JP4280890B2 - スパッタ装置及びスパッタ成膜方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は光学フィルター等の成膜工程に適用されるスパッタ装置及びスパッタ成膜方法に係り、特に、カルーセル型スパッタ装置に装着されるターゲットの構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
特開平3−253568号公報には、ガラス板などの基板に成膜を行うためのカルーセル型スパッタ装置が開示されている。カルーセル型スパッタ装置は、回転・バッチ型のスパッタ装置であり、チャンバー内に多角柱形の基板ホルダー(回転ドラム)が配置されるとともに、チャンバー壁内側に矩形ターゲットを保持するマグネトロンが設置された構造を有している。基板を取り付けた基板ホルダーを回転させながらマグネトロンに電力を投入し、ターゲット上面にプラズマを発生させるとともに、所定の反応ガスをチャンバー内に導入することによって成膜が行われる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、カルーセル型スパッタ装置は、正多角形を構成する各基板ホルダーを回転させながら成膜を行う構造であるため、特開平3−253568号公報でも指摘されているように、正多角形の辺にあたる部分と、稜にあたる部分とでは、ターゲットとの最短接近距離、並びにターゲットに対する基板面の角度の関係が異なる。そのため、基板に対するスパッタ原子の付着確率が異なり、基板の回転方向(回転しながら基板の横幅方向に進む方向という意味で「進行方向」という。)に対する膜厚分布が不均一になるという傾向がある。
【0004】
図26にその模式図を示す。図26(a)は、基板ホルダー202により構成される正多角形の辺にあたる部分がターゲット210に最接近した状態を示し、同図(b)は、正多角形の稜がターゲット210に最接近した状態を示す。なお、符号220はターゲット210が装着されるマグネトロン部のバッキングプレートである。スパッタ原子の付着確率は、ターゲット210から基板204面内の各位置までの距離rとその方向(「ベクトル<r> 」という。)、及びベクトル<r> と基板面とのなす角度φに依存する。
【0005】
図26(a)及び(b)に示したように、基板ホルダー202の回転に応じて、正多角形の辺にあたる部分と稜にあたる部分とではベクトル<r> と角度φが変化するため、従来の成膜方法では、図26(c)に示すように基板204の周辺部分により多くの原子が付着し、中心部に比べて周辺部の膜厚が大きくなるという傾向がある。
【0006】
このような課題に対し、特開平3−253568号公報は、カソード電極の配置関係を工夫しているが、同公報のように、二つのカソードと該カソードに電力を印加するための二つの電源とを用いたスパッタ装置(方法)によって膜厚の均一化を図る場合では、二つのカソードが対で成膜に寄与するため、成膜速度に影響する要因(磁場、印加電圧、ターゲット表面の状態、ガス圧等)について二つのカソード間で差を小さくすることが必要となる。しかし、二つのカソードについて条件を合わせることは困難であり、結果として膜厚の均一化の制御は容易ではない。
。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、回転する基板の進行方向に対する膜厚分布の均一化を従来に比べてより簡単に達成できるとともに、装置の小型化並びに低コスト化を実現できるスパッタ装置及びスパッタ成膜方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、チャンバー内に横断面が多角形状または円形状のドラムが回転自在に設置され、該ドラムの外周面上に基板ホルダーが設けられ、チャンバー壁の内側にはターゲットと該ターゲットを保持するマグネトロン部からなるマグネトロンスパッタ源が配置され、前記ターゲットは前記ドラムの回転軸と平行となるように前記マグネトロン部により保持された構造を有するカルーセル型スパッタ装置において、前記マグネトロンスパッタ源は、単一のマグネトロン部にターゲットが取り付けられたマグネトロンスパッタ源であり、前記ターゲットは、前記基板ホルダーに取り付けられる基板と対向する位置関係になったときに、前記基板に対面するターゲット面が基板面に対して平行とならないように前記ターゲット面が所定の傾斜角度を有するものであり、前記ターゲットは、前記ターゲット面に稜線を有し、該稜線の左右両側に傾斜面が構成されていることを特徴としている。
【0009】
「対向する位置関係」とは、基板ホルダーの基板支持面の中心点と、該基板支持面から見たマグネトロン部の中心点との距離が最小となったときを意味する。なお、後述のAC型マグネトロンスパッタ源の場合は、隣接して配置される二つのターゲットの中心点(二つのターゲットを全体として一つのマグネトロン部と見なしたときの中心点)を「マグネトロン部の中心点」と解釈する。
【0010】
傾斜角度は、ターゲットが装着されるスパッタ装置の構成条件によって最適な角度に設計される。すなわち、膜厚が均一になる角度範囲でターゲット面を傾斜させる。かかる傾斜形のターゲットを用いることにより、スパッタ原子の飛散方向が調整されるとともに、回転する基板とターゲット間の距離と角度の関係等の諸条件が調整され、基板の進行方向についての膜厚の均一化を実現できる。もちろん、一つのカルーセル型スパッタ装置内において従来の平板形のターゲット(通常ターゲット)と本発明の傾斜形のターゲットとが混在する態様も可能である。
【0011】
請求項1に記載の発明における前記ターゲットは、前記ターゲット面に稜線を有し、該稜線の左右両側に傾斜面が構成されていることを特徴としている。すなわち、本態様はターゲット面を「Λ」形(いわゆる屋根形)に形成したものであり、当該ターゲットは、ターゲット面の稜線がドラムの回転軸と平行(又は略平行)となる状態でマグネトロン部に保持される。稜線を挟む左右両側について、それぞれ適正な傾斜角度の斜面を構成することにより、基板の進行方向に対する膜厚の均一化を達成できる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、チャンバー内に横断面が多角形状または円形状のドラムが回転自在に設置され、該ドラムの外周面上に基板ホルダーが設けられ、チャンバー壁の内側にはターゲットと該ターゲットを保持するマグネトロン部からなるマグネトロンスパッタ源が配置され、前記ターゲットは前記ドラムの回転軸と平行となるように前記マグネトロン部により保持された構造を有するカルーセル型スパッタ装置において、前記マグネトロンスパッタ源は、隣接して配置された二つのターゲットのアノード/カソードの関係を所定周波数で交互に切り替えるAC型マグネトロンスパッタ源であり、前記ターゲットは、前記基板ホルダーに取り付けられる基板と対向する位置関係になったときに、前記基板に対面するターゲット面が基板面に対して平行とならないように前記ターゲット面が所定の傾斜角度を有するものであり、前記ターゲットは、前記ターゲット面に稜線を有し、該稜線の左右両側に傾斜面が構成されており、前記二つのターゲットは、互いの前記稜線が平行となるように配置されることを特徴としている。
【0015】
請求項1の態様における「単一のマグネトロン部にターゲットが取り付けられたマグネトロンスパッタ源」としては、DC(直流)型マグネトロンスパッタ源の他に、RF(高周波)型マグネトロンスパッタ源、パルス(直流電圧を一定の時間間隔で印加する)型マグネトロンスパッタ源などがある。
【0016】
一方、AC型マグネトロンスパッタ源は、単一のマグネトロン部にターゲットが取り付けられたマグネトロンスパッタ源よりも高速成膜が可能である。もちろん、これら二種類のスパッタ源を併用して、高速かつ高精度の成膜を実現するスパッタ装置に本発明を適用することもできる。
また、請求項3に記載の発明は、チャンバー内に横断面が多角形状または円形状のドラムが回転自在に設置され、該ドラムの外周面上に基板ホルダーが設けられ、チャンバー壁の内側にはターゲットと該ターゲットを保持するマグネトロン部からなるマグネトロンスパッタ源が配置され、前記ターゲットは前記ドラムの回転軸と平行となるように前記マグネトロン部により保持された構造を有するカルーセル型スパッタ装置において、前記マグネトロンスパッタ源は、隣接して配置された二つのターゲットのアノード/カソードの関係を所定周波数で交互に切り替えるAC型マグネトロンスパッタ源であり、前記ターゲットは、前記基板ホルダーに取り付けられる基板と対向する位置関係になったときに、前記基板に対面するターゲット面が基板面に対して平行とならないように前記ターゲット面が所定の傾斜角度を有するものであり、前記ターゲットは、前記ターゲット面として一方向に傾斜する単一の傾斜面を有し、前記二つのターゲットは互いに線対称の関係で配置され、これら二つのターゲットの組み合わせによって逆V字形のターゲット面が構成されることを特徴としている。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の装置発明に対応する方法発明を提供するものである。また、請求項5乃至7に記載の発明は、それぞれ請求項1乃至3に記載したスパッタ装置に用いられるターゲットを対象としたものである。
以上
【0018】
【発明の実施の形態】
以下添付図面に従って本発明のスパッタ装置及びスパッタ成膜方法の好ましい実施の形態について説明する。
【0019】
図1は本発明の実施形態に係る光学多層膜成膜用のスパッタ装置の構成を示す平面模式図であり、図2は本装置で使用される基板ホルダーの斜視図である。図1に示したスパッタ装置10は、高さ2m、直径1.5mの円筒形チャンバー12内に、ドラム(図1中不図示、図2中符号17)と該ドラム17の外周面上に設けられた基板ホルダー14とを有し、直径1mの正十二角形を構成する各基板ホルダー14がドラム17の中心軸16を回転中心として回転可能に支持された構造から成るカルーセル型のスパッタ装置である。
【0020】
反応室となるチャンバー12は、図示せぬ排気用ポンプと連結され、スパッタに必要な低圧を得ることができる。また、図示されていないが、チャンバー12には、スパッタに必要なガスを導入するためのガス供給手段やローディング用ドアが設けられている。なお、チャンバー12の内壁は、ドラム17と概略所定間隔をもって対向する形状(内周形状)を有している。
【0021】
図2に示すように、基板ホルダー14は、円筒形状のドラム17の外周面に取り付けられており、回転自在に設置されたドラム17と一体的に回転する。なお、ドラム17の形状は円筒形状に限らず、多角筒形状(横断面が多角形状)等であってもよい。
【0022】
図1に示したように、基板ホルダー14には成膜用の基板(例えば、ガラス基板)18が取り付けられ、基板ホルダー14は、図示せぬ回転駆動装置によるドラム17の回転に伴って一定の回転速度(例えば、6rpm )で回転する。チャンバー12の内側には、低屈折率膜形成用のマグネトロンスパッタ源20と、高屈折率膜形成用のマグネトロンスパッタ源30とがそれぞれ設置されている。これらマグネトロンスパッタ源20、30は、高さ方向の長さが1.2mの矩形型マグネトロンスパッタ源であり、マグネトロンスパッタ源20または30の前を基板18が通過することによって成膜が行われる。
【0023】
マグネトロンスパッタ源20は、単一のマグネトロン部21に対して電源(本例では、矩形波状のパルス電力を供給するDC電源)22が接続された従来型のマグネトロンスパッタ源(以下、通常のマグネトロンという。)23と、二つのマグネトロン部24、25に対して一つの交流電源26が接続され、アノード/カソードの関係を所定周波数で交互に切り替える交流型マグネトロンスパッタ源(以下、ACのマグネトロンという。)27との組み合わせによって構成される。
【0024】
同様に、マグネトロンスパッタ源30は、単一のマグネトロン部31に対して電源32が接続された通常のマグネトロン33と、二つのマグネトロン部34、35に対して一つの交流電源36が接続されたACのマグネトロン37との組み合わせによって構成される。
【0025】
ACのマグネトロン27、37の動作原理は、特開平5−222530号、特開平5−222531号、特開平6−212421号、特開平10−130830号の各公報に開示されている。概説すると、ACのマグネトロンとは、ターゲットを二個並べて配置し、一方のターゲットがカソードの時は、他方がアノードとなり、数十kHz の周波数でカソードとアノードが入れ替わるマグネトロン装置であり、種々の制御を行うことにより、安定かつ高速に酸化物膜や窒化物膜等を成膜することができる。
【0026】
通常のマグネトロン23、33は、ACのマグネトロン27、37に比べて成膜スピードが低速である反面、膜厚を精度良く制御できるという利点がある。図1に示したスパッタ装置10は、高速成膜可能なACのマグネトロン27、37と、高精度の膜厚制御が可能な通常のマグネトロン23、33を組み合わせて使用することにより、高速成膜と高精度の膜厚制御を実現している。
【0027】
また、スパッタ装置10は、成膜中に膜厚を測定する手段(膜厚モニタリングシステム)として、ハロゲンランプ40、モノクロメータ41、光ファイバー42、投光ヘッド44、受光ヘッド46、受光処理部48を備えている。ハロゲンランプ40からの光は、モノクロメータ41によって波長選択された後、光ファイバー42を介して投光ヘッド44に導かれる。投光ヘッド44は、基板ホルダー14の内側(ドラム17の内側)に設置され、投光ヘッド44から基板18に向けて光が照射される。なお、基板ホルダー14の縦方向中央部には回転方向に10cmの長さで光通過用の開口(不図示)が形成されている。
【0028】
チャンバー12の外側には、受光ヘッド46が設置されており、チャンバー12の外壁には受光ヘッド46に光を導く窓部(不図示)が設けられている。基板18を透過した光は、受光ヘッド46で受光され、受光量に応じた電気信号に変換された後、受光処理部48に送られる。受光処理部48は、受入した信号に対して所定の信号処理を行い、コンピュータ入力用の測定データに変換する。受光処理部48で処理された測定データは、パーソナルコンピュータ(以下、パソコンという。)50に送られる。
【0029】
パソコン50は、中央演算処理装置(CPU)を備え、演算処理装置として機能し、受光処理部48から受入する測定データに基づいて、各スパッタ電源(22、26、32、36)を制御する制御装置としても機能する。また、パソコン50によってハロゲンランプ40の発光制御や、基板ホルダー14の回転制御、チャンバー12の圧力制御、導入ガスの供給制御及びシャッター(図1中不図示、図12中符号72、74、76、78)の開閉制御等を行うことができる。パソコン50には各制御に必要なプログラムや各種データが組み込まれている。
【0030】
図1では、膜厚測定用の光学式測定手段の光源部として、ハロゲンランプ40及びモノクロメータ41を用いたが、膜厚モニタリングシステムに使用される光学式測定手段の光源部は、図1の構成例に限定されず、測定対象に応じて適切な光源が選択される。例えば、WDM(Wavelength Division Multiplexing)用フィルターの製造の際には、波長=1460〜1580nmのチューナブルレーザー(可変波長レーザー)を用いる。また、単色の測定光を用いる態様に限らず、白色の測定光を用いて受光部側で単色化する態様もある。単色の測定光を利用する態様に比べて、受光部側で単色化をする態様はノイズが少ないという利点がある。
【0031】
図3には、本例のスパッタ装置10に適用されるターゲットが示されている。図3(a)は断面図、同図(b)は平面図である。このターゲット92は、図1の符号23及び符号33で示した低速成膜用のスパッタ源に適用されるものであり、図3に示したとおり、ターゲット上表面面が中央位置(ドラム17の回転軸方向に沿う稜線92C)をピークとして左右両方向に傾斜した、いわゆる屋根形(逆V字形)の形状を有している。水平面に対する傾斜角度θは、基板ホルダー14で構成される正多角形の角数、直径、基板の大きさ、基板−ターゲット間の距離(設計上の平均距離)などに依存して、膜厚分布の均一化を実現し得るように最適な角度に設計される。
【0032】
従来のターゲットは、板厚が一定の平板形であり、基板とターゲットが対向した位置関係になった時に、基板面とターゲット面が平行状態となっていた(図26(a)参照)。これに対し、図3に示したターゲット92は、基板とターゲットが対向した位置関係になった時に、ターゲット面が基板面に対してわずかに角度を持っている(傾斜角度θ)状態となる。
【0033】
上記の如く構成されたターゲット92を用いると、図4(a)、(b)に示したように、スパッタ原子はターゲット傾斜面92A、92Bから放出されるため、その飛散分布(スパッタ原子の密度)はターゲット傾斜面92A、92Bの法線方向に広がる(つまり、V字形の放出となる)。また、原子放出面となるターゲット傾斜面92A、92Bと基板18の各位置までの距離とその方向(ベクトル<r> )、並びにベクトル<r> と基板面との成す角度φの関係等の諸条件がバランスよく均整化されることにより、図4(c)に示したように、基板18の進行方向(図において横方向)についての膜厚の均一化を実現できる。
【0034】
図5は、本発明による傾斜形のターゲット92を用いた成膜による膜厚分布と、従来の平板形のターゲット(通常ターゲット)を用いた成膜による膜厚分布とを比較したグラフである。同図に示したグラフは、下記の実施条件の下で得られた実験結果である。すなわち、図1に示したスパッタ装置10において、直径1mの正十二角形を構成する各基板ホルダーを用い、基板−ターゲット間距離60mm、基板サイズ10cm角とし、符号23(または33)で示した低速成膜用のスパッタ源に「通常ターゲット」を装着して成膜を行った結果と、傾斜形のターゲット92(傾斜角度θ=5°)を装着して成膜を行った結果である。
【0035】
図5から明らかなように、通常ターゲットでは基板の中心に比べて周辺部分の膜厚が大きくなるが、本発明による傾斜形のターゲット92の場合には、膜厚の進行方向分布が均一化される。
【0036】
上記した低速成膜用のスパッタ源と同様に、図1中符号27、37で示した高速成膜用のスパッタ源については、図6に示す傾斜形のターゲット94、95が適用される。図6(a)の断面図及び同図(b)の平面図に示したターゲット94は、図1の符号53、64に示したターゲットとして用いられる。また、図6(c)及び(d)に示したターゲット95は、図1の符号54、63に示したターゲットとして用いられる。高速成膜用のスパッタ源(ACのマグネトロン)において、隣接して配置される二つのターゲットのターゲット面を同方向に傾斜させても膜厚の均一化を達成することはできないため、これら二つのターゲットは互いに線対称(又は略線対称)の関係で配置される。
【0037】
図6に示した各ターゲット94、95の傾斜角度θは、スパッタ装置の具体的条件に依存して最適な角度に設計される。図1でも説明したとおり、高速成膜用に用いられるACのマグネトロンは、二つの隣接するマグネトロン部に装着されたターゲットのアノード/カソード関係が交互に切り替えられ、全体として一つのスパッタ源として作用し得るものであるため、図6に示したように、左右のターゲット94、95がそれぞれ単一の傾斜面(片側のみが傾斜する、いわゆる楔形)を有することで、これら二つのターゲット94、95を組み合わせて使用する場合に、図3及び図4で説明したターゲット92と同等の屋根形のターゲット面が構成される。図6に示したターゲット94、95の作用については、図4と同様である。
【0038】
図7は、図6に示した傾斜形ターゲット94、95を用いたACのマグネトロンによる膜厚分布と、従来の平板形ターゲット(通常ターゲット)を用いたACのマグネトロンによる膜厚分布とを比較したグラフである。図7に示したグラフは、下記の実施条件の下で得られた実験結果である。すなわち、図1に示したスパッタ装置10において、直径1mの正十二角形を構成する各基板ホルダーを用い、基板−ターゲット間距離60mm、基板サイズ10cm角とし、符号27(または37)で示した高速成膜用のスパッタ源に「通常ターゲット」を装着して成膜を行った結果と、傾斜形ターゲット94、95(両者とも傾斜角度θ=5°)を装着して成膜を行った結果である。
【0039】
図7から明らかなように、通常ターゲットでは基板の中心に比べて周辺部分の膜厚が大きくなるが、本発明による傾斜形ターゲットの場合には、膜厚の進行方向分布が均一化される。
【0040】
図6に示したターゲット94、95に代えて、図8に示すターゲット96、97を用いる態様も可能である。すなわち、図8(a)、(b)に示したターゲット96は図6のターゲット94と置換され、図8(c)、(d)に示したターゲット97は、図6のターゲット95と置換される。図8に示したように、ACのマグネトロンに適用する左右のターゲット96、97の上表面をそれぞれ屋根形(Λ字形状)に構成する態様も可能である。この場合、内側の傾斜面96A、97Aの傾斜角(θ1 )と、外側の傾斜面96B、97Bの傾斜角(θ2 )は、スパッタ装置10の構成条件等に依存して適切な値に設計される。これにより、膜厚の進行方向分布が均一化される。
【0041】
次に、上記の如く構成されたスパッタ装置10の動作について説明する。以下に述べる実施例は、低屈折率膜としてSiO2 、高屈折率膜としてTiO2 をそれぞれ反応性スパッタにより成膜する例を説明する。
【0042】
最初に、図1に示した高屈折率膜形成用のマグネトロンスパッタ源30の各マグネトロン部31、34、35にはTiターゲット52、53、54が取り付けられており、低屈折率膜形成用のマグネトロンスパッタ源20の各マグネトロン部21、24、25にはSiターゲット62、63、64が取り付けられている。ターゲットの大きさは、通常用が高さ1.1m、幅15cm、AC用は各々、高さ1.1m、幅10cmのものが用いられる。
【0043】
また、それぞれの基板ホルダー14には、厚さ1.1mm、10cm角のガラス基板18を9枚ずつ、縦方向に並んで取り付ける。次いで、チャンバー12をロータリーポンプで5Paまで粗引きした後、クライオポンプで1×10-3Paまで排気する。
【0044】
次に、アルゴンガスを100sccm、酸素ガスを30sccm、マスフローコントローラを通してチャンバー12内に導入する。そのときのガス圧は0.4Paであった。
【0045】
SiO2 膜を成膜するために、Si ターゲット62が取り付けられている通常のマグネトロン23に直流10kWの矩形波状のパルス電力(周波数50kHz )、Si ターゲット63、64が取り付けられているACのマグネトロン27に交流20kWの電力をそれぞれ供給し、ターゲットと基板間に配置されているシャッター(図1中不図示)を閉めて五分間の予備放電を行い、その後両方のシャッターを開いて成膜を行う。
【0046】
成膜中は、上記した膜厚モニタリングシステムによって基板ホルダー14上の基板18について透過率を測定する。基板18の透過率は、成膜される膜厚に対応して変化するため、透過率を監視することによって膜厚を把握することができる。参考のために、図9に本実施例における膜厚モニタの信号例を示す。
【0047】
膜厚モニタリングシステムによって膜厚を監視しながら成膜を行い、設計膜厚の90%まで成膜した時点で図1に示したACのマグネトロン27への電力の供給を止め、通常のマグネトロン23のみで成膜を行う。成膜中は、透過率の測定結果をパソコン50で演算し、その測定結果の情報を各電源26、22にフィードバックすることにより、基板18の回転方向に関する膜の均一性の向上と同時に、膜厚が設計膜厚になるようにコントロールする。なお、基板ホルダー14の回転速度やシャッターの開度(開閉量)を制御して成膜を調整することも可能である。
【0048】
次に、TiO2 膜を成膜するために、Tiターゲット52が取り付けられている通常のマグネトロン33に直流15kW、Tiターゲット53、54が取り付けられているACのマグネトロン37に交流30kWの電力をそれぞれ供給し、SiO2 膜の成膜工程と同様に、五分間の予備放電を行った後に、両方のシャッターを開けて成膜を行う。TiO2 膜の場合も、設計膜厚の90%まで成膜した時点でACのマグネトロン37への電力の供給を止め、通常のマグネトロン33のみで成膜を行う。成膜中に、透過率の測定結果を各電源36、32にフィードバックして、膜の均一性を向上させ、正確な膜厚管理を行う点はSiO2 膜の成膜工程と同様である。
【0049】
上述したSiO2 膜の成膜工程及びTiO2 膜の成膜工程を繰り返し行い、ガラス(基板)/SiO2 (94.2nm)/TiO2 (57.3nm)/SiO2 (94.2nm)/TiO2 (57.3nm)/SiO2 (94.2nm)/TiO2 (57.3nm)/SiO2 (188.2nm )/TiO2 (57.3nm)/SiO2 (94.2nm)/TiO2 (57.3nm)/SiO2 (94.2nm)/TiO2 (57.3nm)/SiO2 (94.2nm)の13層のバンドパスフィルターを作成した。なお、このような膜構成を、ガラス/(SiO2 94.2/TiO2 57.3nm)3 /SiO2 188.2nm /(TiO2 57.3nm/SiO2 94.2nm)3 と表記する。
【0050】
この作成されたバンドパスフィルターの分光特性を図10に示す。同図中黒丸(●)は設計値であり、実線は本実施例による作成したバンドパスフィルターの分光特性の測定結果を示す。
【0051】
上記した本実施の形態に係るスパッタ装置10を利用することによって、基板18に多層膜を高速で成膜でき、かつ高精度で膜厚制御することが可能になり、WDM用フィルターやダイクロイックミラーなどを生産性よく製造することができる。
【0052】
上記実施例の場合、設計膜厚の90%の膜厚まで、ACのマグネトロンと通常のマグネトロンとを同時稼働させ、その後ACのマグネトロンのみ放電を止めて、通常のマグネトロンのみ放電を継続するようにしたが、制御方式はこの例に限定されない。例えば、90%までACのマグネトロンのみで成膜し、その後通常のマグネトロンのみで成膜するという制御方式も可能である。もちろん、ACのマグネトロンを止めるタイミングは、設計膜厚の90%成膜時点に限定されず、適宜設定可能である。
【0053】
また、上記実施例では、ACのマグネトロンへの給電中(設計膜厚の90%に到達するまでの期間)も膜厚をモニタリングしながら膜厚制御を行っているが、ACのマグネトロンへの電力供給中は膜厚のモニタリングはするが膜厚制御は行わず、予め調査されている投入電力とスパッタ時間による膜厚予測値に基づいて時間管理を行い、所定時間経過した時にACのマグネトロンへの電源を停止してもよい。そして、通常のマグネトロンのみで成膜を開始した時点で膜厚制御(例えば、電源にフィードバックさせて制御する)を開始する態様も可能である。
【0054】
基板18上で膜厚を測定する場所(測定ポイント)は、基板18の中央部の一カ所であってもよいし、回転方向に沿った横方向(すなわち「進行方向」)について複数箇所の測定を行い横方向の膜厚分布を測定してもよい。更に、基板ホルダー14の回転軸に沿った縦方向について複数の膜厚測定手段(投光ヘッド44及び受光ヘッド46)を配置して、縦方向について複数箇所で膜厚の測定を行う態様も可能である。
【0055】
図1に示したスパッタ装置10は、基板ホルダー14の内側に投光ヘッド44を配置し、受光ヘッド46はチャンバー12の外部に設置したが、投光ヘッド44と受光ヘッド46の配置関係を入れ替える態様も可能である。
【0056】
次に、上述した実施形態の変形例を説明する。
【0057】
図11は、他の実施形態に係る光学多層膜成膜用のスパッタ装置70の模式図である。図11中図1と共通する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。なお、図11では、図面の簡略化のため、ハロゲンランプ40、モノクロメータ41、光ファイバー42、受光処理部48及びパソコン50等の構成を図示しないものとする(図12及び図13においても同様)。
【0058】
図11に示したスパッタ装置70は、低屈折率膜形成用及び高屈折率膜形成用の双方について、通常のマグネトロン23、33と、ACのマグネトロン27、37の設置場所が隔てられ、各マグネトロン(23、33、27、37)と基板18との間にそれぞれ開閉可能なシャッター72、74、76、78が設けられている。同図では、低屈折率膜を成膜している状態が示され、低屈折率膜形成用の通常のマグネトロン23及びACのマグネトロン27前に配置されたシャッター72、76は開状態、高屈折率膜形成用の通常のマグネトロン33及びACのマグネトロン37前に配置されたシャッター74、78は閉状態となっている。
【0059】
同図において、反応性スパッタプロセスにより所望の膜厚が得られた時点でシャッター72、76を閉じることによって、成膜反応を確実に停止させることができるとともに、成膜に使用しないスパッタ源のシャッター74、78を閉じておくことにより、ターゲットの劣化を防止できる。低屈折率膜の成膜が完了したら、シャッター74、78を開けて高屈折率膜の成膜を実施する。
【0060】
また、図12に示したように、各マグネトロン(23、33、27、37)の左右両脇に防着板80を配置する態様も好ましい。防着板80は、プラズマの回り込みを防止する作用を有し、マグネトロン部正面に位置する基板18に対してのみ成膜作用を制限し、それ以外の基板(隣接する基板)に対する成膜を防止する。防着板80によって各マグネトロンスパッタ源の左右を個別に包囲したことにより、他のマグネトロンスパッタ源によるプラズマの影響を受けず、ターゲットへの不純物の付着を防止できる。
【0061】
図13は、カソード配置のバリエーションを示す図である。本発明の実施に際しては、図13(a)乃至(d)に示すように、カソード配置に関して種々の形態が可能である。同図中「H」なる記号は高屈折率膜形成用のカソード(マグネトロン部)を示し、「L」は低屈折率膜形成用のカソード(マグネトロン部)を示す。図13(a)は、高屈折率膜形成用のカソードと低屈折率膜形成用のカソードを離して配置した例であり、図11で説明した通りである。図13(b)はプラズマの干渉を避けるために、高屈折率膜形成用のカソードと低屈折率膜形成用のカソードを隣接させた例である。同図(c)は膜厚モニタへの干渉を避けるために、モニタ位置をカソードから離した位置に設定した例である。同図(d)は、膜厚を測定する手段として、透過型のモニタと反射型モニタとを併用した例が示されている。
【0062】
透過型モニタは、図1で説明したように、投光ヘッド44と受光ヘッド46を用いて基板18の透過率を測定する手段である。反射型モニタは、ヘッド82から基板18に向けて光を照射し、その反射光をヘッド82で受光して、受光信号の解析によって反射率を測定する手段である。図示されていないが、図1と同様のハロゲンランプ40、モノクロメータ41及び光ファイバー42を用いて反射型モニタのヘッド82に測定用の光が導かれ、ヘッド82で受光した光(反射光)は受光信号処理手段を介してパソコン50に送られる。
【0063】
図13(d)のように、透過型モニタと反射型モニタを併用する場合、透過率が低い領域は反射率の測定結果を用いて制御を行い、透過率が高い領域は透過率の測定結果を用いて制御を行う態様が好ましい。すなわち、透過式/反射式の制御の切り替えを判定するための基準となる透過率(判定基準値)を予め設定しておき、この判定基準値よりも透過率が低い場合には、反射率の測定結果を利用して制御を行い、判定基準値よりも透過率が高い場合には、透過率の測定結果を利用して制御を行う。
【0064】
図14には、本発明の実施に際して主に使用されるターゲット材と膜材料が示されている。低屈折率材料としては、既述したSiターゲットを用いてSiO2 膜を形成する態様の他、SiCターゲットを用いてSiO2 膜を形成する態様、ターゲットにSiとAlの合金を用いてSiO2 とAl2 O3 とからなる酸化物膜を形成する態様などがある。
【0065】
高屈折率材料についても、既述したTiターゲットを用いてTiO2 膜を形成する態様の他、図14に示したように、ターゲット材を選択することによって、種々の膜材料を成膜することができる。また、図14には示されていないが、ターゲット材は金属(導電性材料)以外にも、DCスパッタが可能な酸化物、窒化物、酸窒化物、炭化物等も使用可能である。
【0066】
図15は、本発明の実施に際して利用される基板の例が示されている。同図に示したように、WDM用フィルターには、基板としてOHARA社製WMS(結晶化ガラス)が使用される。また、他の光学フィルター用の基板としては、白板ガラス、硬質ガラス、人工水晶等、図15に示した各種のガラスが用途に応じて使用される。
【0067】
次に、本発明の更に他の実施形態について説明する。
【0068】
図16は、他の実施形態に係る光学多層膜成膜用のスパッタ装置100の構成図である。同図中図1及び図11に示した装置と同一または類似の部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。図16において、「低速成膜1」と記載した通常のマグネトロン23及び「高速成膜1」と記載したACのマグネトロン27は、低屈折率膜成膜用のスパッタ源である。また、「低速成膜2」と記載した通常のマグネトロン33及び「高速成膜2」と記載したACのマグネトロン37は、高屈折率膜成膜用のスパッタ源である。
【0069】
これら各マグネトロン23、27、33、37は、その中心線23A、27A、33A、37A(各マグネトロンの中心を通り、ターゲット支持面に垂直な線)が基板ホルダー14の回転中心(中心軸16)と交差するように、回転中心の方向に向いて配置されている。図16のように、基板ホルダー14によって構成される正十二角形の内接円を15A、外接円を15Bとすると、基板ホルダー14と各マグネトロン23、27、33、37までの距離は、基板ホルダー14の回転に伴い、内接円15Aから外接円15Bの範囲で変動する。同図では、基板ホルダー14の基板支持面の中心点と、該基板支持面から見た各マグネトロン23、27、33、37の中心点との距離が最小となったときの状態(基板とターゲットが対向する位置関係の状態)が示されている。
【0070】
シャッター72、74、76、78は、それぞれローラ79の回転力によって開閉動作するように構成され、スパッタ電源22、26、32、36の制御に連動して、対応するシャッター72、74、76、78の開閉が制御される。
【0071】
膜厚モニタリングシステムの光源としてハロゲンランプ40を用いる場合、図16に示すように、モノクロメータ41の出力部にチョッパ84が配置される。モノクロメータ41からの出力光(単色光)をチョッパ84によって周期的に遮光することにより、パソコン50内のCPU51において光源のノイズ成分を除去する演算が行われる。受光処理部48は、チョッパ84を作動させる変調信号を出力するとともに、入力される受光信号の電圧値をデジタル信号に変換してCPU51に提供するコントロールアンプ(図17中符号49として記載)を備えている。
【0072】
図17は、ハロゲンランプを利用する膜厚モニタリングシステムの詳細な構成を示すブロック図である。ハロゲンランプ40は、ランプ電源86から電力の供給を受けて発光する。ハロゲンランプ40から照射される光(白色光)は、モノクロメータ41によって単色化された後、チョッパ84に入射する。チョッパ84は、コントロールアンプ49から与えられる変調信号に従って作動し、チョッパ84を介して変調された単色光が出力される。この変調された単色光は、光分割手段(ハーフミラーなど)87によって2分割され、その一方は成膜空間となるチャンバー12内に導入されて測定対象の基板18(測定用試料に相当)に照射される。基板18を透過した光はフォトマルメータ85に入射し、透過光の光量に応じた電圧信号に変換される。フォトマルメータ85から出力される電圧信号は、コントロールアンプ49によってデジタル信号に変換された後、CPU51に送られる。
【0073】
また、光分割手段87で分割された他方の分岐光は、光源情報を得るための光としてフォトダイオード88に入射する。コントロールアンプ49は、フォトダイオード88に対してチョッパ84と同期する変調信号を与えており、フォトダイオード88からはモノクロメータ41から出射される光源直接光の光量に応じた電圧信号が出力される。フォトダイオード88から出力された電圧信号は、コントロールアンプ49においてデジタル信号に変換された後、CPU51に送られる。
【0074】
CPU51は、コントロールアンプ49から受入した透過光のデータと光源直接光のデータに基づいて、透過率の算出、光学膜厚の算出、並びに成膜レートの算出等の演算を行う。
【0075】
ハロゲンランプ40の白色光をモノクロメータ41によって単色化してから基板18に照射する態様に限らず、白色の測定光を基板18に照射し、受光側で単色化してもよい。この場合、受光ヘッド46の前段にモノクロメータが配置される。受光側で単色化する態様は、単色の測定光を用いる態様に比べてノイズが低減される。
【0076】
図17に示したシステム構成に代えて、図18に示すシステム構成も可能である。図18中図17と同一または類似の部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。図18に示した例では、光源部に可変波長レーザー90が用いられ、コントロールアンプ49からの変調信号によって出力波長が選択される。また、可変波長レーザー90は出力が安定しているため、図17で説明した光源直接光の監視が不要となる。
【0077】
次に、膜厚のモニタリング方法に関する他の実施形態を説明する。
【0078】
目標とする光学膜厚nd(ただし、nは膜の屈折率、dは物理膜厚) に対して、次式(1)
【0079】
【数1】
nd=mλ/4 …(1)
ただし、mは正の整数、λは光の波長とする。
【0080】
を満たすような波長λの光を測定光として用い、この測定光を成膜中の基板に垂直入射させて(入射角度=0°)、その透過率(または反射率)を測定すると、成膜された膜の光学膜厚が測定波長λの1/4の整数倍となるとき(すなわち、上記式(1)を満たすとき)に、透過率(または反射率)が極値をとる。
【0081】
図19は、ガラス基板上にTiO2 (n=2.4)の膜を形成した時の測定波長550nmに対する透過率の変化を示したグラフである。同図において、横軸は成膜された膜厚(物理膜厚d)を示し、縦軸が透過率を示す。同図に示したように、光学膜厚ndがλ/4の整数倍のときに透過率が極値を示している。
【0082】
かかる現象を利用して、目標とする膜厚に対して上記式(1)を満たす測定波長λの光を用いて、膜厚のモニタリング及び成膜制御を行うことができる。
【0083】
しかし、図1や図17で示したようなカルーセル型スパッタ装置の場合、基板ホルダー14が回転しているために、測定光の入射角度と測定位置(モニタ位置)は常に変化している。測定光の入射角度が変化したとき、透過率の値が大きく変化してしまうと、精度のよい測定及び成膜制御が困難になる。実際、10層以上の膜構成の場合、測定光の入射角度が変化することで透過率の極値の位置や透過率が変化してしまうため、従来の方法では膜厚測定及び成膜制御を行うことが困難である。
【0084】
上記のような問題を解決するための手法について、以下、具体的な例を用いて説明する。
【0085】
図20は、ガラス/(TiO2 92.9nm/SiO2 57.3nm)7 /TiO2 185.8nm /(SiO2 57.3nm/TiO2 92.9nm)7 の膜構成からなる29層1キャビティーのバンドパスフィルター(中心波長550nm)を成膜したときの波長550nmの測定光による透過率の変化を示すグラフである。
【0086】
成膜過程での各段階における膜の光学的な性質に着目して、図20に示したように区間A〜Dの4区間に区分けすることができる。
【0087】
区間A(第1層〜第12層)は、透過率が膜厚に大きく依存し、測定光の入射角度には殆ど依存しない区間である。実際、0°入射の透過率と10°入射の透過率の値はほぼ一致している。区間B(第13層〜第18層)は、透過率が膜厚にも入射角度にも殆ど依存せず、また、透過率の変化が少ない区間である。区間C(第19層〜第29層)は、透過率が膜厚にも入射角度にも依存する区間である。0°入射の透過率と、10°入射の透過率とでは大きく異なり、10°入射の透過率は小さい値(10%未満)となっている。また、区間D(第29層)は、光学特性を調整するための区間である。
【0088】
各区間ごとに、それぞれ適したモニタリング及び成膜制御を行い、モニタリングの精度と、膜の光学的性質の制御性を向上することができる。以下に、各区間での制御方法を示す。
【0089】
<区間Aでの膜厚制御>
図21は、1層目、2層目、3層目、及び9層目の成膜中に得た透過率のデータの角度依存性を示すグラフである。第1層から第12層までの区間(区間A)では、図21に示すように、入射角度が変化しても透過率は殆ど変化しない。したがって、基板が回転する中で連続的に取得される透過率のデータを入射角度±5°〜±15°程度の範囲内の平均値をとることで、垂直入射時の透過率とほぼ同等の値を得ることができる。得られた垂直入射時の透過率から、透過率が極値となる時間を算出し、実際に透過率の値が極値となる値になった時点で成膜を停止する方法により膜厚を制御することができる。なお、測定対象となる基板18は回転しているために、0°入射時には基板18の中心を測定しているが、入射角度が大きくなるほど、基板の中心からずれた位置をモニタすることになる。しかしながら、図3乃至図8で説明した傾斜形のターゲットを利用したことで、基板の進行方向に対する膜厚分布は均一化されていることと相まって、モニタ位置が変動しても膜厚を正しく測定することができる。
【0090】
<区間Bでの成膜方法>
第13層から第18層までの区間では、透過率の値が小さく、膜厚の増加に対する透過率の変化が小さいため精度のよい膜厚制御が困難である。したがって、この区間Bでは、透過率は参考データとしてのみデータを収集し、主として、第1層から第12層までの成膜工程における透過率の変化量と成膜時間の関係から、現状の成膜レートを算出して、所望の膜厚が得られる時間になったときに成膜を停止する方法により、膜厚を成膜時間で制御する。
【0091】
<区間Cでの成膜方法>
図22は、28層目以降の透過率の角度依存性を示すグラフである。第19層から第29層までの区間(区間C)では、図22に示すように、透過率の値が角度に依存して変化するため、区間Aのような制御方法が困難となる。しかし、図22に示すように、入射角度0°のときの透過率を示す点は、測定によって取得される透過率曲線が線対象の対象軸と交わる点となるため、入射角度0°のタイミングを示す厳密なトリガがなくても、測定によって得られた透過率のデータを演算処理することにより、垂直入射時(入射角度0°)の透過率を求めることができる。また、測定により得られる透過率曲線のピーク位置や、角度に対する変化率または面積(つまり曲線の形状)から極値をとる膜厚を判定することができる。更に、角度を変化させて得られた透過率曲線を近似変換することにより、図23に示すように、測定波長λの長波長側の分光透過率を得ることができる。
【0092】
図23は、入射角度0°±10°の範囲で取得される透過率曲線のデータを近似変換して得られる分光透過率のグラフである。±10°の範囲のデータを利用することにより、測定波長λ(=550nm)の長波長側、すなわち、550nm≦λ≦552.35nmの分光透過率を予測できる。この予測値は、図23に示したとおり、実際の分光透過率(実験によって確認される分光透過率)と極めて高い精度で一致している。
【0093】
<区間Dでの成膜方法>
1層目から順次成膜してきた過程の中で、実際の膜厚が目標膜厚に対して誤差を生じたために、所望の光学特性が得られていないことがある。このような場合、成膜過程の中で光学特性の修正を行う層が設けられる。本例では、この修正用の層を第29層(最終層)とし、これを区間Dとした。
【0094】
この区間Dでは、式(1)を満たすような測定波長(λ=550nm)から僅かに短波長側にずらした波長の測定光を利用して透過率の測定を行う。本例では波長λ=549nmの測定光によって測定を行い、図24に示すような信号を得た。こうして得られた測定データを用いて、前述の区間Cと同様に、近似変換を行うことにより、図25に示すように、測定波長λ=549nmの長波長側、すなわち、549nm≦λ≦552.35nmの分光透過率を求めることができる。
【0095】
このようにして求めた分光透過率は、実際の分光透過率と極めて高い精度で一致している。成膜工程中に、図25に示したような分光透過率のプロファイルを得ることにより、バンドパスフィルターの光学仕様となる「中心波長」、「特定波長での透過率」、及び「バンド幅」を全て観測することができる。これにより、目標とする仕様を満たすように確認しながら膜厚(すなわち、光学特性)を補正することが可能となり、製品の歩留り(良品率)を向上させることができる。
【0096】
上述の例では、測定波長λ=550nmから僅かに短波長側にずらした測定光としてλ=549nmの光を用いたが、測定に使用する光の波長は、測定しようとする膜の種類、段数(階層数)に応じて切り替えられる。
【0097】
上記実施の形態では、透過率を算出する例を述べたが、本発明の実施に際しては、透過率に代えて、またはこれと併せて、反射率を算出してもよい。
【0098】
上述した実施形態におけるスパッタ装置10、70、100では、装置内の全てのマグネトロン部に傾斜形ターゲットを装着したが、本発明の実施に際しては、一つの装置内に通常ターゲットと傾斜形ターゲットとが混在する態様も可能である。
【0099】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、カルーセル型スパッタ装置において、従来の平板形のターゲットに代えて、又はこれと併用して、傾斜形のターゲットを用いたことにより、基板の進行方向についての膜厚の均一化を実現できる。また、本発明の態様によれば、スパッタ装置の構成条件に応じて最適な傾斜角度を設計し、ターゲット自体を加工してその傾斜角度の斜面を形成するため、マグネトロン部の構造やその配置などについて既存のスパッタ装置の主要構成に関する設計変更が不要であり、簡便に膜厚の均一化を達成できる。
【0100】
特開平3−253568号に開示されているように、二つのカソードと、該カソードに電力を印加するための二つの電源を用いたスパッタリング方法(装置)で膜厚の均一化を図る場合は、成膜速度に影響する要因の差をカソード間で小さくすることが困難であるが、本発明によれば、膜厚の均一化を図るカソード−電源システムは一つの電源のみを有する構成が可能となるために、前述した要因への影響は小さく、より簡単に膜厚の均一化を図れるとともに、従来と比較して装置の構成もコンパクトで安価にできるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る光学多層膜成膜用のスパッタ装置の構成を示す平面模式図
【図2】図1に示した装置で使用される基板ホルダーの斜視図
【図3】(a)は本発明の実施形態に係るターゲットの断面図、(b)はその平面図
【図4】傾斜形のターゲットの作用を説明した模式図
【図5】図4に示した傾斜形のターゲットを用いた成膜による膜厚分布と、従来の平板形のターゲット(通常ターゲット)を用いた成膜による膜厚分布とを比較したグラフ
【図6】高速成膜用のスパッタ源に適用される傾斜形のターゲットの構成図
【図7】図6に示した傾斜形のターゲットを用いた成膜による膜厚分布と、従来の平板形のターゲット(通常ターゲット)を用いた成膜による膜厚分布とを比較したグラフ
【図8】高速成膜用のスパッタ源に適用される傾斜形のターゲットの他の構成例を示す図
【図9】本実施例における膜厚モニタの信号例を示すグラフ
【図10】本実施例により作成したバンドパスフィルターの分光特性を示すグラフ
【図11】本発明の他の実施形態に係る光学多層膜成膜用のスパッタ装置の模式図
【図12】図11に示したスパッタ装置に防着板を付加した例を示す模式図
【図13】種々のカソード配置の例を示す図
【図14】本発明で主に使用されるターゲット材と膜材料を例示した図表
【図15】本発明で使用される基板の例を示した図表
【図16】本発明の他の実施形態に係る光学多層膜成膜用のスパッタ装置の構成図
【図17】ハロゲンランプを利用する膜厚モニタリングシステムの詳細な構成を示すブロック図
【図18】可変波長レーザーを利用する膜厚モニタリングシステムの詳細な構成を示すブロック図
【図19】ガラス基板上にTiO2 を成膜した時の波長550nmの光透過率の変化を示すグラフ
【図20】ガラス/(TiO2 92.9nm/SiO2 57.3nm)7 /TiO2 185.8nm /(SiO2 57.3nm/TiO2 92.9nm)7 の膜構成からなる29層1キャビティーのバンドパスフィルター(中心波長550nm)を成膜したときの波長550nmの測定光による透過率の変化を示すグラフ
【図21】図20中の区間Aにおける成膜中に得た透過率のデータの角度依存性を示すグラフ
【図22】図20中の第28層目以降の成膜中に測定される透過率の角度依存性を示すグラフ
【図23】測定波長550nmを用いて入射角度0°±10°の範囲で取得される透過率曲線のデータを近似変換して得られる分光透過率のグラフ
【図24】測定波長549nmを用いて入射角度0°±10°の範囲で取得される透過率曲線のデータを示すグラフ
【図25】図24に示したデータを近似変換して得られる分光透過率のグラフ
【図26】従来のカルーセル型スパッタ装置における膜厚分布の不均一性を説明した模式図
【符号の説明】
10…スパッタ装置、12…チャンバー、14…基板ホルダー、16…中心軸(回転軸)、17…ドラム、18…基板、20…マグネトロンスパッタ源(低屈折率膜形成用のマグネトロンスパッタ源)、21…マグネトロン部、22…電源、23…通常のマグネトロン、23A…中心線、24,25…マグネトロン部、26…交流電源、27…ACのマグネトロン、27A…中心線、30…マグネトロンスパッタ源(高屈折率膜形成用のマグネトロンスパッタ源)、31…マグネトロン部、32…電源、33…通常のマグネトロン、33A…中心線、34,35…マグネトロン部、36…交流電源、37…ACのマグネトロン、37A…中心線、40…ハロゲンランプ、41…モノクロメータ、42…光ファイバー、44…投光ヘッド、46…受光ヘッド、48…受光処理部、49…コントロールアンプ、50…パソコン、51…CPU、52,53,54…Tiターゲット、62,63,64…Siターゲット、70…スパッタ装置、72,74,76,78…シャッター、80…防着板、82…反射型モニタのヘッド、84…チョッパ、85…フォトマルメータ、86…ランプ電源、87…光分割手段、88…フォトダイオード、90…可変波長レーザー、92…ターゲット、92A,92B…ターゲット傾斜面、92C…稜線、94,95,96,97…ターゲット、96A,96B,97A,97B…傾斜面、100…スパッタ装置
Claims (7)
- チャンバー内に横断面が多角形状または円形状のドラムが回転自在に設置され、該ドラムの外周面上に基板ホルダーが設けられ、チャンバー壁の内側にはターゲットと該ターゲットを保持するマグネトロン部からなるマグネトロンスパッタ源が配置され、前記ターゲットは前記ドラムの回転軸と平行となるように前記マグネトロン部により保持された構造を有するカルーセル型スパッタ装置において、
前記マグネトロンスパッタ源は、単一のマグネトロン部にターゲットが取り付けられたマグネトロンスパッタ源であり、
前記ターゲットは、前記基板ホルダーに取り付けられる基板と対向する位置関係になったときに、前記基板に対面するターゲット面が基板面に対して平行とならないように前記ターゲット面が所定の傾斜角度を有するものであり、
前記ターゲットは、前記ターゲット面に稜線を有し、該稜線の左右両側に傾斜面が構成されていることを特徴とするスパッタ装置。 - チャンバー内に横断面が多角形状または円形状のドラムが回転自在に設置され、該ドラムの外周面上に基板ホルダーが設けられ、チャンバー壁の内側にはターゲットと該ターゲットを保持するマグネトロン部からなるマグネトロンスパッタ源が配置され、前記ターゲットは前記ドラムの回転軸と平行となるように前記マグネトロン部により保持された構造を有するカルーセル型スパッタ装置において、
前記マグネトロンスパッタ源は、隣接して配置された二つのターゲットのアノード/カソードの関係を所定周波数で交互に切り替えるAC型マグネトロンスパッタ源であり、
前記ターゲットは、前記基板ホルダーに取り付けられる基板と対向する位置関係になったときに、前記基板に対面するターゲット面が基板面に対して平行とならないように前記ターゲット面が所定の傾斜角度を有するものであり、
前記ターゲットは、前記ターゲット面に稜線を有し、該稜線の左右両側に傾斜面が構成されており、
前記二つのターゲットは、互いの前記稜線が平行となるように配置されることを特徴とするスパッタ装置。 - チャンバー内に横断面が多角形状または円形状のドラムが回転自在に設置され、該ドラムの外周面上に基板ホルダーが設けられ、チャンバー壁の内側にはターゲットと該ターゲットを保持するマグネトロン部からなるマグネトロンスパッタ源が配置され、前記ターゲットは前記ドラムの回転軸と平行となるように前記マグネトロン部により保持された構造を有するカルーセル型スパッタ装置において、
前記マグネトロンスパッタ源は、隣接して配置された二つのターゲットのアノード/カソードの関係を所定周波数で交互に切り替えるAC型マグネトロンスパッタ源であり、
前記ターゲットは、前記基板ホルダーに取り付けられる基板と対向する位置関係になったときに、前記基板に対面するターゲット面が基板面に対して平行とならないように前記ターゲット面が所定の傾斜角度を有するものであり、
前記ターゲットは、前記ターゲット面として一方向に傾斜する単一の傾斜面を有し、
前記二つのターゲットは互いに線対称の関係で配置され、これら二つのターゲットの組み合わせによって逆V字形のターゲット面が構成されることを特徴とするスパッタ装置。 - 請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスパッタ装置を用いて成膜を行うことを特徴とするスパッタ成膜方法。
- チャンバー内に横断面が多角形状または円形状のドラムが回転自在に設置され、該ドラムの外周面上に基板ホルダーが設けられ、チャンバー壁の内側にはターゲットと該ターゲットを保持するマグネトロン部からなるマグネトロンスパッタ源が配置され、前記マグネトロンスパッタ源は、単一のマグネトロン部にターゲットが取り付けられたマグネトロンスパッタ源であり、前記ターゲットは前記ドラムの回転軸と平行となるように前記マグネトロン部により保持された構造を有するカルーセル型スパッタ装置に適用されるターゲットであって、該ターゲットは、
前記基板ホルダーに取り付けられる基板と対向する位置関係になったときに、前記基板に対面するターゲット面が基板面に対して平行とならないように前記ターゲット面が所定の傾斜角度を有するものであり、
前記ターゲットは、前記ターゲット面に稜線を有し、該稜線の左右両側に傾斜面が構成されていることを特徴とするターゲット。 - チャンバー内に横断面が多角形状または円形状のドラムが回転自在に設置され、該ドラムの外周面上に基板ホルダーが設けられ、チャンバー壁の内側にはターゲットと該ターゲットを保持するマグネトロン部からなるマグネトロンスパッタ源が配置され、前記マグネトロンスパッタ源は、隣接して配置された二つのターゲットのアノード/カソードの関係を所定周波数で交互に切り替えるAC型マグネトロンスパッタ源であり、前記ターゲットは前記ドラムの回転軸と平行となるように前記マグネトロン部により保持された構造を有するカルーセル型スパッタ装置に適用されるターゲットであって、該ターゲットは、
前記基板ホルダーに取り付けられる基板と対向する位置関係になったときに、前記基板に対面するターゲット面が基板面に対して平行とならないように前記ターゲット面が所定の傾斜角度を有するものであり、
前記ターゲットは、前記ターゲット面に稜線を有し、該稜線の左右両側に傾斜面が構成されており、
前記二つのターゲットは、互いの前記稜線が平行となるように配置されることを特徴とするターゲット。 - チャンバー内に横断面が多角形状または円形状のドラムが回転自在に設置され、該ドラムの外周面上に基板ホルダーが設けられ、チャンバー壁の内側にはターゲットと該ターゲットを保持するマグネトロン部からなるマグネトロンスパッタ源が配置され、前記マグネトロンスパッタ源は、隣接して配置された二つのターゲットのアノード/カソードの関係を所定周波数で交互に切り替えるAC型マグネトロンスパッタ源であり、前記ターゲットは前記ドラムの回転軸と平行となるように前記マグネトロン部により保持された構造を有するカルーセル型スパッタ装置に適用されるターゲットであって、該ターゲットは、
前記基板ホルダーに取り付けられる基板と対向する位置関係になったときに、前記基板に対面するターゲット面が基板面に対して平行とならないように前記ターゲット面が所定の傾斜角度を有するものであり、
前記ターゲットは、前記ターゲット面として一方向に傾斜する単一の傾斜面を有し、
前記二つのターゲットは互いに線対称の関係で配置されることにより、これら二つのターゲットの組み合わせによって逆V字形のターゲット面が構成されることを特徴とするターゲット。
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