JP4277553B2 - 軟質材加工用工具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、多孔性の樹脂・ゴム・ポリウレタンラバーなどからなるパッド、例えば、半導体ウエハなどの研磨用パッドの表面を加工・調整するための工具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、半導体産業の進展とともに、金属、半導体、セラミックなどの表面を高精度に仕上げる加工方法の必要性は高まっている。とくに、半導体ウエハは、集積度の向上とともにナノメーター(1/1000ミクロン)オーダーの表面仕上げが要求されてきており、このため、多孔性のパッド(研磨布)を用いた、CMP研磨(メカノケミカル研磨)が一般的となっている。
【0003】
半導体ウエハなどの研磨に用いられるパッドは、研磨時間が経過していくにつれ、目詰まりや圧縮変形を生じ、その表面状態が次第に変化していく。すると、研磨速度の低下などの好ましくない現象が生じるので、パッドの表面を定期的に加工・調整して荒すことにより、パッドの表面状態を一定に保って、良好な研磨状態を維持する工夫が行われている。
【0004】
このパッドを加工・調整するために用いられるパッドコンディショナーの一例として、特許文献1に開示されているように、基材の表面に、上方に突出する複数の凸部が形成されたものがある。
このようなパッドコンディショナーは、その基材の表面を、軸線回りに回転させられているパッドの表面に対して一定の荷重で押し当てることにより、この基材がパッドの回転運動にともなって回転運動を行い、パッドの表面に食い込んでいる凸部によってパッドの表面を切削して加工・調整していくものである。
【0005】
【特許文献1】
国際公開第01/26862号パンフレット(第7〜12図)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、例えば特許文献1の第7〜9図に示されるようなパッドコンディショナーを用いた場合には、本願の図3(a)に示すように、パッドPが多孔性の樹脂・ゴム・ポリウレタンラバーなどの弾性変形をする材料から構成されているため、基材1の表面1Aに形成された凸部2がパッド表面P1に食い込むことで、この凸部2が接触するパッド表面P1には、凸部2から逃げるような凹部状をなす変形領域P2が生じてしまう。
すると、基材1の回転(回転方向T)による凸部2のパッド表面P1に対する回転方向T前方側への相対移動にともなって、凸部2から逃げるような凹部状の変形領域P2も凸部2の移動方向と同一方向へ随時移動していく(図中白抜き矢印)こととなり、切刃をなす凸部2がパッド表面P1に対して効率的に作用せず、加工効率が悪くなってしまっていた。
なお、例えば特許文献1の第10〜12図に示されるようなパッドコンディショナーを用いたとしても、本願の図3(b)に示すように、上記と同様の現象が生じてしまう。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、加工効率を向上することのできる、パッド表面の加工・調整用の工具を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りに被削材切削方向に回転される基材の表面に、少なくとも1つの台座が上方に突出して形成され、前記台座の上面に、切刃稜線を有する凸部が、1つの前記台座に対して1つ、前記台座の上面における周縁領域のうちの少なくとも回転方向前方側の領域を除いた領域において上方に突出するように形成されており、前記台座の上面からの前記凸部の高さが0.01〜0.1mmの範囲に設定されるとともに、前記台座の上面の周縁領域において前記凸部よりも被削材切削方向前方側に位置する領域の該被削材切削方向に沿った長さが0.2〜0.5mmの範囲に設定されていて、さらに、少なくとも前記凸部における切刃稜線部分が、耐摩耗性材料で構成されていることを特徴とする。
このような構成とすると、被削材としてのパッドの表面に対して、凸部を食い込ませるだけではなく台座を押しつけることにより、台座の上面の周縁領域における少なくとも被削材切削方向前方側(軸線回りに回転される略円板状をなす基板の回転方向前方側)の領域、つまり、少なくとも凸部の移動方向前方側の領域が、凸部の食い込みによって生じた凹部状の変形領域の周囲における少なくとも被削材切削方向前方側部分を押さえつけることとなる。
そのため、少なくとも凸部の切刃稜線によって切削される直前のパッド表面が、台座の上面の周縁領域によって押さえつけられて拘束されるので、パッド表面に生じる凹部状の変形領域の、凸部と同一方向への移動を抑制して、凸部の切刃稜線をパッド表面に対して効率的に作用させることができる。
加えて、少なくとも凸部における切刃稜線部分が、耐摩耗性材料で構成されていることから、この切刃稜線に耐摩耗性を与えることができるので、長期間に亘って、切れ味を劣化させることなく安定したパッドの調整作用を呈することが可能となる。
【0009】
また、前記台座の上面に、前記凸部が、前記台座の上面における周縁領域のうちの少なくとも被削材切削方向前方側及び後方側の領域を除いた領域において上方に突出するように形成されていることが好ましく、このような構成とすると、パッド表面に生じた凹部状の変形領域の周囲を、台座の上面の周縁領域で、より確実に押さえつけて拘束することができる。
【0010】
また、前記凸部は、その上面に平坦面が存在させられていることが好ましく、このような構成とすると、基材の表面がパッド表面に対して一定の荷重で押しつけられたときに、凸部のパッド表面に対する食い込みによってできる凹部状の変形領域を適切な形状に生じさせ、この凹部状の変形領域の周囲を、台座の上面の周縁領域によって押さえつけて拘束しやすくすることができる。
【0011】
ここで、少なくとも凸部における切刃稜線部分を、耐摩耗性材料で構成するため、例えば、少なくとも前記凸部における切刃稜線部分を、気相合成ダイヤモンドでコーティングするようにしてもよい。
このとき、気相合成ダイヤモンドのコーティング層の層厚は、0.5〜20μmの範囲に設定されていることが好ましく、この層厚が、0.5μmより小さくなると、切刃稜線に与えられる耐摩耗性が十分ではなく、寿命が低下してしまうおそれがあり、一方、コーティング層の層厚が、20μmより大きくなっても、逆にコーティング層が脆くなって、クラックを生じやすくなるおそれがある。
さらに、このとき、気相合成ダイヤモンドのコーティング層は、凸部における切刃稜線部分だけに形成されているのでもよいが、凸部や台座を含むように基材の表面の全面に亘って形成されていることが好ましく、このような構成とした場合には、たとえ、溶出による汚染のおそれがある材料から基材を構成したとしても、この基材の表面の全面がコーティングされていることによって、溶出による汚染を防止することができ、しかも、凸部や台座の強度をより向上させることが可能となる。
【0012】
ここで、少なくとも凸部における切刃稜線部分を、耐摩耗性材料で構成するため、例えば、少なくとも前記凸部における切刃稜線部分を、セラミックスで構成するようにしてもよい。
このとき、上記のセラミックスは、凸部における切刃稜線部分だけを構成しているのでもよいが、凸部や台座を含むように基材における少なくとも表面の全面を構成していることが好ましく、このような場合には、基材の溶出による汚染を防止することができ、しかも、凸部や台座の強度をより向上させることが可能となる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を添付した図面を参照しながら説明する。
図1(a)は本実施形態による軟質材加工用工具の平面図、(b)は(a)における要部拡大斜視図、(c)は(a)におけるX−X線断面図である。
【0014】
本実施形態による軟質材加工用工具の基材10は、軸線Oを中心として、軸線O回りに回転(回転方向T=被削材切削方向)される略円板状をなすものであり、その表面11における中央領域を除いた周縁領域には、上方に向けて突出する少なくとも1つの台座12が形成されており、本実施形態では、上方に向けて突出する複数の台座12が周方向で略等間隔に配置されるように形成されている。
これら複数の台座12は、それぞれ同一形状の略円柱状を呈しており、略円形面状をなす上面13の全面が、基材10の表面11と略平行な平坦面とされるとともに、基材10の表面11からの高さDが、0.05mm以上に設定されている(例えばD=0.15mm)。
【0015】
また、複数の台座12のそれぞれの上面13(平坦面)において、その周縁領域(台座12における上面13と周面(側面)とが交差してできる略円形状の交差稜線14を含むような周縁領域)のうちの少なくとも回転方向T前方側(略円板状をなす基板10の軸線Oから径方向外周側へ向かって延びる直線よりも前方側)及び後方側(略円板状をなす基板10の軸線Oから径方向外周側へ向かって延びる直線よりも後方側)の領域を除いた領域に、上方に突出する1つの凸部15が形成されており、本実施形態では、複数の台座12のそれぞれの上面13において、その周縁領域のうちの回転方向T前方側及び後方側だけでなく、周縁領域のうちの(基材10の)径方向内周側及び外周側の領域などを含む周縁領域すべてを除いた中央領域に、上方に突出する1つの凸部15が形成されている。
なお、これら複数の凸部15も、台座12と同様にそれぞれ同一形状の略円柱状を呈しているため、略円形面状をなす台座12の上面13は、実際には、その周縁領域のみから構成された略リング面状をなしている。
【0016】
このように、1つの台座12のそれぞれに対して、その上面13の中央領域に1つの凸部15が上方に突出して形成されているため、これら台座12及び凸部15は、外径の大きな略円柱状をなす台座12と外径の小さな略円柱状をなす凸部15とが同軸に接続されたような2段突起状をなしており、基材10の表面11には、複数の台座12と同じ数だけ、複数の凸部15が存在することになる。
また、凸部15の略円形面状をなす上面16の全面が、基材10の表面11と略平行な平坦面とされるとともに、台座12の上面13からの高さCが、0.01〜0.1mmの範囲に設定されており(例えばC=0.05mm)、凸部15における上面16(平坦面)と周面(側面)とが交差してできる略円形状の交差稜線が、この凸部15の有する切刃17となっている。
【0017】
ここで、台座12とこの上面13に形成された凸部15とを、それらの中心を通るようにして、基材10の回転方向Tに沿った断面で見たとき、図1(c)に示すように、凸部15の上面16における回転方向Tに沿った長さA(略円柱状をなす凸部15の外径と略同一)は、0.05〜1.0mmの範囲に設定されている(例えばA=0.2mm)。
【0018】
また、同じく図1(c)に示すように、凸部15が、台座12の上面13における周縁領域のうちの回転方向T前方側及び後方側の領域を除いた領域に形成されているため、凸部15の回転方向T前方側及び後方側には、台座12の上面13の略リング面状の周縁領域における回転方向T前方側及び後方側の領域が連なることとなり、それらの回転方向Tに沿った長さ(凸部15よりも回転方向T前方側・後方側に位置する台座12の上面13における回転方向Tに沿った長さ)Bは、それぞれ0.2mm以上に設定されている(例えばB=0.2mm)。
【0019】
とくに、本実施形態では、凸部15が、台座12の上面13における周縁領域すべてを除いた中央領域に形成されているため、凸部15の周囲には、台座12の上面13の略リング面状の周縁領域すべてが連なることになるのであって、この周縁領域の幅が、全周に亘って、上記のBと同様の範囲に設定されている。
【0020】
このような複数の台座12及び複数の凸部15が表面11に配置された基材10は、例えば、略円板状をなす基材の平坦な表面に対して切削加工等を施すことによって製造され、基材10の表面11に、この表面11と一体となった複数の台座12及び複数の凸部15が形成されるのである。
【0021】
そして、上述したような基材10において、その表面11と一体に形成された凸部15における少なくとも切刃稜線17部分が、気相合成ダイヤモンド18によって、0.5〜20μmの層厚tでコーティングされており、本実施形態においては、複数の凸部15及び複数の台座12を含む基材10の表面11の全面が、気相合成ダイヤモンド18でコーティングされ、そのコーティング層の層厚tは、例えば10μmとされている。
これにより、凸部15における少なくとも切刃稜線17部分が、ビッカース硬さ13GPa以上の硬さを有する耐摩耗性材料で構成されることとなる。
【0022】
このような気相合成ダイヤモンド18のコーティング層は、上記のような複数の台座12及び複数の凸部15を有する基材10に対して、例えば、マイクロ波プラズマを利用する方法や熱フィラメントを利用する方法などの既存の方法を用いることにより、複数の台座12及び複数の凸部15を含む表面11の全面に亘って形成される。
【0023】
ここで、基材10を構成する材料に関しては、気相合成ダイヤモンド18によるコーティングのしやすさ、台座12や凸部15の形成しやすさ、及び、実用に耐えるための機械的特性等の観点から、例えば、以下に示すようなものが挙げられる。
▲1▼
4a族、5a族、6a族のうちのいずれかの金属もしくはシリコンの炭化物、窒化物もしくは炭窒化物、
4a族、5a族、6a族のうちのいずれかの金属とシリコンとの炭化物、窒化物もしくは炭窒化物、
シリコン、
のうちのいずれか1種、または、これらの複合体。
▲2▼
4a族、5a族、6a族のうちのいずれかの金属もしくはシリコンの炭化物、窒化物もしくは炭窒化物のうちの少なくとも1種と、
鉄、ニッケルもしくはコバルトのうちの少なくとも1種との複合体よりなる超硬合金。
▲3▼
シリコンもしくはアルミニウムの窒化物もしくは酸化物のうちのいずれか1種、
または、これらの複合体。
【0024】
上記のような構成とされた軟質材加工用工具は、基材10の裏面にSUSや樹脂等からなる板材が貼り付けられたり、基材10がSUS等の板材に形成された凹みに焼き嵌めされたりして組み付けられてから、実際の加工に用いられることになる。
そして、組み付けられた状態の軟質材加工用工具は、図2の要部拡大断面図に示すように、その基材10の表面11を、軸線回りに回転させられている多孔性の樹脂・ゴム・(独立気泡を有する)ポリウレタンラバーなどからなるパッドPの表面P1に対して一定の荷重で押し当てることにより、基材10がパッドPの回転運動にともなって軸線O回りの回転運動(回転方向T=被削材切削方向)を行い、パッド表面P1に食い込んでいる複数の凸部15に形成された切刃稜線17で、被削材としてのパッド表面P1を切削する(実際には、切刃稜線17をコーティングしている気相合成ダイヤモンド18が、パッド表面P1を切削することになる)とともに、切刃稜線17にて生成される切屑が、凸部15同士の間に位置する隙間や台座12同士の間に位置する隙間などを介して排出されていく。
【0025】
このとき、本実施形態では、凸部15が台座12の上面13から突出形成されているとともに、台座12も基材10の表面11から突出形成されていて、これら凸部15及び台座12が2段突起状をなしていることから、パッドPの表面P1には、凸部15が食い込んでいるだけではなく台座12が押しつけられた状態となり、2段突起状の凸部15及び台座12が接触したパッドPの表面P1にも、凸部15及び台座12から逃げるような2段凹部状の変形領域を生じさせている。
【0026】
つまり、パッド表面P1において、凸部15の上面16の食い込みによる凹部状の変形領域P2の周囲に、台座12の上面13における略リング面状の周縁領域の押しつけによる凹部状の変形領域P3が生じており、凸部15の食い込みによる凹部状の変形領域P2の周囲すべてが、台座12の上面13における略リング面状の周縁領域によって押さえつけられて拘束されているのである。
【0027】
そのため、基材10の回転(回転方向T)により、凸部15がパッド表面P1に対して回転方向T前方側(被削材切削方向前方側)へ相対移動を行っても、凸部15が食い込むことによって生じる凹部状の変形領域P2は、その周囲が台座12の上面13の略リング面状の周縁領域によって押さえつけられて拘束されているために、凸部15の移動方向と同一方向への移動が抑制される。
これにより、凸部15の切刃稜線17を、パッド表面P1に対して効率的に作用させることができて、パッド表面P1の加工効率を格段に向上させることができる。
【0028】
とくに、台座12の上面13の略リング面状の周縁領域のうちでも、その回転方向T前方側(被削材切削方向前方側)の領域が、凹部状の変形領域P2の周囲における回転方向T前方側部分(被削材切削方向前方側部分)、つまり、凸部15の切刃稜線17が作用する直前のパッド表面P1を押さえつけて拘束しているので、凸部15の切刃稜線17をより効率的にパッド表面P1に作用させることができている。
【0029】
なお、凸部15の移動方向については、基材10の表面11とパッドPの表面P1との接触位置やそれらの回転速度などによって、基材10の回転方向T前方側だけではなく、基材10の回転方向T後方側などになってしまうこともあるが、本実施形態では、凸部15の食い込みによる凹部状の変形領域P2の周囲すべてが、台座12の上面13の周縁領域によって押さえつけられて拘束されているので、どの方向に向かって凸部15が移動したとしても、凸部15の切刃稜線17が作用する直前のパッド表面P1を拘束することができ、切刃稜線17がパッド表面P1に対してより効率的に作用するのを可能にしている。
【0030】
また、凸部15が平坦な上面16を有していて、その回転方向Tに沿った長さAが、0.05〜1.0mmの範囲に設定されているため、凸部15がパッド表面P1に食い込んでできる凹部状の変形領域P2を適切な形状に生じさせて、その周囲を台座12の上面13の周縁領域で確実に拘束することができている。
ここで、この長さAが、0.05mmより小さくなると、凸部15の食い込みによる凹部状の変形領域P2が小さくなりすぎて、台座12の上面13の周縁領域による凹部状の変形領域P2の周囲の拘束が不十分となるおそれがあり、一方、長さAが1.0mmより大きくなると、凸部15の食い込みによる凹部状の変形領域P2の深さが浅くなりすぎて、台座12の上面13の周縁領域による凹部状の変形領域P2の周囲の拘束ができなくなってしまうおそれがある。
なお、この長さAは、0.1〜0.8mmの範囲に設定することが好ましい。
【0031】
そして、台座12の上面13の周縁領域において、凸部15よりも回転方向T前方側及び後方側に位置する領域の回転方向Tに沿った長さB(周縁領域の幅)が、0.2mm以上に設定されているため、台座12の上面13の周縁領域の面積を十分に大きく確保して、凸部15のパッド表面P1への食い込みによって生じる凹部状の変形領域P2の周囲を確実に押さえつけて拘束できているのであり、この長さBが、0.2mmより小さくなると、凹部状の変形領域P2の周囲を押さえつけて拘束するのに必要な台座12の上面13の周縁領域の面積を十分に確保できなくなってしまうおそれがある。
なお、この長さBは、0.2〜0.5mmの範囲に設定されている。
【0032】
しかも、凸部15の上面16の(台座12の表面13からの)高さCが、0.01〜0.1mmの範囲に設定されているため、凸部15のパッド表面P1への食い込みによって生じる凹部状の変形領域P2を適切な形状に生じさせて、その周囲を台座12の上面13の周縁領域で確実に拘束することができているとともに、パッド表面P1の加工・調整を安定して継続することができている。
ここで、この高さCが、0.01mmより小さくなると、凸部15の食い込みによる凹部状の変形領域P2が小さくなりすぎて、台座12の上面13の周縁領域による凹部状の変形領域P2の周囲の拘束が不十分となるおそれがあり、一方、高さCが、0.1mmより大きくなると、凸部15のパッド表面P1に対する食い込み量が大きくなりすぎて、軟質材加工用工具の動作に不具合が生じたり、ひどいときには動作不能になってしまうおそれがある。
【0033】
また、台座12の上面13の(基材10の表面11からの)高さDが、0.05mm以上に設定されているため、基材10の表面11がパッド表面11に対して全面接触することなく、パッド表面P1の加工・調整を安定して継続することができており、この高さDが、0.05mmより小さくなると、基材10の表面11がパッド表面P1に全面接触して、摩擦抵抗の増大と荷重の分散とが生じ、かえって加工効率の低下を招いてしまうおそれがある。
なお、この高さDは、0.1〜0.5mmの範囲に設定することが好ましい。
【0034】
さらには、凸部15における切刃稜線17部分を含んで、基材10の表面11の全面が、気相合成ダイヤモンド18によって、その層厚tが0.5〜20μmの範囲となるようにコーティングされていることから、この切刃稜線17に対して、十分な耐摩耗性を与えることができ、長期間に亘って、切れ味を劣化させることなく安定したパッドの調整作用を維持していくことが可能となり、かつ、凸部15の強度をより向上させることができる。
ここで、この層厚tが、0.5μmより小さくなると、切刃稜線17に与えられる耐摩耗性が十分ではなくなり、一方、層厚tが、20μmより大きくなると、逆にコーティング層が脆くなって、クラックを生じやすくなってしまう。
なお、この層厚tは、2〜10μmの範囲に設定することが好ましい。
【0035】
また、例えば、半導体ウエハのCMP研磨中において、これと同時に、半導体ウエハ研磨用のパッド表面を加工、調整するような場合には、軟質材加工用工具の基材10を構成する材料が溶出することで、半導体ウエハの汚染につながるおそれがあるため、この基材10には、上述した基材10を構成する材料▲1▼〜▲3▼のうち、▲1▼,▲3▼のような、溶出による汚染のおそれが比較的少ない材料を用いることが多い。
しかしながら、本実施形態による軟質材加工用工具では、その基材10の表面11の全面に亘って、気相合成ダイヤモンド18のコーティング層が形成されていることから、たとえ、▲2▼のような、溶出による汚染のおそれがある材料を用いて基材10を構成したとしても、そのような汚染の心配が生じることがない。
【0036】
なお、本実施形態においては、少なくとも凸部15における切刃稜線17部分を気相合成ダイヤモンド18でコーティングすることによって、この切刃稜線部分17が、ビッカース硬さ13GPa以上の硬さを有する材料で構成されるようになっているが、これに限定されることはなく、少なくとも凸部15における切刃稜線部分17をセラミックスで構成する(好ましくは、複数の凸部15が形成された基材10の表面11の全面を含んだ基材10全体をセラミックスで構成する)ことによって、この切刃稜線17部分が、ビッカース硬さ13GPa以上の硬さを有する耐摩耗性材料で構成されるようになっていてもよい。
このような場合であっても、上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。ここで、基材10を構成する材料であるセラミックスに関しては、台座12及び凸部15の形成しやすさ、及び、実用に耐えるための機械的特性等の観点から、例えば、SiC、Si3N4やアルミナなどが挙げられる。
【0038】
また、本実施形態においては、台座12の上面13及び凸部15の上面16の全面が平坦面とされているが、これに限定されることはなく、台座12の上面13や凸部15の上面16には平坦面が存在してさえいればよい。例えば、台座12の上面13や凸部15の上面16が、基材10の表面11側へ凹まされてなる凹部を備えた平坦面を有するものであってもよいし、あるいは、その稜線部に面取りが施されてなる平坦面を有するものであってもよい(凸部15については、その上面16に存在する平坦面の稜線部だけが切刃として作用するのではなく、面取りによって形成された面同士の交差稜線なども切刃として作用することがある)。
さらに、本実施形態においては、台座12の上面13や凸部15の上面16に存在する平坦面が、基材10の表面11と略平行なものとなっているが、これに限定されることはなく、台座12の上面13や凸部15の上面16に存在する平坦面は、基材10の表面11に対して多少の傾斜を有するようなものであってもよい。
【0039】
加えて、本実施形態においては、略円板状をなす基材10を用いているが、これに限定されることなく、他の形状の基材、例えば、平坦な表面を有する略直方体状の基材を用いたり、あるいは、凸状に湾曲した表面を有する基材(断面円弧状の外周面(表面)を有する略円柱状の基材)を用いて、パッド表面の加工・調整を行ったとしても、何の遜色もなく、上述したような効果を奏することができる。
【0040】
【実施例】
以下、本発明の一例を実施例として、従来例との比較試験を行うことにより、本発明の有効性を検証した。
シリコンからなる略円板状をなす基材の表面に対して、切削加工を施すことにより、表面11に略円柱状をなす複数の台座12が形成され、かつ、これら複数の台座12の上面13のそれぞれにおける周縁領域を除いた中央領域に、略円柱状をなす1つの凸部15が形成された基材10(実施例1)と、表面1Aに略円柱状をなす複数の凸部2が形成された基材1(従来例1,2)とを得た。
ここで、実施例1における2段突起状の台座12及び凸部15の寸法A〜Dと、従来例1,2における1段突起状の凸部2の寸法A,C(凸部2の上面における基材1の表面1Aからの高さA,凸部2の上面における回転方向Tに沿った長さA)とは、以下に示す表1の通りである。
【0041】
次に、このような基材を、マイクロ波CVD装置内に設置して、その表面の全面に亘って気相合成ダイヤモンドのコーティング層をコーティングすることにより、3つの軟質材加工用工具(実施例1、従来例1,2)を用意した。
これらの軟質材加工用工具(実施例1、従来例1,2)を、研磨装置(ムサシノ電子MA−300)に設置して、発砲ウレタン製の半導体ウエハ研磨用パッド(IC1000)の表面を切削した結果を表1に示す。
なお、表1におけるパッド除去レートとは、実施例1による軟質材加工用工具を用いたときのパッド表面P1の切削量を100としたときの割合で示した。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示されるように、本発明の一例である実施例1は、台座12の上面13の周縁領域によって、凸部15の食い込みによって生じた凹部状の変形領域P2の周囲を押さえつけて拘束できたので、凸部15の切刃稜線17をパッド表面P1に対して効率的に作用させることができていたのに対し、比較例1では、パッド表面P1を拘束することができなかったので、凸部2の切刃稜線が効率的にパッド表面P1に作用せず、パッド除去レートが10と低くなり、また、比較例2では、凸部2の上面の高さCが低すぎたために、基材1の表面1Aとパッド表面P1との接触面積が増大して、凸部2の切刃稜線に荷重が集中しなくなって、比較例1と同じく、凸部2の切刃稜線が効率的にパッド表面P1に作用せず、パッド除去レートが25と低くなっているのが分かる。
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、パッド表面に対して凸部を食い込ませるだけではなく台座を押しつけることにより、台座の上面の周縁領域における少なくとも被削材切削方向前方側の領域で、凸部の食い込みによって生じた凹部状の変形領域の周囲における少なくとも被削材切削方向前方側部分を押さえつけることができる。
これにより、少なくとも凸部の切刃稜線によって切削される直前のパッド表面が、台座の上面の周縁領域によって押さえつけられて拘束されるので、パッド表面に生じる凹部状の変形領域の、凸部と同一方向への移動を抑制して、凸部の切刃稜線をパッド表面に対して効率的に作用させることができ、パッド表面の加工効率を格段に向上させることができる。
また、少なくとも凸部における切刃稜線部分が、耐摩耗性材料で構成されていることから、この切刃稜線に耐摩耗性を与えることができるので、長期間に亘って、切れ味を劣化させることなく安定したパッドの調整作用を呈することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は本発明の実施形態による軟質材加工用工具の平面図、(b)は(a)における要部拡大斜視図、(c)は(a)におけるX−X線断面図である。
【図2】 本発明の実施形態による軟質材加工用工具を用いて、パッドの表面を加工、調整している様子を示す要部拡大断面図である。
【図3】 従来のパッドコンディショナーの一例を用いて、パッドの表面を加工・調整している様子を示す要部拡大断面図である。
【符号の説明】
10 基材
11 基材の表面
12 台座
13 台座の上面(平坦面)
14 台座の上面と周面との交差稜線
15 凸部
16 凸部の上面(平坦面)
17 切刃稜線
18 気相合成ダイヤモンド
T 基材の回転方向
t 気相合成ダイヤモンドの層厚
P パッド
P1 パッド表面
P2 凸部の食い込みによって生じる凹部状の変形領域
P3 台座の食い込みによって生じる凹部状の変形領域
Claims (7)
- 軸線回りに被削材切削方向に回転される基材の表面に、少なくとも1つの台座が上方に突出して形成され、
前記台座の上面に、切刃稜線を有する凸部が、1つの前記台座に対して1つ、前記台座の上面における周縁領域のうちの少なくとも被削材切削方向前方側の領域を除いた領域において上方に突出するように形成されており、
前記台座の上面からの前記凸部の高さが0.01〜0.1mmの範囲に設定されるとともに、前記台座の上面の周縁領域において前記凸部よりも被削材切削方向前方側に位置する領域の該被削材切削方向に沿った長さが0.2〜0.5mmの範囲に設定されていて、
さらに、少なくとも前記凸部における切刃稜線部分が、耐摩耗性材料で構成されていることを特徴とする軟質材加工用工具。 - 請求項1に記載の軟質材加工用工具において、
前記台座の上面に、前記凸部が、前記台座の上面における周縁領域のうちの少なくとも被削材切削方向前方側及び後方側の領域を除いた領域において上方に突出するように形成されていることを特徴とする軟質材加工用工具。 - 請求項1または請求項2に記載の軟質材加工用工具において、
前記凸部は、その上面に平坦面が存在させられていることを特徴とする軟質材加工用工具。 - 請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の軟質材加工用工具において、
少なくとも前記凸部における切刃稜線部分が、気相合成ダイヤモンドでコーティングされていることを特徴とする軟質材加工用工具。 - 請求項4に記載の軟質材加工用工具において、
前記基材の表面の全面が、前記気相合成ダイヤモンドでコーティングされていることを特徴とする軟質材加工用工具。 - 請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の軟質材加工用工具において、
少なくとも前記凸部における切刃稜線部分が、セラミックスで構成されていることを特徴とする軟質材加工用工具。 - 請求項6に記載の軟質材加工用工具において、
前記基材における少なくとも表面の全面が、前記セラミックスで構成されていることを特徴とする軟質材加工用工具。
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