JP4291477B2 - 有機アミノポリカルボン酸含有工業廃液の処理方法 - Google Patents

有機アミノポリカルボン酸含有工業廃液の処理方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、各種工業で多量に使用されている有機アミノポリカルボン酸類(例えばエチレンジアミン四酢酸:以下EDTAという)を含む廃水の無害化方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
EDTAなどの有機アミノカルボン酸類は、主に紙(漂白)、繊維(染色助剤)、石鹸合成洗剤等の洗剤、ボイラーや機械金属表面及びガラス表面等を洗浄する洗浄剤、メッキ、写真及びその処理液、化粧品、食品(安定剤)、薬品(安定剤)、合成ゴム(重合剤)、塩化ビニル樹脂(熱安定剤)などの多岐に渡る分野で使用されており、これらの工場廃水、廃液等はそのままでは自然界に放流できないため、何らかの廃液の無害化処理が施されている。
廃液の無害化処理としては、例えば活性汚泥法等の微生物を利用した生物学的方法や濾過、凝集、沈降、浮上泡沫、フローテーション等による固形分除去、曝気、冷却、冷凍、蒸留、吸着、イオン交換、電気透析、逆浸透、中和、酸化還元、沈澱生成等による溶解分の除去等の物理化学的処理が知られている。
廃液処理の設備費、運転費を考慮した場合、上記の方法の中では生物学的方法が最も有利である。しかしながら、一般にEDTA等の有機アミノカルボン酸類は、生物的に難分解であり、これらを含む廃液を通常の活性汚泥法のみで完全に無害化することはできなかった。
【0003】
EDTAを生分解する技術としては、特開昭58−43782号に記載のシュードモナス属やアルカリゲネス属を用いた方法、Applid And Environmental Microbiology vol.56,p.3346-3353(1990)に記載のアグロバクテリウム属の菌種等を用いた方法、Applid And Environmental Microbiology vol.58, No.2, Feb. 1992, p.671-676に記載のGram-negative isolate を用いた方法が提案されている。しかしながら、これらに記載の方法では、安定に、かつ高い分解効率、短い分解時間で行なうことはできなかった。
これに対して、本件出願人は、特開平6-261771号公報、特開平6-296996号公報及び特開平6-335385号公報に記載の発明を完成し、これに種々の金属の有機アミノポリカルボン酸錯体を分解することができた。しかしながら、Cu、Ni、Cr、Sn及びZnからなる群から選ばれる金属の有機アミノポリカルボン酸錯体を含有する工業廃液を速やかにかつ効率良く分解する具体的方法については開示されていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、Cu、Ni、Cr、Sn及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と有機アミノポリカルボン酸とを含有する工業廃液を環境にやさしく、安定に、効率よく、かつ迅速に分解処理する方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、特定の金属と有機アミノポリカルボン酸とを含有する工業廃液に、単純に有機アミノポリカルボン酸類の分解特性を有する土壌性細菌を作用させた場合は該特定金属の有機アミノポリカルボン酸錯体の分解に長時間を要するか、場合によっては分解することができないが、該工業廃液に特定の前処理を行った後、溶液中の該金属の濃度に対して該有機アミノポリカルボン酸のモル濃度同等かそれ以上の濃度下でかつ第二鉄イオンの存在下で土壌性の有機アミノポリカルボン酸分解菌を作用させると、上記課題を効率的に解決できるとの知見に基づいてなされたのである。
【0006】
すなわち、本発明は、Cu、Ni、Cr、Sn及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と有機アミノポリカルボン酸とを含有する工業廃液を、希釈とpH調整を行った後、該希釈溶液中の該金属の濃度に対して該有機アミノポリカルボン酸のモル濃度同等かそれ以上の状態下でかつ第二鉄イオンの存在下で土壌性の有機アミノポリカルボン酸分解菌を作用させることを特徴とする工業廃液の処理方法を提供する。
本発明は、又、Cu、Ni、Cr、Sn及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と有機アミノポリカルボン酸とを含有する工業廃液を、希釈とpH調整を行った後、次いで、該希釈溶液中の該金属の濃度に対して有機アミノポリカルボン酸のモル濃度が等モルよりも大きくなるように調整した後、第二鉄イオンの存在下で土壌性の有機アミノポリカルボン酸分解菌を作用させることを特徴とする工業廃液の処理方法をも提供する。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明で用いる土壌性細菌としては、土壌の表面及び内部に生活する細菌であって有機アミノポリカルボン酸を分解できる能力を有する菌をいい、ここでは海洋性土壌以外の陸性土壌に棲息する細菌をいう。
本発明で用いる有機アミノポリカルボン酸を分解する能力を有する土壌性細菌としては、バチルス エディタビダス(Bacillus editabidus) 、バチルス サブチリス(Bacillus subtilis) 、バチルス メガテリウム(Bacillus megaterium) 、バチルス スファエリカス(Bacillus sphaericus) などのバチルス属に属する細菌があげられる。これらは、例えば、Bacillus edtabidus-1(微工研菌寄 第13449号)、Bacillus subtilis NRIC 0068 、B. megaterium NRIC 1009 、B. sphaericus NRIC 1013 などとして容易に入手することができる。ここで、Bacillus edtabidus-1(微工研菌寄 第13449号)の菌学的性質については、特開平6-261771号公報及び特開平6-296996号公報に詳細に記載されている。
【0008】
又、上述の特開昭58−43782号に記載のシュードモナス属のシュードモナス(Pseudomonous) No.51-Y(6103号)やアルカリゲネス属の菌種のアルカリゲネス(Alcaligenes)No.51-Z(6104号)、さらにはApplied And Environmental Microbiology vol.56,p.3346-3353(1990)に記載のアグロバクテリウム属の菌種アグロバクテリウム(Agrobacterium sp. strain ATCC 55002)、Applied And Environmental Microbiology vol.58, No.2, Feb. 1992, p.671-676に記載のGram-negative BNCI等も用いることができる。さらに、シュードモナス・エディタビダス(Pseudomonas editabidus)としては、特開平6-335385号公報に詳細に記載されているPseudomonas editabidus−1(微工研菌寄第13634号)も使用することができる。
これらのうち、本発明では、バチルス属及びシュードモナス属の有機アミノポリカルボン酸分解菌を用いるのが好ましい。
本発明で処理の対象とする工業廃液としては、製紙、繊維、洗剤、食品、メッキ、写真、化粧品、医薬、農薬、肥料、合成ゴム・樹脂等の各種工業から排出される不要な廃液であり、そのままでは自然環境へ放出することができず、何らかの無害化処理を必要とする液があげられる。また、本発明で対象とする工業廃液は、Cu、Ni、Cr、Sn及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と有機アミノポリカルボン酸とを含有する。一般的には、金属錯体の形で溶解しているが、金属無機塩などの形態で溶解していてもよい。ここで、該金属と有機アミノポリカルボン酸との含有量は任意であるが、1〜10万ppm程度含有するものがあげられる。本発明で対象とする工業廃液には、上記金属以外の金属が含まれていてもよい。
【0009】
又、分解の対象となる有機アミノポリカルボン酸としては、例えば、次のものがあげられる。
B−1 エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)
B−2 エチレンジアミンテトラ酢酸ジナトリウム塩
B−3 エチレンジアミンテトラ酢酸ジアンモニウム塩
B−4 エチレンジアミンテトラ酢酸テトラ(トリメチルアンモニウム)塩
B−5 エチレンジアミンテトラ酢酸テトラカリウム塩
B−6 エチレンジアミンテトラ酢酸テトラナトリウム塩
B−7 エチレンジアミンテトラ酢酸トリナトリウム塩
B−8 ジエチレントリアミンペンタ酢酸
B−9 ジエチレントリアミンペンタ酢酸ペンタナトリウム塩
B−10 エチレンジアミン−N−(β−オキシエチル)−N,N′,N′−トリ酢酸
B−11 エチレンジアミン−N−(β−オキシエチル)−N,N′,N′−トリ酢酸トリナトリウム塩
B−12 エチレンジアミン−N−(β−オキシエチル)−N,N′,N′−トリ酢酸トリアンモニウム塩
B−13 1,2−ジアミノプロパンテトラ酢酸
B−14 1,2−ジアミノプロパンテトラ酢酸ジナトリウム塩
B−15 ニトリロトリ酢酸
【0010】
B−16 ニトリロトリ酢酸トリナトリウム塩
B−17 ニトリロジ酢酸モノプロピオン酸
B−18 ニトリロモノ酢酸ジヒドロキシプロピオン酸
B−19 ニトリロモノ酢酸ジプロピオン酸
B−20 ニトリロジ酢酸モノヒドロキシプロピオン酸
B−21 1,2−ジアミノシクロヘキサンテトラ酢酸
B−22 1,2−ジアミノシクロヘキサンテトラ酢酸ジナトリウム塩
B−23 イミノジ酢酸
B−24 ジヒドロキシエチルグリシン
B−25 エチルエーテルジアミンテトラ酢酸
B−26 グリコールエーテルジアミンテトラ酢酸
B−27 エチレンジアミンテトラプロピオン酸
B−28 1,3ジアミノプロパンテトラ酢酸
B−29 エチレンジアミン二酢酸二プロピオン酸
B−30 エチレンジアミン二酢酸
【0011】
B−31 エチレンジアミンジオルトヒドロキシフェニル酢酸
B−32 エチレンジアミン二プロピオン酸
B−33 ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸
B−34 ニトリロ三プロピオン酸
B−35 ブチレンジアミン四酢酸
B−36 メタフェニレンジアミン四酢酸
B−37 トリエチレンテトラミン六酢酸
B−38 メタキシリ−レンジアミン四酢酸
B−39 アニシジンブルー
B−40 クロマズロールS
B−41 フルオキシン
B−42 メチルチモールブルー
B−43 メチルキシレノールブルー
B−44 サーコシンクレゾールレッド
B−45 スチルベンフルオブルーS
B−46 N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン
【0012】
さらに、特開平6-261771号公報に記載のB-47〜B-65の構造式を有する有機アミノポリカルボン酸も対象とすることができる。さらに、エチレンジアミンジコハク酸、エチレンジアミンモノコハク酸及びメチルイミノジ酢酸も対象とすることができる。これらのうち、対象とする有機アミノポリカルボン酸としては、EDTA(B1-7)、DTPA(B-8,9)及びPDTA(B-13,14)が好ましく、EDTAが最も好ましい。本発明では、上記工業廃液を、希釈とpH調整を行う。ここでは、先ず上記工業廃液を、水、例えば、工業用水、水道水、本発明の処理済廃水などで希釈し、その後pH調整を行っても、その逆でも、また水での希釈とpH調整を同じに行ってもよい。水での希釈は、工業廃液中のCu、Ni、Cr、Sn及びZnと有機アミノポリカルボン酸との錯体のモル濃度が1モル以下となるようにするのがよく、好ましくは、0.5モル以下となるようにするのがよい。ここで、工業廃液が、無機塩を含有する場合には、希釈後の塩濃度が、10,000ppm以下となるようにするのが好ましく、より好ましくは9,000ppm以下、特に好ましくは8,000ppm以下である。又、pHは、4.0〜8.5とするのが好ましく、より好ましくは4.5〜8.0、特に好ましくは5.0〜7.5である。
【0013】
本発明では、次いで、該希釈溶液中の該金属の濃度に対して該有機アミノポリカルボン酸のモル濃度同等かそれ以上の状態下でかつ第二鉄イオンの存在下で土壌性の有機アミノポリカルボン酸分解菌を作用させる。
該希釈溶液中の該金属の濃度に対して該有機アミノポリカルボン酸のモル濃度同等かそれ以上の状態下にするには、工業廃液中に存在している有機アミノポリカルボン酸に対して過剰に存在しているCu、Ni、Cr、Sn及びZnからなる群から選ばれる金属を、定法により沈殿除去するか、又は有機アミノポリカルボン酸を加えて、処理の対象となる溶液中のCu、Ni、Cr、Sn及びZnからなる群から選ばれる金属が全て有機アミノポリカルボン酸との錯体を形成しているようにする。金属の沈殿除去や有機アミノポリカルボン酸の添加は、水での希釈とpH調整後に行うのが好ましいが、水での希釈やpH調整の前、その間、または同時に行ってもよい。
本発明では、希釈溶液中の該金属の濃度に対して該有機アミノポリカルボン酸のモル濃度同モルでもよいが、有機アミノポリカルボン酸のモル濃度が同モルに対して0.01〜1.5倍モル過剰とするのが好ましく、より好ましくは0.05〜0.5倍モル過剰とするのがよい。
本発明では、このような希釈液を基本とした培地にて第二鉄イオンの存在下で土壌性の有機アミノポリカルボン酸分解菌を培養、作用させることで、有機アミノポリカルボン酸を分解する。
【0014】
存在させる第二鉄イオンは、5ppm〜5,000ppmであるのが好ましく、より好ましくは、10ppm〜3,000ppm、特に好ましくは15ppm〜1,000ppmである。可溶性鉄としては、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、硝酸第二鉄等があげられる。
以下有機アミノポリカルボン酸分解菌の培養方法について、EDTAを代表例として説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
有機アミノポリカルボン酸分解菌の培養に使用する培地の組成は、使用する菌株が良好に生育し、EDTAなどの有機アミノカルボン酸を順調に分解するために適当な炭素源、窒素源あるいは有機栄養源無機塩などからなる。炭素源としては有機アミノカルボン酸金属錯体(例えばEDTA−Fe やEDTA−Na 等)が使用できる。また、窒素源あるいは有機栄養源としては、例えば、ポリペプトン、酵母エキス、肉エキス等が挙げられる。有機栄養源は0.1〜1%程度用いるのが好ましい。また、無機塩としては各種リン酸塩、硫酸マグネシウムなどが使用できる。さらに微量の重金属類が使用されるが、天然物を含む培地では必ずしも添加を必要としない。好ましい培地としては、フジNo1培地(ポリペプトン0.5%、酵母エキス0.1%、EDTA鉄アンモニウム塩0.01%、寒天2.0%、リン酸バッファー(pH5.8))があげられる。
【0015】
培養は培地を加熱等により殺菌後、菌を接種し、菌の最適温度、例えば、25〜39℃で3〜10日静置、振とう又は通気攪拌すれば良い。
EDTAの分解の確認はイオンクロマト法によって行なうことができる。すなわち、培養後の液を0.45μm のミリポアフィルターによりろ過した液を適当に希釈し、イオンクロマトグラフィーにかけて残存率を見ることができる。
次ぎに、EDTA含有工業廃水の処理法を例としてあげて、さらに本発明を説明する。
EDTA含有廃水は、先ず通常の生物処理により分解可能な成分を分解した後、EDTA分解菌を用いた処理に供するのがよい。EDTA以外に生物処理により分解される成分を含まない場合は生物処理の必要はない。
ここで生物処理の種類は特に問わない。生物処理の方法としては例えば活性汚泥法等の微生物浮遊懸濁法、生物ろ過法、浸漬ろ床法、流動床法、回転円板法、散水ろ床法等の生物膜法、自己造粒法等を用いることができる。また好気性、嫌気性のどちらでもよくまたはそれらの組み合せでもよい。
【0016】
これらの生物処理のより具体的な方法については「生物学的水処理技術と装置」化学工学協会編(培風館)、「環境浄化のための微生物学」須藤隆一編(講談社サイエンティフィク)などに記載されている。
このようにして前処理した排水を、水での希釈とpH調整が行なわれていない場合には、水での希釈とpH調整を行った後、該希釈溶液中の該金属の濃度に対して該有機アミノポリカルボン酸のモル濃度同等かそれ以上の状態下でかつ第二鉄イオンの存在下で土壌性の有機アミノポリカルボン酸分解菌と接触させる。接触時間及び温度は任意とすることができるが、有機アミノカルボン酸分解菌の好適な温度で所望とする分解率が得られる程度の時間接触させるのがよい。通常は、有機アミノカルボン酸の該金属錯体を0.01〜1%含有する25〜39℃の水溶液を有機アミノカルボン酸分解菌と0.5〜7日程度、好ましくは1〜3日程度接触させるのがよい。
【0017】
この際、有機アミノカルボン酸分解菌を固定化したものと接触させるのがよい。固定化方法としては、処理槽内から有機アミノカルボン酸分解菌が流出しないように固定される方法ならばその種類を問わない。
具体的な固定化法としては、例えば微生物膜が形成し付着するような接触材を用いる生物膜法、ゲル内部に菌体を閉じ込めた包括固定化法などを用いることができる。
生物膜での接触材としては、例えば多孔性セラミクス、活性炭、スポンジ、ひも状担体、プラスチック、ハニカム状担体、波状担体、アンスラサイト、砂利、砂等の1種または2種以上を用いることができる。
また固定化法としてはアクリルアミド法、寒天−アクリルアミド法、PVA−ホウ酸法、PVA−冷凍法、光硬化性樹脂法、アクリル系合成高分子樹脂法、ポリアクリル酸ソーダ法、アルギン酸ナトリウム法、K−カラギーナン法等、菌体を閉じ込めることができ、処理槽の中で菌体の活性を維持しつつ、物理的強度が大きく長時間の使用に耐え得るものならば種類を問わない。
これらの固定化法のより具体的な方法については「微生物固定化法による排水処理」須藤隆一編著(産業用水調査会)などに記載されている。
【0018】
有機アミノカルボン酸分解菌を用いた処理には、上記したような接触材、固定化ゲル等を処理槽内に浮遊流動させてもよいし、生物ろ過法、浸漬ろ床法、流動床法、回転円板法、散水濾床法などの担体として用いてもよい。
又、処理される液は攪拌しながら有機アミノカルボン酸分解菌と絶えず接触させながら分解させるのがよい。この培養に伴い菌が対象成分を分解するので経時後培地中の有機アミノポリカルボン酸を定量することで分解率が求められる。
なお、有機アミノカルボン酸分解菌を予め分解の対象成分に馴らしておくと(馴化)、これにより分解に寄与する菌体内の酵素が発現するか、酵素の絶対量が増加し、分解が速やかに進むのでより好ましい。
次に実施例により本発明を説明する。
【0019】
【実施例】
実施例1
下記培養液50ml(Cu含有廃液を水で希釈し、pHを7.0に調整後有機アミノポリカルボン酸であるEDTAをCuより10mol%過剰な状態とした液のモデル液)を120℃で20分間オートクレーブにて殺菌後、この培地に下記菌株を接種し、37℃で14日間静置培養を行なった。特に遮光はしなかった。
Figure 0004291477
【0020】
菌株の種類
次の2種類を用いた。
▲1▼ Bacillus editabidus-1(微工研菌寄 第13449号)
▲2▼ Pseudomonas editabidus-1(微工研菌寄 第13634号)
これらの菌はそれぞれ特開平6−261771号公報および特開平6−335384号公報にて開示されたものである。また、これらの菌をポリペプトン1.0%、酵母エキス0.2%、Cu-EDTA0.001%を蒸留水に溶解した培地で37℃1週間培養したものを馴化菌体として用いた。
静置培養後EDTA(初期に添加したCu-EDTAおよびEDTAに由来するEDTAの総量)の残存度及び分解率をイオンクロマト法により求めた。結果を表1に示す。太線内が本発明である。
【0021】
表1 EDTAの残存度(ppm)及び分解率(%)
Figure 0004291477
【0022】
実施例2
実施例1と同様に下記培養液50mlを調製し、120℃で20分間オートクレーブにて殺菌後、この培地に下記菌株を接種し、37℃で5日間静置培養を行なった。特に遮光はしなかった。
Figure 0004291477
注:以下の3水準とした。
A.EDTAがCuより過剰のモル濃度の場合:Cu-EDTAを0.005%、
EDTAはCu-EDTAの10モル%
B.EDTAがCuと同等のモル濃度の場合:Cu-EDTAを0.005%
C.EDTAがCuより低モル濃度の場合:Cu-EDTAを0.005%
CuCl2をCu-EDTAの10モル%
菌株の種類
実施例1の馴化菌体を用いた。
静置培養後EDTA(初期に添加したCu-EDTAおよびEDTAに由来するEDTAの総量)の残存度及び分解率をイオンクロマト法により求めた。結果を表2に示す。( )内は分解率である。
【0023】
Figure 0004291477
表2 EDTAの残存度(ppm)及び分解率(%)
【0024】
実施例3
実施例2のCu-EDTAをNi-EDTA、Cr-EDTAおよびZn-EDTAに、CuCl2をNiCl2、CrCl2およびZnCl2にそれぞれ置き換え、実施例2と同様の実験を行なった。その結果実施例2と同様の第二鉄イオンの添加が有効であり、有機ポリアミノカルボン酸であるEDTAの、金属に対する同等もしくは過剰存在が有効であるという結果が得られた。
【0025】
実施例4
実施例2のEDTAをDTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)に置き換え、実施例2と同様の実験を行なった。その結果実施例2と同様の第二鉄イオンの添加が有効であり、有機ポリアミノカルボン酸であるDTPAの、金属に対する同等もしくは過剰存在が有効であるという結果が得られた。
【0026】
実施例5
メッキ工業から排出される廃液について本発明を適用した。廃液は市中の工場から収集された下記組成のものを用いた(いずれも酸・アルカリ処理により金属は沈降除去済の液)。
中性亜鉛電気メッキ廃液 X:ZnCl2 0.5g/l、EDTA 0.4g/l、4-メルカプトピリジン 0.01g/l
無電解銅メッキ廃液 Y:CuSO4 0.3g/l、EDTA 0.8g/l、ホルムアルデヒド0.2g/l、NaCl 11.4g/l
無電解ニッケルメッキ廃液 Z:酢酸ニッケル 0.6g/l、EDTA 0.6g/l、グリコール酸1.2g/l、ヒドラジン0.05g/l
EDTA以外の有機成分は何れも易生分解性の化合物であるので、処理の尺度としてはEDTAに着目した。
各廃液を塩濃度が1,000ppm以下になるよう水道水で希釈し、酢酸、水酸化ナトリウムを用いpHを7.0に調製した。希釈後の液X、Zにはそれぞれ亜鉛、ニッケルのモル濃度より5%過剰となるようにEDTAを添加した。更に第二鉄イオン濃度が20ppmとなるように塩化第二鉄を加えた液をそれぞれに調製した。この時のEDTA濃度を処理前の濃度100とする。
これらの希釈廃液を実施例2で用いたBacillus editabidus-1を付着固定させた粒状活性炭(東洋カルゴン(株)活性炭F400)を充填した処理塔に循環させて1サイクル3日の回分式処理を行なった。処理塔内部は散気管からの曝気により好気的に保たれており、1サイクル毎の放流量は処理槽内液の8割とした。
処理された放流液のEDTAを定量し、当初の濃度が半減する(上記100に対し50となる)時間を表3に示す。
【0027】
表3 廃液中のEDTA濃度が半減するのに要した処理時間
Figure 0004291477
【0028】
【発明の効果】
本発明により、従来困難であったCu、Ni、Cr、Zn等と有機アミノポリカルボン酸類を含む工業廃液を短時間で効率良く生物処理することができる。特に、希釈液中にFeを5ppm程度存在させるだけで、長時間を要したCu、Ni、Cr、Zn等を含む廃液中の有機アミノポリカルボン酸類が短時間に分解することができ、分解率が向上した。

Claims (2)

  1. Cu、Ni、Cr、Sn及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と有機アミノポリカルボン酸とを含有する工業廃液を、希釈とpH調整を行った後、該希釈溶液中の該金属の濃度に対して有機アミノポリカルボン酸のモル濃度等モルかそれ以上の状態下でかつ第二鉄イオンの存在下で土壌性の有機アミノポリカルボン酸分解菌を作用させることを特徴とする工業廃液の処理方法。
  2. Cu、Ni、Cr、Sn及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と有機アミノポリカルボン酸とを含有する工業廃液を、希釈とpH調整を行った後、次いで、該希釈溶液中の該金属の濃度に対して有機アミノポリカルボン酸のモル濃度が等モルよりも大きくなるように調整した後、第二鉄イオンの存在下で土壌性の有機アミノポリカルボン酸分解菌を作用させることを特徴とする工業廃液の処理方法。
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