JP4301771B2 - 金属表面処理液 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属表面にリン酸亜鉛化成被膜を形成させる金属表面処理液に関する。
【0002】
【従来の技術】
防錆油、プレス油、切削油の油分が付着した金属板の脱脂(脱脂工程)、被膜結晶の緻密化(表面調整)乃至リン酸亜鉛化成被膜の形成(化成工程)までを同一工程で行うことができる金属表面処理液がある(特開2001−342575号公報参照)。この金属表面処理液によれば、脱脂された油分が飽和点に達すると液面に浮き上がり、油分の除去を容易に行うことができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、金属表面処理液への油分の混入量が多い場合や、撹拌が不良である場合において、耐食性や塗膜密着性を保つことはできなかった。
【0004】
本発明は、金属表面処理液中の油混入量が多く、金属表面処理液の撹拌状態が不良であっても耐食性、塗膜密着性の高い金属表面処理液を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
(1)本発明によれば、極性有機溶剤と水との重量比率が2.8:7.2〜3.8:6.2である混合溶媒100重量部に対して、ナトリウムイオン及び/又はリチウムイオン、リン酸イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを少なくとも含有する金属表面処理液が提供される。この発明において、前記混合溶媒は、前記極性有機溶剤と前記水との前記重量比率が3.0:7.0〜3.8:6.2であることが好ましく、前記混合溶媒は、前記極性有機溶剤と前記水との前記重量比率が3.3:6.7〜3.8:6.2であることが好ましく、さらに、前記混合溶媒は、前記極性有機溶剤と前記水との前記重量比率が3.3:6.7〜3.5:6.5であることが好ましく、特に、前記混合溶媒は、前記極性有機溶剤と前記水との前記重量比率が3.5:6.5であることが好ましい。
【0006】
(2)前記極性有機溶剤がグリコールエーテルであることが好ましく、前記極性有機溶剤がジエチレングリコールエーテルであることが好ましく、前記極性有機溶剤がジエチレングリコールモノアルキルエーテルであることが好ましく、前記極性有機溶剤がジエチレングリコールモノエチルエーテルであることが好ましい。
【0007】
(3)上記発明に関し、前記混合溶媒100重量部に対して、0.8〜3.3重量部のナトリウムイオン及び/又はリチウムイオンを含有することが好ましい。この発明に関して、前記含有されるナトリウムイオンとリチウムイオンのモル比が、50:50〜2:98であることが好ましく、前記含有されるナトリウムイオンとリチウムイオンのモル比が、40:60〜10:90であることが好ましく、前記含有されるナトリウムイオンとリチウムイオンのモル比が、30:70〜20:80であることが好ましい。
【0008】
また、前記混合溶媒100重量部に対して、0.2〜0.5重量部のリン酸イオンと、0.5〜0.7重量部の亜鉛イオンとを含有することが好ましく、前記混合溶媒100重量部に対して、0.09〜0.23重量部のニッケルイオンを含有することが好ましく、前記混合溶媒100重量部に対して、0.03〜0.16重量部のマンガンイオンを含有することが好ましく、前記混合溶媒100重量部に対して、0.8〜3.3重量部のナトリウムイオン、0.2〜0.5重量部のリン酸イオン、0.5〜0.7重量部の亜鉛イオン、0.09〜0.23重量部のニッケルイオン、0.03〜0.16重量部のマンガンイオン、3.5〜10.8重量部の硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオン、を少なくとも含有することが好ましい。
【0009】
(4)特に、前記混合溶媒100重量部に対して、2.7重量部のナトリウムイオン及び/又はリチウムイオン、0.29重量部のリン酸イオン、0.55重量部の亜鉛イオン、0.2重量部のニッケルイオン、0.13重量部のマンガンイオン、9.04重量部の硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを少なくとも含有することが好ましく、前記混合溶媒100重量部に対して、1.35重量部のナトリウムイオン及び/又はリチウムイオン、0.29重量部のリン酸イオン、0.66重量部の亜鉛イオン、0.2重量部のニッケルイオン、0.13重量部のマンガンイオン、5.6重量部の硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを少なくとも含有することが好ましく、前記混合溶媒100重量部に対して、2.7重量部のナトリウムイオン及び/又はリチウムイオン、0.42は重量部のリン酸イオン、0.66重量部の亜鉛イオン、0.13重量部のニッケルイオン、0.06重量部のマンガンイオン、3.98重量部の硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを少なくとも含有することが好ましい。
【0010】
これらの発明に関し、特に、前記含有されるナトリウムイオンとリチウムイオンのモル比が、50:50〜2:98であることが好ましく、前記含有されるナトリウムイオンとリチウムイオンのモル比が、40:60〜10:90であることが好ましく、前記含有されるナトリウムイオンとリチウムイオンのモル比が、30:70〜20:80であることが好ましい。
【0011】
(5)また、混合溶媒100重量部に対して、0.68重量部のナトリウムイオン、0.61重量部のリチウムイオン、0.29重量部のリン酸イオン、0.55重量部の亜鉛イオン、0.2重量部のニッケルイオン、0.13重量部のマンガンイオン、9.04重量部の硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含有することが好ましく、前記混合溶媒100重量部に対して、0.68重量部のナトリウムイオン、0.61重量部のリチウムイオン、0.42重量部のリン酸イオン、0.66重量部の亜鉛イオン、0.13重量部のニッケルイオン、0.06重量部のマンガンイオン、3.98重量部の硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含有することが好ましい。
【0012】
(6)本発明に係る金属表面処理液を用いて、40℃〜60℃の温度であって、3分以上の時間で、金属の表面にリン酸亜鉛化成被膜を形成させる金属表面処理方法が提供される。この発明によれば、金属表面処理液中の油混入量が多く、且つ処理液の撹拌状態が不良であっても、耐食性、塗膜密着性に優れたリン酸亜鉛化成皮膜を形成することができる。
【0013】
【発明の効果】
本発明によれば、金属表面処理液中の油混入量が多く、且つ処理液の撹拌状態が不良であっても、耐食性、塗膜密着性に優れたリン酸亜鉛化成皮膜を形成できる金属表面処理液及び金属表面処理方法を提供することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本実施形態に係る金属表面処理剤は、水系金属表面処理剤又は水性金属表面処理剤である。金属板の表面にリン酸亜鉛化成被膜を形成するためには、本来、金属板表面の油分を除去する脱脂工程、これを水洗する水洗工程及び純水水洗工程、表面の化成皮膜を緻密化させるためにチタンコロイド処理液等を用いた表面調整工程、リン酸亜鉛被膜を形成させる化成処理工程が必要である。本実施形態の金属表面処理液は、これらの工程を一槽一工程で行うものである。
【0015】
本実施形態の金属表面処理液は、極性有機溶剤と水との合計を100重量%としたとき、極性有機溶剤と水との重量比率が2.8:7.2〜3.8:6.2である混合溶媒100重量部に対して、ナトリウムイオン及び/又はリチウムイオン、リン酸イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを少なくとも含有する。
【0016】
この極性有機溶剤としては、(−CH2−CH2−O−)n(ただし、n=1〜4)で示されるエチレングリコールその他の低級アルキルエーテル又は低級アルキルエステル、プロピレングリコール又はジプロピレングリコールその他の低級アルキルエーテル又は低級アルキルエステル、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールその他の低級アルキレングリコール、低級アルコール又はこれらのエステルを例示することができる。
【0017】
エチレングリコール系の低級アルキルエーテル又は低級アルキルエステルとしては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル等のエチレングリコールエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル等のジエチレングリコールエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル等を例示することができる。
【0018】
プロピレングリコール又はジプロピレングリコールの低級アルキルエーテル又は低級アルキルエステルとしては、例えば、プロピレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びポリプロピレングリコールモノエチルエーテル等を例示することができる。
【0019】
また、低級アルコールとしては、例えば炭素数1〜8のアルコールを例示することができる。具体的には、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、第3ブチルアルコール、メトキシジメチルペンタノール、ジアセトンアルコール、2−メトキシエタノール、及び2−エトキシメタノール等のグリコールエーテル等を例示することができる。炭素数は1〜8のアルコールであることが好ましいが、さらに好ましくは炭素数1〜5のアルコール、特に好ましくは炭素数1〜4のアルコールである。
【0020】
エステル類としては、例えば、乳酸エチル、酢酸メトキシブチル及び乳酸ブチル等を例示することができる。
【0021】
上述の極性有機溶剤のうち、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種類以上のグリコール系化合物、又はこれらのグリコール系化合物と低級アルコールとの混合溶剤を採用することが好ましい。
【0022】
これらグリコール系化合物におけるアルキル基としては炭素数1〜5のアルキル基が好ましい。また低級アルコールとしては、炭素数1〜8のアルコールであることが好ましいが、さらに好ましくは炭素数1〜5のアルコール、特に好ましくは炭素数1〜4のアルコールである。
【0023】
本例の金属表面処理液は、ナトリウムイオン及び/又はリチウムイオン、リン酸イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを少なくとも含む。
【0024】
リン酸イオンは0.2〜0.5重量部含まれることが好ましい。この範囲に含有量がおさまらない場合、油混入量が多く、撹拌不良の際に、目的とする良好なリン酸亜鉛皮膜が形成されない。このリン酸イオンの供給源は特に限定されることはなく、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、五酸化リン等を例示することができる。また、金属表面処理液に含まれる金属イオン(ナトリウムイオン及び/又はリチウムイオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、マンガンイオン)に対するアニオンとして供給されることも可能である。本例のリン酸イオンはオルトリン酸のリン酸水溶液により添加することとした。
【0025】
亜鉛イオンはリン酸イオンとともにリン酸亜鉛化成皮膜を形成する。亜鉛イオンは0.5〜0.7重量部含まれることが好ましい。この範囲に含有量がおさまらない場合、油混入量が多く、撹拌不良の際に、目的とする良好なリン酸亜鉛皮膜が形成されない。この亜鉛イオンの供給源は、例えば酸化亜鉛、炭酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、リン酸亜鉛等の無機酸塩等である。本例では硝酸亜鉛を供給源とした。
【0026】
ニッケルイオンは、未塗装の金属表面処理対象物の耐食性を向上させる。ニッケルイオンは0.09〜0.23重量部であることが好ましい。この範囲に含有量がおさまらない場合、油混入量が多く、撹拌不良の際に、目的とする良好なリン酸亜鉛皮膜が形成されない。このニッケルイオンの供給源は、例えば、硝酸ニッケル、リン酸ニッケルといった無機酸塩等である。本例では硝酸ニッケルを供給源とした。
【0027】
マンガンイオンは、金属亜鉛を含む金属表面処理対象物の湿潤塗装密着性を向上させる。マンガンイオンは0.03〜0.16重量部であることが好ましい。この範囲に含有量がおさまらない場合、油混入量が多く、撹拌不良の際に、目的とする良好なリン酸亜鉛皮膜が形成されない。このマンガンイオンの供給源は硝酸マンガン、リン酸マンガン等の無機酸塩である。本例では硝酸マンガンを供給源とした。
【0028】
硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンは3.5〜10.8重量部であることが好ましい。この範囲に含有量がおさまらない場合、油混入量が多く、撹拌不良の際に、目的とする良好なリン酸亜鉛皮膜が形成されない。
【0029】
ナトリウムイオン及び/又はリチウムイオンは0.8〜3.3重量部含まれることが好ましい。ナトリウムイオン及び/又はリチウムイオンは、金属表面処理液の水と相俟って金属表面処理対象物の表面に形成されるリン酸亜鉛被膜の結晶を緻密にする。このナトリウムイオン供給源としては硝酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、水酸化ナトリウムを用いることができるが、本例では硝酸ナトリウムを採用する。さらに、硝酸ナトリウムの一部又は全部を亜硝酸ナトリウムで置き換えることが好ましい。亜硝酸イオンの働きにより酸のエッジング力が高められ、化成反応の促進が期待できるからである。
【0030】
このナトリウムイオンは、1価のアルカリ金属として共通するリチウムイオンに置き換えることができる。具体的にはナトリウムイオンの全体量のうち50%〜98%、好ましくは60%〜90%、さらに好ましくは70%〜80%をリチウムイオンとすることができる。リチウムイオンを含ませることにより、リン酸亜鉛皮膜の結晶が更に緻密になり、塗装密着性が更に向上する。リチウムイオンの供給源は硝酸リチウム、リン酸リチウム、亜硝酸リチウム等の無機酸塩を用いることができる。本例では硝酸リチウムを用いることとした。
【0031】
このように、極性有機溶剤と水との重量比率が2.8:7.2〜3.8:6.2である混合溶媒100重量部に対して、ナトリウムイオン及び/又はリチウムイオン、リン酸イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを少なくとも含有する金属表面処理液によって形成された化成皮膜について、耐食性及び密着性を検証した。その検証の結果を表1〜表8を用いて説明する。
【0032】
【実施例】
金属表面処理液は、実施例1〜実施例29に示すように調整する。極性有機溶剤としてはジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGMEE)、ナトリウムイオンの供給源となるナトリウム化合物として硝酸ナトリウム、リチウムの供給源となるリチウム化合物として硝酸リチウム、リン酸イオンの供給源としてオルトリン酸、亜鉛イオンの供給源となる亜鉛化合物として硝酸亜鉛、ニッケルイオンの供給源となるニッケル化合物として硝酸ニッケル、マンガンイオンの供給源となるマンガン化合物として硝酸マンガンを用いて金属表面処理液を調整した。
【0033】
この金属表面処理液は、実施例1〜29、比較例1及び2に従い、各成分をガラスビーカに入れ、10分間混合した。本実施例では、金属表面処理液の油汚染時と無撹拌時における化成処理性のロバストネスを評価した。具体的には、金属表面処理液の各組成毎に油を6g/リットル添加した擬似劣化液と、油を添加しない標準処理液とを用意し、処理時の撹拌条件として、撹拌有り(撹拌子:70mm,撹拌速度:400ppm)と、撹拌無しの条件を加えて、処理時の外乱に対する処理安定性を評価した。
【0034】
なお、金属表面処理対象物としては、SPCC−SD鋼鈑試験片(0.8mm×70mm×150mm)にアセトン脱脂後、油を0.5g/m2塗布した油面鋼板を用い、金属表面処理液の擬似劣化液と試験片に添加した油には、商品名「ラストクリーンK」:コスモ石油株式会社製,商品名「出光NR3」:出光興産株式会社製,商品名「ノンラストPN−1」:日本石油株式会社製の等量混合物を用いた。
【0035】
このような条件の下で、実施例1〜29の金属表面処理液、比較例1〜2の金属表面処理液を用いて耐食性及び密着性を検証した。各実施例及び比較例ごとに3枚の金属試験片を用いて試験を行い、これらの試験結果の平均の評価を表に示した。
【0036】
具体的には、皮膜重量、結晶皮膜の緻密度合、耐食性(耐孔あき錆性)、耐食性(耐スキャブ錆性)、塗装密着性(一次)、塗装密着性(二次)を、
A:極めて良好、
B:良好、
C:少々劣る、
D:不良
の4つに区分された評価ランクによって評価した。
【0037】
まず、「皮膜重量」「結晶皮膜の緻密度合」「耐食性(耐孔あき錆性)」「耐食性(耐スキャブ錆性)」「塗装密着性(一次)」「塗装密着性(二次)」を検証するために行われる試験手法について説明をする。
【0038】
「皮膜重量」は、鋼板試験片を各金属表面処理液に各撹拌条件の下に、液温50℃を保って300秒間浸漬し、時間経過後直ちに取り出し、水道水で洗浄し、さらにイオン交換水で洗浄し、ドライヤーで表面を乾燥させた後に計測した。ここでは皮膜重量として1m2あたりの重さ(g)として表す。具体的には、JISK3151の皮膜重量の測定方法に従い、表面処理が完了した金属試験片の重量を、(1/10000)gまで測定可能な精密天秤にて測定し、その値を記録した。その後、90℃〜98℃に保温した、蒸留水に三酸化クロム50gを加え全量を1リットル(l)としたクロム酸水溶液に10分間浸漬し、形成された皮膜を剥離させた。クロム酸水溶液から金属試験片を取り出して水道水で剥離液を洗浄し、さらにイオン交換水で剥離液をさらに洗浄してから乾燥させた。皮膜の剥離後の金属試験片の重量を再度測定し、剥離処理前後の重量差から単位面積(1m2)あたりのリン酸亜鉛被膜の付着重量を算出した。
【0039】
リン酸亜鉛化成処理膜が塗装下地として優れた防錆製及び塗装性を有するためには皮膜重量が2〜3.5g/m2程度の均一且つ緻密な結晶皮膜が求められる。このため、本実施例においては、皮膜重量が2〜2.5g/m2であればA(極めて良好)、2.6〜3.5g/m2であればB(良好)、皮膜重量が1.5〜1.9g/m2であればC(少々劣る)、1.5g/m2未満であればD(不良)という基準に基づき評価した。
【0040】
「結晶皮膜の緻密度合」は、処理後の試験片の中央部から試料をサンプリングし、走査顕微鏡(SEM)でリン酸亜鉛皮膜結晶の形状、大きさを観察する。
【0041】
本実施例においては、緻密度合を示す結晶サイズが5μm以下であればA(極めて良好)、5μm超〜10μm以下であればB(良好)、10μm超〜20μm以下であればC(少々劣る)、20μmより大きければD(不良)という基準に基づき評価した。
【0042】
「耐食性(耐孔あき錆性)」では、塩水噴霧(35±2℃,4Hr,ただし、塩水はJISZ2371に規定された5%水溶液を用いる)→乾燥(60±2℃,25±5%RH,2Hr)→湿潤(50±2℃,95±5%RH,2Hr)を1サイクルとし、これを50サイクル繰り返した環境負荷を評価試験片に与え、評価試験片の板厚減少量を測定する事により化成皮膜の耐食性を評価した。なお、このとき使用する試験片には、前述した電着塗装は施さず、化成皮膜単独のものを用いている。
【0043】
本実施例においては、耐食性(耐孔あき錆性)を示す最大板厚減少量が350μm未満であればA(極めて良好)と評価し、350μm〜450μmであればB(良好)、451μm〜500μmであればC(少々劣る)、500μmより大きい場合にはD(不良)という基準に基づき評価した。
【0044】
「耐食性(耐スキャブ錆性)」では、塩水噴霧(35±2℃,10min,但し、塩水はJISZ2371に規定された5%水溶液を用いる)→乾燥(60±2℃,25±5%RH,155min)→湿潤(60±2℃,95±5%RH),75min)→(A)〔乾燥(60±2℃,25±5RH,160min)→湿潤(60±2℃,95±5%RH,80min)〕→この(A)の処理〔乾燥(60±2℃,25±5RH,160min)→湿潤(60±2℃,95±5%RH,80min)〕を4回繰り返す。これら一連の処理を1サイクルとし、これを67サイクル繰り返した環境負荷を評価試験片に与え、評価試験片に施したクロスカット部からの片側最大スキャブ錆幅を測定し、化成皮膜の耐食性を評価した。なお、試験片に施されるクロスカットは、JIS5400,8.5.3「Xカットテープ法」に規定されるクロスカットとする。
【0045】
本実施例においては、耐食性(耐スキャブ性)を示すスキャブ錆幅が3.5mm未満であればA(極めて良好)と評価し、3.5mm〜4.5mmであればB(良好)、4.6mm〜5mmであればC(少々劣る)、5mmより大きい場合にはD(不良)という基準に基づき評価した。
【0046】
「塗装密着性(一次)」は塗装皮膜の密着性を検証する。このため、前述の金属試験片に塗装を施した。具体的には、以下に示す塗料を、以下に示す膜厚となるように、以下に示す方法で塗装を行い、塗装済み試験片を得た。
【0047】
サクセード#80V神東ハーバーツ・オートモーティブ・システムズ(株)社製のカチオン電着塗料を予め27℃〜28℃に温調して金属試験片を浸漬し、200Vの電圧をかけて3分間通電させた。通電を止めて金属試験片を取り出し、水道水で洗浄し、イオン交換水で洗浄してエアーブローを行い、170℃で20分間放置して乾燥し、15μm〜20μmの塗装膜厚を得た。
【0048】
こうして得られた塗装済み金属試験片を用いて塗装密着性をJISK5400の碁盤目付着試験に従い試験する。この塗装済み金属試験片の塗装面を、NTカッタ−で1mm間隔で100個の升目に刻み、セロハン製テープ(ニチバン製、幅18mm)を貼り付け、2分経過後、セロハン製テープを剥離させた後に100個の升目のうち何個分の塗装膜が残存しているか、升目の個数で評価した。
【0049】
本実施例においては、残存塗装膜の升数が100個であればA(極めて良好)、95個〜99個であればB(良好)、85個〜94個であればC(少々劣る)85個未満であればD(不良)という基準に基づき評価した。
【0050】
「塗装密着性(二次)」も塗膜の密着性を検証する。この評価は、塗装済み試験片を温水浸漬(40±1℃,1000Hr)する事で、塗膜の密着性を意図的に劣化させた後の塗膜の密着性を評価するものである。なお、温水浸漬後の密着性評価方法は、前述した「塗装密着性(一次)」と同様である。
【0051】
なお、試験を行うにあたり排出される廃液等は、廃液の性状に応じて産業廃棄物として適宜処理を行った。
【0052】
以下、評価の結果について検証を行う。
【0053】
<極性有機溶剤と水との混合比率に関する評価>
実施例1〜実施例5では、極性有機溶剤としてジエチレングリコールモノエチルエーテル(表においてDEGMEEと表記する)を用いる。極性有機溶剤と水との混合比率を「2.8:7.2」、「3.0:7.0」、「3.3:6.7」、「3.5:6.5」、「3.8:6.2」と変化させた金属表面処理液を用いて表面処理を行った例である。また、比較例1及び2は、極性有機溶剤と水との混合比率を「2.5:7.5」、「4.0:6.0」とした金属表面処理液を用いて表面処理を行った比較例である。この金属表面処理液に添加されるイオンはすべて同じイオンであり、同じ量のイオンを添加した。
【0054】
その結果を表1に示した。
【0055】
【表1】
【0056】
なお、実施例1〜5に関し、極性有機溶剤をジエチレングリコールモノエチルエーテルから、ジエチレングリコールモノブチルエーテルに代えて処理を行ったところ、どちらの場合も実施例1〜5と同じ結果が得られた。
【0057】
<リン酸イオンと亜鉛イオンの添加量に関する評価>
実施例6〜9は、リン酸イオンと亜鉛イオンの添加量を「リン酸イオン:0.2重量部、亜鉛イオン:0.5重量部」、「リン酸イオン:0.29重量部、亜鉛イオン0.55重量部」、「リン酸イオン:0.42重量部、亜鉛イオン:0.66重量部」と変化させた金属表面処理液を用いて表面処理を行った例である。この金属表面処理液に添加されるイオンはすべて同じイオンであり、リン酸イオン、亜鉛イオン、硝酸イオン以外は同じ量のイオンを添加した。硝酸イオンは亜鉛イオンの供給源が硝酸亜鉛であることから、亜鉛イオンの添加量に応じて変化する。この試験の結果を表2に示した。
【0058】
【表2】
【0059】
<ニッケルイオンの添加量に関する評価>
実施例10〜12は、ニッケルイオンの添加量を、0.09重量部、0.2重量部、0.23重量部と変化させた金属表面処理液を用いて表面処理を行った例である。この金属表面処理液に添加されるイオンはすべて同じイオンでありニッケルイオン、硝酸イオン以外は同じ量のイオンを添加した。硝酸イオンはニッケルイオンの供給源が硝酸ニッケルであることから、ニッケルイオンの添加量に応じて変化する。この試験の結果を表3に示した。
【0060】
【表3】
【0061】
<マンガンイオンの添加量に関する評価>
実施例13〜16は、マンガンイオンの添加量を、0.03重量部、0.06重量部、0.13重量部、0.16重量部と変化させた金属表面処理液を用いて表面処理を行った例である。この金属表面処理液に添加されるイオンはすべて同じイオンであり、マンガンイオン、硝酸イオン以外は同じ量のイオンを添加した。硝酸イオンはマンガンイオンの供給源が硝酸マンガンであることから、マンガンイオンの添加量に応じて変化する。この試験の結果を表4に示した。
【0062】
【表4】
【0063】
<ナトリウムイオンの添加量に関する評価>
実施例17〜19は、ナトリウムイオンの添加量を、0.8重量部、2.7重量部、3.3重量部と変化させた金属表面処理液を用いて表面処理を行った例である。この金属表面処理液に添加されるイオンはすべて同じイオンであり、ナトリウムイオン、硝酸イオン以外は同じ量のイオンを添加した。硝酸イオンはナトリウムイオンの供給源が硝酸ナトリウムであることから、ナトリウムイオンの添加量に応じて変化する。この試験の結果を表5に示した。
【0064】
【表5】
【0065】
<ナトリウムイオンとリチウムイオンの割合に関する評価>
実施例20〜23は、ナトリウムイオンとリチウムイオンの全体の重量部のうち、40%、50%、75%、100%をリチウムイオンとした。これにより、ナトリウムイオン及びリチウムイオンの添加量は表6に示すとおりとなる。この金属表面処理液に添加されるイオンは、リチウムイオンが新たに添加される以外、すべて同じイオンであり、ナトリウムイオン、リチウムイオン以外は同じ量のイオンを添加した。この試験の結果を表6に示した。
【0066】
【表6】
【0067】
ナトリウムイオン及び/、又はリチウムイオンの全重量部の50%以上、特に75%以上をリチウムイオンに置き換えることによって、結晶の微細化が大幅に促進され、耐食性、密着性を向上させることができた。
【0068】
<各イオンの添加量のバランスに関する評価>
実施例24〜28は、イオンの添加量の種々の組み合わせにおいて、特に耐食性、塗膜密着性の高い例を示した。各実施例は、表7に示すような添加量に基づく各イオンを含む。各実施例の試験の結果も表7に示した。
【0069】
【表7】
【0070】
<極性有機溶剤に関する評価>
実施例29は、極性有機溶剤をジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGMEE)から、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGMBE)に代えた、金属表面処理液を用いて表面処理を行った。実施例1〜5において、極性有機溶剤の種類を変更しても本発明の効果は得られる旨を記載したが、その具体的な試験結果の代表的なものを表8に示した。
【0071】
【表8】
【0072】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
Claims (14)
- 金属板表面の油分を除去する工程、これを水洗する工程、表面の化成皮膜を緻密化させる工程、リン酸亜鉛被膜を形成させる工程を一槽一工程で行う際に用いられる金属表面処理液であって、
極性有機溶剤と水との重量比率が2.8:7.2〜3.8:6.2である混合溶媒100重量部に対して、
ナトリウムイオン及び/又はリチウムイオン、リン酸イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを少なくとも含有する金属表面処理液。 - 前記混合溶媒は、前記極性有機溶剤と前記水との前記重量比率が3.0:7.0〜3.8:6.2である請求項1に記載の金属表面処理液。
- 前記混合溶媒は、前記極性有機溶剤と前記水との前記重量比率が3.3:6.7〜3.5:6.5である請求項1に記載の金属表面処理液。
- 前記混合溶媒100重量部に対して、0.8〜3.3重量部のナトリウムイオン及び/又はリチウムイオンを含有する請求項1〜3の何れか一項に記載の金属表面処理液。
- 前記含有されるナトリウムイオンとリチウムイオンのモル比が、50:50〜2:98である請求項4に記載の金属表面処理液。
- 前記混合溶媒100重量部に対して、
0.2〜0.5重量部のリン酸イオンと、
0.5〜0.7重量部の亜鉛イオンとを含有する請求項1〜5の何れか一項に記載の金属表面処理液。 - 前記混合溶媒100重量部に対して、
0.09〜0.23重量部のニッケルイオンを含有する請求項1〜6の何れか一項に記載の金属表面処理液。 - 前記混合溶媒100重量部に対して、
0.03〜0.16重量部のマンガンイオンを含有する請求項1〜7の何れか一項に記載の金属表面処理液。 - 前記混合溶媒100重量部に対して、
0.8〜3.3重量部のナトリウムイオン及び/又はリチウムイオン、
0.2〜0.5重量部のリン酸イオン、
0.5〜0.7重量部の亜鉛イオン、
0.09〜0.23重量部のニッケルイオン、
0.03〜0.16重量部のマンガンイオン、
3.5〜10.8重量部の硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオン、
を少なくとも含有する請求項1〜3の何れか一項に記載の金属表面処理液。 - 前記含有されるナトリウムイオンとリチウムイオンのモル比が、50:50〜2:98である請求項9に記載の金属表面処理液。
- 前記含有されるナトリウムイオンとリチウムイオンのモル比が、40:60〜10:90である請求項9に記載の金属表面処理液。
- 前記含有されるナトリウムイオンとリチウムイオンのモル比が、30:70〜20:80である請求項9に記載の金属表面処理液。
- 前記請求項1〜請求項12の何れか一項に記載の金属表面処理液を用いて、
40℃〜60℃の温度であって、3分以上の時間で、金属の表面にリン酸亜鉛化成被膜を形成させる金属表面処理方法。 - 極性有機溶剤と水との重量比率が2.8:7.2〜3.8:6.2である混合溶媒100重量部に対して、ナトリウムイオン及び/又はリチウムイオン、リン酸イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを少なくとも含有する金属表面処理液を用いて、金属板表面の油分を除去する工程、これを水洗する工程、表面の化成皮膜を緻密化させる工程、リン酸亜鉛被膜を形成させる工程を一槽一工程で行う金属表面処理方法。
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