JP4261923B2 - 金属配位化合物を用いた発光素子 - Google Patents

金属配位化合物を用いた発光素子 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機化合物を用いた発光素子に関するものであり、さらに詳しくは、金属錯体としてタングステン配位化合物を発光材料として用いることで、安定した効率の高い発光素子に関するものである。
【0002】
【背景技術】
これまで、一般に有機EL素子に用いられている発光は、発光中心の分子の一重項励起子から基底状態になるときの蛍光が取り出されている。一方、一重項励起子を経由した蛍光発光を利用するのでなく、三重項励起子を経由したりん光発光を利用する素子の検討がなされている。
【0003】
従来の公知の有機EL素子構成図1に示す。この中で、図1(C)に示す有機層が4層構成が主に用いられている。それは、陽極側からホール輸送層25、発光層24、励起子拡散防止層23、ホール輸送層22からなる。用いられている材料は、図2に示すキャリア輸送材料とりん光発光性材料である。各材料の略称は図に示した。
Alq:アルミ-キノリノール錯体
ΑNPD:N4,N4'-Di-naphthalen-1-yl-N4,N4'-diphenyl-biphenyl-4,4'-diamine
CBP:4,4'-N,N'-dicarbazole-biphenyl
BCP:2,9-dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthroline
Bphen:4,7-diphenyl-1,10-phenanthroline
PtOEP:白金-オクタエチルポルフィリン錯体
Ir(ppy)3:イリジウム-フェニルピリジン錯体
上記、りん光発光を用いた有機EL素子では、発光の高効率化の課題と共に通電時の発光の劣化が問題となる。りん光発光素子の発光劣化の原因は明らかではないが、一般に3重項寿命が1重項寿命より、3桁以上長いために、分子がエネルギーの高い状態に長く置かれるため、周辺物質との反応、励起多量体の形成、分子微細構造の変化、不純物の影響、周辺物質の構造変化などが起こるのではないかと考えられている。
【0004】
りん光発光素子の中心になっている金属配位化合物は、中心金属がIr(イリジウム)である。(例えば非特許文献1を参照)。
【0005】
一般に、高効率のりん光発光する物質は、比較的原子量の大きな金属を中心金属に持つ化合物である。りん光発光は、励起3重項から基底1重項への遷移であり、一般の有機物では禁制遷移であるが、重原子金属を用いた金属配位化合物ではこの禁制が「重原子効果」によって解かれ、許容遷移となり、強いりん光を発するもがある。その一例がイリジウム金属を用いた金属配位化合物である。
【0006】
また金属錯体としてタングステン配位化合物が知られており、光照射により発光することが知られている。(例えば非特許文献2を参照)。
【0007】
【非特許文献1】
S.Lamanskyほか,`Synthesis and Characterization of Phosphorescent Cyclometalated Iridium complex`,
Inorg.Chem. 40,p1704,(2001)
【非特許文献2】
D.M.Manutaら,‘Emission and Photochemistry of M(CO)4(diimine) [M=Cr, Mo, W] in Room-Temperature Solution',Inorg.chem.,25,1354(1986)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、イリジウム配位化合物など重原子金属を用いる金属配位化合物は、当然ながらその分子量は大きくなる。そのため、有機EL素子作成に用いられる蒸着製膜工程でのこのイリジウム配位化合物による分解が問題となる。分解する場合、その量が少量であったとしても、その不純物が悪影響を与え素子発光寿命が短くなり、大量生産時の素子ばらつきが大きくなるなどの問題がある。
【0009】
イリジウム配位化合物は、例えば、31から35に示される分子構造に代表されるような化合物が用いられる。31の化合物の場合、フェニルピリジン配位子が3つ配位したものであり、また、33は2配位したものである。31と33の分子量はそれぞれ655と600である。
【0010】
一方、図2に示したAlqの分子量は459であり、前記イリジウム配位化合物に対して分子量は小さい。これらを同じスピードで真空蒸着し、その蒸着物を分析してみると、Alqでは、分解は確認されないが、イリジウム配位化合物では長時間にわたって蒸着をし続けた場合、0.1〜3%の分解物が確認された。
【0011】
これにより、蒸着条件によっては、蒸着時にイリジウム配位化合物が分解する可能性があり、素子内の不純物濃度が高くなり素子性能や生産安定性に悪影響を与える可能性があることが分かった。さらに、配位子の共役長を伸ばして発光波長を長波長化することが考えられるが、その例が図3の化合物34や35である。この場合、配位子の拡張によりさらに分子量が増大し、昇華温度の上昇による生産性への影響が考えられる。
【0012】
いずれにせよ、これまでりん光発光素子に用いられる金属配位化合物発光材料は、上記のような問題を内在している。発光効率が高く、かつ熱的安定性の高いものはなく、これらを両立するものが望まれていた。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、基板上に形成された一対の電極間にタングステン配位化合物を配置したことを特徴とした発光素子である。
【0020】
より具体的には基板上に形成された一対の電極間に下記一般式(4)で示される部分構造式を有するタングステン配位化合物を配置したことを特徴とした発光素子を提供する。
【外2】
Figure 0004261923
(4)
上記一般式(4)のフェナントロリン環の一つ以上のC−HがN原子に置き換えてもよい。また、該フェナントロリン環は、置換基を有してもよく、
該置換基はハロゲン原子または炭素原子数1から10の直鎖状または分岐状のアルキル基(該アルキル基中の1つもしくは隣接しない2つ以上のメチレン基は−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−CH=CH−、−C≡C−で置き換えられていてもよく、該アルキル基中の水素原子はフッ素原子に置換されていてもよい。)
またnは4である。〕
【0023】
また本発明は、電圧印加によって発光層が発光する電界発光素子であり、特にりん光を発する発光素子である。
【0024】
さらに本発明は、上記発光素子と電気信号を印加する電気信号印加回路からなる表示装置である。
【0025】
【発明の実施の形態】
発光層が、キャリア輸送性のホスト材料とりん光発光性のゲスト材料からなる場合、3重項励起子からのりん光発光に至る主な過程は、以下のいくつかの過程からなる。
【0026】
1.発光層内での電子・ホールの輸送
2.ホストの励起子生成
3.ホスト分子間の励起エネルギー伝達
4.ホストからゲストへの励起エネルギー移動
5.ゲストの三重項励起子生成
6.ゲストの三重項励起子→基底状態へ遷移時のりん光発光
【0027】
それぞれの過程における所望のエネルギー移動や、発光はさまざまな失活過程と競争でおこる。EL素子の発光効率を高めるためには、発光材料そのものの発光量子収率が大きいことは言うまでもない。しかしながら、ホスト−ホスト間、あるいはホスト−ゲスト間のエネルギー移動が如何に効率的にできるかも大きな問題となる。
【0028】
また、ホスト材料上で励起子ができる上記発光メカニズム以外に、ゲスト材料上で直接、電子とホールが再結合して励起子生成するメカニズムが考えられる。これらホスト材料上で励起子が生成されゲスト材料にエネルギー移動してゲスト材料の励起子ができる場合を間接励起、ゲスト材料が直接励起される場合を直接励起と呼ぶ。
【0029】
直接励起と間接励起とのどちらが起こっているかを実験的に判断するのは困難であるが、いずれにしてもこのどちらか、あるいは、2つの現象が混在した現象であると考えられる。
【0030】
本発明に用いたタングステン配位化合物は、りん光発光をするものであり、最低励起状態が、3重項状態のMLCT*(Metal−to−Ligand charge transfer)励起状態、あるいは、配位子内のπ電子が関与するππ*励起状態であると考えられる。これらの状態から基底状態に遷移するときにりん光発光が生じる。
【0031】
タングステン配位化合物が光照射により発光することは、先に示した非特許文献2に一部記載されている。これには、本発明に用いられるタングステン配位化合物(例示化合物1と13)が記載されているが、これらを電界発光素子として用いた例はない。また、本発明では以下に示していくように、上記1と13以外の化合物は新規化合物である。
【0032】
タングステンは、周期律表の中では第6周期の遷移金属で大きな重原子効果を有する金属であり、一般に紫外線照射などにより、りん光を発光する。
【0033】
本発明に用いられるタングステン配位化合物の一般式の例を以下にあげる。(A)から(H)までのタイプに分けた。
A) W(CO)(L2)
B) W(CO)(L1)
C) W(CO)(L1)(L1’)
D) W(CO)(L2)(L1’)
E) W(L2)
F) W(L2)(CO)
G) (CO)W(L4)W(CO)
H) (L6)[W(CO)
ここで、L2は2座配位子を、L1、L1’は一座配位子、L4は4座配位子、L6は6座配位子を示している。
【0034】
またL2の2座配位子の例を図4、図5及び図6に示した。
【0035】
図4には2,2’−ビピリジン及びそれに置換基を付与したものである。図5にはフェナントロリン及びそれに置換基を付与したものを示した。
【0036】
図4と5に示したものは、ビピリジンとフェナントロリン中の芳香環中の2つの窒素原子がタングステン原子に配位する2座配位子として機能する。置換基は、種々の働きをする。例えば、−CFや−F基のような電子吸引基、あるいは−CHや−OCHのような電子供与基を用いることで、発光波長や発光特性を変化させることができる。
【0037】
また、その他の置換基を用いた場合においても、隣接分子との間の分子間相互作用を制御することができ、発光効率を向上させることができる。
【0038】
また、分子間相互作用を抑制することで、ホスト材料中のゲスト材料濃度が大きくなると発光効率が低下する現象(これを濃度消光という)を抑制することができる。
【0039】
よってホスト材料中への発光材料の分散濃度を高くでき、高濃度で高発光効率の発光素子が可能になる。
【0040】
さらに、発光層をゲスト−ホストタイプの混合層ではなく、ゲスト材料であるタングステン配位化合物だけからなる(つまり100%)発光素子も可能になる。
【0041】
また、分子間相互作用を弱めることで昇華温度が低下し、真空蒸着する場合の分解を防止し、安定した蒸着製膜が可能になる。
【0042】
図6には、縮合複素環や、複数の窒素原子で置換した複素環で構成した2座配位子の例を示した。例に示した61−65、67−69配位子のように、π電子の共役長を大きくした配位子では、発光波長の長波長化が可能になる。これらは、図4や図5に示した配位子のように、種々の置換基(ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、フッ素したアルコキシ基など)を持つことが可能である。
【0043】
また、66のように芳香環中の窒素原子が増えると電子親和力が大きくなり、電子を受け取り易くなる。これにより、中心金属から配位子への電荷移動がしやすく、発光効率が高いMLCT励起状態がより実現しやすくなる。また、610や611のように、りんを含む配位子を用いることもできる。
【0044】
また、L1の一座配位子の例を図8に示した。
【0045】
図8は、本発明に用いられる一座配位子を示し、ピリジン、キノリン、イソキノリン、あるいはこれらのC−H基を窒素原子に置換したものであり、これら芳香族環中の窒素原子がタングステン原子に配位結合する。
【0046】
以上の配位子を用いたタングステン配位化合物の例を表1から表3に示した。
【0047】
【表1】
Figure 0004261923
【0048】
【表2】
Figure 0004261923
【0049】
【表3】
Figure 0004261923
【0050】
表中の「タイプ」の欄には、上記(A)から(H)のタイプに従って記入した。
【0051】
また、L4の4座配位子とL6の6座配位子を図7に示した。
【0052】
上記の配位子を用いたタングステン配位化合物の例を図9に示した。
【0053】
図9に示す複核錯体は、中心となる4座または6座配位子に2つまたは3つのタングステン金属が配位結合する形になっている。この錯体の場合、金属から中心の配位子へのMLCT励起状態、または、中心配位子のππ*励起状態であり、どちらも励起部位は中心金属の近傍に位置し、外側に配置されているカルボニル配位子に「保護」されている形になっている。
【0054】
従って励起状態が外部から守られているため、分子間相互作用によって近傍の分子へのエネルギー移動が阻害され、励起エネルギーの熱失活確率が小さくなる。従って、電子伝導性のホスト材料中に、このような発光材料をドープした場合、高濃度でドープしても濃度消光しにくく、他の分子に比較して、非常に高濃度で用いることが可能である。
【0055】
さらには、ゲスト−ホスト系ではなく、これらのタングステン配位化合物を発光材料として、100%の状態で発光層にすることが可能である。
【0056】
本発明のタングステン配位化合物は有機EL素子の発光材料に有用である。高い発光効率を有することは言うまでもなく、製造方法としても有用である。特に真空蒸着法やスピンコートによる成膜プロセスにも適する。また耐熱性に優れており、素子作成工程において用いられる蒸着時でも熱分解が少なく、安定した素子作成が可能になる。また、EL素子の通電時の発光安定性に関しても劣化が少ないことが確認された。
【0057】
この理由として、本発明のタングステン配位化合物の構造上の特徴は、カルボニル基を有することである。このカルボニル基部分の分子量は38程度であり、分子全体の分子量を小さく抑えることができ、昇華温度を比較的小さくすることが可能である。よって、蒸着時の温度が低くできるものと考えられる。
【0058】
例えば、前記したIr(ppy)3の分子量は655で、図12に示したW(CO)4phenは472.1であり、重原子効果を用いるりん光発光材料の中では非常に分子量が低く、昇華温度が低く蒸着しやすいものである。
【0059】
上記W(CO)4phenの真空蒸着時の分解物を調べるために、ガラス基板上に蒸着した蒸着物をアセトニトリルで洗い流して、高速液体クロマトグラフィ−で分析したところ、分解した不純物は0.1%以下で、分解物は十分少なかった。
【0060】
また、化合物の安定性に関しては、蒸着時の化合物の熱的な安定性あるいは、素子にした後の通電時の安定性が問題となる。蒸着時には、昇華する時に高温にさらされるため、耐熱性が問題となる。素子にした後には、酸化状態、還元状態あるいは励起状態にとなるため、他の物質へ変化する可能性がある。
【0061】
本発明の化合物は、これらの状態においても安定であることが、本発明者らの実験によって示され、有機EL素子に有効であることが明らかとなった。
【0062】
本発明に用いるタングステンの価数は特に限定されるものではないが、0価が望ましい。配位子自体0価の配位子が多く、電気的に中和したものを設計する場合、配位子の選択肢が多く、性能の高い金属配位化合物を作成することが容易になる。また、0価のタングステンは、d電子を6個持っており、6配位する配位化合物を形成する場合に、安定な化合物を形成しやすい。
【0063】
ここで、これらの化合物に関して、溶液状態と薄膜状態のフォトルミネッセンス特性について、説明する。
【0064】
先ず溶液状態のフォトルミネッセンス特性を調べるために、脱酸素したトルエンやアセトニトリル溶液中において、紫外線照射により非常に発光される燐光強度を測定した。
【0065】
従来のりん光発光材料の代表例のIr(ppy)は、りん光発光収率が室温において0.4であり、高いりん光収率を示す。
【0066】
一方、これと同じ実験条件で、図10に示した1001や1002のタングステン配位化合物(例示化合物13と27)の発光量子収率を調べたところ、0.01程度であって、一桁以上低く、フォトルミネッセンス特性が低いことが判った。
【0067】
また薄膜状態のフォトルミネッセンス特性を調べるために、ガラス上に50nmの蒸着膜を形成し。これに350nmの光をあてて、その発光強度を観察する方法により、フォトルミネッセンス物性を測定した。
【0068】
Ir(ppy)の薄膜ではほとんど発光しないが、本発明のタングステンカルボニル配位化合物である例示化合物13や27の化合物による薄膜からは強く発光する。これは、このタングステン配位化合物が100%の状態でも強く発光することを示しており、いわゆる濃度消光しにくい材料であることを示している。
【0069】
これは、タングステン配位化合物の場合、発光に関与する励起状態が一つの2座配位子であるフェナントロリン部位に局在化しており、Ir(ppy)のように3つの配位子に非局在化していることが原因と考えられるが、溶液中での発光収率が低い理由は明らかではない。
【0070】
以上のように、従来の発光材料とは異なり、溶液中の発光収率が非常に弱くても電界発光素子にした場合有用であることが、本発明者らによって明らかにされた。また、以下の実施例に示すように、通電耐久試験において、本発明の化合物は、安定性においても優れた性能を有することが明らかとなった。
【0071】
以下本発明のタングステン配位化合物に関して、実施例を用いて詳細に説明する。
【0072】
(実施例1)
例示化合物13(図10の化合物1001)の合成方法は、論文(Inorg.Chem.25(1986)p1354)に記載の方法によって合成した。合成した最終物の分子量は、DI−MS(直接導入マススペクトル)測定装置によって測定したところ476.0であり、例示化合物13が合成されていることを確認した。また、HPLC(高速液体クロマトグラフィ)で純度を測定したところ、99.5%以上の純度が確認できた。
【0073】
この化合物の粉末状態でのフォトルミネッセンス(PLと略す)スペクトルを図11に示す。PLスペクトルは、日立FL4500蛍光分光測定機で測定した。発光ピーク波長は655nmの赤色発光が確認された。
【0074】
この合成した例示化合物13を発光材料として有機EL素子を作成した。
【0075】
素子の構成として、図1(C)に示す有機層が4層の素子を使用した。
【0076】
ガラス基板上に100nmのITOをパターニングして、以下の有機層と電極層を10−4Paの真空チャンバー内で、蒸着ボートを抵抗加熱して真空蒸着し、真空状態のまま連続製膜した。その上に、対向する電極面積が3mmになるように金属電極層を形成した。
【0077】
有機層1(40nm):αNPD
有機層2(30nm):CBP中に例示化合物13を共蒸着(重量比16重量%)
有機層3(10nm):BCP
有機層4(40nm):Alq
金属電極層1(15nm):AlLi合金(Li含有量1.8重量%)
金属電極層2(100nm):Al
【0078】
これらにAlをマイナス、ITO側をプラスにしてDC電圧を印加して素子特性を評価した。前期PL発光と同じELスペクトルが得られた。また、100cd/m2の初期輝度になる条件に設定し、100時間連続通電を行ったが、発光輝度の低下が数%程度であり、安定な発光が得られた。
【0079】
(実施例2)
例示化合物20(図10の化合物1002)は、論文(Inorg.Chem.25(1986)p.1354)に従って合成した。
【0080】
これに用いた配位子である2,9−ジターシャリーブチルフェナンスロリンは、Tetrahedron Letters,Vol.23,No.50,p5291に従って合成した。
【0081】
合成した最終物の分子量を、DI−MS(直接導入マススペクトル)測定装置によって測定したところ588.1であり、例示化合物20が合成されていることを確認した。また、HPLC(高速液体クロマトグラフィ)で純度を測定したところ99.5%以上の純度が確認できた。
【0082】
この化合物の粉末状態でのPLスペクトルを測定した。発光ピーク波長は固体粉末で660nmの赤色発光が確認された。
この合成した例示化合物20を発光材料として用いて有機EL素子を作成した。
【0083】
素子構成として、図1(C)に示す有機層が4層の素子を使用した。発光層は、例示化合物20の100%を用いた。それ以外は、実施例1と同様である。
【0084】
有機層1(40nm):αNPD
有機層2(30nm):例示化合物20のみ(100%;ホスト材料なし)
有機層3(10nm):BCP
有機層4(40nm):Alq
金属電極層1(15nm):AlLi合金(Li含有量1.8重量%)
金属電極層2(100nm):Al
これらにAlをマイナス、ITO側をプラスにしてDC電圧を印加して素子特性を評価した。前記PL発光と同じELスペクトルが得られた。
【0085】
この例のように、発光層材料を100%の状態で用いた場合でも、比較的強い発光が得られることが判った。このことは溶液でのフォトルミネッセンス法による発光量子収率の値からは、全く予想できない成果であった。
【0086】
また、100Cd/m2の初期発光輝度になる条件に設定し、100時間連続通電を行ったが、発光輝度の低下が10%程度であり、安定な発光が得られた。
【0087】
(実施例3,4,5)
例示化合物19(図10の化合物1003)を用いて発光素子を形成した。その合成方法は、論文(Inorg.Chem.25(1986),p.1354)に従って合成した。
【0088】
これに用いた配位子であるバソフェナンスロリンは、アルドリッチ社から購入した。合成した最終物の分子量を、DI−MS(直接導入マススペクトル)測定装置によって測定したところ628.1であり、例示化合物19が合成されていることを確認した。また、HPLC(高速液体クロマトグラフィ)で純度を測定したところ99.5%以上の純度が確認できた。
この化合物の粉末状態でのPLスペクトルを測定した。発光ピーク波長は固体粉末で661nmの赤色発光が確認された。
【0089】
この合成した例示化合物19を発光材料として用いて有機EL素子を作成した。素子構成は、有機層2以外は実施例1と同様の実施例である。
【0090】
有機層2には、ホスト材料としてCBPを用い、実施例3,4,5でそれぞれ共蒸着によるドープ量を5%、10%、20%とした。これらにAlをマイナス、ITO側をプラスにしてDC電圧を印加して素子特性を評価したところ、前記PL発光と同じELスペクトルが得られた。
【0091】
5%、10%、25%の素子で、12V印加時の発光輝度を比較すると、800cd/m2、1200cd/m2、1300cd/m2と輝度が向上した。これまでのIr配位化合物を用いた素子では、一般に発光材料のドープ濃度が10%以上になると、濃度消光によって、発光輝度が低下するという問題点があったが、本発明の材料を用いることで、濃度消光が回避できることが確認された。
【0092】
また、それぞれの素子で100cd/m2の初期輝度になる条件に設定し、100時間連続通電を行ったが、発光輝度の低下が10%程度であり、安定な発光が得られた。
【0093】
(実施例6)
本実施例では、電極間に配置する有機層を単層として発光素子を作成した。発光材料には、実施例1で用いた例示化合物13を用い、電荷輸送材料には、ポリビニルカルバゾール(PVK)(アルドリッチ製)を用いた。クロロベンゼン溶液に、重量比で1%のPVKを溶解し、さらにPVKの重量に対し10%の例示化合物13を溶解した。この溶液を1000回転/分で20秒間スピンコートすることで120nmの膜厚の有機層が作成された。これをITO膜上に塗布しその上にAlLiを15nm、Alを100nm積層して素子を作成した。
【0094】
これを以前の実施例と同様、電圧を印加して発光状態の評価を行った。例示化合物13に由来する赤発光(ピーク波長660nm)が確認され、10時間通電でも安定した発光が確認された。
【0095】
以上説明したように、本発明で示した高効率で安定な発光素子は、省エネルギーや高輝度が必要な製品に応用が可能である。応用例としては表示装置・照明装置やプリンターの光源、液晶表示装置のバックライトなどが考えられる。表示装置としては、省エネルギーや高視認性・軽量なフラットパネルディスプレイが可能となる。さらに照明装置やバックライトにも、本発明の発光素子を用いることで省エネルギー効果が期待できる。
【0096】
【発明の効果】
本発明のタングステン配位化合物を用いた発光素子は、発光層中において比較的高濃度で用いることができ、その結果発光効率の高い電界発光素子が作成できる。また素子化した後に、発光輝度の劣化が少なく、素子安定性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】一般的な有機EL素子の構成を説明する図。(a)有機膜が2層構成の例、(b)同様に3層構成の例、(c)同様に3層構成の例を示す。
【図2】キャリア輸送材料とりん光発光性材料の構造式と略称を示す図。
【図3】従来の発光材料としてイリジウム配位化合物の構造式を示す図。
【図4】本発明のタングステン配位化合物に用いられる2,2’−ビピリジン環を持つ2座配位子の例を示す図。
【図5】本発明のタングステン配位化合物に用いられる他の2座配位子の例を示す図。
【図6】本発明のタングステン配位化合物に用いられる他の2座配位子の例を示す図。
【図7】本発明のタングステン配位化合物に用いられる他の2座配位子の例を示す図。
【図8】本発明に用いられる一座配位子の例を示す図。
【図9】本発明のタングステン配位化合物の例を示す図。
【図10】本実験に用いたタングステン配位化合物の構造式を示す図。
【図11】タングステン配位化合物の粉末状態でのフォトルミネッセンススペクトルを示す図。

Claims (4)

  1. 基板上に形成された一対の電極間に下記一般式(4)で示される部分構造式を有するタングステン配位化合物を配置したことを特徴とした発光素子。
    【外1】
    Figure 0004261923
    (4)
    上記一般式(4)のフェナントロリン環の一つ以上のC−HがN原子に置き換えてもよい。また、該フェナントロリン環は、置換基を有してもよく、
    該置換基はハロゲン原子または炭素原子数1から10の直鎖状または分岐状のアルキル基(該アルキル基中の1つもしくは隣接しない2つ以上のメチレン基は−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−CH=CH−、−C≡C−で置き換えられていてもよく、該アルキル基中の水素原子はフッ素原子に置換されていてもよい。)
    またnは4である。〕
  2. 前記一対の電極間に電圧を印加することにより発光する請求項1に記載の電界発光素子。
  3. 前記発光がりん光である請求項2に記載の電界発光素子。
  4. 請求項1に記載の発光素子と電気信号を与えて駆動する駆動回路とを備えた表示装置。
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