JP4259951B2 - 精密成型品用難燃樹脂組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、光学機器機構部品、プリンター部品、コピー機部品、自動車エンジンルーム内部品等で要求される、優れた寸法精度と優れた難燃性を保持した精密成型品を与える精密成型品用難燃樹脂組成物に関する。
ポリフェニレンスルフィド樹脂は、耐熱性の高い結晶性樹脂の一つとしてガラス繊維等のフィラーを配合し、耐熱性、耐薬品性、剛性および難燃性に優れた樹脂成型材料として、電気・電子・OA部品、自動車電装系部品として利用されている。しかしながら、ポリフェニレンスルフィド樹脂とフィラーから構成される成型材料の最大の欠点は、成型時に発生する成型品のバリ発生が挙げられ、バリが発生した成型品は特別にバリ取り工程を設け、バリ取り機器を設置したり、専用のバリ取り人員を配備するなどの工業的かつ経済的にも効率の悪い製造工程を維持する必要がある。
特に成型品が光学機器機構部品、プリンター部品、コピー機部品、自動車エンジンルーム内部品等の精密成型品である場合、成型品自体の優れた寸法精度の維持および成型品のバリ減少が達成された成形材料が強く要求されており、そしてさらに、これら精密成型部品用途の多くが発熱部位に数多く使用されるため、これら優れた寸法精度および低バリ特性を維持しつつ難燃性に優れた精密成型部品となる成型材料が望まれている。このため、ポリフェニレンスルフィド樹脂に起因する成型時のバリ発生を抑制するため、材料面からの改良工夫が数多く提案されている。
これらの技術としては、ポリフェニレンスルフィド樹脂にシラン化合物を添加しバリ発生を抑制した組成物(例えば、特許文献1参照)が提案されている。また、高度に架橋したポリフェニレンスルフィド樹脂をバリ発生改良剤として用いた組成物(例えば、特許文献2参照)が提案されており、さらには、ポリフェニレンスルフィド樹脂に異なる樹脂等を配合しバリ発生を抑制した組成物(例えば、特許文献3〜6参照)が提案され、そしてポリフェニレンスルフィド樹脂に特定のフィラーを配合しバリ発生を抑制した組成物(例えば、特許文献7〜8参照)が提案されている。なお、本出願人は、ポリフェニレンスルフィドとポリフェニレンエーテルおよび無機質充填剤からなる、耐熱性、機械的強度、寸法精度および成型加工性に優れた樹脂組成物(例えば、特許文献9〜10参照)を提案した。
これら文献には、成形時のバリ発生を抑制できるポリフェニレンサルファイド樹脂組成物が開示されており、成型品のバリ発生に伴う無駄な工程や経済的損失を軽減できる成形材料の提案が成されている。しかしながら、現実的な光学機器機構部品、プリンター部品、コピー機部品、自動車エンジンルーム内部品等の精密成型品においては、かかる成型品のバリ発生軽減化若しくはバリ発生の皆無化は樹脂材料として、当然、最低限保持しなければならない性能であり、さらに精密成型品の機能として温度変化による寸法精度の安定性や、高温部位に用いられる成型品として安全性を考慮した難燃性が要求されているのが実状である。
特開2001−181502号公報 特開昭64−9266号公報 特開平7−278432号公報 特開平9−296109号公報 特開2002−69298号公報 特開2002−179915号公報 特開2001−247767号公報 特開2001−247768号公報 特開2002−249661号公報 特開2002−352542号公報
本発明の解決課題は、光学機器機構部品、プリンター部品、コピー機部品、自動車エンジンルーム内部品等の精密成型品として、(1)成型した際に、バリ発生が顕著に少なく、(2)温度変化(−30℃〜100℃)による寸法精度が高く、(3)難燃性に優れた樹脂組成物を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂およびフィラー材料からなる樹脂組成物に関して鋭意検討した結果、特定の混和剤を用い、且つフィラー種として特定の形状特性を有する黒鉛を用いた場合に、バリ発生が顕著に少なく、寸法精度も高く、難燃性にも優れることを見いだし、本発明に至った。
すなわち、本発明は、
[1] (a)ポリフェニレンスルフィド樹脂 1〜99重量部、(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂 99〜1重量部、ならびに(a)成分と(b)成分の合計100重量部あたり、(c)混和剤としてエポキシ基および/またはオキサゾニル基を有する不飽和モノマーを0.3〜20重量%の割合でスチレンを主たる成分とするモノマーと共重合してなる共重合体 1〜20重量部よりなる樹脂組成物に、更に該樹脂組成物100重量部あたり、(d)粒径25〜1000μmの粒子を少なくとも10重量%含有する黒鉛 40〜300重量部含むことを特徴とする精密成型品用難燃樹脂組成物、
[2] (a)成分のポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度(JISK−7210に準拠し、フローテスターを用いて、300℃、荷重196N、ダイ長さ(L)/ダイ長さ(D)=10mm/1mmで6分間保持した後の測定値)が1〜10000ポイズである上記[1]の精密成型品用難燃樹脂組成物、
[3] (a)成分のポリフェニレンスルフィド樹脂が、塩化メチレンによる抽出量が0.7重量%以下であり、かつ−SX基(Sはイオウ原子、Xはアルカリ金属または水素原子である。)が20μmol/g以上である上記[1]〜[2]のいずれかに記載の精密成型品用難燃樹脂組成物、
[4] (b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂が、ポリフェニレンエーテル100重量%またはポリフェニレンエーテル/スチレン系樹脂=1〜99重量%/99〜1重量%のいずれか1つの構成比率である上記[1]〜[3]のいずれかに記載の精密成型品用難燃樹脂組成物、
[5] (c)成分の混和剤が、スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ビニルオキサゾリン共重合体およびスチレン−ビニルオキサゾリン−アクリロニトリル共重合体からなる群の中から選ばれる少なくとも1種である上記[1]〜[4]のいずれかに記載の精密成型品用難燃樹脂組成物、
[6] (d)成分の黒鉛が、人造黒鉛、天然黒鉛のいずれかであり、固定炭素が90重量%以上の黒鉛である上記[1]〜[5]のいずれかに記載の精密成型品用難燃樹脂組成物、
[7] 精密成形品が光学機器機構部品、プリンター部品、コピー機部品または自動車エンジンルーム内部品の少なくとも1つの部品である上記[1]〜[6]のいずれかに記載の精密成型品用難燃樹脂組成物、
である。
本発明の樹脂組成物は、(1)成型した際に、バリ発生が顕著に少なく、(2)温度変化(−30℃〜100℃)による寸法精度が高く、(3)難燃性を満足できる精密成型品を与えることができ、産業上、大いに有用である。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いられるポリフェニレンスルフィド樹脂(以下PPSと略記する。)は、下記一般式(式1)で示されるアリーレンスルフィドの繰返し単位を通常50モル%、好ましくは70モル%更に好ましくは90モル%以上を含む重合体である。
[−Ar−S−] (式1)
(ここで、Arはアリーレン基を示し、アリーレン基として、例えばp−フェニレン基、m−フェニレン基、置換フェニレン基(置換基としては炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基が好ましい。)、p,p′−ジフェニレンスルホン基、p,p′−ビフェニレン基、p,p′−ジフェニレンカルボニル基、ナフチレン基等が挙げられる。)
なお、PPSは構成単位であるアリーレン基が1種であるホモポリマーであっても良く、加工性や耐熱性の観点から、2種以上の異なるアリーレン基を混合して用いて得られるコポリマーであっても良い。中でも、主構成要素としてp−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有するポリフェニレンスルフィド樹脂が、加工性、耐熱性に優れ、かつ、工業的に入手が容易なことから好ましい。また、PPSの構造は、直鎖状のもの、分岐状のもの、いずれでも良く、またこれら構造の混合物であっても構わないが、直鎖状の構造を持つPPSを用いる事が好ましい。
本発明においては、300℃における溶融粘度が1〜10000ポイズのものが好適に使用できる。本発明において、溶融粘度とは、JISK−7210を参考試験法とし、フローテスター((株)島津製作所製CFT−500型)を用いて、PPSを300℃、6分間予熱した後、荷重196N、ダイ長さ(L)/ダイ長さ(D)=10mm/1mmで測定した値である。
これら構造を有するPPSの中で最も好ましいPPSは、塩化メチレンによる抽出量が0.7重量%以下であり、かつ末端−SX基(Sはイオウ原子、Xはアルカリ金属または水素原子である)が20μmol/g以上、好ましくは20〜60μmol/gであるポリフェニレンスルフィド樹脂である。
ここで、塩化メチレンによる抽出量の測定は以下の方法により求めることができる。すなわち、PPS粉末5gを塩化メチレン80mlに加え、6時間ソクスレー抽出を実施した後、室温まで冷却し、抽出後の塩化メチレン溶液を秤量瓶に移す。更に、上記の抽出に使用した容器を塩化メチレン合計60mlを用いて、3回に分けて洗浄し、該洗浄液を上記秤量瓶中に回収する。次に、約80℃に加熱して、該秤量瓶中の塩化メチレンを蒸発させて除去し、残渣を秤量し、この残渣量より塩化メチレンによる抽出量、すなわちPPS中に存在するオリゴマー量の割合を求めることができる。
そしてここで言う−SX基の定量は以下の方法により求めることができる。すなわち、PPS粉末を予め120℃で4時間乾燥した後、乾燥PPS粉末20gをN−メチル−2−ピロリドン150gに加えて粉末凝集塊がなくなるように室温で30分間激しく撹拌混合しスラリー状態にする。かかるスラリーを濾過した後、毎回約80℃の温水1リットルを用いて7回洗浄を繰り返す。ここで得た濾過ケーキを純水200g中に再度スラリー化し、ついで1Nの塩酸を加えて該スラリーのPHを4.5に調整する。次に、25℃で30分間撹拌し、濾過した後、毎回約80℃の温水1リットルを用いて6回洗浄を繰り返す。得られた濾過ケーキを純水200g中に再度スラリー化し、次いで、1Nの水酸化ナトリウムにより滴定し、消費した水酸化ナトリウム量よりPPS中に存在する−SX基の量を知ることができる。
更にこのPPSは酸変性されたPPSでも構わない。ここで酸変性したPPSとは、上記PPSを酸化合物で変性する事によって得られるものであり、該酸化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸またはその無水物や、飽和型の脂肪族カルボン酸や芳香族置換カルボン酸等も挙げることができる。更に酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、ケイ酸、炭酸等の無機化合物系の酸化合物も該酸化合物として挙げることができる。
上記したPPSの製造方法は、通常、ハロゲン置換芳香族化合物、例えばp−ジクロルベンゼンを硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法、極性溶媒中で硫化ナトリウムあるいは硫化水素ナトリウムと水酸化ナトリウムまたは硫化水素と水酸化ナトリウムあるいはナトリウムアミノアルカノエートの存在下で重合させる方法、p−クロルチオフェノールの自己縮合等が挙げられるが、中でもN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp−ジクロルベンゼンを反応させる方法が適当である。これらの製造方法は公知の方法であり、例えば、米国特許第2513188号明細書、特公昭44−27671号公報、特公昭45−3368号公報、特公昭52−12240号公報、特開昭61−225217号および米国特許第3274165号明細書、英国特許第1160660号さらに特公昭46−27255号公報、ベルギー特許第29437号明細書、特開平5−222196号公報、等に記載された方法やこれら特許等に例示された先行技術の方法で上記PPSを得ることが出来る。
ここで、塩化メチレンによる抽出量が0.7重量%以下、末端−SX基が20μmol/g以上を満足するPPSの製造方法の具体例を挙げるとすると、特開平8−253587号公報に記載されている、有機アミド系溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させ、かつ、反応中、反応缶の気相部分を冷却することにより反応缶内の気相の一部を凝縮させ、これを反応溶液上部の液層に還流させることによりオリゴマー成分を減少させる方法が挙げられる。
つぎに本発明の(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂は、下記の結合単位(式2)で示される繰返し単位からなり、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)を用いて測定したポリスチレン換算した数平均分子量が1000以上、好ましくは1500〜50000、より好ましくは1500〜30000の範囲にあるホモ重合体及び/または共重合体であるポリフェニレンエーテル樹脂(以下、PPEと略記する。)
Figure 0004259951
(ここで、R1,R2,R3及びR4はそれぞれ、水素、ハロゲン、炭素数1〜7までの第一級または第二級低級アルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基または少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群から選択されるものであり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
このPPEの具体的な例としては、例えばポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられ、さらに2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体のごときポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。中でもポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、さらにポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が好ましい。
かかるPPEの製造方法は公知の方法で得られるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、米国特許第3306874号記載のHayによる第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、例えば2,6−キシレノールを酸化重合することにより容易に製造でき、そのほかにも米国特許第3306875号、同第3257357号および同第3257358号、特公昭52−17880号および特開昭50−51197号および同63−152628号等に記載された方法で容易に製造できる。
本発明で供する(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂は、上記したPPE成分100%でも利用可能であるが、本発明では、ポリフェニレンエーテル(PPE)/スチレン系樹脂=1〜99重量%/99〜1重量%の割合で構成されたものが好ましく用いることができ、中でも、本発明の樹脂組成物において、後述する(d)成分の黒鉛が65重量部を超える場合、樹脂組成物の加工性を改善する上で、かかるポリフェニレンエーテル(PPE)/スチレン系樹脂の比率は、80/20〜20/80(単位は重量%)の比率で用いることが最も好ましい。かかるスチレン系樹脂とは、スチレン系化合物の単独重合体、2種以上のスチレン系化合物の共重合体およびスチレン系化合物の重合体よりなるマトリックス中にゴム状重合体が粒子状に分散してなるゴム変性スチレン樹脂(ハイインパクトポリスチレン)等があげられる。これら重合体をもたらすスチレン系化合物としては、例えばスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、α−メチルスチレン、エチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロルスチレン、p−tert−ブチルスチレン等が挙げられる。
これらスチレン系化合物は2種以上を併用して得られる共重合体でも良いが、中でもスチレンを単独で用いて重合して得られるポリスチレンが好ましい。これらの重合体はアタクチックポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン等の立体規則構造を有するポリスチレンが有効に利用できる。なお、このPPEと併用して用いるスチレン系樹脂には、下記に示す(c)成分は含まれない。
本発明では、上記した(a)成分のポリフェニレンスルフィド樹脂と(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂の配合割合は、(a)/(b)=1〜99重量部/99〜1重量部であり、成形加工性および成型時のバリ発生抑制の観点から20〜90重量部/80〜10重量部が好ましく、さらに好ましくは40〜80重量部/60〜20重量部である。
つぎに本発明の(c)成分として用いる混和剤は、(a)成分のPPSと(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂を混合する際の乳化分散剤として作用し、黒鉛を含んだ樹脂組成物を成型した際に、成型品のバリ発生を顕著に低減化する効果を奏するものである。
かかる(c)混和剤としては、エポキシ基および/またはオキサゾニル基を有する不飽和モノマーとスチレンを主たる成分とするモノマーとの共重合体であり、ここで言うスチレンを主たる成分とするモノマーとは、スチレン成分が100重量%は何ら問題ないが、スチレンと共重合可能な他のモノマーが存在する場合は、その共重合体鎖が(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂との混和性を保持する上で、少なくともスチレンモノマーを65重量%以上、より好ましくは75〜95重量%含むことが必要である。これらの例として具体的には、エポキシ基および/またはオキサゾニル基を有する不飽和モノマーとスチレンモノマーの共重合体。エポキシ基および/またはオキサゾニル基を有する不飽和モノマーとスチレン/アクリロニトリル=90〜75重量%/10〜25重量%の共重合体等が挙げられる。
上記のエポキシ基含有不飽和モノマーとしては、グリシジルメタアクリレート、グリシジルアクリレート、ビニルグリシジルエーテル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートのグリシジルエーテル、グリシジルイタコネート等が挙げられ、中でもグリシジルメタアクリレートが好ましい。また、上記のオキサゾニル基含有不飽和モノマーとしては、例えば2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的に入手でき好ましく使用できる。
これら、エポキシ基および/またはオキサゾニル基を有する不飽和モノマーと共重合する他の不飽和モノマーとしては、必須成分のスチレン等のビニル芳香族化合物の他に、共重合成分としてアクリロニトリル等のシアン化ビニルモノマー、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられるが、本発明ではエポキシ基および/またはオキサゾニル基を有する不飽和モノマーを除外した成分中にスチレンモノマーを少なくとも65重量%以上含むことが必須である。また、エポキシ基および/またはオキサゾニル基を有する不飽和モノマーは(c)成分の共重合体中に0.3〜20重量%、好ましくは、1〜15重量%、更に好ましくは3〜10重量%含有しなければならない。かかる(c)成分の共重合体のエポキシ基および/またはオキサゾニル基を有する不飽和モノマー量は、得られる樹脂組成物から得られる成型品の機械的物性の点から0.3重量%以上であることは必要であり、20重量%以下であれば、(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂との混和性が保持され、これにより(a)成分と(b)成分の混和性が良好となり、得られた樹脂組成物を用いて成型した成型品のバリ発生を大きく抑制することができる。
これら共重合可能な不飽和モノマーを共重合して得られる(c)成分の共重合体の例として、例えば、スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ビニルオキサゾリン共重合体、スチレン−ビニルオキサゾリン−アクリロニトリル共重合体等が挙げられる。
この(c)成分の配合量は、上記した(a)成分と(b)成分の合計100重量部に対して、1〜20重量部、好ましくは2〜15重量部、更に好ましくは3〜10重量部が必要である。かかる(c)成分の配合量が1重量部以上であれば、(a)成分と(b)成分の混和性が良くなり、20重量部以下であれば、得られた樹脂組成物を用いて成型した成型品のバリ発生を大きく抑制することができる。
つぎに本発明の(d)成分として用いる黒鉛は、その粒度がJISM8511の「天然黒鉛の工業分析及び試験法」に準拠した篩分析法により、粒径25〜1000μmの粒子を少なくとも10重量%含有する黒鉛であり、本発明の樹脂組成物を用いて成型した精密成型品の温度変化(−30℃〜100℃)による寸法精度を高く維持することができ、さらには高度な難燃性を与える効果を奏するものである。
かかる特徴を有する(d)成分の黒鉛は、固定炭素が90%以上の人造黒鉛、天然黒鉛のいずれかであり、その形状は特に限定するものではなく、鱗状、鱗片状、球状等が挙げられる。その粒度はJISM8511の「天然黒鉛の工業分析及び試験法」に準拠した篩分析法により、粒径25〜1000μmである粒子を少なくとも10重量%以上含有する必要がある。好ましくは15重量%以上、より好ましくは30重量%以上、特に好ましくは40重量%以上含有する黒鉛である。かかる粒径25〜1000μmの粒子が10重量%以上であれば、得られた樹脂組成物を成型して得られる成型品は温度変化(−30℃〜100℃)による寸法精度および難燃性に優れた成型品となり得る。また、(d)成分の黒鉛は、粒径1000μmを超える粒子を少量であれば含有していても構わないが、その含有量は5重量%以下であることが好ましい。本発明で用いる特定粒子に制御された黒鉛は、通常、天然黒鉛、人造黒鉛を機械的粉砕方法、例えば、グレンミル、ビクトリーミル、スタンプミル、ボールミル、ジェットミル、高速回転ミル等の粉砕機を用いて粒径25〜1000μmの粒子を少なくとも10重量%含有する黒鉛として得ることができる。これらの方法で得られた黒鉛は、さらに樹脂への分散効果を高めるために、黒鉛表面をシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、脂肪族金属塩等の表面処理剤で処理した物や、インターカレーション法によりアンモニウム塩等による有機化処理した物や、さらにウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂をバインダーとして処理した物でも構わない。
この(d)成分の黒鉛の配合量は、上記した(a)〜(c)成分で構成される樹脂組成物100重量部に対して、40〜300重量部、より好ましくは、50〜250重量部、更に好ましくは60〜200重量部である。かかる配合量が40重量部以上であれば、得られる樹脂組成物を用いて成型して得られる成型品の寸法精度が改良され、配合量が300重量部以下において、得られる樹脂組成物を成型して得られる成型品は、温度変化(−30℃〜100℃)による優れた寸法精度が得られる他に難燃性に優れた成型品となり得る。
本発明では、上記成分の他に、本発明の特徴および効果を損なわない範囲で必要に応じて他の強化剤、充填剤を併用することが可能であり、例えば、ガラス繊維(ガラス長繊維、チョップドストランドガラス繊維)、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスマイクロバルーン、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、アラミド繊維、ボロンウィスカー繊維、ワラステナイト、マイカ、タルク、シリカ、クレー、カーボンブラック、酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、フライアッシュ等の繊維状、粉状、薄片状、球状の無機フィラーが挙げられる。これらの無機フィラーはシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、脂肪族金属塩等の表面処理剤で処理した物や、インターカレーション法によりアンモニウム塩等による有機化処理した物や、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂をバインダーとして処理した物でも構わない。これらの無機フィラーの配合量は、上記した(a)〜(d)成分で構成される樹脂組成物100重量部に対して、50重量部以下が適用される。
本発明の樹脂組成物の製造方法は、上記した各成分を用いて、通常、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等の加熱溶融混練機が挙げられるが、中でも二軸押出機を用いた溶融混練方法が最も好ましい。
この際の溶融混練温度は特に限定されるものではないが、通常290〜350℃の中から任意に選ぶことができる。最も好ましい二軸押出機による本発明の樹脂組成物の具体的な製法態様の一つとして、例えば、(a)成分のポリフェニレンスルフィド樹脂と(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂および(c)成分の混和剤を、300℃に設定した二軸押出機の第一供給口に同時に供給し、スクリュー回転数100〜1200rpm、好ましくは200〜500rpmにて溶融混練し、これら(a)〜(c)成分が溶融混練した状態で、二軸押出機の第二供給口より(d)成分の粒径25〜1000μmの粒子を少なくとも10重量%含有する黒鉛を供給し、さらに溶融混練する方法が挙げられる。なお、(d)成分の粒径25〜1000μmの粒子を少なくとも10重量%含有する黒鉛を二軸押出機に供給する位置は、上記したように一括して押出機の第二供給口から供給しても良く、第二供給口および第三供給口を設けて(d)成分を分割して供給しても良く、あるいは押出機の第一供給口から(a)〜(c)成分と一緒に(d)成分を供給しても構わない。
このようにして得られる本発明の樹脂組成物は精密成型品と成りうる成形材料として、例えば、射出成形、金属インモールド成形、アウトサート成形、中空成形、押出成形、シート成形、熱プレス成形、回転成形、積層成形等の成形方法が適用できる。
以下、実施例によって、本発明を説明する。
なお、使用した原料は下記の通りである。
(a)成分のポリフェニレンスルフィド樹脂
・a−1:溶融粘度((株)島津製作所製CFT−500型フローテスターを用いて、300℃、荷重196N、ダイ長さ(L)/ダイ長さ(D)=10mm/1mmで6分間保持した後測定した値)が500ポイズ、塩化メチレンによる抽出量が0.4重量%、−SX基量が29μmol/gのp−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有するリニアタイプのPPSをa−1とした。
・a−2:a−1と同様に測定した溶融粘度が300ポイズ、塩化メチレンによる抽出量が0.7重量%、−SX基量が30μmol/gのp−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有するリニアタイプのPPSをa−2とした。
(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂
・b−1:2,6−キシレノールを酸化重合して得た、還元粘度が0.54のポリフェニレンエーテルをb−1とした。
・b−2:アタクチックポリスチレン(PSジャパン社製 ポリスチレン685)をb−2とした。
(c)成分の混和剤
・c−1:グリシジルメタクリレートを5重量%含有するスチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(重量平均分子量110,000)をc−1とした。
・c−2:2−イソプロペニル−2−オキサゾリンを5重量%含有するスチレン−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン共重合体(重量平均分子量146,000)をc−2とした。
(d)成分の黒鉛
・d−1:固定炭素分97重量%の天然黒鉛を高速回転ミルを用いて粉砕し、篩分析法にて粒径25〜1000μmの範囲内の粒子を92.4重量%有する黒鉛を篩い分けてd−1とした。なお篩い分けた残分は、25μm未満であった。
・d−2:固定炭素分97重量%の天然黒鉛を高速回転ミルを用いて粉砕し、篩分析法にて粒径25〜1000μmの範囲内の粒子を21.6重量%有する黒鉛を篩い分けてd−2とした。なお篩い分けた残分は、25μm未満であった。
・d−3:固定炭素分97重量%の天然黒鉛を高速回転ミルを用いて粉砕し、篩分析法にて粒径25〜1000μmの範囲内の粒子を13.8重量%有する黒鉛を篩い分けてd−3とした。なお篩い分けた残分は、25μm未満であった。
・d−4:固定炭素分97重量%の天然黒鉛を高速回転ミルを用いて粉砕し、篩分析法にて粒径25〜1000μmの範囲内の粒子を8.9重量%有する黒鉛を篩い分けてd−4とした。なお篩い分けた残分は、25μm未満であった。
・d−5:固定炭素分97重量%の天然黒鉛を高速回転ミルを用いて粉砕し、篩分析法にて粒径25〜1000μmの範囲内の粒子を6.3重量%有する黒鉛を篩い分けてd−5とした。
なお、上記成分より得られた樹脂組成物を用いて成形した成型品の評価は次の通りに行った。
線膨張係数(寸法精度) : ASTM−D696に準拠し、成型品の樹脂流動方向および成型品の樹脂流動に対して直角方向の線膨張係数(−30℃〜100℃)を測定した。
難燃性試験 : UL94に準拠し、試験片厚み3.17mmの垂直燃焼試験を行い難燃性のレベルを測定した。
[実施例1〜7、比較例1〜6]
(a)成分のポリフェニレンスルフィド樹脂、(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂、(c)成分の混和剤および(d)成分の黒鉛を表1および表2に示した組成で各成分を配合し、290〜310℃に設定したベントポート付き二軸押出機(ZSK−40;COPERION WERNER&PFLEIDERER社製、ドイツ国)を用いて、第一供給口より(a)〜(c)成分の全量を供給しながら第二供給口より(d)成分の黒鉛を供給し、スクリュー回転数300rpmの条件下で溶融混練して樹脂組成物をペレットとして得た。このペレットを用いて300〜320℃に設定したスクリューインライン型射出成形機に供給し、金型温度130℃の条件でASTM−D638に準拠した3.17mm厚みの引張試験用成型品およびUL94に準拠した難燃試験用成型品を得た。ここで得た成型品の−30℃〜100℃における寸法精度を知るため3.17mm厚みの引張試験用成型品を用いて線膨張係数を測定し、さらに成型品の難燃性レベルを知るためUL94準拠の難燃試験用成型品を用いて垂直燃焼試験を行った。なお、成型品のバリの有無は上記の3.17mm厚みの引張試験用成型品を目視にて確認し、これらの結果を併せて表1に記載した。
Figure 0004259951
Figure 0004259951
本発明の樹脂組成物で成型される精密成形品は、(1)成型した際に、バリ発生が顕著に少なく、(2)温度変化(−30℃〜100℃)による寸法精度が高く、(3)高いレベルの難燃性を保持するため、コンパクト・ディスク・リードオンリーメモリ(CDROM)、デジタル・バーサタイル・ディスク・リードオンリーメモリ(DVDROM)、コンパクト・ディスク・レコーダブル(CDR)、デジタル・バーサタイル・ディスク・レコーダブル・−R規格(DVD−R)、デジタル・バーサタイル・ディスク・レコーダブル・+R規格(DVD+R)、コンパクト・ディスク・リライタブル(CDRW)、デジタル・バーサタイル・ディスク・リライタブル・−R規格(DVD−RW)、デジタル・バーサタイル・ディスク・リライタブル・+R規格(DVD+RW)、デジタル・バーサタイル・ディスク・ランダムアクセスメモリ(DVDRAM)等の例えばシャーシー、キャビネット、光ピックアップスライドベース等の光学機器機構部品、レーザービームプリンター内部部品、インクジェットプリンター内部部品、コピー機内部部品、自動車エンジンルーム内部部品等の少なくとも1つの部品として利用できる。

Claims (7)

  1. (a)ポリフェニレンスルフィド樹脂 1〜99重量部、(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂 99〜1重量部、ならびに(a)成分と(b)成分の合計100重量部あたり、(c)混和剤としてエポキシ基および/またはオキサゾニル基を有する不飽和モノマーを0.3〜20重量%の割合でスチレンを主たる成分とするモノマーと共重合してなる共重合体 1〜20重量部よりなる樹脂組成物に、更に該樹脂組成物100重量部あたり、(d)粒径25〜1000μmの粒子を少なくとも10重量%含有する黒鉛 40〜300重量部含むことを特徴とする精密成型品用難燃樹脂組成物。
  2. (a)成分のポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度(JISK−7210に準拠し、フローテスターを用いて、300℃、荷重196N、ダイ長さ(L)/ダイ長さ(D)=10mm/1mmで6分間保持した後の測定値)が1〜10000ポイズである請求項1記載の精密成型品用難燃樹脂組成物。
  3. (a)成分のポリフェニレンスルフィド樹脂が、塩化メチレンによる抽出量が0.7重量%以下であり、かつ−SX基(Sはイオウ原子、Xはアルカリ金属または水素原子である。)が20μmol/g以上である請求項1〜2のいずれか1項に記載の精密成型品用難燃樹脂組成物。
  4. (b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂が、ポリフェニレンエーテル100重量%またはポリフェニレンエーテル/スチレン系樹脂=1〜99重量%/99〜1重量%のいずれか1つの構成比率である請求項1〜3のいずれか1項に記載の精密成型品用難燃樹脂組成物。
  5. (c)成分の混和剤が、スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ビニルオキサゾリン共重合体およびスチレン−ビニルオキサゾリン−アクリロニトリル共重合体からなる群の中から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか1項に記載の精密成型品用難燃樹脂組成物。
  6. (d)成分の黒鉛が、人造黒鉛、天然黒鉛のいずれかであり、固定炭素が90重量%以上の黒鉛である請求項1〜5のいずれか1項に記載の精密成型品用難燃樹脂組成物。
  7. 精密成形品が光学機器機構部品、プリンター部品、コピー機部品または自動車エンジンルーム内部品の少なくとも1つの部品である請求項1〜6のいずれか1項に記載の精密成型品用難燃樹脂組成物。
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