JP4299507B2 - 耐赤スケール性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼材 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、ガソリン,軽油,灯油,都市ガス,LPGなどの各種燃料を用いた内燃機関の排ガス経路部材,熱交換器部材や、燃料電池の改質器,熱交換器およびガス配管等、高温の低酸素もしくは無酸素での水蒸気酸化雰囲気中で使用される機器に使用される耐赤スケール性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、石油を代表とする化石燃料の枯渇化、CO2排出による地球温暖化現象等の問題から、発電システムや駆動システム等において熱エネルギー利用の効率化が重要視されている。そして、火力発電や原子力発電に代わる新しい発電システムとして、あるいは自動車などの動力源として、クリーンな発電システムである固体高分子型燃料電池(PEFC),固体酸化物型燃料電池(SOFC),溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)などの燃料電池システムが注目を浴びている。これらの燃料電池では、水素を供給するための燃料として天然ガスやガソリン,メタノール等を用い、これらを300〜1000℃程度の温度で改質器により改質している。また、固体酸化物型燃料電池(SOFC)および溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)の作動温度はそれぞれ700〜1000℃,650℃程度と高い。このため、これらの熱源から発生する余剰熱や、高温改質器を経由した燃料の熱を熱交換器を用いることにより有効利用して、燃料電池のシステム全体としてのエネルギー効率を高めている。
これらの改質器や熱交換器、ガス配管等の燃料電池周辺機器用の材料としては、SUS304,SUS316Lなどのオーステナイト系ステンレス鋼が使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、燃料電池では、天然ガスやガソリン等を400〜1000℃程度で水素に変換(改質)して燃料として使用しているので、改質器の雰囲気ガス中には、数%から、条件によっては100%に近い水蒸気が含まれていることになる。
このような温度、雰囲気では通常の大気雰囲気よりも厳しい酸化環境となっているので、厳しい酸化環境で使用される機器を構成する材料としては、高温水蒸気を含む気体に対して化学的に安定で、スケールが形成されても剥離し難い特性が要求される。この点、現在使用されているSUS304,SUS316レベルのステンレス鋼では必ずしも十分とは言えない。
【0004】
そこで、SUS310SやIN800系,IN600系のように、耐水蒸気酸化性に優れた高Cr高Niステンレス鋼や、Fe基あるいはNi基の高合金が使用されようとしている。しかし、これらの高合金の使用はコスト高につながるばかりでなく、高合金は、加工性,溶接性の点で劣るので、適用できる部位は単純な形状のものに限られる。
しかも、燃料電池の燃料が通過する改質器や熱交換器等の部位では、O2濃度が10%以下,水蒸気濃度が20%以上の雰囲気で、温度が600〜800℃に達する箇所がある。そのような部位では、SUS310SやIN800のような高合金鋼を使用しても、Feリッチな酸化物、いわゆる“赤スケール”が発生し、短期間でスケール剥離を伴った加速度的な酸化が生じる。
【0005】
赤スケールが発生すると、熱交換器等の器材の肉減りが生じるとともに、剥離したスケールにより、熱交換器や改質器などの燃料電池周辺機器で目詰まりが生じ、機器の性能低下や故障の原因となる可能性がある。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、Cr含有量をさほど多くせずに加工性,溶接性を確保するとともに、高温水蒸気含有雰囲気での耐赤スケール性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼材を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の耐赤スケール性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼材は、その目的を達成するため、質量%において、C:0.08%以下,Mn:2.0%以下,Ni:7.0〜18.0%,Cr:15.0〜26.0%,Ca:0.005〜0.1%,SiおよびAl:合計量で4.0超〜6.0%且つSiが3.11以上,N:0.002〜0.3%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0007】
【実施の態様】
ステンレス鋼では、Cr含有量を多くして耐酸化性を高めるとともに耐水蒸気酸化性を高めている。600〜800℃ではCrの拡散速度が遅く、Crの酸化物保護皮膜が生成される前に保護機能のないFeの酸化物が先に生成されてしまう。
これを防止するためには、Crと複合酸化物を形成し保護酸化物皮膜を安定化させるSiおよび/またはAlを添加し、Cr,Siおよび/またはAlの複合酸化物皮膜を早期にステンレス鋼表面に形成させて、Feの外方拡散を抑制,防止することが有効であると言われている。
【0008】
しかしながら、微量のSiおよび/またはAlを含有させた通常の焼鈍・酸洗材では上記Feの外方拡散を抑制,防止することができず、赤スケールの発生を防止できない。
そこで、本発明者等は、通常の最終焼鈍後、もしくは最終焼鈍酸洗後に表面に機械研磨を施すことにより、鋼の最表面層に多数の転位,すべり帯を導入し、この転位,すべり帯を拡散経路として利用することにより、表層へのCr,Siおよび/またはAlの拡散速度を大きくして表層でのCr,Siおよび/またはAlの複合酸化物皮膜を早急に形成させたものである。Cr,Siおよび/またはAlの複合酸化物皮膜を先に形成することにより、Feの酸化物を主成分とする赤スケールの生成を防止できたと考えられる。
【0009】
なお、表面研磨法を採用する場合、Siおよび/またはAlの含有量が1.0〜4.0%で充分である。転位やすべり帯からの拡散速度はSiやAlの方がCr,Feよりも大きく、より迅速に表面層に到達してCrと複合酸化物保護皮膜を形成し、Feの外方拡散を抑制するものと考えられる。Siおよび/またはAlの含有量が1.0%に満たない鋼では、たとえ12.5%程度のCrを含有し、かつ機械研磨を表層に施していたとしても、表層でのSiおよび/またはAlの量が少なく、Crの拡散のみではFeを主体とする酸化物形成を抑制できるほどの酸化物膜は形成できないと推察され、赤スケールの生成は防止できない。
【0010】
希土類元素(REM)およびCaはCr酸化物皮膜中に固溶し、皮膜を安定化するとともに、スケール密着性を高める。これらの元素を含有していない場合には、Siおよび/またはAl濃度が4.0%を超えるとスケールと母材の熱膨張の差が大きくなりすぎてスケール剥離が生じやすくなる。
しかし、これらの元素を添加することによりスケールの密着性が高まり、合計で4.0%を超えるSiおよび/またはAlを含有させた鋼種でもスケール剥離を生じることなく、良好な耐水蒸気酸化性を有するようになる。
なお、Siおよび/またはAlを合計で4.0%を超えて含有させた鋼種にさらにREM,Caを添加した場合には、表面研磨しなくても必要な耐水蒸気酸化性を有する鋼が得られる。研磨により生成した転位,すべり帯を経由せずとも、表面に複合酸化物皮膜を形成するに十分な量のSiおよび/またはAlが存在するためと推察される。
【0011】
以下、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼に含まれる合金成分および含有量について詳しく説明する。なお、以下の説明中、各元素の含有量を示す「%」は特に断りがない限り「質量%」を示す。
C:0.08%以下
Cは、一般的には高温強度等の高温特性に有効な合金成分とされているが、含有量が多くなると耐食性,耐酸化性,加工性,靭性等が低下する。特にCが多量に含まれていると、炭化物が多くなって成形性を低下させることになるので、C含有量の上限は0.08%に設定した。
【0012】
Mn:2.0%以下
オーステナイト系ステンレス鋼の高温酸化特性,なかでもスケール剥離性の改善に有効な合金成分である。しかし、Mnの過剰添加によって冷却後にマルテンサイト相が生成しやすく、加工性を劣化させることにもなるので、Mn含有量の上限は2.0%に設定した。
【0013】
Ni:7.0〜18.0%
オーステナイト系ステンレス鋼に含まれる基本成分であり、オーステナイト相を安定化させるため7.0〜18.0%含有させる。7.0%に満たないとδフェライト相が過剰に生成しやすくなり、溶接性および熱間加工性が低下する。逆に18.0%を超えると鋼を完全オーステナイト組織にするため、結果として熱間加工性や溶接性が低下する。また、Ni添加量を多くすることは鋼材コストの面からも好ましくない。
【0014】
Cr:15.0〜26.0%
フェライト相を安定させると共に、高温用途で重視される耐水蒸気酸化性や高温強度の改善に不可欠な合金成分である。高温での耐水蒸気酸化性の確保のためには少なくとも15.0%の含有が必要である。また、Crが多くなるほど耐熱性や耐食性、耐水蒸気酸化性は向上するが、過剰量の添加は、鋼材を脆化し、硬質化に起因して加工性が劣化する。したがって、Cr含有量の上限は26.0%に設定した。
【0015】
SiおよびAl:4.0超〜6.0%
Si,Alは、ステンレス鋼表面にCrと複合酸化物皮膜を形成して耐水蒸気酸化性の改善に非常に有効な合金成分である。Si,Alのそれぞれを単独、もしくは複合で添加することにより上記各作用は発現する。
それらの作用を発揮させるためには1.0%以上の添加が必要である。しかし、Si,Alの過剰添加は、硬さを上昇させ,加工性及び靭性を劣化させる原因となる。したがって、Siおよび/またはAl合計含有量の上限を6.0%に設定した。なお、含有量が1.0〜4.0%の範囲の場合には、前記したように表面研磨を必要とする。また、4.0%を超える場合には、表面研磨は必要としないが、スケールと母材の熱膨張の差が大きくなりすぎてスケールが剥離しやすくなるので、スケール密着性を良くするために、後記のREM,Ca添加の併用を必要とする。
【0016】
N:0.002〜0.3%
Nは、Cと同様、一般的には高温強度等の高温特性に有効な合金成分とされている。このような効果を発揮させるためには0.002%以上の含有が必要であるが、含有量が多くなると耐食性,耐酸化性,加工性,靭性等が低下する。特にNが多量に含まれていると、窒化物が多くなって成形性を低下させることになるので、N含有量の上限は0.3%とした。
【0017】
REM ,Caの1種以上:0.005〜0.1%
Yを含めたLa,Ceなどの希土類元素(REM)およびCaは、ステンレス鋼の耐水蒸気酸化性,スケール密着性を著しく向上させる作用を有している。この作用を発揮させるには少なくとも0.005%含有させることが望ましい。しかし、過剰の添加は加工性劣化の原因になるので、REMあるいはCaを添加する場合にはその上限を0.1%にする。
【0018】
Nb,Ti,V:0.01〜1.0%
Nb,Ti,Vはステンレス鋼の高温強度を向上させ、熱疲労特性を改善する作用を有している。
Nb,Ti,VはC,Nと炭窒化物を形成し、耐粒界腐食性を向上させるとともに、残部の固溶量の増大に伴い強度を向上させる。その効果を発揮させるには、それぞれ少なくとも0.01%の含有が必要である。加えてNb,Ti,Vには、適量添加によりAl含有ステンレス鋼の耐高温酸化性,スケール密着性を向上させる効果もある。しかし、過剰量のNb,Ti,Vの添加は、析出物を多量に生成させて靭性低下に繋がるので、それらの含有量の上限は1.0%に設定した。
【0019】
Cu:0.2〜4.0%、Mo:0.2〜3.0%
CuおよびMoはマトリックス中に固溶して鋼材の高温強度を向上させる作用を有する。その効果を得るためには少なくとも0.2%添加する必要がある。しかし、過剰量の添加は、鋼材コストの上昇を招くばかりでなく,熱間加工性を低下させる原因となる。そのため、Cuを添加する場合には、その上限は4.0%に、Moを添加する場合には、その上限を3.0%に設定する。
【0020】
オーステナイト系ステンレス鋼に含まれる他の成分は、本発明では特に規定されるものではないが、一般的な不純物元素であるO,Sn,Pb等は可能な限り低減することが好ましい。より好ましくは、Oの上限を0.02%,SnおよびPbの上限を0.1%に設定するが、これら成分の上限を更に厳密に規制することによって熱間加工性や溶接性が一段と高いレベルに維持される。また、熱間加工性や靭性および/または強度の改善に有効な元素として知られているMg,B,Co,Ta,W,Re等の成分に関しては、本発明では特に規定されるものではなく、必要に応じて適宜添加することも可能である。
【0021】
次に、本発明の特徴の一つである表面研磨に付いて説明する。
上記したように、最表面にCrとSiおよび/またはAlとの複合酸化物を形成させてFeを主体とする酸化物の形成を抑制するためには、最表面へのSiおよび/またはAlの拡散速度を大きくすることが有効である。
本発明では、その拡散速度を大きくするために、機械研磨処理を施すことにより鋼の表面に導入した多数の転位,すべり帯を利用したものである。
本発明で規定する機械研磨とは、研磨材,研磨砥石,研磨布を用い、装置または人手を用いて機械的に行うベルト研磨,グラインダー研磨,手研磨,バフ研磨などの乾式、または湿式の機械研磨はもちろん、広い意味で研削やショットブラストも含まれる。表面粗さについては、研磨の目的が、バルク表層から数μm〜数10μm程度、もしくはそれ以上の深さまで研磨歪みを与え、Si,Alの拡散経路となる転位、すべり帯を形成させることにあるから、その目的を達成されるように調整する必要がある。この目的はRaが400μm以下となる通常の研磨仕上げを施すことで達成される。なお、粗い番手の研磨を施す方が歪みの点で有利となるため、Raが0.01μm以上となるような機械研磨を施すことにより、表層数μm〜数10μm程度以上の深さまで確実に研磨歪みを与えることができる。
【0022】
【実施例】
表1の組成をもつ各オーステナイト系ステンレス鋼を、30kg真空溶解炉で溶製し、厚み40mmのスラブに切り出し、1250℃で2時間加熱した後、板厚4.5mmまで熱延した。その後焼鈍と冷延、酸洗を繰り返して最終的に冷延焼鈍酸洗板(JIS G0203の5346で規定されるNo.2D仕上)を作製した。
また、一部の冷延焼鈍酸洗板については、エメリー紙を使用して#120まで乾式研磨(JIS G0203の5351で規定されるHL仕上)を施した。なお、HL仕上を施した試験片のRaは0.25μmであった。
【0023】
各冷延焼鈍板について、耐水蒸気酸化性と加工性の評価を行った。
耐水蒸気酸化性は、供試材を25mm×35mmに切り出して酸化試験片とし、燃料電池の改質器,熱交換器の環境を想定した次の2つの雰囲気条件に露点を調整した電気炉にて、800℃×200時間の水蒸気酸化試験で評価した。
▲1▼ 改質器前の燃料が通過する熱交換器,改質器入り側を想定した環境である、85%H2O−15%CH4の雰囲気。
▲2▼ 改質器出側,改質後の燃料が通過する熱交換器,配管等を想定した環境である、30%H2O−50%H2−15%CO2−5%O2の雰囲気。
試験後に酸化増量を測定し、良好な耐水蒸気酸化性を有する鋼の重量増加の基準を0.3mg/cm2にし、それ以下を○、0.3mg/cm2を超えるものを×とした。なお、スケール剥離が発生していたものは(*)とした。
それらの試験結果を表2に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
【0026】
表2に示した結果からもわかるように、所定量のNi,Crと、合計で4.0%を超えるSiおよび/またはAlを含有させ、しかも所定量のREM,Caを含有させた試験No.1,2の試料では何れの環境でも赤スケールは発生しておらず十分な耐水蒸気酸化性を有している。
Siおよび/またはAl含有量が合計で1.0〜4.0%の試験No.3〜9の試料では、表面研磨を行わないと耐水蒸気酸化性に劣る(厳しい条件ではスケール剥離も発生している)のに対して、機械研磨を施すと十分な耐水蒸気酸化性を示している。これは、機械研磨により最表面へのSiおよび/またはAlの拡散・供給が十分になされて複合酸化物保護皮膜が形成されたためと推測される。
一方、Siおよび/またはAlの含有量が合計で1.0に満たない試験No.10,11および13,14、Si含有量が4.0%を超えていてもREM,Caを含有していない試験No.12の試料では、赤スケールが発生(No.12の試料ではスケール剥離も発生)し、耐水蒸気酸化性は十分ではなかった。機械研磨処理の効果もなかった。
【0027】
【発明の効果】
以上に説明したように、C:0.08%以下,Ni:7.0〜18.0%,Cr:15.0〜26.0%を含むオーステナイト系ステンレス鋼において、Siおよび/またはAlを合計量で1.0〜4.0%を含有させ、その表面を研磨仕上げすることにより、表面に十分な複合酸化物保護皮膜を形成するに足る元素を供給することができて、高温の水蒸気雰囲気に曝しても、赤スケールを発生することがない鋼材を得ることができる。
また、Siおよび/またはAlの合計量を4.0超〜6.0%に増やし、併せて所定量のREMおよび/またはCaを含有させれば、研磨仕上げすることなく、表面に十分な複合酸化物保護皮膜を形成するに足る元素を供給することができて、耐水蒸気酸化性に優れ、赤スケールを発生することがない鋼材を得ることができる。
したがって、燃料電池の熱交換器,改質器,ガス配管等の他、水素製造・改質プラントおよびその周辺機器、さらには、ガソリン,軽油,灯油,都市ガス,LPGなどの各種燃料を用いた内燃機関の排ガス経路部材,熱交換器部材等、水蒸気酸化が起こって赤スケールが発生しやすい環境で使用される部材として好適な材料を提供できる。
Claims (1)
- 質量%において、C:0.08%以下,Mn:2.0%以下,Ni:7.0〜18.0%,Cr:15.0〜26.0%,Ca:0.005〜0.1%,SiおよびAl:合計量で4.0超〜6.0%且つSiが3.11以上,N:0.002〜0.3%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする耐赤スケール性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼材。
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