JP4256711B2 - 水素化触媒及び水素化脱硫方法 - Google Patents

水素化触媒及び水素化脱硫方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水素化触媒に関し、特に、金属化合物が無機酸化物担体に担持された水素化触媒に関する。
【0002】
【従来の技術】
原油の蒸留や分解により得られる炭化水素油は、多かれ少なかれ硫黄化合物を含有しており、燃料油として使用する場合には、硫黄化合物の燃焼により硫黄酸化物(SOx)が発生し大気を汚染する。近年、環境保護の点から、自動車や航空機には、より硫黄含量の少ない燃料油が求められている。例えば、自動車用ディーゼルエンジン等に用いられる軽油中の硫黄分は、現在、我国では500質量ppm以下に規制されているが、今後、50質量ppm以下に規制されるものと予想されている。
【0003】
硫黄化合物を含有する炭化水素油中の硫黄分の除去(脱硫)には、水素化処理(水素化脱硫)が有効である。軽油中の硫黄濃度を50質量ppm以下に低減する水素化処理(水素化深度脱硫)については、異なる水素化触媒を用いて水素化脱硫を2段階に分けて行なう方法(例えば、特許文献1及び2を参照)、白金族金属を担持した触媒を使用する方法(例えば、特許文献3及び4を参照)、酸化数5価のモリブデン化合物と、ニッケル化合物、コバルト化合物等とを担体に含浸した後、焼成して得られる触媒を使用する方法(例えば、特許文献5を参照)等が知られている。
【0004】
【特許文献1】
特開平4−183786号公報
【特許文献2】
特開平11−189776号公報
【特許文献3】
特開平8−183961号公報
【特許文献4】
特開平10−195457号公報
【特許文献5】
特開2002−85976号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、水素化脱硫を2段階に分けて行なう方法は、水素化脱硫装置が2基必要となり工業化する上で不利であり、一方、白金族金属を担持した触媒は硫黄により被毒されやすく、触媒活性が長期間維持できないという欠点がある。また、モリブデン化合物と酢酸ニッケル、硝酸コバルト等とを担体に含浸焼成して得られる触媒は、触媒活性が不充分であるために、深度脱硫するには水素化の条件を高温で高圧にしなければならず、製造設備の耐用年数(装置寿命)の問題があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、高い触媒活性が長期間維持でき、比較的穏やかな条件でも十分に硫黄含量を下げることのできる水素化脱硫触媒を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討し、特定のニッケル若しくはコバルト化合物と、油溶性モリブデン化合物とを、担体に含浸させた後に、予備硫化して得られる触媒が、炭化水素の水素化脱硫に対して、高い触媒活性があることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、(A)下記の一般式(1)
【化2】
Figure 0004256711
(式中、R及びRは炭素数1〜18の炭化水素基を表わし、aは0又は1の数を表わす。)
で表わされる化合物を配位子とするニッケル錯体若しくはコバルト錯体と、(B)油溶性モリブデン化合物とを、(C)無機酸化物担体に含浸させた後、焼成を行わずに予備硫化して得られる水素化触媒である。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の(A)成分は一般式(1)で表わされる化合物を配位子とするニッケル錯体若しくはコバルト錯体である。
一般式(1)において、R及びRは炭素数1〜18の炭化水素基を表わす。炭素数1〜18の炭化水素基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、2級ブチル、ターシャリブチル、ペンチル、イソペンチル、2級ペンチル、ネオペンチル、ターシャリペンチル、ヘキシル、2級ヘキシル、ヘプチル、2級ヘプチル、オクチル、2―エチルヘキシル、2級オクチル、ノニル、2級ノニル、デシル、2級デシル、ウンデシル、2級ウンデシル、ドデシル、2級ドデシル、トリデシル、イソトリデシル、2級トリデシル、テトラデシル、2級テトラデシル、ヘキサデシル、2級ヘキサデシル、オクタデシル、2−ブチルオクチル、2−ブチルデシル、2−ヘキシルオクチル、2−ヘキシルデシル、2−オクチルデシル等のアルキル基;アリル、プロペニル、ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、テトラデセニル、オレイル等のアルケニル基;フェニル、トルイル、キシリル、クメニル、メシチル、ベンジル、フェネチル、スチリル、トリチル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、ドデシルフェニル、フェニルフェニル、ベンジルフェニル等のアリール基;シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、メチルシクロヘキシル等のシクロアルキル基が挙げられる。
【0010】
aは0又は1の数を表わす。一般式(1)で表される化合物は、aが0の場合にはβ−ジケトン化合物であり、aが1の場合にはβ−ケトエステル化合物である。
【0011】
一般式(1)で表される化合物の中でも、好ましいものとしては、2,4−ペンタンジオン(アセチルアセトン)、2,4−ヘキサンジオン、3,5−ヘプタンジオン、2,4−オクタンジオン、6−メチル−2,4−ヘプタンジオン、2,2,6,6−ヘキサメチル−3,5−ヘプタンジオン、5−エチル−2,4−ノナンジオン、2,4−ヘンエイコサンジオン、1−フェニル−1,3−ブタンジオン、1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオン、1−フェニル−1,3−エイコサンジオン等のβ−ジケトン化合物;アセト酢酸エチル、アセト酢酸オクタデシル、アセト酢酸フェニル、メチルベンゾイルアセテート等のβ−ケトエステル化合物が挙げられ、2,4−ペンタンジオン(アセチルアセトン)、2,4−ヘキサンジオン、3,5−ヘプタンジオン及びアセト酢酸エチルが更に好ましい。
【0012】
一般式(1)で表される化合物を配位子とするニッケル錯体は、ニッケルの酸化数が2であり一般式(1)で表される化合物が2つ配位した錯体であることが好ましい。また、一般式(1)で表される化合物を配位子とするコバルト錯体は、コバルトの酸化数が2であり一般式(1)で表される化合物が2つ配位した錯体、又は、コバルトの酸化数が3であり一般式(1)で表される化合物が3つ配位した錯体であることが好ましい。
【0013】
次に、(B)油溶性モリブデン化合物について説明する。
本発明において、油溶性モリブデン化合物とは、30℃においてトルエンに0.1質量%以上溶解することができるモリブデン化合物をいう。油溶性モリブデン化合物としては、モノカルボン酸のモリブデン塩、多価カルボン酸のモリブデン塩、アミンのモリブデン塩、油溶性のモリブデン錯体等が挙げられる。
【0014】
モノカルボン酸としては、例えば、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、トリデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ナフテン酸、アビエチン酸等が挙げられる。
【0015】
多価カルボン酸としては、例えば、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、シクロペンタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0016】
アミンとしては、例えば、ブチルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、オクタデシルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン等の1級アミン;ジブチルアミン、ジオクチルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジオクタデシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N−アルキルモノエタノールアミン等の2級アミン;N−アルキルジメチルアミン、N−アルキルジエタノールアミン等の3級アミン;N−アルキルエチレンジアミン、N−アルキル−1,3−プロパンジアミン等のジアミン;メラミン、ポリアルキレンポリアミンの脂肪酸アミド、ポリエルキレンポリアミンのアルキル若しくはアルケニルコハク酸アミド、ポリエルキレンポリアミンとフェノール化合物のマンニッヒ反応物等のポリアミン等が挙げられる。
【0017】
油溶性のモリブデン錯体の配位子としては、ジアルキルジチオカルバメート、ジアルキルジチオカーボネート、ジアルキルジチオホスフェート、アルキルキサンテート、アルキルジチオキサンテート、ジベンジルスルフィド、2−{2−(ジメチルアミノ)エチルチオ}エタノール、メチオニン、システイン、システインとアルコールとのエステル、シスチン、ピリジン−2−チオール、チオ尿素、ジチオシュウ酸等の硫黄を含有する配位子;アラニン、β−アラニン、アスパラギン酸、アスパラギン酸ジ酢酸、グリシン、グリシルグリシン、トリグリシン、3−グリシルアミノ−1−プロパノール、サルコシン、グルタミン酸ジ酢酸、ヒスチジン、プロリン等の硫黄を含有しないアミノ酸系配位子;N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、N−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、N,N−ジエチル−N’−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、トリメチレンジアミンテトラ酢酸、N,N’−ビス(1−メチル−3−オキソブチリデン)エチレンジアミン、3−{(2−アミノエチル)アミノ}−1−プロパノール、N,N’−ビス(2−アミノベンジリデン)エチレンジアミン、N−{2−(ジエチルアミノ)エチル}−3−アミノ−1−プロパノール、エチレンビス(グアニド)、等のエチレンジアミン系配位子;2,2’−ビピペリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ジメチル−2,2’−ビピリジン、2−ヒドロキシ−6−メチル−ピリジン、1,2−シクロヘキサンジアミン、N,N’−ジメチル−1,2−シクロヘキサンジアミン、1,2−ジメチルイミダゾール、1,2−ビス(ピリジン−α−アルジミノ)エタン、2,2’−ビピラジン、1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン、ピコリルアミン、1,4,7−トリアザシクロノナン、2,2’:6’、2”−テルピリジン、5,7,7,12,14,14−ヘキサメチル−1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン等の環構造を有するアミン系配位子;α−アミノ−α−メチルマロン酸、1,5−ジアミノ−3−ペンタノール、モノエタノールアミン、メチルイミノジ酢酸、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸、ニトリロ三酢酸、3−(2−アミノエチルイミノ)−2−ブタノンオキシム、2−{(3−アミノプロピル)アミノ}エタノール、ジメチルグリオキシム、2,4−ペンタンジアミン、4,6,6−トリメチル−3,7−ジアザノン−3−エン−1,9−ジオール等のその他のアミン系配位子;アセチルアセトン、アセト酢酸エステル類、カテコール、シュウ酸、サリチル酸、アルキルサリチル酸、サリチルアルデヒド、グリセリンのモノ脂肪酸エステル、1−フェニル−1,3,5−ヘキサントリオン、5,5’−(1,2−エタンジイルジニトリロ)ビス(1−フェニル−1,3−ヘキサンジオン)、ジピバロイルメタン、シクロペンタジエン、シクロヘプタトリエン、シクロオクタテトラエン等の硫黄及び窒素を含有しない配位子等が挙げられる。
【0018】
このような配位子の中でも、本発明の水素化触媒の活性が高くなることから硫黄を含有する配位子が好ましく、ジアルキルジチオカルバメート、ジアルキルジチオホスフェート及びアルキルキサンテートが更に好ましく、ジアルキルジチオカルバメート及びジアルキルジチオホスフェートが最も好ましい。
【0019】
また、油溶性モリブデン錯体は、錯体分子中に金属原子が1原子である単核の錯体でもよいし、複数の金属原子を有する多核の錯体でもよい。特に好ましいのは、硫黄を含有する核を有する多核のモリブデン錯体である。硫黄を含有する多核の錯体の構造としては、例えば、下記一般式(2)〜(7)で表わされる構造を挙げることができる。
【0020】
【化3】
Figure 0004256711
(式中、Xは、それぞれ酸素原子又は硫黄原子を表わす。但し、全てのXが酸素原子になることはない。)
【化4】
Figure 0004256711
(式中、Mはそれぞれ金属原子を表わし、nは1〜4の整数を表わす。但し、4つのMのうち、少なくとも2つはモリブデン原子を表わす。)
【化5】
Figure 0004256711
(式中、nは1〜4の整数を表わす。)
【0021】
【化6】
Figure 0004256711
(式中、Mはニッケル原子、又はコバルト原子を表わし、nは3又は4の数を表わす。)
【化7】
Figure 0004256711
(式中、Rは炭素数1〜4程度のアルキレン基を表わす。)
【化8】
Figure 0004256711
(式中、Rは炭素数1〜4程度のアルキレン基を表わし、R’は炭素数2〜4程度のアルキレン基を表わす。)
一般式(2)〜(7)で表わされる構造のうち、一般式(2)で表わされる構造が特に好ましい。
【0022】
一般式(2)で表わされる構造を有する油溶性モリブデン化合物の中でも、特に好ましいものとしては、下記一般式(8)
【化9】
Figure 0004256711
(式中、Rは、それぞれ炭化水素基を表わし、Xはそれぞれ酸素原子又は硫黄原子を表わす。)
で表わされる硫化オキシモリブデンジチオカーバメート;下記一般式(9)
【化10】
Figure 0004256711
(式中、Rは、それぞれ炭化水素基を表わし、Xはそれぞれ酸素原子又は硫黄原子を表わす。)
で表わされる硫化オキシモリブデンジチオホスフェート;下記一般式(10)
【化11】
Figure 0004256711
(式中、Rは、それぞれ炭化水素基を表わし、Xはそれぞれ酸素原子又は硫黄原子を表わす。)
で表わされる硫化オキシモリブデンキサンテートが挙げられる。中でも、硫化オキシモリブデンジチオカーバメート及び硫化オキシモリブデンジチオホスフェートが好ましく、硫化オキシモリブデンジチオカーバメートが最も好ましい。
【0023】
一般式(8)〜(10)において、Rは炭化水素基を表わす。これらの炭化水素基としては、例えば、一般式(1)で挙げた炭素数1〜18の炭化水素基が挙げられ、特に、トルエン等の有機溶媒に対する溶解性の観点から、炭素数4〜14のアルキル基が好ましい。また、Xはそれぞれ酸素原子又は硫黄原子を表わすが、触媒の活性の観点から、4個のXのうち1〜3個が硫黄原子であるものが好ましい。
【0024】
本発明の水素化触媒における(A)成分の担持量は、後述する担体へ含浸した後の触媒の質量を基準にして、ニッケル若しくはコバルトの原子換算で0.5〜15質量%が好ましく、0.7〜8質量%が更に好ましい。担持量が0.5質量%未満では触媒の十分な水素化脱硫活性が得られず、15質量%よりも多いと触媒表面上でニッケル若しくはコバルトの凝集が起こり、活性点の数が減少して、逆に触媒活性が低下してしまうため好ましくない。
一方、本発明の水素化触媒における(B)成分の担持量は、後述する担体へ含浸した後の触媒の質量を基準にして、モリブデン元素換算で5〜30質量%が好ましく、10〜20質量%が更に好ましい。担持量が5質量%未満では、触媒の十分な水素化脱硫活性が得られず、30質量%よりも多いと触媒表面上位のモリブデンの凝集が起こり、活性点の数が減少して、逆に触媒活性が低下してしまうため好ましくない。
【0025】
また、本発明の水素化触媒全体において、モリブデン原子に対する、ニッケル原子及びコバルト原子の比は、0.1〜0.7で表される割合であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜0.6、最も好ましくは0.15〜0.5である。
【0026】
次に、(C)無機酸化物担体について説明する。
本発明の(C)無機酸化物担体としては、水素化触媒の担体として通常使用されているものが使用可能である。こうした無機酸化物担体としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、アルミナ−シリカ、アルミナ−チタニア、アルミナ−ボリア、アルミナ−マグネシア、アルミナ−ジルコニア、アルミナ−リン、シリカ−チタニア、アルミナ−シリカ−ボリア、アルミナ−シリカ−リン、アルミナ−チタニア−シリカ、アルミナ−チタニア−リン、アルミナ−ボリア−リンなどが挙げられ、中でもアルミナ−シリカが好ましく、アルミナ−シリカとしては、ゼオライトが好ましい。
【0027】
ゼオライトは一般的には周期律表第IAまたはIIA族金属の結晶性アルミナ−シリカであり、下記の一般式(11)
/nO・Al・ySiO・wHO (12)
(式中、Mは金属イオンであり、nはMの原子価であり、yは2以上の数であり、wはゼオライトの空隙に含まれている水分量を表す)
で示される。本発明で好適に使用できるゼオライトはチャバザイト、モルデナイト、エリオナイト、フォージャサイトおよびクリノプチロライトなどの天然のゼオライト、シリカライト、ゼオライトA、ゼオライトX、ゼオライトY、ゼオライトL、ゼオライトオメガおよびZSM−5などの合成ゼオライトなどである。中でも、一般式(9)のyが10以上であるゼオライトが好ましい。
【0028】
(C)は、ゼオライトのみでも良いが、他の無機酸化物との組合せでも良い。この場合、無機酸化物担体中のゼオライトの含有量は2質量%以上、好ましくは10質量%以上である。
【0029】
(C)の比表面積、細孔容積及び平均細孔径は、触媒として機能することができれば、特に制限されないが、脱硫活性の高い触媒にするためには、比表面積は200m/g以上、細孔容積は0.4〜1.2mL/gが好ましい。平均細孔径は500〜2000nmが好ましく、600〜1500nmがさらに好ましい。
(C)の形状は、特に限定されず、粒状、錠剤状、円柱状(断面が三葉型、四葉型のものを含む)のいずれでも良い。
【0030】
本発明の水素化触媒は、(A)及び(B)を溶媒に溶解し、その溶液に(C)を浸漬する、又は(C)にその溶液を噴霧することにより、(A)及び(B)を含浸させ、含浸後の(C)を乾燥した後、予備硫化して得られるが、予備硫化の前に焼成を行わない。通常の水素化触媒の製造では、活性金属化合物を担体に含浸させた後に焼成が行なわれるが、本発明の水素化触媒においては、このような焼成を行うと、触媒活性が低下してしまうため、好ましくない。ここでいう焼成とは、担体に含浸された活性金属化合物を酸化性の雰囲気下で200〜800℃程度に加熱し、金属酸化物の状態にすることを言う。
なお、本特許の触媒の調製において、含浸処理の回数が複数になっても良く、この場合、含浸処理ごとに、乾燥を行っても良い。
【0031】
溶媒は、特に限定されず、種々の溶媒を必要に応じて使用することができ、例えば、水、アルコール類、エーテル類、ケトン類、炭化水素類等が挙げられ、具体的には、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン、シクロヘキサン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が好ましい。含浸温度及び含浸時間は特に制限されないが、含浸温度は10〜100℃、含浸時間は0.2〜3時間が好ましい。また含浸中は、溶液を攪拌することが好ましい。
【0032】
予備硫化の方法は、特に限定されず、常法に従って行うことが出来る。本発明において予備硫化とは、使用に先立って触媒の活性金属を酸化物状態から硫化物状態に変えることを言う。予備硫化の方法としては、例えば、(a)水素と硫化水素の混合気体により硫化する方法、(b)水素の存在下に、有機硫黄化合物を添加した低沸点の石油留分により硫化する方法、(c)触媒に有機硫黄化合物を含浸させた後、水素の不在下に熱処理し、更に水素化で硫化する方法(ex−situ法)等が挙げられる。(b)又は(c)の方法で使用される有機硫黄化合物としては、メルカプタン化合物、(ポリ)スルフィド化合物、チオフェン化合物、スルホキシド化合物等が挙げられる。また、予備硫化の温度は、通常100〜600℃程度、好ましくは150〜500℃程度である。なお、本発明の水素化触媒は、上記の方法を組み合わせて予備硫化してもよく、温度条件等を変えて、多段階で予備硫化してもよい。
【0033】
本発明の水素化触媒は、触媒の活性を低下させない範囲で、必要に応じて、他の元素を担持しても良い。こうした元素としては、例えば、ホウ素、リン、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、スズ、ビスマス等の典型元素;スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、ロジウム、パラジウム、銀、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金等の遷移元素等が挙げられる。
【0034】
本発明の水素化触媒は、原油の蒸留や分解により得られる炭化水素油の、水素化分解、不飽和炭化水素の水素添加、水素化精製等の触媒、及び石炭の液化若しくはガス化触媒として使用でき、特に水素化精製に好ましく使用できる。炭化水素油の水素化精製としては、例えば、水素化脱硫、水素化脱窒素、水素化脱金属等を挙げることができるが、本発明の水素化触媒が最も好適に用いることできるのは、炭化水素油の水素化脱硫、特に水素化深度脱硫である。
【0035】
本発明の水素化触媒は、硫黄化合物を含み、沸点が50〜525℃の範囲にある各種の炭化水素類や炭化水素留分、具体的には、例えば、ナフサ、灯油、軽油、常圧残渣油、減圧残渣油、減圧軽油、分解軽油、オイルシェール油、石炭液化油等の水素化脱硫用の触媒として使用可能である。これらの中でも、特に、接触分解軽油、熱分解軽油、直留軽油、コーカーガスオイル、水素化処理軽油、脱硫軽油などの硫黄化合物を含有する軽油の硫黄含量を低減させるのに好適に使用される。
【0036】
例えば、ベンゾチオフェン化合物は、水素化脱硫が困難な硫黄含有化合物であるが、中でも4,6−ジメチルジベンゾチオフェンは脱硫が困難である。従来、軽油留分の硫黄含有量を50質量ppm以下することが困難な理由に、軽油中のベンゾチオフェン化合物が挙げられる。本発明の水素化触媒は、触媒活性が高く、従来脱硫が困難であった4,6−ジメチルジベンゾチオフェンでも、容易に脱硫が可能となった。
【0037】
本発明の水素化触媒を用いた脱硫方法では、硫黄化合物を含む炭化水素の種類や硫黄含有量によって異なるが、温度は150〜500℃、より好ましくは200〜450℃、最も好ましくは230〜400℃、液空間速度は0.05〜10.0hr−1、より好ましくは0.1〜8.0hr−1、最も好ましくは0.5〜4.0hr−1、水素分圧は1〜20MPa、より好ましくは3〜10MPa、最も好ましくは3.5〜8MPa、水素/オイル比は50〜800L/L、より好ましくは100〜600L/L、最も好ましくは100〜300L/Lの条件の範囲で、水素化脱硫条件を適宜選択することができる。
本発明の水素化触媒は、触媒活性が高く、従来の触媒と同程度の水素化条件でも、硫黄含量をより低減できる。
【0038】
本発明の水素化触媒を使用する場合、適当な反応器において、固定床、移動床又は流動床として使用し、この反応器に硫黄化合物を含む炭化水素を導入して、水素化脱硫を行う。一般的には、触媒を固定床として維持し、硫黄化合物を含む炭化水素が、この固定床を下方に通過するようにする。触媒は、単独の反応器で使用することもでき、さらに連続したいくつかの反応器で使用することもできる。特に、硫黄含量の多い炭化水素の場合には、多段反応器化合物を使用することが好ましい。
【0039】
また、反応後の生成物の分離・回収・精製等の後処理は、常法に従って容易に行うことができる。回収した未反応の水素や生成油の一部は、必要に応じて、適宜リサイクルしてもよい。なお、触媒活性が所定の基準より低下した場合には、適宜、再生処理を施して繰り返し利用することも可能である。その際、触媒の再生は常法に従って容易に行うことができる。
【0040】
従って、本発明の水素化触媒を用いることにより、硫黄化合物を含有する炭化水素から、硫黄分を効率よく十分に除去することができ、硫黄含有量が著しく低減した所望の炭化水素留分、軽油留分であれば硫黄含有量50質量ppmの軽油を容易に得ることができる。
【0041】
また、一般に水素化脱硫触媒では、使用中に徐々に触媒活性が低下し、特に、硫黄含量の多い炭化水素の水素化脱硫の場合に触媒活性の低下が大きいが、本発明の水素化触媒では、このような触媒活性の低下が少ない。このため本発明の水素化触媒は、高い触媒活性を長期間持続できる。
【0042】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の実施例中、「%」は特に記載が無い限り質量基準である。
A−1
ビス(2,4−ペンタジオナト)ニッケル
A−2
ビス(2,4−ペンタジオナト)コバルト
A−3
ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタジオナト)ニッケル
A−4
ビス(1−エトキシ−1,3−ブタンジオナト)ニッケル
A−5(比較用)
硝酸ニッケル
A−6(比較用)
ビス(O−エチルジチオナト)白金
硝酸ニッケル
A−7(比較用)
ビス(O−エチルジチオナト)白金
B−1
硫化オキシモリブデンジ(2−エチルヘキシル)ジチオカルバメート
B−2
硫化オキシモリブデンジ(2−エチルヘキシル)ジチオフォスフェート
B−3(比較用)
モリブデン酸アンモニウム
C−1:γ−アルミナ
形状:円柱状(直径1.5mm、長さ3〜5mm)
比表面積:365m/g
細孔容積:0.65mL/g
C−2:ZSM−5ゼオライト(アンモニウムイオン型ZSM−5結晶性アルミノシリケート80%とγ―アルミナ20%)
形状:円柱状(直径1.5mm、長さ3〜5mm)
比表面積:360m/g
細孔容積:0.63mL/g
【0043】
<実施例1>
200mLの二ツ口ナス型フラスコに、B−1の4質量%トルエン溶液2.51g及び0.122gのC―1を入れ、減圧下、スターラーで攪拌しながら脱溶媒を行ない、B―1を担持させた。このナス型フラスコに、更に、A−1の4質量%メタノール溶液0.141gを入れ、B−1と同様の条件で脱溶媒を行ないB−1を担持させた。この後、下記の条件で予備硫化を行ない、本発明品1を得た。
【0044】
予備硫化条件;
試験反応装置:高圧固定床流通式装置(内径8mm、長さ27.5mm)
触媒の充填量:0.33mL
流通ガス:5容量%硫化水素/水素ガス
圧力:1気圧
温度:400℃
時間:3hr
【0045】
<実施例2>
B−1の4質量%トルエン溶液を2.16g、A−1の4質量%メタノール溶液を0.486g用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ない、本発明品2を得た。
【0046】
<実施例3>
B−1の4質量%トルエン溶液を1.90g、A−1の4質量%メタノール溶液を0.748g用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ない、本発明品3を得た。
【0047】
<実施例4>
A−1の4質量%メタノール溶液の代わりにA−2の4質量%メタノール溶液を0.268g用い、B−1の4質量%トルエン溶液を2.24g用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ない、本発明品4を得た。
【0048】
<実施例5>
B−1の4質量%トルエン溶液を2.24gを用い、A−1の4質量%メタノール溶液の代わりにA−3の4質量%メタノール溶液を0.415g用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ない、本発明品5を得た。
【0049】
<実施例6>
B−1の4質量%トルエン溶液の代わりにB−2の4質量%トルエン溶液2.57gを用い、A−1の4質量%メタノール溶液を0.268用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ない、本発明品6を得た。
【0050】
<実施例7>
B−1の4質量%トルエン溶液2.29gを用い、A−1の4質量%メタノール溶液の代わりにA−4の4質量%メタノール溶液0.360gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ない、本発明品7を得た。
【0051】
<実施例8>
担体C−1の代わりにC−2を用いた以外は、実施例2と同様の操作を行ない、本発明品8を得た。
【0052】
<比較例1>
200mL二ツ口ナス型フラスコに、B−1の4質量%トルエン溶液2.38g及び0.160gのC―1を入れ、減圧下、スターラーで攪拌しながら脱溶媒を行ない、B−1を担持させた。この後、B−1が担持されたC−1を、マッフル炉中で水素雰囲気下、500℃にて4時間焼成した。このナス型フラスコに、焼成したC−1とA−5の4質量%水溶液0.602gを入れ、B−1と同様に、担持、焼成を行なった。以下、実施例1と同様の条件で予備硫化を行ない、比較品1を得た。
【0053】
<比較例2>
B−1の4質量%トルエン溶液の代わりにB−3の4質量%水溶液0.921g、A−5の4質量%水溶液0.602gの代わりに、A−5の4質量%エタノール溶液0.304g及びA−6の4質量%エタノール溶液22.8mgを用いた他は、比較例1と同様の操作を行ない、比較品2を得た。
【0054】
<比較例3>
B−1の4質量%トルエン溶液の代わりにB−3の10質量%水溶液0.418g、A−5の4質量%水溶液の代わりに、A−1の4質量%メタノール溶液0.440gにモリブデンを用いた他は、比較例1と同様の操作を行ない、比較品3を得た。
【0055】
<脱硫試験1>
本発明品1〜8及び比較品1〜4を用いて、下記試験条件にて、難脱硫物質である4,6−ジメチルジベンゾチオフェン(4,6−DDBT)を含有する試験液の水素化脱硫試験を行った。水素化脱硫試験前及び試験後の試験液中の4,6−DDBT含量を、ガスクロマトグラフ(GC)により測定し、下記に示す式により4,6−DDBTの転換率(%)を算出した。結果を表1に示す。
なお、本試験では、少ない触媒量による実験室レベルの試験としたため、液空間速度を大きくした。このため、水素/オイル比(水素流量/試験液流量の比に相当)が、工業的条件よりも大きくなっている。
試験条件;
試験反応装置:高圧固定床流通式装置(内径8mm、長さ27.5mm)
触媒の充填量:0.33mL
水素圧力:4.9MPa
水素流量:18L/hr
試験液:DMDBT(0.01wt%)のデカリン溶液
(硫黄含量:15質量ppmに相当)
試験液流量:16ml/hr
液空間速度:48hr−1
水素化温度:240℃、260℃、270℃
DMDBT転換率(%)=100×(A−B)/A
A:水素化脱硫試験前の試験液中のDDBTの含量
B:水素化脱硫試験後の試験液中のDDBTの含量
【0056】
【表1】
Figure 0004256711
【0057】
<脱硫試験2>
本発明品1〜8及び比較品1〜4について、触媒活性の持続性を評価するため、下記の条件で高硫黄含量を水素化脱硫した後に、脱硫試験1と同様の方法で270℃における4,6−DDBT転換率を測定した。これらの結果を表2に示す。
Figure 0004256711
【0058】
【表2】
Figure 0004256711
【0059】
上記の脱硫試験1の結果より、本発明品を使用した場合には、比較品を使用した場合よりも、4,6−DDBTの転換率が高く、本発明の水素化触媒が、水素化脱硫触媒としての高い触媒活性を有していることがわかる。また、脱硫試験2の結果より、本発明の水素化触媒は、硫黄含量が高い炭化水素を脱硫しても、触媒活性の低下が少なく、高い触媒活性が長期間維持されることがわかる。
【0060】
【発明の効果】
本発明の炭化水素用触媒は、触媒活性が高く、硫黄含有量が低い炭化水素油を提供でき、特に、炭化水素油を燃料とする場合の環境汚染問題の解決に寄与するものである。

Claims (5)

  1. (A)下記の一般式(1)
    Figure 0004256711
    (式中、R及びRは炭素数1〜18の炭化水素基を表わし、aは0又は1の数を表わす。)
    で表わされる化合物を配位子とするニッケル錯体若しくはコバルト錯体と、(B)油溶性モリブデン化合物とを、(C)無機酸化物担体に含浸させた後、焼成を行わずに予備硫化して得られる水素化触媒。
  2. (B)が硫黄を含有する油溶性モリブデン化合物である請求項1に記載の水素化触媒。
  3. (C)がゼオライトを含有する担体である請求項1又は2に記載の水素化触媒。
  4. 触媒全体において、モリブデン原子に対する、ニッケル原子及びコバルト原子の割合が、元素比で0.1〜0.7である請求項1〜3の何れか1項に記載の水素化触媒。
  5. 請求項1〜4の何れか1項に記載の水素化触媒を使用することを特徴とする、水素化脱硫方法。
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