JP4305631B2 - 生分解性潤滑剤 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、生分解性及び流動性、難燃性、安定性、潤滑性に優れた潤滑剤、特には、タービン油、油圧作動油又は軸受油に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種の潤滑剤は使用中或いは使用後に環境へ放出される場合が多々あるため、環境保全の観点から生分解性に優れた潤滑剤の要求が急速に高まっている。
【0003】
従来、生分解性に優れた潤滑剤としては、植物油に由来する潤滑剤(特許文献1及び特許文献2参照)、炭素数6〜20の直鎖1-アルケンオリゴマー及びこの水素化物を含有させた潤滑剤(特許文献3参照)、或いはジカルボン酸エステルを配合した潤滑剤(特許文献4参照)が提案されている。しかしながら、植物油由来の潤滑剤は、安定性、流動性や潤滑性に、アルケンオリゴマーやジカルボン酸エステルは難燃性や生分解性に難があり、流動性、難燃性、潤滑性及び生分解性のうちのいずれかに問題を有し、これらをすべて満足するものはほとんど見い出されていない。
【0004】
【特許文献1】
特表2001-51812号公報
【特許文献2】
特開2001-214187号公報
【特許文献3】
特許第3122489号公報
【特許文献4】
特開2000-44972号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、生分解性、流動性、難燃性、安定性及び潤滑性に優れた、すなわち、これらの特性においてバランスがとれて、実用性能に優れた潤滑剤を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、トリメチロールプロパン及び/又はペンタエリスリトールと、炭素数7〜18の直鎖脂肪酸、3,5,5‐トリメチルヘキサン酸及び2‐エチルヘキサン酸がモル比で60:23:17〜85:10:5からなるエステルを90質量%以上含有し、40℃ における動粘度が10〜80mm2/s、生分解性が60%以上、引火点が250℃以上、流動点が−15℃以下である生分解性潤滑剤である。
【0007】
また、本発明は上記生分解性潤滑剤に、酸化防止剤としてフェノ−ル系及び/又はアミン系化合物を、金属不活性剤としてトリアゾ−ル化合物を、または加水分解抑制剤としてカルボジイミド及び/又はエポキシ化合物のいずれか1種以上をそれぞれ1質量%以下添加したことからなるものである。
【0008】
さらに、本発明は上記生分解性潤滑剤をタービン油、油圧作動油又は軸受油として使用するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の潤滑剤は、トリメチロールプロパン及び/又はペンタエリスリトールと、炭素数7〜18の直鎖脂肪酸及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸、或いは、さらにこれらの酸に2-エチルヘキサン酸とを混合した混合酸とのエステルを基油の主成分とするものであるが、前記炭素数7〜18の直鎖の飽和脂肪酸としては、ヘプタン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミスチリン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸などを挙げることができる。炭素数が6以下であると生成するエステルの引火点が低くなり、19以上であると流動点が高くなつて好ましくない。
【0010】
上記エステルは、トリメチロールプロパン又はペンタエリスリトールのいずれか或いは両者の混合物と、炭素数7〜18の直鎖脂肪酸の一種以上と3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物、或いはさらに、これらの酸に2-エチルヘキサン酸を混合した物を無触媒、或いは硫酸、アルキルスルホン酸などの強酸触媒や塩化スズや塩化チタンなどの金属塩化物触媒の存在下、通常の方法でエステル化することにより製造できる。また、得られたエステルは、通常のエステルを精製する場合と同様に、脱酸、水洗、脱水、脱色、ろ過などの一連の処理により精製すると良い。
【0011】
上記エステルの製造において、炭素数7〜18の直鎖脂肪酸と3,5,5-トリメチルヘキサン酸との混合の場合は、当該酸の全モル基準で、前記直鎖脂肪酸を76〜90モル%、3,5,5-トリメチルヘキサン酸を10〜24モル%、また、これらの酸に2-エチルヘキサン酸を混合する場合は、酸の全モル基準で前記直鎖脂肪酸を60〜85モル%、3,5,5-トリメチルヘキサン酸を10〜23モル%、2-エチルヘキサン酸を5〜17モル%混合することで、生分解性に優れた潤滑剤を得ることができる。
【0012】
本発明にかかる上記エステルは、トリメチロールプロパン又はペンタエリスリトールの水酸基の一部がエステル化せずに残っている部分エステルであっても良いが、当該ポリオールの全ての水酸基がエステル化されたものであることが好ましい。
【0013】
上記エステルは基油の主成分として含まれておれば良いが、特には、難燃性、流動点、潤滑性、生分解性等の要求性能全てをより確実にバランスよく満たすという点から、上記エステルは基油全量基準で50質量%以上含有させることが好ましく、80質量%以上含有させることがより好ましく、90質量%以上含有させることがさらに好ましく、エステル100質量%が最も好ましい。
【0014】
本発明の潤滑剤の基油としては、上記エステルに加えて、鉱油、オレフィン重合体、アルキルベンゼン等の炭化水素系油や、ポリグリコール、ポリビニルエーテル、ケトン、ポリフェニルエーテル、シリコーン、ポリシロキサン、パーフルオロエーテル、上記エステル以外のエステルやエーテル等の酸素含有合成油を用いても良い。
【0015】
本発明の潤滑剤は、40℃における動粘度が10〜80mm2/sの範囲にあることが必要で、10mm2/s未満では、潤滑性が悪化するとともに、引火点が低下して難燃性が損なわれ、また80mm2/sを超えると流動性が悪化する。
【0016】
また、本発明の潤滑剤は、自然環境に及ぼす影響を小さいものとするために、生分解性が60%以上を有するものであることが必要である。なお、この生分解性は、ASTM D5864に規定された方法により測定されるものである。
【0017】
さらに、本発明の潤滑剤は、引火点が250℃以上ないと十分な難燃性を発揮することができず、特には、燃焼点が300℃以上であることが好ましい。また流動点が−15℃以下でないと、寒冷地等での使用に耐えることができない。
【0018】
また、本発明の潤滑剤は、良好な安定性を確保するため、全酸価が0.1mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0019】
本発明の潤滑剤には、上記エステルを主成分とする基油に、酸化防止剤、金属不活性剤及び加水分解抑制剤のうち一種以上を各1質量パ−セント以下添加することが好ましく、前記酸化防止剤であるフェノ−ル系やアミン系化合物としては、ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、4,4’-メチレン-ビス-(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、ビスフェノールA、フェニル-α-ナフチルアミン、N,N-ジ(2-ナフチル)-p-フェニレンジアミン、ジオクチルジフェニルアミン等を例示することができる。
【0020】
金属不活性剤であるトリアゾ−ル化合物としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール誘導剤、チアジアゾール等を挙げることができ、さらに、加水分解抑制剤であるカルボジイミドとしては、ジフェニルカルボジイミドや、ジトリルカルボジイミド、ビス(イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(トリイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(ブチルフェニル)カルボジイミド等のビス(アルキルフェニル)カルボジイミド等を、またエポキシ化合物としては、フェニルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエステル、炭素数5〜18のアルキルグリシジルエーテル、同アルキルグリシジルエステル等を挙げることができる。
【0021】
これらの酸化防止剤、金属不活性剤及び加水分解抑制剤は、個々の要求性能に応じ、一種以上を添加すれば良い。添加量は、電気絶縁油の全質量基準で、各添加剤で、1質量%以下とすべきである。1質量%を超えると、劣化時のスラッジ生成や着色が生じる。特には、酸化防止剤及び加水分解抑制剤については、005〜1質量%、金属不活性については、5〜1000ppm添加することが好ましい。
【0022】
また、上記添加剤以外に、ジチオリン酸亜鉛等の摩耗防止剤、硫黄化合物等の極圧剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤等の添加剤を単独で、または複数種類組み合わせて添加することもできる。これらの添加剤の添加量は特に制限されないが、潤滑剤全量基準で、好ましくは1質量%以下である。
【0023】
以上のような生分解性潤滑剤は、タービン油、油圧作動油或いは軸受油として、特に有用なものである。
【0024】
【実施例】
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら制限されるものではない。
【0025】
アルコールとしてペンタエリスリトール(PE)及びトリメチロールプロパン(TMP)を用い、カルボン酸を表1に示したように組み合わせて(モル比)エステル調製して、供試油とした。
【0026】
【表1】
Figure 0004305631
【0027】
上記供試油について、それぞれの物性を測定して、実用性能を評価した。物性測定及び性能評価試験は、次の方法で行った。これらの結果を表2に示した。
(1) 動粘度:JIS K 2283に規定された方法により、40℃で測定した。
(2) 生分解性:ASTM D 5864に規定された方法で測定した。
(3) 流動点: JIS K 2269に規定された方法で測定した。
(4) 引火点:JIS K 2265に規定された方法で測定した。
(5) 全酸価:JIS K 2514に規定された方法で測定した。
(6) Falex焼付荷重:ASTM D 3233に準拠し、鋼(AISI C-1137)製のブロック及び鋼(SAE 3135)製のピンを用い、初期温度40℃、回転数290rpmで負荷を加えてゆき、焼き付くときの荷重を測定した。
【0028】
【表2】
Figure 0004305631
【0029】
上記実施例2の供試油に、酸化防止剤として、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(DBPC)又はフェニル-α-ナフチルアミン(PNA)、帯電防止剤として、ベンゾトリアゾール(BTA)、加水分解抑制剤として、ビス(ブチルフェニル)カルボジイミド(BBPC)又はフェニルグリシジルエーテル(PGE)を全供試油質量基準で表3に示した量、それぞれ添加した。
【0030】
これについて、酸化安定度試験(JIS C 2101に規定された方法により、120℃、75時間)及び回転ボンベ式酸化安定度試験(RBOT、JIS K 2514に規定された方法により、150℃)を行った。この結果を、表3に示した。
【0031】
【表3】
Figure 0004305631
【0032】
表2から、実施例1〜5の供試油は、動粘度、生分解性、低温流動性、引火点のバランスが良く、安全で環境に優しい潤滑剤として優れている。これに対して、比較例1は引火点が低く、比較例2は流動点が高過ぎて、比較例3は動粘度及び流動点が高く、しかも生分解性が低く、比較例4は生分解性及び引火点が低く、比較例5は流動点が高く、比較例6は生分解性及び引火点が低く、比較例7は生分解性が低く、比較例8は引火点が低いなど、いずれも潤滑剤として劣っている。
【0033】
また、実施例6〜11の酸化防止剤、金属不活性剤或いは加水分解抑制剤等を添加した物は、極めて良好な酸化安定性を有している。
【0034】
【発明の効果】
本発明の潤滑剤は、引火点が高く、流動点が低く、安定性が良好で、生分解性及び潤滑性に優れた、すなわち、これらの特性においてバランスがとれ、実用性能に優れているという格別の効果を奏する。

Claims (3)

  1. トリメチロールプロパン及び/又はペンタエリスリトールと、炭素数7〜18の直鎖脂肪酸、3,5,5‐トリメチルヘキサン酸及び2‐エチルヘキサン酸がモル比で60:23:17〜85:10:5からなるエステルを90質量%以上含有し、40℃ における動粘度が10〜80mm2/s、生分解性が60%以上、引火点が250℃以上、流動点が−15℃以下である生分解性潤滑剤。
  2. 上記請求項1において、酸化防止剤としてフェノール系及び/又はアミン系化合物を、金属不活性剤としてトリアゾール化合物を、または加水分解抑制剤としてカルボジイミド及び/又はエポキシ化合物のいずれか1種以上をそれぞれ1質量%以下添加したことからなる生分解性潤滑剤。
  3. タービン油、油圧作動油又は軸受油に用いられる請求項1又は2に記載の生分解性潤滑剤。
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