従来のステレオマイクロホン装置は、特性の揃った2個の単一指向性ECM(Electret Condenser Microphone)をそれぞれ左右方向に線対象に角度を振って取付け、左方向に角度を振った単一指向性ECMの出力信号をLチャンネル信号とし、右方向に角度を振った単一指向性ECMの出力信号をRチャンネル信号とするのが一般であった。単一指向性ECMは、その出力自体が自身の向いている方向に指向性を有するため、複数個の単一指向性ECMをそれぞれ角度を振って取付けるだけでステレオマイクロホン装置を容易に実現できる。
しかし、音響的に指向性を実現させるために、単一指向性ECMは、前面及び背面の両方に音孔を有し、背面側の音孔には音響抵抗を持たせることにより、各方向から両音孔に入射する音波のレベル差(音圧差)及び位相差を利用して振動膜の振動自体に指向性を持たせる構造となっている。したがって、振動膜の振動自体に指向性を持たせるためには、音波の伝播に影響がないように単一指向性ECMの周囲に空間を確保する必要があり、単一指向性ECMを例えば吊りゴムにより空間に保持する取付け構造が要求されるため、マイクロホン装置全体としても相応の体積が要求される。よって、単一指向性ECMを用いて構成されたステレオマイクロホン装置を、小型化が要求される例えばビデオカメラのような可搬型記録装置へ搭載することが困難になっていた。
そこで、前面のみに音孔を有する構造の無指向性ECMを2個、左右方向に適当な間隔で配置して、音波の入射方向によって各無指向性ECMに生じる集音信号の時間差を利用し、無指向性ECMの出力信号を互いに電気的に演算処理することにより、左右方向の指向性を得る方式のステレオマイクロホン装置が採用されるようになった(例えば、特許文献1参照)。無指向性ECMによる集音であれば、無指向性ECMの前面以外に空間を設ける必要がないため、無指向性ECMを筐体に埋め込んでしまうような取付けが可能となり、ステレオマイクロホン装置の体積を大幅に削減でき、可搬型記録装置の小型化にも対応可能となった。
このような方式のステレオマイクロホン装置の場合、無指向性ECMの出力信号からステレオ音声信号を生成するための処理が必要であり、この処理はステレオマトリクス処理と呼ばれており、以下に説明する。
図4はステレオマトリクス処理を行う従来のステレオマイクロホン装置の構成を示すブロック図である。図において、1は無指向性の第1ECMであり、2は無指向性の第2ECMであり、第1ECM1及び第2ECM2は間隔Dにて左右に配置されている。第1ECM1及び第2ECM2の出力信号はそれぞれ、アンプ3及びアンプ41にて所定倍率増幅されてステレオマトリクス処理部20に入力される。
ステレオマトリクス処理部20では、アンプ3の出力信号は、そのまま信号3sとして第1減算器21に入力される一方、遅延器22にも入力される。遅延器22の出力信号は減衰器23に入力され、減衰器23の出力信号(信号23s)は第2減算器24に入力される。同様に、アンプ41の出力信号はそのまま信号41sとして第2減算器24に入力される一方、遅延器25にも入力される。遅延器25の出力信号は減衰器26に入力され、減衰器26の出力信号(信号26s)は第1減算器21に入力される。
第1減算器21はアンプ3の出力信号(信号3s)から減衰器26の出力信号(信号26s)を減算し、減算結果の信号を等価器27へ出力する。第2減算器24はアンプ41の出力信号(信号41s)から減算器23の出力信号(信号23s)を減算し、減算結果の信号を等価器28へ出力する。等価器27及び等価器28は、ステレオマトリクス処理によって生じる周波数特性の変化を補正してフラット化する。そして、等価器27の出力信号(信号27s)がLチャンネル信号として得られ、等価器28の出力信号(信号28s)がRチャンネル信号として得られる。
図4に示す従来のステレオマイクロホン装置において、第1ECM1及び第2ECM2の配置間隔がDである場合、遅延器22及び遅延器25の遅延時間は、音波がDの距離だけ進むのに要する時間とほぼ同等に設定されるのが一般的である。この場合のステレオマトリクス処理によるステレオ特性が得られる原理を以下に説明する。なお、ここでは説明を単純化するために、単一周波数の正弦波を用いて説明するものとする(以下、同様とする)。
図5乃至図7はそれぞれ、間隔Dにて配置された第1ECM1及び第2ECM2に対し、感度が共に等しく、左音源、正面音源及び右音源である場合の従来のステレオマイクロホン装置におけるステレオマトリクス処理を説明する説明図である。なお、図5乃至図7においては、上段は音源と、第1ECM1及び第2ECM2との配置関係を示す配置図であり、中段は第1減算器21及び第2減算器24の入力信号の波形を示す波形図であり、下段は等価器27及び等価器28の出力信号の波形を示す波形図であり、波形図においては、横軸は位相、縦軸は信号レベルをそれぞれ示す(以下、同様とする)。
左音源の場合では、音源から遠いRチャンネル信号レベルよりも音源に近いLチャンネル信号レベルの方が高く(図5の下段参照)、正面音源の場合では、Lチャンネル信号レベル及びRチャンネル信号レベルは共に等しく(図6の下段参照)、右音源の場合では、音源から遠いLチャンネル信号レベルよりも音源に近いRチャンネル信号レベルの方が高い(図7の下段参照)。したがって、ステレオマトリクス処理によるステレオ特性が得られていることが分る。
続いて、図4に示す従来のステレオマイクロホン装置において、第1ECM1及び第2ECM2の配置間隔をD/2とした場合のステレオマトリクス処理について説明する。図8乃至図10はそれぞれ、間隔D/2にて配置された第1ECM1及び第2ECM2に対し、感度が共に等しく、左音源、正面音源及び右音源である場合の従来のステレオマイクロホン装置におけるステレオマトリクス処理を説明する説明図である。なお、遅延器22及び遅延器25の遅延時間は、音波がD/2の距離だけ進むのに要する時間とほぼ同等に設定されているものとし、減衰器23及び減衰器26の減衰量は、図5乃至図7の場合と等しいものとする。
図8乃至図10の下段を参照することにより、第1ECM1及び第2ECM2の配置間隔がDの場合と同様、ステレオマトリクス処理によるステレオ特性が得られているものの、第1ECM1及び第2ECM2の配置間隔がD/2と半分に狭まったことで、配置間隔がDの場合と比べて、正面音源に対する両信号レベル及び左右音源に対するステレオ特性が低化していることが分る。
特開平3−131199号公報
以上のような従来のステレオマイクロホン装置においてステレオマトリクス処理を行って良好なステレオ特性を得るためには、無指向性ECMの配置間隔を少なくとも15〜20mm確保することが求められていた。しかも、無指向性ECMの感度は極めて厳しく管理される必要があった。すなわち、ステレオマトリクス処理を行ってステレオ特性を得るためには、図5乃至図10を用いて説明したように、各無指向性ECMの感度が等しい(出力特性が等しい)ことが前提条件として必要であった。しかし、実際の無指向性ECMの感度は極めて量産バラツキが大きいため、実用のためには同一マイクロホンユニットに用いる無指向性ECMには、特性のペアリングを行う必要がある。ところが、ペアリング精度は、同一マイクロホンユニットにおける無指向性ECMの感度差を1.5〜2.0dB以内程度に抑えるのが量産上の限界である。
そこで、図4に示す従来のステレオマイクロホン装置において、第1ECM1及び第2ECM2の感度差を2dBとし、配置間隔をD及びD/2とした場合のステレオマトリクス処理について説明する。図11乃至図13はそれぞれ、間隔Dにて配置された第1ECM1及び第2ECM2に対し、第2ECM2よりも第1ECM1の感度が2dB高く、左音源、正面音源及び右音源である場合の従来のステレオマイクロホン装置におけるステレオマトリクス処理を説明する説明図であり、図14乃至図16はそれぞれ、間隔D/2にて配置された第1ECM1及び第2ECM2に対し、第2ECM2よりも第1ECM1の感度が2dB高く、左音源、正面音源及び右音源である場合の従来のステレオマイクロホン装置におけるステレオマトリクス処理を説明する説明図である。
図11乃至図13の下段を参照することにより、左右の第1ECM1及び第2ECM2の感度差が2dBであるにも関わらず、ステレオマイクロホン装置の出力信号においては、正面音源に対する両信号レベル差が6dB程度に拡大し、左右音源に対するステレオ特性のバランスも大きく崩れることが分る。また、図14乃至図16の下段を参照することにより、配置間隔がDの場合と比べて、正面音源に対する両信号レベル差が更に拡大し、左右音源に対するステレオ特性のバランスの崩れも更に拡大することが分る。
ところで、例えばビデオカメラのような可搬型記録装置の小型化がより一層進むに従って、前述した無指向性ECMの配置間隔を確保することが困難となり、無指向性ECMの配置間隔が10mmを切るレベルまで狭まってきている。図11乃至図16を用いて説明したことからも分るように、用いる無指向性ECMの感度が異なっている場合、無指向性ECMの配置間隔が狭まるにつれ、ステレオマトリクス処理後の出力信号に与える影響度が大きくなる。実際、無指向性ECMの感度差が僅かであっても、10mmを切るような間隔で無指向性ECMを配置した場合、正面音源対するステレオマトリクス処理後の出力信号に5〜6dBもの信号レベル差に拡大する。
以上のことから、ステレオマトリクス処理を行って良好なステレオ特性を得るためには、同一ユニットに用いる無指向性ECMの感度バラツキをゼロに抑えなければならないことが要求されるが、実際には、量産での対応は困難であり、仮に対応できたとしても非常にコスト高になってしまうという問題がある。
そこで、ステレオマイクロホン装置の組込み対象となる機器の生産過程において、無指向性ECM個々の感度バラツキを補正・調整する方法も考えられる。しかし、この方法では実際の音を入力して調整を行う必要があり、しかも、調整用の信号音以外の雑音が入らないように遮音され、周囲からの反射音の影響も受けないような調整環境が要求される。その一例として無響室があるが、機器を(1台ずつ)無響室内に設置して各無指向性ECMの感度を調整することは量産性及びコストに大きな問題があり、特に、量産される民生用機器においては、実質的に対応不可能であるという問題がある。
本発明は斯かる問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、無指向性の第1マイクロホンの出力信号の低域周波数成分と、可変利得アンプを通じて入力される無指向性の第2マイクロホンの出力信号の低域周波数成分とを比較し、比較結果に基づいて、比較される両低域周波数成分のレベルが同一となるように、可変利得アンプの増幅率を制御し、第1マイクロホンの出力信号と、可変利得アンプを通じて入力される第2マイクロホンの出力信号とを互いに減算処理し、減算処理後の信号に基づいてマイクロホンの配置方向の指向性を得ることが可能な構成とすることにより、両マイクロホンの感度バラツキを装置の通常使用上で自動的に第1マイクロホンの感度と一致するように補正することができ、良好なステレオ特性を得ることができるステレオマイクロホン装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、第1マイクロホンの出力信号の低域周波数成分が所定範囲内のレベルであるか否かを判定し、所定範囲内の信号レベルであると判定した場合に、可変利得アンプの増幅率を制御可能な構成とすることにより、集音レベルが適切な場合にのみ自動的に両マイクロホンの感度バラツキを第1マイクロホンの感度と一致するように補正することができるステレオマイクロホン装置を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、第1マイクロホンの出力信号から、可変利得アンプを通じて入力される第2マイクロホンの出力信号を減算し、減算結果の信号の低域周波数成分が所定のレベル以下であるか否かを判定し、所定のレベル以下であると判定した場合に、可変利得アンプの増幅率を制御可能な構成とすることにより、風雑音による両マイクロホンの感度バラツキの補正を制限し、風雑音の増幅を防止することができるステレオマイクロホン装置を提供することにある。
本発明に係るステレオマイクロホン装置は、離隔配置した2個の無指向性のマイクロホンと、第1マイクロホンの出力信号から第2マイクロホンの出力信号を減算する第1減算器と、前記第2マイクロホンの出力信号から前記第1マイクロホンの出力信号を減算する第2減算器とを備え、前記第1減算器及び第2減算器の出力信号に基づいて、マイクロホンの配置方向の指向性を得るステレオマイクロホン装置において、前記第1マイクロホンの出力信号が入力される第1ローパスフィルタと、前記第2マイクロホンの出力信号が入力される可変利得アンプと、該可変利得アンプの出力信号が入力される第2ローパスフィルタと、前記第1ローパスフィルタ及び第2ローパスフィルタの出力信号を比較する比較手段と、該比較手段の比較結果に基づいて、該比較手段にて比較される前記第1ローパスフィルタ及び第2ローパスフィルタの出力信号のレベルが同一となるように、前記可変利得アンプの増幅率を制御する制御手段とを備え、前記第1減算器は、前記第1マイクロホンの出力信号から前記可変利得アンプの出力信号を減算すべくなしてあり、前記第2減算器は、前記可変利得アンプの出力信号から前記第1マイクロホンの出力信号を減算すべくなしてあることを特徴とする。
本発明に係るステレオマイクロホン装置においては、前記第1ローパスフィルタの出力信号が所定範囲内のレベルであるか否かを判定する判定手段を更に備え、該判定手段が所定範囲内のレベルであると判定した場合に、前記制御手段は前記可変利得アンプの増幅率を制御すべくなしてあることを特徴とする。
本発明に係るステレオマイクロホン装置においては、前記第1マイクロホンの出力信号から前記可変利得アンプの出力信号を減算する第3減算器と、該第3減算器の出力信号が入力される第3ローパスフィルタとを更に備え、前記判定手段は、前記第3ローパスフィルタの出力信号が所定のレベル以下であるか否かを判定すべくなしてあり、前記判定手段が所定のレベル以下であると判定した場合に、前記制御手段は前記可変利得アンプの増幅率を制御すべくなしてあることを特徴とする。
本発明に係るステレオマイクロホン装置にあっては、第1ローパスフィルタに無指向性の第1マイクロホンの出力信号が入力され、可変利得アンプに無指向性の第2マイクロホンの出力信号が入力され、第2ローパスフィルタに可変利得アンプの出力信号が入力され、比較手段は第1ローパスフィルタ及び第2ローパスフィルタの出力信号を比較する。
比較手段にて比較する第1ローパスフィルタ及び第2ローパスフィルタの出力信号はそれぞれ、第1マイクロホン及び第2マイクロホンの出力信号の内、中域・高域周波数成分が遮断された低域周波数成分である。このように、比較手段にて比較する信号を、ローパスフィルタを介して無指向性マイクロホンの出力信号から低域周波数成分のみ抽出した信号としているのは次の理由による。すなわち、離隔配置した2個の無指向性のマイクロホンの出力信号は、両マイクロホンの感度が等しい場合、中域・高域周波数成分では、左方向及び右方向からの入射音に対してレベル差及び位相差を生じるが、低域周波数成分になればなるほど、左方向及び右方向からの入射音に対するレベル差及び位相差の発生が少なく、実質的に無視できるレベルとなり、したがっていずれの方向からの入射音に対しても同一の信号であると見なせるからである。言い換えれば、両マイクロホンからの出力信号の内、低域周波数成分に着目することにより、両低域周波数成分が等しい場合は、両マイクロホンの感度が等しく、両低域周波数成分にレベル差が生じている場合は、両マイクロホンの感度が異なるということが分る。つまり、比較手段にて比較する信号は、両マイクロホンの出力信号の低域周波数成分であるため、比較手段では、音波の入射方向に依存せずに両マイクロホン固有の感度差が比較されることになる。
以上のような比較手段の比較結果に基づいて、制御手段は、比較手段にて比較される第1ローパスフィルタ及び第2ローパスフィルタの出力信号(両マイクロホンの出力信号の低域周波数成分)のレベルが同一となるように、可変利得アンプの増幅率を制御する。第1減算器は、第1マイクロホンの出力信号から、増幅率が制御された可変利得アンプの出力信号(可変利得アンプを通じて入力される第2マイクロホンの出力信号)を減算し、第2減算器は、増幅率が制御された可変利得アンプの出力信号(可変利得アンプを通じて入力される第2マイクロホンの出力信号)から、第1マイクロホンの出力信号を減算する。そして、第1減算器及び第2減算器の出力信号に基づいて、マイクロホンの配置方向の指向性を得る。
これにより、両マイクロホンの感度バラツキが、特別な調整環境(例えば無響室)も調整手段も必要とすることなく、装置の通常使用上で自動的に第1マイクロホンの感度と一致するように補正され、良好なステレオ特性が得られる。また、両マイクロホンの感度バラツキが装置の通常使用上で自動的に第1マイクロホンの感度と一致するように補正されるため、用いるマイクロホンに対する事前のペアリングが不要となり、装置の生産効率が向上し、ペアリングに係るコストが削減される。
本発明に係るステレオマイクロホン装置にあっては、判定手段は第1ローパスフィルタの出力信号(第1マイクロホンの出力信号の低域周波数成分)が所定範囲内のレベルであるか否かを判定し、判定手段が所定範囲内のレベルであると判定した場合に、制御手段は可変利得アンプの増幅率を制御する。
これにより、両マイクロホンの感度差が分かり難いほど小さな音、又はひずみが発生する程大きな音を集音している場合を排除して、集音レベルが適切な場合にのみ自動的に両マイクロホンの感度バラツキが第1マイクロホンの感度と一致するように補正される。
本発明に係るステレオマイクロホン装置にあっては、第3減算器は、第1マイクロホンの出力信号から、可変利得アンプの出力信号(可変利得アンプを通じて入力される第2マイクロホンの出力信号)を減算し、第3ローパスフィルタに第3減算器の出力信号が入力される。判定手段は第3ローパスフィルタの出力信号(第3減算器による減算結果の信号の低域周波数成分)が所定のレベル以下であるか否かを判定し、判定手段が所定のレベル以下であると判定した場合に、制御手段は可変利得アンプの増幅率を制御する。
以上において、判定手段にて判定する信号を、第1マイクロホンの出力信号から、可変利得アンプを通じて入力される第2マイクロホンの出力信号を減算し、更に減算結果の信号からローパスフィルタを介して低域周波数成分のみ抽出した信号としているのは次の理由による。すなわち、離隔配置した2個の無指向性のマイクロホンは、音信号を出力するだけでなく、風が当ることによって振動膜が揺すられて発生する風雑音も信号として出力する。風雑音は、マイクロホンの配置間隔に依存せず、相関性のない信号として出力されるため、音信号とは異なり、両マイクロホンの出力信号に大きなレベル差が生じるためであり、しかも、風雑音の周波数成分は低域に集中しているためである。
このように、無指向性のマイクロホンの風雑音に対する特有の出力特性を、可変利得アンプの増幅率を制御するか否かのしきい値として設定しているため、風雑音による両マイクロホンの感度バラツキの補正が制限され、風雑音の増幅が防止される。
本発明によれば、無指向性の第1マイクロホンの出力信号の低域周波数成分と、可変利得アンプを通じて入力される無指向性の第2マイクロホンの出力信号の低域周波数成分とを比較し、比較結果に基づいて、比較される両低域周波数成分のレベルが同一となるように、可変利得アンプの増幅率を制御し、第1マイクロホンの出力信号と、可変利得アンプを通じて入力される第2マイクロホンの出力信号とを互いに減算処理し、減算処理後の信号に基づいてマイクロホンの配置方向の指向性を得る。
これにより、両マイクロホンの感度バラツキを、特別な調整環境(例えば無響室)も調整手段も必要とすることなく、装置の通常使用上で自動的に第1マイクロホンの感度と一致するように補正することができ、良好なステレオ特性を得ることができる。また、両マイクロホンの感度バラツキを装置の通常使用上で自動的に第1マイクロホンの感度と一致するように補正することができるため、用いるマイクロホンに対する事前のペアリングを不要とすることができ、装置の生産効率を向上することができ、ペアリングに係るコストを削減することができる。
しかも、両マイクロホンの感度バラツキを装置の通常使用上で自動的に第1マイクロホンの感度と一致するように補正することができるため、本発明のステレオマイクロホン装置を別の機器に組込む場合においても、機器の生産過程における前述したような無響室での両マイクロホンの感度調整を不要とすることができ、機器の量産性及びコストに問題を与えることがない。よって、特に量産される民生用機器、それも小型化が要求される可搬型の民生用機器(例えばビデオカメラ)への本発明のステレオマイクロホン装置の搭載を可能とすることができ、本発明のステレオマイクロホン装置の汎用性を高めることができる。
また、本発明によれば、第1マイクロホンの出力信号の低域周波数成分が所定範囲内のレベルであると判定した場合に、可変利得アンプの増幅率を制御する。これにより、両マイクロホンの感度差が分かり難いほど小さな音、又はひずみが発生する程大きな音を集音している場合を排除して、集音レベルが適切な場合にのみ自動的に両マイクロホンの感度バラツキを第1マイクロホンの感度と一致するように補正することができる。
更に、本発明によれば、第1マイクロホンの出力信号から、可変利得アンプを通じて入力される第2マイクロホンの出力信号を減算し、減算結果の信号の低域周波数成分が所定のレベル以下であると判定した場合に、可変利得アンプの増幅率を制御する。これにより、風雑音による両マイクロホンの感度バラツキの補正を制限することができ、風雑音の増幅を防止することができる。
以下に、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳細に説明する。図1はステレオマトリクス処理を行う本発明のステレオマイクロホン装置の構成を示すブロック図である。図において、1は無指向性の第1ECMであり、2は無指向性の第2ECMであり、第1ECM1及び第2ECM2は間隔Dにて左右に配置されている。
第1ECM1が音波を検出して得られる第1ECM1の出力信号は、アンプ3に入力される。アンプ3は、増幅率が一定であり、第1ECM1の出力信号を所定倍率増幅する。アンプ3の出力信号は第1ローパスフィルタ5(以下、第1LPF5という)に入力される。
第1LPF5は、カットオフ周波数が500Hzであり、アンプ3により所定倍率増幅された第1ECM1の出力信号から500Hz以下の低域周波数成分を抽出する。第1LPF5の出力信号、すなわち第1LPF5が抽出した第1ECM1の出力信号の低域周波数成分は、検波器6に入力される。検波器6は、第1LPF5から入力された低域周波数成分のレベルに応じて、低域周波数成分を直流電圧成分に変換する。検波器6が変換した直流電圧成分は比較器7及びレベル判定部8に入力される。なお、検波器6に所望の時定数を設けることにより、後述する可変利得アンプ4の増幅率の制御が例えば突発的な単発音に敏感に応答しないようにする効果が得られる。
第2ECM2が音波を検出して得られる第2ECM2の出力信号は、可変利得アンプ4に入力される。可変利得アンプ4は、例えば電圧制御型可変利得アンプからなり、増幅率が可変であり、後述する比較器出力保持部12の制御に基づいて、第2ECM2の出力信号を任意倍率増幅する。可変利得アンプ4の出力信号は第2ローパスフィルタ9(以下、第2LPF9という)に入力される。
第2LPF9は、第1LPF5と同様、カットオフ周波数が500Hzであり、可変利得アンプ4により任意倍率増幅された第2ECM2の出力信号から500Hz以下の低域周波数成分を抽出する。第2LPF9の出力信号、すなわち第2LPF9が抽出した第2ECM2の出力信号の低域周波数成分は、検波器10に入力される。検波器10は、第2LPF9から入力された低域周波数成分のレベルに応じて、低域周波数成分を直流電圧成分に変換する。検波器10が変換した直流電圧成分は比較器7に入力される。なお、検波器10に所望の時定数を設けることにより、後述する可変利得アンプ4の増幅率の制御が例えば突発的な単発音に敏感に応答しないようにする効果が得られる。
比較器7は、オペアンプを用いた比較器であり、検波器10の出力信号が、基準信号としての検波器6の出力信号以上であるか否かを比較し、比較した結果、検波器6の出力信号以上であった場合は正の電圧値の信号を出力し、検波器6の出力信号未満であった場合は負の電圧値の信号を出力する。比較器7が出力した正又は負の電圧値の信号は、遅延器11に入力される。遅延器11は、比較器7から入力された信号を、予め設定された時間だけ遅延して比較器出力保持部12に出力する。
アンプ3及び可変利得アンプ4の出力信号はまた、第3減算器13にも入力される。第3減算器13は、アンプ3の出力信号から可変利得アンプ4の出力信号を減算し、減算結果の信号を出力する。第3減算器13の出力信号は、第3ローパスフィルタ14(以下、第3LPF14という)に入力される。第3LPF14は、カットオフ周波数が100Hzであり、第3減算器13の出力信号から100Hz以下の低域周波数成分を抽出する。第3LPF14の出力信号、すなわち第3LPF14が抽出した第3減算器13の出力信号の低域周波数成分は、検波器15に入力される。検波器15は、第3LPF14から入力された低域周波数成分のレベルに応じて、低域周波数成分を直流電圧成分に変換する。検波器15が変換した直流電圧成分はレベル判定部8に入力される。
レベル判定部8は、検波器6の出力信号が予め設定された所定範囲内のレベルであるか否かを判定し、所定範囲内のレベルでないと判定した場合に、検波器6の出力信号が所定範囲外のレベルであることを通知するための信号を比較器出力保持部12に出力する(割り込み)。レベル判定部8はまた、検波器15の出力信号が予め設定された所定のレベル以下であるか否かを判定し、所定のレベル以下でないと判定した場合に、検波器15の出力信号が所定のレベルを上回ることを通知するための信号を比較器出力保持部12に出力する(割り込み)。
比較器出力保持部12は、遅延器11を通じて入力される比較器7の正又は負の電圧値の信号をそのまま可変利得アンプ4に出力する。ただし、比較器出力保持部12は、レベル判定部8から信号が入力された場合(割り込みがあった場合)は、比較器7の正又は負の電圧値の信号を可変利得アンプ4に出力することなく、レベル判定部8から信号が入力された時点の比較器7の正又は負の電圧値の信号を保持し、レベル判定部8から信号が入力されなくなった場合は、保持していた比較器7の正又は負の電圧値を可変利得アンプ4に出力する。
可変利得アンプ4は、比較器出力保持部12から、比較器7の正の電圧値の信号が入力された場合は、第2ECM2の出力信号を減少すべく増幅率を減少し、比較器7の負の電圧値の信号が入力された場合は、第2ECM2の出力信号を増加すべく増幅率を増加する。よって、比較器出力保持部12は可変利得アンプ4の増幅率を制御するための制御手段として動作する。これにより、第2ECM2の出力信号が第1ECM1の出力信号と同一レベルになるように制御される。
アンプ3及び可変利得アンプ4の出力信号はまた、ステレオマトリクス処理部20にも入力される。ステレオマトリクス処理部20では、アンプ3の出力信号は、そのまま信号3sとして第1減算器21に入力される一方、遅延器22にも入力される。遅延器22はアンプ3の出力信号を時間tだけ遅延して減衰器23に出力する。なお、時間tは音波がDの距離(Dは第1ECM1及び第2ECM2の配置間隔)だけ進むのに要する時間とほぼ同等に設定されている。減衰器23の出力信号(信号23s)は第2減算器24に入力される。
同様に、ステレオマトリクス処理部20では、可変利得アンプ4の出力信号は、そのまま信号4sとして第2減算器24に入力される一方、遅延器25にも入力される。遅延器25は可変利得アンプ4の出力信号を時間tだけ遅延して減衰器26に出力する。減衰器26の出力信号(信号26s)は第1減算器21に入力される。
第1減算器21はアンプ3の出力信号(信号3s)から減衰器26の出力信号(信号26s)を減算し、減算結果の信号を等価器27へ出力する。第2減算器24は可変利得アンプ4の出力信号(信号4s)から減算器23の出力信号(信号23s)を減算し、減算結果の信号を等価器28へ出力する。等価器27及び等価器28は、ステレオマトリクス処理によって生じる周波数特性の変化を補正してフラット化する。そして、等価器27の出力信号(信号27s)がLチャンネル信号として得られ、等価器28の出力信号(信号28s)がRチャンネル信号として得られる。
以上の如き構成のステレオマイクロホン装置における可変利得アンプ4の増幅率の制御に係る動作を図2及び図3のフローチャートを参照しながら以下に説明する。
まず、比較器7は検波器6及び検波器10の出力信号を比較し(S1)、比較結果の信号を遅延器11を通じて比較器出力保持部12へ出力する。比較結果の信号は具体的には、検波器10の出力信号が、検波器6の出力信号以上であった場合は正の電圧値の信号であり、検波器6の出力信号未満であった場合は負の電圧値の信号である。次に、比較器出力保持部12は、比較器7の比較結果の信号を可変利得アンプ4へ出力する(S2)。
可変利得アンプ4は、比較器出力保持部12から入力された比較器7の比較結果の信号に基づいて、増幅率を変更し(S3)、リターンする。具体的には、可変利得アンプ4は、正の電圧値の信号の信号が入力された場合は、入力される第2ECM2の出力信号を減少すべく増幅率を減少し、負の電圧値の信号が入力された場合は、入力される第2ECM2の出力信号を増加すべく増幅率を増加する。
以上の可変利得アンプ4の増幅率制御の動作に並行して、レベル判定部8は、検波器6の出力信号が所定範囲内のレベルであるか否か、かつ検波器15の出力信号が所定のレベル以下であるか否かを判定し、検波器6の出力信号が所定範囲内のレベルでない、かつ/又は検波器15の出力信号が所定のレベル以下でないと判定した場合には、信号を出力して比較器出力保持部12に割り込みをかける。
比較器出力保持部12は、レベル判定部8から割り込みがかかった場合、割り込みがかかった時点において入力された比較器7の比較結果の信号を、可変利得アンプ4へ出力することなく保持する(S4)。そうすると、可変利得アンプ4は、比較器出力保持部12から比較器7の比較結果の信号が入力されないため、該信号が入力されなくなった時点の増幅率に固定し(S5)、リターンする。
以上のような可変利得アンプ4の増幅率制御の動作により、本発明のステレオマイクロホン装置は、第1ECM1及び第2ECM2に感度差があろうとも、第2ECM2の感度が装置の通常使用上で自動的に第1ECM1の感度と一致するように補正され、信号41sを信号4sに置換することにより、図5乃至図7を用いて説明したような良好なステレオ特性を得ることができ、更に、第1ECM1及び第2ECM2の配置間隔をDからD/2へ変更した場合でも、同様に信号41sを信号4sに置換することにより、図8乃至図10を用いて説明したような良好なステレオ特性を得ることができる。
また、本発明のステレオマイクロホン装置は、レベル判定部8にて検波器6の出力信号が所定範囲内のレベルであるか否かを判定し、所定範囲内のレベルでないと判定した場合には、信号を出力して比較器出力保持部12に割り込みをかけ、可変利得アンプ4の増幅率を固定しているため、第1ECM1及び第2ECM2のマイクロホンの感度差が分かり難いほど小さな音、又はひずみが発生する程大きな音を集音している場合、すなわち第1LPF5の出力信号が検波器6のカバーレンジ外である場合を排除して、集音レベルが適切な場合にのみ第2ECM2の感度を装置の通常使用上で自動的に第1ECM1の感度と一致するように補正することができる。
また、本発明のステレオマイクロホン装置は、レベル判定部8にて検波器15の出力信号が所定のレベル以下であるか否かを判定し、所定のレベル以下でないと判定した場合には、信号を出力して比較器出力保持部12に割り込みをかけ、可変利得アンプ4の増幅率を固定しているため、風雑音による第1ECM1及び第2ECM2の感度バラツキの補正を制限し、風雑音の増幅を防止することができる。
なお、前述した実施の形態においては、本発明のステレオマイクロホン装置を2個の無指向性のマイクロホンを用いてステレオマトリクス処理する構成としたが、3個以上の無指向性のマイクロホンを用いてステレオマトリクス処理する場合にも適用することができる。