JP4272274B2 - 高強度鋼線の熱処理方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は伸線直前の熱処理方法によるワイヤーロープ、PC鋼線、バネ、スチールコード等に使用する伸線加工性の優れた高強度鋼線の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
高強度鋼線は伸線時の中間熱処理として各種のパテンティング、すなわち圧延熱利用の直接パテンティング、鉛パテンテイング、あるいは空気パテンティングの後、伸線加工等の冷間加工が施され、その後ブルーイング処理あるいは焼入焼戻処理等を経てワイヤーロープ、PC鋼線、バネ、スチールコード等の高強度鋼線の製造に提供されている。
【0003】
伸線加工性を向上させるための手段として特公昭47-51684号公報等に示されるように、炭化物あるいは窒化物を微細化させることによりパテンティング時のオーステナイト粒を微細化することが広く行われている。
【0004】
しかしながら、このような伸線加工性を向上させるための手段を施した材料であっても搬送時の取扱いによって生ずる疵に対しては効果がなく、搬送時の疵の幾何学形状が伸線加工性低下の要因となるため、伸線時に疵を平滑化する製造方法が求められている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このような従来技術の問題点は、材質面の改善で伸線加工性を向上させても、搬送時に取り扱いにより疵が生じ鋼表面に幾何学的な凹凸が生じた場合、中間熱処理まで疵が残り、さらに該材料を伸線すると耐断線性が劣化する。
【0006】
本発明は搬送時に疵が生じても中間熱処理前までに鋼表面を平滑化する高強度鋼線の製造方法を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
ワイヤーロープ、PC鋼線、バネ、スチールコードなどは二次加工メーカで所定の線径および強度などの材質特性を確保する。製鉄所から二次加工メーカへ搬送する必要があり搬送時に多かれ少なかれ取り扱い疵が生じ、鋼表面に幾何学的な凹凸が生じる。
【0008】
伸線加工性の優れた鋼材を使用しても、疵表面は著しく加工硬化しており、その後の伸線加工でも疵が消失せず断線の原因となる。このため凸凹した疵の表層の硬化層に対する伸線前の熱処理によって中間熱処理前までに伸線によって平滑化する製造方法が必要とされている。
【0009】
本発明者らは搬送時に生じる取り扱い疵を調査し、熱処理後の疵と伸線時の平滑化の関係を調査し、以下のことをあきらかにした。
▲1▼焼戻による表層の疵部の軟化は伸線時の疵の平滑化に効果がある。
▲2▼硬質組織中の塑性加工を受けた母材組織(パーライト、ベイナイト)では、高温で長時間焼戻すとセメンタイトが球状化し、伸線時に割れが生ずる。
【0010】
すなわち、焼戻は表層の硬化組織の硬さの低減により、硬化組織自体の伸線加工性を向上することができる。しかしながら、取扱による疵で塑性加工を受けた硬化組織では転位密度の増加によりCが拡散しやすくなり、高温で焼戻すとセメンタイトが粗大に球状化する。その後伸線加工を実施すると粗大に球状化したセメンタイトを起点としてボイドの生成による割れが発生し表層の平滑化が阻害される。
【0011】
よって本発明は、質量%で、C:0.25〜1.2%、Si:0.01〜2.0%、Mn:0.3〜1.1%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.10%以下、を含有し、さらにNb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.035%、Al:0.10%以下、V:0.005〜0.060%、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%、Cr:0.05〜0.5%、Mo:0.05〜0.35%、Ca:0.0005〜0.005%、Mg:0.0005〜0.007%、REM:0.0005〜0.005%、B:0.0005〜0.005%の1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる線材であって、該線材の組織の70%以上がパーライト、もしくはベイナイト、或いはその混合組織を有し、二次加工工程への搬送時に生じた取扱疵の表層の硬化層に対して、伸線前に600〜750℃の温度領域に加熱し、該温度域で100s以下の時間保持した後に、放冷または水冷することを特徴とする高強度鋼線の熱処理方法、である。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明における伸線加工性に優れた高強度鋼線の熱処理方法の限定理由について化学成分を規定した理由を述べる。
【0014】
C: Cは鋼の強度と延性を支配する基本的な元素であり、一般に高C化するほど強度が向上する。強度と焼入性を確保するためには0.25%以上とした。しかし、1.2%超のCでは鋼表面の塑性変形を受けた組織のセメンタイトが粗大化し伸線時に割れが発生するため、上限値を1.2%とした。
【0015】
Si: Siは脱酸元素として0.01%以上添加する必要がある。また、鋼を固溶強化する。しかし、過量に添加するとデスケーリングが悪くなり、表層の平滑化を阻害する。その上限値を2.0%とした。
【0016】
Mn: Mnは脱酸元素として0.2%以上添加する必要がある。また、焼入性を改善して線材断面内に均一なパーライトを生成させる効果がある。しかし、1.1%を超えると効果が飽和するため上限を1.1%とした。
【0017】
P,S: PおよびSは、結晶粒界に偏析し鋼の特性を劣化させるためできる限り低く抑える必要がある。Pの上限を0.02%以下、Sの上限を0.01%以下とした。
【0018】
以上は必須元素であるが、必要に応じて以下の元素を添加する。
Nb,Ti: Nb,Tiは炭化物あるいは窒化物を形成して線材の延性を向上させるため1種類ないしは2種類以上を添加する。Nbの下限は0.005%、Tiは下限は0.005%である。しかし、Nbは0.05%、Tiは0.035%を超えると効果が飽和するため、Nbは0.05%、Tiは0.035%を上限値とする。
【0019】
Al: Alは脱酸元素であり、鋼中のNを固定し細粒オーステナイトにするため添加する。0.1%を超えると効果が飽和するため、0.1%を上限値とする。
【0020】
Cu,Ni,Cr,Mo,V: Cu,Ni,CrおよびMoは鋼の強化作用が大きいため、Cuについては0.05〜1.0%、Niについては0.05〜1.0%、Crについては0.05〜0.5%、Moについては0.05〜0.35%、Vについては0.005〜0.060%の範囲内で1種ないしは2種類以上添加する。
【0021】
Ca,Mg,REM: Ca,MgおよびREMは鋼中で微細な酸化物を生成しオーステナイトを細粒にするため、0.0005%以上添加する。しかし、Caで0.005%、Mgで0.007%、REMで0.005%超添加すると酸化物が粗大化し伸線加工性を低下させる。Caについては0.0005〜0.005%、Mgについては0.0005〜0.007%、REMについては0.0005〜0.005%の範囲内で1種ないしは2種類以上添加する。
【0022】
B: Bはわずかの添加により焼入性を向上させる元素であるりその下限値は0.0005%である。0.005%より多く添加するとBNとして析出し焼入性の改善効果は得られなくなる。Bの添加範囲を0.0005〜0.005%とした。
【0023】
本発明鋼の熱処理条件は、鋼材搬送後に表層にマルテンサイトが生成した場合、伸線加工前に焼戻を実施するものである。母材として伸線加工性を確保し高強度化をはかるためには面積率で70%以上のパーライトまたはベイナイトである必要がある。焼戻温度として600℃以上にしないとマルテンサイトを含む硬質組織を軟化させることができない。
【0024】
また、750℃とするとセメンタイトが著しく粗大に球状化し、伸線時に鋼表面に割れが発生し表面の平滑化を阻害する。焼戻は主として温度で第一義的に決定できるが該温度域で100s超ではセメンタイトが球状化し、伸線時に割れが発生するためするため100s以下とする。冷却速度は成分と目標温度により異なるため、水冷または空冷とした。
【0025】
なお、本発明では伸線限界について言及しないが、600〜750℃の温度範囲での熱処理を実施した線材では、その後の伸線加工では鋼種によってことなるが、真歪で約2以下で終了し、次の熱処理をする事が望ましい。
【0026】
【実施例】
表1に示す化学成分の連続鋳造後分解圧延した122mm角断面のビレットを、1100℃加熱後、5.5mmに線材圧延した。該線材の表層に人工的に塑性加工を受けた硬化組織を生成させるためにグラインダー掛けを実施し疵を再現した。グラインダー掛けは線径に対して0.5mmの深さとした。焼戻条件は表2に示すように実施し、その後伸線した。
【0027】
伸線条件は減面率15〜25%で行い、平滑化は2.95mmまで伸線加工した時のグラインダー掛け部の疵の深さの測定と割れの有無により判断した。図1は高温で焼戻し伸線加工をした例である。表面のグラインダーによる疵はほとんどないがセメンタイトの球状化による割れが発生している。割れの有無は図1に示すような断面観察から判断した。
【0028】
【表1】
Figure 0004272274
【0029】
【表2】
Figure 0004272274
【0030】
鋼A〜Hは本発明鋼であり所定の強度に対して良好な鋼表面の平滑化がはかられている。
鋼I〜Jは鋼の化学成分が適切ではないため鋼表面の平滑化耐断線性が阻害された。鋼IはC量が多く、球状化が促進されるため平滑化が阻害された。鋼JはSi量が多いため元々の延性が低く平滑化が阻害された。
【0031】
鋼K〜Nは製造方法が適正でないために良好な材質特性が得られない。鋼Kは焼戻温度が低いため最硬化組織の平滑化がはかれない。鋼Lは焼戻温度が高く、鋼Mでは焼戻時間が長いためセメンタイトが球状化し割れが発生した。鋼Nは母材のパーライトまたはベイナイト分率が低いため表層の平滑化がはかれない。
【0032】
【発明の効果】
本発明により高強度鋼線の伸線時の平滑化がはかれ工業的に非常に有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】グラインダーによりあらかじめ疵をつけた線材を高温で焼戻し伸線加工した後の断面観察結果である。伸線前は0.5mmの深さであった疵は伸線加工後消失し平滑化されているが、高温で焼戻したためにセメンタイトの球状化により疵生成時に加工硬化を受けた組織から割れが発生している。

Claims (1)

  1. 質量%で、C:0.25〜1.2%、Si:0.01〜2.0%、Mn:0.3〜1.1%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.10%以下、を含有し、さらにNb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.035%、V:0.005〜0.060%、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%、Cr:0.05〜0.5%、Mo:0.05〜0.35%、Ca:0.0005〜0.005%、Mg:0.0005〜0.007%、REM:0.0005〜0.005%、B:0.0005〜0.005%の1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる線材であって、該線材の組織の70%以上がパーライト、もしくはベイナイト、或いはその混合組織を有し、二次加工工程への搬送時に生じた取扱疵の表層の硬化層に対して、伸線前に600〜750℃の温度領域に加熱し、該温度域で100s以下の時間保持した後に、放冷または水冷することを特徴とする高強度鋼線の熱処理方法。
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