動振幅は次第に増大し、アーマチャ60がアッパコア64に当接するようになる。そして、アーマチャ60がアッパコア64に当接した状態で、アッパコイル62に保持電流IH が供給されると共に、ロアコイル66へ供給される電流が「0」とされることで、アーマチャ60はアッパコア64に吸引保持され、脱調弁は閉弁状態とされる。そして、その後は、アッパコイル62及びロアコイル66に対して図3(B)に示す如き指令電流Ic を付与することで、脱調弁を開閉駆動することができる。すなわち、上記の復帰処理によれば、脱調弁を正常動作状態に復帰させることができる。
【0044】
復帰処理においては、アッパコア64及びロアコア68との間の中立位置にあるアーマチャ60に、可動部の固有振動を励起し得るような電磁力を付与すべく、各コイルには十分に大きな電流を供給することが必要である。しかしながら、上述の如く、内燃機関の高負荷運転時には、通常動作する電磁駆動弁38の消費電力が大きくなる。このため、内燃機関の高負荷運転時には、オルタネータ71の電流容量が不足して復帰処理に必要な電流を確保できない可能性がある。
【0045】
本実施例のシステムは、上記の点に鑑みて、高負荷運転時に何れかの電磁駆動弁38が脱調した場合に、復帰処理に必要な電流を確保するものである。以下、図8を参照して、かかる機能を実現すべく本実施例においてECU10が実行する処理の内容について説明する。
図8は、ECU10が実行するルーチンのフローチャートである。図8に示すルーチンは、所定時間間隔で起動される。図8に示すルーチンが起動されると、先ずステップ150の処理が実行される。
【0046】
ステップ150では、何れかの電磁駆動弁38に脱調が検出されたか否かが判別される。その結果、電磁駆動弁38の脱調が検出されていなければ、今回のルーチンは終了される。一方、何れかの電磁駆動弁38に脱調が検出されていれば、次にステップ151の処理が実行される。
ステップ151では、脱調が検出された電磁駆動弁38(脱調弁)が属する気筒Xが特定される。
【0047】
ステップ152では、気筒Xについて燃料噴射を停止する処理が実行される。
ステップ154では、オルタネータ71の余裕電流値Is が求められる。具体的には、余裕電流値Is は、オルタネータ71の発電電流値から、脱調弁以外の電磁駆動弁38及びその他の車載電気機器を作動させるのに必要な電流値を減じた値として求められる。
【0048】
ステップ156では、余裕電流値Is が、脱調弁の復帰処理を行ううえで十分に大きいか否かが判別される。その結果、肯定判別された場合は、次にステップ158の処理が実行される。一方、ステップ156において否定判別された場合は、復帰処理を適正に行うために作動中の電磁駆動弁38の消費電力を減少させる必要があると判断されて、次にステップ160の処理が実行される。
【0049】
ステップ160では、脱調弁以外の電磁駆動弁38について、吸引電流IMAX 、吸引期間T1 、及び遷移期間T2 の値を、現在よりも小さな吸気管圧力PM及び機関回転数NEに対応する値に変更する処理が実行される。なお、本ステップ158では、変更後の吸引電流IMAX 、吸引期間T1 、及び遷移期間T2 により求められる余裕電流値Is が、復帰処理を行ううえで十分に大きな値となるように設定される。
【0050】
ステップ160に続くステップ162では、上記ステップ160における吸引電流IMAX 、吸引期間T1 、及び遷移期間T2 の変更度合いに応じて、スロットルバルブ86の開度を減少させる処理が実行される。かかる処理によれば、正常気筒の電磁駆動弁38について、各コイルへの指令電流Ic が内燃機関の負荷に対して不足し又は過大となることが防止される。従って、ステップ162の処理が行われることにより、正常気筒において吸気弁42及び排気弁43の適正な開閉駆動を継続することが可能となる。本ステップ162の処理が終了すると、次にステップ158の処理が実行される。
【0051】
なお、例えば高加速走行中のように内燃機関が大きな負荷で作動している場合にスロットルバルブ86の開度が急減されると、ドライバビリティが大きく低下する可能性がある。従って、このような場合には、復帰処理の早期実行よりもドライバビリティの維持を優先し、ステップ160において指令電流Ic を緩やかに変化させると共に、これに応じて、ステップ162においてスロットルバルブ86の開度を緩やかに減少させることが望ましい。
【0052】
ステップ158では、気筒Xの脱調弁以外の全ての排気弁43及び吸気弁42が全閉状態に保持されると共に、脱調弁について復帰処理が実行される。脱調弁の復帰処理が完了すると、次にステップ164の処理が実行される。
ステップ164では、気筒Xの作動を再開させる処理、具体的には、気筒Xについて所定タイミングで燃料噴射、及び、吸気弁42・排気弁43の開閉駆動を再開させるための処理が開始される。本ステップ164の処理が終了すると今回のルーチンは終了する。
【0053】
上述の如く、本実施例では、何れかの電磁駆動弁38に脱調が検出された場合に、必要に応じて作動中の電磁駆動弁38に対する指令電流Ic を規定するパラメータ(吸引電流IMAX 、吸引期間T1 、及び遷移期間T2 )が低負荷(すなわち、低い機関回転数NE及び低い吸気管圧力PM)に対応する値に変更されることで、脱調弁の回復処理を行ううえで十分な電流が確保される。従って、本実施例によれば、電磁駆動弁38が脱調した場合にも、その回復処理を確実に行うことができる。また、上記の如く指令電流Ic が変更された場合に、それに応じてスロットルバルブ86の開度を減少させることで、正常気筒の電磁駆動弁38に対する指令電流Ic を実際の負荷に応じた適正なものとすることができる。
【0054】
なお、上記実施例においては、ECU10が図8に示すルーチンのステップ150の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した脱調検出手段が、ステップ158の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した復帰処理手段が、ステップ160の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した通電量変更手段が、ステップ162の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した負荷減少手段が、それぞれ実現されている。
【0055】
ところで、上記実施例においては、機関回転数NE及び吸気管圧力PMに基づいて正常気筒の電磁駆動弁38への指令電流Ic を変更するものとしたが、これに限らず、筒内圧を検出する筒内圧センサを設け、筒内圧に基づいて指令電流Ic を変更することとしてもよい。
【0056】
【発明の効果】
請求項1記載の発明によれば、何れかの電磁駆動弁が脱調した場合に、稼働中の電磁駆動弁への通電量を内燃機関の低負荷時に対応した値に変更することにより、脱調弁の復帰処理に要する電流を確保することができる。従って、本発明によれば、脱調弁の復帰処理を確実に実行することができる。
【0057】
また、請求項2記載の発明によれば、更に、稼働中の電磁駆動弁に対する通電量を実際の負荷に応じた適正な値とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例である内燃機関の電磁駆動装置が適用された内燃機関の構成図である。
【図2】内燃機関が備える電磁駆動弁の構成を示す断面図である。
【図3】図3(A)は、全閉位置から全開位置へ向かう弁体の変位波形を示す図である。図3(B)は、ロアコイルに供給される指令電流Ic の波形を示す図である。
【図4】内燃機関の筒内圧と、排気弁及び吸気弁のリフト量との関係を表すタイムチャートである。
【図5】図5(A)〜(C)は、機関回転数NE及び吸気管圧力PMに基づいて、それぞれ、吸引電流IMAX 、吸引時間T1 、及び遷移時間T2 を求めるべく参照されるマップである。
【図6】消磁電流IR に応じて生ずる実電流IM の波形を、脱調が生じていない場合、及び、脱調が生じた場合について、それぞれ実線及び破線で示す図である。
【図7】図7(A)は、脱調弁の復帰処理を行うべくロアコイルに供給される指令電流波形を示す図である。図7(B)は、脱調弁の復帰処理を行うべくアッパコイルに供給される指令電流波形を示す図である。図7(C)は、図7(A)及び(B)に示す電流により実現される弁体の変位波形を示す図である。
【図8】本実施例において、ECUが実行するルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
10 ECU
38 電磁駆動弁
42 吸気弁
43 排気弁
44 弁体
Claims (3)
- 少なくとも排気弁が電磁駆動弁により構成された内燃機関に設けられ、該内燃機関の負荷に応じて前記電磁駆動弁への通電量を制御する内燃機関の電磁駆動装置であって、
前記電磁駆動弁の脱調を検出する脱調検出手段と、
脱調した電磁駆動弁の復帰処理を行う復帰処理手段と、
前記復帰処理が行われる場合に、脱調していない電磁駆動弁への通電量を、前記内燃機関の筒内圧に基づき算出される通電量よりも小さい通電量に変更する通電量変更手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の電磁駆動装置。 - 少なくとも排気弁が電磁駆動弁により構成された内燃機関に設けられ、該内燃機関の負荷に応じて前記電磁駆動弁への通電量を制御する内燃機関の電磁駆動装置であって、
前記電磁駆動弁の脱調を検出する脱調検出手段と、
脱調した電磁駆動弁の復帰処理を行う復帰処理手段と、
前記復帰処理が行われる場合に、脱調していない電磁駆動弁への通電量を、前記内燃機関の吸気管圧及び回転数に基づき算出される通電量よりも小さい通電量に変更する通電量変更手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の電磁駆動装置。 - 請求項1又は2に記載の内燃機関の電磁駆動装置において、前記通電量変更手段による通電量の変更が行われた場合に、前記内燃機関の負荷を減少させる負荷減少手段を更に備えることを特徴とする内燃機関の電磁駆動装置。
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