JP4259175B2 - モータ駆動ユニットの潤滑構造 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハイブリッド車等に適用されるモータ駆動ユニットの潤滑構造の技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
従来の潤滑構造は、回転側密封用要素であるメインティングリングと、静止側密封要素であるシールリングの密封状態を保持するために、各リング間にスリーブを配置し、前記各リングの軸方向位置を規定するようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】
特開2002−156046号公報。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の潤滑構造を、複軸多層モータと歯車列とが連結されたモータ駆動ユニットに対し、油室と空気室を仕切るメカニカルシールとして適用した場合、このメカニカルシールにより完全に油室と空気室とが分離(シール)されることになり、ポンプ装置からの潤滑油は歯車列のみに供給され、歯車列への供給圧が必要以上に高圧化するおそれがある。
【0005】
ちなみに、複軸多層モータの場合、インナーロータの内周を油室に設定し、ステータの外周を空気室に設定し、インナーロータの潤滑油冷却を確保しながら、水冷によるステータへの潤滑油流入を阻止するため、油室と空気室とを分離する必要性がある。
【0006】
本発明は、上記課題に着目してなされたもので、インナーロータの冷却性を確保しながら、歯車列への潤滑油供給圧力を一定に保持することができるモータ駆動ユニットの潤滑構造を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明では、
複軸多層モータと歯車列とが連結され、前記複軸多層モータは、インナーロータとアウターロータとの間に、油室と空気室を仕切るメカニカルシールを備えたモータ駆動ユニットにおいて、
前記駆動ユニットに、別系統で潤滑及び冷却を行なうポンプ装置を備え、
前記メカニカルシールに、前記歯車列には一定圧力の潤滑油を供給し、余剰分をロータ冷却油として供給する調圧弁を設けた。
【0008】
【発明の効果】
よって、本発明のモータ駆動ユニットの潤滑構造にあっては、油室と空気室を仕切るメカニカルシールに、歯車列には一定圧力の潤滑油を供給し、余剰分をロータ冷却油として供給する調圧弁を設けたため、インナーロータの冷却性を確保しながら、歯車列への潤滑油供給圧力を一定に保持することができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のモータ駆動ユニットの潤滑構造を実現する実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
(第1実施例)
まず、構成を説明する。
【0011】
[ハイブリッド駆動ユニットの全体構成]
図1は第1実施例の潤滑構造が適用されたハイブリッド駆動ユニットの全体図であり、ハイブリッド駆動ユニットは、図1に示すように、エンジンE、複軸多層モータM、ラビニョウ型複合遊星歯車列G、駆動出力機構D、モータカバー1、モータケース2、ギヤハウジング3、フロントカバー4を備えている。
【0012】
前記エンジンEは、ハイブリッド駆動ユニットの主動力源であり、エンジン出力軸5とラビニョウ型複合遊星歯車列Gの第2リングギヤR2とは、回転変動吸収ダンパー6及び多板クラッチ7を介して連結されている。
【0013】
前記複軸多層モータMは、外観的には1つのモータであるが2つのモータジェネレータ機能を有する副動力源である。この複軸多層モータMは、前記モータケース2に固定され、コイルを巻いた固定電機子としてのステータSと、前記ステータSの内側に配置し、永久磁石を埋設したインナーロータIRと、前記ステータSの外側に配置し、永久磁石を埋設したアウターロータORと、を同軸上に三層配置することで構成されている。前記インナーロータIRに固定の第1モータ中空軸8は、ラビニョウ型複合遊星歯車列Gの第1サンギヤS1に連結され、前記アウターロータORに固定の第2モータ軸9は、ラビニョウ型複合遊星歯車列Gの第2サンギヤS2に連結されている。
【0014】
前記ラビニョウ型複合遊星歯車列Gは、二つのモータ回転数を制御することにより無段階に変速比を変える無段変速機能を有する遊星歯車機構である。このラビニョウ型複合遊星歯車列Gは、互いに噛み合う第1ピニオンP1と第2ピニオンP2を支持する共通キャリヤCと、第1ピニオンP1に噛み合う第1サンギヤS1と、第2ピニオンP2に噛み合う第2サンギヤS2と、第1ピニオンP1に噛み合う第1リングギヤR1と、第2ピニオンP2に噛み合う第2リングギヤR2との5つの回転要素を有して構成されている。前記第1リングギヤR1とギヤハウジング3との間には多板ブレーキ10が介装されている。前記共通キャリヤCには、出力ギヤ11が連結されている。
【0015】
前記駆動出力機構Dは、出力ギヤ11と、第1カウンターギヤ12と、第2カウンターギヤ13と、ドライブギヤ14と、ディファレンシャル15と、ドライブシャフト16L,16Rにより構成されている。そして、出力ギヤ11からの出力回転及び出力トルクは、第1カウンターギヤ12→第2カウンターギヤ13→ドライブギヤ14→ディファレンシャル15を経過し、ドライブシャフト16L,16Rから図外の駆動輪へ伝達される。
【0016】
すなわち、ハイブリッド駆動ユニットは、前記第2リングギヤR2とエンジン出力軸5を連結し、前記第1サンギヤS1と第1モータ中空軸8とを連結し、前記第2サンギヤS2と第2モータ軸9とを連結し、前記共通キャリヤCに出力ギヤ11を連結することにより構成されている。
【0017】
[複軸多層モータの構成]
図2は第1実施例の潤滑構造が適用された複軸多層モータMを示す縦断側面図、図3は第1実施例の潤滑構造が適用された複軸多層モータMを示す一部縦断正面図、図4は第1実施例のステータを背面側から視た図である。
【0018】
複軸多層モータMは、図2に示すように、モータカバー1とモータケース2とで囲まれたモータ室17内に、インナーロータIRとステータSとアウターロータORを配置することにより構成されている。
【0019】
前記インナーロータIRは、その内筒面が第1モータ中空軸8の段差軸端部に対して圧入(或いは、焼きばめ)により固定されている。このインナーロータIRには、図3に示すように、ロータベース20に対し磁束形成を考慮した配置によるインナーロータマグネット21(永久磁石)が軸方向に12本埋設されている。但し、2本が対をなしてV字配置されて同じ極性を示し、3極対としてある。
【0020】
前記ステータSは、ステータピース40を積層したステータピース積層体41とコイル42とステータ冷却用水路43とインナー側ボルト・ナット44とアウター側ボルト・ナット45と非磁性体樹脂層46とを有して構成されている。そして、ステータSの正面側端部が、正面側エンドプレート47とステータ固定ケース48とを介してモータケース2に固定されている。
【0021】
前記コイル42は、コイル数が18で、図4に示すように、6相コイルを3回繰り返しながら円周上に配置される。
【0022】
そして、前記6相コイルに対しては、図外のインバータから給電接続端子50とバスバー径方向積層体51と給電コネクタ52とバスバー軸方向積層体53を介して複合電流が印加される(図9参照)。この複合電流は、アウターロータORを駆動させるための3相交流と、インナーロータIRを駆動させるための6相交流を複合させたものである。
【0023】
前記アウターロータORは、その外筒面がアウターロータケース62に対してロー付け、或いは、接着により固定されている。そして、アウターロータケース62の正面側には正面側連結ケース63が固定され、背面側には背面側連結ケース64が固定されている。そして、この背面側連結ケース64に第2モータ軸9がスプライン結合されている。このアウターロータORには、図3に示すように、ロータベース60に対し磁束形成を考慮した配置によるアウターロータマグネット61(永久磁石)が、両端位置に空間を介して軸方向に12本埋設されている。このアウターロータマグネット61は、インナーロータマグネット21と異なり、1本ずつ極性が違い、6極対をなしている。
【0024】
図2において、80,81はアウターロータORをモータケース2及びモータカバー1に支持する一対のアウターロータベアリングである。82はインナーロータIRをモータケース2に支持するインナーロータベアリング、83はアウターロータORに対しステータSを支持するステータベアリング、84は第1モータ中空軸8と第2モータ軸9との間に介装される中間ベアリングである。
【0025】
また、図2において、85はインナーロータIRの回転位置を検出するインナーロータレゾルバ、86はアウターロータORの回転位置を検出するアウターロータレゾルバである。
【0026】
[遊星歯車機構の構成]
図5はハイブリッド駆動ユニットのラビニョウ型複合遊星歯車列Gを示す縦断面図である。ラビニョウ型複合遊星歯車列G及び駆動出力機構Dは、図5に示すように、モータケース2、ギヤハウジング3、フロントカバー4に囲まれたギヤ室30内に配置されている。
【0027】
前記ラビニョウ型複合遊星歯車列Gの第2リングギヤR2には、回転変動吸収フライホイールダンパー6と変速機入力軸31とクラッチドラム32とを介し、多板クラッチ7の締結時にエンジンEからの回転駆動トルクが入力される。
【0028】
前記ラビニョウ型複合遊星歯車列Gの第1サンギヤS1には、第1モータ中空軸8がスプライン結合され、決められたモータ動作点にしたがって、複軸多層モータMのインナーロータIRから第1トルクと第1回転数が入力される。
【0029】
前記ラビニョウ型複合遊星歯車列Gの第2サンギヤS2には、第2モータ軸9がスプライン結合され、決められたモータ動作点にしたがって、複軸多層モータMのアウターロータORから第2トルクと第2回転数が入力される。
【0030】
前記ラビニョウ型複合遊星歯車列Gの第1リングギヤR1と、ギヤハウジング3との間には多板ブレーキ10が設けられ、発進時等において多板ブレーキ10が締結された時には、第1リングギヤR1が停止する。
【0031】
前記ラビニョウ型複合遊星歯車列Gの共通キャリヤCには、ステータ固定ケース48に対しベアリングを介して回転可能に支持された出力ギヤ11がスプライン結合されている。
【0032】
前記駆動出力機構Dは、前記出力ギヤ11と噛み合う第1カウンターギヤ12と、この第1カウンターギヤ12のシャフト部に設けられた第2カウンターギヤ13と、第2カウンターギヤ13と噛み合うドライブギヤ14とを有する。そして、第2カウンターギヤ13とドライブギヤ14の歯数比により、終減速比が決められる。
【0033】
前記多板クラッチ7のクラッチピストン33には、フロントカバー4に形成されたクラッチ圧油路34により締結圧が供給される。また、前記多板ブレーキ10のブレーキピストン35には、フロントカバー4に形成されたブレーキ圧油路36により締結圧が供給される。前記クラッチピストン33と前記ブレーキピストン35は、フロントカバー4の内側で、内周位置にクラッチピストン33が配置され、その外周位置にブレーキピストン35が配置される。
【0034】
また、前記変速機入力軸31には、軸心油路37が形成されていて、この軸心油路37には、フロントカバー4に形成された潤滑油路38を介して潤滑油が供給される。
【0035】
[モータ冷却構造]
図6は第1実施例のモータ冷却構造を有する複軸多層モータを示す拡大縦断面図である。
【0036】
複軸多層モータMは、コイル42を巻いた固定電機子としてのステータSと、ステータSの内側に配置し、インナーロータマグネット21を埋設したインナーロータIRと、ステータSの外側に配置し、アウターロータマグネット61を埋設したアウターロータORとを、モータカバー1およびモータケース2(以下、モータケース部材1,2という。)により画成されるモータ室17の内部に備えている。
【0037】
そして、前記アウターロータORの外周とモータケース部材1,2の内周で囲まれる空間を第1油室91に設定し、前記インナーロータIRの内周の空間を第2油室92に設定し、前記ステータSに対するアウターロータORとインナーロータIRのエアギャップ93,94を含むステータ外周空間を空気室95に設定している。
【0038】
前記インナーロータIRに第1モータ中空軸8を連結し、前記アウターロータORに第2モータ軸9を連結し、前記モータケース部材1,2の内側位置に、隙間を介してアウターロータORを固定するアウターロータケース部材62,63,64を配置している。
【0039】
そして、前記第1油室91を、モータケース部材1,2の内面とアウターロータケース部材62,63,64の外面により形成される室としている。
【0040】
前記第2油室92を、第1モータ中空軸8のインナーロータ支持部8aの内周面と第2モータ軸9の外周面により形成される室としている。
【0041】
前記空気室95を、アウターロータケース部材62,63,64の正面側連結ケース63の内面により形成される室と、背面側連結ケース64の内面により形成される室と、両室を連通するエアギャップ93,94と、による室としている。
【0042】
前記第2モータ軸9の軸心部に、モータ正面側軸端からモータ背面側に向けて軸心油路96を形成すると共に、前記第1油室91と前記第2油室92とに潤滑油を導く第1径方向分岐油路96aと第2径方向分岐油路96bを形成している。前記軸心油路96には、別系統のポンプ装置から、潤滑及び冷却を行う潤滑油が供給される。なお、110は貫通穴、Aは潤滑構造である。
【0043】
[潤滑構造]
図7は第1実施例のモータ駆動ユニットの潤滑構造Aを示す拡大断面図、図8はスリーブを示す図である。
【0044】
前記複軸多層モータMは、ステータSを挟んで同心円状にインナーロータIRとアウターロータORとを配置し、前記インナーロータIRを支持する第1モータ中空軸8と、前記アウターロータORを支持するアウターロータケース部材62,63,64及び第2モータ軸9を設け、前記第1モータ中空軸8の内周空間を第2油室92(油室)に設定し、前記アウターロータケース部材62,63,64により画成されるステータSの外周空間を空気室95に設定し、前記第1モータ中空軸8と第2モータ軸9との間に、第2油室92と空気室95を仕切るメカニカルシール100を備え、第1モータ中空軸8と背面側連結ケース64との間に、インナーロータIRとアウターロータORを相対回転可能に支持する中間ベアリング84を備えている。
【0045】
前記メカニカルシール100は、カラー101に接すると共に第1モータ中空軸8のインナーロータ支持部8aの内面に対しシール性を保ちながら軸方向移動可能に嵌合された予圧部材102と、該予圧部材102に対しシール性を保ちながら軸方向移動可能に嵌合されたシール部材103と、該シール部材103と前記予圧部材102との間に介装された内蔵スプリング104と、アウターロータORに連結される第2モータ軸9の外周位置に嵌合されるメイティングリング105と、を有する。なお、請求項1に記載の調圧弁(リリーフバルブ)は、シール部材103を弁体とし、内蔵スプリング104を付勢部材とし、メイティングリング105を弁座として構成される。以下、調圧弁103,104,105という。
【0046】
前記メイティングリング105は、前記第2モータ軸9の段差部9aに対しシール性を保ちながら嵌合されると共に、供給される潤滑油が低圧時には前記シール部材103のシール面103aが圧接するシール面105aを有する。
【0047】
前記インナーロータ支持部8aと前記予圧部材102とのシール性は、インナーロータ支持部8aの溝に装着されたO−リング106により達成され、前記予圧部材102と前記シール部材103とのシール性は、両部材102,103間に介装されたO−リング107により達成され、前記第2モータ軸9とメイティングリング105とのシール性は、メイティングリング105の溝に装着されたO−リング108により達成される。
【0048】
前記中間ベアリング84は、周方向に複数箇所の切り欠き64aを設けた背面側連結ケース64に対し内輪84aを嵌合し、第1モータ中空軸8のインナーロータ支持部8aの内面に対し外輪84bを嵌合することで設けられる。
【0049】
前記中間ベアリング84の内輪84aの端面と背面側連結ケース64との間には、軸方向の間隔を保つシム111を設けている。
【0050】
前記中間ベアリング84の外輪84bの端面と予圧部材102との間のインナーロータ支持部8aの段差部8bには、外輪84bと予圧部材102とに接して軸方向の間隔を保つカラー101を設けている。
【0051】
前記第2モータ軸9の外周位置には、背面側連結ケース64とメイティングリング105とに接して軸方向の間隔を保つスリーブ109を設けている。
【0052】
前記スリーブ109は、図8に示すように、背面側連結ケース64との接触部において第2モータ軸9の外径よりも大きな径の中ぐり部109aと、該中ぐり部109aとスリーブ外周部とを貫通する切り欠き109bと、を有する。
【0053】
前記空気室95は、ステータSに設けられた貫通穴110と、背面側連結ケース64の中間ベアリング84の内輪位置に設けられた切り欠き64aと、カラー101に設けられた切り欠き101aと、スリーブ109に設けられた中ぐり部109aおよび切り欠き109bと、を有して構成されている。
【0054】
ここで、前記背面側連結ケース64の切り欠き64aが設けられる部分の外径は、前記スリーブ109の切り欠き109bが設けられる部分の外径より大きな径に設定されている。
【0055】
そして、潤滑構造Aは、
(1)第2モータ軸9にメインティングリング105を嵌合させ、第2モータ軸9を第1モータ中空軸8内に挿入する。
(2)第1モータ中空軸8の内周面に予圧部材102,シール部材103,内蔵スプリング104、カラー101、中間ベアリング84を順に嵌合させる。
(3)第2モータ軸9の外周にスリーブ109を嵌合させる。
(4)第2モータ軸9の径方向空気路の位置より中間ベアリング84側にO−リング112を取り付ける。
(5)シム111を嵌合させた背面側連結ケース64を、第2モータ軸9に対しスプライン結合する。
の組み付け順により組み付けられている。
【0056】
次に、作用を説明する。
【0057】
[複軸多層モータの基本機能]
2ロータ・1ステータで、アウターロータ磁力線とインナーロータ磁力線との2つの磁力線が作られる複軸多層モータMを採用したことで、コイル42及び図外のコイルインバータを2つのインナーロータIRとアウターロータORに対し共用できる。そして、インナーロータIRに対する電流とアウターロータORに対する電流を重ね合わせた複合電流を1つのコイル42に印加することにより、2つのロータIR,ORをそれぞれ独立に制御することができる。つまり、外観的には、1つの複軸多層モータMであるが、モータ機能とジェネレータ機能の異種または同種の機能を組み合わせものとして使える。
【0058】
よって、例えば、ロータとステータを持つモータと、ロータとステータを持つジェネレータの2つのものを設ける場合に比べて大幅にコンパクトになり、スペース・コスト・重量の面で有利であると共に、コイル共用化により電流による損失(銅損,スイッチングロス)を防止することができる。
【0059】
また、複合電流制御のみで(モータ+ジェネレータ)の使い方に限らず、(モータ+モータ)や(ジェネレータ+ジェネレータ)の使い方も可能であるというように、高い選択自由度を持ち、例えば、第1実施例のように、ハイブリッド車の駆動源に採用した場合、これら多数の選択肢の中から車両状態に応じて最も効果的或いは効率的な組み合わせを選択することができる。
【0060】
[ロータ及びステータ冷却作用]
前記複軸多層モータMは、上記のように主動力源をエンジンEとするハイブリッド駆動ユニットの副動力源として適用されたものであり、図外のポンプ装置及びオイルクーラにより冷却された潤滑油は、フロントカバー4に形成された潤滑油路38を介して、ハイブリッド駆動ユニットのギヤ室30内に配置されたギヤ機構に供給されると共に、変速機入力軸31に形成された軸心油路37から第2モータ軸9の軸心部に形成された軸心油路96に供給される。
【0061】
そして、軸心油路96からの潤滑油は、第2径方向分岐油路96bを経過して第2油室92へ供給される。この第2油室92の潤滑油は、第1モータ中空軸8と第2モータ軸9との間の環状隙間を経過してギヤ室30へ導かれ、第1モータ中空軸8に固定されたインナーロータIRから熱を奪うと共に、ギヤ室30内のギヤを冷却する。
【0062】
同時に、軸心油路96からの潤滑油は、第1径方向分岐油路96aを経過して第1油室91へ供給され、移動する潤滑油によりアウターロータケース部材62,63,64に固定されたアウターロータORから熱を奪う。なお、第1油室91へは、供給油路103を経過した潤滑油も導かれるもので、正面側と背面側の両方からの潤滑油供給により冷却される。
【0063】
よって、アウターロータORの外周空間を第1油室91に設定し、インナーロータIRの内周空間を第2油室92に設定したため、インナーロータIRとアウターロータORに埋設されたインナーロータマグネット21とアウターロータマグネット61の温度上昇が抑えられる。
【0064】
複軸多層モータMのステータSにはコイル42が巻かれ、このコイル42には大電流が流されることで、高温になろうとするが、外部から冷却水が冷却水路43を経過して循環供給されることで、移動する冷却水により、ステータSの内側と両側面から熱を奪い、ステータSが冷却される。
【0065】
[メカニカルシールでの調圧作用]
軸心油路96から、第2径方向分岐油路96bを経過して第2油室92へ供給された潤滑油は、供給油圧に加えて、回転による遠心油圧が作用する。この潤滑油の油圧にシール部材103の受圧面積を掛け合わせた力が、シール部材103を図7の左方向に押す力となり、この力が内蔵スプリング104によるスプリング反力を超えると、シール部材103が図7の左方向にストロークし、第2油室92の圧力を一定に保持する。言い換えると、ギヤ室30へ供給する潤滑油量を一定量に制御する。
【0066】
また、シール部材103が図7の左方向にストロークすることで、空気室95に潤滑油が流入するが、この潤滑油は、インナーロータIRの背面部を経過し、インナーロータ冷却作用を高める。そして、インナーロータ冷却した潤滑油は、遠心力により外径方向に移動し、アウターロータケース部材62,63,64の連結部に予め形成された図外の孔を経過して第1油室91へ流入する。
【0067】
次に、効果を説明する。
第1実施例のモータ駆動ユニットの潤滑構造にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0068】
(1) 円筒状のステータSを挟んで同心円状にインナーロータIRとアウターロータORとを配置した複軸多層モータMと、前記複軸多層モータMの動力を伝達するラビニョウ型複合遊星歯車列Gと、が連結され、前記複軸多層モータMは、インナーロータIRの内周空間を第2油室92に設定し、前記ステータSの外周空間を空気室95に設定し、前記インナーロータIRとアウターロータORとの間に、前記第2油室92と空気室95を仕切るメカニカルシール100を備えたモータ駆動ユニットにおいて、前記駆動ユニットに、別系統で潤滑及び冷却を行なうポンプ装置を備え、前記メカニカルシール100に、前記ラビニョウ型複合遊星歯車列Gには一定圧力の潤滑油を供給し、余剰分をロータ冷却油として供給する調圧弁103,104,105を設けたため、供給圧力が低圧時には調圧弁103,104,105が閉じて、全ての潤滑油が歯車列に供給され、高圧時には調圧弁103,104,105が開き、モータ側へ潤滑油が供給され、結果的に、インナーロータIRの冷却性を確保しながら、ラビニョウ型複合遊星歯車列Gへの潤滑油供給圧力を一定に保持することができる。
【0069】
(2) 前記調圧弁103,104,105の低圧側に、インナロータIR、ステータS及びアウタロータORを配置し、前記複軸多層モータMの高負荷時には、別系統で潤滑及び冷却を行なう前記ポンプ装置から調圧弁103,104,105への潤滑油供給圧力を増加させるため、モータが高負荷となる高トルク・高回転時に供給圧力を増加させることで、ラビニョウ型複合遊星歯車列G側への供給油圧を一定に保持しつつ、モータ側への潤滑油(冷却油)量を増加させることができる。
【0070】
(3) 前記調圧弁103,104,105の高圧側には、潤滑油が前記ポンプ装置より供給され、ロータの回転数増加に伴なって、前記調圧弁103,104,105の高圧側が遠心油圧により加圧され、モータの高回転時にモータ側への供給油量が増加する構成としたため、複軸多層モータMが高負荷となる高速回転時に、別系統油圧ポンプ装置より供給される潤滑油が、高圧側空間に於いて、回転軸の回転による遠心油圧により更に昇圧され、調圧弁103,104,105の調圧機能によってラビニョウ型複合遊星歯車列Gへの供給圧力を保持したまま、モータ側への供給量を増加させることが可能となる。
【0071】
以上、本発明のモータ駆動ユニットの潤滑構造を第1実施例に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この第1実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0072】
例えば、第1実施例では、ハイブリッド駆動ユニットに適用される複軸多層モータの例を示したが、電気自動車や燃料電池車等のモータ駆動ユニットに採用される潤滑油構造に対しても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例の潤滑構造が適用されたハイブリッド駆動ユニットを示す概略全体図である。
【図2】第1実施例の潤滑構造が適用された複軸多層モータMを示す縦断側面図である。
【図3】第1実施例の潤滑構造が適用された複軸多層モータMを示す一部縦断正面図である。
【図4】第1実施例の潤滑構造が適用された複軸多層モータMをステータの背面側から視た図である。
【図5】第1実施例の潤滑構造が適用されたハイブリッド駆動ユニットのラビニョウ型複合遊星歯車列Gおよび駆動出力機構Dを示す縦断側面図である。
【図6】第1実施例の潤滑構造が適用された複軸多層モータMの拡大縦断側面図である。
【図7】第1実施例の潤滑構造を示す拡大断面図である。
【図8】第1実施例の潤滑構造で用いられたスリーブを示す図である。
【図9】複軸多層モータのステータコイルに印加する複合電流の一例を示す図である。
【符号の説明】
M 複軸多層モータ
S ステータ
IR インナーロータ
OR アウターロータ
8 第1モータ中空軸
8a インナーロータ支持部
9 第2モータ軸
62,63,64 アウターロータケース部材
64 背面側連結ケース
64a 切り欠き
84 中間ベアリング
84a 内輪
84b 外輪
91 第1油室
92 第2油室(油室)
95 空気室
97 軸心空気路
100 メカニカルシール
101 カラー
102,103,104 調圧弁
105 メイティングリング
109 スリーブ

Claims (3)

  1. 円筒状のステータを挟んで同心円状にインナーロータとアウターロータとを配置した複軸多層モータと、前記複軸多層モータの動力を伝達する歯車列と、が連結され、
    前記複軸多層モータは、インナーロータの内周空間を油室に設定し、前記ステータの外周空間を空気室に設定し、前記インナーロータとアウターロータとの間に、前記油室と空気室を仕切るメカニカルシールを備えたモータ駆動ユニットにおいて、
    前記駆動ユニットに、別系統で潤滑及び冷却を行なうポンプ装置を備え、
    前記メカニカルシールに、前記歯車列には一定圧力の潤滑油を供給し、余剰分をロータ冷却油として供給する調圧弁を設けたことを特徴とするモータ駆動ユニットの潤滑構造。
  2. 請求項1に記載されたモータ駆動ユニットの潤滑構造において、
    前記調圧弁の低圧側に、インナロータ、ステータ及びアウタロータを配置し、前記複軸多層モータの高負荷時には、別系統で潤滑及び冷却を行なう前記ポンプ装置から調圧弁への潤滑油供給圧力を増加させることを特徴とするモータ駆動ユニットの潤滑構造。
  3. 請求項1または2に記載されたモータ駆動ユニットの潤滑構造において、
    前記調圧弁の高圧側には、潤滑油が前記ポンプ装置より供給され、ロータの回転数増加に伴なって、前記調圧弁の高圧側が遠心油圧により加圧され、モータの高回転時にモータ側への供給油量が増加する構成としたことを特徴とするモータ駆動ユニットの潤滑構造。
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