JP4272825B2 - 摩擦伝動装置およびその設計方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、摩擦により入力部材の回転を出力部材に伝達する摩擦伝動装置に関し、特に入出力部材の接触部の形状に関する。
【0002】
【従来の技術】
転がり接触する二つの部材の接触部に発生する摩擦力により一方の部材から、他方へと動力伝達する摩擦伝動装置が知られている。摩擦力は、二つの部材の接触面に働く垂直抗力にほぼ比例する。つまり、二つの部材を押し付ける力を大きくすると、大きな動力を伝達することができるようになる。一方で、二つの部材を押し付ける力により接触面に発生する接触応力が高いと、部材表面または表面下に損耗が発生する。この損耗を低減するためには、接触面積を増加させ、接触応力を減少させればよい。しかし、接触領域内での二つの部材の相対速度が均一でない場合、速度差が大きくなり、今度はこれによる摩耗、発熱、伝達効率の低下が生じるという問題が発生する。
【0003】
したがって、接触領域内で、均一な相対速度が得られない場合、接触領域は小さく、かつ接触応力も小さいことが望まれる。これに対して、接触領域の応力分布を均一なものにするという方法がある。このような、条件を満たす、二つの部材の接触部分の形状の一例が、特開平10−89431号公報に記載されている。この公報では、接触部分にルンドベルグ形状を与えることを提案している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
前述の公報により示されたルンドベルグ形状は、実は均一な応力分布を与えておらず、接触応力を十分に低減することができていないという問題があった。また、接触領域の端部付近、すなわち相対速度が大きい部分で応力のピークが発生するという問題もあった。
【0005】
また、入出力部材の一方に対する他方の接触位置が変化する場合、接触領域の条件も変化する。このような場合に、どの接触位置で接触部分の形状を最適化することが望ましいかなどの設計条件に関する知見は示されていない。
【0006】
本発明は、前述の課題を解決するために、摩擦伝達装置の接触部に、より均一な応力分布となり、損耗が少なく、伝達効率のよい形状を与えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
前述の課題を解決するために、本発明の摩擦伝動装置は、回転する入力部材と出力部材の接触部の形状が、入力部材と出力部材の間の摩擦力のベクトルに直交する平面において、次のようなものとされる。すなわち、入力部材と出力部材が押し付け荷重0で接触していると仮定したときの両部材の間隔を表す関数によって定義される形状が非円弧形状であり、かつ、定格荷重近傍における前記入力部材と前記出力部材の接触応力が、接触領域の端部付近で、端部に向けて単調に減少する形状とされる。
【0007】
さらに、接触応力が、接触領域の中央付近でほぼ均一であることが好ましい。
【0008】
より具体的には、入力部材と出力部材の接触部の形状が、両部材の間の摩擦力のベクトルに直交する平面において、
【数4】
z=a・sinh(bx2)
で表されるものとすることができる。ここで、zは、入力部材と出力部材が点接触していると仮定したときの両部材の間隔を表し、xは、両部材の接触点における接線上の前記接触点からの距離を示す。この式で表される形状は、均一な応力分布および高い伝達効率を達成する。
【0009】
また、前記関数zを4次関数
【数5】
z=C4x4+C3x3+C2x2
にて表されるものとすることができる。
【0010】
また、本発明の他の態様によれば、転がり接触する入力部材および出力部材と、前記入力部材と前記出力部材の接触点付近に流体を供給し、前記入力部材と前記出力部材の転がりすべりおよび流体のせん断によって動力伝達する摩擦伝動装置
の設計方法が示される。
【0011】
すなわち、前記入力部材と前記出力部材の間の摩擦力のベクトルに直交する平面において、前記入力部材と前記出力部材が点接触していると仮定したときの両部材の間隔zを表す関数を求める摩擦伝動装置の設計方法であって、前記入力部材と前記出力部材の接触点付近における、接触応力分布形状と、前記流体の高圧せん断特性に基づき伝達損失を算出し、この伝達損失が略最小となる前記接触応力分布を選択する接触応力分布算出工程と、前記選択された接触応力分布を実現する前記間隔zを表す関数を、弾性力学式に基づき算出する工程と、を有する設計方法が示される。
【0012】
さらに、前記の設計方法において、前記間隔zを表す関数を、
【数6】
z=C4x4+C3x3+C2x2
なる関数に近似して算出することができる。
【0013】
また、転がり接触する入力部材と出力部材の接触位置が変化する場合には、入出力部材の間で働く摩擦力のベクトル方向の、入出力部材の少なくとも一方の曲率半径は最小となる接触点において、前記間隔zを表す関数を算出するようにできる。この点において、接触領域は、幅方向すなわち前記摩擦力ベクトルに直交する方向に最大となり、このときに望ましい応力分布が実現されれば、これより狭い幅の場合についても、ほぼ良好な応力分布を得られる。よって、接触位置が変化する全域において、良好な応力分布を実現することができる。
【0014】
入出力部材の一方がトロイダル面である場合、このトロイダル面上の、もう一方の部材の接触する範囲のトロイダル面半径方向最も内側の接触位置にて前記間隔zを表す関数を算出することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)を、図面に従って説明する。図1は、摩擦伝動装置の動力伝達にかかる構成の模式図である。ローラ10は、ローラ軸線12を軸として回転する厚みをもった円板であり、その側面14は所定の曲面に形成されている。ディスク16は、ディスク軸線18を軸として回転する円板であり、図中上面は前記軸線18に直交する平面である。二つの軸線12,18は直交配置され、ローラの側面14とディスクの上面20が接触し、この接触部分の摩擦によりローラ10とディスク16の間で動力伝達がなされる。以下の説明では、動力伝達を担う面という意味で、ローラの側面14をローラ動力伝達面14、ディスクの上面20をディスク動力伝達面20と記す。
【0016】
図2は、ディスク16を図1において上方から見た図であり、ローラ10をディスク16に荷重W(図1参照)で押し付けた時のローラおよびディスクの動力伝達面14,20の接触領域22が示されている。本実施形態のような動力伝達系の構成、すなわち接触領域22に対するローラまたはディスク軸線12,18の正投影である接触中心線24が、ローラおよびディスク軸線12,18と一点で交わる構成でない場合、接触領域22内の相対速度が一定とならない。
【0017】
図3は、その様子を示すものである。以下の説明においては、接触領域22における接触中心線24の方向を幅方向、幅方向に直交する方向を動力伝達方向と記す。ディスク動力伝達面20の速度Vdは、動力伝達方向に沿ったベクトルとなるが、ディスク16の外周にいくほど速い。しかし、ローラ動力伝達面14の速度は、幅方向において一定となる。したがって、これらの相対速度Vrは、接触領域22の中心を境にして向きが逆転し、スピンモーメントを発生する。このスピンモーメントは、損失を発生させ、動力の伝達効率を低下させる。相対速度Vrは、接触領域22の中心から離れた方が大きいから、接触領域22が幅方向に拡がるほどスピンによる損失が大きくなる。したがって、スピンによる損失を低減するためには、接触領域22の幅を小さくする必要がある。
【0018】
一方、接触領域22に発生する最大接触応力が大きいと、ローラおよびディスクの動力伝達面14,20に疲労による損耗が発生することがある。したがって、最大接触応力を低減させる必要がある。また逆に、最大接触応力を小さくすることができれば荷重Wを増加することが可能となり、より大きなトルクを伝達することが可能となる。
【0019】
以上の二つの要求、すなわち荷重Wが一定という条件下において、接触領域22の幅を狭くするおよび最大接触応力を小さくすることの双方を満たすことが望まれる。この要求に応えるには、接触領域22の幅方向の応力分布を均一にすることが必要となる。つまり、このような応力分布を与える、ローラおよびディスク動力伝達面14,20の形状を求める必要がある。
【0020】
この実施形態では、ディスク動力伝達面20を平面とし、これに対するローラ動力伝達面14の形状について検討する。ローラ動力伝達面14の形状とは、ローラ軸線12を含む断面の形状を指す。この形状を表すために、次のような座標系を採る。原点Oは、接触領域22の中心、すなわちローラ10をディスク16に押し付ける荷重Wが0としたときの接点とする。x軸は、前記接触中心線24に一致し、ディスク軸線18の向きを正とする。y軸は、前記動力伝達方向すなわち摩擦力の方向に一致し、原点Oにおける、ディスク動力伝達面の速度Vdの向きを正とする。このように定められたx軸、y軸と共に右手直交座標系を構成するようにz軸を定める。よって、z軸は、図2において紙面を垂直に貫く方向で、手前が正となる座標軸である。
【0021】
図4および図5は、ローラ動力伝達面14の断面形状を示している。図5は、図4に示すx方向の範囲A、z方向の範囲Bで囲まれる領域の拡大図である。最も一般的な形状である円弧が一点鎖線で、前述の公報の提案するルンドベルグ形状が破線で示されている。実線が本実施形態の形状であり、この形状は、
【数7】
z=a・sinh(bx2) ・・・(1)
で示されるハイパボリックサイン形状となる。
【0022】
図6には、図4および図5に示される断面形状のローラ10を用いて、等しい荷重Wを加えたときの、接触領域22の幅方向(x軸方向)の接触応力Pの分布を示す図である。線種については図4と共通としている。図示するように、円弧形状であっては、中心付近で接触応力Pが大きくなることが分かる。また、ルンドベルグ形状では、接触領域の端部において、接触応力Pがピークを持つ。本実施形態の形状(ハイパボリックサイン形状)においては、接触領域の多くの部分(約80%)で、均一な応力分布が得られている。また、端部において応力のピークも生じておらず、応力が端に向けて単調に減少している。最大接触応力についても、円弧形状はもちろんルンドベルグ形状よりも小さい値となっている。このように、本実施形態の形状は、前述した、スピンのある摩擦伝動装置の動力伝達面に関する要求を高いレベルで満足するものである。
【0023】
図7には、前述の各形状における接触幅に影響を与える形状変更をしたときの、トラクション係数と最大接触応力の変化が示されている。トラクション係数が高い方が、伝達効率がよい、すなわちスピンロスが小さい。トラクション係数が大きい、すなわちより大きなトルクを伝達でき、最大接触応力は小さい方が好ましい。つまり、ある形状が与えるトラクション係数と最大接触応力の組が、図7においてより右下に位置することが好ましい。一点鎖線で示す円弧形状の場合、右上が円弧の曲率半径が小さい場合を示す。ハイパボリックサイン形状においては右上が、係数aが大きい場合を示す。ルンドベルグ形状の場合は、基準円の径を変えた点を図中にプロットしている。ハイパボリックサイン形状は、他の形状に比してより右下に位置し、好ましい形状であることが分かる。
【0024】
図8には、フルトロイダル型の変速機構の概略構成が示されている。入力ディスク26の回転がパワーローラ28を介して出力ディスク30に伝達されるものである。入力ディスク26、出力ディスク30は、図示する断面をそれぞれの軸線32,34の周りに回転させた形状である。パワーローラ28も軸線36を軸とする回転体であり、軸線36の傾きは、図8の紙面内で連続的に変更可能となっている。入力ディスク26とパワーローラ28およびパワーローラ28と出力ディスク30の間では、摩擦により動力が伝達される。前述の例にならえば、パワーローラ28の側面がローラ動力伝達面、入力および出力ディスク26,30の図8中、パワーローラ28に対向する面が、ディスク動力伝達面に相当する。入力ディスク26とパワーローラ28の接触領域の中心と軸線32の距離を入力側半径Riとし、同様に出力ディスク30とパワーローラ28の接触領域中心の軸線34からの距離を出力側半径Roとする。この二つの半径の比Ro/Riが変速比となり、パワーローラ28の傾きを変更することで入出力側半径Ri,Roが変化し、変速比も変更される。パワーローラ28の傾きは、連続的に変更できるので、変速比も連続的に変更可能となる。
【0025】
このとき、パワーローラ28と入力および出力ディスク26,30のそれぞれの動力伝達面の形状は、次のように定められる。すなわち、両動力伝達面の間隙をzとし、荷重が0としたときの接触点を原点とし、接触点における動力伝達面の接線をxとしたときに、間隙zが前述の式(1)で示す関数として表されるように決定する。入力および出力ディスク26,30とパワーローラ28は、パワーローラ28の傾きが変わっても常に接触する必要があるから、これらディスクの動力伝達面の形状は、図8の断面において円弧である。したがって、パワーローラ28の動力伝達面は、前記の円弧のディスク動力伝達面に対して、式(1)で表される間隙zを有するように決定される。これにより、摩擦伝動機構における要求、すなわちスピンが少なく、最大接触応力が小さいという双方の要求を高いレベルで満足させることができる。
【0026】
図8の変速機構において、パワーローラ28の転がり方向であるy方向において、入力および出力ディスク26,30の接触面は曲率を有することになる。図8の場合には、パワーローラ28が水平となる場合、すなわち入出力ディスクの半径Ri、Roが等しい状態(中立位置)のときは、接触点における接触面の曲率半径が無限大、つまり平面である。接触点がこれより外側にある場合(図8の右)は、出力ディスク30の形成する曲面に、パワーローラ28は内接する関係となる。逆に、接触点がこれより内側にある場合(図8の左)は、入力ディスク26の形成する曲面に、パワーローラ28は外接する関係となる。
【0027】
接触点が中立位置より外側にある場合は、入出力ディスク26,30とパワーローラ28の斜線で示す接触領域は、図9に示すように、y軸方向の接触長さaYが長くなり、一方x軸方向の長さaXが短くなる。また、接触点が中立位置より内側となる場合は、接触領域は、図10に示すように、x軸方向に長くなる。
【0028】
図11は、入出力ディスク26,30と、パワーローラ28の接触点付近のy軸直交断面を示す図である。破線は円弧断面を示し、実線は本実施形態に係る、接触領域内における応力分布が比較的平坦となる断面形状の例を示している。この実線の形状は、接触幅aX0であるときに最適化したものである。接触幅aX0のときの接触応力の分布が図12に示されている。また、接触幅が前記aX0より小さいaX1であったときの応力分布が図13に、逆に接触幅がaX0より大きいaX2であったときが図14に示されている。それぞれの図において、実線が本実施形態の係る形状を採用した場合の応力分布であり、破線が円弧形状の場合を示す。
【0029】
図12〜14に示されるように、最適化に用いた接触幅aX0より広い接触幅となった場合、円弧形状の場合の最大応力値より、大きな応力が接触幅の端部付近で発生することが理解される。逆に接触幅aX0より狭い場合には、円弧形状より良好な、すなわち最大応力値が低くなる応力分布が得られる。したがって、接触幅の条件が変化する場合においては、接触幅の上限値において、最適化を行えば、接触幅の変化範囲全体にわたって円弧形状より良好な応力分布を得られる。
【0030】
図15は、図8に示したトロイダル変速機構の変速状態の例を示す図である。入力側半径Riが出力側半径Roより小さい場合、減速状態であり、逆に入力側Riが、出力側Roより大きい場合、増速状態である。入出力の半径が等しい場合は、等速状態である。
【0031】
図16〜18は、パワーローラの断面形状の最適化を行った条件ごとの特性を示す図である。図16は、入出力ディスク16,30の、パワーローラ28が接触する範囲(A−C)において、最も内側の点Aにおいて、パワーローラの断面形状の最適化を実施し、この断面形状のローラを用いて減速、等速、増速の状態における性能を、円弧断面形状の場合と比較したものである。入力側の接点における性能比が白抜きのグラフ、出力側の接点における性能が斜線のグラフ、これらの総合評価が二重斜線のグラフで示されている。図17は接触範囲A−Cの中央部分の点B、図18は最も外側の点Cにおいて最適化した場合の性能を示している。図から明らかなように、最も内側の点Aで最適化を行った場合、減速状態、変速状態および増速状態のいずれの状態においても、性能が良好である。他の場合は、総合的に性能向上がなされたとは言えない。このように、点A、すなわち接触幅aXが最も広くなる点において最適化を行うことにより、総合的な性能向上を図ることができる。
【0032】
以上は、ローラの断面形状、または間隔を表す関数zを与え、これについて接触応力を求めたが、応力分布を仮定して、これを満たすようにローラ断面形状を求める方法を以下に記す。なお、図1に示すディスク16の平面にローラ10が当接する機構を用いて説明する。ローラ10とディスク16の接触部分の応力分布を次式にて仮定する。
【0033】
【数8】
p(x,y)=Pmax{1−(y/b)2−(x/a)n}1/2 ・・・(2)
ただし、aはx方向の接触幅、bはy方向の接触幅
【0034】
図19は、式(2)中のnにいくつかの数値を代入し、それぞれの場合の応力分布形状を示す図である。nが小さいほど円弧に近づき、大きいほど応力分布が接触中心付近でより平坦となっている。そして、式(2)の応力分布により荷重Wが次式で表される。
【0035】
【数9】
【0036】
ローラ10とディスク16の間には潤滑のため流体が供給されるが、この流体のせん断応力τは、圧力によって大きく変化する。これは、前記流体が、高圧時弾塑性を示し、低圧時に粘性流体としてふるまうなど、その物性が変化するためである。潤滑33巻12号(1988)922ページには、大野らにより、弾塑性域と粘性域との境界についての記載がある。図20は、数種の流体のせん断特性を示す図である。これによれば、流体の粘度の圧力指数αと圧力pとの積が25が二つの領域の境界である。これより、流体のせん断特性を次式のように仮定する。ここで、ηは圧力pでの粘度、η0は大気圧での粘度、αは流体の粘度の圧力指数、γはせん断率、ΔUはせん断速度、hは膜厚を示す。
【0037】
【数10】
τ=mp (αp>25のとき) 弾塑性 ・・・(4)
τ=τ0・sinh-1(ηγ/τ0) (αp<25のとき) 粘性 ・・・(5)
ただし、η=τ0・exp(αp)、γ=ΔU/h
【0038】
図21には、最大接触応力Pmaxおよび式(2)の応力分布と、接触領域内の弾塑性域、粘性域の様子が示されている。弾塑性域は斜線が施されており、その周囲の白抜きの領域が粘性域である。また、接触領域は、x,y軸に関し、一つの象限のみ記載している。応力分布は、図19に示したように、式(2)のnの値によって変化し、Pmaxが大きい場合も、小さい場合もnが大きくなる方が頂部が平坦になる。また、xy平面の接触領域もnが大きくなると楕円形から長方形に近い形状となる。また、Pmaxが小さい場合、接触領域内において弾塑性域が占める割合が減少する。
【0039】
ディスク16とローラ10の間に伝達される力(以下、トラクションと記す)Tは、y方向のせん断応力を、接触領域で積分した値であり、式(6)で示される。また、その際の伝達損失Plossは、次式で表される。
【0040】
【数11】
【0041】
図22は、最大接触応力Pmaxが大きい場合と小さい場合において、nの値に対する伝達損失Plossの変化を示す図である。図から、最大接触応力Pmaxの一つの値について、伝達損失Plossを最小にするnが存在することが分かる。このnを求めるために、式(3),(6),(7)に、式(2),(4),(5)を代入して同一の最大接触応力Pmax、同一伝達効率におけるnとトラクション係数の関係を求める。同一伝達効率における円弧(n=2)に対するトラクション係数の増加率の逆数が、最大接触応力Pmaxの低減率に相当する。これをnに対してプロットしたものが、図23および図24である。最大接触応力Pmaxとnの関係はαPmax、スピン角速度ωs、接触領域の縦横比(b/a)に依存する。図23は、図8に示すようなフルトロイダル型変速機構の場合を示し、図24は、図25に示すようなハーフトロイダル型変速機構の場合を示している。図からフルトロイダル型の場合はn=3〜6、ハーフトロイダル型ではn=3〜10で最大接触応力の低減効果が認められる。
【0042】
また、スピン角速度ωs、縦横比(b/a)を固定すれば、nの最適値は、図26に示すようにαPmaxの関数で与えられる。
【0043】
好ましいnが見つかれば、これに関する応力分布は、図19にも示されるように算出することができる。この応力分布を達成するようなローラ10の表面形状を求める。図27(a)に示すように、ディスク16の表面に相当する平坦面に、前述のようにして求めた応力分布となる分布荷重p(x,y)が作用したとき、平坦面の変形δは次式で表される。
【0044】
【数12】
【0045】
図27(b)に示すように、荷重0でディスク16にローラ10が接しているとき、ディスクとローラの隙間zが、次式で表されるように、ローラの形状を定める。なお、図27(a),(b)に示す破線は、同一の形状である。
【0046】
【数13】
【0047】
式(8),(9)の示す形状のローラ10をディスク16に対し、応力分布を求めたときの荷重Wで押圧すれば、図27(c)に示すように、図27(a)と同様の応力分布となる。このときの隙間zは、次に示す4次式で近似することができる。
【0048】
【数14】
【0049】
図28は、ローラ10の幅方向の断面形状の例を示している。以上のように求められたローラの形状は、nを無限大としたときに前述のハイパボリックサイン形状に漸近する。一方、図23よりαPmax>45、すなわち接触領域のほぼ全域が弾塑性域となる場合に、nが無限大となったとき、最大接触応力Pmaxの低減効果が最も大きくなる。これらは、ここで述べた内容が、前述したハイパボリックサインの場合を含んでいることを示すものである。なお、ディスク16が平面である場合について述べたが、トロイダル型変速機構のようにディスクが平面でない場合については、ディスクとローラの相対的な隙間が、式(10)などで示されるものとなるように、ローラの接触部分の形状を形成する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 摩擦伝動装置の動力伝達にかかる構成の概略図である。
【図2】 ディスク16の上面20を見た図である。
【図3】 接触領域内の速度分布を示す図である。
【図4】 動力伝達面の形状の例を示す図である。
【図5】 図4の部分拡大図である。
【図6】 接触応力の幅方向の分布を示す図である。
【図7】 トラクション係数と最大接触応力の関係を、動力伝達面ごとに示す図である。
【図8】 摩擦伝動機構を有する変速機の要部構成を示す図である。
【図9】 接触領域の形状の例を示す図である。
【図10】 接触領域の形状の例を示す図である。
【図11】 ローラとディスクの形状および接触幅を示す図である。
【図12】 図11に示す接触幅aX0での接触応力分布を示す図である。
【図13】 図11に示す接触幅aX1での接触応力分布を示す図である。
【図14】 図11に示す接触幅aX2での接触応力分布を示す図である。
【図15】 フルトロイダル変速機構の変速状態を示す図である。
【図16】 フルトロイダル変速機構において、最も内側でローラ形状の設計を行った場合の性能を示す図である。
【図17】 フルトロイダル変速機構において、中立位置でローラ形状の設計を行った場合の性能を示す図である。
【図18】 フルトロイダル変速機構において、最も外側でローラ形状の設計を行った場合の性能を示す図である。
【図19】 接触応力分布のいくつかの例を示す図である。
【図20】 流体のせん断特性を示す図である。
【図21】 接触領域内の弾塑性域と粘性域の様子を示す図である。
【図22】 伝達損失とnの関係を示す図である。
【図23】 最大接触応力の低減の様子を示す図であり、特にフルトロイダル変速機構の場合を示す図である。
【図24】 最大接触応力の低減の様子を示す図であり、特にハーフトロイダル変速機構の場合を示す図である。
【図25】 ハーフトロイダル変速機構の概要を示す図である。
【図26】 Pmaxを最小とするnと、αPmaxとの関係を示す図である。
【図27】 応力分布からローラの断面形状を求める手法を示す図である。
【図28】 ローラの断面形状のいくつかの例を示す図である。
【符号の説明】
10 ローラ、14 ローラ動力伝達面、16 ディスク、20 ディスク動力伝達面、22 接触領域、24 接触中心線。
Claims (6)
- 入力部材の回転を、前記入力部材に転がり接触する出力部材へ、摩擦により伝達する摩擦伝動装置であって、
前記入力部材と前記出力部材の間の摩擦力のベクトルに直交する平面において、前記入力部材と前記出力部材が点接触していると仮定したときの両部材の間隔zを表す関数が、前記両部材の接触点における接線上の前記接触点からの距離xを用いて、
【数1】
z=a・sinh(bx2)
で表される、
摩擦伝動装置。 - 転がり接触する入力部材および出力部材と、前記入力部材と前記出力部材の接触点付近に流体を供給し、前記入力部材と前記出力部材の転がりすべりおよび流体のせん断によって動力伝達する摩擦伝動装置において、
前記入力部材と前記出力部材の間の摩擦力のベクトルに直交する平面において、前記入力部材と前記出力部材が点接触していると仮定したときの両部材の間隔zを表す関数を求める摩擦伝動装置の設計方法であって、
前記入力部材と前記出力部材の接触点付近における、接触応力分布形状と、前記流体の高圧せん断特性に基づき伝達損失を算出し、この伝達損失が略最小となる前記接触応力分布を選択する接触応力分布算出工程と、
前記選択された接触応力分布を実現する前記間隔zを表す関数を、弾性力学式に基づき算出する工程と、
を有する摩擦伝動装置の設計方法。 - 入力部材の回転を、前記入力部材と転がり接触する出力部材へ、摩擦により伝達する摩擦伝動装置の設計方法であって、
前記入力部材と前記出力部材の間の摩擦力のベクトルに直交する平面において、前記入力部材と前記出力部材が押し付け荷重0で接触していると仮定したときの両部材の間隔を表す関数を求める際に、前記摩擦力のベクトル方向の、前記入力部材および前記出力部材の少なくとも一方の曲率半径が最も小さくなる、前記入力部材と前記出力部材の接触点において前記関数を求める、
摩擦伝動装置の設計方法。 - 請求項5に記載の摩擦伝動装置の設計方法であって、
前記入力部材と前記出力部材との接触面の一方はトロイダル面であり、この接触面の、回転の半径方向において、他方の部材が接触する範囲の最も内側の接触点において、前記関数を求める、
摩擦伝動装置の設計方法。
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