JP4271654B2 - スクリュロータ - Google Patents
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Description
【0001】
本発明は、スクリュ圧縮機や真空ポンプその他のスクリュポンプなどのスクリュ流体機械に用いるスクリュロータに関し、より詳細には該スクリュロータの歯形に関する。
【0002】
技術背景
近年、スクリュ圧縮機や真空ポンプの性能を向上させるため、スクリュロータの歯形についても多くの研究・開発がなされており、スクリュロータの歯形も複雑な曲線を組み合わせたものなど多種にわたっている。
【0003】
このようなスクリュロータの歯形は、図10(A)に示すようにスクリュロータの軸線方向の断面における歯形を方形状とし、平坦な形状を成す歯先面13及び歯底面17が形成されていると共に、歯先面13の軸線方向の両角部14,15から歯底面の両端部24,25に至る歯側面18,19が、軸線に対して直交するように形成されたスクリュロータ10として、実開昭63−14884号公報に示されている。
【0004】
前述のように、断面方形状の歯形を成す実開昭63−14884号公報に示すスクリュロータ10においては、歯先が面(歯先面13)として形成されているために、シリンダ内面とこの歯先面13との間で行われるシールは面シールとなり密閉性が高く、その結果、一の作用空間において圧縮された流体が、シリンダの内壁とスクリュロータ10の歯先面との隙間から低圧側に位置する他の作用空間に漏出することを好適に防止でき、圧縮効率を向上させることができる。
【0005】
その一方で、このように形成されたスクリュロータ10にあっては、図10(B)に示すようにスクリュロータの軸直角断面における歯形を、歯先面13の輪郭を成す歯先面曲線13’と、歯底面17の輪郭を成す歯底面曲線17’と、前記歯先面曲線と前記歯底面曲線との間を連結し歯側面18の輪郭を成す歯側面線18’とを備え、前記歯側面線18’をスクリュロータの外周方向に延びる直線状に形成すると共に、前記歯先面曲線13’と前記歯側面線18’との間に形成された角部14を略直角状に形成している。
【0006】
このような歯形を有する二つのスクリュロータ10a,10bが同期回転すると、2つのスクリュロータ10a,10bの歯が噛み合う際に角部14が他方のスクリュロータに形成された歯側線18’に干渉する。そのため、スクリュロータの角部14を切り欠いて、このような干渉を防止することが行われている〔図10(C)参照〕。
【0007】
しかし、両スクリュロータ10a,10bが例えば図10(B)に示す噛み合い状態にあるときに、図10(B)中に破線で示すようにこの角部14が切り欠かれた状態にあると、作用空間のシール性が低下し、スクリュロータ10a,10bの噛み合いにより本来それぞれ独立した室である作用空間Aと作用空間Bとがこの切欠のために連通して圧縮された流体が低圧側に位置する作用空間に漏出する。そのため、この種のスクリュロータにあっては圧縮効率が低下するという問題を有する。
【0008】
このような問題を解消するために、歯の干渉を防止しつつより良好なシール性を発揮するスクリュロータとして、特公昭64−8193号公報に開示されているスクリュロータがある(図11参照)。
【0009】
このスクリュロータにあっては、図11(B)に示すようにスクリュロータの軸直角断面における歯側面曲線18’の形状を、当該スクリュロータと噛合する他方のスクリュロータの歯先面曲線13’と歯側面曲線18’とを連結した角部14の一点の画くトロコイド曲線により形成し、略完全なシールを図ることができるよう構成されている。
【0010】
確かに特公昭64−8193号公報に示すスクリュロータにあっては、理論上略完全なシールを図ることができるが、この構成のスクリュロータにおいて完全なシール性を確保しようとすれば、角部14は鋭利なエッジ状に形成されている必要がある。
【0011】
しかし、角部14を鋭利なエッジ形状に加工することは現実的には困難であり、例えばこのようなスクリュロータを切削加工により製造すると、角部14に多量のバリが生じ、このバリを除去するために角部の面取り等を行うと、この面取りによりバリと共に角部14のエッジ形状が削り取られるために、前述の切欠を設ける場合と同様に作用空間のシール性が低下する。
【0012】
また、角部14を鋭利な形状すると、この角部14が噛合う他方のスクリュロータに形成する歯底面17の端部24を鋭利な形状を有する工具で加工しなければならず、この工具の鋭利な形状の部分は欠け易く、僅かな欠けや摩耗によっても正確にロータの切削が行えないものとなり交換や研ぎ直し等が頻繁に必要となる。
【0013】
なお、特許第2904719号公報には、スクリュロータの軸直角断面における角部を円弧としつつシール性の向上を図ったスクリュロータが開示されている。
【0014】
このスクリュロータは、二つのスクリュロータの角部14,14を円弧により形成し、この円弧を成す角部14は当該スクリュロータと噛合する他方のスクリュロータの歯側面を成す歯側面曲線を創成している。
【0015】
このように形成されたスクリュロータにあっては、両ロータ間に干渉が生じず、また、作用空間のシール性も向上する。
【0016】
しかし、角部14を前述のように円弧としていることから、シリンダ内壁の稜線33部分に位置して両ロータの角部が対峙すると比較的大きなブローホールが形成され(図12参照)、このブローホールを介して隣接する各作用空間が連通することから、圧縮した流体が低圧側に位置する作用空間に漏出し圧縮効率が低下するという問題点を有している。
【0017】
なお、このような圧縮流体の漏れは、歯先面13と歯側面18との間に形成された角部14においてのみ生じるものではなく、歯先面13とシリンダ内壁31間の隙間においても生じるものとなっている。
【0018】
歯先面13とシリンダ内壁31間にはスクリュロータを回転させる為に最低限必要な隙間が設けられており、スクリュ流体機械の運転中であっても歯先面13とシリンダ内壁31とが接触しないようにスクリュロータの熱膨張量を考慮してシリンダの内径を設定している。しかしながら、スクリュロータの歯先面13は回転軸芯に対して一様な熱膨張量ではなく、最も熱膨張量の大きい箇所に基づいてシリンダの内径を設定していることから、最も熱膨張量の大きい箇所以外の部分において歯先面13とシリンダ内壁31との隙間が大きく、この部分の隙間を介して流体の漏れが生じやすく、この部分において生じる漏れをも好適に防止し得る構造のスクリュロータを提供することができれば、真空ポンプ等のスクリュ流体機械の作業効率をより一層向上させることが可能となる。
【0019】
そこで、本発明の目的は上記従来技術における欠点を解消するためになされたもので、両スクリュロータの歯間の干渉がなく、シール性が良好で、加工が比較的容易であると共に、発生するブローホールを実用上無視し得る程小さなものとすることができる歯形のスクリュロータを提供することを目的とする。
【発明の開示】
【0020】
上記目的を達成するために本発明のスクリュロータは、一対のスクリュロータ10a,10bをねじれ方向を逆にして噛合させて回転し、流体を吸入しかつ吐出するスクリュ機械に使用されるスクリュロータにおいて、
前記一対のスクリュロータ10(10a,10b)のそれぞれの軸直角断面における歯形は、スクリュロータ10(10a,10b)の回転軸芯Oを中心とする所定径(r1)の円弧から成り歯先面13の輪郭を成す歯先面曲線13’と、前記歯先面曲線13’と同心で前記歯先面曲線13’よりも小径(r2)の円弧から成り歯底面17の輪郭を成す歯底面曲線17’と、前記歯先面曲線13’と歯底面曲線17’との間に形成された歯側面18,19の輪郭を成す二の歯側面曲線18’,19’とを備え、
前記歯先面曲線13’の両端と、前記二の歯側面曲線18’,19’との間に形成された2つの角部14,15のうち、前記歯先面曲線13’の一端Aと前記二の歯側面曲線18’,19’のうちの一方の歯側面曲線18’との間に形成された一方の角部14を、前記歯先面曲線13’の前記一端Aと前記一方の歯側面曲線18’の一端G間を連結する曲線A−Gにより形成し、
前記歯先面曲線13’の前記一端Aと前記一方の歯側面曲線18’の前記一端G間を連結する前記曲線A−Gを、前記歯先面曲線13’の前記一端Aから前記一方の角部14の突出方向に向かって曲率半径を漸減する形状を成すと共に、該一方の角部14から前記歯底面曲線17’に至る前記一方の歯側面曲線18’を、他方のスクリュロータに形成された前記一方の角部14が創成する曲線としたことを特徴とする(請求項1:図6参照)。
【0021】
また、本発明の別のスクリュロータ10(10a,10b)にあっては、前述の一方の角部14の構成と共に、少なくとも一方、好ましくは双方のスクリュロータ10(10a,10b)の前記歯先面曲線13’を前記スクリュロータ10(10a,10b)の回転軸芯を中心として90〜180°の範囲に形成したことを特徴とする(請求項2)。
【0022】
前記一方の角部14の軸直角断面形状は、楕円、放物線、双曲線である二次曲線により構成することができ(請求項3)、楕円の場合にはその一部により前記一方の角部14を形成しても良い(請求項4)。
【0023】
さらに、前記一方の角部14の軸直角断面形状は、該角部14の突出方向に向かって曲率半径を漸減する二次曲線上の複数の点を連結することにより形成された、前記二次曲線に近似した曲線により形成することもできる(請求項5)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
つぎに、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら以下説明する。なお、以下に示す実施形態にあっては、本発明のスクリュロータ10を真空ポンプ1に使用した例を示しているが、本発明のスクリュロータ10は真空ポンプ1用のスクリュロータとしてのみではなく、スクリュ圧縮機やその他のスクリュポンプなど、スクリュ流体機械全般に適用可能である。
【0025】
〔真空ポンプの全体構成〕
図1において、1は本発明のスクリュロータ10(10a,10b)を備えた真空ポンプの一構成例であり、この真空ポンプ1は、ケーシング30内に前述のスクリュロータ10(10a,10b)を二本、回転可能に収容している。
【0026】
このケーシング30の内部には、二本のスクリュロータ10a,10bを噛み合い状態で収容するシリンダ31が形成されていると共に、各スクリュロータ10a,10bのロータ軸11が軸受32により回転可能に支承されている。
【0027】
スクリュロータ10a,10bのうち、駆動側ロータ10aのロータ軸11には、モータやエンジン、その他の駆動源(本実施形態にあってはモータ40)の出力軸41が直接、又は増速機、その他の動力伝達手段を介して連結されている。
【0028】
本実施形態にあってはモータ40の出力軸41がこの駆動側ロータ10aのロータ軸11と直接連結されており、モータ40の回転に伴って駆動側ロータ10aが回転すると共に、この駆動側ロータ10aの回転によりこれに噛合する被動側ロータ10bが回転するよう構成されている。
【0029】
この駆動側ロータ10aと被動側ロータ10bとの同期した回転は、各スクリュロータ10a,10bのロータ軸11に設けられたタイミングギヤ12の噛合により行われ、両スクリュロータ10a,10bが微少間隔を以て噛合するよう構成されている。
【0030】
前述のシリンダ31が形成されたケーシング30の外壁には、スクリュロータ10a,10bの一端側に位置して流体を導入するための導入口42と、他端側に位置して流体を吐出する吐出口43がそれぞれ前記シリンダ31内の空間に連通して形成されており、前記駆動側スクリュロータ10aを回転すると、前記タイミングギヤ12の噛合により被動側スクリュロータ10bが反対方向に回転し、スクリュロータ10a,10bの噛合により形成された作用空間内に流体が前述の導入口42を介して導入され、この導入された流体がスクリュロータ10a,10b間に形成された作用空間内をスクリュロータ10a,10bの他端側に向かって搬送される際に体積収縮されて圧縮された後、前述の吐出口43より吐出される。
【0031】
スクリュロータ10(10a,10b)を収納するシリンダ31は、図3に示すように二本のスクリュロータ10a,10bを噛み合い状態で収容することができるよう、断面略8の字形状を成し、駆動側ロータ10aを収容する室を成す内壁と、被動側ロータ10bを収容する室を成す内壁との境界位置において稜線33が形成されている。
【0032】
なお、図1〜図3に示す実施形態にあっては、同一の歯形を有する2本のスクリュロータをねじれ方向を逆にして噛み合わせた状態でシリンダ内に収容したものを図示しているが、このスクリュロータ10(10a,10b)の歯形形状は各スクリュロータ10a,10bにおいて異なるものであってもよく、噛合した状態において回転可能なものであればその形状は図示の例に限定されない。
【0033】
また、同様に図示の例では、各スクリュロータ10a,10bには1条のスクリュのみが形成されている例を示しているが、各スクリュロータ10a,10bは2条以上のスクリュが形成された多条ロータや、各スクリュロータ10a,10bの条数を異ならせても良い。
【0034】
〔スクリュロータ〕
以上のように構成された真空ポンプ1に使用される本発明のスクリュロータ10は、図4に示すようにスパイラル状のスクリュ歯形がリード角αで形成されている。
【0035】
本発明のスクリュロータは、図4に示すようにその軸線方向の断面において歯側面18,19の一方18は、スクリュロータの軸線Xに対して直交方向を成す線Yに対して図4中左側に僅かに陥没する湾曲形状に形成されており、従って歯先面13と歯側面18との連結位置にあたる2つの角部14,15のうちの一方の角部14はスクリュロータ10の軸線方向における断面において僅かに鋭角を成し、この鋭角を成す一方の角部14に続く歯側面18は歯底面17から外周方向に向かってオーバーハング状に傾斜している。
【0036】
また、他方の角部15は、スクリュロータ10の軸線方向の断面において僅かに鈍角を成し、この他方の角部15に続く歯側面19は、歯底面17に向かって傾斜する傾斜面を形成している。
【0037】
このように形成されたスクリュロータ10の軸直角断面における歯形は、図5に示すようにスクリュロータの軸芯Oを中心とした半径r1の円弧から成る歯先面曲線13’、スクリュロータの軸芯Oを中心とし、歯先面曲線の円弧よりも小径の半径r2の円弧から成る歯底面曲線17’と、この二つの曲線との間に形成する二の歯側面曲線18’,19’により略その形状が画成されている。
【0038】
歯先面曲線13’の両端と二の歯側面曲線18’,19’との間に形成された前述の角部14,15のうち、鋭角的に形成された一方の角部14は、図6において実線で示すように歯先面曲線13’の一端Aから、一方の歯側面曲線18’の一端Gを繋ぐ曲線A−Gにより形成されている。
【0039】
この一方の角部14の軸直角断面形状を成す曲線A−Gは、歯先面曲線13’の端部Aから一方の角部14の突出方向に向かって曲率半径を漸減する形状、例えばこの条件を満たす二次曲線により形成されており、本実施形態にあっては、この曲線中、もっとも曲率半径が小さく形成された頂部F’を長軸の一端とする楕円の一部から成る曲線A−Gにより一方の角部14の断面形状としている。
【0040】
なお、この曲線A−Gから成る一方の角部14の形状は、前述の楕円に限定されるものでなく、歯先面曲線13’の一端Aから一方の角部14の突出方向に向かって曲率半径を漸減する形状の曲線と成るものであれば如何なる形状であっても良い。前述の例では、二次曲線、具体的には楕円の一部としているが、この一方の角部14の形状は、歯先面曲線13’の端部Aから一方の角部14の突出方向に向かって曲率半径を漸減する形状であれば必ずしも二次曲線のように頂部F’を中心として対称の形状を成すものである必要はない。また、前述の二次曲線の例では楕円の他、例えば放物線、双曲線等として得られた曲線又はその一部により構成しても良い。
【0041】
また、一方の角部14を成す曲線は、正確に楕円、その他の二次曲線を画いたものである必要はなく、この二次曲線上の任意の点を複数取り、この点間を滑らかに連結する曲線により繋いで連続させた、二次曲線に近似した曲線として形成する等、その形状は実施形態のものに限定されない。
【0042】
このように一方の角部14を歯先面曲線13’の端部Aから一方の角部14の突出方向に向かって曲率半径を漸減する曲線、特にこのような二次曲線により形成することにより、スクリュロータ10の熱膨張に際しても一方の角部14がシリンダ31の内壁に接触し難いものとなり、その結果歯先面13とシリンダ31内壁間の隙間δtを可及的に狭くすることが可能となる。
【0043】
また、一方の角部14の軸直角断面形状を円弧状とする従来のスクリュロータ10と比較した場合において、形成されるブローホールを可及的に小さなものとすることができる。
【0044】
この点につき、前述のような一方の角部14を突出方向に向かって曲率半径を漸減する軸直角断面形状にすることにより歯先面13とシリンダ31内壁間の隙間を狭くすることができる点について図5及び図6を参照して説明すれば、この種のスクリュロータ10にあっては、運転時に発生する流体の圧縮熱によりスクリュロータが熱膨張することを考慮して、スクリュロータ10の歯先面13とシリンダ31の内壁間にはこの熱膨張によるスクリュロータ10の熱膨張量を考慮した隙間δtが設けられている(図6参照)。
【0045】
しかし、この歯先面13とシリンダ31内壁間に設けられた隙間δtは、この隙間δtを広く取る程歯先面13とシリンダ31内壁間におけるシール性が低下することから、この隙間δtは可及的に狭いものとすることが好ましい。
【0046】
ところで、真空ポンプの運転時には作用空間内の流体が圧縮作用により発熱し、スクリュロータにより画成される作用空間の表面が前記流体により加熱され、スクリュロータが熱膨張する。このときスクリュロータの中で最も熱膨張量の大きい箇所は作用空間に面していて回転軸芯から最も遠くに位置する一方の角部14であるが、この一方の角部14を成す曲線A−Gは、この一方の角部14の突出方向に向かって曲率半径を漸減する形状を成すために、歯先面曲線13’の一端Aから先端方向に向かうに従い徐々にシリンダ31内壁から離間する形状になっている。ゆえに、これにより最も熱膨張による影響を受けやすい一方の角部14においては、隙間δtに加えて隙間δt’が存在している。
【0047】
そのため、この隙間δt’において一方の角部14における外周方向への熱膨張量の増加分を補償し得るものとすれば、歯先面13とシリンダ31内壁間の隙間δtは、歯先面曲線13’の一端Aにおける変形量を最大値として考慮すれば良いものとなり、その結果、歯先面13とシリンダ31の内壁間の隙間δtは、可及的に狭めることができる。
【0048】
これに対して、従来技術において紹介したように、一方の角部14の軸直角断面形状を円弧とする場合において、本願スクリュロータ10の一方の角部14における突出長さと同程度の突出長さを確保しようとすれば、図6中破線で示すように歯先面曲線13’の端部は、より一方の角部14の先端側の位置であるA’迄延長する必要がある。そして、歯先面13とシリンダ31内壁間に形成すべき隙間δtは、このA’における外周方向への熱膨張量を考慮して決定する必要がある。
【0049】
しかし、一方の角部14の突出方向先端側にある端部A’は、曲線A−Gよりも外周方向に位置していて前述の点Aに比較して作用空間に近く、作用空間の熱影響を受けやすいことから熱膨張量の大なる部分で、この端部A’における変形量を基準として決定された隙間δtは必然的に広くなる。このことから、シリンダ31の内径も大きくなって、端部A‘以外の歯先面13とシリンダ31内壁との隙間が大きくなって、この隙間を介して流体の漏れが生じやすい。
【0050】
その一方で、本願のスクリュロータ10と同様に、歯先面曲線13’の端部を図6中の点Aとし、この点Aにおいて歯先面曲線13’と接し、かつ、一方の歯側面曲線18’と接する円弧(図6中の一点鎖線)により角部14を形成すると、一方の角部14の切欠は極めて大きくなり、噛合するスクリュロータ10a,10bの一方の角部14,14間に形成されるブローホールが大きくなる結果、実用に耐え得ないスクリュロータとなる。
【0051】
このように、本発明のスクリュロータ10にあっては、歯先面13とシリンダ31内壁間の隙間δtを可及的に狭くすることができることにより、該部分におけるシール性の向上が図られているが、歯先面13とシリンダ31内壁間におけるシール性を向上させるためには、好適には前述の構成と共に、歯先面曲線13’をスクリュロータ10の回転軸芯を中心として全外周(360°)に対して90〜180°となる歯形とする。
【0052】
最外周を半径r1とするスクリュロータ10に形成された歯形の歯先面13を平面上に展開した状態を想定すると、この歯先面13は、リード角αで傾斜する斜辺を有する直角三角形Δの斜辺と、この斜辺に平行な直線間に形成された帯状部分で表すことができる。
【0053】
ここで、前述の帯状部分を円筒に巻き付けた際、前記直角三角形の斜辺により形成されるつる巻き線のリードをRとすると、このリードRは、
R=2πr1tanα
となる。
【0054】
そして、ロータの軸直角断面において90°から180°の範囲であらわれる歯先面曲線13’の長さは、
2πr1/4≦歯先面曲線の長さ≦2πr1/2
の範囲となり、スクリュロータ10の軸線方向における歯先面13の横断幅R’は、
πr1tanα/2≦R’≦πr1tanα
すなわち、歯先面13の軸線方向の横断幅R’はリードRの1/4から1/2の長さとなる。
【0055】
このように、ロータの軸直角断面において、歯先面13を成す歯先面曲線が90°から180°の範囲であらわれる形状の歯形とすることにより、歯先面13の幅をリード長に対して一定幅確保することかでき、歯先面13とシリンダ内壁間におけるシール性が向上する。
【0056】
すなわち、軸直角断面においてあらわれる歯先面曲線13’が、スクリュロータ10の回転軸芯を中心として全周(360°)に対して90°以下となる場合には、歯先面13のロータ軸線方向における横断幅R’がリードRの1/4以下の長さとなり、歯先面13の幅が狭く、歯先面13とシリンダ内壁面間における十分なシール性を発揮することができないものとなるが、前述のように歯先面曲線13’を90°〜180°の範囲で形成することにより、この部分におけるシール性を向上させることができると共に、前述の角部14の形状と組み合わせる場合には、歯先面13とシリンダ31内壁間の隙間δtを可及的に狭くすることができることと相俟って該スクリュロータ10を使用したスクリュ流体機械の作業効率は飛躍的に向上する。
【0057】
図6において、曲線A−Gと歯底面曲線17’とを結ぶ一方の歯側面曲線18’(図6中の曲線G−H)は、軸直角方向断面における歯側面18の輪郭を示しており、この一方の歯側面曲線18’は、両ロータを同期回転させた際に、当該スクリュロータに噛合する前述の形状に形成された他方のスクリュロータの一方の角部14を成す曲線A−Gが創成する曲線に形成されている。
【0058】
このように一方の歯側面曲線18’を、回転するスクリュロータの一方の角部14を構成する曲線A−Gが創成する曲線としたことにより、一方のスクリュロータの一方の角部14と、他方のスクリュロータの歯側面18間において作用空間がシールされているとき、一方のスクリュロータの一方の角部14を成す曲線A−Gのいずれかの位置と、他方のロータの一方の歯側面曲線18’のいずれかの位置間において作用空間がシールされるために、シール性が良好である。
【0059】
〔製造方法〕
以上のスクリュロータは、一例として図8及び図9に示すように回転するカッタにより切削加工される。この切削加工において、カッタ回転軸3の軸芯4は、所定のねじれ角を有する歯溝の形成方向、すなわち歯形のリード角αに対応してワークの回転軸芯7に対して角度α傾斜されており、このカッタ回転軸3にシングルカッタをスペーサ2と共に取り付けている。
【0060】
シングルカッタのカッタ回転中心Ocは、カッタ回転軸3に長さLのスペーサ2を設けているため、スペーサ2を設けることなく取り付けた場合のカッタ回転中心Oc’に対して図中右方向にLだけオフセットしている。従って、カッタの回転中心の移動方向の延長線は、ワークの回転軸芯7の下方に所定距離ずれた位置を通過するよう設定されている。
【0061】
このように、回転中心Ocがオフセットされたカッタによるスクリュロータの製造方法について説明すると、まず、カッタ回転軸3に沿って右方向にオフセットしたシングルカッタを切り込み量に応じた分、ワーク6の回転軸芯7に対して直交方向にワーク6側に移動する。その後、シングルカッタをカッタ回転軸3により回転させる。そのときワーク6は、ワーク軸9の回転軸芯7上であってシングルカッタよりも左側の加工開始位置で待機している。
【0062】
次に、ワーク6をその回転軸芯7を中心として回転させながら回転軸芯に沿って図中左側から右側へ移動させる。
【0063】
ワークが加工終了位置まできたら、シングルカッタをワークから一旦離し、ワークをワーク軸9に沿って加工開始位置まで左側に戻す。
【0064】
次にまた、シングルカッタをワーク6の回転軸芯に対して直交方向に切り込み量に応じた分ワーク側に送り、その後シングルカッタをカッタ回転軸により回転させる。
【0065】
次に、ワーク6をその回転軸芯7を中心として回転させながら前記回転軸芯7に沿って図中左側から右側へ移動させる。
【0066】
ワーク6が加工終了位置まできたら、シングルカッタをワーク6から一旦離し、ワーク6をワーク軸9に沿って加工開始位置まで左側に戻す。
【0067】
以上の動作を所望の歯形が得られるまで繰り返し行うことで、スクリュ歯形の歯溝を加工している。
【0068】
このように、回転中心Ocをオフセットしたカッタを使用することにより、シングルカッタを切り込み量に応じてワーク側に移動させていっても、カッタの回転中心の移動方向の延長線上にワークの回転軸芯が配置されていないので、歯側面18,19が傾斜しているスクリュロータの歯溝をカッタの回転軸芯を水平方向に傾斜させることなく加工することができる。もっとも、本発明のスクリュロータ10は前述の方法による加工に限定されず、カッタの回転軸芯を水平方向に傾斜させた既知の加工装置により製造しても良い。
【0069】
なお、スクリュロータは所定のリード角αを有することから、前述のカッタの角部14を切削する部分を、所定径の円弧状に形成すれば、軸直角方向の断面においてスクリュロータ10の一方の角部14の形状を一方の角部14の突出方向に向かって曲率半径を漸減する楕円形状とすることが容易にできる。
【0070】
また、角部を切削する部分の形状を円弧とする切削刃は、製造や研ぎ直し作業が比較的容易であると共に、円弧状に形成された切削工具は、鋭角的に形成された切削工具に比較して欠けや摩耗が生じ難く長寿命となり、比較的長期に亘り正確にロータの切削を行うことができる。さらに、角部切削する部分の形状を円弧とする切削刃は、角部に切削によるバリが発生しないことから、バリを除去する作業が不要となり、バリ取り作業によって角部が削り取られ作用空間のシール性が低下することがない。
【0071】
以上説明した本発明の構成により、本発明の歯形形状を備えたスクリュロータにあっては、スクリュロータ間の完全なシール線を得ることができ、また、ブローホールを可及的に小さなものとすることができた。その結果、シール性の向上されたスクリュロータを提供することができた。
【0072】
また、歯先面とシリンダ内壁間の隙間を可及的に狭くすることができると共に、軸直角断面にあらわれる歯先面曲線を、スクリュロータの全周に対して90°〜180°とすることにより、歯先面とシリンダ内壁間におけるシール性を向上させることができた。
【0073】
また、このようなシール性を向上させる角部の形状は、切削工具の該当個所を円弧状にすることにより極めて容易に形成することができると共に、切削工具の該部分を鋭利な形状とする場合に比較して寿命をも延ばすことができ、切削工具が切れなくなったり、加工精度が確保できなくなり工具交換をするまでに多数のスクリュロータの加工ができ、工具交換の作業が少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
図1は、本発明のスクリュロータを備えた真空ポンプの断面平面図。
図2は、図1の正面断面図。
図3は、図2のIII−III線断面図。
図4は、スクリュロータの要部断面正面図。
図5は、スクリュロータの軸直角断面図。
図6は、スクリュロータの角部の拡大図。
図7は、歯先面の軸線方向横断幅と歯先面曲線の形成長さの関係を示す説明図。
図8は、本発明のスクリュロータの加工方法を示す概略説明図。
図9は、本発明のスクリュロータの加工方法を示す概略説明図。
図10は、従来のスクリュロータを示し、(A)は軸線方向断面図、(B)は、角部の干渉状態を示す軸直角方向断面図、(C)は干渉を防止するための切欠が設けられた状態を示す軸直角方向断面図。
図11は、従来の別のスクリュロータを示し、(A)は軸線方向断面図、(B)は軸直交方向断面における角部の拡大図。
図12は、従来のスクリュロータにおいて形成されるブローホールの説明図。
Claims (5)
- 一対のスクリュロータをねじれ方向を逆にして噛合させて回転し、流体を吸入しかつ吐出するスクリュ機械に使用されるスクリュロータにおいて、
前記一対のスクリュロータのそれぞれの軸直角断面における歯形は、スクリュロータの回転軸芯を中心とする所定径の円弧から成り歯先面の輪郭を成す歯先面曲線と、前記歯先面曲線と同心で前記歯先面曲線よりも小径の円弧から成り歯底面の輪郭を成す歯底面曲線と、前記歯先面曲線と歯底面曲線との間に形成された歯側面の輪郭を成す二の歯側面曲線とを備え、
前記歯先面曲線の両端と、前記二の歯側面曲線との間に形成された2つの角部のうち、前記歯先面曲線の一端と前記二の歯側面曲線のうちの一方の歯側面曲線との間に形成された一方の角部を、前記歯先面曲線の前記一端と前記一方の歯側面曲線の一端間を連結する曲線により形成し、
前記歯先面曲線の前記一端と前記一方の歯側面曲線の前記一端間を連結する前記曲線を、前記歯先面曲線の前記一端から前記一方の角部の突出方向に向かって曲率半径を漸減する曲線と成すと共に、該一方の角部から前記歯底面曲線に至る前記一方の歯側面曲線を、他方のスクリュロータに形成された前記一方の角部が創成する曲線としたことを特徴とするスクリュロータ。 - 一対のスクリュロータをねじれ方向を逆にして噛合させて回転し、流体を吸入しかつ吐出するスクリュ機械に使用されるスクリュロータにおいて、
前記一対のスクリュロータのそれぞれの軸直角断面における歯形は、スクリュロータの回転軸芯を中心とする所定径の円弧から成り歯先面の輪郭を成す歯先面曲線と、前記歯先面曲線と同心で前記歯先面曲線よりも小径の円弧から成り歯底面の輪郭を成す歯底面曲線と、前記歯先面曲線と前記歯底面曲線との間に形成された歯側面の輪郭を成す二の歯側面曲線とを備え、
前記歯先面曲線の両端と、前記二の歯側面曲線との間に形成された2つの角部のうち、前記歯先面曲線の一端と前記二の歯側面曲線のうちの一方の歯側面曲線との間に形成された一方の角部を、前記歯先面曲線の前記一端と前記一方の歯側面曲線の一端間を連結する曲線により形成し、
前記歯先面曲線の前記一端と前記一方の歯側面曲線の前記一端間を連結する前記曲線を、前記歯先面曲線の前記一端から前記一方の角部の突出方向に向かって曲率半径を漸減する曲線と成すと共に、該一方の角部から前記歯底面曲線に至る前記一方の歯側面曲線を、他方のスクリュロータに形成された前記一方の角部が創成する曲線とし、かつ、
前記スクリュロータの少なくとも一方が、前記歯先面曲線を前記スクリュロータの回転軸芯を中心として90〜180°の範囲に形成したことを特徴とするスクリュロータ。 - 前記一方の角部の軸直角断面形状が、二次曲線により構成されて成ることを特徴とする請求項1又は2記載のスクリュロータ。
- 前記一方の角部の軸直角断面形状が、楕円の一部により形成されて成ることを特徴とする請求項1又は2記載のスクリュロータ。
- 前記一方の角部の軸直角断面形状が、該一方の角部の突出方向に向かって曲率半径を漸減する二次曲線上の複数の点を連結することにより形成された、前記二次曲線に近似した曲線である請求項1又は2記載のスクリュロータ。
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